(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】スプレー用組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/16 20060101AFI20220706BHJP
C08B 5/14 20060101ALN20220706BHJP
A61K 8/02 20060101ALN20220706BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20220706BHJP
A61K 8/73 20060101ALN20220706BHJP
A61Q 15/00 20060101ALN20220706BHJP
B82Y 30/00 20110101ALN20220706BHJP
【FI】
C08L1/16
C08B5/14
A61K8/02
A61Q19/00
A61K8/73
A61Q15/00
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2018180291
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北野 結花
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/066193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)硫酸化セルロース繊維、および水を含有し、
(A)硫酸化セルロース繊維の含有割合が0.1~3.0質量%であり、
コーン・プレート型回転粘度計の測定による、1×10
-2S
-1~1×10
3S
-1のずり速度領域において、20℃で測定した粘度の最大値(ηmax)がηmax≧1×10
4mPa・sであり、最小値(ηmin)がηmin≦1×10
2mPa・sであり、
前記(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換され、前記(A)化学修飾セルロース繊維1gあたり0.01mmol~3.0mmolの前記置換基を有し、
前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は、100~3000である、スプレー用組成物。ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【化1】
【請求項2】
前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は3nm~5000nmである、請求項1に記載のスプレー用組成物。
【請求項3】
さらに、(B)機能性添加剤を含み、
前記(B)機能性添加剤は、電解質、イオン性物質、界面活性剤、オイル類、保湿剤、有機微粒子、無機微粒子、防腐剤、消臭剤および香料からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1または2に記載のスプレー用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を化学修飾することにより、セルロース繊維の水等への分散が容易となる。このような化学修飾セルロース繊維は、水等に分散させると、高いチキソ性および粘性等の特徴的な機能を発現させるため、様々な用途に応用可能である。
【0003】
セルロースを化学修飾したものとして、硫酸エステル化セルロースが挙げられる。たとえば、特許文献1では、無水硫酸を硫酸エステル化試薬として用いて、セルロースを硫酸エステル化した粒子状の硫酸エステル化セルロースが開示されている。また、特許文献2では、硫酸水溶液を硫酸エステル化試薬として用いて、重合度が60以下のセルロースII型結晶構造を有する硫酸エステル化セルロースを製造する技術が開示されている。
【0004】
ここで、特許文献3には、TEMPO酸化セルロースを用いた、スプレー用組成物が開示されている。当該スプレー用組成物は、チキソ性が高いため、たとえば、噴霧器の容器内においてゲル状であるにも拘わらず、粘度の低い液体のようにスプレーすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-92034号公報
【文献】特表2012-526156号公報
【文献】特開2010-37200号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cellulose (2017) 24: 1295-1305 “Complete nanofibrillation of cellulose prepared by phosphorylation”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、複雑な反応工程を用いる特許文献3の技術では、反応時のpHの微調整等が必要であり、製造工程が複雑化するという問題があった。また、無水硫酸および高濃度硫酸水溶液をそれぞれ用いる特許文献1および特許文献2の技術では、セルロースにおけるグルコースの重合度が低くなる傾向がある。このような重合度が低いセルロース繊維を用いてゲル化した組成物は、好適にスプレーすることができないという問題があった。
【0008】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、ゲル状であるにも拘わらず好適にスプレーすることが可能なスプレー用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係るスプレー用組成物は、(A)硫酸化セルロース繊維、および水を含有し、(A)硫酸化セルロース繊維の含有割合が0.1~3.0質量%であり、コーン・プレート型回転粘度計の測定による、1×10
-2S
-1~1×10
3S
-1のずり速度領域において、20℃で測定した粘度の最大値(ηmax)がηmax≧1×10
4mPa・sであり、最小値(ηmin)がηmin≦1×10
2mPa・sであり、前記(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換され、前記(A)化学修飾セルロース繊維1gあたり0.01mmol~3.0mmolの前記置換基を有し、前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は、100~3000である、スプレー用組成物。ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【化1】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゲル状であるにも拘わらず、好適にスプレーすることが可能なスプレー用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1)本発明の実施の形態に係るスプレー用組成物は、(A)硫酸化セルロース繊維、および水を含有し、(A)硫酸化セルロース繊維の含有割合が0.1~3.0質量%であり、コーン・プレート型回転粘度計の測定による、1×10
-2S
-1~1×10
3S
-1のずり速度領域において、20℃で測定した粘度の最大値(ηmax)がηmax≧1×10
4mPa・sであり、最小値(ηmin)がηmin≦1×10
2mPa・sであり、前記(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換され、前記(A)化学修飾セルロース繊維1gあたり0.01mmol~3.0mmolの前記置換基を有し、前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は、100~3000である、スプレー用組成物。ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【化2】
【0013】
このような構成により、ゲル状であるにも拘わらず好適にスプレーすることが可能なスプレー用組成物を提供することである。
【0014】
(2)好ましくは、前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は3nm~5000nmである。
【0015】
このような構成により、スプレー用組成物をより好適にスプレーすることができる。
【0016】
(3)好ましくは、さらに、(B)機能性添加剤を含み、前記(B)機能性添加剤は、電解質、イオン性物質、界面活性剤、オイル類、保湿剤、有機微粒子、無機微粒子、防腐剤、消臭剤および香料からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0017】
このような構成により、スプレー用組成物に各種の機能をもたせることができる。
【0018】
以下に、本願発明の実施形態に係る背景および従来技術と比較した効果等についてさらに詳細に説明する。
【0019】
従来のセルロース繊維への硫酸基(たとえば一般式(1)に示す官能基)の導入方法においては、酸性度の高い無水硫酸等を硫酸化試薬として用いていた。しかし、この方法では、セルロースの重合度の低下や製造面での危険性が懸念される
【0020】
一方、セルロース繊維の他の化学修飾方法としては、TEMPO触媒を使用し繊維表面にカルボキシ基を導入する方法(例えば特許文献3)や、繊維表面にリン酸基を導入する方法(例えば非特許文献1)などが知られている。
【0021】
しかし、特許文献3に記載の方法では用いる触媒が高価であり、さらに反応工程も複雑である。また、非特許文献1に記載の方法では、165℃という高温で、かつ数秒~600秒の短時間で処理する必要があるため、反応条件の制御が困難であり、目的とする物性のセルロース繊維が得られにくいといった問題がある。
【0022】
それに対して、本発明の実施形態に係る化学修飾セルロース繊維の調製方法では、安価なスルファミン酸を用いており、反応条件も温和であるために危険性も低く、かつ物性の制御も容易である。さらに、温和な反応条件によって重合度の低下も抑制できるため、高重合度のセルロース繊維を得ることができる。また、導入される官能基は硫酸エステルであるため、他の手法で導入されるカルボキシ基やリン酸基に比べて酸解離定数が小さく、水中においてpH、ならびにイオン性物質の影響を受けにくいために安定性が高いといった特徴もある。
【0023】
以下、本発明の実施形態についてより具体的に説明する。
【0024】
[(A)化学修飾セルロース繊維]
(セルロースI型結晶化度)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有する。具体的には、たとえば、(A)化学修飾セルロース繊維のセルロースI型結晶化度は50%以上であることが好ましい。セルロースI型結晶化度が50%以上であることにより、ゲル状でありながらスプレー可能なスプレー用組成物を得ることができる。セルロースI型結晶化度は、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。セルロースI型結晶化度の上限は特に限定されないが、スプレー用組成物のチキソ性を高める観点から、セルロースI型結晶化度は、98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
なお、スプレー用組成物のチキソ性がある程度高いことにより、たとえば、霧吹きのような一般的な噴霧器を用いた場合でも、当該スプレー用組成物を良好にスプレーすることができる。具体的には、スプレー用組成物のチキソ性がある程度高いことにより、スプレー用組成物を霧状にスプレーすることができる。
【0026】
さらに、スプレー用組成物のチキソ性がある程度高いことにより、スプレー塗付された対象物表面において、スプレー用組成物の液だれを防ぐことができる。また、スプレー用組成物のチキソ性が高いほど、スプレー用組成物を小さな力で良好にスプレーすることができる。
【0027】
本開示において、セルロースI型結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したセルロースI型結晶化度であり、下記式(2)により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100 …(2)
式(2)において、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。
【0028】
(置換基)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維は、たとえば後述のようにスルファミン酸を用いて、セルロース繊維を硫酸エステル化したものある。具体的には、(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースの有する一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換されている。言い換えれば、(A)化学修飾セルロース繊維は、たとえばセルロースが有する水酸基の酸素原子に水素原子に代わって-SO
3
-Mが結合した構造を有している。すわなち、(A)化学修飾セルロース繊維には、硫酸基が導入されている。ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【化3】
【0029】
一般式(1)においてMで表される1~3価の陽イオンとしては、たとえば、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンが挙げられる。なお、当該Mが2価または3価の陽イオンである場合、当該陽イオンは、たとえば、2つまたは3つの-OSO3
-との間でイオン結合を形成する。
【0030】
金属イオンとしては、たとえば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウムが挙げられる。遷移金属としては、鉄、ニッケル、パラジウム、銅、銀が挙げられる。その他の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどが挙げられる。
【0031】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンが挙げられる。具体的には、アンモニウムイオンとしては、NH4
+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0032】
一般式(1)においてMで表される陽イオンとしては、特に限定されないが、スプレー用組成物のチキソ性を高める観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオン、または第四級アンモニウムカチオンが好ましい。当該陽イオンは、いずれか1種でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0033】
(置換基の量)
(A)化学修飾セルロース繊維1gあたりが有する一般式(1)の置換基の量(以下、「導入量」とも称する。)は、0.01~3.0mmolであることが好ましい。導入量が3.0mmol/g以下であることにより、セルロース結晶構造を維持することができるため、スプレー用組成物のチキソ性を高めることができる。導入量は、2.8mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、セルロース繊維の表面を全体的に置換基で覆うと、セルロース繊維の水中での分散性が向上し、スプレー用組成物のチキソ性を高めることができるため、導入量は、0.01mmol以上/gであることが好ましく、0.05mmol/g以上であることがより好ましく、0.1mmol/g以上であることがさらに好ましい。
【0034】
本開示において、置換基の導入量は、電位差測定により算出される値である。たとえば、原料の未反応物や、それらの加水分解物等の副生成物を洗浄により除去した後、電位差測定の分析を行って算出することができる。具体的には後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
(平均重合度)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度(すなわちグルコースユニットの繰り返し数の平均値)は、100以上である。平均重合度が100以上であることにより、スプレー用組成物のチキソ性を高めることができる。平均重合度は、好ましくは200以上であり、より好ましくは300以上であり、より好ましくは400以上である。なお、(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度が高いほど、(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維長が大きくなる傾向がある。
【0036】
平均重合度の上限は特に限定されないが、平均重合度は、3000以下であることが好ましく、2500以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましい。
【0037】
本開示において、平均重合度は、粘度法により測定される値である。具体的には、平均重合度は、JIS-P8215に準じて測定された極限粘度数[η]を用いて、下記式(3)により得られる。
平均重合度=(1/Km)×[η] …(3)
ただし、式(3)において、Kmは係数であり、セルロース固有の値である(1/Km=156)。
【0038】
(平均繊維長)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維長は、スプレー用組成物のチキソ性を高める観点から0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また。上限は特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下でもよく、200μm以下でもよい。
【0039】
なお、本開示において、(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維長は、50本のセルロース繊維について顕微鏡観察により測定される各繊維長の平均値である。
【0040】
(平均繊維幅)
(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は、スプレー用組成物のチキソ性を高める観点から、3nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、平均繊維幅は、スプレー用組成物のチキソ性を高める観点から、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μmであることがより好ましく、0.3μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
なお、本開示において、(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は、50本のセルロース繊維について顕微鏡観察により測定される各繊維幅の平均値である。
【0042】
[(A)化学修飾セルロース繊維の製造方法]
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、セルロース原料とスルファミン酸とを反応させて、セルロース繊維を硫酸エステル化する工程(化学修飾工程)を含む。
【0043】
(セルロース原料)
化学修飾工程で用いるセルロース原料の具体例としては、植物(たとえば木材、綿、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(たとえばホヤ類)、藻類、微生物(たとえば酢酸菌)、微生物産生物等を起源とするものが挙げられる。セルロース原料としては、植物由来のパルプが好ましい原材料として挙げられる。
【0044】
植物由来のパルプとしては、たとえば、木材チップ等を原料として得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)が好ましいものとして挙げられる。
【0045】
また、セルロース原料として、本実施形態の目的を阻害しない範囲内で化学修飾された化学変性パルプを使用してもよい。具体的には、たとえば、使用するセルロース原料は、セルロース繊維表面に存在する一部の水酸基が、酢酸、硝酸エステル等のオキソ酸によりエステル化されたものであってもよいし、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のようにエーテル化されたものであってもよい。また、使用するセルロース原料は、TEMPO酸化処理されたものであってもよい。
【0046】
セルロース原料としては、セルロースI型結晶を有し、セルロースI型結晶化度が50%以上であるものを用いることが好ましい。セルロース原料のセルロースI型結晶化度の値は、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。セルロース原料のセルロースI型結晶化度の上限は、特に限定されないが、たとえば98%以下でもよく、95%以下でもよく、90%以下でもよい。
【0047】
セルロース原料の形状は、特に限定されないが、取扱性を高める観点から繊維状、シート状、綿状、粉末状、チップ状、フレーク状が望ましい。
【0048】
(前処理工程)
嵩密度が高いセルロース原料を用いる場合は、化学修飾工程に先立って前処理を行うことにより、嵩密度を低下させてもよい。このような前処理を行うことにより、化学修飾工程において、より効率的に硫酸エステル化を行うことができる。
【0049】
前処理方法としては、特に限定されないが、たとえば機械処理を行うことにより、セルロース原料を適度な嵩密度にすることができる。使用する機械の種類や処理条件については特に限定されないが、使用する機械としては、たとえば、シュレッダー、ボールミル、振動ミル、石臼、グラインダー、ブレンダー、高速回転ミキサー、パルパー、カッターミル、ディスクリファイナー等が挙げられる。嵩密度は、特に限定されないが、たとえば、0.1~5.0kg/m3であることが好ましく、0.1~3.0kg/m3であることがより好ましく、0.1~1.0kg/m3であることがさらに好ましい。
【0050】
(化学修飾工程)
化学修飾工程においては、セルロース原料をスルファミン酸で処理することにより、当該セルロース原料に含まれるセルロース繊維を硫酸エステル化する。具体的には、たとえば、スルファミン酸を含む薬液にセルロース原料を浸漬してセルロース繊維とスルファミン酸とを反応させることにより、セルロース繊維を硫酸エステル化することができる。
【0051】
硫酸エステル化反応を行う薬液は、たとえばスルファミン酸と溶媒とを含む。当該溶媒としては、特に限定されないが、水のほか、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ドデカノール等の炭素数1~12の直鎖あるいは分岐のアルコール; アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン; 直鎖または分岐状の炭素数1~6の飽和炭化水素または不飽和炭化水素; ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素; 塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素; 炭素数2~5の低級アルキルエーテル; ジオキサン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ピリジン等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
ここで、溶媒として極性有機溶媒を用いると、セルロース原料の膨潤が促進されて硫酸エステル化の反応速度を高めることができ、また、局所的な反応進行を抑制し繊維表面に均一に硫酸基を導入することができるため、スプレー用組成物のチキソ性を高めることができる。極性有機溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ピリジン等を上げることができる。
【0053】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、たとえば、セルロース原料の乾燥質量に対して10~10000質量%であることが好ましく、20~5000質量%であることがより好ましく、50~2000質量%であることがさらに好ましい。
【0054】
上記薬液は、さらに触媒を含んでもよい。触媒としては、尿素,アミド類,三級アミン類等が挙げられるが、安価で取扱いが簡便という観点から尿素を用いることが好ましい。触媒の使用量は、特に限定されないが、たとえば、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり0.001~5モルが好ましく、0.005~2.5モルがより好ましく、0.01~2.0モルがさらに好ましい。触媒は、高濃度のものをそのまま用いてもよく、溶媒で希釈して用いてもよい。塩基性触媒の添加方法は、一括添加、分割添加、連続的添加、またはこれらの組合せで行うことができる。
【0055】
セルロース繊維を硫酸エステル化する際の薬液の温度は、0~100℃が好ましく、10~80℃がより好ましく、20~70℃がさらに好ましい。薬液の温度が高すぎるとセルロース分子内のグリコシド結合が切断してしまうことにより(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度が低下してしまう。一方、薬液の温度が低すぎると、反応に時間を要してしまう。硫酸エステル化に要する時間は、通常30分~5時間程度である。
【0056】
スルファミン酸の使用量は、セルロース繊維への置換基の導入量を考慮して適宜調整することができる。スルファミン酸は、たとえば、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり、0.01~50モル使用することが好ましく、0.1~30モル使用することがより好ましい。
【0057】
着色の少ない製品を得るために、硫酸エステル化反応の際に、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスや炭酸ガスを導入してもよい。これらの不活性ガス等の導入方法としては、不活性ガス等を反応槽に吹き込みながら反応を行う方法、反応前に反応槽内を不活性ガス等で置換した後、反応槽を密閉して反応を行う方法、およびその他の方法のいずれでもよい。
【0058】
スルファミン酸は、無水硫酸や硫酸水溶液等に比べて、酸解離定数(pKa)が大きく反応溶液中に存在する水素イオンが少ないため、セルロース中のグリコシド結合を切断することなくグルコースの重合状態を維持することが可能である。つまり、スルファミン酸を用いてセルロース繊維を硫酸エステル化することにより、平均重合度が高いままの(A)化学修飾セルロース繊維を得ることができる。
【0059】
また、スルファミン酸は、
強酸性かつ高腐食性のある無水硫酸や硫酸水溶液等と異なり、取り扱いに関して制限がなく、また、大気汚染防止法の特定物質にも指定されていないことからも分かるように、環境に対する負荷が小さい。すなわち、スルファミン酸を用いてセルロース繊維を硫酸エステル化することにより、各種の管理コストを含む製造コストを抑制することができる。
【0060】
なお、化学修飾工程の後、必要に応じて別の化学修飾工程を設けてもよい。当該別の化学修飾工程としては、たとえば、硫酸エステル化されなかったセルロース繊維表面に存在する一部の水酸基を、酢酸、硝酸等のオキソ酸によりエステル化する工程であってもよいし、当該一部の水酸基をメチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のようにエーテル化する工程であってもよいし、セルロース繊維をTEMPO酸化処理する工程であってもよい。
【0061】
(中和工程)
たとえば、化学修飾工程の後、ろ過等により、化学修飾セルロース繊維を溶媒から分離し、得られた膨潤状態の化学修飾セルロース繊維を水に分散させる。そして、セルロース繊維の分散液に塩基性化合物を添加することにより、当該分散液を中和する。これにより、化学修飾セルロース繊維の有する-OSO3
-と塩基性化合物に由来する陽イオンとがイオン結合を形成する。
【0062】
このように分散液に塩基性化合物を添加してpH値を中性あるいはアルカリ性に調整することにより、化学修飾セルロース繊維自体の保存安定性を向上させることができる。具体的には、中和工程を行うことにより、(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度を高いまま維持することができる。
【0063】
中和に用いる塩基性化合物としては、特に限定されないが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、その他の無機塩、アミン類等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩基性乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、アンモニア,メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミンが挙げられる。なお、中和には、一種類の塩基性化合物を単独で用いてもよいし、二種類以上の塩基性化合を併用してもよい。
【0064】
(洗浄工程)
たとえば、硫酸エステル化試薬残渣、残留触媒、溶媒などの除去の目的、あるいは反応停止の目的で、化学修飾セルロース繊維を洗浄する工程を設けてもよい。洗浄工程においては、化学修飾セルロース繊維を、水を用いて洗浄することが好ましい。
【0065】
洗浄方法は、特に限定されないが、化学修飾セルロース繊維を分散媒である水からろ過等により分離し、得られた膨潤状態の化学修飾セルロース繊維を、別途用意した水に再度分散させる。このような工程を1回または複数回行うことにより、化学修飾セルロース繊維を洗浄することができる。なお、化学修飾セルロース繊維は、遠心沈降法、プレス処理等により分散媒から分離させてもよい。なお、ここでは、一例として化学修飾セルロース繊維を水で洗浄する方法について説明したが、有機溶媒等の他の液体で洗浄しても良い。
【0066】
(微細化処理工程)
セルロース原料は、セルロース繊維の繊維長が比較的小さい場合、化学修飾工程等を経ることにより、機械的な解繊処理を行わなくてもある程度解繊する。一方、セルロース原料は、セルロース繊維の繊維長が比較的大きい場合には、化学修飾工程等を経るだけではほとんど解繊しない。このような場合、たとえば、中和工程および洗浄工程を経たセルロース原料を脱水して水の量を調整した後、機械的な解繊処理(微細化処理工程)を行うことにより、解繊した化学修飾セルロース繊維を得ることができる。なお、本実施の形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維は、微細化処理工程を経たものであってもよいし、経ていないものであってもよい。
【0067】
微細化処理工程に用いる装置としては、たとえば、マイクロフルイタイザー、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル(具体的には、ロッキングミル、ボールミル、ビーズミル等)、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等が挙げられる。
【0068】
本実施の形態に係るゲル状組成物における(A)化学修飾セルロース繊維の含有率は、スプレー用組成物のチキソ性を高める観点から、0.01~3%が好ましく、0.05~1%がより好ましく、0.08~0.5%がさらに好ましい。
【0069】
[(B)機能性添加剤]
本実施形態に係るスプレー用組成物は、たとえば、(B)機能性添加剤を含んでもよい。(B)機能性添加剤としては、例えば、電解質、イオン性物質、界面活性剤、オイル類、保湿剤、有機微粒子、無機微粒子、防腐剤、消臭剤、香料、有機溶媒等を挙げることができる。特に、本実施例に係るスプレー用組成物は、電解質やイオン性物質(イオン性の界面活性剤を含む)を配合しても、ゲル状態を示す高い粘度を有し、かつ、分離や離水などを起こさずにゲル状態を保つという特徴があることから、これらの機能性添加剤が必要材料とされるスプレー用組成物において、優れた性能を発揮することができる。
【0070】
電解質、イオン性物質としては、例えば、塩化ナトリウム,エデト酸ナトリウム,アスコルビン酸ナトリウム等の、アルカリ金属,アルカリ土類金属,遷移金属等と、ハロゲン化水素,硫酸,炭酸,分子中にカルボキシル基を1つ以上有する有機酸等とからなる塩類、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のスルホン酸系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル等のリン酸エステル系界面活性剤等であって、水などの分散媒に溶解・分散できるものが用いられる。
【0071】
非イオン性の界面活性剤としては、例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合体等があげられる。
【0072】
オイル類としては、例えば、ホホバ油,マカデミアナッツ油,アボガド油,月見草油,ミンク油,ナタネ油,ひまし油,ヒマワリ油,トウモロコシ油,カカオ油,ヤシ油,コメヌカ油,オリーブ油,アーモンド油,ごま油,サフラワー油,大豆油,椿油,パーシック油,ミンク油,綿実油,モクロウ,パーム油,パーム核油,卵黄油,ラノリン,スクワレン等の天然動植物油脂類、合成トリグリセライド,スクワラン,流動パラフィン,ワセリン,セレシン,マイクロクリスタリンワックス,イソパラフィン等の炭化水素類、カルナバウロウ,パラフィンワックス,鯨ロウ,ミツロウ,キャンデリラワックス,ラノリン等のワックス類、高級アルコール類(セタノール,ステアリルアルコール,ラウリルアルコール,セトステアリルアルコール,オレイルアルコール,ベヘニルアルコール,ラノリンアルコール,水添ラノリンアルコール,ヘキシルデカノール,オクチルドデカノール等),ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘニン酸,イソステアリン酸,オレイン酸,リノレン酸,リノール酸,オキシステアリン酸,ウンデシレン酸,ラノリン脂肪酸,硬質ラノリン脂肪酸,軟質ラノリン脂肪酸等の高級脂肪酸類、コレステリル-オクチルドデシル-ベヘニル等のコレステロールおよびその誘導体、イソプロピルミリスチン酸,イソプロピルパルミチン酸,イソプロピルステアリン酸,2エチルヘキサン酸グリセロール,ブチルステアリン酸等のエステル類、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリトリトールエーテル,ポリオキシプロピレンブチルエーテル,リノール酸エチル等の極性オイル、アミノ変性シリコーン,エポキシ変性シリコーン,カルボキシル変性シリコーン,カルビノール変性シリコーン,メタクリル変性シリコーン,メルカプト変性シリコーン,フェノール変性シリコーン,片末端反応性シリコーン,異種官能基変性シリコーン,ポリエーテル変性シリコーン,メチルスチリル変性シリコーン,アルキル変性シリコーン,高級脂肪酸エステル変性シリコーン,親水性特殊変性シリコーン,高級アルコキシ変性シリコーン,高級脂肪酸含有シリコーン,フッ素変性シリコーン等のシリコーン類等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0073】
なお、上記シリコーン類は、より具体的には、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサンシロキサン、メチルシクロポリシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、ポリオキシプロピレン・メチルポリシロキサン共重合体、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体、メチルハイドロジェンポリシロキサン、テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサン、ステアロキシメチルポリシロキサン、セトキシメチルポリシロキサン、メチルポリシロキサンエマルション、高重合メチルポリシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、架橋型メチルポリシロキサン、架橋型メチルフェニルポリシロキサン等である。
【0074】
保湿剤としては、トリオクタン酸グリセリル、マルチトール、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリコール等の多価アルコール、ピロリドンカルボン酸ソーダ、乳酸ソーダ、クエン酸ソーダなど有機酸およびその塩、ヒアルロン酸ソーダなどヒアルロン酸およびその塩、酵母および酵母抽出液の加水分解物、酵母培養液、乳酸菌培養液など醗酵代謝産物、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、セリシン等の水溶性蛋白、コラーゲン加水分解物、カゼイン加水分解物、シルク加水分解物、ポリアスパラギン酸ナトリウム等のぺプチド類およびその塩、トレハロース、キシロビオース、マルトース、蔗糖、ブドウ糖、植物性粘質多糖等の糖類・多糖類およびその誘導体、水溶性キチン、キトサン、ペクチン、コンドロイチン硫酸およびその塩等のグリコサミノグリカンおよびその塩、グリシン、セリン、スレオニン、アラニン、アスパラギン酸、チロシン、バリン、ロイシン、アルギニン、グルタミン、プロリン酸等のアミノ酸、アミノカルボニル反応物等の糖アミノ酸化合物、アロエ、マロニエ等の植物抽出液、トリメチルグリシン、尿素、尿酸、アンモニア、レシチン、ラノリン、スクワラン、スクワレン、グルコサミン、クレアチニン、DNA、RNA等の核酸関連物質等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0075】
有機微粒子としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合系ラテックス、アクリル系エマルジョン等の乳化重合によって得られるラテックス・エマルジョンやポリウレタン水分散体があげられる。また、無機微粒子としては、例えば、ゼオライト、モンモリロナイト、アスベスト、スメクタイト、マイカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン等の無機微粒子があげられる。そして、これらの微粒子は、噴霧特性を損なわないように10μm以下、好ましくは5μm以下の平均粒径をもつように微細化されたものが望ましい。
【0076】
防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等があげられる。
【0077】
消臭剤・香料としては、D-リモネン、デシルアルデヒド、メントン、プレゴン、オイゲノール、シンナムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メントール、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、植物の各器官より抽出した消臭有効成分(例えば、水や親水性有機溶剤により、カタバミ,ドクダミ,ツガ,イチョウ,クロマツ,カラマツ,アカマツ,キリ,ヒイラギモクセイ,ライラック,キンモクセイ,フキ,ツワブキ,レンギョウの各器官から抽出し得られた消臭有効成分)等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0078】
有機溶媒としては、水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)やN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0079】
なお、(B)機能性添加剤は、本発明のスプレー用組成物の利用分野、要求性能に応じて、単独であるいは二種以上併せて用いられるものであり、その配合量も要求性能に応じて適正な範囲で用いられる。
【0080】
本実施の形態に係るスプレー用組成物は、たとえば、(A)化学修飾セルロース繊維の水分散体に(B)機能性添加剤を添加して、分散機で分散させることにより調製される。なお、(A)化学修飾セルロース繊維の調製時に(B)機能性添加剤を添加してもよい。
【0081】
また、(A)化学修飾セルロース繊維は、乳化安定剤としての働きもあるため、本実施の形態に係るスプレー用組成物にオイル類を配合する場合は、常法のO/W型乳化エマルジョンの調整方法に従い調製すればよい。その際に、乳化安定剤となる非イオン性の界面活性剤等を併用してもよい。セルロース繊維の配合量は、乳化安定性とスプレー性を考慮して決定する。
【0082】
本実施の形態に係るスプレー用組成物において、(A)化学修飾セルロース繊維の含有割合は、ずり応力を与えてない静止状態のスプレー用組成物を好適なゲル状にする観点から、0.1~5.0重量%であることが好ましく、0.2~3.0質量%であることより好ましい。
【0083】
また、本実施の形態に係るスプレー用組成物は、コーン・プレート型回転粘度計による粘度の測定値により規定される。具体的には、20℃のスプレー用組成物にせん断応力を印加して、ずり速度を1×10-2S-1~1×103S-1の範囲で変化させた場合において、スプレー用組成物の粘度の最大値(ηmax)は、ηmax≧1×104mPa・sである。これにより、スプレー塗付された対象物表面において、スプレー用組成物の液だれを防止することができる。また、当該粘度の最小値(ηmin)は、ηmin≦1×102mPa・sである。これにより、スプレー用組成物を霧状にスプレーすることができる。
【0084】
また、ηmaxが1×104mPa・sを下回る場合、上記液だれの防止性が低下する。また、ηminが1×102mPa・sを上回ると、スプレー用組成物を霧状にスプレーすることができなくなり、スプレーむらを生じさせる場合がある。なお、スプレー塗付の塗布密度が比較的低い場合には、ηmax≧1×104mPa・sを満足していれば充分に上記液だれの防止性が期待できるが、厚く塗布するような場合にはηmax≧1×104mPa・sを満たしていても、液だれ防止を阻止できないことが起こり得るため、ηmax≧5×104mPa・sであることが好ましい。
【0085】
また、通常の塗布密度では、ηmin≦1×102mPa・sを満足していればスプレーむらは生じないが、ごく薄く均一にスプレーしたい場合にはηmin≦5×101mPa・sであることが好ましい。また、本実施形態に係るスプレー用組成物を安定してスプレー可能とするため、ηmaxは1×109mPa・sを超えないことが好ましい。
【0086】
[水]
本実施の形態に係るスプレー用組成物に用いる水としては、イオン交換水、蒸留水等を挙げることができる。また、本実施の形態に係るゲル状組成物における水の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、75質量%であることがより好ましい。
【0087】
本実施の形態に係るスプレー用組成物は、高いチクソ性を有していることにより、スプレー時には低粘度化するため、良好にスプレーすることができる。そして、ノズルから噴出した液滴は、スプレー対象物の表面に付着するまでの間に、あるいは付着してすぐに粘度が回復するため、当該表面での液だれが起こり難い。さらに、当該表面に付着したスプレー用組成物は、優れた展延性を有している。また、本実施の形態に係るスプレー用組成物は、50℃以上の高温においても粘度低下が起こらず温度安定性に優れており、水溶性高分子を用いて増粘させた場合のようなべたつき感が無い。
【0088】
本実施の形態において用いる噴霧器は、上記組成物を容易に充填でき、噴霧を可能とするものであれば特に限定されないが、汎用性や噴霧性能の精度の高さを考慮すると、以下の3つの形態(1)~(3)であることが好ましい。
【0089】
(1)噴霧可能なポンプ式ノズルを装着したディスペンサー式噴霧器:本噴霧器は、大気圧で噴霧を操作でき、加圧ガスなどを必要とせず、かつ容器構造も比較的単純であるので安全性が高く、携帯用に向いた噴霧装置である。構造は、吸い上げ用のチューブを装着した押し出しポンプ式のノズルと、これを固定し、上記組成物を充填するねじ式容器からなる。ここでいうディスペンサー式噴霧装置には、噴霧性能を高めるためにポンプ式ノズルの構造改良を行った装置等もすべて含まれる。噴霧特性は、噴出しノズルの孔径やポンプの1回当たりの押し出し体積等に依存するが、これらの条件は目的に応じて選定する。
【0090】
(2)トリガー式噴霧器:トリガー式噴霧器は、住宅用洗剤、衣料用糊剤、台所用洗剤などの噴霧器として、上記組成物を充填する容器本体の口部にピストル状のトリガー式スプレー装置が装着されたものであり、大気圧で噴霧を操作でき、液体噴霧器として汎用性の高いものである。ここでいうトリガー式噴霧器には、噴霧性能を高めるために、トリガー式スプレー装置の一部を改良したものもすべて含まれる。
【0091】
(3)エアゾール式噴霧器:エアゾール式噴霧器は、容器内への噴射剤を充填することによって上記2つの噴霧装置では実現できない連続噴霧化あるいは連続フォーム形成を可能とするものである。ここでいうエアゾール式噴霧器には、エアゾール式容器の噴射装置部分に改良を施したもの等もすべて含まれる。一般的に、本噴霧器を用いた噴霧化では、大気圧下で実施する上記2つの噴霧に比べ、より細かな噴霧が可能となる。エアゾール式噴霧で使用する噴射剤としては、ジメチルエーテル、液化石油ガス、炭酸ガス、窒素ガス、アルゴンガス、空気、酸素ガス、フロンガス等をあげることができ、これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0092】
スプレー用組成物は、たとえば噴霧器が有する容器内でゲル状であるため、傾けても流動しない。これにより、たとえば噴霧器を大きく傾けたり、逆さまにしたりした場合でも噴霧が可能となる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
[(A)化学修飾セルロース繊維の調製]
まず、実施例に用いる各(A)化学修飾セルロース繊維を下記の製造例1~3に従って調製する。
【0095】
(製造例1)
セパラブルフラスコにスルファミン酸52.8g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)620gを投入し、30分間攪拌を行った。その後、室温下、セルロース原料として針葉樹クラフトパルプ(結晶化度85%)20.0gを投入した。ここで、硫酸エステル化試薬であるスルファミン酸の使用量は、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり4.4モルとした。55℃で4時間反応させた後、室温まで冷却した。次に繊維を取り出し水で洗浄した後、中和剤として2N水酸化ナトリウム水溶液に投入してpHを7.6にし、脱水を行った後、固形分濃度が1.0%になるように水で希釈した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことで、化学修飾セルロース繊維A1(表中では「A1」と表記する)の水分散体を得た。
【0096】
(製造例2)
スルファミン酸の仕込量を26.4gとしたこと以外は、製造例1と同様の手順により、化学修飾セルロース繊維A2(表中では「A2」と表記する)の水分散体を得た。
【0097】
(製造例3)
微細化処理工程を行わないこと以外は、製造例2と同様の手順により、固形分濃度が1.0%の水分散体を得た。この水分散体150gをセパラブルフラスコに移し、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)0.025gを加え攪拌した。pHが10-11となるよう0.5N水酸化ナトリウム水溶液を適量投入しながら、13%次亜塩素酸ナトリウム6.6gを滴下した。45分間酸化反応させ、pHに変化が見られなくなったことを確認した後、0.1N塩酸を加えてpH=7.0とした。脱水を行った後、固形分濃度が1.0%になるように水で希釈した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことで、化学修飾セルロース繊維A3(表中では「A3」と表記する)の水分散体を得た。
【0098】
製造例1~3により得られた各(A)化学修飾セルロース繊維について、
(1)(A)化学修飾セルロース繊維1gが有する硫酸基量、
(2)(A)化学修飾セルロース繊維1gが有するカルボキシ基量、
(3)平均重合度、
(4)平均繊維幅、および
(5)結晶化度を測定した。
測定結果を表1に示す。各測定の詳細については、以下に示す。
【0099】
(1)硫酸基量(mmol/g)
硫酸基量は電位差測定により算出した。詳細には、乾燥重量を精秤した硫酸エステル化セルロース繊維試料から固形分率0.5質量%に調製した硫酸エステル化セルロース繊維の水分散体を60ml調製し、0.1N塩酸水溶液によってpHを約1.5とした後、ろ過、水洗浄し、繊維を再び固形分率0.5質量%となるよう水に再分散させ、0.1N水酸化カリウム水溶液を滴下して電位差滴定を行った。0.1N水酸化カリウムの滴下量から硫酸基量を算出した。
【0100】
(2)カルボキシ基量(mmol/g)
カルボキシ基量は電位差測定により算出した。詳細は(1)硫酸基量の測定と同様の手法で行った。カルボキシ基量の算出は、TEMPO酸化を行った試料の0.1N水酸化カリウムの滴下量と、TEMPO酸化を行う前の試料(硫酸エステル化後)の0.1N水酸化カリウムの滴下量の差分で算出した。
【0101】
(3)平均重合度
(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は粘度法により算出した。詳細には、JIS-P8215に準じて極限粘度数[η]を測定し、下記式(3)より平均重合度(DP)を求めた。ただし、式(3)において、Kmは係数であり、セルロース固有の値である(1/Km=156)。
DP=(1/Km)×[η] …(3)
(Kmは係数でセルロース固有の値。1/Km=156)
【0102】
(4)平均繊維幅(nm)
(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅の測定は、電子顕微鏡(TEM)で行った。詳細には、親水化処理済みのカーボン膜被覆をグリット状にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:1000~10000倍)で観察した繊維50本の繊維幅の各平均値を算出し、平均繊維幅とした。
【0103】
(5)結晶化度(セルロースI型結晶化度)(%)
(A)化学修飾セルロース繊維のX線回折強度をX線回折法にて測定し、その測定結果からSegal法を用いて下記式(2)により算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100 …(2)
式(2)において、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。また、サンプルのX線回折強度の測定を、株式会社リガク製の「RINT2200」を用いて以下の条件にて実施した:
X線源:Cu/Kα-radiation
管電圧:40Kv
管電流:30mA
測定範囲:回折角2θ=5~35°
X線のスキャンスピード:10°/min
なお、上記のセルロース原料の結晶化度についても同様に測定した。
【0104】
【0105】
(組成物の調製)
製造例1~3により得られた(A)化学修飾セルロース繊維の水分散体等を用いて、スプレー用組成物を調製した。具体的には、表2に示す配合割合となるように、(A)化学修飾セルロース繊維の水分散体、セルロースナノクリスタル(CNC)の水分散体またはカルボキシメチルセルロース(CMC)の水分散体と、水とを混合し、ホモミキサーを用いて8000rpmで10分間分散処理を行うことにより、表2の各実施例および各比較例に係るスプレー用組成物を調製した。なお、CNCおよびCMCは、(A)化学修飾セルロース繊維の比較用材料である。
【0106】
比較例で使用したCNCについては、次の手順で調製した。すなわち、セパラブルフラスコに64%硫酸100mL、針葉樹クラフトパルプ2gを投入し、50℃で1時間加熱した。十分に冷却した後、別の水1000mLの入ったセパラブルフラスコに反応液を少量ずつ投入した。遠心分離した後、1N水酸化ナトリウムで中和し、脱水した。粗大繊維を金属メッシュでろ過により取り除くことでセルロースナノクリスタルを得た。当該CNCのセルロースの平均重合度は90であり、平均繊維幅は40nmであった。当該平均重合度および当該平均繊維幅は、(A)化学修飾セルロース繊維と同様に測定した。
【0107】
また、比較例で使用したCMCは、次のものである。
・第一工業製薬社製 セロゲンWS-A
【0108】
また、表2は、スプレー用組成物における成分の比率およびゲル状組成物の評価結果も示す。具体的には、表2は、当該比率として、スプレー用組成物における(A)化学修飾セルロース繊維、CNCまたはCMCの固形分率(質量%)を示す。また、表2は、当該評価結果として、後述するスプレー用組成物の粘弾性特性、静止時においてゲル状態であるか否か、および噴霧状態を示す。
【0109】
(評価)
[粘弾性特性]
各実施例および各比較例に係るスプレー用組成物を20℃に調製し、各スプレー用組成物の粘弾性特性を、コーン・プレート型回転粘度計(アントンパール社製、MCR302)を用いて測定した。具体的には、当該コーン・プレート型回転粘度計を用いて、ずり速度領域が1×10-2S-1~1×103S-1における粘度の最大値(ηmax)および最小値(ηmin)を測定した。
【0110】
[ゲル状態(静止時)]
各実施例および各比較例に係るスプレー用組成物100gを200mlのビーカーに入れて20℃に調整し、当該ビーカーを逆転させたときの当該スプレー用組成物の状態を目視で観察し、当該スプレー用組成物がゲルであるか否かを判定した。判定の基準を以下に示す。
ゲルである(〇):液面が流動しない。
ゲルでない(×):液面が流動する。
【0111】
[噴霧状態]
噴霧器を用いて、各実施例および各比較例に係るスプレー用組成物の噴射を試み、噴射することができた場合にはその状態を目視で観察した。具体的には、スプレー用組成物を市販の容量50ml用のディスペンサー型のスプレー容器(サンプラテック社製分注瓶(スプレー式)S-50)を用いてこの評価を行った。判定の基準を以下に示す。
〇:ノズルからスプレー用組成物がミスト状に噴射される。
×:ノズルからスプレー用組成物を噴射させることができない、または噴射されたスプレー用組成物がミスト状でない。
【0112】
【0113】
表2を参照して、各実施例に係るスプレー用組成物は、ゲル状であるにも拘わらず、良好にスプレーすることができた。一方、比較例2では、CMCを用いてゲル状の組成物を調製したが、当該組成物を良好にスプレーすることができなかった。