(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】排水弁装置
(51)【国際特許分類】
E03D 1/34 20060101AFI20220706BHJP
F16K 31/44 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
E03D1/34
F16K31/44 C
(21)【出願番号】P 2018160248
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】松田 春喜
(72)【発明者】
【氏名】篠原 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】比江島 崇
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172986(JP,A)
【文献】特開2016-132985(JP,A)
【文献】特開2003-82739(JP,A)
【文献】特開2013-76309(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107514036(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00- 7/00
E03D 11/00-13/00
F16K 31/44
E03C 1/12- 1/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体を洗浄する洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水弁装置であって、
前記洗浄水タンクに設けられた排水口を開閉するための弁体と、
前記洗浄水タンクの内部に取り付けられ、前記弁体が前記排水口を開閉できるように前記弁体を可動に支持する筐体部と、
前記洗浄水タンクの外部に露出しており、外部からの操作力を受けて所定のストロークに亘って移動する操作体と、
前記操作体の移動に連動して位置姿勢を変えるリンク機構と、
を備え、
前記リンク機構は、
前記操作体の移動のストロークの前半行程に連動して前記弁体を閉鎖位置から中間引上位置まで引き上げる第1リフト部材と、
前記操作体の移動のストロークの後半行程に連動して前記弁体を前記中間引上位置から更に上方へ引き上げる第2リフト部材と、
を有しており、
前記第1リフト部材が前記弁体を引き上げるように前記弁体に作用する位置は、前記第2リフト部材が前記弁体を引き上げるように前記弁体に作用する位置よりも、平面視で前記弁体の中心側である
ことを特徴とする排水弁装置。
【請求項2】
前記リンク機構は、前記洗浄水タンクの内部に設けられた回動軸回りに回動する回動アームを更に有しており、
前記回動アームの前記回動軸に対する一方側には、前記操作体と接触する接触部が設けられ、
前記回動アームの前記回動軸に対する他方側には、前記第1リフト部材及び前記第2リフト部材がそれぞれ支持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の排水弁装置。
【請求項3】
前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置は、前記回動アームが前記第2リフト部材を支持する位置よりも、前記回動軸に近い
ことを特徴とする請求項2に記載の排水弁装置。
【請求項4】
前記回動軸の軸線に垂直な断面において、前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置と前記回動軸とを結んだ直線は、前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置と前記回動アームが前記第2リフト部材を支持する位置とを結んだ直線に対して、鈍角を形成しており、
前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置が、前記回動アームの回動によって前記回動軸よりも上方に至った時、前記回動アームが前記第2リフト部材を支持する位置は、未だ前記回動軸よりも下方にある
ことを特徴とする請求項3に記載の排水弁装置。
【請求項5】
前記接触部は、前記操作体との接触位置が、
前記操作体の移動のストロークの序盤においては前記回動軸に比較的近く、
前記操作体の移動のストロークの中盤においては前記回動軸から比較的遠くなり、
前記操作体の移動のストロークの終盤においては前記回動軸に再び比較的近くなる、
というカム面として構成されている
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の排水弁装置。
【請求項6】
前記第1リフト部材は、前記回動軸の軸線に平行に延びる円筒面状の当接面を上面側に有する第1係合部を有しており、
前記弁体は、前記回動軸の軸線に平行に延びる凹円筒面状の当接面を下面側に有する第1干渉部を有しており、
前記弁体は、前記第1干渉部が前記第1リフト部材の前記第1係合部によって引き上げられるようになっており、
前記第2リフト部材は、前記回動軸の軸線に平行に延びる円筒面状の当接面を上面側に有する第2係合部を有しており、
前記弁体は、前記回動軸の軸線に平行に延びる凹円筒面状の当接面を下面側に有する第2干渉部を有しており、
前記弁体は、前記第2干渉部が前記第2リフト部材の前記第2係合部によって引き上げられるようになっており、
前記凹円筒面状の第1干渉部の当接面の曲率半径は、前記円筒面状の第1係合部の当接面の曲率半径よりも大きく、
前記凹円筒面状の第2干渉部の当接面の曲率半径は、前記円筒面状の第2係合部の当接面の曲率半径よりも大きい
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の排水弁装置。
【請求項7】
前記第2リフト部材は、前記操作体の移動のストロークの前半行程においては、前記弁体を引き上げる作用を奏しない
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の排水弁装置。
【請求項8】
便器本体を洗浄する洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水弁装置であって、
前記洗浄水タンクに設けられた排水口を開閉するための弁体と、
前記洗浄水タンクの内部に取り付けられ、前記弁体が前記排水口を開閉できるように前記弁体を可動に支持する筐体部と、
前記洗浄水タンクの外部に露出しており、外部からの操作力を受けて所定のストロークに亘って移動する操作体と、
前記操作体の移動に連動して位置姿勢を変えるリンク機構と、
を備え、
前記リンク機構は、
前記操作体の移動の前半行程に連動して前記弁体を閉鎖位置から中間引上位置まで引き上げる第1リフト部材と、
前記操作体の移動の後半行程に連動して前記弁体を前記中間引上位置から更に上方へ引き上げる第2リフト部材と、
を有している
ことを特徴とする排水弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水弁装置に係り、特に、外部からの操作力によって弁体を引き上げるタイプの排水弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、便器本体を洗浄する洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水弁装置として、例えば、特許文献1に記載されているように、洗浄水タンクに形成された排水口に取り付けられる排水口ユニットと、排水口を開閉する排水弁を備えた排水弁ユニットと、この排水弁ユニットの周囲を取り囲むように排水口ユニットに着脱可能に取り付けられたカップ状の筒体と、を備えた排水弁装置が知られている。
【0003】
このような排水弁装置においては、便器の洗浄動作が開始されて排水弁が開弁されると、洗浄水タンク内の洗浄水が筒体の上端開口部から流入した後、洗浄水タンクの排水口から便器本体に洗浄水が供給されるようになっている。
【0004】
また、特許文献2には、便器本体を洗浄する洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水弁装置であって、洗浄水タンクに形成された排水口に取り付けられる排水口部と、当該排水口部に対して可動に設けられて前記排水口を開閉する弁体と、を有し、手動の操作によってリンク機構を介して弁体を引き上げる排水弁装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5057190号公報
【文献】特開2016-273986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示された構成では、リンク機構が弁体を引き上げるべく当該弁体に作用する位置が、平面視で当該弁体の中心(重心)から離れている。このため、リンク機構が弁体を引き上げるべく当該弁体に作用する際、弁体は斜め上方に引き上げられることになる。このような斜め上方への引き上げは、平面視で弁体の中心(重心)付近において弁体を直上に引き上げる場合と比較して、より大きな操作力を必要とする。
【0007】
更に、斜め上方への引き上げは、弁体と当該弁体を可動に支持する筐体部(排水口部)との間で摺動抵抗が生じやすく、そのことによっても操作力が不所望に増大してしまう。
【0008】
一方で、リンク機構が弁体を引き上げるべく当該弁体に作用する位置を、平面視で当該弁体の中心(重心)に近い位置に単に移動するだけでは、弁体の移動ストロークを十分に確保することが困難となる。
【0009】
本発明は、以上のような背景の下になされたものである。本発明の目的は、弁体を斜め上方に引き上げることに起因するデメリットを抑制する一方で、弁体の移動ストロークを十分に確保することができる排水弁装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、便器本体を洗浄する洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水弁装置であって、前記洗浄水タンクに設けられた排水口を開閉するための弁体と、前記洗浄水タンクの内部に取り付けられ、前記弁体が前記排水口を開閉できるように前記弁体を可動に支持する筐体部と、前記洗浄水タンクの外部に露出しており、外部からの操作力を受けて所定のストロークに亘って移動する操作体と、前記操作体の移動に連動して位置姿勢を変えるリンク機構と、を備え、前記リンク機構は、前記操作体の移動のストロークの前半行程に連動して前記弁体を閉鎖位置から中間引上位置まで引き上げる第1リフト部材と、前記操作体の移動のストロークの後半行程に連動して前記弁体を前記中間引上位置から更に上方へ引き上げる第2リフト部材と、を有しており、前記第1リフト部材が前記弁体を引き上げるように前記弁体に作用する位置は、前記第2リフト部材が前記弁体を引き上げるように前記弁体に作用する位置よりも、平面視で前記弁体の中心側であることを特徴とする排水弁装置である。
【0011】
本発明によれば、弁体を閉鎖位置から中間引き上げ位置まで引き上げる前半行程では、弁体に作用する位置が平面視で当該弁体の中心側である第1リフト部材が当該弁体を引き上げるため、弁体を斜め上方に引き上げることに起因するデメリットが抑制される。そして、弁体を中間引き上げ位置から更に上方へ引き上げる後半行程を実現するべく、第2リフト部材が設けられているため、弁体の移動ストロークを十分に確保することができる。
【0012】
好ましくは、前記リンク機構は、前記洗浄水タンクの内部に設けられた回動軸回りに回動する回動アームを更に有しており、前記回動アームの前記回動軸に対する一方側には、前記操作体と接触する接触部が設けられ、前記回動アームの前記回動軸に対する他方側には、前記第1リフト部材及び前記第2リフト部材がそれぞれ支持されている。
【0013】
これによれば、リンク機構をコンパクトに実装することができる。
【0014】
この場合、更に好ましくは、前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置は、前記回動アームが前記第2リフト部材を支持する位置よりも、前記回動軸に近い。
【0015】
これによれば、第1リフト部材が弁体を引き上げる際に弁体に作用する位置が、第2リフト部材が弁体を引き上げる際に弁体に作用する位置より、平面視で弁体の中心側である、というレイアウトを実現することが容易である。
【0016】
この場合、更に好ましくは、前記回動軸の軸線に垂直な断面において、前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置と前記回動軸とを結んだ直線は、前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置と前記回動アームが前記第2リフト部材を支持する位置とを結んだ直線に対して、鈍角を形成しており、前記回動アームが前記第1リフト部材を支持する位置が、前記回動アームの回動によって前記回動軸よりも上方に至った時、前記回動アームが前記第2リフト部材を支持する位置は、未だ前記回動軸よりも下方にある。
【0017】
これによれば、リンク機構を更にコンパクトに実装することができる。
【0018】
また、前記接触部は、前記操作体との接触位置が、前記操作体の移動のストロークの序盤においては前記回動軸に比較的近く、前記操作体の移動のストロークの中盤においては前記回動軸から比較的遠くなり、前記操作体の移動のストロークの終盤においては前記回動軸に再び比較的近くなる、というカム面として構成されていることが好ましい。
【0019】
これによれば、滑らかな反力の推移を得ることができ、操作が快適となる。
【0020】
また、前記第1リフト部材は、前記回動軸の軸線に平行に延びる円筒面状の当接面を上面側に有する第1係合部を有しており、前記弁体は、前記回動軸の軸線に平行に延びる凹円筒面状の当接面を下面側に有する第1干渉部を有しており、前記弁体は、前記第1干渉部が前記第1リフト部材の前記第1係合部によって引き上げられるようになっており、前記第2リフト部材は、前記回動軸の軸線に平行に延びる円筒面状の当接面を上面側に有する第2係合部を有しており、前記弁体は、前記回動軸の軸線に平行に延びる凹円筒面状の当接面を下面側に有する第2干渉部を有しており、前記弁体は、前記第2干渉部が前記第2リフト部材の前記第2係合部によって引き上げられるようになっており、前記凹円筒面状の第1干渉部の当接面の曲率半径は、前記円筒面状の第1係合部の当接面の曲率半径よりも大きく、前記凹円筒面状の第2干渉部の当接面の曲率半径は、前記円筒面状の第2係合部の当接面の曲率半径よりも大きいことが好ましい。
【0021】
これによれば、第1リフト部材の第1係合部と第1干渉部との間の摺動抵抗、及び、第2リフト部材の第2係合部と第2干渉部との間の摺動抵抗を軽減することができる。
【0022】
なお、前記第2リフト部材は、前記操作体の移動のストロークの前半行程においては、前記弁体を引き上げる作用を奏しないことが好ましい。
【0023】
これによれば、弁体を斜め上方に引き上げることに起因するデメリットをより効果的に抑制することができる。
【0024】
また、本発明は、便器本体を洗浄する洗浄水を貯える洗浄水タンクの排水弁装置であって、前記洗浄水タンクに設けられた排水口を開閉するための弁体と、前記洗浄水タンクの内部に取り付けられ、前記弁体が前記排水口を開閉できるように前記弁体を可動に支持する筐体部と、前記洗浄水タンクの外部に露出しており、外部からの操作力を受けて所定のストロークに亘って移動する操作体と、前記操作体の移動に連動して位置姿勢を変えるリンク機構と、を備え、前記リンク機構は、前記操作体の移動の前半行程に連動して前記弁体を閉鎖位置から中間引き上げ位置まで引き上げる第1リフト部材と、前記操作体の移動の後半行程に連動して前記弁体を前記中間引き上げ位置から更に上方へ引き上げる第2リフト部材と、を有していることを特徴とする排水弁装置である。
【0025】
すなわち、本件出願の時点では、第2リフト部材が弁体を引き上げるように弁体に作用する位置をも、第1リフト部材が弁体を引き上げるように弁体に作用する位置と同程度に、平面視で弁体の中心側とした態様についても、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、弁体を閉鎖位置から中間引き上げ位置まで引き上げる前半行程では、弁体に作用する位置が平面視で当該弁体の中心側である第1リフト部材が当該弁体を引き上げるため、弁体を斜め上方に引き上げることに起因するデメリットが抑制される。そして、弁体を中間引き上げ位置から更に上方へ引き上げる後半行程を実現するべく、第2リフト部材が設けられているため、弁体の移動ストロークを十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態による排水弁装置が適用される洗浄水タンク装置を備えた水洗大便器を示す概略図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿った断面斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態による排水弁装置の平面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿った断面図である(但し、筒体の図示が省略されている)。
【
図5】
図4に対応する断面図であって、第1リフト部材のみによって弁体が引き上げられている状態を示している。
【
図6】
図4に対応する断面図であって、第2リフト部材によって弁体が引き上げられ始めた状態を示している。
【
図7】
図4に対応する断面図であって、第2リフト部材のみによって弁体が引き上げられている状態を示している。
【
図8】操作体と接触部との接触位置の推移を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態による排水弁装置8について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による排水弁装置8が適用される洗浄水タンク装置4を備えた水洗大便器1を示す概略図であり、
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態による排水弁装置8が適用される洗浄水タンク装置4を備えた水洗大便器1は、汚物を受ける便器本体2と、当該便器本体2の後方側の上面に配置された直方体状の洗浄水タンク装置4と、を備えている。
【0030】
洗浄水タンク装置4には、操作体として、大洗浄ボタン4aと小洗浄ボタン4bとが取り付けられている。大洗浄ボタン4aと小洗浄ボタン4bとは、それぞれ、洗浄水タンク装置4の上面(洗浄水タンク6の上面)において外部に露出しており、外部からの操作力(通常は手動の押下力)を受けて所定のストロークに亘って下方に平行移動するようになっている。
【0031】
図2に示すように、洗浄水タンク装置4は、洗浄水タンク6と、当該洗浄水タンク6の底面6aに形成された排水口6bに取り付けられる本発明の一実施形態による排水弁装置8と、洗浄水タンク6の底面6aに載置されて洗浄水タンク6内に洗浄水を供給する給水装置10と、を備えている。
【0032】
また、排水弁装置8は、オーバーフロー管12を有しており、洗浄水タンク6内の洗浄水がオーバーフロー管12の上端位置に相当する規定水位を超えた場合、排水弁装置8の下流側(後述する弁体38の下流側)へ流出させるようになっている。
【0033】
更に
図3及び
図4をも参照して、本発明の一実施形態による排水弁装置8の構造について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による排水弁装置8の平面図であり、
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面図である。
【0034】
図2乃至
図4に示すように、本実施形態の排水弁装置8は、洗浄水タンク6に設けられた排水口6bを開閉するための円盤状の弁体38と、洗浄水タンク6の内部に取り付けられ、弁体38が排水口6bを開閉できるように弁体38に固定された主軸部材34を可動に支持する筐体部18と、を備えている。
【0035】
本実施形態の排水弁装置8の筐体部18は、洗浄水タンク6の底面6aを貫く円筒状の排水口6bに取り付けられる排水口部14と、当該排水口部14の更に上方に延びる略円筒状の弁体支持部16と、を有している。弁体支持部16には、主軸部材34の上下移動を案内する摺動筒部16sが設けられている。
【0036】
より詳細には、排水口部14は、略円筒状の排水口部本体22と、排水口部本体22の内側且つ下方に向かって縮径する縮径部24aと、縮径部24aから更に下方に向かって洗浄水タンク6の排水口6bを貫くように延びる排水路24bと、縮径部24aの上縁に沿って略円環状に形成され上方に向けて突出している弁座26と、を有している。縮径部24aと排水路24bとが、排水路形成部24を形成している。
【0037】
縮径部24aの下方の外周には、鍔部30が形成されている。そして、鍔部30の下面と洗浄水タンク6の底面6aとの間に、円環状のパッキン32が挟持されている。
【0038】
排水口部本体22の弁座26よりも上方の領域には、周方向に複数の連通口36が形成されている。各連通口36の開口断面は、
図4に示す側面視において、矩形状に形成されている。
【0039】
排水口部本体22の外周面には、略カップ状の筒体20(
図2及び
図3参照)が取り付けられている。各連通口36は、筒体20の内側で排水口部本体22の外側の領域と排水口部本体22の内側の領域とを連通させている。これにより、洗浄水タンク6内の洗浄水の水位が筒体20の上縁よりも上方に位置する時、筒体20内に流入した洗浄水が、各連通口36から排水口部本体22内に流入するようになっている。
【0040】
また、縮径部24aには、オーバーフロー管12の下方部分と排水口部14の内部(弁体38の下流側)とを連通させるオーバーフロー管接続部(不図示)が設けられている。
【0041】
円盤状の弁体38は、排水口部14の弁座26に対する上下移動(当接状態と離間状態との間の移動)によって、排水口6bを開閉できるようになっている。弁体38の上下移動は、弁体を支持する主軸部材34の上下移動が弁体支持部16の摺動筒部16sによって案内されることに伴って、案内されるようになっている。
【0042】
前述した大洗浄ボタン4a及び小洗浄ボタン4bは、弁体38の引き上げ動作を起動させる操作体であって、本実施形態の排水弁装置8の構成要素である。本実施形態の排水弁装置8は、弁体38を引き上げるべく操作体4a、4bの移動に連動して位置姿勢を変えるリンク機構40を備えている。
【0043】
本実施形態のリンク機構40は、操作体4aの移動のストロークの前半行程に連動して弁体38(主軸部材34)を閉鎖位置から中間引き上げ位置まで引き上げる第1リフト部材41と、操作体4aの移動のストロークの後半行程に連動して弁体38(主軸部材34)を中間引き上げ位置から更に上方へ引き上げる第2リフト部材42と、を有している。
【0044】
また、本実施形態のリンク機構40は、洗浄水タンク6の内部に設けられた回動軸43回りに回動する回動アーム44を更に有している。回動アーム44の回動軸43に対する一方側(
図4の左側)には、操作体4aと接触する接触部45が設けられ、回動アーム44の回動軸43に対する他方側(
図4の右側)には、第1リフト部材41及び第2リフト部材42の上端部がそれぞれ揺動可能に支持(軸支)されている。
【0045】
本実施形態では、回動アーム44が第1リフト部材41の上端部を揺動可能に支持する位置P1は、回動アーム44が第2リフト部材42の上端部を揺動可能に支持する位置P2よりも、回動軸43に近くなっている。
【0046】
また、本実施形態では、回動軸43の軸線に垂直な断面において、回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1と回動軸43とを結んだ直線が、回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1と回動アーム44が第2リフト部材42を支持する位置P2とを結んだ直線に対して、鈍角を形成するようになっている。
【0047】
これにより、回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1が、回動アーム44の回動によって回動軸43よりも上方に至った時、回動アーム44が第2リフト部材42を支持する位置P2は、未だ回動軸43よりも下方にある(
図5及び
図6参照)。
【0048】
また、本実施形態では、第1リフト部材41の下端部が、主軸部材34を介して弁体38を引き上げる(弁体34に引き上げ力を提供する)ようになっている。具体的には、第1リフト部材41の下端部には、
図4の紙面に対して垂直な手前方向及び奥方向に(回動軸43の軸線に平行に)円筒面状の当接面を上面側に有する第1係合部41eが延びており(第1リフト部材41の全体は略逆T字状の形態である)、主軸部材34には、当該第1係合部41eと干渉するように、同様に
図4の紙面に対して垂直な手前方向及び奥方向に(回動軸43の軸線に平行に)延びる第1干渉部51が設けられている。第1干渉部51の下面側には、
図4の紙面に対して垂直な手前方向及び奥方向に(回動軸43の軸線に平行に)延びる凹円筒面状の当接面51aが設けられており、当該当接面51aの曲率半径は、円筒面状の第1係合部41eの当接面の曲率半径よりも大きくなっている。以上のような構成により、第1リフト部材41の第1係合部41eは、第1干渉部51を介して主軸部材34(ひいては弁体38)を引き上げるようになっている。
【0049】
図4から明らかなように、第1リフト部材41の下端部は、平面視で弁体38の中心位置にある。すなわち、第1リフト部材41が弁体38を引き上げるべく主軸部材34を介して当該弁体38に作用する(引き上げ力を提供する)位置は、平面視で当該弁体38の中心にある。
【0050】
一方、本実施形態では、第2リフト部材42の下端部も、主軸部材34を介して弁体38を引き上げる(弁体34に引き上げ力を提供する)ようになっている。具体的には、第2リフト部材42の下端部にも、
図4の紙面に対して垂直な手前方向及び奥方向に(回動軸43の軸線に平行に)円筒面状の当接面を上面側に有する第2係合部42eが延びており(第2リフト部材42の全体も略逆T字状の形態であるが、第1リフト部材41よりも短い)、主軸部材34には、当該第2係合部42eと干渉するように、同様に
図4の紙面に対して垂直な手前方向及び奥方向に(回動軸43の軸線に平行に)延びる第2干渉部52が設けられている。第2干渉部52の下面側には、
図4の紙面に対して垂直な手前方向及び奥方向に(回動軸43の軸線に平行に)延びる凹円筒面状の当接面52aが設けられており、当該当接面52aの曲率半径は、円筒面状の第2係合部42eの当接面の曲率半径よりも大きくなっている。以上のような構成により、第2リフト部材42の第2係合部42eは、第2干渉部52を介して主軸部材34(ひいては弁体38)を引き上げるようになっている。
【0051】
図4から明らかなように、第2リフト部材42の下端部は、平面視で弁体38の中心位置から外れた位置にある。すなわち、第2リフト部材42が弁体38を引き上げるべく主軸部材34を介して当該弁体38に作用する(引き上げ力を提供する)位置は、平面視で当該弁体38の中心から外れた位置にある。
【0052】
ここで、
図5は、
図4に対応する断面図であって、第1リフト部材41のみによって弁体38が引き上げられている状態を示している。
図6は、
図4に対応する断面図であって、第2リフト部材42によって弁体38が引き上げられ始めた状態を示している。
図7は、
図4に対応する断面図であって、第2リフト部材42のみによって弁体38が引き上げられている状態を示している。
【0053】
また、
図8は、操作体4aと接触部45との接触位置の推移を説明するための概略図である。接触部45は、側面視の形状が芋虫の頭のような形状のカム面として構成されており、
図8に示すように、操作体4aとの接触位置が、当該操作体4aの移動のストロークの序盤においては回動軸43に比較的近く(
図8(a):
図4の状態に対応)、当該操作体4aの移動のストロークの中盤においては回動軸43から比較的遠くなり(
図8(b):
図5の状態に対応)、当該操作体4aの移動のストロークの終盤においては回動軸43に再び比較的近くなる(
図8(c):
図6の状態に対応、
図8(d):
図7の状態に対応)。
【0054】
次に、本実施形態による排水弁装置8の作用について説明する。
【0055】
まず、使用者が大洗浄ボタン4a(操作体)を押下すると、当該大洗浄ボタン4aが下方に洗浄水タンク6内に移動する。この移動に伴って、リンク機構40が作動し、主軸部材34を介して弁体38が引き上げられる。
【0056】
具体的には、大洗浄ボタン4aの移動に伴って、回動アーム44の接触部45が下方に移動される(
図8参照)。これにより、回動アーム44が回動軸43回りに回動する(
図4乃至
図7参照)。
【0057】
大洗浄ボタン4aの移動のストロークの序盤においては、大洗浄ボタン4aと接触部45との接触位置が回動軸43に比較的近い(
図8(a))。従って、てこの原理により、押下力を比較的大きな回動力として利用することができる。また、操作体4aの移動のストロークの前半行程においては、第1リフト部材41の下端部が、平面視で弁体38の中心において、主軸部材34を介して弁体38を引き上げる。これらの特徴によって、閉鎖位置から弁体38を引き上げる際には水圧に打ち勝つ引き上げ力を要するところ、弁体38の滑らかな引き上げ動作を実現することができる(
図5及び
図6参照)。
【0058】
弁体38が引き上げられ、弁座26から離間することで、排水路形成部24の縮径部24a及び排水路24bが排水口部本体22内と連通され、排水口6bが開放されることとる(
図5乃至
図7参照)。これにより、洗浄水タンク6内の洗浄水が、筒体20内に流入し、更に連通口36を介して排水口部本体22内に流入し、排水路形成部24の縮径部24a及び排水路24bを経て便器本体2へと排出されていく。
【0059】
大洗浄ボタン4aと接触部45との接触位置は、当該大洗浄ボタン4aの移動のストロークの中盤(前半行程の一部)においては回動軸43から比較的遠くなり(
図8(b))、押下力を比較的大きなストロークとして利用することができる。これにより、滑らかな反力の推移を得ることができ、操作が快適である。
【0060】
回動軸43の軸線に垂直な断面において、回動軸34の軸線と回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1とを結ぶ直線が、水平面に対して30°辺りを超えると(
図6)、その後の回動アーム44の回動によって位置P1(第1リフト部材)は効果的に上昇しないため、第1リフト部材41によって上昇ストロークを効果的に稼ぐことができない。一方、回動アーム44が第2リフト部材42を支持する位置P2は、未だ回動軸43の下方にある。そこで、回動アーム44の回動に伴う位置P2の上昇を利用するべく、第2リフト部材42を利用した弁体の引き上げが開始される(操作体4aの移動のストロークの後半行程)。
【0061】
位置P1も位置P2も、回動アーム44の回動に伴って更に上昇するが、上昇の程度は位置P2の方が大きいため(厳密には、第1リフト部材41及び第2リフト部材42の各々の傾斜具合も影響するが、本実施形態の例を含めて通常は無視できる程度である)、第2リフト部材42による引き上げ速度の方が、第1リフト部材41による引き上げ速度に勝って、第1リフト部材41によるそれまでの引き上げ動作が第2リフト部材42による引き上げ動作に円滑に引き継がれる(
図7から
図8)。
【0062】
これにより、所望のストロークを確保することができる。この後半行程では、第2リフト部材42の下端部が、平面視で弁体38の中心から外れた位置において、主軸部材34を介して弁体38を引き上げるが、閉鎖位置から弁体38を引き上げる際とは異なり、引き上げ力に抵抗する力(水圧等)が小さいため、弁体38の滑らかな引き上げ動作を継続することができる。
【0063】
また、大洗浄ボタン4aと接触部45との接触位置は、当該大洗浄ボタン4aの移動のストロークの終盤(後半行程)においては、回動軸43に再び比較的近くなり(
図8(c)、
図8(d))、押下力を再び比較的大きな回動力として利用することができる。これにより、滑らかな反力の推移を得ることができ、操作が快適である。
【0064】
なお、大洗浄ボタン4aの代わりに小洗浄ボタン4bが押下される場合には、例えば前述の前半行程に相当するストロークのみが利用され得る。
【0065】
以上の通り、本実施形態の排水弁装置8によれば、弁体38(及び主軸部材34)を閉鎖位置から中間引き上げ位置まで引き上げる前半行程では、弁体38に作用する位置が平面視で当該弁体38の中心側である第1リフト部材41が当該弁体38を引き上げるため、弁体38を斜め上方に引き上げることに起因するデメリットが抑制される。そして、弁体38を中間引き上げ位置から更に上方へ引き上げる後半行程を実現するべく、第2リフト部材42が設けられているため、弁体38の移動ストロークを十分に確保することができる。
【0066】
また、本実施形態の排水弁装置8においては、リンク機構40が、洗浄水タンク6の内部に設けられた回動軸43回りに回動する回動アーム44を有しており、回動アーム44の回動軸43に対する一方側(
図4の左側)に、操作体4aと接触する接触部45が設けられ、回動アーム44の回動軸43に対する他方側(
図4の右側)に、第1リフト部材41及び第2リフト部材42がそれぞれ支持されている。これにより、リンク機構40をコンパクトに実装することが可能である。
【0067】
また、本実施形態の排水弁装置8においては、回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1が、回動アーム44が第2リフト部材42を支持する位置P2よりも、回動軸43に近い。これにより、第1リフト部材41が弁体38を引き上げる際に弁体38に作用する位置が、第2リフト部材42が弁体38を引き上げる際に弁体38に作用する位置より、平面視で弁体38の中心側である、というレイアウトを実現することが容易となっている。
【0068】
また、本実施形態の排水弁装置8においては、回動軸43の軸線に垂直な断面において、回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1と回動軸43とを結んだ直線は、回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1と回動アーム44が第2リフト部材42を支持する位置P2とを結んだ直線に対して、鈍角を形成しており、回動アーム44が第1リフト部材41を支持する位置P1が、回動アーム44の回動によって回動軸43よりも上方に至った時、回動アーム44が第2リフト部材42を支持する位置P2は、未だ回動軸43よりも下方にある。これにより、リンク機構40を更にコンパクトに実装することができる。
【0069】
また、本実施形態の排水弁装置8において、接触部45は、操作体4aとの接触位置が、操作体4aの移動のストロークの序盤においては回動軸43に比較的近く、操作体4aの移動のストロークの中盤においては回動軸43から比較的遠くなり、操作体4aの移動のストロークの終盤においては回動軸43に再び比較的近くなる、というカム面として構成されている。これにより、滑らかな反力の推移を得ることができ、操作が快適となる。
【0070】
また、本実施形態の排水弁装置8において、第1リフト部材41は、回動軸43の軸線に平行に延びる円筒面状の当接面を上面側に有する第1係合部41eを有しており、弁体38に固定された主軸部材34は、回動軸43の軸線に平行に延びる凹円筒面状の当接面51aを下面側に有する第1干渉部51を有しており、弁体38は、第1干渉部51が第1リフト部材41の第1係合部41eによって引き上げられるようになっており、第2リフト部材42は、回動軸43の軸線に平行に延びる円筒面状の当接面を上面側に有する第2係合部42eを有しており、弁体38に固定された主軸部材34は、回動軸43の軸線に平行に延びる凹円筒面状の当接面52aを下面側に有する第2干渉部52を有しており、弁体38は、第2干渉部52が第2リフト部材42の第2係合部42eによって引き上げられるようになっており、凹円筒面状の第1干渉部51の当接面51aの曲率半径は、円筒面状の第1係合部41eの当接面の曲率半径よりも大きく、凹円筒面状の第2干渉部52の当接面52aの曲率半径は、円筒面状の第2係合部42eの当接面の曲率半径よりも大きい。これにより、第1リフト部材41の第1係合部41eと第1干渉部51との間の摺動抵抗、及び、第2リフト部材42の第2係合部42eと第2干渉部52との間の摺動抵抗を軽減することができる。
【0071】
また、本実施形態の排水弁装置8において、第2リフト部材42は、操作体4aの移動のストロークの前半行程(第1リフト部材41が弁体38を引き上げている間)においては、弁体38を引き上げる作用を奏しない。これにより、弁体38を斜め上方に引き上げることに起因するデメリットをより効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 水洗大便器
2 便器本体
4 洗浄水タンク装置
4a 大洗浄ボタン(操作体)
4b 小洗浄ボタン(操作体)
6 洗浄水タンク
6a 底面
6b 排水口
8 排水弁装置
10 給水装置
12 オーバーフロー管
14 排水口部
16 弁体支持部
20 筒体
22 排水口部本体
24 排水路形成部
24a 縮径部
24b 排水路
26 弁座
30 鍔部
32 パッキン
34 主軸部材
36 連通口
38 弁体
40 リンク機構
41 第1リフト部材
41e 第1係合部
42 第2リフト部材
42e 第2係合部
43 回動軸
44 回動アーム
45 接触部
51 第1干渉部
51a 当接面
52 第2干渉部
52a 当接面
P1 回動アームにおける第1リフト部材の上端の支持位置
P2 回動アームにおける第2リフト部材の上端の支持位置