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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】難燃処理木質材料および耐火構造部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20220706BHJP
   B27M 3/00 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
E04B1/94 R
E04B1/94 V
B27M3/00 C
B27M3/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018064214
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173447
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591120088
【氏名又は名称】越井木材工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(72)【発明者】
【氏名】越井 潤
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】森田 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】道越 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】池畠 由華
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218820(JP,A)
【文献】特開平08-253978(JP,A)
【文献】実開平05-039903(JP,U)
【文献】国際公開第2017/162926(WO,A1)
【文献】特開2008-031743(JP,A)
【文献】特開2009-174286(JP,A)
【文献】特開2019-123991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04C 3/12-3/14,3/36
B27M 3/00
B32B 21/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火構造部材の荷重支持部の表面に接着される難燃処理木質材料であって、
難燃薬剤が含浸された板状の芯材と、
前記荷重支持部の表面に接着される第1内層接着面とその第1内層接着面に対して反対側の面である第2内層接着面とを含む木板からなり、前記芯材に対して板厚方向に重なるとともに前記第2内層接着面に対して前記芯材熱硬化性の接着剤により熱圧接着された内層材と、を備え、
前記芯材は、前記内層材を介して前記荷重支持部に取り付けられ、
前記内層材は、前記難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理材であることを特徴とする、難燃処理木質材料。
【請求項2】
前記内層材とともに前記芯材を板厚方向に挟む木板からなり、前記芯材に対して熱硬化性の接着剤により熱圧接着された外層材をさらに備え、
前記外層材は、前記難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理材であることを特徴とする、請求項1に記載の難燃処理木質材料。
【請求項3】
前記内層材の厚さが0.5mm以上10mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の難燃処理木質材料。
【請求項4】
前記芯材は、前記難燃薬剤が含浸された複数の木板を有し、前記複数の木板が板厚方向に重なるとともに熱硬化性の接着剤により互いに熱圧接着されることにより構成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の難燃処理木質材料。
【請求項5】
耐火木造建築物の構造部材として用いられる耐火構造部材であって、
建築物の荷重を支持する荷重支持部と、
前記荷重支持部の表面を被覆するように接着され、前記荷重支持部への燃焼又は熱の伝播を防ぐ燃え止まり層と、を備え、
前記燃え止まり層が請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃処理木質材料により構成されていることを特徴とする、耐火構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃処理木質材料およびこれを備えた耐火構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模の耐火木造建築への関心が高まっており、それと共に、耐火性能を有する建築用構造部材の開発が進められている。このような耐火構造部材の一つとして、特許文献1に開示されるように、建築物の荷重を支持する荷重支持部と、荷重支持部の表面を被覆する燃え止まり層と、を備えた耐火集成材が知られている。この耐火集成材によれば、荷重支持部まで燃焼が伝播するのを燃え止まり層によって阻止することにより、火災発生時において荷重支持部を保護することができる。
【0003】
特許文献1の耐火集成材は、荷重支持部と、荷重支持部の表面に燃え止まり層として固定された合板と、を備えている。この合板は、荷重支持部に接する側の少なくとも1層が、リン酸系の難燃薬剤が含浸された薬剤処理木板となるように、当該薬剤処理木板と未処理木板(難燃薬剤が含浸されていない木板)とを重ねるとともに、木板同士を接着することにより構成されている。そして、この合板を、薬剤処理木板が配置された1層を荷重支持部の表面に当接させた状態で、木ネジや釘などの留め具を用いて当該表面に固定することにより、耐火集成材が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-174286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、特許文献1では、合板を構成する複数の木板のうち、荷重支持部の表面に当接する木板に難燃薬剤が含浸されている。ここで、接着剤を用いて合板を荷重支持部の表面に接着しようとした場合、難燃薬剤と接着剤との親和性の悪さに起因して、合板の接着力を十分に確保できないことがある。これは、難燃薬剤と接着剤との親和性の悪さに加えて、常温下で接着する必要があることも一因である。このため、特許文献1では、留め具を用いて合板を荷重支持部に固定していた。
【0006】
しかしながら、特許文献1の耐火集成材では、木ネジや釘などの留め具が燃焼の伝播経路となり、荷重支持部まで燃焼が伝播してしまうという懸念がある。したがって、この耐火集成材では、火災発生時において荷重支持部を確実に保護するのは困難である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、荷重支持部に対する十分な接着力を確保することができるとともに、荷重支持部をより確実に保護することが可能な難燃処理木質材料およびこれを備えた耐火構造部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係る難燃処理木質材料は、耐火構造部材の荷重支持部の表面に接着されるものである。この難燃処理木質材料は、難燃薬剤が含浸された板状の芯材と、前記荷重支持部の表面に接着される第1内層接着面とその第1内層接着面に対して反対側の面である第2内層接着面とを含む木板からなり、前記芯材に対して板厚方向に重なるとともに前記第2内層接着面に対して前記芯材熱硬化性の接着剤により熱圧接着された内層材と、を備えている。前記芯材は、前記内層材を介して前記荷重支持部に取り付けられている。前記内層材は、前記難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理材である。
【0009】
この難燃処理木質材料は、芯材に難燃薬剤が含浸されているため、耐火構造部材の荷重支持部の表面に接着することにより、燃え止まり層として用いることができる。これにより、荷重支持部が可燃物(例えば木材やプラスチックなど)からなる場合には、荷重支持部の燃焼を抑制することができる。また荷重支持部が不燃物(例えば鋼など)からなる場合には、荷重支持部の温度上昇を抑制することができ、当該荷重支持部の熱変形を抑制することができる。
【0010】
ここで、荷重支持部の表面に接着される内層材は、難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理材である。このため、内層材を荷重支持部の表面に接着する際に、難燃薬剤と接着剤との親和性に関わらず、荷重支持部に対する良好な接着力を確保することができる。よって、接着剤のみによって荷重支持部に対して確実に固定することができるため、木ネジや釘などの留め具を用いる必要がなく、当該留め具が燃焼や熱の伝播経路になるという問題も生じない。したがって、荷重支持部への燃焼や熱の伝播を防ぎ、荷重支持部をより確実に保護することができる。しかも、内層材が芯材に対して熱硬化性の接着剤により熱圧接着されているため、内層材を芯材に対して確実に接着し、内層材が芯材から脱落するのを防ぐことができる。
【0011】
上記難燃処理木質材料は、前記内層材とともに前記芯材を板厚方向に挟む木板からなり、前記芯材に対して熱硬化性の接着剤により熱圧接着された外層材をさらに備えていてもよい。前記外層材は、前記難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理材であってもよい。
【0012】
この構成によれば、荷重支持部の表面を難燃処理木質材料により被覆した後、さらに当該難燃処理木質材料を化粧層により被覆する場合に、当該化粧層を接着剤のみによって難燃処理木質材料に対して確実に固定することができる。これは、化粧層に接する外層材に難燃薬剤が含浸されていないため、難燃薬剤と接着剤との親和性が悪い場合であっても、接着剤による接着力がその影響を受けにくいためである。
【0013】
上記難燃処理木質材料において、前記内層材の厚さが0.5mm以上10mm以下であってもよい。
【0014】
内層材の厚さが0.5mm未満である場合には、芯材に含浸された難燃薬剤が難燃処理木質材料の最表面に染み出すおそれがあり、また芯材と熱圧接着するのが困難である。一方、内層材の厚さが10mmを超える場合には、難燃処理木質材料同士の突き合わせ面に露出する内層材が燃焼や熱の伝播経路となり、荷重支持部まで燃焼や熱が伝播してしまうおそれがある。このため、内層材の厚さは、0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0015】
上記難燃処理木質材料において、前記芯材は、前記難燃薬剤が含浸された複数の木板を有し、前記複数の木板が板厚方向に重なるとともに熱硬化性の接着剤により互いに熱圧接着されることにより構成されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、複数の木板のそれぞれに難燃薬剤を含浸させた後、これらを重ねて熱圧接着することにより芯材が得られる。これにより、芯材全体において難燃薬剤を均一に含浸させることができる。
【0017】
本発明の他局面に係る耐火構造部材は、耐火木造建築物の構造部材として用いられるものである。この耐火構造部材は、建築物の荷重を支持する荷重支持部と、前記荷重支持部の表面を被覆するように接着され、前記荷重支持部への燃焼又は熱の伝播を防ぐ燃え止まり層と、を備えている。前記燃え止まり層は、上記本発明の難燃処理木質材料により構成されている。
【0018】
この耐火構造部材では、上記本発明の難燃処理木質材料が燃え止まり層として荷重支持部の表面に接着されているため、木ネジや釘などの留め具を用いず、接着剤のみによって燃え止まり層を荷重支持部の表面に対して確実に固定することができる。このため、上記留め具が燃焼や熱の伝播経路となって荷重支持部まで燃焼や熱が伝播するのを防ぐことが可能となり、荷重支持部をより確実に保護することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、荷重支持部に対する十分な接着力を確保することができるとともに、荷重支持部をより確実に保護することが可能な難燃処理木質材料およびこれを備えた耐火構造部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態1に係る耐火構造部材の構成を模式的に示す斜視図である。
図2図1中の線分II-IIに沿う耐火構造部材の断面を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態1に係る難燃処理木質材料の構成を模式的に示す斜視図である。
図4】積層体を熱圧する様子を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態2に係る耐火構造部材の断面を模式的に示す図である。
図6】本発明のその他実施形態に係る耐火構造部材の断面を模式的に示す図である。
図7】本発明のその他実施形態に係る耐火構造部材の断面を模式的に示す図である。
図8】耐火性能評価試験における荷重支持部の表面への熱電対の取り付け位置を示す模式図である。
図9】実施例における上側測定位置での荷重支持部の隅部の温度変化を示すグラフである。
図10】実施例における上側測定位置での荷重支持部の辺部の温度変化を示すグラフである。
図11】実施例における中間測定位置での荷重支持部の隅部の温度変化を示すグラフである。
図12】実施例における中間測定位置での荷重支持部の辺部の温度変化を示すグラフである。
図13】実施例における下側測定位置での荷重支持部の隅部の温度変化を示すグラフである。
図14】実施例における下側測定位置での荷重支持部の辺部の温度変化を示すグラフである。
図15】比較例における上側測定位置での荷重支持部の温度変化を示すグラフである。
図16】比較例における中間測定位置での荷重支持部の温度変化を示すグラフである。
図17】比較例における下側測定位置での荷重支持部の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る難燃処理木質材料およびこれを備えた耐火構造部材について説明する。
【0022】
(実施形態1)
<耐火構造部材>
まず、本発明の実施形態1に係る耐火構造部材1の構成について、図1および図2を参照して説明する。図1は、耐火構造部材1の外観を模式的に示す斜視図である。図2は、図1中の線分II-IIに沿った耐火構造部材1の断面を模式的に示す図である。
【0023】
耐火構造部材1は、耐火木造建築物の構造部材(例えば、柱や梁)として用いられるものであり、図1に示すように、ほぼ四角柱状の形状を成す木質構造部材である。耐火構造部材1は、建築物の荷重を支持する荷重支持部10と、荷重支持部10の表面11を被覆するように接着された燃え止まり層20と、燃え止まり層20の表面22を被覆するように接着された化粧層30と、を備えている。
【0024】
本実施形態の耐火構造部材1は、建築物の柱であり、図1および図2に示すように、荷重支持部10の全周が燃え止まり層20により被覆されている。また本実施形態では、荷重支持部10、燃え止まり層20および化粧層30は、いずれもスギ材からなるものであるが、木材の種類は特に限定されない。また化粧層30は、本発明の耐火構造部材における必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。以下、耐火構造部材1の各構成要素について説明する。
【0025】
図1に示すように、荷重支持部10は、正四角柱状の形状を成す木質材料である。図2に示すように、本実施形態における荷重支持部10は、矩形断面を有する複数の木板13が集成接着されて成る構造用集成材である。つまり、本実施形態に係る耐火構造部材1は、荷重支持部10が集成材により構成された耐火集成材である。なお、荷重支持部10は、このような集成材からなるものに限定されず、単一の木板により構成されていてもよい。また荷重支持部10の軸に直交する断面形状は、正方形に限定されるものではなく、任意の形状のものを用いることができる。
【0026】
燃え止まり層20は、建築物の火災発生時において荷重支持部10への燃焼又は熱の伝播を防ぐ層であり、図2に示すように、複数の難燃処理木質材料21により構成されている。この難燃処理木質材料21は、例えばリン酸系やホウ酸系の難燃薬剤の含浸により不燃処理された木板からなるものである。
【0027】
図2に示すように、燃え止まり層20は、荷重支持部10の表面11に接着された複数の内側難燃処理木質材料21Aと、内側難燃処理木質材料21Aの表面を被覆するように接着された複数の外側難燃処理木質材料21Bと、を有する。つまり、本実施形態における燃え止まり層20は、難燃処理木質材料21が多層(2層)構造となるように構成されている。これにより、万一、後述する難燃未処理材に沿って化粧層30側から荷重支持部10に向かって燃焼や熱が伝播しようとしても、その伝播経路を複雑化することにより、荷重支持部10まで燃焼や熱が伝播するのを防ぐことができる。なお、燃え止まり層20は、本実施形態のような2層構造のものに限定されず、難燃処理木質材料21が3層以上配置された構造であってもよいし、難燃処理木質材料21が1層のみ配置された単層構造であってもよい。
【0028】
図2に示すように、内側難燃処理木質材料21Aは、荷重支持部10の全周を覆うように、4つの表面11に対して接着剤を介して固定されている。具体的には、図2の断面視において、荷重支持部10の1つの表面11に対して2枚の内側難燃処理木質材料21Aが接着剤を介して固定されている。また荷重支持部10の4隅においては、1つの内側難燃処理木質材料21Aの表面(荷重支持部10側を向く面)が、それに隣接する別の内側難燃処理木質材料21Aの端面に対して突き合わされている。
【0029】
内側難燃処理木質材料21Aの固定に用いられる接着剤としては、例えばレゾルシノール樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性の接着剤を用いることができるが、接着力をより高める観点からレゾルシノール樹脂の接着剤を用いることが好ましい。しかし、この接着剤は、熱硬化性の接着剤に限定されるものではなく、任意の接着剤を用いることが可能である。
【0030】
なお、図2の断面視において、荷重支持部10の1つの表面11に対して複数枚の内側難燃処理木質材料21Aが固定される場合に限定されず、1枚の内側難燃処理木質材料21Aが固定されてもよい。
【0031】
外側難燃処理木質材料21Bは、内側難燃処理木質材料21Aと同様に、図2の断面視において、荷重支持部10の1つの表面11に対して2枚ずつ設けられている。荷重支持部10の4隅においては、1つの外側難燃処理木質材料21Bの端面が、それに隣接する別の外側難燃処理木質材料21Bの表面に突き合わされている。また当該1つの外側難燃処理木質材料21Bの表面が、内側難燃処理木質材料21Aの表面および端面に対して突き合わされている。そして、荷重支持部10の4隅の各々において、内側難燃処理木質材料21A同士の突き合せ部と外側難燃処理木質材料21B同士の突き合せ部が、軸周りにおいて互いにずれた状態となっている。これにより、化粧層30側から荷重支持部10に向かう難燃処理木質材料21の表面に沿った経路が入り組んだ状態となり、上述の通り荷重支持部10への燃焼や熱の伝播を防ぐことができる。
【0032】
外側難燃処理木質材料21Bは、例えばレゾルシノール樹脂やフェノール樹脂の接着剤を用いて内側難燃処理木質材料21Aの表面に接着されている。なお、外側難燃処理木質材料21Bは、内側難燃処理木質材料21Aと基本的に同じ構成となっている。
【0033】
化粧層30は、図2に示すように燃え止まり層20の全周を覆うように設けられており、その表面には装飾などが施されている。この化粧層30は、難燃薬剤が含浸されていない未処理の木材(難燃未処理材)からなる。
【0034】
ここで、一般的な耐火構造部材では、荷重支持部の表面に対する難燃処理木質材料(内側難燃処理木質材料)の接着力が問題となる場合がある。具体的には、荷重支持部への接着に用いられる接着剤と内側難燃処理木質材料に含浸された難燃薬剤との親和性が悪い場合があり、これに起因して、荷重支持部の表面に対する内側難燃処理木質材料の接着力を十分に確保することが困難な場合がある。この場合、火災発生時において内側難燃処理木質材料が荷重支持部の表面から脱落するおそれがあり、荷重支持部を確実に保護することが困難になる。
【0035】
これに対し、本実施形態に係る難燃処理木質材料21は、荷重支持部10の表面11に接する部分に難燃薬剤が含浸しない構成を採用することにより、当該表面11に対する接着力を向上させ、当該表面11からの脱落を防止可能なものとなっている。以下、この難燃処理木質材料21の構成について詳細に説明する。
【0036】
<難燃処理木質材料>
図3は、本実施形態に係る難燃処理木質材料21(内側難燃処理木質材料21A)の構成を模式的に示す斜視図である。図3に示すように、難燃処理木質材料21は、難燃薬剤が含浸された板状の芯材26と、芯材26に対して板厚方向に重なる1枚の木板からなる内層材25と、内層材25とともに芯材26を板厚方向に挟む1枚の木板からなる外層材24と、を備えている。
【0037】
芯材26は、例えばリン酸系またはホウ酸系の難燃薬剤が含浸された複数(本実施形態では6枚)の木板27(薬剤処理木板)を有し、これらの複数の木板27が板厚方向に重なるとともに互いに熱圧接着されることにより構成されている。木板27同士は、板表面に塗布された熱硬化性の接着剤(例えば、レゾルシノール樹脂またはフェノール樹脂の接着剤)により互いに熱圧接着されている。各木板27は、例えば長方形状を有し、それぞれ同じ大きさとなっている。
【0038】
なお、芯材26を構成する木板27の枚数や木板27の形状などは特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。また木板27に含浸される難燃薬剤は、リン酸系やホウ酸系のものに限定されない。
【0039】
図3に示すように、内層材25は、難燃処理木質材料21の板厚方向における一方の最表層を構成しており、芯材26に対して熱圧接着されている。具体的には、内層材25は、芯材26を構成する各木板27と同じ大きさの長方形状を有し、荷重支持部10の表面11(図2)に接着される第1内層接着面25Aと、芯材26に接着された第2内層接着面25B(第1内層接着面25Aと反対側の面)と、を有する。この第1内層接着面25Aは、難燃処理木質材料21の板厚方向における一方の最表面である。内層材25は、例えばレゾルシノール樹脂またはフェノール樹脂などの熱硬化性の接着剤により芯材26に接着されている。
【0040】
ここで、荷重支持部10の表面11に接着される内層材25は、上記難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理材(未処理木板28)となっている。このため、図2に示すように内層材25を荷重支持部10の表面11に接着する際、上述のような難燃薬剤と接着剤との親和性の悪さに起因する接着不良の問題が起こりにくい。したがって、接着剤だけでも難燃処理木質材料21を荷重支持部10の表面11に対して確実に固定することができる。これにより、荷重支持部10の表面11から難燃処理木質材料21が脱落するのを防ぐことが可能となり、荷重支持部10を難燃処理木質材料21により確実に保護することができる。
【0041】
ここで、本実施形態における「難燃未処理材」は、無垢材を意味するものであるが、これに限定されない。例えば、難燃薬剤が含浸されず、防腐剤などが含まれるものも、本発明における「難燃未処理材」に含まれる。これは、外層材24および化粧層30についても同様である。
【0042】
なお、本実施形態では、難燃処理木質材料21が接着剤のみにより荷重支持部10の表面11に固定されているが、荷重支持部10への燃焼や熱の伝播を招くものでなければ、ネジや釘などの留め具を併用してもよい。これらの留め具は、接着剤による接着力が不足した場合のフェールセーフとして機能する。
【0043】
内層材25の厚さ(板厚)は、芯材26を構成する各木板27の厚さよりも小さく、例えば0.5mm以上10mm以下となっている。内層材25の厚さが0.5mm未満である場合には、芯材26に含浸された難燃薬剤が難燃処理木質材料21の最表面に染み出すおそれがある。一方、内層材25の厚さが10mmを超える場合には、難燃処理木質材料21同士の突き合わせ部において内層材25に沿って荷重支持部10まで燃焼が伝播し、燃え止まり層20としての機能が阻害されるおそれがある。このような観点から、本実施形態における内層材25の厚さは、0.5mm以上10mm以下となっており、1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以上3.0mm以下であることがより好ましく、2.0mm以上3.0mm以下であることがさらに好ましい。なお、内層材25の上記厚さ範囲は好ましい範囲を規定したものであり、これに限定されるものではない。
【0044】
外層材24は、難燃処理木質材料21の板厚方向における他方の最表層を構成しており、内層材25と同様に、芯材26に熱圧接着されている。外層材24は、芯材26を構成する各木板27および内層材25を構成する木板と同じ大きさの長方形状を有し、芯材26に接着された第1外層接着面24Aおよびその反対側の第2外層接着面24Bを有する。第2外層接着面24Bは、難燃処理木質材料21の板厚方向における他方の最表面である。また外層材24の厚さは、内層材25の厚さとほぼ同じになっている。
【0045】
外層材24は、例えばレゾルシノール樹脂またはフェノール樹脂などの熱硬化性の接着剤により芯材26に接着されている。また図2に示すように、内側難燃処理木質材料21Aの外層材24は、外側難燃処理木質材料21Bの内層材25に上記接着剤によって接着されている。また外側難燃処理木質材料21Bの外層材24は、化粧層30に上記接着剤によって接着されている。
【0046】
外層材24は、内層材25と同様に、上記難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理材(未処理木板28)となっている。このため、内層材25の場合と同様に、難燃薬剤と接着剤との親和性の悪さに起因する接着不良を防ぐ効果を得ることができる。具体的には、図2において、内側難燃処理木質材料21Aの表面に対する外側難燃処理木質材料21Bの接着力、および外側難燃処理木質材料21Bの表面に対する化粧層30の接着力を確保することができる。
【0047】
さらに、化粧層30が省略される場合には、外側難燃処理木質材料21Bの表面が外部に露出した状態となる。ここで、外層材24が設けられない場合、難燃薬剤が含浸された芯材26が外部に露出した状態となる。この場合、難燃薬剤が外気から吸湿して結晶化してしまうことがある。これに対し、外層材24を設けることにより、難燃薬剤が外気に曝されるのを防ぎ、上述のような難燃薬剤の結晶化を防ぐことができる。しかし、本発明の難燃処理木質材料において、外層材は必須の構成要素ではなく、省略することも可能である。
【0048】
本実施形態における難燃処理木質材料21は、複数の木板(内層材25、芯材26および外層材24を構成する木板)の繊維方向が互いに平行になるように当該複数の木板を積層および熱圧接着することにより構成された単板積層材(LVL;Laminated Veneer Lumber)である。しかし、本発明の難燃処理木質材料は、LVLに限定されるものではなく、例えば繊維方向が90°異なるように複数の木板が交互に積層された合板であってもよいし、またラミナやパーティクルボードなどからなる板状の芯材の表裏面に対して内層材25および外層材24がそれぞれ熱圧接着により貼り付けられた構成であってもよい。
【0049】
また本実施形態では、内層材25および外層材24がいずれも1枚の木板により構成される場合について説明したが、これに限定されない。内層材25および外層材24のうち一方または両方が複数枚の木板により構成されていてもよい。
【0050】
<耐火構造部材の製造方法>
次に、上記耐火構造部材1の製造方法について説明する。はじめに、図1および図2に示した正四角柱状の荷重支持部10を準備する(準備工程)。続いて、難燃処理木質材料21(内側難燃処理木質材料21Aおよび外側難燃処理木質材料21B)を以下の手順で作製する(作製工程)。
【0051】
まず、薬剤処理木板27および未処理木板28をそれぞれ準備する(木板準備工程)。具体的には、まず、木板を所定の大きさの長方形状に切断し、リン酸系またはホウ酸系の難燃薬剤が満たされた注薬缶(図示しない)内に当該切断後の木板を投入する。そして、当該注薬缶内において難燃薬剤の加圧および減圧を繰り返す。これにより、難燃薬剤が木板全体に対して均一に注入され、薬剤処理木板27が得られる。一方、当該含浸処理を施さない木板は、未処理木板28として以下の工程において用いられる。本実施形態では、1枚の難燃処理木質材料21の作製に当たり、薬剤処理木板27を6枚、未処理木板28を2枚準備する。
【0052】
次に、複数の薬剤処理木板27と複数の未処理木板28とを板厚方向に重ねると共に、板表面に塗布された接着剤によって木板同士を互いに接着することにより、積層体90を作製する(積層工程)。具体的には、まず、1枚目の未処理木板28を任意の台(図示しない)上に載置する。そして、一方の板表面に接着剤を塗布した1枚目の薬剤処理木板27を、当該接着剤を下側に向けた状態で当該未処理木板28の上に重ねる。次に、2枚目の薬剤処理木板27における一方の板表面に接着剤を塗布し、当該接着剤を下側に向けた状態でこれを1枚目の薬剤処理木板27の上に重ねる。この手順を繰り返すことにより、残り4枚の薬剤処理木板27が順に積層される。
【0053】
最後に、2枚目の未処理木板28における一方の板表面に接着剤を塗布し、当該接着剤を下側に向けた状態でこれを最上部の薬剤処理木板27の上に重ねる。このようにして、2枚の未処理木板28が板厚方向における一方および他方の最表層となるように配置された積層体90(図4)を作製する。この積層工程で用いられる接着剤は、例えばレゾルシノール樹脂またはフェノール樹脂などの熱硬化性の接着剤である。図3に示すように、2枚の未処理木板28が内層材25および外層材24をそれぞれ構成し、6枚の薬剤処理木板27が芯材26を構成する。
【0054】
次に、積層体90を加熱した状態で当該積層体90に対して板厚方向に圧力を加える(熱圧工程)。具体的には、図4に示すように、平坦な上側プレス面82Aを有する上側プレス部82と平坦な下側プレス面83Aを有する下側プレス部83との間に、積層体90を配置する。そして、上側プレス面82Aと下側プレス面83Aとが互いに接近するように、上側プレス部82および下側プレス部83の少なくともいずれか一方を、図略の駆動源により移動させる。これにより、積層体90が上側プレス面82Aおよび下側プレス面83Aにより板厚方向にプレスされる。このプレス中、積層体90が所定の温度で加熱されることにより、板表面に塗布された接着剤が熱硬化し、隣接する木板同士が強固に接着される。
【0055】
熱圧工程では、熱硬化性の接着剤をより短時間で硬化させて木板同士の確実な接着を図る観点から、積層体90の加熱温度は、80~180℃であることが好ましく、100~150℃であることがより好ましい。また同様の理由から、プレス圧は0.5~1.0MPaであることが好ましく、プレス時間は10~30分間であることが好ましい。
【0056】
次に、積層体90の表裏面を平坦化するため、切削加工を施す。これにより、未処理木板28が薬剤処理木板27に比べて薄くなる。以上のような手順で難燃処理木質材料21を作製する。
【0057】
次に、難燃処理木質材料21を荷重支持部10の表面11に貼り付ける(貼付工程)。具体的には、難燃処理木質材料21の第1内層接着面25A(図3)に接着剤(レゾルシノール樹脂またはフェノール樹脂の接着剤)を塗布し、難燃処理木質材料21の長さ方向が荷重支持部10の長さ方向と合った状態で、第1内層接着面25Aを荷重支持部10の表面11に貼り付ける。そして、油圧式のプレス機構(図示しない)などを用いて難燃処理木質材料21を荷重支持部10の表面11に対して押し付けることにより、圧締を行う。
【0058】
この圧締状態を所定時間継続することにより接着剤が硬化し、これにより難燃処理木質材料21(内側難燃処理木質材料21A)が荷重支持部10の表面11に接着される。その後、同様の手順で外側難燃処理木質材料21Bが内側難燃処理木質材料21Aの表面に接着され、さらに化粧層30が外側難燃処理木質材料21Bの表面に接着される。以上のような手順で耐火構造部材1を作製する。
【0059】
本実施形態に係る耐火構造部材の製造方法の概要は、以下の通りである。すなわち、この方法は、難燃薬剤が含浸された薬剤処理木板27と難燃薬剤が含浸されていない未処理木板28とが板厚方向に重ねられてなる難燃処理木質材料21を作製する作製工程を備えている。この作製工程は、薬剤処理木板27および未処理木板28をそれぞれ準備する木板準備工程と、未処理木板28が板厚方向における一方の最表層となるように未処理木板28と薬剤処理木板27とを板厚方向に重ねると共に、板表面に塗布された熱硬化性の接着剤によって木板同士を互いに接着することにより、積層体90を作製する積層工程と、積層体90を加熱した状態で当該積層体90に対して板厚方向に圧力を加える熱圧工程と、を含む。
【0060】
またこの方法は、荷重支持部10を準備する準備工程と、荷重支持部10の表面11に難燃処理木質材料21を貼り付ける貼付工程と、を備えている。貼付工程では、未処理木板28が接着剤を介して荷重支持部10の表面11に接着されるように、難燃処理木質材料21を荷重支持部10の表面11に貼り付ける。
【0061】
この方法によれば、木板(単板)に難燃薬剤を含浸した後、木板同士を重ねて接着することにより難燃処理木質材料21が得られる。このため、木板同士を積層接着した後に難燃薬剤を含浸する場合に比べて、難燃薬剤を均一に含浸させることができる。しかも、木板同士が熱硬化性の接着剤を用いた熱圧接着により互いに接着されるため、難燃薬剤と接着剤との親和性に関わらず、木板同士を確実に接着することが可能である。
【0062】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る耐火構造部材2について、図5を参照して説明する。この耐火構造部材2は、基本的に上記実施形態1に係る耐火構造部材1と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、建築物の梁である点で上記実施形態1に係る耐火構造部材1と異なっている。以下、上記実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0063】
図5に示すように、耐火構造部材2では、荷重支持部10の4つの表面11のうち、3つの表面11が内側難燃処理木質材料21Aにより被覆される一方、残り1つの表面11は内側難燃処理木質材料21Aにより被覆されていない。つまり、当該1つの表面11が外部に露出した状態となっている。また内側難燃処理木質材料21Aおよび外側難燃処理木質材料21Bの端面は、荷重支持部10の露出した表面11と面一になっている。このような形態においても、上記実施形態1の場合と同様に、荷重支持部10の表面11に対する内側難燃処理木質材料21Aの接着力を十分に確保することができる。
【0064】
(その他実施形態)
上記実施形態1,2では、荷重支持部10が集成材(木材)からなる耐火集成材について説明したが、本発明の耐火構造部材はこれに限定されない。図6に示す耐火構造部材3のように、例えば角形鋼管などからなる荷重支持部10Aの表面11に難燃処理木質材料21が接着される構成が採用されてもよい。この場合、難燃処理木質材料21により荷重支持部10Aの温度上昇を抑制し、荷重支持部10Aの熱変形を抑制することができる。
【0065】
また図7に示す耐火構造部材4のように、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)などからなる荷重支持部10Bの表面11に難燃処理木質材料21が接着される構成が採用されてもよい。この場合、上記実施形態1,2と同様に、難燃処理木質材料21により荷重支持部10Bの燃焼を防ぐことができる。
【実施例
【0066】
本発明の効果を確認するため、以下の試験を行った。
【0067】
(接着性能評価試験)
はじめに、難燃処理木質材料(難燃処理LVL)を以下の手順で作製した。まず、未処理木板として、厚さ3.8mmのスギ単板を8枚準備した。そして、6枚のスギ単板に難燃薬剤(NewバーネックスS)を含浸させることにより、6枚の薬剤処理木板を得た(薬剤重量250kg、300kg)。
【0068】
次に、6枚の薬剤処理木板が2枚の未処理木板により挟まれた積層体を作製した。このとき、木板同士を接着する接着剤として、主剤(レゾルシノール樹脂、TW-28)と硬化剤スラリー(D用硬化剤30S)と充填剤(ホットP-2)とが100:20:10~13の割合で配合されたものを用いた。また硬化剤スラリーとしては、D用硬化剤30Sと水との割合が9:11となるように配合されたものを用いた。
【0069】
接着剤の塗布量は160g/m以上とし、積層体の作製時間は10分以内とした。そして、積層体をプレス装置内に配置し、加熱温度140℃、プレス圧0.8MPa、加圧時間20分の条件で熱圧を行った。その後、積層体の厚さが25mmとなるように当該積層体の表裏面(未処理木板)を研削した。このような手順で難燃処理LVLを複数枚作製した。
【0070】
次に、作製した難燃処理LVLを、図2に示すように、120mm角の集成材からなる荷重支持部の表面に2層構造となるように接着した。このとき、荷重支持部と内側難燃処理LVLとの2次接着部(図2中の符号「LS」)および内側難燃処理LVLと外側難燃処理LVLとの2次接着部(図2中の符号「LL」)には、主剤(TW-36)と粉末状の硬化剤(D用硬化剤)とが100:15の割合で配合された接着剤を用いた。
【0071】
接着剤の塗布量は約800g/mとし、接着剤の塗布開始から圧締開始までの時間は20分以内とした。その後、難燃処理LVLを荷重支持部の表面に対して1MPaの圧力で一晩押し付けることにより圧締を行い、耐火集成材を作製した。
【0072】
作製した耐火集成材について、ブロックせん断試験およびナイフテストをそれぞれ行った。ブロックせん断試験は、単板積層材の日本農林規格(JAS)に準拠し、図2中の2次接着部LS,LLを含む試験片を採取して行った。ナイフテストは、2次接着部LS,LLを含むように5cm角の試験片を切り出し、当該2次接着部LS,LLにおいて強制剥離させたときの木部破断率(%)を確認することにより行った。
【0073】
また比較例として、8枚のスギ単板の全てに対して難燃薬剤を含浸させた難燃処理LVLも作製した。そして、この難燃処理LVLを荷重支持部の表面に接着し、上記実施例と同様にブロックせん断試験およびナイフテストをそれぞれ行った。
【0074】
表1は、上記実施例および比較例について行ったブロックせん断試験およびナイフテストの結果を、薬剤処理量毎にそれぞれ示している。なお、表1中の「接着層面」は、図2中のA1方向から見た2次接着部LS,LLを示し、「積層面」は、A2方向から見た2次接着部LS,LLをそれぞれ示している。
【0075】
【表1】
【0076】
表1の通り、実施例では、比較例に比べて、どの2次接着部においてもせん断強さの向上が認められた。また比較例の場合には、ブロックせん断試験およびナイフテストのいずれにおいても木部破断率が100%に満たない2次接着部が存在したのに対し、実施例の場合には、全ての2次接着部において木部破断率が100%であった。この試験結果より、難燃薬剤が含浸されていない難燃未処理木板を2次接着部(荷重支持部と難燃処理LVLとの接着部および難燃処理LVL同士の接着部)に用いることにより、接着力が向上することが分かった。
【0077】
(耐火性能試験)
まず、上記接着性能評価試験とほぼ同様にして、難燃処理LVLにより耐火被覆された耐火集成材を作製した。荷重支持部としては、600mm角で高さ3300mmの構造用スギ集成材を用いた。難燃処理LVLとしては、上記接着性能評価試験と同様に表裏両面が未処理木板からなるものを、厚さ30mm、35mmの2種類作製した。そして、この難燃処理LVLを荷重支持部の表面に2層構造となるように接着した。化粧層としては、厚さ5mmのスギKD材を用いた。荷重支持部と難燃処理LVLとの接着、難燃処理LVL同士の接着および難燃処理LVLと化粧層との接着には、レゾルシノール樹脂の接着剤(TW-28)を用いた。
【0078】
次に、作製した耐火集成材を用いて、以下の手順で耐火性能試験を行った。まず、図8に示すように、耐火集成材の上端から850mm離れた上側測定位置P1、当該上端から1650mm離れた中間測定位置P2および耐火集成材の下端から850mm離れた下側測定位置P3のそれぞれにおいて、荷重支持部の表面に8個の熱電対を等間隔に設置した(合計24個)。図8中における「1~24」までの番号は、各測定位置に設置された熱電対をそれぞれ示している。そして、熱電対が設置された耐火集成材を炉内に配置し、ISO 834の加熱温度曲線に従って耐火集成材の4つの表面をそれぞれ60分間加熱した。
【0079】
図9および図10は上側測定位置P1における温度変化を示すグラフであり、図11および図12は中間測定位置P2における温度変化を示すグラフであり、図13および図14は下側測定位置P3における温度変化を示すグラフである。図9図14のグラフにおいて各曲線に付した番号は、図8中の熱電対の番号と対応している。また各グラフ中、「’」を付した番号が示す曲線は厚さ35mmの難燃処理LVLを用いた場合の結果を示し、「’」を付さない番号が示す曲線は厚さ30mmの難燃処理LVLを用いた場合の結果を示している。
【0080】
また比較例として、8枚のスギ単板の全てに対して難燃薬剤を含浸させた難燃処理LVLにより荷重支持部の表面を被覆した耐火集成材も作製し、同様に耐火性能試験を行った。図15は比較例の上側測定位置P1における温度変化を示すグラフであり、図16は比較例の中間測定位置P2における温度変化を示すグラフであり、図17は比較例の下側測定位置P3における温度変化を示すグラフである。なお、図15図17のグラフにおいて各曲線に付した番号は、上記同様に図8中の熱電対の番号と対応している。
【0081】
図9図17のグラフに基づいて、以下の通り考察することができる。比較例の図15図17では、上側、中間及び下側のそれぞれで温度変化の傾向が異なり、また荷重支持部の4隅において温度上昇が著しかった(上側及び下側では300℃付近まで温度上昇した)。これに対し、実施例の図9図14では、上側、中間および下側のそれぞれで同様の温度変化の傾向が見られ、また荷重支持部の表面におけるどの位置でも顕著な温度上昇は認められなかった。具体的には、荷重支持部の4隅における平均温度は、厚さ35mmの難燃処理LVLの場合では175℃、厚さ30mmの難燃処理LVLの場合では200℃程度であり、いずれの場合でも木材の炭化温度(約210~260℃)以下であった。この結果より、難燃薬剤が含浸されていない未処理木板が表裏層である難燃処理LVLを燃え止まり層として用いることにより、60分耐火性能を実現可能であることが分かった。
【0082】
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
1,2,3,4 耐火構造部材
10,10A,10B 荷重支持部
11 表面
20 燃え止まり層
21 難燃処理木質材料
21A 内側難燃処理木質材料
21B 外側難燃処理木質材料
24 外層材
25 内層材
26 芯材
27 木板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17