(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】連続クロマトグラフィー工程を用いた天然L-システイン結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/28 20060101AFI20220705BHJP
C07C 323/58 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C07C319/28
C07C323/58
(21)【出願番号】P 2020538893
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 KR2019001289
(87)【国際公開番号】W WO2019151770
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-07-14
(31)【優先権主張番号】10-2018-0012291
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、セ-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム、イル チョル
(72)【発明者】
【氏名】イ、イン ソン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ジュン ヨン
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516252(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01106602(EP,A1)
【文献】特開2002-194025(JP,A)
【文献】特表2001-518003(JP,A)
【文献】特表2006-518664(JP,A)
【文献】特公昭60-033824(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 319/28
C07C 323/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)強酸性陽イオン交換樹脂を固定相とする連続クロマトグラフィー装置に、L-システインを含むpH3.0~9.0の発酵液を注入し、その後分離液を得るステップと、
(b)前記分離液を濃縮するステップと、
(c)その濃縮液からL-システイン結晶を回収するステップとを含む、L-システイン結晶の製造方法
であって、
ステップ(a)において、連続クロマトグラフィーがL-システインの吸着/溶離を含まない、L-システイン結晶の製造方法。
【請求項2】
ステップ(a)の前に、L-システインを含む発酵液をpH3.5~7.5になるように調整するステップをさらに含む、請求項1に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項3】
ステップ(a)の前に、L-システインを含むpH3.0~9.0の発酵液を濃縮するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項4】
ステップ(a)における前記強酸性陽イオン交換樹脂は
スルホン酸官能基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項5】
ステップ(a)における前記強酸性陽イオン交換樹脂は、
スルホン酸官能基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体である、請求項1~4のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項6】
ステップ(a)における前記連続クロマトグラフィー装置は擬似移動床(simulated moving bed, SMB)クロマトグラフィー装置である、請求項1~5のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項7】
ステップ(a)における前記分離液は、水分を除いた固形分のL-システイン含有量が85%(w/w)以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項8】
ステップ(a)における連続クロマトグラフィーの収率は、注入される発酵液に対する、得られる分離液のL-システインの割合で、50%(w/w)以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項9】
ステップ(b)は、前記分離液のL-システイン濃度が200~800g/L未満になるように濃縮するステップである、請求項1~8のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項10】
ステップ(b)は、前記分離液のL-システイン濃度が300~700g/Lになるように濃縮するステップである、請求項1~9のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項11】
ステップ(c)の前に、前記濃縮液を冷却するステップをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項12】
前記濃縮液は、0~30℃の温度まで冷却される、請求項11に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項13】
ステップ(c)で結晶を回収して得られた濾液をステップ(a)の発酵液又はステップ(b)の分離液に添加するステップを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【請求項14】
製造されたL-システイン結晶の純度は98%(w/w)以上である、請求項1~13のいずれか一項に記載のL-システイン結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、L-システイン結晶の製造方法、及び前記方法で製造されたL-システイン結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
L-システインは、一般にカモの羽毛やヒトの髪の毛などを原料とする動物由来L-シスチン、又は微生物の代謝液を原料とする発酵由来L-シスチンを電気化学的還元反応によりL-システインに分解することにより製造される。それとは異なり、微生物を用いたL-システイン製造方法としては、硫化物を含む培地でO-アセチルトランスフェラーゼが修飾された菌株を用いて天然L-システインを生産する発酵工程(特許文献1,2)、微生物培養方法で作製されたO-ホスホホモセリンを硫化物と混合し、O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼにより酵素触媒反応を誘導して天然L-システインを製造する工程(特許文献3,4)が公知である。
【0003】
微生物培養方法で製造されたL-システインはイオン交換クロマトグラフィー及びその他公知の方法により分離できることが公知であるが、具体的な方法、収率、純度などの情報については全く記載されていない(特許文献5,6,7,8,9,10)。
【0004】
例えば、L-システインを含有する発酵液のpHを5以下に下方調整し、その後酸性陽イオン交換基又は強酸性陽イオン交換基に接触させてL-システインをイオン交換基に吸着させ、吸着したL-システインを塩酸水溶液に溶離して90%以上の収率で精製する工法が知られている(特許文献11)。
【0005】
また、pHが6~9のL-システインを含む発酵液を塩基性陰イオン交換基に接触させてL-システインをイオン交換基に吸着させ、吸着したL-システインを塩酸水溶液に溶離し、その後pH4以下で酸性陽イオン交換基に接触させてL-システインをイオン交換基に吸着させ、吸着したL-システインを塩酸水溶液に溶離して85%以上の収率で精製する工法が知られている(特許文献12)。
【0006】
しかし、前記方法は、イオン交換ステップの繰り返しを経て化学反応を行うため、イオン吸着工程の後工程として多量の溶離液を用いなければならないので、工程用水量が多く求められると共に、さらなる精製ステップを行わなければならないという欠点がある。
【0007】
一方、強酸性溶媒を用いて化学的な方法で精製する方法があるが(特許文献13)、強酸性溶媒を多量に用いなければならず、その中和のための強塩基性溶媒も多量に用いなければならないので、環境的問題を引き起こしうる。
【0008】
よって、高収率及び高純度でL-システインを分離する精製方法の必要性が高まっている。
こうした背景の下、本発明者らは、L-システイン結晶の純度及び収率を増加させるために鋭意努力した結果、高収率、高純度だけでなく、効率的に生産性を向上させることができ、用水使用量を少なくすることができるという利点を有する精製方法を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第8802399号明細書
【文献】米国特許第6946268号明細書
【文献】国際公開第2013/089478号
【文献】国際公開第2012/053794号
【文献】欧州特許出願公開第1645623号明細書
【文献】欧州特許第1298200号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0221453号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1234874号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1571223号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1650296号明細書
【文献】米国特許第8088949号明細書
【文献】米国特許第9120729号明細書
【文献】中国特許出願公開第105274554号明細書
【文献】韓国登録特許第10-1381048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、L-システイン結晶の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記L-システイン結晶の製造方法により製造されたL-システイン結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
なお、本願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれの他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0012】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本願に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0013】
前記課題を解決するための本願の一態様は、(a)強酸性陽イオン交換樹脂を固定相とする連続クロマトグラフィー装置に、L-システインを含むpH3.0~9.0の発酵液を注入し、その後分離液を得るステップと、(b)前記分離液を濃縮するステップと、(c)その濃縮液からL-システイン結晶を回収するステップとを含む、L-システイン結晶の製造方法である。
【0014】
本願における「L-システイン」とは、タンパク質を構成するアミノ酸の一つであり、L-アミノ酸のうちで唯一チオール基(R-SH)を有する硫黄含有アミノ酸である。L-システインは、化学的に合成されたものであってもよく、微生物発酵などにより生物学的に作製されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、本願におけるL-システインは、微生物発酵により生物学的に作製されたL-システインであってもよく、微生物発酵により作製された前駆体であるO-ホスホホモセリンと硫化物においてホスホセリンスルフヒドリラーゼ存在下で酵素触媒反応を誘導して得られた天然L-システインであってもよい。前記天然L-システインは、作製工程において化学反応、化学的吸着又は溶離ステップを行わないL-システインであってもよい。
【0015】
本願における「天然」とは、化学的反応によらないことを意味する。欧州連合香料管理規定(EU Flavorings Regulation)1334/2008の公示によれば、物理、酵素又は微生物工程により得られた物質のみ「天然」香料として定義されている。その観点から、動物由来であるか微生物発酵由来であるかにかかわらず、L-シスチンの電気化学的還元反応により作製されたL-システインは全て天然とは言えない。
【0016】
本願における「発酵液」とは、L-システインを生産する微生物を培養して得られた培養液、培地と共に培養した微生物を含む培養物、又はL-システインを生産する前駆体と酵素を含む酵素変換液を意味する。具体的には、L-システインを含む発酵液は、天然のL-システインを含む培養液又は酵素変換液であってもよい。より具体的には、L-システイン生成能を有する微生物発酵により生物学的に作製されたL-システイン培養物又は培養液であってもよく、微生物発酵により作製された前駆体であるO-ホスホホモセリンと硫化物においてホスホセリンスルフヒドリラーゼ存在下で酵素触媒反応を誘導して得られた天然L-システインの酵素変換液であってもよい。前記発酵液を原料液として作製したL-システイン結晶は、化学的反応によらないものであり、天然L-システインであると言える。
【0017】
本願における前記発酵液は、連続クロマトグラフィー工程の原料液として用いられてもよい。すなわち、ステップ(a)の連続クロマトグラフィー装置に注入されてもよい。
前記連続クロマトグラフィー装置に注入される発酵液のpHは、製造方法により異なるが、2.5~10.0、2.5~9.5、3.0~9.0、3.5~8.5、3.5~7.5、4.5~7.0、5.0~6.0のpHであってもよい。前記発酵液は、それ自体が連続クロマトグラフィー工程の原料液として用いられてもよく、ステップ(a)の前に、L-システインを含む発酵液のpHが2.5~9.5、具体的には3.0~9.0、より具体的には3.5~8.5、さらに具体的には3.5~7.5、4.5~7.0又は5.0~6.0になるように調整するステップをさらに含んでもよい。しかし、これらに限定されるものではない。例えば、硫酸、塩酸などの酸や、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどの塩基を添加して調整することができるが、これらに限定されるものではない。前記pH調整剤は、L-システインの構造に影響を及ぼさず、最終的にL-システインの結晶が得られるものであれば、当業者が適宜選択して用いることができる。
【0018】
L-システインの発酵液のpHが低くなるほど、L-システインは陽イオン化する傾向が強くなる。本願に用いられる連続クロマトグラフィーの固定相は強酸性陽イオン交換樹脂であるため、陽イオンを吸着する傾向があるので、L-システインが陽イオン化すると固定相に一部吸着し、連続クロマトグラフィー工程の回収率が低下することがある。また、L-システインは、pHが高いほど、酸化されてL-シスチンに変換される傾向が強くなる。それにより、連続クロマトグラフィー工程の回収率が低下する傾向が現れる。よって、前記L-システインを含む発酵液は、pH2.5~9.5、具体的には3.0~9.0、より具体的には3.5~8.5、さらに具体的には3.5~7.5、4.5~7.0又は5.0~6.0の発酵液であってもよい。
【0019】
ただし、連続クロマトグラフィー工程の回収率は、連続クロマトグラフィー工程の樹脂塔区間中の流速、工程温度、移動相の組成、連続クロマトグラフィーシーケンスなど様々なプロセス変数の影響を受けるので、連続クロマトグラフィー工程の回収率が連続クロマトグラフィーの原料液のpHのみを限定的因子とするわけではない。
【0020】
本願におけるステップ(a)の前に、L-システインを含む発酵液を希釈又は濃縮するステップをさらに含んでもよい。このステップは、前述したpHを調整するステップの前に行ってもよく、後に行ってもよい。
【0021】
前記濃縮は、通常の濃縮器(例えば、強制循環濃縮器、薄膜濃縮器、ロータリー濃縮器など)内で行うことができる。
前記希釈又は濃縮した発酵液のL-システイン濃度は、10~180g/L、具体的には10~150g/Lに調節してもよいが、連続クロマトグラフィー工程の回収率及び連続クロマトグラフィー工程で得られた分離液の品質(具体的には、分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量)に大きく影響を与える因子ではないので、連続クロマトグラフィー工程の原料として用いられるL-システインを含む発酵液の濃度を調節する過程は、L-システインを分離及び精製する上で必須の過程ではない。ただし、濃度が180g/L以上に調節されると、L-システインの濃度がL-システインの溶解度より高くなり、回収に適さない低品質のL-システイン結晶が発生し、連続クロマトグラフィー工程の回収率低下をもたらすことがある。連続クロマトグラフィー工程の原料液の濃度が高いと、L-システインの処理量に対する連続クロマトグラフィー工程で用いられる用水量を節減することができる。これらの特徴は、L-システインとイオン交換樹脂の最大吸着量により用水使用量が決定されるイオン交換工程においては見受けられない。
【0022】
本願における「連続クロマトグラフィー(Continuous Chromatography)」とは、従来のバッチクロマトグラフィー工程を連続式に発展させた工程を意味する。具体的には、クロマトグラフィー装置内に固相と液相を連続して供給することができ、固相と液相が互いに逆方向に流れて向流接触するので、より効率的に物質を分離することができる。本願においては、真の移動床(TMB, True Moving Bed)クロマトグラフィーと擬似移動床(SMB, Simulated Moving Bed)クロマトグラフィーが含まれる概念で用いられる。また、前記真の移動床クロマトグラフィー及び擬似移動床クロマトグラフィーは、同じ原理であるので、生産性などを考慮して当業者が適宜選択して用いることができる。
【0023】
本願における連続クロマトグラフィー工程を用いると、吸着/溶離過程を必要としないので、イオン交換工程に比べて時間当たりの生産性が向上し、工程用水使用量を低減できるという利点がある。また、イオン交換工程や一般のクロマトグラフィー工程で得られたL-システインを含む工程液からL-システイン粉末製品を高収率で得るためには、濃縮結晶化工程に多くのエネルギーを必要とするが、本願の方法によれば、エネルギーコストを減少させることができる。
【0024】
本願の一実施例においては、SMBクロマトグラフィー装置が用いられてもよい。SMBクロマトグラフィー装置の模式図を
図2に示す。樹脂塔の数、樹脂塔の容積、樹脂充填量、各区間の流速、バッファタンク設置の有無、樹脂塔の移動時間などのプロセス変数は変更することができ、図示した固定条件に限定されるものではない。
【0025】
前記連続クロマトグラフィー装置の固定相としては、イオン交換樹脂が用いられてもよく、具体的には強酸性陽イオン交換樹脂であってもよい。前記強酸性陽イオン交換樹脂の官能基はスルホン酸基であってもよいが、これに限定されるものではない。また、本願に用いられる強酸性陽イオン交換樹脂の母核の素材は、強酸性官能基が結合するものであればいかなるものでもよい。例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体が用いられてもよいが、これに限定されるものではない。具体的には、前記強酸性陽イオン交換樹脂は硫酸スチレン-ジビニルベンゼン共重合体であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
当業界において、アミノ酸分離精製に通常用いられる他のタイプの固定相である、官能基のないスチレン-ジビニルベンゼン共重合体、官能基のないメタクリレート重合体などの官能基のない交換樹脂、トリメチルアミンスチレン-ジビニルベンゼン共重合体などの強塩基性陰イオン交換樹脂、3級アミンスチレン-ジビニルベンゼン共重合体などの弱塩基性陰イオン交換樹脂、カルボキシメタクリレート重合体などの弱塩基性陽イオン交換樹脂などは、連続クロマトグラフィー工程で得られた分離液から固形分のL-システイン含有量を50%(w/w)以上に精製することは困難である。それに対して、硫酸スチレン-ジビニルベンゼン共重合体などの強酸性陽イオン交換樹脂を用いると、連続クロマトグラフィー工程で得られた分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量を80%(w/w)以上、具体的には90%(w/w)以上に精製することができる。
【0027】
前記クロマトグラフィー装置は、移動相として、化学的合成物(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリルなどの有機溶媒など)の添加されていない水、苛性ソーダ希釈液、硫酸希釈液、リン酸希釈液、塩酸希釈液、水酸化カリウム希釈液又はそれらの混合物が用いられてもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、連続クロマトグラフィーの移動相として水が用いられてもよい。化学的合成物を含む移動相を用いると、当該化学的合成物が最終製品に残留することがあり、それにより化学的合成物の残留基準値を超えると、製品の販売や天然製品としての流通が不可能になることがある。また、工程用水に水以外の化学物質を添加しないので、製品コストの低減効果が期待される。イオン交換工程においては、吸着したL-システインを溶離するために、溶離液として塩酸や硫酸などの溶媒を必ず用いなければならないので、当該化学物質の使用及び廃棄処理に関する製品コストの増加を必然的に伴う。
【0028】
ステップ(a)において、L-システインを含む発酵液が連続クロマトグラフィー装置に注入されると、連続クロマトグラフィー工程によりL-システインが分離されてL-システインを含む分離液が得られる。本願においては、前述したようにL-システインが分離されてL-システインを含む分離液を単に「分離液」、「クロマトグラフィー分離液」又は「工程液」という。
【0029】
前記分離液の品質は、分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量で評価されてもよい。本願の分離液は、水分を除いた固形分のL-システイン含有量が80%(w/w)、具体的には85%(w/w)、より具体的には90%(w/w)以上であってもよい。分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量を80%以上にすると、純度90%以上のL-システイン結晶を製造することができ、さらに分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量を90%以上にすると、純度98%以上のL-システイン結晶を製造することができる。
【0030】
ただし、L-システイン結晶の純度は、濃縮、結晶化、結晶分離などの他の工程詳細条件にも影響を受けるので、L-システイン結晶の純度は連続クロマトグラフィーにより生産された工程液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量のみを限定的因子とするわけではない。
【0031】
本願におけるステップ(a)は「連続クロマトグラフィー工程」ともいう。「連続クロマトグラフィー工程の回収率」とは、ステップ(a)において注入される発酵液に対する、得られる分離液のL-システインの回収率を意味し、当該工程の効率を評価するために用いられる。本願における連続クロマトグラフィー工程の回収率は、50%(w/w)、具体的には60%(w/w)、より具体的には70%(w/w)、さらに具体的には80%(w/w)以上であるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ステップ(b)は、結晶化のために、分離液を濃縮するステップである。ステップ(b)においては、前記分離液を濃縮することにより濃縮液が得られる。前記濃縮は、当業者が適宜選択して通常の濃縮器(例えば、強制循環濃縮器、薄膜濃縮器、ロータリー濃縮器など)内で行うことができる。ステップ(b)における濃縮液のL-システイン濃度は、100~800g/L未満、具体的には200~800g/L未満、より具体的には300~800g/L未満であってもよく、さらに具体的には300~500g/Lであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0033】
濃縮液中のL-システイン濃度が低いと、結晶核生成及び結晶成長に必要な過飽和度が不足するので濃縮中には結晶化が誘発されず、冷却中に結晶化が行われたり、追加工程により結晶化が行われることがある。しかし、回収率が低下したり、結晶化時間が長くなる。濃縮液のL-システイン濃度が300g/L以上であると、濃縮過程中にL-システイン結晶核が生成されうる。さらに、前記300g/L以上で濃縮したL-システインスラリーを冷却すると、L-システインの結晶化工程の回収率を増加させることができる。濃縮液のL-システイン濃度が800g/Lであると、結晶粒子の大量発生による固化現象が生じ、それにより結晶スラリーの攪拌及び結晶の分離が不可能になることがある。好ましくは、前記分離液のL-システイン濃度を100~800g/L未満、具体的には200~800g/L未満、より具体的には300~800g/L未満、又は300g/L~500g/Lに調節することができる。前記濃度の分離液で冷却結晶化を行うと、L-システイン結晶の純度が98%以上になる。ただし、L-システイン結晶の純度は、濃縮、結晶化、結晶分離などの他の工程詳細条件の影響を受けるので、L-システイン結晶の純度がSMBクロマトグラフィーにより生産された工程液を濃縮した濃縮液のL-システイン濃度のみを限定的因子とするわけではない。
【0034】
ステップ(b)における濃縮中にL-システインの結晶化が生じることがある。本願における「結晶化」とは、液体又は非結晶状態の固体が結晶を形成する現象を意味し、結晶核の発生と結晶核の成長という2つの現象を伴う。
【0035】
前記濃縮液は、回収する前に冷却及び/又は熟成するステップにより、結晶核を形成及び/又は成長させることができる。また、L-システイン結晶が濃縮液に析出しなくても、濃縮液を冷却及び/又は熟成すると結晶が形成されうる。
【0036】
前記冷却するステップとは、例えば2時間~6時間かけて-10~55℃の温度まで冷却することを意味し、具体的には2時間~6時間かけて0~45℃、より具体的には0~30℃の温度まで冷却することを意味し、さらに具体的には2時間~6時間かけて0~15℃の温度まで冷却することを意味する。
【0037】
前記熟成するステップとは、温度が変化しないように放置することを意味する。本願においては、前記冷却した温度を一定に保つことを意味することもあり、冷却しないで濃縮液の温度を一定に保つことを意味することもある。具体的には、1~3時間かけて熟成してもよい。
【0038】
本願におけるステップ(b)は「結晶化工程」ともいう。「結晶化工程の回収率」とは、連続クロマトグラフィー工程による分離液のL-システインに対する、得られるL-システイン結晶のL-システインの回収率を意味し、結晶化工程の効率を評価するために用いられる。本願における連続クロマトグラフィー工程の回収率は、50%(w/w)、具体的には60%(w/w)、より具体的には70%(w/w)、さらに具体的には80%(w/w)以上であってもよい。
【0039】
ステップ(c)において、前記濃縮液から析出したシステイン結晶を回収することができる。具体的には、前記濃縮液を固液分離することにより、スラリーからL-システイン結晶を回収することができる。これは、減圧膜濾過装置、加圧膜濾過装置、遠心分離装置などの固液分離器を用いて行うことができるが、これらに限定されるものではない。前記スラリー及び/又は析出したシステイン結晶は、さらに洗浄又は乾燥させるステップを経るようにしてもよい。
【0040】
本願におけるステップ(c)でL-システイン結晶を回収して得られた濾液は、L-システインが残留する母液であり、L-システインの最終精製回収率の向上のために、ステップ(a)の発酵液又はステップ(b)の分離液に全部又は一部を添加することができるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本願の製造方法により製造されたL-システイン結晶の純度は、95%(w/w)以上、具体的には98%(w/w)、より具体的には99%(w/w)であってもよい。
前記課題を解決するための本発明の他の態様は、前述したL-システイン結晶の製造方法により製造されたL-システイン結晶を提供する。
【0042】
L-システイン結晶及びその製造方法については前述した通りである。
【発明の効果】
【0043】
本願のL-システイン結晶の製造方法は、化学反応や人工的な合成化合物を用いることなく、L-システイン発酵液を天然状態のまま分離及び精製できると共に、L-システイン結晶を高回収率及び/又は高純度で得ることができる。それだけでなく、本願の製造方法は、効率的な生産性が得られ、特に用水使用量が大幅に減少する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】発酵液に含まれる天然状態のL-システインから連続クロマトグラフィー工程によりL-システイン結晶を製造する工程の代表的な例を示す図である。
【
図2】本願の一実施例において用いたSMBクロマトグラフィー工程の樹脂塔の配置及び各区間の流速を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
試験方法
本願の実施例において用いられる共通の分析方法は次の通りである。
【0046】
(1)L-システインの定量分析のためのHPLC方法
本願においてL-システインの純度及び濃度を分析するためのHPLC分析条件は次の通りである。
【0047】
装置:HPLC 1260 Infinity System(Agilent Technology Inc.)
カラム:HP C18(150mm×3.9mm;5μm)
移動相:Acetonitrile/Water/Heptafluorobutyric acid(8/92/0.1)
流速:0.425mL/min
温度:30度
検出:UV at 220nm
試料注入体積:2uL
(2)L-システイン結晶の純度測定方法
本願におけるL-システイン結晶の品質は、L-システインの純度に基づいて評価し、その方法は次の順序による。
【0048】
(a) シリカゲルを入れた真空乾燥器に20mmHg以下の真空度でL-システイン結晶を24時間放置して残留水分を除去し、L-システイン結晶の温度を常温まで冷却するステップ。
【0049】
(b) 常温まで冷却したL-システイン結晶0.5000gを定量し、1L定量フラスコに入れて0.2N HCl溶液で希釈することにより、0.5000g/Lのサンプルを準備するステップ。
【0050】
(c) L-システインスタンダード結晶(≧98.5%)をステップ(a)と同様に処理し、その後0.5000gを定量して1L定量フラスコに入れて0.2N HCl溶液で希釈することにより、0.5000g/Lのサンプルを準備し、スタンダード試薬メーカーの証明書によりスタンダード製品の純度を確認してサンプル内のL-システインの濃度を換算するステップ(換算した[L-システインの濃度]は0.5000g/L×[スタンダード製品の純度])。
【0051】
(d) ステップ(c)で準備したサンプルを外部スタンダードとし、HPLCによりステップ(b)で準備したサンプルを分析することにより、ステップ(a)で用いたL-システイン結晶の純度を分析するステップ。
【0052】
(3)発酵液又はクロマトグラフィー工程による分離液中の固形分のL-システイン含有量の分析方法
本願における発酵液又はクロマトグラフィー工程による分離液の品質は、溶液から水分を除去して得た固形分のL-システイン含有量に基づいて評価し、その方法は次の順序による。
【0053】
(a) 陶磁器の容器に消臭した海砂(10~20mesh;大井化金(Daejung Chemicals))を約5g入れ、105℃の強制循環オーブンに3時間放置して残留水分を除去し、その後シリカゲルを入れた真空乾燥器に1時間放置して温度を常温まで冷却するステップ。
【0054】
(b) ステップ(a)の容器に分析対象の溶液を入れ、入れる前と入れた後の重量差を用いて入れた[溶液の質量]を定量するステップ。
(c) ステップ(b)の容器を105℃の強制循環オーブンに3時間放置して残留水分を除去し、その後シリカゲルを入れた真空乾燥器に1時間放置して温度を常温まで冷却し、重量差を用いて除去された水分量を定量し、それを用いて測定対象の溶液の固形分の質量に対する含有量を換算するステップ([固形分の質量に対する含有量]は([溶液の質量]-[除去された水分の質量])/[溶液の質量])。
【0055】
(d) 分析対象の溶液の密度を液体比重計により測定するステップ。
(e) 分析対象の溶液のL-システイン濃度をHPLCにより測定するステップ。
(f) 分析対象の溶液から水分を除去した固形分のL-システイン含有量を、溶液の固形分の質量に対する含有量、密度、L-システイン濃度により換算するステップ([溶液から水分を除去した固形分のL-システイン含有量]は[L-システイン濃度]/[溶液の密度]/[溶液の固形分の質量に対する含有量])。
【0056】
製造例
(1)L-システインを含む発酵液の作製
発酵培地からO-ホスホセリンを生産する微生物を培養してO-ホスホセリン発酵液を得て、その後前記発酵液をO-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(OPS sulfhydrase)により硫化物と酵素変換反応させ、L-システインを含む発酵液を得た。
【0057】
具体的には、serBが欠損し、変異型serA*が導入されてOPS生産能を有する改変された大腸菌W3110菌株であるKCCM 11103P(CA07-0022/pCL-prmf-serA*(G336V)-serC;特許文献14)菌株をMMYE寒天培地プレート上にて33℃で24時間培養し、プレート上の1/10の細胞を1つのプレートから掻き取ってバッフル(baffle)フラスコ中のフラスコ種(seed)培地(10g/Lのグルコース,0.5g/Lの硫酸マグネシウム,3g/Lのリン酸二水素カリウム,10g/Lの酵母抽出物,0.5g/Lの塩化ナトリウム,1.5g/Lの塩化アンモニウム,12.8g/Lのピロリン酸ナトリウム,1g/Lのグリシン)に接種し、30℃、200rpmで6時間種培養した。種培養終了後に、300mlの本培養培地で充填された1L小型発酵槽に本培養培地容積の16%に相当する容積の種培養培地を接種し、培養を33℃、pH7.0で行ってOPS発酵液を得た。100mMのNa2S、0.2mMのピリドキサールリン酸(pyridoxal 5’-phosphate, PLP)が存在する条件で50mMの前記OPS発酵液とMycobacterium tuberculosis H37Rv由来の50mg/mlのMsm-T酵素を反応させてL-システインを含む発酵液を得た(特許文献14)。
【0058】
前記L-システイン発酵液のpHは9.3であり、L-システイン濃度は26g/Lであった。前記L-システイン発酵液から水分を除去した固形分のL-システイン含有量は26.7%であった。当該発酵液のpHを98%硫酸によりpH5.5まで下方調整した。これを薄膜濃縮器で濃縮し、L-システイン濃度が120g/LのL-システイン発酵液を次のSMBクロマトグラフィーの原料液として準備した。濃縮条件は次の通りである。
【0059】
内部圧力:80mmHg
スチーム圧力:2bar
最大注入量:100L
工程液強制循環流速:10L/min
蒸発速度:約25L/hr
(2)連続クロマトグラフィー装置を用いてL-システインが分離された分離液を得る
L-システインが分離された分離液を得るために、SMBクロマトグラフィー装置を用いた。SMBクロマトグラフィー装置の模式図を
図2に示す。
【0060】
具体的には、
図2から分かるように、計15個の樹脂塔から構成されており、各塔の容積は1.5Lであり、樹脂は塔の容積の95%まで充填されている。SMB原料液は、15ml/minの流量で8番の樹脂塔に注入される。移動相は、95ml/minの流量で1番の樹脂塔に注入される。SMB生産工程液(分離液)は、50ml/minの流量で3番の樹脂塔から排出される。SMB工程廃液は、60ml/minの流量で12番の樹脂塔から排出される。15番の樹脂塔から排出された液は、65ml/minの流量で移動相と混合されて160ml/minの総流量で1番の樹脂塔に注入される。7番の樹脂塔と8番の樹脂塔間に1Lのバッファタンクを設置して一定水位に保つ自動制御を行い、一定の流量でSMBクロマトグラフィー原料液が樹脂塔内に流入するようにした。樹脂塔は番号が減少する方向に8分毎に移動するが、1番の樹脂塔は15番の樹脂塔に移動して循環する方式で駆動される。
【0061】
製造例においては、強酸性のスルホン酸基を官能基として有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体樹脂であるTRILITE(登録商標) MCK32L、PUROLITE(登録商標)PCR642又はDIAION(登録商標) UBK555樹脂をそれぞれ前記クロマトグラフィー装置の樹脂塔に搭載し、SMBクロマトグラフィー原料液を0.1kl以上注入し、その後装置を作動させてSMB生産工程液(分離液)を得た。前記分離液のpHは、それぞれ6.1、6.3及び5.9であり、L-システイン濃度は、それぞれ35.1、34.8及び33.9g/Lであった。
【0062】
(3)濃縮
前記分離液のL-システイン濃度が400g/Lになるまで薄膜濃縮管と強制循環式濃縮管を直列に連結して濃縮した。濃縮中にL-システイン結晶が析出し、濃縮が終わった直後のL-システイン結晶スラリーの温度は55℃であった。濃縮条件は次の通りである。
【0063】
内部圧力:80mmHg
スチーム圧力:2bar
最大注入量:100L
工程液強制循環流速:10L/min
蒸発速度:約10L/hr
(4)冷却及びL-システイン結晶の回収
当該L-システイン結晶スラリーを攪拌しながらジャケットタンクにおいて15℃まで4時間かけて一定の冷却速度で冷却し、冷却終了温度と同じ温度で2時間攪拌した。その後、L-システイン結晶をL-システイン結晶スラリーからバスケット遠心分離機により固液分離した。前記バスケット遠心分離機の分離条件は次の通りである。
【0064】
装置:4.5Lバスケット遠心分離機(H-122;Kokusan)
洗浄液:3次蒸留水
フィルター種類:Polyamide multifilament fiber filter fabric
フィルター空気透過度:250L/m2/s(at 2mbar)
Bowl回転速度:3,000rpm
Bowl回転時間:20min
分離中にL-システイン結晶スラリーの体積の20%に相当する洗浄水を投入した。分離後に、流動層乾燥器を用いて70℃で2時間以上乾燥させて残留水分を0.2%以下に下げ、最終的にL-システイン結晶を製造した。
【0065】
これらによるSMBクロマトグラフィー工程の収率、SMBクロマトグラフィー工程で得られた分離液中の固形分のL-システイン含有量(%)、L-システイン結晶の純度を測定した。SMBクロマトグラフィー工程の回収率は、SMBクロマトグラフィー装置に注入される発酵液に対する分離液のL-システインの回収率で計算した。その結果を前記製造例の結果と共に表1に示す。スルホン酸基を官能基として有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体樹脂を固定相として用いると、全ての実験結果において、SMBクロマトグラフィー工程の収率が90%以上であり、SMBクロマトグラフィー工程で得られた分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量が92.5%以上であり、L-システイン結晶の純度が98.6%以上であった。
【0066】
このように、強酸性の官能基を有する固定相樹脂を用いた連続クロマトグラフィーにおいては、L-システイン結晶がより高収率、高純度で得られることが確認された。
実験例1-イオン交換樹脂の種類による評価
SMBクロマトグラフィー装置に搭載される固定相樹脂のみ変更し、それ以外は前記製造例と同様にL-システイン結晶を製造した。具体的には、固定相として用いる樹脂は、産業的な使用に遜色がないように大量生産が可能であることを必須条件として選定し、官能基を基準に弱酸性のカルボキシ基、強塩基性のトリメチルアミノ基、弱塩基性の3級アミノ基を有するもの、官能基を有しないものを含むように選定した。
【0067】
これらによるSMBクロマトグラフィー工程の収率、SMBクロマトグラフィー工程で得られた分離液中の固形分のL-システイン含有量(%)、及び最終的に回収されたL-システイン結晶の純度を測定した。SMBクロマトグラフィー工程の回収率は、SMBクロマトグラフィー装置に注入される発酵液に対する分離液のL-システインの回収率で計算した。その結果を前記製造例の結果と共に表1に示す。
【0068】
【表1】
スルホン酸基を官能基として有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体樹脂を固定相として用いると、全ての実験結果において、SMBクロマトグラフィー工程の収率が90%以上であり、L-システイン含有量が92.5%以上であり、結晶の純度が98.6%以上であった。それに対して、弱酸性のカルボキシ基、強塩基性のトリメチルアミノ基、弱塩基性の3級アミノ基を有する樹脂、官能基を有しない樹脂を用いてL-システイン結晶を得ると、SMBクロマトグラフィー工程の収率が13.5~25.8%であり、分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量が31.8~44.5%であった。これは、強酸性の官能基を有する樹脂を固定相として用いた場合の収率及び含有量の半分以下のレベルであった。
【0069】
このように、連続クロマトグラフィーを用いてL-システインの発酵液を分離して結晶化する際に強酸性の官能基を有する樹脂を固定相とすると、高収率、高濃度、高純度でL-システインが得られることが確認された。
【0070】
実験例2-L-システインを含む発酵液のpHによる評価
L-システインを含む発酵液のpHのみ変更し、それ以外は前記製造例(TRILITE(登録商標) MCK32L使用)と同様にL-システイン結晶を製造した。具体的には、製造例と同様にL-システインを含む発酵液を得て、その後98%硫酸又は50%苛性ソーダ溶液を用いて当該発酵液のpHを2.5~9.5に様々に調整した。
【0071】
これらによるSMBクロマトグラフィー工程の回収率、SMBクロマトグラフィー工程で得られた分離液中の固形分のL-システイン含有量(%)、及び最終的に回収されたL-システイン結晶の純度を測定した。SMBクロマトグラフィー工程の回収率は、SMBクロマトグラフィー装置に注入される発酵液に対する分離液のL-システインの回収率で計算した。その結果を次の表2に示す。
【0072】
【表2】
SMBクロマトグラフィー工程の収率は、pH3.0~9.0の区間で50%以上であり、pH4.5~7.0の区間で85%以上であり、pH5.0~6.0の区間で90%であった。SMBクロマトグラフィー工程で得られた分離液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量は、pH3.0~9.0の区間で85%以上であり、pH3.5~7.5の区間で90%以上であった。
【0073】
また、L-システイン結晶の純度は、pH2.5~9.0の区間で90%以上であり、pH3.0~9.0の区間で91%以上であり、特にpH3.5~7.5の区間で98%以上であった。
【0074】
発酵液のpHが3.0未満、9.0以上でもL-システイン発酵液を用いたSMBクロマトグラフィー工程を行うことができ、高濃度、高純度のL-システイン結晶が得られる。しかし、発酵液のpHが3.0~9.0であると、より産業的に効果のある工程が行えることが確認された。
【0075】
実験例3-濃縮液の濃度による評価
分離液を濃縮した濃縮液の濃度のみ100~800g/Lに変更し、それ以外は前記製造例(TRILITE(登録商標) MCK32L使用)と同様にL-システイン結晶を製造した。
【0076】
具体的には、分離液のL-システインの濃度は35.1g/Lであったが、それを濃縮してL-システインの濃度を100~800g/Lに様々に調節し、計8件の実験を行った。
【0077】
これらによる結晶核生成時点、最終的に回収されたL-システイン結晶の純度、及び結晶化工程の回収率を測定した。結晶化工程の回収率は、SMBクロマトグラフィー工程による分離液のL-システインに対する、得られるL-システイン結晶のL-システインの回収率で計算した。その結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
L-システインの結晶核生成は濃度200g/L以上で起こるが、濃度300g/L以上で濃縮中に結晶核が生成され、迅速な結晶化が生じた。
【0079】
L-システイン結晶の純度は、濃度200~700g/Lの区間で91%以上であり、200~600g/Lの区間で95%以上であり、200~500g/Lの区間で98%以上であった。結晶化工程の回収率は、濃縮濃度に比例して増加した。もっとも、濃縮濃度が700g/Lであると高純度及び高回収率でL-システイン結晶が得られるが、800g/LであるとL-システイン結晶スラリーの固化が発生し、攪拌及び結晶分離が不可能であった。よって、800g/L未満では高純度及び高回収率でL-システイン結晶が得られるものと予想される。
【0080】
このように、SMBクロマトグラフィー分離液の濃度が200g/L以上800g/L未満であると、L-システイン結晶が容易に得られることが確認された。特に、濃度300~700g/Lであると、より迅速に結晶化が生じ、高純度、高回収率で結晶が得られることが確認された。
【0081】
実験例4-濃縮濃度が低い場合の冷却条件の変化による評価
実験例3でSMBクロマトグラフィー分離液の濃度が100g/Lの場合に15℃まで冷却してもL-システイン結晶が生成されなかった濃縮液を攪拌しながらジャケットタンクにおいて-10℃まで2時間30分かけて一定の冷却速度で冷却し、冷却終了時の温度と同じ温度で12時間攪拌した。その結果、L-システイン結晶が生成された。それを減圧膜濾過装置により固液分離し、100mlの洗浄水を投入し、35℃でオーブン乾燥機にて12時間乾燥して残留水分を12.0%以下に下げ、最終的にL-システイン結晶を製造した。L-システイン結晶の純度は99.7%であり、結晶化工程の回収率は4.2%であった。
【0082】
このように、SMBクロマトグラフィー分離液の濃度が200g/L未満であっても、冷却温度の調節によりL-システイン結晶が得られることが確認された、しかし、産業的に活用するには結晶化工程の回収率が低すぎた。また、零下の苛酷条件で冷却結晶化工程を行わなければならず、結晶化時間も長くなるという欠点がある。
【0083】
実験例5-冷却温度による評価
L-システイン結晶スラリーの冷却温度のみ変更し、それ以外は前記製造例と同様にL-システイン結晶を製造した。具体的には、当該L-システイン結晶スラリーを冷却せずに55℃で2時間かけて攪拌したもの、及び当該L-システイン結晶スラリーを攪拌しながら10℃/hの冷却速度で0℃から45℃まで様々な温度に冷却したものを含む計5回の結晶化実験を行った。それぞれの実験に用いたL-システインスラリーの初期体積は1Lであった。
【0084】
これらによるL-システイン結晶の純度、結晶化工程の回収率を表4に示す。結晶化工程の回収率は、SMBクロマトグラフィー工程による分離液のL-システインに対する、得られるL-システイン結晶のL-システインの回収率で計算した。その結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
L-システイン結晶の純度は全てのケースで98%以上であり、結晶化工程の回収率は冷却温度に反比例して増加した。すなわち、冷却温度が低いほど結晶化工程の回収率が高く、30℃以下で45%以上の工程回収率が確認され、25℃未満で50%以上の工程回収率が予想される。
【0086】
実験例6-SMBクロマトグラフィーの原料として用いられるL-システインを含む発酵液の濃度による評価
SMBクロマトグラフィーの原料として用いられるL-システインを含む発酵液(pH5.5)の濃度のみ変更し、それ以外は前記製造例と同様にL-システイン結晶を製造した。具体的には、前記製造例で得られた濃度26g/LのL-システイン発酵液をそのままSMBクロマトグラフィー原料液として用いるもの、水で希釈してL-システイン濃度を10g/LにしてSMBクロマトグラフィー原料液として用いるもの、薄膜濃縮器で濃縮してL-システイン濃度を60g/L~150g/LにしてSMBクロマトグラフィー原料液として用いるものを含む計6件の実験を行った。L-システイン濃度を180g/Lまで濃縮すると、L-システイン結晶が析出したのでSMBクロマトグラフィー工程を行わなかった。前述したように析出したL-システイン結晶は、微結晶として析出するので分離が難しく、また純度も50%以下と非常に低かった。
【0087】
それぞれの実験に用いられた原料液の体積は、少なくとも0.1kl以上であった。SMBクロマトグラフィー工程の収率、及びSMBクロマトグラフィーにより生産された工程液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量を表5に示す。
【0088】
【表5】
SMBクロマトグラフィー工程の収率は全ての区間で90%以上であり、SMBクロマトグラフィーにより生産された工程液から水分を除いた固形分のL-システイン含有量も全ての区間で90%以上であった。これらの結果から、本願のSMBクロマトグラフィーを用いたL-システインの精製方法は、原料液のL-システイン濃度に関係なく、L-システインを含む発酵液の精製及び結晶化に非常に効果的な方法であると解釈される。
【0089】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。