(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】車両のステアリングシステムを制御する方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220706BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20220706BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20220706BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20220706BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W60/00
B60W10/00 132
(21)【出願番号】P 2020519134
(86)(22)【出願日】2017-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2017075827
(87)【国際公開番号】W WO2019072379
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ケルストランド,ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ライネ,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,レオン
(72)【発明者】
【氏名】フォルツ,パトリック
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-252753(JP,A)
【文献】特開2007-015473(JP,A)
【文献】特開2007-230527(JP,A)
【文献】特開2015-074425(JP,A)
【文献】特開2017-100504(JP,A)
【文献】国際公開第2014/013682(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122562(WO,A1)
【文献】特開2015-074421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 60/00
B60W 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)のステアリングシステムを制御する方法であって、前記車両(100)は、左右端部に一対の操舵可能な車輪(104,106)を備えたフロントアクスル(102)を備え、前記操舵可能な各車輪は、個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータ(103,105)を備え、
前記方法は、
旋回操作中に前記車両を動作させるのに必要な操舵角を決定するステップ(S1)と、
前記旋回操作中に実際の操舵角を検出するステップ(S2)と、
前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を決定するステップ(S1)と、
前記操舵可能な車輪の前記ホイールトルクアクチュエータ(103,105)について、前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を小さくするのに必要な差動ホイールトルクを決定するステップ(S4)であって、
前記差動ホイールトルクは、前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を小さくするのに必要な前記一対の車輪の追加の操舵トルク(M
steer)を決定するステップと、前記必要な追加の操舵トルクと前記操舵可能な車輪のホイールサスペンションのスクラブ半径とに基づいて、前記差動ホイールトルクを決定するステップと、によって決定されるステップと、
前記ホイールトルクアクチュエータを制御して、前記操舵可能な車輪の前記差動ホイールトルクを達成するステップ(S5)と、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記車両(100)の前方の来るべき経路を決定することによって
前記旋回操作を決定するステップと、
前記車両が前記経路で動作されたとき、前記実際の操舵角を検出するステップと、
を更に備えた、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記差動ホイールトルクを決定するステップは、
前記一対の車輪(104,106)に作用する車輪の横力を決定するステップと、
前記車輪の横力に基づいて前記差動ホイールトルクを決定するステップと、
を備えた、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記車輪の横力を決定するステップは、
前記旋回操作について前記操舵可能な車輪(104,106)のスリップ角を決定するステップと、
前記操舵可能な車輪のコーナリング剛性と前記スリップ角とに基づいて前記車輪の横力を決定するステップと、
を備えた、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記必要な追加の操舵トルクは、前記操舵可能な車輪のサスペンションのキャスター角に更に基づく、
請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記旋回操作中に前記車両に要求される縦力を決定するステップと、
前記操舵可能な車輪に前記差動ホイールトルクを印加したことによって生じる前記車両の縦力の変化を決定するステップと、
前記車両を制御して前記要求される車両の縦力を維持する推進力又は制動力を加えるステップと、
を更に備えた、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記車両は、左右端部に操舵できない一対の後輪を備えた少なくとも1つのリアアクスルを更に備え、前記各後輪は、リアホイールトルクアクチュエータを備え、
前記方法は、前記操舵可能な車輪の
前記ホイールトルクアクチュエータが動作しているとき、前記後輪の
前記リアホイールトルクアクチュエータがホイールトルクを印加することを禁止するステップを更に備えた、
請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記ステアリングシステムは、前記車両のプライマリステアリングシステムによって操舵することに加え、前記車両を操舵可能な冗長のセカンダリステアリングシステムである、
請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
左右端部に一対の操舵可能な車輪を備え、前記操舵可能な各車輪が個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータを備えたフロントアクスルと、前記ホイールトルクアクチュエータのそれぞれに接続された制御ユニットと、を備え、
前記制御ユニットが、
旋回操作中に
車両を動作させるのに必要な操舵角を決定し、
前記旋回操作中に実際の操舵角を検出し、前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を決定し、前記操舵可能な車輪の前記ホイールトルクアクチュエータについて、前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を小さくするのに必要な前記一対の車輪の追加の操舵トルク(M
steer)を決定し、前記必要な追加の操舵トルクと前記操舵可能な車輪のホイールサスペンションのスクラブ半径とに基づいて、
差動ホイールトルクを決定することによって、前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との前記差を小さくするのに必要な
前記差動ホイールトルクを決定し、前記ホイールトルクアクチュエータを制御して前記操舵可能な車輪の前記差動ホイールトルクを達成するように構成された、
ステアリングシステム。
【請求項10】
前記ステアリングシステムは、自律車両の来るべき経路を検出するように配置された経路コントローラを更に備え、前記経路コントローラが前記制御ユニットに接続された、
請求項9に記載のステアリングシステム。
【請求項11】
前記ステアリングシステムは、前記制御ユニットに接続され、個々に制御可能な前記ホイールトルクアクチュエータの動作を制御するように配置されたホイールトルク制御モジュールを更に備え、前記ホイールトルク制御モジュールは、前記制御ユニットから制御信号を受信したとき、前記ホイールトルクアクチュエータを制御して前記差動ホイールトルクを印加するように配置された、
請求項9又は10に記載のステアリングシステム。
【請求項12】
前記ホイールトルク制御モジュールは、操舵可能な各車輪の前記ホイールトルクアクチュエータに関連して配置された分散型のホイールトルク制御モジュールである、
請求項11に記載のステアリングシステム。
【請求項13】
前記ホイールトルクアクチュエータは、ホイールブレーキを備えた、
請求項9~12のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項14】
前記ステアリングシステムは、冗長のセカンダリステアリングシステムであって、
前記制御ユニットは、
自律車両のプライマリステアリングシステムが使用できないことを示す信号を受信し、前記プライマリステアリングシステムが使用できなければ、前記冗長のセカンダリステアリングシステムを制御するように更に配置された、
請求項9~13のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項15】
ホイールサスペンションシステムを更に備え、
前記操舵可能な車輪は、正のスクラブ半径で前記ホイールサスペンションシステムに結合された、
請求項9~14のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項16】
左右端部に一対の操舵可能な車輪を備え、前記操舵可能な各車輪は、個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータを備えたフロントアクスルと、
請求項9~15のいずれか1つに記載のステアリングシステムと、
を備えた車両。
【請求項17】
前記車両は自律車両である、
請求項16に記載の車両。
【請求項18】
コンピュータで実行されたとき、請求項1~8のいずれか1つのステップを実行するプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラム。
【請求項19】
コンピュータで実行されたとき、請求項1~8のいずれか1つのステップを実行するプログラム手段を備えたコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
車両(100)のステアリングシステムを制御する方法であって、前記車両(100)は、左右端部に一対の操舵可能な車輪(104,106)を備えたフロントアクスル(102)を備え、前記操舵可能な各車輪は、個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータ(103,105)を備え、
前記方法は、
旋回操作中に前記車両を動作させるのに必要な操舵角を決定するステップ(S1)と、
前記旋回操作中に実際の操舵角を検出するステップ(S2)と、
前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を決定するステップ(S1)と、
前記操舵可能な車輪の前記ホイールトルクアクチュエータ(103,105)について、前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を小さくするのに必要な差動ホイールトルクを決定するステップ(S4)であって、前記差動ホイールトルクは、前記必要な操舵角と前記検出された実際の操舵角との差を小さくするのに必要な前記一対の車輪の追加の操舵トルク(M
steer
)を決定するステップと、前記必要な追加の操舵トルクと前記操舵可能な車輪のホイールサスペンションのスクラブ半径とに基づいて、前記差動ホイールトルクを決定するステップと、によって決定されるステップと、
前記ホイールトルクアクチュエータを制御して、前記操舵可能な車輪の前記差動ホイールトルクを達成するステップ(S5)と、
前記旋回操作中に前記車両に要求される縦力を決定するステップと、
前記操舵可能な車輪に前記差動ホイールトルクを印加したことによって生じる前記車両の縦力の変化を決定するステップと、
前記車両を制御して前記要求される車両の縦力を維持する推進力又は制動力を加えるステップと、
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリングシステムを制御する方法に関する。本発明はまた、対応するステアリングシステム及び車両に関する。本発明は、車両、特に、一般的にトラックと呼ばれる小型車両、中型車両及び大型車両に適用可能である。主にトラックに関して本発明を説明するが、他の車両への実装も考えられる。
【背景技術】
【0002】
車両の分野、特に、一般的にトラックと呼ばれる小型車両、中型車両及び大型車両では、車両の様々な制御機能に関して絶え間なき開発が行われている。特に、制御機能は、車両のドライバビリティ、ドライバの快適性、及び動作中の安全性を向上させることを目的としている。
【0003】
一般的に常に向上されている1つの制御機能は、車両のステアリングである。自律ステアリングシステム、ステアバイワイヤシステムなどに関する特定の技術分野において、絶え間なき開発が行われている。特に、これらのタイプのステアリングシステムは、主に電動アクチュエータを使用して車両を制御し、期待通りに道路のカーブ(curvature)を辿る。自律ステアリングシステムは、例えば、検出された車両前方のカーブに基づいて操舵することができる。ステアバイワイヤシステムは、人間のオペレータ又は自律機能からの入力に基づいて操舵する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなステアリングシステムの1つの問題は、故障、即ち、ステアリングが突然期待通りに機能しなくなった場合である。そのような場合、車両を期待通りに操舵できず、車両を牽引する必要があるか、せいぜい、車両機能を制限して修理工場まで走行させるいわゆるリンプホームモード機能が車両に設けられているかである。また、ステアリングシステムの故障は、ステアリングシステムが意図した通りに機能しないので、例えば、他の車両との側面衝突、車両が道路を逸脱するなど、交通事故のリスクを高める。
【0005】
従って、特に、車両の操舵及びドライバビリティに関し、向上された機能を有するステアリングシステムを提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、上記の欠点を少なくとも部分的に解消した、車両のステアリングシステムを制御する方法を提供することである。この目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、車両のステアリングシステムを制御する方法が提供される。この車両は、左右端部に一対の操舵可能な車輪を備えたフロントアクスルを備え、操舵可能な各車輪は、個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータを備えている。この方法は、旋回操作(turning maneuver)中に車両を動作させるのに必要な操舵角を決定するステップと、旋回操作中に実際の操舵角を検出するステップと、必要な操舵角と検出された実際の操舵角との差を決定するステップと、操舵可能な車輪のホイールトルクアクチュエータについて、必要な操舵角と検出された実際の操舵角との差を小さくするのに必要な差動ホイールトルク(differential wheel torque)を決定するステップと、ホイールトルクアクチュエータを制御して操舵可能な車輪の差動ホイールトルクを達成するステップと、を備えている。
【0008】
「フロントアクスル」という用語は、車両の前後方向で見て、車両の前方に位置する車軸として配置された、フロントホイールアクスルとして解釈すべきである。従って、車両の前後方向に対して、左側及び右側が理解できるはずである。
【0009】
また、「ホイールトルクアクチュエータ」という用語は、操舵可能な車輪にトルクを印加して制御するように配置されたアクチュエータとして解釈すべきである。従って、トルクは、車輪の回転軸、即ち、車輪の回転軸の方向に作用している。ホイールトルクアクチュエータは、トルクを加える、即ち、車輪に推進力を加える形態として正のトルクを加えるか、又は車輪の回転速度を低下させるトルク、即ち、負のトルクを加えるか、要するに、駆動トルク又は制動トルクを加えることができる。このように、ホイールトルクアクチュエータは、各車輪に作用するトルクを増加させるとともに減少させるように配置することができる。従って、ホイールトルクアクチュエータを制御して操舵可能な車輪の差動ホイールトルクを達成するとき、各ホイールトルクアクチュエータは、それぞれの車輪に個別のトルクを印加する。例えば、左側の操舵可能な車輪のホイールトルクアクチュエータは、右側の操舵可能な車輪のホイールトルクアクチュエータより大きなトルクを印加することができる。もちろん、左右の車輪の一方のみにトルクを印加することによって、差動ホイールトルクを達成することもできる。他の例によれば、操舵可能な車輪の一方に正のトルクを印加し、操舵可能な車輪の他方に負のトルクを印加することもできる。例示的な実施形態によれば、ホイールトルクアクチュエータは、好ましくは、例えば、電気機械又は油圧モータなど、ホイールブレーキ又はホイール推進ユニットの一方を備えることができる。
【0010】
さらに、「旋回操作」という用語は、車両が前方のまっすぐな経路から逸脱する状況として解釈すべきである。従って、旋回操作は、車両の車線変更、又は道路のカーブによって発生する車両の旋回操作などに関連することができる。旋回操作は、来るべき将来の旋回操作、又は車両を動作させるときに検出された進行中の旋回操作に関連することができる。従って、決定された必要な操舵角は、来るべき経路が検出されたいわゆるフィードフォワードアプローチによるか、又は決定された必要な操舵角が検出された車両のオペレータによるステアリングホイールの回転によるフィードバックアプローチに基づくことができる。後者の場合には、ステアバイワイヤシステムに特に有用であり、第1のアプローチは、自律車両に特に有用である。
【0011】
本発明は、実際の操舵角と比較される必要な操舵角を評価することによって、個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータを制御して、期待通りに車両を動作させるのに必要な操舵角と実際の操舵角との差を小さくすることができるという洞察に基づいている。フロントアクスルの操舵可能な車輪のホイールトルクアクチュエータを制御することは、動作対象の車両を期待通りに制御するという点で満足する結果をもたらすことが予想外に実現された。以下でさらに説明するように、車両を期待通りに制御するのに必要な追加トルクを決定するとき、スクラブ半径(scrub radius)、並びにキングピン軸角度、キャンバー、キャスター、及び/又は傾斜角度を考慮することは、必要な操舵角と実際の操舵角との差を小さくすることに関し比較的高精度をもたらす。
【0012】
また、上記の方法は、例えば、プライマリステアリングシステムが故障した場合、又はプライマリステアリングシステムが期待通りに機能しないとき、車両の動作を制御するバックアップステアリングシステムとして有利に使用することができる。従って、上記の方法は、プライマリステアリングシステムの補完又は支援として使用することもできる。
【0013】
さらに、以下でさらに説明するように、ホイールトルクアクチュエータを制御して必要な操舵角と実際の操舵角との差を小さくすることによって、車速を期待通りに維持することができる。これによって、上記の方法並びに後述するステアリングシステムは、プライマリステアリングシステムが故障している場合、車両をいわゆるリンプホームモードに設定する必要がなくなる。従って、車両を依然として期待通りに動作させることができる。他の利点は、車輪の操舵角を制御することによって、この方法がヨーレートの決定に依存しないことにある。これによって、この方法は、低車速及び大きな道路半径で動作する場合、十分に適合して安定している。
【0014】
例示的な実施形態によれば、この方法は、車両前方の来るべき経路を決定することによって旋回操作を決定するステップと、車両が経路で動作されているときの実際の操舵角を検出するステップと、を更に備えていてもよい。
【0015】
車両前方の経路は、車両前方の道路のカーブに関連すると解釈すべきである。来るべき経路は、例えば、適切な経路検出センサなどに接続された経路追従モジュールなど、車両の経路コントローラによって検出することができる。
【0016】
これによって、来るべき経路において車両を動作させるのに必要な操舵角は、前もって、即ち、制御が必要な道路のコーナに車両が到達する前に決定することができる。
【0017】
例示的な実施形態によれば、差動ホイールトルクを決定するステップは、一対の車輪に作用する車輪の横力(lateral force)を決定するステップと、車輪の横力に基づいて差動ホイールトルクを決定するステップと、を備えていてもよい。
【0018】
これによって、差動ホイールトルクは、一対の車輪に影響を及ぼすパラメータに基づいて制御することができる。これによって、車両を期待通りに動作させる精度をさらに向上、即ち、必要な操舵角と実際の操舵角との差の減少を改善することができる。横力は、車輪を整列させることを目的とし、これによって、車輪の横力は、例えば、車両旋回、及び/又は、例えば、風荷重、道路状態など、車両の外力に関連した影響によって発生する。
【0019】
例示的な実施形態によれば、車輪の横力を決定するステップは、旋回操作のための操舵可能な車輪のスリップ角を決定するステップと、操舵可能な車輪のコーナリング剛性とスリップ角とに基づいて車輪の横力を決定するステップと、を備えていてもよい。
【0020】
スリップ角は、車輪の角度位置と車輪の実際の動きの角度方向との差を規定する角度として解釈すべきである。例えば、前後方向軸に対して操舵可能な車輪が15度に操舵されており、同じ前後方向軸に対して実際の操舵可能な車輪の動きが12度であれば、スリップ角は3度である。一方、タイヤのコーナリング剛性は、横方向における操舵可能な車輪の剛性である。コーナリング剛性は、スリップ角(又はサイドスリップ角)とタイヤの横力との関数として規定されるタイヤパラメータである。コーナリング剛性は、特定の通常荷重での特定のタイヤについて、小さなスリップ角では一定と見做すことができる。
【0021】
例示的な実施形態によれば、差動ホイールトルクを決定するステップは、必要な操舵角と検出された実際の操舵角との差を小さくするために、一対の車輪の必要な追加操舵トルクを決定するステップと、操舵可能な車輪の必要な追加操舵トルクとホイールサスペンションのスクラブ半径に基づいて差動ホイールトルクを決定するステップと、を更に備えていてもよい。
【0022】
スクラブ半径は、車輪のキングピン軸が路面と交差する位置と、車輪と路面との接地面の中心との横方向距離として理解すべきである。スクラブ半径は、一般的に、「路面における操舵軸のオフセット」とも呼ばれる。
【0023】
上記のように、発明者は、印加対象の差動ホイールトルクを決定するとき、スクラブ半径、特に、正のスクラブ半径を効率的に使用できることを予期せず認識できた。これによって、追加操舵トルクが操舵可能な車輪に影響を及ぼして所望の方向に移動させる。
【0024】
例示的な実施形態によれば、必要な追加操舵トルクは、操舵可能な車輪のサスペンションキャスター角に更に基づいてもよい。これによって、車輪のさらなるパラメータ、及びパラメータが動作中に路面とどのように相互に関連するかを考慮して、必要な追加操舵トルクを決定する精度を更に向上することができる。
【0025】
例示的な実施形態によれば、この方法は、旋回操作中に必要な車両の縦力(longitudinal force)を決定するステップと、操舵可能な車輪に印加された差動ホイールトルクに起因する車両の縦力の変化を決定するステップと、車両を制御して推進力又は制動力を加えて必要な車両の縦力を維持するステップと、を更に備えていてもよい。
【0026】
上述したように、利点は、車両の縦力を制御することによって、旋回操作中に車両を所望の車速に維持できることである。このため、ステアリングシステムが冗長なセカンダリステアリングシステムであっても、車両の操作性を維持することができ、車両をリンプホームモードなどで制御する必要はない。従って、操舵可能な車輪のホイールトルクアクチュエータを制御しつつ車速を同時に制御することによって、操舵を制御することができる。
【0027】
例示的な実施形態によれば、車両は、左右端部に操舵できない一対の後輪を備えた少なくとも1つのリアアクスルを更に備え、各後輪は、リアホイールトルクアクチュエータを備えていてもよい。この方法は、操舵可能な車輪のホイールトルクアクチュエータを動作させるとき、後輪のリアホイールアクチュエータにホイールトルクを印加させることを禁止するステップを更に備えている。
【0028】
従って、車両の前方にある車輪を制御することによってのみ、操舵が制御される。これは、追加の推進力を最小にして、必要な車両の縦力を維持できるので有利である。また、スリップする可能性がある車輪の数が少なくなるため、旋回操作中の安定性を向上させることができる。
【0029】
例示的な実施形態によれば、ステアリングシステムは、車両のプライマリステアリングシステムによる操舵に加え、車両を操舵することができる冗長のセカンダステアリングシステムであってもよい。
【0030】
上記のように、冗長なセカンダリステアリングシステムに対して上記の方法を使用すると、プライマリステアリングシステムが期待通りに機能しない場合であっても、車両を十分に動作させることができる。従って、プライマリステアリングシステムと実質的に同様に機能するように車両を制御することができるので、車両をリンプホームモードなどで制御する必要はない。また、プライマリステアリングシステムが故障している場合であっても、車両がクラッシュするリスクが低減する。従って、安全性が向上する。
【0031】
第2の態様によれば、左右端部に一対の操舵可能な車輪を備え、操舵可能な各車輪に個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータを備えたフロントアクスルと、各ホイールトルクアクチュエータに接続され、旋回操作中に車両を動作させるのに必要な操舵角を決定し、旋回操作中に実際の操舵角を検出し、必要な操舵角と検出された実際の操舵角との差を決定し、操舵可能な車輪のホイールトルクアクチュエータについて、必要な操舵角と検出された実際の操舵角との差を小さくするのに必要な差動ホイールトルクを決定し、ホイールトルクアクチュエータを制御して操舵可能な車輪の差動ホイールトルクを達成するように構成された制御ユニットと、を備えた車両のステアリングシステムが提供される。
【0032】
制御ユニットは、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ、又は他のプログラム可能なデバイスを含んでいてもよい。制御ユニットはまた、又はその代わりに、特定用途向け集積回路、プログラマブルゲートアレイ、プログラマブルアレイロジック、プログラマブルロジックデバイス、又はデジタルシグナルプロセッサを含んでいてもよい。制御ユニットがマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、又はプログラマブルデジタルシグナルプロセッサなどのプログラム可能なデバイスを含む場合、プロセッサは、プログラム可能なデバイスの動作を制御するコンピュータ実行可能なコードを更に含んでいてもよい。
【0033】
また、ステアリングシステムは、例えば、旋回操作中に実際の操舵角を検出する適切なセンサを備えるか、又はこれに接続されていてもよい。そのようなセンサは、好ましくは、センサに制御信号を送信する制御ユニットに接続されている。
【0034】
例示的な実施形態によれば、ステアリングシステムは、自律車両の来るべき経路を検出するように配置された経路コントローラを更に備え、この経路コントローラが制御ユニットに接続されていてもよい。
【0035】
経路コントローラは、好ましくは、来るべき経路を検出する手段を備えていてもよい。そのような手段は、例えば、センサ、カメラなどであってもよい。
【0036】
例示的な実施形態によれば、ステアリングシステムは、制御ユニットに接続され、個別に制御されるホイールトルクアクチュエータの動作を制御するように配置されたホイールトルク制御モジュールを更に備えていてもよい。このホイールトルク制御モジュールは、制御ユニットから制御信号を受信したとき、ホイールトルクアクチュエータを制御して差動ホイールトルクを印加するように配置されている。
【0037】
例示的な実施形態によれば、ホイールトルク制御モジュールは、操舵可能な各車輪のホイールトルクアクチュエータに関連して配置された、分散型のホイールトルク制御モジュールであってもよい。これによって、分散型のホイールトルク制御モジュールは、各車輪に密接に関連して配置されることで、各車輪にトルクを比較的迅速に印加することができる。
【0038】
例示的な実施形態によれば、ホイールトルクアクチュエータは、ホイールブレーキを備えていてもよい。従って、ホイールブレーキは、車輪の回転運動に対抗するブレーキ圧を与え、これによって所望のトルクを達成するように配置されていてもよい。ホイールブレーキは、例えば、空気圧でブレーキ圧を印加することによって制御される、空気圧制御の摩擦ブレーキであってもよい。他の例によれば、ホイールブレーキは、電気機械式の摩擦ブレーキ、又は油圧制御式の摩擦ブレーキであってもよい。代替的又は付加的に、ホイールトルクアクチュエータは、正のトルクを与えるように配置された電気機械を備えていてもよい。
【0039】
例示的な実施形態によれば、ステアリングシステムは、冗長のセカンダリステアリングシステムであって、制御ユニットは、自律車両のプライマリステアリングシステムが利用できないことを示す信号を受信し、プライマリステアリングシステムが利用できない場合、冗長のセカンダリステアリングシステムを制御するように更に配置されていてもよい。冗長のセカンダリステアリングシステムはまた、第1の態様に関連して上述したように、プライマリステアリングシステムが期待通りに機能しないとき、プライマリステアリングシステムに加えて動作されてもよい。
【0040】
例示的な実施形態によれば、ステアリングシステムは、ホイールサスペンションシステムを更に備え、操舵可能な車輪は、正のスクラブ半径でホイールサスペンションシステムに連結されていてもよい。
【0041】
第2の態様のさらなる効果及び特徴は、第1の態様に関連して上述したものとほぼ類似している。
【0042】
第3の態様によれば、左右端部に一対の操舵可能な車輪を備え、操舵可能な各車輪が個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータを備えたフロントアクスルと、第2の態様に関連して上述した実施形態の任意の1つに係るステアリングシステムと、を備えた車両が提供される。
【0043】
例示的な実施形態によれば、車両は自律車両であってもよい。
【0044】
第4の態様によれば、コンピュータで実行されたとき、第1の態様に関連して説明したステップを実行するプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラムが提供される。
【0045】
第5の態様によれば、コンピュータで実行されたとき、第1の態様に関連して説明したステップを実行するプログラム手段を備えたコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体が提供される。
【0046】
第3、第4及び第5の態様の効果及び特徴は、第1及び第2の態様に関連して説明したものとほぼ類似している。
【0047】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討すれば明らかになるであろう。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下で説明する実施形態以外の実施形態を生み出すことができることを理解するであろう。
【0048】
本発明の上記並びに追加の目的、特徴及び利点は、本発明の例示的な実施形態の以下の例示的及び非限定的な詳細な説明を通してより理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】トラックの形態をとる車両の例示的な実施形態を示す側面図である。
【
図2】例示的な実施形態に係る
旋回操作に晒される、
図1の車両を上方から示す概略図である。
【
図3】道路のコーナに侵入する前の
図1の車両の説明図である。
【
図4a】例示的な実施形態に係る操舵可能な前輪の1つを示す異なる図である。
【
図4b】例示的な実施形態に係る操舵可能な前輪の1つを示す異なる図である。
【
図4c】例示的な実施形態に係る操舵可能な前輪の1つを示す異なる図である。
【
図5】例示的な実施形態に係るステアリングシステムの概略図である。
【
図6】例示的な実施形態に係るステアリングシステムを制御する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の例示的な実施形態を示す添付の図面を参照し、本発明を以下により詳細に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、徹底性(thoroughness)及び完全性(completeness)のために提供されている。同様な参照符号は、説明の全体を通して、同様な要素を指す。
【0051】
図1を特に参照すると、トラックの形態をとる車両1が提供されている。車両1は、内燃機関の形態をとる原動機10と、車両のステアリングを制御するシステム(500、例えば、
図5参照)と、を備えている。車両1は、車両のフロントアクスル102の左右端部にそれぞれ配置された一対の操舵可能な車輪104,106を備えている。従って、フロントアクスル102は、車両1の前方に配置された車軸である。
図1に示す車両1はまた、第1のリアアクスル112に結合された一対の第1の後輪108,110と、第2のリアアクスル118に結合された一対の第2の後輪114,116と、を備えている。第1のリアアクスル112は、車両1の前後方向で見て、第2のリアアクスル118の前方に配置されている。好ましくは、一対の第1の後輪108,110、及び一対の第2の後輪114,116は、操舵できない車輪である。後輪もまた、通常動作中に操舵可能であってもよいことを理解されたい。
【0052】
車両1をさらに詳細に説明するために、
図2及び
図3を参照する。詳細には、
図2は、
旋回操作中に車両1及びその車輪に作用する力の例示的な実施形態を示し、
図3は、
旋回操作を開始する前の車両1、即ち、道路のカーブに到達する前の車両1を示している。
【0053】
例示的な実施形態に係る
旋回操作に晒される、
図1の車両1を上方から見た概略図である
図2から説明を開始する。従って、一対の操舵可能な車輪104,106は、回転して操舵角δになっている。操舵角δは、
図2では簡略化のために、左側の操舵可能な車輪104と右側の操舵可能な車輪106とが同じに示されており、車両1の前後方向軸に対する車輪の角度である。車両1は、Vで示す車速で走行する。操舵可能な車輪104,106はまた、ホイールトルクアクチュエータ103,105を夫々備えている。
【0054】
車両1は、上記のように、フロントアクスル102に配置された一対の操舵可能な車輪104,106と、第1のリアアクスル112に結合された一対の第1の後輪108,110と、第2のリアアクスル118に結合された一対の第2の後輪114,116と、を備えている。フロントアクスル102は、車両の重心202から距離l1の位置に配置され、第1のリアアクスル112は、車両の重心202から距離l2の位置に配置され、第2のリアアクスル118は、車両の重心202から距離l3の位置に配置されている。重心202は、旋回操作中に車両1がその周りを回転する位置である。重心202は、車両1に影響を及ぼす合力(total global forces)が作用する、車両1の位置でもある。以下の説明では、x軸は車両1の前後方向に延び、y軸は車両1の横方向に延び、z軸は車両1の上下方向に延びる。旋回操作中、車両1は、重心202においてトルクMZが作用する。また、車両1には、縦力の合力(global longitudinal force)Fx、及び横力の合力(global lateral force)Fyが作用する。
【0055】
また、フロントアクスル102の操舵可能な車輪104,106が操舵角δに操舵されると、左側の操舵可能な車輪104には、縦力Fx,104及び横力Fy,104が作用し、右側の操舵可能な車輪106には、縦力Fx,106及び横力Fy,106が作用する。左右の操舵可能な車輪104,106の横力の合力は、前輪の横力として表現することができる。前輪の縦力の合力は、例えば、車両を推進又は車両を減速したときに増減し、差動前輪力は、操舵角を制御するために使用される。
【0056】
さらに、一対の第1の後輪108,110には、横力F
y,108及びF
y,110が夫々作用し、一対の第2の後輪114,116には、横力F
y,114及びF
y、116が夫々作用している。
図2に示す例では、一対の第1の後輪108,110、及び一対の第2の後輪114,116の縦力は、0に設定、即ち、各車輪は推進又は制動されていない。これは、以下で詳細に説明する。
【0057】
ここで、
図3を参照すると、道路のカーブ302に侵入する前の車両、即ち、
旋回操作を行う前の車両が示されている。
図3から分かるように、車両1は、現在、車速Vで直進している。従って、カーブ302に侵入する前には、操舵角δがゼロである。カーブは、r
roadで表される半径を有している。これによって、車両は、適切なセンサによって前方の道路のカーブを検出することができる。例示的な実施形態によれば、車両は、前方の道路、即ち、来るべき
旋回操作を検出するように配置された経路コントローラ(
図5参照)を備えていてもよい。しかしながら、以下で説明するシステム及び方法は、
旋回操作中、即ち、
旋回操作が行われるときに実施してもよいと理解すべきである。また、
旋回操作は、必ずしも
図3に示すような道路のカーブに関連していなくてもよい。これとは逆に、
旋回操作は、例えば、車両の車線変更に関連していてもよい。
【0058】
ここで、
図4a~
図4cを参照すると、例示的な実施形態に係る左側の操舵可能な車輪104の異なる図が示されている。詳細には、
図4aは左側の操舵可能な車輪104の側面図、
図4bは左側の操舵可能な車輪104の背面図、
図4cは左側の操舵可能な車輪104の
旋回操作中の上面図である。
【0059】
左側の操舵可能な車輪104の側面図である、
図4aから始める。車輪104のサスペンション(図示せず)は、車両1の前後方向において測定された、左側の操舵可能な車輪104の上下軸404からの操舵軸402の角度変位として規定されるサスペンションのキャスター角γを車輪104が有するように配置されている。路面401及び操舵軸402の交点と路面401及び上下軸404の交点との距離は、t
mとして表されている。車輪のサスペンションにより、車輪104と路面401との接触面406の力点(point of force application)は、路面401と上下軸404との交点から前後方向にわずかにオフセットして配置されている。このオフセットは、t
pとして表されている。従って、接触面は、地表面と接触するタイヤの領域である。このため、車輪104と路面401との接触面406の力点は、サスペンションのキャスター角γに依存している。
【0060】
左側の操舵可能な車輪104の背面図である
図4bを参照する。見て分かるように、有効車輪半径Rは、フロントアクスル102と路面401との距離として表され、車輪104は、傾斜角をτで表す傾斜したキングピン軸408によって、サスペンションに結合されている。従って、車輪104は、
旋回操作中にキングピン軸408の周りを回転する。また、車輪104と路面401との接触面406の力点は、上下軸404と路面401との交点に位置している。車両1、特に、操舵可能な車輪104,106には、正のホイールサスペンションスクラブ半径r
Sが設けられている。ホイールサスペンションスクラブ半径r
Sは、接触面406の力点とキングピン軸408及び路面401の交点403との距離として表されている。正のホイールサスペンションスクラブ半径r
Sは、
図4bに示される前後方向で見て、キングピン軸408と路面401との交点が上下軸404の内側に位置するときに生成される。例えば、左側の操舵可能な車輪104にブレーキトルクが印加されると、正のスクラブ半径r
Sが車両を左側に旋回させるので、車輪がキングピン軸408の周りを回転する。これによって、追加の操舵トルクM
steerを生み出すことができる。
【0061】
上方から見た、左右の前輪を組み合わせた簡略図である
図4cを参照する。
図4cにおいて、操舵可能な車輪には、車両を左側に旋回させる、増加したホイールブレーキトルクが作用している。見て分かるように、車両1は、
図3に関連して上述した道路のカーブで動作し、道路のカーブは半径r
roadを有している。従って、操舵可能な車輪104は、操舵角δを有している。しかしながら、操舵可能な車輪104は、車速Vをもって、操舵角δに対して角度αの方向に移動している。この角度αは、スリップ角αとも呼ばれる。
【0062】
上記の説明によって、特定の道路のカーブで車両を動作させるのに必要な操舵角を決定することで車両の動きを制御し、そのような必要な操舵角を実際の操舵角と比較することができる。上記のパラメータについては、特に明記しない限り、詳細には説明しない。これによって、操舵可能な車輪104,106のホイールトルクを増加して、必要な操舵角と実際の操舵角との差を小さくすることができる。ホイールトルクは、Fx,104及びFx,106と車輪半径Rとの差である、必要な差動縦力(differential longitudinal force)ΔFxを決定することによって求めることができる。
【0063】
必要な追加の操舵トルクM
steerは、次式(1)により決定することができる。
【数1】
ここで、F
y、104及びF
y,106は、操舵可能な車輪104,106の前輪の横力、t=t
m+t
pである。
【0064】
式(1)は、次式(2)及び(3)により書き換えることができる。
【数1】
ここで、C
αはタイヤの横剛性、F
y,i=C
α・α=前輪の横力、vは前後方向の車速、ωは
旋回操作中の車両の回転速度である。
【0065】
また、重心202における車両のトルクM
Zは、次式(4)により決定することができる。
【数3】
ここで、ΔF
x=F
x,104-F
x,106、F
x,108=F
x,110=F
x,114=F
x,116=0、βは車両のサイドスリップ角であって0、wは車両のトラック幅(track width)である。これによって、速度が車両の前後軸と同じ方向を示していることが想定される。
【0066】
また、操舵可能な車輪のスリップ角は、次式(5)~(9)により決定することができる。
【数4】
ここで、定常状態の操作においては、以下の通りである。
【数5】
【0067】
さらに、以下のような前提では、次式(10)及び(11)のようになる。
【数6】
【0068】
これによって、操舵可能な車輪の差動ホイールトルクは、有効車輪半径Rに基づいて決定することができる。
【0069】
上記のことは、制御配分(control allocation)を割り当てることによって制御することができ、これによって次式(12)を定式化することができる。
【数7】
【0070】
ここで、Rを有効半径、Tを各車輪のホイールトルクとすると、行列及びベクトルが次式(14)のように定義される。
【数8】
【0071】
例示的な実施形態に係るステアリングシステム500を示す、
図5を参照する。
図5から理解できるように、ステアリングシステム500は、アクチュエータ制御モジュール502と、車両モーション制御モジュール504と、交通状況コントローラ506と、を有している。アクチュエータ制御モジュール502は、ホイールトルク制御モジュール508と、推進力コントローラ510と、操舵コントローラ512と、を有している。車両モーション制御モジュール504は、モーションコントローラ514と、アクチュエータ調整モジュール516と、を有している。最後に、交通状況コントローラ506は、経路コントローラ518と、車両スタビリティ制御モジュール520と、モーションリクエストモジュール522と、を有している。
【0072】
図5における例示的なシステム500の動作中、経路コントローラ518は、車両1の来るべき経路を検出して、経路を維持するのに必要な操舵角δ
pathをモーションリクエストモジュール522に送信する。この信号は、経路のカーブ、及びいくつかの実装では車速に基づいている。また、車両スタビリティ制御モジュール520は、来るべき経路における車両の最大許容回転速度をモーションリクエストモジュール522に送信する。モーションリクエストモジュール522は、受信した信号を評価して、必要な操舵角δ
req、必要な回転速度ω
req、及び必要な前後方向の車両加速度α
x,reqをモーションコントローラ514に送信する。
【0073】
モーションコントローラ514は、受信したパラメータを評価して、車両の縦力Fx、車両の横力Fy、車両のトルクMZ、並びに上述した追加の操舵トルクMsteerを含むベクトルをアクチュエータ調整モジュール516に送信する。
【0074】
モーションコントローラ514から受信した信号に基づいて、アクチュエータ調整モジュール516は、ホイールトルク制御モジュール508、推進力コントローラ510及び操舵コントローラ512の1つ以上に信号を送信する。詳細には、ホイールトルク制御モジュール508は、必要なホイールトルクを示す信号を受信し、これによって、ホイールトルク制御モジュール508は、個別に制御可能なホイールトルクアクチュエータ103,105を制御して、必要な差動ホイールトルクを印加する。推進力コントローラ510は、必要な推進力を示す信号を受信して、そのような推進力を与えるように車両を制御する。最後に、操舵コントローラ512は、必要な操舵角δreqを示す信号を受信する。従って、操舵コントローラ512は、プライマリステアリングシステムが期待通り/意図した通りに機能している場合に主に使用される。ホイールトルク制御モジュール508、推進力コントローラ510及び操舵コントローラ512のそれぞれはまた、例えば、各パラメータなどの状態を示す制御信号をアクチュエータ調整モジュール516に返送することができる。
【0075】
例示的な実施形態に係るステアリングシステムを制御する方法のフローチャートである、
図6を参照して要約する。動作中、ステップS1において、
旋回操作中に車両を動作させるのに必要な操舵角δ
reqが検出される。必要な操舵角δ
reqは、例えば、経路フォロワーから、又はステアリングホイールを回転させるオペレータから受信した信号に基づいて事前に決定することができる。その後、ステップS2において、
旋回操作中に車両1が動作したとき、実際の操舵角が検出される。これによって、ステップS3において、必要な操舵角と検出された実際の操舵角との差を決定することができる。この決定された差によって、ステップS4において、差動ホイールトルクを決定することができる。そして、ステップS5において、操舵可能な車輪104,106のホイールトルクアクチュエータ103,105が制御されて、そのような差が小さくなる。ホイールトルクアクチュエータのタイプに応じて、ホイールトルクアクチュエータを制御して、操舵可能な車輪に差動制動力を印加するか、又は操舵可能な車輪に差動推進力を加えることができる。
【0076】
本発明は、上述及び図示の実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で、様々な変更及び修正がなされ得ることを認識するであろう。