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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/231 20110101AFI20220706BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20220706BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018119021
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019218013
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 浩
(72)【発明者】
【氏名】横田 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】岡田 典久
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸一
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222072(JP,A)
【文献】特開2013-082418(JP,A)
【文献】特開2003-220917(JP,A)
【文献】特開2012-111259(JP,A)
【文献】特開平11-091471(JP,A)
【文献】特開2010-163152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータと、
前記インフレータから供給されるガスにより展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、
座席の背面側に展開する後方膨張部と、前記後方膨張部の座席幅方向両側から前方に延びる一対の側方膨張部と、前記一対の側方膨張部から中央側へ延び中央で相互に連結されて乗員の前方を覆う一対の前方膨張部と、を有し、
前記エアバッグは、前記後方膨張部、前記側方膨張部、前記前方膨張部の順でガス流路が形成され
前記側方膨張部は、前記乗員の上方を覆わず、かつ、前記乗員の頭部の側方を覆うように配置され、
前記一対の側方膨張部は、前方側端部にて前記座席幅方向かつ前記中央側に略直角に屈曲する前方屈曲部を介して前記一対の前方膨張部に接続され、
前記前方膨張部が、前記一対の側方膨張部から前記中央側へ延び中央で相互に連結されて前記乗員の前方を覆う一対の拘束部と、前記一対の拘束部から前方かつ左右外側へそれぞれ延び、前記拘束部の前面を覆う一対のエネルギ吸収(EA)部と、を有し、
前記一対の前方膨張部の外側端部は、前記前方屈曲部より前方側に配置される先端接合部によって前記一対の側方膨張部と接合され、これにより、前記拘束部と前記EA部との間に空間が形成される、
エアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグは、
前記後方膨張部に前記インフレータからのガスが供給され、
前記後方膨張部が前記側方膨張部及び前記前方膨張部より先に展開される、
請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグが、
前記一対のEA部の先端からさらに前記側方膨張部の方向へ延びる一対の第2EA部を有し、
前記一対の第2EA部は、前記先端接合部によって前記一対の側方膨張部と接合され、これにより、前記拘束部と前記EA部と前記第2EA部の間に前記空間が形成される、
請求項1または2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
シートバックまたはヘッドレストに配置され、前記インフレータによりガスが供給される前の非作動時の前記エアバッグを収容する収容部を備える、
請求項1~のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記収容部に収容される状態の前記エアバッグは、展開時の前記前方膨張部側から前記側方膨張部側へ巻くようにロール状に折り畳まれた状態で前記収容部に収容されるロール折り部と、展開時の前記後方膨張部を蛇腹状に折り畳み前記ロール折り部より上方に収容される蛇腹折り部とを含む、
請求項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の座席のヘッドレストやシートバックからエアバッグを展開して、このエアバッグにより座席に着座している乗員の頭部の全方位を保護する手法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-100688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ヘッドレストやシートバックからエアバッグを展開する構成では、頭部前方にエアバッグを展開するためにヘッドレストや乗員の頭部を越える必要があり、エアバッグがうまく展開できない場合がある。
【0005】
本開示は、エアバッグを安定して展開できるエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るエアバッグ装置は、インフレータと、前記インフレータから供給されるガスにより展開するエアバッグと、を備え、前記エアバッグは、シートの背面側に展開する後方膨張部と、前記後方膨張部のシート幅方向両側から前方に延びる一対の側方膨張部と、前記一対の側方膨張部から中央側へ延び中央で相互に連結されて乗員の前方を覆う一対の前方膨張部と、を有し、前記エアバッグは、前記後方膨張部、前記側方膨張部、前記前方膨張部の順でガス流路が形成され、前記側方膨張部は、前記乗員の上方を覆わず、かつ、前記乗員の頭部の側方を覆うように配置され、前記一対の側方膨張部は、前方側端部にて前記座席幅方向かつ前記中央側に略直角に屈曲する前方屈曲部を介して前記一対の前方膨張部に接続され、前記前方膨張部が、前記一対の側方膨張部から中央側へ延び中央で相互に連結されて前記乗員の前方を覆う一対の拘束部と、前記一対の拘束部から前方かつ左右外側へそれぞれ延び、前記拘束部の前面を覆う一対のエネルギ吸収(EA)部と、を有し、前記一対の前方膨張部の外側端部は、前記前方屈曲部より前方側に配置される先端接合部によって前記一対の側方膨張部と接合され、これにより、前記拘束部と前記EA部との間に空間が形成される
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、エアバッグを安定して展開できるエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグ展開時の斜視図である。
図2図1に示すエアバッグ装置の側面図である。
図3図1に示すエアバッグ装置の正面図である。
図4図1~3中のエアバッグの平面視の概略構成を示す模式図である。
図5】エアバッグを構成するアウターパネルの平面図である。
図6】エアバッグを構成するインナーパネルの平面図である。
図7】エアバッグを構成する補強パッチの平面図である。
図8】エアバッグを構成する基布パイプの平面図である。
図9】実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグ収納時の側面図である。
図10図9中の収容部近傍の拡大図である。
図11】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第1段階を示す図である。
図12】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第2段階を示す図である。
図13】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第3段階を示す図である。
図14】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第4段階を示す図である。
図15】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第5段階を示す図である。
図16】第1変形例に係るエアバッグの平面視の概略構成を示す模式図である。
図17】第2変形例に係るエアバッグの平面視の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
なお、以下の説明において、各図面で示すx方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。x方向は車両の前後方向であり、x正方向側が車両前方、x負方向側が車両後方である。y方向は車両の幅方向であり、y正方向側が車両右側、y負方向側が車両左側である。z方向は上下方向であり、z正方向側が上方、z負方向側が下方である。
【0011】
図1図4を参照して、実施形態に係るエアバッグ装置10の構成を説明する。図1は、実施形態に係るエアバッグ装置10のエアバッグ展開時の斜視図である。図2は、図1に示すエアバッグ装置10の側面図である。図3は、図1に示すエアバッグ装置10の正面図である。図4は、図1~3中のエアバッグ20の平面視の概略構成を示す模式図である。
【0012】
図1図3に示すように、エアバッグ装置10は車両の座席60に搭載される。座席60は、乗員Dが着座する座部61と、座部61の後端に下端が連結されたシートバック62と、シートバック62の上端に設けられたヘッドレスト63とを含んで構成される。シートバック62の内部にはフレーム64が配置されている。なお、図1図3には図示を省略しているが、座席60にはシートベルト、タング、バックル、リトラクタなど、車両用シートに搭載される一般的な要素も設置されている。
【0013】
また、図3に示すように、本実施形態ではエアバッグ装置10が搭載される座席60として車両右側の前部座席を例示する。この場合、y正方向側が車両外側、y負方向側が車両内側となる。
【0014】
エアバッグ装置10は、座席60に乗員Dが着座した状態で、展開したエアバッグ20によって乗員Dを前後左右の全方向の衝突から保護する。エアバッグ20は、座席60のヘッドレスト63と、座席60に着座している乗員Dの頭部Hの周囲を覆い、上方と下方が開口する筒状に形成されている。
【0015】
図1図4では、保護すべき乗員Dのモデルとして衝突試験用のダミー人形が座席60の座部61に着座した状態を示している。ダミー人形は、例えばWorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミー人形は、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢(正規の状態)で着座しており、座席60は、当該着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。ダミー人形の頭部Hは、顔面を車両前方(座席60の前方側)へ向けている。
【0016】
エアバッグ装置10は、エアバッグ20と、インフレータ30と、収容部40とを備える。インフレータ30及び収容部40については図9図10を参照して後述する。
【0017】
エアバッグ20は、乗員Dの頭部Hを前方及び左右両側方から覆うように膨張展開される筒状の一体の袋体として構成されている。より詳細には、エアバッグ20は、後方膨張部21、一対の側方膨張部22A,22B、一対の前方膨張部23A,23Bを有する。
【0018】
後方膨張部21は、図1,2、4に示すように、ヘッドレスト63より後方の位置で、ヘッドレスト63やシートバック62と対向するよう展開する。後方膨張部21は、図4に示すように、y方向両側の端部にて、後方屈曲部74A、74Bを介して一対の側方膨張部22A,22Bの後方側端部に接続されている。後方屈曲部74A、74Bはx正方向側に略直角に屈曲して、図1,2,4に示すように、一対の側方膨張部22A,22Bを後方膨張部21から前方へ延在させる。
【0019】
一対の側方膨張部22A,22Bは、乗員Dの頭部Hの左右にそれぞれ配置される。一対の側方膨張部22A,22Bは、後方側に対して前方側のほうが上下方向の寸法が長く、かつ、下方側により長く形成される。前方側の長さは、前方膨張部23A、23Bの上下方向寸法と略同一である。
【0020】
また、一対の側方膨張部22A,22Bの上部には、他の部分より上方に突出する頭頂部29A、29Bがそれぞれ設けられる。頭頂部29A,29Bは、車室の天井と接触可能な高さで形成される。例えば図3に示すように、車室内の天井位置は車両外側に比べて車両中央側が高い場合が多いが、このような場合、天井の形状に合わせて車両外側の頭頂部29Aの高さを車両中央側の頭頂部29Bより低く形成する。これにより、頭頂部29A,29Bと天井との接触量を調整して略同等にでき、エアバッグ20の展開挙動の安定化を図ることができる。
【0021】
一対の側方膨張部22A,22Bは、前方側端部にて前方屈曲部75A、75Bを介して一対の前方膨張部23A、23Bに接続されている。前方屈曲部75A、75Bはy方向かつ中心側に略直角に屈曲して、図1、3、4に示すように、一対の前方膨張部23A,23Bを乗員Dの頭部Hの前方を覆うように中央側へ延在させる。一対の前方膨張部23A,23Bは、y方向の略中央位置にて中央接合部76によってz方向に沿って相互に接合され、これにより乗員Dの頭部Hの前方に並んで配置され、頭部Hの前方を完全に塞ぐことができる。また、一対の前方膨張部23A、23Bは、x方向から視たときに略矩形状に形成され、乗員Dの頭部Hの正面全体をカバーできる程度の幅方向及び上下方向の寸法がとられている。
【0022】
このようにエアバッグ20は、中央接合部76によって、一体的な袋体の両端が接合縫いで接合されることで、乗員Dの頭部Hの前後方向、左右方向の全方位を囲んだドーナツ状に形成されている。
【0023】
また、前方膨張部23A,23Bは、中央接合部76を幅方向中央に配置することにより、乗員D側から視たときに前方膨張部23A,23Bのy方向の略中央部に前方に窪んだ前方凹部27が形成されている。前方凹部27は、中央接合部76の範囲に亘りz方向に延在する。前方膨張部23A,23Bの内表面に前方凹部27があることによって、頭部Hに対する前方膨張部23A,23Bの内表面の接触面が広くなり、また、対向角度も多様となるので、車両前方側でエアバッグ20が衝撃吸収可能な方位を増やすことができ、乗員Dをより幅広い方向の衝突から保護できる。
【0024】
前方膨張部23A、23Bの上端位置は、乗員Dの頭部Hの頭頂部より上方となればよい。また、その下端位置は、本実施形態では乗員Dの胸部を覆う位置となるように設けられているが、少なくとも乗員Dの頭部Hをカバーできる程度の位置でもよく、図1図3に示す本実施形態の寸法より短くてもよい。
【0025】
図1図4に示すように、一対の前方膨張部23A,23Bは、拘束部24A,24B及びエネルギ吸収(Energy Absorption:EA)部25A,25Bを有する。拘束部24A,24Bは、それぞれ一対の側方膨張部22A,22Bから中央側に屈曲して延在する。EA部25A,25Bは、拘束部24A,24Bの中央側端部に接続され、中央部からy方向両側の前方屈曲部75A、75B側へと延在して、これにより拘束部24A,24Bの前方側に重ねて配置される。また、EA部25A、25Bの外側端部は、一対の側方膨張部22A,22Bの前方側端部に設けられる先端接合部77A、77Bによって、一対の側方膨張部22A,22Bと接合される。これにより、一対のEA部25A,25Bが拘束部24A、24Bの前方にてy方向に並んで配置され、かつ、拘束部24A,24Bと平行に配置されて、拘束部24A,24BとEA部25A、25Bとが乗員Dの頭部Hの前方に二重に配置される。
【0026】
前方膨張部23A,23Bの拘束部24A,24Bは、乗員Dの頭部Hの正面に配置されて、衝突時に頭部Hの正面側を保護するよう機能する。EA部25A、25Bは、座席前方のハンドル等にエアバッグ20が衝突するなどの二次衝突が発生した場合に、エアバッグ20の拘束部24A、24B側にかかる荷重を制限して乗員にかかるエネルギを吸収緩和するよう機能する。
【0027】
エアバッグ20は、後方膨張部21のインフレータ挿入口26にインフレータ30が取り付けられて、インフレータ30からのガスが供給される。エアバッグ20は、後方膨張部21から一方の側方膨張部22A、一方の拘束部24A、一方のEA部25Aの順でガス流路が形成され、また、後方膨張部21から他方の側方膨張部22B、他方の拘束部24B、他方のEA部25Bの順でガス流路が形成される。
【0028】
図5は、エアバッグ20を構成するアウターパネル51の平面図である。図6は、エアバッグ20を構成するインナーパネル52の平面図である。図7は、エアバッグ20を構成する補強パッチ53の平面図である。図8は、エアバッグ20を構成する基布パイプ54の平面図である。図5図9は、エアバッグ20を構成する各部を分解した図である。図5図9に示すように、エアバッグ20は、アウターパネル51、インナーパネル52、補強パッチ53、基布パイプ54と、を備えて構成される。
【0029】
アウターパネル51とインナーパネル52とは、重ね合せられて周縁部の外周縫製ライン56に沿って縫製されることによって、一体的な袋体を形成する。アウターパネル51とインナーパネル52は、中央に後方膨張部21の部分、その両側に一対の側方膨張部22A、22Bの部分、さらに両側に一対の前方膨張部23A、23Bの拘束部24A、24B、そのさらに外側にEA部25A、25Bの部分が配置される。図4に示すように、アウターパネル51はエアバッグ20展開時に外側に向く外表面を形成し、インナーパネル52はエアバッグ20展開時に中心の頭部H側を向く内表面を形成する。
【0030】
後方膨張部21と側方膨張部22A、22Bとの間には円状に縫製された複数の円縫い部55A,55Bが設けられ、アウターパネル51とインナーパネル52とを接合している。これらの円縫い部55A、55Bによって袋体の屈曲が促進されるので、後方屈曲部74A、74Bが形成される。また、円縫い部55A、55Bによってアウターパネル51とインナーパネル52とを部分的に接合することによって、エアバッグ20の容量を削減できる。
【0031】
また、アウターパネル51の側方膨張部22A、22Bと拘束部24A、24Bとの間に左側縫製ライン58と右側縫製ライン59とが設けられ、これにより前方屈曲部75A、75Bが形成されている。
【0032】
また、拘束部24AとEA部25Aとの間には、高さ方向の中央部に環状に縫製された前方縫製ライン57Aが設けられ、アウターパネル51とインナーパネル52とを接合している。同様に、拘束部24BとEA部25Bとの間には、高さ方向の中央部に環状に縫製された前方縫製ライン57Bが設けられ、アウターパネル51とインナーパネル52とを接合している。前方縫製ライン57A、57Bに囲まれる領域は、エアバッグ20の作動時も膨張しない非膨張部となる。この非膨張部の高さ方向の両脇は、拘束部24A、24BからEA部25A、25Bにガスを通す流路となる。
【0033】
前方縫製ライン57A、57Bに囲まれる領域には、高さ方向に沿って略等間隔で複数(本実施形態では3個)の円縫い部55Eが設けられる。円縫い部55Eは、前方膨張部23A側のアウターパネル51と、インナーパネル52と、前方膨張部23B側のアウターパネル51と、インナーパネル52との間を縫製して、これらをまとめて接合している。これにより、一対の前方膨張部23A、23Bの間に中央接合部76が形成される。
【0034】
EA部25A、25Bの外側端部にも縫製ライン58、59がそれぞれ設けられ、先端接合部77A、77Bに接合されている。
【0035】
側方膨張部22A、22Bの高さ方向の略中央部には、前後方向に沿って一対の円縫いパッチ55C、55Dが設けられる。円縫いパッチ55C、55Dは、アウターパネル51及びインナーパネル52の外側に円形状のパッチが配置され、これらのパッチとアウターパネル51及びインナーパネル52との間を縫製して、アウターパネル51とインナーパネル52とを接合している。円縫いパッチ55C、55Dは、外側にパッチを配置することにより縫製部を補強できる。
【0036】
側方膨張部22A、22Bでは、前後方向に沿って設けられる一対の円縫いパッチ55C、55Dの間を前後方向に沿って直線状に縫製しており、これにより、側方膨張部22A、22Bのガス流路を高さ方向に2つに区分して、エアバッグ20の膨張時の厚みが規制される。さらに側方膨張部22Aでは、上述の一対の円縫いパッチ55Cのうち前後方向後側のものの上側及び下側にも円縫いパッチ55Cが設けられている。つまり、高さ方向に3個の円縫いパッチ55Cが設けられる領域が形成される。この領域では、他の領域に比べてエアバッグ20膨張時の厚みがさらに抑制される。
【0037】
図3を参照して説明したように、本実施形態では側方膨張部22Aが車両外側に配置され、その一部がBピラーと対向する。エアバッグ20の機能確保のためには膨張時にBピラーとの干渉を回避できるのが好ましい。そこで本実施系阿智では、側方膨張部22AのうちBピラーと対向する位置に、高さ方向に沿って複数(本実施形態では3個)の円縫いパッチ55Cを配置することで、側方膨張部22AのBピラーとの対向部分の厚みを局所的に抑えて、エアバッグ20とBピラーとの干渉を回避できるよう構成されている。
【0038】
EA部25A、25Bの幅方向の略中央部には、高さ方向に沿って複数(本実施形態では2個)の円縫いパッチ55F、55Gが設けられ、アウターパネル51とインナーパネル52とを接合している。これにより、エアバッグ膨張時のEA部25A、25Bの前後方向の厚みを規制している。
【0039】
なお、円縫い部55A、55B、55Eにも円縫いパッチを設ける構成としてもよい。
【0040】
補強パッチ53は、図7に示すものが同形状で2枚あり、それぞれがアウターパネル51とインナーパネル52のうち後方膨張部21の部分の外側に配置され、パッチ縫製ライン73によってアウターパネル51とインナーパネル52にそれぞれ接合される。
【0041】
基布パイプ54は、インフレータ30の先端部に取り付けられた状態でインフレータ挿入口26に挿入される。インフレータ挿入口26は、図4図6に示すようにエアバッグ20のうち後方膨張部21に設けられる。
【0042】
エアバッグ20の縫製順序は、例えば、(1)外周縫製ライン56、(2)前方縫製ライン57(中央接合部76)、(3)左側縫製ライン58(先端接合部77B)、(4)右側縫製ライン59(先端接合部77A)の順番とすることができる。
【0043】
図9図10を参照して、エアバッグ20の収納状態を説明する。図9は、実施形態に係るエアバッグ装置10のエアバッグ収納時の側面図である。図10は、図9中の収容部40近傍の拡大図である。図9図10に示すように、エアバッグ20は、折り畳まれた状態で収容部40に収容される。収容部40は、例えばシートバック62内部のフレーム64に取り付けられてシートバック62内に格納される。
【0044】
収容部40は、シートバック62の延在方向に沿って上方に開口して配置される。収容部40の下方にインフレータ30が配置され、収容部の下方からエアバッグ20のインフレータ挿入口26に挿入される。インフレータ挿入口26は、例えば収容部40の底壁を貫通して下方に進出されて、インフレータ30が挿入される。
【0045】
インフレータ30は、例えば燃焼式またはコールドガス式であり、車両のECUなどの制御装置によって動作を制御される。インフレータ30は、作動することによって発生したガスを、インフレータ挿入口26を介してエアバッグ20内に供給する。本実施形態では、インフレータ30は、例えばシリンダ型のインフレータであり、シートの高さ方向を長手方向として配置されている。
【0046】
インフレータ30は、例えば図10に示すように、フレーム64に固設されたブラケット31にバンド32を用いて固定される。本実施形態では、図4に示すとおり後方膨張部21に2つのインフレータ挿入口26が設けられ、2本のインフレータ30が設置されるが、インフレータ30の数は1本でもよいし、2本より多い数でもよい。
【0047】
収容部40は、例えば樹脂製で箱状に形成されており、上方側が開口されている。この収容部40の箱状の内部空間に、折り畳まれた状態のエアバッグ20が収容される。収容部40は、エアバッグ装置10の非作動時にはシートバック62の上部に格納されている。エアバッグ装置10の作動時には、エアバッグ20の膨張圧によってシートバック62の表面が破断され、エアバッグ20が外部に膨張展開できるようになっている。
【0048】
図10に示すように、収容部40に収容される状態のエアバッグ20は、ロール状に折り畳まれたロール折り部71と、蛇腹状に折り畳まれた蛇腹折り部72とを含んで構成される。ロール折り部71は、エアバッグ20の展開状態における前方膨張部23A、23B側から側方膨張部22A、22Bの上方面側へ上向き回りに巻くようにロール状に折り畳まれた状態で収容部40に収容されており、膨張展開時にシート前方側へ展開しやすい折り畳み方とされている。蛇腹折り部72は、エアバッグ20の展開状態における後方膨張部21を蛇腹状に折り畳まれた状態で、収容部40のロール折り部71より上方の位置に収容されており、膨張展開時にロール折り部71より先に展開しやすくされている。
【0049】
エアバッグ20のインフレータ挿入口26は、ロール折り部71及び蛇腹折り部72に含まれず、ロール折り部71より下方に配置されて、インフレータ30が挿入されている。なお、図10では、ロール折り部71及び蛇腹折り部72の収納状態を模式的に表す便宜上、インフレータ挿入口26からロール折り部71及び蛇腹折り部72の両方に分岐しているように図示されているが、上述のとおりインフレータ挿入口26は後方膨張部21に設けられるので、実際には蛇腹折り部72のみに接続する。このため、ロール折り部71と、蛇腹折り部72とは、先にガスが上方の蛇腹折り部72に供給可能となっている。
【0050】
また、ロール折り部71は、側方膨張部22A、22B、前方膨張部23A、23Bの順でガスを供給することで、側方膨張部22A、22Bが乗員Dの頭部Hより上方の位置で膨張展開し、前方膨張部23A、23Bが乗員Dの頭部Hより前方の位置で膨張展開するよう構成される。
【0051】
次に、図11図15を参照して、エアバッグ装置10によるエアバッグ20の展開手順を説明する。図11図15は、実施形態に係るエアバッグ装置10によるエアバッグ20の展開手順の第1~第5段階をそれぞれ示す図である。
【0052】
まず図9図10に示したように平常時(エアバッグ装置10非作動時)には、エアバッグ20は折り畳まれてシードバック内の収容部40に格納されている。そして、車両の衝突等により所定の閾値以上の衝撃を受けると、ECUによりインフレータ30が作動され、インフレータ30からエアバッグ20にガスが供給され始める。
【0053】
図11に示す第1段階では、インフレータ30からガスが供給され始めると、まず上方の蛇腹折り部72にガスが供給されて膨張しはじめる。蛇腹折り部72は、蛇腹形状を展開しながらシートバック62の表面を破断してシート後方側に進出し、上方側かつシート後方側に展開しはじめる。
【0054】
図12に示す第2段階では、蛇腹折り部72の展開が完了すると後方膨張部21が形成される。その後ロール折り部71にガスが供給され始めると、ロール折り部71がロール状に折り畳まれた状態から展開すべく膨張しはじめる。このとき、膨張に伴い生じる膨張力によって、ロール折り部71は、シート背面側に展開した後方膨張部21から車両前方側かつ上方側へ反力を受ける。この反力によって、ロール折り部71は、斜め上方にヘッドレスト63を乗り越えるように展開する。つまり、先に展開して後方膨張部21が、ロール折り部71の展開方向を前方に促進させるための土台として機能する。また、ロール折り部71は上述のように上向き回りで巻かれているため、下向き回りに回転して展開する。
【0055】
図13に示す第3段階では、ロール折り部71の膨張が進み、まずは側方膨張部22A、22Bが展開しはじめる。側方膨張部22A、22Bは上方に膨張し、ロール折り部71の残り部分は車両の天井に沿って前方に展開する。
【0056】
図14に示す第4段階では、ロール折り部71からまず側方膨張部22A、22Bが形成されて乗員Dの頭部Hの側方を覆う。このときロール折り部71の残り部分は、頭部Hより前方に進出しており、また、側方膨張部22A、22Bの頭頂部29A、29Bが天井に突き当たり、天井からの反力により上向きの展開方向が下向きに切り替えられ、車両天井から下方に展開しはじめる。
【0057】
そして図15に示す第5段階では、ロール折り部71から前方膨張部23A、23Bが形成されて、乗員Dの頭部Hの前方部分も覆い、これにより乗員Dの前後左右方向の全方位を覆うエアバッグ20が形成される。
【0058】
本実施形態に係るエアバッグ装置10の効果を説明する。
【0059】
本実施形態のエアバッグ装置10は、インフレータ30と、インフレータ30から供給されるガスにより展開するエアバッグ20と、を備える。エアバッグ20は、座席60の背面側に展開する後方膨張部21と、後方膨張部21のシート幅方向両側から前方に延びる一対の側方膨張部22A、22Bと、一対の側方膨張部22A、22Bから中央側へ延び中央で相互に連結されて乗員Dの前方を覆う一対の前方膨張部23A、23Bと、を有する。エアバッグ20は、後方膨張部21、側方膨張部22A、22B、前方膨張部23A、23Bの順でガス流路が形成される。
【0060】
この構成により、エアバッグ装置10の作動時にエアバッグ20が膨張展開する際には、まず最初に後方膨張部21を展開させることができる。これにより、図12を参照して説明したように、先に展開して後方膨張部21が、残り部分の展開方向を前方に促進させるための土台として機能するので、エアバッグ20がヘッドレスト63や乗員Dの頭部Hを越えるのに充分な膨張力と展開方向とを展開中のエアバッグ20に与えることが可能となる。また、側方膨張部22A、22B、前方膨張部23A、23Bの順でガス流路が形成されることにより、図14を参照して説明したように、先に側方膨張部22A、22Bを展開させて、エアバッグ20の未展開の部分が乗員Dの頭部Hより前方に移動した後に、前方膨張部23A、23Bを展開させることが可能となる。これにより、ヘッドレスト63や乗員Dの頭部Hを確実に超えるようにエアバッグ20を展開可能となる。これらの結果、本実施形態のエアバッグ装置10はエアバッグ20を安定して展開できる。
【0061】
また本実施形態のエアバッグ装置10では、エアバッグ20は、後方膨張部21にインフレータからのガスが供給され、後方膨張部21が側方膨張部22A、22B及び前方膨張部23A、23Bより先に展開される。
【0062】
この構成により、後方膨張部21を側方膨張部22A、22B及び前方膨張部23A、23Bより確実に早く展開させることが可能となり、エアバッグ20の展開動作をより安定化できる。
【0063】
また、本実施形態のエアバッグ装置10では、前方膨張部23A、23Bが、一対の側方膨張部22A、22Bから中央側へ延び中央で相互に連結されて乗員の前方を覆う一対の拘束部24A、24Bと、一対の拘束部24A,24Bから前方かつ左右外側へそれぞれ延び、拘束部24A、24Bの前面を覆う一対のエネルギ吸収(EA)部25A、25Bと、を有する。
【0064】
この構成により、前方膨張部23A、23Bは、拘束部24A、24Bにより衝突時の乗員Dの衝撃を緩和でき、かつ、EA部25A、25Bによりシート前方のハンドルなどに衝突したときの衝撃を吸収して乗員Dに伝わらないようにでき、乗員Dの保護を二重に行うことができる。
【0065】
また、本実施形態のエアバッグ装置10のエアバッグ20の形状は、以下のように言い換えることもできる。すなわち、エアバッグ20は、座席60の背面側に展開する後方膨張部21と、後方膨張部21の座席幅方向両側から前方に延びる一対の側方膨張部22A、22Bと、一対の側方膨張部22A、22Bに接続されて乗員Dの前方を覆う前方膨張部23A、23Bと、を有する。前方膨張部23A、23Bは、乗員D側の内表面のうち座席60の幅方向(y方向)略中央の位置に、座席60の上下方向(z方向)に沿って延在する縫い目(前方縫製ライン57)が設けられ、この縫い目により前方に窪んだ前方凹部27が形成される。より詳細には、一対の前方膨張部23A、23Bが、y方向の略中央位置にて中央接合部76を形成する接合縫いによってz方向に沿って相互に接合され、これにより前方凹部27が形成されている。
【0066】
この構成により、頭部Hに対するエアバッグ20の前方膨張部23A、23Bの内表面の接触面が広くなり、また、対向角度も多様となるので、車両前方側でエアバッグ20が衝撃吸収可能な方位を増やすことができ、乗員Dをより幅広い方向の衝突から保護できる。また、本実施形態では、一対の前方膨張部23A、23Bの幅方向中央を接合縫いで接合することで、エアバッグ20が図4に示したドーナツ状に形成されるので、インフレータ30から供給されたガスがエアバッグ20の側方から前方まで左右均等に行き渡りやすくできる。これにより、エアバッグ20の展開をより一層安定化できる。
【0067】
図16図17を参照して上記実施形態の変形例を説明する。図16は、本実施形態の第1変形例に係るエアバッグ120の平面視の概略構成を示す模式図である。図17は、本実施形態の第2変形例に係るエアバッグ220の平面視の概略構成を示す模式図である。
【0068】
エアバッグ20の形状は上記実施形態のものに限られない。例えば図16に示すエアバッグ120のように、EA部25A、25Bの更に先端側に第2EA部28A、28Bを設けてもよい。この場合、前方膨張部123A、123Bは上方から視たときに略三角形状に展開する。このようにEA部を増やすことにより、エアバッグ20のEA特性を変更できる。また、図17に示すエアバッグ220のように、前方膨張部223A、223BがEA部25A、25Bを備えない構成でもよい。
【0069】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0070】
上記実施形態では、エアバッグ装置10の収容部40がシートバック62内に格納される構成を例示したが、収容部40をヘッドレスト63の内部に格納する構成でもよい。
【0071】
上記実施形態では、エアバッグ20として複数のパネルを縫製して一体的に形成する構造のものを例示したが、いわゆる一体製織(one piece woven:OPW)型のものでもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 エアバッグ装置
20、120、220 エアバッグ
21 後方膨張部
22A、22B 側方膨張部
23A、23B、123A、123B、223A、223B 前方膨張部
24A、24B 拘束部
25A、25B EA部
26 インフレータ挿入口
27 前方凹部
28A、28B 第2EA部
29A、29B 頭頂部
30 インフレータ
40 収容部
71 ロール折り部
72 蛇腹折り部
60 座席
61 座部
62 シートバック
63 ヘッドレスト
64 フレーム
D 乗員
H 頭部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17