(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】走査アンテナ及びその関連技術
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/34 20060101AFI20220707BHJP
H01Q 3/44 20060101ALI20220707BHJP
H01Q 13/22 20060101ALI20220707BHJP
G02F 1/1339 20060101ALN20220707BHJP
【FI】
H01Q3/34
H01Q3/44
H01Q13/22
G02F1/1339 500
(21)【出願番号】P 2020510892
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012812
(87)【国際公開番号】W WO2019189151
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2018065171
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】高田 雄貴
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030279(WO,A1)
【文献】特開2017-031230(JP,A)
【文献】特開2013-054341(JP,A)
【文献】特開2016-160393(JP,A)
【文献】特開2013-068843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/34
H01Q 3/44
H01Q 13/22
G02F 1/1339
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体基板と、前記第1誘電体基板上に支持された複数のTFTと、前記TFTに対応して前記第1誘電体基板上に支持されたパッチ電極と、複数のゲートバスラインと、複数のソースバスラインとを有するTFT基板と、
第2誘電体基板と、前記第2誘電体基板の第1主面上に形成されたスロットを含むスロット電極とを有する電極基板と、
前記TFT基板と前記電極基板との間に設けられた液晶層と、
前記TFT基板と前記電極基板との間の距離をその高さで規定する柱状の有機構造体とを備え、
前記パッチ電極と、前記パッチ電極に対応する前記スロットを含むスロット電極と、前記パッチ電極に対応する前記液晶層とで区画されるアンテナ単位が複数配列されており、
前記有機構造体の高さが5μm以上300μm以下であり、
前記有機構造体の圧縮変形時からの弾性回復率が-40℃以上40℃以下の温度範囲で80%以上98%以下であ
り、
前記電極基板の表面から前記有機構造体の高さの10%及び90%のそれぞれの位置において前記電極基板の表面に平行な面と前記有機構造体とが交差してなすそれぞれの断面の最小径を求め、前記有機構造体の高さの90%の位置での最小径をD
top
とし、前記有機構造体の高さの10%の位置での最小径をD
bottom
とした際、下記式で表されるD
top
に対するD
bottom
の変動比が、±15%以内である走査アンテナ。
変動比(%)={(D
top
-D
bottom
)/D
top
}×100
【請求項2】
前記有機構造体が、平面視で格子状の構造体である請求項1に記載の走査アンテナ。
【請求項3】
前記有機構造体の高さ方向に沿った断面形状がテーパ状である請求項1又は2に記載の走査アンテナ。
【請求項4】
前記有機構造体が、フッ素原子及びケイ素原子のうちの少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の走査アンテナ。
【請求項5】
前記有機構造体が、リン原子を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の走査アンテナ。
【請求項6】
前記有機構造体が感放射線性樹脂組成物の硬化物である請求項1~5のいずれか1項に記載の走査アンテナ。
【請求項7】
複数のアンテナ単位が配列された走査アンテナであって、TFT基板と、電極基板と、前記TFT基板と前記電極基板との間に設けられた液晶層と、前記TFT基板と前記電極基板との間の距離をその厚みで規定する柱状の有機構造体とを備える走査アンテナにおける有機構造体の形成方法であって、
感放射線性樹脂組成物の塗膜を電極基板上に形成する工程と、
前記塗膜に対するフォトリソグラフィー技術により柱状の有機構造体を形成する工程と
を含み、
前記有機構造体の高さが5μm以上300μm以下であり、
前記有機構造体の圧縮変形時からの弾性回復率が-40℃以上40℃以下の温度範囲で80%以上98%以下であ
り、
前記電極基板の表面から前記有機構造体の高さの10%及び90%のそれぞれの位置において前記電極基板の表面に平行な面と前記有機構造体とが交差してなすそれぞれの断面の最小径を求め、前記有機構造体の高さの90%の位置での最小径をD
top
とし、前記有機構造体の高さの10%の位置での最小径をD
bottom
とした際、下記式で表されるD
top
に対するD
bottom
の変動比が、±15%以内である走査アンテナの有機構造体の形成方法。
変動比(%)={(D
top
-D
bottom
)/D
top
}×100
【請求項8】
請求項
7に記載の走査アンテナの有機構造体の形成方法に用いられる感放射線性樹脂組成物。
【請求項9】
複数のアンテナ単位が配列された走査アンテナであって、TFT基板と、電極基板と、前記TFT基板と前記電極基板との間に設けられた液晶層と、前記TFT基板と前記電極基板との間の距離をその高さで規定する柱状の有機構造体とを備える走査アンテナの製造方法であって、
電極基板上に配向膜を形成する工程と、
前記配向膜上に有機構造体を形成する工程と
を含
み、
前記有機構造体の形成方法は、
感放射線性樹脂組成物の塗膜を前記配向膜が形成された前記電極基板上に形成する工程と、
前記塗膜に対するフォトリソグラフィー技術により柱状の有機構造体を形成する工程と
を含み、
前記有機構造体の高さが5μm以上300μm以下であり、
前記有機構造体の圧縮変形時からの弾性回復率が-40℃以上40℃以下の温度範囲で80%以上98%以下である走査アンテナの製造方法。
【請求項10】
前記有機構造体を形成する工程が、
(1)前記配向膜が形成された前記電極基板上に感放射線性樹脂組成物の塗膜を形成する工程、
(2)前記塗膜をフォトマスクを介して露光する工程、
(3)露光後の前記塗膜を現像する工程、及び
(4)現像後の塗膜に加熱又は露光を行って前記有機構造体を形成する工程
を含む請求項
9に記載の走査アンテナの製造方法。
【請求項11】
前記現像工程において用いる現像液が、アルカリ金属イオンを含む水溶液である請求項
10に記載の走査アンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査アンテナ並びにその関連技術である走査アンテナの有機構造体の形成方法、感放射線性樹脂組成物及び走査アンテナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信や衛星放送用のアンテナは、ビームの方向を変えられる(「ビーム走査」又は「ビームステアリング」と言われる。)機能を必要とする。このような機能を有するアンテナ(以下、「走査アンテナ(scanned antenna)」という。)として、アンテナ単位を備えるフェイズドアレイアンテナが知られている。しかしながら、従来のフェイズドアレイアンテナは高価であり、民生品への普及の障害となっている。特に、アンテナ単位の数が増えると、コストが著しく上昇する。
【0003】
そこで、液晶材料(ネマチック液晶、高分子分散液晶を含む。)の大きな誘電異方性(複屈折率)及び液晶表示装置(以下、「LCD」という。)の技術を利用した走査アンテナが提案されている(特許文献1~5及び非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-116573号公報
【文献】特開2007-295044号公報
【文献】特表2009-538565号公報
【文献】特表2013-539949号公報
【文献】特許第6139045号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】R.A.Stevenson et al.,“Rethinking Wireless Communications:Advanced Antenna Design using LCD Technology”,SID 2015 DIGEST,pp.827-830.
【文献】M.ANDO et al.,“A Radial Line Slot Antenna for 12GHz Satellite TV Reception”,IEEE Transactions of Antennas and Propagation,Vol.AP-33,No.12,pp.1347-1353(1985).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IoT技術の進展やコンテンツの通信データの高容量化及び高通信速度化の要請に伴い、5Gと呼ばれる次世代通信技術が開発されつつある。5Gにて用いられる周波数は、上述の従来の走査アンテナの多くが対象とする現在の4Gまでの周波数帯(3.5GHz付近又はそれより低い周波数帯)よりさらに高い周波数帯の電磁波となると予想されている。
【0007】
本発明は、次世代通信技術に対応可能な走査アンテナ、走査アンテナの有機構造体の形成方法、感放射線性樹脂組成物及び走査アンテナの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、位相がずれて走査アンテナに到達した信号(電磁波)を誘電率の高い液晶層に通過させることでさらに各々の信号の位相遅延を生じさせ、これにより信号同士の同位相化を図るという着想を得た。本発明者らはさらに検討した結果、液晶技術を利用するアンテナにおいて、同位相化による信号増幅を経て受信感度を送受信面内全体で向上させるには、同位相化に必要な信号遅延の程度を液晶のセルギャップで制御するとともに、送受信面内での外部応力によるセルギャップの変動を抑制すればよいことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、一実施形態において、第1誘電体基板と、前記第1誘電体基板上に支持された複数のTFTと、前記TFTに対応して前記第1誘電体基板上に支持されたパッチ電極と、複数のゲートバスラインと、複数のソースバスラインとを有するTFT基板と、
第2誘電体基板と、前記第2誘電体基板の第1主面上に形成されたスロットを含むスロット電極とを有する電極基板と、
前記TFT基板と前記電極基板との間に設けられた液晶層と、
前記TFT基板と前記電極基板との間の距離をその高さで規定する柱状の有機構造体とを備え、
前記パッチ電極と、前記パッチ電極に対応する前記スロットを含むスロット電極と、前記パッチ電極に対応する前記液晶層とで区画されるアンテナ単位が複数配列されており、
前記有機構造体の高さが5μm以上300μm以下であり、
前記有機構造体の圧縮変形時からの弾性回復率が-40℃以上40℃以下の温度範囲で80%以上98%以下である走査アンテナに関する。
【0010】
TFT基板と電極基板との貼り合わせの際に有機構造体が圧縮変形し、基板面内での有機構造体の高さ(すなわち、基板間の距離)にバラツキが生じたり、外気温の変化による液晶の膨張・収縮にセル構造が追従できずセルに空隙(マイクロバブル)が生じたりすることがある。いずれの場合も受信した信号(電磁波)の液晶層内での位相遅延度が目的値からずれてしまい、同位相化による信号増幅が達成されなくなる場合がある。有機構造体の弾性回復率が上記範囲であると、基板貼り合わせ時や外気温による液晶の膨張・収縮時に生じる外部応力によって有機構造体が圧縮変形してもその形状が弾性的に元の形状まで回復するので、セルギャップの変動を抑制して均一形状保持性を高めることができ、所期の信号同位相化を図ることができる。
【0011】
一実施形態において、前記有機構造体は、平面視で格子状の構造体であってもよい。アンテナ単位をマトリクス状に配置することができ、既存の液晶表示技術を利用して走査アンテナを製造することができるので、設計容易性や生産効率を高めることができる。
【0012】
一実施形態において、前記有機構造体の高さ方向に沿った断面形状がテーパ状であってもよい。
【0013】
一実施形態において、前記有機構造体が、フッ素原子及びケイ素原子のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。これによりフッ素原子を含むフッ素化合物やケイ素原子を含むケイ素化合物に由来する機能や特性を有機構造体やこれを形成するための材料に付与することができ、有機構造体の高機能化や形成プロセスの効率化等を図ることができる。例えば、有機構造体の形成材料である感放射線性樹脂組成物にシラン化合物が含まれると一般的に有機構造体の基板に対する密着性や有機構造体自体の強度が高まる。また、フッ素化合物が含まれると一般的に感放射線性樹脂組成物の塗膜の表面均一性が高まり有機構造体の高さのバラツキが抑制される。有機構造体がそれらに由来するフッ素原子やケイ素原子を含むことで所望の特性を付与することができる。
【0014】
一実施形態において、前記有機構造体が、リン原子を含むことが好ましい。これによりリン原子を含むリン化合物に由来する機能や特性を有機構造体やこれを形成するための材料に付与することができ、有機構造体の高機能化や形成プロセスの効率化等を図ることができる。例えば、有機構造体の形成材料である感放射線性樹脂組成物にリン原子含有光重合開始剤が含まれると、次のような特性が得られる。すなわち、リン原子は価数が5となり得るので、炭素原子と比較してより多くのクロモファ結合することができる。そうすると長波長側に吸収領域をもつことになり、低エネルギーで感度良くラジカルを発生することができる。その結果、膜厚の厚い感光膜のパターン形成により有機構造体を形成する本実施形態には有利である。
【0015】
一実施形態において、前記有機構造体が感放射線性樹脂組成物の硬化物であることが好ましい。フォトリソグラフィー技術を用いて目的とする形状の有機構造体を効率的に形成することができる。
【0016】
一実施形態において、前記電極基板の表面から前記有機構造体の高さの10%及び90%のそれぞれの位置において前記電極基板の表面に平行な面と前記有機構造体とが交差してなすそれぞれの断面の最小径を求め、前記有機構造体の高さの90%の位置での最小径をDtopとし、前記有機構造体の高さの10%の位置での最小径をDbottomとした際、下記式で表されるDtopに対するDbottomの変動比が、±15%以内であることが好ましい。
変動比(%)={(Dtop-Dbottom)/Dtop}×100
これにより、当該走査アンテナは、高さが5μm以上300μm以下の柱状の有機構造体を備えており、TFT電極と電極基板との間の距離を高周波数帯の電磁波の同位相化に最適なセルギャップに制御するとともに、有機構造体の上部径と下部径との差を小さくして形状均一性を高めることができ、高周波数帯の電磁波を利用する次世代通信技術に有用である。
【0017】
本発明は、一実施形態において、複数のアンテナ単位が配列された走査アンテナであって、TFT基板と、電極基板と、前記TFT基板と前記電極基板との間に設けられた液晶層と、前記TFT基板と前記電極基板との間の距離をその厚みで規定する柱状の有機構造体とを備える走査アンテナにおける有機構造体の形成方法であって、
感放射線性樹脂組成物の塗膜を電極基板上に形成する工程と、
前記塗膜に対するフォトリソグラフィー技術により柱状の有機構造体を形成する工程と
を含み、
前記有機構造体の高さが5μm以上300μm以下であり、
前記有機構造体の圧縮変形時からの弾性回復率が-40℃以上40℃以下の温度範囲で80%以上98%以下である走査アンテナの有機構造体の形成方法に関する。
【0018】
当該形成方法によれば、高周波数帯対応のための基板間の幅広ギャップを付与する有機構造体を感放射線性樹脂組成物を用いる既存のフォトリソグラフィー技術により送受信面内全体において効率的に形成することができる。
【0019】
本発明は、一実施形態において、上記走査アンテナの有機構造体の形成方法に用いられる感放射線性樹脂組成物に関する。
【0020】
本発明は、一実施形態において、複数のアンテナ単位が配列された走査アンテナであって、TFT基板と、電極基板と、前記TFT基板と前記電極基板との間に設けられた液晶層と、前記TFT基板と前記電極基板との間の距離をその高さで規定する柱状の有機構造体とを備える走査アンテナの製造方法であって、
電極基板上に配向膜を形成する工程と、
前記走査アンテナの有機構造体の形成方法により前記配向膜上に有機構造体を形成する工程と
を含む走査アンテナの製造方法に関する。
【0021】
液晶層を形成する液晶分子は、通常、配向膜により配向している。従来の液晶表示装置の製造プロセスでは、基板上にスペーサを形成した後、配向膜を形成することが多い。配向膜の形成の際には液晶分子の配向に寄与するラビング処理を行う。しかし、幅広のセルギャップに対応する有機構造体を形成した後に配向膜を形成しようとすると、配向膜形成用組成物の塗布の際に有機構造体が倒れてしまったり、仮に倒れなくてもラビング処理の際に倒れてしまったりする。当該走査アンテナの製造方法では、配向膜を形成してから有機構造体を形成するので、配向膜形成処理の影響を排除することができ、有機構造体の倒壊を防止することができる。
【0022】
一実施形態において、具体的に、前記有機構造体を形成する工程が、
(1)前記配向膜が形成された前記電極基板上に感放射線性樹脂組成物の塗膜を形成する工程、
(2)前記塗膜をフォトマスクを介して露光する工程、
(3)露光後の前記塗膜を現像する工程、及び
(4)現像後の塗膜に加熱又は露光を行って前記有機構造体を形成する工程
を含んでもよい。
【0023】
一実施形態において、前記現像工程において用いる現像液が、アルカリ金属イオンを含む水溶液であることが好ましい。無機系のアルカリ性水溶液とすることにより、現像工程を速やかに進行させることができ、所望形状の有機構造体を精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係る走査アンテナ1000の一部を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る走査アンテナ1000を模式的に示す平面図である。
【
図3A】有機構造体の形状均一性を説明するための模式的断面図である。
【
図3B】
図3A中のX-X線断面図であり、有機構造体の上部断面の最小径を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態に係る走査アンテナ及びその周辺技術につき、図面を適宜参照して説明する。なお、以下の図面は、いずれも模式的に示されたものであり、実際の寸法比と図面上の寸法比とは必ずしも一致しない。また、各図面間において、寸法比が異なる場合がある。まず、走査アンテナの構造及びその製造方法について説明し、その後、各部材に好適な材料について説明する。
【0026】
《走査アンテナの基本構造》
液晶材料の誘電率は周波数分散を有するので、本明細書において、マイクロ波の周波数帯における誘電率(「マイクロ波に対する誘電率」ということもある。)を「誘電率M(εM)」と表記する。
【0027】
液晶材料の大きな誘電率M(εM)の異方性(複屈折率)を利用したアンテナ単位を用いた走査アンテナは、LCDパネルの画素に対応付けられるアンテナ単位の各液晶層に印加する電圧を制御し、各アンテナ単位の液晶層の実効的な誘電率M(εM)を変化させることによって、静電容量の異なるアンテナ単位で2次元的なパターンを形成する(LCDによる画像の表示に対応する。)。アンテナから出射されるか、又はアンテナによって受信される電磁波(例えば、マイクロ波)には、各アンテナ単位の静電容量に応じた位相差が与えられ、静電容量の異なるアンテナ単位によって形成された2次元的なパターンに応じて、特定の方向に強い指向性を有することになる(ビーム走査)。例えば、アンテナから出射される電磁波は、入力電磁波が各アンテナ単位に入射し、各アンテナ単位で散乱された結果得られる球面波を、各アンテナ単位によって与えられる位相差を考慮して積分することによって得られる。各アンテナ単位が、「フェイズシフター:phase shifter」として機能していると考えることもできる。液晶材料を用いた走査アンテナの基本的な構造及び動作原理については、特許文献1~5及び非特許文献1、2を参照されたい。参考のために、特許文献1~5及び非特許文献1、2の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【0028】
本実施形態に係る走査アンテナにおけるアンテナ単位はLCDパネルの画素に類似している。
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態に係る走査アンテナの基本構造を説明する。
【0029】
図1は、本実施形態の走査アンテナ1000の一部を模式的に示す断面図である。
図2は、本実施形態の走査アンテナ1000におけるTFT基板101を示す模式的な平面図である。走査アンテナ1000は、TFT基板101と、電極基板201と、これらの間に配置された液晶層LCと、TFT基板101と電極基板201との間の距離をその高さhで規定する柱状の有機構造体3と、空気層54を介して電極基板201と対向するように配置された反射導電板65とを備えている。走査アンテナ1000は、TFT基板101側からマイクロ波を送受信する。
【0030】
(TFT基板)
TFT基板101は、ガラス基板などの第1誘電体基板1と、第1誘電体基板1上に形成された複数のパッチ電極15と、複数のTFT10とを有している。各パッチ電極15は、対応するTFT10に接続されている。各TFT10は、ゲートバスラインGLとソースバスラインSLとに接続されている。ゲートバスラインGLのそれぞれはゲート端子部(図示せず)を介してゲートドライバGDに接続されている。ソースバスラインSLのそれぞれはソース端子部(図示せず)を介してソースドライバSDに接続されている。
【0031】
TFT10及びパッチ電極15を含む第1誘電体基板1の表面は、液晶の配向を制御する配向膜8a(例えばポリイミド膜)に覆われている。配向膜8aは、液晶層LCと接するように設けられる。
【0032】
アンテナ用の第1誘電体基板1としては、マイクロ波に対する誘電損失(マイクロ波に対する誘電正接をtanδMと表すことにする。)が小さいことが好ましい。第1誘電体基板1のtanδMは、概ね0.03以下であることが好ましく、0.01以下がさらに好ましい。具体的には、ガラス基板又はプラスチック基板を用いることができる。ガラス基板はプラスチック基板よりも寸法安定性、耐熱性に優れ、TFT、配線、電極等の回路要素をLCD技術を用いて形成するのに適している。例えば、導波路を形成する材料が空気とガラスである場合、ガラスの方が上記誘電損失が大きいため、ガラスがより薄い方が導波ロスを減らすことができるとの観点から、好ましくは400μm以下であり、300μm以下がさらに好ましい。下限は特になく、製造プロセスにおいて、割れることなくハンドリングできればよい。
【0033】
パッチ電極15は、後述するスロット電極55のように導波路301を構成する訳ではないので、スロット電極55よりも厚みが小さいCu層又はAl層を用いることができる。ただし、スロット電極55のスロット57付近の自由電子の振動がパッチ電極15内の自由電子の振動を誘起する際に熱に変わるロスを避けるために、抵抗が低い方が好ましい。量産性の観点からはCu層よりもAl層を用いることが好ましく、Al層の厚みは例えば0.5μm~2μmが好ましい。
【0034】
(電極基板)
電極基板201は、ガラス基板などの第2誘電体基板51と、第2誘電体基板51の液晶層LC側の表面(第1主面)に形成されたスロット電極55とを有している。スロット電極55は、液晶層LC中で位相差を揃えた波を出力する電極であり、複数のスロット57を有している。例えば、平面視でT字状となるよう互いに概ね直交するスロットを設けることにより、走査アンテナ1000は、円偏波を送受信することができる。電極基板201を構成する第2誘電体基板51もTFT基板101を構成する第1誘電体基板1と同様の性状を有することが好ましい。
【0035】
スロット電極55は、比較的厚いCu層又はAl層で形成することが好ましい。スロット電極55は、反射導電板65とともに導波路301の壁として機能する。従って、導波路301の壁におけるマイクロ波の透過を抑制するためには、導波路301の壁の厚み、すなわち、金属層(Cu層又はAl層)の厚みは大きいことが好ましい。金属層の厚みが表皮深さの3倍であれば、電磁波は1/20(-26dB)に減衰され、5倍であれば1/150(-43dB)程度に減衰されることが知られている。従って、金属層の厚みが表皮深さの5倍であれば、電磁波の透過率を1%に低減することができる。例えば、10GHzのマイクロ波に対しては、厚みが3.3μm以上のCu層、及び厚みが4.0μm以上のAl層を用いると、マイクロ波を1/150まで低減することができる。また、30GHzのマイクロ波に対しては、厚みが1.9μm以上のCu層、及び厚みが2.3μm以上のAl層を用いると、マイクロ波を1/150まで低減することができる。Cu層又はAl層の厚みに上限は特になく、成膜時間やコストを考慮して、適宜設定され得る。Cu層を用いると、Al層を用いるよりも薄くできるという利点が得られる。比較的厚いCu層又はAl層の形成は、LCDの製造プロセスで用いられる薄膜堆積法だけでなく、Cu箔又はAl箔を基板に貼り付ける等、他の方法を採用することもできる。金属層の厚みは、例えば、2μm以上30μm以下である。薄膜堆積法を用いて形成する場合、金属層の厚みは5μm以下であることが好ましい。なお、反射導電板65は、例えば、厚みが数mmのアルミニウム板、銅板などを用いることができる。
【0036】
スロット57及びスロット電極55を含む第2誘電体基板51の表面は、液晶の配向を制御する配向膜8b(例えばポリイミド膜)に覆われている。配向膜8bは、液晶層LCと接するように設けられる。
【0037】
本実施形態では、空気層54を介して電極基板201と対向するように反射導電板65が配置されている。空気層54に代えて、マイクロ波に対する誘電率Mが小さい誘電体(例えば、PTFEなどのフッ素樹脂)で形成された層を用いることができる。スロット電極55と反射導電板65と、これらの間の第2誘電体基板51及び空気層54とが導波路301として機能する。
【0038】
(アンテナ単位)
パッチ電極15と、パッチ電極15に対応するスロット57を含むスロット電極55の部分と、これらの間の液晶層LCとがアンテナ単位Uを構成する。各アンテナ単位Uにおいて、1つのパッチ電極15が1つのスロット57を含むスロット電極55の部分と液晶層LCを介して対向しており、液晶容量を構成している。走査アンテナ1000のアンテナ単位Uと、LCDパネルにおける画素とは互いに類似する構成を有している。また、アンテナ単位は、液晶容量と電気的に並列に接続された補助容量(図示せず)を有していてもよい。
【0039】
図2に示すように、走査アンテナ1000は2次元に配列された複数のアンテナ単位Uを有しており、ここで例示する走査アンテナ1000では、複数のアンテナ単位がマトリクス状に配列されている。アンテナ単位Uに対応するTFT基板101の領域及び電極基板201(
図2中、スロット57、スロット電極55及び反射導電板65は省略)の領域を「アンテナ単位領域」と呼び、アンテナ単位と同じ参照符号Uを付すことにする。また、TFT基板101及び電極基板201において、2次元的に配列された複数のアンテナ単位領域によって画定される領域を「送受信領域R1」と称し、送受信領域R1以外の領域を「非送受信領域R2」と称する。非送受信領域R2には、端子部、駆動回路などが設けられる。走査アンテナ1000では、スロットがマトリクス状に配列されているが、これに限られず、例えば、スロットの配列は、同心円状、螺旋状等の公知の種々の配列であってよい。
【0040】
アンテナ単位Uの配列ピッチとしては以下のように求められる。12GHz(Ku band)のマイクロ波用のアンテナの場合、波長λは例えば25mmである。アンテナ単位Uのピッチはλ/4以下及び/又はλ/5以下が好ましいので、6.25mm以下及び/又は5mm以下ということになる。この値は代表的なLCDパネルの画素のピッチと比べて10倍以上大きい。従って、アンテナ単位Uの長さ及び幅もLCDパネルの画素長さ及び幅よりも約10倍以上大きいことになる。
【0041】
(液晶層)
本実施形態に係る走査アンテナ1000は、アンテナ単位Uが有する液晶容量の静電容量値を変化させることによって、各パッチ電極から励振(再輻射)されるマイクロ波の位相を変化させる。従って、走査アンテナ1000の液晶層LCの液晶材料に求められる特性としては、マイクロ波に対する誘電率M(εM)の異方性(ΔεM)が大きいことが好ましく、tanδMは小さいことが好ましい。
【0042】
一般に液晶材料の誘電率は周波数分散を有するが、マイクロ波に対する誘電異方性Δε
Mは、可視光に対する屈折率異方性Δnと正の相関がある。従って、マイクロ波に対するアンテナ単位用の液晶材料は、可視光に対する屈折率異方性Δnが大きい材料が好ましいと言える。LCD用の液晶材料の屈折率異方性Δnは550nmの光に対する屈折率異方性で評価される。ここでも550nmの光に対するΔn(複屈折率)を指標に用いると、Δnが0.3以上、好ましくは0.4以上のネマチック液晶が、マイクロ波に対するアンテナ単位用に用いられる。Δnに特に上限はない。ただし、Δnが大きい液晶材料は極性が強い傾向にあるので、信頼性を低下させる恐れがある。信頼性の観点からは、Δnは0.4以下であることが好ましい。液晶層の厚みは、例えば、1μm~300μmである。
【0043】
(有機構造体)
本実施形態による走査アンテナ1000では、柱状の有機構造体3を用いてTFT基板101と電極基板201との間の距離が規定される。この基板間距離がそのまま液晶層LCの厚みとなるので、液晶層LCの厚みも有機構造体3の高さhにより制御される。有機構造体3としては、感放射線性樹脂組成物を用いてフォトリソグラフィープロセスで形成される柱状の有機構造体が好適に用いられる。本明細書において、「柱状」とは、電極基板201の表面に対して鉛直方向から眺めた際の平面視での形状の輪郭が電極基板201の表面に対して垂直方向に平行移動することにより描かれる軌跡で規定される構造又はこれに近似する構造を意味する。従って、例えば平面視での形状の輪郭が円形である場合は、有機構造体は円柱状となり、輪郭が四角形の場合は四角柱状となり、輪郭がドーナツ形の場合は厚みのある円筒状となる。
【0044】
有機構造体3の高さhは5μm以上300μm以下であり、送受信の対象とする電磁波の周波数によって適宜設定することができる。例えば、有機構造体3の高さhの下限値として、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm等が挙げられる。有機構造体3の高さの上限値として、250μm、200μm、180μm、150μm、120μm等が挙げられる。本実施形態では、有機構造体3の高さhを上記範囲のように高くしているので、従来の走査アンテナにおける有機構造体の高さを補うための台座等の構造物を形成する必要はなく、走査アンテナの構造及び製造プロセスの簡素化を図ることができる。
【0045】
本実施形態に係る走査アンテナにおいて、マイクロ波の位相の制御に寄与するのはパッチ電極15とスロット電極55との間の液晶層LCであるので、走査アンテナの動作精度を高める観点からは、パッチ電極15とスロット電極55との間の液晶層LCの厚み、言い換えると有機構造体3の高さhの均一性が高いことが好ましい。
【0046】
本実施形態の有機構造体3では、その上部径(TFT基板101側の径)と下部径(電極基板201側の径)との差を小さくして形状均一性を高めている。この態様について、
図3A及び
図3Bを参照しつつ説明する。
図3Aは、有機構造体の形状均一性を説明するための模式的断面図である。
図3Bは、
図3A中のX-X線断面図であり、有機構造体の上部断面の最小径を示す模式図である。電極基板201の表面から有機構造体3の高さhの10%及び90%のそれぞれの位置において電極基板201の表面に平行な面と有機構造体3とが交差してなすそれぞれの断面の最小径を求め求め、前記有機構造体の高さの90%の位置での最小径をD
topとし、前記有機構造体の高さの10%の位置での最小径をD
bottomとした際、下記式で表されるD
topに対するD
bottomの変動比が、±15%以内であることが好ましい。
変動比(%)={(D
top-D
bottom)/D
top}×100
前記最小径の変動比としては、±12%以内が好ましく、±10%以内がさらに好ましい。有機構造体3の高さhと上部径と下部径との差D
top-D
bottomとをそれぞれ所定範囲とすることで、各アンテナ単位に到達した電磁波の同位相化を効率的に達成することができる。なお、
図3Bに示すように、有機構造体3の高さhの90%の位置における電極基板201の表面に平行な面と有機構造体3とが交差してなすそれぞれの断面として、円形(
図3B中、左)であればその直径が最小径D
topとなり、長方形(
図3B中、真ん中)であれば長方形の長手方向に垂直な方向での長さが最小径D
topとなり、四角形の筒型の場合(
図3B中、右)は内側の四角形の一辺と外側の四角形の一辺との間の距離が最小径D
topとなる。
【0047】
図3Aに示すように、本実施形態の有機構造体3の高さ方向に沿った断面形状としてはテーパ状である。なお、上部径と下部径とを比較して、上部径が小さく下部径が大きい形態を「順テーパ」、上部径が大きく下部径が小さい形態を「逆テーパ」ともいう。前記断面形状としては順テーパ又は逆テーパのいずれであってもよい。有機構造体3を感放射線性樹脂組成物により形成する場合の主に露光工程及び現像工程の条件によっていずれの形態かが定まってくる。
【0048】
送受信領域R1における有機構造体3の高さhを複数個所計測したデータについて6σ(σ:標準偏差)を求めた際、高さ均一性6σは、0μm以上10μm以下が好ましい。高さ均一性6σは9μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましく、7μm以下が特に好ましい。高さ均一性6σは小さい方が好ましいものの、1μm以上であっても十分なセルギャップ均一性が得られる。高さ均一性6σの測定方法は実施例の記載による。高さ均一性6σが上記範囲にあることで、送受信領域R1における有機構造体3の高さhを一定したものとすることができ、その結果、セルギャップの均一性が高まって信号の同位相化及び増幅を効率的に図ることができる。
【0049】
有機構造体3の圧縮変形時からの弾性回復率としては、-40℃以上40℃以下の温度範囲で80%以上98%以下であることが好ましく、82%以上98%以下であることがより好ましく、84%以上98%以下であることがさらに好ましい。98%を超える場合、ガラス基板の貼り合わせ時に気泡混入等の不具合が発生する場合がある。前記弾性回復率の測定方法は、実施例の記載による。有機構造体3の弾性回復率が上記範囲であると、TFT基板101と電極基板201との貼り合わせ時に有機構造体3が圧縮変形してもその形状が弾性的に元の形状まで回復するので、基板間の距離、すなわち液晶層LCの厚みが維持されることになり、液晶層LC通過による所期の信号同位相化を図ることができる。
【0050】
走査アンテナにおいては、有機構造体3による液晶分子の配向の乱れが生じる場所によっては、各アンテナ単位領域Uにおけるマイクロ波の位相の制御の精度が低下するおそれがある。従って、走査アンテナの動作に影響を及ぼさないためには、有機構造体3は、走査アンテナ1000の法線方向から見たとき、スロット57及びその周辺領域と重ならず、パッチ電極15及びその周辺領域と重ならないことが好ましい。従って、
図2に示すように、アンテナ単位Uがマトリクス状に配列されている場合、有機構造体3は、スロット57及びその周辺領域並びにパッチ電極15及びその周辺領域と重ならないように、平面視で概ねゲートバスラインGL及びソースバスラインSLに沿った格子状に形成されていることが好ましい。また、スロット57及びその周辺領域並びにパッチ電極15及びその周辺領域と重ならない限り、平面視でゲートバスラインGL及びソースバスラインSLに沿って円柱状や角柱状の有機構造体、四角形の筒状の有機構造体等を点在させてもよい。
【0051】
パッチ電極15とスロット電極55との間の液晶層LCの厚みを均一に制御するという観点からは、送受信領域R1だけでなく、非送受信領域R2にも有機構造体3を設けることが好ましい。非送受信領域R2における有機構造体3の位置は、特に制限されず、任意であってよい。
【0052】
有機構造体3は、形成材料である感放射線性樹脂組成物(後述)の含有成分に由来する成分を含んでいてもよい。一実施形態において、有機構造体3は、フッ素原子及びケイ素原子のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。また、一実施形態において、有機構造体3は、リン原子を含むことが好ましい。これによりフッ素原子を含むフッ素化合物やケイ素原子を含むケイ素化合物、リン原子を含むリン化合物に由来する機能を有機構造体やこれを形成するための材料に付与することができ、有機構造体の高機能化や形成プロセスの効率化等を図ることができる。例えば、有機構造体の形成材料である感放射線性樹脂組成物にシラン化合物が含まれると一般的に有機構造体の基板に対する密着性や有機構造体自体の強度が高まる。また、フッ素化合物が含まれると一般的に感放射線性樹脂組成物の塗膜の表面均一性が高まり有機構造体の高さのバラツキが抑制される。有機構造体がそれらに由来するフッ素原子やケイ素原子を含むことで所望の特性を付与することができる。
【0053】
(有機構造体の形成方法)
本実施形態に係る走査アンテナにおける有機構造体の形成方法は、感放射線性樹脂組成物の塗膜を電極基板上に形成する工程と、前記塗膜に対するフォトリソグラフィー技術により柱状の有機構造体を形成する工程とを含む。有機構造体3は、上述した所定の高さh及び断面最小径の差Dtop-Dbottomを有する。フォトリソグラフィー技術を用いて目的とする形状の有機構造体3を効率的に形成することができる。詳細は、走査アンテナの製造方法において説明する。
【0054】
(走査アンテナの周辺部材)
本発明の実施形態に係る走査アンテナ1000は、必要に応じて、例えばプラスチック製の筺体に収容される。筺体にはマイクロ波の送受信に影響を与えない誘電率εMが小さい材料を用いることが好ましい。また、筺体の送受信領域R1に対応する部分には貫通孔を設けてもよい。さらに、液晶材料が光に曝されないように、遮光構造を設けてもよい。遮光構造は、例えば、TFT基板101の第1誘電体基板1及び/又は電極基板201の第2誘電体基板51の側面から第1誘電体基板1及び/又は第2誘電体基板51内を伝播し、液晶層に入射する光を遮光するように設ける。誘電異方性ΔεMが大きな液晶材料は、光劣化しやすいものがあり、紫外線だけでなく、可視光の中でも短波長の青色光も遮光することが好ましい。遮光構造は、例えば、黒色の粘着テープなどの遮光性のテープを用いることによって、必要な個所に容易に形成できる。
【0055】
≪走査アンテナの製造方法≫
本実施形態に係る走査アンテナの製造方法は、電極基板上に配向膜を形成する工程と、前記走査アンテナの有機構造体の形成方法により前記配向膜上に有機構造体を形成する工程とを含む。TFT基板101は、第1誘電体基板1上にTFT10や必要な配線を従来公知の方法により設けることで製造することができる。電極基板201は、第2誘電体基板51上に必要な電極や配線を従来公知の方法により設けることで製造することができる。液晶層LCを形成する液晶分子は、通常、配向膜により配向している。従来の液晶表示装置の製造プロセスでは、基板上にスペーサを形成した後、配向膜を形成することが多い。配向膜の形成の際には液晶分子の配向に寄与するラビング処理を行う。しかし、幅広のセルギャップに対応する有機構造体3を形成した後に配向膜を形成しようとすると、配向膜形成用組成物の塗布の際に有機構造体が倒れてしまったり、仮に倒れなくてもラビング処理の際に倒れてしまったりする。走査アンテナの製造方法では、配向膜8bを形成してから有機構造体3を形成するので、配向膜形成処理の影響を排除することができ、有機構造体3の倒壊を防止することができる。もちろん、有機構造体3の厚みや強度によっては、有機構造体3を先に形成しておき、その後配向膜8bを形成することもできる。本実施形態では、電極基板201上に配向膜8bだけでなく、TFT基板101上にも配向膜8aが形成されている。
【0056】
(配向膜形成工程A)
配向膜(液晶配向膜)は、最終的な塗膜の硬化(反応)の手段として加熱又は放射線照射をいずれか経る形成方法を採用することができる。まず、加熱による配向膜の形成方法を説明する。(A1-1)液晶配向剤を刷毛塗り法、浸漬法、スピンナー法、スプレー法、印刷法、インクジェット法等により電極基板201上に塗布する。(A1-2)電極基板201上に形成された液晶配向剤の膜から、50~120℃、好ましくは80~100℃で溶媒を蒸発させる。(A1-3)溶媒除去後の塗膜を150~400℃、好ましくは180~280℃で加熱する。(A1-4)加熱後の塗膜にラビングを行うことにより、液晶配向規制力のある配向膜8bを形成する。
【0057】
また、放射線照射による場合には、配向膜8bは光配向性組成物を用い、以下の手順で形成する。(A2-1)液晶配向剤を刷毛塗り法、浸漬法、スピンナー法、スプレー法、印刷法、インクジェット法等により電極基板201上に塗布する。(A2-2)電極基板201上に形成された液晶配向剤の膜から、50~120℃、好ましくは80~100℃で溶媒を蒸発させる。(A2-3)直線偏光を溶媒除去後の塗膜に照射し、前記液晶配向膜を配向させる。(A2-4)配向させた液晶配向膜を150~400℃、好ましくは180~280℃で加熱しイミド化して配向膜8bを形成する。
【0058】
(配向膜形成工程B)
上記配向膜形成工程Aの工程と異なり、後述の格子状の有機構造体3を形成した後、配向膜8bを形成することもできる。ただし、従来のラビング工程を行う場合では、本実施形態のように有機構造体3の高さhが5μm以上と高く、十分に配向膜8bに液晶配向規制力を持たせることが出来ないことがあるため、配向膜8bのラビング処理後に有機構造体3を形成するプロセスが好ましい。なお、格子状の有機構造体3の下地が有機膜の配向膜8bとなるため、密着性が向上する効果もある。
【0059】
(有機構造体の形成工程)
本実施形態に係る有機構造体を形成する工程は、(i)前記電極基板上に感放射線性樹脂組成物の塗膜を形成する工程、(ii)前記塗膜をフォトマスクを介して露光する工程、(iii)露光後の前記塗膜を現像する工程、及び(iv)現像後の塗膜に加熱又は露光を行って前記有機構造体を形成する工程を含む。
【0060】
(i)塗膜形成工程
塗膜形成工程では、塗膜形成用の感放射線性樹脂組成物を、乾燥膜厚が有機構造体3の高さhを満たすように、電極基板201上に塗布する。例えばオーブン及びホットプレート等の加熱機器を用いて、通常は100~150℃で60~1800秒間で加熱し、感放射線性樹脂組成物を乾燥する。このようにして、電極基板201上に塗膜を形成する。
【0061】
感放射線性樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、スリットコート法、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法、グラビア印刷法、シルクスクリーン法、インクジェット法、スクリーン印刷等が挙げられる。
【0062】
(ii)露光工程
露光工程では、所望のマスクパターンを介して、上記塗膜に放射線の照射を行う。例えば、規則的な格子パターンを有するマスクを介して、上記塗膜に放射線を照射して硬化させ、露光部及び非露光部を形成する。上述のマスクパターンを格子状、ドット状、ラインアンドスペース状に適宜変更することができる。
【0063】
放射線照射には、例えば、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線を用い、好ましくは、紫外線及び/または可視光線を用い、より好ましくは、波長365~436nmの光(例:g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm))を用いる。露光量は、感放射線性樹脂組成物中の各成分の種類及び含有量や、塗膜の厚さによって異なるが、i線を含む光を照射する場合、露光量は、i線換算で通常は50~1500mJ/cm2、好ましくは100~600mJ/cm2である。露光量が小さいほどΔ幅が小さい線状部材が得られる傾向にある。
【0064】
露光装置には、例えば、コンタクトアライナー、マスクアライナー、ステッパー、スキャナーを用いる。
【0065】
(iii)現像工程
現像工程では、放射線照射後の上記塗膜を現像して、非露光部を溶解及び除去することにより、電極基板201上に、格子状に配置された所望のラインパターンを形成する。
【0066】
現像には、アルカリ性現像液を用いることが好ましい。アルカリ性現像液としては、例えば、アルカリ性化合物を0.01~10質量%濃度で含有するアルカリ性水溶液が挙げられる。前記アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア水、水酸化テトラメチルアンモニウム、コリンが挙げられる。配向膜上に有機構造体を形成する場合の現像液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属イオンを含む水溶液であることが好ましい。一方、有機構造体を形成した後に配向膜を形成する場合の現像液としては、水酸化テトラメチルアンモニウムが好ましい。前記アルカリ性水溶液には、例えば、水溶性有機溶媒及び界面活性剤を適量添加することもできる。
【0067】
現像方法としては、例えば、シャワー現像法、スプレー現像法、浸漬現像法、パドル現像法が挙げられる。現像条件は、例えば、現像液の温度が20~40℃で現像処理時間が1~10分間程度である。なお、アルカリ性現像液で樹脂塗膜を現像した後は、水で洗浄し、乾燥してもよい。
【0068】
(iv)硬化工程
必要に応じて、放射線照射による露光及び/又は加熱を行い、格子パターンをさらに硬化させる。放射線照射には、例えば、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線を用い、好ましくは、紫外線及び/または可視光線を用い、露光量は、i線を含む光を照射する場合、i線換算で通常は300~5000mJ/cm2である。加熱条件は特に限定されないが、例えば80~250℃で0.1~3時間である。格子パターンの硬化を充分に進行させたり変形を防止したりするため、多段階で加熱することもできる。このような工程を行うことで、有機構造体収縮時のクラック及び剥離を抑えることができる。以上のようにして、平面視が格子状の有機構造体3を形成することができる。
【0069】
次いで、電極基板201上に形成した有機構造体3に液晶層LCの液晶材料を充填する。その後、TFT基板101と電極基板201とを貼り合わせる。両基板の貼り合わせは、有機構造体3のTFT基板101との貼り合わせ面に公知の接着剤層を設けることで行えばよい。必要に応じて接着剤層の乾燥工程を経ることで、本実施形態に係る走査アンテナ1000を製造することができる。
【0070】
(液晶材料)
液晶層LCを形成する液晶材料としては、マイクロ波やミリ波等の高周波に対する誘電率の異方性が大きく、かつ誘電損失(すなわちtanδ)が小さい材料が好ましい。具体的には、例えばビストラン系化合物(例えば、下記式(R-1)で表される化合物)や、オリゴフェニレン系化合物(例えば、下記式(R-2)で表される化合物)、ビストラン系化合物とオリゴフェニレン系化合物との混合物等を用いることができる。
【0071】
【化1】
(式(R-1)中、R
21~R
23は、それぞれ独立に、炭素数1~15個のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルケニル基、アルキルシクロアルキルアルキル基、又はアルキルシクロアルケニルアルキル基である。式中、フェニレン基の1以上の水素原子は、有機基で置換されてもよい。)
【0072】
【化2】
(式(R-2)中、R
24及びR
25は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~15のアルキル基、フッ素化アルキル基、アルコキシ基、フッ素化アルコキシ基、アルケニル基、フッ素化アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルコキシアルキル基、フッ素化アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキルシクロアルケニル基、アルキルシクロアルキルアルキル基、又はアルキルシクロアルケニルアルキル基である。R
26は、フッ素原子、塩素原子、又は炭素数1~15のアルキル基である。kは0~4の整数であり、mは6~25の整数である。)
【0073】
液晶材料の具体例としては、ビストラン系化合物として、例えば下記式(r-1-1)~式(r-1-4)のそれぞれで表される化合物等を;オリゴフェニレン系化合物として、例えば下記式(r-2-1)及び式(r-2-2)のそれぞれで表される化合物等を、挙げることができる。なお、液晶材料としては1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
【0075】
【0076】
(配向膜形成用組成物)
配向膜形成用組成物としては、重合体成分として、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリ(メタ)アクリレート及びポリシロキサンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体(A)を含み、重合体(A)が溶剤に分散又は溶解してなる液状の組成物を用いることができる。配向膜形成用組成物は、低温で塗膜を形成する観点で、重合体成分としてポリ(メタ)アクリレートまたはポリシロキサンを含有することが好ましい。なお、本明細書において「ポリ(メタ)アクリレート」は、ポリアクリレート及びポリメタクリレートを含むものとし、(メタ)アクリル系単量体を用いた重合により得られる重合体であることが好ましい。
【0077】
これらの重合体成分のうち、特にポリアミック酸が好ましい。ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得られるものが用いられる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましく、0.3~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0078】
配向膜形成に用いられるポリイミドは、上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造が併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミドは、そのイミド化率が30%以上であることが好ましく、40~99%であることがより好ましく、50~99%であることがさらに好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0079】
配向膜形成用組成物に含有されるポリアミック酸エステルは、(1)ポリアミック酸と、水酸基含有化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等とを反応させることにより合成する方法、(2)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを反応させる方法、(3)テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとを反応させる方法、によって得ることができる。ポリアミック酸、ポリイミド及びポリアミック酸エステルは、これを濃度10質量%の溶液としたときに、10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。還元粘度は、均一な塗膜を形成することができる範囲であれば特に限定されないが、0.05~3.0dl/gであることが好ましく、0.1~2.5dl/gであることがより好ましく、0.3~1.5dl/gであることがさらに好ましい。
【0080】
配向膜形成用組成物に用いられる有機溶媒の好ましい具体例としては、2-ブタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及び酢酸ブチル等が挙げられる。有機溶媒は、固形分濃度が5~50質量%となる割合で使用することが好ましい。また、有機溶媒は、低温で塗膜を形成する観点で、中でも、沸点が160℃以下の化合物を、溶剤の合計量に対して40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0081】
配向膜形成用組成物は、光配向性基を有する重合体を含有していることが好ましい。ここで、「光配向性基」とは、光照射による光異性化反応や光二量化反応、光分解反応、光フリース転位反応によって膜に異方性を付与する官能基を意味する。光配向性基の具体例としては、例えばアゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、ポリイミド又はその誘導体を基本骨格として含むポリイミド含有構造等が挙げられる。
【0082】
光配向性基は、ポリ(メタ)アクリレートが有していてもよいが、ポリ(メタ)アクリレートとは異なる重合体が有していても構わない。かかる重合体の主骨格としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリアミド等が挙げられる。液晶素子10の信頼性及び耐候性を確保する観点で、光配向性基を有するポリシロキサンを好ましく用いることができる。
【0083】
配向膜形成用組成物が、光配向性基を有する重合体と光配向性基を有さない重合体とを含有する場合、光配向性基を有する重合体の含有割合は、配向膜形成用組成物を用いて形成した塗膜に対し放射線照射によって十分な配向能を付与する観点から、配向膜形成用組成物中の重合体成分の合計量に対して、1質量%以上とすることが好ましく、5~99質量%とすることがより好ましい。
【0084】
配向膜形成用組成物は、その他の成分として、架橋性基を有する化合物(以下、架橋剤ともいう。)を含有することが好ましい。架橋性基は、光や熱によって同一又は異なる分子間に共有結合を形成可能な基であり、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基を有する基(アルケニル基、ビニルフェニル基など)、エチニル基、エポキシ基(オキシラニル基、オキセタニル基)、カルボキシル基、(保護)イソシアネート基等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高い点で、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。なお、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルを含む意味である。架橋剤が有する架橋性基の数は、1個でも複数個でもよい。液晶素子の信頼性を十分に高くする点で、好ましくは2個以上であり、2~6個がより好ましい。
【0085】
さらに、配向膜形成用組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤などが挙げられる。これらその他の成分の配合割合は、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0086】
配向膜形成用組成物における固形分濃度(配向膜形成用組成物の溶媒以外の成分の合計質量が配向膜形成用組成物の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%未満である場合には、塗膜の膜厚が過小となって良好な配向膜が得にくくなる。一方、固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な配向膜が得にくく、また、配向膜形成用組成物の粘性が増大して塗布性が低下する傾向にある。
【0087】
(有機構造体形成用の感放射線性樹脂組成物)
本実施形態に係る感放射線性樹脂組成物は、[A]バインダーポリマー、[B]重合性化合物、[C]感放射線性化合物を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0088】
〔[A]バインダーポリマー〕
[A]バインダーポリマーは、特に限定されず、硬化膜の母材となり得れば如何なるものであってもよい。
【0089】
また、[A]バインダーポリマーとして、以下に例示するような[A’]アルカリ可溶性樹脂を用いることもできる。[A]バインダーポリマーとして、[A’]アルカリ可溶性樹脂を用いることにより、アルカリ現像液によるパターニングが可能となる。
【0090】
〔[A’]アルカリ可溶性樹脂〕
[A’]アルカリ可溶性樹脂は、アルカリ性溶液に可溶な樹脂である。[A’]アルカリ可溶性樹脂としては、カルボキシ基を含む不飽和化合物をモノマーとして用いてラジカル重合することにより得られるポリマー(以下、「[a]ポリマー」ともいう)、ポリイミド、ポリシロキサン、ノボラック樹脂、及びこれらの組み合わせが好ましい。以下、[a]ポリマーについて詳細に説明する。
【0091】
[[a]ポリマー]
[a]ポリマーは、カルボキシ基を含む構造単位を有する。また、感度向上のため、重合性基を含む構造単位を有していてもよい。重合性基を含む構造単位としては、エポキシ基を含む構造単位、(メタ)アクリロイル基を含む構造単位、及びビニル基を含む構造単位が好ましい。[a]ポリマーが上記特定の重合性基を含む構造単位を有することで、表面硬化性及び深部硬化性に優れる感放射線性樹脂組成物とすることができる。また、[a]ポリマーは、水酸基を含む構造単位、及びその他の構造単位を有していてもよい。
【0092】
上記カルボキシ基を含む構造単位は、例えば不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸の無水物、多価カルボン酸のモノ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕エステル等のカルボン酸系不飽和化合物をモノマーとして用いて、適宜他のモノマーと共にラジカル重合することにより形成できる。
【0093】
上記不飽和モノカルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0094】
上記不飽和ジカルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0095】
上記不飽和ジカルボン酸の無水物としては、例えば上記不飽和ジカルボン酸として例示した化合物の無水物等が挙げられる。
【0096】
上記多価カルボン酸のモノ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕エステルとしては、例えばコハク酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、フタル酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕等が挙げられる。
【0097】
これらのカルボン酸系不飽和化合物のうち、重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸及びコハク酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕が好ましい。
【0098】
これらのカルボン酸系不飽和化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0099】
[a]ポリマー中のカルボキシ基を含む構造単位の含有割合の下限としては、[a]ポリマーを構成する全構造単位に対して、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。また、上記含有割合の上限としては、80モル%が好ましく、70モル%がより好ましく、60モル%がさらに好ましい。カルボキシ基を含む構造単位の含有割合が上記範囲である場合、アルカリ現像液への溶解性をより向上させることができる。
【0100】
上記エポキシ基を含む構造単位は、例えばエポキシ基含有不飽和化合物をモノマーとして用いて、適宜他のモノマーと共にラジカル重合することにより形成できる。エポキシ基含有不飽和化合物としては、例えばオキシラニル基(1,2-エポキシ構造)、オキセタニル基(1,3-エポキシ構造)等を含む不飽和化合物などが挙げられる。
【0101】
上記オキシラニル基を有する不飽和化合物としては、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2-メチルグリシジル、アクリル酸3,4-エポキシブチル、メタクリル酸3,4-エポキシブチル、アクリル酸6,7-エポキシヘプチル、メタクリル酸3,4-エポキシシクロへキシル等が挙げられる。
【0102】
上記オキセタニル基を有する不飽和化合物としては、例えば、3-(メタクリロイルオキシメチル)オキセタン、3-(メタクリロイルオキシメチル)-2-メチルオキセタン、3-(メタクリロイルオキシメチル)-3-エチルオキセタン、3-(メタクリロイルオキシメチル)-2-フェニルオキセタン、3-(2-メタクリロイルオキシエチル)オキセタン、3-(2-メタクリロイルオキシエチル)-2-エチルオキセタン等のメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0103】
これらのエポキシ基含有不飽和化合物のうち、重合性の観点から、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシル及び3-(メタクリロイルオキシメチル)-3-エチルオキセタンが好ましい。
【0104】
これらのエポキシ基含有不飽和化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0105】
上記(メタ)アクリロイル基を含む構造単位は、例えばエポキシ基を有するポリマーと(メタ)アクリル酸とを反応させる方法、カルボキシ基を有するポリマーとエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを反応させる方法、水酸基を有するポリマーとイソシアネート基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを反応させる方法、酸無水物基を有するポリマーと(メタ)アクリル酸とを反応させる方法等により形成できる。これらの方法のうち、カルボキシ基を有するポリマーとエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを反応させる方法が好ましい。
【0106】
上記水酸基を含む構造単位は、例えば水酸基含有不飽和化合物をモノマーとして用いて、適宜他のモノマーと共にラジカル重合することにより形成できる。上記水酸基含有不飽和化合物としては、例えばアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、フェノール性水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0107】
上記アルコール性水酸基を有するアクリル酸エステルとしては、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル等が挙げられる。
上記アルコール性水酸基を有するメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸3-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸5-ヒドロキシペンチル、メタクリル酸6-ヒドロキシヘキシル等が挙げられる。
【0108】
上記フェノール性水酸基を有するアクリル酸エステルとしては、アクリル酸2-ヒドロキシフェニル、アクリル酸4-ヒドロキシフェニル等が挙げられる。
上記フェノール性水酸基を有するメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸2-ヒドロキシフェニル、メタクリル酸4-ヒドロキシフェニル等が挙げられる。
【0109】
上記ヒドロキシスチレンとしては、o-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、α-メチル-p-ヒドロキシスチレン等が挙げられる。
これらの水酸基含有不飽和化合物のうち、重合性の観点から、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びα-メチル-p-ヒドロキシスチレンが好ましい。
【0110】
これらの水酸基含有不飽和化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0111】
上記その他の構造単位を与えるモノマーとしては、例えばメタクリル酸鎖状アルキルエステル、メタクリル酸環状アルキルエステル、アクリル酸鎖状アルキルエステル、アクリル酸環状アルキルエステル、メタクリル酸アリールエステル、アクリル酸アリールエステル、不飽和ジカルボン酸ジエステル、マレイミド化合物、不飽和芳香族化合物、共役ジエン、テトラヒドロフラン骨格を有する不飽和化合物、その他の不飽和化合物等が挙げられる。
【0112】
上記メタクリル酸鎖状アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸n-ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸n-ステアリル等が挙げられる。
【0113】
上記メタクリル酸アリールエステルとしては、例えばメタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0114】
上記アクリル酸アリールエステルとしては、例えばアクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0115】
上記マレイミド化合物としては、例えばN-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(4-ヒドロキシベンジル)マレイミド、N-スクシンイミジル-3-マレイミドベンゾエート等が挙げられる。
【0116】
上記不飽和芳香族化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン等が挙げられる。
【0117】
上記テトラヒドロフラン骨格を有する不飽和化合物としては、例えばメタクリル酸テトラヒドロフルフリル、2-メタクリロイルオキシ-プロピオン酸テトラヒドロフルフリルエステル、3-(メタ)アクリロイルオキシテトラヒドロフラン-2-オン等が挙げられる。
【0118】
上記その他の構造単位を与えるモノマーのうち、重合性の観点から、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n-ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル、p-メトキシスチレン、アクリル酸2-メチルシクロヘキシル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、及びメタクリル酸テトラヒドロフルフリルが好ましい。
【0119】
上記その他の構造単位を与えるモノマーは、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0120】
ポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限としては、1,000が好ましく、2,000がより好ましく、3,000がさらに好ましい。上記Mwの上限としては、30,000が好ましく、20,000がより好ましく、15,000がさらに好ましい。[a]ポリマーのMwを上記範囲とすることで、保存安定性及び感度をより向上させることができる。
【0121】
また、上記Mwと、[a]ポリマーの数平均分子量(Mn)との比、すなわち分子量分布(Mw/Mn)の下限としては、通常1であり、1.2が好ましく、1.5がより好ましい。上記Mw/Mnの上限としては、5が好ましく、4がより好ましく、3がさらに好ましい。[a]ポリマーのMw/Mnを上記範囲とすることで、保存安定性及び感度をより向上させることができる。
【0122】
なお、本明細書におけるMw及びMnは、下記の条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。
装置:例えば昭和電工社の「GPC-101」
カラム:例えば昭和電工社の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を連結したもの
移動相:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0123】
(ポリマーの合成方法)
ポリマーの合成方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば溶媒中で重合開始剤の存在下、上述したモノマーを重合反応させることによって合成できる。
【0124】
上記溶媒としては、例えばアルコール、グリコールエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート、その他のエステル、ケトン等が挙げられる。
【0125】
上記重合開始剤としては、一般的にラジカル重合開始剤として知られているものが使用できる。ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。
【0126】
〔[B]重合性化合物〕
[B]重合性化合物は、放射線照射や加熱等により重合する化合物であれば特に限定されないが、感度向上の観点から(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基又はこれらの組み合わせを有する化合物が好ましく、分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
【0127】
分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する[B]重合性化合物としては、例えばジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタアクリレート、トリペンタエリスリトールオクタアクリレート、テトラペンタエリスリトールノナアクリレート、テトラペンタエリスリトールデカアクリレート、ペンタペンタエリスリトールウンデカアクリレート、ペンタペンタエリスリトールドデカアクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタメタクリレート、トリペンタエリスリトールオクタメタクリレート、テトラペンタエリスリトールノナメタクリレート、テトラペンタエリスリトールデカメタクリレート、ペンタペンタエリスリトールウンデカメタクリレート、ペンタペンタエリスリトールドデカメタクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、(2-アクリロイルオキシプロポキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)-3、5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)-3、5-ジメチルフェニル]フルオレン等が挙げられる。
【0128】
[A]バインダーポリマー100質量部に対する[B]重合性化合物の含有量の下限としては、1質量部が好ましく、10質量部がより好ましく、20質量部がさらに好ましい。また、上記含有量の上限としては、200質量部が好ましく、150質量部がより好ましく、120質量部がさらに好ましい。上記含有量を上記範囲内とすることにより、保存安定性及び感度をより高めつつ、硬度がより高く、耐溶剤性により優れる硬化膜を形成できる。
【0129】
[C]感放射線性化合物としては、例えば感放射線性ラジカル重合開始剤、感放射線性酸発生剤、感放射線性塩基発生剤、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0130】
上記感放射線性ラジカル重合開始剤は、例えば[B]重合性化合物としてラジカル重合性の化合物を用いる場合、当該感放射線性樹脂組成物の放射線による硬化反応をより促進させることができる。
【0131】
上記感放射線性ラジカル重合開始剤としては、例えば可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等の放射線の露光により、[B]重合性化合物のラジカル重合反応を開始し得る活性種を発生することができる化合物等が挙げられる。
【0132】
上記感放射線性ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えばO-アシルオキシム化合物、α-アミノケトン化合物、α-ヒドロキシケトン化合物、アシルホスフィンオキシド化合物等が挙げられる。
【0133】
上記O-アシルオキシム化合物としては、例えば1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-アセタート、1-[9-エチル-6-ベンゾイル-9.H.-カルバゾール-3-イル]-オクタン-1-オンオキシム-O-アセテート、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、1-[9-n-ブチル-6-(2-エチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロピラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0134】
上記α-アミノケトン化合物としては、例えば2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0135】
上記α-ヒドロキシケトン化合物としては、例えば1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-i-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0136】
上記アシルホスフィンオキシド化合物としては、例えばジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0137】
上記感放射線性ラジカル重合開始剤としては、放射線による硬化反応をより促進させる観点から、O-アシルオキシム化合物、α-アミノケトン化合物及びアシルホスフィンオキシド化合物が好ましく、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン及びジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドがより好ましい。
【実施例】
【0138】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特記しない限り質量基準である。
【0139】
[重合体の酸価(mgKOH/g)の測定]
重合体の酸価は、JIS K 0070の「3.2電位差滴定法」に準じて測定した。具体的には、以下の手順に従い測定した。電位自動滴定装置(AT-510、京都電子工業株式会社製)を用いた。容量100mLのポリエチレン製ボトルに、重合体(A)を固形分量で約0.5g量り取り、メタノールを40mL入れ、良く攪拌した。上記ボトルに、KOH濃度が0.1mol/Lのエタノール溶液を滴下した。以下の計算式に基づき、重合体(A)の酸価を算出した。
計算式:酸価(mgKOH/g)=エタノール溶液の滴定量(mL)×濃度換算値5.611(mg/mL)/{試料(重合体(A))採取量(g)}
濃度換算値5.611(mg/mL)は、KOH濃度が0.1mol/Lのエタノール溶液1mL中に含まれる水酸化カリウム相当量を意味する。
【0140】
(1)重合体の合成・調製
[合成例1:重合体(A1)の合成]
反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を125部仕込み、80℃まで昇温した。この反応容器に、エチレン性不飽和単量体としてメタクリル酸を10部、ベンジルメタクリレートを43部、スチレンを13部、N-フェニルマレイミドを16部、n-ブチルメタクリレートを3部、及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートを15部と、重合開始剤としてアゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルを5部及び有機溶媒としてPGMEAを25部混合して得られた溶液とを、各々2時間かけて反応容器に滴下した。滴下後80℃で2時間加熱し、100℃で1時間加熱した。加熱後の混合溶液を23℃に冷却して、重合体(A1)を含む固形分濃度が40質量%のPGMEA溶液を得た。得られた重合体(A1)のMwは12000、酸価は94mgKOH/gであった。
【0141】
[合成例2:重合体(A2、A3)の合成]
表1に記載したとおりにエチレン性不飽和単量体の種類及び配合量を変更したこと以外は合成例1と同様にして、重合体(A2、A3)を合成した。
【0142】
[調製例1:重合体(A4)の調製]
酸変性エポキシアクリレート樹脂のPGME溶液であるKAYARAD CCR-1235(日本化薬(株)製、クレゾールノボラック型)は、固形分62質量%の製品である。CCR-1235を100部計量し、そこにPGMEを24部添加攪拌した。このようにして固形分濃度が50質量%の酸変性エポキシアクリレート樹脂(A4)の溶液を得た。
【0143】
[合成例3:重合体(A5)の合成(ポリイミド前駆体)]
3つ口フラスコに重合溶剤としてγ-ブチロラクトン(γ-BL)390gを加えた後、ジアミン化合物として2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン120gを重合溶剤中に加えた。ジアミン化合物を重合溶剤に溶解させた後、酸二無水物として4,4’-オキシジフタル酸二無水物71gを加えた。その後、60℃で1時間反応させた後、末端封止剤としての無水マレイン酸19gを加えた。60℃でさらに1時間反応させた後、昇温して180℃で4時間反応させることで、重合体(A5)を含む固形分濃度が35質量%のγ-BL溶液を約600g得た。得られた重合体(A5)のMwは8000であった。本合成により得られた、ポリイミド前駆体を含む溶液を基板上に塗布し、得られた塗膜を加熱することでポリイミドとなる。
【0144】
[合成例4:重合体(A6)の合成(ポリベンゾオキサゾール前駆体)]
ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸1モルと1-ヒドロキシベンゾトリアゾール2モルとを反応させて得られたジカルボン酸誘導体443.2g(0.90モル)と、ヘキサフルオロ-2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン366.3部(1.00モル)とを、温度計、攪拌機、原料投入口及び乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに入れ、そこにN-メチル-2-ピロリドン3000部を加えて溶解させた。その後オイルバスを用いて75℃にて16時間反応させた。16時間反応後、N-メチル-2-ピロリドン100部に溶解させた5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物32.8部(0.20モル)を加え、さらに3時間攪拌し反応を終了した。反応混合物をろ過した後、ろ物を水/イソプロパノール=3/1(質量比)の溶液に投入することで生じた沈殿物を濾集し、水で充分洗浄した後、真空下で乾燥することで、ポリベンゾオキサゾール前駆体(重合体(A6))を得た。重合体(A6)濃度が35質量%となるようにγ-BLを加えて、重合体(A6)のγ-BL溶液を得た。得られた重合体(A6)のMwは15000であった。本合成により得られた、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む溶液を基板上に塗布し、得られた塗膜を加熱することでポリベンゾオキサゾールとなる。
【0145】
[合成例5:重合体(A7)の合成(ポリシロキサン)]
500mLの三つ口フラスコに、メチルトリメトキシシランを63.39部(0.55mol)、フェニルトリメトキシシランを69.41部(0.35mol)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを24.64部(0.1mol)及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を150.36部仕込み、室温で攪拌しながら、水55.8部にリン酸0.338部(仕込みモノマーに対して0.2質量%)を溶かしたリン酸水溶液を10分かけて添加した。その後、フラスコを70℃のオイルバスに浸けて1時間攪拌した後、オイルバスを30分かけて115℃まで昇温した。昇温開始1時間後にフラスコの内温を100℃まで昇温させ、そこから2時間加熱攪拌した(フラスコの内温は100~110℃)。反応中に副生成物であるメタノール及び水が合計115部留出した。得られた重合体(A7)のPGME溶液に、重合体(A7)濃度が35質量%となるようにPGMEを加えて、重合体(A7)のPGME溶液を得た。得られた重合体(A7)のMwは5000であり、Si原子100モルに対するフェニル基含有量は35モルであった。
【0146】
なお、重合体(A7)中のフェニル基の含有量は、「JNM-ECS400」(日本電子(株)製)を用いて29Si-核磁気共鳴スペクトルを測定し、そのフェニル基が結合したSiのピーク面積とフェニル基が結合していないSiのピーク面積との比から求めた。
【0147】
[合成例6:重合体(A8)の合成(ポリオレフィン)]
窒素置換した1000mLオートクレーブに、8-カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン60部、N-フェニル-(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド)40部、1,5-ヘキサジエン2.8部、(1,3-ジメシチルイミダゾリジン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.05部及びPGMEA400部を仕込み、撹拌下に80℃で2時間重合反応を行って、重合体(A8’)を含有する重合体溶液を得た。
【0148】
この重合体溶液に、水素添加触媒としてビス(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチレンルテニウムジクロリド0.1部を加え、水素を4MPaの圧力で5時間吹き込み、水素添加反応を進行させたのち、活性炭粉末1部を添加し、撹拌しつつ150℃で水素を4MPaの圧力で3時間吹き込んだ。次いで、孔径0.2μmのフッ素樹脂製フィルタでろ過して活性炭を分離することで、重合体(A8’)の水素化物である重合体(A8)を含有する水素添加反応溶液490部を得た。ここで得られた重合体(A8)を含有する水素添加反応溶液の固形分濃度は21質量%であり、重合体(A8)の収量は102部であった。得られた重合体(A8)の水素添加反応溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、固形分濃度を35質量%に調整して、重合体(A8)の溶液を得た。得られた重合体(A8)のMwは4000であった。
【0149】
[調製例2:重合体(A9)の調製(カルド樹脂)]
エチレン性不飽和基及びカルボキシル基を含有するカルド樹脂のPGMEA溶液である(株)ADEKA社製「WR-301(商品名)」は、固形分濃度45質量%、Mwが5,500の製品である。WR-301を100部計量し、そこにPGMEAを28.57部添加攪拌した。このようにして固形分濃度が35質量%のカルド樹脂(A9)の溶液を得た。
【0150】
[合成例7:重合体(A10)の合成(ノボラック樹脂)]
温度計、冷却管、分留管及び撹拌器を取り付けたフラスコに、フェノール94.1g(1.0モル)、メチルイソブチルケトン400g、水96g及び92質量%パラホルムアルデヒド32.6g(ホルムアルデヒド換算で1.0モル)を仕込んだ。そこに、攪拌しながらパラトルエンスルホン酸3.4gを加えた。その後、100℃で8時間反応させた。反応終了後に純水200gを加え、系内の溶液を分液ロートに移して水層を分離除去した。次いで、有機層を洗浄水が中性を示すまで水洗後、有機層から溶媒を加熱減圧下に除去し、ノボラック樹脂(重合体(A10))を140g得た。得られた重合体(A10)のMwは2000であった。得られた重合体(A10)とPGMEAとを用いて固形分濃度35質量%の重合体(A10)の溶液を得た。
【0151】
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)による測定チャートから、原料と比較してメチレン結合による伸縮由来の吸収(2800~3000cm-1)が確認でき、さらに、芳香族エーテル由来の吸収(1000~1200cm-1)は発見できなかった。これらの結果により、本合成例では水酸基同士の脱水エーテル化反応(水酸基が消失)は生じず、メチレン結合を有するノボラック樹脂が得られたと同定できる。
【0152】
【0153】
(2)有機構造体形成用の感放射線性樹脂組成物の調製
前記合成例1で得られた重合体(A1))の溶液を重合体(A1)換算で50部、前記合成例3で得られた重合体(A4))の溶液を重合体(A4)換算で50部、架橋剤(B)100部、光開始剤(C1)1部、密着助剤(D)5部及び界面活性剤(E)1部を混合することで、溶液である感放射線性樹脂組成物(以下、「組成物1」等ともいう。)を得た。
【0154】
同様に下記表2に示す組成で、各成分を混合することにより、組成物2~14を得た。組成物2~14でも、該組成物中の重合体の量が下記表2の量となるように前記で得られた重合体溶液を用いた。なお、表2中の各成分の詳細は下記のとおりである。
【0155】
【0156】
B成分:日本化薬社製KAYARAD DPHA-40H(10官能ウレタンアクリレート)
C成分
C-1:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(商品名 「Irgacure 819」,BASF社製)
C-2:エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)(商品名 「Irgacure
Oxe02」,BASF社製)
D成分:メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名 「XIAMETER OFS-6030 SILANE」,東レ・ダウコーニング(株)製)
E成分:フッ素系界面活性剤(商品名「FTX-218」,(株)ネオス製)
【0157】
(3)液晶配向剤に用いるポリアミック酸、ポリイミドの合成
[合成例8:ポリアミック酸の合成]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物21.288g(合成に使用したジアミンの全体量100モル部に対して98モル部)、並びにジアミン化合物としてコレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンを4.794g(同10モル部)、4-{4-[2-(4’-ペンチル-1,1’-ビシクロヘキシル)エチル]フェノキシ}ベンゼン-1,3-ジアミンを8.967g(同20モル部)、3,5-ジアミノ安息香酸を5.897g(同40モル部)、及び4-(4アミノフェノキシカルボニル)-1-(4-アミノフェニル)ピペリジンを9.052g(同30モル部)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)200gに溶解し、30℃で6時間反応を行った。次いで、反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。回収した沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧下40℃において15時間乾燥することにより、ポリアミック酸(以下、重合体(PA-1)とする。)を40g得た。得られた重合体(PA-1)をNMPにて25質量%となるように調製し、この溶液の粘度を測定したところ1410mPa・sであった。また、この重合体溶液を20℃において3日間静置したところ、ゲル化することはなく、保存安定性は良好であった。
【0158】
[合成例9:ポリイミドの合成]
合成例8で得られた重合体濃度が25質量%のポリアミック酸溶液に、NMPを250g加えた後、無水酢酸14.25g及びピリジン11.04gを加え、60℃で4時間反応させた。次いで、反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。回収した沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧下100℃で乾燥することにより、ポリイミド(以下、重合体(PI-1)とする。)を得た。得られたポリイミドのイミド化率は55%であった。また、重合体(PI-1)をNMPにて20質量%となるように調製し、この溶液の粘度を測定したところ461mPa・sであった。
【0159】
(4)液晶配向剤の調製
[調製例3]
重合体成分として、重合体(PI-1)に、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及びブチルセロソルブ(BC)を加え、固形分濃度が6質量%、各溶剤の質量比がNMP:BC=45:55となるように調製した。次いで、得られた重合体溶液を孔径0.2μmのフィルタでろ過し、液晶配向剤(A-1)を調製した。
【0160】
(5)有機構造体の形成
[実施例1]
100mm×100mm、厚み0.7mmのガラス基板(EHC社製)上に、表1に示す組成物1を塗布し、ホットプレートにて130℃で5分間加熱処理(プレベーク)し、高さ(
図3Aの上下方向に相当する方向の長さ)115~125μmの塗膜を形成した。形成した塗膜に、パターン化マスクを介して、マスクアライナー(MPA、(株)Canon製)を用い、表3に示す紫外線量を露光させた。露光後の塗膜を、水酸化テトラメチルアンモニウムを2.38質量%含有する水溶液に300秒間浸漬し(現像処理)、次いで、水洗処理を行った。その後、オーブンにて230℃で30分間加熱処理(ポストベーク)を行うことで、線幅100μm、格子間隔400μm、
図3Aに示す高さhが100μmの格子状の有機構造体を形成した。得られた有機構造体の高さ方向に沿った断面形状は、
図3Aに示すようにテーパ状であった。なお、本実施例における露光量の値としては、照射する紫外線を365nmに換算した時の光線量(mJ/cm
2)を用いた。
【0161】
[実施例2~12及び比較例1~2]
表3に示す組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、それぞれ有機構造体を形成した。
【0162】
[実施例13]
100mm×100mm、厚み0.7mmのガラス基板(EHC社製)を純水にて洗浄後、液晶配向剤(A-1)を、印刷法を用いて塗布し、仮焼成装置としてホットプレートを用い塗布面を80℃で1分間乾燥した。その後、180℃のオーブン内で20分間乾燥し、ガラス基板上に乾燥平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜を、レーヨン製の布を巻き付けたラビングロールを有するラビング装置を用いて、ロールの回転数400rpm、ステージの移動速度30mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmでラビング処理を行い、水洗を行った後、120℃のオーブン内で10分間乾燥し、配向膜製膜基板を得た。その後、実施例1と現像工程以外は同様にして、形成した配向膜上に格子状の有機構造体を形成した。なお、現像工程は、水酸化カリウムを0.05質量%含有する水溶液を用い、300秒間シャワーにて実施した。
【0163】
[比較例3]
100mm×100mm、厚み0.7mmのガラス基板(EHC社製)を純水にて洗浄後、液晶配向剤(A-1)を、印刷法を用いて塗布し、仮焼成装置としてホットプレートを用い塗布面を80℃で1分間乾燥した。その後、180℃のオーブン内で20分間乾燥し、ガラス基板上に乾燥平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜を、レーヨン製の布を巻き付けたラビングロールを有するラビング装置を用いて、ロールの回転数400rpm、ステージの移動速度30mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmでラビング処理を行い、120℃のオーブン内で10分間加熱し、配向膜製膜基板を得た。その後、有機構造体を形成する代わりに平均粒径が100μmのビーズスペーサー(積水化学社製)を液晶パネル用スペーサ粉体散布装置のドライ空気による気体搬送にて、基板上に散布した。以下では、散布したビーズスペーサーを評価対象とした。
【0164】
(6)評価
実施例及び比較例で得られた有機構造体及びビーズスペーサーを、以下の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0165】
(6-1)有機構造体の高さの面内均一性の評価
実施例及び比較例で得られた有機構造体及びビーズスペーサーの高さを電子顕微鏡にて観察し、それぞれの高さ(
図3Aの高さh又はビーズ直径)をSEM((株)日立ハイテクノロジーズ製、形式「S-4200」)で任意に20点し、計測したデータについて6σ(σ:標準偏差)を求めた。高さ均一性(面内バラツキ(6σ)が、0~10μmの場合を「良好」、10μmより大きい場合を「不良」として評価した。有機構造体の高さ均一性が悪いと場合、走査アンテナにおけるセルギャップが大きくずれる。セルギャップがずれると走査アンテナで受信する信号の波の位相を精度よく制御できず、走査アンテナとしての対象物の位置特定等に支障をきたし、アンテナ感度を低下させる原因になる。そのため、高さ均一性(面内バラツキ(6σ)が0~10μmの間にあれば、精度よくセルギャップが制御でき、走査アンテナ性能も良好になると判断できる。
【0166】
(6-2)現像残渣
現像して得られた格子パターン(ポストベーク前)を走査電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、形式「SU4200」)を用いて観察し、塗膜の未露光部分での溶け残りの有無を判断した。溶け残りが格子パターン内部に10箇所以上ある場合を「有」と判断し、溶け残りが1箇所以上10箇所未満の場合を「やや有」と判断し、溶け残りがない場合を「無」と判断した。
【0167】
(6-3)現像密着性
現像して得られた格子パターン(ポストベーク前)を走査電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、形式「SU4200」)を用いて観察し、格子パターンが全面の10%を超える範囲で剥離している場合を「剥離」と判断し、5~10%の範囲で剥離している場合を「やや剥離」と判断し、5%未満の範囲で剥離している場合または剥離していない場合を「無」と判断した。
【0168】
(6-4)パターン形状(最小径の変動比、%)
電極基板の表面から有機構造体の高さの10%及び90%のそれぞれの位置において基板の表面に平行な面と有機構造体とが交差してなすそれぞれの断面の最小径を求めた際、有機構造体の高さの90%の位置での最小径をDtop、有機構造体の高さの10%の位置での最小径をDbottomとそれぞれ定義し、最小径Dtop及びDbottomを走査電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、形式「S-4200」)で測定した。下記式で表されるDtopに対するDbottomの変動比が、±15%以内であった場合を「良好」、変動比が15%を下回ったか、又は15%を超えた場合を「不良」として評価した。
変動比(%)={(Dtop-Dbottom)/Dtop}×100
【0169】
(6-5)温度変化に伴う圧縮特性弾性回復率の変化
得られた有機構造体について、微小圧縮試験機(商品名FISCHER SCOPE HM―2000、(株)フィッシャー・インストルメンツ製)を用い、直径200μmの平面圧子により、負荷速度及び徐荷速度をともに7.5mN/秒として、150mNまでの荷重を負荷して5秒間保持したのち除荷して、負荷時の荷重-変形量曲線及び徐荷時の荷重-変形量曲線を作成した。このとき、負荷時の荷重150mNでの変形量と荷重5mNでの変形量との差をL1とし、除荷時の荷重150mNでの変形量と荷重5mNでの変形量との差をL2として、下記式により、弾性回復率を算出した。
弾性回復率(%)=(L2/L1)×100
【0170】
ここで、評価ステージに温度可変ステージを用い、ステージ温度-40℃、23℃、40℃にステージ温度を変化させ、弾性回復率を算出した。車、船等の移動体に走査アンテナが備え付けられる場合、走査アンテナの感度や精度は環境温度に左右されやすい。そのため、外気によって液晶の膨張、収縮に追随できるような構造体でなければならず、液晶温度変化に追随できないと低温発泡(セル内に空孔が生じる現象)が発生し、不良の原因となる。また、基板貼り合わせ時の圧縮変形でも有機構造体の高さにバラツキが生じ、セルギャップが不均一になる場合がある。-40℃から40℃の範囲において圧縮性能の変化が小さい場合、走査アンテナの有機構造体の材料としての圧縮特性が良好といえる。
【0171】
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明に係る実施形態は、例えば、移動体(例えば、船舶、航空機、自動車)に搭載される衛星通信や衛星放送用の走査アンテナ及びその製造に用いられる。
【符号の説明】
【0173】
1 :第1誘電体基板
3 :有機構造体
8a、8b :配向膜
10 :TFT
15 :パッチ電極
51 :第2誘電体基板
54 :誘電体層(空気層)
55 :スロット電極
57 :スロット
65 :反射導電板
101 :TFT基板
201 :スロット基板
301 :導波路
1000 :走査アンテナ
GD :ゲートドライバ
GL :ゲートバスライン
SD :ソースドライバ
SL :ソースバスライン
LC :液晶層
R1 :送受信領域
R2 :非送受信領域
h :有機構造体の高さ
Dtop :電極基板の表面から有機構造体の高さの90%の位置において電極基板の表面に平行な面と有機構造体とが交差してなす断面の最小径
Dbottom :電極基板の表面から有機構造体の高さの10%の位置において電極基板の表面に平行な面と有機構造体とが交差してなす断面の最小径
U :アンテナ単位、アンテナ単位領域