(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】クロムフリー金属表面処理剤、金属表面処理方法、及び金属基材
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20220707BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20220707BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220707BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220707BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220707BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C09D5/08
C09D133/00
C09D175/04
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2018130686
(22)【出願日】2018-07-10
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】山根 健輔
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-519924(JP,A)
【文献】特開2006-328445(JP,A)
【文献】特開2007-239018(JP,A)
【文献】特開2018-104689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C22/00-22/80
C22C26/00
C09D5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分;
(A)多シリル官能シラン
(B)アミノ基含有シランカップリング剤
(C)無機化合物粒子
(D)水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂
を含有し、
前記(A)成分及び前記(B)成分における珪素と、前記(D)成分における樹脂固形分との質量比(樹脂固形分/珪素)が1~5の範囲であ
り、
前記(C)成分が、ジルコニウム化合物粒子及びチタン化合物粒子から選択される少なくとも1種である、クロムフリー金属表面処理剤。
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分との質量比((A)成分/(B)成分)が0.2~8.7の範囲である請求項1に記載のクロムフリー金属表面処理剤。
【請求項3】
前記(A)成分が1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンである請求項1又は2に記載のクロムフリー金属表面処理剤。
【請求項4】
前記(B)成分が、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1項に記載のクロムフリー金属表面処理剤。
【請求項5】
前記(C)成分の平均粒径が1μm以下である請求項1~
4のいずれか1項に記載のクロムフリー金属表面処理剤。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のクロムフリー金属表面処理剤を金属基材の表面に付与する工程と、
前記金属基材に付与されたクロムフリー金属表面処理剤を乾燥して皮膜を形成する工程と、
を含む金属表面処理方法。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のクロムフリー金属表面処理剤の皮膜を有する金属基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムフリー金属表面処理剤、金属表面処理方法、及び金属基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属基材に耐食性を付与するための表面処理剤としては、クロメート処理剤、リン酸クロメート処理剤等のクロム系金属表面処理剤が知られており、現在でも広く使用されている。しかし、近年の環境規制の動向からすると、クロムの有する毒性、特に発ガン性のために将来的に使用が制限される可能性がある。
【0003】
そこで、クロム系金属表面処理剤と同等の耐食性を示すクロムフリー金属表面処理剤が種々開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、プレコート鋼板(PCM)用のクロムフリー金属表面処理剤として、金属表面処理剤1リットル中に、(a)シランカップリング剤及びその加水分解縮合物を0.01~100g/L、(b)水分散性シリカ(固形分)を0.05~100g/L、(c)ジルコニウム化合物をジルコニウムイオンとして0.01~50g/L及び/又はチタニウム化合物をチタニウムイオンとして0.01~50g/L含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クロムフリー金属表面処理剤を用いて金属基材に皮膜を形成する場合、形成される皮膜には、耐食性に加えて、金属基材や上塗り塗装への密着性、耐薬品性等が要求される。特にプレコート鋼板(PCM)を製造する場合には、金属基材の成型加工前に表面処理を施すことになるため、加工部においても耐食性及び密着性を示すことが求められる。
【0007】
しかし、従来のクロムフリー金属表面処理剤は、形成される皮膜の耐食性、密着性、及び耐薬品性が十分とはいえず、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、金属基材に対して、耐食性、密着性、及び耐薬品性に優れた皮膜を形成可能なクロムフリー金属表面処理剤を提供することを目的とする。また、本発明は、そのクロムフリー金属表面処理剤を用いた金属表面処理方法、及び表面処理が施された金属基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分;
(A)多シリル官能シラン
(B)アミノ基含有シランカップリング剤
(C)無機化合物粒子
(D)水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂
を含有し、前記(A)成分及び前記(B)成分における珪素と、前記(D)成分における樹脂固形分との質量比(樹脂固形分/珪素)が1~5の範囲であるクロムフリー金属表面処理剤に関する。
【0010】
前記(A)成分と前記(B)成分との質量比((A)成分/(B)成分)は、0.2~8.7の範囲であることが好ましい。
【0011】
前記(A)成分は、1,2-ビス(トリエトキシシリル)-エタンであることが好ましい。
【0012】
前記(B)成分は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記(C)成分は、ジルコニウム化合物粒子及びチタン化合物粒子から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記(C)成分の平均粒径は、1μm以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記クロムフリー金属表面処理剤を金属基材の表面に付与する工程と、前記金属基材に付与されたクロムフリー金属表面処理剤を乾燥して皮膜を形成する工程と、を含む金属表面処理方法に関する。
【0015】
また、本発明は、前記クロムフリー金属表面処理剤の皮膜を有する金属基材に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属基材に対して、耐食性、密着性、及び耐薬品性に優れた皮膜を形成可能なクロムフリー金属表面処理剤を提供することができる。また、本発明によれば、そのクロムフリー金属表面処理剤を用いた金属表面処理方法、及び表面処理が施された金属基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤、金属表面処理方法、及び金属基材について詳細に説明する。
【0018】
<クロムフリー金属表面処理剤>
本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤は、次の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分;
(A)多シリル官能シラン
(B)アミノ基含有シランカップリング剤
(C)無機化合物粒子
(D)水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂
を含有し、(A)成分及び(B)成分における珪素と、(D)成分における樹脂固形分との質量比(樹脂固形分/珪素)が1~5の範囲である。
【0019】
本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤によれば、金属基材に対して、耐食性、密着性、及び耐薬品性に優れた皮膜を形成することができる。特に、本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤を用いて形成された皮膜は、加工部においても良好な耐食性及び密着性を示す。このため、本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤は、例えば、プレコート鋼板(PCM)を製造する際の塗装下地として好適である。
【0020】
[(A)多シリル官能シラン]
(A)成分である多シリル官能シランとしては、例えば、加水分解してシラノール基を生成可能な複数のシリル基を有する化合物が挙げられる。好ましい多シリル官能シランとしては、例えば、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0021】
【0022】
上記式(I)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~30の1価の有機基を示す。1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等の炭化水素基;水酸基、エポキシ基、アミノ基等の官能基を有する炭化水素基;などが挙げられ、メチル基、エチル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0023】
上記式(I)中、Yは、2価の有機基又はアミンを示す。2価の有機基としては、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンチオ基、あるいはこれらの基を部分構造として含む基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。2価の有機基の炭素数は、2~30であることが好ましく、2~12であることがより好ましい。
【0024】
上記式(I)中、X1及びX2は、それぞれ独立に加水分解性基を示す。加水分解性基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が挙げられ、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
【0025】
上記式(I)中、a及びbは、それぞれ独立に0~2の整数を示し、0≦a+b≦2である。また、c及びdは、それぞれ独立に0~2の整数を示し、0≦c+d≦2である。a+b及びc+dは、いずれも0又は1が好ましい。
【0026】
上記式(I)で表される多シリル官能シランの具体例としては、ビス(トリメトキシシリル)メタン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,8-ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,9-ビス(トリメトキシシリル)ノナン、1,9-ビス(トリエトキシシリル)ノナン、ビス(トリメトキシシリル)アミン、ビス(トリエトキシシリル)アミン、ビス(トリメトキシシリルメチル)アミン、ビス(トリエトキシシリルメチル)アミン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い上の安全性、得られる皮膜の耐食性及び密着性の観点から、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンが好ましい。
【0027】
これらの多シリル官能シランは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、多シリル官能シランは、部分的に加水分解縮合していてもよい。
【0028】
(A)成分の含有率は特に制限されないが、本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤の総量中、0.4~2.4質量%であることが好ましく、0.6~1.7質量%であることがより好ましい。(A)成分の含有率を0.4質量%以上とすることにより、得られる皮膜の耐食性、金属基材への密着性、及び耐薬品性がより向上する傾向にある。一方、(A)成分の含有率を2.4質量%以下とすることにより、得られる皮膜の金属基材への密着性が向上する傾向にある。
【0029】
[(B)アミノ基含有シランカップリング剤]
(B)成分であるアミノ基含有シランカップリング剤としては、アミノ基を有する従来公知のシランカップリング剤を特に制限なく使用することができる。アミノ基含有シランカップリング剤の具体例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0030】
これらのアミノ基含有シランカップリング剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、アミノ基含有シランカップリング剤は、部分的に加水分解縮合していてもよい。
【0031】
(B)成分の含有率は特に制限されないが、(A)成分と(B)成分との質量比((A)成分/(B)成分)が0.2~8.7の範囲であることが好ましく、0.5~3.0の範囲であることがより好ましい。質量比((A)成分/(B)成分)を0.2以上とすることにより、得られる皮膜の耐食性、金属基材への密着性、及び耐薬品性がより向上する傾向にある。一方、質量比((A)成分/(B)成分)を8.7以下とすることにより、得られる皮膜の上塗り塗装への密着性がより向上する傾向にある。
【0032】
[(C)無機化合物粒子]
(C)成分である無機化合物粒子としては、ジルコニウム化合物粒子、チタン化合物粒子等が挙げられる。粒子状の無機化合物を含有することにより、粒子状ではない無機化合物を含有する場合に比べて、得られる皮膜の耐食性及び耐薬品性が向上する傾向にある。
【0033】
ジルコニウム化合物としては、例えば、酸化ジルコニウムが挙げられる。チタン化合物としては、例えば、酸化チタンが挙げられる。これらの無機化合物粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
無機化合物粒子の平均粒径(D50)は、1μm以下であることが好ましく、10~300nmであることがより好ましい。
【0035】
無機化合物粒子としては市販品を用いることもできる。ジルコニウム化合物粒子の市販品としては、「ZSL-20N」、「ZSL-10A」、「ZSL-10T」、「EP酸化ジルコニウム」、「UEP酸化ジルコニウム」、「UEP-100酸化ジルコニウム」(以上、第一稀元素化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、チタン化合物粒子の市販品としては、「CSB」、「CSB-M」、「SSP-25」、「SSP-20」、「SSP-M」、「STA-100A」(以上、堺化学工業株式会社製);「DC-Ti」、「DCN-Ti」、「DCB-Ti」(以上、富士チタン工業株式会社製);等が挙げられる。
【0036】
(C)成分の含有率は特に制限されないが、本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤の総固形分量に対して、9.0~16.0質量%であることが好ましい。(C)成分の含有率を9.0質量%以上とすることにより、得られる皮膜の耐薬品性が向上する傾向にある。一方、(C)成分の含有率を16.0質量%以下とすることにより、得られる皮膜の耐食性、及び金属基材への密着性が向上する傾向にある。
【0037】
[(D)水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂]
(D)成分である水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂は、分子構造中に、第1級~第3級アミノ基、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基等の水性媒体中でカチオン化可能なカチオン性官能基を有する。カチオン性官能基の具体例としては、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基等が挙げられる。
【0038】
水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂は、水に微分散したエマルジョンの形態でクロムフリー金属表面処理剤中に添加されることが好ましい。
【0039】
水系カチオンウレタン樹脂としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ひまし油ポリオール等のポリオールと、脂肪族、脂環式、又は芳香族ポリイソシアネートとを重合させて得られるウレタン樹脂において、ポリオールの一部として、第1級~第3級アミノ基、アンモニウム基等のカチオン性官能基で置換されたポリオールを用いることによって得られるものが挙げられる。
【0040】
水系カチオンウレタン樹脂としては市販品を用いることもできる。水系カチオンウレタン樹脂の市販品としては、「F-2667D」、「スーパーフレックス650」(以上、第一工業製薬株式会社製);「テックコートWH-1515」(株式会社京絹化成製);等が挙げられる。
【0041】
水系カチオンアクリル樹脂としては、アミノ基含有(メタ)アクリレート、第4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレート等のカチオン性官能基を有する(メタ)アクリレートと、その他の重合性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-メチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。第4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0042】
水系カチオンアクリル樹脂としては市販品を用いることもできる。水系カチオンアクリル樹脂の市販品としては、「UW-550CS」、「UW-600」(以上、大成ファインケミカル株式会社製);「ACE-6」(株式会社村山化学研究所製);等が挙げられる。
【0043】
水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂の中でも、構造中に二重結合を有する水系カチオンウレタン樹脂が好ましい。分子構造中に二重結合を有する水系カチオンウレタン樹脂は疎水性が比較的高いため、得られる皮膜の耐食性、上塗り塗装との密着性等がより向上する傾向にある。
なお、構造中に二重結合を有する水系カチオンウレタン樹脂の市販品としては、「F-2667D」(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
(D)成分は、(A)成分及び(B)成分における珪素と、(D)成分における樹脂固形分との質量比(樹脂固形分/珪素)が1~5の範囲となる量で含有される。質量比(樹脂固形分/珪素)を1以上とすることにより、得られる皮膜の耐食性、密着性、及び耐薬品性(特に、耐アルカリ性)がより向上する傾向にある。一方、質量比(樹脂固形分/珪素)を5以下とすることにより、得られる皮膜の耐薬品性(特に、耐酸性)がより向上する傾向にある。
【0045】
本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤は、水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂以外の他の樹脂をさらに含有していてもよい。ただし、他の樹脂の含有率は、樹脂の総量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
[その他の成分]
本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤は、上述した各成分以外に、他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分としては、樹脂の硬化を促進させる樹脂架橋剤、レベリング用途に用いられる表面調整剤、抑泡用途に用いられる消泡剤等が挙げられる。
【0047】
[クロムフリー金属表面処理剤のpH]
本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤は、pHが7以下であることが好ましく、4~7であることがより好ましい。クロムフリー金属表面処理剤のpHを7以下とすることにより、貯蔵安定性がより向上するとともに、得られる皮膜の耐薬品性(特に、耐アルカリ性)がより向上する傾向にある。
【0048】
<金属表面処理方法>
本実施形態に係る金属表面処理方法は、上述した本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤を金属基材の表面に付与する工程(以下、「付与工程」ともいう。)と、金属基材に付与されたクロムフリー金属表面処理剤を乾燥して皮膜を形成する工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)と、を含む。
【0049】
付与工程では、上述した本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤を金属基材に付与する。
【0050】
金属基材としては、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、アルミニウム亜鉛合金めっき鋼材、アルミニウム材、ステンレス鋼材等が挙げられる。
クロムフリー金属表面処理剤を金属材に付与する方法は特に制限されず、ロールコーター塗装、刷毛塗り塗装、ローラー塗装、バーコーター塗装、流し塗り塗装等の方法が挙げられる。
【0051】
乾燥工程では、金属基材に付与されたクロムフリー金属表面処理剤を乾燥して皮膜を形成する。
【0052】
乾燥温度は、例えば、50~150℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましい。
【0053】
付与工程と乾燥工程とは、同時並行的に行ってもよい。例えば、予め加熱しておいた金属基材に対してクロムフリー金属表面処理剤を付与し、余熱を利用してクロムフリー金属表面処理剤を乾燥させてもよい。
【0054】
皮膜の付着量は、例えば、0.01~1.0g/m2であることが好ましく、0.04~0.6/m2であることがより好ましい。付着量を0.01g/m2以上とすることで、耐食性及び耐薬品性がより向上する傾向にある。また、付着量を1.0g/m2以下とすることで、耐食性(特に、加工部における耐食性)及び密着性がより向上する傾向にある。
【0055】
なお、プレコート鋼板(PCM)を製造する場合には、例えば、形成した皮膜上にプライマー塗料を付与した後、上塗り塗料を付与することができる。プライマー塗料及び上塗り塗料としては、いずれもクロムフリーの塗料が好ましい。
【0056】
<金属基材>
本実施形態に係る金属基材は、上述した本実施形態に係るクロムフリー金属表面処理剤の皮膜を有する。本実施形態に係る金属基材は、上述した本実施形態に係る金属表面処理方法により得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0058】
<クロムフリー金属表面処理剤の調製>
[実施例1~17、24~33、比較例1~14]
イオン交換水100gに対して、表1、2に示す種類及び量(単位:g)の(A)成分を混合し、酢酸を用いてpHを6に調整した。得られた溶液に(B)成分、(C)成分、(D)成分を順に混合して撹拌することにより、実施例1~17、24~33、比較例1~14の各クロムフリー金属表面処理剤を得た。
【0059】
[実施例18~23]
イオン交換水100gに対して、表1に示す種類及び量(単位:g)の(A)成分を混合し、酢酸を用いてpHを6に調整した。得られた溶液に(B)成分、(C)成分、(D)成分を順に混合して撹拌した。さらに、酢酸又は25質量%アンモニア水を用いて表1に示すpHに調整することにより、実施例18~23の各クロムフリー金属表面処理剤を得た。
【0060】
【0061】
【0062】
なお、表1、2における略号は以下のとおりである。
(多シリル官能シラン)
A1:1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(信越化学工業株式会社製、「KBE-3026」)
A2:ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM-1003」)
【0063】
(シランカップリング剤)
B1:3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBE-903」)
B2:3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM-903」)
B3:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM-603」)
B4:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM-602」)
B5:ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM-1003」)
B6:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBM-403」)
【0064】
(無機化合物)
C1:ジルコニウム化合物粒子(第一稀元素化学株式会社製、「ZSL-20N」、粒径:60~105nm、固形分濃度:20質量%)
C2:チタン化合物粒子(堺化学工業株式会社、「CSB-M」、粒径:7nm、固形分濃度:30質量%)
C3:ジルコニウム化合物粒子(第一稀元素化学株式会社製、「EP酸化ジルコニウム」、平均粒径:1.5~2.5μm、固形分濃度:100質量%)
C4:ジルコニウム化合物(第一稀元素化学株式会社製、「ジルコゾールAC-7」、固形分濃度:20質量%)
C5:シリカ粒子(株式会社ADEKA製、「アデライトAT-20A」、粒径:10~20nm、固形分濃度:20質量%)
【0065】
(樹脂)
D1:水系カチオンウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、「F-2667D」、固形分濃度:25質量%)
D2:水系カチオンウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、「スーパーフレックス650」、固形分濃度:26質量%)
D3:水系カチオンアクリル樹脂(大成ファインケミカル株式会社製、「UW-550CS」、固形分濃度:34質量%)
D4:水系アニオンウレタン樹脂(株式会社ADEKA製、「HUX-320」、固形分濃度:32質量%)
D5:水系ノニオンウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、「スーパーフレックス500M」、固形分濃度:45質量%)
D6:水系アニオンアクリル樹脂(サイデン化学株式会社製、「AD-7」、固形分濃度:39質量%)
【0066】
<評価>
実施例1~33、比較例1~14のクロムフリー金属表面処理剤を用いて、以下のように、耐食性、密着性、耐薬品性、及び貯蔵安定性を評価した。結果を表3、4に示す。
【0067】
[試験板の作製]
表3、4に示す鋼板を、アルカリ脱脂剤(日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社製、「サーフクリーナー155」)を用いて60℃で1分間スプレー処理することにより脱脂した。脱脂した鋼板は、水洗した後、乾燥させた。次いで、鋼板の表面に、皮膜の付着量が表1、2に示す値となるように、実施例1~33、比較例1~14のクロムフリー金属表面処理剤をバーコーターにより塗布し、鋼板の到達温度が90℃になるまで焼き付け乾燥した。次いで、クロムフリーのプライマー塗料及び上塗り塗料(いずれも、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製)をそれぞれ塗装し、塗装鋼板を得た。
【0068】
[耐食性の評価]
塗装鋼板の塗装面に35℃の5w/v%食塩水を噴霧した。食塩水の噴霧から1000時間後に、白錆が発生している面積の割合(%)を目視にて確認することにより、耐食性を評価した。評価は、平面部と、板2枚分を間に挟んで折り曲げ加工(2T加工)を行った折り曲げ加工部との両方について行った。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で3点以上であれば合格とした。
-評価基準-
4点:白錆発生なし
3点:白錆が発生している面積が10%未満
2点:白錆が発生している面積が10%以上30%未満
1点:白錆が発生している面積が30%以上
【0069】
[密着性の評価]
塗装鋼板について180°折り曲げ加工(0T加工)を行った。そして、折り曲げ加工部の塗装面にテープを貼った後、これを剥がし、塗装が剥がれている面積の割合(%)を目視にて確認することにより、密着性を評価した。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で3点以上であれば合格とした。
-評価基準-
4点:剥離なし
3点:剥離している面積が25%未満
2点:剥離している面積が26%以上50%未満
1点:剥離している面積が50%以上
【0070】
[耐薬品性の評価]
a)耐酸性の評価
塗装鋼板を25℃の5w/v%硫酸水溶液に24時間浸漬し、塗膜の膨れが生じている面積の割合(%)を目視にて確認することにより、耐酸性を評価した。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で3点以上であれば合格とした。
-評価基準-
4点:膨れなし
3点:膨れが生じている面積が25%未満
2点:膨れが生じている面積が25%以上50%未満
1点:膨れが生じている面積が50%以上
【0071】
b)耐アルカリ性の評価
塗装鋼板を25℃の5w/v%水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬し、塗膜の膨れが生じている面積の割合(%)を目視にて確認することにより、耐アルカリ性を評価した。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で3点以上であれば合格とした。
-評価基準-
4点:膨れなし
3点:膨れが生じている面積が25%未満
2点:膨れが生じている面積が25%以上50%未満
1点:膨れが生じている面積が50%以上
【0072】
[貯蔵安定性の評価]
実施例1~33、比較例1~14のクロムフリー金属表面処理剤を40℃の恒温装置内に3ヶ月間貯蔵し、ゲル化及び沈殿の状態を目視にて観察することにより、貯蔵安定性を評価した。
評価基準は下記のとおりである。この評価基準で2点であれば合格とした。
-評価基準-
2点:ゲル化及び沈殿が認められない
1点:ゲル化又は沈殿が認められる
【0073】
【0074】
【0075】
なお、表3、4における略号は以下のとおりである。
(鋼板)
GL:アルミニウム亜鉛合金めっき鋼板(Al:55質量%)
GI:溶融亜鉛めっき鋼板
GF:アルミニウム亜鉛合金めっき鋼板(Al:5質量%)
EG:電気亜鉛めっき鋼板
SUS:ステンレス鋼板
AL:アルミニウム板
【0076】
表3、4に示すとおり、(A)多シリル官能シラン、(B)アミノ基含有シランカップリング剤、(C)無機化合物粒子、及び(D)水系カチオンウレタン樹脂及び水系カチオンアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を含有し、(A)成分及び(B)成分における珪素と、(D)成分における樹脂固形分との質量比(樹脂固形分/珪素)が1~5の範囲であるクロムフリー金属表面処理剤を用いた実施例1~33は、耐食性、密着性、耐薬品性、及び貯蔵安定性の全てに優れていた。これに対して、一部の要件を満たさないクロムフリー金属表面処理剤を用いた比較例1~14は、耐食性、密着性、耐薬品性、及び貯蔵安定性の少なくとも1つの評価が実施例1~33よりも劣っていた。