(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】調速機及びエレベータ
(51)【国際特許分類】
B66B 5/04 20060101AFI20220706BHJP
【FI】
B66B5/04 B
(21)【出願番号】P 2021057018
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 元樹
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 悠児
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160023(JP,A)
【文献】特開2015-227251(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166602(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/190869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごに接続される無端環状のガバナロープと、
前記かごの速度を検出するために、前記ガバナロープが巻き掛けられるガバナ車と、
前記ガバナロープに張力を付与するために、前記ガバナロープに吊り下げられる張り車装置と、を備え、
前記張り車装置は、前記ガバナロープが巻き掛けられる張り車と、前記張り車に接続される錘体と、を備え、
前記張り車装置の質量Mは、以下の式を満たす、調速機。
ここで、m
1は、前記ガバナ車の質量であり、m
2は、前記張り車の質量であり、m
aは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記ガバナ車までの第1ロープ部の質量であり、k
aは、前記第1ロープ部のバネ定数であり、m
bは、前記ガバナロープのうち、前記ガバナ車から前記張り車までの第2ロープ部の質量であり、k
bは、前記第2ロープ部のバネ定数であり、m
cは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記張り車までの第3ロープ部の質量であり、k
cは、前記第3ロープ部のバネ定数であり、αは、前記かごの加速度であり、gは、重力加速度である。
【請求項2】
前記張り車装置の質量Mは、以下の式を満たす、請求項1に記載の調速機。
【請求項3】
前記張り車装置の質量Mは、以下の式を満たす、請求項2に記載の調速機。
【請求項4】
上下方向を走行するかごと、
請求項1~3の何れか1項に記載の調速機と、を備える、エレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、調速機及びエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、調速機は、かごに接続される無端環状のガバナロープと、かごの速度を検出するために、ガバナロープが巻き掛けられるガバナ車と、ガバナロープに吊り下げられる張り車装置とを備えている(例えば、特許文献1)。そして、張り車装置は、自身の重量によって、ガバナロープに張力を付与している。
【0003】
張り車装置は、ガバナロープが巻き掛けられる張り車と、張り車に接続される錘体とを備えている。そして、張り車装置の質量は、錘体の質量によって、調整されている。ところで、張り車装置の質量が小さい場合には、かごの走行に伴ってガバナロープが走行したときに、ガバナロープに張力が付与されないため、調速機は、かごの速度を正確に検出することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、課題は、張り車装置の質量を適正にすることができる調速機及びエレベータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
調速機は、かごに接続される無端環状のガバナロープと、前記かごの速度を検出するために、前記ガバナロープが巻き掛けられるガバナ車と、前記ガバナロープに張力を付与するために、前記ガバナロープに吊り下げられる張り車装置と、を備え、前記張り車装置は、前記ガバナロープが巻き掛けられる張り車と、前記張り車に接続される錘体と、を備え、前記張り車装置の質量Mは、以下の式を満たす。
ここで、m
1は、前記ガバナ車の質量であり、m
2は、前記張り車の質量であり、m
aは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記ガバナ車までの第1ロープ部の質量であり、k
aは、前記第1ロープ部のバネ定数であり、m
bは、前記ガバナロープのうち、前記ガバナ車から前記張り車までの第2ロープ部の質量であり、k
bは、前記第2ロープ部のバネ定数であり、m
cは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記張り車までの第3ロープ部の質量であり、k
cは、前記第3ロープ部のバネ定数であり、αは、前記かごの加速度であり、gは、重力加速度である。
【0007】
また、調速機においては、前記張り車装置の質量Mは、以下の式を満たす、という構成でもよい。
【0008】
また、調速機においては、前記張り車装置の質量Mは、以下の式を満たす、という構成でもよい。
【0009】
また、エレベータは、上下方向を走行するかごと、前記の調速機と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るエレベータの概要図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る張り車装置の正面図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係る張り車装置の側面図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る張り車装置の位置を説明する図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る調速機の概略図である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る時間と張り車装置の位置との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、エレベータ及び調速機における一実施形態について、
図1~
図6を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0012】
図1に示すように、エレベータ1は、例えば、人が乗るためのかご2と、かご2に接続されるかごロープ3と、かごロープ3に接続される釣合錘4と、かごロープ3を駆動してかご2を走行させる巻上機5とを備えていてもよい。また、エレベータ1は、例えば、かご2を案内するかごレール6と、釣合錘4を案内する錘レール7と、かご2の走行速度を検出する調速機8と、エレベータ1の各部を制御する処理部9とを備えていてもよい。
【0013】
本実施形態に係るエレベータ1においては、巻上機5は、昇降路X1内に配置されている、という構成であるが、斯かる構成に限られない。例えば、巻上機5は、昇降路X1の上部に設けられる機械室の内部に配置されている、という構成でもよい。
【0014】
また、本実施形態においては、かごロープ3の両端がそれぞれ昇降路X1の上部又は下部に固定され、かごロープ3がかご2のシーブ2a及び釣合錘4のシーブ4aにそれぞれ巻き掛けられることによって、かごロープ3がかご2及び釣合錘4にそれぞれ接続されている、という構成であるが、斯かる構成に限られない。例えば、かごロープ3の一端がかご2に固定され、かごロープ3の他端が釣合錘4に固定されている、という構成でもよい。
【0015】
巻上機5は、例えば、かごロープ3が巻き掛けられる綱車5aと、綱車5aを回転させる駆動源5bと、綱車5aを制動する制動部5cとを備えていてもよい。また、かご2は、例えば、かごレール6を挟むことによってかご2を停止させる停止部2bと、調速機8の動作を停止部2bへ伝達する伝達部2cとを備えていてもよい。
【0016】
調速機8は、かご2に接続される無端環状のガバナロープ20と、かご2の速度を検出するために、ガバナロープ20が巻き掛けられる回転可能なガバナ車21と、ガバナロープ20に張力を付与するために、ガバナロープ20に吊り下げられる張り車装置22とを備えている。なお、ガバナロープ20は、例えば、かご2の伝達部2cに接続されるロープ接続部23と、環状となるように各端部がロープ接続部23に接続させる紐状のロープ体24とを備えていてもよい。
【0017】
また、調速機8は、例えば、張り車装置22をガイドするガイド部8aと、ガバナロープ20を把持する把持部8bとを備えていてもよい。そして、例えば、かご2の速度が設定速度を超えた場合に、把持部8bがガバナロープ20を把持し、ガバナロープ20の走行が停止されることによって、かご2の停止部2bは、作動する、という構成でもよい。
【0018】
図2及び
図3に示すように、張り車装置22は、ガバナロープ20が巻き掛けられる回転可能な張り車25と、張り車25に接続される錘体26とを備えている。また、張り車装置22は、例えば、本実施形態のように、張り車25と錘体26とを接続する錘接続部27と、ガイド部8aにガイドされる被ガイド部28とを備えていてもよい。
【0019】
張り車25は、例えば、本実施形態のように、軸部25aと、ガバナロープ20が巻き掛けられる凹状の外周部25bとを備えていてもよい。また、例えば、本実施形態のように、錘体26は、上面部に、円弧状に凹む凹部26aを備えており、錘体26の凹部26aは、張り車25の外周部25bに沿って配置されている、という構成でもよい。なお、錘体26は、例えば、本実施形態のように、一体的に形成されていてもよく、また、例えば、上下方向D3に積まれる複数の錘片を備えていてもよい。
【0020】
錘接続部27は、例えば、本実施形態のように、張り車25から錘体26まで延びる板材27aと、板材27aと錘体26とを固定する固定具27bと、張り車25の軸部25aを回転可能に支持する軸支材27cとを備えていてもよい。また、例えば、本実施形態のように、被ガイド部28は、上下方向D3へ延びる一対の板材28a,28aを備え、板状のガイド部8aが一対の板材28a,28aの間に挿入されることによって、被ガイド部28は、ガイド部8aにガイドされる、という構成でもよい。
【0021】
ところで、張り車装置22の質量は、錘体26の質量によって、調整されている。そして、調速機8がかご2の速度を正確に検出するためには、かご2の走行に伴ってガバナロープ20が走行した場合でも、ガバナロープ20に張力が付与される必要がある。そこで、以下に、張り車装置22の適正な質量について、
図4~
図6を参照しながら説明する。
【0022】
図4(a)に示すように、ガバナロープ20が伸びた状態で且つガバナロープ20に張力が付与されていない状態である場合に、張り車装置22の上下方向D3の位置Xを原点位置X
0(X=0)とし、当該位置X
0は、「張力ゼロ時位置」という。特に限定されないが、
図4においては、張り車装置22の位置Xは、張り車25の回転中心の位置としている。
【0023】
そして、
図4(b)に示すように、かご2が停止している場合には、ガバナロープ20は、張り車装置22の自重によって伸びるため、張り車装置22の位置Xは、張力ゼロ時位置X
0よりも下方となり、当該位置X(0)は、「停止時位置」という。なお、停止時位置X(0)は、張力ゼロ時位置X
0よりも下方であるため、0より小さくなる(X(0)<0)。
【0024】
また、
図4(c)に示すように、かご2が加速度αで走行した場合には、張り車装置22の位置Xは、停止時位置X(0)から浮き上がるため、停止時位置X(0)よりも上方となり、当該位置X(α)は、「走行時位置」という。なお、走行時位置X(α)は、停止時位置X(0)よりも上方となるため、X(0)よりも大きくなる(X(α)>X(0))。
【0025】
そして、走行時位置X(α)が張力ゼロ時位置X
0よりも下方である場合に、張り車装置22は、ガバナロープ20に張力を付与できる。これにより、かご2が加速度αで走行しているときに、張り車装置22がガバナロープ20に張力を付与するために、かご走行位置X(α)は、以下の式(1)を満たす。
【数1】
【0026】
ここで、
図5に示すようなガバナロープ20のモデルを用いて、停止時位置X(0)及び走行時位置X(α)を算出する。まず、ガバナロープ20のロープ体24は、ロープ接続部23からガバナ車21までの第1ロープ部24aと、ガバナ車21から張り車25までの第2ロープ部24bと、ガバナ車21からロープ接続部23までの第3ロープ部24cとを含んでいる。
【0027】
Mは、張り車装置22の質量(単位はkgであり、以下同じ)であり、Xは、張り車装置22の上下方向D3の変位(単位はmであり、以下同じ)、即ち、張力ゼロ時位置X0(X=0)に対する位置である。m1は、ガバナ車21の質量であり、x1は、ガバナ車21の回転方向の変位であり、m2は、張り車25の質量であり、x2は、張り車25の回転方向の変位である。
【0028】
maは、第1ロープ部24aの質量であり、xaは、第1ロープ部24aの上下方向D3の変位であり、mbは、第2ロープ部24bの質量であり、xbは、第2ロープ部24bの上下方向D3の変位であり、mcは、第3ロープ部24cの質量であり、xcは、第3ロープ部24cの上下方向D3の変位であり、x0は、ロープ接続部23の上下方向D3の変位である。Ta1,Ta2,Tb1,Tb2,Tc1,Tc2は、各ロープ部24a~24cに働く張力である。
【0029】
なお、ロープ接続部23がかご2に接続されており、かご2の質量が、ガバナロープ20,ガバナ車21及び張り車装置22等の質量と比較して非常に大きく、ガバナロープ20等の振動がかご2へ殆ど伝わらない。これにより、ロープ接続部23は、固定端として扱われ、それにより、ロープ接続部23の質量は、無視できる。
【0030】
k
aは、第1ロープ部24aのバネ定数(単位はN/mであり、以下同じ)であり、k
bは、第2ロープ部24bのバネ定数であり、k
cは、第3ロープ部24cのバネ定数である。なお、
図5のガバナロープ20のモデルにおいては、各ロープ部24a~24cは、一つの質点と二つのバネ要素とに変換されている。これにより、各ロープ部24a~24cのバネ定数k
i(i=a,b,c)は、以下の式(2)となる。なお、バネ要素が二つあるため、式(2)の分母を2で割っている。
【0031】
【数2】
ここで、Eは、ロープヤング率(N/mm
2)であり、Sは、ロープ断面積(mm
2)であり、L
i(i=a,b,c)は、ロープ長(m)である。
【0032】
ところで、張り車25の回転及び上下動に関する運動方程式は、以下の式(3.1)及び式(3.2)となる。
【数3】
ここで、gは、重力加速度(m
2/s)である。
【0033】
そして、かご2が停止している状態では、張り車25の回転及び上下動がないため、張り車25の回転の加速度及び張り車装置22の上下動の加速度は、ゼロとなる。即ち、上記の式(3.1)の左辺がゼロ(具体的には、x2の2回微分である張り車25の回転の加速度がゼロ)となり、上記の式(3.2)の左辺がゼロ(具体的には、Xの2回微分である張り車装置22の上下動の加速度がゼロ)となる。
【0034】
これにより、第2ロープ部24bの張力Tb2と第3ロープ部24cの張力Tc2とは、等しくなり、張り車装置22の重量Mgの半分の張力となる。したがって、ガバナロープ20に伸びが発生し、張り車装置22は、張力ゼロ時位置X0よりも下方である停止時位置X(0)で静止することになる。
【0035】
一方で、かご2が加速移動すると慣性力が生じ、第2ロープ部24bの張力T
b2と第3ロープ部24cの張力T
c2とは、等しくなくなる。具体的には、ロープ接続部23から
図5の点P1までの経路(第1ロープ部24a→ガバナ車21→第2ロープ部24b→点P1)の慣性が、ロープ接続部23から
図5の点P2までの経路(第3ロープ部24c→点P2)の慣性と、異なるため、第2ロープ部24bの張力T
b2の増減量は、第3ロープ部24cの張力T
c2の増減量と、等しくない。
【0036】
これにより、式(3.2)からも分かるように、第2ロープ部24bの張力Tb2と第3ロープ部24cの張力Tc2とが変化することによって、張り車装置22は、上下方向D3に移動する加速度が生じることになる。即ち、張り車装置22は、停止時位置X(0)から走行時位置X(α)へ浮き上がることになる。
【0037】
また、第2ロープ部24bの張力Tb2と第3ロープ部24cの張力Tc2との差(慣性力の差)が大きいほど、張り車装置22の上下方向D3に発生する加速度も大きくなるため、張り車装置22の浮き上がり量は、大きくなる。したがって、かご2が最下階付近に位置している場合に、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなる。
【0038】
例えば、最下階に位置しているかご2が上方へ加速移動した場合に、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなり得る。また、例えば、下方へ走行しているかご2が、最下階付近で制動して下方へ減速移動した(即ち、上方へ加速移動した)場合に、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなり得る。
【0039】
ここで、
図5のガバナロープ20のモデルの力のつり合い式は、以下の式(4.1)~式(4.6)となる。
【数4】
【0040】
式(4.1)~式(4.6)を行列形式で記載すると、以下の式(5.1)及び式(5.2)となる。
【数5】
【0041】
逆行列を用いて式(5.1)及び式(5.2)を解き、各変位x
1,x
2,X,x
a,x
b,x
cについて求めると、以下の式(6.1)及び式(6.2)となる。
【数6】
【0042】
そして、かご2が停止している場合には、式(6.2)の各車21,25、張り車装置22及び各ロープ部24a~24cの加速度(各変位x
1,x
2,X,x
a,x
b,x
cの2回微分)が、全てゼロであるため、式(6.1)及び式(6.2)から変位Xを抽出することによって、停止時位置X(0)は、以下の式(7)となる。
【数7】
【0043】
また、かご2が加速度(例えば、最大加速度、定格加速度)αで移動する場合には、式(6.2)の各車21,25の回転及び各ロープ部24a~24cの移動の加速度(各変位x1,x2,xa,xb,xcの2回微分)は、かご2の加速度αとみなすことができる。また、張り車装置22は、一定量浮き上がって静止するため、張り車装置22の加速度(変位Xの2回微分)は、ゼロとみなすことができる。
【0044】
これらを式(6.2)に代入し、式(6.1)及び式(6.2)から変位Xを抽出することによって、走行時位置X(α)は、以下の式(8)となる。
【数8】
【0045】
そして、上記の式(1)及び式(8)より、以下の式(9)が算出される。
【数9】
【0046】
したがって、張り車装置22の質量Mが上記の式(9)を満たすように、錘体26の質量が設定される。これにより、かご2が加速度αで走行することに伴って、ガバナロープ20が走行したときに、張り車装置22が浮き上がって上昇するものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。
【0047】
ところで、上記の式(8)の走行時位置X(α)は、かご2が加速度αで移動するときの定常的な上昇による位置、即ち、張り車装置22が一定量浮き上がって静止する位置である。したがって、上記の式(8)の走行時位置X(α)は、張り車装置22が瞬間的に大きく浮き上がる位置ではない。
【0048】
そこで、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなる場合、即ち、最下階に位置しているかご2が加速度αで上方へ移動した場合について、
図6に示すように、シミュレーションを行った。なお、走行時位置X(α)が、かご2の躍度(加加速度)に大きく影響するため、かご2が瞬間的に加速度αになったとして、かご2の躍度は、∞とした。なお、かご2が下方へ移動しているときに、制動部5cが作動してかご2が減速した場合には、かご2の上方への躍度は、実質的に、∞となる。
【0049】
図6に示すように、かご2が移動を開始して時間t(約0.5秒~0.7秒)が経過したときに、張り車装置22は、瞬間的に浮き上がる位置(走行時最大上昇位置X(α)
max)まで浮き上がった。その後、時間が経過することによって、張り車装置22は、定常的に浮き上がる位置(走行時定常上昇位置X(α))で静止した。
【0050】
このように、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)maxは、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)よりも、大きい。例えば、かご2の昇降行程が10m~500mで且つ張り車装置22の質量Mが10kg~50kgの範囲においては、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)maxは、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)の1.6倍~1.9倍となった。
【0051】
そこで、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)
maxが、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)の1.9倍であっても、張り車装置22がガバナロープ20に張力を付与するために、以下の式(10)を満たすことが好ましい。
【数10】
【0052】
そして、上記の式(7)、式(8)及び式(10)から、以下の式(11)が算出される。
【数11】
【0053】
したがって、張り車装置22の質量Mが上記の式(11)を満たすように、錘体26の質量が設定されることが好ましい。これにより、かご2が急加速したときに、張り車装置22がさらに上昇して浮き上がるものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。
【0054】
一方で、張り車装置22の質量Mが大きいと、ガバナロープ20の摩耗や破断が発生し易くなる。しかしながら、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)
maxが、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)の1.9倍を超える可能性もあるため、安全率(30%)が必要となる。そこで、以下の式(12)を満たすことが好ましい。
【数12】
【0055】
そして、上記の式(7)、式(8)及び式(12)から、以下の式(13)が算出される。
【数13】
【0056】
したがって、張り車装置22の質量Mが上記の式(13)を満たすように、錘体26の質量が設定されることが好ましい。これにより、かご2が急加速したときに、張り車装置22がさらに上昇して浮き上がるものの、ガバナロープ20に張力を付与することができ、しかも、ガバナロープ20の張力が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
【0057】
なお、上記の式(9)、式(11)及び式(13)において、加速度αは、かご2の最大加速度を用いる。例えば、かご2の加速度が一定(同じだけでなく、±10%の差異を有する略同じも含む)である場合には、加速度αは、かご2の定格加速度を用いてもよい。
【0058】
また、上記の式(9)、式(11)及び式(13)において、各ロープ部24a~24cのバネ定数ka~kcは、張り車装置22が走行時最大上昇位置X(α)maxに位置する場合の、各ロープ部24a~24cのバネ定数ka~kcを用いる。なお、ロープ部24の伸び量(例えば、停止時位置X(0)と張力ゼロ時位置X0との距離)が、ロープ部24の全体の長さに対して非常に小さいため、各ロープ部24a~24cのロープ長La~Lcは、例えば、張り車装置22が張力ゼロ時位置X0に位置しているときのロープ長を用いてもよい。
【0059】
また、上記シミュレーションにおいて、第2ロープ部24bのロープ長Lbに対する第3ロープ部24cのロープ長Lcの比率が0.5%~1.5%であるときに、張り車装置22は、走行時最大上昇位置X(α)maxに位置していた。したがって、例えば、第2ロープ部24bのロープ長Lbに対する第3ロープ部24cのロープ長Lcの比率が1.0%である場合の、各ロープ部24a~24cのバネ定数ka~kcが用いられてもよい。
【0060】
以上より、本実施形態に係るエレベータ1は、上下方向D3を走行するかご2と、前記の調速機8と、を備える。
【0061】
そして、本実施形態のように、調速機8は、かご2に接続される無端環状のガバナロープ20と、前記かご2の速度を検出するために、前記ガバナロープ20が巻き掛けられるガバナ車21と、前記ガバナロープ20に張力を付与するために、前記ガバナロープ20に吊り下げられる張り車装置22と、を備え、前記張り車装置22は、前記ガバナロープ20が巻き掛けられる張り車25と、前記張り車25に接続される錘体26と、を備え、前記張り車装置22の質量Mは、以下の式を満たす、という構成が好ましい。
ここで、m
1は、前記ガバナ車21の質量であり、m
2は、前記張り車25の質量であり、m
aは、前記ガバナロープ20のうち、前記かご2と接続される部分23から前記ガバナ車21までの第1ロープ部24aの質量であり、k
aは、前記第1ロープ部24aのバネ定数であり、m
bは、前記ガバナロープ20のうち、前記ガバナ車21から前記張り車25までの第2ロープ部24bの質量であり、k
bは、前記第2ロープ部24bのバネ定数であり、m
cは、前記ガバナロープ20のうち、前記かご2と接続される部分23から前記張り車25までの第3ロープ部24cの質量であり、k
cは、前記第3ロープ部24cのバネ定数であり、αは、前記かご2の加速度であり、gは、重力加速度である。
【0062】
斯かる構成によれば、かご2の走行に伴って、ガバナロープ20が走行したときに、張り車装置22が浮き上がって上昇するものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。これにより、張り車装置22の質量Mを適正にすることができる。
【0063】
また、本実施形態のように、調速機8においては、前記張り車装置22の質量Mは、以下の式を満たす、という構成が好ましい。
【0064】
斯かる構成によれば、かご2が急加速したときに、張り車装置22がさらに上昇して浮き上がるものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。これにより、張り車装置22の質量Mをさらに適正にすることができる。
【0065】
また、本実施形態のように、調速機8においては、前記張り車装置22の質量Mは、以下の式を満たす、という構成が好ましい。
【0066】
斯かる構成によれば、かご2が加速移動したときに、張り車装置22が浮き上がって上昇するものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。しかも、ガバナロープ20の張力が大きくなり過ぎることも抑制することができる。これにより、張り車装置22の質量Mをさらに適正にすることができる。
【0067】
なお、エレベータ1及び調速機8は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、エレベータ1及び調速機8は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
1…エレベータ、2…かご、2a…シーブ、2b…停止部、2c…伝達部、3…かごロープ、4…釣合錘、4a…シーブ、5…巻上機、5a…綱車、5b…駆動源、5c…制動部、6…かごレール、7…錘レール、8…調速機、8a…ガイド部、8b…把持部、9…処理部、20…ガバナロープ、21…ガバナ車、22…張り車装置、23…ロープ接続部、24…ロープ体、24a…第1ロープ部、24b…第2ロープ部、24c…第3ロープ部、25…張り車、25a…軸部、25b…外周部、26…錘体、26a…凹部、27…錘接続部、27a…板材、27b…固定具、27c…軸支材、28…被ガイド部、28a…板材、X1…昇降路
【要約】
【課題】 張り車装置の質量を適正にすることができる調速機を提供する。
【解決手段】 調速機は、かごに接続される無端環状のガバナロープと、かごの速度を検出するために、ガバナロープが巻き掛けられるガバナ車と、ガバナロープに張力を付与するために、ガバナロープに吊り下げられる張り車装置と、を備え、張り車装置は、ガバナロープが巻き掛けられる張り車と、張り車に接続される錘体と、を備え、張り車装置の質量は、所定の式を満たす。
【選択図】
図5