IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱製鋼株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図1
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図2
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図3
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図4
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図5
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図6
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図7
  • 特許-ばねの製造方法及びばね 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】ばねの製造方法及びばね
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/02 20060101AFI20220707BHJP
   G01L 1/25 20060101ALI20220707BHJP
   F16F 1/14 20060101ALI20220707BHJP
   F16F 1/18 20060101ALI20220707BHJP
   F16F 1/32 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
F16F1/02 B
G01L1/25
F16F1/14
F16F1/18 Z
F16F1/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018090926
(22)【出願日】2018-05-09
(65)【公開番号】P2019196802
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000176833
【氏名又は名称】三菱製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智裕
(72)【発明者】
【氏名】木野 文尋
(72)【発明者】
【氏名】福田 好純
(72)【発明者】
【氏名】曽田 裕二
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-255742(JP,A)
【文献】特開2017-218839(JP,A)
【文献】特開2011-000663(JP,A)
【文献】植田堯、杉浦晴雄,圧縮コイルばねの座巻の変化に伴う各部応力の測定,ばね論文集,1976巻、21号,日本,日本ばね学会,1976年03月25日,33-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/02
G01L 1/25
F16F 1/14
F16F 1/18
F16F 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばねの製造方法であって、
ばねに荷重を負荷する工程と、
前記荷重が負荷された状態でばねの応力を測定する工程と、
前記ばねに負荷された荷重を解放する工程と、
を含み、
前記ばねの応力の測定は、cosα法によるX線回折を用いて前記ばねの有効部の表面の応力を測定するばねの製造方法。
【請求項2】
前記測定されたばねの応力の大きさが基準を満たすかどうかを判定する工程をさらに含む請求項1に記載のばねの製造方法。
【請求項3】
前記ばねに荷重を負荷する工程は、治具によって荷重を保持する請求項1又は2に記載のばねの製造方法。
【請求項4】
前記ばねは、コイルばねである請求項1から3のいずれか一項に記載のばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルばね等のばねの製造方法およびばねに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルばね等の自動車部品に使用されるばねにおいては、軽量化の観点から、荷重が負荷された使用時にばねの一部に応力が集中することがない製品が求められている。ばねの設計は、有限要素法により、形状に起因する応力の分布が設定した荷重負荷時に最適になるように進められるが、荷重負荷時の実製品の応力分布を確認することは難しかった。実際、ばねの応力は、荷重負荷時にばねの形状に起因して発生する応力とショットピーニングにより付与されるような荷重が付加されない状態で残留する残留応力との両方を考慮して評価する必要がある。
【0003】
現状では、ばねの形状に起因する応力は、ばねの外形を計測し、想定荷重を負荷した有限要素法の解析によるシミュレーションを実施して確認している。また、ショットピーニング後の残留応力については、破壊検査により、したがって荷重が負荷されない状態で確認している。特許文献1には、ショットピーニング後の製品について、1品1品非破壊検査によって残留応力を測定する方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/199959号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1はショットピーニング工程のみの効果を確認する発明であるのに対し、実製品としてのばねは、前工程の影響があり、更に荷重の負荷によって形状が変化するとともに、応力の分布も大きく変化する。つまり、特許文献1は製品としてのばねの評価には不十分である。したがって、荷重が負荷された状態でばねの応力分布を確認するばねの製造方法及びばねが求められている。
【0006】
本実施の形態は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、荷重負荷時のばねの応力分布を確認するばねの製造方法及びばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明に係るばねの製造方法は、ばねに荷重を負荷する工程と、荷重が負荷された状態でばねの応力を測定する工程と、ばねに負荷された荷重を解放する工程と、を含んでいる。ばねの応力の測定は、cosα法によるX線回折を用いてばねの有効部の表面の応力を測定してもよい。ばねに荷重を負荷する工程は、治具によって荷重を保持してもよい。負荷する荷重は0から使用時の最大荷重があり得る。また荷重の負荷は、ばねが設置されたレイアウトや目的に従った掛け方が想定される。
【0008】
本発明に係るばねの製造方法は、測定されたばねの応力の大きさが基準を満たすかどうかを判定する工程を含んでもよい。判定する工程で基準を満たさないと判定されたときは、NGとして排除する。
【0009】
ばねは、コイルばね、板ばね、スタビライザ、トーションバー、皿ばねであってもよいがそれに限定されるものではない。本発明に係るばねは、上述の製造方法によって製造されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、荷重負荷時の応力分布を確認したばねを製造することができ、軽量化を図って設計したばねを安定して供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態のばねの製造方法の一連の工程を示すフローチャートである。
図2】本実施の形態のばねの製造方法の荷重負荷時に応力分布を測定する工程を示すフローチャートである。
図3】治具によって荷重を付加したばねを示す正面図である。
図4】cosα法によるX線回折を用いた応力の測定を説明する概観図である。
図5】ばねにおいて応力を測定する方向を示す一部拡大正面図である。
図6】有限要素法によって計算したばねの形状の変化による応力の分布を示す図である。
図7】荷重負荷時と無負荷時の応力測定値の差分と有限要素法による解析値を比較したグラフである。
図8】冷間製法に適用した本実施の形態のばねの製造方法の一連の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態のばねの製造方法及びばねについて、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、ばねとして、材料の直径(d)13mm、コイル平均径(D)112mm、自由高さ(H)326mm、有効巻数(Ne)4.1、総巻数(Nt)5.5、材質SUP12のコイルばねを熱間製法により製造することを想定しているが、これに限らず他のコイルばねにも適用してもよく、コイルばねに限らず他の種類のばねにも適用してもよく、冷間製法に適用してもよい。
【0013】
図1は、本実施の形態のばねの製造方法の一連の工程を示すフローチャートである。本実施の形態においては、ステップS11では棒材を加熱し、ステップS12では棒材をコイル状のばねに成形し、ステップS13ではばねに焼き入れを施し、ステップS14で焼き戻し、ステップS15ではホットセッチングを施している。ホットセッチングは、加熱した状態で、ばねに過荷重を負荷し、予め塑性変形させることにより、使用時の塑性変形を緩和している。ステップS16ではばねにショットピーニングを施している。ショットピーニングにより、ばねの表面には所定の圧縮残留応力が付与される。ステップS17ではばねに塗装のための前処理を施し、ステップS18ではばねに塗装を施している。ステップS19ではばねに室温で過荷重を負荷し、予め塑性変形させるセッチングを施すことにより、使用時の塑性変形を緩和している。
【0014】
図2は、荷重負荷時に応力分布を測定する工程を示すフローチャートである。ステップS21において、ばねに所定の荷重が負荷される。図3は、治具10によって荷重が負荷されたばね1を示す正面図である。
【0015】
図3において、コイル状のばね1は、下側の座巻部1aが治具10の下側支持部10aによって支持され、上側の座巻部1bが治具10の上側支持部10bによって支持されている。下側支持部10aと上側支持部10bとの間隔は、下側支持部10aと上側支持部10bとを連結しているシャフト10cに沿って変えることができ、ばね1に所定の荷重が作用するように設定されている。本実施の形態では、7,200Nの荷重を負荷し圧縮するものとする。
【0016】
ステップS22においては、ばねの応力を測定する。本実施の形態においては、ばね1の応力をcosα法によるX線回折を用いて測定する。
【0017】
図4は、cosα法によるX線回折を用いた応力の測定を説明する概観図である。本実施の形態のばねの製造方法においては、cosα法により応力を測定するX線回折応力測定装置を使用している。X線回折応力測定装置は、試料30の所望の位置にX線31を照射し、X線回折応力測定装置の検出面21において回折X線32によるデバイ環33を全周で検出することによって、単一の照射で応力を測定することができる。
【0018】
図5は、ばねにおいて応力を測定する方向を示す一部拡大正面図である。本実施の形態では、ばね1の下側の座巻部1a及び上側の座巻部1bを除いた有効部1cの外側の表面において、ねじり剪断応力を測定した。図中の矢印35に示すように、ばね1の線材が延びる方向に対して略45度の方向に応力を測定した。
【0019】
表1は、X線回折応力測定装置による応力の測定結果を示している。応力の単位は、MPaである。応力は、ばね1において、下側を基準として位置P1から位置P7の7箇所で3回ずつ測定し、その平均を取った。なお、位置P1から位置P7は、図6に示す有限要素法による解析結果から応力が極大と極小になる山と谷に設定した。
【0020】
【表1】
【0021】
ここで、無負荷時の荷重は0N(ニュートン、以下同じ)、負荷時の荷重は7,200Nとして、応力を測定した。
これらの測定値の差分を計算値とし、有限要素法による解析値と比較した。表1に示すように、計算値と解析値の乖離が認められるので、荷重負荷状態での応力測定がばね製品の評価のためには必要であることがわかる。図7は荷重負荷時と無負荷時の応力測定値の差分と、有限要素法による解析値を比較したグラフである。表1の結果と同様に、応力の測定値と有限要素法による解析値との間に乖離が認められる。
【0022】
図2のステップS23においては、ばね1の荷重を解放する。ステップS22における荷重を付加した状態での応力の測定を終えたため、ばね1を治具10から取り外す。これによって、ばね1は荷重から解放される。
【0023】
ステップS24において、ステップS22で測定した応力が基準を満たしているかどうか判定する。例えば、測定した応力が基準を満たすときにはOKと判断し、基準を満たさないときにはNGと判断する。
【0024】
なお、本実施の形態においては、治具10で荷重を負荷したばね1を架台の上面に載置してX線回折応力測定装置によって個別に測定していたが、これに代わって、ラインを流れる複数のばね1の全数について応力を測定してもよい。そのためには、予めラインを流れるばね1に治具10等によって荷重を負荷し、ばね1の所定位置を1台又は複数台のX線回折応力測定装置によって測定してもよい。
【0025】
図8は、冷間製法に適用した本実施の形態のばねの製造方法の一連の工程を示すフローチャートである。冷間製法による場合には、ステップS31ではリール材を常温でコイル状のばねに成形し、ステップS32ではばねにテンパー処理を施し、ステップS33ではばねにホットセッチングを施し、ステップS34ではばねにショットピーニングを施し、ステップS35ではばねに塗装のための前処理を施し、ステップS36ではばねに塗装を施している。ステップS37ではばねに室温で過荷重を負荷し、予め塑性変形させるセッチングを施すことにより、使用時の塑性変形を緩和している。冷間製法の場合にも、図2に示した一連の工程が実施される点において同様である。
【0026】
本実施の形態のばねの製造方法では、荷重負荷時のばねの応力分布をcosα法によるX線回折応力測定装置を用いて直接に測定した。したがって、荷重を負荷したばねの正確な応力分布の確認が可能になり、ひいては軽量化を図って設計したばねを安定して供給することができる。また、cosα法により測定速度が格段に上がり、ばねの全数検査が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、コイルばね等のばねの製造方法及びばねに適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ばね
10 治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8