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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】車両用灯具、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/20 20180101AFI20220706BHJP
   F21V 9/14 20060101ALI20220706BHJP
   F21V 9/40 20180101ALI20220706BHJP
   F21V 23/00 20150101ALI20220706BHJP
   F21S 41/64 20180101ALI20220706BHJP
【FI】
F21S41/20
F21V9/14
F21V9/40 400
F21V23/00 140
F21S41/64
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018099778
(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公開番号】P2019204711
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】大和田 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】高尾 義史
【審査官】上尾 敬彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-212210(JP,A)
【文献】特開2011-124110(JP,A)
【文献】特開2018-004673(JP,A)
【文献】特開2009-086672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/20
F21V 9/14
F21V 9/40
F21V 23/00
F21S 41/64
F21W 102/15
F21W 102/165
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方へ光照射するための車両用灯具であって、
光源と、
前記光源の光を集光する集光部材と、
前記集光部材により集光される前記光源の光のうち第1成分を第1方向へ進行させるとともに当該光源の光のうち第2成分を前記第1方向と交差する第2方向へ進行させる第1偏光素子と、
前記第1方向の光軸上において前記第1偏光素子の光出射側に配置される液晶素子と、
前記第1方向の光軸上において前記液晶素子の光出射側に配置される第2偏光素子と、
前記第1方向の光軸上において前記第2偏光素子の光出射側に配置され、前記液晶素子及び前記第2偏光素子を透過する前記光の第1成分を前記車両の前方へ投影する投影レンズと、
前記第1偏光素子により生じる前記光の第2成分を反射して前記車両の前方へ進行させる反射部材と、
を含み、
前記光の第1成分は、前記第1方向の光軸上における前記第1偏光素子と前記第2偏光素子との間で第1焦点を結び、前記光の第2成分は、前記第1偏光素子と前記反射部材との間で第2焦点を結び、
前記液晶素子は、前記第1焦点の位置に対応して配置され
前記反射部材によって反射された前記光の第2成分は、ロービームに相当する光の照射パターンを形成する、
車両用灯具。
【請求項2】
前記第1方向は、前記集光部材により集光された前記光源の光の進行方向と略平行な方向である、
請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記第1方向は、前記集光部材により集光された前記光源の光の進行方向と交差する方向である、
請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記第1偏光素子と前記液晶素子は、相互に密着せずに離間して配置され、
前記液晶素子と前記第2偏光素子は、相互に密着せずに離間して配置される、
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記投影レンズから出射する前記光の第1成分の偏光方向と前記反射部材から進行する前記光の第2成分の偏光方向とが互いに異なる、
請求項1~4の何れか1項に記載の車両用灯具。
【請求項6】
前記反射部材から進行する前記光の第2成分の偏光方向が前記車両の走行する路面に対して交差する方向である、
請求項に記載の車両用灯具。
【請求項7】
前記液晶素子は、光入射面が前記第1方向の光軸と略直交するように配置される、
請求項1~4の何れか1項に記載の車両用灯具。
【請求項8】
前記第1偏光素子と前記液晶素子の間に配置される第3偏光素子を更に含む、
請求項1~7の何れか1項に記載の車両用灯具。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載の車両用灯具と、
前記車両用灯具の前記光源及び前記液晶素子の動作を制御する制御装置と、
を含む、車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の前照灯として用いて好適な車両用灯具等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5418760号公報(特許文献1)には、光源部と、光源部からの照射光のうち、自己の偏光透過軸方向に振動する第1偏光成分については透過させ、自己の偏光透過軸方向以外の方向に振動する第2偏光成分については反射する第1反射偏光子と、第1偏光成分の光路中に配置され、当該第1偏光成分が透過する液晶素子と、液晶素子を透過した第1偏光成分の光路中に配置され、当該第1偏光成分が自己の偏光透過軸方向に振動する場合には当該第1偏光成分を透過させ、当該第1偏光成分が自己の偏光透過軸方向以外の方向に振動する場合には当該第1偏光成分を反射する第2反射偏光子と、第1反射偏光子によって反射された第2偏光成分を用いて基本配光パターンを形成する第1光学系と、第2反射偏光子によって反射された第1偏光成分を用いて基本配光パターンに付加される第1付加配光パターンを形成する第2光学系と、第2反射偏光子を透過した第1偏光成分を用いて基本配光パターンに付加される第2付加配光パターンを形成するための第3光学系を備える車両用灯具が記載されている。上記構成の車両用灯具によれば、機械的にロービーム(すれ違い灯)とハイビーム(走行灯)を切り替えることに起因する動作不良を防止することが可能となる。
【0003】
ところで、上記特許文献1に記載の車両用灯具は、光学部材の数が比較的多いという点で改良の余地がある。また、反射光を用いて配光パターンを形成する光学系が少なくとも2つ存在することから、光学設計が複雑になるという点でも改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5418760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、光学部材の数を削減可能であるとともに光学設計の複雑さを軽減可能な車両用灯具を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係る一態様の車両用灯具は、車両の前方へ光照射するための車両用灯具であって、(a)光源と、(b)前記光源の光を集光する集光部材と、(c)前記集光部材により集光される前記光源の光のうち第1成分を第1方向へ進行させるとともに当該光源の光のうち第2成分を前記第1方向と交差する第2方向へ進行させる第1偏光素子と、(d)前記第1方向の光軸上において前記第1偏光素子の光出射側に配置される液晶素子と、(e)前記第1方向の光軸上において前記液晶素子の光出射側に配置される第2偏光素子と、(f)前記第1方向の光軸上において前記第2偏光素子の光出射側に配置され、前記液晶素子及び前記第2偏光素子を透過する前記光の第1成分を前記車両の前方へ投影する投影レンズと、(g)前記第1偏光素子により生じる前記光の第2成分を反射して前記車両の前方へ進行させる反射部材と、を含み、(h)前記光の第1成分は、前記第1方向の光軸上における前記第1偏光素子と前記第2偏光素子との間で第1焦点を結び、前記光の第2成分は、前記第1偏光素子と前記反射部材との間で第2焦点を結び、(i)前記液晶素子は、前記第1焦点の位置に対応して配置され、(j)前記反射部材によって反射された前記光の第2成分は、ロービームに相当する光の照射パターンを形成する、車両用灯具である。
[2]本発明に係る一態様の車両用灯具システムは、上記の車両用灯具と、この車両用灯具の光源及び液晶素子の動作を制御する制御装置とを含む車両用灯具システムである。
【0007】
上記構成によれば、光学部材の数を削減可能であるとともに光学設計の複雑さを軽減可能な車両用灯具等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図2図2は、液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。
図3図3は、車両用灯具システムによって車両前方に形成される照射パターンの一例を模式的に示す図である。
図4図4は、変形例の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図5図5は、変形例の車両用灯具システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図1に示す車両用灯具システムは、光源1、リフレクタ(集光部材)2、偏光ビームスプリッタ(第1偏光素子)3、液晶素子4、偏光板(第2偏光素子)5、投影レンズ6、リフレクタ(反射部材)7、投影レンズ8、カメラ10、制御部11、光源駆動部12、液晶素子駆動部13を含んで構成されている。この車両用灯具システムは、カメラ10によって撮影される画像に基づいて自車両の周囲に存在する前方車両や歩行者等の位置を検出し、検出結果に基づいて前方車両等の位置を含む一定範囲を非照射範囲に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うためのものである。
【0010】
光源1は、例えば青色光を放出する発光素子(LED)に黄色蛍光体を組み合わせて構成された白色光LEDを含んで構成されている。光源1は、例えば、マトリクス状あるいはライン状に配列された複数の白色光LEDを備える。なお、光源1としてはLEDのほかに、レーザー、さらには電球や放電灯など車両用ランプユニットに一般的に使用されている光源が使用可能である。光源1の点消灯状態は、制御部11および光源駆動部12により制御される。本実施形態では、光源1は、出射する光がリフレクタ2へ入射するように配置されている。
【0011】
リフレクタ2は、光源1から出射する光を偏光ビームスプリッタ3の存在する方向へ反射させて図中のx方向と平行な光軸L1に沿って偏光ビームスプリッタ3へ向けて直進させるとともに、この光が光軸L1上において焦点P1を結ぶように集光する。なお、図1において、例えばx方向が車両前後方向に対応し、図示のy方向が車両左右方向もしくは車両上下方向に対応している。このリフレクタ2の具体的構造については特に限定がないが、例えば樹脂やガラスなどの基材表面にアルミニウムや銀合金などの金属からなる反射膜を形成したものが好適に用いられる。反射状態としては鏡面反射が望ましい。そのため、基材表面はできるだけ平滑であることが好ましい。
【0012】
偏光ビームスプリッタ3は、入射する光のうち特定方向の偏光成分を透過させるとともに、それ以外の方向の偏光成分を反射させるものである。偏光ビームスプリッタ3によって反射された偏光成分は、図中のy軸と平行な光軸L2に沿ってリフレクタ7へ向かって直進し、かつこの光軸L2上において焦点P2を結ぶ。図示のように偏光ビームスプリッタ3は、板状体であり、光軸L1上において、その入射面(光源1と対向する面)が光軸L1に対して斜交するように配置されている。図示の例では偏光ビームスプリッタ3は、光軸L1に対して略45°の角度をなして配置されている。このような偏光ビームスプリッタ3としては、例えばワイヤーグリッド型偏光板や光学多層膜による反射型偏光板などを用いることができる。なお、ワイヤーグリッド型偏光板とはアルミニウム等の金属による極細線を一方向に多数配列してなる偏光板である。
【0013】
液晶素子4は、例えば、それぞれ個別に制御可能な複数の画素領域(光制御領域)を有しており、液晶素子駆動部13によって与えられる液晶層への印加電圧の大きさに応じて各画素領域の液晶層における液晶分子の配向状態が可変に制御される。この液晶素子4に光源1からの光のうち偏光ビームスプリッタ3を透過した偏光成分(光の第1成分)が入射し、透過することにより、上記した光照射範囲と非照射範囲に対応した明暗や色相を有する像が形成される。図示のように液晶素子4は、光軸L1上において偏光ビームスプリッタ3の光出射側に配置され、かつ液晶層の位置が焦点P1に対応するように配置されている。また、図示のように液晶素子4は、偏光ビームスプリッタ3、偏光板5のいずれとも接しておらず、両者との間に隙間を有して離間して配置されていることが好ましい。また、図示のように液晶素子4は、偏光ビームスプリッタ3と対向する側の面である光入射面が光軸L1と略直交するように配置されることが好ましい。また、液晶素子4は、例えば電圧無印加時に液晶層の液晶分子が略垂直に配向するものが用いられている。
【0014】
偏光板5は、例えば一般的な有機材料(ヨウ素系、染料系)からなる吸収型偏光板または無機材料からなるワイヤーグリッド偏光板(吸収型もしくは反射型)であり、光軸L1上において液晶素子4の光出射側に配置されている。この偏光板5は、上記の偏光ビームスプリッタ3と互いに偏光軸が略直交するように配置されている。
【0015】
投影レンズ6は、液晶素子4を透過する光によって形成される像(光照射範囲と非照射範囲に対応した明暗ないし色相を有する像)をヘッドライト用配光になるように広げて自車両の前方へ投影するものであり、例えば反転投影型のプロジェクターレンズが用いられる。投影レンズ6は、光軸L1上において偏光板5の光出射側に配置されており、かつその焦点が上記した焦点P1に対応するように配置される。なお、投影レンズ6の焦点の位置を焦点P1から少しずらすように配置して、投影像が鮮明になりすぎないようにしてもよい。また、投影レンズ6に対してイメージシフタを付与してもよい。ここでいうイメージシフタとは、複数のプリズムを用いる等により、投影像を上下方向および左右方向に広げるものという(例えば特開2017-4661号公報参照)。投影レンズ6の開口数NAについては、投影レンズ6の中心軸に対して最も傾斜して入射する光が中心軸となす角度をθとすると、NA=sinθと表せる(後述の投影レンズ8においても同様)。
【0016】
リフレクタ7は、偏光ビームスプリッタ3によって反射される偏光成分(光の第2成分)が入射すると、この偏光成分を反射して投影レンズ8へ導く。図示のように、偏光ビームスプリッタ3によって反射される偏光成分は、その光軸L2上であって偏光ビームスプリッタ3とリフレクタ7の間の所定位置で焦点P2を結ぶ。このため、リフレクタ7は、焦点P2の位置を仮想的な光源の位置とみなして設計することが可能となり、リフレクタ7に関する光学設計が容易になる。このリフレクタ7の具体的構造については特に限定がないが、例えば樹脂やガラスなどの基材表面にアルミニウムや銀合金などの金属からなる反射膜を形成したものが好適に用いられる。反射状態としては鏡面反射が望ましい。そのため、基材表面はできるだけ平滑であることが好ましい。
【0017】
投影レンズ8は、リフレクタ7により反射される光成分を集光し、ヘッドライト用配光になるように広げて自車両の前方へ投影するものであり、適宜設計されたレンズが用いられる。なお、この投影レンズ8は省略されてもよい。すなわち、リフレクタ7により反射される光成分がそのまま車両前方へ照射されてもよい。
【0018】
カメラ10は、自車両の前方を撮影してその画像(情報)を出力するものであり、自車両内の所定位置(例えば、フロントガラス内側上部)に配置されている。なお、他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが自車両に備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0019】
制御部11は、自車両の前方空間を撮影するカメラ10によって得られる画像に基づいて画像処理を行うことによって、前方空間に存在する前方車両や歩行者等(対象体)の位置を検出し、検出された前方車両等の位置を非照射範囲とし、それ以外の領域を光照射範囲とした配光パターンを設定し、この配光パターンに対応した像を形成するための制御信号を生成して液晶素子駆動部13へ供給する。また、制御部11は、光源1の動作を制御するための制御信号を生成して光源駆動部12へ供給する。この制御部11は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。
【0020】
光源駆動部12は、制御部11から供給される制御信号に基づいて光源1を駆動するための駆動電圧を供給することにより、光源1の動作を制御するものである。
【0021】
液晶素子駆動部13は、制御部11から供給される制御信号に基づいて液晶素子4を駆動するための駆動電圧を供給することにより、液晶素子4の各画素領域における液晶層の配向状態を個別に制御するものである。
【0022】
なお、図1に示す車両用灯具システムにおいて、光源1、リフレクタ2、偏光ビームスプリッタ3、液晶素子4、偏光板5、投影レンズ6、リフレクタ7および投影レンズ8を含んで「車両用灯具」が構成されており、これらは例えば図示しない筐体に収容されて車両の前部に設置される。また、カメラ10、制御部11、光源駆動部12、液晶素子駆動部13を含んで「制御装置」が構成されている。
【0023】
本実施形態の車両用灯具システムは、車両用灯具における光利用効率を比較的高くできるという利点がある。具体的には、光源1から出射する光のうち40%程度が偏光ビームスプリッタ3を透過して液晶素子4へ入射し、液晶素子4を透過して偏光板5を透過した際に5%程度の損失が生じ、光源1から出射する光のうち35%程度の光が投影レンズ6へ入射し、車両前方へ投影される。また、光源1から出射する光のうち40%程度は偏光ビームスプリッタ3によって反射されてリフレクタ7へ入射し、反射の際に4%程度の損失が生じ、光源1から出射する光のうち36%程度が投影レンズ8へ入射し、車両前方へ投影される。従って、全体では光源1から出射する光の71%程度を利用することができる。また、万一、液晶素子4等に故障を生じるなどで投影レンズ6からの出射光が得られない状態となった場合でも、光源1が動作している限り、投影レンズ8からの出射光は得られる。同様に、周辺環境が極低温である場合において、特に車両始動時に液晶素子4の動作速度が低下して投影レンズ6からの出射光が得にくい状態となっている間も、投影レンズ8からの出射光は確実に得られる。
【0024】
図2は、液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。液晶素子4は、対向配置された第1基板21および第2基板22、第1基板21に設けられた対向電極(共通電極)23、第2基板22に設けられた複数の画素電極(個別電極)24、第1基板21と第2基板22の間に配置された液晶層27を主に含んで構成されている。
【0025】
第1基板21および第2基板22は、それぞれ、平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。第1基板21と第2基板22の間には、例えば多数のスペーサーが均一に分散配置されており、それらスペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。スペーサーとしては、乾式散布機によって散布可能なプラスチックボールを用いてもよいし、樹脂材料などにより基板上に予め設けられる柱状体を用いてもよい。
【0026】
対向電極(共通電極)23は、第1基板21の一面側に設けられている。この対向電極23は、第2基板22の各画素電極24と対向するようにして一体に設けられている。対向電極13は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0027】
複数の画素電極(個別電極)24は、第2基板22の一面側に設けられている。これらの画素電極24は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各画素電極24は、例えば平面視において矩形状の外縁形状を有しており、x方向およびy方向に沿ってマトリクス状に配列されている。上記の対向電極23と各画素電極24との重なる領域のそれぞれが上記した画素領域(光制御領域)を構成する。
【0028】
第1配向膜25は、第1基板21の一面側において対向電極23を覆うようにして設けられている。同様に、第2配向膜26は、第2基板22の一面側において各画素電極24を覆うようにして設けられている。これらの第1配向膜25、第2配向膜26は、液晶層27の液晶分子の配向方向を規制するためのものである。例えば、各配向膜25、26としては、液晶層27の配向状態を垂直配向に規制する垂直配向膜が用いられる。各配向膜にはラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向へ液晶層27の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。
【0029】
液晶層27は、第1基板21と第2基板22の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負であり、等方相への相転移温度が高く(例えば130℃)、カイラル材を含まず、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層27が構成される。本実施形態の液晶層27は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が一方向に傾斜した一軸配向状態となり、各基板面に対して、例えば88°以上90°未満の範囲内のプレティルト角を有して略垂直配向となるように設定されている。
【0030】
本実施形態の液晶素子4は、対向電極23と各画素電極24とが平面視において重なる領域の各々として画定される領域である画素領域を数十~数百個有しており、これらの画素領域はマトリクス状に配列されている。本実施形態において各画素領域の形状は例えば正方形状に構成されているが、長方形状と正方形状を混在させるなど各画素領域の形状は任意に設定することができる。また、画素領域はマトリクス状に配列されているが、マトリクス状に配列されていなくてもよい。対向電極23、各画素電極24は、図示しない配線部を介して液晶素子駆動部13と接続されており、例えばスタティック駆動される。その際の印加電圧は、例えば100Hz~1kHz程度の方形波電圧が用いられ、電圧範囲は例えば0~50Vである。
【0031】
図3は、車両用灯具システムによって車両前方に形成される照射パターンの一例を模式的に示す図である。図3では、車両前方の数十メートル先における仮想スクリーンにおける照射パターン(投影像)が模式的に示されている。図中において、上下左右にそれぞれ沿ってマトリクス状に配列された複数の矩形状領域を含む照射パターン100aがハイビームに相当する光の照射パターンである。この照射パターン100aは、偏光ビームスプリッタ3を透過した光成分が液晶素子4および偏光板5を透過して投影レンズ6によって車両前方へ投影されることによって形成される。照射パターン100aに含まれる各矩形状領域は、液晶素子4によって個別に透過光の光量を制御可能な個別配光領域であり、本例では液晶素子4の各画素領域と一対一に対応している。また、照射パターン100aの図中下側に配置されている横長の照射パターン100bは、ロービームに相当する光の照射パターンである。この照射パターン100bは、偏光ビームスプリッタ3により反射された光成分がリフレクタ7によってさらに反射されて投影レンズ8によって車両前方へ投影されることによって形成される。
【0032】
また、図3に示すように、ハイビームに相当する照射パターン100aは、直線偏光であり、その偏光方向100cが路面に対して交差しない方向(横方向)である。これに対して、ロービームに相当する照射パターン100dは、直線偏光であり、その偏光方向100dが路面に対して交差する方向(縦方向)である。すなわち、ハイビームに相当する照射パターン100aとロービームに相当する照射パターン100bとは、各々直線偏光であって互いの偏光方向が相違している。また、ロービームの照射パターン100bの偏光方向100dが路面に対して縦方向であるため、雨天時などにおける路面反射を低減することが可能であり、対向車両や歩行者などへのグレアを抑えることができる。なお、照射パターン100bは、図示の偏光方向100dとほぼ同方向に長軸を有する楕円偏光となる場合もある。
【0033】
以上のような実施形態によれば、光学部材の数を削減可能であるとともに光学設計の複雑さを軽減可能な車両用灯具並びにこれを備える車両用灯具システムが得られる。具体的には、上記実施形態の車両用灯具において、反射光を用いる光学系は、偏光ビームスプリッタ3とリフレクタ7を含む光学系の1つだけである。そして、他の光学系については、光源1およびリフレクタ2によって生成された光が光軸L1に沿って常に直進して偏光ビームスプリッタ3、液晶素子4、偏光板5および投影レンズ6を透過するという構成である。このため、部品点数が削減可能であり、かつ反射光を用いる光学系が少ないことから光学設計が容易になる。
【0034】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0035】
図4は、変形例の車両用灯具システムの構成を示す図である。例えば、図4に例示するように、車両用灯具において、偏光ビームスプリッタ3と液晶素子4との間に偏光板(第3偏光素子)9をさらに設けてもよい。このように偏光板9を設けることで、偏光ビームスプリッタ3の偏光度が不十分であった場合にもそれを補うことができる。この場合、偏光板9の偏光軸と偏光ビームスプリッタ3を出射する光成分(第1成分)の偏光方向を概ね同じ方向に合わせることができるため、偏光板9はそれほど光を吸収しない。従って、低コストの有機材料(ヨウ素系、染料系)からなる吸収型偏光板を用いることができる。なお、偏光板9としてワイヤーグリッド型偏光板や光学多層膜による反射型偏光板などを用いてもよい。また、偏光板9を偏光ビームスプリッタ3と同様に傾斜させてもよく、それにより一部の光をリフレクタ7に向けて反射させることができる。
【0036】
図5は、変形例の車両用灯具システムの構成を示す図である。上記した実施形態では偏光ビームスプリッタ3を透過する光を液晶素子4へ入射させ、偏光ビームスプリッタ3によって反射される光をリフレクタ7へ入射させていたがこれらの関係を逆にしてもよい。具体的には、図5に例示する車両用灯具システムでは、偏光ビームスプリッタ3によって反射された偏光成分は、図中のx軸と平行な光軸に沿って液晶素子4へ向かって直進し、液晶素子4の液晶層の位置で焦点P1を形成する。偏光ビームスプリッタ3は、光源1から入射する光の光軸L1に対して略45°の角度をなして配置されている。また、偏光ビームスプリッタ3を透過した偏光成分は、図中のy軸と平行な光軸L2に沿ってリフレクタ7へ向かって直進し、偏光ビームスプリッタ3とリフレクタ7の間で焦点P2を形成し、リフレクタ7によって反射されて投影レンズ8へ入射する。このような構成によっても、光学部材の数を削減可能であるとともに光学設計の複雑さを軽減可能な車両用灯具並びにこれを備える車両用灯具システムが得られる。
【0037】
また、上記した実施形態では、第1偏光素子の一例として偏光ビームスプリッタ等を挙げていたが第1偏光素子はこれらに限定されない。例えば、入射する光の一部成分を透過させて一部成分を反射するミラー(いわゆるハーフミラー)と偏光板を組み合わせて第1偏光素子を構成してもよい。この場合には、ハーフミラーが光源1に近い側に配置され、偏光板は液晶素子に近い側に配置されることが好ましい。
【0038】
また、上記した実施形態では、光源1からの光を集光して焦点P1を結ばせる集光部材の一例としてリフレクタ2を挙げていたが、集光部材はこれに限定されない。例えば、適宜設計された集光レンズを用いてもよいし、このような集光レンズとリフレクタを組み合わせて用いてもよい。
【0039】
また、上記した実施形態の車両用灯具において、偏光ビームスプリッタ3と液晶素子4の間や液晶素子4と偏光板5の間に光学補償板を設けて視角補償を図ってもよい。この場合の光学補償板としては、例えば1/4波長板や1/2波長板を用いることができる。各波長板については、ポリカーボネートやシクロオレフィンなどの有機材料を用いたものでもよいし、水晶や金属酸化膜などの無機材料を用いたものでもよい。水晶を用いる場合には、厚さの異なる複数の水晶を位相方向が異なるように重ねることで所望の位相差を得ることができる。無機材料を用いた光学補償板は耐熱性に優れるため車両用灯具としての用途には好ましい。有機材料を用いた光学補償板の場合には、偏光ビームスプリッタ3や偏光板5とは密着させずに離間させることが好ましい。光学補償板は液晶素子4の第1基板または第2基板の何れかまたは双方の外側に貼り合わせてもよい。
【0040】
また、上記した実施形態では、液晶素子の一例として垂直配向モードを用いるものを挙げていたが、液晶素子はこれに限定されない。液晶素子としては、例えば、ねじれ配向モードを用いるもの(TN型)、超ねじれ配向モードを用いるもの(STN型)、水平スイッチングモードを用いるもの(IPS型)など種々のものを採用することができる。また、液晶素子の駆動方式についても上記実施形態において例示したスタティック駆動方式に限定されず、例えば薄膜トランジスタ等を用いたアクティブマトリクス駆動方式や、マルチプレックス駆動方式など種々のものを採用することができる。
【0041】
また、上記した実施形態では車両前方への選択的な光照射を行うための車両用灯具システムを例示していたが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、車両の姿勢に応じて光軸方向を調整するオートレベリング機能、車両のカーブ時の進行方向へ光照射するAFS機能など、種々の用途に対応した車両用灯具システムに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:光源、2:リフレクタ(集光部材)、3:偏光ビームスプリッタ(第1偏光素子)、4:液晶素子、5:偏光板(第2偏光素子)、6:投影レンズ、7:リフレクタ(反射部材)、8:投影レンズ、9:偏光板(第3偏光素子)、10、カメラ、11:制御部、12:光源駆動部、13:液晶素子駆動部、100a、100b:配光パターン、P1、P2:焦点、L1、L2:光軸
図1
図2
図3
図4
図5