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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20220706BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220706BHJP
   C09J 7/21 20180101ALI20220706BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220706BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J11/06
C09J7/21
C09J7/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018124885
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020002307
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】仲井 雅一
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-241419(JP,A)
【文献】特開平05-171120(JP,A)
【文献】特開平09-316407(JP,A)
【文献】特開平06-077194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D)を含み、
下記成分(A)における重合体は、少なくとも下記成分(a1)50~99.9質量部および(a2)0.1~10質量部の共重合体であり、
下記成分(C)は、下記成分(c1)および(c2)を含む
ことを特徴とする粘着剤組成物。

(A)重合体のエマルション
(B)アルキル基の炭素数が10~16であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル系化合物
(C)界面活性剤
(D)分子内にオキサゾリン基を有し、かつ水分散体の架橋剤

(a1)アルキル基の炭素数が2~12のアクリル酸アルキルエステル、およびアルキル基の炭素数が2~12のメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方
(a2)カルボキシ基含有不飽和単量体
(c1)フッ素系界面活性剤
(c2)分子中にフッ素原子を含まないアニオン性界面活性剤
【請求項2】
前記成分(D)の含有量が、成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し成分(D)中の不揮発成分が0.3質量部以上かつ2.0質量部以下となる含有量である、請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記成分(C)が、さらに、下記成分(c3)を含む請求項1または2記載の粘着剤組成物。

(c3)ノニオン性界面活性剤
【請求項4】
前記成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、前記成分(B)中の不揮発成分を0.01~0.6質量部、前記成分(C)中の不揮発成分を合計0.5質量部~3質量部含む請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
基材と、粘着剤層とを含み、
前記粘着剤層が、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物を含むことを特徴とする粘着シート。
【請求項6】
前記基材が紙製の基材である請求項5記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートは、産業上の種々の分野において広範に用いられている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-162797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートに要求される特性として、初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の3つの特性がある。
【0005】
初期接着力が低すぎると、粘着シートが被着体に接着しないおそれ、または被着体から剥離してしまうおそれがある。逆に、初期接着量が高すぎると、粘着シートが被着体から剥離しにくく、粘着剤組成物が被着体表面に残留(糊残り)してしまうおそれがある。
【0006】
耐ハガレ性が低いと、粘着シートが、意図しない外力により被着体から剥離してしまうおそれがある。
【0007】
塗工適性が良好でないと、粘着剤組成物を基材に塗工して粘着シートを製造する際に、均一な塗工が困難であったり、クレーター状の欠点(ハジキ)を生じたりするおそれがある。
【0008】
しかしながら、粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートにおいて、初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の3つの特性を全て良好とすることは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の3つの特性が全て良好な粘着剤組成物および粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の粘着剤組成物は、
下記成分(A)~(C)を含み、
下記成分(A)における重合体は、少なくとも下記成分(a1)50~99.9質量部および(a2)0.1~10質量部の共重合体であり、
下記成分(C)は、下記成分(c1)および(c2)を含む
ことを特徴とする。

(A)重合体のエマルション
(B)アルキル基の炭素数が10~16であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル系化合物
(C)界面活性剤

(a1)アルキル基の炭素数が2~12のアクリル酸アルキルエステル、およびアルキル基の炭素数が2~12のメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方
(a2)カルボキシ基含有不飽和単量体
(c1)フッ素系界面活性剤
(c2)分子中にフッ素原子を含まないアニオン性界面活性剤
【0011】
本発明の粘着シートは、基材と、粘着剤層とを含み、前記粘着剤層が、前記本発明の粘着剤組成物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の3つの特性が全て良好な粘着剤組成物および粘着シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、例を挙げて説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、例えば、さらに、架橋剤(D)を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の粘着剤組成物は、例えば、前記成分(C)が、さらに、下記成分(c3)を含んでいてもよい。

(c3)ノニオン性界面活性剤
【0016】
本発明の粘着剤組成物は、例えば、前記成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、前記成分(B)の不揮発成分を0.01~0.6質量部、前記成分(C)の不揮発成分を合計0.5質量部~3質量部含んでいてもよい。
【0017】
本発明の粘着シートは、例えば、前記基材が紙製の基材であってもよい。
【0018】
本発明において、「初期接着力」は、粘着シートを被着体に接着させた直後の接着力をいい、すなわち、接着後の接着力の経時変化を考慮しない接着力をいう。本発明において、粘着剤または粘着シートの初期接着力の測定方法は、特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の測定方法で測定できる。
【0019】
本発明において、「接着力」と「粘着力」とは、特に区別はなく、同義であるものとする。本発明において、「接着剤」と「粘着剤」とは、特に区別はなく、同義であるものとする。本発明において、「粘着剤組成物」は、粘着剤のうち、組成物であるものをいう。
【0020】
本発明において、「アルキル」は、例えば、直鎖状または分枝状のアルキルを含む。本発明において、アルキル基は、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0021】
本発明において、「アルキレン」は、例えば、直鎖状アルキレン(メチレンもしくはポリメチレン)または分枝状のアルキレンを含む。本発明において、アルキレン基は、特に限定されないが、例えば、メチレン基、ジメチレン基(エチレン基)、エチリデン基、トリメチレン基、1-メチルエチレン基(プロピレン基)、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等が挙げられる。
【0022】
以下、本発明の実施形態について、さらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0023】
[1.粘着剤組成物]
本発明の粘着剤組成物は、前述のとおり、
下記成分(A)~(C)を含み、
下記成分(A)における重合体は、少なくとも下記成分(a1)50~99.9質量部および(a2)0.1~10質量部の共重合体であり、
下記成分(C)は、下記成分(c1)および(c2)を含む
ことを特徴とする。

(A)重合体のエマルション
(B)アルキル基の炭素数が10~16であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル系化合物
(C)界面活性剤

(a1)アルキル基の炭素数が2~12のアクリル酸アルキルエステル、およびアルキル基の炭素数が2~12のメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方
(a2)カルボキシ基含有不飽和単量体
(c1)フッ素系界面活性剤
(c2)分子中にフッ素原子を含まないアニオン性界面活性剤
【0024】
[1-1.成分(A)]
成分(A)は、前述のとおり、重合体のエマルションであり、前記重合体は、少なくとも下記成分(a1)50~99.9質量部および(a2)0.1~10質量部の共重合体である。

(a1)アルキル基の炭素数が2~12のアクリル酸アルキルエステル、およびアルキル基の炭素数が2~12のメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方
(a2)カルボキシ基含有不飽和単量体
【0025】
成分(A)は、例えば、前記重合体が水中に分散したエマルション(水系エマルション)であってもよい。
【0026】
成分(a1)および(a2)の質量部は、例えば、前記重合体の共重合成分(モノマー)全ての質量を100質量部とした場合の質量部であってもよい。なお、前記重合体の共重合成分は、後述するように、成分(a1)および(a2)以外の他の共重合成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0027】
成分(a1)は、前述のとおり、アルキル基の炭素数が2~12のアクリル酸アルキルエステル、およびアルキル基の炭素数が2~12のメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方である。前記アルキル基は、前述のとおり、直鎖アルキル基でも分枝アルキル基でもよい。前記アルキル基の炭素数は、例えば、2以上、3以上、または4以上であり、例えば、12以下、または10以下である。成分(a1)としては、例えば、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、イソアミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0028】
前記重合体の共重合成分中における成分(a1)の含有量は、前述のとおり、50~99.9質量部であり、例えば、55質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上、または90質量部以上であり、例えば、99質量部以下、98質量部以下、96質量部以下、94質量部以下、または92質量部以下である。成分(a1)の含有量が50質量部以上であることで、高い粘着性が得られる。また、成分(a1)の含有量は、再剥離性の観点からは多すぎないことが好ましい。
【0029】
成分(a2)は、前述のとおり、カルボキシ基含有不飽和単量体である。成分(a2)は、特に限定されず、例えば、一般的なカルボキシ基含有不飽和単量体でもよい。成分(a2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0030】
成分(A)の共重合成分中における成分(a2)の含有量は、前述のとおり、0.1~10質量部であり、例えば、0.5質量部以上、または1.0質量部以上であり、例えば、7.0質量部以下、5.0質量部以下、または3.0質量部以下である。成分(a2)の含有量は、粘着剤組成物の凝集力および基材に対する密着性の観点からは少なすぎないことが好ましく、粘着力の観点からは多すぎないことが好ましい。
【0031】
また、成分(A)の共重合成分は、前述のとおり、成分(a1)および(a2)以外の他の共重合成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記他の共重合成分は、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0032】
成分(A)の製造方法は、特に限定されない。例えば、前記重合体の共重合成分全てを乳化重合させることで、前記重合体を製造するとともに、前記重合体のエマルションを形成させて成分(A)としてもよい。
【0033】
前記乳化重合の方法は、特に限定されず、例えば、一般的な乳化重合の方法と同様もしくはそれに準じてもよいし、または、それに適宜変更を加えてもよい。前記乳化重合の方法は、具体的には、例えば、(1)水および全ての共重合成分を一括混合して乳化重合する方法、(2)水および全ての共重合成分の混合物のうち、一部を反応器に加え、残りを前記反応器中に滴下して乳化重合する方法(プレエマルション法)、(3)モノマー滴下法、等があげられる。これらの中でも、乳化重合反応の安定性の点から(2)のプレエマルション法が好ましい。また、水および前記共重合成分に加え、必要に応じ、重合開始剤、乳化剤、分散安定剤等を混合して乳化重合を行ってもよい。
【0034】
前記重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、水溶性アゾ重合開始剤、過硫酸塩類、有機過酸化物類、過酸化水素等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。前記水溶性アゾ重合開始剤は、例えば、富士フイルム和光純薬株式会社の商品名V-50、V-501、VA-086、VA-057、VA-061等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0035】
前記乳化剤は、特に限定されないが、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。前記アニオン性界面活性剤は、例えば、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、商品名アデカリアソープSR-10、アデカリアソープSR-20(いずれも株式会社ADEKA製)、商品名アクアロンHS-10、アクアロンHS-20(いずれも第一工業製薬株式会社製)、商品名エレミノールJS-20、エレミノールRS-3000(いずれも三洋化成工業株式会社製)、商品名ラテムルPD-104(花王株式会社製)、商品名テイカパワーBN-2060(テイカ株式会社)等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。前記ノニオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、商品名アデカリアソープER-10、アデカリアソープER-20(いずれも株式会社ADEKA製)、商品名アクアロンRN-10、アクアロンRN-20(いずれも第一工業製薬株式会社製)、商品名ラテムルPD-420、ラテムルPD-430(いずれも花王株式会社製)等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0036】
前記分散安定剤は、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、デンプン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0037】
前記(2)のプレエマルション法は、特に限定されないが、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、水および全ての共重合成分を混合し、プレエマルションを得る。このプレエマルションには、前記重合開始剤、前記乳化剤、前記分散安定剤等を混合してもよい。また、例えば、必要に応じ、親水性溶剤、疎水性溶剤等を混合してもよい。つぎに、前記プレエマルションの一部を重合反応させる(第1の重合工程)。このとき、必要に応じ、加熱、攪拌等をしてもよい。反応系は、開放系であってもよいが、窒素等の不活性ガスで置換されていてもよい。前記第1の重合工程における反応温度は特に限定されないが、例えば、30~90℃、または40~85℃である。前記第1の重合工程における反応時間も特に限定されず、適宜設定可能である。つぎに、残りのプレエマルションを滴下し、さらに重合反応させる(第2の重合工程)。前記第2の重合工程は、滴下終了後、さらに重合反応を継続してもよい。前記第2の重合工程における反応温度は特に限定されないが、例えば、前記第1の重合工程と同じである。前記残りのプレエマルションの滴下時間も特に限定されず、適宜設定可能である。前記滴下終了後における反応時間も特に限定されず、適宜設定可能である。以上のようにして、前記重合体を製造できる。
【0038】
前記乳化重合は、例えば、重合反応の途中で前記重合開始剤を追加する工程を含んでいてもよい。これにより、例えば、臭気の原因となる残留モノマー(共重合成分)を抑制できる。例えば、前記第2の重合工程における前記滴下終了後に、前記重合開始剤を追加してもよい。前記重合開始剤の追加は、1回で行ってもよいし、複数回に分けてもよい。
【0039】
[1-2.成分(B)]
成分(B)は、前述のとおり、アルキル基の炭素数が10~16であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル系化合物である。アルキル基およびアルキレン基は、前述のとおり、直鎖状でも分枝状でもよい。前記アルキレン基の炭素数は、例えば、1以上、または2以上であり、例えば、6以下、5以下、または4以下である。また、成分(B)において、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル系化合物は、例えば、アルキル基が分枝構造を有し、かつエチレンオキサイド鎖を有していてもよい。成分(B)は、特に限定されないが、アルキルポリオキシエチレンリン酸エステル、アルキルフェノールポリオキシエチレンリン酸エステルおよびこれらのナトリウム,カリウム,アンモニアおよびアミン等の中和塩があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。粘着剤組成物の耐水性の観点からは、前記中和塩が好ましい。
【0040】
成分(B)の含有量は、特に限定されないが、成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、成分(B)中の不揮発成分が、例えば、0.01質量部以上、0.05質量部以上、または0.10質量部以上であり、例えば、0.6質量部以下、0.55質量部以下、または0.50質量部以下である。粘着シートの再剥離性(糊残り防止)の観点からは、成分(B)の含有量が少なすぎないことが好ましく、曲面接着性および耐水接着性の観点からは、成分(B)の含有量が多すぎないことが好ましい。
【0041】
なお、成分(B)は、例えば、その一部または全部が界面活性剤であってもよいが、界面活性剤でなくてもよい。成分(B)の一部または全部が界面活性剤である場合は、成分(B)中の界面活性剤は、成分(C)(界面活性剤)の含有量には含まれないものとする。
【0042】
[1-3.成分(C)]
成分(C)は、前述のとおり、界面活性剤であり、下記成分(c1)および(c2)を含む。

(c1)フッ素系界面活性剤
(c2)分子中にフッ素原子を含まないアニオン性界面活性剤
【0043】
本発明において、「フッ素系界面活性剤」は、分子中にフッ素原子を含む界面活性剤である。前記フッ素系界面活性剤は、例えば、アルキル鎖中の少なくとも一つの水素原子をフッ素原子に置換した界面活性剤でもよい。前記フッ素系界面活性剤は、例えば、パーフルオロ基を有する界面活性剤でもよい。前記フッ素系界面活性剤は、例えば、親水部および疎水部を有する。前記フッ素系界面活性剤は、例えば、前記疎水部がパーフルオロ基であってもよい。本発明において、「パーフルオロ基」は、例えば、炭化水素中の全ての水素原子または大部分の水素原子がフッ素原子で置換された基である。前記パーフルオロ基は、例えば、アルキル基中の全ての水素原子または大部分の水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基でもよい。
【0044】
なお、成分(C)が、フッ素系界面活性剤でありアニオン性界面活性剤でもある界面活性剤を含む場合、その界面活性剤は成分(c1)であり、成分(c2)ではないものとする。また、本発明の粘着剤組成物中に、成分(A)における重合体の合成に用いた界面活性剤(例えば乳化剤)が残留している場合、その残留界面活性剤は、成分(C)には含まれないものとする。すなわち、成分(A)合成の際に乳化剤として働きうる界面活性剤が本発明の粘着剤組成物中に残留していた場合、その界面活性剤は成分(C)には含まれないものとする。
【0045】
成分(c1)のフッ素系界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、商品名メガファックF-142D、メガファックF-1405(いずれもDIC株式会社製)、商品名CapstoneFS-31(いずれもデュポン社ケマーズ社製)、商品名サーフロンS-242、サーフロンS-243(いずれもAGCセイミケミカル株式会社製)等のパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0046】
成分(c2)のアニオン性界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、高級アルコールの硫酸エステル及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。成分(c2)としては、具体的には、例えば、商品名エアロゾルOT-75(サイテックインダストリー社製)、商品名サーフィノール420、サーフィノール440(日信化学工業株式会社製)等があげられる。
【0047】
成分(C)の含有量は、特に限定されないが、成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、成分(C)中の不揮発成分が、例えば、0.5質量部以上、または0.6質量部以上であり、例えば、3質量部以下、または2.8質量部以下である。塗工適性の観点からは、成分(C)の含有量が少なすぎないことが好ましく、耐ハガレ性の観点からは、成分(C)の含有量が多すぎないことが好ましい。
【0048】
成分(c1)の含有量は、特に限定されないが、成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、成分(c1)中の不揮発成分が、例えば、0.01質量部以上、0.03質量部以上、または0.05質量部以上であり、例えば、1.0質量部以下、または0.8質量部以下である。塗工適性の観点からは、成分(c1)の含有量が少なすぎないことが好ましく、塗工適性(最適量)の観点からは、成分(c1)の含有量が多すぎないことが好ましい。
【0049】
成分(c2)の含有量は、特に限定されないが、成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、成分(c2)中の不揮発成分が、例えば、0.1質量部以上、0.2質量部以上、または0.3質量部以上であり、例えば、3.0質量部以下、2.0質量部以下、または1.0質量部以下である。塗工適性の観点からは、成分(c2)の含有量が少なすぎないことが好ましく、耐ハガレ性の観点からは、成分(c2)の含有量が多すぎないことが好ましい。
【0050】
また、成分(C)は、成分(c1)および(c2)以外の他の界面活性剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記他の界面活性剤は、例えば、下記成分(c3)があげられる。
(c3)ノニオン性界面活性剤
【0051】
成分(c3)のノニオン性界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。成分(c3)としては、具体的には、例えば、商品名レオコールSC-50、レオコールSC-120、レオコールSC-150(いずれもライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)等があげられる。
【0052】
成分(c3)の含有量は、特に限定されないが、成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、成分(c3)中の不揮発成分が、例えば、0.1質量部以上、または0.2質量部以上であり、例えば、1.0質量部以下、または0.9質量部以下である。塗工適性の観点からは、成分(c3)の含有量が少なすぎないことが好ましく、初期接着力の観点からは、成分(c3)の含有量が多すぎないことが好ましい。
【0053】
成分(C)(界面活性剤)は、例えば、本発明の粘着剤組成物において、濡れ性を担保する成分(濡れ剤)として働くと考えられる。本発明の粘着剤組成物は、成分(C)を含むことで、例えば、良好な塗工適性が得られる。また、本発明の粘着剤組成物は、成分(B)および(C)を含むことで、例えば、適度な初期接着力が得られる。
【0054】
[1-4.成分(A)~(C)以外の成分]
本発明の粘着剤組成物は、成分(A)~(C)以外の他の成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記他の成分としては、例えば、前記架橋剤(D)(以下、成分(D)または単に架橋剤ということがある。)があげられる。
【0055】
成分(D)(架橋剤(D))は、特に限定されないが、例えば、分子内にオキサゾリン基を有し、かつ水分散体の架橋剤である。架橋剤(D)は、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリンを1種類または2種類以上用いて乳化重合等により得られた水分散系架橋剤等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。そのような架橋剤(D)は、例えば、商品名エポクロスK-2010E、エポクロスK-2020E、エポクロスK-2030E、エポクロスWS-700(いずれも株式会社日本触媒)等があげられる。
【0056】
成分(D)の含有量は、特に限定されないが、成分(A)中の不揮発成分100質量部に対し、成分(D)中の不揮発成分が、例えば、0.3質量部以上、または0.4質量部以上であり、例えば、2.0質量部以下、または1.8質量部以下である。粘着剤組成物の耐熱性、凝集力および基材に対する密着性の観点からは、成分(D)の含有量が少なすぎないことが好ましく、粘着剤組成物の耐ハガレ性、耐水性および接着力の観点からは、成分(D)の含有量が多すぎないことが好ましい。
【0057】
成分(A)~(C)以外の他の成分としては、架橋剤(D)以外に、例えば、増粘剤、pH調整剤、溶媒、酸化防止剤、架橋防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、光安定剤、帯電防止剤等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。前記他の成分は、具体的には、特に限定されず、例えば、一般的な粘着剤と同様またはそれに準じてもよい。前記増粘剤としては、例えば、アクリルポリマー製増粘剤、ウレタンポリマー製増粘剤等があげられる。前記アクリルポリマー製増粘剤としては、例えば、商品名アロンB-300K(東亞合成株式会社)等があげられる。前記pH調整剤としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、希塩酸、希硫酸等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。前記紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等の紫外線吸収剤が挙げられる。前記消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系、鉱物油系等の消泡剤が挙げられる。前記光安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードアミン系等の光安定剤が挙げられる。前記帯電防止剤としては、無機塩類、有機塩類等のイオン性化合物、ノニオン性界面活性剤等の非イオン性化合物が挙げられる。前記溶媒、前記酸化防止剤および前記架橋防止剤については、特に限定されないが、例えば、一般的な粘着剤と同様またはそれに準じてもよい。
【0058】
[1-5.粘着剤組成物の製造方法および用途]
本発明の粘着剤組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、本発明の粘着剤組成物を構成する全成分を単に混合するのみでもよい。混合する順序は特に限定されないが、例えば、重合体のエマルションである成分(A)中に、他の成分を順次混合してもよい。例えば、増粘剤およびpH調整剤(アンモニア水等)を用いる場合、凝集物の生成等を防止する観点から、成分(B)および増粘剤は、pH調整剤よりも先に、またはpH調整剤と同時に成分(A)中に混合することが好ましい。成分(C)は、どの順序で混合しても凝集物の生成等を起こしにくい。
【0059】
本発明の粘着剤組成物の用途も特に限定されないが、例えば、一般的な粘着剤組成物と同様の用途に用いることができる。本発明の粘着剤組成物は、例えば、本発明の粘着シートにおける前記粘着剤層に用いることができる。
【0060】
[2.粘着シート]
つぎに、本発明の粘着シートおよびその製造方法、用途等について、例をあげて説明する。
【0061】
本発明の粘着シートは、前述のとおり、基材と、粘着剤層とを含み、前記粘着剤層が、前記本発明の粘着剤組成物を含むことを特徴とする。前記粘着剤層は、本発明の粘着剤組成物のみからなっていてもよいし、本発明の粘着剤組成物以外の成分を含んでいてもよい。
【0062】
本発明の粘着シートは、前記基材および前記粘着剤層以外の他の構成要素を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本発明の粘着シートは、例えば、前記粘着剤層における前記基材と反対側に、保護層(剥離シート、セパレーター、またはリリースライナーともいう。)が積層されていてもよい。
【0063】
前記基材は、特に限定されず、例えば、一般的な粘着シートの基材と同様でもよい。前記基材は、例えば、プラスチック、ポリウレタン、紙、金属箔等があげられる。前記プラスチックとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)等があげられる。前記紙としては、例えば、和紙、洋紙等があげられる。
【0064】
前記基材の形状も特に限定されず、例えば、シート、フィルム、発泡体等が挙げられる。前記基材は、製造後の粘着シートの取扱いやすさ、保存のしやすさ等の観点から、例えば、巻き取り可能な長尺のテープ状であることが好ましい。
【0065】
また、前記基材は、例えば、必要に応じて、前記基材の粘着剤層形成面に、易接着処理を施した基材であってもよい。前記易接着処理は、特に限定されないが、具体的には、例えば、コロナ放電を処理する方法、アンカーコート剤を塗布する方法等が挙げられる。
【0066】
前記保護層は、特に限定されず、例えば、一般的な粘着シートの保護層と同様でもよい。前記保護層は、プラスチック、ポリウレタン、紙、金属箔等があげられる。前記プラスチックとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)等があげられる。前記紙としては、例えば、和紙、洋紙等があげられる。また、前記保護層は、例えば、前記粘着剤層と接する側に、前記粘着剤層に対する剥離性を高めるための剥離処理がされていてもよい。前記剥離処理は、特に限定されないが、例えば、シリコーンによるコーティング(シリコーン処理)等でもよい。前記保護層(剥離シート)は、例えば、シリコーン処理された剥離紙、またはシリコーン処理された剥離フィルムであってもよい。
【0067】
本発明の粘着シートの製造方法は、特に限定されず、例えば、一般的な粘着シートの製造方法と同様でもよい。本発明の粘着シートは、例えば、前記基材に本発明の粘着剤組成物を塗工して前記粘着剤層を形成することにより製造できる。また、本発明の粘着シートは、例えば、前記保護層に本発明の粘着剤組成物を塗工して前記粘着剤層を形成し、さらに、前記粘着剤層に前記基材を積層させることにより製造できる。例えば、基材が和紙等の場合は、張力に強く凹凸が少ない前記保護層(例えば、シリコーン処理された剥離紙、またはシリコーン処理された剥離フィルム)に粘着剤組成物を塗工して乾燥させた後、和紙基材に転写することが好ましい。
【0068】
本発明の粘着シートは、具体的には、例えば、以下のようにして製造できる。まず、前記保護層に本発明の粘着剤組成物を塗工して前記粘着剤層を形成する(塗工工程)。前記塗工工程における塗工方法は、特に限定されず、公知の方法でもよい。前記塗工方法としては、例えば、ロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、グラビアコーター法等が挙げられる。前記塗工工程における前記粘着剤組成物の塗工量(塗布量)は、特に限定されないが、前記粘着剤層の厚みが、例えば、5μm以上、または10μm以上、例えば、100μm以下、または80μm以下となるようにする。
【0069】
なお、例えば、本発明の粘着剤組成物が架橋剤(D)を含まない場合は、前記塗工工程に先立ち、架橋剤(D)を混合してもよい。
【0070】
前記塗工工程により形成された前記粘着剤組成物は、そのまま前記粘着剤層としてもよい。また、前記塗工工程後、前記塗工面上において前記粘着剤組成物を加熱し(第1の加熱工程)、架橋反応をさらに進行させて前記粘着剤層としてもよい。前記第1の加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、例えば、60℃以上であり、例えば、180℃以下である。前記第1の加熱工程における加熱時間は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0071】
さらに、前記塗工工程後、前記粘着剤層上の、前記保護層と反対側に前記基材を積層させる(基材積層工程)。前記基材積層工程において、例えば、前記基材と前記粘着剤層との密着性を高めるために、ローラー等で圧着してもよい。また、その後さらに加熱して、前記粘着剤層中における架橋反応をさらに進行させてもよい(第2の加熱工程)。前記第2の加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、例えば、60℃以上であり、例えば、180℃以下である。前記第2の加熱工程における加熱時間は、特に限定されず、適宜設定可能である。以上のようにして本発明の粘着シートを製造できるが、前述のとおり、本発明の粘着シートの製造方法はこれに限定されない。
【0072】
本発明の粘着シートの用途は、特に限定されず、例えば、一般的な粘着シートと同様の用途において、広く使用可能である。
【0073】
本発明の粘着シートは、例えば、マスキングテープ等に用いてもよい。前記マスキングテープの基材は、例えば、和紙等でもよい。
【0074】
本発明の粘着シートは、前述のとおり、初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の3つの特性が全て良好である。初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の測定方法は、特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の測定方法により測定できる。
【0075】
前述のとおり、初期接着力が低すぎると、粘着シートが被着体に接着しないおそれ、または被着体から剥離してしまうおそれがある。逆に、初期接着力が高すぎると、粘着シートが被着体から剥離しにくく、粘着剤が被着体表面に残留(糊残り)してしまうおそれがある。本発明の粘着シートは、例えば、初期接着力が適正であることにより、これらの問題を抑制または防止できる。例えば、マスキングテープの場合、初期接着力が低すぎないことで、被着体(紙、樹脂シート等)からの粘着シートの剥離を抑制または防止できる。また、初期接着力が高すぎないことで、前記被着体から粘着シートを剥離する際に、基材(例えば和紙)ごと被着体に残留したり、粘着剤層だけが前記被着体に残留(糊残り)したりすることを、抑制または防止できる。
【0076】
また、例えば、耐ハガレ性が適正であることにより、例えば、粘着シート(例えばマスキングテープ)が、意図しない外力により被着体から剥離してしまう現象を抑制または防止できる。
【0077】
また、例えば、塗工適性が良好であることにより、例えば、シリコーン処理された保護層に粘着剤組成物を塗工しても、粘着剤組成物がシリコーンによって弾かれ、前記保護層の中央部に偏在してしまう等の現象を抑制または防止できる。これによって、粘着剤組成物を均一に塗工できる。また、例えば、塗工適性が良好であることにより、クレーター状の欠点(ハジキ)等を抑制または防止できる。
【0078】
本発明の粘着シートの形態も特に限定されないが、例えば、保管時には、前記粘着剤層上に前記保護層を貼付して前記粘着剤層を保護し、使用直前に前記セパレータを剥離することが好ましい。また、例えば、本発明の粘着シートが、巻き取り可能な長尺のテープ状であり、巻き取って保管することが好ましい。
【0079】
さらに、本発明の粘着シートは、例えば、前述のとおり、マスキングテープに限定されず広い用途に使用可能であり、例えば、粘着ラベル、粘着テープ、表面保護フィルム等に用いることができる。
【実施例
【0080】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
以下の実施例において製造した粘着剤組成物には、下記の成分を使用した。

成分(A):下記合成例1で製造した重合体のエマルション
成分(B):商品名フォスファノールRS-710(東邦化学工業株式会社、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸/ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキル基炭素数13(分枝構造を有する)およびエチレンオキサイド構造を有する。)
成分(C):下記成分(c1)~(c3)
成分(c1):商品名CapstoneFS-31(ケマーズ社、部分フッ素化アルコール置換グリコール)
成分(c2):商品名エアロゾルOT-75(サイテックインダストリーズ株式会社、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)
成分(c3):商品名レオコールSC-50(ライオン株式会社、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)
成分(D):商品名エポクロスWS-700(株式会社日本触媒、オキサゾリン基含有ポリマー)
pH調整剤:25質量%アンモニア水
増粘剤:商品名アロンB-300K(東亞合成株式会社、アクリル酸系重合物)
【0082】
(合成例1)
以下のようにして成分(A)(重合体のエマルション)を製造した。
【0083】
ビーカーAにアクリル酸2-エチルヘキシル(成分(a1))362.5質量部、アクリル酸n-ブチル(成分(a1))125質量部、アクリル酸(成分(a2))2.5質量部、およびメタクリル酸(成分(a2))10質量部を量り取り、均一に攪拌した。別のビーカーBに、イオン交換水148質量部、乳化剤(商品名テイカパワーBN-2060、テイカ株式会社)12.5質量部、重合開始剤(商品名V-50、富士フイルム和光純薬株式会社)0.50質量部を量り取り、均一に撹拌した。その後、ビーカーBにビーカーAの内容物を加え、ディスパーで混合してプレエマルションを得た。
【0084】
撹拌機、冷却管、温度計、滴下ロートを備えたセパラブルフラスコにイオン交換水187質量部を量り取り、撹拌しながら65~75℃まで加熱した。つぎに、前記プレエマルション7.5質量部および重合開始剤(商品名V-50、富士フイルム和光純薬株式会社)の1質量%水溶液0.85質量部を前記セパラブルフラスコに投入し、前記温度で30分間加熱攪拌して重合反応(第1の重合工程)を行った。その後、前記温度で加熱攪拌を継続しながら、滴下ロートを用いて残りのプレエマルションを2時間かけて滴下した。前記プレエマルションの滴下終了時において、残留モノマー(共重合成分)の量は、6.8質量部(8000ppm)であった。さらに、前記プレエマルションの滴下終了後、前記温度で3時間加熱攪拌を継続し、さらに重合反応を行った(第2の重合工程)。この第2の重合工程において、前記プレエマルションの滴下終了から1時間後および2時間後に、それぞれ、重合開始剤(商品名V-50、富士フイルム和光純薬株式会社)の1質量%水溶液5質量部とを前記セパラブルフラスコ内に添加した。前記プレエマルションの滴下終了から3時間後に、加熱を停止して放冷し、重合反応を終了させた。このようにして、重合体のエマルションである成分(A)を得た。得られた成分(A)において、エマルションの不揮発成分は60質量%であり、成分(A)の20倍希釈水溶液のpHは4.0であった。また、得られた成分(A)中の残留モノマー(共重合成分)の量は、2.5質量部(3000ppm)となっていた。すなわち、前記第2の重合工程における前記重合開始剤の追加により、残留モノマーが抑制されたことが確認できた。
【0085】
(実施例1)
合成例1で得たエマルション(成分(A))91.5質量部(不揮発成分60質量%[54.9質量部]含有)中に、前記フォスファノールRS-710(成分(B))0.2質量部(不揮発成分100質量%[0.2質量部]含有)、前記エアロゾルOT-75(成分(c2)、アニオン性界面活性剤)0.3質量部(不揮発成分75質量%[0.225質量部]含有、前記CapstoneFS-31(成分(c1)、フッ素系界面活性剤)0.24質量部(不揮発成分25質量%[0.06質量部]含有)、前記レオコールSC-50(成分(c3)、ノニオン性界面活性剤)0.31質量部(不揮発成分100質量%[0.31質量部]含有)、前記アロンB-300K(増粘剤)0.3質量部(不揮発成分44質量%[0.132質量部]含有)、濃度25質量%アンモニア水(pH調整剤)0.29質量部、および前記エポクロスWS-700(成分(D)、内部架橋剤)2.54質量部(不揮発成分25質量%[0.635質量部]含有)を前記順序で添加して混合し、本実施例の粘着剤組成物を得た。なお、各成分の含有量(質量部)は、全て、各成分中の固形分(不揮発成分)および揮発成分を全て含めた全体の含有量(質量部)で示している。下記表1に示す他の全ての実施例および比較例においても、同様である。各成分における固形分(不揮発成分)のみの含有量(質量部)は、前記かっこ書きで示している。
【0086】
つぎに、前記本実施例の粘着剤組成物を、塗工幅100mmのアプリケーターを用いて、シリコーン処理が施された剥離紙(商品名SP-8E、リンテック株式会社)に塗工した(塗工工程)。つぎに、前記剥離紙を、塗工した前記粘着剤組成物とともに、100℃の熱風循環式乾燥機内に2分間放置して加熱し、乾燥させた(第1の加熱工程)。このようにして、前記剥離紙上に粘着剤層を形成した。さらに、前記粘着剤層上に、目止め処理が施された和紙基材を貼り合わせ、重量5kgのゴムローラーを2往復させて前記粘着剤層を前記和紙基材に圧着した。これを40℃の熱風循環式乾燥機内に3日間放置して架橋反応をさらに進行させ、本実施例の粘着シート(感圧式粘着シート)を得た。この粘着シートにおける前記粘着剤層の厚みは、約40μmであった。
【0087】
(実施例2~5、比較例1~6)
粘着剤組成物を構成する各成分の種類および分量を、下記表1の通りとしたことを除いては、実施例1と同様の方法で粘着剤組成物および粘着シート(感圧式粘着シート)を得た。ただし、比較例5の粘着剤組成物は、後述するように、塗工適性が良くないため、粘着シートを製造することができなかった。
【0088】
以上のようにして製造した実施例1~5および比較例1~6の粘着シートまたは粘着剤組成物について、下記の方法で、初期接着力、耐ハガレ性および塗工適性を測定した。測定結果は、下記表1に併せて示す。
【0089】
(初期接着力)
測定対象の粘着シートを幅25mmにカットし、剥離紙を取り除いて研磨ステンレス板に重量2kgのゴムローラーを1往復させて貼り合わせた。これを23℃、湿度50%RHの環境下に1時間静置後、前記粘着シートの一端を引張試験機に取り付け、180°方向(前記一端と反対側の端に向かう方向)に引張速度300mm/分で引き剥がした時の剥離力(N/25mm)を初期接着力とした。初期接着力が1~2N/25mmの範囲内であった場合に、合格と評価した。
【0090】
(耐ハガレ性)
測定対象の粘着シートを幅15mmにカットし、剥離紙を取り除いて研磨ステンレス板に重量2kgのゴムローラーを1往復させて貼り合わせた。これを23℃、湿度50%RHの環境下に1時間静置後、前記粘着シートの一端に重量10gの重りを取り付け、90°方向(前記粘着シートを貼り合わせた平面に対し垂直な方向)に垂らした。その状態で、室温下5時間放置後に、前記ステンレス板から剥がれた前記粘着シートの長さを測定し、耐ハガレ性の指標とした。剥がれた前記粘着シートの長さが短いほど、耐ハガレ性が高いと評価できる。剥がれた前記粘着シートの長さが80mm以下であった場合に、実用上問題ないと判断し、合格と評価した。
【0091】
(塗工適性)
前記粘着シートの製造工程と同じ方法で、前記塗工工程および前記第1の加熱工程を行った。すなわち、測定対象の粘着剤組成物を、塗工幅100mmのアプリケーターを用いて、シリコーン処理が施された剥離紙(商品名SP-8E、リンテック株式会社)に塗工した(塗工工程)。つぎに、前記剥離紙を、塗工した前記粘着剤組成物とともに、100℃の熱風循環式乾燥機内に2分間放置して加熱し、乾燥させた(第1の加熱工程)。そして、乾燥直後の前記粘着剤組成物の塗工幅を測定し、かつ、乾燥直後の粘着剤層の外観を目視で観測した。この測定および観測結果を、下記の基準により、○、△または×と評価した。

〇:塗工幅は95mm~100mmで、ハジキ(クレーター状の欠点)は見られなかった。
△:塗工幅は90mm~94mmで、ハジキがみられる場合があった。
×:塗工幅は90mm未満で、ハジキがみられる場合があった。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示したとおり、実施例1~5の粘着剤組成物は、初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の3つの特性が全て良好であった。これに対し、成分(B)を含まない比較例1は、耐ハガレ性および塗工適性は良好であるものの、初期接着力が2.25N/25mm(2N/25mmを超える数値)で高すぎた。成分(c1)を含まない比較例2は、初期接着力および耐ハガレ性は良好であるものの、塗工適性が良くなかった。具体的には、比較例2では、粘着シートを製造することはできたものの、塗工幅は90mm未満で、ハジキがみられる場合があった。このように塗工ムラがあると、経時変化により、接着力、耐ハガレ性等が悪化するおそれがある。同様に成分(c1)を含まない比較例3は、成分(c2)の量を比較例2よりも増やしたことで、初期接着力および塗工適性は良好であったものの、耐ハガレ性が良くなかった。成分(c2)を含まない比較例4は、初期接着力および耐ハガレ性は良好であるものの、比較例2と同じく塗工適性が良くなかった。成分(c2)を含まない比較例5は、成分(c1)の量を比較例4よりも増やしたが、塗工適性がさらに悪化し、粘着シートを製造することができなかった。このため、比較例5については、初期接着力および耐ハガレ性の測定もできなかった。成分(c1)および(c2)をいずれも含まない比較例6は、塗工適性も悪く、初期接着力も高すぎた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上、説明したとおり、本発明によれば、初期接着力、耐ハガレ性、および塗工適性の3つの特性が全て良好な粘着剤および粘着シートを提供することができる。本発明の粘着剤組成物および粘着シートは、例えば、マスキングテープ等に用いることができるが、これに限定されず、例えば、一般的な粘着剤組成物および粘着シートと同様の用途において、広く使用可能である。