(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】硫酸腐食耐性コンクリート系管、コンクリート系管の硫酸腐食防止方法及び鉄筋の防食方法
(51)【国際特許分類】
C23F 13/00 20060101AFI20220706BHJP
C04B 14/36 20060101ALI20220706BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20220706BHJP
E03F 3/04 20060101ALI20220706BHJP
C04B 111/23 20060101ALN20220706BHJP
【FI】
C23F13/00 R
C04B14/36
C04B28/02
E03F3/04 A
E03F3/04 Z
C04B111:23
(21)【出願番号】P 2018131924
(22)【出願日】2018-07-11
【審査請求日】2020-06-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国土交通省水管理・国土保全局「導電性の高いコンクリート系管材の開発による下水管内における電子放出菌の集積と硫化水素の発生抑制」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】518248941
【氏名又は名称】TNK水道コンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390025999
【氏名又は名称】中川ヒューム管工業株式会社
(74)【上記1名の復代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 修司
(72)【発明者】
【氏名】今井 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐麻
(72)【発明者】
【氏名】人見 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 啓
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-156369(JP,A)
【文献】特開平08-252555(JP,A)
【文献】特開2009-190925(JP,A)
【文献】特開2003-113484(JP,A)
【文献】特開2002-293599(JP,A)
【文献】特開2010-189834(JP,A)
【文献】特開2018-104608(JP,A)
【文献】電子を放出する微生物,生物工学会誌,井上謙吾,2012年,90,132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00-13/22
C23F 11/00-11/18
C23F 14/00-17/00
E03F 1/00-11/00
C04B 2/00-32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を
5~70重量%の範囲で分散内在
するセメント
の遠心成形固化
物である下水管用のコンクリート系管であ
って、
前記コンクリート系管の沈殿物に常在する電子放出菌の好気呼吸或いは嫌気呼吸により生じた電子が前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給されることを特徴とする硫酸腐食耐性コンクリート系管。
【請求項2】
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を
5~70重量%の範囲で分散内在
するセメント
の遠心成形固化
物である下水管用のコンクリート系管内において、
前記コンクリート系管の沈殿物に常在する電子放出菌の好気呼吸或いは嫌気呼吸により生じた電子が、
前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給されることで、
硫酸(H
2SO
4)の生成を抑制し、前記コンクリート系管の硫酸腐食を防ぐことを特徴とする、
コンクリート系管の硫酸腐食防止方法。
【請求項3】
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を
5~70重量%の範囲で分散内在
するセメント
の遠心成形固化
物である下水管用のコンクリート系管内において、
前記コンクリート系管の沈殿物に常在する電子放出菌の好気呼吸或いは嫌気呼吸により硫化水素(H
2S)から硫黄(S)及び電子が生成され、
前記電子を前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給されることで、
前記硫化水素(H
2S)の大気中への放散を抑制し、前記硫化水素(H
2S↑)と酸素(O
2)を基に生成される硫酸(H
2SO
4)の生成反応を抑制し、前記コンクリート系管の硫酸腐食を防ぐことを特徴とする、
コンクリート系管の硫酸腐食防止方法。
【請求項4】
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を
5~70重量%の範囲で分散内在
するセメント
の遠心成形固化
物である下水管用のコンクリート系管内において、
前記コンクリート系管内の汚泥堆積物から硫化水素(H
2S)が発生するとともに前記汚泥堆積物に常在し前記汚泥堆積物中の有機物を分解して電子を放出する電子放出菌により生じた電子が前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給され、前記硫化水素(H
2S)が硫黄(S)に酸化されることで、
前記コンクリート系管の硫酸腐食を防ぐことを特徴とする、
コンクリート系管の硫酸腐食防止方法。
【請求項5】
請求項
1に記載の硫酸腐食耐性コンクリート系管において、
前記電子を前記コンクリート中の鉄筋に通電することにより、前記鉄筋の腐食を防止することを特徴とするコンクリート系管の鉄筋の防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐硫酸性コンクリート構造物、特に、下水管用に好適な硫酸腐食耐性コンクリート系管、コンクリート系管の硫酸腐食防止方法及びコンクリート系管の鉄筋の防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下水管用のコンクリート管は、
図1に示す非特許文献1の腐食概念図、及びそれに基づく出願人作成の模式図(
図2)に示すように、
(1)硫酸塩還元菌(「SRB」、「硫酸還元菌」ともいう)によって汚泥堆積層(有機物層)の内でH
2Sが発生する。
(2)発生したH
2Sが気相に放散される。
(3)H
2Sから硫黄酸化細菌(「SOB」、「硫黄酸化菌」ともいう)によってH
2SO
4が生成される。
それら反応経路を経て生成されたH
2SO
4によって、
図3に示す写真(非特許文献2)のように腐食する。
【0003】
そのような腐食対策として、特許文献1、特許文献2などの技術が開発されている。しかしながら、特許文献1,2の製品は特殊な物質、配合によってなるもので煩雑、コストが高いものである。
【0004】
また、非特許文献3では、
図4(非特許文献3のFig.4のトレース)に示すように、電気放出菌を利用した有機物処理、およびそれに伴う硫化水素発生抑制の方法が考案されているものの、発電を視野に入れた構造であるため管内に電極(アノード、カソード)を設置するなどの処置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-336012号公報
【文献】特開平04-149053号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】https://www.jswa.go.jp/g/g5/g5m/im/pdf/i7.pdf(地方共同法人日本下水道事業団,2010)
【文献】https://theconversation.com/crumbling-sewers-are-linked-to-drinking-water-treatment-30398
【文献】https://pdfs.semanticscholar.org/9466/322f9155fc1532222ed16b85839594d35ad8.pdf(Lehua Zhang, Peter De Schryver, Bart De Gusseme, Willem De Muynck, Nico Boon, Willy Verstraete,(2008). Chemical and biological technologies for hydrogen sulfide emission control in sewer systems: a review. WATER RESEARCH, 42(1-2), p.1-12.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、従来技術とは異なる新たなアプローチで、耐硫酸性コンクリート構造物、特に、下水管用に好適な硫酸腐食耐性コンクリート系管、コンクリート系管の硫酸腐食防止方法及び鉄筋の防食方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、上記の課題を解決するために、
(1)
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を5~70重量%の範囲で分散内在するセメントの遠心成形固化物である下水管用のコンクリート系管であって、
前記コンクリート系管の沈殿物に常在する電子放出菌の好気呼吸或いは嫌気呼吸により生じた電子が前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給されることを特徴とする硫酸腐食耐性コンクリート系管。
(2)
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を5~70重量%の範囲で分散内在するセメントの遠心成形固化物である下水管用のコンクリート系管内において、
前記コンクリート系管の沈殿物に常在する電子放出菌の好気呼吸或いは嫌気呼吸により生じた電子が、
前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給されることで、
硫酸(H2SO4)の生成を抑制し、前記コンクリート系管の硫酸腐食を防ぐことを特徴とする、
コンクリート系管の硫酸腐食防止方法。
(3)
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を5~70重量%の範囲で分散内在するセメントの遠心成形固化物である下水管用のコンクリート系管内において、
前記コンクリート系管の沈殿物に常在する電子放出菌の好気呼吸或いは嫌気呼吸により硫化水素(H2S)から硫黄(S)及び電子が生成され、
前記電子を前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給されることで、
前記硫化水素(H2S)の大気中への放散を抑制し、前記硫化水素(H2S↑)と酸素(O2)を基に生成される硫酸(H2SO4)の生成反応を抑制し、前記コンクリート系管の硫酸腐食を防ぐことを特徴とする、
コンクリート系管の硫酸腐食防止方法。
(4)
導電性物質として炭素粉末又は炭素繊維を5~70重量%の範囲で分散内在するセメントの遠心成形固化物である下水管用のコンクリート系管内において、
前記コンクリート系管内の汚泥堆積物から硫化水素(H2S)が発生するとともに前記汚泥堆積物に常在し前記汚泥堆積物中の有機物を分解して電子を放出する電子放出菌により生じた電子が前記導電性物質を通り空気中の酸素に供給され、前記硫化水素(H2S)が硫黄(S)に酸化されることで、
前記コンクリート系管の硫酸腐食を防ぐことを特徴とする、
コンクリート系管の硫酸腐食防止方法。
(5)
(1)に記載の硫酸腐食耐性コンクリート系管において、
前記電子を前記コンクリート中の鉄筋に通電することにより、前記鉄筋の腐食を防止することを特徴とするコンクリート系管の鉄筋の防食方法。
の構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以上の構成であるので、以下の効果を奏する。すなわち、本発明の硫酸腐食耐性コンクリート系管を下水管として利用しても、強度が十分で、硫酸腐食に対して耐性がある。その結果、本発明は長期使用に耐え、ランニングコストを低く抑えることができる。さらに、従来行っている微生物増殖のコントロールを必要としないため、薬注制御、好気・嫌気制御、その設備、人員、コストを必要としない。
【0010】
加えて、酸素を電子受容体として利用するため、汚泥堆積物中の有機物を効率よく分解することができる。
【0011】
さらに、電子放出菌から放出された電子の一部が常時コンクリート中の鉄筋に通電されるため鉄筋の電位が高く維持され、鉄筋の酸化が制限され、鉄筋の防食が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】下水管の腐食機構の概念図(非特許文献1)である。
【
図2】非特許文献1を参考に作成した腐食機構の模式図である。
【
図4】非特許文献3のFig.4を参考に作成した電子放出菌を利用した有機物処理機能をもつ下水管の模式図である。
【
図5】(A)は一般的な菌による有機物の分解と、それによって生じた電子伝達経路図、(B)は本願発明による電子放出菌による有機物の分解と、電子放出反応、さらに電子伝達経路の説明図である。
【
図6】本願発明による下水管内における有機物(汚泥堆積物)の分解と、電子放出反応、電子伝達経路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づき本発明について詳細に説明する。なお、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0014】
図5(A)に示すように、直接電子放出しない一般的な菌は、好気呼吸を行う際にエネルギー回収後に二酸化炭素を生成するとともに、余剰電子を体内にて酸素に受け渡す。
一方、前述の硫酸塩還元菌(SRB)は嫌気呼吸を行う際に、有機物を酸化してエネルギー回収後に余剰電子を硫酸イオンに受け渡して還元することで硫化水素を放出する。
【0015】
他方、
図5(B)に示すように、電子放出菌は、好気呼吸や嫌気呼吸を行うに際して、エネルギー回収後に、直接導体に余剰電子を放出する。その電子は、種々の電子伝達系を介して、最終的には酸素に伝達される。
【0016】
本願発明では、
図5(B)及び
図6に示すように、導電性物質をコンクリートに含有させてなる硫酸腐食耐性コンクリート系管2であるので、管の電気伝導率を向上させるとともに、硫酸腐食耐性コンクリート系管2を下水管として用いた場合には、導体としての導電性物質をコンクリートに含有させ、さらに表面にも設けることで、酸素を最終電子受容体とした電子放出菌の呼吸に伴う酸化・還元サイクルをコンクリート2aを介して成立させることができる。
それにより、硫酸塩還元菌の嫌気呼吸で生じた硫化水素(H
2S)を酸化することで大気中への放散を積極的に抑制し、硫化水素(H
2S↑)と酸素(O
2)を基に生成される硫酸(H
2SO
4)の生成反応を抑制し、コンクリート2aの腐食を防ぐことができる。
【0017】
ここで、導電性物質としては、炭素繊維及び粉末、金属繊維及び粉末などがある。
【0018】
特に、炭素粉末がセメント成分と化学反応を起こさないこと、電子放出菌と接触しやすく分散させることが容易なことから好適である。添加量としては、導電性物質の添加量が増加するのに伴い硬化したセメントの強度が低下するためセメント量にたいして5~70重量%までであるのが好ましい。
【0019】
このような硫酸腐食耐性コンクリート系管は、従来のヒューム管の遠心成形で製造することができる。その場合、比重の差から電子放出菌の存在するヒューム管内面に導電性物質を集めることができ、導電性物質の添加量を抑えることができるため特に好ましい。
【0020】
導電性物質によりコンクリートの電気伝導率が向上しており電子放出菌から放出された電子の一部はヒューム管の主筋である鉄筋にも通電するため、鉄筋の電位が通常に比べ高く維持されることから、鉄筋の酸化が制限され酸化腐食を防止し、コンクリート系管の鉄筋の防食が可能になる。
【符号の説明】
【0021】
1 利用中の下水管
2 硫酸腐食耐性コンクリート系管
2a コンクリート