(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】無線中継装置及び無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/15 20060101AFI20220706BHJP
H04B 1/10 20060101ALI20220706BHJP
H04W 88/04 20090101ALI20220706BHJP
【FI】
H04B7/15
H04B1/10 L
H04W88/04
(21)【出願番号】P 2021102667
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2021-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000101662
【氏名又は名称】アルインコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】出来 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】國分 二郎
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-155866(JP,A)
【文献】特開2002-108391(JP,A)
【文献】特開2000-276191(JP,A)
【文献】特開2019-062275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/14-7/22
H04B 1/10-1/14
H04B 15/00-15/06
H04W 88/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線通信装置から音声信号を、無線中継装置を介して第2の無線通信装置に無線送信する無線通信システムのための無線中継装置であって、
前記無線中継装置は、
受信された無線信号を音声信号に復調する受信復調部と、
前記復調された音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行う第1のノイズキャンセル部と、
前記処理後の音声信号に従って所定の無線搬送波を変調して無線変調信号を送信する変調送信部とを備え、
前記第1のノイズキャンセル部は音声信号処理部を備え、
前記音声信号処理部は、
入力される音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する深層学習モデル部の学習に、人間の音声の特徴パラメータを用いることで、学習された前記深層学習モデル部を作成し、
前記第1のノイズキャンセル部は、学習された前記深層学習モデル部を用いて、ノイズキャンセル処理を行い、
前記第1のノイズキャンセル部は、学習された前記深層学習モデル部の前記判定に基づいて、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間を通過させないようにノイズキャンセル処理を行って、前記ノイズキャンセル処理後の音声信号を出力する、
無線中継装置。
【請求項2】
前記深層学習モデル部は、人間の音声の特徴パラメータを入力とし、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する判定結果を出力とする、所定のニューラルネットワークにより構成される、
請求項1に記載の無線中継装置。
【請求項3】
前記第1のノイズキャンセル部は、
前記音声信号処理部の前段に設けられ、入力される音声信号に対して、人間の音声信号の所定のレベル範囲であって、所定の帯域幅のみを通過させる音声信号前置処理部をさらに備える、
請求項1又は2に記載の無線中継装置。
【請求項4】
前記無線中継装置は、特定小電力無線通信システムのための中継器である特定小電力無線局である、請求項1~3のうちのいずれか1つに記載の無線中継装置。
【請求項5】
請求項1~3のうちのいずれか1つに記載の無線中継装置と、
前記第1の無線通信装置と、
前記第2の無線通信装置とを備える無線通信システムであって、
前記第1の無線通信装置は、無線送信すべき音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行うノイズキャンセル部を備えない、無線通信システム。
【請求項6】
前記第2の無線通信装置は、
受信された無線変調信号を音声信号に復調する受信復調部を備え、
前記復調された音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行うノイズキャンセル部を備えない、請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記無線通信システムは、特定小電力無線通信システムである、請求項5又は6に記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばノイズキャンセル部を備える無線中継装置と、前記無線中継装置を備える無線通信システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術に係る特定小電力無線通信システムでは、例えば無線機から中継器を介して他の無線機に対して無線送信することで、無線通信を行っている(例えば、特許文献1参照)。ここで、特定小電力無線通信システムで用いる特定小電力無線局は、総務省令電波法施行規則第6条第4項第2号に「次に掲げる周波数の電波を使用するものであつて、総務大臣が別に告示する電波の型式及び周波数並びに空中線電力に適合するもの」と定義された無線局をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は従来例に係る無線通信システムの構成とその動作例を示すブロック図である。
図5において、子機1Aの送信者が自分の音声を送信するとき、周囲の騒音等のノイズを含めて送信するため、騒音環境下での送信だと受信側の子機1Bでは本来の送信者の音声が聞き取りづらいという問題点があった。
【0005】
この問題点を解決するために、これまでの対策方法として、
(1)「マイクロホンを指向性型マイクロホンにする」、もしくは
(2)「2個のマイクロホンを使った無線機において、一方のマイクロホンで捕捉した信号のノイズの位相を反転させて、他方のマイクロホンで捕捉した音声信号に加算することで、ノイズキャンセル処理を行う」ことが為されている。
【0006】
しかし、いずれの方法も、ノイズを劇的に減少させることができなかった。
【0007】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、例えば特定小電力無線通信システムなどの無線通信システムにおいて、従来技術に比較して大幅にコストを削減しつつ、送信側の無線通信装置で音声信号に重畳されたノイズを、受信側の無線通信装置で、大幅にノイズを軽減できる無線中継装置及び、無線中継装置を備える無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る無線中継装置は、
第1の無線通信装置から音声信号を、無線中継装置を介して第2の無線通信装置に無線送信する無線通信システムのための無線中継装置であって、
前記無線中継装置は、
受信された無線信号を音声信号に復調する受信復調部と、
前記復調された音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行うノイズキャンセル部と、
前記処理後の音声信号に従って所定の無線搬送波を変調して無線変調信号を送信する変調送信部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
従って、本発明に係る無線中継装置によれば、無線中継装置がノイズキャンセル部を備えることで、例えば特定小電力無線通信システムなどの無線通信システムにおいて、従来技術に比較して大幅にコストを削減しつつ、送信側の無線通信装置で音声信号に重畳されたノイズを、受信側の無線通信装置で、大幅にノイズを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1の中継器2の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図2のノイズキャンセル部13の構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図3の深層学習モデル部35の構成例を示すブロック図である。
【
図5】従来例に係る無線通信システムの構成とその動作例を示すブロック図である。
【
図6】比較例に係る無線通信システムの構成とその動作例を示すブロック図である。
【
図7】
図1の無線通信システムの動作例を示すブロック図である。
【
図8】実施形態に係る無線通信システムの実験を行った構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態及び変形例について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0012】
(発明者の知見)
図6は比較例に係る無線通信システムの構成とその動作例を示すブロック図である。
【0013】
ノイズキャンセルIC(もしくはモジュール)が最近になって製造販売されてきているが、
図6のように、従来の子機2A~2Cの無線機1台ずつ(人数分)に搭載すると全体のシステムとしてのコストが大幅にかかる。また、既に従来の無線機を使用されている環境下では、すべての無線機の買い替えが必要となり導入までのハードルが高い。これらの問題を対処するため、ノイズキャンセルICを搭載した例えば特定小電力無線通信システムのための中継器を提案する。
【0014】
図1は実施形態に係る無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【0015】
図1において、無線通信システムは、例えば特定小電力無線通信システムであって、例えば3個である複数個の無線機1-1,1-2,1-3(総称して、符号1を付す)と、中継器2とを備えて構成される。ここで、無線機1は無線通信装置の一例であって、無線送信部と無線受信部とを備えて構成される。当該無線通信システムにおいて、ある無線機1-1は、中継器2を介して無線機1-2又は1-3と無線通信を行う。本実施形態では、中継器2のみにノイズキャンセル部13を備えたことを特徴とする。
【0016】
図2は
図1の中継器2の構成例を示すブロック図である。
【0017】
図2において、中継器2は無線通信装置の一例であって、受信アンテナ11と、受信復調部12と、ノイズキャンセル部13と、変調送信部14と、送信アンテナ15とを備えて構成される。受信アンテナ11により受信された無線信号は受信復調部12に入力される。受信復調部12は、受信された無線信号を低雑音増幅、低域周波数変換、中間周波増幅等を行った後、所定の復調方式で音声信号に復調してノイズキャンセル部13に出力する。ノイズキャンセル部13は人間の音声により深層学習された深層学習モデル部35(
図3)を用いて、復調された音声信号から音声信号期間のみ当該音声信号を通過させることで、ノイズをキャンセルするように音声信号処理を行った後、処理後の音声信号を変調送信部14に出力する。変調送信部14は入力される音声信号に従って、所定の変調方式で無線搬送波を変調することで、無線変調信号を発生し増幅して送信アンテナ15から放射する。
【0018】
次いで、
図3を参照して、深層学習モデル部35を用いた
図1のノイズキャンセル部13の構成及び動作について以下に説明する。
【0019】
図3は
図2のノイズキャンセル部13の構成例を示すブロック図である。
【0020】
ここで、「音素」という用語は、特定の言語において1つの単語を他の単語から区別する音の単位を意味し、「振動レート」という用語は、各秒におけるデジタル化された振動データの0と1の間の移動の数を意味し、「振動計数値(VC)」という用語は、各フレーム内のデジタル化された振動データの値の合計を意味する。また、「振動パターン」とは、時間軸に沿った所定のフレーム数ごとに算出された振動数の総和のデータ分布を意味する。深層学習モデル部35では、異なる振動パターン、すなわち異なる振動計数値の総和(VS値)のデータ分布の違いを考慮して、ノイズキャンセル処理を行っており、振動レートは振動計数値に類似しているが、振動レートが大きいほど、振動計数値も大きくなる。
【0021】
音声信号の振幅と振動レートは共に観測可能である。ノイズキャンセル部13の特徴は、音声信号の振幅と振動率に応じて音声イベントを検出することである。また、別の特徴は、デジタル化された振動データの振動計数値の総和を、あらかじめ定義されたフレーム数分だけ計測することで、音声と、非音声/無音を区別することである。もう一つの特徴は、入力される音声信号データのストリームをその振動パターンによって異なる音素に分類することである。別の特徴は、下流の処理部をトリガするように、入力される音声信号データストリームから最初の起動音素を正しく区別することであり、それによって、処理部を含む計算システムの電力消費等の計算コストを節約することである。
【0022】
図3において、ノイズキャンセル部13は音声イベント検出を用いてノイズキャンセル処理を行うものであって、音声信号前置処理部38と、AD変換器39と、音声信号処理部30とを備えて構成される。ここで、音声信号前置処理部38は、アナログ音声信号に対して、ハイパスフィルタリング、ローパスフィルタリング、増幅又はそれらの組み合わせ等を含む、音声信号前置処理を行って、処理後のアナログ音声信号をAD変換器39に出力する。すなわち、音声信号前置処理部38は、マイクロホン22からの音声信号に対して、人間の音声信号の所定のレベル範囲であって、所定の帯域幅のみを通過させる。次いで、AD変換器39は、所定の基準電圧Vref及び許容電圧Vadm(<Vref)に従って、アナログ音声信号をデジタル音声信号にAD変換して音声信号処理部30の入力インターフェース36に出力する。
【0023】
本実施形態において、AD変換器39において、基準電圧Vrefよりも小さい許容電圧Vadmは、基準電圧Vrefと組み合わせて、第1のしきい値電圧Vth1(=Vref+Vadm))及び第2のしきい値電圧Vth2(=Vref-Vadm)を形成するために使用され、AD変換器39は、第1のしきい値電圧Vth1及び第2のしきい値電圧Vth2に基づいて、第1のしきい値電圧Vth1以上又は第2のしきい値電圧Vth2以下のノイズに対してAD変換を実行せず、その間の音声信号に対してAD変換を実行することで、入力されるアナログ音声信号のノイズ及び干渉を除去することができる。ここで、例えばVref=1.0V,Vadm=0.01Vとすると、静かな環境では振動データの振動数が少なく,音声環境では振動データの振動数が多いことが理解できる。なお、本実施形態において、「フレームサイズ」とは、各フレーム内のデジタル化された振動データに対応するサンプリングポイントの数を意味し、「音素ウィンドウTw」とは、各音素の音声特徴量を収集するための時間を意味する。好ましい実施形態では、各フレームの継続時間Tfは例えば0.1~1ミリ秒(ms)であり、音素ウィンドウTwは例えば約0.3秒である。さらに好ましい実施形態では、各フレーム内のデジタル化された振動データに対応するサンプリングポイントの数は例えば1~16の範囲である。
【0024】
音声信号を分析する場合、ほとんどの音声信号は短期間で安定しているので、通常、短期分析の方法が採用される。例えば、AD変換器39で使用されるサンプリング周波数fsが16000であり、各フレームの継続時間Tfが1msであると仮定すると、フレームサイズはfs×1/1000=16サンプルポイントとなる。
【0025】
図3において、音声信号処理部30は例えばコンピュータデバイスで構成され、
(1)ノイズキャンセルなどの所定の音声信号処理を実行するCPU(Central Processing Unit)31と、
(2)CPU31の基本処理を実行するオペレーティングシステム及び前記音声信号処理のプログラム、並びに当該プログラムを実行するために必要なデータ等を格納するROM(Read Only Memory)32と、
(3)CPU31の基本処理を実行するオペレーティングシステム及び前記音声信号処理のプログラムの実行時に、処理中のデータ等を格納するRAM(Read Access Memory)33と、
(4)前記音声信号処理を実行するために必要な後述する設定データ等を格納する不揮発性のEEPROM(Electrically Erasable Programmable Memory)34と、
(5)例えばニューラルネットワークなどで構成され、人間の音声信号データに基づいて深層学習されて入力される音声信号データに対して、ノイズを除去して実質的に音声信号のみを抽出して出力する深層学習モデル部35と、
(6)AD変換器39から入力される音声信号データを、後段の信号仕様値に変換するための所定の信号変換処理を行ってCPU31に出力する入力インターフェース36と、
(7)深層学習モデル部35によりノイズが除去された音声信号データを、後段の信号仕様値に変換するための所定の信号変換処理を行って端子T12、音声ラインL2等を介して無線機1に出力する出力インターフェース37と、
を備えて構成される。
【0026】
ここで、EEPROM34は例えば、一連の振動計数値VC、振動計数値の総和VS、振動計数値の総和VSf、振動計数値の総和VSp(後述する)、及びすべての特徴ベクトルの音声特徴値を記憶する。なお、EEPROM34は外部メモリなどの記憶装置であってもよい。音声信号処理部30に適用される音声イベント検出方法は、音声イベントを捕捉するために、CPU31によってランタイム中に実行される。fs=16000、Tf=1ms、Tw=0.3sと仮定して、音声イベント検出を実行する。
【0027】
CPU31は、具体的には、処理対象である現在のフレーム(すなわち、1ms以内)の振動データ値の総和を計算して、振動計数値VCを取得し、その後、時点Tjにおける現在のフレームのVC値をEEPROM34に格納する。ここで、x個のフレームの振動計数値VCを加算して、時点Tjにおける現在のフレームの振動計数値の総和VSを得る。x個のフレームには現在のフレームが含まれる。一実施形態では、CPU31は、時点Tjにおける現在のフレームの振動計数値VCと、その直前(x-1)個のフレームの振動計数値の総和VSpとを加算して、時点Tjにおけるx個のフレームの振動計数値の総和VS(=VC+VSp)を得る。
【0028】
なお、変形例では、CPU31は、時点Tjにおける現在のフレームの振動計数値VC、その直後のy個のフレームの振動計数値の総和VSf、及びその直前の(x-y-1)個のフレームの振動計数値の総和VSpを加算して、時点Tjにおけるx個のフレームの振動計数値の総和VS(=VC+VSf+VSp)を得るが、yはゼロ以上である。CPU31は、VS、VSf及びVSpの値をEEPROM34に格納する。好ましい実施形態では、x個のフレーム(音素ウィンドウTw)の継続時間(x×Tf)は、約0.3秒である。さらに好ましい実施形態では、x個のフレームのデジタル化された振動データに対応するサンプリングポイントの数は、x~16xの範囲にある。
【0029】
一般的に、音声信号データについては、同じ音素では振動計数値VCの振動パターンが類似しているが、異なる音素ではVS値の振動パターンが全く異なる。従って、振動計数値VCの振動パターンを利用して、音素を区別することができる。特に、例えば鶏又は猫の鳴き声と、人間の音声とは、振動計数値VCの周波数分布に関して全く異なり、人間の音声の振動計数値VCのほとんどは40以下に分布していることが既知である。
【0030】
学習フェーズにおいて、音声信号処理部30のCPU31は、まず、所定の音声信号データ収集方法を複数回実行して、複数の音素に対する複数の特徴ベクトルを収集し、複数の特徴ベクトルに対応するラベルを付加して、複数のラベル付き学習例を形成する。その後、起動音素を含む異なる音素に対する複数のラベル付き学習例を、深層学習モデル部35の学習に適用する。最後に、学習された深層学習モデル部35(音声信号データの予測モデルを構成する)を作成して、入力される音声信号データのストリームが起動音素を含むかどうかを分類する。音声信号処理部30の起動音素として、所定の音素が指定されている場合、深層学習モデル部35は、少なくとも当該指定された音素を含む異なる音素についての複数のラベル付き学習例で学習される。
【0031】
すなわち、学習段階では、ラベル付けされた学習例のセットを使用して深層学習モデル部35を学習し、それによって深層学習モデル部35が、ラベル付けされた学習例の各フレームの3つの音声特徴量(例えば、(VSj,TDj,TGj))に基づいて、j=0~299の間で、所定の起動音素を認識するようにする。学習段階の終わりに、学習された深層学習モデル部35は、当該起動音素に対応する学習されたスコアを提供し、学習されたスコアは、次に、入力される音声信号データのストリームをランタイムで分類するための基準として使用される。なお、VSj,TDj,TGjは以下のように定義される。
(1)VSj:フレームjの振動計数値の総和(VS値);
(2)TDj:フレームjにおいて、ゼロではない振動計数値の総和(VS値)の時間期間;及び
(3)TGj;フレームjにおける、ゼロではない振動計数値の総和(VS値)間の時間ギャップ(時間隙間)。
【0032】
深層学習モデル部35を学習するために、教師付き学習に関連する様々な機械学習技術を使用することができ、例えば、サポートベクターマシン(SVM)法、ランダムフォレスト法、畳み込みニューラルネットワーク法などを利用できる。教師付き学習では、複数のラベル付けされた学習例を使用して関数計算部(すなわち、深層学習モデル部35)が作成され、その各例は、入力特徴ベクトルとラベル付けされた出力からなる。学習されたとき、深層学習モデル部35は、対応するスコア又は予測値を生成するために、新しいラベルのない例に適用することができる。
【0033】
図4は
図3の深層学習モデル部35の詳細構成例を示すブロック図である。
【0034】
深層学習モデル部35は、例えば、
図4に示すように、ニューラルネットワークを用いて実装される。ここで、ニューラルネットワークは、1つの入力層41と、少なくとも1つであり好ましくは複数の中間層42と、1つの出力層43を含む。入力層41には3つの入力ニューロン51,52,53があり、各入力ニューロン51,52,53は、特徴ベクトルの各フレームの3つのオーディオ特徴値(すなわち、VSj,TDj,TGj)に対応する。また、中間層42は、各入力ニューロン51,52,53に関連する重み係数と各ニューロンのバイアス係数を有するニューロン61~74で構成される。学習フェーズのサイクルを通じて中間層42の各ニューロン61~74の重み係数とバイアス係数を変更することにより,ニューラルネットワークを学習して,所定の種類の入力に対する予測値を報告するようにすることができる。さらに、出力層43は、音素に対応する1つの予測値(具体的には、音声期間であるか、ノイズを含む非音声期間であるかを示す)を提供する1つの出力ニューロン81を含む。
【0035】
以上説明したように、前記ノイズキャンセル部において、深層学習モデル部35は、人間の音声の特徴パラメータを用いて学習され、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する。そして、音声信号処理部30のCPU31は、深層学習モデル部35の前記判定に基づいて、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間を通過させないようにノイズキャンセル処理を行って、前記ノイズキャンセル処理後の音声信号を出力する。ここで、深層学習モデル部35は、人間の音声の特徴パラメータを入力とし、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する判定結果を出力とする、
図4のニューラルネットワークにより構成される。
【0036】
図7は
図1の無線通信システムの動作例を示すブロック図である。
【0037】
図7に示すように、深層学習モデル部35を用いたノイズキャンセル部13を中継器2のみに搭載することにより、子機1Aから送信した電波には周囲ノイズを含んだ状態で変調されるが、中継器2で復調した音声信号をノイズキャンセル部13に通してから変調することによって、周囲ノイズが除去されたクリアな音声信号を得ることで、低コストかつ導入までのハードルを大幅にさげて周囲ノイズが除去されたクリアな音声通話を実現することが可能となる。
【実施例】
【0038】
図8は実施形態に係る無線通信システムの実験を行った構成例を示すブロック図である。
【0039】
図8において、無線機100の送信部100Aから音声信号を含む無線信号を中継器2を介して無線機200の受信部200Aに送信する。ここで、無線機100の送信部100Aは、マイクロホン101と、動作をON/OFFできるノイズキャンセル部102と、音声信号増幅器103と、変調送信部104と、送信アンテナ105とを備えて構成される。中継器2は、受信アンテナ11と、受信復調部12と、動作をON/OFFできるノイズキャンセル部13と、変調送信部14と、送信アンテナ15とを備えて構成される。無線機200の受信部200Aは、受信アンテナ201と、受信復調部202と、動作をON/OFFできるノイズキャンセル部203と、音声信号増幅器204と、スピーカ205とを備えて構成される。
【0040】
図8の実験用構成例では、特に、ノイズキャンセル部102、13及び203がその動作をON/OFF可能に構成される。
図8の実験用構成例を用いて実験を行った結果を表1に示す。ここで、ホワイトノイズは300~16000Hzにわたって平坦な周波数特性を有し、ピンクノイズは前記ホワイトノイズを-3dB/octの低域通過フィルタ(LPF)に通して作成したノイズである。さらに、M系列ノイズは例えば511PNパターンを有する擬似ランダムパターンのノイズである。
【0041】
【0042】
表1において、ノイズキャンセル部102,13,203をすべてOFFにした場合(表1のデータ欄の1段目)は比較基準であって、ノイズキャンセル部102,13,203のいずれかをONにした場合(表1のデータ欄の2段目~8段目)は前記比較基準に比較したときの無線機200の受信部200Aのスピーカ205からの音声出力における減少率を算出し、各条件でのノイズの「軽減率」として記載したものである。
【0043】
表1から明らかなように、すべての条件で99.9%以上のノイズ軽減率を実証し、0.1%未満の数値変化は聴感では判別できないため、どの機器にノイズキャンセル部を搭載しても遜色はないと判断する。以上のことから、一般的には、中継器2の使用台数は送受信する無線機100、無線機200の使用台数より圧倒的に少ないため、本実施形態によりコストを抑えつつ無線機100、無線機200にノイズキャンセル部102,203を搭載する条件と同等のパフォーマンスを実現することが可能となる。
【0044】
(変形例)
以上の実施形態においては、特定小電力無線通信システムのための無線中継装置について説明しているが、本発明はこれに限らず、特定小電力無線通信システム以外の種々の無線通信システムに適用してもよい。
【0045】
図8及び表1の構成例では、無線機100の送信部100Aにおいてノイズキャンセル部102の動作をオフにしているが、ノイズキャンセル部102を備えないように構成することができる。なお、無線機200の受信部200Aにおいて、受信復調部202により復調された音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行うノイズキャンセル部を備えないように構成している。
【0046】
(特許文献1との相違点)
特許文献1に記載の無線通信装置は、その段落0049において以下の記載がある。
「以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。例えば、上記の実施形態の出力調整機能では、算出された前記距離に応じて、認識が容易になるように音声出力調整を行ったが、そのほかに、ノイズキャンセリングの機能を有する移動局30において、特定ポイントに近づくにしたがって、キャンセリング効果を強める設定に調整がなされてもよい。また、移動局30において、液晶画面等が設けられている場合に、コントラストを強くする表示出力調整がなされてもよい。すなわち、特定のポイントが登録されている状態において、移動局30の運用者が、そのポイントに近づくにしたがって、移動局30から出力される音声や表示に関して、特に操作をしないでも、認識が容易になるような調整がなされればよい。」
【0047】
しかしながら、無線中継装置である中継器2のみにノイズキャンセル部13を備えることは開示も示唆もありません。また、
図5及び
図6を参照して説明した課題も、特許文献1において開示も示唆もありません。従って、特許文献1に記載の無線通信装置は、前記課題を解決することができず、「例えば特定小電力無線通信システムなどの無線通信システムにおいて、従来技術に比較して大幅にコストを削減しつつ、送信側の無線通信装置で音声信号に重畳されたノイズを、受信側の無線通信装置で、大幅にノイズを軽減できる。」という本発明の特有の効果も特許文献1において開示も示唆もありません。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳述したように、本発明に係る無線中継装置によれば、無線中継装置がノイズキャンセル部を備えることで、例えば特定小電力無線通信システムなどの無線通信システムにおいて、従来技術に比較して大幅にコストを削減しつつ、送信側の無線通信装置で音声信号に重畳されたノイズを、受信側の無線通信装置で、大幅にノイズを軽減できる。
【符号の説明】
【0049】
1,1-1~1-3 無線機
1A~2C 子機
2 中継器
11 受信アンテナ
12 受信復調部
13 ノイズキャンセル部
14 変調送信部
15 送信アンテナ
30 音声信号処理部
31 CPU
32 ROM
33 RAM
34 EEPROM
35 深層学習モデル部
36 入力インターフェース
37 出力インターフェース
38 音声信号前置処理部
39 AD変換器
41 入力層
42 中間層
43 出力層
51~81 ニューロン
100 無線機
100A 送信部
101 マイクロホン
102 ノイズキャンセル部
103 音声信号増幅器
104 変調送信部
105 送信アンテナ
200 無線機
200A 受信部
201 受信アンテナ
202 受信復調部
203 ノイズキャンセル部
204 音声信号増幅器
205 スピーカ
【要約】
【課題】例えば特定小電力無線通信システムにおいて、従来技術に比較して大幅にコストを削減しつつ、送信側の無線通信装置で音声信号に重畳されたノイズを、受信側の無線通信装置で、大幅にノイズを軽減できる無線中継装置を提供する。
【解決手段】無線通信システムは、第1の無線通信装置から音声信号を、無線中継装置を介して第2の無線通信装置に無線送信する。前記無線中継装置は、受信された無線信号を音声信号に復調する受信復調部と、前記復調された音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行うノイズキャンセル部と、前記処理後の音声信号に従って所定の無線搬送波を変調して無線変調信号を送信する変調送信部とを備える。
【選択図】
図2