(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】船上の吊り荷の吊り上げ方法及び吊り上げ補助システム
(51)【国際特許分類】
B66C 13/46 20060101AFI20220706BHJP
B66C 23/52 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
B66C13/46 E
B66C23/52
(21)【出願番号】P 2018142553
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506378647
【氏名又は名称】株式会社青山海事
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直幸
(72)【発明者】
【氏名】青山 武美智
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113218(JP,A)
【文献】実開平04-053786(JP,U)
【文献】特開昭59-053394(JP,A)
【文献】特開昭61-211296(JP,A)
【文献】特開2014-105091(JP,A)
【文献】特開2017-170552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/46
B66C 23/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船上に設置されたクレーンによる船上の吊り荷の吊り上げ方法であって、
前記クレーンのブーム先端に設けられたシーブの両側方に、船の揺れの状態の如何に関わらず、常に鉛直下方を向くように2つのレーザ光照射手段を取り付け、
前記シーブから吊り下げられたワイヤ先端のフックに前記吊り荷を掛止する際に、前記2つのレーザ光照射手段からレーザ光を照射し、該レーザ光の照射中心位置と前記吊り荷の重心位置との位置関係に基づいて、前記吊り荷の重心位置の鉛直上方に前記シーブが位置するように、前記クレーンのブーム先端の位置を調整し、
前記吊り荷を地切りする際に、前記2つのレーザ光照射手段からレーザ光を照射しながら、前記レーザ光の照射中心位置が前記吊り荷の重心位置と重なるタイミングで地切りを行うことを特徴とする船上の吊り荷の吊り上げ方法。
【請求項2】
前記2つのレーザ光照射手段の各々から、照射形状が十字形のレーザ光を、前記十字形を成す一方の線分同士が直線状に並ぶ向きで照射することを特徴とする請求項1記載の船上の吊り荷の吊り上げ方法。
【請求項3】
船上に設置されたクレーンと、
2つのレーザ光照射手段と、
前記クレーンのブーム先端に設けられたシーブの両側方において、前記2つのレーザ光照射手段を、船の揺れの状態の如何に関わらず、常に鉛直下方を向くように保持する2つの保持手段と、を含み、
前記2つのレーザ光照射手段の各々は、照射形状が十字形のレーザ光を照射するものであり、前記十字形を成す一方の線分同士が直線状に並ぶ向きで、前記2つの保持手段により保持されていることを特徴とする船上の吊り荷の吊り上げ補助システム。
【請求項4】
前記2つの保持手段の各々は、前記レーザ光照射手段を鉛直下方に向けるための可動部に、オイルダンパーが用いられていることを特徴とする請求項3記載の船上の吊り荷の吊り上げ補助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船上に設置されたクレーンによる船上の吊り荷の吊り上げ方法、及び、船上の吊り荷の吊り上げ補助システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーン作業により吊り荷を吊り上げるときには、吊り荷を斜めに吊り上げると吊り荷が揺れてしまい、構造物や他の吊り荷等と接触する虞がある。このため、吊り荷がクレーンブーム先端のシーブの直下の位置関係にあるときに地切りを行い、吊り荷を鉛直に吊り上げる必要がある。吊り荷とシーブとの位置関係を鉛直にする方法としては、玉掛け時にクレーンフックを吊り荷の近くへ誘導する際に、合図者の指示によりクレーンフックの位置を調整する方法が良く行われる。そして、吊り荷を吊り上げるときには、合図者により、吊り荷が鉛直に吊り上がるようにシーブの位置を調整・確認してから、吊り上げの指示を行う。このようなクレーン作業を補助することを目的として、種々の発明が発案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようなクレーン作業は、例えば
図5に示すような、海上起重機船等の船12上に設置されたクレーン14によっても行われ、この場合は、陸上では考慮する必要のなかった波の影響によって、船12が動揺する中でのクレーン作業となる。このような波の影響下では、船体と一緒に動揺するクレーンブーム16の先端にあるシーブ18の鉛直下方位置が、船体上で常に変化する。このため、船体の動揺を考慮して、合図者Pは、クレーンブーム16先端のシーブ18の位置と吊り荷50の位置とが、鉛直の関係になるタイミングを見計らって、クレーン操縦者に地切りを実行させる。しかしながら、船体が動揺する中で、シーブ18と吊り荷50との位置関係を目視により把握するには限界があり、地切りのタイミングを計るには、相当な熟練を要するものであった。更に、上述した従来の発明は、陸上でのクレーン作業を前提としたものであり、波の影響によってクレーン自体が揺れることを想定したものではなかった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、船体の動揺の如何を問わず適切なタイミングで地切りを行うことで、吊り荷の動揺を最小限に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)船上に設置されたクレーンによる船上の吊り荷の吊り上げ方法であって、前記クレーンのブーム先端に設けられたシーブの両側方に、船の揺れの状態の如何に関わらず、常に鉛直下方を向くように2つのレーザ光照射手段を取り付け、前記シーブから吊り下げられたワイヤ先端のフックに前記吊り荷を掛止する際に、前記2つのレーザ光照射手段からレーザ光を照射し、該レーザ光の照射中心位置と前記吊り荷の重心位置との位置関係に基づいて、前記吊り荷の重心位置の鉛直上方に前記シーブが位置するように、前記クレーンのブーム先端の位置を調整し、前記吊り荷を地切りする際に、前記2つのレーザ光照射手段からレーザ光を照射しながら、前記レーザ光の照射中心位置が前記吊り荷の重心位置と重なるタイミングで地切りを行う船上の吊り荷の吊り上げ方法(請求項1)。
【0008】
本項に記載の船上の吊り荷の吊り上げ方法は、船上に設置されたクレーンのブーム先端に設けられたシーブの両側方に、2つのレーザ光照射手段を取り付ける。この際、波の影響等による船の揺れの状態の如何に関わらず、2つのレーザ光照射手段が、常に、シーブの両側方から鉛直下方を向くように、適切な保持手段を利用して取り付ける。そして、クレーン作業時に、シーブから吊り下げられたワイヤ先端のフックに対して、船上の吊り荷を掛止する際に、シーブ両側方の2つのレーザ光照射手段からレーザ光を照射し、このレーザ光を拠り所にして、クレーンのブーム先端の位置を調整する。すなわち、2つのレーザ光照射手段は、常に鉛直下方を向くように取り付けられているため、2つのレーザ光照射手段から照射された2つのレーザ光は、常にシーブの鉛直下方を照射している。
【0009】
そこで、これらのレーザ光の照射中心位置と、吊り荷の重心位置との位置関係に基づいて、吊り荷の重心位置の鉛直上方にシーブが位置するように、ブーム先端の位置を調整する。この際、水上の波が比較的穏やかで、船がほとんど揺れていない場合は、レーザ光の照射中心位置が吊り荷の重心位置と重なるように、ブーム先端位置を調整すればよい。一方、波の影響で船が揺れている場合は、常にシーブの鉛直下方を照射するレーザ光が、船上で動いているように見えるため、そのレーザ光の照射位置が描く軌跡の中心位置が、吊り荷の重心位置と重なるように、ブーム先端位置を調整すればよい。これにより、船体の動揺の如何に関わらず、吊り荷の重心位置の鉛直上方にシーブが位置することになる。なお、2つのレーザ光照射手段からのレーザ光の照射中心位置は、船上や吊り荷上に照射されている2つのレーザ光の間の中心位置を目視で把握すればよく、又、吊り荷の重心位置は、吊り荷の形状等に基づいて目視で把握すればよい。
【0010】
更に、上記のようにブーム先端位置を調整し、クレーンのフックに吊り荷を掛止した後に、吊り荷を地切りする際、2つのレーザ光照射手段からレーザ光を照射しながら、それらのレーザ光の照射中心位置が、吊り荷の重心位置と重なるタイミングを計る。すなわち、波の影響で船が揺れている場合は、上述したブーム先端位置の調整の結果、2つのレーザ光照射手段からのレーザ光が、船上及び吊り荷上に、吊り荷の重心位置を中心とする照射軌跡を描いているように見える。このため、2つのレーザ光の中心位置が、吊り荷の重心位置と重なる位置まで移動したタイミングを見計らい、このタイミングで地切りを行うことで、シーブの位置と吊り荷の重心位置とが鉛直関係になった瞬間に、地切りが行われることになる。このように、船体の動揺の如何を問わず、適切なタイミングで地切りが行われるため、吊り荷の動揺が最小限に抑制されるものとなる。更に、2つのレーザ光照射手段からレーザ光を照射することによって、シーブと吊り荷の重心位置との位置関係が明確になるため、ブーム先端位置の調整や地切りのタイミングの把握が、従来よりも容易かつ正確に行われるものである。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記2つのレーザ光照射手段の各々から、照射形状が十字形のレーザ光を、前記十字形を成す一方の線分同士が直線状に並ぶ向きで照射する船上の吊り荷の吊り上げ方法(請求項2)。
本項に記載の船上の吊り荷の吊り上げ方法は、2つのレーザ光照射手段の各々から、照射形状が十字形のレーザ光を照射し、この際、レーザ光の十字形を成す一方の線分が、2つのレーザ光同士で直線状に並ぶ向きで照射する。このため、2つのレーザ光の照射中心位置は、直線状に並んだ線分上或いはそれらの線分の延長線上の、2つの十字形の交点間の中央に位置することになる。これにより、2つのレーザ光の照射中心位置が、直感的に把握されるため、レーザ光の照射中心位置と吊り荷の重心位置との位置関係が、容易に把握されるものとなる。
【0012】
(3)船上に設置されたクレーンと、2つのレーザ光照射手段と、前記クレーンのブーム先端に設けられたシーブの両側方において、前記2つのレーザ光照射手段を、船の揺れの状態の如何に関わらず、常に鉛直下方を向くように保持する2つの保持手段と、を含み、前記2つのレーザ光照射手段の各々は、照射形状が十字形のレーザ光を照射するものであり、前記十字形を成す一方の線分同士が直線状に並ぶ向きで、前記2つの保持手段により保持されている船上の吊り荷の吊り上げ補助システム(請求項3)。
本項に記載の船上の吊り荷の吊り上げ補助システムは、船上に設置されたクレーンと、2つのレーザ光照射手段と、2つの保持手段とを含むものである。2つの保持手段は、2つのレーザ光照射手段を、クレーンのブーム先端に設けられたシーブの両側方において、船の揺れの状態の如何に関わらず、常に鉛直下方を向くように保持する。又、2つのレーザ光照射手段の各々は、照射形状が十字形のレーザ光を照射するものであり、更に、その十字形を成す一方の線分が、2つのレーザ光照射手段同士で直線状に並ぶような向きで、2つの保持手段により保持されている。
【0013】
上記のような構成により、2つの保持手段によって常に鉛直下方を向くように保持されている、2つのレーザ光照射手段からレーザ光が照射されると、それらのレーザ光は、常にシーブの鉛直下方を照射することになる。このため、例えば、シーブから吊り下げられたワイヤ先端のフックに吊り荷を掛止する際に、上記の如くレーザ光が照射されることで、このレーザ光を拠り所にして、クレーンのブーム先端の位置が調整される。すなわち、レーザ光の照射中心位置と、吊り荷の重心位置との位置関係に基づいて、吊り荷の重心位置の鉛直上方にシーブが位置するように、ブーム先端の位置が調整される。これにより、船体の動揺の如何に関わらず、吊り荷の重心位置の鉛直上方に、容易にシーブの位置が調整されることになる。
【0014】
加えて、上記のようにブーム先端位置が調整され、クレーンのフックに吊り荷が掛止された後、吊り荷が地切りされる際にも、2つのレーザ光照射手段からレーザ光が照射されることで、それらのレーザ光が利用されて、地切りのタイミングが計られる。すなわち、2つのレーザ光照射手段からのレーザ光の照射中心位置が、吊り荷の重心位置と重なるタイミングで、地切りが実行されることにより、シーブの位置と吊り荷の重心位置とが鉛直関係になった瞬間に、地切りが行われることになる。これにより、船体の動揺の如何を問わず、適切なタイミングで地切りが行われることになるため、吊り荷の動揺が最小限に抑制されるものとなる。しかも、2つのレーザ光照射手段から照射されるレーザ光は、上述したように、十字形が直線状に並ぶように照射されるため、レーザ光の照射中心位置が直感的に把握され、延いては、レーザ光の照射中心位置と吊り荷の重心位置との位置関係が、容易に把握されるものである。
【0015】
(4)上記(3)項において、前記2つの保持手段の各々は、前記レーザ光照射手段を鉛直下方に向けるための可動部に、オイルダンパーが用いられている船上の吊り荷の吊り上げ補助システム(請求項4)。
本項に記載の船上の吊り荷の吊り上げ補助システムは、2つの保持手段の各々の、レーザ光照射手段を鉛直下方に向けるための可動部に、オイルダンパーが用いられているものである。これにより、船体の動揺に合わせて、レーザ光照射手段が鉛直下方を向くように、保持手段の可動部が作動する際、船体の揺れの衝撃がオイルダンパーにより低減されながら、レーザ光照射手段の向きが適切な速度で変えられることになる。更に、船体の揺れの衝撃だけでなく、風等の他の要因による揺れの衝撃も、オイルダンパーにより低減されるため、レーザ光照射手段の故障発生が抑制されるものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のような構成であるため、船体の動揺の如何を問わず適切なタイミングで地切りを行うことができ、吊り荷の動揺を最小限に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ補助システムの概要を示す模式図である。
【
図2】2つのレーザ光照射手段から吊り荷にレーザ光が照射された様子を示すイメージ図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ方法の一例を示すフロー図である。
【
図4】2つのレーザ光照射手段から照射されたレーザ光が吊り荷に対して揺れているように見える様子を示すイメージ図である。
【
図5】船上に設置されたクレーンにより船上の吊り荷を吊り上げる様子を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ補助システム10の構成を概略的に示している。図示のように、吊り荷の吊り上げ補助システム10は、クレーン14と、2つのレーザ光照射手段30と、2つの保持手段40とを有している。クレーン14は、例えば
図5に示したような起重機船等の船12上に設置されたものであり、
図5も参照して、ブーム16、ブーム16の先端に設置されたシーブ18、シーブ18からワイヤ20を介して吊り下げられているフック22等を備えたものである。又、これに限定されるものではないが、一例を挙げると、ブーム16の長さが50m程度のクレーン14が想定される。
【0019】
図1に戻り、2つのレーザ光照射手段30は、所定の方向へレーザ光32を照射するものであり、各々が保持手段40によって保持されている。2つの保持手段40は、クレーン14のシーブ18の両側方において、2つのレーザ光照射手段30を保持している。より詳しくは、保持手段40の各々は、船12(
図5参照)の揺れの状態の如何に関わらず、レーザ光照射手段30が常に鉛直下方に向くように保持している。そして、保持手段40は、
図1の左上のブロック図に示すように、レーザ光照射手段30を鉛直下方へ向けるための可動部に、オイルダンパー42が用いられている。このような保持手段40の例として、クレーンカメラを保持するための保持具を利用することが挙げられる。なお、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ補助システム10は、常に鉛直下方に向くようにレーザ光照射手段30を保持するものであれば、保持手段40が図示の例に限定されるものではなく、例えばオイルダンパー42を備えていなくてもよい。又、図示の便宜上、
図1には、一方のレーザ光照射手段30及び保持手段40についてのみ、ブロック図でも構成を示しているが、他方のレーザ光照射手段30及び保持手段40の構成もこれと同様である。
【0020】
2つのレーザ光照射手段30の各々は、図示の例では十字形のレーザ光32を照射するものが利用されている。すなわち、各レーザ光照射手段30から照射されるレーザ光32は、2つの線分32a、32bが直角に交わる十字形を成している。更に、2つのレーザ光照射手段30は、十字形を成す一方の線分32a同士が直線状に並ぶ向きで、2つの保持手段40により保持されている。このようなレーザ光32が、例えば
図5に示すような位置関係で、シーブ18の側方から船上の吊り荷50へ照射された様子を、
図2に示している。
図2において、符号32cは、2つのレーザ光32の照射中心位置を示しており、符号50cは、吊り荷50の重心位置を示している。
【0021】
なお、
図1及び
図2の例では、2つのレーザ光32の一方の線分32a間に隙間が無く、1つの線分に見えるように照射されているが、一方の線分32a間に隙間があってもよい。その場合は、線分32a間の隙間の中央位置が、2つのレーザ光32の照射中心位置32cとなる。又、
図1では、レーザ光32の照射形状を分かりやすく示すために、シーブ18から僅かに下方の位置にレーザ光32が照射された状態を示している。レーザ光照射手段30には、レーザ光を照射する各種装置から、クレーン14の大きさ、レーザ光32の明るさや色等が考慮され、照射先において視認可能なレーザ光32を照射することができる、適切な装置が選定されて使用される。
【0022】
続いて、
図3に示すフロー図の流れに沿って、上述したような構成の船上の吊り荷の吊り上げ補助システム10を利用する、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ方法について説明する。ここでは、吊り荷50として、
図2や
図5に示した消波ブロックを吊り上げる例を説明するが、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ方法によって吊り上げる吊り荷50は、船上に載置されたものであれば、その大きさや形状等は特に限定されるものではない。例えば、吊り荷50は、起重機船のクレーン14で吊り上げることを想定した吊り荷全般であり、大きいものであれば、水中に施工された基礎杭と組み合わされて足場等を構築するジャケットであってもよい。なお、船上の吊り荷の吊り上げ補助システム10の構成等は、適宜、
図1及び
図5を参照のこと。
【0023】
S10(レーザ光照射手段取付):クレーン14のシーブ18の両側方に、夫々に保持手段40を用いて、2つのレーザ光照射手段30を取り付ける。保持手段40のシーブ18側方への取付方法は、保持手段40の形状や構成に合わせて任意の方法を採用できる。保持手段40を介して取り付けられることにより、レーザ光照射手段30の各々は、クレーン14が動揺しても常に鉛直下方を向くように設置される。なお、レーザ光照射手段30の取付作業は、使用するクレーン14毎に1度だけ行えばよいが、必要に応じた任意のタイミングで、レーザ光照射手段30を設置及び撤去することとしてもよい。
【0024】
S20(玉掛作業準備):吊り上げ対象の吊り荷50に対する玉掛け用のワイヤロープの取り付け等、玉掛作業を行う上で必要な準備を行う。
S30(レーザ光照射開始):2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32の照射を開始する。レーザ光32の照射開始は、例えば、有線或いは無線でレーザ光照射手段30と接続された操作手段(図示省略)を介して、レーザ光32を照射する操作を入力する等して行うものとする。レーザ光照射の操作入力は、操作手段の設置位置等に応じて、合図者Pやクレーン操縦者等の任意の作業者により実施できる。
【0025】
S40(クレーン誘導):合図者Pによりクレーン14の誘導を行う。具体的には、2つのレーザ光照射手段30から照射されているレーザ光32を目安にして、クレーン14のブーム16先端に設置されたシーブ18が、吊り荷50の重心位置50c(
図2参照)の鉛直上方に位置するように、換言すれば、2つのレーザ光32の照射中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50cと重なるように、クレーン14を誘導する。このとき、船12が波の影響で動揺すること等により、船12上のクレーン14も動揺するため、常に鉛直下方を向くようにシーブ18の両側方に取り付けられている、2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32は、その照射位置が定まらずに船12上で揺れているように見える。
【0026】
例えば、
図4には、レーザ光32が吊り荷50の近傍で、
図4における上下方向に揺れて見える様子を示しており、破線で図示されているレーザ光32が最大に揺れた位置を、実線で図示されているレーザ光32が揺れの略中心位置を、夫々示している。このような場合は、レーザ光32の揺れの軌跡を目視で把握し、揺れの軌跡の中心位置が、吊り荷50の重心位置50cと重なるように、クレーン14を誘導する。そして、クレーン操縦者は、合図者Pの誘導に従い、クレーン14のシーブ18の位置を調整すると共に、シーブ18から吊り下げているワイヤ20の長さを調整する。ここで、2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32の照射中心位置32cは、船12上や吊り荷50上に照射されている2つのレーザ光32の間の中心位置を目視で把握するものとし、又、吊り荷50の重心位置50cも、吊り荷50の形状等に基づいて目視で把握するものとする。
【0027】
S50(シーブ位置判定):上記S40におけるクレーン14の誘導の結果、クレーン14のシーブ18が、吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方に位置しているか否かを、合図者Pにより判定する。この判定は、2つのレーザ光照射手段30から照射されているレーザ光32の照射中心位置32cと、吊り荷50の重心位置50cとの位置関係を目安にして行えばよい。その結果、シーブ18が吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方に位置していると判定した場合(YES)は、S60へ移行し、鉛直上方に位置していないと判定した場合(NO)は、上記S40へ復帰する。すなわち、シーブ18が吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方に位置するまで、クレーン14の誘導及び位置調整を繰り返し実行する。
S60(吊り荷掛止):玉掛け者により、クレーン14のシーブ18からワイヤ20を介して吊り下げられているフック22に対して、吊り荷50に取り付けられている玉掛け用のワイヤロープを掛止する。なお、この吊り荷50の掛止作業は、上記S40及びS50の実行中に行ってもよい。
【0028】
S70(地切りタイミング見極め):合図者Pにより、吊り荷50を地切りするタイミングを見極める。具体的には、クレーン14のシーブ18が、吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方に位置するタイミング、換言すれば、2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32の照射中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50cと重なるタイミングを見極める。すなわち、上記S40に記載したように、波の影響等によりクレーン14が動揺することで、2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32は、例えば
図4に示すように揺れている。そして、上記S40及びS50を経たことで、クレーン14のシーブ18の位置は、レーザ光32の揺れの軌跡の中心位置が、吊り荷50の重心位置50cと重なるように調整されている。このため、レーザ光32が揺れている中で、レーザ光32の照射中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50cと重なるタイミングが存在する。本作業ステップでは、そのようなタイミングを見極めるものである。なお、レーザ光32が、吊り荷50の重心位置50cを中心として、円形や楕円形の軌跡を描いているような場合には、レーザ光32の揺れが単純な双方向の往復軌跡になるまで待機してもよく、或いは、レーザ光32の照射中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50に最も近くなるタイミングを見極めることとしてもよい。
【0029】
S80(地切り合図):上記S70におけるタイミング調整の結果、2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32の照射中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50cと重なったタイミングで、合図者Pからクレーン操縦者に対して地切り実行の合図を出す。例えば、レーザ光32が
図4に示すような軌跡で揺れている場合は、レーザ光32が
図4に実線で示されている位置になったタイミングで、地切り実行の合図を出す。
S90(地切り):上記S80における合図者Pからの合図を受けて、クレーン操縦者によりクレーン14を操縦し、吊り荷50の地切りを実行する。
【0030】
S100(レーザ光照射終了):2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32の照射を終了する。すなわち、合図者Pやクレーン操縦者等により、操作手段を介して操作を入力することで、レーザ光32の照射を終了する。なお、レーザ光32の照射終了操作は、上記S90の地切りを実行した後であれば、任意のタイミングで行ってよい。又、
図3の例に係る船上の吊り荷の吊り上げ方法は、本作業ステップで終了となるが、以降は、クレーン14により吊り上げた吊り荷50をフック22から外すまで、通常の玉掛け作業を続ければよい。
ここで、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ方法は、
図3の構成に限定されるものではなく、作業ステップの一部が変更、追加、削除されたものであってもよい。又、2つのレーザ光照射手段30の各々から照射するレーザ光32の形状は、十字形に限定されるものではなく、他の形状であってもよい。
【0031】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ補助システム10は、
図1及び
図5に示すように、船12上に設置されたクレーン14と、2つのレーザ光照射手段30と、2つの保持手段40とを含むものである。2つの保持手段40は、2つのレーザ光照射手段30を、クレーン14のブーム16先端に設けられたシーブ18の両側方において、船の揺れの状態の如何に関わらず、常に鉛直下方を向くように保持する。又、2つのレーザ光照射手段30の各々は、
図2も参照して、照射形状が十字形のレーザ光32を照射するものであり、更に、その十字形を成す一方の線分32aが、2つのレーザ光照射手段30同士で直線状に並ぶような向きで、2つの保持手段40により保持されている。
【0032】
上記のような構成により、2つの保持手段40によって常に鉛直下方を向くように保持されている、2つのレーザ光照射手段30からレーザ光32が照射されると、それらのレーザ光32は、常にシーブ18の鉛直下方を照射することになる。このため、例えば、シーブ18から吊り下げられたワイヤ20先端のフック22に吊り荷50を掛止する際に、上記の如くレーザ光32が照射されることで、このレーザ光32を拠り所にして、クレーン14のブーム16先端の位置を調整することができる。すなわち、レーザ光32の照射中心位置32cと、吊り荷50の重心位置50cとの位置関係に基づいて、吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方にシーブ18が位置するように、ブーム16先端の位置が調整される。これにより、船体の動揺の如何に関わらず、吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方に、容易にシーブ18の位置を調整することができる。
【0033】
加えて、上記のようにブーム16の先端位置が調整され、クレーン14のフック22に吊り荷50が掛止された後、吊り荷50が地切りされる際にも、2つのレーザ光照射手段30からレーザ光32が照射されることで、それらのレーザ光32が利用されて、地切りのタイミングが計られる。すなわち、2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32の照射中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50cと重なるタイミングで、地切りが実行されることにより、シーブ18の位置と吊り荷50の重心位置50cとが鉛直関係になった瞬間に、地切りを行うことができる。これにより、船体の動揺の如何を問わず、適切なタイミングで地切りを行うことができるため、吊り荷50の動揺を最小限に抑制することが可能となる。
【0034】
又、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ補助システム10は、
図1に示すように、2つの保持手段40の各々の、レーザ光照射手段30を鉛直下方に向けるための可動部に、オイルダンパー42が用いられているものである。これにより、船体の動揺に合わせて、レーザ光照射手段30が鉛直下方を向くように、保持手段40の可動部が作動する際、船体の揺れの衝撃をオイルダンパー42により低減しながら、レーザ光照射手段30の向きを適切な速度で変えることができる。更に、船体の揺れの衝撃だけでなく、風等の他の要因による揺れの衝撃も、オイルダンパー42により低減することができるため、レーザ光照射手段30の故障発生を抑制することが可能となる。
【0035】
他方、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ方法は、
図2に示すように、船12上に設置されたクレーン14のブーム16先端に設けられたシーブ18の両側方に、2つのレーザ光照射手段30を取り付ける(S10参照)。この際、波の影響等による船の揺れの状態の如何に関わらず、2つのレーザ光照射手段30が、常に、シーブ18の両側方から鉛直下方を向くように、保持手段40を利用して取り付ける。そして、クレーン作業時に、シーブ18から吊り下げられたワイヤ20先端のフック22に対して、船12上の吊り荷50を掛止する際に、シーブ18両側方の2つのレーザ光照射手段30からレーザ光32を照射し、このレーザ光32を拠り所にして、クレーン14のブーム16先端の位置を調整する(S30~S50参照)。すなわち、2つのレーザ光照射手段30は、常に鉛直下方を向くように取り付けられているため、2つのレーザ光照射手段30から照射された2つのレーザ光32は、常にシーブ18の鉛直下方を照射している。
【0036】
そこで、これらのレーザ光32の照射中心位置32cと、吊り荷50の重心位置50cとの位置関係に基づいて、吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方にシーブ18が位置するように、ブーム16先端の位置を調整する。この際、水上の波が比較的穏やかで、船12がほとんど揺れていない場合は、レーザ光32の照射中心位置32cが吊り荷50の重心位置50cと重なるように、ブーム16の先端位置を調整すればよい。一方、波の影響で船12が揺れている場合は、常にシーブ18の鉛直下方を照射するレーザ光32が、船12上で動いているように見えるため、そのレーザ光32の照射位置が描く軌跡の中心位置が、吊り荷50の重心位置50cと重なるように、ブーム16の先端位置を調整すればよい(
図4参照)。これにより、船体の動揺の如何に関わらず、吊り荷50の重心位置50cの鉛直上方に、シーブ18を位置させることができる。
【0037】
更に、上記のようにブーム16の先端位置を調整し、クレーン14のフック22に吊り荷50を掛止した後に、吊り荷50を地切りする際、2つのレーザ光照射手段30からレーザ光32を照射しながら、それらのレーザ光32の照射中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50cと重なるタイミングを計る(S70~S90参照)。すなわち、波の影響で船12が揺れている場合は、上述したブーム16先端位置の調整の結果、2つのレーザ光照射手段30からのレーザ光32が、船12上及び吊り荷50上に、吊り荷50の重心位置50cを中心とする照射軌跡を描いているように見える。このため、2つのレーザ光32の中心位置32cが、吊り荷50の重心位置50cと重なる位置まで移動したタイミング(
図4の実線のレーザ光32のタイミング)を見計らい、このタイミングで地切りを行うことで、シーブ18の位置と吊り荷50の重心位置50cとが鉛直関係になった瞬間に、地切りを行うことができる。このように、船体の動揺の如何を問わず、適切なタイミングで地切りを行うことができるため、吊り荷50の動揺を最小限に抑制することができる。更に、2つのレーザ光照射手段30からレーザ光32を照射することによって、シーブ18と吊り荷50の重心位置50cとの位置関係が明確になるため、ブーム16の先端位置の調整や地切りのタイミングの把握を、従来よりも容易かつ正確に行うことが可能となる。
【0038】
更に、本発明の実施の形態に係る船上の吊り荷の吊り上げ方法は、
図1及び
図2に示すように、2つのレーザ光照射手段30の各々から、照射形状が十字形のレーザ光32を照射し、この際、レーザ光32の十字形を成す一方の線分32aが、2つのレーザ光32同士で直線状に並ぶ向きで照射する。このため、2つのレーザ光32の照射中心位置32cは、直線状に並んだ線分32a上或いはそれらの線分32aの延長線上の、2つの十字形の交点間の中央に位置することになる。これにより、2つのレーザ光32の照射中心位置32cを、直感的に把握することができるため、レーザ光32の照射中心位置32cと吊り荷50の重心位置50cとの位置関係を、容易に把握することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
10:船上の吊り荷の吊り上げ補助システム、12:船、14:クレーン、16:ブーム、18:シーブ、20:ワイヤ、22:フック、30:レーザ光照射手段、32:レーザ光、32c:照射中心位置、32a:一方の線分、40:保持手段、42:オイルダンパー、50:吊り荷、50c:重心位置