(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】フッ素樹脂塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20220707BHJP
C09D 191/00 20060101ALI20220707BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20220707BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220707BHJP
B29C 33/62 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D191/00
C09D183/04
C09D7/65
B29C33/62
(21)【出願番号】P 2018099722
(22)【出願日】2018-05-24
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】ファム ホアイ ナム
(72)【発明者】
【氏名】篠原 大策
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 拓峰
(72)【発明者】
【氏名】松井 明洋
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特許第3348433(JP,B2)
【文献】特開平04-292673(JP,A)
【文献】特開昭61-034032(JP,A)
【文献】特開平05-112690(JP,A)
【文献】DOWSIL SM 7025 EX Emulsion,Technical Data Sheet,The Dow Chemical Company,2019年,Technical Data Sheet、https://www.dow.com/ja-jp/document-viewer.html?ramdomVar=5170476591105306921&docPath=/content/dam/dcc/documents/en-us/productdatasheet/26/26-21/26-2160-01-dowsil-sh-7024-sm-7025-ex-emulsion.pdf
【文献】エマルジョン型シリコーン離型剤 TSM630, TSM631, TSM630NF,Product Data,日本,2004年12月,https://nisshosangyo.com/wp-content/themes/nisshosangyo/inc/pdf/TSM630_631_630NF_PDS.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂及び25℃で液体のオイルを含有するフッ素樹脂塗料組成物であって、
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体,テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体,テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体の何れかであり、
前記オイルがシリコーンオイルであり、前記オイルの分解温度が前記フッ素樹脂の融点よりも高
く、
シリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項2】
前記オイルが、塗料組成物中の樹脂固形分及びオイルの合計量の1~35重量%の量で含有されている請求項1記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項3】
前記オイルの分解温度が、フッ素樹脂の融点よりも10℃以上高い請求項1又は2記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項4】
前記オイルが分散している請求項1~
3の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項5】
前記オイルが、平均粒径50μm以下で分散する請求項1~
4の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項6】
前記シリコーン系界面活性剤が、前記シリコーンオイル100重量部に対して1~150重量部の量で含有されている請求項1~5の何れかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項7】
水系塗料又は粉体塗料である請求項1~
5の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項8】
トップコート用である請求項1~
7の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~
8の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物を塗装した後、フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱処理することを特徴とする塗膜の形成方法。
【請求項10】
請求項1~
8の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物から成り、前記オイルが分散していることを特徴とする塗膜。
【請求項11】
請求項
10記載の塗膜が表面に形成されていること特徴とする金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂塗料組成物に関するものであり、より詳細には、耐久性及び耐摩耗性に優れ、塗膜の非粘着性・離型性を長時間維持可能なフッ素樹脂塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性、電気的性質及び機械的性質を有し、また摩擦係数がきわめて低いと共に、非粘着性及び撥水撥油性を有していることから、化学、機械、電機等あらゆる工業分野で広く利用されている。特に熱溶融性フッ素樹脂は、融点以上の温度で流動性を示すため、塗膜とした際にピンホールの発生を抑制できることから、フッ素樹脂コーティングのための塗料組成物の材料として利用されている。
【0003】
フッ素樹脂コーティングは、フッ素樹脂の非粘着性及び撥水撥油性を利用して、フライパンや炊飯器等の調理器具、工場ラインなどでの耐熱離型性トレイ(パン焼き工程など)、トナーを定着させる定着ロール・ベルト等のOA機器等、様々な分野で使用されており、近年では、インクジェットノズル、化学プラントの設備等、利用分野が更に広がっていることから、非粘着性及び撥水撥油性の更なる向上、並びにかかる性能の耐久性について、改善が求められている。
例えば、下記特許文献1には、コンクリート等の多孔性土木建築材料の表面に防水効果を付与するためのコーティング剤として、パーフルオロアルキル基を有する化合物、フッ素オイル、フルオロシリコーンオイル等から選択される撥剤、有機ケイ素化合物、フッ素含有樹脂から成る水性分散組成物が記載され、また下記特許文献2には、車両の塗装面のコーティング組成物として、ポリテトラフルオロエチレンの水分散体と、パーフルオロポリエーテルの水分散体とが配合されて成るコーティング組成物が記載されている。
【0004】
一方、プラスチックやゴム等の高分子材料や、セラミックやセメントなどを、金型を用いて成形する際の離型性を向上させるために、フッ素樹脂が有する上記非粘着性等を利用して、金型表面にフッ素樹脂塗膜を形成することや(特許文献3,4等)、或いはフッ素系化合物等から成る離型剤を塗布することも知られている(特許文献5,6等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3505719号
【文献】特許第4116763号
【文献】特表2002-516618号公報
【文献】特開2004-74646号公報
【文献】特許第2658172号
【文献】特開2011-63709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のフッ素樹脂塗膜を金型表面に形成したものでは、成形を繰り返すと、離型性が低下するという問題があり、耐久性の点で未だ充分満足するものではなかった。一方、離型剤では、一回或いは数回成形を行うごとに、離型剤の塗布処理が必要になり、生産性の点でも未だ充分満足するものではなかった。
このような問題を解決するために本発明者等は、フッ素樹脂と、該フッ素樹脂の融点よりも分解温度が高いフッ素オイルを配合して成るフッ素樹脂塗料組成物を提案した(特願2016-234033)。かかるフッ素樹脂塗料組成物においては、優れた離型性を長期にわたって維持可能な塗膜を形成できるが、フッ素オイルが高価であることから、フッ素オイル以外のオイルを用いた場合にも同様の作用効果を発現可能なフッ素樹脂塗料組成物が望まれている。
従って本発明の目的は、金型表面に塗装した場合に、優れた離型性(非粘着性)を長期にわたって発現可能な、優れた耐久性及び耐摩耗性を有する塗膜及びこのような塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、フッ素樹脂及び25℃で液体のオイルを含有するフッ素樹脂塗料組成物であって、前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体,テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体,テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体の何れかであり、
前記オイルがシリコーンオイルであり、前記オイルの分解温度が前記フッ素樹脂の融点よりも高く、シリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物が提供される。
本発明のフッ素樹脂塗料組成物においては、
1.前記オイルが、塗料組成物中の樹脂固形分とオイルの合計量に対して1~35重量%の量で含有されていること、
2.前記オイルの分解温度が、フッ素樹脂の融点よりも10℃以上高いこと、
3.前記オイルが、塗料組成物中に分散していること、
4.前記オイルが、平均粒径50μm以下で分散していること、
5.前記シリコーン系界面活性剤が、前記シリコーンオイル100重量部に対して1~150重量部の量で含有されていること、
6.水系塗料又は粉体塗料であること、
7.トップコート用であること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、上記フッ素樹脂塗料組成物を塗装した後、フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱処理することを特徴とする塗膜の形成方法が提供される。
本発明によれば更に、上記フッ素樹脂塗料組成物から成り、前記オイルが分散していることを特徴とする塗膜が提供される。
本発明によれば更にまた、上記塗膜が表面に形成されていること特徴とする金型が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗料組成物においては、常温(25℃)で液体且つフッ素樹脂の融点以上の分解温度を有するオイル、特にシリコーンオイルを用いた場合に、フッ素オイルを用いた場合と同程度の優れた離型性(非粘着性)を有すると共に、耐摩耗性にも優れており、従来の離型剤や離型性を有する塗膜を形成可能な塗料組成物に比して、優れた離型性(非粘着性)を長期にわたって発現可能な耐久性に優れた塗膜を形成できる。
また本発明の塗料組成物から成る塗膜が形成された金型は、成形品の離型性に優れていることから、成形性に優れていると共に、かかる離型性が長期にわたって維持されるため、生産性にも優れている。
また特定のシリコーンオイルではフッ素オイル同様、フライパン等の調理器具にも安全に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(塗料組成物)
本発明の塗料組成物は、フッ素樹脂及び25℃で液体であるオイル(以下、単に「オイル」ということがある)を含有するフッ素樹脂塗料組成物であって、オイルの分解温度がフッ素樹脂の融点よりも高いことが重要な特徴である。
すなわち、本発明の塗料組成物においては、非粘着性及び撥水撥油性に優れるフッ素樹脂と共に、常温で流動状態にあるオイルが更に配合されていることにより、形成されるフッ素樹脂塗膜表面にオイルが滲出し、フッ素樹脂塗膜の非粘着性を更に向上することが可能になる。
また本発明で用いるオイルは、フッ素樹脂の融点よりも高い分解温度を有することから、塗料組成物を塗装し、フッ素樹脂の融点程度の温度で加熱処理に賦されてもオイルが分解してガスになり揮発することがなく、その結果、オイルによる上述した効果が損なわれることがない他、オイルの揮散に起因する気泡痕等の塗膜欠陥の発生が有効に防止されている。
更に本発明においては、後述するように、オイルは塗料組成物中に分散した状態で存在するため、形成される塗膜内部にもオイルが分散した状態で存在する。そのため、使用により塗膜が摩耗した場合にも、塗膜内部のオイルが徐々に表面に滲出することから、長期にわたって高い非粘着性を発現することが可能になる。
オイルが塗膜中に分散した状態で存在することにより得られる上述した効果を有効に得るために、塗料組成物中のオイルの分散粒子の平均粒径は50μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下であり、10μm以下であることが特に好適である。尚、平均粒径の測定については後述する。
【0011】
本発明において、オイルの分解温度は、上述したようにフッ素樹脂の融点よりも高いことが重要であるが、具体的には10℃以上、好適には30℃以上、より好適には50℃以上、フッ素樹脂の融点よりも高いことが望ましい。これにより塗膜形成の加熱処理に際してオイルへの影響を確実に低減することができ、オイルによる塗膜の非粘着性の更なる向上がより確実になる。
尚、本発明におけるフッ素樹脂の融点はASTM D3307に基づき示差走査熱量計(DSC)により測定した融解ピークに対応する温度であり、オイルの分解温度は熱重量測定(TGA)の結果をJIS K 7120に記載の方法により算出した温度であり、詳細な測定方法については実施例で後述する。
【0012】
また本発明の塗料組成物においては、オイルを含有することによって、塗膜表面に滲出したオイルにより摩擦が軽減され、塗膜の摩擦係数が低減され(すべり性が改善され)、塗膜の耐摩耗性が向上される。更に塗料組成物中に充填材を添加することにより、オイルの存在と相俟って更に耐摩耗性を向上することができ、上述した優れた離型性を長期に亘って発現できる。このため金型表面に塗膜を形成した場合に、より生産性に優れる。
【0013】
本発明の塗料組成物は、上述したフッ素樹脂及びオイルの組み合わせを含有する限り、水系塗料組成物、溶剤系塗料組成物或いは粉体塗料組成物の形態の何れであってもよいが、環境面やコストの観点から水系塗料組成物又は粉体塗料組成物であることが好適である。また粉体塗料組成物であれば、厚みの大きい塗膜を形成することも可能である。
【0014】
[フッ素樹脂]
本発明の塗料組成物を構成するフッ素樹脂としては、これらに限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等を用いることができる。
本発明においては、塗膜にした際にピンホールの発生を抑制できると共に、一様で平滑な塗膜が得られるという観点から、融点以上で溶融流動性を示す、熱溶融性フッ素樹脂を用いることが好ましい。中でも、塗膜の非粘着性、耐熱性の観点から、低分子量PTFEやPFA、FEP、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等の熱溶融性パーフルオロ樹脂を好適に用いることができ、PFAが最も好ましい。
PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基は、炭素数が1~5であることが好ましく、中でもパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)が特に好適である。PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の量としては、1~50重量%の範囲にあることが好ましい。
【0015】
[オイル]
本発明において25℃で液体であるオイルとは、常温(25℃)で流動性を示すものであり、フッ素樹脂の融点よりも、分解温度が高いものである。
上述の通り、フッ素樹脂としてPFAが最も好ましく用いられることから、オイルの分解温度がPFAの融点である300~310℃よりも十分に高いことが好ましく、具体的にはオイルの分解温度としては350℃以上であることが好ましい。
また、形成されるフッ素樹脂塗膜表面にオイルが滲出し、フッ素樹脂塗膜の非粘着性を更に向上させることが目的であるため、オイル自体の表面張力が小さいことが好ましく、25℃における表面張力が30mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以下であることがより好ましい。
このような条件を満たすためには、耐熱性に優れ、かつ、分子間相互作用の小さいオイルであることが求められるため、本発明のオイルとしては、シリコーンオイルや変性シリコーンオイル、或いは炭素数が15~100のアルカン、炭素数5~50の高級脂肪酸、脂肪酸エステル、ポリオールエステル、ポリグリコール、ポリエーテル、ポリフェニルエーテル等の炭化水素系オイルを例示することができ、これらを単独で用いるほか、混合して用いることができる。
【0016】
本発明においては、シリコーンオイルを好適に使用でき、これに限定されないが、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコンオイル、モノアミン変性シリコーンオイル、ジアミン変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、脂環式エポキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、ハイドロジェン変性シリコーンオイル、アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・アラルキル変性シリコーンオイル等の反応性変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、ハロゲン変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル等の非反応性変性シリコーンオイルを例示できる。中でも、食品用途にも使用可能なメチルフェニルシリコーンオイルを好適に使用できる。
【0017】
本発明の塗料組成物において、オイルは、塗料組成物中の樹脂固形分(塗料組成物に含まれるフッ素樹脂の重量)とオイルの合計重量に対して1~35重量%、特に5~20重量%の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりもオイルの量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜の非粘着性を充分に向上できないおそれがあり、一方上記範囲よりオイルの量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜欠陥を生じるおそれがある。
またフッ素樹脂の含有量は、塗料組成物の塗料固形分基準(オイルを除いた、塗膜として残留する全固形分)で80重量%以上、特に90重量%以上であることが、フッ素樹脂が有する耐熱性、耐薬品性等の前述した特性を塗膜が充分に備える上で望ましい。
【0018】
尚、本発明においては、25℃で液体であるオイルとして上述したシリコーンオイル等を使用し、フッ素オイル単独での使用は排除されている。しかしながら上述したフッ素オイル以外の25℃で液体状のオイルにフッ素オイルを補助的に使用することまで排除するものではない。フッ素オイルを含有する場合、オイルの含有量の50重量%以下とすることが好ましい。
上記オイルと組み合わせで使用可能なフッ素オイルとしては、これに限定されないが、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、パーフルオロアルキルポリエーテル、フッ化モノマー(例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、3フッ化エチレン、フッ化ビニリデン、クロロテトラフルオロエチレン(CTFE)、フッ化アクリルモノマーなど)のテロマー、その他特定のフッ素化炭化水素化合物等を例示できる。このようなフッ素オイルとしては、表面エネルギーが小さく、塗膜の非粘着性を効率よく向上可能なPFPEを好適に用いることができ、Krytox(登録商標)(ケマーズ株式会社製)やデムナム(登録商標)(ダイキン(株)製)等の商品名で入手できる。
【0019】
[塗料組成物の調製]
前述したとおり、本発明の塗料組成物は、水系又は溶剤系塗料組成物、或いは粉体塗料組成物の何れの形態であってもよいが、環境面を考慮して、水系塗料組成物又は粉体塗料組成物であることが好ましい。また塗料組成物の調製は、これに限定されないが、下記の調製方法を例示できる。
本発明の塗料組成物を水系塗料組成物として調製する場合には、フッ素樹脂の水性分散液、その混合液(例えば、既存のフッ素樹脂水系塗料など)に、オイルや後述する他の添加剤を混合する方法、或いはフッ素樹脂の粉体をオイルと水系溶媒に他の添加剤と共に混合する方法等により調製することができる。
また本発明の塗料組成物を溶剤系塗料組成物として調製する場合は、フッ素樹脂の粉体を、オイルと溶剤に他の添加剤と共に混合する方法や、フッ素樹脂溶液にオイルと他の添加剤を加える方法により調製することができる。
更に本発明の塗料組成物を粉体塗料組成物として調製する場合は、フッ素樹脂水性分散液とオイルを同時に凝集(共凝集)させて、複合化したフッ素樹脂粉体を得る方法によって調製することができる。
【0020】
本発明の塗料組成物で用いるフッ素樹脂の水性分散液は、界面活性剤などを用いてフッ素樹脂を水溶液中に均一且つ安定に分散させることにより調製することができるし、或いはフッ素樹脂を界面活性剤及び開始剤、或いは必要により連鎖移動剤等を用いて水系乳化重合することにより調製することもできる。
フッ素樹脂水性分散液においては、フッ素樹脂粒子が0.01~180μmの平均粒径を有するフッ素樹脂粒子が、水溶液中に10~70重量%となるように分散していることが好適である。
【0021】
本発明の塗料組成物においては、上記フッ素樹脂の水性分散液をそのまま使用することもできるが、分散性・導電性・発泡防止・耐摩耗改善等、求める特性に応じて通常の塗料に使用される充填材や各種の添加剤、例えば、界面活性剤(例えばライオン(株)製レオコール(登録商標)、ダウケミカルカンパニー製 TRITON(登録商標)、TERGITOL(登録商標)シリーズ、花王(株)製エマルゲン(登録商標)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の非イオン系界面活性剤や、ライオン(株)製リパール(登録商標)、花王(株)製エマール(登録商標)、ペレックス(登録商標)などのスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム塩、硫酸モノ長鎖アルキル系の陰イオン系界面活性剤、ライオン(株)製レオアール(登録商標)、ダウケミカルカンパニー製OROTAN(登録商標)などのポリカルボン酸塩、アクリル酸塩系の高分子界面活性剤などが挙げられる)、造膜剤(例えば、ポリアミドやポリアミドイミド、アクリル、アセテートなどの高分子系造膜剤、高級アルコールやエーテル、造膜効果を有する高分子界面活性剤などが挙げられる)、増粘剤(水溶性セルロール類や、溶剤分散系増粘剤、アルギン酸ソーダ、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、キサンタンガム、ポリアクリル酸、アクリル酸エステルなどが挙げられる)等を加えることもできる。
【0022】
<水性塗料組成物>
本発明の水系塗料組成物は、上記方法により調製されたフッ素樹脂の水性分散液あるいはその水系組成液に、オイルを、塗料組成物中の樹脂固形分(塗料組成物に含まれるフッ素樹脂の重量)とオイルの合計重量に対して1~35重量%となるように配合し、混合・撹拌することによって調製することができる。
本発明の塗料組成物において、オイルはそれ単独で使用することもできるが、前述したとおり、オイルを細かく分散させるために、界面活性剤を併用することが好適である。オイルの分散性を向上するために使用する界面活性剤としては、従来公知の界面活性剤を使用することができる。
本発明において、シリコーンオイルを用いる場合には、シリコーンオイルとの親和性に優れた界面活性剤を用いることによりシリコーンオイルを高分散させることが可能になることから、疎水基としてシリコーン構造を有するシリコーン系界面活性剤を用いることが望ましい。
【0023】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(POE)変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン(POE・POP)変性オルガノポリシロキサン、POEソルビタン変性オルガノポリシロキサン、POEグリセリル変性オルガノポリシロキサン等の親水基で変性されたオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
具体例として、DBE‐712、DBE‐821(アヅマックス社製)、KF‐6015、KF‐6016、KF‐6017、KF‐6028(信越化学工業社製)、ABIL‐EM97(ゴールドシュミット社製)、ポリフローKL‐100、ポリフローKL‐401、ポリフローKL‐402、ポリフローKL‐700(共栄社化学製)等を挙げることができる。
オイルを細かく分散させるため、界面活性剤は、オイル100重量部に対して、1~150重量部の量で配合することが好ましく、5~100重量部の量で配合することがより好ましい。
【0024】
また上記界面活性剤の使用に際して、オイルをフッ素系溶剤やその他溶剤で希釈して低粘度化しておくこともでき、これによりフッ素樹脂との混合・撹拌する際にオイルがより細かく分散した分散体とすることができる。
オイル希釈のために使用し得るフッ素系溶剤としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ペルフルオロカーボン(PFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等のフッ素系溶剤を例示できる。
溶剤は、オイル100重量部に対して、100~500重量部の量で配合することが望ましい。
【0025】
またオイルを細かく分散させるために、上記界面活性剤の使用と共に、超音波分散や高せん断速度による分散を行うことも好ましい。これらの分散には、一般に用いられている、超音波分散機、攪拌機、各種(高圧、高速、超音波など)のホモジナイザーを利用することができる。これらを利用することで、オイルを溶剤で希釈しなくても細かく分散することができ、プロセスの簡略化、系溶剤の利用に係るコストの低減という観点から好ましい。またオイルを溶剤で希釈した上で、上記の分散を行うことも勿論可能であり、これにより、より細かな分散が期待できる。
【0026】
<溶剤系塗料組成物>
また溶剤系塗料組成物とする場合には、フッ素樹脂の溶液、あるいはフッ素樹脂溶剤分散液を調製し、これに、オイル、好適には上述したオイルの分散体を、塗料組成物中の樹脂固形分(塗料組成物に含まれるフッ素樹脂の重量)とオイルの合計重量の1~35重量%の量となるように配合して、撹拌・混合することにより調製することができる。
【0027】
<粉体塗料組成物>
本発明の粉体塗料組成物は、上記方法により調製されたフッ素樹脂水性分散液に、オイル、好適には上記オイル分散体を、塗料組成物中の樹脂固形分(塗料組成物に含まれるフッ素樹脂の重量)とオイルの合計重量の1~35重量%の量となるように配合し、撹拌してフッ素樹脂及びオイルを共凝集させる。100~500rpmの撹拌速度で10~60分間撹拌することにより、平均粒径が1~200μmの凝集造粒物を造粒した後、分離・洗浄・乾燥することにより、フッ素樹脂の一次粒子の空隙にオイルが充填され、オイルが粉体中に均一に存在するフッ素樹脂/オイルの複合粉末を調製できる。必要に応じて、凝集や造粒過程で生成した粒径が200μm以上の大きな粗粒子を粉砕して細かくすることもできる。
尚、フッ素樹脂一次粒子を化学的に凝集させるために、HCl,H2SO4,HNO3,H3PO4,Na2SO4,MgCl2,CaCl2,HCOONa、CH3COOK、(NH4)2CO3等の電解物質を配合することが好ましい。更に必要により、水と非相溶の有機溶剤(好ましくは、フッ素系溶剤)を加えることで、凝集された粒子が均一に造粒されるため好ましい。
【0028】
<その他>
本発明の塗料組成物は、求める特性に応じて、各種の有機・無機充填材を加えることもできる。有機充填材としては、例えば、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。無機充填材としては、金属粉、金属酸化物(酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等)、ガラス、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、グラフアイト、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。充填材の形状としては、粒子状、繊維状、フレーク状など、各種の形状の充填材が使用可能である。
前述したとおり、本発明の塗料組成物においてはオイルの存在により、耐摩耗性が向上されているが、充填材を配合することによって、耐摩耗性をより向上させることができる。特に好適な充填材としては、これに限定されないが、炭化珪素(SiC)、シリカ、ポリイミド(PI)を例示できる。
また充填材の配合量は、用いる充填材の種類によって一概に規定できないが、塗料組成物の塗料固形分基準(オイルを除いた、塗膜として残留する全固形分、すなわちフッ素樹脂と充填材の合計量に対して)で0.1~10重量%の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも充填材の配合量が少ないと、充填材配合による耐摩耗性の向上が乏しく、一方上記範囲よりも多いと上記範囲にある場合に比して離型性が低下するおそれがある。
充填材は、塗料組成物が水系塗料等の液体塗料である場合は、充填材を水等の液媒体に分散させて用いることが好ましい。塗料組成物が粉体塗料である場合は、塗料組成物の粉体と充填材を直接混合するドライブレンドや、水性分散液に充填材を加えて一緒に攪拌して凝集させる共凝集などの方法が使用可能である。
【0029】
(コーティング方法)
本発明の塗料組成物は、液体(水系又は溶剤系)塗料組成物の場合は、スプレー塗装、ディップ塗装等、粉体塗料組成物の場合は、静電塗装等、従来公知のコーティング方法によって塗装することができる。
塗装後、塗工された塗料組成物をフッ素樹脂の融点以上に加熱処理することにより塗膜を形成することが好ましい。これにより塗工された塗料組成物を溶融流動させて均一な塗膜を形成することが可能になる。
【0030】
本発明の塗料組成物を塗装する対象となる基材としては、特に限定されないが、加熱処理に耐え得る基材が好ましく、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属基材、ガラス、セラミック、耐熱性プラスチック基材等が挙げられる。
本発明の塗料組成物は、形成される塗膜の耐久性に優れ、非粘着性・離型性を長時間維持可能であることから、特に成形金型の表面に塗布するトップコートとして用いることが好適である。
トップコート塗装の塗膜厚は、用途や適用部分などによって適宜選択すればよいが、加熱溶融処理後の場合の膜厚としては、5μm以上、好ましくは10μm以上となるように塗装することが好ましい。それ以下になると、連続的な膜が形成しにくく塗膜に欠陥が生じたり、摩耗により塗膜の性能(非粘着性・撥水撥油性)が早期に失われやすくなるおそれがある。
【0031】
本発明の塗料組成物は、上述したようにトップコートとして最表面層に用いることが好適であり、前述した方法により基材表面に塗布することができる。
本発明の塗料組成物は基材表面に直接塗布することが可能であるが、基材にプライマー塗装や表面化成処理を行い、表面の接着性を高めておいてもよい。プライマー塗料としては、基材と接着性の高い各種エンプラ樹脂(例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなど)を含んでいることが好ましく、更に本発明の塗料組成物による塗膜との層間接着性を向上させるためにフッ素樹脂、特にPFAが含まれていることが好ましい。本発明の塗料組成物による塗膜と基材双方への接着性を充足するためには、プライマー塗膜中におけるフッ素樹脂の割合は、50~90質量%であることが好ましく、エンプラ樹脂及び充填材の割合は、10~50質量%であることが好ましい。
【0032】
(塗膜)
本発明の塗料組成物により得られる塗膜は、高い非粘着性及び撥水撥油性を有するために、オイル接触角が58度以上、好適には60度以上であることが望ましい。
また塗膜中には、オイルが、1~35重量%、特に5~20重量%の量で含有されていることが、塗膜の非粘着性(離型性)を長期に亘って発現可能とする上で好ましい。
本発明の塗料組成物により形成される塗膜の膜厚は、用途や適用部分に応じて適宜選択することができるが、特に金型の離型性を向上するために使用する場合には、加熱溶融処理後の場合の膜厚として、5μm以上、特に5~300μmの範囲になるように塗装することが好ましい。上記範囲よりも膜厚が薄い場合には、上記範囲にある場合に比して連続的な塗膜を形成できず塗膜欠陥を生じるおそれがあると共に、摩耗により塗膜の性能(非粘着性(離型性)・撥水撥油性・すべり性)が早期に失われるおそれがあり、一方上記範囲よりも膜厚が厚いと経済性に劣るようになる。
【実施例】
【0033】
(物性の測定)
[オイルの分解温度]
熱重量分析装置(TGA2050:TA Instruments社製)を使い、オイル(約50mg)を窒素雰囲気中で室温から600℃まで毎分10℃で昇温し、得られた温度―重量曲線から、JIS K 7120に記載の方法により算出した温度を分解温度とした。
[フッ素樹脂の融点]
ASTM D 3307に準拠し、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 Pyris1型DSC)により測定した融解ピークに対応する温度を融点とした。
【0034】
[塗料中のオイル粒子の分散状態(目視)]
塗料を目視で確認して、オイルの分散状態を確認した。判断基準は以下の通りである。
分散良好:オイルが細かく分散していて、攪拌後30分以内には沈降による2層分離が目視では確認できない。
分散NG:攪拌後30分以内には沈降による2層分離の開始が目視で確認できる。
【0035】
[塗料中のオイル粒子の平均粒径]
スポイトにより塗料滴をガラススライド(Micro slide glass 76x26mm,1~1.2mmt、Matsunami製)の上に滴下した後、基材アルミニウム(50mm×100mm、厚み1mm)の上に乗せてから、光学顕微鏡(株式会社ハイロックス製、KH-1300)の反射モードにより観察を行い、2000~2500倍率の写真でオイル粒子を観察した。n=20サンプルの平均値を求め、平均粒径とした。
【0036】
(塗膜評価)
[塗膜形成状態(目視)]
得られた塗膜を目視にて観察し、状態を確認した。判断基準は以下の通りである。
良好:塗膜に凹凸・欠陥もない。
欠陥あり:塗膜に欠陥がある。(基材面が一部露出している)
凹凸あり:塗膜に欠陥(基材面の露出)は無いが、平坦でなく、凹凸やうねりが観察される。
[離型性(n-ヘキサデカン接触角)]
全自動接触角計(協和界面化学株式会社 DM-701)を用いて、測定環境:25℃、湿度60%RHにて、n-ヘキサデカンの接触角(液滴サイズ:約2μL)を測定した。
[テープ剥離試験]
後述の方法により塗装した基材アルミニウム(17cmx17cm、厚み2mm)の端からの5cmのところから長さ18cmにカットした接着テープ(3M製、Scotch898、幅:1.8cm)を貼り(12cmテープが上記の基材の上に付着した)、気泡を抜くために、MONO(登録商標)消しゴム(株式会社トンボ鉛筆製)で接着面を圧着した後、20分間養生した。基材アルミニウムからはみ出たテープ(長さ6cm)を半分に折り返して、引張試験の固定用チャックのつかみ代とした(長さ3cm)。
引張試験機(Tensilon, Orientec製、RTC-1310A)を用いて、上記のはみ出たテープを折り返した部分と、反対側の基材アルミニウムのテープを接着していない部分をチャックで固定し、20mm/minの引張速度で測定し、テープ剥離時の応力(最大値)を求め、5サンプルの平均値をテープ剥離強度とした。
【0037】
[醤油砂糖テスト]
試験用醤油・砂糖ブレンド(醤油・砂糖比率=50:50)を試作した。基材アルミニウム(50mm×100mm、厚み1mm)にプライマー処理後に塗料組成物を塗装して成る塗膜と、塗装しない基材アルミニウム(50mm×100mm、厚み1mm)の表面(接触面積50mmx50mm)に、上記の醤油・砂糖を塗った後、これらを重ね合わせクリップで二箇所留める。次に、そのままでオーブンの中に、120℃x30分と200℃x30分で熱処理を行った後、常温まで空冷した。重ねたサンプルの剥離強度を引張試験機(Tensilon, Orientec製、RTC-1310A)にて20mm/minの引張速度で測定し、5サンプルの平均値を求めた。
【0038】
[塗膜中のオイル残量測定]
塗膜から、カミソリで約30mgのサンプルを採取し、オイルの分解温度測定と同様に熱重量分析装置(TGA2050:TA Instruments社製)を使い、窒素雰囲気中で室温から600℃まで毎分10℃で昇温した。塗膜中のフッ素樹脂の分解温度はオイルの分解温度より高いので、オイルの分解開始温度から完全分解温度までの範囲で重量変化を測定し、塗膜中のオイルの残量とした。
【0039】
[塗膜耐摩耗試験]
JIS K5600-5-10(試験片往復法)に準拠し、スガ試験機株式会社製 スガ摩耗試験機 NUS-ISO3を用い、摩耗減量を測定した。試験条件は以下の通りである。
荷重:1N
往復回数:100回
使用研磨紙:シリコンカーバイド紙 P-400級
【0040】
(塗装プロセス)
性能評価に使用する塗膜を以下の手順で作製した。
(1)基材表面処理(塗膜洗浄)
基材アルミニウム(JIS A1050準拠品、95mm×150mm、厚み1mm)の表面を、イソプロピルアルコールで脱脂し、その表面にサンドブラスタ―((株)不二製作所製 ニューマブラスター SGF-4(A)S-E566)を用い、#60番アルミナ(昭和電工社製 ショウワブラスター)によるショットブラストを施し粗面化した。
(2)下塗り(プライマー塗布)
上記(1)にて処理を施した基材に、エアースプレー塗装ガン(アネスト岩田(株)製 W-88-10E2 φ1mmノズル(手動ガン))を用いて、エアー圧力2.5~3.0kgf/cm2で液体プライマー塗料PJ-YL902(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)を吹き付け、塗装を行った。塗装された液体質量が、基材1枚あたり約0.2g(0.15~0.25g)となるように塗装し、強制通風循環炉で120℃×15分間乾燥し、膜厚6~8μmの塗膜を形成させた。塗装環境は温度25℃、湿度60%RHであった。
(3)上塗りによる塗膜形成
上記(1)及び(2)にて処理した基材に、エアースプレー塗装ガン(アネスト岩田(株)製 W-88-10E2 φ1mmノズル(手動ガン))を用いて、エアー圧力2.5~3.0kgf/cm2で、後述する実施例の液体塗料組成物を吹き付け、塗装を行った。塗装された液体質量が、基材1枚あたり約0.2g(0.15~0.25g)となるように塗装し、強制通風循環炉で120℃×15分間乾燥後、さらに340℃×30分間熱処理し、膜厚8~10μmの塗膜を形成させた。塗装環境は温度25℃、湿度60%RHであった。
【0041】
(実施例1)
オイルとしてシリコーンオイル(分解温度393℃ 信越化学工業株式会社製 KF-54)3.68gと、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社社製KF-352A、濃度20重量%の水溶液)14.74gを樹脂ビーカ―に入れ、超音波生成装置(超音波工業株式会社製 Ultrasonic MINIWELDER HS3-4)を用いて、5分間超音波分散処理を行った。そこに、トップコート用フッ素樹脂(PFA)水系塗料である三井・デュポンフロロケミカル株式会社製EJ-CL500(含まれるPFAの平均粒径:約0.2μm、融点:309℃、PFA樹脂固形分:37重量%)181.97gを加えて、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌機を用いて480rpmで15分間攪拌してフッ素樹脂塗料組成物を得た。得られた塗料組成物を前述した方法によってプライマー処理されたアルミニウム基材に塗装し、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物の樹脂固形分(フッ素樹脂)とオイルの合計量に対するフッ素オイル含量:5.0重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0042】
(実施例2)
シリコーンオイルの量を7.78g、シリコーン系界面活性剤の量を31.11gとした以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物を調製すると共に、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物中の樹脂固形分(フッ素樹脂)をオイルの合計量に対するオイル含量:10.0重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0043】
(実施例3)
シリコーンオイルの量を1.07g、シリコーン系界面活性剤の量を4.26gとした以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物を調製すると共に、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物中の樹脂固形分(フッ素樹脂)をオイルの合計量に対するオイル含量:1.5重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0044】
(実施例4)
シリコーンオイルの量を30.0g、シリコーン系界面活性剤の量を119.99gとした以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物を調製すると共に、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物中の樹脂固形分(フッ素樹脂)をオイルの合計量に対するオイル含量:30.0重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0045】
(参考例1)
フッ素系溶剤(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製Vertrel(登録商標) Suprion)35.6gと、フッ素オイルとしてPFPE(分解温度426℃)8.89gと、フッ素系界面活性剤(ケマーズ株式会社社製Capstone(登録商標)FS-31(ノニオン型フッ素系界面活性剤25%水溶液))4.99gを1リットルのステンレスビーカ―に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌機を用いて480rpmで5分間攪拌してから、トップコート用フッ素樹脂(PFA)水系塗料である三井・デュポンフロロケミカル株式会社製EJ-CL500(含まれるPFAの平均粒径:約0.2μm、融点:309℃、PFA樹脂固形分:37重量%)200gを加えて、更に15分撹拌した。フッ素系溶剤を揮発するために、ウォーターバスの中に上記のブレンド物を撹拌しながら約70℃で1時間加熱してフッ素樹脂塗料組成物を得た。
得られた塗料組成物を前述した方法によってプライマー処理されたアルミニウム基材に塗装し、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物の樹脂固形分(フッ素樹脂)とフッ素オイルの合計量に対するフッ素オイル含量:10.7重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0046】
(参考例2)
フッ素系溶剤の量を80g、フッ素オイルの量を20g、フッ素系界面活性剤の量を6.12gとした以外は参考例1と同様にして、塗料組成物を調製すると共に、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物の樹脂固形分(フッ素樹脂)とフッ素オイルの合計量に対するフッ素オイル含量:21.3重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0047】
(参考例3)
フッ素オイルとしてPFPE(分解温度426℃)8.22gと、フッ素系界面活性剤(ケマーズ株式会社社製Capstone(登録商標)FS-31(ノニオン型フッ素系界面活性剤25%水溶液))16.44gを1リットルのステンレスビーカ―に入れて、超音波生成装置(超音波工業株式会社製 UE-100Z28S-8A Ultrasonic generator)を用いて、5分間超音波分散処理を行った。そこに、トップコート用フッ素樹脂(PFA)水系塗料である三井・デュポンフロロケミカル株式会社製EJ-CL500(含まれるPFAの平均粒径:約0.2μm、融点:309℃、PFA樹脂固形分:37重量%)200gを加えて、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌機を用いて480rpmで15分間攪拌してフッ素樹脂塗料組成物を得た。
得られた塗料組成物を前述した方法によってプライマー処理されたアルミニウム基材に塗装し、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物の樹脂固形分(フッ素樹脂)とフッ素オイルの合計量に対するフッ素オイル含量:10.0重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0048】
(比較例1)
実施例1で用いたトップコート用フッ素樹脂(PFA)水系塗料(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製EJ-CL500、PFA平均粒径:約0.2μm、融点(ASTM D3307準拠):309℃)を用いて、前述した方法によりプライマー処理した基材に塗装し、塗膜サンプルを作成した。
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0049】
(比較例2)
オイルとして分解温度が111℃の2-パーフルオロヘキシル-エチルメタクリレート8.89gとトップコート用フッ素樹脂(PFA)水系塗料である三井・デュポンフロロケミカル株式会社製EJ-CL500(含まれるPFAの平均粒径:約0.2μm、融点:309℃、PFA樹脂固形分:37重量%)200gを1リットルのステンレスビーカ―に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌機を用いて480rpmで15分間攪拌してフッ素樹脂塗料組成物を得た。得られた塗料組成物を前述した方法によってプライマー処理されたアルミニウム基材に塗装し、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物の樹脂固形分(フッ素樹脂)とオイルの合計量に対するオイル含量:10.7重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0050】
(比較例3)
オイルとして、分解温度が227℃のPFPEを含む組成物(日光ケミカルス株式会社製Nikkol NET-HC-04、PFPE65重量%)を用い、PFPE組成物13.68g(フッ素オイル8.89 g)を入れる以外は、参考例1と同様にして塗料組成物を調製すると共に、塗膜サンプルを作成した。(フッ素樹脂塗料組成物の樹脂固形分(フッ素樹脂)とフッ素オイルの合計量に対するフッ素オイル含量:10.7重量%)
フッ素樹脂塗料組成物の組成やプロセス、状態については表1に、塗膜サンプルの評価結果については表2に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
表1及び2から明らかなように、シリコーンオイルが分散している実施例1及び2の塗膜では、テープ剥離試験の結果から明らかなように、塗膜表面にオイルが滲出しており、フッ素オイルを配合して成る参考例1~3とほぼ同程度の耐摩耗性が得られている。また離型性は、比較例1~3に比して改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の塗料組成物は、優れた非粘着性(離型性)や撥水撥油性を長期に亘って発現可能な塗膜を形成可能であり、耐摩耗性にも優れることから、成形金型の離型性を向上するためのトップコート層の形成に好適に使用することができる他、フライパンや炊飯器等の調理器具、工場ラインなどでの耐熱離型性トレイ(パン焼き工程など)、定着ロール、ベルト、インクジェットノズル等の機器、シールリングやベアリングなどの摺動部材用コーティング、配管等の工業設備関連物品等のトップコート層としても好適に使用することができる。