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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】人工肝組織及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220706BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
C12N5/071
A61L27/38 200
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018015827
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019129775
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 研究課題名:「積層化細胞シートを用いた創薬試験用立体組織モデル」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】加川 友己
(72)【発明者】
【氏名】坂口 勝久
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛嗣
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/024206(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/101774(WO,A1)
【文献】特開2007-053972(JP,A)
【文献】J Biomed Mater Res,2002年,Vol.62,P.464-470
【文献】Molecular Biology of the Cell,2011年,Vol.22, No.24,Abstract No.:1309
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/071
A61L 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞接着性ハイドロゲル床と、
前記細胞接着性ハイドロゲル床の上に播種された肝細胞と、
前記肝細胞を被覆する、間質細胞を含むシート状細胞群と、
を含
前記細胞接着性ハイドロゲル床の厚みが、100μm以上である、人工肝組織。
【請求項2】
前記シート状細胞群が、細胞シートである、請求項1に記載の人工肝組織。
【請求項3】
前記細胞シートが、収縮した細胞シートである、請求項2に記載の人工肝組織。
【請求項4】
前記間質細胞が、線維芽細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の人工肝組織。
【請求項5】
前記細胞接着性ハイドロゲル床が、コラーゲンゲル床である、請求項1~4のいずれか1項に記載の人工肝組織。
【請求項6】
薬剤代謝の評価に用いるための、請求項1~5のいずれか1項に記載の人工肝組織。
【請求項7】
人工肝組織の製造方法であって、
(i)培養基材上に細胞接着性ハイドロゲル床を形成する工程、
(ii)前記細胞接着性ハイドロゲル床の上に、肝細胞を播種して、培養する工程、
(iii)前記肝細胞の上に、間質細胞を含むシート状細胞群を載せ、培養する工程、
を含
前記細胞接着性ハイドロゲル床の厚みが、100μm以上である、方法。
【請求項8】
前記シート状細胞群が、細胞シートである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞シートが、刺激応答性培養基材上で培養された細胞群を、刺激を与えることで剥離させることで得られた細胞シートである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞シートが、収縮した細胞シートである、請求項又はに記載の方法。
【請求項11】
前記間質細胞が、線維芽細胞である、請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞接着性ハイドロゲル床が、コラーゲンゲル床である、請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
人工肝組織が、薬剤代謝の評価に用いるための人工肝組織である、請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工肝組織に関する。また、本発明は人工肝組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、糖新生、グリコーゲン貯蔵、脂質代謝、血漿タンパク質の産生や、ビリルビン代謝、ホルモン代謝、ビタミン代謝、薬物代謝及びアルコール代謝等といった代謝機能を担う重要な臓器である。全ての生体組織は、ある程度薬物を代謝する能力を有しているが、その中でも特に肝臓が薬物代謝を活発に行う臓器として知られている。
【0003】
薬物代謝は、大きく分けて、第1相(変性)、第2相(抱合)及び第3相(追加変性及び排出)の反応からなり、第1相(変性)及び第2相(抱合)の反応は肝細胞が有する酵素がその多くを担う。例えば、肝細胞は、第1相反応に関与する、加水分解反応を担う加水分解酵素、酸化反応や還元反応に重要な役割を果たすシトクロムP450(CYP)、第2相反応に関与し、硫酸、酢酸、グルタチオン又はグルクロン酸などを付与する抱合酵素などを有する。薬物代謝においてCYPによる酸化反応は特に重要であり、CYP酵素は生物種ごとに数十種類存在し、それぞれ基質特異性を有している。CYP酵素は、薬物を投与することによって発現が誘導されたり、その反応が阻害されたりすることがある。
【0004】
経口投与された薬物は、消化管から吸収され、肝臓を通過した後に全身へと循環される。そのため、患部へ到達する前に薬物代謝されてしまうと、所望の効果を十分に発揮することができない。また、逆に薬物が長期間分解されずに残存すると、薬物性肝障害などを引き起こす可能性がある。そのため、創薬開発において、動物やヒトに薬物投与を行う試験を計画する際、事前に当該薬物の代謝速度を予測することが重要となる。
【0005】
現在、このような薬物の代謝速度を予測する方法として、凍結ヒト肝細胞を用い、懸濁状態で培養した後に対象薬物を投与し、その代謝速度から、当該薬物の生体内での代謝速度を予測する方法が採用されている。しかしながら、初代ヒト肝細胞は、in vitroの培養において数時間で失活してしまうために、特に代謝が遅い薬物を用いる場合は、代謝速度を予測することが困難となっている。そのような状況の下、様々な研究開発が行われており、肝細胞の活性を維持するような培養系の開発が行われている。
【0006】
例えば、非特許文献1及び2には、直径約500μmの円形に肝実質細胞を「島」状に播種し、その周辺を3T3-J2マウス線維芽細胞で取り囲む系を開示している。この系では、活性を維持するために肝実質細胞の「島」同士の中心間の距離が、約1200μmとなるよう厳密に設計さている。
【0007】
非特許文献3及び4には、タイプIコラーゲンでコートされたウェル底面上で、肝実質細胞と非実質性間質細胞を単層状で共培養する系を開示している。
【0008】
非特許文献5には、特殊なポリマーが被覆され、直径100μmの円形状領域(100μm間隔で配列)のみに細胞が接着できるように加工されたマルチウェルプレートが開示されている。このプレートに、フィーダー細胞(非実質性間質細胞)を播種した後に、肝実質細胞を播種することにより、スフェロイドを形成させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Khetani & Bhatia(2008),Nat.Biotechnol.26:120-126.
【文献】Chan et al.(2013),Drug Metab.Dispos.41:2024-2032.
【文献】Bonn et al.(2016),Drug Metab.Dispos.44:527-533.
【文献】Hultman et al.(2016),Mol.Pharmaceutics,13:2796-2807.
【文献】Ohkura et al.(2014),Drug Metab.Pharmacokinet.,29:373-378.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、長時間、肝細胞の活性、特に、薬剤代謝の活性を維持し、創薬開発に用いることができる、人工肝組織を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、驚くべきことに、細胞接着性ハイドロゲル床に肝細胞を播種し、その上に間質細胞を含むシート状細胞群を被覆することにより、従来の人工肝組織を凌駕する活性を維持する人工肝組織を得ることができることを見出した。すなわち、本発明は以下の内容が含まれる。
【0012】
[1] 細胞接着性ハイドロゲル床と、
前記細胞接着性ハイドロゲル床の上に播種された肝細胞と、
前記肝細胞を被覆する、間質細胞を含むシート状細胞群と、
を含む、人工肝組織。
[2] 前記シート状細胞群が、細胞シートである、[1]に記載の人工肝組織。
[3] 前記細胞シートが、収縮した細胞シートである、[2]に記載の人工肝組織。
[4] 前記間質細胞が、線維芽細胞である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の人工肝組織。
[5] 前記細胞接着性ハイドロゲル床が、コラーゲンゲル床である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の人工肝組織。
[6] 薬剤代謝の評価に用いるための、[1]~[5]のいずれか1項に記載の人工肝組織。
【0013】
[7] 人工肝組織の製造方法であって、
(i)培養基材上にコラーゲン床を形成する工程、
(ii)前記細胞接着性ハイドロゲル床の上に、肝細胞を播種して、培養する工程、
(iii)前記肝細胞の上に、間質細胞を含むシート状細胞群を載せ、培養する工程、
を含む、方法。
[8] 前記シート状細胞群が、細胞シートである、[7]に記載の方法。
[9] 前記細胞シートが、刺激応答性培養基材上で培養された細胞群を、刺激を与えることで剥離させることで得られた細胞シートである、[8]に記載の方法。
[10] 前記細胞シートが、収縮した細胞シートである、[8]又は[9]に記載の方法。
[11] 前記間質細胞が、線維芽細胞である、[7]~[10]のいずれか1項に記載の方法。
[12] 前記細胞接着性ハイドロゲル床が、コラーゲンゲル床である、[7]~[11]のいずれか1項に記載の方法。
[13]人工肝組織が、薬剤代謝の評価に用いるための人工肝組織である、[7]~[12]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のように、培養面に対して特殊なパターニングを設けることによって肝細胞の空間的な位置を厳密に制御することを必要とせず、長時間、肝細胞の活性、特に、薬剤代謝の活性を維持し、創薬開発に用いることができる人工肝組織を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施態様における、本発明の人工肝組織を作製する方法及び得られる人工肝組織の概略図である。
図2】一実施態様における、本発明の人工肝組織を作製する方法の培養スケジュールを示す。
図3】一実施例における、本発明の人工肝組織の薬剤代謝活性を示す。(A)CYP1A2酵素活性、(B)CYP3A4酵素活性。
図4】一実施例における、長期間培養後(0、5、7、14又は21日後)の本発明の人工肝組織の薬剤代謝酵素活性(CYP1A2)を示すグラフである。
図5】一実施例における、長期間培養後(0、5、7、14又は21日後)の本発明の人工肝組織の薬剤代謝酵素活性(CYP2B6)を示すグラフである。
図6】一実施例における、長期間培養後(0、5、7、14又は21日後)の本発明の人工肝組織の薬剤代謝酵素活性(CYP3A4)を示すグラフである。
図7】一実施例における、長期間培養後(0、5又は7日後)の本発明の人工肝組織及び比較例の人工肝組織の薬剤代謝酵素活性を示すグラフである。
図8】一実施例における、人工肝組織の尿素合成量(μg/10個の肝細胞/日)の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「肝細胞」とは、肝臓を構成する主要な細胞であって、タンパク質の合成と貯蔵、炭水化物の変換、コレステロール、胆汁酸、リン脂質の合成並びに物質の解毒、編成、排出に関与する細胞であり、「肝実質細胞」ともいう。従来、肝細胞は、肝臓又は肝組織から単離された肝細胞、特に初代肝細胞は、in vitroで培養された場合、数時間で活性を失ってしまうという課題があった。しかしながら、本発明の人工肝組織は、長時間にわたってその活性を維持するという極めて優れた効果を有している。
【0017】
肝臓や肝細胞は、代謝において重要な役割を果たす。代謝に関与する酵素として、例えばシトクロムP450(Cytochrome P450、以下「CYP」という)が知られている。CYPは様々な基質を酸化し、解毒を行う酵素として知られている。また、CYPはステロイドホルモンの生合成、脂肪酸の代謝などを行う。CYPは、そのアミノ酸配列の相同性に基づいて分類されており、ヒトにおいては、以下のものが知られている。
【0018】
【表1】
【0019】
本明細書において、「人工肝組織」とは、生体から得られた肝臓又はその一部の肝組織とは異なり、in vitroにおいて、肝細胞を含む細胞群を用いて再構築された組織をいう。本発明の人工肝組織は、細胞接着性ハイドロゲル床と、前記細胞接着性ハイドロゲル床の上に播種された肝細胞と、前記肝細胞を被覆する、間質細胞を含むシート状細胞群とを含んでいる。本発明は、従来の人工肝組織とは異なり、長時間(例えば、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、14日以上、21日以上)、肝細胞の活性を維持し、例えば創薬開発に用いることができる人工肝組織を提供することができる。
【0020】
本明細書において、「肝細胞の活性」とは、尿素の合成量、肝細胞が発現するタンパク質の量(例えば、アルブミン産生量)、又は酵素、特に薬剤代謝酵素の活性を意味する。薬剤代謝の活性は、例えば、CYP(例えば、ヒトの場合、CYP1A1、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4又はCYP3A5)の発現量や、特異的な基質によって誘導されるCYPの発現量に相関するものであり、CYPの発現量を測定することによって評価することができる。あるいは、肝細胞にCYPの基質を添加し、当該基質がCYPによって変換される量(CYP酵素活性)を測定することによって、薬剤代謝の活性を評価することができる。
【0021】
CYPの発現量又はCYP酵素活性の測定は、当業者に公知の任意の方法を用いて行うことができる。例えば、CYPの発現量の測定は、定量的PCR法(qPCR)、ウエスタンブロット法、フローサイトメータ法(FACS)、ELISA法、免疫組織化学法など、周知の技術を用いて実施することができる。CYP酵素活性は、肝細胞にCYPの基質を添加し、当該基質がCYPによって変換される量(CYP酵素活性)を測定することによって評価することができ、その場合、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)を用いて測定することができる。また、CYP酵素活性の相対比(fold-change)を評価する場合、市販されているCYP酵素活性の測定に利用可能なキットを用いても実施可能であり、例えば、CYP3A4であれば、Promega社のP450-Glo(商標) CYP3A4 Assay with Luciferin-IPAなどを利用することができる。測定するCYPの種類によって公知の方法やキットを使用すればよい。
【0022】
肝細胞の活性は、例えば、少なくとも1種類以上、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上のCYPの発現量又はCYP酵素活性を測定することによって評価してもよい。
【0023】
本明細書において、「肝細胞の活性の維持」とは、従来の凍結肝細胞を用いた懸濁培養系(使用時に、融解)においては、培養開始後数時間未満(例えば、2時間未満、3時間未満、4時間未満、5時間未満又は6時間未満)で実質的に消失する薬剤代謝の活性が、6時間以上(例えば、6時間以上、12時間以上、24時間以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、13日以上、14日以上又は21日以上)培養した後であっても、人工肝組織が薬剤代謝の活性を示すことをいう。
【0024】
本発明であれば、肝細胞の活性が高い人工肝組織を提供可能となる。本明細書において、「肝細胞の活性が高い」とは、本発明の人工肝組織を6時間以上(例えば、6時間以上、12時間以上、24時間以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、13日以上、14日以上又は21日以上)培養した後であっても、融解直後に使用した凍結肝細胞の活性(例えば、融解後2時間未満、3時間未満、4時間未満、5時間未満又は6時間未満)の10%~500%、例えば、10%~400%、15%~300%、20%~250%、25%~200%の活性を維持した状態をいう。
【0025】
本発明の人工肝組織は、移植用の人工肝組織としても用いることも可能である。本発明の人工肝組織には、肝細胞以外にも、肝臓に含まれる細胞、例えば、類洞内皮細胞、クッパー細胞、肝星細胞、ピット細胞、胆管上皮細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞及び/又は線維芽細胞、その他の細胞が含まれてよい。
【0026】
本発明に用いられる「肝細胞」は、肝臓又はその一部から単離される細胞であってもよく、初代培養肝細胞、肝前駆細胞、肝幹細胞又は不死化した肝細胞であってもよく、ES細胞、iPS細胞又はMuse細胞などの多能性幹細胞から分化誘導して得られる肝細胞であってもよい。また、本発明に用いられる「肝細胞」は、哺乳動物由来(例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、ヤギ、ヒツジ等)、より好ましくは、ヒト及びヒト以外の霊長類由来、特に好ましくはヒトの肝細胞である。本発明の人工肝組織において、細胞接着性ハイドロゲル床上に播種される肝細胞の細胞数は、細胞の状態、動物種、細胞種などによって異なるため、特に限定されないが、所望の効果、例えば薬物代謝活性が評価できる程度の細胞数が播種されればよく、例えば、0.3×104~10×106個/cm2であってもよく、0.5×104~8×106個/cm2であってもよく、0.7×104~5×106個/cm2であってもよく、1.0×10~1.0×10個/cmであってもよく、5.0×10~5.0×10個/cmの細胞密度で播種されてもよい。
【0027】
本明細書において、「細胞接着性ハイドロゲル床」とは、播種される肝細胞の下に設けられたゲル状の細胞接着性ハイドロゲルをいい、例えば、0.01μm以上、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上、100μm以上、1mm以上またはそれ以上の厚みを有している。細胞接着性ハイドロゲルの厚みの上限については、用途によって異なり、例えば、5cm以下、1cm以下、5mm以下又は2mm以下であってもよい。
【0028】
本明細書において、「細胞接着性ハイドロゲル」とは、細胞外基質成分、或いは、キトサンゲル、コラーゲンゲル、ゼラチン、ペプチドゲル、ラミニンゲル及びフィブリンゲル、並びにそれらの混合物からなる群から選択されるものをいう。これらのうち、キトサンゲル、コラーゲンゲル、ゼラチン、ペプチドゲル及びラミニンゲルは、例えば温度、pH及び/又は塩濃度を変更することによりゲル化される。フィブリンゲルは、モノマーであるフィブリノーゲンが酵素であるトロンビンと作用することによりゲル化される。本発明に用いられる細胞接着性ハイドロゲル床に用いられる細胞接着性ハイドロゲルは、好ましくはコラーゲンゲルである。本明細書において、コラーゲンゲルに含まれるコラーゲンとは、例えば、タイプI、タイプII、タイプIII、タイプIV、タイプV、タイプVI、タイプVII、タイプVIII、タイプIX、タイプX、タイプXI、タイプXV、タイプXVII、もしくはタイプXVIIIのコラーゲン又はアテロコラーゲン、あるいはその組み合わせである。コラーゲンゲルに含まれるコラーゲンは、例えば、哺乳動物由来(例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、ヤギ、ヒツジ等)であってもよく、哺乳動物のコラーゲン遺伝子を基に、遺伝子工学的に得られたものであってもよい。
【0029】
本明細書において、「シート状細胞群」とは、任意の細胞を含む1層又は複数層のシート形状の組織をいう。シート状細胞群は、細胞とハイドロゲルとを混合して、培養することにより得られたものであってもよく、細胞シートであってもよい。本発明に用いられるシート状細胞群は、好ましくは細胞シートである。
【0030】
細胞シートを得る方法としては、例えば、温度、pH、光、電気等の刺激によって分子構造を変化させる高分子が被覆された刺激応答性培養基材上で細胞を培養し、温度、pH、光、電気等の刺激の条件を変えて刺激応答性培養基材を変化させることで、細胞同士の接着状態は維持しつつ、刺激応答性培養基材から細胞をシート状に剥離する方法、任意の培養基材にて細胞を培養し、細胞培養基材上のシート状の細胞群を端部から物理的にピンセット等により剥離する方法、ハイドロゲル等と共に細胞を培養基材上に播種し、形成されたシート状の細胞群を剥離する方法などが挙げられる。
【0031】
本明細書において、刺激応答性培養基材に被覆されている「刺激応答性高分子」としては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)、ポリ(オキシエチレン)、核酸などの生体物質を高分子に組み込んだ樹脂、及び上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0032】
本明細書において「温度応答性高分子」は、刺激応答性高分子の1つであり、温度に応答して、その形状及び/又は性質を変化させる高分子をいう。温度応答性高分子としては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)及び上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸ナトリウム)共重合体及び上記高分子に対して架橋剤によって架橋したものが挙げられるが、それらに限定されない。
【0033】
本明細書において、培養基材に被覆されている温度応答性高分子としては、例えば、水に対する上限臨界溶液温度(UCST:Upper Critical Solution Temperature)又は下限臨界溶液温度(LCST:Lower Critical Solution Temperature)が0~80℃であるものが挙げられるがそれらに限定されない。臨界溶液温度とは、高分子の形状及び/又は性質を変化させる閾値の温度をいう。本発明では、好ましくは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)が、少なくともその培養面の一部に被覆された細胞培養基材が使用され得る。
【0034】
ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)は32℃に下限臨界溶液温度(LCST)を有する高分子であり、遊離状態であれば、水中で32℃以上の温度で脱水和を起こしPIPAAmが凝集して白濁する。逆に32℃未満の温度ではPIPAAmは水和し、水に溶解した状態となる。本発明の一実施態様で用いられる温度応答性培養基材は、PIPAAmがシャーレなどの培養基材に被覆されて固定されたものである。したがって、32℃以上の温度であれば、培養表面のPIPAAmも同じように脱水和するが、PIPAAmが培養基材に固定されているために培養基材表面が疎水性を示す。逆に、32℃未満の温度では、培養基材表面のPIPAAmは水和するが、PIPAAmが培養基材表面に被覆されているため、培養基材表面が親水性を示す。疎水性の培養基材表面には細胞が付着して増殖することができ、また、親水性の培養基材表面は細胞が付着しにくい表面である。そのため、温度応答性培養基材を32℃未満に冷却すると、細胞が培養基材表面から剥離する。
【0035】
細胞シートは、例えば温度応答性培養基材上でコンフルエント又はサブコンフルエントになるまで細胞を培養し、温度を、被覆ポリマーの上限臨界溶液温度以上若しくは下限臨界溶液温度以下にすることによって得ることができる。細胞シートを、より早く、高効率に剥離させて回収するために、培養基材を軽くたたいたり、揺らしたりする方法や、ピペットを用いて培地を撹拌する方法、ピンセットを用いる方法等を単独又は併用して用いてもよい。温度以外の培養条件は常法に従えばよい。
【0036】
本発明の一実施態様において用いられる細胞シートは、好ましくは、収縮した細胞シートである。細胞シートは、培養基材表面上で培養されているときは単層状態であるが、培養基材表面から剥離されると、収縮する。それにより、細胞シートに含まれる細胞が部分的に重なり、細胞密度が上昇する。収縮した細胞シートで肝細胞を被覆することにより、長時間、肝細胞の活性を高いまま維持することが可能となる。
【0037】
本明細書において、「間質細胞」とは、臓器の結合組織の細胞であって、生体組織の支持構造を構成し、実質細胞を支える細胞である。本発明に用いられる間質細胞は、生体から単離される初代細胞であってもよく、株化された細胞であってもよく、或いは、ES細胞、iPS細胞又はMuse細胞などの多能性幹細胞から分化誘導して得られる間質細胞であってもよい。本発明の一実施形態において、シート状細胞群に含まれる間質細胞は、線維芽細胞、周皮細胞、肝星細胞、内皮細胞もしくは平滑筋細胞、又はそれらの組み合わせであり、好ましくは線維芽細胞である。本発明に用いられる「間質細胞」は、哺乳動物由来(例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、ヤギ、ヒツジ等)、より好ましくは、ヒト及びヒト以外の霊長類由来、特に好ましくはヒトの間質細胞である。また、本発明に用いられるシート状細胞群には、間質細胞以外の細胞がさらに含まれても良い。
【0038】
本発明において、シート状細胞群に含まれる細胞数は、動物種や細胞種によって異なるが、例えば、0.3×104~10×106個/cm2であってもよく、0.5×104~8×106個/cm2であってもよく、0.7×104~5×106個/cm2であってもよい。
【0039】
本発明に用いられるシート状細胞群を、播種された肝細胞の上に被覆する方法としては、例えば、ピペット等によって培養液中に浮かんでいるシート状細胞群を培養液ごと吸い取り、別の培養皿の肝細胞上にシート状細胞群を放出して被覆する方法、シート状細胞群の移動治具を用いて積層する方法等が挙げられる。
【0040】
また、本発明は、人工肝組織の製造方法を提供し、以下の工程が含まれる。
(i)培養基材上に細胞接着性ハイドロゲル床を形成する工程、
(ii)前記細胞接着性ハイドロゲル床の上に、肝細胞を播種して、培養する工程、
(iii)前記肝細胞の上に、間質細胞を含むシート状細胞群を載せ、培養する工程。
【0041】
本発明の方法によって得られる人工肝組織であれば、従来のように、培養面に対して特殊なパターニングを設けることによって肝細胞の空間的な位置を厳密に制御することなく、長時間にわたってその活性を維持することができるという極めて優れた効果を有している。
【実施例
【0042】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0043】
1.使用した材料
各実施例では、以下の材料を用いた。
・φ35mm培養皿(BD Falcon、#353001)
・コラーゲンIコート6ウェルプレート(サーモフィッシャー)
・コラーゲンゲル溶液(0.5%タイプIコラーゲン溶液)(KOKEN社、IAC-50)
・温度応答性培養皿(セルシード(日本)、UpCell(登録商標)、φ35mm)
・凍結ヒト肝細胞(サーモフィッシャー、HMCPTS)
・マウス線維芽細胞(3T3)
・ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)
・ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(シグマアルドリッチ、D6429;コーニング、10-017-CVR)
・フィブリノーゲン(シグマ、F8630)
・トロンビン(シグマ、F4648)
・(比較例用)Cell-able(商標)96ウェルプレート(東洋合成工業、日本)
【0044】
2.方法
2-1.人工肝組織の製造方法
図1は、一実施態様における本発明の人工肝組織の製造方法を示す概略図である。また、図2は、一実施態様における本発明の人工肝組織の製造方法のスケジュールを示す。
【0045】
人工肝組織は、以下の手順で作製した(図1及び図2参照)。
(1)細胞シートを積層する3~5日前にマウス線維芽細胞(3T3)又はヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)(1×10個)をφ35mmの温度応答性培養皿に播種し、37℃、5%CO2雰囲気下において、ダルベッコ改変イーグル培地(10%(v/v)のウシ胎児血清、1%(v/v)のペニシリン‐ストレプトマイシン溶液を含む)中で培養した。
(2)φ35mmの培養皿内に内径18mmの円形のシリコーン枠を設置し、その枠内に100μLのコラーゲンゲルを加え、直径約18mmのコラーゲンゲル床(厚さ:約400μm)を作製した。
(3)細胞シートを積層する1日前に解凍した凍結ヒト肝細胞(20×104個又は10×104個)をコラーゲンゲル床に播種し、播種用培地(William’s培地E(サーモフィッシャー、A1217601)にHeptocyte Plating Supplements(サーモフィッシャー、CM3000)を加えたもの)を加えて、24時間、37℃、5%CO2雰囲気下において培養した。
(4-1)マウス線維芽細胞(3T3)又はヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を培養している温度応答性培養皿を20℃まで温度を下げ、マウス線維芽細胞(3T3)又はヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を細胞シート(以下、それぞれ「3T3細胞シート」又は「NHDF細胞シート」という。)として剥離した。
(5-1)3T3細胞シート又はNHDF細胞シートを培地ごとピペットで吸い取り、コラーゲンゲル床に播種された肝細胞上(事前に播種用培地は除去されている)に、3T3細胞シート又はNHDF細胞シートを排出することで積層した。その後、培養用培地(March et al.(2015),Nat.Protocols,10:2027-2053.に記載のHepatocyte medium)を加えて、37℃、5%CO2雰囲気下において培養した。
(6)2~3日毎に、新鮮な培養用培地に交換した。
【0046】
なお、コラーゲンゲル床に播種された肝細胞上に細胞シートを積層する方法して、上記工程(4-1)及び(5-1)に代わりに、以下の工程を実施する方法も採用した(図8)。
【0047】
(4-2)Haraguchiらの方法(Haraguchi Y. et al.,Fabrication of functional three-dimensional tissues by stacking cell sheets in vitro,Nature Protocol,7,850,2012.)に従って、ゼラチンゲル付きスタンプデバイスを作製した。ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を培養している温度応答性培養皿の播種用培地を除去し、フィブリノーゲン2μLを滴下した。その後、スタンプする面にトロンビン2μLを滴下したスタンプデバイスをヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)に密着させた。その状態にて室温で放置し、NHDF細胞シートをスタンプデバイスに接着させた。
(5-2)コラーゲンゲル床に播種された肝細胞上(事前に播種用培地は除去されている)にフィブリノーゲン2μLを滴下した。その後、NHDF細胞シートが接着したゼラチンゲルをスタンプデバイスから切り出し、肝細胞と接する面にトロンビン2μLを滴下し、肝細胞上に載せた。5分間静置後、37℃にて10分間インキュベートした。ゼラチンが溶けた後、温めたPBSで溶けたゼラチンを洗い流した。その後、培養用培地に交換し、37℃、5%CO2雰囲気下において培養した。
【0048】
上記手順を基本として、比較するために、コラーゲンIコート6ウェルプレート(サーモフィッシャー)上で培養した肝細胞(20×104個/ウェル)(コラーゲンゲル床なし、細胞シートによる被覆なし)、コラーゲンゲル床に播種した肝細胞(20×104個)(細胞シートによる被覆なし)も作製した。また、細胞シートの代わりに、肝細胞上に直接3T3細胞(1×10個)を播種した人工肝組織も作製した。
【0049】
なお、実施例1~3では、工程(4-1)及び(5-1)を実施し、実施例4では、工程(4-2)及び(5-2)を実施して人工肝組織を作製した。
【0050】
2-2.CYP活性の測定方法
上記で作製した人工肝組織において、2日後、5日後、7日後、14日後及び21日後において、CYP1A2、CYP2B6、CYP3A4の活性を測定した。具体的には、肝組織にCYPの基質3種(100μM フェナセチン、200μM ブプロピオンおよび50μM ミダゾラム)を溶解したWilliam’s培地Eを添加し、10分後および30分後に培地を取得した。取得培地中の各基質に対応する代謝成分(アセトアミノフェン、OH-ブプロピオン、OH-ミダゾラム)の濃度を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)にて定量し、各CYPの活性値を求めた。10分後および、30分後に取得した培地の内、高い活性値を示した方のデータを採用した。
【0051】
2-3.尿素合成量の測定方法
上記で作製した人工肝組織において、尿素合成量を測定した(図8)。具体的には、以下の人工肝組織において、6日目~21日目に、培地上清中に含まれる尿素合成量を測定した。
・L20:20×10個のヒト肝細胞をコラーゲンゲル床上に播種し、NHDF細胞シート(1×10個)を積層した系;
・C20:20×10個のヒト肝細胞をコラーゲンゲル床上に播種し、NHDF細胞シートを積層していない系;
・L10:10×10個のヒト肝細胞をコラーゲンゲル床上に播種し、NHDF細胞シート(1×10個)を積層した系
・C10:10×10個のヒト肝細胞をコラーゲンゲル床上に播種し、NHDFシートを積層していない系
・FBS20:20×10個のヒト肝細胞を、FBS(ウシ胎児血清)をプレコートした培養皿上に播種した系(コントロール)
【0052】
尿素合成量(μg/10個の肝細胞/日)は、BioAssay Systems社のQuantiChrom(TM) Urea Assay Kit(DIUR-100)を用いて測定した。
【0053】
3.実施例1
図3は、コラーゲンコートプレート上に播種した肝細胞(コラーゲンコート培養)と細胞シート積層人工肝組織(細胞シート積層肝モデル)の、フェナセチン代謝(CYP1A2)及びミダゾラム代謝(CYP3A4)におけるCYP酵素活性を示す図である。点線は、懸濁培養系の肝細胞の活性値(Day0)を示している。図からも明らかであるように、本発明の人工肝組織は、長期間にわたって、コラーゲンコートプレート上で培養した肝細胞よりも、CYP活性が維持されている。また、その値は、従来行われている濁培養系(Day0)のCYP活性(CYP1A2:93.2pmol/min/106cell、CYP3A4:217pmol/min/106cell)を超える値を示した。
【0054】
4.実施例2
図4~6は、コラーゲンコートプレート上に播種した肝細胞(コラーゲンコート培養);コラーゲンゲル床に播種した肝細胞(コラーゲンゲルのみ);コラーゲンゲル床に播種した肝細胞上に3T3細胞シートを被覆した人工肝組織(3T3シート積層);コラーゲンゲル床に播種した肝細胞上にNHDF細胞シートを被覆した人工肝組織(NHDFシート積層);及びコラーゲンゲル床に播種した肝細胞上に3T3細胞を播種した人工肝組織(3T3播種)の、フェナセチン(図4、CYP1A2)、ブプロピオン(図5、CYP2B6)又はミダゾラム代謝(図6、CYP3A4)におけるCYP酵素活性を示す図である。
【0055】
その結果、3T3シート及びNHDFシートを積層した人工肝組織では、いずれもCYP酵素が、高活性を長期間維持することが明らかとなった。
【0056】
5.実施例3
図7は、本発明によって得られる人工肝組織(細胞シート積層系)と、市販されている人工肝組織作製キット(Cell-able(登録商標))(東洋合成工業、日本)(比較例)のCYP酵素活性を比較した結果を示す。Cell-able(登録商標)は、付属の説明書に従って人工肝組織を調製した。3種の基質(フェナセチン、ブプロピオン、およびミダゾラム)を溶解した培地を添加し、10分または30分後に取得した培地中の各基質に対応する代謝成分(それぞれ、アセトアミノフェン、OH-ブプロピオン、OH-ミダゾラム)の濃度をLC/MS/MS法にて定量し、求めた各CYP酵素活性を示す。
【0057】
その結果、本発明の人工肝組織は、Cell-able(登録商標)の系よりも、CYP酵素活性が総じて高い値を示した。
【0058】
6.実施例4
図8は、肝細胞の細胞数の違いと、細胞シートの有無による、尿素合成量(μg/10個の肝細胞/日)の経時変化を示すグラフである。図8の結果より、20万個の細胞を播種した方が10万個播種した場合よりも、肝機能の指標となる尿素合成量が大きくなり、持続時間も長くなることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8