IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社巴川製紙所の特許一覧

<>
  • 特許-静電チャック装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20220706BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020563349
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050846
(87)【国際公開番号】W WO2020138179
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018244941
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 允義
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇気
(72)【発明者】
【氏名】萩原 知哉
(72)【発明者】
【氏名】高村 正
(72)【発明者】
【氏名】四方 良二
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-027315(JP,A)
【文献】特許第5054022(JP,B2)
【文献】特開2008-218802(JP,A)
【文献】特開2002-313898(JP,A)
【文献】特開2006-082474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内部電極と、該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムと、少なくとも前記内部電極および前記絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介して積層されたセラミックス層と、を備え
前記セラミックス層は、前記中間層を介して前記積層体の外面全面を覆うことを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
前記セラミックス層は、下地層と、該下地層の上面に形成され、凹凸を有する表層と、を有することを特徴とする請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記中間層は、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記無機充填剤は、球形粉体および不定形粉体の少なくとも一方であることを特徴とする請求項に記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記球形粉体および前記不定形粉体は、アルミナ、シリカおよびイットリアからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記繊維状充填剤は、植物繊維、無機繊維および繊維化された有機樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記絶縁性有機フィルムは、ポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項8】
前記絶縁性有機フィルムは、前記内部電極の厚さ方向の下面側に設けられた第1の絶縁性有機フィルムと前記内部電極の厚さ方向の上面側に設けられた第2の絶縁性有機フィルムとからなり、前記第1の絶縁性有機フィルムの前記内部電極とは反対側の面に第1の接着剤層が設けられ、
前記第1の絶縁性有機フィルムおよび前記第1の絶縁性有機フィルムの厚さ方向の上面側に設けられた前記内部電極と前記第2の絶縁性有機フィルムの間に第2の接着剤層が設けられ、
前記第1の接着剤層の厚さ、前記第1の絶縁性有機フィルムの厚さ、前記内部電極の厚さ、前記第2の接着剤層の厚さ、前記第2の絶縁性有機フィルムの厚さ、前記中間層の厚さ、および前記セラミックス層の厚さの合計が200μm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハを使用して半導体集積回路を製造する場合や、ガラス基板、フィルム等の絶縁性基板を使用した液晶パネルを製造する場合には、半導体ウエハ、ガラス基板、絶縁性基板等の基材を所定部位に吸着保持する必要がある。そのため、それらの基材を吸着保持するために、機械的方法によるメカニカルチャックや真空チャック等が用いられていた。しかしながら、これらの保持方法は、基材(被吸着体)を均一に保持することが困難である、真空中で使用することができない、試料表面の温度が上昇し過ぎる等の問題があった。そこで、近年、被吸着体の保持には、これらの問題を解決することができる静電チャック装置が用いられている。
【0003】
静電チャック装置は、内部電極となる導電性支持部材と、それを被覆する誘電性材料からなる誘電層と、を主要部として備える。この主要部により被吸着体を吸着させることができる。静電チャック装置内の内部電極に電圧を印加して、被吸着体と導電性支持部材との間に電位差を生じさせると、誘電層の間に静電気的な吸着力が発生する。これにより、被吸着体は導電性支持部材に対しほぼ平坦に支持される。
【0004】
従来の静電チャック装置としては、内部電極上に絶縁性有機フィルムを積層して、誘電層を形成した静電チャック装置(例えば、特許文献1参照)が知られている。また、内部電極上にセラミックスを溶射して、誘電層を形成した静電チャック装置(例えば、特許文献2参照)が知られている。また、内部電極上に積層した絶縁性有機フィルム上にセラミックスを溶射して、セラミックス層を形成した静電チャック装置(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-235563号公報
【文献】実公平6-36583号公報
【文献】特許第5054022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような、内部電極上に設けた絶縁性有機フィルムからなる誘電層で形成されたクーロン力により、被吸着体を吸着する静電チャック装置は、吸着力には優れている。しかしながら、この静電チャック装置は、ドライエッチング装置で使用するプラズマ環境下での耐性が低く、製品寿命が短いという課題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載されているような、内部電極上にセラミックスを溶射して形成した誘電層を有する静電チャック装置は、プラズマ耐性がある。しかしながら、セラミックス粒子間に空隙が存在するため、安定した絶縁性を得ることが難しいばかりでなく、絶縁性確保のために誘電層を厚くしなければならない。そのため、クーロン力で被吸着体を吸着する静電チャック装置としては、高い吸着力を得ることが難しいという課題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載されているような、内部電極上に積層した絶縁性有機フィルム上にセラミックスを溶射して形成したセラミックス層を有する静電チャック装置では、絶縁性有機フィルム上にセラミックス層を溶射形成するため、絶縁性有機フィルム上に凹凸形成が必要であった。しかしながら、この凹凸形成やセラミックス溶射により、絶縁性有機フィルムの絶縁性が低下し、静電チャック装置として使用するにはセラミックス層の厚さが少なくとも100μm必要であった。また、絶縁性有機フィルム上にセラミックスを溶射した場合、絶縁性有機フィルムの端部までセラミックス層で覆うことができなかった。絶縁性有機フィルムの端部が露出していると、静電チャック装置のプラズマ耐性が低下する。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、優れたプラズマ耐性と耐電圧性を有し、かつ吸着性にも優れた静電チャック装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]複数の内部電極と、該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムと、少なくとも前記内部電極および前記絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介して積層されたセラミックス層と、を備え、前記セラミックス層は、前記中間層を介して前記積層体の外面全面を覆うことを特徴とする静電チャック装置
[2]前記セラミックス層は、下地層と、該下地層の上面に形成され、凹凸を有する表層と、を有することを特徴とする[1]に記載の静電チャック装置。
]前記中間層は、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むことを特徴とする[1]または記載の静電チャック装置。
]前記無機充填剤は、球形粉体および不定形粉体の少なくとも一方であることを特徴とする[]に記載の静電チャック装置。
]前記球形粉体および前記不定形粉体は、アルミナ、シリカおよびイットリアからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[]に記載の静電チャック装置。
]前記繊維状充填剤は、植物繊維、無機繊維および繊維化された有機樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[]~[]のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
]前記絶縁性有機フィルムは、ポリイミドフィルムであることを特徴とする[1]~[]のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
]前記絶縁性有機フィルムは、前記内部電極の厚さ方向の下面側に設けられた第1の絶縁性有機フィルムと前記内部電極の厚さ方向の上面側に設けられた第2の絶縁性有機フィルムとからなり、前記第1の絶縁性有機フィルムの前記内部電極とは反対側の面に第1の接着剤層が設けられ、前記第1の絶縁性有機フィルムおよび前記第1の絶縁性有機フィルムの厚さ方向の上面側に設けられた前記内部電極と前記第2の絶縁性有機フィルムの間に第2の接着剤層が設けられ、前記第1の接着剤層の厚さ、前記第1の絶縁性有機フィルムの厚さ、前記内部電極の厚さ、前記第2の接着剤層の厚さ、前記第2の絶縁性有機フィルムの厚さ、前記中間層の厚さ、および前記セラミックス層の厚さの合計が200μm以下であることを特徴とする[1]~[]のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたプラズマ耐性と耐電圧性を有し、かつ吸着性にも優れた静電チャック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の静電チャック装置の概略構成を示し、静電チャック装置の高さ方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した実施形態の静電チャック装置について説明する。なお、以下の説明で用いる図面において、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
[静電チャック装置]
図1は、本実施形態の静電チャック装置の概略構成を示し、静電チャック装置の高さ方向に沿う断面図である。
図1に示すように、本実施形態の静電チャック装置1は、基板10と、複数の内部電極20と、接着剤層30と、絶縁性有機フィルム40と、中間層50と、セラミックス層60と、を備える。詳細には、図1に示すように、本実施形態の静電チャック装置1は、基板10と、第1の内部電極21と、第2の内部電極22と、第1の接着剤層31と、第2の接着剤層32と、第1の絶縁性有機フィルム41と、第2の絶縁性有機フィルム42と、中間層50と、セラミックス層60と、を備える。
【0015】
本実施形態の静電チャック装置1では、基板10の表面(基板10の厚さ方向の上面)10aにて、第1の接着剤層31と、第1の絶縁性有機フィルム41と、第1の内部電極21および第2の内部電極22と、第2の接着剤層32と、第2の絶縁性有機フィルム42と、中間層50と、セラミックス層60とがこの順に積層されている。
【0016】
内部電極20の厚さ方向の両面(内部電極20の厚さ方向の上面20a、内部電極20の厚さ方向の下面20b)側にそれぞれ絶縁性有機フィルム40が設けられている。詳細には、第1の内部電極21の厚さ方向の上面21a側および第2の内部電極22の厚さ方向の上面22a側に、第2の絶縁性有機フィルム42が設けられている。また、第1の内部電極21の厚さ方向の下面21b側および第2の内部電極22の厚さ方向の下面22b側に、第1の絶縁性有機フィルム41が設けられている。
【0017】
第1の絶縁性有機フィルム41の内部電極20とは反対側の面(第1の絶縁性有機フィルム41の下面41b)に第1の接着剤層31が設けられている。第1の絶縁性有機フィルム41および第1の絶縁性有機フィルム41の厚さ方向の上面41aに設けられた内部電極20と第2の絶縁性有機フィルム42の間に第2の接着剤層32が設けられている。
【0018】
第1の接着剤層31の厚さ、第1の絶縁性有機フィルム41の厚さ、内部電極20の厚さ、第2の接着剤層32の厚さ、第2の絶縁性有機フィルム42の厚さ、中間層50の厚さ、およびセラミックス層60(セラミックス下地層61、セラミックス表層62)の厚さの合計(以下、「合計厚さ(1)」と言う。)が200μm以下であることが好ましく、170μm以下であることがより好ましい。前記の合計厚さ(1)が200μm以下であれば、静電チャック装置1は耐電圧特性、耐プラズマ性に優れ、結果として吸着力に優れる。
【0019】
第1の接着剤層31の厚さ、第1の絶縁性有機フィルム41の厚さ、内部電極20の厚さ、第2の接着剤層32の厚さ、および第2の絶縁性有機フィルム42の厚さの合計(以下、「合計厚さ(2)」と言う。)が110μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましい。前記の合計厚さ(2)が110μm以下であれば、静電チャック装置1は耐電圧特性、耐プラズマ性に優れ、結果として吸着力に優れる。
【0020】
第2の接着剤層32の厚さ、および第2の絶縁性有機フィルム42の厚さの合計(以下、「合計厚さ(3)」と言う。)が50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。前記の合計厚さ(2)が50μm以下であれば、静電チャック装置1は耐電圧特性、耐プラズマ性に優れ、結果として吸着力に優れる。
【0021】
少なくとも内部電極20および絶縁性有機フィルム40を含む積層体2の厚さ方向の上面2a(第2の絶縁性有機フィルム42の上面42a)に、中間層50を介してセラミックス層60が積層されている。
【0022】
図1に示すように、セラミックス層60は、中間層50を介して積層体2の外面(積層体2の上面2a、側面(積層体2の厚さ方向に沿う面、第1の接着剤層31の側面、第2の接着剤層32の側面、第1の絶縁性有機フィルム41の側面、および、第2の絶縁性有機フィルム42の側面)2b全面を覆うことが好ましい。言い換えれば、中間層50が積層体2の外面全面を覆い、その中間層50の外面(中間層50の上面50a、側面(積層体2の厚さ方向に沿う面)50b)全面を、セラミックス層60が覆うことが好ましい。
【0023】
図1に示すように、セラミックス層60は、セラミックス下地層61と、セラミックス下地層61の上面(セラミックス下地層61の厚さ方向の上面)61aに形成され、凹凸を有するセラミックス表層62と、を有することが好ましい。
【0024】
セラミックス下地層61の厚さ、セラミックス表層62の厚さ、中間層50、第2の接着剤層32の厚さ、および第2の絶縁性有機フィルム42の厚さの合計(以下、「合計厚さ(4)」と言う。)が125μm以下であることが好ましく、110μm以下であることがより好ましい。前記の合計厚さ(4)が125μm以下であれば、静電チャック装置1は耐電圧特性、耐プラズマ性に優れ、結果として吸着力に優れる。
【0025】
第1の内部電極21および第2の内部電極22は、第1の絶縁性有機フィルム41または第2の絶縁性有機フィルム42に接していてもよい。また、第1の内部電極21および第2の内部電極22は、図1に示すように、第2の接着剤層32の内部に形成されていてもよい。第1の内部電極21および第2の内部電極22の配置は、適宜設計することができる。
【0026】
第1の内部電極21と第2の内部電極22は、それぞれ独立しているため、同一極性の電圧を印加するだけではなく、極性の異なる電圧を印加することもできる。第1の内部電極21および第2の内部電極22は、導電体、半導体および絶縁体等の被吸着体を吸着することができれば、その電極パターンや形状は特に限定されない。また、第1の内部電極21のみが単極として設けられていてもよい。
【0027】
本実施形態の静電チャック装置1は、少なくとも第2の絶縁性有機フィルム42の上面42aに、中間層50を介してセラミックス層60が積層されていれば、その他の層構成については特に限定されない。例えば、図1に示す基板10がなくてもよい。
【0028】
基板10としては、特に限定されないが、セラミックス基板、炭化ケイ素基板、アルミニウムやステンレス等からなる金属基板等が挙げられる。
【0029】
内部電極20としては、電圧を印加した際に静電吸着力を発現できる導電性物質からなるものであれば特に限定されない。内部電極20としては、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、白金、クロム、ニッケル、タングステン等の金属からなる薄膜、および前記の金属から選択される少なくとも2種の金属からなる薄膜が好適に用いられる。このような金属の薄膜としては、蒸着、メッキ、スパッタリング等により成膜されたものや、導電性ペーストを塗布乾燥して成膜されたもの、具体的には、銅箔等の金属箔が挙げられる。
【0030】
第2の接着剤層32の厚さが、内部電極20の厚さよりも大きくなっていれば、内部電極20の厚さは特に限定されない。内部電極20の厚さは、20μm以下であることが好ましい。内部電極20の厚さが、20μm以下であれば、第2の絶縁性有機フィルム42を形成する際に、その上面42aに凹凸が生じ難い。その結果、第2の絶縁性有機フィルム42上にセラミックス層60を形成する際や、セラミックス層60を研磨する際に、不良が生じ難い。
【0031】
内部電極20の厚さは、1μm以上であることが好ましい。内部電極20の厚さが1μm以上であれば、内部電極20と、第1の絶縁性有機フィルム41または第2の絶縁性有機フィルム42とを接合する際に、十分な接合強度が得られる。
【0032】
第1の内部電極21と第2の内部電極22に、極性の異なる電圧を印加する場合、隣接する第1の内部電極21と第2の内部電極22の間隔(内部電極20の厚さ方向と垂直な方向の間隔)は、2mm以下であることが好ましい。第1の内部電極21と第2の内部電極22の間隔が2mm以下であれば、第1の内部電極21と第2の内部電極22の間に十分な静電力が発生し、十分な吸着力が発生する。
【0033】
内部電極20から被吸着体までの距離、すなわち、第1の内部電極21の上面21aおよび第2の内部電極22の上面22aからセラミックス表層62上に吸着される被吸着体までの距離(第1の内部電極21の上面21aおよび第2の内部電極22の上面22a上に存在する、第2の接着剤層32、第2の絶縁性有機フィルム42、中間層50、セラミックス下地層61およびセラミックス表層62の厚さの合計)は、50μm~125μmであることが好ましい。内部電極20から被吸着体までの距離が50μm以上であれば、第2の接着剤層32、第2の絶縁性有機フィルム42、中間層50、セラミックス下地層61およびセラミックス表層62からなる積層体の絶縁性を確保することができる。一方、内部電極20から被吸着体までの距離が125μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0034】
接着剤層30を構成する接着剤としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、スチレン系ブロック共重合体、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、アミン化合物、ビスマレイミド化合物等から選択される1種または2種以上の樹脂を主成分とする接着剤が用いられる。
【0035】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジグリシジルジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジグリシジルビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能基または多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。また、エポキシ樹脂を主成分とする場合、必要に応じて、イミダゾール類、第3アミン類、フェノール類、ジシアンジアミド類、芳香族ジアミン類、有機過酸化物等のエポキシ樹脂用の硬化剤や硬化促進剤を配合することもできる。
【0036】
フェノール樹脂としては、アルキルフェノール樹脂、p-フェニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂等のノボラックフェノール樹脂、レゾールフェノール樹脂、ポリフェニルパラフェノール樹脂等が挙げられる。
【0037】
スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0038】
接着剤層30(第1の接着剤層31、第2の接着剤層32)の厚さは、特に限定されないが、5μm~20μmであることが好ましく、10μm~20μmであることがより好ましい。接着剤層30(第1の接着剤層31、第2の接着剤層32)の厚さが5μm以上であれば、接着剤として十分に機能する。一方、接着剤層30(第1の接着剤層31、第2の接着剤層32)の厚さが20μm以下であれば、吸着力を損なうことなく、内部電極20の電極間絶縁を確保することができる。
【0039】
絶縁性有機フィルム40を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、トリアセチルセルロース、シリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレン等が用いられる。これらの中でも、絶縁性に優れることから、ポリエステル類、ポリオレフィン類、ポリイミド、シリコーンゴム、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ポリイミドがより好ましい。ポリイミドフィルムとして、例えば、東レ・デュポン社製のカプトン(商品名)、宇部興産社製 のユーピレックス(商品名)等が用いられる。
【0040】
絶縁性有機フィルム40(第1の絶縁性有機フィルム41、第2の絶縁性有機フィルム42)の厚さは、特に限定されないが、10μm~100μmであることが好ましく、10μm~50μmであることがより好ましい。絶縁性有機フィルム40(第1の絶縁性有機フィルム41、第2の絶縁性有機フィルム42)の厚さが10μm以上であれば、絶縁性を確保することができる。一方、絶縁性有機フィルム40(第1の絶縁性有機フィルム41、第2の絶縁性有機フィルム42)の厚さが100μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0041】
中間層50は、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むことが好ましい。
【0042】
有機絶縁性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
無機絶縁性樹脂としては、特に限定されず、例えば、シラン系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0043】
中間層50には、ポリシラザンを含有させることが好ましい。ポリシラザンとしては、例えば、当該分野で公知のものが挙げられる。ポリシラザンは、有機ポリシラザンであってもよく、無機ポリシラザンであってもよい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
中間層50中の無機充填剤の含有量は、ポリシラザン100質量部に対して100質量部~300質量部であることが好ましく、150質量部~250質量部であることがより好ましい。中間層50中の無機充填剤の含有量が前記範囲内であれば、中間層50の硬化物である樹脂膜表面に無機充填剤粒子が凹凸を形成することができるため、溶射材の粉末が無機充填剤粒子間に食い込み易く、前記樹脂膜表面に溶射材を強固に接着させることができる。
【0045】
無機充填剤としては、特に限定されないが、アルミナ、シリカおよびイットリアからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
無機充填剤は、球形粉体および不定形粉体の少なくとも一方であることが好ましい。
なお、球形粉体とは、粉体粒子の角部を丸めた球状体のことである。また、不定形粉体とは、破砕状、板状、鱗片状、針状など形状が一定な形を取らないもののことである。
【0046】
無機充填剤の平均粒子径は、1μm~20μmであることが好ましい。無機充填剤が球形粉体の場合、その直径(外径)を粒子径とし、無機充填剤が不定形粉体の場合、その形状の最も長い箇所を粒子径とする。
【0047】
繊維状充填剤は、植物繊維、無機繊維および繊維化された有機樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
植物繊維としては、パルプ等が挙げられる。
無機繊維としては、アルミナからなる繊維等が挙げられる。
繊維化された有機樹脂としては、アラミドやテフロン(登録商標)等からなる繊維が挙げられる。
【0048】
無機充填剤は、繊維状充填剤と併用することが好ましく、中間層50全体(100体積%)に対する、無機充填剤と繊維状充填剤の合計含有量は10体積%~80体積%であることが好ましい。中間層50における無機充填剤と繊維状充填剤の合計含有量が上記の範囲内であれば、溶射により、中間層50上にセラミックス層60を均一に形成することができる。
【0049】
中間層50の厚さは、1μm~40μmであることが好ましく、5μm~20μmであることがより好ましい。中間層50の厚さが1μm以上であれば、局所的に中間層50が薄くなることがなく、溶射により、中間層50上にセラミックス層60均一に形成することができる。一方、中間層50の厚さが40μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0050】
セラミックス層60を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化インジウム、石英ガラス、ソーダガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラス、窒化ジルコニウム、酸化チタン等が用いられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの材料は、平均粒子径が1μm~25μmの粉体であることが好ましい。このような粉体を用いることにより、セラミックス層60の空隙を減少させ、セラミックス層60の耐電圧を向上させることができる。
【0051】
セラミックス下地層61の厚さは、10μm~80μmであることが好ましく、40μm~60μmであることがより好ましい。セラミックス下地層61の厚さが10μm以上であれば、十分な耐プラズマ性および耐電圧性を示す。一方、セラミックス下地層61の厚さが80μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0052】
セラミックス表層62の厚さは、5μm~20μmであることが好ましい。セラミックス表層62の厚さが5μm以上であれば、セラミックス表層62の全域にわたって、凹凸を形成できる。一方、セラミックス表層62の厚さが20μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0053】
セラミックス表層62は、その表面を研磨することによって、その吸着力を向上することができ、その表面の凹凸を表面粗さRaとして調整することができる。
ここで、表面粗さRaとは、JIS B0601-1994に規定される方法により測定した値を意味する。
【0054】
セラミックス表層62の表面粗さRaは、0.05μm~0.5μmであることが好ましい。セラミックス表層62の表面粗さRaが前記の範囲内であれば、被吸着体を良好に吸着することができる。セラミックス表層62の表面粗さRaが大きくなると、被吸着体とセラミックス表層62との接触面積が小さくなるため、吸着力も小さくなる。
【0055】
以上説明した本実施形態の静電チャック装置1においては、複数の内部電極20と、内部電極20の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルム40と、少なくとも内部電極20および絶縁性有機フィルム40を含む積層体2の厚さ方向の上面2aに中間層50を介して積層されたセラミックス層60と、を備える。したがって、少なくとも積層体2の厚さ方向の上面2a側において、耐プラズマ性および耐電圧性が向上し、使用中の異常放電を抑制することができる。そのため、本実施形態の静電チャック装置1は、吸着性にも優れる。
【0056】
本実施形態の静電チャック装置1において、セラミックス層60が、中間層50を介して積層体2の外面全面を覆っていれば、積層体2の上面2a側および側面2b側において、耐プラズマ性および耐電圧性が向上し、使用中の異常放電を抑制することができる。そのため、本実施形態の静電チャック装置1は、より吸着性にも優れる。
【0057】
本実施形態の静電チャック装置1において、セラミックス層60が、セラミックス下地層61と、セラミックス下地層61の上面61aに形成され、凹凸を有するセラミックス表層62と、を有することにより、所望の吸着力に制御することができる。
【0058】
本実施形態の静電チャック装置1において、中間層50が、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むことにより、中間層50上にセラミックス層60均一に形成することができる。
【0059】
本実施形態の静電チャック装置1において、無機充填剤が、球形粉体および不定形粉体の少なくとも一方であることにより、中間層50における樹脂中の充填状態が均一分散または最密充填となるように配合設計が可能で、さらに樹脂中から充填剤の一部が露出するような設計とすることで、セラミックス下地層61との密着性を向上させることが可能となる。
【0060】
本実施形態の静電チャック装置1において、繊維状充填剤が、植物繊維、無機繊維および繊維化された有機樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることにより、中間層50の強度と靱性が向上し、中間層50の表面に繊維を配置することによるセラミックス下地層61との密着性が向上し、中間層50を挟んでいるセラミックス下地層61と絶縁性有機フィルム40との熱膨張率差による歪を緩和することが可能となる。
【0061】
本実施形態の静電チャック装置1において、絶縁性有機フィルムが、ポリイミドフィルムであることにより、耐電圧性が向上する。
【0062】
本実施形態の静電チャック装置1において、球形粉体および不定形粉体からなる無機充填剤が、アルミナ、シリカおよびイットリアからなる群から選択される少なくとも1種であることにより、耐プラズマ性および耐電圧性が向上する。
【0063】
[静電チャックの製造方法]
図1を参照して、本実施形態の静電チャック装置1の製造方法を説明する。
第1の絶縁性有機フィルム41の表面(第1の絶縁性有機フィルム41の厚さ方向の上面)41aに、銅等の金属を蒸着して、金属の薄膜を形成する。その後、エッチングを行って、金属の薄膜を所定の形状にパターニングして、第1の内部電極21と第2の内部電極22を形成する。
【0064】
次いで、内部電極20の上面20aに、第2の接着剤層32を介して、第2の絶縁性有機フィルム42を貼着する。
【0065】
次いで、第1の絶縁性有機フィルム41の下面41bが基板10の表面10a側となるように、第1の絶縁性有機フィルム41、内部電極20、第2の接着剤層32および第2の絶縁性有機フィルム42からなる積層体を、第1の接着剤層31を介して、基板10の表面10aに接合する。
【0066】
次いで、内部電極20および絶縁性有機フィルム40を含む積層体2の外面全面を覆うように、中間層50を形成する。
中間層50を形成する方法は、積層体2の外面全面を覆うように中間層50を形成することができれば、特に限定されない。中間層50を形成する方法としては、例えば、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0067】
次いで、中間層50の外面全面を覆うように、セラミックス下地層61を形成する。
セラミックス下地層61を形成する方法は、例えば、セラミックス下地層61を構成する材料を含むスラリーを中間層50の外面全面に塗布し、焼結してセラミックス下地層61を形成する方法、セラミックス下地層61を構成する材料を中間層50の外面全面に溶射してセラミックス下地層61を形成する方法等が挙げられる。
ここで、溶射とは、被膜(本実施形態では、セラミックス下地層61)となる材料を加熱溶融後、圧縮ガスを用いて被処理体へ射出することにより成膜する方法のことである。
【0068】
次いで、セラミックス下地層61の上面61aに、セラミックス表層62を形成する。
セラミックス表層62を形成する方法は、例えば、セラミックス下地層61の上面61aに、所定の形状のマスキングを施した後、セラミックス表層62を構成する材料をセラミックス下地層61の上面61aに溶射してセラミックス表層62を形成する方法、セラミックス表層62を構成する材料をセラミックス下地層61の上面61a全面に溶射してセラミックス表層62を形成した後、そのセラミックス表層62を、ブラスト処理により削って、セラミックス表層62を凹凸形状に形成する方法等が挙げられる。
【0069】
以上の工程により、本実施形態の静電チャック装置1を作製することができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
第1の絶縁性有機フィルム41として、膜厚12.5μmのポリイミドフィルム(商品名:カプトン、東レ・デュポン社製)の片面に銅を9μmの厚さでメッキした。その銅箔表面にフォトレジストを塗布した後、パターン露光後に現像処理を行い、エッチングにより不要な銅箔を除去した。その後、ポリイミドフィルム上の銅箔を洗浄することにより、フォトレジストを除去し、第1の内部電極21、第2の内部電極22を形成した。この第1の内部電極21および第2の内部電極22上に、第2の接着剤層32として乾燥および加熱により半硬化させた絶縁性接着剤シートを積層した。絶縁性接着剤シートとしては、ビスマレイミド樹脂27質量部、ジアミノシロキサン3質量部、レゾールフェノール樹脂20質量部、ビフェニルエポキシ樹脂10質量部、およびエチルアクリレート-ブチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体240質量部を、適量のテトラヒドロフランに混合溶解したものをシート状に成形したものを用いた。その後、第2の絶縁性有機フィルム42として、膜厚12.5μmのポリイミドフィルム(商品名:カプトン、東レ・デュポン社製)を貼着し、熱処理によって接着させた積層体を得た。なお、乾燥後の第2の接着剤層32の厚さは20μmであった。
【0072】
さらに、前記積層体における第1の絶縁性有機フィルム41の第1の内部電極21および第2の内部電極22が形成された面とは反対側の面に、第1の接着剤層31として上記半硬化させた絶縁性接着剤シートと同じ組成の絶縁性接着剤からなるシートを積層した。その後、積層体をアルミニウム製の基板10に貼着し、熱処理により接着させた。なお、乾燥後の第1の接着剤層31の厚さは10μmであった。
【0073】
次に、ポリシラザン100質量部とアルミナからなる無機充填剤(平均粒子径:3μm)200質量部とを、希釈媒体としての酢酸ブチルに混合し、さらに超音分散機により無機充填剤を均一に分散させて塗料を作製した。
【0074】
次に、前記基板10に接着させた積層体の第2の絶縁性有機フィルム42の表面と前記積層体2側面に、前記塗料をスプレーした後、加熱乾燥させて、中間層50を形成した。なお、第2の絶縁性有機フィルム42の表面上の乾燥後における中間層50の厚さは10μmであった。
【0075】
次に、プラズマ溶射法によりアルミナ(Al)の粉末(平均粒子径:8μm)を前記中間層50の全表面に溶射し、厚さ50μmのセラミックス下地層61を形成した。
【0076】
次いで、セラミックス下地層61の表面に、所定の形状のマスキングを施した後、上記のアルミナ(Al)の粉末(平均粒子径:8μm)をセラミックス下地層61の表面に溶射し、厚さ15μmのセラミックス表層62を形成した。
【0077】
次に、被吸着物を吸着するセラミックス表層62の吸着面をダイヤモンド砥石にて平面研削し、実施例1の静電チャック装置を得た。
得られた静電チャック装置の表面をJIS B0601-1994により測定した結果、表面粗さRaは0.3μmであった。
【0078】
[実施例2]
前記実施例1において、第1の絶縁性有機フィルム41の厚さと第2の絶縁性有機フィルム42の厚さを25μmに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の静電チャック装置を得た。
【0079】
[実施例3]
前記実施例1において、第1の絶縁性有機フィルム41の厚さと第2の絶縁性有機フィルム42の厚さを38μm、第2の接着剤層32の厚さを10μm、第1の内部電極21の厚さと第2の内部電極22の厚さを5μmに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の静電チャック装置を得た。
【0080】
[比較例1]
前記実施例1において、第1の絶縁性有機フィルム41の厚さと第2の絶縁性有機フィルム42の厚さを50μm、セラミックス下地層61の厚さを30μm、中間層50の厚さを15μm、第1の内部電極21の厚さと第2の内部電極22の厚さを5μm、第1の接着剤層31の厚さを20μmに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の静電チャック装置を得た。
【0081】
[比較例2]
前記比較例1において、セラミックス下地層61の厚さを50μmに変更した以外は比較例1と同様にして、比較例2の静電チャック装置を得た。
【0082】
[比較例3]
前記比較例2において、セラミックス表層62の厚さを20μm、セラミックス下地層61の厚さを80μm、中間層50の厚さを30μmに変更した以外は比較例2と同様にして比較例3の静電チャック装置を得た。
【0083】
[比較例4]
前記比較例3において、中間層50を設けずに、第2の絶縁性有機フィルム42の表面に直接プラズマ溶射法によりアルミナ(Al)の粉末(平均粒子径:8μm)を溶射した以外は比較例3と同様にして、比較例4の静電チャック装置を得た。
【0084】
前記実施例1~実施例3および比較例1~比較例4で得られた静電チャック装置における各層の厚さと、その合計値を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
次に、前記実施例1~実施例3および比較例1~比較例4で得られた静電チャック装置を用いて、耐電圧特性、吸着力および耐プラズマ性を評価した。その結果を表2に示す。
【0087】
[評価項目]
<耐電圧特性>
耐電圧特性は、真空下(10Pa)にて静電チャック装置に高圧電源装置より、第1の内部電極21と第2の内部電極22に±2.5kVの電圧を印加し、2分間保持することにより評価した。2分間の間、目視にて観察をし、変化がなかったものを「合格」、電極同士または絶縁性有機フィルムおよびセラミックス層に絶縁破壊が生じたものを「不合格」とした。
【0088】
<吸着力>
吸着力は、被吸着体としてシリコン製ダミーウェハを用い、真空下(10Pa以下)にて静電チャック装置表面に吸着させ、第1の内部電極21と第2の内部電極22に±2.5kVの電圧を印加した後、30秒間保持した。電圧を印加した状態のまま基板10に設けられた貫通穴からヘリウムガスを流し、ガス圧力を上げながらヘリウムガスのリーク量を測定した。ガス圧力100Torr時にダミーウェハが安定吸着できるものを「合格」、安定吸着できないものを「不合格」とした。安定吸着とはヘリウムガス圧力を高めることによりウェハが浮いてしまい、ヘリウムリーク量が急激に増加する現象が発生しない状態をいう。
【0089】
<耐プラズマ性>
耐プラズマ性は、平行平板型RIE装置に静電チャック装置を設置した後、真空下(20Pa以下)、高周波電源(出力250W)にて、酸素ガス(10sccm)および四フッ化炭素ガス(40sccm)を導入し、24時間暴露後の静電チャック装置表面状態の変化を目視にて観察した。表面全体にセラミックス層が残存していたものを「合格」、一部セラミックス層が消失し、絶縁性有機フィルムが露出していたものを「不合格」とした。
【0090】
【表2】
【0091】
表2から明らかなように、実施例1~実施例3で得られた静電チャック装置は、基板10の表面10aからセラミックス表層62の表面までの距離が200μm以下という薄膜であるにもかかわらず、耐電圧特性、耐プラズマ性に優れ、結果として吸着力に優れていることが確認された。
【0092】
一方、比較例1で得られた静電チャック装置は、セラミックス下地層61が薄いため、十分な耐プラズマ性が得られなかった。比較例2および比較例3で得られた静電チャック装置は、基板10の表面10aからセラミックス表層62の表面までの距離が200μmを超えるため、吸着力に劣ることが確認された。
また、比較例4で得られた静電チャック装置は、中間層50を有していないため、第2の絶縁性有機フィルム42の表面にセラミックス溶射材が十分に付着しておらず、耐プラズマ性に劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の静電チャック装置によれば、内部電極およびその厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介してセラミックス層を積層することにより、優れた耐プラズマ性と耐電圧特性を有しながら、高い吸着力を得ることができる。したがって、本発明の静電チャック装置によれば、半導体製造プロセスにおけるドライエッチング装置用ウエハ等の導電体または半導体を安定に静電吸着保持することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 静電チャック装置
2 積層体
10 基板
20 内部電極
21 第1の内部電極
22 第2の内部電極
30 接着剤層
31 第1の接着剤層
32 第2の接着剤層
40 絶縁性有機フィルム
41 第1の絶縁性有機フィルム
42 第2の絶縁性有機フィルム
50 中間層
60 セラミックス層
61 セラミックス下地層
62 セラミックス表層
図1