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特許7100476オーディオアンプ、それを用いたオーディオ出力装置および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】オーディオアンプ、それを用いたオーディオ出力装置および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/187 20060101AFI20220706BHJP
   H03F 1/00 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
H03F3/187
H03F1/00 240
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018068825
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019180043
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】三枝 裕司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 佳太
【審査官】小林 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-182263(JP,A)
【文献】特開昭61-065699(JP,A)
【文献】特開2012-114534(JP,A)
【文献】特開2012-127803(JP,A)
【文献】特開2010-041196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BTL(Bridged Tied Load)形式のオーディオアンプであって、
駆動対象のスピーカの一端と接続されるべき第1出力ピンと、
前記スピーカの他端と接続されるべき第2出力ピンと、
その出力が前記第1出力ピンを介して前記スピーカの前記一端と直接、または外付けの第1キャパシタを介して接続可能な第1アンプと、
その出力が前記第2出力ピンを介して前記スピーカの前記他端と直接、または外付けの第2キャパシタを介して接続可能な第2アンプと、
前記スピーカの前記一端と、外付けの第1抵抗を介して、または直接接続されるべき第1モニターピンと、
前記スピーカの前記他端と、前記第1抵抗がない場合には外付けの第2抵抗を介して、前記第1抵抗がある場合には直接、または外付けの第2抵抗を介して、接続されるべき第2モニターピンと、
前記第1モニターピンと接続され、オン、オフが切り替え可能であり、オン状態において定電流を生成する電流源と、
前記第2モニターピンと固定電圧ラインの間に設けられるスイッチと、
前記第1モニターピンと前記第2モニターピンの電位差に応じて負荷の状態を検出する負荷状態判定回路と、
を備えることを特徴とするオーディオアンプ。
【請求項2】
前記負荷状態判定回路は、前記電位差と所定のしきい値電圧の比較結果にもとづいて、前記負荷のオープンを検出することを特徴とする請求項1に記載のオーディオアンプ。
【請求項3】
前記負荷状態判定回路は、前記第1モニターピン、前記第2モニターピンそれぞれの電圧を受け、前記しきい値電圧に相当する入力オフセット電圧を有する電圧コンパレータを含むことを特徴とする請求項2に記載のオーディオアンプ。
【請求項4】
オープン検出を指示するイネーブル信号を受けるイネーブルピンをさらに備え、
前記電流源は、前記イネーブル信号がオープン検出を指示するときに、オンとなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のオーディオアンプ。
【請求項5】
シャットダウン状態とその解除を指示するシャットダウン信号を受けるシャットダウンピンをさらに備え、
前記シャットダウン信号が前記シャットダウン状態を指示しており、かつ前記イネーブル信号が前記オープン検出を指示するときに、前記負荷状態判定回路はイネーブルとなることを特徴とする請求項4に記載のオーディオアンプ。
【請求項6】
前記オーディオアンプの異常を検出する異常検出回路と、
異常の有無を外部に通知するための診断ピンと、
前記異常検出回路と前記負荷状態判定回路の出力に応じて、前記診断ピンの状態を変化させる出力部と、
をさらに備え、
前記負荷状態判定回路がイネーブルの状態において、前記異常検出回路は無効化されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のオーディオアンプ。
【請求項7】
前記スイッチは、サージ保護用のトランジスタを兼ねることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のオーディオアンプ。
【請求項8】
制御ピンをさらに備え、
前記電流源が生成する電流量は、前記制御ピンの状態に応じて調節可能であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のオーディオアンプ。
【請求項9】
前記電流源が生成する電流は、時間とともに緩やかに増加することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のオーディオアンプ。
【請求項10】
ひとつの半導体基板に一体集積化されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のオーディオアンプ。
【請求項11】
電気音響変換素子と、
前記電気音響変換素子を駆動する請求項1から10のいずれかに記載のオーディオアンプと、
を備えることを特徴とするオーディオ出力装置。
【請求項12】
電気音響変換素子と、
電気音響変換素子を駆動する請求項1から10のいずれかに記載のオーディオアンプと、
を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカやヘッドホンを駆動する増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号を増幅し、スピーカやヘッドホンなどの電気音響変換素子を駆動するために、オーディオアンプ(パワーアンプともいう)が用いられる。図1は、BTL(Bridged Tied Load)形式のオーディオアンプ100Rを備えるオーディオ出力装置200Rの回路図である。オーディオアンプ100Rの出力OUTPとOUTNには、負荷である電気音響変換素子202の正極端子+、負極端子-が接続される。オーディオアンプ100Rは、逆相の駆動電圧VOUTP,VOUTNを出力する第1アンプ102P、第2アンプ102Nを備える。
【0003】
オーディオアンプ100Rは、電気音響変換素子202のオープンなどの異常を検出する負荷接続状態検出回路106をさらに備える。たとえば特許文献1に開示される負荷接続状態検出回路は、一方の出力端子に向けて電流を流し込み、当該一方の出力端子に出現する電圧または電流にもとづいて正常、オープンまたはショートのいずれの状態であるかを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-182263号公報
【文献】特開2017-112428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、図1のオーディオアンプ100Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0006】
図1のアプリケーション回路では、2つの出力端子OUTP、OUTNが、電気音響変換素子202の端子+、-に直接接続されている。しかしながら、別のアプリケーションでは、出力端子OUTPと電気音響変換素子202の端子+の間、出力端子OUTNと端子-の間に、DCブロック用のキャパシタが挿入される場合がある。従来技術ではこのような場合に、負荷の接続状態を正しく判定できない。
【0007】
また従来では、オープンやショートの判定基準がオーディオアンプ100の内部のパラメータとして規定されており、オーディオ出力装置200(セット)の設計者が設定することができない。
【0008】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、さまざまなアプリケーション回路において異常を検出可能であり、また異常の判定基準を設定可能なオーディオアンプの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様はBTL形式のオーディオアンプに関する。オーディオアンプは、第1アンプと、第2アンプと、第1アンプの出力と接続される第1出力ピンと、第2アンプの出力と接続される第2出力ピンと、第1モニターピンと、第2モニターピンと、第1モニターピンと接続され、オン、オフが切り替え可能な電流源と、第2モニターピンと固定電圧ラインの間に設けられるスイッチと、第1モニターピンと第2モニターピンの電位差に応じて負荷の状態を検出する負荷状態判定回路と、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、さまざまなアプリケーション回路において異常を検出可能となり、あるいは、外付けの部品によって異常の判定基準を設定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】BTL(Bridged Tied Load)形式のオーディオアンプを備えるオーディオ出力装置の回路図である。
図2】実施の形態に係るオーディオアンプの回路図である。
図3】負荷状態の判定の際のオーディオアンプの等価回路図である。
図4】オーディオアンプの起動時のタイムチャートである。
図5】別のアプリケーションに係るオーディオ出力装置のブロック図である。
図6】別のアプリケーションに係るオーディオ出力装置のブロック図である。
図7】別のアプリケーションに係るオーディオ出力装置のブロック図である。
図8】負荷状態判定回路の構成例を示す図である。
図9】オーディオアンプの一部の構成例の回路図である。
図10図10(a)、(b)は、電流源の変形例を示す回路図である。
図11図11(a)~(c)は、電子機器の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態の概要)
本明細書に開示される一実施の形態は、BTL形式のオーディオアンプに関する。オーディオアンプは、第1アンプと、第1アンプと逆相の出力信号を生成する第2アンプと、第1アンプの出力と接続される第1出力ピンと、第2アンプの出力と接続される第2出力ピンと、第1モニターピンと、第2モニターピンと、第1モニターピンと接続され、オン、オフが切り替え可能な電流源と、第2モニターピンと固定電圧ラインの間に設けられるスイッチと、第1モニターピンと第2モニターピンの電位差に応じて負荷の状態を検出する負荷状態判定回路と、を備える。
【0014】
負荷状態判定回路は、電位差と所定のしきい値電圧の比較結果にもとづいて、負荷のオープンを検出してもよい。負荷である電気音響変換素子が正常であるときのインピーダンスRは数Ω(2~32Ω)のレンジであり、負荷がオープンであるときのインピーダンスRは数百Ωより大きくなる。電流源の出力電流をITESTとするとき、第1モニターピンと第2モニターピンの間には、電位差ITEST×Rが発生する。この電位差をしきい値VOPENと比較することで、負荷のオープン状態を検出できる。
【0015】
また、第1モニターピンと負荷の一端の間、および/または第2モニターピンと負荷の他端の間に、外付けの抵抗を挿入したとする。外付けの抵抗値をREXTとするとき、第1モニターピンと第2モニターピンの間には、電位差ITEST×(R+REXT)が発生する。この電位差をしきい値VOPENと比較することで、負荷のオープン状態を検出でき、外付けの抵抗REXTに応じて、オープン検出の判定基準を設定できる。
【0016】
電流源の出力は数十μAのオーダー、言い換えれば100μA以下であってもよい。これにより、負荷の状態を判定する際に、負荷からノイズが発生するのを防止できる。
【0017】
負荷状態判定回路は、第1モニターピン、第2モニターピンそれぞれの電圧を受け、しきい値電圧に相当する入力オフセット電圧を有する電圧コンパレータを含んでもよい。これにより2つのモニターピンの電位差を、小さいしきい値と比較することが可能となる。
【0018】
オーディオアンプは、オープン検出を指示するイネーブル信号を受けるイネーブルピンをさらに備えてもよい。電流源は、イネーブル信号がオープン検出を指示するときに、オンとなってもよい。
【0019】
オーディオアンプは、シャットダウン状態とその解除を指示するシャットダウン信号を受けるシャットダウンピンをさらに備えてもよい。シャットダウン信号がシャットダウン状態を指示しており、かつイネーブル信号がオープン検出を指示するときに、負荷状態判定回路はイネーブルとなってもよい。
【0020】
オーディオアンプは、オーディオアンプの異常を検出する異常検出回路と、異常の有無を外部に通知するための診断ピンと、異常検出回路と負荷状態判定回路の出力に応じて、診断ピンの状態を変化させる出力部と、をさらに備えてもよい。負荷状態判定回路がイネーブルの状態において、異常検出回路は無効化されてもよい。
【0021】
スイッチは、サージ保護用のトランジスタを兼ねてもよい。
【0022】
電流源は、時間とともに緩やかに出力電流を増大させてもよい。これにより、電気音響変換素子から発生するノイズを抑制できる。
【0023】
オーディオアンプは、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。
「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0024】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0026】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0028】
図2は、実施の形態に係るオーディオアンプ100の回路図である。オーディオアンプ100は、完全差動形のBTLアンプであり、ひとつの半導体基板(ダイ)に集積化され、パッケージに収容されたIC(Integrated Circuit)である。第1入力ピンINP、第2入力ピンINNに、差動の入力オーディオ信号を受け、第1出力ピンOUTP、第2出力ピンOUTNから逆相の差動オーディオ信号を出力する。
【0029】
第1アンプ102Pの出力は、第1出力ピンOUTPと接続され、第2アンプ102Nの出力は、第2出力ピンOUTNと接続される。第1アンプ102P、第2アンプ102Nは、抵抗R11~R14およびオペアンプ103を含み、同様に構成される。
【0030】
シャットダウン(SDB)ピンには、シャットダウン(SDB)信号が入力される。オーディオアンプ100は、SDB信号が第1レベル(たとえばロー)のときシャットダウン状態(スタンバイ状態ともいう)であり、SDB信号が第2レベル(たとえばハイ)となると、シャットダウン状態が解除される。第1アンプ102P、第2アンプ102Nは、シャットダウン状態においてディセーブルであり、それらの出力はハイインピーダンスである。第1アンプ102P、第2アンプ102Nの出力と接地の間には、プルダウン抵抗R21,R22が設けられ、第1アンプ102P、第2アンプ102Nのディセーブル状態において、OUTPピン、OUTNピンを接地電圧にプルダウンする。シャットダウン状態が解除されると第1アンプ102P、第2アンプ102Nはイネーブル状態となり、入力信号に応じた出力信号VOUTP,VOUTNを出力する。
【0031】
バイアス回路104は、バイアス電圧VBIASを生成し、第1アンプ102P、第2アンプ102Nに供給する。バイアス回路104にもSDB信号が入力される。バイアス回路104は、SDB信号がハイとなりシャットダウン状態が解除されると、バイアス電圧VBIASを時間とともに緩やかに上昇させる。これにより、シャットダウン解除後に、出力電圧VOUTP,VOUTNを緩やかに立ち上げることができ、第1出力ピンOUTP、第2出力ピンOUTNに接続される負荷(電気音響変換素子)からノイズが発生するのを防止できる。
【0032】
オーディオアンプ100は、負荷の状態を判定する機能を備える。本実施の形態において、オーディオアンプ100は、負荷のオープンを検出可能であり、そのためにオーディオアンプ100には、第1モニターピンMONP、第2モニターピンMONN、電流源110、スイッチ120、負荷状態判定回路130、負荷オープンイネーブル(LOPEN_EN)ピンが設けられる。
【0033】
電流源110は、MONPピンと接続され、オン、オフが切り替え可能に構成される。電流源110は、負荷の状態の判定期間においてオン状態となり、数十μAのオーダーの定電流(試験電流という)ITESTを出力する。スイッチ120は、第2モニターピンMONNピンと固定電圧ライン(本実施の形態では接地ライン)の間に設けられる。スイッチ120は、判定期間においてオンとなる。このスイッチ120は、サージ保護用のトランジスタを兼ねるように設計される。
【0034】
負荷状態判定回路130は、MONPピンとMONNピンの電位差ΔVに応じて負荷である電気音響変換素子の状態を判定する。
【0035】
より具体的には、負荷状態判定回路130は、電位差ΔVと所定のしきい値電圧VOPENの比較結果にもとづいて、負荷のオープンを検出する。すなわちΔV=V-V>VOPENのときオープン異常、ΔV=V-V<VOPENのとき正常と判定する。負荷状態判定回路130の出力であるオープン検出信号LOPEN_bは、負荷がオープンであるときにアサート(ロー)、負荷が正常であるときにネゲート(ハイ)となる。本明細書において信号の末尾に付された“_b”は、論理反転を表す。
【0036】
たとえばITEST=25μA、電気音響変換素子202の抵抗値(正常時)Rを8Ωとする。電気音響変換素子202が正常であるとき、電位差ΔVは、ΔV=25μA×8Ω=0.2mVとなる。電気音響変換素子202の抵抗値RがROPENより大きいときにオープン異常と判定するとすると、しきい値電圧VOPENはVOPEN=ITEST×ROPENとなる。たとえばROPEN=800Ωとすれば、VOPEN=25μA×800Ω=20mVとなる。
【0037】
LOPEN_ENピンには、外部からイネーブル(LOPEN_NE)信号が入力される。LOPEN_EN信号が第1レベル(たとえばハイ)のとき、負荷状態の判定期間となる。ロジック回路162Aは、LOPEN_EN信号が、判定期間を指示し(ハイ)、かつSDB信号がシャットダウン状態を指示するとき(ロー)に、その出力信号SD_LOPENをアサート(ハイ)とする。SD_LOPEN信号がアサートされる間、実際の負荷状態の判定が行われる。電流源110はSD_LOPEN信号がハイのときにオンとなり、スイッチ120も、SD_LOPEN信号がハイのときにオンとなる。
【0038】
オーディオアンプ100は、複数の異常検出回路160をさらに備える。異常検出回路160_1はサーマルシャットダウン(TSD:Thermal Shutdown)回路であり、オーディオアンプ100のチップの温度を監視し、過熱異常においてTSD信号をアサート(ハイ)する。異常検出回路160_2は、電源電圧VDDを監視するUVLO(低電圧ロックアウト)回路であり、電源電圧VDDが低下した状態を検出すると、UVLO信号をアサートする。異常検出回路160_3は、過電流保護(OCP:Over Current Protection)回路であり、第1アンプ102P、第2アンプ102Nそれぞれの出力電流の過電流状態を検出すると、OCP信号をアサート(ハイ)する。負荷状態判定回路130が有効の期間、すなわちLOPEN_EN信号がハイの期間、異常検出回路160_1~160_3は無効とされる。
【0039】
ロジック回路162Bは、LOPEN_b信号、TSD信号、UVLO信号、OCP信号を受け、いずれかの信号が異常を示すとき出力トランジスタ164をオン状態としてDIAGピンをローレベルにプルダウンする。
【0040】
以上がオーディオアンプ100の構成である。続いてその動作を説明する。
図3は、負荷状態の判定の際のオーディオアンプ100の等価回路図である。このアプリケーション回路において、電気音響変換素子202の正極端子(+)は、OUTP端子およびMONP端子と接続され、その負極端子(-)は、OUTN端子およびMONN端子と接続される。またオーディオ出力装置200を統合的に制御するマイクロコントローラ204が接続される。マイクロコントローラ204は、SDB信号、LOPEN_EN信号を生成する。またマイクロコントローラ204は、DIAGピンの状態を監視する。
【0041】
電源電圧VDDの投入後、SDBピンにローを与えた状態で、LOPEN_ENピンにハイを与えると、負荷状態の判定が有効となり、電流源110がオン、スイッチ120がオンとなる。その結果、電流源110から、MONPピン、電気音響変換素子202、MONNピン、スイッチ120を経由して、試験電流ITESTが流れる。
【0042】
電気音響変換素子202のインピーダンスをRとする。R≪R21,R22が成り立つとき、試験電流ITESTは電気音響変換素子202に流れ、そのときのMONPピンとMONNピンの電位差ΔV=V-Vは、式(1)で与えられる。
ΔV=R×ITEST …(1)
【0043】
電気音響変換素子202が正常であるとき、ΔV<VOPENが成立するから、LOPEN_b信号はハイ、出力トランジスタ164はオフであり、DIAGピンが外部の抵抗によってプルアップされ、ハイレベルとなる。電気音響変換素子202がオープンであるとき、ΔV>VOPENが成立するから、LOPEN_b信号はロー、出力トランジスタ164がオンとなり、DIAGピンがローとなる。
【0044】
このオーディオアンプ100によれば、電気音響変換素子202のオープン異常を検出できる。
【0045】
図4は、オーディオアンプ100の起動時のタイムチャートである。時刻tに電源電圧VDDが立ち上がる。続いて、時刻tにLOPEN_EN信号がハイとなり、上述したオープン異常の判定が行われる。その結果、オープン異常が検出されると、一点鎖線で示すようにDIAG信号がローとなり、起動シーケンスが中断される。
【0046】
時刻t~tの判定期間において、オープン異常が検出されなければ、DIAG信号はハイを維持し続ける。時刻tに、SDB信号がハイとなりシャットダウン状態が解除されると、バイアス電圧VBIASが上昇し、出力電圧VOUTP,VOUTNもそれに追従する。起動完了後(時刻t以降)、オーディオ回路206からINPピン、INNピンにオーディオ信号が入力されると、差動のオーディオ信号VOUTP,VOUTNが電気音響変換素子202に供給される。
【0047】
時刻t~tの判定期間の間、負荷状態判定回路130を除く他の異常検出回路160_1~160_Nはすべて無効となる。したがってマイクロコントローラ204は、LPEN_EN信号をハイとしてる期間に、DIAG信号がローとなったときには、その異常が負荷オープンであることを特定できる。すなわち、オーディオアンプ100は、1個のDIAGピンで、負荷オープンと、その他の異常を区別して通知することが可能となる。
【0048】
オーディオアンプ100のさらなる利点は、図5図6のアプリケーションによって明確化される。
【0049】
図5は、別のアプリケーションに係るオーディオ出力装置200Aのブロック図である。このアプリケーションでは、電気音響変換素子202の正極端子(+)とOUTPピンの間、電気音響変換素子202の負極端子(ー)とOUTNピンの間にDCブロック用のキャパシタCOUTP、COUTNが設けられる。MONPピンは、電気音響変換素子202の正極ピン(+)と接続され、MONNピンは、電気音響変換素子202の負極ピン(-)と接続される。負荷判定に際しては、MONPピンから試験電流ITESTがソースされ、電気音響変換素子202を経由してMONNピンからシンクされる。したがってキャパシタCOUTP,COUTNの影響を受けずに、直流の試験電流ITESTを利用して、電気音響変換素子202の状態を判定できる。
【0050】
図6は、別のアプリケーションに係るオーディオ出力装置200Bのブロック図である。このアプリケーションにおいて、MONPピンと電気音響変換素子202の正極端子(+)の間には、抵抗REXTPが挿入され、MONNピンと電気音響変換素子202の負極端子(-)の間には、抵抗REXTNが挿入される。
【0051】
負荷判定に際しては、MONPピンから試験電流ITESTがソースされ、抵抗REXTP、電気音響変換素子202、抵抗REXTNを経由してMONNピンからシンクされる。MONPピンとMONNピンの電位差は式(2)で与えられる。
ΔV=ITEST×(REXTP+REXTN+R) …(2)
【0052】
ΔV>VOPENのときにオープンと判定されるから、式(3)がオープン判定の条件となる。
TEST×R>VOPEN-ITEST×(REXTP+REXTN) …(3)
つまり、外付けの抵抗REXTP+REXTNに応じて、オープン判定のしきい値を外部から設定できる。
【0053】
図6において、REXTP,REXTNの一方を省略してもよい。あるいは、抵抗REXTP,REXTNに替えて、あるいは抵抗REXTP,REXTNと直列にダイオードを挿入してもよい。この場合、ダイオードの順方向電圧Vに応じて、オープン判定のしきい値をシフトさせることができる。
【0054】
図7は、別のアプリケーションに係るオーディオ出力装置200Cのブロック図である。このオーディオ出力装置200Cは、図4図5の組み合わせである。
【0055】
本発明は、図2のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0056】
図8は、負荷状態判定回路130の構成例を示す図である。負荷状態判定回路130は、電圧コンパレータ132を含む。電圧コンパレータ132の非反転入力端子(+)にはMONPピンの電圧Vが入力され、反転入力端子(-)にはMONNピンの電圧Vが入力される。電圧コンパレータ132は、しきい値電圧VOPEN(20mV)に相当する入力オフセット電圧VOFSを有するように設計されている。電圧コンパレータ132の出力LOPEN_bは、V-VOFS>Vのときロー、V-VOFS<Vのときハイとなる。
【0057】
負荷状態判定回路130はさらに入力スイッチSW31,SW32、トランジスタM31,M32を備える。負荷判定が指示されるとき(すなわちSD_LOPEN信号がハイ、SD_LOPEN_b信号がロー)、入力スイッチSW31,SW32はオン、トランジスタM31,M32はオフとなる。そうでないとき(すなわちSD_LOPEN信号がロー、SD_LOPEN_b信号がハイ)、入力スイッチSW31,SW32はオフ、トランジスタM31,M32はオンとなる。
【0058】
ロジック回路162Aの構成は、それに限定されないが、たとえばインバータ170、172およびNANDゲート174を含む。
【0059】
図9は、オーディオアンプ100の一部の構成例の回路図である。上述のように、電圧コンパレータ132に入力される電圧V,Vはいずれも0V近傍の電圧である。そこで電圧コンパレータ132は、ダーリントンPNPの差動入力対134を備える。差動入力対134の一方には、オフセット電圧VOFSを導入するための抵抗ROFSが挿入されている。なお、電圧コンパレータにオフセットを導入する手法はこれに限定されず、公知の他の手法を採用しても良い。
【0060】
電流源110は、基準電流源180が生成する基準電流IREFをコピーするカレントミラー回路182の一部である。基準電流源180が生成する基準電流IREFは、カレントミラー回路182によってコピーされ、電圧コンパレータ132のテイル電流やバイアス電流としても利用される。カレントミラー回路182にはトランジスタ184が接続される。トランジスタ184は、SD_LOPEN信号がローのとき、すなわち負荷判定期間以外においてオンとなり、基準電流源180およびカレントミラー回路182を停止させ、ひいては電流源110、電圧コンパレータ132をシャットダウンさせる。
【0061】
カレントミラー回路182を構成するトランジスタのうち、Q41とQ42をペア性をとるようにレイアウトし、Q43とQ44をペア性をとるようにレイアウトするとよい。抵抗についても同様であり、R41とR42をペア性をとるようにレイアウトし、R43とR44をペア性をとるようにレイアウトするとよい。
【0062】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0063】
(第1変形例)
図10(a)、(b)は、電流源110の変形例を示す回路図である。図10(a)の電流源110は、外部からの制御信号VEXTの電圧レベルに応じて、試験電流ITESTの電流量を設定可能に構成される。電流源110は、第1カレントミラー回路112および第2カレントミラー回路114を含む。第1カレントミラー回路112は、基準電流IREFを折り返す。第2カレントミラー回路114は、第1カレントミラー回路112の出力電流IREF’をさらに折り返し、試験電流ITESTを出力する。オーディオアンプ100には、制御(CONT)ピンが設けられる。第1カレントミラー回路112の出力側のトランジスタM51のソース(あるいはエミッタ)は、CONTピンと接続される。CONTピンに何も接続しない場合、第1カレントミラー回路112は、基準電流IREFをそのままコピーする。CONTピンには、抵抗R51を介して外部から制御電圧VEXTが印加可能となっている。制御電圧VEXTを印加した場合、制御電圧VEXTに応じて、第1カレントミラー回路112の出力電流IREF’を調節できる。
【0064】
図10(b)を参照する。この電流源110は、試験電流ITESTを時間とともに緩やかに増大させる。制御ピンCONTには、外部から制御信号VCONTが入力される。制御信号VCONTは、ローパスフィルタ116を通過し、差動アンプ118に入力される。ローパスフィルタ116を通過した後の制御信号VCONTは、時間とともに緩やかに上昇する。制御信号VCONT’がローの状態では、VCONT≪VTHであるから、テイル電流ItのほぼすべてがトランジスタM61側に流れ、トランジスタM62に流れる電流IREFはゼロである。制御信号VCONT’が時間とともに上昇すると、トランジスタM61側に流れる電流が減少し、それと相補的にトランジスタM62に流れる電流IREFが増大していく。そしてVCONT’≫VTHとなると、テイル電流ItのすべてがトランジスタM62側に流れ、IREF=Itとなる。したがって基準電流IREFは、時間とともに緩やかに増大する。第1カレントミラー回路112、第2カレントミラー回路114は、基準電流IREFを折り返し、試験電流ITESTを生成する。
【0065】
電流源110の起動時において、試験電流ITESTの傾きが急峻であると、負荷の判定時に電気音響変換素子202からポップノイズが発生するおそれがある。そこで何らの工夫も施さない場合、ポップノイズを防止するために試験電流ITESTは、数十μA~数百μAのオーダーに制限する必要がある。これに対して図10(b)の電流源110では、試験電流ITESTを緩やかに増大させることができるため、試験電流ITESTの電流量を増やしても、ポップノイズの発生が抑制される。試験電流ITESTを増やすことができれば、負荷状態判定回路130における検出精度を高めることができる。
【0066】
(第2変形例)
実施の形態では、差動入力ピンINP,INNを備えるオーディオアンプ100を説明したがその限りでなく、シングルエンド入力であってもよい。この場合、シングルエンドの入力オーディオ信号を、正相信号と逆相信号に分岐し、第1アンプ102P、第2アンプ102Nに入力すればよい。
【0067】
(第3変形例)
実施の形態では、MONPピンとMONNピンの電位差ΔVをしきい値VOPENと比較することにより、オープン異常を判定する場合を説明したが、負荷状態判定回路130の動作はこれに限定されない。たとえば電気音響変換素子202の抵抗値Rは=4Ω~32Ωとさまざまである。そこで負荷状態判定回路130は、MONPピンとMONNピンの電位差ΔVにもとづいて、正常である電気音響変換素子202の抵抗値Rを判定してもよい。
【0068】
(用途)
最後に、オーディオ出力装置200のアプリケーションを説明する。図11(a)~(c)は、電子機器1の外観図である。図11(a)は電子機器1の一例であるディスプレイ装置600である。ディスプレイ装置600は、筐体602、スピーカ2を備える。オーディオ出力装置200は筐体に内蔵され、スピーカ2を駆動する。スピーカ2は、電気音響変換素子202に相当する。
【0069】
図11(b)は電子機器1の一例であるオーディオコンポ700である。オーディオコンポ700は、筐体702、スピーカ2を備える。オーディオ出力装置200は筐体702に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0070】
図11(c)は電子機器1の一例である小型情報端末800である。小型情報端末800は、スマートフォン、タブレットPC(Personal Computer)、オーディオプレイヤ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラなどである。小型情報端末800は、筐体802、スピーカ2、ディスプレイ804を備える。オーディオ出力装置200は筐体802に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0071】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0072】
200 オーディオ出力装置
202 電気音響変換素子
204 マイクロコントローラ
206 オーディオ回路
100 オーディオアンプ
102P 第1アンプ
102N 第2アンプ
104 バイアス回路
INP 第1入力ピン
INN 第2入力ピン
OUTP 第1出力ピン
OUTN 第2出力ピン
MONP 第1モニターピン
MONN 第2モニターピン
DIAG 診断ピン
SDB シャットダウンピン
LOPEN_EN イネーブルピン
110 電流源
112 第1カレントミラー回路
114 第2カレントミラー回路
116 ローパスフィルタ
118 差動アンプ
120 スイッチ
130 負荷状態判定回路
132 電圧コンパレータ
134 差動入力対
160 異常検出回路
162 ロジック回路
164 出力トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11