(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】建築物の外壁検査ロボット
(51)【国際特許分類】
G01N 29/265 20060101AFI20220706BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N29/04
(21)【出願番号】P 2018163004
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】518057413
【氏名又は名称】住商産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】内田 正寛
(72)【発明者】
【氏名】内田 大和
(72)【発明者】
【氏名】岩本 達也
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-279166(JP,A)
【文献】実開平7-034367(JP,U)
【文献】特開2008-076354(JP,A)
【文献】特開平8-136513(JP,A)
【文献】特開2018-054411(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1759999(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01N 21/84 - G01N 21/958
E04G 23/00 - E04G 23/08
H04N 5/222 - H04N 5/257
G12B 1/00 - G12B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面視で略三角形状の左右枠と、この左右枠を水平に連結する複数の横枠と、により枠本体を形成し、
前記左右枠は、
駆動用モータにより回動自在とした二個のプーリーと、
前記プーリーにワイヤロープを案内する複数のガイドローラと、
建造物の外壁と当接して前記枠本体を昇降可能とした回転体と、を備え、
前記枠本体は、
外壁を打診又は摺動する打診部と、
前記打診部による外壁の打診音又は摺動音を収音する収音マイクと、
前記収音マイクで収音した打診音又は摺動音を無線で送信するとともに、前記駆動用モータ、前記打診部の外部操作信号を無線で受信する無線送受信機と、
前記駆動用モータ、前記打診部、前記無線送受信機に電力を供給する電源部と、を備え、
建造物の外壁に屋上から前記左右枠の間隔に応じて垂下された二本のワイヤロープを前記左右枠の前記プーリーに巻き付け、前記無線送受信機で受信した外部操作信号に応じて前記駆動用モータを回転させることにより前記枠本体が建造物の外壁を昇降可能としたことを特徴とする外壁検査ロボット。
【請求項2】
前記打診部は、
外壁を打診する少なくとも一個以上の打診棒を備え、
前記打診棒を水平方向に変位させることで発生する前記打診棒の先端と外壁との打診音、又は、前記打診棒の外壁側の先端を外壁に押圧した状態で、前記枠本体を上下方向に移動させることで発生する前記打診棒の先端と外壁との摺動音により、建造物の外壁の状態を診断することを特徴とする請求項1に記載の建築物の外壁検査ロボット。
【請求項3】
前記枠本体は、
少なくとも一個以上の赤外線ライトを、地上に設置した赤外線カメラで撮像可能な位置及び向きに備え、
前記赤外線ライトを前記赤外線カメラで撮像することで、外壁に対する外壁検査ロボットの位置を測位することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建築物の外壁検査ロボット。
【請求項4】
前記打診部は、前記左右枠にそれぞれ設けられた回転体の中心を水平方向に一直線上に結んだ位置に配設されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の建築物の外壁検査ロボット。
【請求項5】
前記左右枠の複数のガイドローラは、ワイヤロープの外れ防止カバーをそれぞれ備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の建築物の外壁検査ロボット。
【請求項6】
外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープの下端には、重さの異なる錘をそれぞれ吊下可能としたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の建築物の外壁検査ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁検査ロボットに関し、詳しくは、建造物の外壁のタイルの貼付状態を打診・摺動検査して異常を検出する外壁検査ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外壁を保護するために外壁にタイルを貼付し、美観や耐久性(防汚・防カビ)、耐火性の向上を図ることが行われており、特に、建造物のなかでも集合住宅(アパート、マンション等)の外壁に広く用いられている。しかしながら、日光(紫外線)や寒暖差による経年劣化により、タイルそのものの劣化は少ないが、タイル間の目地やタイルの下地が劣化することにより、タイルとタイルの下地(タイルが貼付されるコンクリートの外壁表面の接着面)との間に外観からでは判断できない剥がれが発生し、これがタイルの剥落の要因となる恐れがあった。このため、外壁からのタイルの剥落による落下事故を防止するため、平成20年には国土交通省により、10年を目安に全外壁に貼付されたタイルの貼付状態を検査し、行政庁への定期検査報告の義務が適用されることとなっている。
【0003】
また、近年日本では、自然災害である地震が発生する頻度が高く、この地震の影響で、外壁に貼付されたタイルに亀裂やタイルの剥がれ等が生じる場合がある。この亀裂やタイルの剥がれは、大きなものは外観から人が損傷個所を判断でき、この損傷個所を修復すればよい。しかしながら、タイルとタイルの下地との間に発生した外観からでは人が判断できない剥がれ等が発生する場合がある。従って、外壁からのタイルの剥落による落下事故を防止するためには、全外壁に貼付されたタイルの貼付状態の検査が必要となる。
【0004】
このような外壁に貼付されたタイルの貼付状態の検査は、外壁に足場を設置したり外壁上部からゴンドラ等を吊下げたりして、人手で打診検査(タイルの表面を打診棒でたたきその反響音でタイルの貼付状態の異常を検出する検査)するため検査費用が嵩む。また、タイルの貼付状態の検査は、マンション等では、マンション住民の月々の管理費等の積立金を検査費用として充当し、住民による自治会やマンションの管理会社が実施する。このため、検査費用のコストが嵩むと住民の過大な負担となる。
【0005】
このような外観上では損傷が判らない外壁(壁面)の安価な検査方法として、検査棒4を左右に移動させ、外壁の壁面を擦る又は叩くという動作を任意に切換えて壁面音を発生させ、巻取ウインチ2の上昇を連続作動でジグザグ状に、又は検査棒4の左右移動と交互作動により矩形波状に外壁を検査する建造物の外壁の検査方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の建造物の外壁の検査方法では、壁面検査機本体の一本の検査棒で、振り子状に外壁を擦る又は叩くという動作を任意に切換えて外壁を検査する方法のため、外壁の検査時に検査棒を一定の範囲で左右に移動させる必要があり検査効率が悪いという問題がある。また、検査棒の先端を外壁に押圧する機構等は何ら開示されておらず、検査棒を一定の圧力で外壁に接触させることが困難であり、安定した壁面音を得られない恐れがある。
【0008】
また、一本のステンレスワイヤーにより、吊下金具を介して壁面検査機本体を吊下げ、このステンレスワイヤーを巻取ウインチで巻き取ることで、壁面検査機本体を外壁に対して昇降させるため、検査機を使用する外壁周囲の気象状況(主に、風による影響)による壁面検査機本体の揺動で、検査棒の先端が正確に外壁に沿って移動できない恐れがある。
【0009】
この発明では、かかる課題を解消すべく、外壁の周囲の気象状況に関わらず安定した外壁に対する昇降動作を行い、さらに、打診部による外壁への擦る又は叩くという動作を一定の圧力で行うことで、正確な外壁の状態を検査するとともに、安価な構成で外壁検査の低コスト化を実現できる外壁検査ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、側面視で略三角形状の左右枠と、この左右枠を水平に連結する複数の横枠と、により枠本体を形成し、前記左右枠は、駆動用モータにより回動自在とした二個のプーリーと、前記プーリーにワイヤロープを案内する複数のガイドローラと、建造物の外壁と当接して前記枠本体を昇降可能とした回転体と、を備え、前記枠本体は、外壁を打診又は摺動する打診部と、前記打診部による外壁の打診音又は摺動音を収音する収音マイクと、前記収音マイクで収音した打診音又は摺動音を無線で送信するとともに、前記駆動用モータ、前記打診部の外部操作信号を無線で受信する無線送受信機と、前記駆動用モータ、前記打診部、前記無線送受信機に電力を供給する電源部と、を備え、建造物の外壁に屋上から前記左右枠の間隔に応じて垂下された二本のワイヤロープを前記左右枠の前記プーリーに巻き付け、前記無線送受信機で受信した外部操作信号に応じて前記駆動用モータを回転させることにより前記枠本体が建造物の外壁を昇降可能としたことを特徴とする外壁検査ロボットとした。
【0011】
また、前記打診部は、外壁を打診する少なくとも一個以上の打診棒を備え、前記打診棒を水平方向に変位させることで発生する前記打診棒の先端と外壁との打診音、又は、前記打診棒の外壁側の先端を外壁に押圧した状態で、前記枠本体を上下方向に移動させることで発生する前記打診棒の先端と外壁との摺動音により、建造物の外壁の状態を診断することを特徴とする。
【0012】
また、前記枠本体は、少なくとも一個以上の赤外線ライトを、地上に設置した赤外線カメラで撮像可能な位置及び向きに備え、前記赤外線ライトを前記赤外線カメラで撮像することで、外壁に対する外壁検査ロボットの位置を測位することを特徴とする。
【0013】
また、前記打診部は、前記左右枠にそれぞれ設けられた回転体の中心を水平方向に一直線上に結んだ位置に配設されることを特徴とする。
【0014】
また、前記左右枠の複数のガイドローラは、ワイヤロープの外れ防止カバーをそれぞれ備えていることを特徴とする。
【0015】
また、外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープの下端には、重さの異なる錘をそれぞれ吊下可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、側面視で略三角形状の左右枠と、この左右枠を水平に連結する複数の横枠と、により枠本体を形成し、左右枠は、駆動用モータにより回動自在とした二個のプーリーと、プーリーにワイヤロープを案内する複数のガイドローラと、建造物の外壁と当接して枠本体を昇降可能とした回転体と、を備え、枠本体は、外壁を打診又は摺動する打診部と、打診部による外壁の打診音又は摺動音を収音する収音マイクと、収音マイクで収音した打診音又は摺動音を無線で送信するとともに、駆動用モータ、打診部の外部操作信号を無線で受信する無線送受信機と、駆動用モータ、打診部、無線送受信機に電力を供給する電源部と、を備え、建造物の外壁に屋上から前記左右枠の間隔に応じて垂下された二本のワイヤロープを左右枠の前記プーリーに巻き付け、無線送受信機で受信した外部操作信号に応じて駆動用モータを回転させることにより枠本体が建造物の外壁を昇降可能としている。
【0017】
つまり、建造物の外壁に屋上から左右枠の間隔に応じて垂下された二本のワイヤロープを左右枠の二個のプーリーにそれぞれ巻き付け、無線送受信機で受信した外部操作信号に応じて二個のプーリーの内の一個のプーリーを駆動用モータにより回転させることで、枠本体は安定した状態で外壁を昇降することができる。これにより、外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープの長さ(垂直方向の長さ)の範囲内において、外壁検査ロボットは、検査対象となる外壁周囲の気象状況(主に風力)に関わらず安定した外壁に対する昇降動作を行うとともに、外壁への叩く又は擦るという動作を行う打診部(打診部を構成する打診棒の先端)と外壁とを一定の圧力で当接させることができ、正確な外壁の状態を検査することができる。
【0018】
また、左右枠と外壁との当接部には、それぞれ外壁と当接する回転体が設けられている。この回転体を、例えば、ゴム製のタイヤ等で構成することで、外壁検査ロボットが外壁に沿って昇降するときに建造物の外壁を傷つけることがない。
【0019】
上記構成の外壁検査ロボットによる外壁の検査診断は、外壁検査ロボットの外壁の昇降動作時の外壁と打診部による打診音又は摺動音(以下、外壁検査データともいう。)を、例えば、左右枠の連結する横枠の略中央部に設けられた集音マイクにより収音し、収音した外壁検査データを無線送受信機により無線で所定の場所に設置された専用の解析ソフトがインストールされたパソコン(パーソナルコンピュータ)に送信することで行われる。具体的には、当該パソコンにインストールされた専用の外壁検査データ解析ソフトで診断する方法でもよいし、作業者が、無線送受信機により送信された外壁検査データを直接聴音することで、外壁の異常を診断する方法でもよい。
【0020】
さらに、電力の供給が必要な外壁検査ロボットに搭載されている各種機器(駆動用モータ、打診部、無線送受信機)に電力を供給する電源部を備えている。この電源部は外部から外壁検査ロボットに供給された電力(例えば、100V)を各種機器(駆動用モータ、打診部、無線送受信機等)に必要な電力に変換して供給するためのものである。さらに、外部電源としては、バッテリ(蓄電池)を搭載することが望ましく、これにより、電力供給ケーブル等の接続が不要となる。つまり、外壁検査ロボットは、外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープの長さの範囲内において、検査対象の外壁を単体で自立昇降することができる。なお、本発明においては、必ずしもバッテリの搭載が必須ではなく、電力供給ケーブル等により電源部に電力を供給する構成でもよい。
【0021】
また、所定の場所に設置された専用の動作制御用のパソコンや作業者の手動による指示を、各種機器の外部操作信号として無線送受信機により受信するため、外壁検査ロボットの昇降動作や打診部による外壁の検査を外部から遠隔操作することができる。
【0022】
また、打診部は、外壁を打診する少なくとも一個以上の打診棒を備え、各打診棒を水平方向に時間差で変位させることで発生する打診棒の先端と外壁との打診音、又は、打診棒の外壁側の先端を外壁に押圧した状態で、枠本体を上下方向に移動させることで発生する打診棒の先端と外壁との摺動音により、建造物の外壁の状態を診断する。これにより、安定した各打診棒と外壁との打診音や摺動音を検出することができ、外壁の異常個所を正確に検出することができる。
【0023】
また、枠本体は、少なくとも一個以上の赤外線ライトを、地上に設置した赤外線カメラで撮像可能な位置及び向きに備え、赤外線ライトを赤外線カメラで撮像することで、外壁に対する外壁検査ロボットの位置を測位する。これにより、所定の場所に設置された専用のマッピング用のパソコンにおいて、無線送受信機より送信された外壁検査データと測位した外壁に対する外壁検査ロボットの位置とを関連付けてマッピングすることにより、外壁検査データの異常を検出した外壁の位置や検査済みの外壁及び未検査の外壁の位置を特定することができる。
【0024】
また、打診部は、左右枠にそれぞれ設けられた回転体の中心を水平方向に一直線上に結んだ位置に配設されている。すなわち、外壁検査ロボットの本体枠を外壁の表面に沿って昇降動作させる際には、上下方向の揺動、つまり、進行方向に対するピッチングが生じる。このため、打診部が左右枠にそれぞれ設けられ回転体より上下方向に離れた位置に配設されていると、この外壁検査ロボットのピッチングにより打診部に設けられた打診棒の先端と外壁との接触が安定しないため、正確な外壁検査データ(打診音や摺動音)を得られない可能性がある。このため、打診部を左右枠にそれぞれ設けられた回転体の中心を水平方向に一直線上に結んだ位置に配設することで、外壁検査ロボットのピッチングによる影響を可及的に抑えることができる構成としている。これにより、打診部の打診棒の先端と外壁とが当接する圧力を一定に保つことができ、外壁の正確な打診検査を行うことができる。
【0025】
また、左右枠の複数のガイドローラは、ワイヤロープの外れ防止カバーをそれぞれ備えている。この外れ防止カバーの内周は、例えば、ガイドローラの外周よりワイヤロープの太さの分よりも少し大きい径として、ガイドローラに外れ防止カバーを装着した状態で、ワイヤロープを着脱可能な構成としている。これにより、外壁検査ロボットの本体枠を外壁の表面に沿って昇降動作させる際の左右揺動により、左右枠の複数のガイドローラからワイヤロープが外れることを防止することができ、ワイヤロープを二個のプーリーに安定して案内することができる。
【0026】
また、外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープの下端には、重さの異なる錘をそれぞれ吊下可能としている。これにより、気象状況(主に風力)に合わせて、ワイヤロープの下端に吊下げる錘を選択することで、ワイヤロープのテンションを調整して外壁を昇降する外壁検査ロボットの左右の揺動を抑えることができ、外壁の異常個所を正確に検出することができる。つまり、安定した外壁と打診部による打診音又は摺動音による外壁検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態に係る外壁検査ロボットの構成を示す正面斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る外壁検査ロボットの構成を示す背面斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る外壁検査ロボットの構成を示す側面図である。
【
図4】本実施形態に係る外壁検査ロボットの二本のワイヤロープの下端部の固定を説明する図である。
【
図5】本実施形態に係る外壁検査ロボットの打診部の動作を示す側面図である。
【
図6】本実施形態に係る外壁検査ロボットの使用例を示す側面図である。
【
図7】本実施形態に係る外壁検査ロボットの三角形の左右枠の一頂点の角度変更を説明する図である。
【
図8】本実施形態に係る外壁検査ロボットの外壁に水平な幅間隔の変更を説明する図である。
【
図9】本実施形態に係る外壁検査ロボットの打診部の他の実施形態を示す斜視図である。
【
図10】本実施形態に係る外壁検査ロボットの外壁のマッピングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の要旨は、側面視で略三角形状の左右枠と、この左右枠を水平に連結する複数の横枠と、により枠本体を形成し、前記左右枠は、駆動用モータにより回動自在とした二個のプーリーと、前記プーリーにワイヤロープを案内する複数のガイドローラと、建造物の外壁と当接して前記枠本体を昇降可能とした回転体と、を備え、前記枠本体は、外壁を打診又は摺動する打診部と、前記打診部による外壁の打診音又は摺動音を収音する収音マイクと、前記収音マイクで収音した打診音又は摺動音を無線で送信するとともに、前記駆動用モータ、前記打診部の外部操作信号を無線で受信する無線送受信機と、前記駆動用モータ、前記打診部、前記無線送受信機に電力を供給する電源部と、を備え、建造物の外壁に屋上から前記左右枠の間隔に応じて垂下された二本のワイヤロープを前記左右枠の前記プーリーに巻き付け、前記無線送受信機で受信した外部操作信号に応じて前記駆動用モータを回転させることにより前記枠本体が建造物の外壁を昇降可能としたことを特徴とする外壁検査ロボットである。
【0029】
以下、本実施形態に係る外壁検査ロボットについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、建築物の外壁を保護するために外壁にタイルを貼付したマンション等の高層建築物の外壁の検査を一例として説明する。
【0030】
図1は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの構成を示す正面斜視図である。
図2は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの構成を示す背面斜視図である。
図3は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの構成を示す側面図である。
図4は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの二本のワイヤロープの下端部の固定を説明する図である。
図5は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの打診部の動作を示す側面図である。
図6は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの使用例を示す側面図である。
図7は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの三角形の左右枠の一頂点の角度変更を説明する図である。
図8は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの外壁に水平な幅間隔の変更を説明する図である。
図9は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの打診部の他の実施形態を示す斜視図である。
図10は、本実施形態に係る外壁検査ロボットの外壁のマッピングを説明する図である。
【0031】
図1~
図4に示すように、本実施形態の外壁検査ロボット1は、側面視で略三角形状の左枠11L、右枠11R(以下、左右枠11L、11Rともいう。)と、左右枠11L、11Rを水平に連結する複数(図中は6個)の横枠12と、により枠本体10を形成している。この枠本体10は、三角形の左右枠11L、11Rの対向する一頂点が検査対象の建造物の外壁に突出するように配設される。
【0032】
左右枠11L、11Rは矩形平板状の3本のアルミフレーム11A、11B、11Cのそれぞれの端部を連結して三角形を形成している。三角形状の左右枠11L、11Rの一辺であるアルミフレーム11Aの略中央部には、二個のプーリー3A、3Bが配設されている。この二個のプーリー3A、3Bは、アルミフレーム11Aの略中央部に垂直上下に配設された軸3aの一端に回動自在に配設されており、プーリー3Aには駆動用モータM1が連結されている。この駆動用モータM1を回動により、プーリー3Aが回動することで、プーリー3Bが連動して回動する構成としている。
【0033】
左右枠11L、11Rのそれぞれのアルミフレーム11Aの二個のプーリー3A、3Bの上下には、複数(上下2個の合計4個)のガイドローラ6が回胴軸6aに回動自在に配設されている。このガイドローラ6は、建造物の外壁に屋上から左右枠11L、11Rの間隔に応じて垂下された二本のワイヤロープRを、二個のプーリー3A、3Bに案内するためのものである。ガイドローラ6には、中央に逆山形状の溝が形成され、この溝によりワイヤロープRを垂直上下に安定して案内する構成としている。
【0034】
また、複数のガイドローラ6には、ワイヤロープRの外れ防止カバー6bがそれぞれ設けられている。この外れ防止カバー6bは、底辺を開口した円筒状に形成され、ガイドローラ6を覆うように回胴軸6aの先端に設けられている。外れ防止カバー6bの側面上下には切り欠き部が設けられている。外れ防止カバー6bの内周は、ガイドローラ6の外周よりワイヤロープRの太さの分よりも少し大きい径として、ガイドローラ6に外れ防止カバー6bを装着した状態で、外れ防止カバー6bの側面上下の切り欠き部を通して、ワイヤロープRをガイドローラ6に着脱可能な構成としている。これにより、外壁検査ロボット1の枠本体10を建造物の外壁の表面に沿って昇降動作させる際の左右揺動により、左右枠の複数のガイドローラ6からワイヤロープが外れることを防止することができ、ワイヤロープを二個のプーリー3A、3Bに安定して案内することができる。
【0035】
上記構成のアルミフレーム11Aにおいて、建造物の外壁に屋上から左右枠11L、11Rの間隔に応じて垂下された二本のワイヤロープRは、ガイドローラ6を介して二個のプーリー3A、3Bに巻き付けられる。プーリー3A、3Bの回転表面には、逆山形状の3個のワイヤー溝3c(
図3参照)が形成されており、この3個のワイヤー溝3cに、ワイヤロープRが複数回(図中は3回)巻き付けられる。これにより、プーリー3Aに連結されている駆動用モータM1の回転方向(図中3の側面視における右回転又は左回転)に応じて、外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープRの長さ(垂直方向の長さ)の範囲内において、外壁検査ロボット1は検査対象となる外壁に沿って昇降動作を行うことができるようにしている。
【0036】
三角形状の左右枠11L、11Rを形成するアルミフレーム11Aには、アルミフレーム11B、11Cの一端が連結され、アルミフレーム11B、11Cの多端同士は連結されて、三角形の左右枠11L、11Rの水平に対向する一頂点11Eが外壁側に突出して形成されている。この一頂点には、外壁と当接して外壁検査ロボット1を昇降可能とした回転体7が配設されている。この回転体7は、例えば、ゴム製のタイヤ等が好適に用いられ、外壁検査ロボット1が外壁に沿って昇降するときに建造物の外壁を傷つけないようにしている。
【0037】
左右枠11L、11Rの上記アルミフレーム11B、11Cの多端で形成される一頂点11Eにそれぞれ設けられた回転体7の中心を水平方向に一直線上に結んだ位置には、打診部20が配設されている。この打診部20は本実施形態における外壁を打診又は摺動して打診音又は摺動音を発生させる機能を有する。この打診部20の詳細は後述する。打診部20は、アルミフレーム11B、11Cの多端で形成される一頂点11Eの近傍下方に正面視で両端をU字状に形成した取付板30連結して設け、この取付板30の外壁側に横枠12と平行に配設されている。
【0038】
このように、本実施形態の打診部20を、左右枠11L、11Rにそれぞれ設けられた回転体7の中心を水平方向に一直線上に結んだ位置に配設することで、外壁検査ロボット1の昇降動作時に生じるピッチングによる影響を可及的に抑えることができる。これにより、打診部20の打診棒21の打診球21aと外壁とが当接する圧力を一定に保つことができ、外壁の正確な打診検査を行うことができる。
【0039】
枠本体10を構成する左右枠11L、11Rを水平に連結する複数(図中は6個)の横枠12としては、これも角柱(又は角筒)状のアルミフレームが好適に用いられる。複数の横枠12のうち任意の横枠12の略中央部には、打診部20で生起させる外壁の打診音又は摺動音を収音する集音マイク16が配設されている。この集音マイク16は、枠本体10を形成する複数の横枠12や枠本体10に搭載されている各種機材により、打診部20により生起させる外壁の打診音又は摺動音の集音が妨げられない位置に配設されている。
【0040】
また、左右枠11L、11Rのそれぞれのアルミフレーム11Aを水平に連結する上下の横枠12には、取付板部40が垂直に連結されており、この取付板部40の上下に無線機Tと電源部Bが配設されている。無線機Tは、集音マイク16で収音した打診音又は摺動音を無線で送信する無線送受信機としての機能を有するものである。本実施形態における外壁の検査診断は、外壁と打診部による打診音又は摺動音(以下、外壁検査データともいう。)を、例えば、集音マイク16により外壁検査データを収音し、収音した外壁検査データを無線機Tにより無線で所定の場所(但し、無線を正常に受信できる範囲)に設置された専用の解析ソフトがインストールされたパソコン(パーソナルコンピュータ)に送信し、この解析ソフトにより診断される。また、熟練の作業者が、無線機Tにより無線された外壁検査データを直接聴音することで、外壁の異常を診断してもよい。
【0041】
また、無線機Tは、駆動用モータM1や打診部20の作動を無線で受信する無線送受信機として機能するものである。すなわち、所定の場所に設置された専用の動作制御用ソフトがインストールされたパソコン(パーソナルコンピュータ)や作業者の手動による操作指示を、各種機器(駆動用モータM1や打診部20)の作動信号として受信し、外壁検査ロボット1の昇降動作や打診部20による外壁の検査を遠隔操作するためのものである。
【0042】
電源部Bは、外部から外壁検査ロボットに供給された電力(例えば、AC100V)を上述したプーリー3Aの駆動用モータM1、打診部20、無線機Tに必要な電力に変換して供給するためのものである。外部電力としては、電源部Bに充電式のバッテリ(蓄電池)を搭載することができる。これにより、外部電力を供給する電力供給ケーブル等を電源部Bに接続することが不要となる。つまり、外壁検査ロボット1は、外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープRの長さの範囲内において、検査対象の外壁を単体で自立昇降することができる。なお、本発明においては、必ずしも電源部Bにバッテリが搭載されていることが必須ではなく、電力供給ケーブル等により電源部Bに電力を供給する構成でもよい。
【0043】
また、外壁に屋上から垂下された二本のワイヤロープRの下端には、重さの異なる(例えば、2kg、4kg、6kg)錘Wをそれぞれ吊下可能としている。これにより、気象状況(主に風力)に合わせて、ワイヤロープRの下端に吊下げる錘Wの重量を調整することで、ワイヤロープRのテンションを変更することができ、外壁を昇降する外壁検査ロボット1の左右の揺動を抑えることができる。これにより、外壁検査ロボット1がより安定した状態で打診部20の各打診棒21と外壁との摺動音を検出することができ、外壁の異常個所を正確に検出することができる。つまり、安定した外壁と打診部による打診音又は摺動音による外壁検査を行うことができる。
【0044】
なお、二本のワイヤロープRの下端には錘Wを係止するリングを設け、錘Wの上端にはリングに錘Wを係止するためのフックを設けることもできる。そして、このフックをワイヤロープRの下端のリングに引っかけることで、簡易に錘Wを着脱することができるので、重さの異なる錘Wの交換が容易となる。なお、フックとしては、例えば、リングに着脱容易ではあるが、係止状態をロック可能な外れ止め金具を備えたフック等が好適に用いられる。
【0045】
ここで、
図4に示すように、屋上から垂下された二本のワイヤロープRの下端を地面Gに打ち込んだアンカーAKに固定することもできる。この場合は、例えば、検査する外壁が不規則な風が舞う高層ビル街等の外壁であった場合、低気圧等で強風が予想される気象状況下において外壁検査を行う場合に用いられる方法であり、屋上から垂下された二本のワイヤロープRの下端を地上のアンカーAKに最大の張力でかしめて固定する。このようにすることで、不規則な風が舞う高層ビル街や低気圧等で強風が予想される気象状況下であっても、外壁を昇降する外壁検査ロボット1の左右の揺動を最小限に抑えて、正確な外壁検査を行うことができる。
【0046】
また、本実施形態の枠本体10には、二個の赤外線ライト8を、地上に設置した赤外線カメラで撮像可能な位置及び向きに備えている。二個の赤外線ライト8は、左右枠11L、11Rを構成するアルミフレーム11Aを水平に連結する二本の横枠12の対角線上に配設されている。この赤外線ライト8を、例えば、地上に設置され、バンドパスフィルタを装着した赤外線カメラで撮像することで、外壁に対する外壁検査ロボット1の位置を測位する。そして、所定の場所(地上の赤外線カメラに近傍)に設置された専用のマッピング用のパソコンにおいて、無線機Tより送信された外壁検査データと測位した外壁に対する外壁検査ロボット1の位置を関連付けてマッピングすることにより、外壁検査データの異常を検出した外壁の位置や検査済みの外壁及び未検査の外壁の位置を特定することができる。
【0047】
以下、
図10を参照して外壁検査ロボット1の位置に基づいたマッピングの一例を説明する。
図10に示すように、マッピングとしては、予め外壁Hの検査領域MPを3列5段のMP1~MP15の15領域に区分けしている。なお、
図10においては、吊下装置Sを正面視左側に配置し、二本のワイヤロープRの垂直上部に向かって、検査領域MPの左下のMP1からMP5へと外壁Hに打診検査を行う。次に、吊下装置Sを正面視中央に配置し、二本のワイヤロープRの垂直下部に向かって、検査領域MPの左下のMP6からMP10へと外壁Hに打診検査を行う。最後に、吊下装置Sを正面視右側に配置し、二本のワイヤロープRの垂直上部に向かって、検査領域MPの左下のMP11からMP15へと外壁Hに打診検査を行う。
【0048】
図中楕円網掛け部ERは、打診検査の結果異常が検出された外壁の場所を示し、図中一点鎖線は打診検査済みの領域、図中二点鎖線は未打診検査の領域を示している。
図10に示すように、無線機Tより送信された外壁検査データと赤外線カメラで測位した外壁に対する外壁検査ロボット1の位置を関連付けてマッピングすることにより、外壁検査データの異常を検出した外壁の位置をマッピングすることができ、補修対象データとして打診検査を行う外壁毎に専用のマッピング用のパソコンに記録することができる。
【0049】
また、検査済みの外壁の領域及び未検査の外壁の領域も検査員が目視で確認することができ、当該外壁Hの外壁検査ロボット1による打診検査の進行状況等も的確に把握することが可能となる。
【0050】
また、図示はしないが、本実施形態の外壁検査ロボット1においては、打診検査の結果異常と診断した個所にカラーマーカーを貼付することができるカラースプレー等を搭載することができる。具体的には、収音した外壁検査データ(打診音又は摺動音)を無線機Tにより無線で所定の場所に設置された専用の解析ソフトがインストールされたパソコン(パーソナルコンピュータ)に送信した結果、外壁の異常を検出した場合は、カラースプレーの作動信号を外壁検査ロボット1に送信し、無線機Tを介してカラースプレーの作動信号を受信した外壁検査ロボット1は、カラースプレー等を噴射させて異常を検出した個所にカラーマーカーを貼付する。これにより、外壁を補修する作業員の作業性の向上を図ることが可能となる。
【0051】
以下、
図1~5を参照して、本実施形態における打診部20の構成及び動作を説明する。打診部20は、上述したように、三角形の左右枠11L、11Rの水平に対向する一頂点11Eにそれぞれ配設されている回転体7の中心を水平に一直線に結ぶ位置の取付板30の外壁側下方に配設されている。打診部20は、複数(本実施形態では5個)の打診棒21が、取り付けフレーム25に等間隔に設置されている。打診棒21は、外壁H側先端の球状の打診球21aと、後端の円盤状の平板21bと、取り付けフレーム25に打診棒21を固定する固定部21dと、打診球21aと固定部21dとの間に配設されたコイルスプリング21cとにより構成される。打診棒21の素材としてはSUS(ステンレス鋼)が好適に用いられ、打診球21aの直径は20mm程度が望ましい。
【0052】
打診部20の駆動部は、モータM2と、このモータM2により回動自在に連結されたアルミロッド22とにより構成される。アルミロッド22には、所定の等間隔で円盤型のセットカラー23が固設されており、このセットカラー23の外周には、セットカラー23の中心から放射状に回動ロッド24が延設されており、この回動ロッド24の先端は樹脂製の保護カバー24aで覆われている(
図5参照)。
【0053】
上記構成により、モータM2の回転に応じてアルミロッド22が回転し、アルミロッド22に所定の等間隔で固設されたセットカラー23が回転する。これにより、
図5に示すように、セットカラー23の外周に設けられた垂直に回動する回動ロッド24の先端(保護カバー24a)が、打診棒21の後端に垂直に連結された円盤状の平板21bと接触し、水平に外壁Hから離れる方向に打診棒21を移動させる(
図5(a))。これにより、打診棒21の打診球21aと固定部21dとの間に配設されたコイルスプリング21cが圧縮(
図5(b))される。
【0054】
さらに、回転するセットカラー23の外周に設けられた回動ロッド24の保護カバー24aと、打診棒21の後端に設けられた平板21bとの接触が進行すると、保護カバー24aと平板21bとが略30度の角度で接触し、水平に外壁Hから最も離れる位置に打診棒21を移動させる。これにより、打診棒21の打診球21aと固定部21dとの間に配設されたコイルスプリング21cが最大に圧縮(
図5(c))される。
【0055】
さらに、セットカラー23が回転すると、保護カバー24aと平板21bとの接触が外れることで、打診棒21の外壁H側先端の打診球21aは、コイルスプリング21cの圧縮が解放されて外壁H側に突出し、打診球21aと外壁Hとが衝突することで打診音が発生する。
【0056】
なお、アルミロッド22に固設された円盤型のセットカラー23の外周に設けられた回動ロッド24は、各セットカラー23の外周に回転方向に異なる位相(例えば、略45度)となるように、セットカラー23の外周にそれぞれ延設されている。つまり、上述した、セットカラー23の回転による回動ロッド24の先端の保護カバー24aと打診棒21の後端の平板21bとの接触及び接触の解除は、それぞれ5個の打診棒21毎にタイミングをずらす構成としている。これにより、5個の打診棒21の打診球21aと外壁Hとが異なるタイミングで衝突することになり、発生する打診音が重複することなく集音マイク16で集音することを可能としている。
【0057】
また、打診棒21の打診球21aと外壁Hとの摺動音を集音する場合は、全てのセットカラー23の回転による回動ロッド24の先端の保護カバー24aと、打診棒21を構成する平板21bとが接触しない位置で、モータM2の回転を停止した状態で行う。これにより、5個の打診棒21の打診球21aと外壁Hとが確実に接触した状態で、打診棒21の打診球21aと外壁Hとの摺動音を集音することができる。
【0058】
また、本実施形態においては、三角形の左右枠11L、11Rの水平に対向する一頂点11Eにそれぞれ設けられた回転体7は、枠本体10が外壁Hを上下動する際に気象(主に、風)によって煽られたとしても枠本体10と外壁Hが直に接触することを規制して外壁Hおよび枠本体10が破損することを防止している。なお、打診部20を構成する打診棒21の先端の打診球21aの方が回転体7の外周部よりも僅かに外壁H側に突出するようにしている。従って、打診球21aと外壁Hとの接触が回転体7により妨げられることがない。
【0059】
以下、
図9を参照して、打診部の他の実施形態の構成及び動作を説明する。打診棒の他の実施形態を説明する。打診部20Aは、上述したように、三角形の左右枠11L、11Rの水平に対向する一頂点11Eにそれぞれ配設されている回転体7の中心を水平に一直線に結ぶ位置の取付板30の外壁側に配設されている。
【0060】
打診部20Aは、一本の打診棒21を有する電磁ソレノイド33と、取付板30の左右両端近傍の上面に水平報告に回動自在にそれぞれ配設された水平回転体32と、左右の水平回転体32の回転を伝達するベルト34と、左右の水平回転体32の一方(図中では右側)の水平回転体32を水平に回動させるモータM3とにより構成されている。打診棒21は、外壁H側先端に球状の打診球21aを有している。打診棒21の素材としては、上述した打診部20と同様にSUS(ステンレス鋼)が好適に用いられ、打診球21aの直径は20mm程度が望ましい。
【0061】
打診部20Aの駆動部は、モータM3と、このモータM3により水平報告に回動自在に連結された左右の水平回転体32のうちの一方(図中では右側)の水平回転体32と、この一方(図中では右側)の水平回転体32の水平回転体32の回転を他方(図中では左側)の水平回転体32に伝達するベルト34により構成される。
【0062】
上記構成において、電磁ソレノイド33に電力が供給されると、打診棒21が水平方向前後に突出動作を行う。このとき、同時にモータM3に電力を供給すると、一方の水平回転体32が水平に回転し、この回転が他方の水平回転体32にベルト34を介して伝達される。また、電磁ソレノイド33はベルト34の外壁側(図中前側)の連結部34aに連結されているので、モータM3の回転に伴い水平方向左右に移動する。つまり、モータM3は左右両端の水平回転体32間をベルト34は水平に往復運動するように正逆回転を繰り返す。これにより、打診部20Aにおける打診棒21は、左右両端の水平回転体32間を電磁ソレノイド33の水平方向左右の移動により、外壁Hを打診しながら水平方向左右の移動を繰り返すことになる。
【0063】
また、外壁Hの摺動音を収音する場合は、電磁ソレノイド33への電力の供給を停止し、モータM3にのみ電力を供給する。これにより、電磁ソレノイド33の一本の打診棒21は突出した状態のまま停止する。この状態では、打診棒21の打診球21aは外壁Hに当接した状態で水平方向左右に移動することになり、打診棒21の打診球21aと外壁Hとの摺動音を発生させることができる。
【0064】
外壁検査ロボット1は、
図6に示すように、建築物Kの屋上に設置された吊下装置Sから垂下された二本のワイヤロープRを、外壁検査ロボット1の左右枠11L、11Rを形成するアルミフレーム11Aにそれぞれ設けられた二個のプーリー3A、3Bに複数回(例えば、3回)巻き付けた状態(
図1参照)で、吊下装置SとワイヤロープRの下端の錘Wとの間を昇降可能に配設されている。
【0065】
吊下装置Sから垂下された二本のワイヤロープRは、外壁検査ロボット1の上部(具体的には、最上部に設けられたガイドローラ6)と外壁Hとの間に角度θを形成した状態で、外壁検査ロボット1を外壁Hに対して昇降自在に吊下げている。このとき、外壁検査ロボット1の下方側のワイヤロープRの下端にはそれぞれ錘Wが吊架されている。この構成により、外壁検査ロボット1は、吊下装置Sから垂下された二本のワイヤロープRの張力T(図中白矢印)により外壁検査ロボット1の水平方向の揺れが規制される。また、外壁検査ロボット1の三角形の左右枠11L、11Rの一頂点11E(回転体7や打診部20が配設された側)に設けられた回転体7は、外壁Hに一定の押圧力P(図中黒矢印)で押圧される。この押圧力Pにより、外壁検査ロボット1がビル風などにより外壁Hから離れようとする動きを抑制する。さらに、回転体7は上述したようにゴム製のタイヤ等が好適に用いられるため、この回転体7と外壁Hとの間には、摩擦係数と押圧力Pに比例した摩擦力が発生するため、さらに、外壁検査ロボット1の水平方向の揺れが抑制される。
【0066】
このとき、二本のワイヤロープRの張力Tは、『T=(「外壁検査ロボット1の重量」+「錘Wの重量」×2)/2cosθ』の計算式で算出することができ、外壁検査ロボット1にかかる外壁Hへの押圧力Pは、『P=tanθ×(「外壁検査ロボット1の重量」+「錘Wの重量」×2)/2』の計算式で算出することができる。また、上述したように、錘Wは重量(例えば、2、4、6kg)の異なる錘Wを気象条件に応じて選択的に二本のワイヤロープRの下端に着脱自在としている。このため、この錘Wの重量を大きくすることにより、上記張力T及び押圧力Pも大きくすることができる。この構成により、気象条件(主に風力)に応じて、常に外壁検査ロボット1の三角形の左右枠11L、11Rの一頂点11E(特に、回転体7及び打診部20)と外壁Hとを一定の押圧力Pで接触させた状態で、外壁Hの表面における外壁検査ロボット1の安定した昇降動作を実現することができる。これにより、外壁Hと打診部20による正確な打診音又は摺動音を検出することができ、外壁Hの異常個所を正確に検出することが可能となる。
【0067】
また、上述したように、本実施形態の枠本体10を構成する左右枠11L、11Rは矩形平板状の3本のアルミフレーム11A、11B、11Cのそれぞれの端部を連結して三角形を形成している。そして、三角形の左右枠11L、11Rの対向する一頂点11Eが検査対象の建造物の外壁と当接するように配設される。そして、3本のアルミフレーム11A、11B、11Cのそれぞれの連結端部の位置を可変とすることで、検査対象の建造物の外壁Hと当接する三角形の左右枠11L、11Rの対向する一頂点11Eの角度を変更することができる。
【0068】
具体的には、
図7に示すように、アルミフレーム11Aの上端と、アルミフレーム11Bの一端との連結箇所に垂直に長い長穴11dを設け、この長穴11dの任意の位置でアルミフレーム11Bの一端を連結可能とする。
図7(a)には、アルミフレーム11Aの長穴11dの最上端において、アルミフレーム11Bの一端を連結した場合を示す。
図7(b)には、アルミフレーム11Aの長穴11dの最下端において、アルミフレーム11Bの一端を連結した場合を示す。
【0069】
このように、アルミフレーム11Aの上端とアルミフレーム11Bの一端との連結箇所を変更可能することで、
図7(a)においては、アルミフレーム11Bの他端とアルミフレーム11Cの他端との連結部で構成される三角形の左右枠11L、11Rの水平に対向する一頂点11Eは相対的に鈍角なθ1となる。
図7(b)においては、アルミフレーム11Bの他端とアルミフレーム11Cの他端との連結部で構成される三角形の左右枠11L、11Rの水平に対向する一頂点11Eは相対的に鋭角なθ2となる。
【0070】
このように、一頂点11Eの角度を変更可能とすることで、上述した外壁検査ロボット1の上部(具体的には、最上部に設けられたガイドローラ6)と外壁Hとの間に形成される角度θを変更することができる。これにより、上述した
図6に示す二本のワイヤロープRに発生する張力Tや外壁検査ロボット1の三角形の左右枠11L、11Rの一頂点11Eに設けられた回転体7を外壁Hに押し付ける押圧力Pの数値も変更することができる。
図7(a)では角度θを相対的に小さく、
図7(b)では角度θを相対的に大きくすることができる。このように、検査する外壁状況(主に風力)に応じて、外壁検査ロボット1の上部と外壁Hとの間に形成される角度θを調整可能とすることで、より風力の影響を受けにくくすることができ、安定した外壁と打診部による打診音又は摺動音による外壁検査を行うことができる。
【0071】
また、本実施形態においては、枠本体10の外壁Hに対する横幅(具体的には、横枠12の長さ)を変更可能とすることができる。つまり、
図8に示すように、横枠12を大きさの異なる二種類の角筒で形成し、相対的に大きい角筒12Aの内部に、角筒12Aよりも一回り小さい角筒12Bを内嵌可能とし、固定ネジ12cにより角筒12Aに内嵌される角筒12Bを締結固定することで任意の長さの横枠12に変更可能とする。
【0072】
図8(a)に示すように、角筒12Aの内部に内嵌される角筒12Bの長さが短い場合は、外壁Hの水平方向に相対的に長い外壁検査ロボット1を構成することができる。また、
図8(b)に示すように、角筒12Aの内部に内嵌される角筒12Bの長さが長い場合は、外壁Hの水平方向に短い外壁検査ロボット1を構成することができる。
【0073】
このように、枠本体10を構成する左右枠11L、11Rを水平に連結する複数(図中は6個)の横枠12の水平方向の長さを可変とすることで、検査対象となる建造物の外壁Hの幅に応じた外壁検査ロボット1を構成することができる。また、この場合、打診部20を構成する打診棒21の配置や数も外壁検査ロボット1の水平方向の長さに応じて可変とすることが望ましい。
【0074】
最後に、上述した実施形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施形態に限定されることはない。このため、上述した実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0075】
1 外壁検査ロボット
3A プーリー
3B プーリー
6 ガイドローラ
7 回転体
10 枠本体
11L 左枠
11R 右枠
11A アルミフレーム
11B アルミフレーム
11B アルミフレーム
12 横枠
16 集音マイク
20 打診部
21 打診棒
30 取付板
40 取付板部
B バッテリ
H 外壁
M1 駆動用モータ
M2 モータ
R ワイヤロープ
S 吊下装置
T 無線機
W 錘