(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】補強材の押上方法と押上固定装置
(51)【国際特許分類】
E04H 12/12 20060101AFI20220706BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
E04H12/12
E04G23/02 F
(21)【出願番号】P 2017197712
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000204620
【氏名又は名称】大嘉産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恵
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-168889(JP,A)
【文献】特開2010-112008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 12/00 - 12/34
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の補強材を中空柱状物の中で押し上げる押上方法であって、
筒状の補強材の上端外周面を補強材保持部材の外面に当接させて固定し、
該補強材保持部材を押し上げるために使用する可撓性の押上棒を、前記補強材保持部材から前記補強材の筒外を通して配置し、
この補強材保持部材を中空柱状物に開けた作業孔から挿入し、該挿入した補強材保持部材を、前記補強材の筒外に配置されている前記押上棒を使用して、前記中空柱状物の中で押し上げる、押上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する発明は、電柱等の中空柱状物を内側から補強する補強材の設置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1~3に開示されているように、電柱などの直立した中空柱状物を、筒状にした繊維補強材で内側から補強する技術が知られている。
特許文献1の技術では、筒状補強シート(40)の先端からシート内部を通して可撓性の内部線材(52)が設けられており、この内部線材(52)を押上棒として使用し、必要に応じて線材を継ぎ足し連結して、補強シート(40)を中空柱状物内で押し上げる。この後に補強シート(40)内に空気圧をかけて壁面に補強シート(40)を押し当てて接着剤固定する。
特許文献2の技術では、筒状補強シート(2)の先端からシート内部を通して可撓性の中空パイプ(4)が設けられ、この中空パイプ(4)に同様の中空パイプを必要本数継ぎ足し連結しつつ押上棒として使用し、補強シート(2)を中空柱状物内で押し上げる。最上部位の中空パイプ(4A)にはバルーン(6)が設けられ、このバルーン(6)の膨張で補強シート(2)を中空柱状物内に吊り下げ保持する。
特許文献3の技術では、耐圧ホース(23)を押上棒として滑車(24)を押し上げて中空柱状物内頭頂部に固定し、この滑車(24)を使用して筒状補強シート(40)を吊り上げて設置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-099245号公報
【文献】特開2014-205981号公報
【文献】特開2007-231732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、内部線材が補強シートの筒内から外へ出る貫通部分で漏気が発生し易く、さらには、モルタル等の重量物を充填するには内部線材による支持では強度不足であり、補強シート落下の懸念がある。特許文献2の場合、補強シートの押し上げに通常は全長10m以上の中空パイプが必要であるから、現地で複数本の中空パイプを継ぎ足していくことになるが、その連結作業を補強シートの筒内(つまり細長く狭い空間内)で行わねばならず、補強シートに連結作業要開口を必要数設けるなどの手間もかかり、施工性、生産性の点で難がある。特許文献3の場合、補強シートを挿入する前に滑車を含む固定装置を先行して挿入する必要があり、固定装置の挿入とその後の補強シートの挿入という二度手間となり、効率が悪い。このように、筒状の補強材を中空柱状物内で押し上げ、そして固定するための手段、方法について、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の技術を検討してみると、筒状になった補強材の筒内を通さずに押上具を設けることができれば、特許文献1や特許文献2の問題は解決する。また、空気圧を利用するよりも固定力の強い固定装置が補強材の先端に取り付けられていて、補強材と一緒に挿入できると、固定力不足が解消され、特許文献3の問題も解決することができる。
【0006】
本発明では、補強材を中空柱状物の中で押し上げて固定するための押上固定装置として、中央部から斜め下向きに延出した少なくとも2つの翼部を備えた固定刃と、該固定刃の前記中央部から垂下する芯棒と、該芯棒に緩挿された反力発生部材と、前記芯棒に形成されたネジに螺合して前記反力発生部材を下から支持し且つ回転させることで前記反力発生部材に上向圧力を加える支持ナットと、前記芯棒を包囲する筒状であり、前記反力発生部材と共に前記支持ナットで支持される補強材保持部材と、当該押上固定装置を押し上げるために前記支持ナットに下から当接し且つ前記芯棒を回転軸として回転操作可能であって該回転操作により前記支持ナットを回転させる押上棒とを有する押上固定装置を提案する。
この押上固定装置では、筒状の補強材が、その上端外周面を前記補強材保持部材に巻き付けるようにして、例えば結束バンドで締め上げることにより、保持される。該補強材保持部材は前記芯棒を包囲しているので、前記芯棒を回転軸として装着される前記押上棒は、補強材の筒の中ではなく筒の外側にあって延伸する。また、前記押上棒の回転操作に従い回転する支持ナットが前記反力発生部材に上向圧力を加えると、該反力発生部材が前記固定刃の翼部に当接して該翼部を押し広げるように作用する。中空柱状物の中に挿入されて押し上げられた前記固定刃の翼部は、先端が中空柱状物の内壁面に当たって狭まる方向の力を受けているが、前記反力発生部材による押し広げの圧力は、これに抗する反力となる。この反力により前記翼部の先端が中空柱状物の内壁面に押し付けられると、該翼部先端は、針や鏃などのカエシのごとく壁面に食い込む。これにより、当該押上固定装置が中空柱状物内に固定される。
【0007】
本発明によれば、筒状の補強材を中空柱状物の中で押し上げる押上方法に関し、筒状の補強材の上端外周面を補強材保持部材の外面に当接させて固定し、該補強材保持部材を押し上げるために使用する可撓性の押上棒を、前記補強材保持部材から前記補強材の筒外を通して配置し、この補強材保持部材を中空柱状物に開けた作業孔から挿入し、該挿入した補強材保持部材を、前記補強材の筒外に配置されている前記押上棒を使用して、前記中空柱状物の中で押し上げる、押上方法が提案される。
【発明の効果】
【0008】
上記提案に係る押上方法及び押上固定装置によれば、筒状の補強材の外側を通って押上棒が延伸するので、漏気の心配はなく、且つ押上棒の継ぎ足し作業や固定後の押上棒取り外し作業を補強材の筒の外で行え、簡単である。また、上記提案に係る押上固定装置では、固定刃の壁面食い込みにより固定を行うので、線材で支持したり空気圧を利用したりするものよりも固定力が強い。そして、この押上固定装置が補強材の先端に設けられていて、補強材と一緒に挿入し、押し上げることができるので、特許文献3のような二度手間もない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る押上固定装置の実施形態を示した側面図。
【
図2】分
図Aは、
図1の押上固定装置の分解図、分
図Bは、固定刃を下から見た図、分
図Cは、反力発生部材を上から見た図、分図(D)は、反力発生部材及び補強材保持部材を下から見た図、分
図Eは、支持ナットを下から見た図、分
図Fは、押上棒を上から見た図。
【
図4】筒状の補強材を保持する補強材保持部材の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
中空柱状物の一例としてコンクリート製電柱に関し、その中に補強材を押し上げて固定する押上固定装置1を説明する。
図1~
図3に示す本実施形態に係る押上固定装置1は、固定刃10、芯棒20、反力発生部材30、支持ナット40、補強材保持部材50、及び押上棒60を有する。
【0011】
固定刃10は、ステンレス等の金属板製で、中央部11から斜め下向きに延出した2枚の翼部12,13を備えており、全体としてカエシのついた鏃の形(逆V字形)を呈する。斜め下向きに延出する翼部12,13は、必要に応じて3枚や4枚に増やすなど、作成枚数を増やすことができる。あるいは、中央部11及び翼部12,13を1つの部品として、該部品を複数積み重ねて使用する形態も可能である。中央部11には貫通孔が設けられていて、本実施形態では全長にネジ切りしてあるボルトを使用した芯棒20の上端をその貫通孔に刺し通す。この芯棒20に対し、上から袋ナット14を締め込み、そして下から固定ナット15を締め込んで、両ナット14,15で中央部11を挟み込み固定する。翼部12,13には、それぞれ少なくとも1つの側縁に補強リブ12a,13aが形成されており、強度を増してある。
【0012】
芯棒20は、上述のとおり全長にネジ切りしたボルトであり、固定刃10の中央部11にナット14,15で装着され、固定刃10の翼部12,13の間を垂下する。この芯棒20に、反力発生部材30が緩挿、すなわち上下動可能に通される。本実施形態の反力発生部材30は、芯棒を通す緩挿孔31を中央に形成した円板状であり(
図2C)、後述の補強材保持部材50と一体形成したものである。
【0013】
支持ナット40は、本実施形態では六角ナットであり、ボルトである芯棒20と螺合して、反力発生部材30を下から支持する。芯棒20にネジ結合した支持ナット40は、回転させることで芯棒20に沿って上下動させることができ、上昇方向に回転させた場合、支持している反力発生部材30に上向圧力を加える。この支持ナット40は、下端面に2つの係合凹部41を備え、押上棒60の上端面に突設された2つの係合凸部61が係合する。この係合により、押上棒60を回して支持ナット40を回転させることができる。係合凹部41と係合凸部61との組み合わせは少なくとも1つあれば良いが、2つ以上あった方が安定して回転させることができる。
【0014】
補強材保持部材50は、芯棒20を包囲する筒状であり、その内径は支持ナット40の外径よりも大きい。本実施形態の補強材保持部材50は、切削加工、鋳造、プレス、溶接などの手法で反力発生部材30と一体形成したものであって、具体的には、反力発生部材30の緩挿孔31を囲繞して反力発生部材30の下面から延出した筒部(筒状側壁)として形成されている。ただし、補強材保持部材50は、反力発生部材30と共に支持ナット40に下支えされるものであれば良いので、別部品として形成することも可能である。本実施形態に係る補強材保持部材50の下端外周には鍔部51が周設されており、この鍔部51は、補強材を保持したときに掛かり止めとして機能し、補強材保持力を増強する。
【0015】
押上棒60には可撓性の耐圧樹脂チューブを使用してあり、その内径が芯棒20の外径よりも広い。この押上棒60の上端を芯棒20の下端から差し入れて、押上固定装置1を押し上げるために支持ナット40に下から当接させる。支持ナット40に上端面を当接させた押上棒60は、芯棒20を回転軸として回転操作することができる。そして、上端面に形成された係合凸部61が係合凹部41に嵌まり込むので、当該押上棒60の下部を手で持って回転操作すると、支持ナット40を回転させることができる。耐圧樹脂チューブを使用した本実施形態の押上棒60は、押上固定装置1の押し上げに十分な強度、すなわち耐圧縮性、耐屈曲性を有する。押上棒60の下端には、同じ耐圧樹脂チューブからなる継ぎ足し延長棒60’を接続するための接続ボルト62が装着されている。延長棒60’は、接続ボルト62に螺合する接続ボルト61’を上端に備え且つ押上棒60の接続ボルト62と同様の接続ボルトを下端に備える。
【0016】
図4に示すように、筒状の補強材70が補強材保持部材50に取り付けられる。補強材70は強化繊維の織物シートを筒状に縫製したものであり、本実施形態の場合、補強材70の上端の内面に(つまり筒の内側に)、補強材70の中を延伸する充填材供給管71(点線で示す)の上端部分が縫い付けられている。この充填材供給管71はモルタル等の充填材を送り込むために使用される、特許文献2にある中空パイプ(4)のような管である。ただし、本実施形態の場合は、充填材供給管71に、押上固定装置1及び補強材70を押し上げ且つ支持するための強度は不要である。補強材70は、
図4Aにおいて矢示するごとく押し潰して平たく畳んだ状態としてその上端外周面を補強材保持部材50に巻き付ける。巻き付けた補強材70を金属製の結束バンド72で締め付けることにより、補強材70は補強材保持部材50に保持される。このとき、補強材保持部材50の下端外周に周設された鍔部51が、補強材70の掛かり止めとして機能し、補強材70のズレが防止される。
【0017】
折り畳んだ補強材70の外周面を補強材保持部材50に巻き付けるので、
図4Bに示すとおり、芯棒20を回転軸として装着され延伸する押上棒60は、補強材70の筒の中ではなく筒の外側にあって延伸する。したがって、押上棒60の作業用に補強材70に孔を開けるなどの必要はなく、漏気を心配せずにすみ、且つ押上棒継ぎ足し作業や固定後の押上棒取り外し作業を補強材70の筒の外で行え、簡単である。
【0018】
以上の押上固定装置1は、特許文献2の
図2~
図9に示される押し上げ固定工程の応用作業で電柱内に設置される。詳しくは特許文献2において説明されているので、
図5を参照して要部のみここに概説する。
【0019】
筒状の補強材70は、
図4Aで示したように、押し潰して平たく畳んだ状態としてその上端外周面を補強材保持部材50の外面に当接させ巻き付ける。巻き付けた補強材70は結束バンド72で締め付けて補強材保持部材50に固定する。この作業の前又は後に、補強材保持部材50を押し上げて固定するために使用する、固定刃10、芯棒20、反力発生部材30(本実施形態では補強材保持部材50と一体)、支持ナット40、及び押上棒60を組み立てる。組み上がった押上固定装置1において、補強材保持部材50を押し上げるために使用する押上棒60は、上述のとおり補強材保持部材50から補強材70の筒外を通して配置されている。
【0020】
図5Aは挿入作業を示し、電柱の適当な位置に開けた作業孔から、補強材70を保持した補強材保持部材50を含んだ押上固定装置1(
図5中では簡略化して図示)を電柱の中に挿入する。このときに、図示のとおり、押上棒60は補強材70の筒外にある。
図5Bは押し上げ作業を示し、電柱の中で押上固定装置1を押し上げる押し上げ作業は、補強材70の筒外に配置されている(
図4Bも参照)押上棒60を使用して行い、必要に応じて延長棒60’を継ぎ足していくことで押上固定装置1を必要な高さまで押し上げる。例えば従来技術の特許文献2の場合、この押し上げ工程を、筒状の補強シート(2)の筒内を通し配置した中空パイプ(4)で行う。これに対し、本実施形態の押上方法によれば、補強材70の筒内ではなく筒外に配置した押上棒60で行うので、押上棒60の作業用に補強材70に孔を開けるなどの必要はなく、漏気を心配せずにすみ、且つ押上棒継ぎ足し作業や固定後の押上棒取り外し作業を補強材70の筒の外で行え、簡単である。
【0021】
電柱の中を押し上げられた押上固定装置1において、固定刃10の翼部12,13は、各先端が電柱の内壁面に当たって(
図1)両者の間隔が狭まる方向の力を受ける。この状態において、押上棒60(に継ぎ足された延長棒60’)を回転操作し、該回転操作により支持ナット40を回転させると(上昇方向)、支持ナット40から反力発生部材30へ上向圧力を加えることができる。上向圧力を受ける反力発生部材30は、固定刃10の翼部12,13の下面に当接してこれら翼部12,13を押し広げるように作用する。この反力発生部材30による押し広げの圧力は、翼部12,13を狭めようとする力に抗する反力となり、翼部12,13の先端を電柱の内壁面に押し付けるように働く。このため翼部12,13の先端が壁面に食い込み、押上固定装置1を電柱内で機械的に固定する。この翼部12,13の食い込みによる固定は、特許文献1,2のように線材で支持したり空気圧を利用したりするものよりも格段に固定力が強い。また、補強材70と押上固定装置1とが一緒に電柱に挿入され押し上げられるので、押し上げ固定工程は一度で終わり、特許文献3のような二度手間がない。
【0022】
図5Cは押上固定装置1の固定後を示し、押上固定装置1を固定し終わった押上棒60が、引き抜いて回収されている。補強材70の下部は、作業孔から入れて下に垂らしてあり、電柱のほぼ全長に補強材70が設置された状態にある。この後、充填材供給管71を使用してモルタル等の充填材が供給される。
【符号の説明】
【0023】
1 押上固定装置
10 固定刃
11 中央部
12,13 翼部
20 芯棒
30 反力発生部材
31 緩挿孔
40 支持ナット
41 係合凹部
50 補強材保持部材
51 鍔部
60 押上棒
61 係合凸部
70 補強材