IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

特許7100833磁心コアとその製造方法、及びコイル部品
<>
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図1
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図2
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図3
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図4
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図5
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図6
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図7
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図8
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図9
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図10
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図11
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図12
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図13
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図14
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図15
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図16
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図17
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図18
  • 特許-磁心コアとその製造方法、及びコイル部品 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】磁心コアとその製造方法、及びコイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/20 20060101AFI20220707BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220707BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20220707BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220707BHJP
   B22F 9/02 20060101ALI20220707BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20220707BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20220707BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20220707BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220707BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20220707BHJP
【FI】
H01F1/20
B22F1/00 Y
B22F1/14 100
B22F3/00 B
B22F9/02 B
B22F9/04 C
B22F9/04 E
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/153 166
H01F27/255
H01F41/02 D
C22C45/02 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021503980
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007372
(87)【国際公開番号】W WO2020179535
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2019041454
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100117477
【弁理士】
【氏名又は名称】國弘 安俊
(72)【発明者】
【氏名】篠原 剛太
(72)【発明者】
【氏名】金川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】川口 肇
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 勇伍
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-005581(JP,A)
【文献】特開2019-021906(JP,A)
【文献】特開2006-202956(JP,A)
【文献】特開2009-164470(JP,A)
【文献】特開2017-022148(JP,A)
【文献】特開2018-195691(JP,A)
【文献】特開2016-039330(JP,A)
【文献】特開2013-067863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/20
B22F 1/00
B22F 1/14
B22F 3/00
B22F 9/02
B22F 9/04
H01F 1/153
H01F 27/255
H01F 41/02
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともFe成分を含有した金属薄帯の粉砕物からなる磁性体粉末と結合剤とを含有した複合材料で形成された磁心コアであって、
前記磁性体粉末は、扁平球状に形成されると共に、径方向の平均長さaと厚み方向の平均厚さbとの比率を示すアスペクト比a/bが1.8~6.8であり、角部が半径0.8μm~25μmの曲面状であり
かつ、前記磁性体粉末は、数量基準で50%以上にクラックが形成されていることを特徴とする磁心コア。
【請求項2】
前記磁性体粉末は、Feを主成分とすると共に、非晶質相とナノ結晶相とが混在していることを特徴とする請求項記載の磁心コア
【請求項3】
前記磁性体粉末は、平均粒径が、円相当径に換算して30~80μmであることを特徴とする請求項又は請求項記載の磁心コア
【請求項4】
前記結合剤は、シリコーン樹脂を主成分とする第1の結合剤と、該第1の結合剤に比べ高硬度の少なくとも1種以上の樹脂からなる第2の結合剤とを含み、
前記磁性体粉末が前記第1の結合剤で被覆される共に、前記第1の結合剤同士が前記第2の結合剤を介して接合されていることを特徴とする請求項乃至請求項のいずれかに載の磁心コア。
【請求項5】
前記第2の結合剤は、フェノール樹脂及びポリイミド樹脂のうちの少なくとも一方を含んでいることを特徴とする請求項記載の磁心コア。
【請求項6】
前記シリコーン樹脂は、メチルフェニル系であることを特徴とする請求項又は請求項記載の磁心コア。
【請求項7】
前記複合材料は、平均粒径が円相当径に換算して1~50μmのFeを主成分とする磁性金属材料からなる微粒子が前記磁性体粉末間に介在していることを特徴とする請求項乃至請求項のいずれかに記載の磁心コア。
【請求項8】
前記微粒子はアトマイズ粉であることを特徴とする請求項記載の磁心コア。
【請求項9】
磁性体粉末と結合剤とを含有した複合材料で形成された磁心コアの製造方法であって、
磁性体粉末作製工程と複合材料作製工程とを有し、
前記磁性体粉末作製工程は、少なくともFe成分を含有した金属薄帯を作製する工程と、前記金属薄帯を粉砕し粉砕物を作製する工程と、前記粉砕物に球状化処理を施し、径方向の平均長さaと厚み方向の平均厚さbとの比率を示すアスペクト比a/bが1.8~6.8であって角部が半径0.8μm~25μmの曲面状となるように形成されるように扁平球状の磁性体粉末を作製するす工程とを含み、
前記複合材料作製工程は、シリコーン樹脂を主成分とする第1の結合剤と前記磁性体粉末とを混合し、前記磁性体粉末を前記第1の結合剤で被覆する工程と、 前記第1の結合剤で被覆された磁性得体粉末と前記第1の結合剤よりも高硬度の少なくとも1種類以上の樹脂からなる第2の結合剤とを混合し、前記第1の結合剤同士を前記第2の結合剤を介して接合し、前記磁性体粉末と前記第1及び第2の結合剤とを含有した複合材料を作製する工程と、前記複合材料を加圧成形し、前記磁性体粉末が数量基準で50%以上にクラックが形成されるように磁心コアを作製する工程とを含むことを特徴とする磁心コアの製造方法。
【請求項10】
前記磁性体粉末作製工程は、前記金属薄帯に熱処理を施し、非晶質相にナノ結晶を析出させる工程を含むことを特徴とする請求項記載の磁心コアの製造方法。
【請求項11】
前記磁性体粉末作製工程は、前記球状化処理された前記粉砕物に熱処理を施すことを特徴とする請求項又は請求項10記載の磁心コアの製造方法。
【請求項12】
前記金属薄帯を作製する工程は、少なくともFe成分を含む所定の素原料を秤量し、調合する工程と、前記調合された調合物を加熱して溶融物を作製する工程と、前記溶融物を回転体上に噴出させて急冷凝固させ、金属薄帯を作製する工程とを含むことを特徴とする請求項乃至請求項11のいずれかに記載の磁心コアの製造方法。
【請求項13】
前記磁性体粉末と磁性金属材料からなる微粒子とを混合する工程を含むことを特徴とする請求項乃至請求項12のいずれかかに記載の磁心コアの製造方法。
【請求項14】
請求項乃至請求項のいずれかに記載の磁心コアとコイル導体とを備えていることを特徴とするコイル部品。
【請求項15】
前記コイル導体が前記磁心コアに巻回されていることを特徴とする請求項14記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁心コアとその製造方法、及びにコイル部品に関し、より詳しくは合金系の磁性体粉末を使用した磁心コアとその製造方法、及びこの磁心コアを使用したリアクトルやインダクタ等のコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体粉末、特に軟磁性特性に優れた非晶質合金類の磁性体粉末は、比透磁率や飽和磁束密度等の磁気特性が良好で高周波領域での使用に適していることから、近年、盛んに研究・開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、急速凝固方法(RSP)で製造されたFe系非晶質金属薄帯(金属リボン)を予備熱処理する段階;前記非晶質金属薄帯を粉砕して非晶質金属粉末を得る段階;前記非晶質金属粉末を分級した後、-100~+140mesh通過分:35~45%、-140~+200mesh通過分:55~65%からなる粒度分布を有する粉末を混合する段階;前記混合された非晶質金属粉末にバインダーを混合した後、コアを成形する段階;及び前記成形されたコアを焼鈍処理した後、前記コアを絶縁樹脂でコーティングする段階を含む非晶質軟磁性コアの製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、急速凝固法で製造された金属薄帯を粉砕することにより、高い組成均一性及び低い酸化度を有する非晶質金属粉末を得るようにし、この非晶質金属粉末を加圧成形し、大電流通電下でも良好な直流重畳特性を有する磁心コアを得ようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4274897号公報(請求項1、段落[0017]、[0018]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、金属薄帯を粉砕して非晶質の磁性体粉末を得ているものの、粉砕された磁性体粉末は、形状がいびつで尖鋭なエッジ部を有する。したがって、前記エッジ部同士が互いに接触した状態で加圧成形すると、斯かるエッジ部に磁束が集中し、このため直流重畳特性の劣化を招くおそれがある。
【0007】
また、金属薄帯に対し長時間に亙って外力を負荷し、機械加工することから、磁性体粉末には歪みが生じ易く、このため磁性体粉末の保磁力Hcが上昇し、ヒステリシス損が大きくなって磁気損失の増加を招くおそれがある。
【0008】
また、この種の磁性体粉末を使用した磁心コアでは、通常、磁性体粉末を絶縁性材料で被覆することにより絶縁性を確保しているが、磁性体粉末が尖鋭なエッジ部を有していることから、磁性体粉末を絶縁性材料で均一に被覆するのが困難となる。このため磁性体粉末間の絶縁性が不足して電流が漏れ易くなり、渦電流損の増加を招くことから、磁気損失が大きくなるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、磁気損失を低くすることができ、かつ良好な直流重畳特性を有する磁性体粉末を使用した磁心コアとその製造方法、及びこの磁心コアを使用したリアクトル等のコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
金属薄帯を粉砕して得られる磁性体粉末は、いびつで尖鋭なエッジ部を有するが、磁性体粉末が球状に近くなると、上述したいびつで尖鋭なエッジ部の形成が抑制されることから、磁束は特定部位に集中することなく球面上を略均一に拡散して流れ、これにより直流重畳特性の向上が可能になると考えられる。
【0011】
一方、金属薄帯に長時間外力を負荷し、磁性体粉末を過度に球状化すると、該磁性体粉末には大きな歪みが生じ、このため磁性体粉末の保磁力Hcが上昇してヒステリシス損が増加し、磁気損失の増加を招くおそれがある。
【0012】
そこで、本発明者らは、磁性体粉末の歪み形成を抑制しつつ磁束が略均一に拡散して流れるように、扁平球状粉を作製して鋭意研究を行ったところ、径方向の平均長さaと厚み方向の平均厚さbとの比率を示すアスペクト比a/bを1.8~6.8とし、角部が半径0.8μm~25μmの曲面状となるように形成することにより、低磁気損失で直流重畳特性が良好な磁心コアに好適な磁性体粉末を得ることができるという知見を得た。そして、数量基準で50%以上の磁性体粉末にクラックが形成されることにより、金属薄帯の粉砕時等に磁性体粉末に歪みが生じても、加圧成形時に歪みが解放される。また、クラックを有することにより磁性体粉末は高密度で充填されることとなり、より一層の直流重畳特性の向上及び低磁気損失が可能となることが分かった。
【0013】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る磁心コアは、少なくともFe成分を含有した金属薄帯の粉砕物からなる磁性体粉末と結合剤とを含有した複合材料で形成された磁心コアであって、前記磁性体粉末は、扁平球状に形成されると共に、径方向の平均長さaと厚み方向の平均厚さbとの比率を示すアスペクト比a/bが1.8~6.8であり、角部が半径0.8μm~25μmの曲面状であり、かつ、前記磁性体粉末は、数量基準で50%以上にクラックが形成されていることを特徴としている。
【0014】
このように磁性体粉末をアスペクト比a/b及び角部の形状を規定することにより、歪みが生じるのを抑制することができ、磁束は特定部位に集中することなく球面上を略均一に拡散して流れることから、低磁気損失と直流重畳特性の向上を両立させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の磁性体粉末は、Feを主成分とすると共に、非晶質相とナノ結晶相とが混在しているのが好ましい。
【0017】
これにより軟磁性特性が良好で低磁気損失かつ良好な機械的強度を有し、かつ比透磁率や磁束飽和密度等の磁気特性や直流重畳特性が良好な磁心コアを得ることができる。
【0018】
また、本発明の磁性体粉末は、平均粒径が、円相当径に換算して30~80μmであるのが好ましい。
【0019】
ここで、上記した平均粒径は、累積50%粒子径D50(メジアン径)をいう。
【0020】
また、本発明に係る磁心コアの製造方法は、磁性体粉末と結合剤とを含有した複合材料で形成された磁心コアの製造方法であって、磁性体粉末作製工程と複合材料作製工程とを有し、前記磁性体粉末作製工程は、少なくともFe成分を含有した金属薄帯を作製する工程と、前記金属薄帯を粉砕し粉砕物を作製する工程と、前記粉砕物に球状化処理を施し、径方向の平均長さaと厚み方向の平均厚さbとの比率を示すアスペクト比a/bが1.8~6.8であって角部が半径0.8μm~25μmの曲面状となるように形成されるように扁平球状の磁性体粉末を作製する工程とを含み、前記複合材料作製工程は、シリコーン樹脂を主成分とする第1の結合剤と前記磁性体粉末とを混合し、前記磁性体粉末を前記第1の結合剤で被覆する工程と、前記第1の結合剤で被覆された磁性体粉末と前記第1の結合剤よりも高硬度の少なくとも1種類以上の樹脂からなる第2の結合剤とを混合し、前記第1の結合剤同士を前記第2の結合剤を介して接合し、前記磁性体粉末と前記第1及び第2の結合剤とを含有した複合材料を作製する工程と、前記複合材料を加圧成形し、前記磁性体粉末が数量基準で50%以上にクラックが形成されるように磁心コアを作製する工程とを含むことを特徴としている。
【0021】
これにより概ね所定サイズになるまで金属薄帯を粉砕し、その後の球状化処理で上記アスペクト比a/b及び角部が所定の曲面形状を有する磁性体粉末を作製することができ、低磁気損失で直流重畳特性の良好な磁性体粉末を低コストで効率良く得ることができる。
【0022】
また、本発明の磁性体粉末の製造方法は、前記金属薄帯に熱処理を施し、非晶質相にナノ結晶を析出させる工程を含むのが好ましい。
【0023】
このように金属薄帯を熱処理して非晶質相にナノ結晶を析出させていることから、アトマイズ法で作製されたアトマイズ粉を熱処理してナノ結晶を析出する場合とは異なり、煩雑な温度制御が不要であり、直流重畳特性が良好で磁気損失が低い高品質の磁性体粉末を高効率で得ることができる。
【0024】
さらに、本発明の磁性体粉末の製造方法は、前記球状化処理された前記磁性体粉末に熱処理を施すのが好ましい。
【0025】
これにより球状化処理を含む金属薄帯の粉砕処理時に生じた歪みを効果的に除去することができ、より一層低磁気損失の磁性体粉末を得ることができる。
【0026】
また、本発明の磁性体粉末の製造方法は、前記金属薄帯を作製する工程が、少なくともFe成分を含む所定の素原料を秤量し、調合する工程と、前記調合された調合物を加熱して溶融物を作製する工程と、前記溶融物を回転体上に噴出させて急冷凝固させ、金属薄帯を作製する工程とを含むのが好ましい。
【0027】
このように単ロール急冷法で金属薄帯を作製し、該金属薄帯を粉砕することにより所望の磁性体粉末を高効率で得ることが可能となる。
【0028】
また、本発明に係る磁心コアは、上記いずれかに記載の磁性体粉末と結合剤とを含有した複合材料で形成されていることを特徴としている。
【0029】
これにより良好な直流重畳特性と共に、低磁気損失かつ機械的強度が良好な磁心コアを得ることができる。
【0030】
具体的には、前記結合剤は、シリコーン樹脂を主成分とする第1の結合剤と、該第1の結合剤に比べ高硬度の少なくとも1種以上の樹脂からなる第2の結合剤を含み、前記磁性体粉末が前記第1の結合剤で被覆される共に、前記第1の結合剤同士が前記第2の結合剤を介して接合されているのが好ましい。
【0031】
これにより磁性体粉末は絶縁性の良好なシリコーンを主成分とする第1の結合剤で被覆されることから、磁性体粉末から電気が漏れるのを抑制でき、渦電流損を低減でき、低磁気損失が可能となる。また、第1の結合剤で被覆された磁性体粉末同士が前記第1の結合剤よりも高硬度の第2の結合剤を介して接合されることから、高硬度の第2の結合剤により機械的強度が改善され、大きな外力が負荷されても破損するのを抑制することができる。
【0032】
また、本発明の磁心コアは、前記第2の結合剤が、フェノール樹脂及びポリイミド樹脂のうちの少なくとも一方を含んでいるのが好ましい。
【0033】
また、本発明の磁心コアは、前記シリコーン樹脂が、メチルフェニル系であるのが好ましい。
【0034】
すなわち、メチルフェニル系のシリコーン樹脂は、成形時の収縮率が小さいことから、成形時に磁性体粉末に歪みが生じるのを抑制でき、高温での熱処理を要することもなくヒステリシス損の上昇を抑制することができることから、磁心コアの低磁気損失化に寄与することができる。
【0035】
また、本発明の磁心コアでは、磁性体粉末は、数量基準で50%以上にクラックが形成されているのが好ましい。
【0036】
このように数量基準で50%以上の磁性体粉末にクラックが形成されることにより、金属薄帯の粉砕時等に磁性体粉末に歪みが生じても、加圧成形時に歪みが解放される。また、クラックを有することにより磁性体粉末は高密度で充填されることとなり、より一層の直流重畳特性の向上及び低磁気損失が可能となる。
【0037】
さらに、本発明の磁心コアでは、前記複合材料は、平均粒径が円相当径に換算して1~50μmのFeを主成分とする磁性金属材料からなる微粒子を含有しているのが好ましく、前記微粒子はアトマイズ粉であるのが好ましい。
【0038】
ここで、平均粒径は、累積50%粒子径D50(メジアン径)をいう。
【0039】
これにより磁性体粉末同士の隙間に磁性金属材料からなる微粒子が充填されることから、透磁率や直流重畳特性の更なる向上が可能となる。
【0042】
さらに、本発明の磁心コアの製造方法は、前記磁性体粉末と磁性金属材料からなる微粒子とを混合する工程を含むのも好ましい。
【0043】
これにより前記微粒子は磁性体粉末間の間隙に容易に充填されることから、各種磁気特性がより一層向上した磁心コアを得ることができる。
【0044】
また、本発明に係るコイル部品は、上記いずれかに記載の磁心コアとコイル導体とを備えていることを特徴としている。
【0045】
また、本発明のコイル部品は、前記コイル導体が前記磁心コアに巻回されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0046】
本発明の磁心コアによれば、少なくともFe成分を含有した金属薄帯の粉砕物からなる磁性体粉末と結合剤とを含有した複合材料で形成された磁心コアであって、前記磁性体粉末は、扁平球状に形成されると共に、径方向の平均長さaと厚み方向の平均厚さbとの比率を示すアスペクト比a/bが1.8~6.8であり、角部が半径0.8μm~25μmの曲面状であり、かつ、前記磁性体粉末は、数量基準で50%以上にクラックが形成されているので、磁性体粉末をアスペクト比a/b及び角部の形状を規定することにより、歪みが生じるのを抑制することができ、かつ磁束は特定部位に集中することなく球面上を略均一に拡散して流れることから、低磁気損失と直流重畳特性の向上を両立させることが可能となる。しかも、数量基準で50%以上の磁性体粉末にクラックが形成されているので、金属薄帯の粉砕時等に磁性体粉末に歪みが生じても、加圧成形時に歪みが解放される。また、クラックを有することにより磁性体粉末は高密度で充填されることとなり、機械的強度が良好でより一層の直流重畳特性の向上及び低磁気損失が可能となる。
【0047】
本発明の磁心コアの製造方法によれば、磁性体粉末と結合剤とを含有した複合材料で形成された磁心コアの製造方法であって、磁性体粉末作製工程と複合材料作製工程とを有し、前記磁性体粉末作製工程は、少なくともFe成分を含有した金属薄帯を作製する工程と、前記金属薄帯を粉砕し粉砕物を作製する工程と、前記粉砕物に球状化処理を施し、径方向の平均長さaと厚み方向の平均厚さbとの比率を示すアスペクト比a/bが1.8~6.8であって角部が半径0.8μm~25μmの曲面状となるように形成されるように扁平球状の磁性体粉末を作製するす工程とを含み、前記複合材料作製工程は、シリコーン樹脂を主成分とする第1の結合剤と前記磁性体粉末とを混合し、前記磁性体粉末を前記第1の結合剤で被覆する工程と、前記第1の結合剤で被覆された磁性体粉末と前記第1の結合剤よりも高硬度の少なくとも1種類以上の樹脂からなる第2の結合剤とを混合し、前記第1の結合剤同士を前記第2の結合剤を介して接合し、前記磁性体粉末と前記第1及び第2の結合剤とを含有した複合材料を作製する工程と、前記複合材料を加圧成形し、前記磁性体粉末が数量基準で50%以上にクラックが形成されるように磁心コアを作製する工程とを含むので、低磁気損失で直流重畳が良好な磁心コアを効率良く製造することができる。
【0050】
本発明のコイル部品によれば、上記いずれかに記載の磁心コアとコイル導体とを備えているので、良好な直流重畳特性と低磁気損失を有し、高周波領域の使用に適したリアクトル等のコイル部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明に係る磁性体粉末の粒子形状の一実施の形態を示す図であり、(a)は横断面図、(b)は縦断面図である。
図2】本発明に係る磁心コアの一実施の形態(第1の実施の形態)を示す斜視図である。
図3】上記磁心コアの要部詳細を示す縦断面図である。
図4】本発明に使用される金属薄帯の製造方法の一実施の形態を示す概略工程図である。
図5】本発明に係るコイル部品としてのリアクトルの一実施の形態を示す斜視図である。
図6】本発明に係る磁心コアの第2の実施の形態の要部詳細を示す縦断面図である。
図7】本発明に係る磁心コアの第3の実施の形態の要部詳細を示す縦断面図である。
図8】試料番号3における球状化処理後を電子走査顕微鏡(SEM)で撮像したSEM画像である。
図9】実施例1のRmaxと比透磁率との関係を示す図である。
図10】実施例1のRminと比透磁率との関係を示す図である。
図11】実施例1のRmaxとコア損失との関係を示す図である。
図12】実施例1のRminとコア損失との関係を示す図である。
図13】実施例1のアスペクト比a/bと比透磁率との関係を示す図である。
図14】実施例1のアスペクト比a/bとコア損失との関係を示す図である。
図15】実施例2のRmaxとコア損失との関係を示す図である。
図16】実施例2のRminとコア損失との関係を示す図である。
図17】実施例2のアスペクト比a/bとコア損失との関係を示す図である。
図18】実施例3で作製された試料番号21のSEM画像である。
図19】実施例4で作製された試料番号22のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0053】
図1は本発明に係る磁心コアに使用される磁性体粉末の粒子形状の一実施の形態を示す図であって、(a)は横断面図、(b)は縦断面図である。
【0054】
この図1の磁性体粉末では、説明の都合上、横断面形状を円形状とし、縦断面形状を4つの角部1aが丸味を帯びた一定の厚みとしているが、実際は、横断面形状は、略円形状乃至略楕円形状であって外周が微小凹凸を有しており、縦断面形状は、厚みが不均一でバラツキを有している。したがって、図1中、径方向の平均長さa及び厚み方向の平均厚みbは、各々長さ及び厚みの算術平均を示している。
【0055】
そして、この磁性体粉末1は、立体的には扁平球状に形成され、前記平均長さaと前記平均厚みbの比率を示すアスペクト比a/bが1.8~6.8であり、角部1aが半径R:0.8~25μmの曲面状に形成されている。
【0056】
この磁性体粉末1を使用することにより、直流重畳特性が良好で低磁気損失の磁心コアを実現することができる。すなわち、本磁心コアは、後述するように金属薄帯の粉砕物からなる磁性体粉末を使用して作製されるが、金属薄帯を単に粉砕したのみでは、磁性体粉末のエッジ部がいびつで尖鋭な形状となる。このため、磁性体粉末のエッジ部同士が接触した状態で成形処理を行うと、磁束が前記エッジ部に集中し、このため直流重畳特性が劣化するおそれがある。したがって、磁束のエッジ部への集中を避けるためには、磁性体粉末1を球形状に形成するのが好ましく、特に角部1aを曲面状に形成するのが好ましい。
【0057】
一方、金属薄帯に外力を負荷し、粉砕処理を含む機械加工を長時間行うと、球状化は進行するものの、磁性体粉末には大きな歪みが生じるおそれがある。斯かる歪みは機械加工後に高温で熱処理を行っても容易には除去することができず、この歪みに起因して磁性体粉末1の保磁力Hcが上昇し、その結果、ヒステリシス損が増加することから、磁気損失が大きくなる。
【0058】
そこで、本実施の形態では、磁性体粉末1のアスペクト比a/b、及び角部1aの半径Rを上述のように規定している。以下、その理由を述べる。
【0059】
(a)アスペクト比a/b
上述したように磁性体粉末1が球形状に近くなると、いびつで尖鋭なエッジ部が形成された磁性体粉末とは異なり、磁束は球面上を拡散しながら流れることから磁束集中を抑制することができ、直流重畳特性を改善することができる。そのためにはアスペクト比a/bを6.8以下とする必要がある。すなわち、アスペクト比a/bが6.8を超えると、径方向の平均長さaが相対的に大きくなり、厚み方向の平均厚みbが相対的に小さくなることから、磁性体粉末1は極端な扁平形状となり、角部1aの半径Rも小さくなって角部1aの曲面性が損なわれる。したがって、コイル部品に直流バイアス電流を通電した場合、磁束が角部1aに集中し、インダクタンスが低下して直流重畳特性の劣化を招くおそれがある。さらに、角部1aが尖鋭な形状を有することから、後述するように磁性体粉末1を結合剤で被覆しようとしても、磁性体粉末1を結合剤で均一に被覆するのが困難となり、絶縁不足が生じて磁気損失の増加を招くおそれがある。
【0060】
一方、アスペクト比a/bが1.8未満に球状化されると、金属薄帯に長時間外力が負荷されることから、加工処理後の磁性体粉末1には大きな歪みが形成され易く、その結果、保磁力Hcの上昇を招き、ヒステリシス損が増加し、この場合も磁気損失が大きくなる。
【0061】
そこで、本実施の形態では、アスペクト比a/bを1.8~6.8に規定している。
【0062】
(b)角部1aの半径R
低磁気損失を確保しつつ磁束集中が生じるのを避けるためには角部1aの半径Rも重要な因子となる。すなわち、角部1aの半径Rが0.8μm未満になると、角部1aの曲面性が損なわれることから、磁束が角部1aに集中し易くなってインダクタンスの低下を招き、直流重畳特性が劣化するおそれがある。さらに、角部1aが尖鋭な形状となることから、上述したように、磁性体粉末1を結合剤で被覆した場合に被覆膜の均一性が損なわれ、絶縁性が低下して磁気損失の増大を招くおそれがある。
【0063】
一方、角部1aの半径Rが25μmを超えると、磁性体粉末1の球状化が進むことからインダクタンスは良好で直流重畳特性は改善できるものの、球状化のための加工処理が長時間行われることから、この場合も磁性体粉末1には大きな歪みが生じ易くなり、磁性体粉末1の保磁力Hcが上昇し、ヒステリシス損が増加することから、磁気損失が大きくなる。
【0064】
そこで、本実施の形態では、角部1aの半径Rを0.8~25μmに規定している。
【0065】
また、上記磁性体粉末1は、後述する球状化処理後の状態で熱処理を施すのが好ましい。すなわち、上記磁性体粉末1は、上述したように金属薄帯に対し外力を負荷し、機械的に加工処理を行うことにより得られる。具体的には、磁性体粉末1は、金属薄帯を粉砕して得られることから、磁性体粉末1には歪みが形成され易い。そして、斯かる歪みは磁気損失の増加を招くことから、金属薄帯を粉砕して得られた磁性体粉末1に熱処理を施すのが好ましい。例えば、短時間で400℃程度に昇温させて短時間保持することにより、磁性体粉末1に形成された歪みを効率良く除去することができ、これにより保磁力Hcが低下し、ヒステリシス損を小さくできることから、より一層の磁気損失の低下が可能となる。
【0066】
尚、磁性体粉末1としては、Fe-Si系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金等の各種結晶質の合金粉末材料を使用することができるが、Feを主成分とし、軟磁性特性に優れた非晶質相とナノ結晶相とが混在したナノ結晶合金粉末を使用するのがより好ましい。
【0067】
ここで、上記主成分とは、Fe成分を磁性体粉末1中で60wt%以上、好ましくは80wt%以上含有していることをいう。
【0068】
このような磁性体粉末1としては、Fe、B、P、Cuを含有し、必要に応じてSi、Cを含むのが好ましく、例えば、Fe:71~86at%、B:5~15at%、P:1~10at%、Cu:0.1~1.3at%、Si:0~5at%、及びC:0~5at%(ただし、Fe、B、P、Cu、Si、及びCの各at%の総計は100)となるように配合された磁性体粉末を使用することができる。
【0069】
これにより非晶質相単相のみならず、非晶質相とナノ結晶質相とが混在していても、所望の磁気特性や直流重畳特性を確保でき、かつ低磁気損失で機械的強度の良好な磁心コアを得ることができる。
【0070】
磁性体粉末1の平均粒径D50は、特に限定されるものではないが、通常は円相当径に換算して30~80μm、より好ましくは30~60μmの磁性体粉末1を使用することができる。
【0071】
そして、この磁性体粉末1を使用することにより、直流重畳特性が良好で低磁気損失の磁心コアを得ることができ、さらに磁心コアを以下に示す態様とすることにより、機械的強度を改善することが可能となる。
【0072】
図2は、本発明に係る磁心コアの一実施の形態を示す斜視図であって、この磁心コア2は、長孔状の孔部2aを有するリング形状に形成されている。
【0073】
図3は、磁心コア2の要部詳細を示す縦断面図であって、本磁心コア2は、磁性体粉末1と2種類の結合剤(第1の結合剤3及び第2の結合剤4)とを含有した複合材料5で形成されている。
【0074】
第1の結合剤3は、主成分がシリコーン樹脂で形成されると共に、第2の結合剤4は、第1の結合剤3に比べ高硬度の樹脂材料で形成されている。そして、磁性体粉末1は第1の結合剤3で被覆されると共に、第1の結合剤3同士が、第2の結合剤4を介して接合されている。
【0075】
ここで、上記主成分とは、第1の結合剤3中、シリコーン樹脂を90wt%以上、好ましくは95wt%以上含んでいることをいう。
【0076】
これにより絶縁性が良好で磁気損失が大きくなるのを抑制でき、かつ機械的強度の良好な磁心コア2を得ることができる。すなわち、第1の結合剤3の主成分であるシリコーン樹脂は、絶縁性・接着性に優れており、磁性体粉末1の粒子表面にSi-O結合を有する強固な被膜を形成することができる。したがって、磁性体粉末1を第1の結合剤3で被覆することにより、磁性体粉末1から電流が漏れるのを抑制することができることから、渦電流損を抑制することができ、これにより磁気損失を低下させることが可能となる。そして、磁性体粉末1を被覆する第1の結合剤3同士を該第1の結合剤3よりも高硬度の第2の結合剤4を介して接合させることにより、圧環強度等の機械的強度を改善することができ、大きな外力が負荷されても破損するのを抑制することができる。
【0077】
ここで、第2の結合剤4としては、第1の結合剤3よりも高硬度であれば、特に限定されるものではなく、例えば、シリコーン樹脂(ロックウェル硬度:M80~90)よりも高硬度のフェノール樹脂(ロックウェル硬度:M124~128)やポリイミド樹脂(ロックウェル硬度:M110~120)単独で或いはこれらの混合物を使用することができる。
【0078】
シリコーン樹脂としては、特に限定されることものではないが、メチルフェニル系のシリコーン樹脂を好んで使用することができる。メチルフェニル系のシリコーン樹脂は、複合材料5を加圧成形する際に収縮率が0.1~0.2%と小さく、該加圧成形時に磁性体粉末1に歪みが生じるのを抑制することができる。これにより磁性体粉末1の保持力が上昇するのを抑制でき、ヒステリシス損の上昇を避けることができることから、磁気損失が大きくなるのを抑制することができる。
【0079】
第1の結合剤3の含有量は、他の特性に影響を与えることなく所望の絶縁性・接着性を確保できるのであれば特に限定されるものではなく、例えば、0.25~1wt%、好ましくは0.5~1wt%に設定される。第1の結合剤3の含有量が0.25wt%未満になると、第1の結合剤3の含有量が過少となって十分な絶縁性・接着性を確保することができなくなるおそれがある。一方、第1の結合剤3の含有量が1wt%を超えると、磁性体粉末1の含有量が相対的に減少して比透磁率の低下を招くおそれがある。
【0080】
また、第2の結合剤4の含有量も、他の特性に影響を与えることなく所望の機械的強度を確保できるのであれば特に限定されるものではなく、例えば、0.25~1wt%、好ましくは0.5~1wt%に設定される。第2の結合剤4の含有量が0.25wt%未満になると、第2の結合剤4の含有量が過少となって十分な機械的強度を確保することができなくなるおそれがある。一方、第2の結合剤3の含有量が1wt%を超えると、この場合も磁性体粉末1の含有量が相対的に減少して比透磁率の低下を招くおそれがある。
【0081】
また、第1及び第2の結合剤3、4の含有量総計も、絶縁性が良好で機械的強度が良好であれば特に限定されるものではないが、通常は、1~1.75wt%に設定される。第1及び第2の結合剤3、4の含有量総計が1wt%未満になると、第1の結合剤3及び第2の結合剤4のいずれかが、過少となって絶縁性及び/又は機械的強度の低下を招くおそれがある。一方、第1及び第2の結合剤3、4の含有量総計が1.75wt%を超えると、磁性体粉末1の含有量が相対的に減少することから、比透磁率や磁束飽和密度等の磁気特性の低下を招くおそれがある。
【0082】
また、上記実施の形態では、磁性体粉末1の粒子表面を第1の結合剤3で直接被覆しているが、磁性体粉末1を第1の結合剤3で被覆する前に磁性体粉末1の表面に10~200nm程度の絶縁性皮膜を形成するのも好ましく、これにより磁心コア2の絶縁性をより一層向上させることができる。この場合、絶縁性皮膜を形成する絶縁性材料としてはリン酸やSiを含有したものを好んで使用することができる。
【0083】
次に、上記磁心コアの製造方法を説明する。
【0084】
[金属薄帯の作製]
図4は、金属薄帯作製工程の一実施の形態を模式的に示す図であり、本実施の形態では、単ロール液体急冷法で金属薄帯を作製している。
【0085】
すなわち、この金属薄帯作製工程は、金属溶融物6が収容されるアルミナ等で形成された坩堝7と、該坩堝7の外周に配された誘導加熱コイル8と、矢印A方向に高速回転するCu等で形成されたロール(回転体)9と、矢印B方向に回転して金属薄帯10を巻き取る巻取部11とを備えている。
【0086】
そして、金属薄帯10は以下のようにして製造することができる。
【0087】
まず、素原料としてFe、B、P、Cu等のFe系金属磁性材料を形成する各元素単体又はこれら元素を含有した化合物を用意し、所定量秤量して調合し、高周波誘導加熱炉等を使用して融点以上に加熱し、その後冷却して母合金を得る。
【0088】
次に、この母合金を破砕した後坩堝7に投入する。そして、高周波電源を誘導加熱コイル8に印加し、坩堝7を加熱して母合金を溶融させ、金属溶融物6を作製する。
【0089】
次いで、金属溶融物6を坩堝7のノズル7aから噴出させて矢印A方向に高速回転しているロール9上に落下させる。これにより金属溶融物6はロール9で急冷凝固されて非晶質の金属薄帯10となり、矢印B方向に回転している巻取部11に巻き取られる。
【0090】
[磁性体粉末の作製]
金属薄帯10に400℃程度の温度で熱処理を施し、非晶質相にナノ結晶相を析出させ、ナノ結晶化薄帯を得る。そして、このナノ結晶化薄帯を粉砕することにより、高品質の磁性体粉末1を高効率で作製することができる。すなわち、コイル部品では直流重畳特性が良好で低磁気損失が要請される。このようなコイル部品に適した磁性体粉末として、非晶質相にナノ結晶相を析出させたナノ結晶合金粉末が知られている。そして、従来、この種のナノ結晶合金粉末は、アトマイズ法で作製された非晶質のアトマイズ粉を熱処理し、このアトマイズ粉にナノ結晶相を析出させていた。しかしながら、このような方法ではアトマイズ粉の熱処理温度を個別に高精度に制御しなければならず、品質にバラツキが生じ易く、生産性にも劣っていた。
【0091】
そこで、本実施の形態では、金属薄帯10を熱処理し、該金属薄帯10の非晶質相にナノ結晶相を析出させることにより、煩雑な温度制御等を要することもなく、高品質の磁性体粉末1を高効率で作製できるようにしている。
【0092】
以下、ナノ結晶を析出させた金属薄帯10、すなわちナノ結晶化薄帯から磁性体粉末1を作製する方法を詳述する。
【0093】
まず、このナノ結晶化薄帯をフェザーミル(登録商標)等の粗粉砕機で粗粉砕し、その後、ピンミル等の衝撃式微粉砕機で概ねの所定サイズになるまで微粉砕する。次いでアトライター(登録商標)等のメディア撹拌型乾式粉砕機を使用して球状化処理を施し、角部1aを曲面状に機械加工し、平均粒径D50が円相当径に換算して30~80μm、アスペクト比a/bが1.8~6.8、半径Rが0.8~25μmの曲面状の角部1aを有する磁性体粉末1を作製する。
【0094】
尚、ナノ結晶化薄帯には外力が長時間負荷されることから、作製された磁性体粉末1には歪みが生じるおそれがあり、斯かる歪みの除去を目的として、上述したように球状化処理された磁性体粉末1に熱処理を施すのも好ましい。すなわち、例えば、短時間で450℃程度に昇温させて短時間保持することにより、磁性体粉末1に形成された歪みを効率良く除去することができ、保磁力Hcが低下してヒステリシス損を抑制できることから、より一層の磁気損失の低下が可能となる。
【0095】
[磁心コアの作製]
シリコーン樹脂、好ましくはメチルフェニル系のシリコーン樹脂を主成分とする第1の結合剤3を用意する。次いで複合材料(磁性体粉末1、第1及び第2の結合剤3、4)中の第1の結合剤3の含有量が、好ましくは0.25~1.0wt%、より好ましくは0.5~1.0wt%となるように該第1の結合剤3を上述した磁性体粉末1に添加し、さらにアセトン等の溶剤を所定量添加し混合する。そして、溶剤を蒸発除去し、磁性体粉末1の表面を第1の結合剤3で被覆する。
【0096】
次に、フェノール樹脂やポリイミド樹脂等の第1の結合剤3よりも高硬度の第2の結合剤4を用意する。次いで、複合材料(磁性体粉末1、第1及び第2の結合剤3、4)中の第2の結合剤4の含有量が、好ましくは0.25~1.0wt%、より好ましくは0.5~1.0wt%となり、第1及び第2の結合剤3、4の含有量総計が、好ましくは1~1,75wt%となるように第1の結合剤3で被覆された磁性体粉末1に第2の結合剤4を添加し、さらにアセトン等の溶剤を所定量添加し混合する。そして、溶剤を蒸発除去し、第1の結合剤3同士を第2の結合剤4を介して接合し、これにより磁性体粉末1と第1及び第2の結合剤3、4とからなる複合材料5を得る。
【0097】
次いで、金型のキャビティに前記複合材料5を流し込み、100MPa程度に加圧してプレス加工を行い、これにより成形体を作製する。
【0098】
その後、金型から成形体を取り出し、成形体を120~150℃の温度で24時間程度、熱処理を施して第1及び第2の結合剤3、4を硬化させ、これにより磁心コア2を作製する。
【0099】
尚、上記実施の形態では、磁性体粉末1を第1の結合剤3で被覆する工程で溶剤を蒸発除去しているが、溶剤を除去することなくそのまま第2の結合剤4を添加し、その後溶剤を蒸発除去させて複合材料5を作製してもよい。
【0100】
また、絶縁性の更なる向上を図る観点から、上述したように磁性体粉末1を第1の結合剤3で被覆する前に磁性体粉末1の表面に絶縁性皮膜を形成するのも好ましく、その場合は、リン酸やSiを含有した絶縁性材料を使用し、ゾルーゲル法やメカノケミカル法等の公知の方法で容易に絶縁性皮膜を形成することができる。
【0101】
図5は、本発明に係るコイル部品の一実施の形態としてのリアクトルを示す斜視図であって、このリアクトルは、コイル導体14が磁心コア2に巻回されている。
【0102】
すなわち、長孔状の磁心コア2は、互いに平行な2つの長辺部20a、20bを有している。そして、コイル導体14は、一方の長辺部20aに巻回された第1のコイル導体(一次巻線)14aと、他方の長辺部20bに巻回された第2のコイル導体(二次巻線)14bと、第1のコイル導体14aと第2のコイル導体14bとを連接する連接部14cと有し、これらが一体的に形成されている。具体的には、このコイル導体14は、銅等からなる平角形状の一本のワイヤ導線がポリエステル樹脂やポリアミドイミド樹脂等の絶縁性樹脂で被覆され、磁心コア2の一方の長辺部20a及び他方の長辺部20bにコイル状に巻回されている。
【0103】
このように本リアクトルは、磁心コア2にコイル導体14が巻回されているので、高飽和磁束密度と低磁気損失を有し、機械的強度も良好かつ強磁性でヒステリシス損の小さい良好な軟磁気特性を有する高純度で高品質のリアクトルを高効率で得ることができる。
【0104】
図6は本発明に係る磁心コアの第2の実施の形態の要部詳細を示す縦断面図である。
【0105】
本第2の実施の形態は、第1の実施の形態と同様、磁性体粉末21の表面がシリコーンを主成分とする第1の結合剤22で被覆されると共に、第1の結合剤22同士が該第1の結合剤22よりも高硬度のフェノール樹脂等の第2の結合剤23を介して接合されている。磁性体粉末21、第1及び第2の結合剤22、23で複合材料24を形成すると共に、磁性体粉末21は、数量基準で50%以上にクラック25が形成されている。そして、クラック25には、第1の結合剤22が充填されている。
【0106】
このように磁性体粉末21にクラック25が形成されることにより、ナノ結晶化薄帯の粉砕時や成形加工時に生じ得る歪みが、前記クラック25によって解放されることとなり、歪みに起因した磁気損失の増加を効果的に抑制することが可能となる。しかも、クラック25の形成により、磁性体粉末21の充填密度が向上し、より一層の直流重畳特性の向上や低磁気損失化が可能となる。
【0107】
本第2の実施の形態に係る磁心コアは以下の方法で作製することができる。
【0108】
すなわち、上述した第1の実施の形態と同様の方法・手順で、金属薄帯を熱処理し、ナノ結晶化薄帯を作製し、該ナノ結晶化薄帯を粉砕して磁性体粉末21を作製する。
【0109】
次いで、この磁性体粉末21を400~450℃程度の温度で熱処理し、磁性体粉末21の硬度を高めて該磁性体粉末21を脆化させる。
【0110】
その後、上述と同様の方法・手順で、磁性体粉末21の表面を第1の結合剤22で被覆し、さらに第1の結合剤22同士を第2の結合剤23を介して接合し、複合材料24を作製する。
【0111】
次いで、この複合材料24を金型のキャビティに流し込んで加圧成形を行う。この加圧成形によって脆化した磁性体粉末21にはクラック25が形成され、該クラック25には、第1の結合剤22が充填される。そして、これを金型から取出し、これにより数量基準で50%以上の磁性体粉末21にクラック25が形成された本第2の実施の形態の磁心コアが作製される。
【0112】
図7は本発明に係る磁心コアの第3の実施の形態の要部詳細を示す縦断面図である。
【0113】
本第3の実施の形態は、磁性体粉末31間の間隙に平均粒径D50が1~50μmの微粒子35が充填されている。この微粒子35は、磁性体粉末31と同様、Feを主成分とする磁性体金属材料で形成されている。そして、第1及び第2の実施の形態と同様、磁性体粉末31の表面がシリコーンを主成分とする第1の結合剤32で被覆されると共に、第1の結合剤32同士が該第1の結合剤32よりも高硬度のフェノール樹脂等の第2の結合剤33を介して接合されている。本第3の実施の形態では、磁性体粉末31、第1及び第2の結合剤32、33に加え微粒子35で複合材料34が形成されている。
【0114】
上記微粒子35の作製方法等は特に限定されるものではないが、好ましくはアトマイズ法で作製されたアトマイズ粉、より好ましくは水アトマイズ法で作製されたアトマイズ粉が使用される。水アトマイズ法は、ジェット流体に水を使用することから、ジェット流体に不活性ガスを使用するガスアトマイズ法とは異なり、高圧噴霧が可能であり、平均粒径D50の小さい粉末粒子の作製が可能であり、金属薄帯10から作製された磁性体粉末31間の間隙に微粒子35を効率よく充填することができる。
【0115】
このように磁心コア中に上述した微粒子35を含有させることにより、微粒子35は磁性体粉末31間の間隙に存在することから、より一層の直流重畳特性及び比透磁率の向上を図ることができる。
【0116】
そして、本第3の実施の形態に係る磁心コアは以下の方法で作製することができる。
【0117】
すなわち、上述した第1の実施の形態と同様の方法・手順で、金属薄帯10を熱処理し、ナノ結晶化薄帯を作製し、該ナノ結晶化薄帯を粉砕して磁性体粉末31を作製する。
【0118】
次に、Feを主成分とする磁性金属材料を用意し、好ましくはアトマイズ法、より好ましくは水アトマイズ法で微粒子35を作製する。
【0119】
次いで、上述と同様の方法・手順で磁性体粉末31と微粒子35とを混合し、次いで第1の結合剤32を溶剤下、添加して磁性体粉末31の表面を第1の結合剤32で被覆し、その後、第2の結合剤33を添加し、これにより第1の結合剤32同士を第2の結合剤33を介して接合する。
【0120】
その後、これを金型のキャビティに流し込んで加圧成形を行い、加圧成形後に金型から成形体を取出し、これにより本第3の実施の形態の磁心コアを作製することができる。
【0121】
この場合、磁性体粉末31と微粒子35とを混合する前に、磁性体粉末31に熱処理を施して磁性体粉末31の硬度を高めて脆化させるのも好ましい。これにより、第2の実施の形態と同様、加圧成形により磁性体粉末31中にはクラックが形成されることから、ナノ結晶化薄帯の粉砕時や成形加工時に生じる得る歪みが、前記クラックによって解放されることとなる。
【0122】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0123】
上記各実施の形態では、第2の結合剤4、23、33は第1の結合剤3、22、32の外表面に全面被覆するように形成されているが、第2の結合剤4、23、33は第1の結合剤3、22、32の全面が被覆されていなくてもよく、第2の結合剤4、23、33を介して第1の結合剤3、22、32同士が接合されていればよい。
【0124】
また、上記第2の実施の形態では、第1及び第2の結合剤22、23を添加する前に磁性体粉末21を熱処理し、磁性体粉末21の硬度を高めているが、熱処理条件を工夫することにより金属薄帯10の熱処理時に非晶質相にナノ結晶相を析出させると同時に硬度を高めるようにしてもよい。
【0125】
また、上記実施の形態では、磁性体粉末を使用したコイル部品としてリアクトルを例示したが、その他のコイル部品、例えばインダクタにも適用できるのはいうまでもない。
【0126】
さらに、本磁性体粉末を構成する元素種についても、非晶質形成能を有する元素、例えばGa、Ge、Pdを適宜添加してもよく、また、Mn、Al、N、Ti等の微量の不純物を含んでいても特性に影響を与えるものではない。
【0127】
また、上記実施の形態では、金属薄帯の製法について、高周波誘導加熱により調合物を加熱・溶解しているが、加熱・溶解方法は高周波誘導加熱に限定されるものではなく、例えばアーク溶解であってもよい。
【0128】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0129】
〔試料の作製〕
素原料としてFe、Si、B、FePを用意し、所定の組成となるように調合し、高周波誘導加熱炉で融点以上に加熱し溶解させ、次いで、この溶解物を銅製の鋳込み型に流し込んで冷却し、これにより母合金を作製した。
【0130】
次に、この母合金を5mm程度の大きさに破砕し、単ロール液体急冷装置の坩堝に投入し、高周波誘導加熱を行って母合金を溶解させ、金属溶融物を得た。
【0131】
次いで、この金属溶融物を坩堝の先端ノズルから噴出させ、高速回転しているロールに注いで急冷凝固させ、これにより金属薄帯を作製した。
【0132】
次いで、これを400℃の温度に調整された加熱炉に通過させ、熱処理を行って非晶質相にナノ結晶相が析出した幅50mm、厚み20~30μmのナノ結晶化薄帯を作製した。
【0133】
次いで、このナノ結晶化薄帯をフェザーミルで粗粉砕し、さらに概ねの所定サイズになるまでピンミルで微粉砕し、粉砕物を得た。そして、この粉砕物に対し乾式アトライターを使用して角部が曲面状となるように球状化処理を行い、これにより試料番号1~7の粉末試料を得た。
【0134】
次に、試料番号1~7の粉末試料各50個について、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用し、SEM画像を撮像した。
【0135】
図8は、試料番号3のSEM画像を示している。この図8に示すようなSEM画像から各試料の径方向の平均長さa及び厚み方向の平均厚みb、角部の半径Rを測定し、アスペクト比a/b、及び半径Rの最大値Rmax及び最小値Rminを求めた。
【0136】
次に、メチルフェニル系のシリコーン樹脂(第1の結合剤)を用意し、磁心コア中の含有量が0.75wt%となるようにシリコーン樹脂を秤量した。次いで、このシリコーン樹脂を粉末試料に添加し、所定量のアセトンを加えて混合した。その後、アセトンを蒸発除去し、粉末試料の表面にシリコーン樹脂を被覆させた。
【0137】
次に、フェノール樹脂(第2の結合剤)を用意し、磁心コア中の含有量が0.75wt%となるように該フェノール樹脂を秤量した。次いで、このフェノール樹脂をシリコーン樹脂で被覆された粉末試料に添加し、所定量のアセトンを加えて混合した。その後、アセトンを蒸発除去し、フェノール樹脂を介してシリコーン樹脂同士を接合し、試料番号1~7の複合材料を作製した。
【0138】
次いで、金型のキャビティに前記複合材料を流し込み、100MPa程度に加圧してプレス加工を行い、成形体を作製した。その後、金型から成形体を取り出し、成形体を120~150℃の温度で24時間程度、熱処理を施してシリコーン樹脂及びフェノール樹脂を硬化させ、これにより試料番号1~7のトロイダルコア型の試料(磁心コア)を作製した。作製された試料の外形寸法は、外径8mm、内径4mm、厚み2.5mmであった。
【0139】
[試料の評価]
(比透磁率の測定)
インダクタンスと比透磁率とは比例関係にあることから、本実施例では比透磁率を測定して直流重畳特性を評価した。
【0140】
すなわち、試料番号1~7の各試料3個について、インピーダンスアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、E4991A)を使用し、測定周波数1MHzで比透磁率を測定し、各試料3個の平均値を求めて直流重畳特性を評価した。
【0141】
(コア損失の測定)
試料番号1~7の各試料3個について、第1のコイル導体となる一次巻線を8ターン、第2のコイル導体となる二次巻線を8ターン巻回し、B-Hアナライザ (岩崎通信機社製、SY-8218)を使用し、測定周波数100kHzで100mTの磁界を印加してコア損失を測定し、各試料3個の平均値を求めた。
【0142】
(測定結果)
表1は、試料番号1~7の各試料のアスペクト比a/b、角部の半径Rの最大値Rmaxと最小値Rmin、比透磁率及びコア損失を示している。
【0143】
【表1】
【0144】
試料番号1~7から明らかなように、降順になるほど粉砕度や球状化処理が進行している。そして、試料番号1は、粉砕度や球状化処理が不十分であるため、アスペクト比a/bが7.5と大きく、Rmin値が0.3μmと極端に小さくなり、角部は尖鋭なエッジ状となった。その結果、比透磁率が30と小さく、コア損失も1250kW/mと大きかった。これは角部が尖鋭なエッジ状に形成されたことから、斯かる角部同士が接触した状態で加圧成形され、このため試料の角部に磁束が集中し、その結果、比透磁率が小さくなって直流重畳特性の劣化を招いたものと思われる。また、磁性体粉末をシリコーン樹脂で被覆しているものの、均一な被覆膜を得ることはできず、渦電流損が大きくなってコア損失も大きくなったものと思われる。
【0145】
一方、試料番号7は、粉砕度や球状化処理が過度に進行しているため、アスペクト比a/bが1.2と小さく、またRmax値が27μmと大きくなり、過度に球形に近付いている。そして、磁束は特定部位に集中を招くことなく球面上を拡散して流れることから、比透磁率は46と大きくなったが、コア損失は1700kW/mと大きくなった。これは球形化のために粉砕処理や球状化処理に長時間を要したことから、磁性体粉末に大きな歪みが生じ、このため保磁力Hcが大きくなってヒステリシス損が増加したため、コア損失が大きくなったものと思われる。
【0146】
これに対し試料番号2~6は、アスペクト比a/bが1.8~6.8であり、角部の半径Rが0.8~25μmであり、いずれも本発明範囲内であるので、過度に球形化することなく、磁束は曲面上を拡散すると共に、歪みが生じるのを抑制できることから、比透磁率は38~49と良好であり、コア損失も890~1120kW/mに抑制できることが分かった。
【0147】
図9はRmax値と比透磁率との関係を示す図である。図9中、横軸はRmax(μm)、縦軸は比透磁率(-)を示している。
【0148】
この図9から明らかなように、Rmaxが大きくなるのに伴い比透磁率も増加傾向にあるが、Rmaxが過度に大きくなると試料番号7に示すように低下する傾向になることが分かった。
【0149】
図10はRmin値と比透磁率との関係を示す図である。図10中、横軸はRmin(μm)、縦軸は比透磁率(-)を示している。
【0150】
この図10から明らかなように、Rmin値が1.5μm(試料番号4)程度まではRminの増加に伴い比透磁率も急激に増加するが、Rmin値が1.5μmを超えると漸減傾向になることが分かった。
【0151】
図11はRmax値とコア損失との関係を示す図である。図11中、横軸はRmax(μm)、縦軸はコア損失(kW/m)を示している。
【0152】
この図11から明らかなように、Rmax値が18μmまではコア損失が低下するが、Rmax値が18μmを超えるとコア損失は上昇に転じることが分かる。
【0153】
図12はRmin値とコア損失との関係を示す図である。図12中、横軸はRmin(μm)、縦軸はコア損失(kW/m)を示している。
【0154】
この図12から明らかなように、Rminが1.5μm程度まではRminの増加にともないコア損失も急激に減少するが、Rminが1.5μmを超えると増加傾向に転じることが分かる。
【0155】
図13はアスペクト比a/bと比透磁率との関係を示す図である。図13中、横軸はアスペクト比a/b、縦軸は比透磁率(-)を示している。
【0156】
この図13から明らかなように、アスペクト比a/bが1.2~2.5までは比透磁率は緩やかに増加するがアスペクト比a/bが2.5を超えると比透磁率は減少に転じることが分かる。
【0157】
図14はアスペクト比a/bとコア損失との関係を示す図である。図14中、横軸はアスペクト比a/b、縦軸はコア損失(kW/m)を示している。
【0158】
この図14から明らかなように、アスペクト比a/bが1.2~2.5まではコア損失は急激に低下するがアスペクト比a/bが2.5を超えるとコア損失は緩やかな増加に転じることが分かった。
【実施例2】
【0159】
実施例1で作製された試料番号1~7と同一のアスペクト比a/b及びRmax、Rminを有する作製し、球状化処理後に加熱炉に投入して熱処理を行った。具体的には、昇温速度1℃/分、最高温度400~425℃、保時時間60分という温度プロファイルで熱処理を行った。
【0160】
そしてその後は、上記実施例1と同様の方法・手順で、シリコーン樹脂及びフェノール樹脂を使用して複合材料を作製し、該複合材料を加圧成形して磁心コアを作製し、コイル導体を巻回して試料番号11~17の各試料を作製した。
【0161】
次いで、この試料番号11~17の試料各3個について、実施例1と同様の方法・手順でコア損失を測定し、その平均値を求めた。
【0162】
また、球状化処理後に熱処理を行わなかった実施例1の各試料のコア損失をA、球状化処理後に熱処理を行った対応する各試料のコア損失をBとし、数式(1)に基づいてコア損失の低減率α(%)を求めた。
【0163】
α={(A―B)/A}×100 …(1)
また、試料番号3及び13について、自動計測保磁力計(東北特殊鋼社製、K-HC1000)を使用し、保磁力を測定した。
【0164】
表2はその測定結果を示している。尚、この表2では、比較のため試料番号1~7のコア損失を再掲している。
【0165】
【表2】
【0166】
この表2から明らかなように、試料番号11~17は熱処理を行っていることから、熱処理を行わなかった試料番号1~7に比べてコア損失が40%以上低下することが分かった。
【0167】
また、試料番号3、13の対比から明らかなように、保磁力Hcは、球状化処理後に熱処理しなかった試料番号3の磁性体粉末は280A/mであったのに対し、球状化処理後に熱処理した試料番号13は磁性体粉末は100A/mに低下することが分かった。すなわち、球状化処理後に熱処理を行うことにより、磁性体粉末の保磁力Hcは大幅に低下し、これによりヒステリシス損が小さくなってコア損失が熱処理前の890kW/mから510kW/mに大幅に低減できることが分かった。
【0168】
図15~17は、本第2の実施例におけるRmax、Rmin、アスペクト比a/bとコア損失との関係を示す図である。図15~17中、横軸はそれぞれRmax(μm)、Rmin(μm)、アスペクト比a/b(-)を示し、縦軸はコア損失(kW/m)を示している。
【0169】
この図15~17と図11図12及び図14との対比から明らかなように、Rmax値、Rmin値、及びアスペクト比a/bとコア損失とは熱処理の有無に拘わらず同様の傾向があるが、球状化処理を行うことにより、歪みが除去された分、コア損失が大幅に低減することが分かった。
【実施例3】
【0170】
実施例1と同様の方法・手順により、ナノ結晶化薄帯を粉砕し、球状化処理を施し、アスペクト比a/bが5.4、Rmaxが16μm、Rminが1.0μmの磁性体粉末を作製し、次いで、シリコーン樹脂及びフェノール樹脂を使用して複合材料を作製した。
【0171】
次いで、この複合材料を400℃程度の温度で短時間保持させ、熱処理を行った。
【0172】
その後は実施例1と同様の方法・手順で、熱処理された複合材料を加圧成形し、試料番号21のトロイダルコア型試料(磁心コア)を作製した。
【0173】
そして、この試料番号21の試料について、周囲を樹脂で固め、環状部分を中心方向に研磨し、SEMを使用し、縦228μm、横300μmの視野領域で縦断面を観察した。
【0174】
図18は、そのSEM画像を示している。
【0175】
この図18から明らかなように、磁性体粉末51にはクラック52が形成されていることが確認された。これは加圧成形前に複合材料に熱処理を行ったことから、磁性体粉末51の硬度が高められ脆化したために成形加工時にクラック52が形成されたものと思われる。
【実施例4】
【0176】
実施例1と同様の方法・手順で磁性体粉末を作製した。
【0177】
次に、水アトマイズ法を適用して微粒子を作製した。
【0178】
すなわち、実施例1と同様の方法・手順でFe、Si、B、FeP等の素原料を出発材料として母合金を作製し、この母合金を5mm程度の大きさに破砕し、水アトマイズ装置の坩堝に投入し、高周波誘導加熱を行って母合金を溶解させ、溶湯を得た。次いで、10~80MPaの高圧水を前記溶湯に噴霧し、粉砕・急冷し、これにより平均粒径D50が円相当径に換算して1~50μmの微粒子を得た。
【0179】
次いで、磁性体粉末と微粒子とを混合した後、実施例1と同様の方法・手順でシリコーン樹脂及びフェノール樹脂を使用し、複合材料(磁性体粉末、微粒子、シリコーン樹脂及びフェノール樹脂)を作製した。
【0180】
次に、実施例3と同様の方法・手順で、この複合材料に熱処理を行い、その後、この熱処理された複合材料を加圧成形し、試料番号22のトロイダルコア型試料(磁心コア)を作製した。
【0181】
次に、実施例3と同様の方法・手順で、試料番号22の試料の縦断面を観察した。
【0182】
図19は、そのSEM画像を示している。
【0183】
この図19から明らかなように、磁性体粉末53間の間隙に微粒子54が充填されていることが確認された。したがって、これにより比透磁率や直流重畳特性等の磁気特性が更に向上するものと思われる。また、実施例3と同様(図18参照)、加圧成形前に熱処理を行っていることから、磁性体粉末53にはクラック55が形成されていることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0184】
直流重畳特性が良好で低磁気損失の磁性体粉末、磁心コア、及びこの磁心コアを使用したリアクトル等のコイル部品を実現することができる。
【符号の説明】
【0185】
1 磁性体粉末
1a 角部
2 磁心コア
3 第1の結合剤
4 第2の結合剤
5 複合材料
6 金属溶融物(溶融物)
10 金属薄帯
14 コイル導体
21 磁性体粉末
22 第1の結合剤
23 第2の結合剤
24 複合材料
25 クラック
31 磁性体粉末
32 第1の結合剤
33 第2の結合剤
34 複合材料
35 微粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19