(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】電力変換装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 5/293 20060101AFI20220707BHJP
H02J 3/18 20060101ALI20220707BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
H02M5/293 B
H02J3/18
H02M7/12 R
(21)【出願番号】P 2018124948
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-04-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人電気学会 電気学会研究会資料、第67頁~第72頁(SPC-16-38、MD-18-38)、平成30年1月19日発行 一般社団法人電気学会 半導体電力変換/モータドライブ合同研究会、平成30年1月20日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】597144439
【氏名又は名称】Mywayプラス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】徐 進
(72)【発明者】
【氏名】下里 昇
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 之彦
(72)【発明者】
【氏名】繁内 宏治
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-046450(JP,A)
【文献】国際公開第2014/020898(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/029975(WO,A1)
【文献】繁内 宏治,双方向絶縁型三相AC/DC DABコンバータの位相差とデューティ比の高速計算法,平成30年 電気学会全国大会講演論文集 一般講演4,2018年03月05日,p.195-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 5/293
H02J 3/18
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに磁気結合する第1及び第2のコイルを有するトランスと、
一端が直流電源の一端を構成する第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの一端を構成する第3のノードに接続された第1の片方向スイッチ素子、一端が前記直流電源の他端を構成する第6のノードに接続され、他端が前記第3のノードに接続された第2の片方向スイッチ素子、一端が前記第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの他端を構成する第4のノードに接続された第3の片方向スイッチ素子、及び、一端が前記第6のノードに接続され、他端が前記第4のノードに接続された第4の片方向スイッチ素子を有するAC/DCコンバータと、
一端が三相交流の第1相に対応する第7のノードに接続され、他端が前記第1のコイルの一端を構成する第1のノードに接続された第1の双方向スイッチ素子、一端が前記三相交流の第2相に対応する第8のノードに接続され、他端が前記第1のノードに接続された第2の双方向スイッチ素子、一端が前記三相交流の第3相に対応する第9のノードに接続され、他端が前記第1のノードに接続された第3の双方向スイッチ素子、一端が前記第7のノードに接続され、他端が前記第1のコイルの他端を構成する第2のノードに接続された第4の双方向スイッチ素子、一端が前記第8のノードに接続され、他端が前記第2のノードに接続された第5の双方向スイッチ素子、及び、一端が前記第9のノードに接続され、他端が前記第2のノードに接続された第6の双方向スイッチ素子を有するマトリックスコンバータと、
前記第1のノードと前記第1のコイルとの間に挿入されたリアクトルと、
を有する電力変換装置の制御装置であって、
前記第1及び第4の双方向スイッチ素子が同時にオンとなるモード、前記第2及び第5の双方向スイッチ素子が同時にオンとなるモード、及び、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなるモードのいずれか1つを各周期に1回以上実行するよう、前記マトリックスコンバータを第1の周期で周期的に制御し、
前記第1相の相電圧が前記第2相の相電圧より大きく、前記第2相の相電圧が前記第3相の相電圧より大きい場合に、前記各周期において、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第1のモードと、前記第1及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第2のモードと、前記第2及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第3のモードと、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第4のモードと、前記第3及び第4の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第5のモードと、前記第3及び第5の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第6のモードと、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第7のモードとをこの順で実行するよう構成され、
各周期の前半で前記第1及び第4の片方向スイッチ素子がオンとなり、各周期の後半で前記第2及び第3の片方向スイッチ素子をオンとなるよう、前記AC/DCコンバータを前記第1の周期で周期的に制御し、
前記リアクトルに流れる電流i
Lの前記第2のモードの開始タイミングにおける値をI
L0、前記電流i
Lの第1及び第4の片方向スイッチ素子がオンとなるタイミングにおける値をI
L3、前記第1のモードの継続時間をd
z/2、前記マトリックスコンバータの制御周期と前記AC/DCコンバータの制御周期の位相差をδとすると、前記d
zは、δ<d
z/2である場合に、-I
L0=I
L3とすることによって得られる前記d
zと前記δとの第1の関係に従って決定される
、
制御装置。
【請求項2】
前記d
zは、δ>d
z/2である場合に、前記第1の関係とd
z=2δとの交点(δ
1,d
z1)と、前記電流i
Lが最大になる点(δ
2,0)とを通る前記d
zと前記δとの第2の関係に従って決定される、
請求項
1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記d
z及び前記δは、前記第1及び第2の関係に基づく二分法により決定される、
請求項
2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換装置の制御装置に関し、特に、スイッチングによる転流を行う電力変換装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能電源の大量導入に向けた電力系統の安定化のために蓄電池を用いる場合、電力系統と蓄電池の間に電力変換装置を使用することが多くなっている。この種の電力変換装置としては、現在、三相単相マトリックスコンバータ(MC)を適用した高周波絶縁形AC/DCコンバータが注目されている(非特許文献1を参照)。これは双方向絶縁形AC/DCコンバータの一種であり、変換回数が少なく高効率化を達成できることや、電解コンデンサなしで構成でき、システムの小型化、長寿命化に有利であることから注目され、盛んに研究されている。
【0003】
非特許文献1には、三相単相マトリックスコンバータを適用した高周波絶縁形AC/DCコンバータの具体的な構成例として、三相単相マトリックスコンバータとフルブリッジ型のAC/DCコンバータとをトランスを挟んで相互に接続してなるMC式デュアルアクティブブリッジ(DAB)型双方向絶縁形AC/DCコンバータが開示されている。このMC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータは、トランスの漏れインダクタンスに起因するサージが発生しないことや、全半導体素子でソフトスイッチングが可能、大型の連系リアクトルが不要といった特徴があるため、小型化、高効率化、低コスト化などの観点で特に有利であると考えられている。MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータの具体的な制御方法としては、非特許文献1にも開示されているように、出力電力を位相シフト変調(PSM:Phase Shift Modulation)によって制御する一方、マトリックスコンバータの出力電圧をパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)によって制御し、その結果としてマトリックスコンバータの入力電流を正弦波状の波形に制御するという方法(以下、「PSM+PWM法」という)が用いられる。
【0004】
非特許文献2~6には、DC/DCコンバータに関して、広い電圧範囲で高効率運転を実現するための研究成果が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】繁内宏治、外4名、「マトリックスコンバータを適用した双方向絶縁形AC/DCコンバータの入力電流波形改善」、電気学会研究会資料、一般社団法人電気学会、2016年、Vol.SPC-16-153、p.25-30
【文献】F.Krismer、外2名、「広い動作電圧範囲を有する高電流デュアルアクティブブリッジの性能最適化(Performance Optimization of a High Current Dual Active Bridge with a Wide Operating Voltage Range)」、2006年第37回アメリカ電気電子工学会パワーエレクトロニクス専門家会議(Power Electronics Specialists Conference, 2006. PESC '06. 37th IEEE)、p.1-7
【文献】W.Choi、外2名、「広帯域動作のためのデュアルアクティブブリッジ型コンバータの基本デューティ変調(Fundamental Duty Modulation of Dual-Active-Bridge Converter for Wide-Range Operation)」、アメリカ電気電子工学会会報(IEEE Trans.)、2016年6月、Vol.31、No.6、p.4048-4064
【文献】A. K. Jain、外1名、「デュアルアクティブブリッジのPWM制御:包括的な分析及び実験的検証(PWM Control of Dual Active Bridge; Comprehensive Analysis and Experimental Verification)」、アメリカ電気電子工学会会報(IEEE Trans.)、2011年4月、Vol.26、No.4、p.1215-1227
【文献】G.G.Oggier、外2名、「ソフトスイッチングの下で全動作範囲においてデュアルアクティブブリッジDC/DCコンバータを動作させるための変調方法(Modulation Strategy to Operate the Dual Active Bridge DC-DC Converter Under Soft Switching in the Whole Operating Range)」、アメリカ電気電子工学会会報(IEEE Trans.)、2011年4月、Vol.26,No.4、p.1228-1236
【文献】H.Wen、外2名、「分散型電源用双方向絶縁型DC/DCコンバータにおける非アクティブ電力損失の最小化(Nonactive Power Loss Minimization in a Bidirectional Isolated DC-DC Converter for Distributed Power Systems)」、アメリカ電気電子工学会会報(IEEE Trans.)、2014年12月、Vol.61、No.12、p.6822-6831
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来のMC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータには、広い電圧範囲で運転する際に、力率が低下するとともに、スイッチング損失が増大するという課題がある。
【0007】
すなわち、上述したPSM+PWM法によれば、例えば二次側の電源電圧が低下したことによって一次側と二次側の電源電圧の比率が巻き数比と乖離した場合に、大きな循環電流がトランスを流れることになる。この循環電流は電力伝送に寄与しないため、力率が下がる。
【0008】
また、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータを構成する各半導体素子にはスナバキャパシタが並列に接続されており、これによりゼロ電圧スイッチング(ZVS:Zero Voltage Switching)が実現されているが、上記循環電流により電流の流れる向きが変化するとZVSが成立しなくなり、スイッチング損失が増大する。
【0009】
非特許文献2~6には、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータではなくDC/DCコンバータの例であるが、広い電圧範囲で高効率運転を実現するための技術が開示されている。
【0010】
具体的に説明すると、まず非特許文献2には、三角波状のトランス電流を用いるTRM(TRiangular current mode Modulation)という技術が開示されている。この技術によれば、DC/DCコンバータの循環電流を最小化することができるが、一方で、ZVSとゼロ電流スイッチング(ZCS:Zero Current Switching)が混在するという問題がある。なお、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータにおけるZCSのスイッチング損失低減効果は限定的である。これは、ZVSではないスイッチングの際には、半導体素子と並行に接続されているスナバキャパシタの充放電損失が発生するためである。したがって、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータにおいては、すべてのスイッチングにおいてZVSを実現することが望ましい。
【0011】
非特許文献3には、基本波を用いたFDM変調(Fundamental Duty Modulation)を用い、無効電力を最小化する変調法が開示されている。この方式は、あくまで基本波成分に限定した最小化を行うものであるため、非特許文献2に記載のTRMより循環電流は大きくなる。しかし、TRMと異なりすべてのスイッチングにおいてZVSが成立することから,多くの場合において、TRMより高効率になる。
【0012】
非特許文献4には、デュアルアクティブブリッジの動作として想定できる様々な動作についての包括的な検討の結果が開示されている。その中には、トランス電流の最大値や実効値、ZVSの成立範囲などの解析結果が含まれており、この解析結果に様々なパラメータを適用して最適化を行うことで最高効率の変調が実現される可能性があるが、解析結果に多くの場合分けと非線形性が含れているため、実装は困難であると考えられる。
【0013】
非特許文献2~4には、一次側と二次側の双方にゼロ電圧の期間を設けることが開示されている。これに対し、非特許文献5,6には、電圧の高い側の変換器のみにゼロ電圧の期間を設ける変調法が開示されている。特に非特許文献6では、ZVSの成立範囲を解析し、その範囲で無効電力を最小化するという方法が用いられている。
【0014】
しかしながら、非特許文献2~6に開示されている技術はいずれもDC/DCコンバータに関するものであり、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータの上記課題に関する記述はない。MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータには、(1)入力電流ひずみを低減するため、近似を用いないことが望ましい、(2)近似を用いないためには数値計算が必要であるが、計算コストのさらなる増加は望ましくない、という制約があるため、別のアプローチによる解決が必要とされていた。
【0015】
したがって、本発明の目的の一つは、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータを広い電圧範囲で運転する際に力率の低下を抑制できる電力変換装置の制御装置を提供することにある。
【0016】
また、本発明の目的の他の一つは、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータを広い電圧範囲で運転する際にスイッチング損失の増大を抑制できる電力変換装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の側面による電力変換装置の制御装置は、互いに磁気結合する第1及び第2のコイルを有するトランスと、一端が直流電源の一端を構成する第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの一端を構成する第3のノードに接続された第1の片方向スイッチ素子、一端が前記直流電源の他端を構成する第6のノードに接続され、他端が前記第3のノードに接続された第2の片方向スイッチ素子、一端が前記第5のノードに接続され、他端が前記第2のコイルの他端を構成する第4のノードに接続された第3の片方向スイッチ素子、及び、一端が前記第6のノードに接続され、他端が前記第4のノードに接続された第4の片方向スイッチ素子を有するAC/DCコンバータと、一端が三相交流の第1相に対応する第7のノードに接続され、他端が前記第1のコイルの一端を構成する第1のノードに接続された第1の双方向スイッチ素子、一端が前記三相交流の第2相に対応する第8のノードに接続され、他端が前記第1のノードに接続された第2の双方向スイッチ素子、一端が前記三相交流の第3相に対応する第9のノードに接続され、他端が前記第1のノードに接続された第3の双方向スイッチ素子、一端が前記第7のノードに接続され、他端が前記第1のコイルの他端を構成する第2のノードに接続された第4の双方向スイッチ素子、一端が前記第8のノードに接続され、他端が前記第2のノードに接続された第5の双方向スイッチ素子、及び、一端が前記第9のノードに接続され、他端が前記第2のノードに接続された第6の双方向スイッチ素子を有するマトリックスコンバータと、前記第1のノードと前記第1のコイルとの間に挿入されたリアクトルと、を有する電力変換装置の制御装置であって、前記第1及び第4の双方向スイッチ素子が同時にオンとなるモード、前記第2及び第5の双方向スイッチ素子が同時にオンとなるモード、及び、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなるモードのいずれか1つを各周期に1回以上実行するよう、前記マトリックスコンバータを第1の周期で周期的に制御する、制御装置である。
【0018】
本発明の第2の側面による電力変換装置の制御装置は、第1の側面による制御装置において、前記第1相の相電圧が前記第2相の相電圧より大きく、前記第2相の相電圧が前記第3相の相電圧より大きい場合に、前記各周期において、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第1のモードと、前記第1及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第2のモードと、前記第2及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第3のモードと、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第4のモードと、前記第3及び第4の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第5のモードと、前記第3及び第5の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第6のモードと、前記第3及び第6の双方向スイッチ素子が同時にオンとなる第7のモードとをこの順で実行するよう構成される、制御装置である。
【0019】
本発明の第3の側面による電力変換装置の制御装置は、第2の側面による制御装置において、各周期の前半で前記第1及び第4の片方向スイッチ素子がオンとなり、各周期の後半で前記第2及び第3の片方向スイッチ素子をオンとなるよう、前記AC/DCコンバータを前記第1の周期で周期的に制御する、制御装置である。
【0020】
本発明の第4の側面による電力変換装置の制御装置は、第3の側面による制御装置において、前記第1のモードの継続時間は、前記AC/DCコンバータ及び前記マトリックスコンバータそれぞれのスイッチングがゼロ電圧スイッチングとなるように決定される、制御装置である。
【0021】
本発明の第5の側面による電力変換装置の制御装置は、第3の側面による制御装置において、前記リアクトルに流れる電流iLの前記第2のモードの開始タイミングにおける値をIL0、前記電流iLの第1及び第4の片方向スイッチ素子がオンとなるタイミングにおける値をIL3、前記第1のモードの継続時間をdz/2、前記マトリックスコンバータの制御周期と前記AC/DCコンバータの制御周期の位相差をδとすると、前記dzは、δ<dz/2である場合に、-IL0=IL3とすることによって得られる前記dzと前記δとの第1の関係に従って決定される、制御装置である。
【0022】
本発明の第6の側面による電力変換装置の制御装置は、第5の側面による制御装置において、前記dzは、δ>dz/2である場合に、前記第1の関係とdz=2δとの交点(δ1,dz1)と、前記電流iLが最大になる点(δ2,0)とを通る前記dzと前記δとの第2の関係に従って決定される、制御装置である。
【0023】
本発明の第7の側面による電力変換装置の制御装置は、前記dz及び前記δは、前記第1及び第2の関係に基づく二分法により決定される、制御装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1乃至第3の側面によれば、AC/DCコンバータ側の出力電圧(二次側の電源電圧)が下がった場合の循環電流の上昇を抑制できるので、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータを広い電圧範囲で運転する際に、力率の低下を抑制することが可能になる。
【0025】
本発明の第4乃至第7の側面によれば、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータを広い電圧範囲で運転する際に、力率低下の抑制に加えて、スイッチング損失の増大を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施の形態による電力変換装置1及びその制御装置4の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示した電力変換装置1の高周波等価回路を示す図である。
【
図3】力行時における電圧e
u,e
v,e
w,v
MC,v
INV、電流i
eu,i
ev,i
ew,I
dc,i
L、及び電流I
dcの指令値I
dc
*(=P
*/V
dc)の各波形のシミュレーション結果を示す信号波形図である。
【
図4】
図3の一部(0.01秒から0.00014秒分)の拡大図である。
【
図5】nV
dc/e
M=0.25の場合における電圧v
MC,nv
INV及びリアクトル電流i
Lの力行時の波形を模式的に示す信号波形図である。
【
図6】nV
dc/e
M=0.5の場合における電圧v
MC,nv
INV及びリアクトル電流i
Lの力行時の波形を模式的に示す信号波形図である。
【
図7】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
【
図8】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
【
図9】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
【
図10】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
【
図11】マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。
【
図12】転流動作を開始する直前の状態における電流i
Lがマイナスであった場合における、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えの際のスイッチ素子S
up,S
wpの状態を示す図である。
【
図13】転流動作を開始する直前の状態における電流i
Lがプラスであった場合における、第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えの際のスイッチ素子S
up,S
wpの状態を示す図である。
【
図14】(a)は、nV
dc/e
M=0.5の場合におけるδとd
zの関係を示す図であり、(b)は、nV
dc/e
M=0.25の場合におけるδとd
zの関係を示す図である。
【
図15】(a)は、nV
dc/e
M=0.5の場合における電流I
dcと高周波リンク力率λとの関係を示す図であり、(b)は、nV
dc/e
M=0.25の場合における電流I
dcと高周波リンク力率λとの関係を示す図である。
【
図16】制御装置4の機能ブロックを示す略ブロック図である。
【
図17】演算部40が行うδ,d
m,d
zの算出処理を示す処理フロー図である。
【
図18】(a)は、
図3及び
図4に示したシミュレーションにより得られたV
dc,I
dcに対する力率特性(実施例)を示す図であり、(b)は、
図19及び
図20に示したシミュレーションにより得られたV
dc,I
dcに対する力率特性(比較例)を示す図である。
【
図19】d
z=0とした点以外は
図3と同じ条件で、力行時における電圧e
u,e
v,e
w及び電流i
eu,i
ev,i
ew,i
L,i
uの波形をシミュレーションした結果を示す信号波形図である。
【
図20】d
z=0とした点以外は
図4と同じ条件で、力行時における電圧e
u,e
v,e
w及び電流i
eu,i
ev,i
ew,i
L,i
uの波形をシミュレーションした結果を示す信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施の形態による電力変換装置1及びその制御装置4の構成を示す図である。同図に示すように、本実施の形態による電力変換装置1は、三相単相マトリックスコンバータ10と、トランス20と、フルブリッジ型のAC/DCコンバータ30と、保護回路35とを有するMC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータである。マトリックスコンバータ10、トランス20、及びAC/DCコンバータ30は、系統電源2と負荷3の間にこの順で接続される。以下では、系統電源2に接続されるマトリックスコンバータ10の3つの端部をそれぞれ第7のノードn
7、第8のノードn
8、第9のノードn
9と称し、トランス20に接続されるマトリックスコンバータ10の2つの端部をそれぞれ第1のノードn
1、第2のノードn
2と称し、トランス20に接続されるAC/DCコンバータ30の2つの端部をそれぞれ第3のノードn
3、第4のノードn
4と称し、負荷3に接続されるAC/DCコンバータ30の2つの端部をそれぞれ第5のノードn
5、第6のノードn
6と称する。また、第2のノードn
2の電圧に対する第1のノードn
1の電圧を電圧v
MCと称し、第4のノードn
4の電圧に対する第3のノードn
3の電圧を電圧v
INVと称する。
【0029】
トランス20は、互いに磁気結合する2つのコイル20a,20b(第1及び第2のコイル)を有して構成される。コイル20a,20bの巻き数はそれぞれNP及びNSであり、コイル20a,20bの巻き数比nは、n=NP/NSとなる。コイル20aの一端はリアクトルLを介して第1のノードn1でマトリックスコンバータ10に接続され、コイル20aの他端は第2のノードn2でマトリックスコンバータ10に接続される。コイル20bの一端は第3のノードn3でAC/DCコンバータ30に接続され、コイル20bの他端は第4のノードn4でAC/DCコンバータ30に接続される。以下では、リアクトルLを流れる電流をリアクトル電流iLと称する。リアクトル電流iLの向きについては、第1のノードn1から第2のノードn2に向かう方向をプラス方向とし、その逆をマイナス方向とする。リアクトル電流iLは、電圧vMC,nvINVを用いると、次の式(1)のように時間tの関数で表される。
【0030】
【0031】
AC/DCコンバータ30は、単相交流電圧(コイル20b側)と直流電圧(負荷3側)とを相互に変換する装置である。負荷3は、例えば蓄電池やハイブリッドカーのモーターを駆動するための電力変換器であり、電力変換装置1から供給される直流電力によって動作する(充電される)場合(力行)と、逆に電力変換装置1に対して直流電力を供給する場合(回生)とがある。負荷3の一端は第5のノードn5でAC/DCコンバータ30に接続され、負荷3の他端は第6のノードn6でAC/DCコンバータ30に接続される。以下では、第6のノードn6の電圧に対する第5のノードn5の電圧を電圧Vdcと称し、第5のノードn5から負荷3に向かって流れる電流を電流Idcと称する。
【0032】
AC/DCコンバータ30は、一端が第5のノードn5に接続され、他端が第3のノードn3に接続されたスイッチ素子G1(第1の片方向スイッチ素子)と、一端が第6のノードn6に接続され、他端が第3のノードn3に接続されたスイッチ素子G2(第2の片方向スイッチ素子)と、一端が第5のノードn5に接続され、他端が第4のノードn4に接続されたスイッチ素子G3(第3の片方向スイッチ素子)と、一端が第6のノードn6に接続され、他端が第4のノードn4に接続されたスイッチ素子G4(第4の片方向スイッチ素子)と、一端が第5のノードn5に接続され、他端が第6のノードn6に接続されたキャパシタC1とを有して構成される。
【0033】
スイッチ素子G1~G4はそれぞれ、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子と、この半導体素子と並列に接続されたダイオード及びスナバキャパシタとを含んで構成される片方向スイッチである。なお、スナバキャパシタは、半導体素子の寄生容量であってもよいし、独立した容量素子であってもよい。スイッチ素子G1は、ダイオードのアノードが第3のノードn3に接続されるように回路に組み込まれ、スイッチ素子G2は、ダイオードのカソードが第3のノードn3に接続されるように回路に組み込まれ、スイッチ素子G3は、ダイオードのアノードが第4のノードn4に接続されるように回路に組み込まれ、スイッチ素子G4は、ダイオードのカソードが第4のノードn4に接続されるように回路に組み込まれる。
【0034】
スイッチ素子G1~G4を構成する半導体素子の制御電極のそれぞれには、制御装置4から個別の制御信号が供給される。各制御信号は、それぞれハイ又はローいずれかの値を取る信号である。制御装置4は、これらの制御信号の値を個別に制御することにより、スイッチ素子G1~G4それぞれのオンオフ状態を個別に制御する。
【0035】
マトリックスコンバータ10は、三相交流電圧(系統電源2側)と単相交流電圧(コイル20a側)とを相互に変換する装置である。系統電源2は、互いに2π/3ずつ位相のずれた正弦波信号によって表される交流電圧eu,ev,ewを生成する三相交流電源であり、例えば商用電源である。交流電圧eu,ev,ewを数式で表すと、次の式(2)のようになる。ただし、Eは入力線間電圧実効値(定数)であり、ωtは入力電圧の位相角(定数)である。
【0036】
【0037】
図1に示すように、u相(第1相)に対応する交流電圧e
uに対応する系統電源2の出力端は第7のノードn
7でマトリックスコンバータ10に接続され、v相(第2相)に対応する交流電圧e
vに対応する系統電源2の出力端は第8のノードn
8でマトリックスコンバータ10に接続され、w相(第3相)に対応する交流電圧e
wに対応する系統電源2の出力端は第9のノードn
9でマトリックスコンバータ10に接続される。以下では、第7乃至第9のノードn
7~n
9を流れる電流をそれぞれ電流i
eu,i
ev,i
ewと称する。
【0038】
マトリックスコンバータ10は、一端が第7のノードn7に接続され、他端が第1のノードn1に接続されたスイッチ素子Sup(第1の双方向スイッチ素子)と、一端が第8のノードn8に接続され、他端が第1のノードn1に接続されたスイッチ素子Svp(第2の双方向スイッチ素子)と、一端が第9のノードn9に接続され、他端が第1のノードn1に接続されたスイッチ素子Swp(第3の双方向スイッチ素子)と、一端が第7のノードn7に接続され、他端が第2のノードn2に接続されたスイッチ素子Sun(第4の双方向スイッチ素子)と、一端が第8のノードn8に接続され、他端が第2のノードn2に接続されたスイッチ素子Svn(第5の双方向スイッチ素子)と、一端が第9のノードn9に接続され、他端が第2のノードn2に接続されたスイッチ素子Swn(第6の双方向スイッチ素子)と、交流リアクトルLfと、ダンピング抵抗Rfと、入力キャパシタCfとを有して構成される。
【0039】
交流リアクトルLfは、第7のノードn7とスイッチ素子Sup,Sunの接続点である第10のノードn10との間に挿入されたインダクタと、第8のノードn8とスイッチ素子Svp,Svnの接続点である第11のノードn11との間に挿入されたインダクタと、第9のノードn9とスイッチ素子Swp,Swnの接続点である第12のノードn12との間に挿入されたインダクタとによって構成される。ダンピング抵抗Rfは、これらのインダクタのそれぞれと並列に接続された3つの抵抗素子によって構成される。入力キャパシタCfは、デルタ結線又はスター結線によって互いに接続された3つのキャパシタによって構成されており、その3つの接続点はそれぞれ第10乃至第12のノードn10~n12に接続される。以下では、第10乃至第12のノードn10~n12を流れる電流をそれぞれ電流iu,iv,iwと称する。
【0040】
スイッチ素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnはそれぞれ、直列に接続された2つのスイッチ素子を含んで構成される双方向スイッチである。具体的には、スイッチ素子Supは、直列に接続されたスイッチ素子Gpu,Gupと、これらと並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成される。また、スイッチ素子Svpは、直列に接続されたスイッチ素子Gpv,Gvpと、これらと並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、スイッチ素子Swpは、直列に接続されたスイッチ素子Gpw,Gwpと、これらと並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、スイッチ素子Sunは、直列に接続されたスイッチ素子Gnu,Gunと、これらと並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、スイッチ素子Svnは、直列に接続されたスイッチ素子Gnv,Gvnと、これらと並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成され、スイッチ素子Swnは、直列に接続されたスイッチ素子Gnw,Gwnと、これらと並列に接続されたスナバキャパシタとによって構成される。これらスイッチ素子Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp,Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwnはそれぞれ、例えばMOSFETやIGBTなどの半導体素子と、この半導体素子と並列に接続されたダイオードとを含んで構成される片方向スイッチである。
【0041】
スイッチ素子Gpu,Gupは、第1のノードn1と第10のノードn10との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gpv,Gvpは、第1のノードn1と第11のノードn11との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gpw,Gwpは、第1のノードn1と第12のノードn12との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gnu,Gunは、第2のノードn2と第10のノードn10との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gnv,Gvnは、第2のノードn2と第11のノードn11との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。スイッチ素子Gnw,Gwnは、第2のノードn2と第12のノードn12との間にこの順で、かつ、それぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続される。なお、双方向スイッチを構成する2つのスイッチ素子の接続について、ここではそれぞれのダイオードのアノードが相互に接続される向きで接続されるとしたが、それぞれのダイオードのカソードが相互に接続される向きで接続されることとしてもよい。
【0042】
スイッチ素子Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp,Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwnを構成する半導体素子の制御電極のそれぞれには、制御装置4から個別の制御信号が供給される。各制御信号は、それぞれハイ又はローいずれかの値を取る信号である。制御装置4は、これらの制御信号の値を個別に制御することにより、スイッチ素子Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp,Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwnそれぞれのオンオフ状態を個別に制御する。
【0043】
保護回路35は、転流失敗時のリアクトル電流iLを吸収するための回路であり、フルブリッジ接続された4つのダイオードからなる整流回路と、この整流回路と並列に接続された平滑コンデンサ及び負荷とによって構成される。負荷の両端電圧はVpである。整流回路の2つの入力端はそれぞれ、第1のノードn1及び第2のノードn2に接続される。
【0044】
図2は、電力変換装置1の高周波等価回路を示す図である。同図に示すように、電力変換装置1は、高周波数で動作する場合においては、電圧v
MCを出力する電源回路と、電圧nv
INVを出力する電源回路とがリアクトルLを挟んで直列に接続された回路と等価である。
【0045】
図1に戻り、制御装置4は、外部から供給される電力指令値P
*及び力率角指令値α
*と、電圧e
u,e
v,e
w,V
dcの各値とに基づき、スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wn,G
1~G
4それぞれのオンオフ状態を制御する装置である。制御装置4がこの制御を行うことにより、電力指令値P
*により指定された電力を力率角指令値α
*により指定された力率角で、系統電源2から負荷3に対し(力行の場合)、又は、負荷3から系統電源2に対し(回生の場合)、伝送することが実現される。力行時と回生時のそれぞれにおける制御装置4の動作は、後述する位相差δの符号が入れ替わることのほかは、基本的に同一である。そこで以下では、力行時に着目して説明を続ける。
【0046】
図3は、力行時における電圧e
u,e
v,e
w,v
MC,v
INV、電流i
eu,i
ev,i
ew,I
dc,i
L、及び電流I
dcの指令値I
dc
*(=P
*/V
dc)の各波形のシミュレーション結果を示す信号波形図である。詳しいシミュレーション条件は、表1に記載したとおりである。
図3には、電圧e
u,e
v,e
wによって表される三相交流の1周期分を示している。
図4は、
図3の一部(0.01秒から0.00014秒分)の拡大図である。
【0047】
【0048】
三相交流の1周期は、電圧e
u,e
v,e
wの位相に応じて、
図3に示すように12個の空間I~XIIに分けることができる。具体的には、電圧e
uの位相が0以上π/6未満である空間I、π/6以上π/3未満である空間II、π/3以上π/2未満である空間III、π/2以上2π/3未満である空間IV、2π/3以上5π/6未満である空間V、5π/6以上π未満である空間VI、π以上7π/6未満である空間VII、7π/6以上4π/3未満である空間VIII、4π/3以上3π/2未満である空間IX、3π/2以上5π/3未満である空間X、5π/3以上11π/6未満である空間XI、11π/6以上2π未満である空間XIIに分けることができる。
図4に示した波形は、このうち空間IVの一部に相当する。
【0049】
空間I~XIIそれぞれにおける制御装置4の動作は、電圧eu,ev,ewの大小関係に応じて制御対象となるスイッチ素子が入れ替わること、及び、電圧eu,ev,ewのうち中間の値を取るものの符号に応じて出力電圧が変わる場合があることのほかは、基本的に同一である。そこで以下では、空間IV(eu>ev>ew)に着目して説明を続ける。
【0050】
図5及び
図6はそれぞれ、電圧v
MC,nv
INV及びリアクトル電流i
Lの力行時の波形を模式的に示す信号波形図である。
図5には、
図1に示した電圧V
dcの値が相対的に小さい例(具体的には、nV
dc/e
M=0.25)を示し、
図6には、
図1に示した電圧V
dcの値が相対的に大きい例(具体的には、nV
dc/e
M=0.5)を示している。なお、
図5及び
図6に示した電圧e
M及びe
mは、それぞれ次の式(3)(4)により表される。ただし、式(3)に示した電流i
v
*は電流i
vの指令値である。電流i
u,i
v,i
wの指令値i
u
*,i
v
*,i
w
*は、式(5)によって表される。
【0051】
【0052】
図5を参照しながら制御装置4の動作の概要を説明すると、制御装置4はまず、マトリックスコンバータ10を周期T(第1の周期)で周期的に制御するよう構成される。
図5に示した時刻t
1はこの制御周期の始期に対応し、時刻t
10は終期に対応している。マトリックスコンバータ10の制御の詳細については、後述する。
【0053】
また、制御装置4は、AC/DCコンバータ30についても、同じ周期T(第1の周期)で周期的に制御するよう構成される。
図5に示した時刻t
2はこの制御周期の始期に対応し、時刻t
11は終期に対応している。具体的に説明すると、制御装置4は、各周期の前半でスイッチG1,G4をオン、スイッチG2,G3をオンとし、各周期の後半でスイッチG2,G3をオン、スイッチG1,G4をオンとするよう構成される。したがって、電圧nv
invの値は、
図5に示すように、各周期の前半でnV
dcとなり、各周期の後半で-nV
dcとなる。なお、以下の説明では、マトリックスコンバータ10の制御周期の始期から、その後に初めて到来するAC/DCコンバータ30の制御周期の始期までの経過時間長を位相差δと称する。
【0054】
図7~
図11は、マトリックスコンバータ10の制御の詳細を示す図である。同図に示した矢印付きの破線は、電流i
Lの経路と向きを表している。以下、
図5とともにこれらの図も参照しながら、マトリックスコンバータ10の制御について詳細に説明する。なお、実際には各スイッチ素子のオンオフの切り替えを行う際に転流動作が行われるが、ここでは転流動作を無視して説明する。転流動作については、後ほど
図12及び
図13を参照して詳しく説明する。
【0055】
まず
図5に示すように、制御装置4は、各周期において、第1のモードMODE1から第7のモードMODE7までの7つのモードを順次実行することにより、マトリックスコンバータ10の制御を行うよう構成される。第1のモードMODE1及び第7のモードMODE7の継続時間(デューティー)は互いに同一であり、以下では、この継続時間をd
z/2と表記する。第4のモードMODE4の継続時間は第1のモードMODE1及び第7のモードMODE7の継続時間の2倍(=d
z)である。第3のモードMODE3及び第6のモードMODE7の継続時間も互いに同一であり、以下では、この継続時間をd
mと表記する。第2のモードMODE2及び第5のモードMODE5の継続時間も互いに同一(=T/2-d
z-d
m)である。
図5の例ではδ<d
z/2であり、第1のモードMODE1の実行中にAC/DCコンバータ30の制御周期の始期が到来する。
【0056】
図7(a)には、第1のモードMODE1の始期である時刻t
1における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。また、
図7(b)には、AC/DCコンバータ30の制御周期の始期である時刻t
2における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。これらの図に示すように、第1のモードMODE1においては、制御装置4は、スイッチ素子S
wp,S
wnをオンとし、その他のスイッチ素子S
up,S
vp,S
un,S
vnをオフとする。これにより、第1のノードn
1と第2のノードn
2との間が短絡されるので、リアクトルLは電圧nv
INVのみが印加された状態となる。そして、時刻t
1~時刻t
2ではnv
INV=-nV
dcであることから、
図5に示すように、電流i
Lは増加する方向に変化する。一方、時刻t
2~時刻t
3ではnv
INV=nV
dcであることから、
図5に示すように、電流i
Lは減少する方向に変化する。
【0057】
図8(a)には、第2のモードMODE2の始期である時刻t
3における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。同図に示すように、第2のモードMODE2においては、制御装置4は、スイッチ素子S
up,S
wnをオンとし、その他のスイッチ素子S
vp,S
wp,S
un,S
vnをオフとする。これにより、第1のノードn
1と第2のノードn
2との間に電圧e
Mが印加されるので、リアクトルLは電圧e
M-nv
INVが印加された状態となる。そして、時刻t
3~時刻t
4ではnv
INV=nV
dcであるが、一般に電圧e
Mは電圧nV
dcより大きい値に設定される(e
M>nV
dc)ので、
図5に示すように、電流i
Lは増加する方向に変化する。
【0058】
図8(b)には、第3のモードMODE3の始期である時刻t
4における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。同図に示すように、第3のモードMODE3においては、制御装置4は、スイッチ素子S
vp,S
wnをオンとし、その他のスイッチ素子S
up,S
wp,S
un,S
vnをオフとする。これにより、第1のノードn
1と第2のノードn
2との間に電圧e
mが印加されるので、リアクトルLは電圧e
m-nv
INVが印加された状態となる。そして、時刻t
4~時刻t
5ではnv
INV=nV
dcであるが、一般に電圧e
mも電圧nV
dcより大きい値に設定される(e
m>nV
dc)ので、
図5に示すように、電流i
Lは増加する方向に変化する。ただし、電圧e
mは電圧e
Mより小さい値になる(e
M>e
m)ので、電流i
Lの増加率は、
図5に示すように時刻t
3~時刻t
4での増加率に比べて小さくなる。
【0059】
図9(a)には、第4のモードMODE4の始期である時刻t
5における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。また、
図9(b)には、スイッチ素子G
1~G
4の切り替えタイミングである時刻t
6(t
6-t
2=T/2)における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。これらの図に示すように、第4のモードMODE4においては、制御装置4は、スイッチ素子S
wp,S
wnをオンとし、その他のスイッチ素子S
up,S
vp,S
un,S
vnをオフとする。これは、第1のモードMODE1と同じ状態である。したがって、第1のノードn
1と第2のノードn
2との間が短絡されるので、リアクトルLは電圧nv
INVのみが印加された状態となる。そして、時刻t
5~時刻t
6ではnv
INV=nV
dcであることから、
図5に示すように、電流i
Lは減少する方向に変化する。一方、時刻t
6~時刻t
7ではnv
INV=-nV
dcであることから、
図5に示すように、電流i
Lは増加する方向に変化する。
【0060】
図10(a)には、第5のモードMODE5の始期である時刻t
7における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。同図に示すように、第5のモードMODE5においては、制御装置4は、スイッチ素子S
wp,S
unをオンとし、その他のスイッチ素子S
up,S
vp,S
vn,S
wnをオフとする。これにより、第1のノードn
1と第2のノードn
2との間に電圧-e
Mが印加されるので、リアクトルLは電圧-e
M-nv
INVが印加された状態となる。そして、時刻t
7~時刻t
8ではnv
INV=-nV
dcであるので、上記したようにe
M>nV
dcが成り立つとすると、
図5に示すように、電流i
Lは減少する方向に変化する。
【0061】
図10(b)には、第6のモードMODE6の始期である時刻t
8における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。同図に示すように、第6のモードMODE6においては、制御装置4は、スイッチ素子S
wp,S
vnをオンとし、その他のスイッチ素子S
up,S
vp,S
un,S
wnをオフとする。これにより、第1のノードn
1と第2のノードn
2との間に電圧-e
mが印加されるので、リアクトルLは電圧-e
m-nv
INVが印加された状態となる。そして、時刻t
8~時刻t
9ではnv
INV=-nV
dcであるので、上記したようにe
m>nV
dcが成り立つとすると、
図5に示すように、電流i
Lは減少する方向に変化する。ただし、上記したようにe
M>e
mが成り立つので、電流i
Lの減少率は、
図5に示すように時刻t
7~時刻t
8での減少率に比べて小さくなる。
【0062】
図11には、第7のモードMODE7の始期である時刻t
9における各スイッチ素子S
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnの状態を示している。同図に示すように、第7のモードMODE7においては、制御装置4は、スイッチ素子S
wp,S
wnをオンとし、その他のスイッチ素子S
up,S
vp,S
un,S
vnをオフとする。これは、第1のモードMODE1と同じ状態である。したがって、第1のノードn
1と第2のノードn
2との間が短絡されるので、リアクトルLは電圧nv
INVのみが印加された状態となる。そして、時刻t
9~時刻t
10ではnv
INV=-nV
dcであることから、
図5に示すように、電流i
Lは増加する方向に変化する。
【0063】
ここまでで説明したように、本実施の形態においては、スイッチ素子Swp,Swnが同時にオンとなるモード(すなわちVMC=0となるモード。具体的には、第1、第4、第7のモードMODE1,MODE4,MODE7)を各周期に1回以上実施しているので、AC/DCコンバータ30側の出力電圧nVdcが下がった場合の循環電流の上昇を抑制できる。したがって、電力変換装置1を広い電圧範囲で運転する際に、力率の低下を抑制することが可能になる。
【0064】
なお、制御装置4が以上のような制御を行った結果として得られる伝送電力P及び電流i
vそれぞれの一周期平均値を式(1)と
図2の等価回路とを用いて求めると、次の式(6)及び式(7)となる。ただし、式(6)中のP
1は、式(8)のとおりである。また、fは高周波リンク周波数である。
【0065】
【0066】
【0067】
次に、スイッチ素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnのオンオフの切り替えの際に実施される転流動作について説明する。
【0068】
スイッチ素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnのオンオフの切り替えは、必ず、スイッチ素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnのいずれか1つを転流元とし、スイッチ素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnのいずれか他の1つを転流先として実行される。そして、制御装置4は、転流元の双方向スイッチ素子を構成する2つのスイッチ素子のうちの1つをオフ、転流先の双方向スイッチ素子を構成する2つのスイッチ素子のうちの1つをオン、転流元の双方向スイッチ素子を構成する2つのスイッチ素子のうちの残る1つをオフ、転流先の双方向スイッチ素子を構成する2つのスイッチ素子のうちの残る1つをオン、という順序で転流動作を実行する。転流元の双方向スイッチ素子を構成する2つのスイッチ素子のうち先にオフとなるスイッチ素子は、オフとなった後も、そのスイッチ素子と並列に配置されるダイオード経由で電流iLを流すことができるよう、転流動作開始時の電流iLの向きに応じて選択される。同様に、転流先の双方向スイッチ素子を構成する2つのスイッチ素子のうち先にオンとなるスイッチ素子は、もう1つのスイッチ素子をオンにしなくても、そのもう1つのスイッチ素子と並列に配置されるダイオード経由で電流iLを流すことができるよう、こちらも転流開始時の電流iLの向きに応じて選択される。
【0069】
図12及び
図13はそれぞれ、上述した第1のモードMODE1から第2のモードMODE2への切り替えの際のスイッチ素子S
up,S
wpの状態を示す図である。この場合、スイッチ素子S
wpが転流元、スイッチ素子S
upが転流先となる。転流動作と特に関係しない他のスイッチ素子S
vp,S
un,S
vn,S
wnについては、図示を省略している。
【0070】
図12には、転流動作を開始する直前の状態(
図12(a)に示す状態)における電流i
Lがマイナスであった場合を示している。この場合の制御装置4はまず、
図12(b)に示すように転流元のスイッチ素子G
pwをオフにする。電流i
Lはその後、スイッチ素子G
pw内のダイオードを経由し、それまでと同様に流れる。
【0071】
次に制御装置4は、
図12(c)に示すように転流先のスイッチ素子G
upをオンにする。ここで、スイッチ素子S
wp内のスナバキャパシタには、リアクトルL側の電極をマイナスとする電荷が事前に蓄積されている。この電荷によるブロック作用のためにスイッチ素子G
upの両端には電圧がかからないので、スイッチ素子G
upのオン動作はいわゆるソフトターンオンとなってZVSが成立する。
【0072】
次に制御装置4は、
図12(d)に示すように転流元のスイッチ素子G
wpをオフにする。この場合、スイッチ素子S
wp,S
up内のスナバキャパシタによりスイッチ素子G
wpの両端の電圧上昇が緩和されるので、スイッチ素子G
wpのオフ動作はいわゆるソフトターンオフとなってZVSが成立する。スイッチ素子G
wpがオフになった後、スナバキャパシタに蓄積されている電荷が放電され、放電が終了した段階で、
図12(e)に示すようにスイッチ素子G
upに電流が流れ始める。
【0073】
最後に制御装置4は、
図12(f)に示すように転流先のスイッチ素子G
puをオンにする。これで転流動作が完了する。
【0074】
図13には、転流動作を開始する直前の状態(
図13(a)に示す状態)における電流i
Lがプラスであった場合を示している。この場合の制御装置4はまず、
図13(b)に示すように転流元のスイッチ素子G
wpをオフにする。スイッチ素子G
pwではなくスイッチ素子G
wpをオフにするのは、そうしないとスイッチ素子S
wp内を電流が流れなくなってしまうからである。スイッチ素子G
wpがオフになった後の電流i
Lは、スイッチ素子G
wp内のダイオードを経由し、それまでと同様に流れる。
【0075】
次に制御装置4は、
図13(c)に示すように転流先のスイッチ素子G
puをオンにする。この場合、スイッチ素子G
puのオンと同時に電流i
Lの転流が発生するため、スイッチ素子G
puのオン動作はいわゆるハードターンオンとなってZVSが成立しなくなる。
【0076】
次に制御装置4は、
図13(d)に示すように転流元のスイッチ素子G
pwをオフにする。この時点で電流i
Lは既に転流しているので、このオフ動作はいわゆるソフトターンオンとなってZVSが成立する。
【0077】
最後に制御装置4は、
図13(e)に示すように転流先のスイッチ素子G
upをオンにする。これで転流動作が完了する。
【0078】
以上がマトリックスコンバータ10における転流動作であるが、このような転流動作が行われるのは、各スイッチ素子の切り替えに一定の時間がかかるため、転流時に電源の短絡やインダクタの電流の遮断が起きるおそれがあるからである。上記の転流動作を実施することにより、このような事態の発生を防止することが可能になる。同様の事態はAC/DCコンバータ30においても起こり得るので、制御装置4は、AC/DCコンバータ30においても転流動作を実行する。具体的には、スイッチ素子G1~G4のオンオフを切り替えるときに、一定時間、スイッチ素子G1~G4のすべてをオフにする時間(デッドタイム)を設けるように構成される。
【0079】
さて、
図12及び
図13を参照して説明したように、転流動作の際には、電流i
Lの向きによってZVSが成立する場合と成立しない場合とがある。ZVSが成立しない状態で電力変換装置1を運用するとスイッチング損失が大きくなるので、ZVSは常に成立することが好ましい。ここで、転流動作の際の電流i
Lの向きは、上述した位相差δ及びデューティーd
m,d
zの値によって制御可能である。そこで、本実施の形態による制御装置4は、ZVSが成立し、かつ、できるだけ大きな力率が得られるようにδ,d
m,d
zの値を決定し、決定したδ,d
m,d
zに従ってマトリックスコンバータ10及びAC/DCコンバータ30の制御を行う。具体的には、次の式(9)を満たすようにδ,d
m,d
zの値を決定するよう構成される。
【0080】
【0081】
式(9)中のX,Y,Zは、δとdzの関係に応じて次の式(10)又は式(11)により表される値である。ただし、M=eM/nVdc、m=em/nVdcである。また、dz1は、式(14)によって得られるdm1を用いて、式(12)のように表される値である。δ1は、式(13)に示すように、dz1の1/2の値である。なお、式(14)中のA,B,Cは、式(15)のように表される。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
なお、式(14)に示すdm1は、次の式(16)を2δ=dzのときに満たす値であり、式(16)に式(6)(7)(13)を代入することによって得られる式(17)にさらに式(12)を代入し、その結果をdm1について解くことによって得られる。ただし、式(16)中の|iv(δ1,dm1,dz1)|及びP(δ1,dm1,dz1)はそれぞれ、式(7)及び式(6)にδ=δ1,dm=dm1,dz=dz1を代入することによって得られる値を表す。
【0086】
【0087】
以下、式(9)の導出方法について、詳しく説明する。
【0088】
電力変換装置1においてZVSが成立する条件を一般化すると、スイッチング後に第1のノードn
1の電位が上昇する場合(
図5の例では、例えば時刻t
3。
図6の例では、例えば時刻t
2)にあっては、第1のノードn
1に電流が流れ込んでいることがZVSが成立する条件であり、スイッチング後に第1のノードn
1の電位が下降する場合(
図5の例では、例えば時刻t
4,t
5。
図6の例では、例えば時刻t
4,t
5)にあっては、第1のノードn
1に電流が流れ込んでいることがZVSの成立条件となる。したがって、
図5及び
図6に示した電流値I
L0~I
L3を用いると、次の式(18)が満たされるときにZVSが成立すると言える。ただし、電流値I
ZVSは、マトリックスコンバータ10の転流動作中又はAC/DCコンバータ30のデッドタイム中にスナバキャパシタを完全に充放電できる最小の電流値である。
【0089】
【0090】
電流値IL0は第1のモードMODE1から第2のモードMODE2に切り替わるときの電流iLの値であり、電流値IL1は第2のモードMODE2から第3のモードMODE3に切り替わるときの電流iLの値であり、電流値IL2は第3のモードMODE3から第4のモードMODE4に切り替わるときの電流iLの値であり、電流値IL3はスイッチ素子G1~G4の制御によって電圧nvinvの値がnVdcに変化するときの電流iLの値である。電流値IL0~IL3を具体的に数式で表すと、δとdzの関係に応じて次の式(19)又は式(20)となる。ただし、これらの式に示した値は、IBASE=Vdc/4fLで規格化した値である。
【0091】
【0092】
以下、式(18)が満たされることになるようなδ,dm,dzの関係を求めることを考える。
【0093】
図14は、δとd
zの関係を示す図である。
図14(a)は
図6と同じnV
dc/e
M=0.5の場合を示し、
図14(b)は
図5と同じnV
dc/e
M=0.25の場合を示している。ただし、d
mの影響は小さいと仮定し、ここではd
m=0とした。
【0094】
図14に示した「最適な関係」は、上掲した表1に示す各パラメータを用いたシミュレーションにより、高力率を得られるδ,d
m(=0),d
zの関係を求めた結果である。したがって、この「最適な関係」にできるだけ近く、かつ、式(18)を満足するようなδ,d
m,d
zの関係を求めることがここでの目的となる。以下、詳しく説明する。
【0095】
初めにδ<d
z/2の領域に着目すると、まず電流値I
L1,I
L2については、式(19)から、通常のI
ZVSの範囲では常に式(18)が成立すると考えてよい。一方、電流値I
L0,I
L3については、式(19)よりI
L3-I
L0=d
z-2δであり、この値はδ<d
z/2という条件の下では常に正((d
z-2δ)>0)なので、
図5から理解されるように、例えば-I
L0=I
L3であれば、式(18)が成立する。そこで、-I
L0=I
L3に式(19)を代入して得られる式をd
zについて解くと、式(9)(X,Y,Zは式(10)に示すもの)が得られる。
【0096】
図14(a)(b)の各図では、左上半分がδ<d
z/2に相当する領域である。これらの図に示すように、少なくともこの領域では、式(9)により求めたδ,d
m,d
zの関係と、「最適な関係」とがよく一致している。したがって、少なくともδ<d
z/2が成立する場合においては、δ,d
m,d
zの関係(第1の関係)として式(9)を用いればよいことが理解される。
【0097】
次にδ>d
z/2の領域に着目すると、
図14から理解されるように、「最適な関係」では、δの増加に対してd
zが単調減少する。また、電流i
Lが最大になるのは(δ,d
z)=(δ
2,0)(ただし、δ
2=0.5)のときであるが、この点を通り得るようにδ,d
m,d
zの関係を定めることが好ましい。さらに、δ,d
m,d
zの関係は、δ<d
z/2の領域とδ>d
z/2の領域との境界で不連続にならないことが好ましい。
【0098】
そこで、式(9)とd
z=2δとの交点(δ
1,d
z1)と、電流i
Lが最大になる点(0,0.5)とを通る直線により、δ,d
m,d
zの関係を定めることとする。式(11)に示したX,Y,Zを代入することによって得られる式(9)は、そのようにして定めたδ,d
m,d
zの関係(第2の関係)を表している。こうすることにより、
図14から理解されるように、δ>d
z/2に相当する領域でも、「最適な関係」と概ね一致し、かつ、電流i
Lが最大になる点(0,0.5)と、δ<d
z/2の場合と連続するための点(d
z1,δ
1)とを通る関係が得られる。
【0099】
加えて、詳細な計算は省略するが、式(11)に示したX,Y,Zを代入することによって得られる式(9)に基づいて電流値IL0~IL3を試算すると、式(18)を満たす結果が得られる。したがって、δ>dz/2が成立する場合においても、δ,dm,dzの関係として式(9)を用いればよいと言える。
【0100】
以上、式(9)の導出方法について説明した。次に、力率の観点から、式(9)の妥当性について検討する。
【0101】
図15は、電流I
dcと電力変換装置1の高周波リンク力率λとの関係を示す図である。
図15(a)は
図6と同じnV
dc/e
M=0.5の場合を示し、
図15(b)は
図5と同じnV
dc/e
M=0.25の場合を示している。ただし、d
mの影響は小さいと仮定し、ここではd
m=0とした。また、式(9)による高周波リンク力率λは、以下の式(21)により求めた。ただし、i
Lrmsは、式(19)及び式(20)から算出される電流i
Lの実効値である。また、電流I
dcは、式(6)より得られる伝送電力Pを電圧V
dcで除することによって得た。
【0102】
【0103】
図15に示した「最適な関係」は、
図14に示した「最適な関係」に対応する。また、同図には、d
z=0の場合(すなわち、マトリックスコンバータ10の制御周期にV
MC=0とする期間を含まない場合=背景技術)の高周波リンク力率λについても図示している。同図に示すように、背景技術では、高周波リンク力率λは「最適な関係」から大きく離れた値となるが、式(9)を満たすδ,d
m(=0),d
zを用いた場合には、「最適な関係」と同程度の高周波リンク力率λを得ることができる。この結果から、力率の面からも、式(9)を用いることが好ましいことが理解される。
【0104】
次に、式(9)に基づいてδ,dm,dzの各値を具体的に決定し、決定した値によって電力変換装置1を制御するための制御装置4の具体的な構成について、説明する。
【0105】
図16は、制御装置4の機能ブロックを示す略ブロック図である。同図に示すように、制御装置4は、機能的に、演算部40、デューティサイクル制御部41、位相シフト制御部42、電圧検出部43,44を有して構成される。
【0106】
電圧検出部43は、系統電源2から出力される電圧eu,ev,ewを測定し、演算部40に供給する機能部である。また、電圧検出部44は、電圧Vdcを測定し、演算部40に供給する機能部である。
【0107】
演算部40は、外部から供給される電力指令値P*及び力率角指令値α*と、電圧検出部43から供給される電圧eu,ev,ewと、電圧検出部44から供給される電圧Vdcとに基づいてδ,dm,dzの各値を算出し、dm及びdzをデューティサイクル制御部41に、δを位相シフト制御部42にそれぞれ供給する機能部である。
【0108】
デューティサイクル制御部41は、演算部40から供給されたdm及びdzに従ってマトリックスコンバータ10を制御する機能部である。具体的には、複数のスイッチ素子Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp,Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwnそれぞれの制御信号を生成し、供給するよう構成される。位相シフト制御部42は、演算部40から供給されたδに従ってAC/DCコンバータ30を制御する機能部である。具体的には、複数のスイッチ素子G1~G4それぞれの制御信号を生成し、供給するよう構成される。
【0109】
演算部40によるδ,dm,dzの算出は、原理的には、次の式(22)及び式(23)と式(9)とをδ,dm,dzの3元連立方程式とみなして解くことによって実行され得る。ただし、式(22)の左辺のPは式(6)によって表され、式(23)の左辺の|iV|は式(7)によって表される。また、式(23)の右辺の|iV
*|は、式(5)に電力指令値P*及び力率角指令値α*を代入することによって得られる値である。
【0110】
【0111】
しかし、式(22)、式(23)、及び式(9)には多くの変数と場合分けが含まれるため、普通に演算していたのでは制御が間に合わなくなってしまう。そこで本実施の形態による演算部40は、2分法を用いてδ,dm,dzの算出を行うように構成される。以下、その処理の詳細について、処理フロー図を参照しながら詳しく説明する。
【0112】
図17は、演算部40が行うδ,d
m,d
zの算出処理を示す処理フロー図である。この処理において演算部40は、初めに、式(24)の演算を行うことにより、δ=δ
1,d
m=d
m1,d
z=d
z1のときの電流I
dc(δ
1,d
m1,d
z1)(以下、電流I
dc-1とする)を求める(ステップS1)。なお、式(24)の最後の式は、δ=d
z/2の場合における式(6)にδ=δ
1,d
m=d
m1,d
z=d
z1を代入することによって得られる数式である。δ
1,d
m1,d
z1は、式(14)、式(12)、式(13)により順次求まる数値であるので、電流I
dc-1も1つの数値となる。
【0113】
【0114】
次に演算部40は、電流Idcの指令値Idc
*(=P*/Vdc)と、ステップS1で求めた電流Idc-1とを比較する(ステップS2)。その結果、指令値Idc
*が電流Idc-1未満であれば、式(9)中のX,Y,Zを式(10)に示した値に設定し(ステップS3a)、さらに、δの区間下限δLに0を代入するとともにδの区間上限δHにδ1を代入する(ステップS4a)。一方、指令値Idc
*が電流Idc-1以上であれば、式(9)中のX,Y,Zを式(11)に示した値に設定し(ステップS3b)、さらに、δの区間下限δLにδ1を代入するとともにδの区間上限δHに0.5を代入する(ステップS4b)。
【0115】
次に演算部40は、ループ変数iに0を設定した後(ステップS5)、次の式(25)により区間上限δHと区間下限δLの中間点δMを算出する(ステップS6)。
【0116】
【0117】
続いて演算部40は、δ=δMのときのdz(以下、dzMとする)を算出する(ステップS7)。この算出は、具体的には、式(9)にδ=δM、dm=dm1を代入することによって行う。このとき、X,Y,Zの値としては、ステップS3a,S3bで設定した値を用いる。
【0118】
次に演算部40は、δ=δM,dm=dm1,dz=dzMのときの電流Idc(δM,dm1,dzM)を算出する(ステップS8)。この算出は、式(6)によって伝送電力Pを算出し、さらに、算出した伝送電力PをVdcで除することによって行う。その際の場合分けは、δMとdzMに基づいて行う。そして、算出したIdc(δM,dm1,dzM)と電流Idcの指令値Idc
*との比較を行う(ステップS9)。
【0119】
ステップS9において電流Idc(δ1,dm1,dzM)が指令値Idc
*に等しいと判定した場合(Idc(δM,dm1,dzM)=Idc
*)、演算部40は、その時点でのδM,dm1,dzMを出力し、処理を終了する。
【0120】
一方、ステップS9において電流Idc(δ1,dm1,dzM)が指令値Idc
*より小さいと判定した場合(Idc(δM,dm1,dzM)<Idc
*)、演算部40は、区間下限δLにδMを代入する(ステップS10)。また、ステップS9において電流Idc(δ1,dm1,dzM)が指令値Idc
*より大きいと判定した場合(Idc(δM,dm1,dzM)>Idc
*)、演算部40は、区間上限δHにδMを代入する(ステップS11)。
【0121】
ステップS10又はステップS11の終了後、演算部40は、ループ変数iに1を加算した後(ステップS12)、ループ変数iが所定値(例えば5)を下回っているか否かを判定する(ステップS13)。ここで下回っていると判定した場合には、ステップS6に戻って処理を繰り返す。一方、上回っていると判定した場合には、その時点でのδM,dm1,dzMを出力し、処理を終了する。
【0122】
演算部40は、以上のようにして出力したδM,dm1,dzMのうち、dm1及びdzMをデューティサイクル制御部41に供給し、δMを位相シフト制御部42に供給する。こうして、電力指令値P*により指定された電力を力率角指令値α*により指定された力率角で伝送するとともに、力率の低下を抑制しつつスイッチング損失の増大を回避することが実現される。
【0123】
以下、本実施の形態により奏される効果について、具体例を示して説明する。
【0124】
図19及び
図20は、d
z=0とした点以外は
図3及び
図4と同じ条件で、力行時における電圧e
u,e
v,e
w及び電流i
eu,i
ev,i
ew,i
L,i
uの波形をシミュレーションした結果を示す信号波形図である。
【0125】
図4及び
図20それぞれのリアクトル電流i
Lを見ると、
図20の例では少なくとも電流i
L3が式(18)を満たしておらず、ZVSが実現されていないのに対し、
図4の例では電流i
L0~i
L3のすべてが式(18)を満たし、ZVSが実現されている。このように、本実施の形態によればZVSが実現されており、その結果として、スイッチング損失の増大の回避が実現されている。この効果は、ZVSの条件が満たされるようにδ,d
m,d
zの各値を決定していることによって奏されるものである。
【0126】
また、
図4におけるリアクトル電流i
Lの振幅は、
図20におけるリアクトル電流i
Lの振幅と比べると半分程度となっている。このことは、本実施の形態では上述した循環電流が低減されていることを示している。電力伝送に寄与しない循環電流の減少は、力率の向上をもたらす。
【0127】
図18(a)は、
図3及び
図4に示したシミュレーションにより得られたV
dc,I
dcに対する力率特性(実施例)を示す図であり、
図18(b)は、
図19及び
図20に示したシミュレーションにより得られたV
dc,I
dcに対する力率特性(比較例)を示す図である。これらの図を見ると、比較例ではV
dcの低下とともに力率が大きく低下するのに対し、実施例では力率がV
dcにあまり依存せず、広い運転範囲で高い力率が達成されていることが理解される。したがって、本実施の形態によれば、広い電圧範囲で運転する際に、力率の低下を抑制することが可能になると言える。別の言い方をすれば、本実施の形態は、広い電圧範囲での高効率運転に有効であると言える。
【0128】
以上説明したように、本実施の形態によれば、AC/DCコンバータ30側の出力電圧Vdcが下がった場合の循環電流の上昇を抑制できるので、MC式DAB型双方向絶縁形AC/DCコンバータである電力変換装置1を広い電圧範囲で運転する際に、力率の低下を抑制することが可能になる。また、ZVSでの運転が可能になるので、電力変換装置1を広い電圧範囲で運転する際に、力率低下の抑制に加えて、スイッチング損失の増大を抑制することが可能になる。
【0129】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0130】
例えば、上記実施の形態では、
図3に示した空間IV(e
u>e
v>e
w)に着目して説明したが、本発明は、
図3に示した空間I~XIIのいずれにも適用可能である。この場合、適用する空間によって、V
MC=0となるモードがスイッチ素子S
up,S
unが同時にオンとなるモード、スイッチ素子S
vp,S
vnが同時にオンとなるモード、スイッチ素子S
wp,S
wnが同時にオンとなるモードのいずれかとなることは勿論である。
【符号の説明】
【0131】
1 電力変換装置
2 系統電源
3 負荷
4 制御装置
10 三相単相マトリックスコンバータ
20 トランス
20a,20b コイル
30 AC/DCコンバータ
35 保護回路
40 演算部
41 デューティサイクル制御部
42 位相シフト制御部
43,44 電圧検出部
C1 キャパシタ
Cf 入力キャパシタ
G1~G4 片方向スイッチ素子
Gpu,Gup,Gpv,Gvp,Gpw,Gwp 片方向スイッチ素子
Gnu,Gun,Gnv,Gvn,Gnw,Gwn 片方向スイッチ素子
Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swn 双方向スイッチ素子
L リアクトル
Lf 交流リアクトル
Rf ダンピング抵抗