(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/11 20060101AFI20220705BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
B62D1/11
B60R21/203
(21)【出願番号】P 2020571135
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003401
(87)【国際公開番号】W WO2020162315
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019021796
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】白石 昇久
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】蔵 孝行
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160438(JP,A)
【文献】特開2006-228700(JP,A)
【文献】特開2009-202859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
B62D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパマスになるエアバッグモジュールを、ステアリングホイールの操舵中心を取り囲んで配列された振動減衰パーツを介して、該ステアリングホイールに取り付けて、当該ステアリングホイールの振動をダンピングするようにした車両のステアリングホイール構造であって、
上記振動減衰パーツは、上記ステアリングホイールの中立位置を基準として、上記操舵中心から上方側に位置する第1振動減衰パーツ及び該操舵中心から下方側に位置する第2振動減衰パーツを少なくとも含み、
上記第1振動減衰パーツのばね定数または弾性率が、上記第2振動減衰パーツのばね定数または弾性率よりも小さく設定されることを特徴とする車両用ステアリングホイールの振動減衰構造。
【請求項2】
前記第1振動減衰パーツは、操舵中心の左右両側に対称に配置されたダンピングラバーを含み、
前記第2振動減衰パーツは、ダンピングラバーを含み、
上記第1振動減衰パーツのダンピングラバーの硬度が、上記第2振動減衰パーツのダンピングラバーの硬度よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の車両用ステアリングホイールの振動減衰構造。
【請求項3】
前記ステアリングホイールに取り付けられ、前記振動減衰パーツをそれぞれ個別に弾性支持するスプリングを含み、
前記第1振動減衰パーツを弾性支持する第1スプングのばね定数が、前記第2振動減衰パーツを弾性支持する第2スプリングのばね定数よりも小さく設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ステアリングホイールの振動減衰構造。
【請求項4】
前記エアバッグモジュール側には、前記第2振動減衰パーツの設置高さ位置または当該設置高さ位置の近傍に重錘が設けられることを特徴とする請求項1~3いずれかの項に記載の車両用ステアリングホイールの振動減衰構造。
【請求項5】
前記重錘は、前記第2振動減衰パーツの設置高さ位置に代えて、該第2振動減衰パーツの設置高さ位置よりも下方に設けられることを特徴とする請求項4に記載の車両用ステアリングホイールの振動減衰構造。
【請求項6】
前記エアバッグモジュールは、前記振動減衰パーツが取り付けられるモジュールベースを有し、該モジュールベースは、前記ステアリングホイールの前記中立位置を基準として、前記操舵中心よりも上方領域が下方領域よりも軽量に形成されることを特徴とする請求項1~5いずれかの項に記載の車両用ステアリングホイールの振動減衰構造。
【請求項7】
前記モジュールベースの上方領域は合成樹脂製であり、前記下方領域は金属製であることを特徴とする請求項6に記載の車両用ステアリングホイールの振動減衰構造。
【請求項8】
請求項1~7いずれかの項に記載の車両用ステアリングホイールの振動減衰構造を備えたことを特徴とする車両用ステアリングホイール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールに生じる煽る態様の振動を効果的に制振することが可能で、低周波数帯及び高周波数帯双方の振動低減に寄与する車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングホイールの制振技術としては、例えば特許文献1が知られている。特許文献1の「ステアリングホイールの振動低減構造」は、ホーンスイッチの操作性に影響を与えずに、ダイナミックダンパーでステアリングホイールの振動を効果的に低減することを課題とし、ステアリングホイールのホルダにコイルスプリングを介してスライダを軸方向に移動可能に支持するとともに、スライダにダンパースプリングを介してエアバッグモジュールを略直角方向に移動可能に支持する。コイルスプリングはエアバッグモジュールの略直角方向の振動に影響を及ぼさないので、コイルスプリングのばね定数をホーンスイッチの作動に適した値に設定し、かつダンパースプリングのばね定数をダイナミックダンパーの作動に適した値に設定することが可能となり、ホーンスイッチの操作性に影響を与えずに、ダイナミックダンパーでステアリングホイールの略直角方向の振動を効果的に低減することができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアリングホイールに発生する振動態様としては、(1)30~50Hzの低周波数帯におけるエンジン起因による上下振動と、(2)70~90Hzの高周波数帯におけるステアリングの変形共振とがある。
【0005】
低周波数帯の振動モードでは、
図8に示すように、ステアリングホイールaの振動変位Jsとエアバッグモジュールbの振動変位Jmが上下方向で互いに逆向きとなる。このような振動は、背景技術で示されているようなステアリングホイールaとエアバッグモジュールbの間に配置されるダイナミックダンパーにより、相当減衰することが可能である。
【0006】
これに対し、高周波数帯の振動モードでは、
図9に示すように、ステアリングホイールaには、操舵中心を通る軸線に位置するステアリングシャフトcよりも上方及び下方で車両前後方向へ反対向きに振動変位Ksが生じて、ステアリングホイールaを煽るような振動が発生する。これに伴って、エアバッグモジュールbは、ステアリングシャフトcの上方及び下方で、ステアリングホイールの振動変位Ksとは反対向きに振動変位Kmする。このような振動に対しては、背景技術のように、操舵中心を通る軸線に位置するステアリングシャフトc周りに同性能のダンパを配列しただけでは、ステアリングホイールaの振動を効果的に制振することができないという課題があった。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、ステアリングホイールに生じる煽る態様の振動を効果的に制振することが可能で、低周波数帯及び高周波数帯双方の振動低減に寄与する車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる車両用ステアリングホイールの振動減衰構造は、ダンパマスになるエアバッグモジュールを、ステアリングホイールの操舵中心を取り囲んで配列された振動減衰パーツを介して、該ステアリングホイールに取り付けて、当該ステアリングホイールの振動をダンピングするようにした車両のステアリングホイール構造であって、上記振動減衰パーツは、上記ステアリングホイールの中立位置を基準として、上記操舵中心から上方側に位置する第1振動減衰パーツ及び該操舵中心から下方側に位置する第2振動減衰パーツを少なくとも含み、上記第1振動減衰パーツのばね定数または弾性率が、上記第2振動減衰パーツのばね定数または弾性率よりも小さく設定されることを特徴とする。
【0009】
前記第1振動減衰パーツは、操舵中心の左右両側に対称に配置されたダンピングラバーを含み、前記第2振動減衰パーツは、ダンピングラバーを含み、上記第1振動減衰パーツのダンピングラバーの硬度が、上記第2振動減衰パーツのダンピングラバーの硬度よりも小さいことが好ましい。
【0010】
前記ステアリングホイールに取り付けられ、前記振動減衰パーツをそれぞれ個別に弾性支持するスプリングを含み、前記第1振動減衰パーツを弾性支持する第1スプングのばね定数が、前記第2振動減衰パーツを弾性支持する第2スプリングのばね定数よりも小さく設定されることが望ましい。
【0011】
前記エアバッグモジュール側には、前記第2振動減衰パーツの設置高さ位置または当該設置高さ位置の近傍に重錘が設けられることが望ましい。前記重錘は、前記第2振動減衰パーツの設置高さ位置に代えて、該第2振動減衰パーツの設置高さ位置よりも下方に設けられることが好ましい。
【0012】
前記エアバッグモジュールは、前記振動減衰パーツが取り付けられるモジュールベースを有し、該モジュールベースは、前記ステアリングホイールの前記中立位置を基準として、前記操舵中心よりも上方領域が下方領域よりも軽量に形成されることが望ましい。前記モジュールベースの上方領域は合成樹脂製であり、前記下方領域は金属製であることが好ましい。
【0013】
本発明にかかる車両用ステアリングホイール装置は、上記車両用ステアリングホイールの振動減衰構造を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置にあっては、ステアリングホイールに生じる煽る態様の振動を効果的に制振することができ、低周波数帯及び高周波数帯双方の振動低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る車両用ステアリングホイールの振動減衰構造が適用されるステアリングホイールの概略斜視図である。
【
図2】本発明に係る車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置の好適な一実施形態を示す側断面図である。
【
図4】
図2に示した車両用ステアリングホイールの部品構成を示す分解斜視図である。
【
図5】
図2に示した車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置の変形例を示す側断面図である。
【
図6】
図2に示した車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置の他の変形例を示す部分断面図である。
【
図7】
図2に示した車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置のさらに他の変形例を示すアタッチメントプレートの正面図である。
【
図8】車両用ステアリングホイールの低周波数帯における振動態様を説明する説明図である。
【
図9】車両用ステアリングホイールの高周波数帯における振動態様を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明にかかる車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車両用ステアリングホイールの振動減衰構造が適用されるステアリングホイール1の概要を例示した図である。
【0017】
図1には、ステアリングホイール1の全体斜視図が示されている。なお、
図1を含む以下の図面では、車両のステアリングシャフト(図示せず)に取り付けられたステアリングホイール1の操舵位置が中立位置となっている場合を想定し、各方向を例示している。
【0018】
操舵位置に関し、「ステアリングホイール1の中立位置」とは、車両が前方に直進している状態で、ステアリングホイール1に力を加えず自然状態で位置するときのステアリングホイール1の位置をいう。
【0019】
図1に示した座標系については、Z軸は概略、ステアリングシャフトが、車両の前輪へ向かう方向を下、ステアリングホイール1へ向かう方向を上としている。また、Z軸に直交する平面においてアナログ12時間時計の12時の方向(上方向)から6時の方向(下方向)をY軸とし、9時の方向(左方向)から3時の方向(右方向)をX軸としている。その他、運転者側から見た側を表側とし、その反対側を裏側として記述する。
【0020】
ステアリングホイール1は、車両の運転席に設置されていて、ステアリングシャフトと連結され、運転者の操舵操作をステアリングギア等へ伝達する。ステアリングホイール1は、ステアリングシャフトを操舵中心Sとして舵角操作される。
【0021】
後述する説明中、「ステアリングホイール1の操舵中心S」とは、ステアリングシャフトが回転する中心軸(以下、ステアリングシャフト回転中心軸という;Z軸方向)と、エアバッグモジュール2のモジュールベース7を構成するアタッチメントプレート13、リテーナリング14、ハウジング4などが形成する平面とが交差する(好ましくは、直交する)交点及びその近傍をいう。
【0022】
「操舵中心S」に対して、「上」・「下」とは、軸線として無限に延びる上記ステアリングシャフト回転中心軸上の操舵中心Sの位置において、当該回転中心軸に対し水平方向に直交する直線を含んで該回転中心軸方向に広がる平面(例えば、
図1中、ZX平面)を想定したときに、その平面に関して、車両の天井方向を「上」方向とし、床方向を「下」方向とする。
【0023】
「操舵中心S」に対して、「左」・「右」とは、上記ステアリングシャフト回転中心軸上の操舵中心Sの位置において、当該回転中心軸に対し鉛直方向に直交する直線を含んで該回転中心軸方向に広がる平面(例えば、
図1中、ZY平面)を想定したときに、その平面に関して、車両の通常前進方向に向かって左方向を「左」方向とし、車両の通常前進方向に向かって右方向を「右」方向とする。
【0024】
後述する振動減衰パーツ19P,19Qや重錘20に関し、「高さ位置」とは、ステアリングシャフト回転中心軸からの上下方向距離をいう。ステアリングシャフト回転中心軸の上下位置は、軸方向に沿った、例えば舵角中心S位置と舵角中心Sから離れた位置とで変化する。すなわち、上下方向距離で「高さ位置」を規定する回転中心軸の上下位置は、軸方向に変化する。従って、上記「高さ位置」は、ステアリングシャフト回転中心軸の、どの位置であるかによって、変化する。
【0025】
「弾性率」は、ヤング率など、材料の特性を表す。「ばね定数」は、ばねの硬さを表す。どちらも、数値が高い方が「硬い」性質となり、低くなるほど、「柔らかい」性質を示す。従って、(第1振動減衰パーツ19P)<(第2振動減衰パーツ19Q)とは、第1振動減衰パーツ19Pの方が、第2振動減衰パーツ19Qよりも柔らかいことを意味する。
【0026】
ステアリングホイール1の中央には、
図1~
図3に示すように、緊急時にドライバーズエアバッグとして機能するエアバッグモジュール2が取り付けられている。このエアバッグモジュール2は、追って説明するが、通常時においては、ホーンを鳴らす際に運転者が押圧操作するホーンスイッチとしても機能する。
【0027】
エアバッグモジュール2の運転者側は、意匠面として機能する樹脂製のホーンカバー3で覆われている。
図1~
図4に示すように、ホーンカバー3の奥には、エアバッグモジュールの基部を構成するモジュールベース7が備えられている。
【0028】
ホーンカバー3の内部には、モジュールベース7に取り付けられて、緊急時に展開膨張するエアバッグクッション5が折り畳まれて収容される。モジュールベース7には、エアバッグクッション5に収容して設けられたインフレータ6が取り付けられている。
【0029】
緊急時に車両のセンサから信号が送られると、インフレータ6からエアバッグクッション5へインフレータガスが供給され、エアバッグクッション5はホーンカバー3を開裂して車室空間へと展開膨張し、運転者を拘束する。
【0030】
ステアリングホイール1の基礎部分は、金属製の芯金部材で構成されている。芯金部材はおおまかに、中央のボス領域8(
図3等参照)、運転者が把持する円形のリム9、そしてボス領域8とリム9をつなぐスポーク10を含んで構成されている。ボス領域8には、ステアリングシャフトが連結される。
【0031】
エアバッグモジュール2には、ドライバーズエアバッグとしての機能のほかに、上述したようにホーンスイッチとしての機能、さらにはステアリングホイール1の振動を低減する機能が備えられている。これらの機能を実現する構成について、以下の説明する。
【0032】
エアバッグモジュール2は、
図2~
図4に示すように、エアバッグクッション5やインフレータ6が取り付けられるモジュールベース7を有する。
【0033】
モジュールベース7は、エアバッグクッション5を取り付ける金属製のリテーナリング14と、リテーナリング14の裏側に重ね合わせる金属製のアタッチメントプレート13と、アタッチメントプレート13の裏側にさらに重ね合わせる金属製のハウジング4とから構成される。
【0034】
ハウジング4には、インフレータ挿入用穴部4aが中央位置に、このインフレータ挿入用穴部4aの周りに、ステアリングホイール1の操舵中心S(ステアリングシャフトの回転中心軸)を取り囲む配列で3つの貫通穴4bが形成される。
【0035】
アタッチメントプレート13及びリテーナリング14には、インフレータ挿入用穴部4aと連通され、インフレータ6をエアバッグクッション5内に位置させる穴部13a,14bが形成される。
【0036】
インフレータ6は、ハウジング4の裏側(ボス領域8側)からインフレータ挿入用穴部4aに挿入され、外周フランジ6sがハウジング4に当接される。
【0037】
リテーナリング14に設けられたボルト14aは、アタッチメントプレート13、ハウジング4及びインフレータ6の外周フランジ6aに貫通され、ナット15がハウジング4の裏側から締結され、これにより、インフレータ6及びエアバッグクッション5がモジュールベース7に組み付けられる。
【0038】
モジュールベース7にはさらに、ホーンカバー3が設けられる。ホーンカバー3は、エアバッグクッション5を収容する中空ボウル形態で形成され、外周縁部3aよりも内方位置から突出形成された筒状部3bが、ハウジング4に対し、係止構造18で係止されて取り付けられている。
【0039】
モジュールベース7にエアバッグクッション5、インフレータ6及びホーンカバー3を組み付けて構成されたエアバッグモジュール2は、振動減衰のためのダンパマスとして機能する。
【0040】
アタッチメントプレート13は、ハウジング4の3つの貫通穴4bを封鎖するように形成され、振動減衰パーツ19の組み付け部分を構成する。
【0041】
振動減衰パーツ19は、リング状のダンピングラバー11と、軸状のピン体12とから構成される。ダンピングラバー11は、ハウジング4の各貫通穴4bに保持されて設けられ、操舵中心Sを取り囲んで配列される。
【0042】
ピン体12は、ダンピングラバー11にスライド自在に挿通され、ディスク状基端12aが表側からダンピングラバー11に当接されて抜け止めされると共に、軸状先端12bがステアリングホイール1のボス領域8に取付固定される。
【0043】
アタッチメントプレート13により貫通穴4bが封鎖され、この貫通穴4bに取り付けたダンピングラバー11に対し、ボス領域8に取り付けたピン体12がスライドできるように組み付けられる。この構成により、エアバッグモジュール5は、ステアリングホイール1側のピン体12とモジュールベース7側のダンピングラバー11とから構成された振動減衰パーツ19を介して、ステアリングホイール1に取り付けられる。
【0044】
そして、振動減衰パーツ19は、ステアリングホイール1の振動をピン体12がエアバッグモジュール2側へ伝達し、ピン体12が挿入されたダンピングラバー11が振動減衰要素となり、かつ当該エアバッグモジュール2がダンパマスとなって、ステアリングホイール1の振動をダンピングするようになっている。
【0045】
ハウジング4からボス領域8へ突出する各ピン体12それぞれには、これを包囲してホーンスプリング(コイルスプリング)17が設けられる。
【0046】
ホーンスプリング17は、ボス領域8に一端が取り付けられ、他端がハウジング4の裏側に当接され、これにより、ステアリングホイール1側からエアバッグモジュール2を、そしてまた各振動減衰パーツ19をその設置位置で個別に弾性支持する。
【0047】
ホーンスプリング17は、エアバッグモジュール2とボス領域8との間に設置され、これらの間に間隙を確保する。そして、ホーン操作の際、運転者がエアバッグモジュール2(ホーンカバー3)をステアリングホイール1に向けて押圧すると、ピン体12に対してダンピングラバー11(エアバッグモジュール2)がスライド移動し、ホーンスプリング17が圧縮される。これにより、エアバッグモジュール2側及びステアリングホイール1側それぞれに設けた接点が電気的に導通され、ホーンが鳴動する。
【0048】
エアバッグモジュール2の押圧を解除すると、ホーンスプリング17が弾性復元してエアバッグモジュール2が後退し、これにより、接点が離れて鳴動が停止されるようになっている。
【0049】
本発明に係る車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置の好適な実施形態では、
図2及び
図3に示すように、振動減衰パーツ19は、ステアリングホイール1の中立位置を基準として、操舵中心S周りに3つ配列され、そのうち、2つの第1振動減衰パーツ19Pは、操舵中心Sから上方側であって、X軸方向に沿う右方向及び左方向となる3時方向側と9時方向側それぞれに、操舵中心Sから左右に寄せて配置され、1つの第2振動減衰パーツ19Qは、操舵中心Sから下方側であって、Y軸方向に沿う下方向となる6時方向側に、操舵中心Sから下方へ寄せて配置される。第1振動減衰パーツ19Pは、好ましくは、操舵中心Sから左右方向に等距離で配置される。
【0050】
また、各振動減衰パーツ19は上述したように、ホーンスプリング17によって個別に弾性支持されている。第1振動減衰パーツ19Pは、第1ホーンスプリング17Pによって、第2振動減衰パーツ19Qは、第2ホーンスプリング17Qによって弾性支持される。
【0051】
第1及び第2振動減衰パーツ19P,19Qに関し、第1振動減衰パーツ19Pが具現するばね定数または弾性率は、第2振動減衰パーツ19Qが具現するばね定数または弾性率よりも小さく設定される。
【0052】
本実施形態について言えば、第1振動減衰パーツ19Pは2つであり、操舵中心Sの左右両側に対称に配置されたダンピングラバー11を含み、第2振動減衰パーツ19Qは、ダンピングラバー11を含んでいる。そして、第1振動減衰パーツ19Pのダンピングラバー11の硬度が、第2振動減衰パーツ19Qのダンピングラバー11の硬度よりも小さく設定される。
【0053】
併せて、第1及び第2ホーンスプリング17P,17Qに関し、第1ホーンスプリング17Pのばね定数が、第2ホーンスプリング17Qのばね定数よりも小さく設定される。
【0054】
これにより、エアバッグモジュール2は、ステアリングホイール1に対し、中立位置を基準として、操舵中心Sの上方よりも下方の自由度が高められ、動きやすく設定される。
【0055】
このような構成を採用して、操舵中心Sの上下方向で自由度を変えて、エアバッグモジュール2を下方向から上方向へ動きやすくすることで、上向き下向き方向へ繰り返し煽られるステアリングホイール1の高周波数帯の振動挙動に対し、ダンピングラバー11及びホーンスプリング17を適切に効かせて振動減衰することができる。
【0056】
詳細には、高周波数帯の振動モードにおいて、ステアリングホイール1が、ステアリングシャフトの回転中心軸(操舵中心S)よりも上方及び下方で車両前後方向へ反対向きに振動変位を生じて、当該ステアリングホイールを煽るような振動が発生し、これに伴って、エアバッグモジュール2が、ステアリングシャフトの上方及び下方で、ステアリングホイール1の振動変位とは反対向きに振動変位するような振動態様を効果的に減衰することができる。
【0057】
一例を示せば、第1振動減衰パーツ19Pのダンピングラバーのショア硬さH1を18~35Hs、好ましくは25Hsとし、第2振動減衰パーツ19Qのダンピングラバーのショア硬さH2を30~65Hs、好ましくは50Hsに設定する(H1<H2)と共に、第1ホーンスプリング17Pのばね定数L1を10~25N、好ましくは12Nとし、第2ホーンスプリング17Qのばね定数L2を15~35N、好ましくは18Nに設定する(L1<L2)などがある。
【0058】
硬度及びばね定数は、H1<H2及びL1<L2の関係を満たす限り、どのように設定してもよい。他方、上述した低周波数帯の振動は、振動減衰パーツ19によって振動低減することができる。
【0059】
図5~
図7には、上記実施形態に、他の振動減衰構成を組み合わせた変形例が示されている。概略的には、エアバッグモジュール2は、ステアリングホイール1の中立位置を基準として、ステアリングホイール1の操舵中心Sよりも上方領域が下方領域よりも軽量に形成される構成である。
【0060】
図5に示した変形例では、エアバッグモジュール2には、振動減衰特性を調整するために、重錘20が設けられる。
【0061】
重錘20は、上述したステアリングホイール1の上方及び下方で車両前後方向へ反対向きに、当該ステアリングホイール1を煽るような高周波数帯の振動を低減するために、ステアリングホイール1の中立位置を基準として、操舵中心Sから下方に位置する振動減衰パーツ19の設置高さ位置または当該設置高さ位置の近傍に設けられる。
【0062】
図示例では、振動減衰パーツ19のいずれかが、操舵中心Sから下方側であって、Y軸方向に沿う下方向となる6時方向側に、操舵中心Sから下方へ寄せて配置されていて、重錘20は、この振動減衰パーツ19の設置高さ位置に対応させて設けられる。
【0063】
図にあっては、重錘20は、ホーンカバー3の筒状部3bの上に載せるようにして、アタッチメントプレート13に接合して設けられていると共に、ホーンカバー3の外周縁部3aと筒状部3bとの間の隙間に固定して設けられている。
【0064】
重錘20を設けている箇所は、一例であって、ステアリングホイール1の中立位置を基準として、操舵中心Sから下方に位置する振動減衰パーツ19の設置高さ位置または当該設置高さ位置の近傍であれば、どのような位置に設置してもよい。
【0065】
また、ホーンカバー3やアタッチメントプレート13に限らず、ハウジング4に設けるようにしてもよい。
【0066】
エアバッグモジュール2を、ステアリングホイール1の操舵中心Sよりも上方領域が下方領域よりも軽くなるように設定することにより、具体的には、操舵中心Sの下方に重錘20を設けることにより、上向き下向き方向へ繰り返し煽られるステアリングホイール1の高周波数帯の振動挙動を、適切に低減することができる。
【0067】
重錘20を振動減衰パーツ19の設置高さ位置に合わせて設けることにより、高周波数帯で振動減衰パーツ19が作用することを抑制して、良好にチューニングすることができる。
【0068】
他方、上述した低周波数帯の振動は、振動減衰パーツ19によって振動低減することができる。
【0069】
図6に示した変形例では、重錘20は、振動減衰パーツ19の設置高さ位置に代えて、当該振動減衰パーツ19の設置高さ位置よりも下方に設けられている。これにより、ステアリングホイール1の振動時における重錘20の慣性作用を増やすことができ、重錘20の重さを軽くしても、相当の振動低減効果を得ることができる。
【0070】
また、振動減衰パーツ19と重錘20の設置高さ位置が異なるので、上記実施形態とは異なり、重錘20による振動低減作用を、振動減衰パーツ19による低周波数帯の振動に対しても効かせることができると共に、振動減衰パーツ19による振動低減作用を、重錘20による高周波数帯の振動に対しても効かせることができる。
【0071】
図7に示した変形例では、モジュールベース7は、ステアリングホイール1の中立位置を基準として、操舵中心Sよりも上方領域が下方領域よりも軽量に形成される。この変形例では、振動減衰パーツ19の配列は問われない。
【0072】
モジュールベース7は上述したように、リテーナリング14と、アタッチメントプレート13と、ハウジング4とから構成される。
【0073】
これらリテーナリング14などの部品のすべて、もしくはこれら部品の少なくともいずれかは、操舵中心Sよりも上方領域の重量が、下方領域の重量よりも軽く形成される。重量の軽重は、素材で変えたり、部材寸法で変えるなど、従来周知のどのような手法によってもよい。
【0074】
例えば、
図7に示すように、アタッチメントプレート13の上方領域(上半部)13bが軽い合成樹脂製とされ、下方領域(下半部)13cが重い金属製とされる。アタッチメントプレート13等の部品を合成樹脂と金属の組み合わせて構成する場合には、インモールド成型などにより、一体形成することができる。
【0075】
このような変形例であっても、上記実施形態や変形例と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0076】
また、
図7の変形例で説明したモジュールベース7に対する上方領域及び下方領域の重量変更は、上記実施形態を基本に、
図5及び
図6に示した重錘20を設ける変形例に組み合わせて採用することができる。
【0077】
このように構成することで、振動減衰対象の周波数に対するチューニングを容易かつ自在に行うことができ、ステアリングホイールの振動を適切に低減することができる。
【0078】
以上に述べた車両用ステアリングホイールの振動減衰構造及び車両用ステアリングホイール装置は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施形態例も、各種の方法で実施または遂行できる。特に、本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさおよび構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0079】
1 ステアリングホイール
2 エアバッグモジュール
7 モジュールベース
11 ダンピングラバー
13 アタッチメントプレート
13b アタッチメントプレートの上方領域
13c アタッチメントプレートの下方領域
17 ホーンスプリング
17P 第1ホーンスプリング
17Q 第2ホーンスプリング
19 振動減衰パーツ
19P 第1振動減衰パーツ
19Q 第2振動減衰パーツ
20 重錘
S ステアリングホイールの操舵中心