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特許7100959非侵襲的な神経刺激のためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】非侵襲的な神経刺激のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 2/04 20060101AFI20220707BHJP
   A61B 5/377 20210101ALI20220707BHJP
   A61N 1/05 20060101ALI20220707BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
A61N2/04
A61B5/377
A61N1/05
A61N1/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2016539552
(86)(22)【出願日】2014-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2016-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2014068945
(87)【国際公開番号】W WO2015032898
(87)【国際公開日】2015-03-12
【審査請求日】2017-07-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-21
(31)【優先権主張番号】102013014875.8
(32)【優先日】2013-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102014007645.8
(32)【優先日】2014-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102014011867.3
(32)【優先日】2014-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509175908
【氏名又は名称】エーベーエス テヒノロギーズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】EBS TECHNOLOGIES GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴンドリッヒ、インゴ
(72)【発明者】
【氏名】ワルシャウスク、ウド
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-512866(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011120213(DE,A1)
【文献】特開2000-254239(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0144716(US,A1)
【文献】特表2013-529983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/05
A61N 1/32 - 1/39
A61N 2/04
A61B 5/377
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非侵襲的な電気的および/または磁気的な神経刺激のためのシステムであって、該システムは、
・人工ノイズを含む、交流の刺激信号を発生させるための信号発生器、
・該刺激信号を視神経上の領域または視神経のすぐ近くの領域に適用するための適用デバイス、
・測定信号を導出するための導出ライン、
・該測定信号に基づいてバイオマーカーを計算するためのバイオマーカー計算ユニット、
・該刺激信号の変更によって該バイオマーカーの値を最適化するためのユニットを含み、
前記バイオマーカーの関数従属性が、トレーニングデータからの機械学習によって決定されることを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記刺激信号が、プログラム可能な関数発生器によって発生されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記刺激信号が、人工ノイズ、交流信号、および直流信号を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非侵襲的な電気刺激および/または磁気刺激のため、特に、患者の神経刺激のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、本質的には、脳電気刺激のための2つの基本的な方法、詳細には、侵襲的および非侵襲的な脳電気刺激が、従来技術に従って区別される。
【0003】
臨床神経学では、脳を刺激するための方法は、従来の外科的または薬理学的介入処置を補う有望なものとしての重要性がますます高まってきている。これは、第1に、植込み型「脳ペースメーカー」を介して脳深部刺激を行うための確立された侵襲的な方法に関し、この方法は、運動障害(例えば、パーキンソンの場合、本質的には、振戦およびジストニー)を効果的に処置するために現在とりわけ使用されているが、他の数多くの神経障害の処置についても研究されている。
【0004】
さらに、基本的な神経可塑性の再生を効果的に補助することができるとみられる非侵襲的な磁気的または電気的な経頭蓋刺激方法の標的化使用を介した神経損傷の処置において、注目に値する処置の成功が、ここ数年で達成された。
【0005】
脳損傷の量的に最も重要な原因の1つは、脳卒中の徴候において見られる。ドイツだけでも毎年およそ200,000例の脳卒中が発生している。およそ65,000例の死亡例がこれに関連しており、それにより、脳卒中はドイツで3番目に多い死因になっている。生存者の大部分が、神経学的に関連する重篤な機能障害の影響を受け;これは、とりわけ、運動機能(麻痺の出現)、言語機能および視覚機能(例えば、視野の制限)に関係する。
【0006】
現在、典型的なリハビリテーション処置の焦点は、少なくとも患者が永続的にケアを必要としなくなるための、運動および言語の技能の回復または改善であるが、リハビリテーション処置は、大きく損なわれていることが多い視覚の技能の改善にはほとんど有効でない。
【0007】
神経可塑性プロセスの結果としての自然な自己回復は、非常に異なった個別の経過をたどり、同時に、説明した知覚に関する制限は、罹患患者にとって高レベルの心理的ストレスにつながる。これらの事実を理由に、また、多数の患者の背景に対し、新しい有効な処置概念が、とりわけ非侵襲的であるかまたは使用リスク比が低い場合、その処置概念に非常に大きな関心が寄せられている。この文脈において、電気的または磁気的な経頭蓋刺激方法は、特に興味深いアプローチであるとみられる。
【0008】
脳領域の電気的な神経刺激の分野における非侵襲的な方法は、主に、脳の非侵襲的治療のためのいわゆる経頭蓋方法である。この場合、この治療的刺激は、脳における介入関与なしに行われる。その代わり、この処置は、「経頭蓋的に」、すなわち、頭蓋の外から「頭蓋を通って」行われる。電気刺激の方法の中でも印加される電流に関して、ランダム化された高周波電流信号による経頭蓋刺激(tRMS-経頭蓋高周波ランダムノイズ刺激)である経頭蓋直流刺激(tDCS)と経頭蓋交流刺激(tACS)とに区別される。ほぼ確実に(Provably)永続する神経可塑性変化を、経頭蓋脳電気刺激を用いて達成することができ、その変化は、神経構造における高い電気的活動またはいわゆるCSTC制御ループ(皮質-線条体-視床-皮質ループモデル)の同期を伴う。経頭蓋直流刺激の場合、皮質ニューロンの膜電位および個々のニューロン活動(「発火頻度」)は、その刺激によって調節され得ると推定される。高い活動が生じる場合、これは、長期増強に対応するが、低い活動は、神経シグナル伝達の長期抑制に対応する。tRNSは、非侵襲的な脳刺激のより新しい補完的な方法である。tDCSとは対照的に、tRNSは、直流成分を含まず、抑制性の残効が誘導され得るという指摘はない。潜在的により高い安全性に加えて、電流の流れの向きとは無関係に任意の方向の細胞の脱分極が生じるという点において、さらなる利点が見られる。この影響は、「確率共鳴」の原理によると、ノイズ導入によるシナプス信号の増幅、信号中継の改善および神経活動の増大に起因する。
【0009】
神経シグナル放出の確率(「発火頻度確率」)は、現状の知識に従ってtDCSおよびtRMSを用いて調節され得るが、経頭蓋交流刺激(tACS)は、錐体細胞の興奮性およびCSTC制御ループの同期に関連する、神経構造内の特定の振動活動を誘導し得るかまたはその振動活動に影響し得るとみられる方法である。この場合、この方法は、脳の状態に特異的な振動と直接相互作用すると推定される(この文脈において、脳の状態は、特定の神経複合物の同期に伴う精神状態と理解される)。
【0010】
経頭蓋脳電気刺激では、2つ以上の電極が患者の頭皮上または頭皮の下に留置され、脳の中の神経回路を刺激するために、最大40分間という限られた時間にわたって直流または交流がそれらの電極に印加される。
【0011】
さらに、脳刺激の方法は、直接的な方法と間接的な方法とに区別できる。直接的な方法では、脳の皮質または皮質下の構造が、印加された刺激によって直接影響を受けるのに対し、間接的な方法では、脳の刺激は、脳神経(例えば、視神経、迷走神経)の刺激または末梢神経の刺激を介して間接的に生じる。
【0012】
さらに、rtACSの原理に基づく非侵襲的電気刺激のためのシステムが、従来技術から公知である。この場合、脳電気刺激は、交流を用いて、経頭蓋的ではなく網膜および視神経(網膜遠心性(retinofugal)刺激)を介して間接的に行われる。この目的のために、電極は、眼のすぐ近くに留置される。以前の研究では、そのシステムは、一部の患者(反応者)における神経学的視覚障害の処置において高度に有効であると示された。この処置は、脳卒中患者だけでなく、脳および視索の神経損傷に起因する他の形態の視覚障害(例えば、脳の変性疾患または外傷性損傷の場合)に対しても適切である。この処置の概念の潜在性は、非常に大きいとみられるが、しかしながら、この時までに観察された有効性は、個体において非常に異なり、したがって、「反応者」と「非反応者」に区別される。神経科学の現状によると、それぞれの患者に対して個別に最適化された刺激処置は、非常に良好な有効性をもたらし、神経リハビリテーションにおいて包括的に使用するための条件が提供され得ると推定される。基本メカニズムが(脳電気刺激の他の方法と同様に)不十分にしか理解されていないので、これらの処置方法の最適化は、ゆっくりとしか進歩していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ゆえに、本発明の目的は、電気刺激および/または磁気刺激のためのシステムおよび方法を提供することであり、ここで、その刺激は、患者に対してダイナミックに適合させることができ、ゆえに、最適化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1に記載のシステムおよび請求項7に記載の方法によって達成される。有益な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0015】
特に、以下を含むシステムが提供される:
・刺激信号、特に、交流の刺激信号を発生させるための信号発生器、
・その刺激信号を特に視神経上の領域または視神経のすぐ近くの領域に適用するための適用デバイス、
・測定信号、特にEEG信号を導出するための導出ライン、
・その測定信号に基づいてバイオマーカーを計算するためのバイオマーカー計算ユニット、
・最適化基準を更新するため、すなわち、刺激信号の変更によってバイオマーカーの値を最適化するための、最適化ユニット。
【0016】
さらに、以下の工程を有する方法が提供される:
・測定信号、特にEEG信号を導出する工程、
・刺激信号、特に、交流の刺激信号を発生させる工程であって、ここで、好ましくは、発生した刺激信号は、人工ノイズも含む、工程、
・電極を用いて、その刺激信号、すなわち、電気刺激および/または磁気刺激を、特に視神経上の領域または視神経のすぐ近くの領域に適用する工程、ならびに
・その測定信号から測定されたバイオマーカーおよび/または患者の意識的なフィードバック(conscious feedback)に応じて、特に、測定信号の周波数、振幅、位相および/または位置情報の項目を考慮して、刺激信号を変更する工程。
【発明を実施するための形態】
【0017】
測定信号が、例えば、複数のEEG電極から生じる、複数の個別の信号を含み得ることは明らかである。刺激信号もまた、複数の個別の信号を含み得る。
【0018】
磁気刺激は、公知の経頭蓋磁気刺激(TMS)に基づいて行うことができる。
【0019】
この文脈において、バイオマーカーは、患者の状態または特に患者の脳の状態を身体機能または臨床像に関して十分に説明する特徴空間のエレメントである。バイオマーカーは、疾病関連のものであり得るか、または治療関連のものであり得る。疾病関連のバイオマーカーは、差し迫っている疾病または(非常に)早い段階においてすでに存在する疾病に関する情報を提供し、対照的に、治療関連のバイオマーカーは、その治療が特定の患者に対して作用するか否かおよびどのように作用するか、ならびにどのようにしてその生物がそれを実行するかを明示する。この区別は、最適化における目標の設定にとって重要である。
【0020】
バイオマーカーは、一次元的または多次元的であり得る。その特徴次元は、さらに重み付けされ得る。この重み付けは、一連の統計的特性値に関係し得る。本発明に係る最適化は、この場合、特定の値または特定の状態にそれぞれできるだけ接近することからなり得る。本発明のいくつかの実施形態において、このことは、この場合、必ずしもローカルまたはグローバルな極値に到達することに関係しない。
【0021】
さらなる実施形態において、バイオマーカー空間の中のリスク状態の範囲を回避することによるか、または見込みのないアプローチの場合にはその治療を終了させるかもしくは再開することによるかに関係なく、バイオマーカー空間の中のリスク状態に向かうアプローチを回避することは重要である。
【0022】
さらなる実施形態において、治療中、すなわち、バイオマーカーの最適化中に、患者は、当該バイオマーカーに従って、本システムから例えば書面のまたは音声の指示を受ける。そのような指示の目標の1つは、例えば、その患者の注意の状態を変化させることである。したがって、例えばそのバイオマーカーに関連し得る注意の状態に特異的な測定データが生成される。この場合、学習されたイメージによって別のときにイメージされ得る各注意状態に対して、別のバイオマーカー空間がもたらされる。
【0023】
脳の注意の状態は、睡眠またはリラクゼーションから、難しい問題を解決するときの高レベルの集中にまで及び得る。これには、例えば、運動皮質の経頭蓋刺激を補助する、あらかじめ定義された運動シーケンスも含まれる。
【0024】
目標の状態または理想的な状態への任意の接近は、本明細書中以後、最適化と称される。実際の実施は、例えば、目標値と測定されたバイオマーカー値との間の距離関数の極値の測定の意味における最適化によって、行われ得る。
【0025】
有意な距離の存在は、最適化が行われるべき空間の構造、すなわち、患者の状態または治療の経過に関するバイオマーカーのトポロジーにとって決定的に重要である。
【0026】
適用デバイスは、例えば、電気刺激のための電極および/または磁気刺激のためのコイルであり得る。
【0027】
本発明によると、直流信号および交流信号と、人工ノイズ、特に、ホワイトノイズおよびフィルタ処理されたノイズとの重畳が、行われ得る。
【0028】
本発明のさらなる実施形態において、交流信号は、適用可能な時間軸全体にわたってまたはある時間枠においてバーストとして提供され得るノイズによって重ね合わされる。
【0029】
さらなる実施形態において、分類スキーム「直流/交流/ノイズ」に拘束されることなく、振幅制限された信号は、通常、治療中に例えば最大10MHzのサンプリングレートで印加され得る。
【0030】
本発明のさらなる実施形態において、治療は、バイオマーカーの制御として、すなわち適応的に行われるのではなく、診断/計画段階において前もって最適化されたプランに従う。
【0031】
本発明に係るシステムおよび方法は、最大反応を達成するように刺激処置中に刺激を適応させることができる。刺激と同時のまたは刺激に対して最小の時間遅延での、測定信号の自動取得およびバイオマーカーの測定によって、刺激信号を短時間内に変更することができ、(第1の刺激信号に対する)非反応者が、(変更された刺激信号に対して)反応者になる。
【0032】
ゆえに、可塑性の補助に関連している以前に開発されたバイオマーカーが、観察され、刺激の適応を介して、例えば、刺激パラメータの変更を介して、最大にされるという点において、処置中に電気刺激を患者個別に自動的に最適化することが可能になる。ゆえに、反応者または超反応者(super responders)の比率を大幅に増加させることができ、最終的には、神経障害、特に視覚障害を効果的に処置するための大幅に改善された非侵襲的な電気刺激方法が提供され得、その方法は、とりわけ脳卒中患者のリハビリテーションにおける、全く新しい基準を設定する。
【0033】
最適化基準は、疾病関連のバイオマーカーと治療関連のバイオマーカーとの区別に基づく。第1の場合、健常人に対するバイオマーカー空間内に標準の領域が存在し、それが達成されることは、治癒の見込みがある。その目標は、この標準の領域に達すること、または有意な距離に対してはこの標準の領域にできるだけ接近することである。治療関連のバイオマーカーの場合、その治療に対する患者の特に良好な反応を伴うバイオマーカー空間内の目標領域も考えられる。この場合、治療関連のバイオマーカーは、原則として、その治療の適応性に対する選択基準として使用され得るので、成功の可能性の指標を提供し得る。他方で、さらなる治療的(例えば、薬理学的)処置に備えて、患者をその治療に対するより好ましい全身状態にすること、すなわち、バイオマーカーを目標領域により近づけることが可能である。
【0034】
対応する実施形態において、目標領域は、ある尺度によって評価可能にされ、その基準は、例えば、治療の成功、治療に対する患者の反応またはそれらに達する確率を考慮に入れる。
【0035】
解決法は、経頭蓋刺激法を用いた神経破壊の再建およびその補助の機械的根拠が、不十分にしか理解されていないという事実を考慮に入れ、ゆえにその解決法は、最も広範なあり得るデータによって駆動される手順に基づく。
【0036】
同時の位置特異的、周波数特異的および位相特異的な導出および刺激のために、自由にプログラム可能な導出電極および刺激電極を有する電極キャップが使用され得る。この目的のために必要とされる形状の自由は、伝導性テキスタイルを使用することによってさらに改善され得る。
【0037】
ゆえに、本発明によると、標的化された様式で刺激特性値を最適な脳の状態の方向に変化させることによって非依存的に患者の現在の状態パラメータに基づいて刺激パラダイムを駆動し、ゆえに、治療をその患者に対して個別に適合させ、その有効性を改善し、および/または反応者もしくは超反応者の相対的比率を大幅に高める、制御された刺激システムが提供される。
【0038】
この場合、刺激は、実施形態に応じて、網膜遠心性刺激としてだけでなく、電極を頭に接触させて柔軟に配置させることによって、例えば、視覚皮質の領域における、経頭蓋電気刺激としても、行われ得る。
【0039】
本発明の1つの実施形態において、本システムは、人工ノイズを発生させるためのノイズ発生器を有することが提供される。
【0040】
ゆえに、現在の科学において確立された神経可塑性におけるノイズの影響をさらに利用するために、特定の周波数間隔の離散周波数の使用に加えて、ノイズ成分を刺激に結合する可能性が提供され得る。
【0041】
通常、バイオマーカーは、重み付けされた一連のパラメータであり、様々な信号特性(例えば、測定信号の振幅、周波数、位相および/もしくは位置情報の項目、ならびに/またはそれらの信号のより複雑なイメージング、例えば、相互相関、ウェーブレット係数もしくは臨床的に評価可能な検定統計量)を考慮した測定信号の解析によって得られるすべてのデータセットに対して診断および/または治療の目標に関して特徴的な特性または特徴を有する。
【0042】
本発明のさらなる実施形態において、バイオマーカーの関数従属性は、トレーニングデータからの機械学習によって決定され、特に、バイオマーカーは、測定信号の振幅、周波数、位相および/もしくは位置情報の項目の関数またはそれらの機能イメージであることが提供される。重み付けパラメータもまた、トレーニングデータからの機械学習によって決定され得る。そのような学習方法の1つの実施形態は、バイオマーカーを決定するための測定データが、特定の基準に基づいてセグメント化されるというものである。これは、治療の試みを評価するために、経時的な基準(例えば、治療の試みの前後の時点)と定性的な基準の両方に基づいて(したがって、例えば、定量化できる特徴、例えば、視野のサイズ、視力、色および視野の輪郭に基づいて)行われ得る。測定信号の特徴的な特徴の傾向および相関関係は、セグメント内で確かめられ得る。見出された特徴の有意性および分散が、例えば、特徴パラメータを重み付けするために、使用され得る。
【0043】
測定信号と情報のあるバイオマーカーとの間の機能的関係は、複雑な非線形関係であり得るので、例えば、EEG測定信号は、全体的に見て、非常に高次元のデータであり得、高度な学習方法、例えば、サポートベクターマシン(SVM)が特に本明細書中で使用され得る。
【0044】
この場合、その位相幾何学的条件のバイオマーカー空間は、例えば、その次元の有意性(さらに距離の定義)を考慮したスカラー積線形空間として、または非線形多様体として見なされ得る。後者は、非線形次元削減の方法、例えば、isomapまたは局所線形埋め込みを用いてマッピングされ得る。
【0045】
本発明のさらなる実施形態において、特定の患者集団に対するバイオマーカー空間は、デバイス内に永久に設けられるのではなく、そのデバイスを使用して処置された一連の全患者の治療の経過から学習される。これは、例えば、接続された治療センターにおけるコンピュータのネットワークを介したコミュニケーションによって可能であり得る。
【0046】
本発明のさらなる実施形態において、刺激療法は、薬理学的に補助される。その投薬は、あらかじめ定義され得るか、または治療の経過もしくはバイオマーカーの最適化に起因し得る。実施経路は、例えば、注入デバイスに対するインターフェースを介して、作製され得る。
【0047】
バイオマーカーは、リアルタイムでまたは測定信号から最小の時間遅延で測定され得る。ゆえに、本発明のこの実施形態において、バイオマーカーの反応は、ほぼ遅延なく確立され得るので、刺激信号の調節もまた、必要に応じて直ちに行うことができる。
【0048】
本発明のさらなる実施形態において、刺激信号は、好ましくはフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)において実行される、プログラム可能な関数発生器によって発生されることが提供される。
【0049】
この実施形態において、刺激システムのコアは、FPGAであり、これを介して、1つの電流源がチャネルごとに別々にコントロールされ得る。この場合、出力は、1つ以上のデジタルテーブルを介して定義され、それらのデジタルテーブルは、互いに組み合わされ(例えば、1テーブルあたり16ビットでの8000個のエントリー)、100Hz~1MHzのサンプリングレートで読み出されることが提供され得る。
【0050】
この場合、12または14ビットが、振幅の符号化にとって十分であり、それぞれ残りの4または2ビットは、刺激テーブル(「ウェーブテーブル」)内のコマンドとして解釈され得る。そのようなコマンドは、エンド・オブ・ウェーブフォーム(end of waveform)、スイッチ・テーブル(switch table)(さらなるテーブルからの値の読み出し);グラウンド(ground)(チャネルをグラウンドに切り換えるので、複数のチャネルの場合、電流の強度だけでなく、電流の向きも影響され得る:「ステアリング」);デイ(day)(EEG増幅器によって記録されるTTL信号/タイムスタンプを送信する)、リピート・アンティル(repeat until)(特定の状態が起きるまでテーブルを繰り返し読み出す)であり得る。刺激装置の機能的挙動は、この様式で刺激パラダイムと同期され得る。
【0051】
テーブルローディングサイクル(table loading cycle)の最適化は、振幅もしくはそのサンプリングレートに関して既存のテーブルのさらなる調節/スケーリングによって、または複数のテーブルの重ね合わせによって、行うことができる。本発明のさらなる実施形態において、そのような曲線形状の変更は、カレントテーブルの実行中に行われ得る。したがって、例えば、コマンド:振幅を変化させよ/サンプリングレートを変化させよ(それぞれ振幅またはサンプリングレートを再度変化させる)を使用して、刺激パラダイムの振幅または周波数挙動が、刺激装置のレジスタに前もって記憶された値を用いて(すなわち、刺激装置の非同期制御)、刺激シーケンスの前もって決定された時点(例えば、信号のゼロ交差)において調節される。これは、本発明のさらなる実施形態において、ポーズまたは中断を用いて、例えば、遅延(テーブルのブランクサンプルの数)を変化させよなどのコマンドによって同様に可能であり、例えば、神経測定信号に関して、刺激信号の位相変調が可能である。
【0052】
様々な曲線形状が、プログラム可能な関数発生器において、可能性のある刺激信号として記憶され得る。ゆえに、最適化ユニットは、様々な刺激信号の間で切り換えることができ、大きなパラメータ空間では、刺激にとって最適な設定を選択できるか、または刺激信号が、ノンパラメトリックな様式で発生されて適用される。
【0053】
本発明のさらなる実施形態において、生理学的刺激を発生させる(例えば、種々の視野区域において不連続の光刺激を発生させる)ためのデバイスおよび/またはフィードバック入力デバイス(例えば、手動式スイッチ、タッチスクリーンまたは回転つまみ)を用いて拡張が提供され、ここで、その生理学的刺激を発生させるためのデバイスは、好ましくは、測定デバイスと同期され、フィードバック入力デバイスのフィードバックデータは、好ましくは、バイオマーカーの計算において考慮される。
【0054】
この場合、バイオマーカー、およびゆえにバイオマーカーに応じた刺激信号もまた、フィードバック入力デバイスを介して患者が入力するフィードバックデータに応じて確立されることが提供され得る。
【0055】
本発明のさらなる実施形態において、音響刺激は、聴覚的に関連する脳領域およびより高レベルの脳領域を刺激するために、例えばヘッドホンを介して、適用される。
【0056】
本発明のさらなる実施形態において、より複雑な光学的/視覚的刺激(例えば、格子またはチェッカーボードパターン)が、上述のフィードバック入力デバイスと組み合わされることにより、所与の患者におけるより高レベルの視覚処理の機能が評価され、それがバイオマーカーの最適化に組み込まれる。この機能には、例えば、空間分解能(周波数および変調度)、配向パターン、運動、空間視が含まれる。
【0057】
本発明のさらなる実施形態において、述べられたタイプの刺激が、治療目的のためと、対応する誘発電位を測定することによるバイオマーカーの更新との両方のために使用される。
【0058】
いくつかの実施形態において、単一または複数の電極の刺激信号は、直流、交流または高周波ノイズだけを有する。他の実施形態では、3つすべての可能な電流パラダイムの重ね合わせが、1つ以上の電極において適用される。
【0059】
本発明のさらなる実施形態において、測定信号に対するバイオマーカーの関数従属性は、試験被験体からのトレーニングデータを使用して機械学習によって、特に、データベースによってさらに支援されるサポートベクターマシンを用いた教師付きクラスタリングによって決定されることが提供される。ゆえに、その方法は、全患者および新たに加えられた各患者のデータプールから「学習」できる。
【0060】
本発明のこの実施形態において、関連するEEGバイオマーカーセット、いわゆる「視覚系の回復のEEGフィンガープリント」は、測定信号の様々な特徴(例えば、周波数、位相および位置情報の項目)を考慮に入れるパターン認識法(サポートベクターマシンを用いた教師付きクラスタリング)を活用して、既存の試験被験体データ(反応者および非反応者)から得ることができる。反応者および非反応者への試験被験体データの割り当ては、手作業で、例えば、熟練の医師によって行われ得る。
【0061】
次いで、この観察された「EEGフィンガープリント」に基づいて、刺激パラメータの迅速な確率的最適化のために特に有効なアルゴリズムが使用され得る。
【0062】
本発明のさらなる実施形態において、EEGの特徴だけでなく、さらなる測定法、例えば、ECGもしくは機能的磁気共鳴断層撮影または意識的な患者フィードバック(下記を参照のこと)もまた、バイオマーカー空間に投影される。これには、視野測定または聴力検査などの診断テストが含まれる。
【0063】
本発明のさらなる実施形態において、刺激信号のパラメータの変更によってバイオマーカーを最大にするために、刺激方法の間に、最適化法、特に確率的最適化法が行われることが提供される。
【0064】
確率的最適化法は、実施形態に応じて、変更される非常に多数の刺激信号のパラメータが提供される実験において極小値に関して特にロバストであると証明されている。
【0065】
本発明によると、種々のクラスの様々な確率的最適化法(例えば、進化戦略、遺伝的アルゴリズム、確率的勾配降下法)を使用することができ、それらの共通の特徴は、操作変数に対して変更を行うことができること、およびそれらの変更が改善をもたらしたか否かについてそれらの変更を事後評価できることである。この場合、残りの探索空間の最大分割を対象にする能動的学習の方法および強化学習(「報酬原理」)の方法も適用可能である。
【0066】
この場合、最適化に必要とされる演算を前もって正確に計画できないが、その計画は、バイオマーカー空間における軌道またはイメージによって互いに結び付けられたバイオマーカー空間に関係するという事実が考慮される。これらの軌道は、患者からのできるだけ小さい相互作用しか必要としない、例えば、できるだけ少量のエネルギーで済ます(疼痛減少)、または特に特定のリスクを最小にする(治療の対象、例えば癲癇ではないさらなる疾病に応じて)プロファイルに基づいて計画される。
【0067】
最適化は、例えば、バイオマーカー空間内の目標領域の端に達したとき、バイオマーカー空間内の目標領域の重心に達したとき、計画された方向でのさらなる最適化が不可能であるとみられるとき、またはバイオマーカーがリスク領域の入口領域を去れないとき、終了される。リスク領域セットは、バイオマーカーが患者への悪影響に関係するコヒーレントセットである。これは、例えば、心拍または恐怖状態の誘導などの機能の影響に関係する場合である。
【0068】
本発明のさらなる実施形態において、測定信号の特徴(例えば、振幅、周波数および/または位相情報)は、刺激信号パルスの適用後の特定の時間範囲、特に、刺激信号パルスの適用後の10ms~100ms、好ましくは、30ms~300msの時間範囲において測定されることが提供される。
【0069】
強いアーチファクトが、刺激信号パルスの適用中の測定電極において生じ得る。これらのアーチファクトは、数ボルトの範囲であり得るが、とりわけ、導出される測定信号は、マイクロボルトの桁でしかない。これらの場合、とりわけ、アーチファクトの抑制またはフィルタリングは、まったく有望でなく、刺激パルス中または刺激パルスの直後に測定された信号は、バイオマーカーの計算において考慮されない。
【0070】
本発明の他の実施形態において、測定信号の特徴の全部または少なくとも一部は、連続的に、すなわち、特定の時間枠に対する時間的な制限なしに、測定される。
【0071】
本発明のさらなる実施形態において、特に種々の振幅、周波数、曲線形状および位置分布を特徴とする、複数のあらかじめ定義された刺激シーケンスが、連続的に適用され、それらの各々の後にバイオマーカーが測定され、続いて、治療目標に対応するバイオマーカーの最適値が達成される刺激シーケンスを用いて、さらなる刺激が行われることが提供される。
【0072】
この場合、これは、一連の既知の刺激シーケンスから、ある患者のために、この患者が最も良く反応する刺激シーケンスを選択する特に単純な方法である。
【0073】
本発明のさらなる実施形態において、人工ノイズは、ホワイトノイズおよびフィルタ処理されたノイズ(例えば、fノイズ、1/fノイズおよび/または1/fノイズ)を含むことが提供され、ここで、バイオマーカーに応じて、様々なタイプの人工ノイズの間で切り換えが行われる。
【0074】
本発明のさらなる実施形態において、高比率のノイズ、特に、搬送信号と比べて10%超、好ましくは、50%超というノイズの比率を有する第1の信号、および低比率のノイズ、特に、10%未満、好ましくは、2%未満というノイズの比率を有する第2の信号が発生され、その第1および第2の信号は、患者の種々の領域に、ならびに/または種々の電極および/もしくはコイルを使用して、適用されることが提供される。