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特許7100629化学修飾されたカプシドを有するRAAV
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】化学修飾されたカプシドを有するRAAV
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220706BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220706BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20220706BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220706BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220706BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61K35/76 ZNA
A61K47/54
A61K47/60
A61K47/64
A61K48/00
A61P1/16
A61P3/00
A61P7/00
A61P9/04
A61P21/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P35/00
A61P37/02
【請求項の数】 48
(21)【出願番号】P 2019517161
(86)(22)【出願日】2017-06-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2017064089
(87)【国際公開番号】W WO2017212019
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-29
(31)【優先権主張番号】16305681.5
(32)【優先日】2016-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500531141
【氏名又は名称】セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】511142062
【氏名又は名称】アンスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ レシェルシュ メディカル(アンセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】516293716
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド ナント
(73)【特許権者】
【識別番号】518439815
【氏名又は名称】セントレ ホスピタリエ ユニヴェルシタイレ ド ナント
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】メヴェル,マテュー
(72)【発明者】
【氏名】デニオー,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】アユソー,エデュアード
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/106046(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/048534(WO,A1)
【文献】Kye-Il J. et al.,ACS NANO,2011年,Vol. 5, No. 5,p. 3523-3535
【文献】Wobus C. E. et al.,Journal of Virology,2000年,Vol. 74, No. 19,p. 9281-9293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/864
A61K 35/76
A61P 1/16
A61P 3/00
A61P 7/00
A61P 9/04
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 27/02
A61P 35/00
A61K 48/00
A61P 37/02
A61K 47/54
A61K 47/64
A61K 47/60
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のリガンドLと化学的にカップリングされた、カプシドタンパク質に含まれる1以上の第一級アミノ基を有する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子であって、上記リガンドLが、下記の式(I)
【化1】
(式中、Nはカプシドタンパク質に含まれる1つの第一級アミノ基の窒素原子であり、
【化2】
は1以上のリガンドLに直接又は間接的に共有結合した、任意的に置換されていてもよい、アリーレン又はヘテロアリーレン基を表す。)の化合物の形態で存在する、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子。
【請求項2】
【化3】
が、フェニレン基、ナフチレン又はピリジレン基である、請求項1に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項3】
【化4】
が、
【化5】

を表す、請求項1又は2に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項4】
上記組換えアデノ随伴ウイルスベクターが、天然に存在するセロタイプ由来の野生型カプシドタンパク質から構成される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項5】
上記組換えアデノ随伴ウイルスが、天然に存在するセロタイプ由来のカプシドタンパク質が遺伝子改変されたアデノ随伴ウイルス又は合成カプシドによって構成されるアデノ随伴ウイルスである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項6】
リガンドLが、ターゲティング剤、中和抗体との相互作用を避けるための立体遮蔽剤、標識剤又は磁性剤である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項7】
前記ターゲティング剤としての前記リガンドLが、細胞型特異的リガンドである、請求項6に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項8】
前記細胞型特異的リガンドが、タンパク質から、単糖類もしくは多糖類から、ステロイドホルモンから、RGDモチーフペプチドから、ビタミン類から、小分子から、又はターゲティングペプチドから誘導されるものである、請求項7に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項9】
前記細胞型特異的リガンドが、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、又はマンノースから誘導されるものである、請求項7又は8に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項10】
前記立体遮蔽剤としての前記リガンドLが、合成ポリマーから誘導される、中和抗体との相互作用を避けるための立体遮蔽剤である、請求項6に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項11】
前記合成ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)又はpHPMAである、請求項9に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項12】
前記標識剤としての前記リガンドLが、分析遺伝子導入のための標識剤である、請求項6に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項13】
前記標識剤が、蛍光色素、ナノ金粒子又は放射性色素である、請求項12に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項14】
前記標識剤が、フルオレセイン、ローダミン 18F、124,125,131I、64Cu又は67Cuである、請求項13に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項15】
前記磁性剤としての前記リガンドLが、鉄粒子である、請求項6に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項16】
式(I)の部分が、
【化6】
【化7】
から選択される、請求項1乃至15のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項17】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター粒子を1以上のリガンドLと化学的にカップリングさせるための方法であって、少なくとも以下の工程:
カプシドタンパク質に含まれる1以上の第一級アミノ基を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を用意する工程、及び
上記AAV粒子を次の式(II)の試薬
B-N=C=S (II)
(式中、Bは、(L)m(X)Ar-基であり、
リガンドLは請求項6乃至15のいずれか1項で定義した通りであり、
mは1~1000の整数を表し、
Arは、アリーレン又はヘテロアリーレン基を表し、又は請求項2若しくは3で定義した通りであり、
Xは結合又は上記リガンドLとArとの間のスペーサーを表す。)と、第一級アミノ基を式(II)の試薬の-N=C=S基と反応させるのに適した条件下で、接触させる工程
を含む方法。
【請求項18】
Xが、次の基
【化8】
(式中、nは0~5000の整数である。)、又は次の基
【化9】
(式中、nは0~5000の整数である。)を表す、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
Xが、次の基
【化8】
(式中、nは1~500の整数である。)を表す、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
Xが、次の基
【化8】
(式中、nは2~100の整数である。)を表す、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
Xが、次の基
【化8】
(式中、nは3~20の整数である。)を表す、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
Xが、次の基
【化8】
(式中、nは3である。)を表す、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
Xが、次の基
【化9】
(式中、nは1~2000の整数である。)を表す、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
Xが、次の基
【化9】
(式中、nは3~100の整数である。)を表す、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
Xが、次の基
【化9】
(式中、nは3である。)を表す、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
上記AAV粒子を式(II)の試薬と接触させる工程が、TRIS緩衝食塩水、炭酸ナトリウム-重炭酸ナトリウム緩衝液、PBS及びdPBSから選択される緩衝液の存在下で行われる、請求項17乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
上記AAV粒子を式(II)の試薬と接触させる工程が、TRIS緩衝食塩水の存在下で行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
上記反応が、7~9.6のpHで行われる、請求項17乃至27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
上記反応が、9.2~9.4のpHで行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
第2のカップリング工程においてカプシドタンパク質を修飾するために、得られた上記rAAVベクター粒子をさらに反応させる、請求項17乃至29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
第1のカップリング工程からの未反応のアミノ基との化学カップリングによって、得られた上記rAAVベクター粒子をさらに反応させる、請求項17乃至30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
当該方法が、(i)アデノ随伴ウイルス(AAV)のトロピズムを変化させるためのものであり、(ii)特定の細胞又は組織の形質導入を増強するためのものであり、又は(iii)中和抗体との相互作用を低減させるためのものである、請求項17乃至31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
当該方法が、前記(i)においてさらに、所望の特定の器官、組織又は細胞型をターゲティングするためのものである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
医薬として使用するための、予防手段として使用するための、診断手段として使用するための、或いは遺伝子治療の効率研究に使用するための、請求項1乃至16のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項35】
造影剤として使用するための、請求項34に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項36】
治療用核酸を送達するための又は矯正ゲノム編集を誘導するための医薬品として使用する為の、請求項34に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項37】
アデノ随伴ウイルス(AAV)のトロピズムを変化させるための、請求項1乃至16のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項38】
所望の特定の器官、組織又は細胞型をターゲティングするためのものである、請求項37に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項39】
当該rAAVベクター粒子に対する液性免疫反応を損なうための、請求項1乃至16及び34乃至38のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項40】
中和抗体との相互作用を低減させるための、請求項1乃至16及び34乃至38のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項41】
当該rAAVベクター粒子が、、肺、心臓、腎臓、肝臓、脳、脾臓、腫瘍若しくは筋肉細胞、又は中枢神経系の細胞に対して、選択的トロピズムを有する、請求項1乃至16及び34乃至40のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項42】
当該rAAVベクター粒子が、肝細胞、網膜、網膜色素上皮、光受容細胞、筋細胞又は心筋細胞に対して、選択的トロピズムを有する、請求項41に記載のrAAVベクター粒子。
【請求項43】
請求項1乃至16及び34乃至42のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子を薬学的に許容される媒体中に含む医薬組成物。
【請求項44】
(i)診断方法に使用するのための、又は(ii)遺伝子治療に使用するのため、又は(iii)免疫療法及びワクチン接種に使用するための、請求項1乃至16及び34乃至42のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子又は請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項45】
前記(ii)において、遺伝性障害又は後天性障害の治療に使用するのためのものである、請求項44に記載のrAAVベクター粒子又は医薬組成物。
【請求項46】
心不全、神経障害、筋障害、肝疾患、血液疾患、代謝疾患、眼病又はがんの治療に使用するのためのものである、請求項45に記載のrAAVベクター粒子又は医薬組成物。
【請求項47】
前記リガンドLが、マンノース、ガラクトース又はN-アセチルガラクトサミンから誘導される細胞型特異的リガンドである、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療に使用する為の、請求項1乃至16及び34乃至42のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子又は請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項48】
式(I)の部分が、下記の(i)~(iv)
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
から選択され、
ここで、上記化学構造式(i)~(iv)中に示されているリガンドが、マンノース、ガラクトース又はN-アセチルガラクトサミンから選択される、
請求項1乃至16及び34乃至42のいずれか1項に記載のrAAVベクター粒子又は請求項43に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に遺伝子治療の分野、すなわち標的細胞、組織、器官及び生物への遺伝子送達に関し、特にウイルスベクターを介しての遺伝子送達に関する。
【0002】
本発明は、特に、カプシド上で1種以上のリガンドと化学的にカップリングした組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子、並びに該組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の製造方法に関する。さらに、本発明は、これらの組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の治療及び/又は診断手段としての使用に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明では遺伝子治療についてさらに詳しく検討される。遺伝子治療は元々は遺伝性疾患の原因となる欠損遺伝子を修正するために開発されたものであるが、今日の遺伝子治療は癌、心臓発作、代謝疾患のような後天性疾患を含めた広範な疾患の治療に使用できる。この問題に取り組むための一般的なアプローチは、核酸を核に送達することを伴う。かかる核酸は、標的細胞のゲノムに挿入されることもあるし、或いはエピソームのまま残ることもある。対象の標的細胞への治療用核酸の送達は、ウイルスベクターの使用を始めとする数多く方法によって実施することができる。利用可能な数多くのウイルスベクター(レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスなど)の中でも、アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療、特にインビボ用途での汎用ベクターとして普及しつつある。
【0004】
アデノ随伴ウイルス(AAV)はパルボウイルス科に属する。AAVゲノムは約4.7キロベース(kb)の直鎖状一本鎖DNA分子からなり、非構造Rep(複製)タンパク質及び構造Cap(カプシド)タンパク質をコードする2つの主要なオープンリーディングフレームからなる。
【0005】
AAV由来の組換えベクターは現在治療製剤として製品化されつつあり、最近その1つは稀少遺伝性疾患(リポタンパク質リパーゼ欠損症)の治療のために承認されている。
【0006】
実際、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来のウイルスベクターは、他のベクターと比較してそれらのインビボでの優れた効率、広範な組織に対するトロピズム及び優れた安全性プロファイルのため、インビボ遺伝子導入のためのツールとして好まれるようになっている。AAVベクター遺伝子導入後の治療効果について幾つかの前臨床試験で報告されており、過去10年間で、これらの結果のあるものは成功裡に臨床に移行し、遺伝子治療の分野における最もエキサイティングな結果の幾つかをもたらした。ヨーロッパで最初のAAV系遺伝子治療製品が最近承認されたことは、この分野が概念実証研究から臨床開発に向かって進行していることの追加の証拠をなしている。
【0007】
しかし、AAVを導入遺伝子のビヒクルとして用いる大半の臨床試験は重大な限界、すなわち(i)その治療指数が低いこと(治療効果の達成に高用量のベクターが通常必要とされること)、(ii)その生体内分布が広いこと、並びに(iii)既存の中和抗体の存在下で有効性が低いことを示している。
【0008】
実際、AAVの1つの限界はその広いトロピズムにあり、導入遺伝子の発現が望まれる組織以外の他の組織での導入遺伝子の発現をもたらす。長期の遺伝子導入のために、宿主及びベクターに関連した免疫の課題を克服する必要があることも十分に認識されている。
【0009】
現在までの遺伝子治療用途の多くはセロタイプ2(AAV2)を用いている。哺乳類の筋肉細胞、肝細胞又は神経細胞のような広範な分裂終了細胞のインビボでの形質導入は、その人気を部分的に説明している。このセロタイプは、血友病Bの臨床試験における筋肉及び肝臓への遺伝子導入並びにレーバー先天黒内障の治療のための網膜への遺伝子導入にも用いられている。
【0010】
しかし、このベクターの使用には依然として問題及び限界がある。第一に、インビボでの形質導入の効率が概して低いために高用量のベクターが通常必要とされるが、その結果毒性が増加してしまう。最も重要な問題の1つは、人口の50~90%がAAV2に対して血清陽性であってAAV2に対する中和抗体(NAb)を産生し、遺伝子送達を損なうことによる。ヒト及び動物種での天然AAV単離株(1~12)の発見並びにこれらのAAVセロタイプのカプシドの分子ツールによる遺伝子改変は、前臨床動物モデル及び第I/II相臨床試験で有望な結果をもたらし、近い将来の臨床への移行が期待される。しかし、それらの治療指数は低いままであり、このことは、有害作用を伴いながら、それらを高濃度で投与する必要が依然としてあることを意味する。同時に、過去10年間でAAVベクターの臨床ロットの製造はかなり進歩しており、現在、遺伝子治療が移行しつつある工業化前の製薬段階で大規模製造方法が利用できる。とはいえ、第III相及び市販のため高用量のベクターが必要とされる場合、現在の方法ではかかる需要を支えることはできない。
【0011】
新規AAVセロタイプ(及び関連する遺伝的変異体)の将来性について実証した上述の戦略は、標的細胞型の選択的形質導入を可能にする正確なトロピズムを達成しないとして満足のいくものとはみなされておらず、AAV由来のベクターのトロピズムを増大させるためのさらなる試みが現在なされている。実際、AAV由来ベクターの特異性の欠如を埋め合わせるため、極めて多量のAAV由来のベクターを投与して治療閾値に達するする必要があるが、これは安全性の懸念及び及び製造上の限界のため望ましくない。
【0012】
この目的のため、標的特異性を有するペプチドエピトープのウイルス表面への遺伝的導入などの様々な試みがなされてきた。その他の戦略は、一方の特異性がウイルスカプシドに対するものであり、他方の特異性が受容体に対するものである二重特異性抗体のような2つの特異性をもつリンカー分子を使用することであり、タンパク質リガンドの非共有結合のためのアダプタードメイン(プロテインAのZドメイン、ビオチン)が導入される。
【0013】
例えば、国際公開第00/002654号では、改変トロピズムは、主に元の標的細胞のウイルス受容体へのAAVの結合を防ぐためになされている。この文献では、特定の実施形態において標的細胞に対する増大した親和性についても言及されている。この文献では、抗体フラグメントはカプシドに結合している。別の実施形態では、抗体の他端をリガンドに結合させて標的に対する親和性を向上させることができる(「二重特異性抗体(diabody)」の調製)。
【0014】
標的組織に対するAAV由来ベクターの選択性を向上させるために、AAVカプシド上での生物学的結合及び化学的結合の組合せも従前提案されている。
【0015】
例えば、国際公開第2005/106046号には、カプシドの遺伝子改変と化学修飾を組合せる方法が提案されている。この方法の第二段階である化学修飾は、第一段階で遺伝的経路によってカプシドで富化されたシステイン残基の存在に依拠している。AAV粒子は、リガンド、ポリマー、金ナノ粒子、蛍光分子、磁性物質又は生化学的に活性な物質でグラフト化し得る。ただし、カップリングは、ジスルフィド、チオエステル及び/又はチオエーテル結合を介して並びに後述の本発明のようにNCS結合を介して行われる。
【0016】
E.D.Horowitz他の論文“Glycated AAV Vectors: Chemical Redirection of Viral Tissue Tropism” Bioconjugate Chemistry, 2011, 22, 529-532には、他の技術的問題の中でも特に細胞トロピズムの問題について記載されている。特に、カプシド糖化による非天然アミノ酸側鎖の生成は、遺伝子治療用途のための新規組織トロピズムを呈するAAVベクターの設計のための直交戦略として役立つ。
【0017】
国際公開第2015/062516号では、AAVのカプシド及び標的細胞に対するそのトロピズムを変化させるためのクリックケミストリーによるカップリング工程の前に、アジドを含むアミノ酸のような非天然アミノ酸を遺伝子改変によってカプシドに導入しておく。
【0018】
遺伝子治療のためのビヒクルとしてのAAVの分野の研究の別の側面、すなわち非標的組織との特異的及び非特異的相互作用を低減させるために、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリ-(N-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(pHPMA)のようなポリマーでウイルス粒子を被覆すること、を挙げることができる。
【0019】
しかし、これらのアプローチも、AAV由来のベクターを達成するまでに様々なステップがほとんど必要とされるので、依然として完全に満足のいくものではない。また、特異的リガンドを組み込むため、これらのアプローチはカプシドの遺伝子改変を必要としている。換言すると、リガンドをAAVカプシド表面に組み込むための従前の方法は、野生型カプシドには応用することができないので、所望の適応性及び単純さに欠ける。付言すると、カプシドへの遺伝子改変の導入は、ベクターのトロピズムを変化させる可能性があり、生産収率その他の生物学的パラメーターを変化させる可能性がある。さらに、このような遺伝子改変を、改変する必要のある新規セロタイプの各々に対して行う必要がある。要するに、所望の標的リガンドをAAVカプシドに結合するための汎用法は存在していない。
【0020】
また、Kye-Il Joo他の報文“Enhanced Real-Time Monitoring of Adeno-Associated Virus Trafficking by Virus-Quantum Dot Conjugates”, ACS NANO, vol.5, no.5, 24 May 2011から、AAV粒子のカプシドに量子ドット(QD)を結合するための化学反応も公知である。ただし、カルボジイミドカップリングが実施されており、以下の記載から明らかな通り本発明のようなチオウレア結合は実施されていない。
【0021】
最後に、C.E.Wobus他の報文“Monoclonal Antibodies against the Adeno-Associated Virus Type 2 (AAV-2) Capsid: Epitope Mapping and Identification of Capsid Domains Involved in AAv-2 Cell Interaction and Neutralization of AAV-2 Infection”, Journal of Virology, vol.74, no.19, 1 October 200, pages 9281-9293には、空のカプシドをFITCで標識することが記載されている。しかし、本明細書において後で詳しく説明する通り、本発明ではゲノムを含むカプシドのみが関係しており、-CSNH-及び芳香族部分を含む結合を介してリガンドLに結合している。
【0022】
そこで、特定の器官又は組織に対するターゲティング能力、特にインビボ遺伝子送達によるターゲティング能力を向上させるために、化学カップリングによるAAV由来ベクターの改変方法を見出すことが必要とされている。
【0023】
また、AAVカプシドアミノ酸配列の改変工程を必要とせずに、AAV由来ベクターを改変することも必要とされている。
【0024】
さらに、特定の細胞型へのウイルス媒介遺伝子導入が向上した新規な表面修飾AAV由来ベクターも必要とされている。
【0025】
一般的には、例えば「比活性」及び/又は「治療指数」を向上させるために、任意の性状のリガンドをAAV由来ベクターカプシド表面、すなわち様々な化学的部分に化学的にカップリングするための新規方法が必要とされている。
【0026】
特に、粒子カプシドを合成ポリマー、ペプチド、炭水化物又は脂質のような部分で修飾するための新規手段を提供することが必要とされている。
【0027】
さらに、治療用量を減少させることができる化学修飾組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子を見出す必要性も存在する。
【0028】
本発明は、正に、上述の要件を満足する新規組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子、その製造方法並びにその治療及び/又は診断における用途を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0029】
そこで、本発明は、その一つの態様では、1以上のリガンドLと化学的にカップリングされた、カプシドタンパク質に含まれる1以上の第一級アミノ基を有する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子であって、上記リガンドLが、下記の式(I)の化合物の形態で存在する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子に関する。
【化1】
式中、Nはカプシドタンパク質に含まれる1つの第一級アミノ基の窒素原子であり、
【化2】
は1以上のリガンドLに直接又は間接的に共有結合した、任意的に置換されていてもよい、アリーレン又はヘテロアリーレン基を表す。
【0030】
別の態様では、本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター粒子を1以上のリガンドLと化学的にカップリングさせるための方法であって、少なくとも以下の工程:
カプシドタンパク質に含まれる1以上の第一級アミノ基を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を用意する工程、及び
上記AAV粒子を次の式(II)の試薬
B-N=C=S (II)
(式中、Bは、(L)m(X)Ar-基であり、
Lは本明細書の以降で定義する通りであり、
mは1~1000の整数を表し、
Arは、アリーレン又はヘテロアリーレン基を表し、特に本明細書の以降で定義する通りであり、
Xは結合又は上記リガンドLとArとの間のスペーサーを表す。)と、第一級アミノ基を式(II)の試薬の-N=C=S基と反応させるのに適した条件下で、接触させる工程
を含む方法に関する。
【0031】
本発明はさらに、本発明に係る上記の方法によって得られた組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子にも関する。
【0032】
さらに別の態様では、本発明は、医薬、特に治療用核酸(遺伝子、RNA、miRNA、IncRNAなど)を送達するための又は矯正ゲノム編集を誘導するための医薬として使用するための、予防手段として使用するための、造影剤のような診断手段として使用するための、或いは遺伝子治療の効率研究に使用するための、本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子にも関する。
【0033】
本発明はまた、本発明の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子を薬学的に許容される媒体中に含む医薬組成物に関する。
【0034】
したがって、本発明で考慮される化学修飾は、AAVカプシドに存在するアミノ基と直接共有結合を形成することによって実施することができ、カプシド配列を予め遺伝子改変しておく必要がない。
【0035】
分子遺伝ツールを用いて遺伝子操作したAAV株の生成とは対照的に、化学カップリングの主な利点は、粒子カプシドを、合成ポリマー、ペプチド、炭水化物又はさらには遺伝的には組み込むことのできない脂質のような部分で修飾できることである。また、合成カプシドの新規な遺伝子変異体は、臨床試験に使用するために生産及び特徴付けするのに問題となることがある。これらの合成カプシドは、トロピズム、生体内分布、ベクター構築、生産収率及び精製戦略を始めとする様々なレベルで研究しなければならないからである。
【0036】
本発明のその他の態様及び利点は、本発明に関する以下の詳細な説明、特にカプシドを官能化することができる様々な有機物、例えば小分子、ポリマー又はペプチドに関する説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、AAV2のカプシド上の第一級アミノ基によるFITCの共有結合カップリングを示す。
図2図2は、AAV2のカプシド上の第一級アミノ基によるGalNAcリガンドの共有結合カップリングのための反応性官能基の同定を示す。
図3図3は、AAV2のカプシド上の第一級アミノ基によるGalNAcリガンドの共有結合カップリングを示す。
図4図4は、GalNAcリガンドで化学修飾したAAV2及びAAV2ベクターによるヒト初代培養肝細胞の形質導入を示す。
図5図5は、第一級アミノ基によるカップリングの効率に対するリガンドの当量数の影響を示す(FITCを用いた例)。
図6図6は、第一級アミノ基によるカップリングの効率(化合物6及び13を用いた例)及びマウス初代培養肝細胞の形質導入に対するGalNAcリガンドの当量数の影響を示す。
図7図7は、第一級アミノ基によるカップリングの効率(化合物6及び13を用いた例)及びラットの網膜の形質導入に対するマンノースリガンドの当量数の影響を示す。
図8図8は、AAV2のカプシド上の第一級アミノ基によるGalNAcリガンドの共有結合カップリングのための異なる反応性官能基を有するリガンド18及び19の同定を示す。
図9図9は、AAV3bのカプシド上の第一級アミノ基による化合物6の共有結合カップリングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の代表的な実施形態を示す添付の図面を参照しながら本発明について説明する。
【0039】
定義
別途記載しない限り、本明細書で用いるすべての用語は当業者が理解するものと同じ意味を有し、本発明の実施に際しては、当業者の技術的知識の範囲内の分子生物学、ウイルス学及び組換えDNA技術の慣用技術が用いられる。
【0040】
本明細書で用いる「投与」、「導入」又は「送達」という用語は、組換えタンパク質又はヌクレオチド発現のための本発明のプラスミド又はベクターを、対象の細胞又は細胞及び/又は組織及び/又は器官に送達することをいう。そのような投与、導入又は送達は、インビボ、インビトロ又はエクスビボで起こり得る。組換えタンパク質又はポリペプチド発現のためのプラスミドは、トランスフェクション(この用語は典型的には化学的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリエチレンイミン(PEI)又はリポフェクション)、物理的手段(エレクトロポレーション又はマイクロインジェクション)による細胞への異種DNAの挿入を意味する。)、感染(インフェクション;この用語は典型的には複製能力及び/又はそのライフサイクルを完結する能力を有する感染性因子すなわちウイルス(例えばAAV Rep遺伝子を発現するバキュロウイルス)による導入を意味する。)、又は形質導入(トランスダクション;この用語は、ウイルス学では通例、感染性因子の複製に必要な機能が改変されているためにライフサイクルが完結しない細胞の感染、又はウイルス性因子(例えば、バクテリオファージ又は複製欠損ウイルスベクター)によるある微生物から別の微生物への遺伝物質の伝達による細胞の感染をいう。)によって細胞に導入することができる。
【0041】
組換えポリペプチド、タンパク質又はオリゴヌクレオチド発現のための本発明に係るベクターは、物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション又はリポフェクション)によって、或いは細胞、組織、器官又は対象へのインビトロ、インビボ又はインビボ送達のための薬学的に許容される媒体でベクターを調製することによって送達し得る。さらに、本発明の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、物理的手段又は媒体(カップリングしたリガンド以外のもの)の助けを借りずに細胞に侵入することができる。
【0042】
本明細書で用いる「宿主細胞」という用語は、例えば、rAAVベクターのレシピエントとして使用できる或いは使用されている微生物、酵母細胞、昆虫細胞及び哺乳類細胞などをいう。この用語は形質導入された細胞の後代を包含する。このように、本明細書で用いる「宿主細胞」は、外来性核酸で形質導入された細胞をいう。なお、単一親細胞の後代は、自然の、偶発的な又は意図的な突然変異のため、形態学的に又はゲノム又はDNA全体で親細胞とは必ずしも完全に同一ではないかもしれない。
【0043】
本明細書で用いる「組換え」という用語は、DNA組換え(クローニング)法を用いて生成した核酸、ベクター、ポリペプチド又はタンパク質をいい、天然の又は野生型の核酸、ベクター、ポリペプチド又はタンパク質とは区別できる。
【0044】
本明細書で用いる「対象」という用語は、ヒト、チンパンジーのような非ヒト霊長類、その他の類人猿及びサル種、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマのような家畜、イヌ及びネコのようなの飼育哺乳類、マウス、ラット及びモルモットのようなげっ歯類を含む実験動物を包含するが、これらに限定されない。この用語は特定の年齢又は性別を表すものではない。したがって、成人、成体、新生児及び新生仔の対象、並びに胎児、胎仔も、男性又は女性或いは雄又は雌を問わず、包含される。
【0045】
本明細書で用いる「トロピズム」という用語は、ある細胞又は組織での組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の優先的な感染及び/又は形質導入をいう。好ましい実施形態では、AAV粒子のトロピズムを改変するため、粒子には、それらが本来有していない標的細胞表面の受容体に対するある種の親和性のようなある種の特徴が与えられる。
【0046】
本明細書で用いる「薬学的に許容される」という用語は、生理学的に忍容性であって、ヒトに投与したときに毒性又はアレルギー反応もしくは同様の有害な反応(例えば胃のむかつき、めまいなど)を通例生じない分子的存在及び組成物をいう。好ましくは、本明細書で用いる「薬学的に許容される」という用語は、動物、特にヒトで使用するために、連邦政府又は州政府の規制当局によって承認されるか或いは米国薬局方その他の一般に認められた薬局方に収載されていることを意味する。
【0047】
本明細書で用いる「治療指数」という用語は、有効薬の治療効率を表すパラメータである。例えば、治療効果を達成するのに高濃度の活性物質が必要とされる場合又は効果を得るのに必要な用量が毒性を誘発する場合は治療指数は低い。対照的に、高い治療指数は、治療効果をもたらすのに必要とされる活性物質の用量が低いこと及び/又は有効薬の毒性が低いことを意味する。
【0048】
本明細書で用いる「化学修飾」という用語は、化学反応による共有結合が形成された状態でのカプシドタンパク質の修飾をいう。
【0049】
AAV
あらゆる組換えアデノ随伴ウイルスを本発明で実施し得る。
【0050】
組換えアデノ随伴ウイルスカプシドは、同定されたすべての天然セロタイプ、特にAAV2、AAV3b、AAV5、AAV8、AAV9及びAAV10から選択することができ、特にAAV2とし得る。
【0051】
また、組換えアデノ随伴ウイルスは、非天然法、例えば限定されるものではないが、カプシド変異誘発、カプシド配列へのペプチド挿入、各種セロタイプからのカプシドシャッフリング又は祖先配列再構成(ancestral reconstruction)などによって生成された合成セロタイプからも選択し得る。
【0052】
組換えAAVは、筋肉細胞、肝細胞又は神経細胞のような哺乳動物の広範な分裂終了細胞をインビボで形質導入することができる。
【0053】
組換えAAVベクターは、HEK293細胞、Ad又はHSVに感染した安定細胞株、Ad又はHSVに感染した哺乳動物細胞(rep-cap及び導入遺伝子を発現する)又はバキュロウイルスベクターに感染した昆虫細胞(rep-cap及び導入遺伝子を発現する)の一過性トランスフェクションを始めとする様々な方法で生産することができる。これらの方法のいずれかで生産した組換えAAVベクターは、本明細書に記載する化学修飾に使用し得る。ベクターは、特に、実施例2.1に例示するように、AAV Rep2-Cap2及びアデノウイルスヘルパー遺伝子(E2A、VA RNA及びE4)をコードするpHelper PDP2-KANAと、pVector ss-CAG-eGFPの2つのプラスミドでのリン酸カルシウム-HeBS法によるHEK293細胞の一過性トランスフェクションによって生産し得る。
【0054】
本発明の組換えアデノ随伴ウイルスは、所望に応じて、ウイルス以外の起源の任意の配列を含んでいてもよい。
【0055】
カプシド
カプシドは、天然のままの又は天然のものではないアミノ基を含んでいてもよい。カプシドの表面に存在するアミノ基は化学カップリングに関与する。
【0056】
特定の実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルスベクターは、天然に存在するセロタイプ由来の野生型カプシドタンパク質から構成される。
【0057】
かかる天然に存在するアミノ基は、例えばリジン、アルギニン及びシステイン、特にはリジンとすることができる。
【0058】
別の特定の実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、天然に存在するセロタイプからカプシドタンパク質を遺伝子改変(突然変異、挿入又は欠失)したアデノ随伴ウイルス又は合成カプシドによって構成されるアデノ随伴ウイルスである。
【0059】
本発明において、合成カプシドは、天然の又は人工的に創出された(ランダム突然変異、配列シャッフリング、インシリコ設計(in silico design)などによる)複数のセロタイプに由来するカプシドタンパク質の任意の組合せであって天然には存在しない新しいAAVウイルスカプシドを構築及び産生することのできるものを意味する。
【0060】
式(I)/リガンドL
本発明は、AAVカプシドの表面に存在する第一級アミノ基にリガンドLを共有結合でグラフトさせることによってAAVカプシドを化学修飾するための新規な方法を提供する。
【0061】
本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、
【化3】
がリガンドLの一部を形成する芳香族部分を表す実施形態として、或いは
【化4】
が、1以上のリガンドLに直接又は間接的に共有結合したアリーレン又は任意的に置換されていてもよいヘテロアリーレン基である実施形態として記載される。
【0062】
換言すると、この場合、
【化5】
はリガンドLに包含される。実施例から明らかなように、本発明の概念実証は、まずこの実施形態によって行われた。
【0063】
さらに、この場合、リガンドLは、実施例2で例示するような標識剤、例えば次の式(A)で例示されるもの、であってもよい。
【化6】
【0064】
これはフルオレセインから誘導され、さらに詳細には本明細書の以降で定義する式(II)の試薬としてのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)から誘導される。
【0065】
この点に関して、ローダミン、Alexa fluor及びbodipyのような芳香族部分を含む任意の蛍光色素でも適切に実施できる。
【0066】
本発明によれば、
【化7】
はリガンドLの一部を形成しておらず、リガンドLが
【化8】
に結合しており、その結果、リガンドLは二価基である。
【0067】
特定の実施形態では、式(I)の
【化9】
は、1以上のリガンドLに直接又は間接的に共有結合した、任意的に置換されていてもよいアリーレン又はヘテロアリーレン基を表す。
【0068】
典型的には、アリーレン基は、フェニレン、ナフチレン及びアントラセニレンのような芳香族環から選択され、特にフェニレン及びナフチレンから選択される。
【0069】
アリーレン又はヘテロアリーレン基は、適切な基で適宜置換されていてもよい。ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、(C~C)アルキル基又は(C~C)アルコキシ基などの基を挙げることができる。
【0070】
アリーレン基は、1~3個の芳香環を含む芳香族環、例えば二環又は三環、特に、炭素原子数5~20、特に炭素原子数5~12の縮合芳香環を含む芳香族環を意味する。
【0071】
ヘテロアリーレン基は、1~3個の芳香環、特に縮合芳香族環を含む、炭素原子数5~20、特に炭素原子数6~10の芳香族環で、O、N及びSから選択されるヘテロ原子を1個以上(例えば1~4個)含む芳香族環を意味する。単環式ヘテロアリーレン基の例としては、イミダゾリレン、ピリミジレン、イソキサゾリレン、チアゾリレン、イソチアゾリル、ピリジレン、ピラゾリレン、オキサゾリレン、1,2,4-オキサジアゾリレン、チエニレン及びフリレン基が挙げられる。
【0072】
特にピリジレンを挙げることができる。
【0073】
二環式ヘテロアリーレン基の例としては、1H-インダゾリレン、ベンゾ[1,2,3]チアジアゾリレン、ベンゾ[1,2,5]チアジアゾリレン、ベンゾチオフェニレン、イミダゾ[1,2-a]ピリジレン、キノリニレン、インドリレン及びイソキノリニレン基が挙げられる。
【0074】
本発明の文脈において、別途記載しない限り、
・ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、特にハロゲン原子はフッ素原子である。
・アルキル基は、別途記載しない限り、炭素原子数1~5の直鎖又は枝分れ飽和脂肪族基でる。具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル及びペンチル基が挙げられる。
・アルコキシ基は、-O-アルキルの基であり、アルキル基は上記で定義した通りであり、特にアルキル基はメチル又はエチルである。
【0075】
特定の実施形態では、
【化10】
は、フェニレン基、ナフチレン又はピリジレン基であり、特に1以上のリガンドLに直接又は間接的に共有結合した以下のいずれかの基を表す。
【化11】
【0076】
リガンドLは様々な機能を果たすことができる。
【0077】
リガンドLは、典型的には、ターゲティング剤、中和抗体との相互作用を避けるための立体遮蔽剤、標識剤又は磁性剤から選択し得る。
【0078】
特定の実施形態では、リガンドLは、ターゲティングリガンド、特に細胞型特異的リガンド、殊に、タンパク質、単糖類もしくは多糖類、ステロイドホルモン、RGDモチーフペプチド、ビタミン類、小分子又はターゲティングペプチドから誘導されるものである。
【0079】
一実施形態では、細胞型特異的リガンドは、転移、上皮成長因子EGF、塩基性線維芽細胞成長因子bFGFのようなタンパク質から誘導し得る。
【0080】
一実施形態では、細胞型特異的リガンドは、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン及びマンノースのような単糖類もしくは多糖類から誘導し得る。
【0081】
一実施形態では、細胞型特異的リガンドは、葉酸のようなビタミン類から誘導し得る。
【0082】
一実施形態では、細胞型特異的リガンドは、ナプロキセン、イブプロフェンその他公知のタンパク質結合分子を始めとする小分子から誘導し得る。
【0083】
一実施形態では、細胞型特異的リガンドは、ASSLNIA(配列番号1)、WDANGKT(配列番号2)、GETRAPL(配列番号3)、CGHHPVYAC(配列番号4)及びHAIYPRH(配列番号5)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む筋肉ターゲティングペプチド(MTP)から誘導し得る。ある実施形態では、筋肉ターゲティング部分はクレアチンを含み、癌ターゲティングペプチド(CTP)は直鎖又は環状RGDペプチドに由来するアミノ酸配列を含む。
【0084】
本実施形態のさらに特定の態様では、アシアロ糖タンパク質受容体(ASPGPr)によって認識されるガラクトース由来リガンドを用いて、肝細胞を特異的にターゲティングすることができる。
【0085】
本発明のこの特定の態様では、式(I)の部分の群から、以下の通り表すことのできる式(Ia)の部分の下位群を挙げることができる。
【化12】
式中、nは0~5000、特に1~2000、殊に3~100である。
【0086】
式(I)の部分は、以下のものから選択し得る。
【化13】
【化14】
【0087】
式(C)の部分は、nが3である式(Ia)の部分に対応する。
【0088】
別の特定の実施形態では、リガンドLは、中和抗体との相互作用を避けるための立体遮蔽剤であり、特にポリエチレングリコール(PEG)又はpHPMAのような合成ポリマーから誘導されるものである。
【0089】
他の実施形態では、リガンドLは標識剤であり、特に、例えばフルオレセイン、ローダミン、Alexa fluor、bodipyのような蛍光色素又はナノ金粒子或いは18F、124,125,131I、64Cu又は67Cuのような放射性色素を用いる分析遺伝子導入のための標識剤である。
【0090】
他の実施形態では、リガンドLは、鉄粒子のような磁性剤である。
【0091】
様々な性状のリガンドを、カプシドでの同時又は経時的化学カップリングによって組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子にカップリングさせることができる。
【0092】
カップリング法
本明細書で用いる「カップリング」という用語は、AAV粒子の表面に存在する第一級アミノ基の、共有結合が形成される状態での第一級アミノ化学修飾をいう。カップリングは、AAV粒子の構造的完全性及びそれらのコアタンパク質機能が維持される手順をいう。カプシドの表面のある種の第一級アミノ基だけが修飾される。
【0093】
カップリングは水性緩衝液中で実施し得る。
【0094】
インキュベーション時間は、1~24時間、特に4時間とし得る。
【0095】
インキュベーション温度は、20~50℃、特に室温とし得る。
【0096】
反応は、pH7~9.6、特にpH9.2~9.4の緩衝系で、例えばボルテックス撹拌などを用いて実施することができる。
【0097】
緩衝液系は、TRIS緩衝食塩水、炭酸ナトリウム-重炭酸ナトリウム緩衝液、PBS、dPBSから選択し得る。好ましい緩衝液系はTRIS緩衝食塩水(TBS)である。
【0098】
式(II)の試薬の量は、1E5~1.5E7モル当量、特に3E5~3E6モル当量とし得る。
【0099】
カップリング工程後、Pluronic(0.001%)を透析前の溶液に添加する。
【0100】
追加の工程として、遊離分子をタンジェンシャルフロー濾過又は透析(24時間にわたってdPBS+0.001%Pluronicに対して4回)によって除去することができる。
【0101】
このプロセスの後に、qPRCによる粒子の滴定及びキャラクタリゼーション(DLS、ドットブロット及びウエスタンブロット)を行ってもよい。
【0102】
カップリングに用いる実験条件、特にモル比によって、AAV2のカプシド表面でのリガンドのカップリングを調節することができる。これらは、かかるウイルス粒子の治療指数を増大させることができる最良の比率を求めるために使用される。
【0103】
特定の実施形態では、本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター粒子を1以上のリガンドLと化学的にカップリングさせるための方法であって、Bの(L)mX-部分が次の式(III)のものである方法に関する。
【化15】
式中、Lは上記で定義した通りであり、Yは2価又は多価の有機基であって、1~39個の炭素原子、0~20個の酸素原子、0~6個の窒素原子及び0~1個の硫黄原子を含む有機基である。
【0104】
他の実施形態では、本発明は、Xが、次の基
【化16】
(式中、nは0~5000、特に1~500、2~100、殊に3~20の整数を表し、例えば3である。)、又は次の基
【化17】
(式中、nは0~5000、特に1~2000、殊に3~100の整数を表し、特に3である。)を表す方法に関する。
【0105】
式(II)の試薬は、当業者に公知の方法で得ることができる。
【0106】
上述の式(B)の部分を得るのに有用な式(II)の試薬の調製の例として、詳細を以下のスキーム1に記載する。
【0107】
式(II)に属する化合物6が得られるが、その調製は後の実施例1にさらに詳しく記載されている。
【化18】
【0108】
化合物1を、工程(i)で、極性溶媒(例えばエタノール、特に水素雰囲気下のエタノール)中、触媒(例えばPd-C又はPd(OH))の存在下で、パラトルエンスルホン酸(APTS)と反応させる。得られた化合物2を次の工程(ii)で強塩基性陰イオン交換樹脂(例えばAmberlite IRN78)と反応させると、化合物3を得ることができる。
【0109】
化合物6の合成方法A
第1の実施形態では、化合物3を工程(iii)で、溶媒(例えばDMF)中で1,1’-チオカルボニルジ-2(1H)-ピリドンと反応させると、化合物4を得ることができる。得られた化合物4を、次の工程(iv)で、溶媒(例えばDMF)中、例えば40~100℃の範囲内の温度(例えば60℃)で、好ましくは不活性雰囲気下、特に窒素雰囲気下で、p-フェニレンジアミンと反応させると、化合物5を得ることができる。
【0110】
この化合物5を次の工程(v)で、溶媒(例えばDMF)中、例えば40~100℃の範囲内の温度(例えば60℃)で、好ましくは不活性雰囲気下、特に窒素雰囲気下で、1,1’-チオカルボニルジ-2(1H)-ピリドンと反応させると、化合物6を得ることができる。
【0111】
化合物6の合成方法B
第2の実施形態では、化合物3を、工程(vi)で、溶媒(例えばDMF)中で、例えば室温で、好ましくは不活性雰囲気下、特に窒素雰囲気下でp-フェニレンジイソチオシアネートと反応させると、化合物6を得ることができる。
【0112】
上述の式(C)の部分を得るのに有用な式(II)の試薬の調製の例として、詳細を以下のスキーム2に記載する。式(II)に属する化合物13が得られるが、その調製は後の実施例1にさらに詳しく記載されている。
【化19】
【0113】
上記のスキーム2から明らかなように、化合物11は溶媒、特に乾燥エタノールに溶解することができ、次いでそれを極性溶媒(特に水素雰囲気下のエタノール)中、触媒(例えばPd-C又はPd(OH))の存在下で、パラトルエンスルホン酸(APTS)と反応させればよい。次いで反応液を水素雰囲気下で撹拌することができる。任意的な濾過及び蒸発段階の後、アジドの還元はTLC及びH NMR分光法によって確認できる。次いで粗生成物を強塩基性陰イオン交換樹脂(例えばAmberlite IRN78)と反応させると、化合物12を得ることができる。
【0114】
化合物12を、工程(iii)で、溶媒(例えばDMF)中で、例えば室温で、好ましくは不活性雰囲気下、特に窒素雰囲気下でp-フェニレンジイソチオシアネートと反応させると、化合物13を得ることができる。
【0115】
上述の式(D)の部分を得るのに有用な式(II)の試薬の調製の例として、詳細を以下のスキーム3に記載する。式(II)に関連する化合物17が得られるが、その調製は後の実施例1にさらに詳しく記載されている。
【化20】
【0116】
化合物14を、工程(i)で、極性溶媒(例えばエタノール、特に水素雰囲気下のエタノール)中、触媒(例えばPd-C又はPd(OH))の存在下で、パラトルエンスルホン酸(APTS)と反応させる。得られた化合物15を次の工程(ii)で強塩基性陰イオン交換樹脂(例えばAmberlite IRN78)と反応させると、化合物16を得ることができる。
【0117】
化合物16を、工程(iii)で、溶媒(例えばDMF)中で、例えば室温で、好ましくは不活性雰囲気下、特に窒素雰囲気下でp-フェニレンジイソチオシアネートと反応させると、化合物17を生成させることができる。
【0118】
上述の式(E)及び(F)の部分を得るのに有用な式(II)の試薬の調製の例として、詳細を以下のスキーム式4に記載する。式(II)に属する化合物18及び19が得られるが、その調製は後の実施例1にさらに詳細に記載されている。
【化21】
【0119】
化合物3を、工程(i)で、溶媒(例えばDMF)中で、例えば室温で、好ましくは不活性雰囲気下、特に窒素雰囲気下で、2,6-ピリジンジイソチオシアネートと反応させると、化合物18を生成させることができる。
【化22】
【0120】
化合物3を、工程(i)で、溶媒(例えばDMF)中で、例えば室温で、好ましくは不活性雰囲気下、特に窒素雰囲気下で、1,4-ナフタレンジイソチオシアネートと反応させると、化合物19を生成させることができる。
【0121】
後述の実施例2に示すように、チオウレア官能基とリガンドLとの間の芳香族部分の存在、或いは
【化23】
がリガンドLの一部を形成するときのリガンドL内の芳香族部分の存在は、AAVカプシドへの式(II)の試薬のグラフト化を達成する上で重要な役割を果たすと思われる。
【0122】
実施例2、特に実施例2.8から、9を超えるpHでカップリング反応を実施することも本質的な特徴であるように思われる。pHに対する耐性は、使用したAAVセロタイプに依存し得ると認められることもあろう。実施例2では、AAV2に対してpH>9を用いたが、他のセロタイプは異なるpH感受性を有する可能性もある。
【0123】
有益なことに、本発明者らは、得られたrAAVが、実施例、特に実施例2.8に示すように、感染力を保持することを見出した。
【0124】
特定の実施形態では、得られた組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子を、第2のカップリング工程においてカプシドタンパク質を、特に第1のカップリング工程では未反応のアミノ基との化学カップリングによって、修飾するために、さらに反応させてもよい。
【0125】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子及びその用途
本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の製造方法によって得られる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子も本発明の一部をなす。
【0126】
本発明のrAAVベクターが標的とする細胞は、ヒト及び他の哺乳類、例えば霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ラット及びマウスなどに由来し得る。
【0127】
rAAVベクターは、あらゆる細胞型、組織又は器官を標的とすることができ、制限はない。rAAVを送達することができる細胞の例として、限定されるものではないが、肝細胞;網膜の細胞、すなわち光受容細胞、網膜色素上皮(RPE)、双極細胞;筋細胞、すなわち筋芽細胞、衛星細胞;中枢神経系(CNS)の細胞、すなわち神経細胞、グリア細胞;心臓の細胞;末梢神経系(PNS)の細胞;骨芽細胞;腫瘍細胞;リンパ球などが挙げられる。rAAVベクターを送達することができる組織及び器官の例として、肝臓、筋肉、心筋、平滑筋、脳、骨、結合組織、心臓、腎臓、肺、リンパ節、乳腺、ミエリン、前立腺、精巣、胸腺、甲状腺、気管などが挙げられる。好ましい細胞型は、肝細胞、筋肉細胞、CNSの細胞及びPNSの細胞である。好ましい組織及び器官は肝臓、筋肉、心臓、眼及び脳である。
【0128】
本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター粒子のトロピズムを変化させるために、特に所望の特定の器官、組織又は細胞型をターゲティングするため、特定の細胞又は組織の形質導入を増強するため、或いは中和抗体との相互作用を低減させるために使用し得る。この仮説は、Moskalenko他によって発表されたデータ(Moskalenko, M., et al., Epitope mapping of human anti-adeno-associated virus type 2 neutralizing antibodies: implications for gene therapy and virus structure. J Virol, 2000. 74(4): p.1761-6))と一致しており、この報文では、6種類のペプチドのサブセットが同定されており、これらは潜在的に単一の中和エピトープを再構成する。特記すべき点は、これらのペプチドのうちの3種類が1以上の第一級アミンを保有していることである。これらの第一級アミンの化学修飾は、理論的には、PEG化AAV2で既に実証されているように、既存の血清中和パターンに好適な影響を与えることができる。(Lee, G.K., et al., PEG conjugation moderately protects adeno-associated viral vectors against antibody neutralization. Biotechnol Bioeng, 2005. 92(1): p.24-34; Le, H.T., et al., Utility of PEGylated recombinant adeno-associated viruses for gene transfer. J Control Release, 2005. 108(1): p.161-77)。
【0129】
一実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、高い細胞型選択性又は高い標的特異性をもたらす。
【0130】
特異的な器官又は組織は、例えば肝臓、心臓、脳、網膜又は骨格筋とし得る。
【0131】
特異的な細胞型は、例えば、肝細胞、心筋細胞、筋細胞、神経細胞、網膜色素上皮細胞又は光受容細胞とし得る。
【0132】
化学修飾組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、該組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の薬用量を低減することができ、或いは同じ用量の非修飾AAVの有効性及び/又は毒性を改善することができるという利点を示す。本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、該組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子に対する液性免疫反応を損なうという利点もある。
【0133】
本発明は、さらに、本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の医薬としての用途、特に治療用核酸を送達するため又はゲノム編集を誘導するための医薬としての用途、予防手段として用途、造影剤のような診断手段としての用途、又は遺伝子治療の効率研究のための用途に関する。
【0134】
本組換えrAAVベクター粒子は標的細胞に核酸を送達するために使用することができる。
【0135】
本組換えrAAVベクター粒子はインビボ又はエクスビボで投与することができる。
【0136】
本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、アデノ随伴ウイルス(AAV)のトロピズムを変化させるため、特に所望の特定の器官、組織又は細胞型をターゲティングするため又は特定の細胞又は組織の形質導入を増強するためのものとすることができる。
【0137】
本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、該組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子に対する液性免疫反応を損なうためのものとすることもできる。
【0138】
本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、中和抗体との相互作用を低減させるためのものとすることもできる。
【0139】
一実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、その表面への抗体の結合を低減又は防止して、その抗体媒介クリアランスを低減又は防止する。
【0140】
本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、肝細胞、網膜、肺、心臓、腎臓、肝臓、脳、脾臓、腫瘍又は筋肉細胞に対して、特に肝細胞、網膜色素上皮(RPE)、光受容細胞、筋細胞又は心筋細胞に対して、選択的トロピズムを有し得る。
【0141】
本発明の利点の例示として、以下の実施例から明らかなように、AAV2粒子の化学修飾は、AAV粒子の使用に際して従前知られた上述の限界を、すべてではないにしろ、ある程度克服することができる。
【0142】
このような限界は以下の通りまとめることができる。
・AAV2による肝細胞形質導入は、ヒトを含むすべての哺乳動物で低い。
・治療効果を達成するには高用量のベクター(1kg当たり約1012個のAAV2粒子)を注射することが必要とされるが、この用量は治療効果に有害な免疫毒性を生じかねない。
・肝細胞だけでなく、肝臓の最大30%を示す肝臓細網内皮系区画の他の細胞型もAAV2によって形質導入されてしまう。このような形質導入プロファイルの「分散」は、AAVの治療指数を低下させる。
・AAV2の全身注射はT細胞反応を誘導又は活性化し、結局は形質導入細胞の排除を招く。
・人口の80%以上がAAV2に対する中和抗体を有しているため、大量のウイルス粒子を投与しない限り、効率的な形質導入ができない。
【0143】
上述の化合物6及び13のように、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)誘導体であるリガンドをAAV2粒子表面に導入すると、アシアロ糖タンパク質受容体(ASPGr)を介して肝細胞の選択的形質導入が増大する。
【0144】
数ある選択的標的組織の中でも、特に網膜色素上皮(RPE)、骨格筋を挙げることができる。
【0145】
肝細胞ターゲティング戦略は、肝臓細網内皮系その他末梢標的(脾臓、心臓、肺など)での標的外形質導入事象を減少させることができる。総合的に、本発明に係る化学修飾は、治療指数の向上をもたらすとともに、既存の中和抗体に対する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の感受性の低下及び/又は修飾カプシドに対する液性免疫反応の低減をもたらす。
【0146】
そこで、さらに別の態様では、本発明はさらに、本発明に係る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子を薬学的に許容される媒体中に含む医薬組成物を提供する。
【0147】
本組成物の宿主細胞又は標的細胞への送達は、様々な治療その他の目的のために実施し得る。
【0148】
本医薬組成物は、特に本発明に係る1種以上の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の有効量を含有し得る。
【0149】
「有効量」とは、制御又は治療すべき状態に良い変化を起こすのに十分であるが、重篤な副作用を回避するだけ十分に低い量を意味する。有効量は、得られる薬学的効果又は治療すべき特定の状態、エンドユーザーの年齢及び健康状態、治療/予防すべき状態の重症度、治療期間、他の治療の種類、用いる具体的な化合物又は組成物、投与経路などの因子に応じて変動し得る。
【0150】
治療用製剤の当業者であれば、過度の実験を要することも個人的知識に依拠することもなく、所与の適応症に対して本発明の化合物の治療有効量を確認することができよう。
【0151】
本発明の医薬組成物は、用量、剤形、投与経路などに応じて、公知の適切な薬学的に許容される添加物を用いて製剤化することができる。
【0152】
本明細書で用いる「薬学的に許容される添加物」という用語は、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを包含する。活性化合物と適合しない場合を除いて、従来のあらゆる添加物について、本発明の医薬又は医薬組成物における使用が想定される。
【0153】
本発明の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、目的のヌクレオチド配列を標的細胞に送達する方法にも使用し得る。この方法は、特に、目的の治療用遺伝子を、それを必要とする対象の細胞に送達するための方法とすることができる。
【0154】
本発明によって、治療レベルのポリペプチド、タンパク質又はオリゴヌクレオチドが発現されるように、治療用外来性DNA配列にコードされたポリペプチド、タンパク質又はオリゴヌクレオチドの対象の細胞内でのインビボ発現が可能となる。これらの結果は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子送達のインビボモード及びインビトロモードの両方で認められる。
【0155】
本発明は、送達方法に関して限定的なものではない。例えば、送達は局所的、組織内(例えば筋肉内、心臓内、肝臓内、腎臓内、脳内)、結膜(例えば眼窩外、眼窩内、眼窩後、網膜内、網膜下)、粘膜(例えば経口、直腸、鼻、肺)、くも膜下腔内、膀胱内、頭蓋内、全身、腹腔内、皮下、皮膚、血管内(例えば静脈内、動脈内)及びリンパ内とすることができる。別の態様では、高圧血管内注入(例えば静脈内又は動脈内注入)による受動的組織形質導入である。
【0156】
さらに、送達は1種類のrAAVベクターに限定されるものではない。別の態様では、異なる外来性DNA配列を含む複数のrAAVベクターを、標的細胞、組織、器官又は対象に同時に又は順次送達し得る。この戦略によって複数の遺伝子の発現が可能になる。
【0157】
本発明の特定の実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は静脈内投与される。
【0158】
rAAVの適切な用量は、治療すべき状態、治療すべき対象の健康状態、年齢及び体重だけでなく、適用法及び組織に応じて、当業者が容易に決定し得る。
【0159】
例えば、網膜には1011vg/患者が必要とされることがあり、血友病、脊髄性筋萎縮症(SMA)又はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のような全身適用については、必要量は1014vg/患者を超えることがある。
【0160】
本発明は、上記組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の、診断方法における使用又は遺伝子治療における使用、特に、心不全、神経障害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のような筋障害、肝疾患、血液疾患、代謝疾患、眼病又はがん(網膜症を含む)を始めとする遺伝性障害又は後天性障害の治療のための使用に関する。また、上記組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、免疫療法及びワクチン接種にも使用できる。
【0161】
特定の実施形態では、上記組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子は、肝臓、網膜及び神経筋の遺伝的疾患から選択される適応症に対して特に有用である。
【0162】
本発明はさらに、本発明のrAAVをそれを必要とする対象に送達する方法であって、本発明の1種以上のrAAVを含む組成物を投与する1以上の工程を含む方法に関する。
【0163】
以下の実施例及び図面を参照することによって本発明の理解を深めることができるであろう。ただし、これらの実施例及び図面は専ら例示のためのものであり、本発明を限定するものと解釈するべきではない。
【実施例
【0164】
材料
すべての化学試薬はAcros Organics社又はAldrich社から購入し、それ以上精製せずに使用した。AAVカプシドタンパク質(B1)、ウサギポリクローナル及びマウスモノクローナルA20は、PROGEN Biotechnik社から入手した。フルオレセイン標識化合物を検出するためのAnti-Fluorescein-AP,Fabフラグメント(Sigma-Aldrich社)はRoche社から入手した。FITC-大豆凝集素(SBA)は、Vector laboratories社から購入した。無水条件を必要とする反応は窒素下で実施した。すべての化合物は、H(400.133又は300.135MHz)、13C(125.773又は75.480MHz)NMR分光法(Bruker Avance 300 Ultra Shield又はBruker Avance III 400分光計)によって十分に特性解析した。ケミカルシフトはppm単位で記載し、カップリング定数はHz単位で記載する。以下の略語を使用した:s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、クイン=クインテット、br=ブロードシングレット。必要に応じて、13C異種核HMQC及びHMBCを用いて、構造を明確にした。高分解能マススペクトル(HRMS)は、ThermofisherハイブリッドLTQ-オービトラップ分光計(ESI+)及びBruker Autoflex III SmartBeam分光計(MALDI)を用いて記録した。
【0165】
すべての生成物は、UV及びDLS検出器を備えるフラッシュクロマトグラフィー(GRACE REVELERIS Flash Chromatography System)によって精製した。
【0166】
化合物13は、Waters社製のUPLC H-Classを用いたHPLCによって精製した。
【0167】
実施例1:式(II)の試薬及び比較反応体の合成
比較反応体9の合成スキーム
【化24】
【0168】
比較反応体22の合成スキーム
【化25】
【0169】
本明細書で既に定義した化合物1、化合物7、化合物10、2,6-ピリジンジイソチオシアネート及び1,4ナフタレンジイソチオシアネートは、文献、特に以下の報文及び特許文献の記載に従って合成した。
-[1]Rensen PC et al. “Design及びsynthesis of novel N-acetylgalactosamine-terminated glycolipids for targeting of lipoproteins to the hepatic asialoglycoprotein receptor”. Journal of medicinal chemistry. 2004;47:5798-808、及び
-[2]Rajeev KG, et al. “Inhibitory RNA interference agents modified with saccharide ligands”国際公開第2012037254号、2012。
-[3]Chevolot Y, et al. “DNA-Based Carbohydrate Biochips: A Platform for Surface Glyco-Engineering”. Angewandte Chemie International Edition, 2007;46:2398-2402。
-[4]Nagarajan, K., et al. “Quest for anthelmintic agents. Part I. Para substituted phenylisothiocyanates, heterocyclylisothiocyanates and bisisothiocyanates,”. Indian Journal of Pharmaceutical Sciences, 48(3), 53-9; 1986。
【0170】
化合物1(284mg、0.56mmol)を乾燥エタノールに溶解し、次いでAPTS(107mg、0.56mmol)を添加した後、10%のPd-C(10重量%)を添加した。3回の真空/Hサイクル後、反応液をH雰囲気下20℃で一晩撹拌した。次いで溶液を濾過し、減圧下で蒸発させた。アジドの還元はTLC及びH NMRで確認した。蒸発後、粗生成物に10mLのメタノール及び10mLの水を添加し、次いでAmberlite IRN78樹脂を添加した。反応液を20℃で3時間撹拌し、次いで濾過し、減圧下で蒸発させた(収率:化合物3=77%)。
化合物3:H NMR(MeOD):2.0(s,3H,NAc),2.79(t,2H,CHNH,JH-H=5.2Hz),3.4-4.0(m,16H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.44(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz);13C NMR(MeOD):23.1,42.1,54.3,62.6,69.7,69.8,71.3,71.5,71.6,73.5,73.6,76.8,103.1,174.2;C1429のHRMS(MALDI)[M+H],理論値:353.1924、実測値:353.1918。
【0171】
化合物3(162mg、0.46mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いで1,1’-チオカルボニルジ-2(1H)-ピリドン(117mg、0.51mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下20℃で一晩撹拌した。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~80/20)。(収率:化合物4=88%)。
化合物4:H NMR(MeOD):2.0(s,3H,NAc),3.4-4.0(m,19H,CHO,CHNCS,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.44(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz);13C NMR(MeOD):23.1,46.3,54.3,62.6,69.7,69.8,70.5,71.5,71.6,73.5,73.6,76.8,103.1,133.2,174.2;C1526NaSのHRMS(MALDI)[M+Na],理論値:417.1308、実測値:417.1318。
【0172】
化合物6の合成方法A
化合物4(50mg、0.13mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いでp-フェニレンジアミン(28mg、0.26mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下70℃で一晩撹拌した。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~80/20)。(収率:化合物5=74%)。
化合物5:H NMR(MeOD):1.97(s,3H,NAc),3.4-4.0(m,17H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.43(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz),6.72(d,2H,JH-H=8.8Hz),6.98(d,2H,JH-H=8.8Hz);13C NMR(MeOD):23.1,45.4,54.4,62.6,69.7,69.8,70.4,71.4,71.5,71.6,73.4,76.8,103.1,2×116.9,2×128.1,128.3,148.3,174.1,182.4;C2135SのHRMS(MALDI)[M+H],理論値:503.2176、実測値:503.2171。
【0173】
化合物5(47mg、0.093mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いで1,1’-チオカルボニルジ-2(1H)-ピリドン(24mg、0.102mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下60℃で一晩撹拌した。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~80/20)。(収率:化合物6=60%)。
化合物6:H NMR(MeOD):1.99(s,3H,NAc),3.4-4.0(m,17H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.42(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz),7.24(d,2H,JH-H=8.8Hz),7.54(d,2H,JH-H=8.8Hz);13C NMR(MeOD):23.2,45.4,54.3,62.6,69.7,69.9,70.3,71.4,71.5,71.6,73.4,76.8,103.2,2×125.8,2×127.1,128.5,136.6,139.8,174.2,182.5;C2233のHRMS(MALDI)[M+H],理論値:545.1740、実測値:545.1742。
【0174】
化合物6の合成方法B
化合物3(64mg、0.18mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いでp-フェニレンジイソチオシアネート(175mg、0.9mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下20℃で2時間撹拌した。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~80/20)。(収率:化合物6=85%)。
化合物6:H NMR(MeOD):1.99(s,3H,NAc),3.4-4.0(m,17H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.42(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz),7.24(d,2H,JH-H=8.8Hz),7.54(d,2H,JH-H=8.8Hz);13C NMR(MeOD):23.2,45.4,54.3,62.6,69.7,69.9,70.3,71.4,71.5,71.6,73.4,76.8,103.2,2×125.8,2×127.1,128.5,136.6,139.8,174.2,182.5;C2233のHRMS(MALDI)[M+H],理論値:545.1740、実測値:545.1742。
【0175】
化合物7(981mg、2.98mmol)を乾燥DCMに溶解し、次いで2-(2-エトキシエトキシ)エタノール(404μL、2.98mmol)及びモレキュラーシーブを添加して溶液をN雰囲気下20℃で0.5時間撹拌した。次いでTMSOTf(270μL、1.49mmol)をN雰囲気下0℃で溶液に添加した。溶液を0℃で0.5時間撹拌し、N雰囲気下20℃で一晩撹拌した。蒸発後の残渣をDCMに溶解し、飽和NaHCO水溶液、水及び塩水でそれぞれ洗浄し、MgSO上で乾燥させ、濾過し、蒸発させた。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~95/5)。(収率:化合物8=73%)。
化合物8:H NMR(MeOD):1.19(t,3H,CH,JH-H=7.2Hz),1.93(s,3H,OCH),1.94(s,3H,OCH),2.03(s,3H,OCH),2.14(s,3H,NAc),3.5-4.2(m,14H,CHO,H-2,H-5,H-6),4.67(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz),5.04(dd,1H,J3-4=3.2Hz,J3-2=11.2Hz),5.33(d,1H-4,J3-4=3.2Hz);13C NMR(MeOD):15.4,20.5,2×20.6,22.9,51.6,54.8,62.7,67.6,68.2,70.0,70.9,71.6,71.8,72.3,102.8,171.7,2×172.1,173.5;C2034NO11のHRMS(MALDI)[M+H],理論値:464.2132、実測値:464.2141。
【0176】
化合物8を10mLのメタノール及び10mLの水に溶解し、次いでAmberlite IRN78樹脂を添加した。混合物を20℃で3時間撹拌し、次いで濾過し、減圧下で蒸発させた(収率:化合物9=77%)。
化合物9:H NMR(MeOD):1.2(t,3H,JH-H=6.8Hz),1.99(s,3H,NAc),3.4-4.0(m,16H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.45(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz);13C NMR(MeOD):15.4,23.1,54.3,62.6,67.6,69.7,69.8,71.0,71.6,71.7,73.6,76.8,103.1,174.2;C14Η28ΝOのHRMS(MALDI)[M+H],理論値:338.1815、実測値:338.1819。
【0177】
化合物10(100mg、0.052mmol)を乾燥エタノールに溶解し、次いでAPTS(10mg、0.052mmol)を添加した後、Pd-C(10重量%)を添加した。3回の真空/Hサイクル後、反応液をH雰囲気下20℃で一晩撹拌した。次いで溶液を濾過し、減圧下で蒸発させた。アジドの還元はTLC及びH NMRで確認した。蒸発後、粗生成物に10mLのメタノール及び10mLの水を添加し、次いでAmberlite IRN78樹脂を添加した。反応液を20℃で3時間撹拌し、次いで濾過し、減圧下で蒸発させた(収率:化合物12=76%)。
化合物12:H NMR(MeOD):1.99(s,9H,NAc),2.79(t,6H,CHCO,JH-H=6Hz),3.22(s,2H,CHNH),3.4-4.0(m,66H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.44(d,3H,H-1,J1-2=8.4Hz),13C NMR(MeOD):3×23.1,3×37.6,3×40.4,45.7,3×54.3,61.2,3×62.6,3×68.0,3×69.7,3×69.8,3×70.2,3×70.7,3×71.4,3×71.5,3×71.6,3×73.5,3×76.8,3×130.1,3×174.0,3×174.1,175.35;C5710531のHRMS(MALDI)[M+H],理論値:1397.6886、実測値:1397.6803。
【0178】
化合物12(64mg、0.18mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いでp-フェニレンジイソチオシアネート(175mg、0.9mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下20℃で2時間撹拌した。溶液を次いで減圧下で蒸発させた。粗生成物をまずDCMで洗浄してp-フェニレンジイソチオシアネートの大半を除去し、次いで分取HPLCで精製した。(収率:化合物13=8%)。
化合物13:H NMR(MeOD):2.00(s,9H,NAc),2.46(t,6H,CHCO,JH-H=6Hz),3.30-4.20(m,66H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.28(s,2H,CHNH),4.46(d,3H,H-1,J1-2=8.4Hz),7.29(d,2H,JH-H=9Hz),7.60(d,2H,JH-H=9Hz);C651081031NaSのHRMS(MALDI)[M+Na],理論値:1611.6521、実測値:1611.6487。
【0179】
化合物14(250mg、0.49mmol)を乾燥エタノールに溶解し、次いでAPTS(94.1mg、0.49mmol)を添加した後、10%のPd-C(10重量%)を添加した。3回の真空/Hサイクル後、反応液をH雰囲気下20℃で一晩撹拌した。次いで溶液を濾過し、減圧下で蒸発させた。アジドの還元はTLC及びH NMRで確認した。蒸発後、粗生成物に10mLのメタノール及び10mLの水を添加し、次いでAmberlite IRN78樹脂を添加した。反応液を20℃で3時間撹拌し、次いで濾過し、減圧下で蒸発させた(収率:化合物16=86%)。
化合物16:H NMR(MeOD):2.80(t,2H,CHNH,JH-H=5.4Hz),3.5-4.0(m,16H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.81(d,1H,H-1,J1-2=1.8Hz);C1226NOのHRMS(MALDI)[M+H],理論値:311.1603、実測値:311.1600。
【0180】
化合物16(105mg、0.34mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いでp-フェニレンジイソチオシアネート(325mg、1.7mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下20℃で2時間撹拌した。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~80/20)。(収率:化合物17=85%)。
化合物17:H NMR(MeOD):3.5-4.0(m,18H,CHO,CHN,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.82(d,1H,H-1,J1-2=1.8Hz);7.26(d,2H,JH-H=8.8Hz),7.52(d,2H,JH-H=8.8Hz);C2029NaSのHRMS(MALDI)[M+Na],理論値:526.1302、実測値:526.1294。
【0181】
化合物3(25mg、0.071mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いで2,6-ピリジンジイソチオシアネート(68mg、0.9mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下20℃で2時間撹拌した。次いで溶液を減圧下で蒸発させ、CHCN及びDCMで数回洗浄した。(収率:化合物18=42%)。
化合物18:H NMR(DMSO):1.79(s,3H,NAc),3.2-4.6(m,18H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.28(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz),7.07(d,1H,JH-H=7.5Hz),7.16(d,1H,JH-H=8.1Hz),7.60(m,NH),7.86(t,1H,JH-H=8.1Hz);C2132のHRMS(MALDI)[M+H],理論値:546.1697、実測値:546.1692。
【0182】
化合物3(25mg、0.071mmol)を乾燥DMFに溶解し、次いで1,4-ナフタレンジイソチオシアネート(86mg、0.355mmol)を添加し、反応液をN雰囲気下20℃で2時間撹拌した。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~80/20)。(収率:化合物19=58%)。
化合物19:H NMR(DMSO):1.80(s,3H,NAc),3.2-4.6(m,18H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.29(d,1H,H-1,J1-2=8.4Hz),7.6-8.1(m,8H,6Harom,2NH),9.83(m,1H,NH);C2634NaSのHRMS(MALDI)[M+Na],理論値:617.1717、実測値:617.1716。
【0183】
化合物20(500mg、1.28mmol)を乾燥DCMに溶解し、次いで2-(2-エトキシエトキシ)エタノール(174μL、1.28mmol)及びTFA-Ag(424mg、1.92mmol)を溶液に添加した。溶液を撹拌しながら、室温でSnCl(1MのCHCl溶液、3.84mL、3.84mmol)を滴下し(30分以内)、N雰囲気下20℃で3時間撹拌した。次いで、溶液を、飽和NaHCO水溶液、水及び塩水でそれぞれ洗浄し、MgSO上で乾燥させ、濾過した。溶液を次いで減圧下で蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィーで精製した(DCM/MeOH:100/0~95/5 )。(収率:化合物21=73%)。糖修飾をTLC及びマススペクトルで確認し、次いで化合物21(150mg、0.323mmol)10mLのメタノール及び10mLの水に溶解し、次いでAmberlite IRN78樹脂を添加した。混合物を20℃で3時間撹拌し、次いで濾過し、減圧下で蒸発させた(収率:化合物22=77%)。
化合物22:H NMR(MeOD):1.19(t,3H,JH-H=6.9Hz),3.4-4.0(m,16H,CHO,H-2,H-3,H-4,H-5,H-6),4.79(d,1H,H-1,J1-2=1.8Hz);C2029NaSのHRMS(MALDI)[M+Na],理論値:526.1302、実測値:526.1294。
【0184】
実施例2:化学修飾AAV2によるヒト初代培養肝細胞の形質導入
2.1.AAV2の生産と精製
AAV2ベクターは、AAV Rep2-Cap2及びアデノウイルスヘルパー遺伝子(E2A、VA RNA及びE4)をコードするpHelper,PDP2-KANA並びにpVector ss-CAG-eGFPの2つのプラスミドから生産した。すべてのベクターは、リン酸カルシウム-HeBS法を用いたHEK293細胞の一過性トランスフェクションによって生産した。トランスフェクションして48時間後に、ベクターで生成した細胞を収集し、まず37℃で1時間1%Triton及びベンゾナーゼ(25U/mL)で処理した。37℃で1時間インキュベートした後、バルクを2000rpmで20分間遠心分離し、凍結融解サイクルに付してベクター粒子を遊離させた。細胞残渣を2500rpmで15分間遠心分離して除去した。細胞溶解物をPEGで一晩沈殿させ、4000rpmで1時間遠心分離して清澄化した。次いで沈殿をベンゾナーゼと37℃で30分間インキュベートし、4℃で10分間10000gで遠心分離した後に回収した。ベクターを二重塩化セシウム(CsCl)勾配超遠心分離によって精製した。次いで、ウイルス懸濁液を、Slide-a-Lyzerカセット(Pierce社)で、若干撹拌しながらdPBS(Ca++及びMg++を含有する)に対して4回続けて透析した。
【0185】
2.2.カップリング及び精製(本発明及び比較反応体を用いて)
下記の式のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)(発明外)、化合物6(本発明)、化合物9(比較)、化合物13(本発明)、化合物16(比較)、化合物17(本発明)、化合物18(本発明)、化合物19(本発明)又は化合物22(比較)を含有するTRIS緩衝液pH9.3の溶液に、AAV2-GFP(1E12vg、2.49nmol)を様々なモル比(3E5~1.5E7当量)で添加し、20℃で4時間インキュベートした。次にベクターを含む溶液をdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離分子を除去した。
【化26】
【0186】
2.3.ウイルスゲノム抽出
ベクターサンプル中の残留DNAを除去するため、3μLのAAV2又は化学修飾AAV2を37℃で45分間20単位のDNaseI(Roche社#04716728001)で処理した。DNaseI処理後、20μLのプロテイナーゼK 20mg/mL(MACHEREY-NAGEL社#740506)を加え、70℃で20分間インキュベートした。精製AAVベクターからのDNAの抽出には、抽出カラム(NucleoSpin(商標)RNA Virus)を使用した。
【0187】
2.4.定量的リアルタイムPCR分析
定量リアルタイムPCR(qPCR)は、StepOnePlus(商標)Real-Time PCR System Upgrade(Life Technologies社)を用いて実施した。すべてのPCRは、プライマー、プローブ、PCR Master Mix(タカラバイオ(株))及び5μLの鋳型DNA(プラスミド標準、又はサンプルDNA)を含む20μLの最終体積のPCRで行った。qPCRは、95℃で20秒間の初期変性工程、次いで95℃で1秒間の変性と56℃で20秒間のアニーリング/伸長の45サイクルで行った。Sca-I制限酵素で線状化したプラスミドpTR-UF-11(ATCC(登録商標)MBA-331(商標))の7回連続希釈したもの(10~10コピーのプラスミドを含む)を用いてプラスミド標準を生成した。
【0188】
2.5.ウエスタンブロッティング
すべてのベクターを、Laemmliサンプル緩衝液を用いて100℃で5分間変性させ、SDS-PAGE 10%Tris-グリシンポリアクリルアミドゲル(Life Technologies社)で分離した。Precision plus Protein All Blue Standards(Bio-Rad社)を分子量サイズマーカーとして用いた。Trans-Blot SD Semi-Dry Transfer Cell(Bio-Rad社)において、トランスファー緩衝液(25mM Tris/192mMグリシン/0.1(w/v)SDS/20%MeOH)を用いて150mAで1時間タンパク質をニトロセルロースメンブレンに移動させた後、室温で2時間、メンブレンをPBS-Tween中の5%セミスキムミルク(0.1%)又はPBS-Tween中の1%ゼラチン、0.1%Igepal(0.01%)で飽和させた。飽和後、メンブレンを、AAV2及び化学修飾AAV2に対する抗血清(ポリクローナル、B1モノクローナル又はAnti-Fluorescein-AP)で或いはFITC-大豆凝集素又はFITC-コンカナバリンAで4℃で一晩プローブした。各段階の間に3回洗浄を行い、未結合の試薬をPBS-Tween(0.1%)で室温で15分間除去した。バンドは、アルカリホスファターゼ(AP)又はホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体を用いて化学発光によって可視化し、X線フィルムに撮像した。
【0189】
2.6.イムノドットブロット
PBSに短時間浸漬したニトロセルロース紙上に非変性AAV2及び化学修飾AAV2を付着させてから、ドットブロットマニホールド(Bio-Rad社)を組み立てた。ニトロセルロースメンブレンはウエスタンブロッティングと同様に処理した。
【0190】
2.7.動的光散乱
DLSはMalvern社製Zetasizer Nano ZSを用いて行った。キャリブレーションは、30及び300nmのNanospereサイズ標準溶液を用いることによって予め制御した。各50μLのベクターをMalvern社製の専用キュベットDTSO118に入れ、容量分析した。
【0191】
2.8.ヒト及びマウス初代培養肝細胞の形質導入
マウス及びヒト初代培養肝細胞及び培地は、BIOPREDIC International社(フランス国レンヌ)から購入した。マウス及びヒト肝細胞を、24ウェルプラスチック表面に約2.5E5細胞/ウェルの密度で播種した。受領後、細胞培養培地を除去して、添加物(ADD222)を含む1mL基本培地(MIL600)と交換し、37℃-5%CO中で2時間インキュベートした。実施例に示すように、マウス又はヒト初代培養肝細胞を、0.5mL培地中のAAV3b、AAV2又は化学修飾AAV2ベクターによって1E5のMOIで形質導入した。形質導入して6時間後に、0.5mLの新鮮培地を各ウェルに添加した。すべてのAAVベクターはGFPをコードしていた。培養プレートを37℃、5%COで48時間インキュベートしてから、GFP陽性細胞のフローサイトメトリー分析に付した。細胞をトリプシン-EDTA(Sigma-Aldrich社)で剥がし、4%パラホルムアルデヒドで固定し、BD-LSRII Flow Cytometer(BD Bioscience社)で分析した。すべてのデータはFlow Jo(V10;Flowjo社(米国オレゴン州アシュランド))で処理した。
【0192】
2.9.ラットの網膜の形質導入
成体オスのSprague-Dawleyラットに、AEV2対照又は化学修飾ベクターのいずれかを1E12vg/mLの濃度で含有する2.5μlの溶液を網膜下注射した。すべての動物で両側に、すなわち一方の眼にAAV2対照を、反対側の眼に化学修飾AAV2+17ベクターを注射した。2群の動物(1群当たりn=8)を使用し、1つの群はAAV2対照対AAV2+17を3E5当量で注射し、2番目の群はAAV2対照対AAV2+17を3E6当量で注射した。眼底でのGFP発現による蛍光を追跡するため、非侵襲的イメージングシステムを注射後1週間乃至注射後1.5ヶ月までの様々な時点で使用した。
【0193】
2.10.統計分析
すべての実験は平均±標準誤差(SEM)として示す。統計分析にはGraphPad Prism5ソフトウェアを使用した。データは一元配置分散分析(ANOVA)に付した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001の場合に、サンプルは有意に異なるとみなした。
【0194】
2.11.結果及び結論
図1は、AAV2のカプシド上の第一級アミノ基を介するFITCの共有結合カップリングを表す。
(A)1E12vgの用量のAAV2-GFPベクターをTBS緩衝液(pH9.3)中のFITC(1E5又は3E5当量)の溶液に添加し、室温で4時間インキュベートした。ベクターを含む溶液をdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離のFITC分子を除去した。
(B)対照として、TBS(pH9.3)中のFITCを、反応性残基(-N=C=S)を含まないフルオレセイン(3E5当量)で置き換えたことを除いて、同じ実験手順を行った。
(C~E)AAV2対照、TBS緩衝液中のFITCとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプル(AAV2 FITC(1E5)及びAAV2 FITC(3E5))又はTBS緩衝液中のフルオレセインとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプル(AAV2 Fluo(3E5))を蛍光発光及びドットブロットによって分析した。この目的のため、各条件の総用量1E9vgをニトロセルロースメンブレンにロードし、直接蛍光発光によって(C)、抗FITC抗体を用いたドットブロットによって(D)又はカプシド全体を認識するA20抗体を用いることによって(E)分析した。
(F、G)用量5E8vgの同じサンプルを、変性AAVカプシドタンパク質を検出するためのポリクローナル抗体(F)又は抗FITC抗体(G)を用いたウエスタンブロットによって分析した。
(H)各条件の総用量1E10vgを硝酸銀染色によって分析した。VP1、VP2及びVP3は、AAVカプシドを構成する3種類のタンパク質である。タンパク質の大きさは、タンパク質ラダーに従って画像の左側に示してある。
【0195】
AAV2のカプシドの化学修飾の概念実証は、フルオロフォアFITCを用いて行った。この目的のため、AAV2に対する1E5又は3E5のモル比で示される2つの異なる量のFITCを使用した(図4A)。対照として、同じモル比のフルオレセインも使用した(図4-B)。
【0196】
使用したすべての実験条件について、陽性のA20ドットは、異なるモル比での反応及びその後のdPBS+Pluronicに対する透析を経た後も、AAV2カプシドがインタクトなままであることを示している(図4-C)。特に、陽性FITC及び陰性フルオレセインドットも、ウイルスカプシドへのFITCの共有結合カップリングを呈し、その吸着は示さなかった(図4-D)。図4-Eの蛍光分析で認められるドットの強度差は、これらの条件下で、FITCの共有結合カップリングが1E5当量のFITCよりも3E5の方が効率的であることを実証している。
【0197】
AIVカプシドサブユニットへのFITCのコンジュゲーションに対するモル比の影響をさらに確認するためにウエスタンブロット分析を行った。上記の結果と同様に、ポリクローナル抗体の使用は、用いたモル比でAAV2カプシドサブユニットがインタクトなままであることを示している(図4-F)。図4-Gに示すように、フルオレセインと最も高い比率でインキュベートしたAAV2及びAAV2由来のカプシドサブユニットは、抗FITC抗体とのインキュベーション後に全く陽性バンドを生じなかった。ただし、この抗体の使用は、これらの条件下で、FITCの共有結合が1E5当量のFITCよりも3E5で一段と効率的であることを明らかに示している(図4-G)。
【0198】
すべてのタンパク質を視覚化し、化学プロセス中に分解がないことを確認するために、条件の異なる銀染色も行った。
【0199】
図4-Hに示すように、試験したすべての条件下でVP1及びVP2よりもVP3バンドが強いことが観察できる。また、反応及びその後のdPBS+Pluronicに対する透析を経た後もAAV2カプシドサブユニットがインタクトなままであることを示している。
【0200】
図2は、AAV2のカプシド上の第一級アミノ基を介するGalNAcリガンドの共有結合カップリングのための反応性官能基の同定を示す。
(A)1E12vgの用量のAAV2-GFPベクターを、TBS緩衝液(pH9.3)中の化合物4(-N=C=S反応性官能基を有するGalNAcリガンドを含む)又は化合物6(アリール-N=C=S反応性官能基を有するGalNAcリガンドを含む)(3E5当量)の溶液を添加し、室温で4時間インキュベートした。インキュベーション後、ベクターをdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離のGalNAcリガンド分子を除去した。対照として、TBS(pH9.3)中の反応性残基(-N=C=S)を含まない化合物9(3E5当量)を用いて同じ実験手順を行った。
(B、C)AAV2対照及びTBS緩衝液中のGalNAcリガンドとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプル(AAV2+4、AAV2+6及びAAV2+9)をドットブロットによって分析した。この目的のため、各条件の総用量1E10vgをニトロセルロースメンブレンにロードし、カプシド全体を認識するA20抗体(B)を用いて又はα-アセチルガラクトサミン糖を認識する大豆-FITCレクチン(C)を用いて標識した。
【0201】
AAV2のカプシド表面に固定するためのリガンドの最適カップリング官能基を決定するために、-NCSを有する化合物(化合物4)、アリール-NCSを有する化合物(化合物6)(FITCと同様)及びこれらの肝リガンドの共有結合カップリングを担保するいかなる反応性官能基もなく、カプシド表面にも吸着しない別の化合物(化合物9)の3種類の化合物を合成した(図2-A)。
【0202】
AAV2でのこれらの肝リガンドの共有結合カップリングの検証のため、ドットブロット技術を用いた。使用したすべての実験条件について、陽性のA20ドットは、反応及びその後のdPBS+Pluronicに対する透析を経た後もAAV2カプシドがインタクトなままであることを示している(図2-B)。化合物6で検出された陽性大豆レクチンドット(GalNAc残基と相互作用することが知られている)は、これらの条件下でアリール-NCSがAAV2のカプシドのアミノ基と反応する唯一のカップリング官能基であることを示している。フルオレセインで観察されたように、化合物9では全く検出が認められず、化合物6がAAV2のカプシド表面に吸着ではなく、共有結合していることが確認された(図2-C)。
【0203】
TBS緩衝液とアリール-NCS官能基を有するリガンドとの併用は、ベクターに全く悪影響を及ぼさない条件で、AAV2の表面の異なる分子との共有結合カップリングを可能にする。
【0204】
図3は、AAV2のカプシド上の第一級アミノ基を介するGalNAcリガンドの共有結合カップリングを表す。
(A)1E12vgの用量のAAV2-GFPベクターを、TBS緩衝液(いずれもpH9.3)中の化合物6(アリール-N=C=S反応性官能基を有するGalNAcモノマーリガンド)又は化合物13(アリール-N=C=S反応性官能基を有するGalNAcトリマーリガンド)の溶液(3E5当量)に添加し、室温で4時間インキュベートした。インキュベーション後、ベクターをdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離のGalNAcリガンド分子を除去した。対照として、TBS(pH9.3)中の反応性残基を含まない化合物9(3E5当量)を用いて同じ実験手順を行った。
(B、C)AAV2対照及びTBS緩衝液中のGalNAcリガンドとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプル(AAV2+6、AAV2+9及びAAV2+13)をドットブロットによって分析した。この目的のため、各条件の総用量1E10vgをニトロセルロースメンブレンにロードし、集合カプシド全体を認識するA20抗体(B)を用いて又はα-アセチルガラクトサミン糖を認識する大豆-FITCレクチン(C)を用いて標識した。
(D、E)AAV2対照及びTBS緩衝液中のGalNAcリガンドとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプル(AAV2+6、AAV2+9及びAAV2+13)をウエスタンブロットによって分析した。各条件の全用量の1E10vgをニトロセルロースメンブレンにロードし、変性AAVカプシドタンパク質を検出するためのポリクローナル抗体(D)によって又は大豆-FITCレクチン(E)を用いて標識した。VP1、VP2及びVP3は、AAVカプシドを構成する3種類のタンパク質である。タンパク質の大きさは、タンパク質ラダーに従って画像の左側に示してある。
【0205】
化合物6とそのアリール-NCS官能基の化学カップリングの確認後、同じアンカー官能基を有する化合物であるトリマーGalNAc化合物(化合物13)も試験した。この特異的トリマーは、肝細胞の表面のASPGrとの相互作用を改善すると記載されていた(図3-A)。
【0206】
AAV2ドット上でのこれらの肝リガンドの共有結合の検証のために、ドットブロット及びウエスタンブロット法を用いた。使用したすべての実験条件について、陽性のA20ドットは、反応及びその後のdPBS+Pluronicに対する透析を経た後もAAV2カプシドがインタクトなままであることを示している(図3-B)。フルオレセインで観察されるように、化合物9では全く検出が認められず、化合物6及び13がAAV2のカプシド表面に吸着ではなく、共有結合していることが確認された(図3-C)。
【0207】
AAV2カプシドサブユニット上の第一級アミノ基での化合物6及び13のコンジュゲーションを確認するためにウエスタンブロット分析を行った。ポリクローナル抗体の使用は、AAV2カプシドサブユニットが、このカップリング工程で用いた各種リガンドとインタクトなままであることを示している(図3-D)。図3-Eに示すように、化合物9とインキュベートしたAAV2及びAAV2からのカプシドサブユニットは、特異的大豆レクチンとのインキュベーション後に全く陽性バンドを生じなかった。ただし、このレクチンを化合物6及び13と共に用いると、VP1、VP2及びVP3の正確な分子量に陽性バンドをはっきりと示し、これらのGalNAcリガンドがAAVカプシドの3つのサブユニット上に共有結合していることが実証された。
【0208】
図4は、GalNAcリガンドで化学修飾したAAV2及びAAV2ベクターによるヒト初代培養肝細胞の形質導入を示す。ヒト初代培養肝細胞(2E5細胞/ウェル)をP24プレートでインキュベートし、AAV2対照(融解直後)、GalNAc-AAV2(AAV2+6、AAV2+13)によって1E5のMOIで形質導入した。すべてのAAVベクターはGFPをコードしていた。形質導入の48時間後に、GFP陽性細胞の百分率をFACS分析によって測定した。非形質導入細胞(細胞)を蛍光バックグラウンドの対照として使用した。各条件の4回の反復実験をANOVA検定によって分析した(***p<0.001、**p<0.01)。データは平均値±SDとして示す。
【0209】
AAV2上の肝リガンドによる化学修飾の効率を評価するために、ヒト初代培養肝細胞でのこれらの修飾又は非修飾粒子の形質導入を評価した。図4に示すように、化合物6でのAAV2のカプシドの化学修飾は、GFP陽性細胞の百分率が4倍に増加し、これは同じ実験手順を行ったAAV2と比較して統計的に有意である。化合物13の化学カップリングで得られたGFP陽性細胞の百分率の増加は同じではなかったが、この増加は統計的に有意である。
【0210】
図5は、第一級アミノ基を介するカップリングの効率に対するリガンドの当量数の影響を示す(FITCを用いた例)。
(A)1E12vgの用量のAAV2-GFPベクターを、TBS緩衝液(pH9.3)中のFITC(3E5当量、3E5当量-10×(3E5当量であるが、反応体積を1/10に減少させたもの)、3E6当量、1.5E7)の溶液に添加し、室温で4時間インキュベートした。ベクターを含む溶液をdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離のFITC分子を除去した。
(B)対照として、TBS(pH9.3)中のFITCを反応性残基(N=C=S)を含まないフルオレセイン(1.5E7当量)で置き換えたことを除いて、同じ実験手順を行った。
(C、D)AAV2対照及びTBS緩衝液中のFITCとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプル(AAV2 FITC(3E5)、AAV2 FITC(3E5-10×)、AAV2 FITC(3E6)及びAAV2 FITC(1.5E7))又はTBS緩衝液中のフルオレセインとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプル(AAV2 Fluo(1.5E7))をドットブロットによって分析した。各条件の総用量1E9vgをニトロセルロースメンブレンにロードし、カプシド全体を認識するA20抗体(C)によって又は抗FITC抗体(D)を用いて標識した。
(E、F)用量5E8vgの同じサンプルを、変性AAVカプシドタンパク質を検出するためのポリクローナル抗体(E)又は抗FITC抗体(F)を用いたウエスタンブロットによって分析した。VP1、VP2及びVP3は、AAVカプシドを構成する3種類のタンパク質である。タンパク質の大きさは、タンパク質ラダーに従って画像の左側に示してある。
(G)HeLa細胞(2E5細胞/ウェル)を細胞スタック内でインキュベートし、AAV2 FITC(3E5)、AAV2 FITC(3E6)及びAAV2 FITC(1.5E7)によって1E5のMOIで形質導入した。すべてのAAVベクターはGFPをコードしていた。GFPの発現を回避するため形質導入の4時間後に、緑色FITC蛍光及び赤色蛍光A20免疫標識(A20一次抗体及びA1647二次抗体)の可視化による共焦点顕微鏡分析を行った。
【0211】
AAV2上のリガンドの数を調節するため、TBS緩衝液で用いるFITCのモル比を増加させ、それによってAAV2のカプシドの表面に結合する分子の数に影響があるか否かを評価した。AIV2のカプシドをFITCで飽和させるために、この比率を3E5から1.5E7に増加させた。
【0212】
AIVカプシドサブユニットへのFITCのコンジュゲーションに対するモル比の影響をさらに確認するため、ドットブロット及びウエスタンブロット分析を行った。上記の結果と同様に、A20及びポリクローナル抗体の使用は、用いた様々なモル比でAAV2カプシドサブユニットがインタクトなままであることを示している(図5-C、E)。図5-D、Fに示すように、最も高い比率のフルオレセインとインキュベートしたAAV2及びAAV2由来のカプシドサブユニットは、抗FITC抗体とのインキュベーション後にドット又は陽性バンドを生じなかった。ただし、この抗体の使用は、そのモル比を増加させたときにFITCの共有結合カップリングがさらに効率的になることを明らかに示している(図5-F)。付言すると、10×TBS緩衝液中の3E5モル比のFITCとのカップリングを行うことによって、このベクターのカプシドでさらに多くの数のフルオロフォアをカップリングできるようになる。
【0213】
AAV2-FITC(3E5)については、緑色FITC蛍光(J)及び赤色蛍光A20免疫標識(K)が検出され、FITCとA20-A1647との共局在化が、緑色及び赤色チャネルで得られた画像を合成することによって黄色で観察され(L)、AAV2のカプシドでのFITCの共有結合カップリングを実証している。対照的に、AAV2-FITC(3E6)及びAAV2-FITC(1.5E7)サンプル(S、V)は、A20免疫標識(K)では認められず、FITCとA20-A1647の共局在化は観察されなかった(T、U、W、X)。これらの結果は、AAV2のカプシド表面上のFITCリガンドの数の増加がA20抗体との相互作用を低減させる可能性があることを示唆しており、修飾カプシドが全般的に表面認識抗体との相互作用を低減する可能性を示唆している。
【0214】
図6は、第一級アミノ基を介するカップリングの効率(化合物6及び13を用いた例)及びマウス初代培養肝細胞の形質導入に対するGalNAcリガンドの当量数の影響を表す。
(A、B)用量12μlのAAV2-GFPベクターを、TBS緩衝液(pH9.3)中の化合物6及び13(3E5及び3E6当量)の溶液に添加し、室温で4時間インキュベートした。ベクターを含む溶液をdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離のGalNAcリガンド分子を除去した。
AAV2対照及びTBS緩衝液中のGalNAcリガンドとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプルをウエスタンブロットによって分析した。各条件の総用量1E10vgをニトロセルロースメンブレンにロードし、変性AAVカプシドタンパク質を検出するためのポリクローナル抗体(A)によって又は大豆-FITCレクチン(B)を用いて標識した。VP1、VP2及びVP3はAAVカプシドの3種類のタンパク質である。タンパク質の大きさは、タンパク質ラダーに従って画像の左側に示してある。
(C)GalNAcリガンドで化学修飾したAAV2及びAAV2ベクターによるマウス初代培養肝細胞の形質導入。マウス初代培養肝細胞(2E5細胞/ウェル)をP24プレートでインキュベートし、AAV2対照(融解直後)、GalNAc-AAV2(AAV2+6(3E5及び3E6当量))によって1E5のMOIで形質導入した。すべてのAAVベクターはCAGプロモーターの制御下でGFPをコードしていた。形質導入の72時間後に、GFP陽性細胞の百分率をFACS分析によって測定した。非形質導入細胞(細胞)を対照として使用した(すなわち蛍光バックグラウンド)。各条件の3回の反復実験をANOVA検定によって分析した(***p<0.001、**p<0.01)。データは平均値±SDとして示す。
【0215】
AAV2上のリガンドの数を調節するために、TBS緩衝液で用いる化合物6及び13のモル比を増加させ、それによってAAV2のカプシドの表面に結合する分子の数に影響があるか否かを評価した。AAV2のカプシドを6及び13で飽和させるために、この比を3E5から3E6当量(式)に増加させた。
【0216】
AAVカプシドサブユニットへの6及び13のコンジュゲーションに対するモル比の影響をさらに確認するため、ウエスタンブロット分析を行った。上記の結果と同様に、(カプシドに対する)ポリクローナル抗体の使用は、用いた様々なモル比でAAV2カプシドサブユニットがインタクトなままであることを示している(図6-A)。図6-Bに示すように、大豆レクチンの使用は、モル比を3E5から3E6に増すと、化合物6及び13の共有結合カップリングがさらに効率的になることをはっきりと示している。AAV2上の肝リガンドによる化学修飾の効率を評価するために、マウス初代培養肝細胞でのこれらの修飾又は非修飾AAV2粒子の形質導入を評価した。図6-Cに示すように、2通りの用量(3E5及び3E6当量)の化合物6でのAAV2のカプシドの化学修飾は、GFP陽性細胞の百分率が2倍(3E5)及び6倍(3E6)増加し、これはAAV2対照ベクターと比較して統計的に有意である。
【0217】
図7は、ラットにおける第一級アミノ基を介するカップリングの効率(化合物17を用いた例)及び網膜の形質導入に対するマンノースリガンドの当量数の影響を示す。
(A)1E12vgの用量のAAV2-GFPベクターを、TBS緩衝液(いずれもpH9.3)中の化合物17(アリール-N=C=S反応性官能基を有するマンノースモノマーリガンド)(3E5及び3E6当量)の溶液に添加し、室温で4時間インキュベートした。インキュベーション後、ベクターをdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離マンノースリガンド分子を除去した。対照として、TBS(pH9.3)中の反応性残基を含まない(アリール-N=C=S)化合物22(3E6当量)を用いて、同じ実験手順を行った。
(B、C)AAV2対照及びTBS緩衝液中のマンノースリガンドとインキュベートしたAAV2ベクターのサンプルをウエスタンブロットによって分析した。各条件の総用量1E10vgをニトロセルロースメンブレンにロードし、変性AAVカプシドタンパク質を検出するためのポリクローナル抗体(B)によって又はマンノース基を特異的に認識するコンカナバリンAレクチン(C)を用いて標識した。VP1、VP2及びVP3は、AAVカプシドを構成する3種類のタンパク質である。タンパク質の大きさは、タンパク質ラダーに従って画像の左側に示してある。
(D)AAV2対照(AAV2)又はマンノースリガンド(化合物17)とインキュベートしたAAV2を2つの異なる用量(3E5当量及び3E6当量)で網膜下に注射したラットの眼底におけるGFP蛍光の直接可視化。画像は、注射後1週間乃至注射後1.5ヶ月までの様々な時点で非侵襲的技術を用いて取得した。
【0218】
AAV2表面上のマンノースリガンドの数を調節するために、TBS緩衝液で用いる化合物17のモル比を増大させ、それがGalNAcリガンドとしてAAV2のカプシドの表面上に結合した分子の数に影響を及ぼすか否かを評価した。AAV2のカプシドを化合物17で飽和させるために、この比率を3E5から3E6に増加させた。
【0219】
化合物17のAAVカプシドサブユニットへのコンジュゲーションに対するモル比の影響をさらに確認するため、ウエスタンブロット分析を行った。上記の結果と同様に、ポリクローナル抗体の使用は、用いた様々なモル比でAAV2カプシドサブユニットがインタクトなままであることを示している(図7-B)。図7-Cに示すように、コンカナバリンAレクチンの使用は、モル比を3E5から3E6に増すと、化合物17の共有結合カップリングがさらに効率的になることをはっきりと示している。
【0220】
非侵襲的眼底鏡検査は、全研究の間、AAV2対照及びAAV2+17処置眼の両方の網膜におけるGFP発現を示している(図7D)。左側の画像は、3E5当量の用量のAAV2+17で処置した眼を表しており、蛍光強度は、AAV2対照(対側眼)と比較して同程度であった。しかし、右側の画像では、3E6当量の用量でAAV2+17で処置した眼は、対照AAV2処置の反対側の眼と比較して、すべての時点でより広くより明るいGFP強度を有することが認められる。なお、蛍光シグナルは反対側の眼よりも格段に高かったので、3E6当量の用量のAAV2+17で処置した眼から3週間、1ヶ月及び1.5ヶ月に撮影された写真はシグナルの飽和を避けるために調整した。
【0221】
図8は、AAV2のカプシド上の第一アミノ基によるGalNAcリガンドの共有結合カップリングのための異なる反応性官能基の同定を示す。
(A)1E12vgの用量のAAV2-GFPベクターを、TBS緩衝液(pH9.3)中の化合物18又は19(3E6当量)の溶液に添加し、室温で4時間インキュベートした。インキュベーション後、ベクターをdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離GalNAcリガンドを除去した。
(B、C)変性AAVカプシドタンパク質を検出するためのポリクローナル抗体(B)又は大豆レクチン(C)を用いたウェスタンブロットによって各サンプルの1E10vgの用量を分析した。
【0222】
AAVのカプシド表面に適切に固定させるためのリガンドの異なるカップリング官能基を決定するために、2種類の化合物、化合物18(ピリジンイソチオシアネート誘導体)及び化合物19(ナフタレンイソチオシアネート誘導体)を合成した(図8A)。
【0223】
AAV2カプシドサブユニット上の第一級アミノ基での化合物18及び19のコンジュゲーションを確認するためにウエスタンブロット分析を行った。ポリクローナル抗体の使用は、AAV2カプシドサブユニットがこのカップリング工程で用いた各種リガンドとインタクトなままであることを示している(図8-B)。化合物18及び19と大豆レクチン(GalNAc基を認識する)の使用は、VP1、VP2及びVP3の正確な分子量に陽性バンドを示し、これらのGalNAcリガンドがAAVカプシドの3つのサブユニット上に共有結合していることを実証する。
【0224】
TBS緩衝液と、アリール-NCS、ポリアリール-NCS及びヘテロアリール-NCS官能基を有するリガンドとの併用は、ベクターに悪影響を及ぼさない条件で、AAV2の表面の異なる分子との共有結合カップリングを可能にする。
【0225】
図9は、AAV3bのカプシド上の第一級アミノ基による化合物6の共有結合カップリングを表す。1E12vgの用量のAAV3b-GFPベクターをTBS緩衝液(pH9.3)中の6(3E6当量)の溶液に添加し、室温で4時間インキュベートした。ベクターを含む溶液をdPBS+0.001%Pluronicに対して透析して、AAVカプシドに結合していない遊離の化合物6の分子を除去した。
(A、B)各条件の総用量1E9vgをニトロセルロースメンブレン上にロードし、集合カプシドを認識するA20抗体(A)及び大豆レクチン(B)を用いたドットブロットによって分析した。
(C、D)用量1E10vgの同じサンプルを、変性AAVカプシドタンパク質を検出するためのポリクローナル抗体(C)又は大豆レクチン(D)を用いたウエスタンブロットによって分析した。
【0226】
AAV3bのカプシドの化学修飾の概念実証を、AAV2と同様に化合物6を用いて行った。この目的のため、AAV3bに対する化合物6のモル比として3E6を使用した。
【0227】
使用したすべての実験条件について、陽性のA20ドットは、AAV3bカプシドが化学反応後もインタクトなままであることを示している(図9-A)。特に、大豆レクチンを用いた陽性ドットも、AAVカプシドでの化合物6の共有結合カップリングを示している(図9-B)。
【0228】
ウエスタンブロット分析を行って、化合物6とAAV3bカプシドサブユニットとのカップリングをさらに確認した。上記の結果と同様に、ポリクローナル抗体の使用は、AAV3bカプシドサブユニットがインタクトなままであることを示している(図9-C)。図9-Dに示すように、大豆レクチンの使用はAAVカプシドサブユニット上での化合物6の共有結合カップリングを示している。
【0229】
結論
カップリングに用いた実験条件によって、AAV2及びAAV3bのカプシドの表面上のリガンドのカップリングを調節できることをはっきりと示している。このようにカプシド表面のあらゆる性状のリガンドを化学的にカップリングすることによって新たなAAV由来ベクターを得ることができる。ベクターの比活性及び治療指数もこの方法によって改善することができる。
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図9
【配列表】
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