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特許7100222ポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20220706BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220706BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20220706BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220706BHJP
   C08G 75/0263 20160101ALI20220706BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L101/12
C08K7/00
C08K3/013
C08G75/0263
C08J5/00 CEZ
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018526660
(86)(22)【出願日】2016-11-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 KR2016013488
(87)【国際公開番号】W WO2017090959
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-10-21
(31)【優先権主張番号】10-2015-0164288
(32)【優先日】2015-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK Chemicals Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】310,Pangyo-ro,Bundang-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13494,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ セホ
(72)【発明者】
【氏名】キム スンギ
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528525(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020142(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/030136(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/045724(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/049941(WO,A1)
【文献】特開昭64-048829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00-75/32
C08G 79/00-79/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の繰り返し単位中にジスルフィド繰り返し単位を含み、主鎖の末端基(End Group)中の少なくとも一部がヒドロキシ基(-OH)であるポリアリーレンスルフィド;および
熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび充填材からなる群より選択された1種以上を含み、
前記ポリアリーレンスルフィドは、FT-IRスペクトル上で、3300乃至3600cm-1のピークを示し、前記FT-IRスペクトル上で、1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は0.01乃至3%であり、
前記ポリアリーレンスルフィドは、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階;および前記重合反応段階を進行しながら、ヒドロキシ基を有する芳香族化合物を追加的に添加する段階を含む方法で製造され、
前記ヒドロキシ基を有する芳香族化合物は、目標粘度に対する現在粘度の比率で重合反応の進行程度を測定したとき、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素間の重合反応が約90%以上100%未満に進行された時添加される、ポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ジスルフィド繰り返し単位は、ポリアリーレンスルフィド全体に対して3重量%以下が含まれる、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィドは、主鎖に結合されたヨードおよび遊離ヨードを含み、前記主鎖に結合されたヨードおよび遊離ヨード含有量が10乃至10000ppmwである、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアルキレンイミン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリ(メタ)アクリレート系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーおよびポリブタジエン系エラストマーからなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項6】
前記充填材は、繊維、ビード、フレーク、または粉末形態の有機または無機充填材である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項7】
前記充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、ガラスフレーク、タルクおよび炭酸カルシウムからなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアリーレンスルフィドは、数平均分子量が5,000乃至50,000である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアリーレンスルフィドの5乃至95重量%と、前記熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび充填材からなる群より選択された1種以上の5乃至95重量%とを含む、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項10】
酸化安定剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、核剤および衝撃補強剤からなる群より選択された1種以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を押出する段階を含む成形品の製造方法。
【請求項12】
前記押出は、二軸押出機で行われる、請求項11に記載の成形品の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を含む成形品。
【請求項14】
フィルム、シート、または繊維形態である、請求項13に記載の成形品。
【請求項15】
自動車内装部品、自動車外装部品、電気部品、電子部品または産業材として用いられる、請求項13に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の高分子素材や充填材などとのより向上した相溶性により優れた物性を示すポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリアリーレンスルフィドは代表的なエンジニアリングプラスチック(Engineering Plastic)であって、高い耐熱性と耐化学性、耐火炎性(flame resistance)、電気絶縁性などにより高温と腐食性の環境で使用される各種製品や電子製品に使用される用途で需要が増加している。
【0003】
このようなポリアリーレンスルフィドのうち、商業的に販売されるものは現在ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide;以下、「PPS」)が唯一である。現在まで主に適用されるPPSの商業的生産工程は、パラ-ジクロロベンゼン(p-dichlorobenzene;以下、「pDCB」)と硫化ナトリウム(sodium sulfide)を原料としてN-メチルピロリドン(N-methyl pyrrolidone)などの極性有機溶媒で溶液重合反応させる方法である。この方法はマッカラム工程(Macallum process)と知られている。
【0004】
しかし、このようなマッカラム工程で製造したポリアリーレンスルフィドの場合、硫化ナトリウムなどを用いた溶液重合工程により塩形態の副産物が発生することがあり、このような塩形態の副産物または残留有機溶媒の除去のために洗浄または乾燥工程などが必要になるという短所がある。また、このようなマッカラム工程で製造されたポリアリーレンスルフィドが粉末形態を有することによって、後加工が容易でなく、作業性が落ちることがある。しかも、前記マッカラム工程で製造したポリアリーレンスルフィドの場合、分子量が低いオリゴマー形態の高分子鎖を相当な含有量で含むことによって、高い精密度が要求される製品を成形しようとすればバリ(flash)が相当量発生し、これを除去するための別途の工程の必要性などにより加工性が落ちるという問題を有していた。
【0005】
これによって、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融重合する方法として前記PPSなどのポリアリーレンスルフィドを製造する方法が提案されている。このように製造されたポリアリーレンスルフィドは、製造過程中に塩形態の副産物などが発生せず、有機溶媒の使用が要求されないため、これらの除去のための別途の工程が要求されない。また、最終製造されたポリアリーレンスルフィドがペレット(pellet)形態を有することによって、後加工がより容易になり、作業性がよいという長所がある。
【0006】
しかし、前記溶融重合方式で製造されたポリアリーレンスルフィドの場合、その主鎖末端がヨードと大部分のアリール基(代表的に、ベンゼン)からなっている。このようなポリアリーレンスルフィドの場合、主鎖構造の特性上、他の高分子素材またはガラス繊維など各種強化材や充填材との相溶性が落ちるという短所がある。
【0007】
これによって、前記溶融重合方式で製造されたポリアリーレンスルフィドの場合、多様な用途に適した最適化した物性を示すようにするために他の高分子素材または充填材などとコンパウンディングすることが難しく、コンパウンディングしても所望の最適化した物性を示すことが難しいという短所があった。このような問題点により、以前に知られたポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物の場合、各用途に合う十分な物性を示すことが難しく、多様な用途への適用に限界があったのが事実である。
【0008】
また、高い精密度が要求される製品を成形しようとするとき、バリ(flash)の発生量をより減らすことができ、より優れた加工性を示すポリアリーレンスルフィドの開発が継続して要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、加工性に優れ、他の高分子素材や充填材などとのより向上した相溶性により優れた物性を示すポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、前記ポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を含んで各用途に最適化した物性を示す成形品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、主鎖の繰り返し単位中にジスルフィド繰り返し単位を含み、主鎖の末端基(End Group)中の少なくとも一部がヒドロキシ基(-OH)であるポリアリーレンスルフィド;および
熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび充填材からなる群より選択された1種以上を含むポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を押出する段階を含む成形品の製造方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、前記ポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を含む成形品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むことによって、他の高分子素材または強化材/充填材などと優れた相溶性を示しながらも、優れた加工性を示す溶融重合型ポリアリーレンスルフィドと、他の高分子素材または充填材などを含む樹脂組成物を提供することができる。
【0015】
このような樹脂組成物は、各用途に最適化した優れた物性を示すことができると同時に、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた物性を示すことができる。これは樹脂組成物の各成分の相溶性が向上して各成分の物性が相乗効果を示すことができるためであるとみられる。
【0016】
したがって、このような樹脂組成物は、より多様な用途に適用されて優れた物性および効果を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の具体的な実施形態によるポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物およびこれを含む成形品とその製造方法について説明する。ただし、これは発明の一つの例示として提示されるものであり、これによって発明の権利範囲が限定されるのではなく、発明の権利範囲内で実施形態に対する多様な変形が可能であることは当業者に自明である。
【0018】
本明細書全体において、特別な言及がない限り「含む」または「含有する」とは、ある構成要素(または構成成分)を特別な制限なしに含むことを称し、他の構成要素(または構成成分)の付加を除くものと解釈されない。
【0019】
発明の一実施形態によれば、主鎖の繰り返し単位中にジスルフィド繰り返し単位を含み、主鎖の末端基(End Group)中の少なくとも一部がヒドロキシ基(-OH)であるポリアリーレンスルフィド;および
熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび充填材からなる群より選択された1種以上を含むポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物が提供される。
【0020】
このようなポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物において、前記ジスルフィド繰り返し単位とは、下記一般式1で表されるポリアリーレンスルフィドの一般的な繰り返し単位で、硫黄結合の代わりにジスルフィド結合(-S-S-結合)を含む一般式2のポリアリーレンジスルフィド繰り返し単位を称すことができる。
【0021】
【化1】
【0022】
前記一般式1および2で、Arは、置換または非置換のアリーレン基を示す。
【0023】
このように、前記一実施形態の樹脂組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドがジスルフィド繰り返し単位を含むことによって、前記ポリアリーレンスルフィド中に分子量が過度に低いオリゴマー形態の高分子鎖が相当含有量含まれることを抑制することができる。これは前記ジスルフィド繰り返し単位中のジスルフィド結合がポリアリーレンスルフィドに含まれている高分子鎖間の硫黄交換反応を継続して起こしながらポリアリーレンスルフィドに含まれている高分子鎖の分子量を概して均一化することができるためであるとみられる。その結果、一実施形態の樹脂組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドは、分子量が過度に低いオリゴマー形態の高分子鎖を最小限の含有量で含むことができ、高分子鎖全体の分子量分布が均一化されて分子量分布曲線が比較的に狭く、正規分布曲線に近い対称形で導き出され得る。したがって、このようなポリアリーレンスルフィドを含む一実施形態の樹脂組成物は、これを用いて高い精密度が要求される製品を成形しようとする場合にもバリ(flash)の発生量を大幅減らすことができ、より向上した加工性を示すことができる。
【0024】
また、このようなジスルフィド繰り返し単位は、ポリアリーレンスルフィド全体に対して約3重量%以下、あるいは約0.01乃至3.0重量%、あるいは約0.1乃至2.0重量%で含まれてもよい。これによって、前記ジスルフィド繰り返し単位に起因した加工性向上効果が最適化することができ、このようなジスルフィド繰り返し単位が過度に多くなって前記ポリアリーレンスルフィドの物性がむしろ低下することを抑制することができる。
【0025】
一方、一実施形態の樹脂組成物において、前記ポリアリーレンスルフィドは、主鎖の末端基(End Group)中の少なくとも一部にヒドロキシ基(-OH)が結合されたものになってもよい。
【0026】
本発明者らは、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融重合してポリアリーレンスルフィドを製造する過程で、特定の末端基の導入で他の高分子素材や充填材などとのより優れた相溶性を示して多様な素材とのコンパウンディングおよびこれを通じた各用途に合う最適化した物性の実現を可能にするポリアリーレンスルフィドを得られることを発見した。
【0027】
つまり、従来の溶融重合方式で製造されたポリアリーレンスルフィドの場合、その主鎖末端がヨードと大部分のアリール基(代表的に、ベンゼン)からなっているため、主鎖末端に反応性基が実質的に存在せず、その結果、前記ポリアリーレンスルフィドが他の高分子素材またはガラス繊維など各種強化材や充填材との相溶性が落ちるという短所を有していた。
【0028】
しかし、主鎖末端の少なくとも一部にヒドロキシ基(-OH)のような反応性基が導入されたポリアリーレンスルフィドの場合、前記反応性基の存在により他の高分子素材や、充填材などとの優れた相溶性を示すことが確認された。例えば、前記ポリアリーレンスルフィドは、親水性基を高分子鎖に有しているナイロン(Nylon)樹脂、ポリエチレングリコール(PEG;Polyethyleneglycol)樹脂、ポリエチレンオキサイド(Polyethyleneoxide)樹脂、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)樹脂、ポリビニルアルコール(Polyvinylalcohol)樹脂、またはヒドロキシ基と反応性を有するエチレングリシジルメタクリレート(Ethyleneglycidylmethacrylate)エラストマーなどの高分子素材や;ガラス繊維またはタルクなど親水性基を有する無機物などと優れた相溶性を示すことができる。これは高分子素材や無機物が有している親水性基や極性基と、ポリアリーレンスルフィド末端のヒドロキシ基とが強い極性結合乃至水素結合をなすためであると予測される。例えば、ガラス繊維のシラノール(silanol)基にあるヒドロキシ基とポリアリーレンスルフィドの主鎖末端に結合されたヒドロキシ基とが強い水素結合をなしたり、グリシジル基などエポキシ系官能基を有する高分子素材(例えば、エチレングリシジルメタクリレートエラストマーなど)のエポキシ環が開かれながらポリアリーレンスルフィドの主鎖末端に結合されたヒドロキシ基と結合して強い結合力を示すことができる。
【0029】
その結果、前記ヒドロキシ基を主鎖末端に有するポリアリーレンスルフィドと共に、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーの他の高分子素材や、充填材を含む一実施形態の樹脂組成物の場合、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた耐熱性、耐化学性および優れた機械的物性などを示しながらも、他の素材との混合(例えば、コンパウンディング)による物性の上昇が最適化されて多様な用途に適した優れた物性を示す成形品の提供を可能にする。したがって、一実施形態の樹脂組成物によりポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物をより多様な用途に適用可能になる。
【0030】
結局、一実施形態の樹脂組成物は、高い精密度が要求される製品の成形時にバリをほとんど発生させずに優れた加工性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィドおよび他の素材間の優れた相溶性を示してコンパウンディングによるより優れた相乗効果を示すことができ、多様な用途に適した物性を有する成形品の提供を可能にする。
【0031】
一方、前記一実施形態の組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドは、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融重合して得られることによって、その主鎖に結合されたヨードおよび遊離ヨードを含み、このような主鎖結合ヨードおよび遊離ヨード含有量が約10乃至10000ppmw、あるいは約10乃至3000ppmw、あるいは約50乃至2000ppmwになってもよい。このような主鎖結合ヨードおよび遊離ヨード含有量は、以下の実施例のように、ポリアリーレンスルフィド試料を高温で熱処理した後、イオンクロマトグラフィーを利用して定量する方法で測定することができる。このとき、前記遊離ヨードとは、前記ジヨード芳香族化合物と、硫黄元素の重合過程で発生して、最終形成されたポリアリーレンスルフィドと化学的に分離された状態で共に残留するヨード分子、ヨードイオンまたはヨードラジカルなどを総称することができる。
【0032】
これによって、このようなポリアリーレンスルフィドは、従来のマッカラム工程で製造されたポリアリーレンスルフィドの問題点を解決し、溶融重合で得られたポリアリーレンスルフィドの長所、例えば、副産物が発生せず、後加工が容易であり、機械的特性が優秀になるなどの長所をそのまま維持することができる。また、前記ポリアリーレンスルフィドは、その特有の優れた耐熱性、耐化学性および優れた機械的物性を示すことができる。
【0033】
そして、前記一実施形態の組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドは、FT-IR分光法で分析したとき、FT-IRスペクトルで前記主鎖末端のヒドロキシ基に由来する約3300乃至3600cm-1のピークを示すことができる。このとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの強度は、主鎖末端基に結合されたヒドロキシ基の含有量に対応することができる。
【0034】
一例によれば、前記ポリアリーレンスルフィドは、FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ringstretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度が約0.0001乃至10%、あるいは約0.005乃至7%、あるいは約0.001乃至4%、あるいは約0.01乃至3%になってもよい。このとき、前記1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークは、ポリアリーレンスルフィドの主鎖中に含まれているフェニレンなどのアリーレン基に由来するものになってもよい。前記ヒドロキシ基に由来する3300乃至3600cm-1のピークがアリーレン基(例えば、フェニレン基)に由来するピークの高さ強度に対して約0.0001乃至10%、あるいは約0.005乃至7%、あるいは約0.001乃至4%、あるいは約0.01乃至3%の高さ強度を示すことによって、前記ポリアリーレンスルフィドは、他の高分子素材または充填材、例えば、親水性基の特性を有する高分子素材または充填材などとのより優れた相溶性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた物性を維持することができる。
【0035】
したがって、これを含む一実施形態の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィドおよび他の高分子素材や充填材のコンパウンディングによるより優れた相乗効果を示すことができる。
【0036】
一方、一実施形態の樹脂組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドは、融点が約265乃至290℃、あるいは約270乃至285℃、あるいは約275乃至283℃になってもよい。このような融点範囲を有することによって、ヒドロキシ基が導入され、溶融重合方式で得られた前記ポリアリーレンスルフィドとこれを含む一実施形態の樹脂組成物は、優れた耐熱性および難燃性を示すことができる。
【0037】
また、前記ポリアリーレンスルフィドは、数平均分子量が約5,000乃至50,000、あるいは約8,000乃至40,000、あるいは約10,000乃至30,000になってもよい。そして、前記ポリアリーレンスルフィドは、数平均分子量に対する重量平均分子量と定義される分散度が約2.0乃至4.5、あるいは約2.0乃至4.0、あるいは約2.0乃至3.5になってもよい。前記ポリアリーレンスルフィドが前述の範囲の分散度および分子量を有することによって、これを含む一実施形態の樹脂組成物が優れた機械的物性および加工性などを示すことができ、より多様な用途で使用可能な多様な成形品として加工可能である。
【0038】
そして、前述したポリアリーレンスルフィドは、回転円板粘度計で300℃で測定した溶融粘度が約10乃至50,000poise、あるいは約100乃至20,000poise、あるいは約300乃至10,000poiseになってもよい。このような溶融粘度を示すポリアリーレンスルフィドおよびこれを含む一実施形態の樹脂組成物は、優れた加工性と共に、優れた機械的物性などを示すことができる。
【0039】
例えば、一実施形態の樹脂組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドは、ASTM D 638により測定した引張強度値が約100乃至900kgf/cm、あるいは約200乃至800kgf/cm、あるいは約300乃至700kgf/cmであってもよく、ASTM D 638により測定した伸び率が約1乃至10%、あるいは約1乃至8%、あるいは約1乃至6%になってもよい。また、前記ポリアリーレンスルフィドは、ASTM D 790により測定した屈曲強度値が約100乃至2000kgf/cm、あるいは約500乃至2000kgf/cm、あるいは約1000乃至2000kgf/cmになってもよく、ASTM D 256により測定した衝撃強度が約1乃至100J/m、あるいは約5乃至50J/m、あるいは約10乃至20J/mになってもよい。このように、一実施形態の樹脂組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドは、優れた機械的物性など諸般物性を示すことができ、これと共に、前述した他の高分子素材または充填材との優れた相溶性を示すことができるため、一実施形態の樹脂組成物は、各成分の混合によるより高い相乗効果および多様な用途に適した優れた物性を示すことができる。
【0040】
一方、一実施形態の樹脂組成物は、主鎖末端にヒドロキシ基が導入された前述したポリアリーレンスルフィドと共に、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーの他の高分子素材や、充填材などを含むことができる。このとき、一実施形態の樹脂組成物に含まれ得る高分子素材の例としては、ポリビニルアルコール樹脂などのポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレングリコール樹脂またはポリエチレンオキサイド樹脂のようなポリエーテル系樹脂、ポリエチレンイミン樹脂のようなポリアルキレンイミン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロン樹脂などのポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂またはポリエステル系樹脂などの多様な熱可塑性樹脂;あるいはポリ塩化ビニル系エラストマー、エチレングリシジルメタクリレートエラストマーなどのポリ(メタ)アクリレート系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーまたはポリブタジエン系エラストマーなどの多様な熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0041】
特に、一実施形態の樹脂組成物が末端にヒドロキシ基が導入されたポリアリーレンスルフィドを含むことによって、このようなポリアリーレンスルフィドは、親水性基を高分子鎖中に有するナイロン樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂またはヒドロキシ基と反応性を有するエチレングリシジルメタクリレートエラストマーなどの高分子素材や;ガラス繊維またはタルクなど親水性基を有する無機物などと優れた相溶性を示すことができる。前述のように、これは高分子素材や無機物が有している親水性基や極性基と、ポリアリーレンスルフィド末端のヒドロキシ基とが強い極性結合乃至水素結合をなすためであるとみられる。したがって、これら熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーが一実施形態の樹脂組成物に適切に含まれることができ、このような樹脂組成物内で前記ポリアリーレンスルフィドがこれら高分子素材などとコンパウンディングされて優れた相乗効果を示すことができ、多様な用途に合う最適化した物性の実現が可能になる。
【0042】
また、前記樹脂組成物に含まれ得る充填材は、繊維、ビード、フレーク、または粉末形態の有機または無機充填材になってもよく、その具体的な例としては、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、ガラスフレーク、タルクまたは炭酸カルシウムなどの多様な強化材/充填材が挙げられる。
【0043】
特に、一実施形態の樹脂組成物が主鎖末端にヒドロキシ基が導入されたポリアリーレンスルフィドを含むことによって、前記樹脂組成物は、このようなポリアリーレンスルフィドとより優れた相溶性を示す充填材、例えば、ヒドロキシ基と水素結合をなすことができるシラノール基を有するガラス繊維などの充填材などを適切に含むことができる。また、前記ガラス繊維または炭素繊維などの充填材は、その表面がシランカップリング剤などで処理されたり処理されていない形態で用いられてもよい。ただし、シランカップリング剤で表面処理時、前記充填材とポリアリーレンスルフィドの凝集力または相溶性がより向上することができる。
【0044】
一実施形態の樹脂組成物に含まれているポリアリーレンスルフィドがこのような多様な高分子素材や充填材などと優れた相溶性を示すことによって、一実施形態の樹脂組成物は、前述した多様な他の高分子素材や充填材などと混合(例えば、コンパウンディング)されて優れた相乗効果を示すことができ、多様な用途に合う最適化した物性を示すことができるようになる。ただし、前記で羅列された高分子素材または充填材以外にも、他の多様な高分子素材または強化材/充填材などが一実施形態の樹脂組成物に前述したポリアリーレンスルフィドと共に含まれて、より優れた物性を示すことができるのはもちろんである。より具体的に、樹脂組成物の機械的物性、耐熱性、耐喉性または成形性などをより向上させるための多様な高分子素材または充填材などが特別な制限なしに一実施形態の樹脂組成物に含まれてもよい。
【0045】
また、一実施形態の樹脂組成物は、前記ポリアリーレンスルフィドの約5乃至95重量%、あるいは約50乃至90重量%と、前記熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび充填材からなる群より選択された1種以上の5乃至95重量%、あるいは約10乃至50重量%とを含むことができる。各成分をこのような含有量範囲で含むことによって、一実施形態の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた物性を維持しながらも、他の成分との混合による相乗効果を最適化して多様な用途に好適に適用可能な優れた物性を示すことができるようになる。
【0046】
一方、一実施形態の樹脂組成物は、その機械的物性、耐熱性、耐喉性または成形性などを追加的に向上させるために追加的な添加剤および/または安定剤などをさらに含むこともできる。このような添加剤などの種類は特別に限定されないが、例えば、酸化安定剤、光安定剤(UV安定剤など)、可塑剤、滑剤、核剤または衝撃補強剤などが挙げられ、これらの中から選択された2種以上をさらに含むこともできる。
【0047】
これら添加剤のうち、酸化安定剤としては1次または2次酸化防止剤を用いることができ、より具体的な例としては、ヒンダードフェノール系、アミン系、硫黄系、またはリン系酸化防止剤が挙げられる。また、前記光安定剤は、一実施形態の樹脂組成物が外装材に適用される場合に含まれてもよいが、特にUV安定剤が代表的に用いられ、例えば、ベンゾトリアゾールまたはベンゾフェノールなどが挙げられる。
【0048】
そして、滑剤は、一実施形態の樹脂組成物を成形、加工するに当たり、成形性の向上のために用いられる成分であって、炭化水素系滑剤を代表的に用いることができる。このような滑剤の使用により、樹脂組成物と金型金属との摩擦防止や、金型での脱着など離型性の付与が可能になる。
【0049】
また、樹脂組成物の成形過程で結晶化速度の改善のために多様な核剤を用いることができ、これによって押射出時に製品の固化速度向上、製品製造時間(Cycle time)短縮などが可能になる。
【0050】
一方、前述した一実施形態の樹脂組成物は、主な樹脂成分として主鎖末端にヒドロキシ基(-OH)が導入された溶融重合型ポリアリーレンスルフィドを含むことができるが、このようなポリアリーレンスルフィドは、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階;および前記重合反応段階を進行しながら、ヒドロキシ基を有する芳香族化合物を追加的に添加する段階を含む方法で製造され得る。また、前記ポリアリーレンスルフィドに含まれているジスルフィド繰り返し単位の含有量を適切な範囲に調節するために、例えば、前記重合反応段階を進行しながら、前記反応物に含まれている硫黄元素100重量部に対して、0.01乃至30重量部の硫黄元素を追加的に加える段階をさらに含むこともできる。
【0051】
以下、このようなポリアリーレンスルフィドの製造方法について説明する。
【0052】
前記ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、前記ヒドロキシ基を有する芳香族化合物は、目標粘度に対する現在粘度の比率で重合反応の進行程度を測定したとき、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素間の重合反応が約90%以上、あるいは約90%以上100%未満に進行された時(例えば、重合反応後期に)添加されてもよい。前記重合反応の進行程度は、得ようとするポリアリーレンスルフィドの分子量およびこれによる重合産物の目標粘度を設定し、重合反応の進行程度による現在粘度を測定して前記目標粘度に対する現在粘度の比率で測定することができる。このとき、現在粘度を測定する方法は、反応器のスケールに応じて当業者に自明な方法で決定することができる。例えば、相対的に小型の重合反応器で重合を進行する場合、反応器で重合反応が進行中であるサンプルを取って粘度計で測定することができる。これとは異なり、大型の連続重合反応器で重合を進行する場合、反応器自体に設置された粘度計で連続的、リアルタイムに現在粘度が自動測定され得る。
【0053】
このように、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる過程で、重合反応後期にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を添加して反応させることによって、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)中の少なくとも一部にヒドロキシ基が導入された溶融重合型ポリアリーレンスルフィドを製造することができる。特に、前記重合反応後期にヒドロキシ基を有する化合物を追加的に添加して、主鎖末端基に適切な含有量のヒドロキシ基が導入されて前述した他の高分子素材または充填材などとの優れた相溶性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた物性を有する前述したポリアリーレンスルフィドが効果的に製造され得る。
【0054】
また、前記ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、前記ヒドロキシ基を有する芳香族化合物としては、ヒドロキシ基を有する任意のモノマー(単分子)形態の化合物を用いることができる。このようなヒドロキシ基を有する化合物のより具体的な例としては、2-ヨードフェノール(2-Iodophenol)、3-ヨードフェノール(3-Iodophenol)、4-ヨードフェノール(4-Iodophenol)、2,2’-ジチオジフェノール(2,2’-Dithiodiphenol)、3,3’-ジチオジフェノール(3,3’-Dithiodiphenol)または4,4’-ジチオジフェノール(4,4’-Dithiodiphenol)などが挙げられ、その他にも多様なヒドロキシ基を有する芳香族化合物を用いることができる。
【0055】
また、前記ヒドロキシ基を有する芳香族化合物は、ジヨード芳香族化合物の約100重量部に対して約0.0001乃至10重量部、あるいは約0.001乃至7重量部、あるいは約0.01乃至2重量部で添加されてもよい。このような含有量でヒドロキシ基を有する芳香族化合物を添加して、主鎖末端基に適切な含有量のヒドロキシ基を導入することができ、その結果、他の高分子素材または充填材などとの優れた相溶性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた物性を有する溶融重合型ポリアリーレンスルフィドが効果的に製造され得る。
【0056】
また、前述したポリアリーレンスルフィドは、基本的にジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる方法で製造され、これによって従来のマッカラム工程で製造されたものに比べてより優れた機械的物性などを示すことができる。このようなポリアリーレンスルフィドは、前述のように主鎖に結合されたヨードおよび残留遊離ヨードを含み、前記主鎖に結合されたヨードおよび遊離ヨード含有量が約10乃至10000ppmwになってもよい。このような主鎖結合ヨードおよび遊離ヨード含有量は、ポリアリーレンスルフィド試料を高温で熱処理した後、イオンクロマトグラフィーを利用して定量する方法で測定することができる。
【0057】
前記ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、前記重合反応に使用可能なジヨード芳香族化合物としては、ジヨード化ベンゼン(diiodobenzene;DIB)、ジヨード化ナフタレン(diiodonaphthalene)、ジヨード化ビフェニル(diiodobiphenyl)、ジヨード化ビスフェノール(diiodobisphenol)、およびジヨード化ベンゾフェノン(diiodobenzophenone)からなる群より選択される1種以上が挙げられるが、これに限定されず、このような化合物にアルキル基(alkyl group)やスルホン基(sulfone group)などが置換基で結合されていたり、芳香族基に酸素や窒素などの原子が含有されている形態のジヨード芳香族化合物も用いることができる。また、前記ジヨード芳香族化合物には、ヨード原子が付いた位置に応じて多様なジヨード化合物の異性体(isomer)があるが、この中でもパラ-ジヨードベンゼン(pDIB)、2,6-ジヨードナフタレン、またはp,p’-ジヨードビフェニルのようにパラ位置にヨードが結合された化合物がより適宜に使用可能である。
【0058】
そして、前記ジヨード芳香族化合物と反応する硫黄元素の形態には特別な制限がない。通常、硫黄元素は、常温で原子8個が連結された環形態(cyclooctasulfur;S8)で存在するが、このような形態ではなくても商業的に使用可能な固体または液体状態の硫黄であれば特別な限定なしにすべて用いることができる。
【0059】
また、前述のように、前述したポリアリーレンスルフィドに含まれているジスルフィド繰り返し単位の含有量を、例えば、約3重量%以下の適切な範囲に調節するために、前記硫黄元素は重合反応段階中に追加的に加えられることもできる。このように追加的に加えられる硫黄元素の量は、適切なジスルフィド繰り返し単位の含有量を考慮して当業者が適切に決定することができるが、例えば、前記最初反応物に含まれている硫黄元素100重量部に対して、約0.01乃至30重量部の量で加えられてもよい。このように追加的に加えられる硫黄元素は、例えば、重合反応が約50乃至99%程度進行された時に加えられてもよく、前述したヒドロキシ基を有する芳香族化合物と別途に加えられたり、これと共に加えられてもよい。
【0060】
一方、前記ポリアリーレンスルフィドの製造のための反応物には、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素以外にも重合開始剤、安定剤、またはこれらの混合物を追加的に含めることができるが、具体的に使用可能な重合開始剤としては、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾール、シクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、およびブチルベンゾチアゾールスルフェンアミドからなる群より選択される1種以上を用いることができるが、前述した例に限定されない。
【0061】
そして、前記安定剤としては、通常、樹脂の重合反応に用いられる安定剤であればその構成の限定はない。
【0062】
一方、前記のような重合反応途中、重合がある程度なされた時点に重合停止剤を添加することができる。このとき、使用可能な重合停止剤は、重合される高分子に含まれるヨードグループを除去して重合を停止させることができる化合物であれば、その構成の限定はない。具体的には、ジフェニルジスルフィド(diphenyldisuldife)、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)、ジフェニル(diphenyl)、ベンゾフェノン(benzophenone)、ジベンゾチアゾールジスルフィド(dibenzothiazole disulfide)、モノヨードアリール化合物(monoiodoaryl compound)、ベンゾチアゾール(benzothiazole)類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド(benzothiazolesulfenamide)類、チウラム(thiuram)類、ジチオカルバメート(dithiocarbamate)類およびジフェニルジスルフィドからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0063】
より好ましくは、前記重合停止剤は、ヨードビフェニル(iodobiphenyl)、ヨードフェノール(iodophenol)、ヨードアニリン(iodoaniline)、ヨードベンゾフェノン(iodobenzophenone)、2-メルカプトベンゾチアゾール(2-mercaptobenzothiazole)、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾール(2,2’-dithiobisbenzothiazole)、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(N-cyclohexylbenzothiazole-2-sulfenamide)、2-モルホリノチオベンゾチアゾール(2-morpholinothiobenzothiazole)、N,N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(N,N-dicyclohexylbenzothiazole-2-sulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuram disulfide)、亜鉛ジメチルジチオカルバメート(Zinc dimethyldithiocarbamate)、亜鉛ジエチルジチオカルバメート(Zinc diethyldithiocarbamate)およびジフェニルジスルフィド(diphenyldisulfide)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0064】
一方、重合停止剤の投与時点は、最終重合させようとするポリアリーレンスルフィドの分子量を考慮してその時期を決定することができる。例えば、初期反応物内に含まれているジヨード芳香族化合物が約70乃至100重量%が反応して消耗された時点で投与することができる。
【0065】
そして、前記のような重合反応は、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物の重合が開始可能な条件であればいかなる条件でも進行可能である。例えば、前記重合反応は、昇温減圧反応条件で進行され得るが、この場合、温度約180乃至250℃および圧力約50乃至450torrの初期反応条件で温度上昇および圧力降下を行って最終反応条件である温度約270乃至350℃および圧力約0.001乃至20torrに変化させ、約1乃至30時間進行することができる。より具体的な例としては、最終反応条件を温度約280乃至300℃および圧力約0.1乃至0.5torrにして重合反応を進行することができる。
【0066】
一方、前述したポリアリーレンスルフィドの製造方法は、前記重合反応前に、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融混合する段階を追加的に含むことができる。このような溶融混合は、前述した反応物がすべて溶融混合可能な条件であればその構成の限定はないが、例えば、約130℃乃至200℃、あるいは約160℃乃至190℃の温度で進行することができる。
【0067】
このように重合反応前に溶融混合段階を進行して、その後に行われる重合反応をより容易に進行することができる。
【0068】
そして、前述したポリアリーレンスルフィドの製造方法において、重合反応は、ニトロベンゼン系触媒の存在下で進行されてもよい。また、前述のように重合反応前に溶融混合段階を経る場合、前記触媒は溶融混合段階で追加されてもよい。ニトロベンゼン系触媒の種類としては、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、または1-ヨード-4-ニトロベンゼンなどが挙げられるが、前述した例に限定されるのではない。
【0069】
前述した製造方法において、主鎖末端にヒドロキシ基などが導入された溶融重合型ポリアリーレンスルフィドが得られ、このようなポリアリーレンスルフィドは、他の高分子素材または充填剤などとの優れた相溶性を示すため、これを利用して一実施形態の樹脂組成物を得ることができる。
【0070】
一方、発明の他の実施形態によれば、前述した一実施形態のポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物を含む成形品およびその製造方法が提供される。前記成形品は、前記一実施形態の樹脂組成物を押出する段階を含む方法で製造され得る。
【0071】
以下、このような成形品および製造方法についてより具体的に説明する。ただし、前記成形品に含まれ得る成分の種類および含有量についてはすでに一実施形態の樹脂組成物について説明したため、これに対する追加的な具体的な説明は省略する。
【0072】
他の実施形態の成形品は、ヒドロキシ基などが導入された溶融重合型ポリアリーレンスルフィド、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび充填材からなる群より選択された1種以上、そして選択的に他の添加剤などを含むようになるが、これら各成分を混合して一実施形態の樹脂組成物を得た後、これを押出して製造され得る。
【0073】
このような成形品は、前記ポリアリーレンスルフィドの約5乃至95重量%、あるいは約50乃至90重量%と、前記熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよび充填材からなる群より選択された1種以上の約5乃至95重量%、あるいは約10乃至50重量%を含むことができ、前記2種類の成分の含有量を合わせた100重量部に対して約2重量部以下、例えば、約0.1乃至2重量部の他の添加剤などを含むことができる。例えば、酸化安定剤または滑剤などの添加剤は、約0.1乃至1重量部の含有量で含まれてもよく、硬化剤などの添加剤は、約0.1乃至2重量部の含有量で含まれてもよい。前記成形品がこのような含有量範囲を充足することによって、多様な用途に好適に適用可能な優れた物性を示すことができる。
【0074】
また、これら各成分を含む樹脂組成物を混合および押出して成形品を製造するに当たり、例えば、二軸押出機(Twin Screw Extruder)を用いることができ、このような二軸押出機の直径比(L/D)は約30から50前後になってもよい。
【0075】
一例によれば、まず、少量添加されるその他添加剤などをスーパーミキサーなどの混合機でポリアリーレンスルフィドと事前に混合することができ、事前混合された1次組成物を二軸押出機の主投入口を通じて投入することができる。また、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーの他の高分子素材や、充填材などは、押出機の側面に位置した投入口(side feeder)を通じて別途に投入することができる。このとき、側面投入する位置は、押出機バレル全体の排出口側からほぼ1/3乃至1/2地点になってもよい。このようにすると、前記充填材などが押出機内で押出機スクリューによる回転および摩擦により壊れることを防止することができる。
【0076】
このような方式で一実施形態の樹脂組成物の各成分を混合した後、二軸押出機で押出することによって、他の実施形態の成形品を得ることができる。
【0077】
このような他の実施形態の成形品は、フィルム、シート、または繊維などの多様な形態になることができる。また、前記成形品は、射出成形品、押出成形品、またはブロー成形品であってもよい。射出成形する場合の金型温度は、結晶化の観点で、約50℃以上、約60℃以上、あるいは約80℃以上になってもよく、試験片の変形の観点で、約190℃以下、あるいは約170℃以下、あるいは約160℃以下になってもよい。
【0078】
そして、前記成形品がフィルムまたはシート形態になる場合、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルムまたはシートで製造することができる。繊維としては、未延伸糸、延伸糸、または超延伸糸など各種繊維にし、織物、編物、不織布(スポンボンド、メルトブロー、ステープル)、ロープ、またはネットにして利用することができる。
【0079】
このような成形品は、コンピュータ付属品などの電気・電子部品、建築部材、自動車部品、機械部品、日用品または化学物質が接触する部分のコーティング、産業用耐化学性繊維などとして利用することができる。
【0080】
本発明において前記記載された内容以外の事項は、必要に応じて加減が可能であるため、本発明では特に限定しない。
【実施例
【0081】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるのではない。
【0082】
<実施例1:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450g含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを50g添加して1時間反応を進行した。次に、前記重合反応が90%進行された時、4-ヨードフェノール(4-Iodophenol)51gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0083】
このような実施例1のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.4%であることが確認された。
【0084】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約1500ppmwに確認された。
【0085】
<実施例2:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを50g添加して1時間反応を進行した。次に、重合反応が90%進行された時、4-ヨードフェノール(4-Iodophenol)25gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0086】
このような実施例2のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.24%であることが確認された。
【0087】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約2000ppmwに確認された。
【0088】
<実施例3:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを50g添加して1時間反応を進行した。次に、重合反応が90%進行された時、4,4’-ジチオジフェノール(4,4’-Dithiodiphenol)51gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0089】
このような実施例3のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.62%であることが確認された。
【0090】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約500ppmwに確認された。
【0091】
<実施例4:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを50g添加して1時間反応を進行した。次に、重合反応が90%進行された時、4,4’-ジチオジフェノール(4,4’-Dithiodiphenol)25gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0092】
このような実施例4のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.33%であることが確認された。
【0093】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約1200ppmwに確認された。
【0094】
<実施例5:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤としてジフェニルジスルフィドを30g添加して1時間反応を進行した。次に、重合反応が90%進行された時、4-ヨードフェノール(4-Iodophenol)25gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0095】
このような実施例5のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.27%であることが確認された。
【0096】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約1800ppmwに確認された。
【0097】
<実施例6:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤としてジフェニルジスルフィドを30g添加して1時間反応を進行した。次に、重合反応が90%進行された時、4,4’-ジチオジフェノール(4,4’-Dithiodiphenol)51gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0098】
このような実施例6のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.58%であることが確認された。
【0099】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約600ppmwに確認された。
【0100】
<実施例7:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤としてジフェニルジスルフィドを35g添加して1時間反応を進行した。次に、重合反応が90%進行された時、4-ヨードフェノール(4-Iodophenol)25gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0101】
このような実施例7のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.29%であることが確認された。
【0102】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約800ppmwに確認された。
【0103】
<実施例8:ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤としてジフェニルジスルフィドを35g添加して1時間反応を進行した。次に、重合反応が90%進行された時、4,4’-ジチオジフェノール(4,4’-Dithiodiphenol)13gを添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0104】
このような実施例8のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400乃至1600cm-1で示される環伸縮(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%にしたとき、前記約3300乃至3600cm-1のピークの相対的高さ強度は約0.26%であることが確認された。
【0105】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約700ppmwに確認された。
【0106】
<比較例1>
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器にパラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件で始まり、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行い、硫黄を少量ずつ追加投入しながら重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行された時(このような重合反応の進行程度は「(現在粘度/目標粘度)×100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対比率で測定し、現在粘度は重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを50g添加して10分間窒素雰囲気下で反応を進行した後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後に反応を終了して、ヒドロキシ基を主鎖末端に含まないポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を小型ストランドカッター機を用いてペレット形態に製造した。
【0107】
このような比較例1のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析してスペクトル上で、約3300乃至3600cm-1のヒドロキシ基ピークがないことを確認した。
【0108】
また、以下に記述する方法でポリアリーレンスルフィド主鎖に結合されたヨードと遊離ヨード含有量を測定し、その含有量は約2500ppmwに確認された。
【0109】
<比較例2>
マッカラム工程で製造されたポリアリーレンスルフィドと、エラストマーがコンパウンディングされたDIC社のZ200製品を入手して比較例2とした。
【0110】
<試験例1:ポリアリーレンスルフィドの基本物性評価>
実施例1乃至8および比較例1のポリアリーレンスルフィドの諸般物性を次の方法で評価した。
【0111】
[融点(Tm)]
示差走査熱量分析器(Differential Scanning Calorimeter;DSC)を利用して30℃から320℃まで10℃/minの速度で昇温後、30℃まで冷却後、再び30℃から320℃まで10℃/minの速度で昇温しながら融点を測定した。
【0112】
[数平均分子量(Mn)および分子量分布(PDI)]
1-クロロナフタレン(1-chloronaphthalene)に0.4wt%の濃度に250℃で25分間攪拌溶解したサンプルを高温GPC(Gel permeation chromatography)システム(210℃)で1-クロロナフタレン(1-chloronaphthalene)を1mL/minの流速で流しながら分子量が異なるポリアリーレンスルフィドを順次にコラム内で分離しながら、RI検出器(RI detector)を利用して分離されたポリアリーレンスルフィドの分子量別強度(Intensity)を測定し、予め分子量を知っている標準試料(Polystyrene)で検量線を作成して、測定サンプルの相対的な数平均分子量(Mn)および分子量分布(PDI)を計算した。
【0113】
[溶融粘度(Poise)]
溶融粘度(melt viscosity、以下、「MV」)は、回転円板粘度計(rotating disk viscometer)で300℃で測定した。周波数掃引(Frequency sweep)方法で測定するに当たり、角周波数(angular frequency)を0.6から500rad/sまで測定し、1.84rad/sでの粘度を溶融粘度(M.V.)と定義した。
【0114】
[主鎖結合ヨードおよび遊離ヨード含有量(ppmw)]
主鎖結合ヨードおよび遊離ヨード含有量(ppmw)は、試料を高温で炉(furnace)を利用して焼いた後、ヨードをイオン化して蒸溜水に溶解する自動前処理装置(AQF)を通じて準備されたサンプルをイオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography)を通じて予め分析された検量線を利用して試料中のヨードの含有量を測定した。
【0115】
前記のような方法で測定された物性を下記表1にまとめた。
【0116】
【表1】
【0117】
<試験例2:ポリアリーレンスルフィドの機械的物性評価>
実施例1乃至8および比較例1のポリアリーレンスルフィドの機械的物性を次の方法で評価した。このような各物性の測定時、試片は次のような条件下で得た。
【0118】
[試片製造条件]
ポリアリーレンスルフィド3kgを射出機(ENGEL ES75P、型締め力80トン、直径25mm)を利用してASTM D 638により試片を製造した。このとき、バレル温度は投入口から順次に270℃/300℃/300℃になるようにし、ノズル温度は300℃、金型温度は150℃になるようにした。
【0119】
[引張強度および伸び率]
ASTM D 638法により、実施例1乃至8および比較例1により製造されたポリアリーレンスルフィド試片の引張強度および伸び率を測定した。
【0120】
[屈曲強度および屈曲強度維持率]
ASTM D 790法により、実施例1乃至8および比較例1により製造されたポリアリーレンスルフィド試片の屈曲強度を測定した。そして、試片を280℃オーブンで100時間エイジング(aging)した後、屈曲強度を再び測定し、屈曲強度維持率(%)=[(エイジング後の屈曲強度)/(エイジング前の屈曲強度)]×100の式により屈曲強度維持率を算出した。
【0121】
[衝撃強度(Izod)]
ASTM D 256法により、実施例1乃至8および比較例1により製造されたポリアリーレンスルフィド試片の衝撃強度を測定した。
【0122】
前記のような方法で測定された機械的物性を下記表2にまとめた。
【0123】
【表2】
【0124】
次の方法で、実施例1乃至8および比較例1のポリアリーレンスルフィドを他の成分とコンパウンディングした試片を製造した。
【0125】
[ポリアリーレンスルフィドとガラス繊維のコンパウンディング]
重合した樹脂をそれぞれ乾燥し、小型二軸押出機を利用して、押出ダイ(Die)温度330℃、スクリュー(Screw)200rpm条件下で前記樹脂60重量部にガラス繊維(OWENS社の910)40重量部添加しながらコンパウンディングを施した。
【0126】
[ポリアリーレンスルフィドとエラストマーのコンパウンディング]
押出ダイ(Die)温度300℃、スクリュー(Screw)200rpm条件下で前記樹脂90重量部にエラストマーであるAX8840(Arkema社製)を10重量部添加して混合押出を施した。
【0127】
前記のように製造されたコンパウンディングした試片と、比較例2のコンパウンディング試片の機械的物性をポリアリーレンスルフィド試片に対する方法と同様な方法で評価して下記表3にまとめた。
【0128】
【表3】
【0129】
前記表2および3によれば、主鎖末端にヒドロキシ基が導入された実施例1のポリアリーレンスルフィドをガラス繊維とコンパウンディングすることによって、衝撃強度が約18J/mから約92J/mに大幅向上することが確認された。また、主鎖の末端基にヒドロキシ基が導入された実施例1のポリアリーレンスルフィドをエラストマーとコンパウンディングすることによって、引張伸び率が約1.5%から約18.0%に、衝撃強度が18J/mから約55J/mに大幅向上することが確認された。このようなコンパウンディングによる物性向上は他の実施例でも同等に確認された。
【0130】
このようなコンパウンディングによる物性の向上から、実施例のポリアリーレンスルフィドが多様な他の高分子素材や充填材などと優れた相溶性を示し、これによる優れた相乗効果を示すことができることが確認された。
【0131】
これに比べて、比較例のポリアリーレンスルフィドは、他の高分子素材や充填材との相溶性が劣悪で、コンパウンディングによる相乗効果があまり大きくないことが確認された。