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特許7100407ポリエステル樹脂組成物、並びにポリエステル樹脂成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物、並びにポリエステル樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20220706BHJP
【FI】
C08L67/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017159154
(22)【出願日】2017-08-22
(65)【公開番号】P2018053239
(43)【公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2016188300
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506346152
【氏名又は名称】株式会社ベルポリエステルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】上野 友光
(72)【発明者】
【氏名】外村 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山 真弘
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲生
(72)【発明者】
【氏名】本間 敏雄
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-011621(JP,A)
【文献】特開昭62-265361(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102432855(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0048301(US,A1)
【文献】特開2004-137292(JP,A)
【文献】特開2005-015801(JP,A)
【文献】特開昭63-235383(JP,A)
【文献】特開昭62-043479(JP,A)
【文献】特開平05-050740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸成分とポリオール成分との共重合体を含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリカルボン酸成分はテレフタル酸及び/又はその誘導体からなり、
前記ポリオール成分はエチレングリコール及び/又はその誘導体並びに2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール及び/又はその誘導体を含み、
2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール及び/又はその誘導体の含有率は、前記ポリオール成分の総量に対して35mol%~45mol%であり、
前記ポリオール成分の残余はエチレングリコール及び/又はその誘導体であり、
極限粘度が0.5dl/g~0.6dl/gであり、
200℃における溶融粘度が100Pa・s~210Pa・sであり、
180℃における溶融粘度が175Pa・s~260Pa・sである、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ISO527に準拠して測定された引張伸度が100%以上である、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
ISO179に準拠して測定されたシャルピー衝撃強度が3kJ/m以上である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物を200℃以下の設定温度で溶融させる工程と、
溶融させたポリエステル樹脂組成物を型に充填する工程と、を含む、ポリエステル樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記型の温度を20℃~60℃にして、前記型に充填したポリエステル樹脂組成物を冷却して離型する工程をさらに含み、
離型された成形体は厚さ2mm以上の部分を有する、請求項に記載のポリエステル樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本発明は、日本国特許出願:特願2016-188300号(2016年9月27日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物、並びにポリエステル樹脂成形体及びその製造方法に関する。特に、本発明は、射出成形に適用可能なポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリエステル樹脂組成物は、容器等、種々の用途に適用されている。ポリエステル樹脂組成物は、通常、射出成形、押出成形等、金型を使用して成形される。例えば、射出成形法は、ポリエステル樹脂組成物を加熱等によって溶融させ、溶融組成物を金型に注入した後、冷却固化させることによって成形体を作製する方法である。
【0004】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコール及びネオペンチルグリコールを主たるグリコール成分としてなる共重合ポリエステル製成形体及び共重合ポリエステルが開示されている。特許文献1に記載の共重合ポリエステル製成形体の成形温度(シリンダ温度)は230℃~270℃に設定されている。特許文献2の実施例においては、固有粘度(極限粘度)0.70dl/g~0.75dl/gの共重合ポリエステルが作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-68879号公報
【文献】特開2004-123984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下の分析は、本開示の観点から与えられる。
【0007】
特許文献1に記載の共重合ポリエステル製成形体のように、成形温度が高いと、より大きなエネルギーを要すると共に、より長い加熱・冷却時間を要することになる。特に、成形温度が250℃~300℃になると、成形工程1サイクルの60%~70%程度を冷却時間が占めることになる。したがって、製造コストを低減するためには、成形温度を低下させることによって、省エネルギー化を図ると共に、冷却時間を短縮させることが有効である。
【0008】
また、成形温度が高いと、成形中に樹脂組成物の劣化が促進してしまう。これにより、製品となる成形品の品質が低下してしまう。
【0009】
特許文献2に記載の共重合ポリエステルのように極限粘度が高いと、例えば、成形時に成形機のシリンダ内におけるせん断熱によって樹脂組成物の温度が上昇してしまう。これにより、成形温度を高くした場合と同様の状態になり、上述のような冷却時間の長期化や品質低下の問題が生じてしまう。また、せん断熱による加熱は、成形工程毎に温度ムラを生じさせるので、成形体の品質を不均一にさせる。
【0010】
成形温度を低下させるとしても、ポリエステル樹脂組成物には、各組成物毎に適した成形温度が存在する。適温未満の温度で成形すると樹脂組成物の未溶融物が発生してしまう。未溶融物が発生すると、透明性の低下及び物性の低下が生じたり、金型への充填不良が生じたりしてしまう。一方、成形温度は変えずに、単に冷却時間を短縮するだけでは、成形品の内部が十分に冷却されていない状態で成形品を型から取り出すことになり、成形品の寸法変化が生じてしまう。また、冷却時の金型の温度をより低温にして冷却時間を短縮する方法では、低温化のためのエネルギーを要すると共に、金型に結露して錆が発生してしまう。
【0011】
そこで、所望の性状を有しながらも、より低い温度で成形可能なポリエステル樹脂組成物が望まれている。また、そのような低い成形温度で成形したポリエステル樹脂成形体及びその製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1視点によれば、ポリカルボン酸成分とポリオール成分との共重合体を含むポリエステル樹脂組成物が提供される。ポリカルボン酸成分はテレフタル酸及び/又はその誘導体からなる。ポリオール成分はエチレングリコール及び/又はその誘導体並びに2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール及び/又はその誘導体を含む。2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール及び/又はその誘導体の含有率は、ポリオール成分の総量に対して35mol%~45mol%である。ポリオール成分の残余はエチレングリコール及び/又はその誘導体である。ポリエステル樹脂組成物の極限粘度が0.5dl/g~0.6dl/gである。200℃における溶融粘度が100Pa・s~210Pa・sである。180℃における溶融粘度が175Pa・s~260Pa・sである。
【0013】
本発明の第2視点によれば、第1視点に係るポリエステル樹脂組成物を200℃以下の設定温度で成形したポリエステル樹脂成形体が提供される。
【0014】
本発明の第3視点によれば、第1視点に係るポリエステル樹脂組成物を200℃以下の設定温度で溶融させる工程と、溶融させたポリエステル樹脂組成物を型に充填する工程と、を含む、ポリエステル樹脂成形体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、所望の性状を有しながらも、成形温度の低いポリエステル樹脂組成物を提供することができる。これにより、ポリエステル樹脂組成物の成形に要するコストを低減させることができる。特に、生産効率を高めることができる。
【0016】
また、本開示のポリエステル樹脂組成物によれば、品質低下を抑制した成形体を提供することができる。本開示のポリエステル樹脂組成物によれば、品質の均一化を図った成形体を提供することができる。また、本開示のポリエステル樹脂組成物によれば、所望の寸法を有する成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例において作製した成形体の模式図。
図2】実施例における冷却が十分に行われたかを確認する試験を説明するための模式図。
図3】実施例における成形体の厚さと冷却時間の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂組成物の200℃における溶融粘度が100Pa・s~210Pa・sである。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂組成物の180℃における溶融粘度が175Pa・s~320Pa・sである。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂組成物の引張伸度が100%以上である。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂組成物のシャルピー衝撃強度が3kJ/m以上である。
【0022】
上記第3視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂成形体の製造方法は、型の温度を20℃~60℃にして、型に充填したポリエステル樹脂組成物を冷却して離型する工程をさらに含む。離型された成形体は厚さ2mm以上の部分を有する。
【0023】
以下の説明において、図面参照符号は発明の理解のために付記しているものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、図示の形状、寸法、縮尺等も図面に示す形態に発明を限定するものではない。各実施形態において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【0024】
第1実施形態に係る本開示のポリエステル樹脂組成物について説明する。本開示の組成物は、ポリカルボン酸成分とポリオール成分(ポリヒドロキシ化合物)との共重合体であるポリエステル樹脂である。本開示において、ポリカルボン酸とは、カルボキシル基を複数有する化合物のことをいう。また、ポリオール成分又はポリヒドロキシ化合物とは、ヒドロキシル基を複数有する化合物のことをいう。
【0025】
ポリカルボン酸成分は、主として、テレフタル酸(その誘導体を含む)を含む。ポリカルボン酸成分は、トリメリット酸及び/又は無水トリメリット酸(これらの誘導体を含む)をさらに含むと好ましい。トリメリット酸及び/又は無水トリメリット酸の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量に対して、0.4mol%以下であると好ましく、0.3mol%以下であるとより好ましい。0.5mol%を超えると、十分な機械的物性を得ることができなくなってしまう。
【0026】
本開示の組成物におけるポリカルボン酸成分は、テレフタル酸である、又はテレフタル酸並びにトリメリット酸及び/もしくは無水トリメリット酸であると好ましい。しかしながら、本開示の組成物は、本開示の組成物の本質的な性質を変えない範囲において、他のポリカルボン酸成分を含有してもよい。他のポリカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサジカルボン酸、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、及びこれらの誘導体が挙げられる。この中でも、イソフタル酸が好適である。これらの他のポリカルボン酸成分は、いずれかを単独で添加してもよいし、2種以上を任意の割合で添加してもよい。
【0027】
ポリオール成分は、主として、エチレングリコール(その誘導体を含む)及び2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)(その誘導体を含む)を含む。ネオペンチルグリコールの含有率は、ポリオール成分の総量に対して、27mol%以上であると好ましく、30mol%以上であるとより好ましく、35mol%以上であるとより好ましく、40mol%以上であるとさらに好ましい。25mol%以下であると、組成物の成形温度が200℃を超えてしまう。ネオペンチルグリコールの含有率は、ポリオール成分の総量に対して、55mol%以下であると好ましく、52mol%以下であるとより好ましく、50mol%以下であるとより好ましく、45mol%以下であるとさらに好ましい。55mol%を超えると、十分な機械的物性を得ることができない。
【0028】
本開示の組成物におけるポリオール成分は、エチレングリコール及びネオペンチルグリコールである好ましい。しかしながら、本開示の組成物は、本開示の組成物の本質的な性質を変えない範囲において、他のポリオール成分を含有してもよい。他のポリオール成分としては、例えば、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、及びこれらの誘導体が挙げられる。この中でも、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好適である。また、これらの他のポリオール成分は、いずれかを単独で添加してもよいし、2種以上を任意の割合で添加してもよい。
【0029】
本開示の組成物の極限粘度(IV値)は、0.48dl/g(10cm/g)よりも高いと好ましく、0.50dl/g以上であるとより好ましい。極限粘度が0.48dl/g以下であると、十分な機械的物性を得ることができない。本開示の組成物の極限粘度(IV値)は、0.65dl/g未満であると好ましく、0.63dl/g以下であるとより好ましく、0.60dl/g以下であるとさらに好ましい。極限粘度が0.65dl/g以上であると、200℃における溶融粘度が大きくなりすぎることによって、成形時における組成物の温度がせん断熱によって上昇が生じ、これによって冷却時間が長期化してしまう。
【0030】
上記の極限粘度は、フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒に試料0.5000±0.0005gを溶解させ、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて測定した、20℃における極限粘度である。
【0031】
本開示の組成物の200℃における溶融粘度は、95Pa・sよりも高いと好ましく、100Pa・s以上であるとより好ましい。溶融粘度が95Pa・s以下であると、十分な機械的物性を得ることができない。本開示の組成物の200℃における溶融粘度は、210Pa・s以下であるとより好ましく、200Pa・s以下であるとさらに好ましい。溶融粘度が210Pa・sを超えると、成形時における組成物の温度がせん断熱によって上昇が生じてしまい、これによって冷却時間が長期化してしまう。
【0032】
ネオペンチルグリコールの含有率が、ポリオール成分の総量に対して、35mol%~45mol%であるとき、本開示の組成物の180℃における溶融粘度は、175Pa・s以上であると好ましく、180Pa・s以上であるとより好ましく、200Pa・s以上であるとさらに好ましい。180℃における溶融粘度が175Pa・s未満であると、十分な機械的物性を得ることができない。本開示の組成物の180℃における溶融粘度は、320Pa・s以下であると好ましく、300Pa・s以下であるとより好ましく、260Pa・s以下であるとさらに好ましい。180℃における溶融粘度が320Pa・sを超えると、成形時における組成物の温度がせん断熱によって上昇が生じてしまい、これによって冷却時間が長期化してしまう。
【0033】
上記の180℃及び200℃における溶融粘度は、溶融粘度測定装置を用いて、乾燥させた各組成物20.0±5.0gについて測定温度180℃及び200℃、せん断速度6080秒-1で測定した溶融粘度である。組成物の乾燥方法は特に限定されるものではなく、例えば、除湿乾燥機を用いて、60℃、48時間の条件で組成物を乾燥させることができる。
【0034】
本開示の組成物の引張強度は40MPa以上であると好ましく、45MPa以上であるとより好ましい。40MPa未満であると、十分な機械的物性を得ることができない。引張強度は、ISO(国際標準化機構;International Organization for Standardization)527に準拠して測定すると好ましい。
【0035】
本開示の組成物の引張伸度は、60%よりも大きいと好ましく、80%以上であるとより好ましく、100%以上であるとさらに好ましい。60%以下であると十分な機械的物性を得ることができない。引張伸度は、ISO527に準拠して測定すると好ましい。
【0036】
本開示の組成物のシャルピー衝撃強度は、2.8kJ/mよりも高いと好ましく、
3kJ/m以上であると好ましく、3.2kJ/m以上であるとより好ましい。2.8kJ/m以下であると十分な機械的物性を得ることができない。シャルピー衝撃強度は、ISO179に準拠して測定すると好ましい。
【0037】
本開示の組成物は、染料をさらに含有することができる。染料としては、有機系染料であると好ましく、多芳香族環染料などの油溶性染料がより好ましい。有機系染料としては、公知の有機系染料(青色系染料、赤色系染料、紫色系染料、橙色系染料など)を用いることができる。染料は、1つの染料を単独で用いてもよいし、複数の色の染料を併用してもよい。特に、青色系染料、赤色系染料を併用すると、ポリエステル樹脂の黄味を低減することができ、無色に近い色調が得られるので好ましい。例えば、青色系染料としては、例えば、C.I.Solvent Blue 11、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue 36、C.I.Solvent Blue 45、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Blue 83、C.I.Solvent Blue 87、C.I.Solvent Blue 94、C.I.Solvent Blue 97、C.I.Solvent Blue 104などを用いることができる。赤色系染料としては、例えば、C.I.Solvent Red 24、C.I.Solvent Red 25、C.I.Solvent Red 27、C.I.Solvent Red 30、C.I.Solvent Red 49、C.I.Solvent Red 52、C.I.Solvent Red 100、C.I.Solvent Red 109、C.I.Solvent Red 111、C.I.Solvent Red 121、C.I.Solvent Red 135、C.I.Solvent Red 168、C.I.Solvent Red 179、C.I.Solvent Red 195などを用いることができる。紫色系染料としては、例えば、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet 14、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 27、C.I.Solvent Violet 28、C.I.Solvent Violet 36などを用いることができる。橙色系染料としては、例えば、C.I.Solvent Orange 60などを用いることができる。
【0038】
本開示の組成物は、重合触媒をさらに含有してもよい。重合触媒としては、例えば、ゲルマニウム化合物、チタン化合物等が挙げられる。
【0039】
本開示の組成物は、リン化合物をさらに含有してもよい。リン化合物は、例えば、熱安定化剤として用いることができる。リン化合物としては、例えば、正リン酸;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリオクチルホスフェートなど5価のリン酸エステル化合物;亜リン酸;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなど3価のリン化合物が挙げられる。これらの中でも正リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェートが好ましいが、食品衛生や安全性の観点より正リン酸又はトリエチルホスフェートがより好ましい。リン化合物は重合触媒の反応性を抑制しない範囲で添加すると好ましい。例えば、リン化合物の含有率は、組成物の質量に対して100ppm以下であると好ましい。
【0040】
本開示の組成物は、本開示の組成物の本質的な性質を変えない範囲で、公知の添加剤、例えば帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、離型剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0041】
本開示の組成物には、後述する製造方法によって得られるポリエステル樹脂組成物も含まれ得る。本開示の組成物における上述以外の特徴は、本開示の組成物の構造又は特性により直接特定することが困難なものもあり、その場合には製造方法によって特定することが有用である。
【0042】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、十分な機械的物性を維持しながら、低い成形可能温度(成形可能な状態に至る温度)を有している。例えば、本開示の組成物は、シリンダ温度を200℃に設定した射出成形に適用することができる。これにより、成形のために要するエネルギーを低減させることができる。また、特に冷却時間を短縮することができるので、生産効率を高めることができる。したがって、成形コストを低減させることができる。また、成形温度を低く抑えることによって、溶融状態における樹脂組成物の分解を抑制することができる。これにより、成形体の品質低下を抑制することもできる。さらに、極限粘度を低く抑えることによって、溶融状態におけるせん断熱による温度ムラの発生を抑制することができる。これにより、成形品の品質の均一化を図ることができる。
【0043】
次に、第2実施形態として本開示のポリエステル樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0044】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、上述の単量体及び添加物を基にして、公知の方法で製造することができる。例えば、未置換のポリカルボン酸を出発原料とする直接エステル化によりエステルプレポリマーを生成してもよいし、ジメチルエステル等のエステル化物を出発原料とするエステル交換反応によりエステルプレポリマーを生成してもよい。生産効率の観点からは直接エステル化反応を選択すると好ましい。
【0045】
単量体及び添加物の添加率は、本開示の組成物に関する上述の説明において示した割合とすることができる。
【0046】
エステル交換反応は、例えば、加熱装置、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に原料を仕込み、反応触媒を加えて大気圧不活性ガス雰囲気下で攪拌しつつ昇温し、反応により生じたメタノール等の副生物を留去しながら反応を進行させることによって行うことができる。反応温度は、例えば、150℃~270℃とすることができ、160℃~260℃であると好ましい。反応時間は、例えば、3~7時間程度である。
【0047】
エステル交換反応の触媒としては、少なくとも一種類以上の金属化合物を使用することができる。好ましい金属元素としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、チタン、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、スズ、コバルト等が挙げられる。これらのうち、チタン及びマンガン化合物は反応性が高く、得られる樹脂の色調が良好なことから好ましい。エステル交換触媒の添加量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常、5ppm~1000ppmであると好ましく、より好ましくは10ppm~100ppmである。
【0048】
また、エステル交換反応が終了した後に、エステル交換触媒と等モル以上のリン化合物を添加して、さらにエステル化反応を進行させることが望ましい。リン化合物の例としては、リン酸、亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト等が挙げられる。これらのうち、トリメチルホスフェートが特に好ましい。リン化合物の使用量は、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、5ppm~1000ppmであると好ましく、20ppm~100ppmであるとより好ましい。
【0049】
本発明におけるポリオール成分の内、ネオペンチルグリコールは、ポリカルボン酸成分とエチレングリコールの直接エステル化反応の途中に添加してもよいし、エステル化反応終了後に添加してもよい。予めポリカルボン酸成分とエチレングリコール及びネオペンチルグリコールとを常温で混合してスラリーを作製後、エステル化反応槽にてエステル化反応を進行させる方が、ネオペンチルグリコールの飛散を抑制することができるので好ましい。
【0050】
エステル交換反応及びエステル化反応につづいて、エステルプレポリマーに重合触媒を添加して、所望の分子量となるまでさらに重縮合反応を行うことができる。重合反応における触媒としては、例えば二酸化ゲルマニウムを用いることができる。触媒の添加率は、例えば、製造される樹脂量に対して180ppm~220ppmとすることができる。重縮合反応は、例えば、重合触媒を添加した後、反応槽内を徐々に昇温且つ減圧しながら行うことができる。槽内の圧力は、例えば、最終的には0.4kPa以下、好ましくは0.2kPa以下まで減圧すると好ましい。槽内の温度は、例えば、最終的には250℃~290℃まで昇温すると好ましい。重合反応は、例えば、最終槽内圧が150Pa以下となる減圧下で所定の溶融粘度となるまで行うことができる。その後、槽内圧を例えば0.5MPaに加圧し、槽下部から反応生成物を押し出して回収することができる。例えば、反応生成物を水中にストランド状に押し出し、冷却した上でカッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
重合触媒としては、二酸化ゲルマニウム以外の触媒を使用することもできる。例えば、重合触媒として二酸化チタンを使用することができる。二酸化チタンを使用する場合、触媒の添加率は、例えば、製造される樹脂量に対して1ppm~10ppmとすることができる。
【0052】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、用途及び成形目的に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を適宜配合することができる。これらの添加剤は、重合反応工程、加工・成形工程のいずれの工程において配合してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられるが、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。添加量は100ppm~5000ppm程度が望ましい。また、溶融押出フィルムを成形する場合、冷却ロールの静電密着性を安定させるために、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化マグネシウム等の金属塩を添加してもよい。
【0053】
本開示のポリエステル樹脂組成物の製造方法によれば、上述の性状を有する組成物を作製することができる。
【0054】
第3実施形態として、本開示のポリエステル樹脂成形体の製造方法について説明する。ポリエステル樹脂成形体の製造方法としては、例えば、射出成形を採用することができる。
【0055】
第1に、第1実施形態に係るポリエステル樹脂組成物を溶融させる。ポリエステル樹脂組成物を溶融させる加熱装置(例えばシリンダ)の設定温度は、組成物の未溶融体を生じさせないような温度である。加熱装置の設定温度は、220℃以下であると好ましく、200℃以下であるとより好ましく、組成物によっては180℃以下とすることができる。加熱温度を低くすることにより、冷却時間を短縮して生産効率を高めることができると共に、品質低下を抑制することができる。本開示のポリエステル樹脂組成物は、低い極限粘度を有するので、せん断熱によって組成物の温度が設定温度から大きく外れることを抑制することができる。また、溶融体における温度ムラの発生を抑制することができる。
【0056】
第2に、溶融させた組成物を型に充填する。型は所定の温度に維持させておくことができる。型の温度は、例えば、20℃~60℃、好ましくは30℃~50℃に設定することができる。型の温度を20℃未満にすると、冷却のために大きなエネルギーが必要となる。また、型に結露が生じ、型の劣化を促進させてしまうことになる。型は、水で冷却すると好ましい。
【0057】
第3に、型に充填した組成物を型で所定時間保持しながら成形する。成形後、成形体を離型させる。金型への樹脂の注入から離型させるまでの保持時間が冷却時間(成形時間)となる。冷却時間は、成形体の大きさ、特に厚さ、に依存する。
【0058】
本開示のポリエステル樹脂成形体の製造方法によれば、消費エネルギー低減及び生産効率向上によって製造コストを低減させることができる。また、高品質かつ均一な品質を有する成形体を製造することができる。
【0059】
第4実施形態として、本開示のポリエステル樹脂成形体について説明する。
【0060】
本開示のポリエステル樹脂成形体は、上述の第3実施形態に係る製造方法によって作製された成形体である。例えば、本開示のポリエステル樹脂成形体は、第1実施形態に係るポリエステル樹脂組成物を200℃以下の設定温度で溶融して成形した成形体とすることができる。本開示の成形体は、厚さ2mm以上部分を有すると好ましく、厚さ3mm以上部分を有するとより好ましく、5mm以上の部分を有するとより好ましい。厚さ2mm以上の部分を有すると冷却時間をより効果的に短縮することができる。例えば、成形体が厚さ5mmを有する場合、加熱温度180℃、20℃~60℃の型で約20秒の冷却時間で成形された成形体とすることができる。また、本開示の成形体の中で最も厚い部分は、厚さ10mm以下とすることができる。成形体が厚さ10mmを有する場合、加熱温度180℃、20℃~60℃の型で約75秒の冷却時間で成形された成形体とすることができる。
【0061】
成形体の組成や特性は、成形体作製時の加熱溶融条件に依存して、組成物から変化することがある。成形体の組成や特性を直接特定することが困難な場合があり、この場合には組成物から成形体への製造方法によって成形体を特定することが有用である。
【0062】
本開示のポリエステル樹脂成形体は、低い温度で成形されているので、組成物からの劣化が少ない品質を有することができる。また。本開示のポリエステル樹脂成形体は、せん断熱による発熱ムラの影響を受けないので、均一な品質を有することができる。本開示のポリエステル樹脂成形体は、短い冷却時間であっても所望の寸法を有することができる。
【0063】
以下に、本開示のポリエステル樹脂組成物について実施例を用いて説明する。本開示のポリエステル樹脂組成物は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0064】
[実施例1~2、参考例1~2及び比較例1~4]
ポリエステル樹脂組成物を作製して、各組成物の極限粘度、機械的物性、溶融粘度及び成形性を測定した。表1に、実施例1~2及び参考例1~2の組成並びに測定結果を示す。また、比較例として、組成及び極限粘度が異なるポリエステル樹脂組成物を作製し、同様の測定を行った。表2に、比較例1~4の組成及び測定結果を示す。
【0065】
[ポリエステル樹脂組成物の作製]
30Lのオートクレーブに、表1に示す組成で、テレフタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)、及びネオペンチルグリコール(NPG)を入れ、窒素流、大気圧条件下、250℃でエステル化反応を行った。表1に示す配合割合は、ポリカルボン酸成分及びポリオール成分それぞれの配合割合を示す。続いて、重合触媒として二酸化ゲルマニウムを用いて、1時間かけて反応槽内を減圧し、100Pa以下の減圧下において270℃で所定の粘度まで重縮合反応を行った。反応生成物を反応槽から水中に押し出して、ペレタイザーでカットし、樹脂ペレットを得た。生成したポリエステル樹脂組成物について、以下の測定を行った。比較例についても、表2に示す組成で、実施例と同じ製法でポリエステル樹脂組成物を作製し、実施例と同じ測定を行った。
【0066】
[極限粘度の測定]
各ポリエステル樹脂組成物について、フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒に試料0.5000g±0.0005gを溶解させ、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置(サン電子工業製ALC-6C)を用いて、20℃における極限粘度を測定した。
【0067】
[成形性及び冷却時間の測定]
乾燥させたポリエステル樹脂組成物をホッパーに供給し、130トンの射出成形機(住友重工業製SE130DUZ-HP)を用いて、計量時間12秒で計量した樹脂組成物を成形温度180℃又は200℃で、水で冷却する50℃の金型を用いて射出成形した。図1に、成形体の模式図を示す。図1に示す寸法は目標値である。成形体1は、内径51.2mm、厚さ(肉厚)5.0mmの有底円筒形状(円筒容器形状)を有する。シリンダ設定温度は、射出成形装置における設定温度である。成形温度は、基本的には180℃としたが、樹脂組成物が180℃で溶融しなかった場合には200℃とした。シリンダ実測温度は、シリンダに取り付けられた温度計で測定した。樹脂実測温度は、シリンダから樹脂を射出して、射出直後の樹脂の温度を赤外線温度計で測定した。冷却時間は、溶融樹脂を金型に注入してから成形体1を離型するまでの時間として測定した。図2に、冷却が十分に行われたかを確認する試験を説明するための模式図を示す。最短冷却時間は、成形品1が成形時に十分に冷却されたかを確認するための外径51.0mmの確認用の型2を、離型後1日経った成形体1の開口1aに所定の位置まで嵌め込むことが可能となる時間で決定した。成形時に冷却が十分に行われた場合、離型後の成形体1の収縮は小さく、成形体1の開口1aに確認用の型2を所定の位置まで嵌め込むことができる。一方、成形時の冷却が不十分な場合、離型後の成形体1の収縮は大きく、確認用の型2を成形体1の開口1aの所定の位置まで嵌め込むことができなくなる。成形収縮率は、離型後1日経った成形品1の外径を測定して以下の式により算出した。成形品平均外径は、同条件で連続的に成形した20個の成形体1の外径の平均値である。
成形収縮率=(金型内径-成形品平均外径)/金型内径×100
【0068】
[溶融粘度の測定]
試料となる組成物を除湿乾燥機を用いて60℃で48時間乾燥させた。そして、乾燥させた各組成物を20.0g±5.0g計り採り、溶融粘度測定装置を用いて測定温度200℃、せん断速度6080秒-1における溶融粘度を測定した。
【0069】
[機械的物性の測定]
ISO527に準拠して、各組成物について引張強度及び引張伸度を測定した。引張伸度は5つの試料について測定し、その平均値を算出した。また、ISO179に準拠して、各組成物についてシャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度は、10つの試料について測定し、その平均値を算出した。
【0070】
[測定結果]
実施例1~2及び参考例1~2においては、最短冷却時間を25秒以下とすることができた。200℃における溶融粘度は、100Pa・s~200Pa・sとすることができた。180℃における溶融粘度は、180Pa・s~300Pa・sとすることができた。成形時の樹脂温度は、設定温度の4%以内とすることができた。組成物の引張強度は40MPa以上、引張伸度は100%以上とすることができた。また、組成物のシャルピー衝撃強度は3kJ/m以上とすることができた。したがって、本開示のポリエステル樹脂組成物によれば、成形体の機械的物性を維持しながらも、成形時間を短縮することができた。なお、離型後の収縮が起きないように最短冷却時間を決定したので、成形収縮率は実施例でも比較例でも小さいものとなった。
【0071】
ネオペンチルグリコールの添加率が25mol%の比較例1においては、最短冷却時間が35秒となり、冷却時間を短縮することができなかった。これは、200℃における溶融粘度が235Pa・sと大きく、成形時における組成物の温度がせん断熱によって維持されたことが一因と考えられる。これに対し、ネオペンチルグリコールの添加率が30mol%以上である実施例1~2及び参考例1~2においては、200℃における溶融粘度も200Pa/s以下であり、最短冷却時間をいずれも20秒以下とすることができた。これより、ネオペンチルグリコールの添加率は、ポリオール成分の総量に対し25mol%よりも多いと好ましく、30mol%以上であるとより好ましいと考えられる。
【0072】
ネオペンチルグリコールの添加率が57mol%の比較例4においては、200℃における溶融粘度が92Pa・s、180℃における溶融粘度が170Pa・sと低くなった。また、引張伸度が60%となり、十分な機械的強度が得られなかった。これに対し、ネオペンチルグリコールの添加率が55mol%以下である実施例1~2及び参考例1~2においては、200℃における溶融粘度が100Pa・s以上、180℃における溶融粘度が180Pa・s以上とすることができた。また、引張伸度が100%以上となり、十分な機械的物性を得ることができた。これより、ネオペンチルグリコールの添加率は、ポリオール成分の総量に対し55mol%以下であると好ましく、50mol%以下であるとより好ましいと考えられる。
【0073】
極限粘度が0.48dl/gである比較例2においては、200℃における溶融粘度が95Pa・s、180℃における溶融粘度が164Pa・sと低くなった。また、引張伸度30%、シャルピー衝撃強度2.5kJ/mと十分な機械的強度を得ることができなかった。これに対し、極限粘度が0.50dl/g以上である実施例1~2及び参考例1~2においては、200℃における溶融粘度が100Pa・s以上、180℃における溶融粘度が180Pa・s以上とすることができた。また、引張伸度が100%以上となり、十分な機械的物性を得ることができた。これより、極限粘度は、0.50dl/g以上が好ましいと考えられる。
【0074】
極限粘度が0.65dl/gである比較例3においては、最短冷却時間が30秒と長くなってしまった。これは、極限粘度が高いために、せん断熱によって成形時の樹脂温度が、シリンダ設定温度よりも約20℃(8%以上)高くなってしまったためと考えらえる。また、200℃における溶融粘度が251Pa・s、180℃における溶融粘度が330Pa・sと高く、せん断熱が冷却速度に悪影響を及ぼしたと考えられる。これに対し、極限粘度が0.58dl/g以下の実施例1~2及び参考例1~2においては、せん断熱による発熱の影響は小さく、成形時の樹脂温度の上昇は、設定温度の4%以内に抑えることができた。また、200℃における溶融粘度が180Pa・s以下、180℃における溶融粘度が290Pa・s以下であり、せん断熱の冷却速度への影響は小さいと考えられる。このため、冷却時間はいずれも25秒以下とすることができたと考えられる。これより、極限粘度は、0.65dl/g未満であると好ましく、0.60dl/g以下であるとより好ましいと考えられる。
【0075】
実施例1~2及び参考例1~2において得られた成形体は、成形時の樹脂温度を低くすることによって、成形時間を短縮できたのみならず、成形体の品質低下を抑制することができたと考えられる。また、せん断熱による影響が小さく、安定した品質を確保することができた。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】
【0078】
[実施例及び比較例5~6]
[冷却時間による成形性への影響]
本開示のポリエステル樹脂組成物について、最短冷却時間よりも短い時間で成形を実施し、成形体に与える影響を調べた。使用した組成物は、上述の実施例及び実施例の組成物である。実施例及び比較例5において実施例の組成物を用い、実施例及び比較例6において実施例の組成物を用いた。実施例及びにおいては、実施例及びに基づき冷却時間を20秒とし、比較例5及び6においては、冷却時間を15秒に設定した。表3に、組成、成形条件及び結果を示す。成形条件、成形収縮率及び型への嵌合の測定方法は、冷却時間を除いて、実施例1~2及び参考例1~2における上述の方法と同じである。
【0079】
実施例及びにおいては、成形収縮率は0.33%以下であり、確認用の型を成形体の開口に嵌め込むことができた。一方、比較例5及び6においては、成形収縮率は0.35%以上と高く、確認用の型を成形体の開口の所定の位置まで嵌め込むことができなかった。確認用の型を嵌め込むことができない成形体は不良品となる。これより、単に冷却時間を短縮するだけでは、不良品を製造するだけであって、生産効率の向上を図れないことが分かった。
【0080】
なお、比較例3に係る組成物を用いて同じ試験をすれば、冷却時間20秒でも型への嵌合ができない不良品の成形体が作製されることになる。
【0081】
【表3】

【0082】
[実施例
[成形体の厚さによる冷却時間への影響]
本開示のポリエステル樹脂組成物について、作製する成形体の厚さ(肉厚)が冷却時間に及ぼす影響を調べた。実施例に係る組成物を用いて、厚さ2mm、5mm及び10mmを有する成形体を作製し、各成形体について必要となる冷却時間を測定した。厚さ2mmを有する成形体は縦90mm、横50mm及び厚さ2mmの四角形の平板形状を有する成形体とした。この成形体においては、冷却時間が不十分であると熱収縮により凹凸(例えばヒケ)が発生する。そこで、実施例-1及び-2における冷却時間は、成形体に凹凸の発生しない最短の冷却時間をもって決定した。厚さ5mmを有する成形体は、実施例1~2及び参考例1~2と同じ成形体であり、冷却時間の測定方法も同じである。厚さ10mmを有する成形体は、図1に示す形状を有し、図1に示す内径と同じ内径を有する成形体とした。冷却時間の測定方法は、厚さ5mmの成形体の測定方法と同じである。シリンダ設定温度は180℃及び220℃として、各温度について最短冷却温度を測定した。表4に結果を示す。図3に、肉厚に対して冷却時間をプロットしたグラフを示す。
【0083】
成形体の肉厚を厚くするほど、長い冷却時間を要している。シリンダ設定温度、すなわち加熱温度を低下させると、冷却時間を短縮できている。そして、加熱温度180℃と220℃の冷却時間の差も肉厚に応じて大きくなっている。したがって、上述のように、本開示の組成物を用いれば成形時の樹脂温度を低下させることができ、これにより、成形体の生産効率を高めることができることが分かる。特に、同じ成形体を連続的に複数製造する場合には、製造時間の短縮及びエネルギーコストの低減は非常に大きなものとなる。このような効果は、成形体の肉厚が厚くなるほど高くなる。
【0084】
なお、比較例3に係る組成物で実施例と同じ試験を行ったならば、さらに長い冷却時間が必要になる。
【0085】
【表4】

【0086】
[実施例
[重合触媒による物性への影響]
実施例1~2及び参考例1~2においては、重合触媒として二酸化ゲルマニウム(GeO)(ポリエステル樹脂組成物の質量に対して200ppm)を用いてポリエステル樹脂組成物を作製した。実施例においては、二酸化ゲルマニウムの代わりに、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して2ppmの二酸化チタン(TiO)を重合触媒として用いてポリエステル樹脂組成物を作製した。ポリエステル樹脂組成物の作製は、重合触媒以外は、実施例1~2及び参考例1~2と同様である。得られたポリエステル樹脂組成物について実施例1~2及び参考例1~2と同様にして成形性及び物性の測定を行った。組成及び測定結果を表5に示す。
【0087】
実施例に係る組成物は実施例に係る組成物と同じ組成及び極限粘度を有するが、成形性、溶融粘度及び機械的物性も実施例に係る組成物と同等とすることができた。これより、本開示のポリエステル樹脂組成物の効果は、重合触媒に依存しないものと考えられる。
【0088】
【表5】


【0089】
本発明のポリエステル樹脂組成物、並びにポリエステル樹脂成形体及びその製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0090】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0091】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、成形性及び機械的物性に優れている。したがって、本開示のポリエステル樹脂組成物及びその成形体は、例えば、容器、電気電子部品や自動車用材料等、各種成形材料に広範囲に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 成形体
1a 開口
2 確認用の型
図1
図2
図3