(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】吸着走行装置
(51)【国際特許分類】
B62D 55/265 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
B62D55/265
(21)【出願番号】P 2021099843
(22)【出願日】2021-06-16
(62)【分割の表示】P 2018560411の分割
【原出願日】2018-01-06
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2017001487
(32)【優先日】2017-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500293434
【氏名又は名称】インダストリーネットワーク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597165618
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】大橋 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】赤木 琢也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼櫻 裕一
(72)【発明者】
【氏名】岡部 明
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5487440(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0048081(US,A1)
【文献】特開平03-000581(JP,A)
【文献】特開平05-111882(JP,A)
【文献】特開平08-216707(JP,A)
【文献】特開平11-002348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/265
B62D 53/00
B62D 55/00
B62D 57/00
B25J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行面に吸着して走行する吸着走行装置において、
複数の吸着孔が形成された無端走行帯を有する第1駆動部および第2駆動部と、
空気吸引装置によって減圧されるメイン減圧室と、該メイン減圧室に連通し前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれに配置されるサブ減圧室と、
前記サブ減圧室の前記吸着孔の配置側に設けられ、前記サブ減圧室と複数の前記吸着孔の各々を連通する複数の通気孔と、を有し、
前記無端走行帯は、走行駆動力が伝達される動力伝達ベルトと軟弾性体の走行帯との2層構造を有し、前記走行帯が長さ方向に圧縮した状態で前記動力伝達ベルトに固着されており、前記動力伝達ベルトの前記サブ減圧室側に軟弾性体の帯状部材と摺動テープとが積層された吸着帯をさらに有し、
前記無端走行帯においては、前記動力伝達ベルトの幅方向の中央に前記動力伝達ベルトの内側の走行方向全周に亘って溝が設けられており、
前記吸着帯は、前記溝の内部に埋め込まれ固着されており、かつ、前記通気孔と前記吸着孔とに連通可能な孔を有し、
前記走行面に吸着して走行する際に、前記摺動テープは前記サブ減圧室の前記走行面側の外殻面に密接しつつ摺動するように配置されていることを特徴とする吸着走行装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着走行装置において、
前記通気孔の各々を解放したり閉鎖したりする開閉手段、をさらに有し、
前記開閉手段は、前記走行面と前記吸着孔で形成される複数の吸着室の気圧が前記サブ減圧室の気圧と同じであるときに前記通気孔を解放し、前記吸着室の気圧が前記サブ減圧室の気圧よりも高くなるときに前記通気孔を閉鎖し、
前記通気孔を閉鎖した際に、前記通気孔には前記サブ減圧室の気圧が他の前記吸着室の気圧に影響しない程度の大きさの隙間が形成されることを特徴とする吸着走行装置。
【請求項3】
請求項
1または請求項2に記載の吸着走行装置において、
前記吸着孔は、前記サブ減圧室側の開口面積が前記
走行面である壁面側の開口面積よりも小さい、
ことを特徴とする吸着走行装置。
【請求項4】
請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の吸着走行装置において、
前記メイン減圧
室の前記
走行面側の底部に固定される取付け部材を有し、
前記取付け部材の一部は前記第1駆動部および前記第2駆動部の外側に作業用装置などを取り付け可能な枠部が突設している、
ことを特徴とする吸着走行装置。
【請求項5】
請求項4に記載の吸着走行装置において、
前記吸着走行装置が、前記メイン減圧室に固定された前記取付け部材及び連結手段によって走行方向または/および走行方向に直交する方向に複数連結されている、
ことを特徴とする吸着走行装置。
【請求項6】
請求項5に記載の吸着走行装置において、
前記連結手段は、隣接する前記取付け部材の間に配置される連結板と、前記取付け
部材と前記連結板とを連結するヒンジを有する、
ことを特徴とする吸着走行装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の吸着走行装置において、
前記外殻面には、前記吸着帯を挟んで幅方向両側に外周面の一部が前記外殻面より突出する複数のローラが長手方向に配列されており、
前記走行面に吸着して走行する際に、前記ローラは前記動力伝達ベルトによって転動するように配置されている、
ことを特徴とする吸着走行装置。
【請求項8】
複数の吸着孔が形成された無端走行帯と、前記吸着孔側の空気を吸入する空気吸引装置と、を有し、前記無端走行帯が走行面に吸着し姿勢を保持すると共に回転することで前進または後進の少なくとも一方を行う吸着走行装置において、
前記無端走行帯は、走行駆動力が伝達される動力伝達ベルトと軟弾性体の走行帯との2層構造を有し、前記走行帯が長さ方向に圧縮した状態で前記動力伝達ベルトに固着されており、軟弾性体の帯状部材と摺動テープとが積層された吸着帯をさらに有し、
前記無端走行帯においては、前記動力伝達ベルトの幅方向の中央に前記動力伝達ベルトの内側の走行方向全周に亘って溝が設けられており、
前記吸着帯は、前記溝の内部に埋め込まれ固着されており、かつ、本体側に設けられる前記吸着孔と連通可能に設置される複数の通気孔と前記吸着孔とに連通可能な孔を有することを特徴とする吸着走行装置。
【請求項9】
請求項8に記載の吸着走行装置において、
前記空気吸引装置による減圧を前記吸着孔側に及ぼしたり、及ぼさなかったりするための開閉手段を設け、
前記開閉手段は、前記吸着孔側が外部空間と連通しない状態時には開くことで、前記吸着孔を減圧し、前記吸着孔側が外部空間と連通し大気圧となっている状態時には、わずかな隙間を有しつつ閉じることで前記連通しない状態に復帰したときに、前記開閉手段が閉じた状態を継続してしまい、前記吸着孔側が減圧されなくなることを防ぐように構成されることを特徴とする吸着走行装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の吸着走行装置において、
前記溝の底面は、平面であることを特徴とする吸着走行装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の吸着走行装置において、
前記無端走行帯を駆動させる駆動輪は、前記動力伝達ベルトの前記吸着帯と対向する領域を挟んで幅方向両側に歯形が形成されており、前記動力伝達ベルトの前記吸着帯と対向する領域には、歯形が形成されておらず、前記吸着帯と前記駆動輪との間に空隙が設けられていることを特徴とする吸着走行装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の吸着走行装置において、
前記無端走行帯を駆動させる駆動輪は、前記吸着帯を挟んで2つの駆動輪部に分割されており、
2つの前記駆動輪部は、シャフトで接続されており、前記吸着帯と前記シャフトとの間に空間が形成されていることを特徴とする吸着走行装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の吸着走行装置において、
前記動力伝達ベルトの前記吸着帯を挟んで幅方向両側には、前記無端走行帯を駆動させる駆動輪の歯形に歯合する、前記動力伝達ベルトの歯形が形成されており、
前記吸着帯は、前記動力伝達ベルトの歯形の先端よりも突出する厚みを有することを特徴とする吸着走行装置。
【請求項14】
請求項
2または請求項9に記載の吸着走行装置において、
前記開閉手段は、前記無端走行帯が対向する本体側に配置され、前記本体側に設けられる前記吸着孔と連通可能に設置される複数の通気孔の各々を解放したり閉鎖したりする弁体と、前記通気孔が解放される方向に前記弁体を付勢する弾性部材と、から構成されている、
ことを特徴とする吸着走行装置。
【請求項15】
請求項
8または請求項9に記載の吸着走行装置において、
前記無端走行帯を有する第1駆動部および第2駆動部と、
前記空気吸引装置によって減圧されるメイン減圧室と、該メイン減圧室に連通し前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれに配置されるサブ減圧室と、を備え、
前記サブ減圧室の前記無端走行帯側の外殻面には、前記吸着帯を挟んで幅方向両側に外周面の一部が前記外殻面より突出する複数のローラが長手方向に配列されており、
前記走行面に吸着して走行する際に、前記ローラは前記動力伝達ベルトによって転動するように配置されている、
ことを特徴とする吸着走行装置。
【請求項16】
走行面に吸着して走行する吸着走行装置において、
複数の吸着孔が形成された無端走行帯を有する第1駆動部および第2駆動部と、
空気吸引装置によって減圧されるメイン減圧室と、該メイン減圧室に連通し前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれに配置されるサブ減圧室と、
前記サブ減圧室の前記吸着孔の配置側に設けられ、前記サブ減圧室と複数の前記吸着孔の各々を連通する複数の通気孔と、を有し、
前記無端走行帯は、走行駆動力が伝達される動力伝達ベルトと軟弾性体の走行帯との2層構造を有し、前記走行帯が長さ方向に圧縮した状態で前記動力伝達ベルトに固着されており、軟弾性体の帯状部材と摺動テープとが積層された吸着帯をさらに有し、
前記無端走行帯においては、前記動力伝達ベルトの幅方向の中央に前記動力伝達ベルトの内側の走行方向全周に亘って溝が設けられており、
前記吸着帯は、前記サブ減圧室の前記動力伝達ベルト側に固着されており、前記溝内を通過できるように構成されており、かつ、前記通気孔と前記吸着孔とに連通可能な孔を有し、
前記走行面に吸着して走行する際に、前記摺動テープは前記溝の底面に密接しつつ摺動するように配置されていることを特徴とする吸着走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルの壁や高速道路の高架、橋脚など、大型建造物の壁面(ガラス面を含む。)の保守点検や洗浄などの作業をするためには、壁面を自走できる走行装置が望まれている。このような走行装置としては、軟弾性体で形成された無端走行帯(クローラと呼ばれることがある。)に区画壁で区画された壁面側に吸着開口を有する複数の吸着孔を設け、この吸着孔から壁面を真空吸引することで走行装置を壁面に吸着させて走行する吸着走行装置というものがある(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2015/0375814号明細書
【文献】特開平2-14982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の吸着走行装置は、減圧室と吸着室の間に開閉弁を配置し、吸着室内の気圧が大気圧になるときには開閉弁を閉じ、減圧室内と吸着室内の気圧が同じときには開閉弁を開けるようになっている。しかし、吸着室内の気圧が減圧室内の気圧よりも高いと、その気圧差によって開閉弁が開かなくなってしまうことがある。このような場合、開閉弁が機能しなくなり吸着力が低下するという課題がある。
【0005】
また、特許文献2に記載の吸着走行装置は、無端走行帯の壁面側に設けられた吸着孔から、通気孔および減圧室を介して真空吸引し、壁面に吸着して走行することが可能になっている。吸着孔は区画壁によって区画されて吸着室を構成しているが、無端走行帯は軟弾性体であり、しかも区画壁が単純な直方体で幅が狭いため、強い吸着力によって座屈変変形しやすい構造となっていて、区画壁が変形すると壁面との間で空気漏れが発生する。すると、減圧室が大気圧(正圧)となり吸着力が著しく低下してしまうという課題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の無端走行帯は、軟弾性体を原材料のままでタイミングベルトに接着されているため、壁面に段差などがあると、段差形状に無端走行帯が追従できずに隙間ができてしまい吸着力が低下してしまうという課題がある。
【0007】
また、特許文献1および特許文献2に記載の吸着走行装置は、この吸着走行装置を進行方向(縦方向)に複数台連結したり、進行方向に対して直交する方向(横方向)に複数台連結したりすることができない。したがって、複数台の吸着走行装置で吸着力を補完しあうことができず壁面の状態によっては走行できない場合が発生する。また、1台では重量物の運搬(取付け)ができないことや、広い面積の壁面の保守点検を行う場合など作業時間が長くなってしまうという課題もある。
【0008】
そこで、本発明は、従来の吸着走行装置(上記特許文献記載の吸着走行装置を含む)が持つ課題の少なくとも一つを解決するためになされたものである。たとえば、安定した吸着力を維持できる吸着走行装置を提供したり、面積の広い壁面や天井などであっても壁面作業を効率的に行うことができる吸着走行装置を提供したり、または重量が大きい作業用装置を搭載できるようになる吸着走行装置を提供したりするものである。
【0009】
[1]本発明の吸着走行装置は、走行面に吸着して走行する吸着走行装置において、複数の吸着孔が形成された無端走行帯を有する第1駆動部および第2駆動部と、空気吸引装置によって減圧されるメイン減圧室と、該メイン減圧室に連通し前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれに配置されるサブ減圧室と、前記サブ減圧室の前記吸着孔の配置側に設けられ、前記サブ減圧室と複数の前記吸着孔の各々を連通する複数の通気孔と、複数の前記通気孔の各々を解放したり閉鎖したりする開閉手段と、を有し、前記開閉手段は、前記壁面と前記吸着孔で形成される複数の前記吸着室の気圧が前記サブ減圧室の気圧と同じであるときに前記通気孔を解放し、前記吸着室の気圧が前記サブ減圧室の気圧よりも高くなるときに前記通気孔を閉鎖し、前記通気孔を閉鎖した際に、前記通気孔には前記サブ減圧室の気圧が他の前記吸着室の気圧に影響しない程度の大きさの隙間が形成されることを特徴とする。
【0010】
[2]本発明の吸着走行装置においては、前記吸着孔は、前記サブ減圧室側の開口面積が前記壁面側の開口面積よりも小さいことが好ましい。
【0011】
[3]本発明の吸着走行装置においては、前記メイン減圧室部の前記壁面側の底部に固定される取付け部材を有し、前記取付け部材の一部は前記第1駆動部および前記第2駆動部の外側に作業用装置などを取り付け可能な枠部が突設していることが好ましい。
【0012】
[4]本発明の吸着走行装置においては、前記吸着走行装置が、前記メイン減圧室に固定された前記取付け部材及び連結手段によって走行方向または/および走行方向に直交する方向に複数連結されていることが好ましい。
【0013】
[5]本発明の吸着走行装置においては、前記連結手段は、隣接する前記取付け部材の間に配置される連結板と、前記取付け板と前記連結板とを連結するヒンジを有することが好ましい。
【0014】
[6]本発明の吸着走行装置は、複数の吸着孔が形成された無端走行帯と、前記吸着孔側の空気を吸入する空気吸引装置と、を有し、前記無端走行帯が走行面に吸着し姿勢を保持すると共に回転することで前進または後進の少なくとも一方を行う吸着走行装置において、前記空気吸引装置による減圧を前記吸着孔側に及ぼしたり、及ぼさなかったりするための開閉手段を設け、前記開閉手段は、前記吸着孔側が外部空間と連通しない状態時には開くことで、前記吸着孔を減圧し、前記吸着孔側が外部空間と連通し大気圧となっている状態時には、わずかな隙間を有しつつ閉じることで前記連通しない状態に復帰したときに、前記開閉手段が閉じた状態を継続してしまい、前記吸着孔側が減圧されなくなることを防ぐように構成されていることを特徴とする。
【0015】
[7]本発明の吸着走行装置においては、前記開閉手段は、前記無端走行帯が対向する本体側に配置され、前記本体側に設けられる前記吸着孔と連通可能に設置される複数の通気孔の各々を解放したり閉鎖したりする弁体と、前記通気孔が解放される方向に前記弁体を付勢する弾性部材と、から構成されていることが好ましい。
【0016】
[8]本発明の吸着走行装置においては、前記無端走行帯は、走行駆動力が伝達される動力伝達ベルトと軟弾性体の走行帯との2層構造を有し、前記走行帯が長さ方向に圧縮した状態で前記動力伝達ベルトに固着されていることが好ましい。
【0017】
[9]本発明の吸着走行装置においては、前記無端走行帯は、前記動力伝達ベルトの前記サブ減圧室部側に軟弾性体の帯状部材と摺動テープとが積層された吸着帯をさらに有し、前記吸着帯は、前記無端走行帯の幅方向中央部に固定され、かつ前記通気孔と前記吸着孔とに連通可能な孔を有し、前記走行面に吸着して走行する際に、前記摺動テープは前記サブ減圧室の前記走行面側の外殻面に密接しつつ摺動するように配置されていることが好ましい。
【0018】
[10]本発明の吸着走行装置においては、前記外殻面には、前記吸着帯を挟んで幅方向両側に外周面の一部が前記外殻面より突出する複数のローラが長手方向に配列されており、前記走行面に吸着して走行する際に、前記ローラは前記動力伝達ベルトによって転動するように配置されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る吸着走行装置を示す外観斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る吸着走行装置を壁面側から見た斜視図で、無端走行帯を分解した図である。
【
図3】
図1および
図2に示す吸着走行装置が有する吸着孔の断面構成の一部を拡大して示す断面図であり、(A)は本発明者が従前に創作した技術による構成、(B)は本発明の実施の形態による構成を表している。
【
図4】
図1および
図2に示す吸着走行装置が有する開閉手段の構成の1例および作用を説明する図で、構成要素を模式的に表す説明図である。
【
図5】
図1および
図2に示す吸着走行装置が有する無端走行帯の構成および作用を示す説明図であり、(A)は無端走行帯の製造方法を示す斜視図、(B)は本発明者が従前に創作した技術による無端走行帯が段差のある壁面を走行する状態、(C)は本発明の実施の形態による無端走行帯が段差のある壁面を走行する状態を示す部分断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係る取付け枠が固定された吸着走行装置を示し、(A)は壁面側から見た平面図、(B)は前方側から見た正面図である。
【
図7】本発明の第3の実施の形態に係る吸着走行装置を示し、走行方向(前後方向)に複数台連結された例を示す図で、(A)は上方側から見た平面図、(B)は(A)の左方側から見た側面図である。
【
図8】本発明の第4の実施の形態に係る吸着走行装置を走行方向(前後方向)および走行方向に直交する方向(左右方向)に複数台連結した例を示す平面図である。
【
図9】本発明の第1~第4の実施の形態に係る吸着走行装置や他の吸着走行装置に使用可能な第1の無端走行帯周辺例で、無端走行帯がサブ減圧室部31に装着された状態を示す断面図である。
【
図10】第1の無端走行帯周辺例において、第2駆動部が走行面である壁面に吸着した状態を示す断面図である。
【
図11】本発明の第1~第4の実施の形態に係る吸着走行装置や他の吸着走行装置に使用可能な第2の無端走行帯周辺例で、無端走行帯と駆動輪の関係を示す断面図である。
【
図12】本発明の第1~第4の実施の形態に係る吸着走行装置や他の吸着走行装置に使用可能な第3の無端走行帯周辺例で、サブ減圧室部の構成を拡大して示す部分断面図である。
【
図13】サブ減圧室部に設けられる通気孔の配列を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る吸着走行装置1について、
図1~
図8を参照して説明する。本発明の吸着走行装置1は、垂直もしくは急斜面の壁面などに吸着して自在に走行可能な装置であって、たとえば、ビルの壁や高速道路の高架、橋脚など、大型建造物の壁面(ガラス面を含む)の保守点検や洗浄などの作業に好適に使用可能な走行装置である。
【0021】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る吸着走行装置1を示す外観斜視図である。なお、以下に説明する図面は、
図1において、図示左側を左方、右側を右方、紙面の表側を上方、その反対側を下方または壁面側と表し説明する。なお、吸着走行装置1の走行方向は自在であるが、ここでは、図示左上方向を前方または前進方向とし、その逆側を後方または後進方向と表し説明する。
図1に示すように、吸着走行装置1は、左右両端に配置される第1駆動部2および第2駆動部3を有している。第1駆動部2と第2駆動部3は、同じ構成であるが、減圧室部4を挟んで対向するように配置されている。
【0022】
減圧室部4の上方には、空気吸引装置であるブロワモータユニット5が配置されている。ブロワモータユニット5は、第1駆動部2と第2駆動部3の左右の中間位置に配置され、吸着走行装置1の全体の略中央部に配置されている。また、ブロワモータユニット5は、減圧室部4の水平方向の中央部に、かつ上方に立ち上がるように配置されている。ブロワモータユニット5の後方側には、ギヤボックス6が配置されている。ギヤボックス6内には、上方側に第1駆動部2に回転駆動力を与える第1モータ7と、下方側に第2駆動部3に回転駆動力を与える第2モータ8とを備えている。第1モータ7および第2モータ8は、いわゆるギヤードモータであって、第1駆動部2と第2駆動部3に対して適切な回転速度に減速して動力を出力する。なお、第1モータ7と第2モータ8は、各々独立して自在に駆動制御することが可能となっているので、吸着走行装置1を前進させたり後進させたり、あるいは、進行方向を曲げたり、旋回させたりすることができる。
【0023】
第1モータ7にはスプロケット9が軸固定されていて、駆動輪10側のスプロケット11にチェーン12によって駆動力が伝達される。スプロケット11は、駆動輪10に軸固定されていて駆動輪10を回転させる。第2駆動部3側においても、第2モータ8にはスプロケット13が軸固定されていて、駆動輪14側のスプロケット15にチェーン12によって駆動力が伝達される。スプロケット15は、駆動輪14に軸固定され駆動輪14を回転させる。第1駆動部2および第2駆動部3のそれぞれ前方側には従動輪16、6が配置されている。
図1では、第1駆動部2側の従動輪16の図示は省略しているが後述する
図2に示している。駆動輪10,14と従動輪16、16は、外周にそれぞれが左右に伸びる凸部と凹部が周方向に交互に形成されている(以下「歯型」と記載)。第1駆動部2側において、駆動輪10と従動輪16には、無端走行帯20が装着されている。また、第2駆動部3側において、駆動輪14と従動輪16には他の無端走行帯20が装着されている。無端走行帯20,20には、長辺方向に複数の吸着孔21が配置されている。吸着孔21は、無端走行帯20,20の全周に亘って同じ大きさで等間隔に形成され、厚み方向に貫通している。なお、
図1では、吸着孔21の構成を簡略化して表している。吸着孔21の構成は、
図3および
図4を参照して詳しく説明する。
【0024】
ブロワモータユニット5は、ブロワケース22内に減圧室部4の空気を吸引するブロワポンプ23と、ブロワポンプ23を回転するブロワモータ24を内蔵している。ブロワケース22の側面には、ブロワポンプ23によって減圧室部4から吸引された空気を外部に排出する排気口25が形成されている。また、ブロワモータユニット5の上端部には、ブロワモータ24の冷却用フィン26が設けられている。ブロワポンプ23は、周知の傘型ターボファンを有し減圧室部4内から空気を吸引して減圧室部4を減圧するものである。ブロワポンプ23およびブロワモータ24は、周知のものを採用することが可能である。なお、ブラワモータ24に冷却用ファンを設けるようにしてもよい。
【0025】
次に、第1駆動部2、第2駆動部3および無端走行帯20について
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0026】
図2は、吸着走行装置1を壁面側(下方側)から見た斜視図で、無端走行帯20を分解して表した図である。減圧室部4は、略H字状に展開されている。減圧室部4は、中央部のメイン減圧室部30と、メイン減圧室部30の左右両側に配置される1対のサブ減圧室部31とから構成されている。これによって
図2に示すように、全体として略H字状に展開されている。メイン減圧室部30の内部空間をメイン減圧室32とし、サブ減圧室部31の内部空間をサブ減圧室33とする。メイン減圧室32とサブ減圧室33は、不図示の孔によって連通されている。左右両側のサブ減圧室部31,31の構成は同じである。2か所のサブ減圧室部31,31は、それぞれメイン減圧室部30の左右両側の側壁に一体となるよう固定されている。各サブ減圧室部31,31には、底部34を貫通する複数の通気孔35が前後方向に等間隔で配列されている。複数の通気孔35は、同じ長さ(距離)で比較した場合、無体走行帯20に設けられた吸着孔21の数よりも多く配列されている。すなわち、無体走行帯20の駆動途中のどんな場合においても、吸着孔21と通気孔35は少なくともそれぞれの一部が連通するように配置されている。
【0027】
ギヤボックス6は、メイン減圧室部30の側壁である後方壁部36に固定され、
図1において説明したように第1モータ7および第2モータ8がギヤボックス6内に取り付けられている。
図1および
図2に示すように、第1駆動部2および第2駆動部3において、各サブ減圧室部31,31の外側側壁部37の後方側には、駆動輪支持板38が固定されている。また、各サブ減圧室部31,31の内側側壁部39の後方側には、駆動輪支持板40が固定されている。駆動輪10、14は、それぞれ駆動輪支持板38と駆動輪支持板40の間に配置され、不図示のボールベアリングなどで回転可能に支持されている。駆動輪10,14の外周には、上述のように歯型が形成されている。
【0028】
一方、各サブ減圧室部31,31の外側側壁部37の前方側には、従動輪支持板41が固定されている。また、各サブ減圧室部31,31の内側側壁部39の前方側には、従動輪支持板42が固定されている。二つの従動輪16,16は、それぞれ従動輪支持板41と従動輪支持板42の間に配置され、不図示のボールベアリングなどで回転可能に支持されている。従動輪16、16の外周には歯型が形成されている。
図1、
図2に示すように、各駆動輪支持板38,40および各従動輪支持板41,42には、サブ減圧室部31に不図示のねじなどで取付けるための長孔43が設けられている。この長孔43によって、各駆動輪支持板38,40および各従動輪支持板41,42を前後方向に移動させることができる。このことによって駆動輪10,14および従動輪16,16を前後方向に移動させて、各無端走行帯20,20を適切なテンションとなるように調整可能にしている。また、各無端走行帯20,20は、外側の駆動輪支持板38と内側の駆動輪維持板40、外側の従動輪支持板41と内側の従動輪支持板42とで挟まれ、駆動輪10,14および従動輪16,16から逸脱しないように位置規制されている。
【0029】
図2に示すように、無端走行帯20は、内側の動力伝達ベルトの1例であるタイミングベルト45と外側の走行帯46とが積層および固着されている。タイミングベルト45の厚みは走行帯46よりもはるかに薄く、軟弾性材料で形成されることが好ましい。タイミングベルト45の内側には、凸部と凹部がそれぞれ左右方向に伸び、かつ前後方向に隣接して配設される形状となる歯型が形成され、この歯型と駆動輪10,14および従動輪16,16に形成された歯型とが歯合して、滑りなく駆動輪10,14の回転を無端走行帯20,20の前後方向の直線運動に変換する。無端走行帯20,20に設けられた吸着孔21は、その中心部分の貫通孔49が走行帯46およびタイミングベルト45を貫通し、通気孔35に連通する(
図3(B)参照)。なお、
図2では、貫通孔49の図示を省略している。走行帯46は、多孔質の半独立半連続気泡体によって形成されている。半独立半連続気泡体とは、たとえば、EPDM(エチレンプロピレンゴム)の発泡体などのように多孔質ながら気密性を有し、軟弾性を有していて圧縮しやすい材質のものをいう。また、壁面に対して摩擦係数が大きく滑りにくいものが好ましい。なお、タイミングベルト45は、カムベルトやコグトベルトなどと呼称されることがある。また、走行帯46は建設用重機などではクローラなどと呼称される。タイミングベルト45は、サブ減圧室33の底部34を摺動する。次に、無端走行帯20に設けられる吸着孔21の構成について
図3を参照して説明する。
【0030】
図3は、吸着孔21の断面構成の一部を拡大して示す断面図であり、(A)は本発明者が従前に創作した技術による構成(以下、従前創作技術という。)、(B)は本実施の形態による構成を表している。なお、
図3(A),(B)は、対比して説明するために同じ機能部には同じ符号を付している。
図3(A)に示すように、従来技術による無端走行帯20は、タイミングベルト45と走行帯46とから構成され、タイミングベルト45と走行帯46とを同じ開口面積を有する吸着孔21が貫通している。走行帯46において、隣接する吸着孔21の間は区画壁50で仕切られている(
図2も参照する)。サブ減圧室33の底部34には、吸着孔21に連通する通気孔35が設けられている。区画壁50は、前後方向に幅が狭い直方体である。吸着室47は、通気孔35と壁面Wとで構成される空間である。サブ減圧室33(吸着室47)を減圧すると、走行帯46は壁面Wに吸着され区画壁50は上下方向に圧縮される。前述したように、走行帯46は、軟弾性を有し圧縮されやすい材質で形成されているため、壁面Wを吸着したとき、上下方向の圧縮力によって、
図3(A)において二点鎖線(50a)で表すように座屈変形しやすい。なお、変形後の形状は、誇張して表してある。このように、区画壁50が変形すると、壁面Wと走行帯46との間で空気漏れが発生することがあり吸着力が不安定になる。そこで、本実施の形態では、
図3(B)に示すように、吸着孔21(吸着室47)を2段孔構成としている。
【0031】
図3(B)に示すように、吸着孔21は、壁面W側に開口する上方から見て四角形状の吸着凹部48と、吸着凹部48から走行帯46およびタイミングベルト45をサブ減圧室33まで貫通する貫通孔49とで構成されている。貫通孔49は吸着凹部48の中心部に形成され、平面四角形状の立方体とされている。言い換えれば、区画壁50の壁面Wに接触する側の区画壁50の柱状部は、従前創作技術と同じ幅の形状とし、サブ減圧室33側の柱状部は壁面W側よりも断面積をはるかに大きくしているといえる。このようにすれば、壁面Wを強く吸着しても区画壁50はほとんど座屈変形することがない。吸着凹部48の深さは、走行帯46が走行中に圧縮された状態でも、壁面Wとの隙間ができなければ深くてもよい。なお、吸着凹部48の開口面積を従前創作技術の吸着孔21の開口面積と同じにすれば、吸着力が低下することはない。ここで、吸着凹部48の開口形状は、
図2に示すように長方形とし、貫通孔49を四角柱や円筒にしてもよい。タイミングベルト45の内側面に形成される凹凸(歯型)は、壁面Wを吸着したときに圧縮され、貫通孔49の周囲は気密性を有する。なお、
図3(B)は、通気孔35の構成を簡略化して表しているが、本実施の形態では、サブ減圧室33に連通する通気孔35を解放したり閉鎖したりする開閉手段55(
図4参照)が配設されている。次に、通気孔35および開閉手段55の構成について
図4を参照して詳しく説明する。
【0032】
図4は、開閉手段55の構成の1例およびその作用を説明する図で、構成要素を模式的に表した説明図であり、(A)はサブ減圧室33と吸着室47の圧力が共に大気圧に対して負圧になっている状態、(B)はサブ減圧室33が負圧であることに対して吸着室47が大気圧(正圧)になっている状態を表している。
図4(A)に示すように、サブ減圧室部31の底部34には、吸着室47と連通する通気孔35を開けたり閉めたりすることが可能な開閉手段55が配置されている。開閉手段55は、底部34の下面56から上下方向に向かって掘り下げられた凹部57内に配置される弁体58と、底部34の上面59に固定された略クランク形状の受け板60と、弁体58を壁面W側に常に付勢する弾性部材であるコイルばね61とから構成されている。
【0033】
弁体58は、凹部57内の底面62に弁体の一端部となる基部63が固定され、弁体58と基部63とはヒンジ64で連結されている。弁体58は、ヒンジ64を回転軸として上下方向に搖動可能である。受け板60は、底部34の上面59に固定される基部65から上方に折り曲げられ通気孔35上に張り出された受け部66を有している。受け部66には、通気孔35内に延び、コイルばね61が傾かないように案内する案内軸67が立てられている。コイルばね61は、一方の端部が受け部66に当接し、他方の端部が弁体58を壁面W側に付勢している。なお、凹部57の底面62には、通気孔35の周縁にパッド68が貼着されている。このパッド68は、たとえば、走行帯46と同じように圧縮性が高い半独立半連続気泡体などのシートで形成され、通気孔35の周囲に1個所または一定間隔の隙間を有して間欠的に複数個所貼着される。
【0034】
図4(A)は、走行帯46が壁面Wに密接し、吸着室47が気密状態であることを表している。吸着室47は、メイン減圧室32およびサブ減圧室33を介してブロワユニット5(
図1参照)によって真空吸引される。弁体58は、コイルばね61によって通気孔35を解放するように押されているのでサブ減圧室33と吸着室47とは連通され、内部圧力は同じとなる。つまり、サブ減圧室33と吸着室47は外部の大気圧に対して共に負圧となっている。コイルばね61の弾性力は、サブ減圧室33内と吸着室47内の気圧が同じときにはたわみが解放され、弁体58が通気孔35を開く。なお、この状態のとき、弁体58はタイミングベルト45には接触しないように寸法が設定されている。続いて、弁体58が、通気孔35を閉鎖する場合について
図4(B)を参照して説明する。なお、
図4(B)に記載する構成要素は、
図4(A)と同じなので、構成要素の説明は省略する。
【0035】
図4(B)は、壁面Wに段差69があり、走行中にこの段差位置に吸着凹部48が移動してきた場合を表している。このような場合、段差69があることによって走行帯46と壁面Wとの間に隙間が生じ、吸着室47の気圧は外部の大気圧と同じになる。サブ減圧室33は、真空吸引を継続しているので大気圧に対して負圧である。つまり、サブ減圧室33の気圧よりも吸着室47の気圧の方が高くなる。この気圧差がコイルばね61の弾性力よりも大きくなると弁体58は通気孔35を閉じる方向に押され、パッド68がなければ弁体58は凹部57の底面62に密接し通気孔35を閉鎖する。その後、走行帯46が段差69を乗り越え、吸着室47が、壁面Wによって塞がれても、弁体58によって通気孔35が閉鎖されていると、吸着室47の気圧がサブ減圧室33の気圧より高いという状態が継続されるので弁体58が開くことはなく、この吸着室47には吸着力が発生しない。
【0036】
本実施の形態では、通気孔35の周縁に間欠状にパッド68が設けられている。このパッド68によって弁体58は凹部57の底面62との間にパッド67の厚み分の隙間70となる領域ができる。走行帯46が段差69を乗り越え吸着室47が減圧されていくと、この隙間70によって吸着室47とサブ減圧室33とが連通しているので、サブ減圧室33の気圧と吸着室47の気圧は同じになり、弁体58は通気孔35を解放する方向に押され、
図4(A)に示す状態に復帰することが可能となる。なお、隙間70は、小さく真空吸引力が大きいことから、
図4(B)に示す状態時においても吸着力は確保される。なお、
図4に示した開閉手段55は1例であって、その構成はこれに限らない。たとえば、弁体58をコイルばね61と一体に連結して、コイルばね61のたわみに弁体58が追従して動くようにしてもよい。また、パッド68に替えて、弁体58に突起を設けたり、凹部57の底面62に突起を設けたりしてもよい。また、弁体58を球体とした、いわゆるボール弁を構成し、通気孔35と球体との接触部に上記パッド68と同じ機能を有するパッドを設けるようにしてもよい。開閉手段55を設けることによって、壁面Wに凹凸がある場合や壁面Wにごみが付着している場合など、部分的に、サブ減圧室33の気圧<吸着室47の気圧となるような場合に有効である。
【0037】
続いて、壁面Wに段差などがある場合に走行を可能にする無端走行帯20について
図5を参照して説明する。
【0038】
図5は、無端走行帯20の構成および作用を示す説明図であり、(A)は無端走行帯20の製造方法を示す斜視図、(B)は従前創作技術による無端走行帯20が段差のある壁面を走行する状態、(C)は本実施の形態による無端走行帯20が段差のある壁面を走行する状態を示す部分断面図である。
図5(A)に示すように、無端走行帯20は、環状のタイミングベルト45の歯形形成面とは反対側の面に走行帯46が貼着されている。走行帯46は、図中に二点鎖線で表したような展開長さを有し、50%~80%の圧縮率となるように長さ方向(図示矢印方向)に圧縮しながらタイミングベルト45に巻きつけるようにして接着する。走行帯46の両端部46a、46bは、接続部71において密着される。走行帯46は、前述したように柔軟性を有し多孔質の半独立半連続気泡体によって形成されているので主として気泡部分が圧縮されるが、圧縮による厚みおよび幅の変形は無視できる程度である。タイミングベルト45は、不図示の中子などで形状を一定に保持される。中子には、タイミングベルト45と走行帯46の幅方向位置を規定する枠部を設けることが好ましい。タイミングベルト45に設けられる貫通孔49(
図3(B)参照)、走行帯46に設けられる吸着孔21は、圧縮率を基に計算して位置補正し接着前に開けておいてもよく、接着後に開けるようにしてもよい。なお、貫通孔49は、
図3に示すように、タイミングベルト45および走行帯46を貫通しているが、
図5(A)では、その一部を省略して図示している。
【0039】
次に、
図5(B)および
図5(C)を参照して、走行帯46を圧縮してタイミングベルト45に貼着する意味について説明する。
図5(B)に示すように、吸着走行装置1の進行方向(図示矢印で示す)の壁面Wに段差部72がある場合、走行帯46は半独立半連続気泡体で形成されているので、壁面Wの段差部72の段差を吸収するように圧縮変形される。この際、圧縮貼着されていない従前創作技術の走行帯46は、段差部72の前後で引っ張られて段差部72との間に隙間73が生じる。段差部72に走行帯46の吸着孔21が達すると空気漏れが発生し吸着力が低下する。なお、タイミングベルト45には、駆動輪10,14と従動輪16,16によってテンションがかけられているので、ほとんど変形しない。
【0040】
走行帯46が圧縮されてタイミングベルト45に貼着されている本実施の形態では、
図5(C)に示すように、段差部72の前後で引っ張られても走行帯46は段差部72に追従して変形するため隙間73がほとんど発生しない。したがって、段差部72に走行帯46の吸着孔21が達しても空気漏れが発生することがなく吸着力を維持する。なお、
図5では、吸着走行装置1が段差部72を乗越える場合を表しているが、段差部72を降りる場合や、複数の段差部が連続する場合などにも有効である。
【0041】
吸着走行装置1は、ビルの壁や高速道路の高架、橋脚など、大型建造物の壁面(ガラス面を含む)の保守点検や洗浄などの作業をする際に好ましい装置として用いられることが想定される。したがって、吸着走行装置1には、上記作業を行う装置が取り付けられる。そこで、吸着走行装置1には、これら作業用の装置を取り付けるための取付け部材としての取付け枠75が設けられている。この取付け枠75について
図6を参照して説明する。
【0042】
[第2の実施の形態]
図6は、取付け枠75が固定された第2の実施の形態に係る吸着走行装置1Aを示し、(A)は壁面W側(下方側)から見た平面図、(B)は前方側から見た正面図である。
図6(A),(B)に示すように、吸着走行装置1Aには、取付け枠75が取り付けられている。取付け枠75は、第1駆動部2と第2駆動部3の間を前後方向に貫通する中心梁部76と、中心梁部76の前後方向両端部に接続され、吸着走行装置1Aの外周を取り巻くように配置される枠部77で構成されている。取付け枠75は、中心梁部76においてメイン減圧室部32の底部78に固定ネジ79によって固定されている。なお、固定ネジ79による固定部には、パッキンなどによってメイン減圧室部30の気密性を保持するようにしている。
【0043】
取付け枠75は、第1駆動部2および第2駆動部それぞれを逃がすように逃げ孔部80,81が設けられている。取付け枠75には枠部77が設けられていて、吸着走行装置1Aの全周を取り巻くように複数の孔部82が設けられている。これら孔部82は、前述したビルの壁や高速道路の高架、橋脚など、大型建造物の壁面(ガラス面を含む)を保守点検あるいは洗浄などの作業をするための装置を取り付けるための取付け孔であって、孔部82の数、配列および孔形状は、取付け対象の装置によって任意に変更することが可能である。また、孔部82は、
図7,8を参照して後述する複数の吸着走行装置1B,1Cを連結する場合のヒンジ85(
図7参照)などの取付け孔などとしても使用可能である。
図6に記載の取付け枠75の形状は1例であって、使用方法および使用場所によって自在に変更可能である。この取付け枠75は、第1の実施の形態に係る吸着走行装置1以外の吸着走行装置に使用可能なものである。次に、上記取付け枠75を用いて吸着走行装置1Aを複数台連結することについて
図7および
図8を参照して説明する。
【0044】
[第3の実施の形態]
図7は、第3の実施の形態に係る吸着走行装置1Bを示し、上記吸着走行装置1Aが走行方向(前後方向)に複数台連結される例を示す図で、
図7では1例として3連の場合を表し、(A)は上方側から見た平面図、(B)は(A)の右方側から見た側面図である。
図7(A)では、孔部82(
図6参照)の図示を省略している。
図7(A),(B)において、吸着走行装置1Bを前方から後方に向かって順に吸着走行装置1(a)、吸着走行装置1(b)、吸着走行装置1(c)と記載する。壁面Wは、基準面をW(a)とし、基準面W(a)に対して段差がある段差面W(b)とする。吸着走行装置1(a),1(b),1(c)それぞれには、取付け枠75が固定されている。各吸着走行装置は、連結手段83によって連結されている。連結手段83は、連結板84と2対のヒンジ85とを有している。吸着走行装置1(a)と吸着走行装置1(b)は、連結板84を介して各々の取付け枠75がヒンジ85で連結され、吸着走行装置1(b)と吸着走行装置1(c)は、連結板84を介して各々の取付け枠75をヒンジ85で連結している。
【0045】
吸着走行装置1(a),1(b),1(c)は、それぞれヒンジ85を介して連結されているので、壁面Wの段差部72に追従して連結板84がヒンジ85で折れ曲がり可能となっている。
図7(B)に示す例では、吸着走行装置1(b),1(c)は基準面W(a)を吸着し、吸着走行装置1(a)は段差面W(b)を吸着している。ここで、吸着走行装置1(a)が段差部72を乗越えようとするとき、吸着走行装置1(b),1(c)が基準面W(a)を吸着して走行し、吸着走行装置1(a)を支えながら押動して段差部72を乗越えさせることができる。吸着走行装置1(a)は、走行帯46が、
図5(C)に示すように圧縮可能なので空気漏れを抑え吸着力を維持しながら段差部72を乗り越え段差面W(b)を吸着することとなる。また、走行方向が逆の場合であって、吸着走行装置1(c)が段差部72を段差面W(b)から基準面W(a)に降りる場合には、吸着走行装置1(a),1(b)が段差面W(b)を吸着して走行し、吸着走行装置1(c)を支えながら押動して段差部72を下降させることができる。吸着走行装置1(c)は、走行帯46が、
図5(C)に示すように圧縮可能なので空気漏れを抑え吸着力を維持しながら基準面W(a)に到達する。
【0046】
また、中間に配置される吸着走行装置1(b)は、吸着走行装置1(a),1(c)によって支えられながら走行することができる。たとえば、吸着走行装置1(c)が最後端にある場合においても、吸着走行装置1(a),1(b)が壁面Wを吸着して走行させることができる。
図7では、吸着走行装置1が、3台連結した場合を例示しているが、吸着走行装置1Bは、2台連結または3台以上の連結としてもよい。また、吸着走行装置1(a)~1(c)の一つに吸着力の低下が生じても他の2つの吸着力によって走行が可能となる。この複数の取付け枠75の例も、第1の実施の形態に係る吸着走行装置1以外の他の吸着走行装置に使用可能なものである。なお、
図7では、吸着走行装置1Bを進行方向(前後方向)に連結しているが、進行方向に対して直交方向に複数台連結することが可能である。そのことについて
図8を参照して説明する。
【0047】
[第4の実施の形態]
図8は、第4の実施の形態に係る吸着走行装置1Cを示す図で、吸着走行装置1Aを走行方向(前後方向)および走行方向に直交する方向(左右方向)に複数台連結した例を示す平面図である。なお、
図8は、孔部82(
図6参照)の図示を省略している。
図8では、吸着走行装置1Aが進行方向および左右方向に2台ずつ連結された例を図示しているが、それぞれ3台以上連結することが可能である。また、走行方向には連結しないようにしてもよい。吸着走行装置1Aには、取付け枠75が固定されている。隣接する吸着走行装置1Aは、連結板84を介して各々の取付け枠75がヒンジ85で連結されている。各吸着走行装置1Aは、それぞれヒンジ85を介して連結されているので、壁面Wの段差部(たとえば、
図7(B)に示す段差部72など)や左右方向に段差部がある場合においても、その段差部に追従して偏倚可能となっている。このように複数台が連結された吸着走行装置1Cは、4台分の吸着力があるので、たとえば、1台だけの場合に対して4倍の重量を搭載して壁面Wを垂直に走行できる。この複数の取付け枠75の例も、第1の実施の形態に係る吸着走行装置や他の吸着走行装置に使用可能なものである。なお、
図7および
図8に示す多連の吸着走行装置1B,1Cでは、ヒンジ85の取付け部以外の孔部82(
図6(A)参照)を利用して前述した他の装置を取り付けることが可能である。
【0048】
以上説明した走行面である壁面Wに吸着して走行する吸着走行装置1,1A,1B,1Cは、区画壁50で仕切られた複数の吸着孔21が形成された無端走行帯20を有する第1駆動部2および第2駆動部3と、空気吸引装置であるブロワモータユニット5によって減圧されるメイン減圧室32と、メイン減圧室32に連通し第1駆動部2および第2駆動部3それぞれに配置されるサブ減圧室33と、サブ減圧室33の吸着孔21の配置側に設けられ、サブ減圧室33と複数の吸着孔21の各々を連通する複数の通気孔35と、通気孔35の各々を解放したり閉鎖したりする開閉手段55と、を有している。開閉手段55は、壁面Wと吸着孔21で形成される複数の吸着室47の気圧がサブ減圧室33の気圧と同じであるときに通気孔21を解放し、吸着室47の気圧がサブ減圧室33の気圧よりも高くなるときに通気孔21を閉鎖し、通気孔21を閉鎖した際に、通気孔21にはサブ減圧室33の気圧が他の吸着室47の気圧に影響しない程度の大きさの隙間70が形成されている。
【0049】
吸着室47とサブ減圧室33とを連通する通気孔35は、開閉手段55によって解放したり閉じたりすることが可能となっている。開閉手段55は、吸着室47と壁面Wとの間に空気漏れなどがあって、サブ減圧室33の気圧<吸着室47の気圧となると、通気孔35を閉じてサブ減圧室33の気圧が大気圧に近づくことを防いでいる。また、開閉手段55を閉じたときにできる隙間70によって吸着室35とサブ減圧室33との間は通気可能なので吸着室47の空気漏れがなくなった後に、サブ減圧室33の気圧=吸着室47の気圧となり、開閉手段55が通気孔35を解放することによって吸着力を回復できる。このようにすることで、壁面Wへの吸着力の変動を抑制し安定した吸着力を維持できる吸着走行装置1,1A,1B,1Cを提供することができる。
【0050】
また、吸着孔21は、サブ減圧室33側の開口面積を壁面W側の開口面積よりも小さくしている。このことは、区画壁50がサブ減圧室33側の断面積を大きく、壁面W側の断面積を小さくしていることになる。このようにすれば、壁面Wを強く吸着することによる区画壁50の座屈変形に伴う吸着室47の空気漏れを抑制できる。また、壁面W側の開口面積を従来の開口面積と同じに確保できる。吸着力は開口面積に比例するので高い吸着力を維持できる。
【0051】
また、吸着走行装置1Aは、メイン減圧室部31の壁面W側の底部78に固定される取付け枠75を有し、前記取付け枠75の一部は第1駆動部2および第2駆動部3の外側に作業用装置などを取り付け可能な枠部77が突設している。
【0052】
このような構成にすれば、取付け枠75の枠部77を利用して、たとえば、ビルの壁や高速道路の高架、橋脚など、大型建造物の壁面(ガラス面を含む)を保守点検する装置や洗浄装置などの作業用装置を吸着走行装置1Aに容易に取付け可能となる。枠部77には、上記装置類の取付け用の複数の孔部82を設けることによって、作業対象の装置を切り替えて取付けることが容易にできる。
【0053】
また、吸着走行装置1Aは、メイン減圧室部31に固定された取付け枠75を連結手段83によって走行方向または/および走行方向に直交する方向に複数連結することが可能である。メイン減圧室部31に固定された取付け枠75を連結手段83によって連結するということは、吸着走行装置1(1A)を連結手段83によって複数台連結することであって、走行方向に連結した吸着走行装置1B、走行方向と走行方向に直交する方向に連結した吸着走行装置1Cを構成できる。このように吸着走行装置1を多連構成にすることによって、面積の広い壁面であっても壁面作業を効率的に行うことや、吸着走行装置1が単体の場合に比べて、吸着力と走行力(駆動力)が台数に比例して大きくなり、台数分の重量を有する上記作業用装置を搭載して走行することができる。
【0054】
また、連結手段83は、隣接する取付け枠75の間に配置される連結板84と、取付け枠75と連結板84とを連結するヒンジ85を有している。このように構成すれば、連結された吸着走行装置1は、連結板84がヒンジ85で搖動可能なので1台1台が段差のある壁面Wでも段差に追従して走行が可能となる。
【0055】
また、複数の吸着孔21が形成された無端走行帯20と、吸着孔21側の空気を吸入する空気吸引装置であるブロワモータユニット5と、を有し、無端走行帯20が走行面である壁面Wに吸着し姿勢を保持すると共に回転することで前進または後進の少なくとも一方を行う吸着走行装置1,1A,1B,1Cにおいて、ブロワモータユニット5による減圧を吸着孔21側に及ぼしたり、及ぼさなかったりするための開閉手段55を設け、開閉手段55は、吸着孔21側が外部空間と連通しない状態時には弁体58開くことで、吸着孔21を減圧し、吸着孔21側が外部空間と連通し大気圧となっている状態時には、わずかな隙間70を有しつつ弁体58を閉じることで、上記連通しない状態に復帰したときに開閉手段83が閉じた状態を継続してしまい、吸着孔21側が減圧されなくなることを防ぐようにしている。
【0056】
通気孔35は、開閉手段55によって解放したり閉じたりすることが可能となっている。開閉手段55は、吸着室47と壁面Wとの間に空気漏れなどがあって、サブ減圧室33の気圧<吸着室47の気圧となると、通気孔35を閉じてサブ減圧室33の気圧が大気圧に近づくことを防いでいる。また、開閉手段55を閉じたときにできる隙間70によって吸着室35とサブ減圧室33との間は通気可能なので吸着室47の空気漏れがなくなった後に、サブ減圧室33の気圧=吸着室47の気圧となり、開閉手段55が通気孔35を解放することによって吸着力を回復できる。このようにすることで、壁面Wへの吸着力の変動を抑制し安定した吸着力を維持できる吸着走行装置1,1A,1B,1Cを提供することができる。
【0057】
また、開閉手段83は、無端走行帯20が対向する本体側(サブ減圧室33側)に配置され、本体側に設けられる吸着孔21と連通可能に設置される複数の通気孔35の各々を解放したり閉鎖したりする弁体58と、通気孔35が解放される方向に弁体58を付勢する弾性部材であるコイルばね61と、から構成されている。
【0058】
なお、開閉手段としては上記開閉手段83以外に、センサによって吸着室47や減圧室33の気圧を検出してアクチュエータなどで通気孔35を解放したり閉鎖したりすることが可能である。しかし、このような開閉手段は、多数の通気孔それぞれに配置されるため重量が増し、制御も複雑になってしまう。本実施の形態では、開閉手段55は、弁体58とコイルばね61とから構成されているので軽量化が可能で、コイルばね61の弾性力を適切に設定しておけば複雑な制御は不要である。
【0059】
また、無端走行帯20は、走行駆動力が伝達されるタイミングベルト45と軟弾性体の走行帯46との2層構造を有し、走行帯46を長さ方向に圧縮した状態でタイミングベルト45に固着している。走行帯46は、多孔質の軟弾性体で形成されているので容易に圧縮可能である。このようにすれば、壁面Wに段差部72がある場合などに、走行帯46は段差部72に追従して変形するため段差部72と走行帯46との間に隙間73がほとんど発生しない。したがって、段差部72に走行帯46の吸着孔21が達しても空気漏れが発生することがなく吸着力を維持することができる。
【0060】
以上説明した第1から第4の実施の形態によれば、安定した吸着力を維持しつつ、面積の広い壁面や天井などであっても壁面作業を効率的に行うことや、重量が大きい作業用装置を搭載できる吸着走行装置1、1A,1B,1Cを実現できる。さらに、無端走行帯20の構成を工夫することによって吸着力がより高い吸着走行装置1を実現することが可能となる。
図1~
図5において説明した第1の実施の形態に係る吸着走行装置1の無端走行帯20とその周辺を工夫した構成例を第1の無端走行帯周辺例とし、第1の無端走行帯周辺例における無端走行帯20と同種の無端走行帯20Aを備える吸着走行装置1の他の構成例を第2の無端走行帯周辺例及び第3の無端走行帯周辺例とし
図9~
図12を参照して説明する。
【0061】
図9は、第1の無端走行帯周辺例を示す図で、無端走行帯20Aがサブ減圧室部31に装着された状態を示す断面図であり、無端走行帯20Aを幅方向(左右方向)に切断した切断面を表している。図示する無端走行帯20Aは第2駆動部3側を表し、第1駆動部2側も同じ構成なので図示を省略する。また、無端走行帯20Aは、全周に亘って同じ構成となっているので、
図9においては、下方側に符号を付して説明し、上方側の符号は省略するものがある。
【0062】
無端走行帯20Aは、走行帯46と動力伝達ベルトであるタイミングベルト45とから構成されている。無端走行帯20Aは、タイミングベルト45のサブ減圧室部31に接触する側(内側という)に帯状部材52と摺動テープ53とが積層された吸着帯51を有している。吸着帯51は、タイミングベルト45の内側の走行方向全周に亘って設けられた溝45Cの内部に埋め込まれ固着されている。溝45Cは、タイミングベルト45の幅方向のほぼ中央に形成されている。タイミングベルト45の吸着帯51を挟んで幅方向両側には、駆動輪14の歯形17に歯合する歯形45Aが形成されている。帯状部材52は走行帯46と同じ軟弾性材料で形成され、摺動テープ53は摩擦係数が小さく摺動耐久性が優れた材料で形成された薄いテープである。図示は省略するが、摺動テープ53をサブ減圧室部31の上面31A及び下面31Bにも貼着し、タイミングベルト45とサブ減圧室部31との間の摩擦を減ずるようにしてもよい。
【0063】
吸着帯51の幅方向中央には、走行帯46に設けられた吸着孔21及びサブ減圧室部31に設けられた通気孔35に連通する孔54が穿設されている。吸着帯51は、タイミングベルト45の歯形45Aの頂部よりも突出する厚みを有しており、摺動テープ53はサブ減圧室部31の外殻面を構成する上面31A及び下面31Bに接触する。
【0064】
サブ減圧室部31の外側側壁部37は、上面31A及び下面31Bから上下方向に延長されたガイド部37Aを有し、内側側壁部39は、上面31A及び下面31Bから上下方向に延長されたガイド部39Aを有している。ガイド部37A,39Aは、吸着走行の際に無端走行帯20Aが蛇行することを防止する。ガイド部37A、39Aは、サブ減圧室部31の前後方向の長さ全体にわたって形成してもよく、前方側及び後方側のみに形成してもよい。
【0065】
図10は、第1の無端走行帯周辺例において、第2駆動部3が走行面である壁面Wに吸着した状態を示す断面図である。第1駆動部2は第2駆動部3と同じ構成及び作用を有しているので図示を省略する。サブ減圧室33を負圧にすることによって、無端走行帯20Aは壁面Wに吸着する。帯状部材52は吸着力によって圧縮され、摺動テープ53がサブ減圧室部31の下面31Bに強く密接し、無端走行帯20Aとサブ減圧室部31の間の空気漏れを排除する。吸着帯51を設けることによって空気漏れをなくすことによって、吸着帯51を設けない構成よりも吸着力をより高めることが可能となる。吸着帯51は、壁面Wに吸着した際にタイミングベルト45の歯形45Aの頂部がサブ減圧室31の下面31Bに接触する厚みとすることが好ましいが、僅かに隙間があってもよい。サブ減圧室部31の上面31A側には吸着力が働かないので、吸着帯51がサブ減圧室31の上面31Aに接触し、タイミングベルト45の歯形45Aの頂部はサブ減圧部31の上面31Aとの間に隙間を有する。
【0066】
図9、
図10に図示する例においては、サブ減圧室部31にガイド部37A,39Aを設けているが、無端走行帯20Aの蛇行防止には、駆動輪10,14及び従動輪16にガイド部を設ける構成としてもよい。以下に、駆動輪14を例示して説明する。
【0067】
図11は、第2の無端走行帯周辺例における無端走行帯20Aと駆動輪14の関係を示す断面図である。
図11に図示する無端走行帯20Aは、
図9,10において図示し説明した構成と同じなので詳しい説明を省略するが、幅方向中央に吸着帯51が固着されている。駆動輪14は、吸着帯51を挟んで駆動輪部14A,14Bに分割されている。駆動輪部14A,14Bはシャフト18で接続されている。駆動輪部14A,14Bそれぞれの外周部には、歯形17が形成され、歯形17はタイミングベルト45の歯形45Aと歯合する。無端走行帯20Aが吸着帯51を有しているため、駆動輪14は吸着帯51に歯形17が干渉しないように駆動輪部14Aと駆動輪部14Bとに分割されている。
【0068】
駆動輪部14Aは、左方側端面が無端走行帯20Aの厚み方向に交差する位置まで拡径されたガイド部19Aを有し、駆動輪14Bには、右方側端面が無端走行帯20Aの厚み方向に交差する位置まで拡径されたガイド部19Bを有している。ガイド部19A,19Bは、吸着走行の際に無端走行帯20Aが蛇行することを防止する。ガイド部19A,19Bは、駆動輪10及び従動輪16にも同じように設けられる。
【0069】
サブ減圧室31にガイド部37A、39Aを設けること、駆動輪10,14及び従動輪16にガイド部19A,19Bを設けることは、前述した第1の実施例(
図1、
図2参照)にも適合可能である。又、ガイド部37A、39A及びガイド部19A,19Bの両方を備える構成としてもよく、また、どちらか一方を設けるようにしてもよい。なお、駆動輪部を分割する構成やガイド部を設ける構成の一方又は両方は、第1~第4の実施の形態に係る吸着走行装置や他の吸着走行装置に使用可能である。
【0070】
以上説明した第1や第2の無端走行帯周辺例に係る吸着走行装置1によれば、無端走行帯20Aは、動力伝達ベルトあるタイミングベルト45のサブ減圧室31側(サブ減圧室部33側)に軟弾性体の帯状部材52と摺動テープ53とが積層された吸着帯51をさらに有し、吸着帯51は、無端走行帯20Aの幅方向中央部に固定され、かつ通気孔35と吸着孔21とに連通可能な孔54を有し、走行面である壁面Wに吸着して走行する際に、摺動テープ53はサブ減圧室部33の走行面側の外殻面である下面31Bに密接しつつ摺動するように配置されている。
【0071】
このようにすれば、吸着走行装置1が吸着走行する際に、吸着帯51はサブ減圧室部31の下面31Bの通気孔35の周囲に密接することから、無端走行帯20Aとサブ減圧室部31との間で空気漏れの発生を抑えることが可能となり、吸着力がより高い吸着走行装置1を実現することが可能となる。
【0072】
なお、図示は省略するが、吸着帯51をサブ減圧室部31の下面31Bに設ける構成とすることが可能である。たとえば、
図9に示す吸着帯51の配置位置において、吸着帯51をサブ減圧室部33の下面31Bに固着する。タイミングベルト45には、
図9に示す溝45Cに相当する溝が形成され、この溝内に吸着帯51が通過できるようにする。吸着帯51は、帯状部材52をサブ減圧室部31側に固着し、摺動テープ53をタイミングベルト45の溝底面に摺動させるようにする。このような構成にしても、前述した無端走行帯20Aが吸着帯51を備えるときと同じ効果が得られる。このような構成にすれば、駆動輪14を駆動輪部14A、14Bに分割しなくてもよい。駆動輪10及び従動輪16も同様である。
【0073】
なお、無端走行帯20Aの壁面Wに対する吸着力が高まると、吸着走行する際に無端走行帯20Aとサブ減圧室部31との間の摩擦負荷が高くなり、走行ロスが発生することが考えられる。そこで、この摩擦負荷を減少させる構成を第3の実施例として
図12を参照して説明する。
【0074】
図12は、第3の無端走行帯周辺例におけるサブ減圧室部31の構成を拡大して示す部分断面図である。無端走行帯20Aは、前述した第2の実施例と同じ構成を例示している。サブ減圧室部31の底部34の無端走行帯20A側には、ローラユニット74が埋め込まれている。ローラユニット74は、ローラ枠体74Aと、ローラ枠体74Aに回転可能に軸支される複数のローラ74Bとを有している。ローラユニット74は、吸着帯51を挟んで幅方向両側にサブ減圧室部31の長さ方向(前後方向)に沿って配置される。ローラユニット74は、サブ減圧室部31の底部34に設けられた凹部34A内に埋め込まれている。ローラ74Bは、サブ減圧室部31の下面31Bよりも外周面の一部が突出し、走行方向に多連配列される。従って、壁面Wに吸着し吸着帯51が圧縮される際に、ローラ74Bがタイミングベルト45の歯形45Aの頂部に当接する。壁面Wに吸着して走行する際に、ローラ74Bは、タイミングベルト45によって転動するように配置されている。
【0075】
第3の無端走行帯周辺例によれば、サブ減圧室部31と無端走行帯20Aの間にローラ74Bを配設している。従って、吸着帯51を設けることによって吸着力が高まることで増加する摩擦負荷を低減し、走行ロスを低減することが可能となる。
【0076】
図12に図示する例においては、ローラユニット74をサブ減圧室部31の下面31B側に配設した例を図示している。ローラユニット74は、下面31B側に加えてサブ減圧室部31の上面31B側に配設してもよい。このようにすれば、走行時においてサブ減圧室部31と無端走行帯20との間の摩擦抵抗をさらに減ずることができる。なお、
図12では、吸着帯51を設ける構成を図示しているが、ローラユニット74は吸着帯51を設けない構成にも適合できる。
【0077】
前述した第1の実施の形態による吸着走行装置1では、メイン減圧室32を介してサブ減圧室33からブロワユニット5によって壁面Wとの間に負圧を発生させる。しかし、図示は省略するが、メイン減圧室32を介さずにブロワユニット5がサブ減圧室33から配管を介して直接吸引するようにしてもよい。その際、サブ減圧室33の容積を小さくすると吸着力をより高めることが可能である。サブ減圧室部31は、無端走行帯20,20Aを支持していることから、たとえば、サブ減圧室部31に無端走行帯20,20Aを支持する部材を取り付けるようにすればよい。
【0078】
また、図示は省略するが、従来のサブ減圧室部31の内部に容積が小さい減圧室部(第2減圧室部という)をさらに格納し配管を介してブロワユニット5によって直接吸引するようにしてもよい。この第2減圧室部は、サブ減圧室部31に設けられた通気孔35に連通する通気孔が設けられ、サブ減圧室部31に固定される。このような構成においては、サブ減圧室部31は、無端走行帯20,20Aの支持体として機能する。
【0079】
図13は、第1の実施の形態に係る吸着走行装置1のサブ減圧室部31に設けられる通気孔35の配列の1例を模式的に示す説明図である。無端走行帯20,20Aは吸着走行時にサブ減圧室部31に沿って図示矢印方向に移動する。つまり、吸着孔21を構成する貫通孔49も移動する。貫通孔49は常に通気孔35と連通していなければならない。そこで、
図13に示すように、通気孔49を長孔とし、2列にピッチをずらして配置することで、貫通孔49はいずれの位置においても必ず通気孔35に連通させることが可能となる。通気孔35の形状は長方形にしてもよく、3列に配列してもよく自在に設定可能である。また、円形や1列配列でも、貫通孔49とのピッチを適宜ずらせば、いずれの場所においても通気孔35と貫通孔49とを必ず連通させることが可能となる。このピッチをずらして通気孔を配置する構成は、第1~第4の実施の形態に係る吸着走行装置や他の吸着走行装置に使用可能である。
【0080】
なお、本発明は前述の実施の形態や無端走行帯周辺例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。たとえば、本実施の形態の吸着走行装置1に壁面Wの状態を検出するセンサとコンピュータとを搭載し、プログラムによって壁面Wを自走するようにすることが可能である。あるいは、吸着走行装置1に通信装置を搭載し、無線または有線で走行制御をするようにすることも可能である。また、吸着走行装置1にフックなどを設けておき、落下防止用のケーブルを取り付けられるようにしてもよい。
【0081】
また、前述した実施の形態では、走行帯46を長さ方向に圧縮する率を50%~80%としていたが、作業性を考慮すると80%~95%の範囲としてもよく、好ましくは40%~95%、さらに好ましくは50%~90%、最も好ましくは60%~80%である。
【0082】
また、前述の実施の形態では、吸着走行装置1(1A)のそれぞれを連結板84とヒンジ85とで連結しているが、一つの取付け枠75で複数台連結するようにしてもよく、取付け枠75を設けずに、駆動輪支持板38,40と従動輪支持板41,42を利用して連結板84を取り付けるようにしてもよい。
【0083】
また、前述の実施の形態等では、垂直もしくは急斜面の壁面Wを対象としていたが、天井面や危険な吊り橋などの人が渡る水平面など、その他の全ての面に本発明を適用することができる。また、前述の実施の形態等では、メイン減圧室と、サブ減圧室とを有するものが示されているが、減圧室は1つまたは3つ以上でも良い。さらに、第1~第4の実施の形態に係る吸着走行装置1、1A,1B,1Cや第1~第3の無端走行帯周辺例に示される部分構成や部品などは、他の実施の形態のものなどに適宜、転用可能であり、さらには、他の吸着走行装置にも使用可能(転用可能)である。
【0084】
また、前述の実施の形態では、吸着孔21、通気孔35、吸着室47、吸着凹部48および貫通孔49を平面四角形状の立方体としているが、平面形状が楕円形、球形、三角形など他の形状の3次元空間としてもよい。また、前述の実施の形態が2つの駆動部(第1駆動部2、第2駆動部3)を有するものとしたが、1つの駆動部や3つ以上の駆動部を有するものとしてもよい。
【0085】
また、前述した実施の形態では、動力伝達ベルトとしてタイミングベルト45を採用しているが、動力伝達ベルトとしては、凹凸(歯型)がない表面がフラットのベルトであってもよい。その際、駆動輪10,14および従動輪16,16は、凹凸の歯型を備えたものであってもよく、凹凸の歯型のない摩擦車としてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1、1A,1B,1C…吸着走行装置、2…第1駆動部、3…第2駆動部、4…減圧室部、20,20A…無端走行帯、21…吸着孔、34…底部、35…通気孔、45…タイミングベルト、46…走行帯、47…吸着室、49…貫通孔、50…区画壁、51…吸着帯、52…帯状部材、53…摺動テープ、54…孔、55…開閉手段、58…弁体、61…コイルばね(弾性部材)、70…隙間(開閉手段)、74…ローラユニット、75…取付け枠(取付け部材)、78…底部、83…連結手段、84…連結板、85…ヒンジ、74B…ローラ、W…壁面(走行面)