(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】超音波増感剤
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20220707BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20220707BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220707BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220707BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220707BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220707BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220707BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220707BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/5415
A61P17/00
A61P35/00
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/20
A61K47/22
A61K47/26
(21)【出願番号】P 2018216765
(22)【出願日】2018-11-19
(62)【分割の表示】P 2017138119の分割
【原出願日】2017-07-14
【審査請求日】2020-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】515135918
【氏名又は名称】再生ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】阪田 功
(72)【発明者】
【氏名】乾 利夫
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-146829(JP,A)
【文献】化学と教育,2013年,61巻, 12号,p. 594-595
【文献】Spectrochimica Acta A Mol Biomol Spectrosc.,2015年,Vol. 134,p. 361-366
【文献】Ultrasonics,2011年,Vol. 51, Issue 3,p. 390-395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00-41/17
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコメチレンブルー(Leuco-MB:還元型)を含む超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用の薬剤。
【請求項2】
皮膚疾患治療用の、請求項
1に記載の薬剤。
【請求項3】
癌疾患治療用の、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
注射剤、軟膏剤、ローション剤または舌下剤の形態にある請求項
3に記載の薬剤。
【請求項5】
ロイコメチレンブルー(Leuco-MB:還元型)と共に酸化防止剤を共存させた請求項
1~4のいずれかに記載の薬剤。
【請求項6】
酸化防止剤がアスコルビン酸またはグルコースである請求項5に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチレンブルー又は/及びそのロイコ型を有効成分とする、超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用として使用する癌疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の新しい治療法として、超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)が行われている。これはある種のポルフィリン誘導体を静脈内注射、または外用塗布などの方法により投与して、癌(腫瘍)組織に選択的に集積させた後、超音波を照射することによって癌組織のみを選択的に破壊することにより癌細胞を消滅させる治療法であり、ポルフィリン誘導体が有する癌組織への選択的集積性と、超音波増感作用という2つの特性を利用した治療法である。
【0003】
他方、光物理化学的診断・治療法(PDT:Photodynamic Therapy)は、光照射による治療法であり、ポルフィリン誘導体が有する癌組織への選択的集積性と、光増感作用という2つの特性を利用した治療法である。
【0004】
ところで最近、メチレンブルー(MB)が医療用としてメトヘモグロビン血症治療剤や光学顕微鏡での種々の細菌、白血球の染色に使用されており、他方、金魚等の魚類の殺菌剤等として使用されている。
【0005】
またごく最近、MBは歯周病治療やインプラント周囲炎等の歯科領域(非特許文献1)及び眼科領域(非特許文献2)や殺菌に(非特許文献3)にもPDT用の薬剤として利用されている。
【0006】
ところが、PDTにあっては外部エネルギーとして光を用いるために、生体内では患部面から数ミリ程度しか作用せず、照射光が深部まで到達しないことから、完治することが難しかった。また、PDTに増感剤としてMBを用いる場合は、高濃度のMBが必要であった。
【0007】
しかしながら、SDTで使用する超音波は深部の病変部まで到達し、病巣部を治療できていることから、医療用としてすでに臨床応用されているMBを用いることにより、超音波による治療効果が得られることが考えられる。
本発明者らは、かかる考え方に立脚して鋭意研究を重ねた結果、MBに超音波活性が見られることが判明した。また、外部エネルギーとして光から超音波に代えることにより、増感剤すなわちMBの使用量が低用量で済むことも分った。
【0008】
ところで、SDT増感剤としては、これまでに癌疾患用に5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-ALA)や、クロリンCe6-Sn錯体(T-Ce6)並びに、エチレングリコール担持クロリンSn錯体(ACT4211)が開発されている(特許文献1、非特許文献4及び5)。
【0009】
また近年、5-ALAを用いたPDTによる癌診断・治療が有効であることが分ってきている。
さらにまた、5-ALAを用いたSDTによる癌治療の試みもなされている。
しかしながら、5-ALAはプロトポルフィリンIXの生合成前駆体であり、プロトポルフィリンIXの化合物特性、即ち、新生血管集積性が低いこと、最長波長吸収端が630nmであること、並びに光毒性が存在し、超音波による活性が弱いことから良好なSDT治療剤とは言えない。
【0010】
他方、T-Ce6やACT4211は植物体由来のクロロフィル誘導体であり、我々の長年の研究からは、動物由来でなく植物由来であることから、これらの安全性について必ずしも良好とはいえないものであった。
【0011】
ごく最近我々は、クロリンMn金属錯体又はその薬理学的に許容される塩として、光無感作なTONS503-MnやTONS504-Mnと称するクロリンMn金属錯体を提案し、これらのクロリンMn金属錯体を有効成分とするSDT用の癌注射剤や外用剤、特に癌治療剤、皮膚疾患治療剤、並びに抗菌剤について特許出願を完了している(特許文献2)。
【0012】
しかしながら、本クロリンMn金属錯体は分子量が1,200程度と比較的大きく、皮膚または粘膜からの吸収性には、分子量が400未満であることが要求されていることから考えると、皮膚からの吸収性については今一つ問題があった。
これに対してメチレンブルー(MB)は、分子量が320程度と比較的小さな低分子化合物であることから、皮膚または粘膜からの吸収性は問題ないものの、MB自体が青色の化合物であることから、皮膚への適用としての用途には、問題があるように思われた。
さらに、MB自体には癌に対する集積性があるものの、それほど強いものではない。
【0013】
その点を改善するべくさらに検討した結果、MBを還元して得たロイコメチレンブルー(Leuco-MB:還元型)は、無色の化合物であると共に、癌への集積性に優れたものであり、極めて有効なSDT用の癌疾患治療剤になることを確認し、本発明を完成させたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】アメリカ特許第6,462,192号
【文献】特願2017-105445号明細書
【非特許文献】
【0015】
【文献】日本歯科先端技術研究所学術会誌 16巻4号197頁 (2010)
【文献】IVOS Papers August 23, 12-9828 (2012)
【文献】Photochem. Photobiol. Sci., 788 (2009)
【文献】Anticancer Res., 31(2), 501 (2011)
【文献】Integr. Cancer The., 7(2), 96 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって本発明は、超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)に使用し得るメチレンブルー(MB)またはその還元体であるロイコ型メチレンブルー(Leuco-MB)、さらには、それらを有効成分として含有するSDT用の軟膏剤や舌下剤を含む外用剤、特に癌治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するための本発明は、その一つの基本的態様として、メチレンブルー(MB:酸化型)からなる超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用薬剤であり、また、ロイコメチレンブルー(Leuco-MB:還元型)からなる超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用薬剤である。
【0018】
より詳細には、本発明は、メチレンブルー(MB:酸化型)またはロイコメチレンブルー(Leuco-MB:還元型)を有効成分として含有する超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用の癌疾患治療用剤である。
【0019】
更に詳細には、本発明は注射剤、軟膏剤、ローション剤または舌下剤の形態にある超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用の癌疾患治療剤である。
【0020】
また本発明は、ロイコメチレンブルー(Leuco-MB:還元型)と共に酸化防止剤を共存させた超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用薬剤であり、かかる酸化防止剤が、アスコルビン酸またはグルコースである超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用薬剤である。
【0021】
また本発明は別の形態として、上記した超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用薬剤によるSDT治療を終了後、残留したメチレンブルー(MB)の青色をアスコルビン酸により無色化することを特徴とする超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用薬剤でもある。
【発明の効果】
【0022】
本発明により提供されるMBまたはLeuco-MBは、カチオン性色素体であり、これらの色素体を含有する注射剤、液剤、軟膏剤、舌下剤或いはローション剤等の薬剤は、患部への集積性や浸透性が良好なものであり、超音波に対する感受性がある。
したがって、癌疾患治療におけるSDT療法において良好な治療効果を発揮すると共に、患者に負担を与えることがない利点を有している。
また、外部エネルギーとして超音波を使用できることから、光照射とは異なり患部の深部にまで外部エネルギーが到達し、目的とする治療自体を簡便に行える利点を有しており、新しい治療システムを提供できるものである。
【0023】
また、今日の癌治療用いられている抗がん剤、抗菌剤、抗生物質等は薬剤耐性が容易に生じ易いものであるが、外部エネルギーとして超音波を用いる本発明のSDT治療システムにおいては、そのような薬剤耐性の問題が発生しない点で、その利点は、極めて特異的なものである。
なお、本化合物群にあっても、本発明者らが先に提案しているTONS503-MnやTONS504-Mnと称するクロリンMn金属錯体(特許文献2)と同様に、NaCl、メントール、NaHCO3による添加増強効果が認められるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】試験例1における、MBのSDT活性試験の結果を示したグラフである。
【
図2】試験例2における、Leuco-MBのSDT活性試験の結果を示したグラフである。
【
図3】試験例3における、MBのPDT活性試験の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、その基本的な態様は、メチレンブルー(MB)、またはロイコメチレンブルー(Leuco-MB)からなる超音波化学療法(SDT:Sonodynamic Therapy)用薬剤である。
本発明者らの検討によれば、MBは青色の色素体であり、その還元体である無色のLeuco-MBにも超音波増感効果があることが判明した。
ロイコ型である無色のLeuco-MBは、簡単に空気酸化されて酸化型の青色のMBに戻るため、ロイコ型の還元型維持のための製剤化が必要となる。
かかる還元型のLeuco-MBについて、安定な製剤化が成功すれば、癌疾患の病変部に本発明のMB等の超音波増感剤を適用し、超音波照射により各患部の治癒を行うことが可能となる。
【0026】
より具体的には、本発明は軟膏剤、舌下剤或いはローション剤の形態にある上記したSDT用の癌治療剤として提供することができた。
【0027】
ところで、メチレンブルー(MB)は青色が強く、患者には適用しにくい場合がある。そこでMBを還元型、すなわちロイコ型(Leuco-MB)に変換し、無色化し、本発明が目的とするSDT用治療剤として、より効果的に適用することが可能となった。
MBをロイコ型MB(Leuco-MB)に変換するには、各種還元剤やグルコース、アスコルビン酸等と処理することが有効であることが判明した。
なお、MBをロイコ型MB(Leuco-MB)に変換化しても、簡単に空気酸化されて酸化型のMBに戻る。SDT効果は酸化型のMBの方が強いので、還元型MB(Leuco-MB)は酸化された際に強い効果を発揮するものと思われる。
【0028】
そこで、適用に当たっては、還元型MB(Leuco-MB)を維持する工夫が必要であり、鋭意研究を重ねた結果、MBにアスコルビン酸を加えると簡単に無色のロイコ型(Leuco-MB)になることが判明し、Leuco-MBを維持するために、ヒドロキシエチルセルロース等のゲル化剤等を加えてロイコ型の安定を図り、SDTに適用することが可能となった。
【0029】
ところで、本発明で使用するMBは、すでに医療用としてメトヘモグロビン血症治療剤や歯科の歯周病等に応用されており、また魚類疾患の殺菌剤としても利用されている。
したがって、その安全性は確保されているものであり、舌下剤、あるいは各種軟膏基剤中に均一に溶解・分散して製剤化することが可能であり、得られた軟膏製剤自体の安定性も極めて良好なものであり、またゲル化剤や水溶性ローション剤として製剤中に均一に溶解・分散し、製剤自体の安定性も極めて良好なものであった。
【0030】
このMBは、酸化型(MB)でも還元型(Leuco-MB)でもあっても良く、最終的には超音波感受性物質としての目的化合物が得られればよく、いずれの場合でも、SDT効果が発揮できれものであればよい。
【0031】
なお、酸化型のMBを還元型とするためには、アスコルビン酸やグルコースによる処理だけでなく、水素添加、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)や、水素化アルミニウムリチウム(LAlH)による化学的な還元でロイコ型(Leuco-MB)にしても良い。
【0032】
また、ゲル化剤として一般的なゲル化剤を用いても良く、なかでもヒドロオキシエチルセルロースやヒドロオキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体を用いても良い。
【0033】
軟膏剤やローション剤としての製剤化にあたっては、一般的な軟膏基剤やローション基剤を用いても良く、中でもPEG誘導体を用いるのがよいが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例に代わる製造例、製剤例、試験例等を記載することにより、本発明を更に詳細に説明する。
【0035】
製造例1:Leuco-MBの調製
<操作手順>
1.mQ水でMBを1mMに調整し、アスコルビン酸は、500mMに調整した。
2.上記で調整したMB水溶液10mLと、アスコルビン酸の水溶液10mLを反応させた。
3.水溶液が青色から無色に変化したことにより、MBが還元されて、Leuco-MBが得られたことが確認された。
【0036】
調製例2:MBのローション剤の調製
<操作手順>
MBの50mgをポリエチレングリコール400(PEG400)の50gに加え、70℃にて加温・撹拌し、均一に溶解した。
その結果、適度な粘度を有するローション剤が得られた。
【0037】
調製例3:MBの軟膏剤の調製
<操作手順>
1.MBの50mgを40gのPEG400に加えて、70℃にて加温・撹拌して溶解した。
2.得られた溶解液に、10gのPEG4000を加えて、70℃にて加温・撹拌して可溶化した。
その結果、適度な粘度を有する軟膏剤が得られた。
【0038】
調製例4:MBのゲル化(ゲル剤の調製)
<操作手順>
1.MB50mgをmQ水10gに加えて撹拌下に溶解した。
2.溶解液に、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)0.5gを加温・撹拌下に徐々に加えた。
その結果、MB含有のゲル状物(ゲル剤)が調製された。
【0039】
調製例5:Leuco-MBのゲル化(ゲル剤)の調製
<操作手順>
1.調製例1で得られたLeuco-MBの50mgを、調製例4と同様に操作した。
その結果、Leuco-MB含有のゲル状物(ゲル剤)が調製された。
【0040】
本発明においては、これらのMB体(以下、MBおよびLeuco-MBを含めて単にMB体と言う場合がある)は、SDT用の癌疾患治療剤等の舌下剤や軟膏剤等の外用剤として処方される。
癌疾患治療剤としての舌下剤は、適当なゲル化剤等を用いて調製することができ、また、癌疾患治療剤としての外用剤は、製剤学的に許容される各種成分を用いて、非水性軟膏剤、水性軟膏剤、ローション剤等の剤型で製剤化することができる。
【0041】
本発明においては、これらの製剤に含有させるMB等の配合量は、配合された有効成分であるMB誘導体が患部部位に到達し残留され、また経皮吸収されて疾患部位に蓄積され、超音波の照射により標的細胞を死滅させるのに十分な量が配合されればよい。
本発明者らの検討によれば、その配合量は、製剤重量をベースとして0.05~20重量%であれば、十分な効果が得られることが判明した。
【0042】
配合量が0.05重量%未満であると目的とする治療効果を上げることができず、また20.0重量%以上配合させてもそれ以上の効果は得られなかった。
なお、配合量は含有させる有効成分の種類により一概に特定することはできず、また、含有させる有効成分の安定性は有効成分の濃度、用いる基剤に大きく影響されるため、上記の含有量の範囲内で、用途に合わせ種々変更させることが可能である。
【0043】
以上のようにして得られた本発明の製剤をSDTに使用する場合には、各種癌には舌下投与、または患部位に塗布或いは局部注射することにより、一方、日光角化症、炎症性角化症、表皮癌等には皮膚疾患部位に直接塗布することにより効果的にMB等が集積され、その後、その部位を超音波等の照射により、当該疾患を効果的に治療することができる。
【0044】
この軟膏剤、ローション剤等の外用剤の適用において、本発明が提供するMB等分子量が350以下であり、テープストリッピングを必要としないで皮膚患部への浸透性が良好なものであり、したがって、皮膚疾患治療におけるSDTにおいて、患者に負担を与えることがなく、治療自体を簡便に行える利点を有している。
なお、軟膏剤、ローション剤等の外用剤の塗布にあたっては、ODT効果(密封包帯効果:Occlusive Dressing Technique)を得るために、塗布部位を密閉状態に保つこともより効果的である。
【0045】
一方、酸化型のMB(青色)を用いてSDT治療を行った後に、アスコルビン酸等の還元剤を用いて無色化することで、有色を好まない患者の観点からも有用であると考えられる。
【0046】
本発明が提供するMB体を含有する製剤を塗布した後の疾患部位における超音波照射に際しては、種々の超音波を使用することができる。なかでも、医療用の超音波照射器等を用いることがより効果的である。
【0047】
かくして、本発明の舌下剤あるいは軟膏製剤、ゲル化剤、ローション製剤等を疾患部位に塗布しあるいは局部注射し、有効成分を患部に集積あるいは経皮吸収させた後、当該疾患部位を超音波照射することにより、当該癌疾患を効果的に治療することができる。なお、軟膏剤、ゲル化剤、ローション剤等の外用剤の塗布にあたっては、ODT効果(密封包帯効果:Occlusive Dressing Technique)を得るために、塗布部位を密閉状態に保つこともより効果的である。
【0048】
以下に本発明を、試験例等により詳細に説明するが、本発明はこれらのものに限定されるものではない。
試験例1:超音波活性試験(MB)
本発明のMBは、光感作は認められるが、超音波感作が望まれる。
そのため、超音波処理に対する感受性を検討した。
<実験操作>
Φ6シャーレに1×10
5cellsずつB16-F10細胞を播種し、5%CO
2インキュベーターで培養した。
MBを100μMになるようにDMSOで溶解し、終濃度1μMになるように培地で希釈した。
培地交換で化合物入り培地を添加し、5時間後に以下の条件で超音波照射を行った。
<照射条件>
・Probe L(有効照射面積:5cm
2)
・照射時間:4分間
・Duty cycle:20%
・周波数:1MHz
・照射量:0.4 W/cm
2
照射24時間後に、1×PBSで2回洗浄し、1×Trypsinを500μL加え、3分間インキュベート後、物理的に細胞をはがし、1mL培地を加えた。
細胞懸濁液30μLと0.4%トリパンブルー30μLを合わせ、血球計算盤を用いて生細胞数をカウントし、生存率を求めた。
<結果>
その結果、本MBは、
図1に示したように、B16-F10細胞を用いた超音波照射実験で細胞破壊効果があることが判明した。
【0049】
試験例2:超音波活性試験(Leuco-MB)
本発明のLeuco-MBは、光感作は認められないが、超音波感作が望まれる。
そのため、超音波処理に対する感受性を検討した。
<実験操作>
Φ6シャーレに、1×10
5cellsずつB16-F10細胞を播種した。
細胞定着後、化合物を、それぞれMB(最終濃度1μM)、アスコルビン酸(最終濃度5μMまたは10μM)になるように培地で調製し、培地交換で添加した。
添加5時間後、1×PBSで2回洗浄し、超音波照射を行った。
24時間後に、トリパンブルー染色法にて染色し、試験例1と同様に、細胞の生存率を算出した。
<結果>
その結果本Leuco-MBは、
図2に示したように、B16-F10細胞を用いた超音波照射実験で細胞破壊効果があることが判明した。
【0050】
試験例3:光増感(PDT)活性試験
本発明のMBは、光増感活性が認められている。そのため、光処理による感受性を検討した。
<実験操作>
(1)B16-F10細胞を96ウェルプレートに播種した。
(2)細胞定着後、培地にて1μMに調整したMBを培地交換で添加した。
(3)添加5時間後に、1×PBSで2回洗浄し、以下の条件下で光照射を行った。
・波長:660nm
・照射量:46.1 mW/cm
2
・照射時間:6分間
(4)48時間後にWST-1を添加し、呈色3.5時間で吸光度測定(吸収波長:450nm)を行った。
<結果>
その結果、本MBの光増感作用は、
図3に示したように、B16-F10細胞を用いた光照射実験で、低濃度では細胞破壊効果が無いことが判明した。
その100倍の濃度であれば光増感効果があることが分かっている。
一方、超音波照射では1/100の低濃度で効果があり、超音波照射(すなわちSDT)は、光照射(すなわちPDT)に比べて極めて有効であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上記載のように、本発明は超音波化学療法(SDT)として使用するMB体(MBおよびLeuco-MB)を提供するものであり、本発明が提供するMBは医療用としてすでに臨床応用されており、患者に対して安全に応用することができ、癌適用注射剤、および舌下剤や皮膚適用軟膏製剤、ローション剤、ゲル化剤とすることにより、患部到達性や皮膚透過性(経皮吸収性)が極めて良好なものである。
【0052】
したがって、癌疾患部位に選択的に集積され、他方、日光角化症、炎症性角化症、表皮癌等の皮膚疾患、例えば乳頭腫等の疾患部位に塗布することにより、疾患部位に効果的にMB体が集積され、超音波照射により効果的に癌治療や皮膚疾患治療を行うことができる。
そのうえ、外部エネルギーとして光照射を用いるよりも、より低濃度で超音波照射を利用できる点で特に優れたものである。
【0053】
一方、SDT治療後、患部にMB特有の青色が残留しても、アスコルビン酸等の還元剤を用いれば、無色化できる点も優れており、その利点は、極めて特異的なものであり、医療上の価値は多大なものである。