(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】三次元捲縮を有する扁平アクリロニトリル系繊維を含有する紡績糸および該紡績糸を含有する編地または織物
(51)【国際特許分類】
D02G 3/02 20060101AFI20220707BHJP
D01F 8/08 20060101ALI20220707BHJP
D03D 15/00 20210101ALI20220707BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
D02G3/02
D01F8/08 Z
D03D15/00
D04B1/16
(21)【出願番号】P 2018129667
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 修平
(72)【発明者】
【氏名】安藝 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 修
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-104831(JP,A)
【文献】特公昭47-024182(JP,B1)
【文献】特開2006-111985(JP,A)
【文献】特開2017-066553(JP,A)
【文献】特開平01-104828(JP,A)
【文献】特開平10-237721(JP,A)
【文献】特開2019-007122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00-8/18、D02G1/00-3/48、D02J1/00-13/00、
D04B1/00-1/28、21/00-21/20、D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル含有割合の異なる2種類のアクリロニトリル系重合体成分を含有し、
該2種類のアクリロニトリル系重合体がサイドバイサイド構造であり、且つ扁平度が1.5~8である扁平アクリロニトリル系繊維
(ただし、繊維断面において凹部を有するものを除く)を20重量%以上含有することを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
アクリロニトリル系繊維が、無荷重沸水処理後のJISL1015:2010に従って求めた捲縮数Cnおよび捲縮率Ciを元に下記式1によって算出したCf値が、16以上であることを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。
(式1)
Cf = Cn × ( 1 - Ci/100 )
【請求項3】
アクリロニトリル系繊維の短軸方向における単糸あたりの断面二次モーメントが、400~25000μm
4であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の紡績糸。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の紡績糸を含有することを特徴とする織物又は編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は編地や織物を作製した際に、ボリューム感があり、保温性に優れたものとすることのできる紡績糸を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリロニトリル系合成繊維はその優れた発色性や風合いから衣料やパイル等の分野で利用されてきており、これまでに、保温性等の機能性向上を狙った開発が数多く行われてきている。例えば、特許文献1では、アクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体をサイドバイサイド型に複合したアクリル繊維とすることで、コイル状の捲縮を発現させ、嵩高性に優れたアクリル繊維が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されたアクリル繊維の場合、一見すると捲縮数および捲縮伸長率が大きな値を示しているが、実際には機械的な捲縮付与によるものであり、繊維の断面形状が円形に近く、短軸の断面二次モーメントが高いため、コイル状のクリンプが十分に発現しているとは言えない。また、円形に近い断面形状を有しているため、繊維束がまとまり易く、該繊維を用いた紡績糸は、染色後に繊維束を構成する単繊維が密に収束してしまい、嵩高性の点で、依然として課題が残っていた。
【0005】
本発明は、かかる現状に基づきなされたものであり、その目的は、コイル状の三次元捲縮を十分に発現させることができ、紡績糸として染色した後であっても、三次元捲縮の特徴でもある嵩高性を十分に発揮することのできる紡績糸および該紡績糸を含有する織物または編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、三次元捲縮を有する扁平アクリロニトリル系繊維を含有する紡績糸とすることにより、上記目的が達成できることを見出した。すなわち、本発明の目的は以下の手段により達成される。
【0007】
[1]アクリロニトリル含有割合の異なる2種類のアクリロニトリル系重合体成分を含有し、該2種類のアクリロニトリル系重合体がサイドバイサイド構造であり、且つ扁平度が1.5~8である扁平アクリロニトリル系繊維(ただし、繊維断面において凹部を有するものを除く)を20重量%以上含有することを特徴とする紡績糸。
[2]アクリロニトリル系繊維が、無荷重沸水処理後のJISL1015:2010に従って求めた捲縮数Cnおよび捲縮率Ciを元に下記式1によって算出したCf値が、16以上であることを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。
(式1)
Cf = Cn × ( 1 - Ci/100 )
[3]アクリロニトリル系繊維の短軸方向における単糸あたりの断面二次モーメントが、400~25000μm4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紡績糸。
[4]請求項1~3のいずれかに記載の紡績糸を含有することを特徴とする織物又は編物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、三次元捲縮を有するアクリロニトリル系繊維の断面を扁平形状とすることで、繊維のソフト感が増し、三次元捲縮がより発現しやすくなる。また、該繊維を含有する紡績糸では染色後において、紡績糸の嵩がより増加するため、該紡績糸を含有させることで、繰り返しの洗濯においてもへたり難く、ボリューム感に優れた織物または編物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例3のアクリロニトリル系繊維を含有する紡績糸(染色前)
【
図2】実施例3のアクリロニトリル系繊維を含有する紡績糸(染色後)
【
図3】比較例1のアクリロニトリル系繊維を含有する紡績糸(染色後)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の紡績糸は、アクリロニトリル含有割合の異なる2種類のアクリロニトリル系重合体成分を含有し、且つ扁平度が1.5~8である扁平アクリロニトリル系繊維を20重量%以上含有するものであり、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上含有するものであることが望ましい。また、本発明に採用するアクリロニトリル系繊維100重量%で構成される紡績糸あっても構わない。該アクリロニトリル系繊維の含有量が20重量%未満では、三次元捲縮による嵩高性の効果が得られにくく、織物または編物とした際のボリューム感に劣るものとなる。
【0011】
また、本発明に採用する扁平アクリロニトリル系繊維は、上述するような2成分構造とすることで、アクリロニトリル系重合体の熱収縮率差の違いにより、繊維自体にコイル状の三次元捲縮を発現させることができる。そのため、機械的に付与された通常の捲縮よりも嵩高性及び耐久性に優れ、該繊維を含有する紡績糸および該紡績糸を含有する織物または編物はボリューム感に優れたものとなり、繰り返しの洗濯によって、へたり難いものとすることができる。
【0012】
また、前述する2成分構造としては、2つのアクリロニトリル系重合体成分が、2成分が貼り合わされた2層構造であるサイドバイサイド構造、又は各単繊維によって層数が異なるランダム構造が挙げられる。このような2成分構造とすることで、構成成分の熱収縮率差の違いにより繊維に三次元捲縮を発現させることが可能となる。また、積層構造としては、繊維断面の長軸方向と平行となるように積層されていることが三次元捲縮を発現させやすいという点から好ましい。上述した2種類の積層構造の中でも、サイドバイサイド構造は、三次元捲縮をより発現させやすいという点から好ましい。
【0013】
さらに、本発明に採用する扁平アクリロニトリル系繊維は、繊維の断面形状が扁平形状であって、繊維断面の長軸長を短軸長で除して算出される扁平度の下限が、1.5以上であることが好ましく、1.7以上であることがより好ましい。また、上限としては、8以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、4未満であることがさらに好ましい。該形状とすることで、繊維の短軸方向における断面2次モーメントが低くなるため、繊維のソフト性が向上したり、繊維を構成する重合体成分の熱収縮率差に起因する捲縮が発現し易くなったりする。その結果、該繊維を含有する紡績糸を嵩高性に優れたものとすることができ、該紡績糸を含有する織物または編物は、ボリューム感に優れ、さらに繰り返しの洗濯等においてもへたり難く、耐久性に優れたものとすることができる。
【0014】
本発明に採用する扁平アクリロニトリル系繊維は、上述したCf値が、好ましくは16以上、より好ましくは18以上、さらに好ましくは20以上であることが望ましい。ここでいう、Cf値は繊維を特定の割合で伸ばした際の、その繊維1インチ当たりのクリンプの個数を表すものであり、このCf値が高ければ、繊維が引き伸ばされた後であっても、繊維に十分な捲縮が残っていると言える。このCf値が16以上であれば、織物または編物への加工や、繰り返しの洗濯後であっても捲縮が十分に残っており、ボリューム感およびその耐久性の向上が期待できる。一方、16未満の場合には、織物または編物への加工や繰り返しの洗濯等により、繊維の捲縮数が少なくなる恐れがあり、織物または編物として満足しうるボリューム感が得られない場合がある。
【0015】
また、本発明に採用する扁平アクリロニトリル系繊維は、繊維断面の短軸方向における単糸あたりの断面二次モーメントの下限が400μm4以上であることが好ましく、700μm4以上であることがより好ましく、1000μm4以上であることが更に好ましい。また、断面二次モーメントの上限としては、25000μm4以下であることが好ましく、20000μm4以下であることがより好ましく、15000μm4以下であることが更に好ましい。断面二次モーメントが400~25000μm4の範囲内であれば、ソフトな手触りが得られることに加え、三次元捲縮をより発現させやすくなるため、該繊維を含有する紡績糸は嵩高くなり、織物または編物とした際に満足しうるボリューム感およびソフト性の点で満足しうるものが得られ易くなる。
【0016】
また、本発明に採用する扁平アクリロニトリル系繊維を構成するアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルと他のビニル系単量体との共重合体であればよく、単量体組成としてアクリロニトリル含有割合が、好ましくは40重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上であることが望ましい。アクリロニトリル含有割合が40重量%未満の場合には、繊維とした際に十分な繊維強度が得られなくなる場合がある。また、2つのアクリロニトリル系重合体成分の内、高収縮成分のアクリロニトリル含有割合が90重量%未満であることが優れた三次元捲縮を得られやすいという点から好ましい。
【0017】
本発明に採用するアクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体成分としては、アクリロニトリル含有割合が1.0重量%以上異なるものであることが好ましく、1.5重量%以上であることがより好ましい。これにより、アクリロニトリル含有割合の違いによる熱収縮率差に起因する三次元捲縮が十分に発現するため、嵩高い紡績糸とすることができる。そのため、該紡績糸を含有する織物や編物をボリューム感に優れたものとすることができる。一方、アクリロニトリル含有割合の差が1.0重量%未満では、2つのアクリロニトリル系重合体の熱収縮率差が小さくなり、所望の捲縮が得られず、嵩高性に乏しい紡績糸となったり、織物または編物がボリューム感に乏しいものとなったりする可能性がある。
【0018】
また、アクリロニトリルと共重合し得る他のビニル系単量体としては、特に限定はないが、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらのエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド又はこれらのN-アルキル置換体;酢酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル又はビニリデン類;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸又はこれらの塩類等を挙げることができる。なお、上記アクリロニトリル系重合体は、上述の組成を満たす限り、複数種を構成成分として用いても構わない。
【0019】
また、扁平アクリロニトリル系繊維の繊度の下限としては、0.5dtex以上であることが好ましく、1.0dtex以上であることがより好ましく、2.0dtex以上であることがさらに好ましい。また、繊度の上限としては、20dtex以下であることが好ましく、15dtex以下であることがより好ましく、8dtex以下であることがさらに好ましい。繊度が0.5dtex未満の場合、繊維が細すぎるために所望の嵩高性が得られにくくなる恐れがある。また、20dtexを超える場合、繊維が太すぎるため、繊維の断面二次モーメントが高くなりやすく、ソフト性が悪化したり、捲縮の発現性が低下して嵩高性が不十分となったりする恐れがある。
【0020】
以上に述べてきた、扁平アクリロニトリル系繊維を構成するアクリロニトリル系重合体を合成する方法としては、特に制限はなく、周知の重合手段である懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法などを利用することができる。
【0021】
また、得られた重合体を用いて、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を製造する方法としては、特に限定はないが、湿式紡糸法を用いて製造する場合における一例を挙げると、一般的によく知られた水系懸濁重合で作られるアクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体を、溶媒にそれぞれ溶解し、原液を作製する(高アクリロニトリル含有重合体原液(A)、低アクリロニトリル含有重合体原液(B)とする)。
【0022】
ここで、アクリロニトリル系重合体を溶解させる溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトンなどの有機系溶媒や硝酸、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸ナトリウム水溶液などの無機系溶媒を挙げることができる。
【0023】
作製したAおよびBの両原液を、例えば、特公昭39-24301号で開示されているような複合紡糸装置を用い、AとBを重量比でA/B=20/80~80/20の割合で、複合紡糸口金に導き凝固浴に押し出し、ついで、水洗、延伸、緻密化乾燥、湿熱処理、油剤処理、捲縮処理等を施すことでサイドバイサイド型の繊維を作製することができる。また、ミキサー等でランダムに多層化された紡糸原液を紡出することで、ランダム型とすることも可能であるし、用いるノズル孔型を変更したり、紡出速度を変化させたりすることで、所望の扁平形状を有する繊維とすることが可能となる。その際、A及びBの重量比や湿熱処理温度を変更することで、任意のCf値とすることができる。
【0024】
本発明の紡績糸は、上述してきた扁平アクリロニトリル系繊維以外に、他の繊維を含有していてもよい。かかる他の繊維としては、特に限定はないが、上述する扁平アクリロニトリル系繊維以外のアクリロニトリル系繊維や、綿、羊毛、カシミヤなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、酢酸セルロース繊維、プロミックスなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、ウレタンなどの合成繊維などを挙げることができ、これらを複数種用いてもよい。
【0025】
また、他の繊維としては、断面形状に関して特に限定は無いが、丸型でも非丸型であっても良く、非丸型としては扁平、三角、Y字、十字断面などが挙げられる。
【0026】
また、本発明の紡績糸の番手は、特に限定はなく、用途に応じて適宜選択すればよいが、綿番手としては5~120番手の範囲内であることが好ましい。また、衣料用の織編物であれば、10~100番手であることがより好ましい。
【0027】
上述してきた本発明の紡績糸は、嵩高性やソフト性に優れたものであるため、織物や編物などに好適に利用することができる。
【0028】
例えば、本発明の紡績糸を織物に用いる場合は、織物の経糸および/または緯糸として使用することができ、通常の製織工程で織物を製織することができる。また、本発明の紡績糸を編物に用いる場合は、通常の丸編みや経編工程で編成することができる。
【0029】
その際に使用される、織機および編機の種類は特に限定されない。また、織編物の組織や密度は、求められる風合いやボリューム感などにより選択される。
【0030】
得られた織物または編物は、使用される素材に合わせて、適宜、一般的な染色工程や、条件で染色仕上げ加工を施し、最終の仕上げにより織編物となる。また、必要に応じて染色した原綿や製織編工程前の紡績糸で染色することもできる。
【0031】
また、本発明の紡績糸は、この紡績糸を織物または編物の一部に使うこともできるし、織物または編物の全体に使用することもでき、その用途や目的に沿って決めることができる。
【0032】
本発明の紡績糸を用いた織編物が好適に用いられる用途としては、衣料や資材用途など様々な分野に利用でき、特に限定はないが、例えば、肌着、下着、シャツ、ジャンパー、セーター、パンツ、トレーニングウエア、タイツ、腹巻、マフラー、帽子、手袋、靴下、耳あて、フィルター、カーテン等がある。特に、スポーツウエアのインナーシャツおよびインナータイツ、セーター、防寒衣料など保温効果が求められる用途や、登山、スキー、スケートなどのウインタースポーツ向けインナー素材により好適に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また実施例中の部及び百分率は特に限定が無い限り質量基準で示す。なお、実施例において記述する保温率や染色前後での紡績糸の嵩高性評価等は下記の方法で測定したものである。
【0034】
(1) 捲縮数Cn
JIS L1015により測定、算出する。
【0035】
(2) 捲縮率Ci
JIS L1015により測定、算出する。
【0036】
(3) Cf値
JIS L1015により測定、算出したCnおよびCiを元に、下記式3によって算出する。
(式3)
Cf = Cn × ( 1 - Ci/100 )
【0037】
(4)扁平度
サンプル繊維から単繊維を150~200本とりだし、引きそろえて繊維束とする。該繊維束の断面をカットし、光学顕微鏡を用いて断面写真を撮影した。断面写真から50本の繊維の短径(A)および長径(B)を測り、扁平度(B)/(A)により算出した。
【0038】
(5) 断面二次モーメント
繊維断面が円形の場合、繊維の断面二次モーメントは、πD4/64(但し、Dは円の直径)で算出した。また、断面が長方形の繊維の場合には、断面二次モーメントは、a3b/12(但し、aは短辺の長さ、bは長辺の長さ)により算出した。なお、断面が楕円形もしくは小判形等の繊維の場合、上記扁平度が、1.5~8の範囲であれば、長径を長辺の長さ、短径を短辺の長さとした長方形の断面二次モーメントに近似可能な程度に差が小さくなるため、上記の断面が長方形である場合の式を代用して算出した。
【0039】
(6)紡績糸および編地の作製
試料繊維(繊維長64mmバリアブルカット)を70%、その他の繊維として通常のアクリル繊維(日本エクスラン工業社製、K8-3.3TV64)を30%として毛番手で36番手(綿番手にして21.3番手)の紡績糸を作製した。該紡績糸に、カチオン染料Nichilon Black G 200%(日成化成社製)を紡績糸の重量に対して2.5%の割合で添加した染液で、98℃で30分かけて噴射式の綛染めを施し、さらに、ソーピング、水洗、乾燥を行い染色後の紡績糸を得た。また、得られた染色後の紡績糸を用いて天竺編地(10ゲージ)を作製した。
【0040】
(6)保温性評価(サーモラボII ドライコンタクト法)
上述した方法で作製した編地を2×2センチにカットする。カトーテック(株)製のKES-F7サーモラボII試験機(30cm/secの有風下)を用いて、一定温度(室温+10℃)に設定した熱板に試験片をセットする。その後、試験片を介して放散された熱量(a)を求める。別途、試験片をセットしない状態で放散された熱量(b)を求め、下記の式に従い保温率(%)を算出した。
保温率(%) = (1-a/b)×100
【0041】
(7) 紡績糸の観察
キーエンス社製マイクロスコープ(型番:VHX-2000、レンズ:VH-Z100R)を用い、レンズの倍率を100倍に設定し、上述した染色後の紡績糸の形状観察および、該紡績糸を用いて作製した編地の観察を行った。
【0042】
(製造例1~4)アクリロニトリル系繊維の作製
高熱収縮成分として、アクリロニトリル88重量部、酢酸ビニル12重量部を懸濁重合することによってアクリロニトリル系重合体Aを作製した。また、低熱収縮成分として、アクリロニトリル90重量部、アクリル酸メチル10重量部を懸濁重合することによってアクリロニトリル系重合体Bを作製した。
【0043】
50%ロダン酸ナトリウム水溶液90部に、前記アクリロニトリル系重合体A及びBをそれぞれ10部ずつ溶解し、例えば特公昭39-24301号において開示されている複合紡糸装置を用い、Ap及びBpを表1に記載の成分比で複合紡糸口金に導き、凝固浴である10%ロダンソーダ水溶液中に押し出し、ついで、沸水で10倍延伸後、115℃の熱風で乾燥し、さらに120℃の加圧水蒸気中で熱処理を施すことで、アクリロニトリル系繊維を得た。また、単成分の繊維に関しては、従来公知のアクリロニトリルの製造方法を用いて製造できることは言うまでもない。この際に使用するミキサー、紡糸口金の種類または孔径の違いを利用することで、繊度や断面形状を調整したアクリロニトリル系繊維a~dを作製した。各繊維の詳細データを表1に示した。
【0044】
【0045】
(実施例1~3、比較例1)
試料繊維として、アクリロニトリル系繊維a~dを用いて前述の方法により、紡績糸を作製した。該紡績糸を構成するアクリロニトリル系繊維の種類及び該紡績糸を用いて作製した編地の保温性評価の結果を表2に示した。また、作製した紡績糸および編地のマイクロスコープ画像を
図1~5として示した。
【0046】
【0047】
本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を含有し、染色を施す前の紡績糸(
図1)および染色後の該紡績糸(
図2)を見て分かるように、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を含有した紡績糸は、染色工程において、三次元捲縮が発現するため、染色後の紡績糸は非常に嵩高いものとなる。一方で、繊維断面が丸型である比較例1の紡績糸は、
図3からも分かるように嵩高さに乏しいものであった。そのため、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を含有する紡績糸を用いて作製した編地(
図4)は、比較例1の紡績糸を用いて作製した編地(
図5)と比較して、編地の網目の隙間が埋まったような構造となる。その結果、実施例1~3の紡績糸を用いたものの方が、従来品である比較例1の紡績糸を用いたものよりも保温性の効果が向上し、さらに、編地の構造が崩れにくく、洗濯耐久性に優れたものとなることが考えられる。