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特許7100482有機性廃棄物の処理方法及び有機性廃棄物の処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】有機性廃棄物の処理方法及び有機性廃棄物の処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20220706BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220706BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20220706BHJP
【FI】
C02F11/04
C02F1/44
B09B3/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018077080
(22)【出願日】2018-04-12
(65)【公開番号】P2019181388
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-08-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 智弘
(72)【発明者】
【氏名】萩野 隆生
(72)【発明者】
【氏名】島本 仙
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-217640(JP,A)
【文献】特開2000-061274(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041009(WO,A1)
【文献】特開2008-006405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
C02F 1/44
C02F 1/58-1/64
B01D 61/00-71/82
B09B 3/00-3/80
C02F 3/28-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン、窒素及びマグネシウムを含有する有機性廃棄物の処理方法であって、
前記有機性廃棄物をメタン発酵装置においてメタン発酵する工程と、
前記有機性廃棄物及び/又は前記メタン発酵後の消化液をMAP晶析装置に供給し、MAP粒子を晶析させる工程と、
MAP晶析後の晶析処理液をMAP分離装置に供給し、前記MAP晶析後の晶析処理液からMAP粒子を分離する工程と、
前記MAP粒子を分離した分離液にリン除去剤を含む薬剤を添加する工程と、
前記薬剤を添加した前記分離液を膜分離装置に供給し、膜ろ過濃縮消化液と透過水とを得る工程と、
前記膜ろ過濃縮消化液を前記メタン発酵装置に返送する工程と
を含み、
前記薬剤を添加する工程が
記薬剤を添加した前記分離液のオルトリン酸濃度が、前記MAP晶析装置内の前記有機性廃棄物及び/又は前記メタン発酵後の消化液のオルトリン酸濃度に対して0.1割以上低下するように前記薬剤を添加すること
を含む有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記MAP分離装置において前記晶析処理液から分離したMAP粒子を前記MAP晶析装置へ返送する工程を含む請求項1に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記MAP晶析装置にて処理された晶析処理液のMAP構成物質のイオン積が、MAPの溶解度積との比で2.5以下となるように前記MAP晶析装置内のMAP粒子濃度を調整することを含む請求項1又は2に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記MAP晶析装置内のMAP粒子濃度を1g/L以上とすることを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記MAP分離装置として液体サイクロンを用いることを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項6】
リン、窒素及びマグネシウムを含有する有機性廃棄物をメタン発酵するメタン発酵装置と、
前記有機性廃棄物及び/又は前記メタン発酵後の消化液からMAP粒子を晶析させるMAP晶析装置と、
MAP晶析後の晶析処理液から前記MAP粒子を分離するMAP分離装置と、
前記MAP粒子分離後の分離液にリン除去剤を含む薬剤を添加する薬剤添加装置と、
前記薬剤を添加した前記分離液を膜分離し、膜ろ過濃縮消化液と透過水とを得る膜分離装置と、
前記膜ろ過濃縮消化液を前記メタン発酵装置に返送する返送手段と
を備え、
前記薬剤添加装置が、前記リン除去剤を添加した前記分離液のオルトリン酸濃度が、前記MAP晶析装置内の前記有機性廃棄物及び/又は前記メタン発酵後の消化液のオルトリン酸濃度に対して0.1割以上低下するように前記薬剤を添加することを含む有機性廃棄物の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物の処理方法及び有機性廃棄物の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵法は、無酸素の嫌気性環境下で生存するメタン菌の代謝作用により有機物をメタンガスとして分解する方法であり、メタン発酵により発生したバイオガスは、回収してエネルギーとして利用することができるというメリットを有する。メタン発酵処理を行った後の消化液は膜分離装置などによって固液分離される。
【0003】
一方、タンパク質やマグネシウムを含有する有機性廃棄物のメタン発酵処理においては、タンパク質の分解によって精製されるアンモニアおよびリン酸を含む消化液が発生し、消化液中で難溶性の塩類であるリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)が形成される。
【0004】
そのため、消化液の膜分離装置での処理を進めるにつれて膜の閉塞が生じる場合があり、膜の閉塞により透過液量が減少し、施設の稼働率が低下する場合がある。また、メタン発酵施設の配管中又はリアクタ内にMAPが付着又は堆積することで、スケール除去作業を行う必要性が生じる。
【0005】
例えば、国際公開第2009/041009号には、リン、マグネシウムなどを多量に含む有機性廃棄物の膜型メタン発酵処理において無機スケール等の生成を抑制するために、膜分離槽内の消化液もしくはメタン発酵槽から膜分離槽へ流入する消化液にpH調整剤を添加することにより、膜分離槽内のpH条件をスケールが発生しない目標pH条件に調整する方法が記載されている。
【0006】
特開2010-207699号公報には、メタン発酵槽の後段に設置される硝化脱窒工程で発生する処理水をメタン発酵槽に返送することで、MAPの生成を抑制させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2009/041009号
【文献】特開2010-207699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、引用文献1及び2に記載された発明のいずれも、スケールの生成抑制及び膜のファウリング抑制に関しては一定の効果が得られているが、いずれも未だ改善の余地がある。
【0009】
例えば、引用文献1に記載された発明は、薬品添加にコストがかかる上、MAP生成の抑制のためにpHを下げることによりアルカリ度が低下し、メタン発酵が不安定になる場合がある。また、原料のMAP構成元素の濃度によりMAPの生成能が異なるため、原料のMAPの構成元素の濃度が高いと、引用文献1に記載されるpH範囲の制御のみでは、MAP生成を抑制することが困難な場合がある。
【0010】
引用文献2に記載された発明では、処理水を希釈することにより膜ろ過での処理水量が増加するため、膜面積が大きくなり、イニシャルコスト及びランニングコストが増える上、装置の運転時間が増大するという問題がある。
【0011】
上記課題を鑑み、本発明は、被処理水の水質変動に関係無くMAPの生成を抑制でき、膜の損傷又は閉塞を抑制しながらより経済的で安定的に処理が可能な有機性廃棄物の処理方法及び有機性廃棄物の処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討した結果、メタン発酵で得られた消化液及び/又は有機性廃棄物に対してMAP生成処理及び生成したMAP粒子の分離処理を行った後、MAP粒子分離後の分離液にpH低下剤あるいはリン除去剤あるいはその両方を添加し、MAP生成能が低下した分離液を膜分離装置に供給する方法が有効であることを見出した。
【0013】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理方法は一側面において、リン、窒素及びマグネシウムを含有する有機性廃棄物の処理方法であって、有機性廃棄物をメタン発酵装置においてメタン発酵する工程と、有機性廃棄物及び/又はメタン発酵後の消化液をMAP晶析装置に供給し、MAP粒子を晶析させる工程と、MAP晶析後の晶析処理液をMAP分離装置に供給し、MAP晶析後の晶析処理液からMAP粒子を分離する工程と、MAP粒子を分離した分離液にpH低下剤あるいはリン除去剤あるいはその両方を含む薬剤を添加する工程と、薬剤を添加した分離液を膜分離装置に供給し、膜ろ過濃縮消化液と透過水とを得る工程と、膜ろ過濃縮消化液をメタン発酵装置に返送する工程とを含む有機性廃棄物の処理方法が提供される。
【0014】
本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理方法は一実施態様において、MAP分離装置において晶析処理液から分離したMAP粒子をMAP晶析装置へ返送する工程を含む。
【0015】
本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理方法は別の一実施態様において、MAP晶析装置にて処理された晶析処理液中のMAP構成物質のイオン積が、MAPの溶解度積との比で2.5以下となるようにMAP晶析装置内のMAP粒子濃度を調整することを含む。
【0016】
本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理方法は別の一実施態様において、MAP晶析装置内のMAP粒子濃度を1g/L以上とすることを含む。
【0017】
本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理方法は更に別の一実施態様において、MAP分離装置として液体サイクロンを用いることを含む。
【0018】
本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理方法は更に別の一実施態様において、薬剤を添加する工程が、薬剤を添加した分離液のpHが、MAP晶析装置内の有機性廃棄物及び/又はメタン発酵後の消化液のpHに比べて0.1以上低下するように薬剤を添加すること、あるいは、薬剤を添加した分離液のオルトリン酸濃度が、MAP晶析装置内の有機性廃棄物及び/又はメタン発酵後の消化液のオルトリン酸濃度に対して0.1割以上低下するように薬剤を添加することを含む。
【0019】
本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理装置は一側面において、リン、窒素及びマグネシウムを含有する有機性廃棄物をメタン発酵するメタン発酵装置と、有機性廃棄物及び/又はメタン発酵後の消化液からMAP粒子を晶析させるMAP晶析装置と、MAP晶析後の晶析処理液からMAP粒子を分離するMAP分離装置と、MAP粒子分離後の分離液にpH低下剤あるいはリン除去剤あるいはその両方を含む薬剤を添加する薬剤添加装置と、薬剤を添加した分離液を膜分離し、膜ろ過濃縮消化液と透過水とを得る膜分離装置と、膜ろ過濃縮消化液をメタン発酵装置に返送する返送手段とを含む有機性廃棄物の処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被処理水の水質変動に関係無くMAPの生成を抑制でき、膜の損傷又は閉塞を抑制しながらより経済的で安定的に処理が可能な有機性廃棄物の処理方法及び有機性廃棄物の処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理装置の一例を示す概略図である。
図2】比較例1の有機性廃棄物の処理装置を表す概略図である。
図3】比較例2の有機性廃棄物の処理装置を表す概略図である。
図4】実施例1~3、比較例1~3の運転期間における膜間差圧の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0023】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理装置は、リン、窒素及びマグネシウムを含有する有機性廃棄物6をメタン発酵するメタン発酵装置1と、有機性廃棄物6及び/又はメタン発酵装置1で得られたメタン発酵後の消化液10からMAP粒子を晶析させるMAP晶析装置2と、MAP晶析後の晶析処理液からMAP粒子を分離するMAP分離装置3と、MAP粒子分離後の分離液にpH低下剤あるいはリン除去剤あるいはその両方を含む薬剤を添加する薬剤添加装置4と、薬剤を添加した後の分離液を膜分離し、膜ろ過濃縮消化液と透過水9とを得る膜分離装置5と、膜ろ過濃縮消化液をメタン発酵装置1に返送する返送手段8とを備える。
【0024】
有機性廃棄物6としては、リン、窒素及びマグネシウムを少なくとも含有する有機性廃棄物であれば限定されず、固形状物の他に液体状の有機性廃水をも含む。例えば、下水汚泥、し尿処理汚泥、浄化槽汚泥、家畜糞尿、生ゴミ、各種工場排水・廃棄物等の有機物、窒素、リン、マグネシウムなどの硬度成分を含む原料が、本実施形態に係る有機性廃棄物6として好適に処理することができる。
【0025】
有機性廃棄物6中のCODCrは特に限定されるものではなく、500mg/L以上300,000mg/L以下の範囲の有機物濃度の原料に対して適用することができる。有機物濃度が比較的高濃度の場合には、原料成分の阻害を緩和するために適宜希釈することが好ましい。
【0026】
メタン発酵装置1は、嫌気性環境下で生存するメタン菌の代謝作用により有機性廃棄物6をメタンガスとして分解するための装置である。メタン発酵装置1では、30℃~40℃を至適温度とした中温メタン発酵処理槽、50℃~60℃を至適温度とした高温メタン発酵処理槽など、任意の温度範囲の嫌気性処理槽を制限無く用いることができる。メタン発酵装置1は1槽式でも良いし、多段式でも良い。また、酸発酵槽を別途設けても良い。メタン発酵の消化液は、メタン発酵菌の至適pH6.5~8.0以内に調整されることが望ましい。
【0027】
MAP晶析装置2は、MAP晶析装置2内の処理液中の溶解性のMAP構成元素をMAP晶析装置2内の粒子状MAPと接触させ、晶析させる装置のことをいう。MAP晶析装置2内には、有機性廃棄物6、メタン発酵後の消化液10、あるいは有機性廃棄物6を含むメタン発酵後の消化液10を供給することができる。MAP晶析装置2内に有機性廃棄物6を直接供給することにより、有機性廃棄物に溶解するMAP構成元素のリン、マグネシウム、アンモニアを晶析し、メタン発酵装置1内におけるMAP生成を抑制できる。また、MAP晶析装置2内にメタン発酵後の消化液10を供給する場合は、有機性廃棄物の分解によって生成されるアンモニア量が増加し、薬品等を投入することなく晶析するMAP量を増加できるという利点がある。MAP晶析装置2内に有機性廃棄物6とメタン発酵後の消化液10とを供給する場合は、晶析に適したpHの範囲にするための必要な薬品の添加量を抑制できる、あるいは、薬品添加を省略できるという利点がある。
【0028】
MAP晶析装置2においては必ずしもMAP粒子の晶析を促進させる必要はないが、晶析を促進させる場合は、MAP晶析装置2のpHを上昇させる方法が有効である。MAP粒子の晶析反応を促進させるための好ましいpHは8以上、例えば8~9であることから、MAP晶析装置2内のpHを0.5~1.0程度上昇させれば十分であるが、曝気処理や減圧処理などを併用すると、脱炭酸してpHが上昇し、より効率的にMAP粒子を析出させることができる。MAP晶析装置2内に水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等を添加してpHを上昇させてもよい。
【0029】
その他にMAPの晶析反応を促進させる方法として、マグネシウム源を添加しても良い。MAP晶析装置2に添加されるマグネシウム源としては、塩化マグネシウムのほか、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムを使用することができる。マグネシウム源の添加量は、消化液中の溶解性のオルトリン酸濃度に対し、モル比で0.1~10、好ましくは0.5~3.0、より好ましくは0.8~1.2である。反応におけるpHは、7.0~11.0が好ましく、好ましくは7.5~8.5、更に好ましくは7.3~8.3である。
【0030】
MAP晶析装置2においてMAP粒子を効率的に生成させるためには、MAP晶析装置2内に種晶を添加しておくことが好ましい。種晶としては、MAP晶析装置2で析出したMAP粒子、或いは別のリアクタで析出したMAP粒子を用いることができる。
【0031】
後述するMAP分離装置3で分離したMAP粒子を用いることもできる。この場合、MAP分離装置3で分離回収したMAPの晶析物を、返送管12によってMAP晶析装置2に返送することができる。
【0032】
このほか、リン鉱石やドロマイト、骨炭、活性炭、けい砂、珪酸カルシウム等の粉末或いは粒状物をMAP晶析装置2内に介在させる種晶として用いることができる。種晶の粒径は任意でよいが、好ましくは0.05~3.0mm、より好ましくは0.1~0.5mmがよい。種晶の表面で新たなMAPを析出させることで、後段のMAP分離装置3の固液分離効率が良好になる。
【0033】
種晶の表面で析出させるには、種晶の充填量が重要である。充填量は、リンの投入量と、種晶粒径を考慮し、種晶の表面積当たりのリン投入量(以下リン表面積負荷という)が、30g-P/m2/d以下、より好ましくは10g-P/m2/d以下とするのがよい。即ち、同一の粒径に対しては、MAP晶析装置2内に高濃度のMAPを維持すると、リアクタ容積を小さくすることが可能となり、イニシャルコストの低減を図ることができる。
【0034】
また、MAP晶析装置2においては、MAP晶析装置2で晶析処理された晶析処理液中のMAP構成物質のイオン積が、MAPの溶解度積との比で2.5以下、より好ましくは2以下、更には1以下となるように、MAP晶析装置2内のMAP粒子濃度を調整する。
【0035】
MAP粒子濃度の調整方法は任意であり、メタン発酵装置1へのリンの投入量を考慮して決定することができる。例えば、リン表面積負荷を考慮して、MAP晶析装置2内で処理された晶析処理液のMAP粒子濃度が1g/L以上となるように調整することが好ましく、より好ましくは10g/L以上となるように調整する。「MAP粒子濃度」とは、MAP晶析装置2内の液中に存在する粒径0.05mm以上のMAP粒子の質量濃度を意味し、例えば、目開き0.05 mmの篩で分離することによって評価することができる。また、上記添加量でマグネシウム源を添加し調整しても良い。
【0036】
MAP晶析装置2の装置形式は特に限定されることなく、機械式の撹拌装置を備えた完全混合型のリアクタ、ポンプを用いた噴流式撹拌リアクタ、種晶を高密度に充填した流動層型のリアクタ、ドラフトチューブを備えた内部循環型のリアクタ、外部循環型のリアクタ等を用いることができる。MAP晶析装置2内で処理された晶析処理液は配管11を介してMAP分離装置3へ供給される。
【0037】
MAP分離装置3としては、MAP粒子を選択的に分離回収できるような装置であればその形式は特に限定されないが、例えば、液体サイクロンを好適に用いることができる。液体サイクロンを配置することで、装置全体を小型化することができる。液体サイクロンは下部構造が逆円錐形となっており、側部に液体サイクロン流入管、下部に微粒子(晶析物)を含む濃縮液の排出管、上部に溢流上昇管が設けられている。
【0038】
液体サイクロンでは、図示しないポンプの圧送によって、MAP晶析装置2内の上部流体が供給され、液体サイクロンの内部の逆円錐形の壁面を旋回流を起こしながら下降し、比重の重いMAPの微粒子(晶析物)が、遠心力の働きでより下方の壁面側に集められて濃縮される。
【0039】
濃縮された微粒子を含む濃縮液(分離液)は下部の排出管から連続的に或いは間欠的に抜き出される。MAP分離装置3の排出管はMAP晶析装置2に接続されており、MAP分離装置3において分離された微粒子を含む濃縮液は、排出管に設けられた切替弁により、返送管12を介してMAP晶析装置2へ返送することができる。これにより、晶析処理液からより効率的にMAPを晶析させてリンを除去することができる。
【0040】
MAP分離装置3においてMAP粒子が分離されたMAP分離液は、薬剤添加装置4の薬品供給によりMAP生成能が低下した状態で、メタン発酵装置1に返送されるが、その返送に用いられる配管13は可能な限り、膜分離装置5に供給する配管7の入口の近傍に接続されることが好ましい。その他にMAP分離液をメタン発酵装置1に返送する方法としては、メタン発酵装置1の内部に隔壁を設けて、MAP分離液を返送する配管13と膜分離装置5への配管7とをそれぞれ隔壁の内部に設置する方法をとることもできる。あるいは、メタン発酵装置1を多段にして、MAP分離液の返送先を複数に切り分ける方法をとることもできる。
【0041】
薬剤添加装置4から供給される薬剤は、MAP分離装置3から得られるMAP分離液との接触時間を長くするために、MAP分離装置3の排出口の可能な限り近傍に供給されることが望ましい。
【0042】
薬剤添加装置4から供給される薬剤としては、pH低下剤あるいはリン除去剤あるいはその両方を含むことができる。pH低下剤としては、例えば、塩酸、硫酸などがある。リン低下剤としては、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化カルシウムなどがある。これらpH低下剤及びリン低下剤を両方、MAP分離液に加えても良い。
【0043】
これら薬剤をMAP分離液に所定量添加することにより、薬剤を添加したMAP分離液のpHが、MAP晶析装置2内の有機性廃棄物及び/又はメタン発酵後の消化液のpHに比べて0.1以上低下するように添加するか、あるいは、薬剤を添加したMAP分離液のオルトリン酸濃度が、MAP晶析装置内の有機性廃棄物及び/又はメタン発酵後の消化液のオルトリン酸濃度に対して0.1割以上低下するように薬剤を添加する。
【0044】
これにより、MAP生成能が低下したMAP分離液を膜分離装置5に供給することができるため、被処理水の水質変動に関係無くMAPの生成を抑制でき、膜分離装置5における膜の損傷又は閉塞を抑制しながらより経済的で安定的に処理することが可能となる。
【0045】
MAP分離液は配管7を介して膜分離装置5に供給され、膜分離装置5において、膜ろ過濃縮消化液と透過水とが得られる。膜分離装置5の分離膜の材質は特に限定されず、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの有機膜やセラミックの無機膜などを好適に用いることができる。膜形状は平膜、中空糸、チューブラ、スパイラル、モノリスなどを好適に用いることがえきる。膜分離装置5はメタン発酵装置1とは分離した槽外型であるのが好ましい。
【0046】
膜分離装置5の透過水量は、0.1m/d以上1.0m/d以下であり、0.1~0.5m/dとすることが好ましい。膜分離装置5で得られた膜ろ過濃縮消化液をメタン発酵装置1に返送する返送手段8は、原料比(体積比)に対して10~200程度の膜ろ過濃縮消化液を返送することが好ましく、より好ましくは30~100である。
【0047】
なお、メタン発酵装置1の汚泥濃度が高すぎる場合には、後段の膜分離装置のろ過膜に印加される圧力が増大するため、汚泥を引き抜いて(排泥処理)、膜分離装置5に送るMAP分離液の供給量を制御することが好ましい。この排泥処理は、メタン発酵装置1に汚泥引き抜きポンプ(図示せず)を接続させて行うことができる。メタン発酵装置1内の汚泥濃度は、活性汚泥浮遊物(MLSS)濃度が1000~60000mg/Lとなるように制御することで、膜分離装置5の膜の損傷又は閉塞を抑制しながら、より経済的で安定的に処理が可能となる。
【0048】
本発明の実施の形態に係る有機性廃棄物の処理方法及び処理装置によれば、MAP晶析処理を行ったMAP粒子を分離した後の分離液に薬剤を添加し、MAP生成性能が抑制された処理液を膜分離装置5に供給することができるため、膜閉塞の抑制による設備稼働時間の増大、必要膜面積の縮小化、MAP晶析抑制のための希釈水量の低減、メタン発酵施設の配管或いは槽内スケール除去頻度の低減、薬品コストの削減などの各種効果が期待できる。
【実施例
【0049】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0050】
(実施例1)
図1に示す有機性廃棄物6の処理装置において、MLSS:30000mg/Lのメタン発酵装置1(30L)を用いた。また、MAP晶析装置2(10L)に粒子状MAP100gを添加し、MAP晶析装置2内の液の粒子状MAP濃度を10g/Lとした。メタン発酵装置1内の消化液を1000mL/hでMAP晶析装置2に供給した後、MAP分離装置3であるサイクロンに供給して、消化液中のMAP粒子を分離した。サイクロンの処理液はメタン発酵装置1を介して膜分離装置5に供給し、膜分離装置5において濃縮された膜ろ過濃縮消化液はメタン発酵装置1へ返送した。膜分離装置5の膜は直径5.2mmの内圧式チューブラ膜を用いた。膜分離装置5の供給ラインには、薬剤添加装置4により、薬品の供給を行った。膜分離装置5の循環流路の出入り口および膜ろ過水の吸引ポンプの間には圧力計を設置し、膜間差圧を測定した。膜ろ過装置は7日間に一回の頻度で膜ろ過水を0.1MPaの圧力で逆洗を行った。
【0051】
タンパク質及び硬度成分を含む廃棄物原料(CODCr:111,000mg/L)をメタン発酵装置1に0.6L/d添加し、21日間の混合撹拌を行いメタン発酵処理した。試験期間において、膜ろ過ポンプにより透過水量0.2m/dで固液分離を行った。膜分離装置5の供給ラインには、MAP晶析処理後の消化液のオルトリン酸濃度が0.1割低下するように塩化第二鉄を45mg-Fe/L-原料の濃度で定量注入し、また、消化液のpHが0.1低下するよう塩酸を5mg/L-原料で定量注入した。
【0052】
(実施例2)
図1に示す有機性廃棄物6の処理装置において、実施例1の試験終了後から引き続き21日間、同量の有機性廃棄物6を添加したメタン発酵処理試験を行った。試験期間において、実施例1と同量の処理量でMAP晶析処理し、その消化液を膜分離装置5に供給し、膜ろ過ポンプにより同量の透過水量で固液分離を行った。膜分離装置5の供給ラインには、消化液のpHが0.1低下するよう塩酸を5mg/L-原料で定量注入した。
【0053】
(実施例3)
図1に示す有機性廃棄物6の処理装置において、実施例1と同様の処理条件で、タンパク質及び硬度成分を含む廃棄物原料(CODCr:111,000mg/L)をメタン発酵装置1に0.6L/d添加し、21日間の混合撹拌を行いメタン発酵処理を行った。実施例3においては、実施例1と同量の処理量でMAP晶析処理し、その消化液を膜分離装置5に供給し、膜ろ過ポンプにより同量の透過水量で固液分離を行った。膜分離装置5の供給ラインには、MAP晶析処理後の消化液のオルトリン酸濃度が0.1割低下するように塩化第二鉄を45mg-Fe/L-原料の濃度で定量注入した。
【0054】
(比較例1)
図1において薬剤添加装置4を利用しない態様、即ち、図2に示す有機性廃棄物6の処理装置を用いて試験を行った。なお、図1と共通する装置の処理条件は実施例1に記載した条件と同様である。比較例1では、実施例2の試験終了後から引き続き21日間、実施例1と同量の有機性廃棄物6を添加したメタン発酵処理試験を行った。試験期間において、実施例1と同量の処理量でMAP晶析処理し、その消化液を膜分離装置5に供給し、膜ろ過ポンプにより同量の透過水量で固液分離を行った。
【0055】
(比較例2)
図1においてMAP晶析装置2、MAP分離装置3、薬剤添加装置4を利用しない態様、即ち、図3に示す有機性廃棄物6の処理装置を用いて、試験を行った。図1の処理装置の構成と共通するメタン発酵装置1の処理条件は実施例1に記載した条件と同様である。膜分離装置5で用いた膜は、試験前に10wt%クエン酸に浸漬して洗浄を行った。
【0056】
比較例1の試験終了後から引き続き21日間、同量の有機性廃棄物6を添加したメタン発酵処理試験を行った。試験期間において、メタン発酵消化液を膜分離装置5に供給し、膜ろ過ポンプにより同量の透過水量で固液分離を行った。
【0057】
(比較例3)
図1に示す有機性廃棄物6の処理装置において、実施例3の試験終了後から引き続き21日間、実施例1と同量の処理量でMAP晶析処理し、その消化液を膜分離装置5に供給し、膜ろ過ポンプにより同量の透過水量で固液分離を行った。膜分離装置5の供給ラインには、MAP晶析処理後の消化液のオルトリン酸濃度が0.05割低下するように塩化第二鉄を22mg-Fe/L-原料の濃度で定量注入した。
【0058】
実施例1~3、比較例1~3の運転期間における膜間差圧の経時変化を図4に示す。また、試験期間の前後における膜間差圧の上昇値を表1に示す。比較例1~3はいずれも実施例1~3に比べて膜間差圧が上昇した。
【0059】
【表1】
【符号の説明】
【0060】
1…メタン発酵装置
2…MAP晶析装置
3…MAP分離装置
4…薬剤添加装置
5…膜分離装置
6…有機性廃棄物
7…配管
8…返送手段
9…透過水
10…メタン発酵後の消化液
11…配管
12…返送管
13…配管
図1
図2
図3
図4