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  • 特許-正極活物質の製造方法 図1
  • 特許-正極活物質の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20220707BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20220707BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20220707BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20220707BHJP
   H01M 4/136 20100101ALN20220707BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20220707BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/45 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/136
H01M4/62 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018055268
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019169314
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田頭 裕己
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真紀
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 正幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信三
(72)【発明者】
【氏名】河野 羊一郎
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-182949(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003071(WO,A1)
【文献】特表2016-534509(JP,A)
【文献】特開2014-239006(JP,A)
【文献】特開2014-197462(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103985870(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質の製造方法であって、
MをCoあるいはNiのいずれか、あるいは両方として、化学式LiMPで表される化合物の原料を混合する原料混合ステップと、
前記原料混合ステップにより混合された前記原料を300℃以上400℃以下の温度で仮焼成する仮焼成ステップと、
前記仮焼成ステップにより得た粉体材料を、平均粒子径が0.3μm以下となるように粉砕する粉砕ステップと、
前記粉砕ステップ後の粉体材料を620℃以上640℃以下の温度で焼成して、当該粉体材料を焼結させる焼成ステップと、
を含むことを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質の製造方法において、前記化合物は、LiCoPであることを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の正極活物質の製造方法であって、
原料混合ステップでは、前記原料として、(NHHPO、LiCO、CoCを用いる、
ことを特徴とする正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質の製造方法、正極活物質、および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、各種二次電池の中でもエネルギー密度が高いことで知られている。しかし一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。そのため、リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められている。そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料であり、従来のリチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。そして、一般的な全固体電池は層状の正極(正極層)と層状の負極(負極層)との間に層状の固体電解質(電解質層)が狭持されてなる積層電極体に集電体を形成した構造を有している。
【0003】
全固体電池の正極活物質には、LiCoO、LiMnなど、従来のリチウム二次電池用の材料を用いることができる。また、全固体電池は、可燃性の電解液を用いないことから、より高い電位差が得られ、エネルギー密度が高い全固体電池用の正極活物質についても研究されている。具体的には、一つの遷移金属に対して複数のLiが関与する、所謂「多電子反応」を示す正極活物質について研究されている。上記の従来の正極活物質では遷移金属に対して一つのLiしか関与しないが、多電子反応を示す正極活物質では、複数のLiがレドックス反応に寄与するため、より高電位で動作し、高容量とともに高いエネルギー密度も得られる。
【0004】
そして、以下の非特許文献1や非特許文献2には、2個のLiがレドックス反応に寄与する正極活物質であるLiFeP(ピロリン酸鉄リチウム)の特性などについて記載されている。以下の特許文献1には、固相法を用い、MをCoとNiのいずれか一方、あるいは両方として、化学式LiMPで表される正極活物質の製造方法について記載されている。なお、負極活物質としては、酸化チタン(TiO)などがある。
【0005】
ところで、全固体電池には、焼結体からなる積層電極体を備えたバルク焼結型と呼ばれるものがよく知られている。バルク型の全固体電池では、積層電極体を、例えば、周知のグリーンシート法を用いて作製することができる。グリーンシート法を用いた積層電極体の作製方法の一例を示すと、まず、正極活物質と固体電解質を含むスラリー状の正極層材料、負極活物質と固体電解質を含むスラリー状の負極層材料、および固体電解質を含むスラリー状の固体電解質層材料をそれぞれシート状のグリーンシートに成形し、固体電解質層材料からなるグリーンシート(以下、電解質層シートとも言う)を正極層材料からなるグリーンシート(以下、正極層シートとも言う)と負極層材料からなるグリーンシート(以下、負極層シートとも言う)とで挟持して得た積層体を圧着し、その圧着後の積層体を焼成する。それによって焼結体である積層電極体が完成する。
【0006】
各層のグリーンシートを作製する方法としては、周知のドクターブレード法がある。ドクターブレード法では、無機酸化物などのセラミックス粉体にバインダ(ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリフッ化ビニリレン(PVDF)、アクリル、エチルメチルセルロースなど)および溶剤(無水アルコールなど)を混合して得たスラリーを塗布工程あるいは印刷工程により薄板状に成形してグリーンシートを作製する。そしてスラリーに含ませるセラミック粉体として正極活物質、固体電解質、および負極活物質のそれぞれの粉体を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-182949号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Shin-ichi Nishimura,Megumi Nakamura,Ryuichi Natsui,and Atsuo Yamada、「New Lithium Iron Pyrophosphate as 3.5V Class Cathode Material for Lithium Ion Battery」、J.Am.Chem.Soc.、2010,132(39),pp13596-13597
【文献】Hui Zhou,Shailesh Upreti,Natasha A.Chernova,Geoffroy Hautier,Gerbrand Ceder,and M. Stanley Whittingham、「Iron and Manganese Pyrophosphates as Cathodes for Lithium-Ion Batteries」、Chem. Mater.、2011,23(2),pp293-300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、MをCoあるいはNiのいずれか、あるいは両方として、化学式LiMPで表される正極活物質は、2個のLiイオンがレドックス反応に寄与し、高いエネルギー密度を有するものである。しかしながら、この正極活物質を用いた全固体電池を実用化するためには、異相を含まない純度の高いLiMPを得る必要がある。そして、上記特許文献1には、異相を含まないLiMPを得るための正極活物質の製造方法について記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、製造した正極活物質の結晶相を、X線回折装置を用いた測定(XRD測定)によって調べており、XRD測定では、測定限界に近い微量の異相が含まれている可能性もある。そして、特許文献1に記載の製造方法で作製した正極活物質をより詳しく調べてみたところ、極めて微少ではあるが、XRD測定における回折パターンに、異相を示すピークがあった。また、特許文献1に記載の製造方法では、650℃以上の焼成温度で20時間以上の時間を掛けて正極活物質を焼結させていた。そのため、焼成炉内の温度を焼成温度まで昇温させ、その温度を長時間維持するために、多大なエネルギーコストが掛かっていた。
【0011】
なお、固相法で作製される正極活物質から、目的とする化合物の結晶相以外の異相のみを取り除くことが極めて難しい。そのため、極めて純度の高い正極活物質を得るためには、製造方法を改良する以外に手段がない。しかし、現状では、その製造方法も存在しない。液相法や気相法など、固相法以外にも正極活物質を作製する方法はあるが、これらの方法でも、異相をほとんど含まない正極活物質を作製することは難しい。そして、固相法以外の正極活物質の製造方法は、製造工程が複雑であり、製造コストが嵩む。
【0012】
そこで、本発明は、固相法を用い、MをCoあるいはNiのいずれか、あるいは両方として、化学式LiMPで表される正極活物質を極めて高い純度で製造するための方法、当該方法によって作製されてLiMPの純度が極めて高い正極活物質、およびこの正極活物質を用いた全固体電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、正極活物質の製造方法であって、
MをCoあるいはNiのいずれか、あるいは両方として、化学式LiMPで表される化合物の原料を混合する原料混合ステップと、
前記原料混合ステップにより混合された前記原料を300℃以上400℃以下の温度で仮焼成する仮焼成ステップと、
前記仮焼成ステップにより得た粉体材料を、平均粒子径が0.3μm以下となるように粉砕する粉砕ステップと、
前記粉砕ステップ後の粉体材料を620℃以上640℃以下の温度で焼成して、当該粉体材料を焼結させる焼成ステップと、
を含むことを特徴とする正極活物質の製造方法としている。
【0014】
前記化合物が、LiCoPである正極活物質の製造方法とすることもでき、当該製造方法は、原料混合ステップにおいて、前記原料として、(NHHPO、LiCO、CoCを用いることとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、固相法を用い、MをCoあるいはNiのいずれか、あるいは両方として、化学式LiMPで表される正極活物質を極めて高い純度で製造するための方法が提供される。そして、当該方法によって作製された正極活物質は、高いエネルギー密度を有し、当該正極活物質を用いた全固体電池は、高電圧で動作し、大きな容量を有するものとなる。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法を示す図である。
図2】作製条件が異なる正極活物質の結晶構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
===実施例===
本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法として、化学式LiMPにおける遷移金属MをCoとしたLiCoPを作製する手順を挙げる。そして、実施例に係る方法で作製された正極活物質の特性を評価するために、同じ原料を用いつつ、製造条件が異なる各種正極活物質をサンプルとして作製した。
【0020】
図1に、本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法の手順を示した。まず、LiCoPの原料として(NHHPO、LiCO、CoC・2HOを使用し、この原料を秤量する(s1)。そして、LiCoPの原料を、ボールミルを用いて湿式混合する(s2)。湿式混合によって得た原料の混合物をアルミナるつぼに入れ、大気雰囲気中で、原料の混合物が焼結する温度より低い温度で仮焼成する(s3)。仮焼成工程(s3)における温度は、正極活物質に限らず、固相法でセラミック粉を作製する場合では、一般的に300℃~400℃の温度である。ここでは350℃の温度で2時間掛けて仮焼成した。
【0021】
次に、仮焼成によって得た粉体状の混合物を粉砕し、粉体材料の平均粒子径を調整した(s4)。このとき、サンプルに応じて平均粒子径(以下、粒子径とも言う)を変えた。なお、この粉砕工程(s4)では、粒子径を6.0μm以下にする場合は、遊星ボールミルを用いた。また、粉砕工程(s4)を省略したサンプルも作製した。そして、粉砕後の混合物を、大気雰囲気中で焼成し、焼結体を得た(s5)。このとき、サンプルに応じて焼成温度を変えた。焼成時間については10時間とした。また、焼成工程(s5)では、焼成炉内に大気組成のガスを流さずに試料である粉体を焼成した。最後に、メノウ乳鉢を用いて焼結体を粉砕し、その粉砕後のサンプルの特性を評価した。
【0022】
===特性評価===
<XRD測定>
粉砕工程(s4)における平均粒子径や、焼成工程(s5)における焼成条件が異なる各種サンプルに対し、XRD測定を行い、各サンプルに含まれる化合物の生成状態を調べた。図2に各サンプルの作製条件とXRD測定の結果とを示した。図2では、各サンプルに結晶として含まれている化合物の種類が作製条件別にプロットされている。図中では、結晶相において主相となるLiCoPが白丸でプロットされており、異相であるLi10、LiCO10、LiCo(P、およびLiCoPOが、それぞれ、菱形、黒塗り四角、バツ、および黒塗り三角の各図形でプロットされている。また、同じ温度で焼成されたサンプル同士が、破線で示された一つの矩形領域内にプロットされており、粉砕工程(s4)において同じ粒子径に調整されたサンプル同士が、点線で示された一つの矩形領域内にプロットされている。なお、粒子径6μmのサンプルは、粉砕工程(s4)を省略したサンプルである。
【0023】
図2に示したように、結晶相において主相となるLiCoPは、全ての作製条件で生成されることが確認できた。しかし、多くの作製条件で異相の生成も確認された。そして、粒子径が0.3μmで、焼成温度が620℃と640℃の条件では、異相の生成を確認することができなかった。また、各サンプルのXRD測定結果から、焼成温度が適正(620℃、640℃)であっても、粒子径が0.5μm以上であると異相が生成され易いことがわかった。これは、粒子径が大きいと、焼成工程において、粉体材料中の各粒子に均一に熱が拡散せず異相が生成され易くなると考えることができる。すなわち、焼成温度が適正で、粒子径が0.3μm以下であれば、十分に熱が拡散されて異相が発生し難くなる。また、粒子径が0.3μmであっても、焼成温度が適正温度の範囲外である場合では、LiCoP以外の結晶相が焼結したものと考えることができる。
【0024】
したがって、LiCoPの純度が極めて高い正極活物質を作製するためには、焼成工程(s5)前の粉砕工程(s4)において、仮焼成工程(s3)によって得た粉体材料を、粒子径が0.3μm以下となるように粉砕し、焼成工程(s5)において、焼成温度を620℃以上640℃以下とすればよい。なお、粒子径の下限は、粉砕工程(s4)に用いられるボールミルなどの粉砕装置の性能に依存する。
【0025】
焼成工程(s5)における焼成時間については、粉体材料を焼結させることができれば、時間は特に問わない。本実施例では、10時間であったが、焼結させることができれば、それより短くてもよい。焼成時間を長くする場合では、温度が一定であれば、一度ある結晶相として焼結した化合物が他の結晶相になることはほとんどない。
【0026】
以上より、本実施例に係る正極活物質の製造方法では、620℃以上640℃以下の低い温度で粉体材料を焼結させることができ、焼成工程(s5)に要するエネルギーコストを抑制することが可能となる。さらに、本実施例に係る正極活物質の製造方法では、焼成工程(s5)を大気雰囲気で行っており、不活性ガス雰囲気での焼成が不要である。また、焼成炉内に大気を含むガスを導入するための設備や工程も不要である。本実施例に係る正極活物質の製造方法は、製造工程が簡素な固相法であり、基本的に、液相法や気相法などの他の製造方法よりも製造コストを抑制することができる。
【0027】
<リートベルト解析>
図2に示したXRD測定結果において、平均粒子径を0.3μmとし、焼成工程(s5)において、焼成温度を620℃、または640℃としたサンプル(以下、実施例のサンプルとも言う)は、LiCoPの純度が高い正極活物質であった。少なくとも、XRD測定では、異相の含有率は測定限界以下であった。そこで、次に、本実施例の製造方法によって作製された正極活物質中のLiCoPの純度をより詳しく調べるために、実施例のサンプルに対するXRD測定によって得られた回折パターンを、リートベルト法を用いて解析した。その結果、実施例のサンプルに含まれている異相の割合は、最大でも1wt%~2wt%であり、実施例のサンプルは、LiCoPの純度が極めて高い正極活物質であることが実証された。言い換えれば、LiCoPを含む粉体状の正極活物質に対するXRD測定結果を、リートベルト法を用いて解析した際に、異相が2wt%以下であれば、その正極活物質は、本実施例に係る方法で製造されたものである可能性が高いと言える。また、粉体材料からなる正極活物質を用いて作製される全固体電池は、上述したバルク型であることから、バルク型の全固体電池の正極層に含まれる正極活物質中のLiCoPの含有率が98wt%以上であれば、やはり、その全固体電池に用いた正極活物質も本実施例の方法で作製されたものである可能性が高い。
【0028】
===その他の実施例===
LiCoPの原料は、上記実施例において用いたものに限らない。本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法は、固相法であることから、目的とする化合物の化学式に含まれる元素が揃うのであれば、様々な原料を採用することができる。例えば、上記実施例では、LiやCoの起源となる原料としてLiNOやCoCOなどを用いることができる。
【0029】
また、LiCoPとLiNiPとは特性が近似しており、本発明の実施例に係る正極活物質の製造方法は、LiCoPに限らず、LiCoPに含まれるCoの全部あるいは一部をNiに置換した、化学式LiMPで表される化合物(Mは、CoとNiのいずれか、あるいは両方)にも適用できる。
【0030】
本発明の実施例に係る方法で作製された正極活物質は、全固体電池用の正極活物質として特に有用であるが、充放電反応にLiイオンを用いるリチウム二次電池であれば、全固体電池に限らず適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
s1 秤量工程、s2 混合工程、s3 仮焼成工程、s4 粉砕工程、s5 焼成工程
図1
図2