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特許7100851薄膜トランジスタおよびその製造方法、ならびに薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタおよびその製造方法、ならびに薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20220707BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20220707BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20220707BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
H01L29/78 617T
H01L29/78 618B
H01L29/78 617V
H01L29/78 618A
H01L29/78 627C
H01L21/368 Z
H01L21/316 G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018545782
(86)(22)【出願日】2017-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2017038086
(87)【国際公開番号】W WO2018074607
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2016207111
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016207115
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017105733
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 達也
(72)【発明者】
【氏名】李 金望
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩晃
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-005672(JP,A)
【文献】特開2015-060962(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167064(WO,A1)
【文献】特開2014-199919(JP,A)
【文献】特開2013-131685(JP,A)
【文献】特開2008-091904(JP,A)
【文献】特開2011-216845(JP,A)
【文献】LI, Jinwang et al.,“Hybrid Cluster Precursors of the LaZrO Insulator for Transistors: Properties of High-Temperature-P,Scientific Reports,vol. 6, no. 29682,2016年07月14日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/336
H01L 21/368
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備える、薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁層は、
セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である、酸化物から形成されており、
前記酸化物半導体層は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されていることを特徴とする、薄膜トランジスタ。
【請求項2】
ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備える、薄膜トランジスタの製造方法であって、
ゲート電極の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜を形成する工程と、
酸素を含む環境下、前記ゲート絶縁膜の表面に紫外線を照射しながら、180~200℃で前記ゲート絶縁膜を焼成して、ゲート絶縁層を形成する工程と、
前記ゲート絶縁層の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜を形成する工程と、
前記酸化物半導体膜の表面に紫外線を照射しながら、180~200℃で前記酸化物半導体膜を焼成して、酸化物半導体層を形成する工程と、
を含み、
前記ゲート絶縁膜形成溶液は、
ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上である溶液(i)であるか、
セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である溶液(ii)であるか、または、
ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素と、アセチルアセトナートとを含む溶液(iii)であり、
前記酸化物半導体膜形成溶液は、インジウム(In)、インジウム(In)と錫(Sn)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とガリウム(Ga)、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)からなる群から選択される金属元素と、酸化剤とを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項3】
前記ゲート絶縁層を形成する工程において、前記ゲート絶縁膜形成溶液が前記溶液(i)である場合に、照射される紫外線の照度が7~12mW/cm2であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ゲート絶縁層を形成する工程において、前記ゲート絶縁膜形成溶液が前記溶液(ii)または溶液(iii)である場合に、照射される紫外線の照度が5~15mW/cm2であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物半導体層を形成する工程において、前記ゲート絶縁膜形成溶液が前記溶液(i)である場合に、照射される紫外線の照度が7~12mW/cm2であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物半導体層を形成する工程において、前記ゲート絶縁膜形成溶液が前記溶液(ii)または溶液(iii)である場合に、照射される紫外線の照度が5~15mW/cm2であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ゲート絶縁膜形成溶液は、前記ゲート電極の上に塗布する前に、密閉容器内で、150~200℃で加熱処理されていることを特徴とする、請求項2から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ゲート絶縁膜形成溶液の溶媒が、アルコール溶媒であることを特徴とする、請求項2から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸化剤が、硝酸、硝酸塩、過酸化物、および過塩素酸塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液であって、
前記ゲート絶縁膜形成溶液は、
ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上である溶液(i)であるか、
セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である溶液(ii)であるか、または、
ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素と、アセチルアセトナートとを含む溶液(iii)であることを特徴とする、薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液。
【請求項11】
密閉容器内で、150~200℃で加熱処理されていることを特徴とする、請求項10に記載の薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液。
【請求項12】
前記ゲート絶縁膜形成溶液の溶媒が、アルコール溶媒であることを特徴とする、請求項10または11に記載の薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜トランジスタおよびその製造方法、ならびに薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ駆動用素子等に用いることを目的とした薄膜トランジスタ(以下、TFTとも称する)の研究が盛んに行われている。そのような研究として、酸化物TFTの開発も進められている。従来、酸化物TFTの製造方法としては、スパッタ法などの真空プロセスが主流であったが、高価な製造設備が必要になる等の問題が存在していた。これに対して、真空プロセスからスピンコート法などの溶液プロセスに転換して低コスト化を図る動きも高まりつつある。
【0003】
例えば、特許文献1および2には、ゲート電極とチャネルとの間にゲート絶縁層を備える薄膜トランジスタが開示されている。ゲート絶縁層の材料としては、ランタンとジルコニウムとからなる酸化物が用いられている。また、ゲート絶縁層形成時において、焼成温度を400℃程度としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-60962号公報
【文献】国際公開第2013/141197号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、フレキシブルディスプレイの開発が加速している。フレキシブルディスプレイとして、例えばプラスチック基板上にデバイスを作製するには、プロセス温度を200℃以下とする必要がある。
【0006】
また、薄膜トランジスタを、例えば高精細または大面積のディスプレイに適用する場合には、その駆動のために、高い電界効果移動度が求められる。
【0007】
本開示の目的は、良好なトランジスタ特性(特に、高い電界効果移動度)を有する薄膜トランジスタを提供することである。また、プロセス温度を200℃以下とする薄膜トランジスタの製造方法を提供することである。さらに、当該製造方法においても使用可能な薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備え、前記ゲート絶縁層は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である、酸化物から形成されているか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されており、前記酸化物半導体層は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、上記の本開示の薄膜トランジスタの製造方法は、ゲート電極の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜を形成する工程と、酸素を含む環境下、前記ゲート絶縁膜の表面に紫外線を照射しながら、180~200℃で前記ゲート絶縁膜を焼成して、ゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜を形成する工程と、前記酸化物半導体膜の表面に紫外線を照射しながら、180~200℃で前記酸化物半導体膜を焼成して、酸化物半導体層を形成する工程とを含み、前記ゲート絶縁膜形成溶液は、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上である溶液(i)であるか、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である溶液(ii)であるか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素と、アセチルアセトナートとを含む溶液(iii)であり、前記酸化物半導体膜形成溶液は、インジウム(In)、インジウム(In)と錫(Sn)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とガリウム(Ga)、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)からなる群から選択される金属と、酸化剤とを含むことを特徴とする。
【0010】
さらに、本開示の薄膜トランジスタ用ゲート絶縁膜形成溶液は、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上である溶液(i)であるか、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である溶液(ii)であるか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素と、アセチルアセトナートとを含む溶液(iii)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示の薄膜トランジスタは、良好なトランジスタ特性(特に、高い電界効果移動度)を有している。また、本開示の方法によれば、200℃以下のプロセス温度で薄膜トランジスタを製造することが可能である。このため、本開示の薄膜トランジスタおよびその製造方法は、フレキシブルディスプレイの用途など幅広い用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の薄膜トランジスタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図1に示す薄膜トランジスタの製造方法の各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基板の上にゲート電極を形成する工程、(b)は、ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成する工程、(c)は、(b)で形成したゲート絶縁膜を、紫外線照射しながら加熱して、ゲート絶縁層を形成する工程、(d)は、ゲート絶縁層の上に酸化物半導体膜を形成する工程、(e)は、(d)で形成した酸化物半導体膜を、紫外線照射しながら加熱して、酸化物半導体層を形成する工程、(f)は、酸化物半導体層の上にソース電極およびドレイン電極を形成する工程、(g)は、酸化物半導体層の一部、ソース電極、およびドレイン電極の上にレジスト膜を形成する工程、(h)は、(g)で作製したレジスト膜を備える積層体をエッチングすることにより薄膜トランジスタを得る工程を示す。
図3】ゲート絶縁膜形成溶液の紫外線吸光度を測定した結果を示す図である。
図4A】実施例2の薄膜トランジスタのVG-ID特性およびVG-IG特性を示す図である。
図4B】比較例3の薄膜トランジスタのVG-ID特性およびVG-IG特性を示す図である。
図4C】比較例4の薄膜トランジスタのVG-ID特性およびVG-IG特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において適宜図面を参照するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面に記載された態様に制限されない。なお、各図において、同様の、または類似した機能を発揮する構成要素には同一、または類似の参照符号を付し、重複する説明を省略することがある。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。さらに、本明細書において、「~」とは、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<薄膜トランジスタ>
本開示の薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備える。ここで、ゲート絶縁層は、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)とを含み、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上である、酸化物から形成されている。或いは、ゲート絶縁層は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である、酸化物から形成されている。或いは、ゲート絶縁層は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されている。また、酸化物半導体層は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されている。
【0015】
図1は、本実施形態の薄膜トランジスタの一例を概略的に示す断面図である。同図に示す薄膜トランジスタ10は、基板12上に、ゲート電極14、ゲート絶縁層16、酸化物半導体層18、ならびにソース電極32およびドレイン電極34をこの順で備える。
【0016】
図1に示す薄膜トランジスタ10は、ボトムゲート構造で示されているが、この構造に限定されない。例えば、トップゲート構造などその他の構造であってもよい。また、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについては図示していない。
【0017】
以下、図1に示す薄膜トランジスタ10の構成要素について説明する。
【0018】
(基板)
基板12としては、公知の薄膜トランジスタにおいて用いられている基板を適用できる。
【0019】
基板12の例としては、高耐熱ガラス、SiO2/Si基板(シリコン基板上に酸化シリコン膜を形成した基板)、アルミナ(Al23)基板、STO(SrTiO)基板、Si基板の表面にSiO2層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した絶縁性基板、半導体基板(例えば、Si基板、SiC基板、Ge基板)が含まれる。また、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)などの樹脂からなるプラスチック基板、または紙を始めとするフレキシブル基板も含まれる。
【0020】
(ゲート電極)
ゲート電極14は、公知の薄膜トランジスタに用いられているゲート電極を採用することができる。ゲート電極14の材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、チタン、アルミニウム、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、タングステン、などの高融点金属、又はその合金等の金属材料、あるいは、インジウム錫酸化物(ITO)又は酸化ルテニウム(RuO2)を用いることができる。
【0021】
(ゲート絶縁層)
ゲート絶縁層16は、特定の金属元素を含む酸化物から形成されている。
【0022】
特定の金属元素を含む酸化物は、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物(以下、単に「酸化物(i)」とも称する)であるか、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)と含む酸化物(以下、単に「酸化物(ii)」とも称する)であるか、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物(以下、単に「酸化物(iii)」とも称する)である。酸化物(i)および酸化物(ii)において、ジルコニウム(Zr)を用いる代わりに、タンタル(Ta)を用いてもよい。
【0023】
「特定の金属元素を含む酸化物」とは、典型的には、特定の金属元素を主成分として含む酸化物を意図しているが、当該酸化物に、不純物(例えば、原料に由来する不純物)が含まれていてもよい。良好なトランジスタ性能を得るためには、酸化物中の炭素および水素以外の不純物の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましい。
【0024】
特定の金属元素を含む酸化物が、酸化物(i)である場合、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上であり、好ましくは0.8~10であり、さらに好ましくは1.5~4である。特定の金属元素を含む酸化物が、酸化物(ii)である場合、特定の群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比は、良好なトランジスタ性能を得る観点から、金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数は、1.5以上であり、好ましくは1.5~9であり、さらに好ましくは2.3~9である。本開示において、原子数比は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS法)を用いて、元素分析を行うことにより求めることができる。
【0025】
ゲート絶縁層16における炭素(C)の含有率は、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、0.5atom%~20atom%であることが好ましい。
【0026】
炭素(C)と水素(H)の含有率については、National Electrostatics Corporation 製 Pelletron 3SDHを用いて、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS分析法)、水素前方散乱分析法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS分析法)、及び核反応解析法(Nuclear Reaction Analysis:NRA分析法)を用いて元素分析を行うことにより求めることができる。
【0027】
ゲート絶縁層16の厚みは、特に制限するわけではないが、リークを抑えながら動作電圧を下げる観点から、30nm~500nmであることが好ましい。
【0028】
(酸化物半導体層)
酸化物半導体層18は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)を含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されている。
【0029】
「インジウム(In)を含む酸化物」とは、典型的には、インジウム(In)を主成分として含む酸化物を意図しているが、当該酸化物に、不純物(例えば、原料に由来する不純物)が含まれていてもよい。良好なトランジスタ性能を得るためには、酸化物中の炭素および水素以外の不純物の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましい。酸化物半導体層18における炭素(C)の含有率は、良好なトランジスタ性能を得る観点から、0.2atom%~15.0atom%であることが好ましい。また、酸化物半導体層18中の水素(H)の含有率は、1atom%~20atom%であることが好ましい。他の5種類の酸化物についても同様のことが当てはまる。
【0030】
インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と錫(Sn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、錫(Sn)の原子数を0.005~0.03とすることが好ましい。
【0031】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と亜鉛(Zn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、亜鉛(Zn)の原子数を0.1~1.0とすることが好ましい。
【0032】
インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、ジルコニウム(Zr)の原子数を0.005~0.03、亜鉛(Zn)の原子数を0.1~1.0とすることが好ましい。
【0033】
インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)とガリウム(Ga)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、ガリウム(Ga)を0.1~1.0とすることが好ましい。
【0034】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)を含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、亜鉛(Zn)を0.1~1.0、ガリウム(Ga)を0.1~1.2とすることが好ましい。
【0035】
酸化物半導体層18の厚みは、特に制限するわけではないが、十分な動作電流を確保し、かつ、薄膜化を実現させる観点から、10nm~100nmであることが好ましい。
【0036】
(ソース電極およびドレイン電極)
ソース電極32およびドレイン電極34は、公知の薄膜トランジスタに用いられているソース電極32およびドレイン電極34を採用することができる。ソース電極32およびドレイン電極34の材料としては、制限するわけではないが、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化ルテニウム(RuO2)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)などを用いることができる。
【0037】
以上説明したように、薄膜トランジスタ10は、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)とを含み、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上である、酸化物から形成されているか、特定の希土類金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含み、当該希土類金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である酸化物から形成されているか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されているゲート絶縁層16を含む。また、薄膜トランジスタ10は、インジウム(In)を含む特定の酸化物から形成されている酸化物半導体層18を含む。これにより、本開示の薄膜トランジスタ10は、良好な電気特性、特に、高い電界効果移動度を備える。
【0038】
次に、本開示の薄膜トランジスタ10の製造方法を説明する。
【0039】
<薄膜トランジスタの製造方法>
本開示の薄膜トランジスタの製造方法は、ゲート電極の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜を形成する工程と、酸素を含む環境下、当該ゲート絶縁膜の表面に紫外線を照射しながら、180~200℃で当該ゲート絶縁膜を焼成して、ゲート絶縁層を形成する工程と、当該ゲート絶縁層の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜を形成する工程と、当該酸化物半導体膜の表面に紫外線を照射しながら、180~200℃で当該酸化物半導体膜を焼成して、酸化物半導体層を形成する工程とを含む。
【0040】
図2は、図1に示す薄膜トランジスタ10の製造方法の各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基板12の上にゲート電極14を形成する工程、(b)は、ゲート電極14の上にゲート絶縁膜16’を形成する工程、(c)は、(b)で形成したゲート絶縁膜16’を、紫外線照射しながら加熱して、ゲート絶縁層16を形成する工程、(d)は、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体膜18’を形成する工程、(e)は、(d)で形成した酸化物半導体膜18’を、紫外線照射しながら加熱して、酸化物半導体層18を形成する工程、(f)は、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成する工程、(g)は、酸化物半導体層18の一部、ソース電極32、およびドレイン電極34の上にレジスト膜36を形成する工程、(h)は、薄膜トランジスタ10を得る工程を示す。以下に、図2(a)~(h)にそれぞれ対応している工程(a)~(h)について詳述する。
【0041】
(工程(a))
本工程は、基板12の上にゲート電極14を形成する工程である(図2(a))。
【0042】
基板12は、洗浄したものを使用することが好ましく、その洗浄方法としては、酸素ガスを用いたプラズマアッシングなど既知のいかなる方法を採用することができる。
【0043】
ゲート電極14の形成方法としては、真空蒸着法(例えば、スパッタリング法)など既知のいかなる方法を採用することができる。
【0044】
(工程(b))
本工程は、ゲート電極14の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜16’を形成する工程である(図2(b))。
【0045】
ゲート絶縁膜形成溶液の塗布方法としては、制限するわけではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷、反転オフセット印刷など公知の方法を用いることができる。
【0046】
ゲート絶縁膜形成溶液は、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8以上である溶液(i)であるか、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含み、前記群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1.5以上である溶液(ii)であるか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素と、アセチルアセトナートとを含む溶液(iii)である。溶液(i)~溶液(iii)の各溶液中に含まれるアセチルアセトナートの割合は、各溶液中に含まれる上記に示した金属元素の総モル数に対して、20~400モル%とすることができる。
【0047】
理論に拘束されるわけではないが、ゲート絶縁膜形成溶液中の分子構造に言及すると、金属を含むコアに、陰イオンまたは溶媒が配位して、クラスターを形成していると考えている。そして、本発明者らは、このコアにアセチルアセトナートが配位すると、紫外線の吸収が著しく高くなることを見出した。この特性を生かし、本開示では、後述する工程(c)において、紫外線照射を加熱と併用することにより、従来適用されていた400℃程度の焼成温度を200℃以下としている。さらに、特定の金属元素と、アセチルアセトナートとを含むゲート絶縁膜形成溶液をゲート絶縁層16の材料として用いると、最終的に作製されるTFTのトランジスタ特性が良好となることも実験にて確認している。
【0048】
このように、本開示のゲート絶縁膜形成溶液は、ゲート絶縁膜の焼成温度の低減およびTFTのトランジスタ特性の向上に寄与する。
【0049】
ゲート絶縁膜形成溶液は、以下のように調製することができる。
【0050】
ゲート絶縁膜形成溶液中に含まれる金属元素が1種類の場合には、所定の金属化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)の溶液を作製することができる。ゲート絶縁膜形成溶液中に含まれる金属元素が2種類以上の場合には、金属元素毎に、所定の金属化合物を溶媒に溶解させて溶液を調製した後、当該各溶液を、金属元素が所定の原子数比となるように混合して、ゲート絶縁膜形成溶液を調製することができる。或いは、金属元素が所定の原子数比となるように、2種以上の金属化合物を溶媒に加えて、溶解させて、ゲート絶縁膜形成溶液を調製してもよい。さらに、以上のように調製した溶液中に、所定量のアセチルアセトナートが含まれない場合、当該溶液にアセチルアセトナートを加えて、ゲート絶縁膜形成溶液を調製することもできる。なお、溶液を調製する際に、適宜、精製、例えば、フィルターによるろ過を行ってもよい。また、金属化合物を溶媒に溶解する際に、適宜加熱してもよい。
【0051】
溶液(i)を調製する場合には、金属化合物として、ランタン化合物およびジルコニウム化合物を用いることができる。ランタン化合物の例としては、ランタンアセチルアセトナート、ランタンアルコキシド、ランタンの有機酸塩を挙げることができる。ジルコニウム化合物の例としては、ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、またはジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0052】
溶液(ii)を調製する場合には、金属化合物の例として、金属のアセチルアセトナート、アセテートを挙げることができる。ここで、金属は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属である。ジルコニウム化合物の例としては、溶液(i)を調製する際に用いるものと同様の化合物を挙げることができる。
【0053】
溶液(iii)を調製する場合には、金属化合物として、ジルコニウム、ハフニウム、およびアルミニウム化合物を用いることができる。ジルコニウム、ハフニウム、およびアルミニウム化合物の例としては、対応する金属のアセチルアセトナート、硝酸化物、塩化物、またはアルコキシド(例えば、イソプロポキシド、ブトキシド、エトキシド、メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0054】
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に使用する溶媒は、アセチルアセトナートが、金属を含むコアに配位することを妨げない溶媒であることが好ましい。このような溶媒の例としては、特に制限するわけではないが、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、および2-ブトキシエタノールの群から選択されるアルコール溶媒を挙げることができる。
【0055】
さらに、クラスタ―の形成及びその構造の均一化並びに紫外線の吸収効率の観点から、以上に説明したゲート絶縁膜形成溶液を、密閉容器内で加熱処理に供することが好ましい。
【0056】
密閉容器内での加熱処理は、例えば、ゲート絶縁膜形成溶液をオートクレーブなどの耐圧容器に移して、これを溶媒の沸点以上の温度(例えば、150~200℃)で行うことができる。
【0057】
ゲート絶縁膜形成溶液として、溶液(i)または溶液(ii)を用いる場合であって、ジルコニウムの代わりにタンタルを用いる場合には、上記の説明において、ジルコニウムをタンタルに置き換えて読むことができるものとする。
【0058】
(工程(c))
本工程は、工程(b)で形成した積層体20’のゲート絶縁膜16’の表面に、紫外線を照射しながら、ゲート絶縁膜16’を加熱して、ゲート絶縁層16を形成する工程である(図2(c))。
【0059】
紫外線の照射は、ムラの少ない均一なゲート絶縁層16を形成するために、ゲート絶縁膜16’の全面に均一に行うことが好ましい。この際、照射する紫外線の照度は、ゲート絶縁膜形成溶液として溶液(i)を用いる場合には、特に制限するわけではないが、7.0~12.0mW/cm2とすることができる。ゲート絶縁膜形成溶液として溶液(ii)または溶液(iii)を用いる場合には、好ましくは5.0~15.0mW/cm2であり、より好ましくは7.0~12.0mW/cm2である。このように、本工程で照射する紫外線の照度を、一般的な表面洗浄用UV装置に用いられている照度と同レベルに低くすることができる。これは、ゲート絶縁膜16’の紫外線吸収度が高いため、高い照度を必要としないことによる。
【0060】
積層体20’の加熱方法は、特に制限するわけではないが、例えば、ヒーターの加熱面に、基板12の面が接触するように積層体20’を設置して行うことができる。
【0061】
積層体20’の加熱条件は、大気中など酸素を含む環境下、まず、80~170℃で初期加熱し、次いで、180~200℃で焼成することが好ましい。初期加熱は主に、ゲート絶縁膜16’に含まれる溶媒を蒸発させることを目的とする。
【0062】
ゲート絶縁層16は、複数の層から形成されていてもよい。複数の層を形成する場合には、工程(b)のゲート絶縁膜16’を形成する工程と、上記の初期加熱および焼成の一連の操作を複数回繰り返せばよい。
【0063】
(工程(d))
本工程は、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜18’を形成する工程である(図2(d))。
【0064】
酸化物半導体膜形成溶液の塗布方法としては、制限するわけではないが、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷、反転オフセット印刷など公知の方法を用いることができる。
【0065】
酸化物半導体膜形成溶液は、インジウム(In)、インジウム(In)と錫(Sn)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とガリウム(Ga)、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)からなる群から選択される金属元素と、酸化剤とを含む。酸化物半導体膜形成溶液は、例えば、以下のように調製することができる。
【0066】
インジウム(In)を含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)溶液を作製する。
【0067】
インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および錫(Sn)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/錫(Sn)溶液を作製する。
【0068】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および亜鉛(Zn)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/亜鉛(Zn)溶液を作製する。
【0069】
インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物、ジルコニウム(Zr)化合物および亜鉛(Zn)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/ジルコニウム(Zr)/亜鉛(Zn)溶液を作製する。
【0070】
インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物およびガリウム(Ga)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/ガリウム(Ga)溶液を作製する。
【0071】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物、亜鉛(Zn)化合物、およびガリウム(Ga)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/亜鉛(Zn)/ガリウム(Ga)溶液を作製する。
【0072】
インジウム(In)化合物の例としては、硝酸インジウム、インジウムアセチルアセトナート、酢酸インジウム、塩化インジウム、またはインジウムアルコキシド(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0073】
錫(Sn)化合物の例としては、塩化錫、硝酸錫、酢酸錫、または錫アルコキシド(例えば、錫イソプロポキシド、錫ブトキシド、錫エトキシド、錫メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0074】
亜鉛(Zn)化合物の例としては、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、または亜鉛アルコキシド(例えば、亜鉛イソプロポキシド、亜鉛ブトキシド、亜鉛エトキシド、亜鉛メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0075】
ジルコニウム化合物の例としては、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、またはジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0076】
ガリウム(Ga)化合物の例としては、硝酸ガリウム、塩化ガリウム、酢酸ガリウム、ガリウムアセチルアセトナートまたはガリウムアルコキシド(ガリウムメトキシド、ガリウムエトキシド、ガリウムプロポキシド、ガリウムブトキシド)を挙げることができる。
【0077】
酸化物半導体膜形成溶液に用いる溶媒は、特に制限するわけではないが、例えば、2-メトキシエタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノールの群から選択されるアルコール溶媒、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸の群から選択されるカルボン酸の溶媒、または、水を採用することができる。TFTの特性向上の観点から、溶媒として水を用いることが好ましい。
【0078】
酸化物半導体膜形成溶液に用いる酸化剤の例としては、限定するわけではないが、硝酸、硝酸塩、過酸化物、または過塩素酸塩を挙げることができる。ここで、例えば、酸化物半導体膜形成溶液調製時に、インジウム(In)化合物として硝酸インジウムを用いる場合には、それ自体が硝酸塩であるため、別途、酸化剤を加える必要はない。
【0079】
また、酸化物半導体膜形成溶液は、当該溶液の焼成温度および焼成の強さを調整するために助焼成剤を含んでいてもよい。助焼成剤の例としては、限定するわけではないが、アセチルアセトン、アセチルアセトネート、尿素、または酢酸アンモニウムを挙げることができる。
【0080】
酸化物半導体膜形成溶液の調製する際、溶媒に溶質を加えて、適宜加熱してもよい。
【0081】
(工程(e))
本工程は、工程(d)で形成した積層体30’の酸化物半導体膜18’の表面に、紫外線を照射しながら、酸化物半導体膜18’を加熱して、酸化物半導体層18を形成する工程である(図2(e))。
【0082】
紫外線の照射は、ムラのない均一な酸化物半導体層18を形成するために、酸化物半導体膜18’の全面に均一に行うことが好ましい。この際、照射する紫外線の照度は、特に制限するわけではないが、5.0~15.0mW/cm2、好ましくは7.0~12.0mW/cm2とすることができる。このように、本工程で照射する紫外線の照度を、一般的な表面洗浄用UV装置に用いられている照度と同レベルに低くすることができる。
【0083】
積層体30’の加熱方法は、特に制限するわけではないが、例えば、ヒーターの加熱面に、基板12の面が接触するように積層体30’を設置して行うことができる。
【0084】
積層体30’の加熱条件は、大気中など酸素を含む環境下、まず、80~170℃で初期加熱し、次いで、180~200℃で焼成することが好ましい。初期加熱は主に、酸化物半導体膜18’に含まれる溶媒を蒸発させることを目的とする。
【0085】
(工程(f))
本工程は、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成する工程である(図2(f))。
【0086】
ソース電極32およびドレイン電極34の形成としては、リフトオフ法など既知のいかなる方法を採用することができる。
【0087】
リフトオフ法にて形成する場合、以下の手順で行うことができる。
【0088】
酸化物半導体層18上に、フォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜を形成し、酸化物半導体層18およびレジスト膜の上に、スパッタリング法などにより、金属層を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成することができる。
【0089】
レジスト膜の材料としては、通常用いられているリフトオフ層の材料、例えば、ロームアンドハース社製LOL2000および東京応化工業社製TSMR8900を用いることができる。
【0090】
金属層が、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)により形成されている場合には、ITO層ターゲット材として、5質量%の酸化錫(SnO2)を含有するITOを用いることができる。また、金属層が、例えば、酸化ルテニウム(RuO2)により形成されている場合には、ターゲット材として、酸化ルテニウム(RuO2)を用いることができる。
【0091】
(工程(g))
本工程は、酸化物半導体層18の一部、ソース電極32、およびドレイン電極34の上にレジスト膜36を形成する工程(図2(g))である。
【0092】
レジスト膜36は、例えば、フォトリソグラフィー法などの公知の方法により、パターニングして形成することができる。
【0093】
レジスト膜36の材料としては、通常用いられているレジスト材料、例えば、東京応化工業社製OMR85などを用いることができる。
【0094】
(工程(h))
本工程は、工程(g)で形成したレジスト膜36を備える積層体40をエッチングすることにより、レジスト膜36で覆われていない酸化物半導体層18を除去して、薄膜トランジスタ10を得る工程(図2(h))である。
【0095】
エッチングとしては、例えば、ITO用エッチャント(関東化学株式会社製ITOシリーズ)などのエッチャントを用いるウェットエッチング法またはアルゴンプラズマによるドライエッチング法を用いることができる。
【0096】
酸化物半導体層の素子分離(工程(h))後には、ソース電極32およびドレイン電極34と酸化物半導体層18の密着性向上のため、薄膜トランジスタ10をポストアニール処理することが好ましい。ポストアニールは、特に制限するわけではないが、ヒーターなどの加熱手段を用いて、100~200℃、好ましくは180~200℃、10分以上の熱処理により実施することができる。熱処理に加えて、紫外線照射を実施してもよい。この場合、紫外線の照度は、特に制限するわけではないが、5.0~15.0mW/cm2、好ましくは7.0~12.0mW/cm2とすることができる。
【0097】
以上のとおり、本開示の方法によれば、200℃以下のプロセス温度で薄膜トランジスタを製造することが可能である。このため、例えば、プラスチック基板上にTFTを作製することができる。このように、本開示の方法は、フレキシブルディスプレイの製造用途など幅広い用途に適用することが可能である。したがって、低コスト化の実現も期待できる。
【実施例
【0098】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0099】
<ゲート絶縁膜形成溶液の検討>
[ゲート絶縁膜形成溶液の調製]
(実施例1)
2-メトキシエタノールに、ランタンアセチルアセトナートおよびジルコニウムブトキシドを、ランタンとジルコニウムとの原子数比が3:7となるように加え、110℃、30分加熱攪拌した。次いで、得られた溶液を耐圧容器に移し、160℃まで昇温し、1時間保持した後、常温に戻すことにより、0.1mol/kgのランタン/ジルコニウム混合溶液を調製した。その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行い、ゲート絶縁膜形成溶液(実施例1)を得た。
【0100】
(比較例1)
2-メトキシエタノールに、硝酸ランタンと硝酸ジルコニウムをランタンとジルコニウムとの原子数比が3:7となるように加え、110℃、30分加熱攪拌した。次いで、得られた溶液を耐圧容器に移し、120℃まで昇温し、1時間保持した後、常温に戻すことにより、0.1mol/kgのランタン/ジルコニウム混合溶液を調製した。その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行い、ゲート絶縁膜形成溶液(比較例1)を得た。
【0101】
(比較例2)
プロピオン酸に、ランタンアセテートを溶解し、これを、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgのランタン溶液を調製した。次いで、プロピオン酸に、ジルコニウムブトキシドを溶解し、これを、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgのジルコニウム溶液を調製した。調製したランタン溶液およびジルコニウム溶液の各溶液を、ランタンとジルコニウムとの原子数比が3:7となるように混合し、その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行い、ゲート絶縁膜形成溶液(比較例2)を得た。次いで、得られたゲート絶縁膜形成溶液を、オートクレーブに移し、内部温度が180℃になるまで加熱した。この状態で、5時間保持して、容器内を、常温に戻すことにより、オートクレーブ処理したゲート絶縁膜形成溶液(比較例2)を得た。
【0102】
[紫外線吸光度測定]
調製したゲート絶縁膜形成溶液の紫外線吸光度を、紫外可視分光光度計(JASCO International Co., Ltd.社製のV-630紫外可視分光光度計)を用いて測定した。その結果を、図3に示す。
【0103】
図3に示すとおり、ゲート絶縁膜形成溶液(実施例1)は、ゲート絶縁膜形成溶液(比較例1)および(比較例2)と比較し、紫外線波長領域において、吸光度の数値が高かった。
【0104】
したがって、ゲート絶縁膜形成溶液(実施例1)は、ゲート絶縁膜形成溶液(比較例1)および(比較例2)と比較し、より紫外線を吸収するといえる。
【0105】
この結果は、理論に拘束される訳ではないが、以下のような理由によると推測される。
【0106】
ランタン化合物とジルコニウム化合物を溶媒に溶解させると、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)が酸素原子(O)を介して結合しているLa-O-Zrコアが生じ、その周りに、化合物の陰イオンまたは溶媒が配位して、クラスターを形成する。
【0107】
実施例1、比較例1、および比較例2では、化合物の陰イオンおよび/または溶媒のみが相違するため、La-O-Zrコアに配位する陰イオンおよび/または溶媒の種類が、溶液の紫外線吸収度に影響を及ぼすと考えられる。
【0108】
実施例1では、ランタン化合物としてランタンアセチルアセトナートを使用している。アセチルアセトナートは、多くの金属イオンに配位する2座配位子として広く知られており、本溶液中においても、アセチルアセトナートが優先的にコアに配位していると考えられる。他方、比較例1および2では、ゲート絶縁膜形成溶液中に、アセチルアセトナートを含んでいない。
【0109】
したがって、実施例1のゲート絶縁膜形成溶液において、比較例1および比較例2よりも紫外線の吸収が大きかったのは、アセチルアセトナートを含んでいたからであるといえる。
【0110】
[薄膜トランジスタの製造]
(実施例2)
実施例1で調製したゲート絶縁膜形成溶液を用いて、薄膜トランジスタを以下のように製造した。
【0111】
まず、洗浄したSiウェハ基板上に、スパッタリング法により、チタン/白金(Ti/Pt)層からなるゲート電極を形成した。次いで、チタン/白金(Ti/Pt)層が成膜された基板表面に、酸素プラズマによるアッシング処理(15Wで180秒間)を施した。
【0112】
その後、ゲート電極コンタクトのためにAgペーストを基板の四隅に形成した。
【0113】
次に、ゲート電極層上に、スピンコート法(回転数2000rpm、回転時間25秒間)により、実施例1で調製したゲート絶縁膜形成溶液を塗布し、ゲート絶縁膜を形成した。
【0114】
次いで、ゲート絶縁膜を形成した積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10mW/cm2の紫外線を60分間、ゲート絶縁膜の全面に照射して、ゲート絶縁層を形成した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。以上に実施したスピンコート法によるゲート絶縁膜の形成、150℃での加熱および紫外線照射を伴う200℃での加熱の一連の操作を合計3回繰り返すことにより、ゲート絶縁層を3層積層した。ゲート絶縁層の厚みは合計で、50nmであった。
【0115】
続いて、得られた積層体から、先に形成したAgペーストを除去して、測定用ゲート電極出しを行った。
【0116】
その後、ゲート絶縁層上に、スピンコート法(回転数3000rpm、回転時間30秒間)により、酸化物半導体膜形成溶液を塗布した。得られた積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10mW/cm2の紫外線を60分間、酸化物半導体膜の全面に照射して、酸化物半導体層を形成した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。酸化物半導体層の厚みは、20nmであった。なお、酸化物半導体膜形成溶液としては、2-メトキシエタノールに、硝酸インジウムおよび硝酸亜鉛を、インジウムと亜鉛の原子数比が8:1となるように加え、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgに調製したインジウム/亜鉛溶液を使用した。
【0117】
続いて、得られた酸化物半導体層上に、リフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成した。
【0118】
その後、素子分離(酸化物半導体層のパターニング)のため、フォトリソグラフィーによってレジスト膜を形成し、得られた積層体を、ITO-07(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)を用いたウェットエッチングによりエッチングした。
【0119】
次いで、得られた積層体を、200℃のホットプレート上で10分間加熱することにより、薄膜トランジスタを作製した。
【0120】
(比較例3)
実施例1で調製したゲート絶縁膜形成溶液の代わりに、比較例1で調製したゲート絶縁膜形成溶液を用いた以外は、実施例2と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0121】
(比較例4)
実施例1で調製したゲート絶縁膜形成溶液の代わりに、比較例2で調製したゲート絶縁膜形成溶液を用いた以外は、実施例2と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0122】
[薄膜トランジスタの特性評価]
実施例2および比較例3および4で作製した薄膜トランジスタの特性を評価した。具体的には、Semiconductor Parameter Analyzer(Agilent社製4155C)を用いて、ゲート電圧VG(V)-ドレイン電流ID(A)特性およびゲート電圧VG(V)-ゲート電流IG(A)特性を測定した。その結果を、図4Aから図4Cに示す。図4Aは、実施例2の薄膜トランジスタの特性を示しており、図4Bは、比較例3の薄膜トランジスタの特性を示しており、図4Cは、比較例4の薄膜トランジスタの特性を示している。なお、図4Aから図4Cに示す電圧VD=5Vは、薄膜トランジスタのソース電極とドレイン電極間に印加された電圧が5Vであることを示している。
【0123】
この結果によれば、実施例2の薄膜トランジスタのVG-ID特性およびVG-IG特性は、比較例3および4と比較し、良好であった。
【0124】
以上により、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含むゲート絶縁膜形成溶液をTFTの製造に用いることで、プロセス温度を200℃として、良好な電気特性を有するTFTを製造することができることを確認した。
【0125】
以下の実施例において、当該ゲート絶縁膜形成溶液からTFTを製造し、より詳細な電気特性を評価した。
【0126】
<薄膜トランジスタの製造およびトランジスタ特性評価>
[薄膜トランジスタの製造]
(実施例3)
まず、洗浄したSiウェハ基板上に、スパッタリング法により、チタン/白金(Ti/Pt)層からなるゲート電極を形成した。次いで、チタン/白金(Ti/Pt)層が成膜された基板表面に、酸素プラズマによるアッシング処理(15Wで180秒間)を施した。
【0127】
その後、ゲート電極コンタクトのためにAgペーストを基板の四隅に形成した。
【0128】
次に、ゲート電極層上に、スピンコート法(回転数2000rpm、回転時間25秒間)により、ゲート絶縁膜形成溶液を塗布し、ゲート絶縁膜を形成した。なお、ゲート絶縁膜形成溶液は、以下のように調製した。まず、2-メトキシエタノールに、ランタンアセチルアセトナートとジルコニウムブトキシドをランタンとジルコニウムとの原子数比が3:7となるように加え、110℃、30分加熱攪拌した。次いで、この溶液を耐圧容器に移し、160℃まで昇温し、1時間保持した後、常温に戻すことにより0.1mol/kgのランタン/ジルコニウム混合溶液を調製した。その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行い、ゲート絶縁膜形成溶液を得た。
【0129】
次いで、ゲート絶縁膜を形成した積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10mW/cm2の紫外線を60分間、ゲート絶縁膜の全面に照射して、ゲート絶縁層を形成した。以上に実施したスピンコート法によるゲート絶縁膜の形成、150℃での加熱および紫外線照射を伴う200℃での加熱の一連の操作を合計3回繰り返すことにより、ゲート絶縁層を3層積層した。ゲート絶縁層の厚みは合計で、50nmであった。
【0130】
続いて、得られた積層体から、先に形成したAgペーストを除去して、測定用ゲート電極出しを行った。
【0131】
その後、ゲート絶縁層上に、スピンコート法(回転数3000rpm、回転時間30秒間)により、酸化物半導体膜形成溶液を塗布した。得られた積層体を、100℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10mW/cm2の紫外線を60分間、酸化物半導体膜の全面に照射して、酸化物半導体層を形成した。酸化物半導体層の厚みは、20nmであった。なお、酸化物半導体膜形成溶液としては、水に、硝酸インジウムを加え、110℃、回転数1000rpmで30分間撹拌して、0.1mol/kgに調製したインジウム溶液を使用した。
【0132】
続いて、得られた酸化物半導体層上に、リフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成した。
【0133】
その後、素子分離(酸化物半導体層のパターニング)のため、フォトリソグラフィーによってレジスト膜を形成し、得られた積層体を、ITO-07(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)を用いたウェットエッチングによりエッチングした。
【0134】
次いで、得られた積層体を、200℃のホットプレート上に静置し、照度が10mW/cm2の紫外線を照射しながら、10分間加熱することにより、薄膜トランジスタを作製した。
【0135】
[トランジスタの特性評価]
実施例3で製造した薄膜トランジスタに関し、on/off比、閾値電圧(Vth)、サブスレッショルド特性(SS)、電界効果移動度(μsat)、ヒステリシス(Hys)、およびゲートリーク電流(A)を測定して、そのトランジスタ特性を評価した。なお、これらのトランジスタ特性は、Semiconductor Parameter Analyzer(Agilent社製4155C)を用いて測定した。その測定結果を表1に示す。
【0136】
表1 トランジスタ特性の測定結果
【0137】
表1に示すとおり、実施例3の薄膜トランジスタは、良好なトランジスタ特性を有していた。特に、電界効果移動度(μ)が2cm2/Vs以上であり、ゲートリーク電流が8.1×10-10Aと良好であった。
【0138】
以上のとおり、ゲート絶縁膜形成溶液として、ランタン(La)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含む溶液(i)を用いた場合に、薄膜トランジスタは、良好なトランジスタ特性を有していた。次に、ゲート絶縁膜形成溶液として、その他の特定の金属元素と、アセチルアセトナートとを含む溶液(ii)および溶液(iii)を用いた場合の薄膜トランジスタの電気特性を測定した。先ず、溶液(ii)を用いた場合の結果を以下に示す。
【0139】
<薄膜トランジスタの製造>
(実施例4)
まず、洗浄したSiウェハ基板上に、スパッタリング法により、チタン/白金(Ti/Pt)層からなるゲート電極を形成した。次いで、チタン/白金(Ti/Pt)層が成膜された基板表面に、酸素プラズマによるアッシング処理(15Wで180秒間)を施した。
【0140】
その後、ゲート電極コンタクト領域を形成するためにAgペーストを基板の四隅に形成した。
【0141】
次に、ゲート電極層上に、スピンコート法(回転数2000rpm、回転時間25秒間)により、ゲート絶縁膜形成溶液を塗布し、ゲート絶縁膜を形成した。なお、ゲート絶縁膜形成溶液を、以下のように調製した。まず、2-メトキシエタノールに、サマリウムアセチルアセトナートおよびジルコニウムアセチルアセトナートを、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるように加え、110℃、30分加熱攪拌し、0.1mol/kgのサマリウム/ジルコニウム溶液を得た。次いで、得られた溶液を耐圧容器に移し、160℃まで昇温し、1時間保持した後、常温に戻すことにより、0.1mol/kgのサマリウム/ジルコニウム溶液を調製した。その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行い、ゲート絶縁膜形成溶液を得た。
【0142】
次いで、ゲート絶縁膜を形成した積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10.0mW/cm2の紫外線を60分間、ゲート絶縁膜の全面に照射して、ゲート絶縁層を形成した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。以上に実施したスピンコート法によるゲート絶縁膜の形成、150℃での加熱および紫外線照射を伴う200℃での加熱の一連の操作を合計3回繰り返すことにより、ゲート絶縁層を3層積層した。ゲート絶縁層の厚みは合計で50nmであった。
【0143】
続いて、得られた積層体から、先に形成したAgペーストを除去して、測定用ゲート電極出しを行った。
【0144】
その後、ゲート絶縁層上に、スピンコート法(回転数3000rpm、回転時間30秒間)により、酸化物半導体膜形成溶液を塗布し、得られた積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10.0mW/cm2の紫外線を60分間、酸化物半導体膜の全面に照射して、酸化物半導体層(InZnO層)を形成した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。酸化物半導体層の厚みは、15nmであった。なお、酸化物半導体膜形成溶液としては、2-メトキシエタノールに、硝酸インジウムおよび硝酸亜鉛を、インジウムと亜鉛との原子数比が8:1になるように加え、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgに調製したものを使用した。
【0145】
続いて、酸化物半導体層上に、リフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成した。
【0146】
その後、素子分離(酸化物半導体層のパターニング)のため、フォトリソグラフィーによってレジスト膜を形成し、得られた積層体を、ITO-02(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)を用いたウェットエッチングによりエッチングした。
【0147】
次いで、得られた積層体を、200℃のホットプレート上に静置し、照度が10.0mW/cm2の紫外線を照射しながら、10分間加熱することにより、薄膜トランジスタを作製した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。
【0148】
(実施例5)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が2:8となるようにサマリウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加えた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0149】
(実施例6)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が3:7となるようにサマリウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加えた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0150】
(実施例7)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ユウロピウムアセチルアセトナートを用い、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に、硝酸亜鉛を用いず、また2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0151】
(実施例8)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ユウロピウムアセチルアセトナートを用い、ユウロピウムとジルコニウムとの原子数比が2:8となるようにユウロピウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0152】
(実施例9)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ユウロピウムアセチルアセトナートを用い、ユウロピウムとジルコニウムとの原子数比が3:7となるようにユウロピウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0153】
(実施例10)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、イットリウムアセテートを用い、イットリウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにイットリウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0154】
(実施例11)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、セリウムアセテートを用い、セリウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにセリウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0155】
(実施例12)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、プラセオジムアセテートを用い、プラセオジムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにプラセオジムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0156】
(実施例13)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ネオジムアセテートを用い、ネオジムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにネオジムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0157】
(実施例14)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、サマリウムアセテートを用い、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにサマリウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0158】
(実施例15)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ユウロピウムアセテートを用い、ユウロピウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにユウロピウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0159】
(実施例16)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ガドリニウムアセテートを用い、ガドリニウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにガドリニウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0160】
(実施例17)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、テルビウムアセテートを用い、テルビウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにテルビウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0161】
(実施例18)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ジスプロシウムアセテートを用い、ジスプロシウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにジスプロシウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0162】
(実施例19)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ホルミウムアセテートを用い、ホルミウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにホルミウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0163】
(実施例20)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、エルビウムアセテートを用い、エルビウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにエルビウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0164】
(実施例21)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ツリウムアセテートを用い、ツリウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにツリウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0165】
(実施例22)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、イッテルビウムアセテートを用い、イッテルビウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにイッテルビウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0166】
(実施例23)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ルテチウムアセテートを用い、ルテチウムとジルコニウムとの原子数比が1:9となるようにルテチウムアセテートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に硝酸亜鉛を用いず、2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0167】
(実施例24)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムアセチルアセトナートの代わりに、ユウロピウムアセチルアセトナートを用い、ユウロピウムとジルコニウムとの原子数比が4:6となるようにユウロピウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加えた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0168】
(実施例25)
酸化物半導体膜形成溶液の調製時に、硝酸亜鉛の代わりに、硝酸ガリウムを用い、インジウムとガリウムとの原子数比が8:1となるように硝酸インジウムと硝酸ガリウムとを加え、また2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0169】
(実施例26)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が1:99となるようにサマリウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に、硝酸亜鉛を用いず、また2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0170】
(実施例27)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が4:96となるようにサマリウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に、硝酸亜鉛を用いず、また2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0171】
(実施例28)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が8:92となるようにサマリウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加え、酸化物半導体膜形成溶液の調製時に、硝酸亜鉛を用いず、また2-メトキシエタノールの代わりに水を用いた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0172】
(比較例5)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、サマリウムとジルコニウムとの原子数比が1:1となるようにサマリウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートとを加えた以外は、実施例4と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0173】
<トランジスタの特性評価>
上記実施例および比較例で製造した薄膜トランジスタに関し、on/off比、閾値電圧(Vth)、サブスレッショルド特性(SS)、電界効果移動度(μsat)、ヒステリシス(Hys)、およびゲートリーク電流(A)を測定して、そのトランジスタ特性を評価した。なお、これらのトランジスタ特性は、Semiconductor Parameter Analyzer(Agilent社製4155C)を用いて測定した。その測定結果を表2に示す。

【0174】
(表2-1)
表2 トランジスタ特性の測定結果








【0175】
(表2-2)
(表2の続き)
【0176】
表2に示すとおり、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、およびYからなる群から選択される金属元素とZrとの原子数比が1:1.5~1:99である実施例4~28の薄膜トランジスタは、非常に良好な電気特性を有していた。薄膜トランジスタを、例えば高精細または大面積のディスプレイに適用する場合には、その駆動のために、概ね50cm2/vs以上の電界効果移動度が求められるところ、実施例4~28の薄膜トランジスタは、その要求を満たすものであった。
【0177】
他方、比較例5の薄膜トランジスタは、実施例4~28と比較し、その電気特性は非常に劣るものであった。このように、ゲート絶縁層を構成する酸化物において、金属元素(Sm)とジルコニウム(Zr)との原子数比が1:1程度であると電気特性の悪化が顕著であった。
【0178】
以上のとおり、実施例4~28の薄膜トランジスタは、プロセス温度を200℃として製造した場合であっても、非常に良好な電気特性を有していた。このことから、当該薄膜トランジスタおよびその製造方法を、フレキシブルディスプレイ用途など幅広い用途に適用することが可能である。
【0179】
次に、ゲート絶縁膜形成溶液として溶液(iii)を用いた場合の結果を以下に示す。
【0180】
<薄膜トランジスタの製造>
(実施例29)
まず、洗浄したSiウェハ基板上に、スパッタリング法により、チタン/白金(Ti/Pt)層からなるゲート電極を形成した。次いで、チタン/白金(Ti/Pt)層が成膜された基板表面に、酸素プラズマによるアッシング処理(15Wで180秒間)を施した。
【0181】
その後、ゲート電極コンタクト領域を形成するためにAgペーストを基板の四隅に形成した。
【0182】
次に、ゲート電極層上に、スピンコート法(回転数2000rpm、回転時間25秒間)により、ゲート絶縁膜形成溶液を塗布し、ゲート絶縁膜を形成した。なお、ゲート絶縁膜形成溶液を、以下のように調製した。まず、2-メトキシエタノールに、ジルコニウムアセチルアセトナートを加え、110℃、30分加熱攪拌し、0.4mol/kgのジルコニウム溶液を得た。次いで、得られた溶液を耐圧容器に移し、160℃まで昇温し、1時間保持した後、常温に戻すことにより、0.4mol/kgのジルコニウム溶液を調製した。その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行い、ゲート絶縁膜形成溶液を得た。
【0183】
次いで、ゲート絶縁膜を形成した積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10.0mW/cm2の紫外線を60分間、ゲート絶縁膜の全面に照射して、ゲート絶縁層を形成した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。以上に実施したスピンコート法によるゲート絶縁膜の形成、150℃での加熱および紫外線照射を伴う200℃での加熱の一連の操作を合計3回繰り返すことにより、ゲート絶縁層を3層積層した。ゲート絶縁層の厚みは合計で50nmであった。
【0184】
続いて、得られた積層体から、先に形成したAgペーストを除去して、測定用ゲート電極出しを行った。
【0185】
その後、ゲート絶縁層上に、スピンコート法(回転数3000rpm、回転時間30秒間)により、酸化物半導体膜形成溶液を塗布し、得られた積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に5分間静置、加熱した後、温度を上昇させて200℃とし、同温にて加熱しながら、照度が10.0mW/cm2の紫外線を60分間、酸化物半導体膜の全面に照射して、酸化物半導体層(InO層)を形成した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。酸化物半導体層の厚みは、15nmであった。なお、酸化物半導体膜形成溶液としては、水に、硝酸インジウムを加え、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgに調製したものを使用した。
【0186】
続いて、酸化物半導体層上に、リフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成した。
【0187】
その後、素子分離(酸化物半導体層のパターニング)のため、フォトリソグラフィーによってレジスト膜を形成し、得られた積層体を、ITO-02(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)を用いたウェットエッチングによりエッチングした。
【0188】
次いで、得られた積層体を、200℃のホットプレート上に静置し、照度が10.0mW/cm2の紫外線を照射しながら、10分間加熱することにより、薄膜トランジスタを作製した。ここで、紫外線の照射は、UVオゾンクリーナー(サムコ社製UV-300H-E)を用いて行った。
【0189】
(実施例30)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、ジルコニウムアセチルアセトナートの代わりにハフニウムアセチルアセトナートを用いた以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0190】
(実施例31)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、ジルコニウムアセチルアセトナートの代わりにアルミニウムアセチルアセトナートを用いた以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0191】
(実施例32)
酸化物半導体形成溶液の調製時に、硝酸インジウムと硝酸亜鉛を、インジウムと亜鉛との原子数比が8:2となるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0192】
(実施例33)
酸化物半導体形成溶液の調製時に、硝酸インジウムと硝酸ガリウムを、インジウムとガリウムとの原子数比が8:2となるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0193】
(実施例34)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、ジルコニウムアセチルアセトナートの代わりにハフニウムアセチルアセトナートを用い、酸化物半導体形成溶液の調製時に、硝酸インジウムと硝酸亜鉛を、インジウムと亜鉛との原子数比が8:2となるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0194】
(実施例35)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、ジルコニウムアセチルアセトナートの代わりにハフニウムアセチルアセトナートを用い、酸化物半導体形成溶液の調製時に、硝酸インジウムと硝酸ガリウムを、インジウムとガリウムとの原子数比が8:2となるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0195】
(実施例36)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、アルミニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、アルミニウムとジルコニウムとの原子数比が9:1になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0196】
(実施例37)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、アルミニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、アルミニウムとジルコニウムとの原子数比が7:3になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0197】
(実施例38)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、アルミニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、アルミニウムとジルコニウムとの原子数比が1:1になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0198】
(実施例39)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、アルミニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、アルミニウムとジルコニウムとの原子数比が3:7になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0199】
(実施例40)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、アルミニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、アルミニウムとジルコニウムとの原子数比が1:9になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0200】
(実施例41)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、ハフニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、ハフニウムとジルコニウムとの原子数比が1:1になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0201】
(実施例42)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、ハフニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、ハフニウムとジルコニウムとの原子数比が9:1になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0202】
(実施例43)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、アルミニウムアセチルアセトナートとハフニウムアセチルアセトナートとジルコニウムアセチルアセトナートを、アルミニウムとハフニウムとジルコニウムとの原子数比が1:1:1になるように混合した以外は、実施例29と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0203】
<トランジスタの特性評価>
製造した薄膜トランジスタに関し、on/off比、閾値電圧(Vth)、サブスレッショルド特性(SS)、電界効果移動度(μsat)、ヒステリシス(Hys)、およびゲートリーク電流(A)を測定して、そのトランジスタ特性を評価した。なお、これらのトランジスタ特性は、Semiconductor Parameter Analyzer(Agilent社製4155C)を用いて測定した。その測定結果を表3に示す。

【0204】
表3 トランジスタ特性の測定結果
【0205】
表3に示すとおり、実施例29~43の薄膜トランジスタは、非常に良好な電気特性を有していた。薄膜トランジスタを、例えば高精細または大面積のディスプレイに適用する場合には、その駆動のために、概ね50cm2/vs以上の電界効果移動度が求められるところ、実施例29~43の薄膜トランジスタは、その要求を満たすものであった。
【0206】
以上のとおり、実施例29~43の薄膜トランジスタは、プロセス温度を200℃として製造した場合であっても、非常に良好な電気特性を有していた。このことから、当該薄膜トランジスタおよびその製造方法を、フレキシブルディスプレイ用途など幅広い用途に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0207】
10 薄膜トランジスタ
12 基板
14 ゲート電極
16 ゲート絶縁層
16’ ゲート絶縁膜
18 酸化物半導体層
18’ 酸化物半導体膜
32 ソース電極
34 ドレイン電極
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C