(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】ギヤケース構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20220706BHJP
【FI】
F16H57/04 H
F16H57/04 J
F16H57/04 N
(21)【出願番号】P 2021503439
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000790
(87)【国際公開番号】W WO2020179225
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019039625
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 友規
(72)【発明者】
【氏名】藤橋 脩
(72)【発明者】
【氏名】内林 昇平
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-62157(JP,U)
【文献】特開昭59-208266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のケーシングと第2のケーシングに分割して形成されたケーシングの内部にギヤを内蔵するとともに潤滑油を貯留し、前記ギヤの回転によって潤滑油を掻き揚げて潤滑油を前記第1及び第2のケーシングの内部の潤滑対象に供給するギヤケース構造であって、
前記第1のケーシング内に設けられた第1の内壁面と前記第2のケーシング内に設けられた第2の内壁面に亘って分割方向に延び、かつ分割方向のいずれか一方に向かって下方に傾斜して形成され、前記第1及び第2の内壁面間を伝う前記潤滑油を前記分割方向の下方に傾斜した側に導く段差を備え、
前記段差は、前記第1の内壁面に形成された第1の段差と前記第2の内壁面に形成された第2の段差とを有し、前記第1の段差と前記第2の段差の凹凸方向が互いに逆方向に形成され、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングとの分割位置において前記第1の段差と前記第2の段差とが互いに離間していることを特徴とするギヤケース構造。
【請求項2】
前記第1又は第2のケーシングは、前記ギヤを備えた第1の軸を回転可能に支持する側壁を有し、
前記第1又は第2の段差の下方側の端部は、前記第1の軸の支持部に向かって延びるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載のギヤケース構造。
【請求項3】
前記第1又は第2のケーシングの内側面には、前記第1の軸の支持部の周囲に前記第1又は第2のケーシングの内方に突出する突出部が形成され、
前記第1及び第2の段差は、前記突出部を回避して円弧状に形成された傾斜面を有することを特徴とする請求項2に記載のギヤケース構造。
【請求項4】
前記第1又は第2のケーシングは、前記第1の軸よりも上方に配置される第2の軸を回転可能に支持し、
前記第1又は第2のケーシングの側壁には、前記第2の軸の支持部に潤滑油を導く溝が形成されており、
前記第1又は第2の段差の上端部は、前記溝と連結していることを特徴とする請求項2または3に記載のギヤケース構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部でギヤによって潤滑油を掻き揚げて摺動部の潤滑を行うギヤケース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に使用される減速機(変速機)は、ケーシングの内部に複数のギヤを収納して構成されている。また、減速機は、ケーシング底部に潤滑油を溜め、ケーシングの内部で駆動するギヤによって潤滑油を掻き揚げて、ケーシング内部の各摺動部に供給する構造になっている。
例えば特許文献1に記載された減速機では、ドライブシャフトに連結されるディファレンシャル軸に設けられたリングギヤによって、ケーシングの内部に溜められている潤滑油を掻き上げ、ケーシング内の上部に設けられたオイルキャッチタンクに供給する。そして、この減速機は、オイルキャッチタンクから各摺動部に潤滑油を供給する構造になっている。
【0003】
一方、特許文献2には、トランスアクスルの内壁面に溝を設け、溝を伝って潤滑油を潤滑対象に導く構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-172779号公報
【文献】特開2015-230091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1や特許文献2のような減速機等のケーシング(ギヤケース)は、例えば左右2つに分割した構成になっており、夫々を鋳造によって形成することが多い。
また、傾斜しているケーシングの上壁の内壁面に特許文献2のように溝を設け、更にこの溝を左右方向に傾斜させることで、ケーシングの上壁の内壁面を伝う潤滑油を、溝を伝わせて左右方向に移動できる。これにより、ケーシング内部の左右端部付近に位置する潤滑対象に対して潤滑油を供給可能となる。
【0006】
しかしながら、特許文献1のケーシングのように内壁に溝を形成する場合には、型を抜く方向に溝が延びるようにするならば鋳造にて溝を形成可能であるものの、上記のように型を抜く方向から傾斜している場合には、鋳造にて溝を形成することは不可能である。特許文献1のような溝ではなく段差を設けることで潤滑油を導く構造としても、段差が左右のケーシングに亘って設けられている場合には、一方のケーシングで型抜きができたとしても、他方のケーシングでは型抜きができず、左右両方のケーシングを鋳造によって容易に製造できないといった問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、分割した形状のケーシングを有するギヤケースにおいて、内壁面を伝う潤滑油を大きく分割方向に導くことが可能になるともに、ケーシングを鋳造にて容易に製造可能となるギヤケース構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、第1のケーシングと第2のケーシングに分割して形成されたケーシングの内部にギヤを内蔵するとともに潤滑油を貯留し、前記ギヤの回転によって潤滑油を掻き揚げて潤滑油を前記第1及び第2のケーシングの内部の潤滑対象に供給するギヤケース構造であって、前記第1のケーシング内に設けられた第1の内壁面と前記第2のケーシング内に設けられた第2の内壁面に亘って分割方向に延び、かつ分割方向のいずれか一方に向かって下方に傾斜して形成され、前記第1及び第2の内壁面間を伝う前記潤滑油を前記分割方向の下方に傾斜した側に導く段差を備え、前記段差は、前記第1の内壁面に形成された第1の段差と前記第2の内壁面に形成された第2の段差とを有し、前記第1の段差と前記第2の段差の凹凸方向が互いに逆方向に形成され、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングとの分割位置において前記第1の段差と前記第2の段差とが互いに離間していることを特徴とする。
【0009】
これにより、ギヤの回転によって掻き揚げられた潤滑油の一部がケーシングの内壁面を伝って下方に移動する際に、段差を伝って分割方向の下方に傾斜した側に導かれ、段差に沿って流れてくる潤滑油を分割位置の上部から下部へ受け渡すことができる。
【0010】
また、第1及び第2の段差が分割方向に対して傾斜していても、分割された第1及び第2のいずれのケーシングも段差によって型抜きが不能になることがない。
好ましくは、第1又は第2のケーシングは、ギヤを備えた第1の軸を回転可能に支持する側壁を有し、第1又は第2の段差の下方側の端部は、前記第1の軸の支持部に向かって延びるように形成されるとよい。
【0011】
これにより、第1又は第2のケーシングの側壁に設けられ第1の軸の支持部が分割方向外方に突出した位置にあっても、当該支持部に対し潤滑油を供給できる。
好ましくは、第1又は第2のケーシングの内側面には、第1の軸の支持部の周囲に第1又は第2のケーシングの内方に突出する突出部が形成され、第1及び第2の段差は、前記突出部を回避して円弧状に形成された傾斜面を有するとよい。
【0012】
これにより、第1の軸の支持部の周囲に第1又は第2のケーシングの内方に突出する突出部が形成されていても、傾斜面がこの突出部を回避して円弧状に形成されているので、段差を伝う潤滑油が突出部の表面に流れずに傾斜面を伝って第1の軸の支持部に効率よく導くことが可能となる。
好ましくは、第1又は第2のケーシングは、第1の軸よりも上方に配置される第2の軸を回転可能に支持し、第1又は第2のケーシングの側壁には、前記第2の軸の支持部に潤滑油を導く溝が形成されており、第1又は第2の段差の上端部は、前記溝と連結しているとよい。
【0013】
これにより、第2の軸の支持部に溝を介して導かれる潤滑油の一部を、第1又は第2の段差によって溝からケーシングの分割方向逆方向に潤滑油を導いて、当該逆方向に位置する潤滑対象を潤滑できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のギヤケース構造によれば、内壁面に設けられた段差によって、内壁面を伝って下方に移動する潤滑油を導くことができ、分割構造のケーシングの側部に位置する潤滑対象を潤滑できる。
また、分割された第1及び第2のいずれのケーシングも段差によって型抜きが不能になることがなく、第1及び第2のケーシングを鋳造にて容易に製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態のギヤケース構造を採用した減速機の左側面図である。
【
図5】段差の形状と潤滑油の移動経路を示す模式図であり、上壁の内壁面を斜め下方から視た図である。
【
図6】段差の形状と潤滑油の移動経路を示す模式図であり、上壁の内壁面を正面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態のギヤケース構造を採用した減速機1の側面図である。
図2は、減速機1の内部構造を示す断面図である。
図3は、第1のケーシング2aの内部構造図である。
図4は、第2のケーシング2bの内部構造図である。なお、
図2は、
図1中に示すA-A部の断面図であり、
図3は、
図2中に示すB-B部の断面図であり、
図4は、
図2中に示すC-C部の断面図である。
【0017】
また、
図5及び
図6は、潤滑油の移動経路を示す模式図である。なお、
図5は、第1の段差36a、第2の段差36bが形成された第1のケーシング2aの第1の上壁35aの内壁面(第1の内壁面35a1)と第2のケーシング2bの第2の上壁35bの内壁面(第2の内壁面35b1)を下右方から視た図である。
図6は、第1のケーシング2aの第1の上壁35aの内壁面(第1の内壁面35a1)と第2のケーシング2bの第2の上壁35bの内壁面(第2の内壁面35b1)を下方から正面に見た図である。また、
図5、6において、潤滑油の移動経路を2点鎖線で例示している。
【0018】
本実施形態の減速機1は、例えば電気自動車に備えられ、車両の走行駆動輪を駆動するドライブシャフトと、走行駆動源であるモータとの間に介装されている。
図1、2に示すように、減速機1は、ケーシング2(ギヤケース)、ディファレンシャル軸3(第1の軸)、主軸4、カウンタ軸5(第2の軸)を備えている。
ケーシング2は、内部に空間を有する箱状に形成され、後述するギヤを収納するとともに、潤滑油を貯留可能である。ケーシング2は、左右方向略中央部で縦方向に第1のケーシング2a及び第2のケーシング2bに分割して構成されている。第1のケーシング2aはケーシング2の車両左方に配置される部位である。第2のケーシング2bはケーシング2の車両右方に配置される部位である。ケーシング2の左右側壁6、7、即ち第1のケーシング2aの左側壁6及び第2のケーシング2bの右側壁7には、ベアリング8a、8b、8cを嵌入したボス部9a、9b、9cが形成されている。ディファレンシャル軸3、主軸4及びカウンタ軸5の両端部は、ケーシングの2左右側壁6、7に嵌入されたベアリング8a、8b、8cを介してケーシング2に回転可能に支持されている。ディファレンシャル軸3、主軸4及びカウンタ軸5は、互いに平行に水平方向に延びるように配置されている。
【0019】
ディファレンシャル軸3、主軸4及びカウンタ軸5のうち、ディファレンシャル軸3は最も下方かつ前方に位置し、主軸4が最も上方かつ後方に配置されている。カウンタ軸5は、前後方向でディファレンシャル軸3と主軸4との間に配置され、主軸4よりもわずかに下方に配置されている。
ディファレンシャル軸3は、ケーシング2内で左右に分割されておりディファレンシャルギヤ15を介して互いに接続されている。ディファレンシャル軸3の両端部は、図示しない車両の左右のドライブシャフトが固定され、当該ドライブシャフトを介して車両の左右の走行駆動輪と連結している。また、ディファレンシャル軸3には出力ギヤ20(ギヤ)が固定されている。
【0020】
主軸4の右端部には、図示しないモータの出力軸が固定される。主軸4には、ケーシング2内に入力ギヤ21が固定(あるいは形成)されている。
カウンタ軸5には、入力ギヤ21と噛み合う第1の中間ギヤ22と、出力ギヤ20と噛み合う第2の中間ギヤ23とが軸線方向に並べて配置されている。第2の中間ギヤ23及び出力ギヤ20は、第1のケーシング2a内に配置され、ケーシング2の分割位置の近くの左右位置に配置されている。なお、ケーシング2の分割位置は、
図2中にD-D線で示す。第1の中間ギヤ22及び入力ギヤ21は、第1のケーシング2a内に配置され、第2の中間ギヤ23及び出力ギヤ20よりも左方側、即ち第1のケーシング2aの更に内部側に配置されている。
【0021】
モータの出力軸は、主軸4、入力ギヤ21、第1の中間ギヤ22、カウンタ軸5、第2の中間ギヤ23、出力ギヤ20、ディファレンシャル軸3を介して、ドライブシャフトと連結しており、モータの駆動によってドライブシャフトが駆動され、車両が走行駆動される。
減速機1においては、ディファレンシャル軸3の下方位置が、ケーシング2の内部空間の最も下方位置となる。第1のケーシング2aの左側壁6には、ボルト等で封止された注油口25が設けられており、当該注油口25から滑油が供給されてケーシング2の内部に潤滑油が封入される。なお、注油口25は、ディファレンシャル軸3と略同一の上下位置に配置されており、ディファレンシャル軸3よりわずかに下方位置まで潤滑油が貯留可能となっている。
【0022】
車両前進走行時に、出力ギヤ20はその下部が後方側に向かって回転する。したがって、車両前進走行時に出力ギヤ20の回転によって、ケーシング2内の潤滑油は、出力ギヤ20の後方かつ上方へ掻き上げられる。
図3、4に示すように、第1のケーシング2a及び第2のケーシング2bの内底部には、出力ギヤ20の外周端部に近接して後方側に、出力ギヤ20の接線方向に約数cm延びる下部ガイド30が設けられている。下部ガイド30は、先端、即ち上端の延長線が、主軸4とカウンタ軸5の間を向かって延びるように配置されている。
【0023】
したがって、出力ギヤ20によって掻き上げられた潤滑油の多くは、下部ガイド30に沿って、主軸4とカウンタ軸5の間を通過して、ケーシング2内の上部に到達する。
また、
図3~
図6に示すように、第1のケーシング2aの第1の上壁35a及び第2のケーシング2bの第2の上壁35bの夫々の第1及び第2の内壁面(35a1、35b1)は、前方に向かって下方に傾斜している。更に、第1のケーシング2aの第1の上壁35aの第1の内壁面(35a1)及び第2のケーシング2bの第2の上壁35bの第2の内壁面(35b1)には、ケーシング2内で潤滑油を右側に導く第1の段差36a、及び第2の段差36bが形成されている。
【0024】
また、第1のケーシング2aの左側壁6の内面の上部には、カウンタ軸5の上側に、カウンタ軸5を支持する支持部であるベアリング8bに潤滑油を導く凹部37(溝)が形成されている。
第1のケーシング2aの第1の内壁面(35a1)に形成された第1の段差36aは、カウンタ軸5の上側の凹部37を始点とし、前方に向かって第1のケーシング2aの右端面、即ち第2のケーシング2bとの合わせ面40まで略直線的に伸びている。第1の段差36aは、数mm程度下方に突出した段差である。第1の内壁面(35a1)における第1の段差36aの後側の部位41は上方に位置し、第1の段差36aの前側の部位42が下方に位置するように第1の段差36aが形成されている。
【0025】
一方、第2のケーシング2bの第2の内壁面(35b1)には、第2の段差36bが設けられている。第2の段差36bは、第2のケーシングの2bの左側面、即ち第1のケーシング2aとの合わせ面45を始点とし、当該合わせ面45から数mm程度右方に延び、この位置から滑らかに屈曲して第2のケーシング2bの右側壁7まで延びた傾斜面46を備えている。第2の段差36bは、第1のケーシング2a及び第2のケーシング2bの合わせ面40、45付近において、第1の段差36aの上側に数mm程度間隔をおいて相対するように形成されている。第2の内壁面(35b1)における第2の段差36bの後側の部位47は下方に位置し、第2の段差36bの前側の部位48が上方に位置するように第2の段差36bが形成されている。
【0026】
傾斜面46は、ディファレンシャル軸3の上方に位置し、第2のケーシング2bの右側壁7の内側面が下方かつ前方に傾斜して形成されている。
なお、第2のケーシング2bの右側壁7は、ディファレンシャル軸3の支持部であるボス部49(9c)において右側(
図4において奥側)に突出している。また、第2のケーシング2bの右側壁7の内側面には、ボス部49の上部に、ボス部49に固定されディファレンシャル軸3を支持する支持部であるベアリング8cに潤滑油を導く凹部50が形成されている。また、ボス部49が右側壁7より右方に突出するに伴って、ボス部49の周囲の部位はボス部49の左側面よりも内方側(左側)に突出して突出部51が形成されている。
【0027】
第2のケーシング2bの傾斜面46の終点は、凹部50の右側の底部となる右側壁7の内側面に位置する。また、傾斜面46は中間部で左側に円弧状に湾曲している。このように湾曲することで、傾斜面46が突出部51を左側に回避するように形成されている。
以上のように、第1のケーシング2a及び第2のケーシング2bには、夫々第1及び第2の内壁面(35a1、35b1)に第1の段差36a、第2の段差36bが設けられており、第1の段差36a、第2の段差36bは第1のケーシング2a及び第2のケーシング2bに亘って左右方向(分割方向)に延びるように設けられている。そして、第1の段差36a、第2の段差36bが下方に向かって右方に傾斜しているので、ケーシング2内で出力ギヤ20によって掻き揚げられ飛散して第1の内壁面(35a1)、第2の内壁面(35b1)に付着した潤滑油は、第1の段差36a、第2の段差36bを伝って下方に流れ第2のケーシング2bの右側に導かれる。
【0028】
図5、6に示すように、ケーシング2は、第1のケーシング2aと第2のケーシング2bに左右に分割しており、その合わせ面40、45において第1の段差36a、第2の段差36bがそのまま連続するように形成するのではなく、凹凸方向が互いに逆方向に形成され、前後方向に逆向きに互いに向かい合うように僅かに離間して形成されている。このように第1の段差36aと第2の段差36bとが僅かに離間しているので、第1のケーシング2aの第1の段差36aを伝って移動してきた潤滑油は、第1の段差36aと第2の段差36bとの間の隙間を通過して、第2のケーシング2bの第2の段差36bに付着し、当該第2の段差36bに受け渡すことができる。つまり、第1のケーシング2aの第1の段差36aの上を流れてきた潤滑油は、粘着力や表面張力などにより、特に第2のケーシング2bの第2の段差36bのエッジ部分に付着して、当該第2の段差36bに受け渡し、潤滑油を第2のケーシング2b内に誘導することができる。なお、第1のケーシング2aにおいては、第1の段差36aが右側の開口面側から見えるように形成されるので、第1のケーシング2aを成型する際に右側に型を外すことができる。また、第2のケーシング2bにおいては、第2の段差36bが左側の開口面側から見えるように形成されるので、第2のケーシング2bを成型する際に左側に型を外すことができる。このように、傾斜した段差36a、36bを有する第1のケーシング2a及び第2のケーシング2bのいずれも鋳造によって容易に製作可能となる。
【0029】
また、本実施形態では、第1のケーシング2aの第1の段差36aは、左側壁6の上部の内面におけるカウンタ軸5の上方に位置する凹部37を始点としているので、凹部37に流れカウンタ軸5を支持するベアリング8bに供給する潤滑油の一部を第1の段差36aに導くことができる。また、第2のケーシング2bの第2の段差36bは、右側壁7の内側面におけるディファレンシャル軸3の上方に位置する凹部50を終点としているので、第2の段差36bを伝って下方に移動してきた潤滑油を効率よくディファレンシャル軸3を支持するベアリング8cに供給できる。本実施形態では、ディファレンシャル軸3を支持するベアリング8cが配置されるボス部49の周囲に第2のケーシング2bの右側壁7の内側面よりさらに内方に突出する突出部51が形成されているが、第2の段差36bの一部を形成する傾斜面46が湾曲して突出部51を避けるように形成されているので、傾斜面46を伝う潤滑油が途中で突出部51の表面に流れずに凹部50に効率よく導くことが可能となり、ディファレンシャル軸3の右側を支持するベアリング8cの潤滑性を向上できる。
【0030】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定するものではない。本発明は、各種車両の減速機以外でも、内部で潤滑油を跳ね上げて潤滑させるギヤを内蔵するギヤケースに対し広く適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 減速機
2 ケーシング(ギヤケース)
2a 第1のケーシング
2b 第2のケーシング
3 ディファレンシャル軸(第1の軸)
5 カウンタ軸(第2の軸)
8b ベアリング(第2の軸の支持部)
8c ベアリング(第1の軸の支持部)
20 出力ギヤ(ギヤ)
35a1 第1の内壁面
35b1 第2の内壁面
36a 第1の段差
36b 第2の段差
37 凹部(溝)
46 傾斜面
49 ボス部
51 突出部