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特許7100478セラミックス多孔体及びその製造方法、並びに集塵用フィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】セラミックス多孔体及びその製造方法、並びに集塵用フィルタ
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20220706BHJP
   C04B 35/569 20060101ALI20220706BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B35/569
B01D39/20 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018069309
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178043
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】森本 健司
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-274968(JP,A)
【文献】特開2016-175808(JP,A)
【文献】特開2016-175809(JP,A)
【文献】特開2014-117663(JP,A)
【文献】特開2016-190198(JP,A)
【文献】特開2012-197192(JP,A)
【文献】特開2018-002559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00-38/10
B01D 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格部と、前記骨格部の間に形成され且つ流体が流通可能な細孔部とを備え、
前記骨格部は、前記流体の流通方向に平行な方向の断面において、長さ1000μmの測定線を前記流体の流通方向と直交する方向に10本引き、前記測定線上の骨格長さを全て測定した場合に、前記流体の流通方向と直交する方向の40μm以上の前記骨格長さの割合が15%以下であるセラミックス多孔体。
【請求項2】
気孔率が30~50%である、請求項1に記載のセラミックス多孔体。
【請求項3】
平均細孔径が3~20μmである、請求項1又は2に記載のセラミックス多孔体。
【請求項4】
第1端面から第2端面まで貫通して前記流体の流路を形成する複数のセルが隔壁によって区画形成されたハニカム構造を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス多孔体。
【請求項5】
前記ハニカム構造は、前記第1端面における所定の前記セルの開口部、及び前記第2端面における残余の前記セルの開口部に設けられた目封止部を含む、請求項4に記載のセラミックス多孔体。
【請求項6】
前記骨格部が、平均粒径が50μm以下の骨材を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックス多孔体。
【請求項7】
前記骨材が、炭化珪素、コージェライト、酸化アルミニウム、アルミニウムチタネート、ジルコニア及び金属珪素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載のセラミックス多孔体。
【請求項8】
前記骨格部が結合材をさらに含む、請求項6又は7に記載のセラミックス多孔体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のセラミックス多孔体の製造方法であって、
平均粒径が50μm以下の骨材及びバインダを含む坏土を成形した後、成形体を1330~1580℃以下の温度で焼成するセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記坏土が結合材をさらに含む、請求項9に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記坏土が焼成助剤を含まない、請求項9又は10に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項12】
結合材の添加量が、前記骨材及び前記結合材の合計量に対して5~30質量%である、請求項10又は11に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載のセラミックス多孔体を有する集塵用フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス多孔体及びその製造方法、並びに集塵用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関や、各種の燃焼装置などから排出される排ガスには、ススなどの粒子状物質(「パティキュレートマター」又は「PM」ともいう)が多量に含まれている。このPMがそのまま大気中に放出されると、環境汚染を引き起こすため、排ガスの排気系には、PMを捕集するための集塵用フィルタ(「パティキュレートフィルタ」ともいう)が搭載されている。例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンから排出される排ガスの浄化に用いられる集塵用フィルタとしては、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)や、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)などが挙げられる。このようなDPFやGPFには、第1端面から第2端面まで貫通して排ガスの流路を形成する複数のセルが隔壁によって区画形成されたハニカム構造を有するセラミックス多孔体が用いられている。
【0003】
また、上述した排ガスには、NOx、CO及びHCなどの有害物質も含まれている。排ガス中の有害物質の量を低減し、排ガスを浄化する際には、触媒反応が広く用いられている。このような触媒反応を利用した排ガスの浄化において、触媒を担持するための触媒担体としても、上記のハニカム構造を有するセラミックス多孔体が使用されている。
【0004】
上述した集塵用フィルタに用いられるセラミックス多孔体は、その使用に伴ってススなどの粒子状物質が表面又は内部に堆積する。その結果、セラミックス多孔体の圧力損失が大きくなり、集塵用フィルタとしての捕集能力が十分に得られなくなる。そこで、集塵用フィルタとしての捕集能力を再生させることを目的として、定期的な間隔で、セラミックス多孔体の表面又は内部に堆積した粒子状物質を燃焼させて除去する処理が行われている。
しかしながら、従来のセラミックス多孔体は、熱伝導率が小さいため、セラミックス多孔体の表面又は内部に堆積した粒子状物質を燃焼させる際に局所的な発熱が生じ、粒子状物質を十分に除去することができないという問題があった。
そこで、出願人は、炭化珪素などの骨材と金属珪素などの結合材とを含む骨格部と、骨格部の間に形成され且つ流体が流通可能な細孔部とを備えたセラミックス多孔体を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-201082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のセラミックス多孔体は、熱伝導性の向上を主な課題としており、使用時(例えば、粒子状物質が堆積した状態)における圧力損失については十分に検討されていない。そのため、特許文献1のセラミックス多孔体では、使用時に圧力損失が早期に増大してしまうことがあり、再生処理を頻繁に行う必要があるという問題があった。特に、集塵用フィルタに用いられるセラミックス多孔体は、粒子状物質が堆積した状態で使用されることが多いため、粒子状物質が堆積した状態における圧力損失の増大を抑制することが必要とされている。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、使用時における圧力損失の増大を抑制することが可能なセラミックス多孔体及びその製造方法、並びに集塵用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、流体の流通方向に平行な方向のセラミックス多孔体の断面において、流体の流通方向と直交する方向の40μm以上の骨格長さの割合が、使用時における圧力損失と密接に関係しているという知見に基づき、当該骨格長さの割合を制御することにより、使用時における圧力損失の増大を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、骨格部と、前記骨格部の間に形成され且つ流体が流通可能な細孔部とを備え、
前記骨格部は、前記流体の流通方向に平行な方向の断面において、長さ1000μmの測定線を前記流体の流通方向と直交する方向に10本引き、前記測定線上の骨格長さを全て測定した場合に、前記流体の流通方向と直交する方向の40μm以上の前記骨格長さの割合が15%以下であるセラミックス多孔体である。
【0010】
また、本発明は、前記セラミックス多孔体の製造方法であって、
平均粒径が50μm以下の骨材及びバインダを含む坏土を成形した後、成形体を1330~1580℃以下の温度で焼成するセラミックス多孔体の製造方法である。
さらに、本発明は、上記のセラミックス多孔体を有する集塵用フィルタである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用時における圧力損失の増大を抑制することが可能なセラミックス多孔体及びその製造方法、並びに集塵用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態2のセラミックス多孔体の試験片における二値化処理したSEM画像である。
図2図1の二値化処理したSEM画像の部分拡大図である。
図3】実施の形態2のセラミックス多孔体を第1端面側からみた平面図である。
図4図3のA-A’断面を示す断面図である。
図5】実施の形態3のセラミックス多孔体を第1端面側からみた平面図である。
図6図5のB-B’断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のセラミックス多孔体及びその製造方法、並びに集塵用フィルタの好適な実施の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、改良などを行うことができる。各実施の形態に開示されている複数の構成要素は、適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施の形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0014】
(実施の形態1)
本実施の形態のセラミックス多孔体は、骨格部と、骨格部の間に形成され且つ流体が流通可能な細孔部とを備える。
一般に、セラミックス多孔体では、粗大な骨格部が多すぎると、流体の流れが粗大な骨格部によって妨げられてしまう。その結果、流体が細孔内をスムーズに流れなくなるため、圧力損失が高くなる。逆に、小さな骨格部が多すぎると、その間に形成される細孔部も小さくなるため、流体が流通し難くなる。このようにセラミックス多孔体における圧力損失及び流体の流れ易さは、骨格部の大きさ及びその割合によって主に影響される。
【0015】
そこで、本実施の形態のセラミックス多孔体では、圧力損失の増大抑制と流体の流れ易さとのバランスを確保する観点から、流体の流通方向に平行な方向の断面において、流体の流通方向と直交する方向の40μm以上の骨格長さの割合を15%以下に制御している。
ここで、骨格長さを40μm以上とした理由は、圧力損失及び流体の流れ易さに対する影響が大きいためであり、40μm以上の骨格長さの割合は低いほど好ましい。
上記の骨格長さの割合が高すぎる場合、流体が細孔内をスムーズに流れなくなるため、圧力損失が高くなる。特に、ススなどの粒子状物質が骨格部の表面又は内部に堆積した場合には圧力損失が高くなり易い。そのため、圧力損失の増大を抑える観点から、上記の骨格長さの割合の上限を15%、好ましくは14.5%、より好ましくは14%、さらに好ましくは13.5%に制御する。一方、上記の骨格長さの割合の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.5%、より好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.1%である。
【0016】
上記の骨格長さの割合の測定方法としては、特に限定されないが、以下のようにして求めることができる。まず、セラミックス多孔体から、流体の流通方向と平行な方向の切断面を有する試験片を切り出す。次に、試験片の切断面を樹脂に埋設した後、この切断面を研磨してSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察する。SEM観察は、倍率100倍(1280×960ピクセル)で撮像すればよい。次に、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト「Image-Pro Plus 7.0J(商品名)」を用いて解析することにより骨格長さを測定する。具体的には、得られたSEM像を、骨格部と、それ以外の部分(細孔部)とに二値化処理した画像を作成する。次に、二値化処理した画像において、長さ1000μmの測定線を流体の流通方向と直交する方向に10本引き、測定線上の骨格長さを全て測定する。そして、「40μm以上の骨格長さの数/測定した骨格長さの総数×100」から、40μm以上の骨格長さの割合を算出する。
【0017】
骨格部を構成する材料としては、特に限定されないが、骨格部は骨材を含むことが好ましい。骨材の形状は、特に限定されず、原料段階の形状(粒子形状)を留めていても、原料段階の形状から変わっていてもよい。
また、骨格部は、骨材同士の結合によって形成されていてよいが、骨格部が結合材をさらに含み、この結合材を介して骨材同士が結合されていてもよい。
【0018】
骨材としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。骨材の例としては、炭化珪素、コージェライト、酸化アルミニウム、アルミニウムチタネート、ジルコニア、金属珪素などが挙げられる。このような原料を用いることにより、強度及び耐熱衝撃性に優れたセラミックス多孔体を得ることができる。また、これらの原料は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
骨材の平均粒径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは25μm以下である。このような範囲の平均粒径を有する骨材を用いることにより、粗大な骨格部が形成され難くなるため、流体の流通を確保しつつ圧力損失の増大を抑えることが可能となる。また、骨材の平均粒径の下限は、特に限定されないが、好ましくは1μm、より好ましくは3μm、さらに好ましくは5μmである。
ここで、本明細書において「平均粒径」は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製LA-950V2)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0020】
なお、骨材として、平均粒径が異なる複数の骨材を用いてもよい。この場合、粗大な骨格部を形成し難くする観点から、骨材全体に占める平均粒径が50μm以下の骨材の割合を50質量%以上にすることが好ましく、70質量%以上にすることがより好ましい。
【0021】
結合材は、セラミックス多孔体の製造時(焼成時)に溶解して骨材の間を結合する役割を担う。そのため、骨材に対する結合材の割合が少なすぎると、結合材が不足してしまい、セラミックス多孔体の強度が低下し易くなる。したがって、結合材の含有量は、セラミックス多孔体の強度を確保する観点から、骨材及び結合材の合計量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、骨材に対する結合材の割合が多すぎると、ピン止め効果が十分に得られないため、粗大な骨格部が形成され易くなってしまう。その結果、微細構造を有する骨格部が得られず、細孔内を流体が流れ難くなってしまう。したがって、結合材の含有量は、流体の流れ易さを確保する観点から、骨材及び結合材の合計量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
ここで、本明細書において「ピン止め効果」とは、骨材が結合材同士の焼結を妨げることを意味する。
【0022】
結合材としては、セラミックス多孔体の製造時(焼成時)に溶解して骨材の間を結合する機能を有するものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。結合材の例としては、コージェライト、金属珪素などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、コージェライト及び金属珪素は、骨材として用いられるが、一緒に使用される骨材の種類、焼成温度、焼成雰囲気などによって結合材としても機能する。例えば、金属珪素は、炭化珪素と一緒に用いられる場合に、結合材として機能する。
【0023】
また、骨格部を構成する材料は、焼成助剤を含まないことが好ましい。焼成助剤は、骨材と結合材との濡れ性を高める作用を有するため、焼成助剤が含まれていると、焼成時に骨材と結合材との接触面積が増大し、ピン止め効果が得られ難くなる。その結果、粗大な骨格部が多く形成され易くなる。
焼成助剤としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属元素を含む化合物が挙げられる。具体的には、カルシウム及び/又はストロンチウムのフッ化物、炭化物、塩化物、珪化物、炭酸塩、水酸化物、酸化物、無機酸塩、有機酸塩などが挙げられる。
【0024】
セラミックス多孔体の気孔率は、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上である。このような範囲の気孔率とすることにより、セラミックス多孔体をフィルタとして用いた場合に流体の流れ易さ(ろ過速度)を確保することができる。また、セラミックス多孔体の気孔率は、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。このような範囲の気孔率とすることにより、セラミックス多孔体をフィルタとして用いた場合に圧力損失の増大を抑制することができる。
ここで、本明細書において「気孔率」とは、JIS R1655:2003に準拠し、水銀圧入法によって測定される気孔率を意味する。
【0025】
セラミックス多孔体の平均細孔径は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上である。このような範囲の平均細孔径とすることにより、セラミックス多孔体をフィルタとして用いた場合に圧力損失の増大を抑えることができる。特に、粒子状物質がセラミックス多孔体に堆積した場合であっても、圧力損失が増大し難くなる。また、セラミックス多孔体の平均細孔径は、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下である。このような範囲の平均粒径とすることにより、セラミックス多孔体をフィルタとして用いた場合に粒子状物質の素抜けを抑制することができる。
ここで、本明細書において「平均細孔径」とは、JIS R1655:2003に準拠し、水銀圧入法によって求めた細孔分布における積算値50%での細孔径を意味する。
【0026】
上記のような特徴を有するセラミックス多孔体は、平均粒径が50μm以下の骨材及びバインダを含む坏土を成形した後、成形体を1330~1580℃以下の温度で焼成することによって製造することができる。また、骨格部が結合材を含む場合、坏土に結合材をさらに配合する。
坏土の原料として用いられる結合材の平均粒径は、特に限定されないが、骨材の平均粒径以下であることが好ましい。結合材の平均粒径が大きすぎると、ピン止め効果が得られなくなり、骨材の間が結合材の太い結合部によって結合されてしまう。その結果、セラミックス多孔体の圧力損失が高くなり易くなってしまう。
【0027】
バインダとしては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。バインダの例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロースなどの有機バインダが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
バインダの配合量は、特に限定されないが、骨材及び結合材の合計量に対して、一般に2~30質量%である。
【0028】
また、セラミックス多孔体の気孔率を調整するために、坏土に造孔剤を配合してもよい。造孔剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。造孔剤の例としては、グラファイト、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
造孔剤の配合量は、その種類及び気孔率の程度に応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0029】
坏土は、上記の原料を混合及び混錬することによって得ることができる。原料の混合及び混練方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法によって行うことができる。例えば、原料の混合及び混錬は、ニーダー、真空土練機などを用いて行うことができる。
坏土の成形方法も同様に、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法によって行うことができる。
成形体は、成形体中に含まれるバインダを除去(脱脂)するために、焼成の前に仮焼してもよい。仮焼は、結合材が溶融する温度よりも低い温度で行うことが好ましい。具体的には、150~700℃程度の所定の温度で一旦保持してもよく、また、所定温度域で昇温速度を50℃/時間以下に遅くして仮焼してもよい。
【0030】
所定の温度で一旦保持する手法については、使用したバインダの種類及び量に応じて、一温度水準のみの保持でも複数温度水準での保持でもよく、更に複数温度水準で保持する場合には、互いに保持時間を同じにしても異ならせてもよい。また、昇温速度を遅くする手法についても同様に、ある一温度区域間のみ遅くしても複数区間で遅くしてもよく、更に複数区間の場合には、互いに速度を同じとしても異ならせてもよい。
【0031】
仮焼の雰囲気については、酸化雰囲気でもよいが、成形体中にバインダが多く含まれる場合には、仮焼中にバインダが酸素で激しく燃焼して成形体温度が急激に高くなることがあるため、N2、Arなどの不活性雰囲気で行うことによって、成形体の異常昇温を抑制してもよい。この異常昇温の抑制は、熱膨張係数の大きい(熱衝撃に弱い)原料を用いた場合に重要な制御である。バインダを、例えば主原料(骨材及び結合材)の合計量に対して20質量%以上配合した場合には、不活性雰囲気にて仮焼するのが好ましい。また、骨材が炭化珪素である場合の他、高温での酸化が懸念されるものである場合にも、少なくとも酸化が始まる温度以上では、前記のような不活性雰囲気で仮焼を行うことによって、成形体の酸化を抑制することが好ましい。
【0032】
仮焼及びそれに続く焼成は、同一若しくは別個の炉にて、別工程として行ってもよく、又は同一炉での連続工程としてもよい。仮焼及び焼成を異なる雰囲気にて実施する場合には前者も好ましい手法であるが、総焼成時間、炉の運転コストなどの見地からは後者の手法も好ましい。
【0033】
骨材が結合材で結合された組織を得るためには、結合材が軟化する必要がある。例えば、結合材として金属珪素を用いる場合、金属珪素の融点は1410℃であるので、焼成温度は1330℃以上、好ましくは1430℃以上とする。一方、1580℃を超える温度では金属珪素の蒸発が進んで金属珪素を介した結合が形成され難くなる傾向にあるため、焼成温度は1580℃以下、好ましくは1560℃以下とする。
また、焼成時間は、特に限定されないが、ピン止め効果を安定して得る観点から、好ましくは1~4時間である。
【0034】
焼成雰囲気については、使用する骨材及び結合材の種類に応じて決定すればよい。例えば、高温での酸化が懸念される骨材及び結合材を用いた場合には、少なくとも酸化が始まる温度以上の温度域においては、N2、Arなどの非酸化雰囲気とすることが好ましい。
【0035】
上記のようにして製造される本実施の形態のセラミックス多孔体は、流体の流通方向に平行な方向の断面において、流体の流通方向と直交する方向における40μm以上の骨格長さの割合が適切な範囲に制御されているため、流体を細孔内にスムーズに流通させることができ、また、粒子状物質が堆積しても圧力損失が高くなり難い。
【0036】
(実施の形態2)
本実施の形態のセラミックス多孔体は、第1端面から第2端面まで貫通して流体の流路を形成する複数のセルが隔壁によって区画形成されたハニカム構造を有する。このようなハニカム構造を有するセラミックス多孔体では、隔壁3がセラミックス多孔体に相当する。また、ハニカム構造を有するセラミックス多孔体において、「流体の流通方向に平行な方向の断面」とは、セルが延びる方向に直交する方向の断面のことを意味し、また、「流体の流通方向」とは、隔壁の厚み方向のことを意味する。
【0037】
本実施の形態のセラミックス多孔体において、流体の流通方向と直交する方向における40μm以上の骨格長さの割合を測定する場合、セルが延びる方向(ハニカム構造を有するセラミックス多孔体の軸方向)と直交する方向にセラミックス多孔体を切断して試験片を得た後、実施の形態1の方法と同様にして行えばよい。ここで、本実施の形態のセラミックス多孔体の試験片について、二値化処理したSEM画像を図1に示す。また、図1の二値化処理したSEM画像の部分拡大図を図2に示す。図1及び2に示すような測定線(長さ1000μm)を流体の流通方向と直交する方向に10本引き、測定線上の骨格長さを全て測定する。
【0038】
本実施の形態のセラミックス多孔体は、所定のハニカム構造を有することを除けば実施の形態1のセラミックス多孔体と同一である。よって、ここでは、実施の形態1と共通する構成については説明を省略し、実施の形態1と異なる箇所のみについて説明する。
図3は、本実施の形態のセラミックス多孔体を第1端面側からみた平面図である。また、図4は、図3のA-A’断面を示す断面図である。
図3及び4に示されるように、セラミックス多孔体10は、第1端面1aから第2端面1bまで貫通して流体の流路を形成する複数のセル2を区画形成する隔壁3を備える。また、セラミックス多孔体10の外周面には外周壁4が形成されている。
【0039】
隔壁3の厚さとしては、特に限定されないが、好ましくは100~500μm、より好ましくは150~400μm、さらに好ましくは150~300μmである。このような厚さの隔壁とすることにより、隔壁3の強度を確保しつつ、圧力損失の増大を抑制することができる。
【0040】
セラミックス多孔体10におけるセル密度としては、特に限定されないが、好ましくは15~100セル/cm2、より好ましくは30~65セル/cm2、さらに好ましくは30~50セル/cm2である。このようなセル密度とすることにより、セラミックス多孔体をフィルタとして用いた場合に、圧力損失の増大を抑制しつつ、捕集効率を向上させることができる。
【0041】
セル2の形状としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の形状とすることができる。ここで、本明細書において「セル2の形状」とは、セル2が延びる方向に直交する断面におけるセル2の形状を意味する。セル2の形状の例としては、四角形、六角形、八角形などが挙げられる。
【0042】
セラミックス多孔体10の形状としては、特に限定されず、端面(第1端面1a及び第2端面1b)が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(例えば、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形など)の柱状などにすることができる。
【0043】
セラミックス多孔体10の第1端面1aから第2端面1bまでの長さ、及びセル2が延びる方向に直交する断面の大きさは、セラミックス多孔体の使用状況及び使用用途などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0044】
本実施の形態のセラミックス多孔体は、隔壁3の表面及び隔壁3の細孔のうちの少なくとも一方に排ガス浄化用の触媒が担持されていてもよい。触媒としては、当該技術分野において公知のものを用いることができる。触媒の例としては、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、銀などの貴金属、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、酸化鉄などの酸化物などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
上記のような特徴を有するセラミックス多孔体10は、成形体を押出成形によって製造すること以外は、実施の形態1と同様にして行うことができる。押出成形は、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて行うことができる。このようにして得られたハニカム構造を有する成形体は、焼成前に乾燥させてもよい。乾燥方法としては、特に限定されず、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などを用いることができる。これらの中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独又は組み合せて行うことが好ましい。また、乾燥条件としては、特に限定されないが、乾燥温度30~150℃、乾燥時間1分~2時間とすることが好ましい。本明細書において「乾燥温度」とは、乾燥を行う雰囲気の温度のことを意味する。
【0046】
(実施の形態3)
本実施の形態のセラミックス多孔体は、ハニカム構造が、第1端面における所定のセルの開口部、及び第2端面における残余のセルの開口部に設けられた目封止部をさらに含む点で、実施の形態3のセラミックス多孔質体と異なる。よって、ここでは、実施の形態2と共通する構成については説明を省略し、実施の形態2と異なる箇所のみについて説明する。
【0047】
図5は、本実施の形態のセラミックス多孔体を第1端面側からみた平面図である。また、図6は、図5のB-B’断面を示す断面図である。
図5及び6に示されるように、本実施の形態のセラミックス多孔体10は、第1端面1aにおける所定のセル2の開口部、及び第2端面1bにおける残余のセル2の開口部に設けられ目封止部5を有する。このように構成されたセラミックス多孔体は、内燃機関、又は各種燃焼装置から排出される排ガスを浄化するパティキュレートフィルタとして用いることができる。
【0048】
目封止部5を備えたセラミックス多孔体10を製造する場合には、ハニカム構造を有する成形体又は当該成形体を乾燥した乾燥体のセル2の開口部を、目封止材によって目封止する。セル2の開口部を目封止する方法としては、セルの開口部に目封止材を充填する方法を用いればよい。目封止材を充填する方法としては、従来公知の目封止部5を備えたハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができる。目封止部5を形成するための目封止部形成原料は、従来公知のハニカム構造体の製造方法において用いられる目封止部形成原料を用いることができる。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
平均粒径16μmの炭化珪素粉末750gと、平均粒径が6μmの金属珪素粉末250gとを混合してセラミックス原料を得た後、このセラミックス原料にバインダ(メチルセルロース)70g及び水を加えてニーダーで混練し、次に真空土練機で土練して坏土を得た。得られた坏土を、押出成形機にて、端面の一辺の長さ30mm、隔壁の厚さ300μm、セル密度46.5セル/cm2の四角柱状のハニカム形状に成形した。次に、得られた成形体をマイクロ波乾燥させた後、80℃で熱風乾燥させて乾燥体を得た。次に、得られた乾燥体を大気中、450℃で5時間脱脂した後、脱脂した乾燥体を、Ar雰囲気中、1450℃で2時間焼成してセラミックス多孔体を得た。
【0051】
(実施例2)
炭化珪素粉末の平均粒径を24μmに変更したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
【0052】
(実施例3)
焼成温度を1550℃に変更したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
【0053】
(実施例4)
炭化珪素粉末として、平均粒径18μmの炭化珪素粉末550g及び平均粒径31μmの炭化珪素粉末200gの混合粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
【0054】
(実施例5)
炭化珪素粉末の平均粒径を31μm、金属珪素粉末の平均粒径を2μm、及び焼成温度を1380℃にそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
【0055】
(実施例6)
炭化珪素粉末の平均粒径を50μm、金属珪素粉末の平均粒径を2μm、及び焼成温度を1380℃にそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
【0056】
(比較例1)
炭化珪素粉末の平均粒径を31μmに変更したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
【0057】
(比較例2)
炭化珪素粉末の平均粒径を50μm、及び金属珪素粉末の平均粒径を2μmにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
【0058】
(比較例3)
焼成温度を1600℃に変更したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス多孔体を得た。
上記の実施例及び比較例で得られたセラミックス多孔体について、下記の評価を行った。
【0059】
(40μm以上の骨格長さの割合)
セルの延びる方向と直交する方向にセラミックス多孔体を切断して試験片を得た。次に、試験片の切断面を樹脂に埋設した後、この切断面を研磨してSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。SEM観察は、倍率100倍(1280×960ピクセル)で撮像した。次に、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト「Image-Pro Plus 7.0J(商品名)」を用いて解析した。解析は、まず、得られたSEM像を、骨格部と、それ以外の部分(細孔部)とに二値化処理した画像を作成した。次に、二値化処理した画像において、長さ1000μmの測定線を流体の流通方向と直交する方向に10本引き、測定線上の骨格長さを全て測定した。そして、「40μm以上の骨格長さの数/測定した骨格長さの総数」から、40μm以上の骨格長さの割合を算出した。
【0060】
(気孔率)
水銀ポロシメータ(マイクロメリティクス社製オートポアIV9500)を用いて、気孔率を測定した。
【0061】
(平均細孔径)
水銀ポロシメータ(マイクロメリティクス社製オートポアIV9500)を用いて、細孔分布における積算値50%での細孔径を求めた。
【0062】
(スス付き圧力損失)
スス付き圧力損失とは、ススが堆積していないときの圧力損失(P1)とススを堆積させた後の圧力損失(P2)との差(P2-P1)の値を意味する。
スス付き圧力損失は、以下のようにして測定した。まず、ススを捕集させていない状態で0.15m3/minの空気を流し、セラミックス多孔体の前後の圧力差(圧力損失P1)を測定した。次に、スートジェネレーター(東京ダイレック株式会社製、「CAST2」)により発生させたススをセラミックス多孔体に0.1g/L堆積させた。その後、ススを堆積させた状態のセラミックス多孔体に0.15m3/minの空気を流し、そのときの圧力差(圧力損失P2)を測定した。その後、式:P2-P1により、スス付き圧力損失を算出した。なお、空気を流す際には、隔壁の厚さ方向に平行に空気が流れるようにセラミックス多孔体に目封止を予め施した。
【0063】
上記の評価結果を表に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、40μm以上の骨格長さの割合が0.5~15%の範囲にある実施例1~4のセラミックス多孔体は、40μm以上の骨格長さの割合が15%を超える比較例1及び2のセラミックス多孔体に比べて、スス付き圧力損失が小さかった。
【0066】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、使用時における圧力損失の増大を抑制することが可能なセラミックス多孔体及びその製造方法、並びに集塵用フィルタを提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1a 第1端面
1b 第2端面
2 セル
3 隔壁
4 外周壁
5 目封止部
10 セラミックス多孔体
図1
図2
図3
図4
図5
図6