(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】風力発電所の監視システム
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20220707BHJP
【FI】
F03D17/00
(21)【出願番号】P 2018065001
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷場 隆
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-075081(JP,A)
【文献】特開2002-349413(JP,A)
【文献】特開2013-139732(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133002(WO,A1)
【文献】特開2016-125947(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195698(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/013997(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/137189(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/033946(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/114877(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0241409(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の風力発電装置を備える風力発電所の監視システムであって、
前記複数の風力発電装置は、
第1の風力発電装置と、
複数の第2の風力発電装置とを含み、
前記第1の風力発電装置は、
前記複数の第2の風力発電装置と通信するように構成された通信装置と、
前記第1の風力発電装置において収集される第1のデータ、及び前記通信装置を通じて前記複数の第2の風力発電装置から取得される第2のデータを用いて、前記第1の風力発電装置の状態を監視する状態監視装置とを備え、
前記状態監視装置は、
前記複数の第2の風力発電装置の運転条件が前記第1の風力発電装置の運転条件と一致する場合に、前記複数の第2の風力発電装置から前記第1のデータと同期する前記第2のデータを取得し、
前記第1のデータ及び前記第2のデータを含む第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、前記第1の風力発電装置の状態を監視し、
前記第1の集合データのばらつき度合いよりも、前記第1の集合データから前記第1のデータを除外した第2の集合データのばらつき度合いの方が小さい場合に、前記第1の風力発電装置において異常が生じていると判定する
、風力発電所の監視システム。
【請求項2】
前記状態監視装置は、前記第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、前記複数の第2の風力発電装置の状態をさらに監視する、
請求項1に記載の風力発電所の監視システム。
【請求項3】
複数の風力発電装置を備える風力発電所の監視システムであって、
前記複数の風力発電装置は、
第1の風力発電装置と、
複数の第2の風力発電装置とを含み、
前記第1の風力発電装置は、
前記複数の第2の風力発電装置と通信するように構成された通信装置と、
前記第1の風力発電装置において収集される第1のデータ、及び前記通信装置を通じて前記複数の第2の風力発電装置から取得される第2のデータを用いて、前記第1の風力発電装置の状態を監視する状態監視装置とを備え、
前記状態監視装置は、
前記複数の第2の風力発電装置の運転条件が前記第1の風力発電装置の運転条件と一致する場合に、前記複数の第2の風力発電装置から前記第1のデータと同期する前記第2のデータを取得し、
前記第1のデータ及び前記第2のデータを含む第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、前記第1の風力発電装置の状態を監視し、
前記状態監視装置は、さらに、
前記第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、前記複数の第2の風力発電装置の状態を監視し、
前記第1の集合データのばらつき度合いよりも、前記複数の第2の風力発電装置のうち監視対象の風力発電装置のデータを前記第1の集合データから除外した第3の集合データのばらつき度合いの方が小さい場合に、前記監視対象の風力発電装置において異常が生じていると判定する
、風力発電所の監視システム。
【請求項4】
前記状態監視装置は、異常が生じていると判定された回数が所定数以上の前記監視対象の風力発電装置に対して、前記通信装置を通じてアラームを通知する、
請求項3に記載の風力発電所の監視システム。
【請求項5】
前記状態監視装置は、異常が生じていると判定された回数が所定数以上の場合に、アラームを報知するための処理を実行する、請求項1
から請求項4のいずれか1項に記載の風力発電所の監視システム。
【請求項6】
前記第1の風力発電装置は、前記第1のデータ、及び前記通信装置を通じて取得された前記第2のデータを蓄える記憶装置をさらに備える、請求項1から
請求項5のいずれか1項に記載の風力発電所の監視システム。
【請求項7】
前記第1のデータ及び前記第2のデータの各々は、
複数のセンサからそれぞれ計測された複数の計測データを含む、請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載の風力発電所の監視システム。
【請求項8】
前記通信装置は、前記複数の第2の風力発電装置と無線により通信を行なうように構成される、請求項1から
請求項7のいずれか1項に記載の風力発電所の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、風力発電所の監視システムに関し、特に、複数の風力発電装置を備える風力発電所の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
環境に配慮した発電所として、複数の風力発電装置を備える風力発電所(以下、単に「サイト」と称する場合がある。)が注目されている。各風力発電装置においては、風力を回転力に変換するブレード及びその回転力を電力に変換するための変換装置を格納するナセルが、支柱上の高所(たとえば地上数十メートル)に配設される。このため、サイト内の各風力発電装置において、各種センサから収集されるデータを用いて風力発電装置の状態を監視することが行なわれている。
【0003】
たとえば、特開2012-181168号公報(特許文献1)には、風力発電装置において、軸受を備える転動装置の状態を監視する監視装置が開示されている。この監視装置においては、風力発電装置内に設けられるデータ処理装置において、転動装置の状態を評価するための、各種測定データ(転動装置における潤滑油中の混入水分濃度や、転動装置を構成する軸受の振動、内外輪間の相対変位等)に対するしきい値が予め設定される。そして、各種測定データがしきい値と比較され、その比較結果に基づいて転動装置の状態が評価される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の監視装置は、風力発電装置毎にデータを収集して状態監視を行なうものであるため、複数の風力発電装置を備えるサイトにおいても、各風力発電装置において個別にしきい値を設定する必要がある。たとえば、収集データを用いて状態判定用のしきい値が作成されるような場合、風力発電装置毎に、データの収集を行ない、収集されたデータを用いてしきい値を設定し、設定されたしきい値を管理する必要がある。しかしながら、多数の風力発電装置を有するサイトにおいては、このような個別的な状態監視は効率的とはいえず、より効率的な状態監視が望まれる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、複数の風力発電装置を備える風力発電所の監視システムにおいて、風力発電装置の状態をより効率的に監視することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における監視システムは、複数の風力発電装置を備える風力発電所の監視システムであって、複数の風力発電装置は、第1の風力発電装置と、複数の第2の風力発電装置とを含む。第1の風力発電装置は、複数の第2の風力発電装置と通信するように構成された通信装置と、第1の風力発電装置において収集される第1のデータ、及び通信装置を通じて複数の第2の風力発電装置から取得される第2のデータを用いて、第1の風力発電装置の状態を監視する状態監視装置とを備える。状態監視装置は、複数の第2の風力発電装置の運転条件が第1の風力発電装置の運転条件と一致する場合に、複数の第2の風力発電装置から第1のデータと同期する第2のデータを取得する。そして、状態監視装置は、第1のデータ及び第2のデータを含む第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、第1の風力発電装置の状態を監視する。
【0008】
この監視システムでは、第1の風力発電装置において、第1のデータが収集されるとともに、複数の第2の風力発電装置の運転条件が第1の風力発電装置の運転条件と一致する場合に、複数の第2の風力発電装置から第1のデータと同期する第2のデータが取得される。そして、状態監視装置により、第1のデータ及び取得された第2のデータを含む第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、第1の風力発電装置の状態が監視される。これにより、複数の風力発電装置の各々において、固定的なしきい値を予め設定し、設定されたしきい値を管理する必要はなくなり、運転条件が一致し、かつ、同期した複数の風力発電装置のデータを用いて風力発電装置(第1の風力発電装置)の状態を監視することができる。したがって、この監視システムによれば、風力発電装置の状態をより効率的に監視することができる。
【0009】
なお、上記において、「同期する」とは、厳密に時期が同じであることに限定されるものではなく、第1のデータの収集時期を含む所定範囲の期間であることを含む。
【0010】
好ましくは、状態監視装置は、第1の集合データのばらつき度合いよりも、第1の集合データから第1のデータを除外した第2の集合データのばらつき度合いの方が小さい場合に、第1の風力発電装置において異常が生じていると判定する。
【0011】
好ましくは、状態監視装置は、異常が生じていると判定された回数が所定数以上の場合に、アラームを報知するための処理を実行する。
【0012】
好ましくは、状態監視装置は、第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、複数の第2の風力発電装置の状態をさらに監視する。
【0013】
さらに好ましくは、状態監視装置は、第1の集合データのばらつき度合いよりも、複数の第2の風力発電装置のうち監視対象の風力発電装置のデータを第1の集合データから除外した第3の集合データのばらつき度合いの方が小さい場合に、監視対象の風力発電装置において異常が生じていると判定する。
【0014】
さらに好ましくは、状態監視装置は、異常が生じていると判定された回数が所定数以上の監視対象の風力発電装置に対して、通信装置を通じてアラームを通知する。
【0015】
好ましくは、第1の風力発電装置は、第1のデータ、及び通信装置を通じて取得された第2のデータを蓄える記憶装置をさらに備える。
【0016】
好ましくは、第1のデータ及び第2のデータの各々は、複数の計測データを含む。
好ましくは、通信装置は、複数の第2の風力発電装置と無線により通信を行なうように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の風力発電装置を備える風力発電所の監視システムにおいて、風力発電装置の状態をより効率的に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に従う監視システムが適用される風力発電所の全体図である。
【
図2】
図1に示す各風力発電装置の構成例を示す図である。
【
図3】監視ユニットの構成例を示したブロック図である。
【
図4】
図3に示す状態監視装置により実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図4のステップS45において実行される状態監視処理の具体的な手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】状態監視処理における各種データの演算結果の一例を示す図である。
【
図9】
図8に示す各風力発電装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
<風力発電所の全体構成>
図1は、本発明の実施の形態に従う監視システムが適用される風力発電所の全体図である。
図1を参照して、風力発電所1は、複数の風力発電装置10(10-1~10-10)と、ハブ装置12と、監視端末14とを備える。この例では、風力発電所1が10機の風力発電装置10を備える場合について示されているが、風力発電所1が備える風力発電装置10の数はこれに限定されるものではない。
【0021】
各風力発電装置10は、ブレードにより風力を回転力に変換して発電機により発電する。各風力発電装置10のサイズは同等であり、サイト内において、各風力発電装置10は、隣接の風力発電装置10とたとえば数百メートルの間隔をあけて配設される。
【0022】
各風力発電装置10において、風力を回転力に変換するブレード、及びその回転力を電力に変換するための増速機や発電機等を格納するナセルは、タワー(支柱)上の高所(たとえば地上数十メートル)に設置される。ブレード及びナセルは、タワー上に回動自在に支持され、風向きに応じてヨー角が制御される。
【0023】
ナセル内には、回転力を伝達する主軸を支持する主軸受や増速機等の状態を検出するための各種センサ(振動センサや温度センサ等)が設置され、風力発電装置10の状態を監視するための各種データが収集される。
【0024】
なお、以下では、ある風力発電装置10について、その風力発電装置10を「自号機」と称し、他の風力発電装置10を「他号機」と称する場合がある。この場合、自号機は、この発明における「第1の風力発電装置」に対応し、残余の複数の他号機は、この発明における「複数の第2の風力発電装置」に対応する。
【0025】
各風力発電装置10には、他号機と通信するための通信装置と、自号機及び他号機の状態を監視する状態監視装置とがさらに設けられる。なお、他号機においても、その他号機の状態が監視されるので、各風力発電装置10において他号機の状態を監視することは必須ではない。各風力発電装置10は、LAN(Local Area Network)ケーブルによってハブ装置12に接続されており、各風力発電装置10は、ハブ装置12を通じて他号機と通信することができる。
【0026】
そして、各風力発電装置10は、他号機において収集されたデータを通信装置によって他号機から取得し、自号機において収集されたデータとともに他号機から取得された他号機のデータを用いて、状態監視装置により自号機及び他号機の状態を監視する。この点については、後ほど詳しく説明する。
【0027】
ハブ装置12は、複数の風力発電装置10間で通信を行なうための集線装置であり、各風力発電装置10の通信装置とLANケーブルによって接続されている。これにより、各風力発電装置10は、ハブ装置12を通じて他号機と各種データをやり取りすることができる。ハブ装置12は、各風力発電装置10とは別に地上に設置されるものとするが、複数の風力発電装置10のいずれかに設置されてもよい。
【0028】
監視端末14は、地上に設置され、ディスプレイを含むPC端末等によって構成される。監視端末14も、LANケーブルによってハブ装置12に接続されている。そして、監視端末14は、各風力発電装置10の状態監視装置による状態監視の結果や、各風力発電装置10において収集されるデータ等をハブ装置12経由で取得して、ディスプレイに表示することができる。
【0029】
図2は、
図1に示した各風力発電装置10の構成例を示す図である。
図2を参照して、風力発電装置10は、主軸20と、ブレード30と、増速機40と、発電機50と、主軸受60と、ナセル90と、タワー100とを備える。また、風力発電装置10は、センサ70A~70Iと、監視ユニット80とをさらに備える。主軸20の一部、増速機40、発電機50、主軸受60、センサ70A~70I、及び監視ユニット80は、ナセル90に格納され、ナセル90は、タワー100によって支持される。
【0030】
主軸20は、ナセル90内に挿入されて増速機40の入力軸に接続され、主軸受60によって回転自在に支持される。主軸20は、風力を受けたブレード30により発生する回転トルクを増速機40の入力軸へ伝達する。ブレード30は、主軸20の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸20に伝達する。
【0031】
主軸受60は、ナセル90内において固設され、主軸20を回転自在に支持する。主軸受60は、転がり軸受によって構成され、たとえば、自動調芯ころ軸受や円すいころ軸受、円筒ころ軸受、玉軸受等によって構成される。なお、これらの軸受は、単列のものでも複列のものでもよい。
【0032】
増速機40は、主軸20と発電機50との間に設けられ、主軸20の回転速度を増速して発電機50へ出力する。一例として、増速機40は、遊星ギヤや中間軸、高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。発電機50は、増速機40の出力軸に接続され、増速機40から受ける回転トルクによって発電する。発電機50は、たとえば、誘導発電機によって構成される。
【0033】
センサ70A~70Iは、風力発電装置10の状態を監視するためのセンサであり、ナセル90の内部の各機器に固設される。具体的には、センサ70Aは、主軸受60の上面に固設され、主軸受60の状態を監視する。センサ70B~70Dは、増速機40の上面に固設され、増速機40の状態を監視する。センサ70E,70Fは、発電機50の上面に固設され、発電機50の状態を監視する。センサ70Gは、主軸受60に固設され、ミスアライメントとナセル90の異常振動を監視する。センサ70Hは、主軸受60に固設され、アンバランスとナセル90の異常振動を監視する。センサ70Iは、ナセル90の床面に固設され、ナセル90の回転角速度(単位時間あたりの回転数でもよい。)を検出する。各センサ70A~70Iの検出値は、監視ユニット80へ出力される。
【0034】
なお、上記のセンサ70A~70Iは、風力発電装置10の状態を監視するための各種センサの一例であり、センサ70A~70Iの全てが必須というわけではなく、また、センサ70A~70Iと異なるセンサが設けられてもよい。
【0035】
監視ユニット80は、ナセル90の内部に設けられ、センサ70A~70Iの検出値を受ける。なお、図示していないが、センサ70A~70Iと監視ユニット80とは、有線ケーブルで接続されている。また、監視ユニット80は、LANケーブル85によってハブ装置12(
図1)に接続されており、他号機の監視ユニット80と通信することができる。そして、監視ユニット80は、他号機において測定された各種計測データを他号機から取得し、自号機の測定データと取得された他号機の測定データとを用いて、自号機及び他号機の状態監視を行なう。
【0036】
<状態監視手法の説明>
風力発電装置において、収集される各種測定データに対して状態判定用のしきい値を予め設定し、測定データとしきい値との比較結果に基づいて風力発電装置の状態を評価することが従来より行なわれている。
【0037】
このような手法では、風力発電装置毎に、各種データの収集を行ない、収集された測定データを用いて適当なしきい値を予め設定し、設定されたしきい値を管理する必要がある。しかしながら、多数のデータが収集される風力発電装置をさらに多数備える風力発電所においては、上記のような個別的な(風力発電装置毎の)状態監視は効率的とはいえず、より効率的な状態監視が望まれる。
【0038】
そこで、この実施の形態に従う風力発電所の監視システムでは、各風力発電装置10において、各センサ70A~70Iにより自号機のデータ(第1のデータ)が収集されるとともに、他号機の運転条件が自号機の運転条件と一致する場合に、自号機のデータ(第1のデータ)と同期する他号機のデータ(第2のデータ)が他号機から取得される。
【0039】
なお、運転条件とは、たとえば、主軸20(ブレード30)の回転速度や、発電機50の発電電力等である。また、「同期する」とは、厳密な同時期に限定されるものではなく、自号機のデータ(第1のデータ)と同期する他号機のデータ(第2のデータ)とは、自号機のデータの収集時期を含む所定範囲の期間における他号機のデータを含む。
【0040】
そして、自号機のデータ(第1のデータ)及び取得された他号機のデータ(第2のデータ)を含む集合データ(第1の集合データ)のばらつき度合いに基づいて、自号機及び他号機の状態が監視される。
【0041】
これにより、各風力発電装置10において、固定的なしきい値を予め設定し、設定されたしきい値を管理する必要はなくなり、運転条件が一致し、かつ、同期した複数の風力発電装置10のデータを用いて風力発電装置10の状態を監視することができる。したがって、風力発電装置10の状態をより効率的に監視することができる。以下、このような状態監視を行なう監視ユニット80の構成、及び状態監視処理の具体的内容について詳しく説明する。
【0042】
図3は、監視ユニット80の構成例を示したブロック図である。
図3を参照して、監視ユニット80は、通信装置81と、状態監視装置82と、記憶装置83とを含む。通信装置81は、LANケーブル85を通じてハブ装置12(
図1)に接続されており、ハブ装置12を通じて他号機の監視ユニット80の通信装置との間で双方向にデータ通信可能に構成される。
【0043】
状態監視装置82は、演算処理装置と、メモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory))と、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。状態監視装置82は、自号機のセンサ群(センサ70A~70I)から各種データを取得する(以下「検出データ」と称する。)。そして、状態監視装置82は、取得された検出データから、状態監視に即した計測データを算出する。
【0044】
一例として、状態監視装置82は、主軸受60に設けられたセンサ70Aの検出データから、状態監視に即した計測データとして主軸受60の振動の実効値を算出する。また、状態監視装置82は、増速機40に設けられたセンサ70Bの検出データから、計測データとして増速機40の振動の実効値を算出する。
【0045】
状態監視装置82は、自号機の運転条件と一致する運転条件を有する他号機から自号機の計測データと同期する計測データを取得するために、通信装置81を通じて、他号機に対して運転条件の問合わせを行なう。そして、状態監視装置82は、通信装置81を通じて他号機の運転条件を他号機から取得し、自号機の運転条件と一致する運転条件を有する他号機から通信装置81を通じて計測データを取得する。
【0046】
そして、状態監視装置82は、自号機において収集された計測データと、自号機の運転条件と一致する運転条件を有する他号機から取得された、自号機の計測データと同期する他号機の計測データとを用いて、自号機及び他号機の状態を監視する状態監視処理を実行する。この状態監視処理の詳細については、後ほど説明する。
【0047】
記憶装置83は、たとえば、ハードディスクやソリッドステートドライブ等の記憶媒体を含んで構成される。記憶装置83は、自号機において収集され状態監視装置82により算出された各種計測データを記録する。また、記憶装置83は、通信装置81を通じて他号機から取得された他号機の各種計測データを、自号機の計測データとともに記録する。このように、この実施の形態では、風力発電所1における複数の風力発電装置10の計測データは、風力発電装置10において保有されるので、各風力発電装置10の計測データを保有するためのデータサーバを別途設ける必要はない。
【0048】
図4は、
図3に示した状態監視装置82により実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、このフローチャートに示される一連の処理は、所定時間毎又は所定の条件が成立する毎に繰り返し実行される。
【0049】
図4を参照して、状態監視装置82は、自号機の運転条件を取得する(ステップS10)。具体的には、状態監視装置82は、自号機における主軸20(ブレード30)の回転速度や発電機50の発電電力等のデータを取得する。なお、取得される運転条件は、回転速度や発電電力に限定されるものではなく、風速や発電機軸のトルク等、風力発電装置10の運転状態を特徴付ける物理量を含み得る。
【0050】
次いで、状態監視装置82は、取得された運転条件が有効な運転条件であるか否かを判定する(ステップS15)。たとえば、主軸20(ブレード30)の回転速度がしきい値よりも低かったり、発電機50の発電電力がしきい値よりも低かったりする場合には、有効な運転条件ではないものとされる。そして、有効な運転条件でなければ(ステップS15においてNO)、以降の一連の処理は実行されずにリターンへと処理が移行される。
【0051】
ステップS15において有効な運転条件であると判定されると(ステップS15においてYES)、状態監視装置82は、自号機の運転条件パターンを設定する(ステップS20)。運転条件パターンとは、状態監視を実行する運転条件であり、たとえば、主軸20の回転速度がN1(rpm)からN2(rpm)の範囲であり、かつ、発電機50の発電電力がP1(kW)からP2(kW)の範囲であることが、運転条件パターンとして設定される。
【0052】
なお、運転条件パターンは、過去の所定期間に計測された計測データから設定されるものであってもよいし、この監視システムを利用する担当者によって設定されるものであってもよい。また、このような運転条件パターンの設定は、他号機の状態監視装置82においても同様に行なわれる。
【0053】
次いで、状態監視装置82は、通信装置81を通じて他号機に対して運転条件の問合わせを行ない、他号機から通信装置81を通じて他号機の運転条件パターンを取得する(ステップS25)。なお、状態監視装置82は、全ての他号機に対して問合わせを行ない、全ての他号機から運転条件パターンを取得する。そして、状態監視装置82は、取得された各他号機の運転条件パターンが自号機の運転条件パターンと一致するか否かを判定する(ステップS30)。この運転条件パターンの一致判定については、理想的には、全ての他号機の運転条件パターンが自号機の運転条件パターンと一致することであるが、一部の複数の他号機との一致であってもよい。
【0054】
自号機の運転条件パターンと一致する運転条件パターンを有する他号機がない場合には(ステップS30においてNO)、以降の一連の処理は実行されずにリターンへと処理が移行される。
【0055】
ステップS30において各他号機(或いは一部の複数の他号機)の運転条件パターンが自号機の運転条件パターンと一致するものと判定されると(ステップS30においてYES)、状態監視装置82は、データの計測中であるか否かを判定する(ステップS35)。データ計測中でなければ(ステップS35においてNO)、データの計測が開始される(ステップS40)。
【0056】
そして、状態監視装置82は、自号機において収集された計測データ、及び他号機から取得された他号機の計測データを用いて、自号機及び他号機の状態を監視する状態監視処理を実行する(ステップS45)。この状態監視処理については後述する。そして、状態監視処理が実行されると、状態監視装置82は、次の運転条件パターン(たとえば運転条件を変更して状態監視を行なう等)での状態監視を行なうために、ステップS20において設定された運転条件パターンをクリアする(ステップS50)。なお、次の運転条件パターンは、今回の運転条件パターンと異なるものであってもよいし、同じものであってもよい。
【0057】
図5は、
図4のステップS45において実行される状態監視処理の具体的な手順の一例を示すフローチャートである。また、
図6は、状態監視処理における各種データの演算結果の一例を示す図である。
【0058】
この状態監視処理においては、概略的には、運転条件が一致し、かつ、同期した計測データの号機間の空間距離(ユークリッド距離等)が算出され、そのばらつき度合いが算出される。さらに、監視対象の号機(たとえば自号機)を除いた場合の上記ばらつき度合いが算出される。そして、監視対象の号機を除いた場合に上記ばらつき度合いが小さくなるのであれば、監視対象の号機の計測データはそれ以外の号機の計測データとは離れている(距離が大きい)ものとして、監視対象の号機が異常であると判定される。
【0059】
以下では、風力発電装置10-1(1号機とする)に設けられる状態監視装置82において実行される状態監視処理について代表的に説明する。
【0060】
図5とともに
図6を参照して、状態監視装置82は、自号機の運転条件パターンと一致する運転条件を有する他号機から計測データを取得する(ステップS110)。より詳しくは、状態監視装置82は、自号機の計測データと同期する他号機の計測データ、すなわち、自号機の計測データの収集時期を含む所定範囲の期間において他号機で収集された計測データを、他号機から通信装置81を通じて取得する。
【0061】
風力発電装置10-1(1号機)の状態監視装置82についてみれば、この例では、他の風力発電装置10-2~10-10(それぞれ2号機~10号機とする)から2つの計測データ1,2が取得される(
図6)。なお、この例では、計測データ1は、主軸受60の振動の実効値であり、計測データ2は、増速機40の振動の実効値である。また、
図6では、2つの計測データ1,2に基づいて状態監視が行なわれる例が示されているが、状態監視に用いられる計測データの数は、2つに限定されるものではなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0062】
次いで、状態監視装置82は、収集された計測データ1,2毎に、自号機の計測データ及び他号機の計測データの平均値を算出する(ステップS115)。この例では、計測データ1,2毎に、1号機~10号機の計測データの平均値が算出されており、
図6に示されるように、計測データ1の平均値は0.97であり、計測データ2の平均値は0.28である。そして、状態監視装置82は、計測データ1,2毎に、各号機の計測データを平均値で除算することによって各号機の計測データを正規化する(ステップS120)。
【0063】
次いで、状態監視装置82は、号機毎に、正規化された計測データ1,2の原点からの空間距離を算出する(ステップS125)。空間距離は、種々の公知の距離を採用可能であり、この例では、ユークリッド距離が採用される。そして、状態監視装置82は、号機毎に算出された上記空間距離の平均値を算出する(ステップS130)。この例では、
図6に示されるように、空間距離の平均値は1.42である。
【0064】
空間距離の平均値が算出されると、状態監視装置82は、号機毎に算出された空間距離が平均値よりも大きいか否かを判定する(ステップS135)。この例では、
図6に示されるように、5号機,7号機,9号機,10号機において、空間距離が平均値よりも大きいと判定されている。
【0065】
次いで、状態監視装置82は、号機毎に、各他号機との空間距離の合計(合計距離)を算出する(ステップS140)。具体的には、たとえば1号機についてみれば、1号機の計測データと、2号機から10号機の各々の計測データとの空間距離の合計が算出される。そして、状態監視装置82は、号機毎に算出された合計距離の標準偏差σ1を算出する(ステップS145)。この例では、
図6に示されるように、標準偏差σ1は0.76である。
【0066】
さらに、状態監視装置82は、号機毎に、当該号機以外の上記合計距離の標準偏差σ2を算出する(ステップS150)。具体的には、たとえば1号機についてみれば、2号機から10号機の各々の合計距離の標準偏差σ2が算出される。
【0067】
そして、状態監視装置82は、号機毎に、算出された空間距離が平均値よりも大きく(ステップS135において「大」の判定)、かつ、標準偏差σ2<標準偏差σ1となる号機が存在するか否かを判定する(ステップS155)。なお、上記では、算出された空間距離が平均値よりも大きいとの条件が付されているが、この条件を設けずに、標準偏差σ2<標準偏差σ1となる号機が存在するか否かだけを判定してもよい。なお、上記の標準偏差σ1は、この発明における「第1の集合データのばらつき度合い」に相当し、標準偏差σ2は、この発明における「第2の集合データのばらつき度合い」に相当する。この例では、
図6に示されるように、5号機と7号機とにおいて上記の条件が満たされているものと判定されている(
図6の「判定結果」において「×」)。
【0068】
ステップS155において上記の条件を満たす号機が存在しない場合には(ステップS155においてNO)、今回の状態監視処理において異常と判定される号機はないものとされ、以降の処理は実行されずにリターンへと処理が移行される。
【0069】
ステップS155において上記の条件を満たす号機が存在するものと判定されると(ステップS155においてYES)、状態監視装置82は、該当する号機の累積異常ポイントを1つ加算する(ステップS160)。この実施の形態では、上記の条件を満たす号機について、1度の異常判定のみをもって直ちにアラームを通知する等の処理を実行するのではなく、繰り返し実行される状態監視処理によって複数回の異常が判定された場合に、アラームを通知する等の処理が実行される。なお、この例では、
図6に示されるように、5号機の累積異常ポイントが「1」となり、7号機の累積異常ポイントが「3」となっている。
【0070】
ステップS160において該当する号機の累積異常ポイントが加算されると、状態監視装置82は、累積異常ポイントがN(Nは2以上の所定の自然数)以上の号機が存在するか否かを判定する(ステップS165)。そして、累積異常ポイントがN以上となった号機については(ステップS165においてYES)、状態監視装置82は、当該号機にアラームを通知する(ステップS170)。具体的には、状態監視装置82は、当該号機が自号機であれば、自号機においてアラームを出力し、当該号機が他号機であれば、通信装置81を通じて他号機へアラームを出力する。
【0071】
図7は、累積異常ポイントの推移例を示す図である。
図7を参照して、この例では、7号機において累積異常ポイントが上昇している。このような累積異常ポイントのトレンドから、複数の風力発電装置10において異常が生じている号機を判別することができる。
【0072】
以上のように、この実施の形態においては、自号機においてデータが収集されるとともに、他号機の運転条件が自号機の運転条件と一致する場合に、自号機のデータと同期する他号機のデータが他号機から取得される。そして、状態監視装置82により、自号機のデータと他号機のデータとを含む第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、自号機の状態が監視される。これにより、状態を監視するためのしきい値を予め設定し、設定されたしきい値を管理する必要はなくなり、運転条件が一致し、かつ、同期した他号機のデータを用いて自号機の状態を監視することができる。したがって、この実施の形態によれば、風力発電装置10の状態をより効率的に監視することができる。
【0073】
また、この実施の形態においては、自号機のデータと他号機のデータとを含む第1の集合データのばらつき度合いに基づいて、他号機の状態がさらに監視される。これにより、他号機においても、しきい値を予め設定したり、設定されたしきい値を管理したりする必要はなくなり、運転条件が一致し、かつ、同期したその他の号機のデータを用いて他号機の状態を監視することができる。
【0074】
また、この実施の形態においては、データのばらつき度合いに基づいて異常と判定された号機において、異常が生じていると判定された回数が所定数以上の場合に、アラームが報知される。したがって、この実施の形態によれば、異常発生のトレンドを捉えて、確実に、異常が生じている号機においてアラームを出力させることができる。
【0075】
また、この実施の形態においては、風力発電所1における各風力発電装置10の計測データは、監視ユニット80内の記憶装置83に蓄積されるので、各風力発電装置10の計測データを蓄積するためのデータサーバを別途設ける必要はない。
【0076】
[変形例]
上記の実施の形態では、各風力発電装置10の監視ユニット80がLANケーブル85を通じてハブ装置12に接続され、複数の風力発電装置10間のデータ通信は、ハブ装置12を通じて行なわれるものとしたが、複数の風力発電装置10間で互いに無線通信を行なうようにしてもよい。これにより、地上等にハブ装置12を設ける必要がなくなる。
【0077】
図8は、変形例における風力発電所の全体図である。
図8を参照して、風力発電所1Aは、複数の風力発電装置11(11-1~11-10)を備える。
【0078】
図9は、
図8に示した各風力発電装置11の構成例を示す図である。
図9を参照して、風力発電装置11は、
図2に示した風力発電装置10の構成において、無線装置95をさらに含む。
【0079】
無線装置95は、他の風力発電装置11のナセル内に設けられる無線装置と無線LANにより通信するための装置である。無線装置95は、通信方向が特定されない無指向性アンテナを含む。これにより、各風力発電装置11は、風向きに応じてナセル90が回動しても、他の風力発電装置11と通信することができる。なお、ナセル90内における無線装置95と監視ユニット80との間の通信は、LANケーブル85を通じて行なわれるものとしているが、無線通信としてもよい。
【0080】
なお、
図8において特に図示していないが、各風力発電装置11と監視端末14との間においても無線通信可能であり、監視端末14は、各風力発電装置10の状態監視装置による状態監視の結果や、各風力発電装置10において収集されるデータ等を無線通信により取得して、ディスプレイに表示することができる。
【0081】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1,1A 風力発電所、10,11 風力発電装置、12 ハブ装置、14 監視端末、20 主軸、30 ブレード、40 増速機、50 発電機、60 主軸受、70A~70I センサ、80 監視ユニット、81 通信装置、82 状態監視装置、83 記憶装置、85 LANケーブル、90 ナセル、95 無線装置、100 タワー。