(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 23/30 20060101AFI20220706BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20220706BHJP
B29C 64/386 20170101ALI20220706BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220706BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20220706BHJP
【FI】
G09B23/30
A61N5/10 P
B29C64/386
B33Y10/00
B33Y50/00
(21)【出願番号】P 2017192717
(22)【出願日】2017-10-02
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】516084996
【氏名又は名称】株式会社イノベーションゲート
(73)【特許権者】
【識別番号】515187869
【氏名又は名称】株式会社テトラフェイス
(73)【特許権者】
【識別番号】517274408
【氏名又は名称】株式会社ツクルス
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080528
【氏名又は名称】下山 冨士男
(74)【代理人】
【識別番号】100073601
【氏名又は名称】前田 和男
(72)【発明者】
【氏名】松原 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】水野 修
(72)【発明者】
【氏名】相馬 達也
(72)【発明者】
【氏名】武田 賢
(72)【発明者】
【氏名】角谷 倫之
(72)【発明者】
【氏名】土橋 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清和
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸太
(72)【発明者】
【氏名】神宮 啓一
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0050052(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0160513(US,A1)
【文献】特表2016-536085(JP,A)
【文献】特開2017-096997(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02977008(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/30
A61N 5/10
B29C 64/386
B33Y 10/00
B33Y 50/00
G01T 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、
放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、
前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、
前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、
前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、
をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、
前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、
事前に計測された3Dプリンタの出力素材のCT値に基づいて、当該出力素材のCT値と異なるCT値を持つ領域を再現するための等価物質の充填率を自動的に算出し、その領域を算出した充填率に基づいた格子状又はハニカム構造状のパターンデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラム。
【請求項2】
放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、
放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、
前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、
前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、
前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、
をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、
前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、
少なくとも骨と軟質組織を含む二つ以上の領域を抽出し更に一つ以上の切断面を設定するデータ処理が含まれるものであるとともに、
事前に計測された3Dプリンタの出力素材のCT値に基づいて、当該出力素材のCT値と異なるCT値を持つ領域を再現するための等価物質の充填率を自動的に算出し、その領域を算出した充填率に基づいた格子状又はハニカム構造状のパターンデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラム。
【請求項3】
放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、
放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、
前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、
前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、
前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、
をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、
前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、
抽出した骨領域の画像から更にCT値の低い内部領域を抽出し、当該内部領域の体積に相当する分を外側から削除することで、前記骨領域の形状を内部に空洞を持たない等価な体積を持つ骨形状のデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラム。
【請求項4】
放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、
放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、
前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、
前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、
前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、
をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、
前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、
少なくとも骨と軟質組織を含む二つ以上の領域を抽出し更に一つ以上の切断面を設定するデータ処理が含まれるとともに、
抽出した骨領域の画像から更にCT値の低い内部領域を抽出し、当該内部領域の体積に相当する分を外側から削除することで、前記骨領域の形状を内部に空洞を持たない等価な体積を持つ骨形状のデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラム。
【請求項5】
放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、
放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、
前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、
前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、
前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、
をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、
前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、
事前に計測された3Dプリンタの出力素材のCT値に基づいて、当該出力素材のCT値と異なるCT値を持つ領域を再現するための等価物質の充填率を自動的に算出し、その領域を算出した充填率に基づいた格子状又はハニカム構造状のパターンデータに置き換えるデータ処理を含むとともに、
抽出した骨領域の画像から更にCT値の低い内部領域を抽出し、当該内部領域の体積に相当する分を外側から削除することで、前記骨領域の形状を内部に空洞を持たない等価な体積を持つ骨形状のデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラム。
【請求項6】
放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、
放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、
前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、
前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、
前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、
をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、
前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、
少なくとも骨と軟質組織を含む二つ以上の領域を抽出し更に一つ以上の切断面を設定するデータ処理が含まれるとともに、
事前に計測された3Dプリンタの出力素材のCT値に基づいて、当該出力素材のCT値と異なるCT値を持つ領域を再現するための等価物質の充填率を自動的に算出し、その領域を算出した充填率に基づいた格子状又はハニカム構造状のパターンデータに置き換えるデータ処理を含み、
更に、抽出した骨領域の画像から更にCT値の低い内部領域を抽出し、当該内部領域の体積に相当する分を外側から削除することで、前記骨領域の形状を内部に空洞を持たない等価な体積を持つ骨形状のデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における放射線治療では、放射線治療計画装置を用いて腫瘍等に、例えば放射線の線量を集中させながら正常組織には極力照射されないように治療計画を作成する必要がある。
【0003】
但し、この治療計画はコンピュータ上で計算されるため計算した通りに放射線が患者に照射されるかどうかはわからない。
【0004】
そこで、患者の治療計画毎にファントムを用いて、その治療計画の精度検証を行っている。
【0005】
しかし、従来用いられているファントムは、その形状が楕円形状や円柱形状が中心であり、中には人間を模して作成された形をした人形型のファントムも存在するが、その材質もX線の減弱が均質なファントムであり、実際に治療する患者の体型及び患者体内のX線の減弱を正確に反映しておらず、正確な検証ができていないのが実情であり、現状である。
【0006】
本発明に関連する技術として、特許文献1には、円柱形や楕円形のファントムに電離箱線量計を挿入して線量測定するように構成した放射線治療における治療前検証方法が開示され、また、特許文献2にはあらかじめファントム自体に内蔵された検出器を用いて線量測定するように構成したファントムが開示されている。
【0007】
しかし、これら特許文献1、特許文献2の技術では、患者体型に近いファントムを構築することができるものの、ファントム内部は水等価で均質であり、肺や軟部組織等、代表的な身体臓器を再現することは困難で、既述した場合と同様、患者の体型及び体内の放射線(X線)の減弱率を忠実に再現することができず、正確な放射線治療計画の検証ができないという問題を包含している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2007-519426号公報
【文献】特開2005-148033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における上記事情に鑑み開発されたものであり、治療計画作成時に使用した患者のCT画像データ群を基に、3Dプリンタを使用し、放射線治療計画の線量検証が可能で、人体外形及び人体内組織の線減弱率を調整可能な高精度なファントムを得ることができる個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成する個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、当該個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置は、放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群を記憶する記憶手段と、前記CT画像データ群における各画素のCT値に応じて体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、前記ファントム用画像データを基に体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるデータ処理と、前記ファントム用画像データを基に骨の領域を空洞とするデータ処理と、前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、を実行する画像データ再構成手段と、前記画像データ再構成手段の処理結果を記憶するファントム用画像データ記憶手段と、前記各データ処理を行いファントム用画像データ記憶手段に記憶されたファントム用画像データを3Dプリント用データに変換する3Dプリント用データ変換手段と、前記3Dプリント用データ変換手段から転送される前記3Dプリント用データを基に患者の前記各部位の線減弱率を模擬した線減弱率を有するように調整した出力素材を用いて、前記3Dプリント用データに対応した体表面、軟質組織を備え、空洞領域及び装填位置を具備するファントムを出力する3Dプリンタと、出力したファントムを完成品とするために、前記空洞領域に充填される患者の骨の線減弱率を模擬した等価物質及び前記装填位置に装填される線量検証測定具と、を有するもので、当該個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムは、放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、事前に計測された3Dプリンタの出力素材のCT値に基づいて、当該出力素材のCT値と異なるCT値を持つ領域を再現するための等価物質の充填率を自動的に算出し、その領域を算出した充填率に基づいた格子状又はハニカム構造状のパターンデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1乃至6記載の発明によれば、患者の組織状態を忠実に再現した状態のファントムの作成支援を行うことが可能で、また、3Dプリンタによるプリント出力後一体化されてファントムとなる複数のファントム要素を作成して組み立てる構成を採用して実際の患者の組織状態を忠実に再現した状態のファントムの作成支援を行うことが可能な個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置によるファントムの作成支援を実現し、更にはCT画像データ群の各画素のCT値をより的確に反映した高精度のファントムを作成し得るとともに、石膏のような等価物質を流し込めるように骨領域を空洞とする後続のデータ処理、更には等価物質の充填率設定の適正化を実現できる個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムを実現し提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は本実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成・検証支援方法の一連の工程を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は本実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置によりデータ処理する患者のCT画像の一例を示す図である。
【
図4】
図4は本実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置により抽出した体表面、骨、軟質組織、空気の体軸断面(Axial)、横切り断面(Coronal)、縦切断面(Sagital)、体表面の各画像データに基づく各画像の表示例を示す図である。
【
図5】
図5は本実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置により骨の部分を空洞となるように設定した場合におけるサジタル画像の一部の表示例を示す図である。
【
図6】
図6は本実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置により抽出した体表面、骨、軟質組織、空気の体軸断面(Axial)、横切り断面(Coronal)、縦切断面(Sagital)、体表面の各画像データの各面に対して更に二つに分割できるようにデータ設定した場合の各画像の表示例を示す図である。
【
図7】
図7は本実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置により抽出した体表面、骨、軟質組織、空気の体軸断面(Axial)、横切り断面(Coronal)、縦切断面(Sagital)の各画像データの各面に対して更に二つに分割できるようにデータ設定した場合の各画像の表示例を示す図である。
【
図8】
図8左欄、右欄は本実施例に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置において、3Dプリンタによりプリント出力した2分割一体型のファントムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、治療計画作成時に使用したCT画像データを基に、3Dプリンタを使用して、放射線治療計画の線量検証が可能で、人体外形及び人体内組織の線減弱率を調整可能な高精度なファントムを得ることができる個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムを実現し提供するという目的を、個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置は、すなわち、放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群を記憶する記憶手段と、前記CT画像データ群における各画素のCT値に応じて体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、前記ファントム用画像データを基に体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるデータ処理と、前記ファントム用画像データを基に骨の領域を空洞とするデータ処理と、前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、を実行する画像データ再構成手段と、前記画像データ再構成手段の処理結果を記憶するファントム用画像データ記憶手段と、前記各データ処理を行いファントム用画像データ記憶手段に記憶されたファントム用画像データを3Dプリント用データに変換する3Dプリント用データ変換手段と、前記3Dプリント用データ変換手段から転送される前記3Dプリント用データを基に患者の前記各部位の線減弱率を模擬した線減弱率を有するように調整した出力素材を用いて、前記3Dプリント用データに対応した体表面、軟質組織を備え、空洞領域及び装填位置を具備するファントムを出力する3Dプリンタと、出力したファントムを完成品とするために、前記空洞領域に充填される患者の骨の線減弱率を模擬した等価物質及び前記装填位置に装填される線量検証測定具と、を具備して構成し、当該個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置に係る個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムは、すなわち、放射線治療の治療計画の線量検証を患者毎に行うことができるファントムを作成するための個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであって、放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理と、前記体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ出力時に当該3Dプリンタにおける出力素材で埋めるようにするデータ処理と、前記骨の領域を空洞とするデータ処理と、前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理と、をコンピュータ実行可能とした個別患者用3Dプリントファントム作成支援プログラムであり、前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理には、事前に計測された3Dプリンタの出力素材のCT値に基づいて、当該出力素材のCT値と異なるCT値を持つ領域を再現するための等価物質の充填率を自動的に算出し、その領域を算出した充填率に基づいた格子状又はハニカム構造状のパターンデータに置き換えるデータ処理を含むことを特徴とした構成により実現した。
【実施例】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施例、すなわち、個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置に係る3Dプリントファントム作成支援プログラム、更には、フアントム及び3Dプリントファントム作成・検証支援方法について詳細に説明する。
【0015】
ここに、ファントムとは、患者の人体組織と近似した材料で作成した人体模擬模型と定義して以下の説明を行う。
【0016】
このファントムは、放射線測定器の校正、又は放射線診断や放射線治療の際の患者のための基礎データを求めて、一層正確な線量測定を実現したり、又は診療や治療に役立てたり、装置の性能を検査したりする用途を有するものである。
【0017】
本実施例に係る
3Dプリントファントム作成支援プログラムが支援対象とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置1、すなわち、換言すると、患者個別検証用とも言うべき3Dプリントファントム作成支援装置1は、
図1に示すように、この装置全体の制御を行う制御手段2と、3Dプリントファントム作成支援プログラム(以下単に「プログラム」という)を格納したプログラムメモリ3と、放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群を記憶する記憶手段4と、前記プログラムに基づき、前記CT画像データ群における各画素のCT値に応じて体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理、前記ファントム用画像データを基に体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ12の出力時に当該3Dプリンタ11における出力素材で埋めるデータ処理、前記ファントム用画像データを基に骨の領域を空洞とするデータ処理、前記ファントム用画像データを基に線量検証測定具の装填位置の設定を行うデータ処理等を実行し、データ処理したファントム用画像データを生成する画像データ再構成手段5と、前記画像データ再構成手段4の処理結果を記憶するファントム用画像データ記憶手段6と、前記各データ処理を行いファントム用画像データ記憶手段6に記憶されたファントム用画像データを例えばSTL形式の3Dプリントデータに変換する3Dプリントデータ変換手段7と、前記3Dプリントデータを記憶する3Dプリント用データ記憶手段8と、前記STL形式の3Dプリントデータを外部に転送するための転送用インターフェース9と、各種画像等を表示する表示手段10と、データ処理に必要な文字、数字等を入力するための入力手段11と、前記3Dプリントデータ記憶手段8から転送用インターフェース9を介して転送される前記3Dプリントデータを基に患者の前記各部位の線減弱率を模擬した線減弱率を有するように調整した例えばABS樹脂等からなる出力素材を用いて、前記3Dプリントデータに対応した体表面、軟質組織を備え、空洞領域及び装填位置を具備するファントム21を出力する3Dプリンタ12と、出力したファントム21を完成品とするために、前記空洞領域に充填される患者の骨の線減弱率を模擬した図示しない例えば石膏等の等価物質及び前記装填位置に装填される図示しないがチェンバー装置等の線量検証測定具と、を有している。
【0018】
次に、上述した本実施例に係る
3Dプリントファントム作成支援プログラムが支援対象とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置1を使用して実行する個別患者用3Dプリントファントム作成・検証支援方法について、
図2、及び
図3乃至
図8をも参照して説明する。
【0019】
まず、前記画像データ再構成手段5は、オペレータの入力手段11からの入力操作に応じて、制御手段2の制御の基に、前記プログラムに基づき
図3に示す表示形態となる患者のT画像データ群における各画素のCT値に応じて体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理を行う。
【0020】
抽出したファントム用画像データに対応する体軸断面(Axial)、横切り断面(Coronal)、縦切断面(Sagital)、及び体表面の各画像の表示例を
図4に示す。
【0021】
次に、前記画像データ再構成手段5は、オペレータの入力手段11からの入力操作に応じて、前記ファントム用画像データを基に体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ12の出力時に当該3Dプリンタ12における出力素材で埋めるデータ設定、前記ファントム用画像データを基に骨の領域を空洞とするデータ設定処理を実行する。
【0022】
上述した体表面、軟質組織の領域を3Dプリンタ12の出力時に当該3Dプリンタ12における出力素材で埋めるデータ設定においては、患者の体表面や軟質組織の領域に関する平均CT値に合わせて出力素材の素材充填率を任意に変更(50~100%)する設定も行う。
【0023】
また、骨の領域を空洞とするデータ設定においては、3Dプリンタ12によるファントム21の出力後に、当該骨の領域に当該骨のX線減弱率と同等のX線減弱率を有するように調整した等価物質である例えば石膏を流し込めるような形状になるようにデータ設定を行うものである。
【0024】
図5は、骨の領域を空洞とするデータ設定を行ったファントム用画像データに対応するサジタル画像の一部の表示例を示すものである。
【0025】
次に、前記画像データ再構成手段5は、オペレータの入力手段11からの入力操作に応じて、前記ファントム用画像データを基に指定した体軸断面(Axial)、横切り断面(Coronal)、縦切断面(Sagital)、及び体表面の各面の画像データに対して、3Dプリンタ12による出力後において断面を境に二つに分離したファントム要素21a、21bとなるようにデータ編集する。
【0026】
この際、断面位置のデータ編集や、図示しないが断面に検証フィルムを装填する位置のデータ編集、図示しないが分離したファントム要素を一体に合体できるような雌雄の結合用ファク形状のデータ編集も併せて行う。
【0027】
図6、
図7に指定した体軸断面(Axial)、横切り断面(Coronal)、縦切断面(Sagital)の各面の画像データに対応する画像表示例を示す。
【0028】
このようにして、上述したような各種のデータ処理を行ったファントム用画像データは、前記ファントム用画像データ記憶手段6に記憶される。
【0029】
次に、3Dプリントデータ変換手段7は、オペレータの入力手段11からの入力操作に応じて、制御手段2の制御の基に、前記ファントム用画像データ記憶手段6に記憶されているファントム用画像データを例えばSTL形式の3Dプリントデータに変換する。
【0030】
変換された前記3Dプリントデータは、前記3Dプリント用データ記憶手段8に記憶される。
【0031】
オペレータの入力手段11からの入力操作に応じて、3Dプリント用データ記憶手段8に記憶されている前記3Dプリントデータは転送用インターフェース9を経て、3Dプリンタ12に転送する。
【0032】
これにより、前記3Dプリンタ12は、前記3Dプリント用データを基に前記ファントム用画像データに対応したファントム要素21a、21bからなるファントム21を患者の各部位の線減弱率を模擬した線減弱率を有する出力素材を用いて例えば
図8に示す形態でプリント出力する。
【0033】
次に、プリント出力したファントム21における空洞領域に患者の骨の線減弱率を模擬した石膏等の等価物質を充填するとともに、出力したファントム21における装填位置にチェンバー装置のような線量検証測定具を装填してファントム21を完成品とする。
【0034】
なお、
図8左欄、右欄は、2分割からなるファントム要素21a、21bを連結して一体型のファントム21とした例を示すものである。
【0035】
そして、上述した工程を経て完成したファントム21を用いて当該患者の治療計画に基づく線量検証を実行する。
【0036】
以上説明した本実施例の3Dプリントファントム作成支援プログラムが支援対象とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置1によれば、これまで実現不可能であった実際の患者の組織状態を忠実に再現した状態のファントム21の作成支援を行うことができる。
【0037】
また、本実施例の3Dプリントファントム作成支援プログラムが支援対象とする個別患者用3Dプリントファントム作成・検証支援方法によれば、これまで実現不可能であった実際の患者の組織状態を忠実に再現した状態のファントム21の作成支援を行い、更に作成したファントム21を使用して当該患者に関する放射線治療計画の精度検証を的確に行うことが可能となり、これまでの既存のファントムでは発見が困難であった放射線治療計画のエラーを検出することができ、この結果、これまで以上により高精度で高品質な放射線治療を実現することができるようになる。
【0038】
従来技術においては、患者の体型に近い形態のファントムを構築する技術は存在するものの、この場合のファントム内部は水等価で均質であり、患者の肺や軟質組織等、代表的な臓器類を高精度で再現することはできなかった。
【0039】
しかし、本実施例に係るファントム21によれば、CT画像情報群と3Dプリンタ12の技術を用いることで、当該ファントム21において、患者の体型及び体内の組織に対応してボクセル単位でのX線減弱率を再現することができ、実際の患者に放射線を照射した状態をより忠実に模擬することが可能となる。
【0040】
ここで、CT画像に含まれる各部位のCT値と3Dプリンタ12の出力素材との関係及び軟部組織の充填率とCT値との関係、及び、石膏について言及すると、軟部組織の平均CT値:患者では12.1±124.5HU、ファントム21では13.0±144.3HU、骨:患者では771.5±405.3HU、ファントム21では439.5±137.0HUとなる例を挙げることができる。
また、軟部組織は、PLAを充填率100%で作成し、骨は水と石膏を2:1で混合して作成する。
【0041】
軟部組織については、充填率が10%でCT値は-850HU、20%で-750HU、30%で-650HU、40%で-550HU、50%で-450HU、60%で-350HU、70%で-250HU、80%で-150HU、90%で-50HU、100%で-25HUの例を挙げることができる。
【0042】
さらに、等価物質である石膏については、液体状の石膏を流し込んで固めるものである。
【0043】
すなわち、通常の鋳型を作成してファントムを作成する従来技術ではボクセル単位でのX線減弱率の変更を行うことは不可能であったが、本実施例に係るファントム21によれば、そのような問題を解決することができる。
【0044】
本実施例の3Dプリントファントム作成支援プログラムが支援対象とする個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置1、個別患者用3Dプリントファントム作成・検証支援方法について更に言及すると、CT画像データ群から骨と軟質組織を含む二つ以上の領域を抽出し、骨、軟質組織の領域は3Dプリンタ12で出力させない(空洞とする)モデリングデータを自動作成し、そのデータを3Dプリンタ12に送り、既述したようなファントム21を出力するようにすることもできる。
【0045】
そして、出力させないことで生じる骨と軟質組織に相当する領域(空洞)に、骨及び軟質組織と同等の線減弱率を有する等価物質を流し込むことにより、患者の体外、及び体内のX縮減弱率をボクセル単位で忠実に再現できるファントム21を作成するようにすることもできる。
【0046】
この際、骨及び軟部組織の空間に流し込んだ等価物質は外に漏れない構造とすることが肝要となる。
【0047】
また、作成したファントム21において、任意の位置にX線の線量を測定するためのチェンバー装置、フィルム、又は任意の構造物を挿入できる構造を任意にモデリングすることができる。
【0048】
更に、前記3Dプリンタ12によって分割状態の二つのファントム要素21a、21bを互いに接合し一体化したファントム21として完成することが可能な構造として出力できる。
【0049】
また、等価物質を流し込む対象領域のうち他の構造要素が接している箇所について、他の材料で穴埋めして外に漏れない構成とすることもできる。
【0050】
更には、骨及び軟部組織と同等の放射線線減弱率を有する物質を流し込む対象領域のうち、体表外又は切断面のいずれにも接さず他の領域に完全に内包される領域を自動的に検知し、体表外、切断面、別の領域のいずれかへの接続部を自動的に生成することで、外部から物質を流し込める構成とすることもできる。
【0051】
更にまた、作成するファントム21において、任意の位置に電離箱線量計等の各種線量計、フィルム又は任意の構造物を挿入できる構造については3Dプリンタ12に転送するファントム用画像データのデータ設定により容易に実現することができる。
【0052】
また、前記プログラムに関しては、前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理に、事前に計測された3Dプリンタ12の出力素材のCT値に基づいて、当該出力素材のCT値と異なるCT値を持つ領域を再現するための等価物質の充填率を自動的に算出し、その領域を算出した充填率に基づいた格子状又はハニカム構造状のパターンデータに置き換えるデータ処理を付加することもでき、これにより、3Dプリンタ12によるファントム21用の出力素材を調整してより適切なCT値を持った出力素材によりCT画像データ群の各画素のCT値をより的確に反映した高精度のファントム21を得ることが可能となる。
【0053】
また、前記プログラムに関しては、前記放射線治療計画用に撮像した患者のCT画像データ群の各画素のCT値に応じて、体表面、骨、軟質組織、空気からなるファントム用画像データを自動的に抽出する処理に、抽出した骨領域の画像から更にCT値の低い内部領域を抽出し、当該内部領域の体積に相当する分を外側から削除することで、前記骨領域の形状を内部に空洞を持たない等価な体積を持つ骨形状のデータに置き換えるデータ処理を付加することもでき、これにより、石膏のような等価物質を流し込めるように骨領域を空洞とする後続のデータ処理、更には等価物質の充填率設定の適正化を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によるファントムは、放射線療法における治療計画の作成検証や、放射線発生装置の校正用ファントムとして好適に用いることができる。また、本発明は、X線コンピュータ断層撮影画像の他、磁気共鳴断層画像(MRI断層画像)、陽電子放射断層画像等に基づくファントム作成支援技術として広範に応用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 個別患者用3Dプリントファントム作成支援装置
2 制御手段
3 プログラムメモリ
4 記憶手段
5 画像データ再構成手段
6 ファントム用画像データ記憶手段
7 3Dプリントデータ変換手段
8 3Dプリント用データ記憶手段
9 転送インターフェース
10 表示手段
11 入力手段
12 3Dプリンタ
21 ファントム
21a ファントム要素
21b ファントム要素