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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】正極活物質の選択的取出方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20220707BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220707BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220707BHJP
   H01M 50/183 20210101ALI20220707BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M10/052
H01M10/058
H01M50/183
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019166304
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021044182
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 花歩
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133237(JP,A)
【文献】特開2015-183292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
H01M 10/05 - 10/0587
H01M 10/36 - 10/39
H01M 50/00 - 50/198
H01M 50/40 - 50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池から正極活物質を選択的に取り出す、正極活物質の選択的取出方法であって、
前記リチウムイオン電池は、正極樹脂集電体及び前記正極樹脂集電体上に形成された正極活物質を含む正極組成物からなる正極活物質層を有する正極と、負極樹脂集電体及び前記負極樹脂集電体上に形成された負極活物質を含む負極組成物からなる負極活物質層を有する負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されるセパレータからなる蓄電素子を備え、
前記リチウムイオン電池から前記蓄電素子を取り出して、前記蓄電素子を、SP値が10以下かつ水よりも比重の小さい非極性溶媒と接触させて、前記接触時、又は前記接触後に水を添加して、前記水、前記非極性溶媒及び前記正極活物質を含んだ懸濁液を得る懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を静置した後、前記非極性溶媒を含む油層と、前記水及び前記正極活物質を含む水層とを分離する分離工程とを有することを特徴とする、正極活物質の選択的取出方法。
【請求項2】
前記正極樹脂集電体は、その上に前記正極活物質層が形成されていない外周縁部分において、正極シール材を介して前記セパレータと接着されており、
前記負極樹脂集電体は、その上に前記負極活物質層が形成されていない外周縁部分において、負極シール材を介して前記セパレータと接着されている、請求項1に記載の正極活物質の選択的取出方法。
【請求項3】
前記正極活物質層は、結着剤を含まない非結着体である請求項1又は2に記載の正極活物質の選択的取出方法。
【請求項4】
前記正極活物質は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆材により被覆された被覆正極活物質である請求項1~3のいずれかに記載の正極活物質の選択的取出方法。
【請求項5】
前記正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂が、ポリオレフィン樹脂である請求項1~4のいずれかに記載の正極活物質の選択的取出方法。
【請求項6】
前記懸濁液調製工程において、前記懸濁液を50~100℃に加熱する請求項1~5のいずれかに記載の正極活物質の選択的取出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質の選択的取出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(二次)電池は、高容量で小型軽量な二次電池として、近年様々な用途に多用されている。一般的なリチウムイオン電池は、正極活物質及び非水電解液を含む正極活物質層と、同様に負極活物質及び非水電解液を含む負極活物質層とがセパレータを挾んだ状態で容器に収納されて構成されている。
【0003】
正極活物質の材料には、ニッケルの酸化物やコバルトの酸化物が使用されることが多い。ニッケルやコバルトといった金属は価格が高価であり、また、そのまま廃棄した場合には環境負荷を与えるためリサイクルして使用することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、廃リチウムイオン電池又は廃電極材から正極活物質を回収する方法に関する技術が記載されている。
特許文献1では、廃リチウムイオン電池又は廃電極材を破砕して得られた破砕物からセパレータを分離除去した後、大気中400~550℃で加熱することによりバインダに含まれている有機物を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-195073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、廃リチウムイオン電池から新たな正極活物質を得るまでに、破砕、加熱、分離、精製といった多数の工程を経る必要があり、リサイクル費用が高いという問題があった。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、簡便な操作で、リチウムイオン電池から正極活物質を選択的に取り出す方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明はリチウムイオン電池から正極活物質を選択的に取り出す、正極活物質の選択的取出方法であって、上記リチウムイオン電池は、正極樹脂集電体及び上記正極樹脂集電体上に形成された正極活物質を含む正極組成物からなる正極活物質層を有する正極と、負極樹脂集電体及び上記負極樹脂集電体上に形成された負極活物質を含む負極組成物からなる負極活物質層を有する負極と、上記正極活物質層と上記負極活物質層との間に配置されるセパレータからなる蓄電素子を備え、上記リチウムイオン電池から上記蓄電素子を取り出して、上記蓄電素子を、SP値が10以下かつ水よりも比重の小さい非極性溶媒と接触させて、上記接触時、又は上記接触後に水を添加して、上記水、上記非極性溶媒及び上記正極活物質を含んだ懸濁液を得る懸濁液調製工程と、上記懸濁液を静置した後、上記非極性溶媒を含む油層と、上記水及び上記正極活物質を含む水層とを分離する分離工程とを有することを特徴とする、正極活物質の選択的取出方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、簡便な操作で、リチウムイオン電池から正極活物質を選択的に取り出すことができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の正極活物質の選択的取出方法に用いられるリチウムイオン電池の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の正極活物質の選択的取出方法を構成する懸濁液調製工程の一例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の正極活物質の選択的取出方法を構成する分離工程の一例を示す模式図である。
図4図4は、実施例1に係る分離工程後の懸濁液の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
また、本発明の正極活物質の選択的取出方法に用いられるリチウムイオン電池は、一旦製造されたリチウムイオン電池のすべてを含み、実際の使用の有無は問わない。従って、本発明の正極活物質の選択的取出方法では、製造後の検査で不良と判定されたリチウムイオン電池や、一般に流通するリチウムイオン電池の未使用品を使用してもよい。
【0012】
[正極活物質の選択的取出方法]
本発明の正極活物質の選択的取出方法は、リチウムイオン電池から正極活物質を選択的に取り出す、正極活物質の選択的取出方法であって、上記リチウムイオン電池は、正極樹脂集電体及び上記正極樹脂集電体上に形成された正極活物質を含む正極組成物からなる正極活物質層を有する正極と、負極樹脂集電体及び上記負極樹脂集電体上に形成された負極活物質を含む負極組成物からなる負極活物質層を有する負極と、上記正極活物質層と上記負極活物質層との間に配置されるセパレータからなる蓄電素子を備え、上記リチウムイオン電池から上記蓄電素子を取り出して、上記蓄電素子を、SP値が10以下かつ水よりも比重の小さい非極性溶媒と接触させて、上記接触時、又は上記接触後に水を添加して、上記水、上記非極性溶媒及び上記正極活物質を含んだ懸濁液を得る懸濁液調製工程と、上記懸濁液を静置した後、上記非極性溶媒を含む油層と、上記水及び上記正極活物質を含む水層とを分離する分離工程とを有することを特徴とする。
【0013】
なお、本明細書において、リチウムイオン電池から正極活物質を選択的に取り出すとは、リチウムイオン電池を構成する正極活物質を、リチウムイオン電池を構成する正極活物質以外の成分(例えば、導電助剤やバインダ等の正極活物質層を構成する他の成分や負極活物質)を含まない状態でリチウムイオン電池から分離することを意味する。取り出される正極活物質は水を含んでいてもよく、失活していてもよい。
【0014】
[リチウムイオン電池]
図1は、本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法に用いられるリチウムイオン電池の一例を模式的に示す断面図である。
リチウムイオン電池1は、正極樹脂集電体11及び正極樹脂集電体11上に形成された正極活物質を含む正極活物質層13とを含む正極10と、負極樹脂集電体21及び負極樹脂集電体21上に形成された負極活物質を含む負極活物質層23とを含む負極20とが、セパレータ30を介して対向するよう配置された蓄電素子40を有しており、蓄電素子40の外側が電池外装体50で覆われている。
【0015】
電池外装体50の内面には絶縁層(図示しない)が形成されており、正極樹脂集電体11と負極樹脂集電体21は互いに絶縁されている。また、正極樹脂集電体11及び負極樹脂集電体21には外部電極(図示しない)が接続されており、外部電極の一部は電池外装体50の外側に引き出されている。
リチウムイオン電池の詳細な構成については、後述する。
【0016】
[懸濁液調製工程]
懸濁液調製工程では、リチウムイオン電池から取出した蓄電素子を、SP値が10以下かつ水よりも比重の小さい非極性溶媒と接触させて、接触時、又は、接触後に水を添加して、水、非極性溶媒及び正極活物質を含んだ懸濁液を得る。
水と非極性溶媒との混合物を混合溶媒ともいう。
【0017】
蓄電素子を非極性溶媒と接触させることによって、正極樹脂集電体が非極性溶媒に溶解するか、又は、正極樹脂集電体が非極性溶媒によって膨潤して軟化することによって、正極活物質層が非極性溶媒と直接接触することとなり、蓄電素子の外部に取り出される。
【0018】
上記非極性溶媒と蓄電素子との接触時に水を添加する方法としては、上記非極性溶媒と水との混合溶媒に蓄電素子を接触させる方法や、蓄電素子に対して、上記非極性溶媒及び水を同時に添加する方法が挙げられる。
【0019】
また、正極樹脂集電体とセパレータとが、接着性樹脂を含むシール材により接着されている場合、正極樹脂集電体を軟化させるかわりに、非極性溶媒又は混合溶媒によって該シール材(正極シール材ともいう)を軟化させる方法を用いることもできる。
【0020】
懸濁液調製工程の例を、図2を参照しながら説明する。
図2は、非極性溶媒と蓄電素子との接触時に水を添加する懸濁液調製工程の例である。
懸濁液調製工程では、図2に示すように、リチウムイオン電池から取り出された蓄電素子40を、水とSP値が10以下かつ水よりも比重の小さい非極性溶媒の混合溶媒80中に浸漬させる。混合溶媒80中に、蓄電素子40を浸漬させることによって、正極樹脂集電体11及び負極樹脂集電体21が溶解する。正極樹脂集電体11及び負極樹脂集電体21が溶解すると、正極活物質層13及び負極活物質層23が混合溶媒80と接触し、正極活物質層13を構成する正極活物質と導電助剤及び負極活物質層23を構成する負極活物質が混合溶媒80中に分散して、懸濁液90が得られる。
【0021】
なお、図2に示す懸濁液調製工程では、正極樹脂集電体11と負極樹脂集電体21に同じ樹脂集電体を使用しているため、負極樹脂集電体21も混合溶媒80中に溶解しているが、負極樹脂集電体21を構成する樹脂として、上記非極性溶媒に溶解しない樹脂を選択してもよい。非極性溶媒に溶解しない樹脂は、混合溶媒にも溶解しない。
負極樹脂集電体21を構成する樹脂が、上記非極性溶媒に溶解しない樹脂である場合、上記懸濁液調製工程において、負極樹脂集電体が溶解せず、負極樹脂集電体を構成する導電性フィラー及び負極活物質が懸濁液中に混入しない。
また、図2に示す懸濁液調製工程では、セパレータが混合溶媒中に溶解していないが、セパレータが溶解するような混合溶媒を用いてもよい。
また、正極樹脂集電体とセパレータとが正極シール材により接着されている場合には、混合溶媒によって正極樹脂集電体を溶解させるかわりに、正極シール材を溶解させてもよい。
【0022】
SP値が10以下かつ水よりも比重の小さい非極性溶媒としては、ベンゼン(SP値:9.2、比重:0.879)、トルエン(SP値:8.8、比重0.867)、エチルベンゼン(SP値:8.8、比重0.866)、キシレン(SP値:8.8、比重:0.880)、シクロヘキサン(SP値:8.2、比重:0.779)、ヘキサン(SP値:7.3、比重:0.659)、オクタン(SP値:7.6、比重:0.703)、ペンタン(SP値:7.0、比重:0.630)等が挙げられる。
これらの中では、キシレンが好ましい。
【0023】
混合溶媒における水の割合は、15~50体積%であることが好ましい。
【0024】
懸濁液調製工程においては、懸濁液を50~100℃に加熱することが好ましい。
【0025】
蓄電素子を非極性溶媒又は混合溶媒と接触させる際、加振や超音波照射等を行ってもよい。
【0026】
[分離工程]
分離工程では、懸濁液調製工程で得られた懸濁液を静置した後、非極性溶媒を含む油層と、水及び正極活物質を含む水層とを分離する。
懸濁液を構成する液体成分は、水及びSP値が10以下の非極性溶媒であるため、互いに混合せず、2層に分離する。従って、分離工程によって、油層と水層とを分離することが容易である。
【0027】
分離工程の一例を、図3を参照しながら説明する。
図3は、分離工程の一例を模式的に示す図である。
図3に示すように、懸濁液90を静置することによって、水61を含む水層60と、SP値が10以下の非極性溶媒を含む油層70とに分離する。非極性溶媒の比重は水よりも小さいため、油層70が上層、水層60が下層となり、水層60の底部には、正極活物質15が沈殿する。
油層70は、SP値が10以下かつ比重が水よりも小さい非極性溶媒と、正極樹脂集電体を構成する樹脂、正極樹脂集電体を構成する導電性フィラー、負極活物質、負極樹脂集電体を構成する樹脂、及び、負極樹脂集電体を構成する導電性フィラーを含む。正極活物質層13に導電性炭素等の導電助剤が含まれていた場合、該導電助剤も油層70に含まれる。
従って、懸濁液を静置した後、油層と水層を分離することによって、リチウムイオン電池を構成する正極活物質を選択的に取り出すことができる。
【0028】
以上より、本発明の正極活物質の選択的取出方法では、簡便な操作で、リチウムイオン電池から正極活物質を選択的に取り出すことができる。
取り出された正極活物質の用途は特に限定されないが、例えば、正極活物質の材料として使用することや、酸抽出により金属イオンを取り出す等の用途が挙げられる。
酸抽出により金属イオンを取り出す場合、分離工程の後に、水層のpHを2~6に調整することで、水層中の正極活物質から金属イオンを抽出する抽出工程を更に含むことが好ましい。
【0029】
非極性溶媒は、比重が水よりも小さい。非極性溶媒の比重が水よりも小さいと、上側の層(上層)が油層、下側の層(下層)が水層となるため、水層に沈殿する正極活物質の分離が容易となる。
【0030】
上記懸濁液には、負極活物質層を構成する材料、例えば、負極活物質や導電助剤が含まれていてもよい。
負極活物質は通常炭素系材料で構成されているため、導電助剤や導電性フィラーと同様に親油性であり、油層に存在することとなる。
従って、上記懸濁液に負極活物質や導電助剤が存在していたとしても、正極活物質を選択的に取り出すことができる。
【0031】
また、本明細書において、SP値(cal/cm0.5は、Robert F Fedorsらの著によるPolymer engineering and science第14巻、151~154ページに記載されている方法で計算した25℃における値である。
【0032】
[リチウムイオン電池]
以下、リチウムイオン電池となるリチウムイオン電池の構成について説明する。
リチウムイオン電池は、正極樹脂集電体と、正極樹脂集電体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層とを含む正極と、負極樹脂集電体と、負極樹脂集電体上に形成された負極活物質を含む負極活物質層とを含む負極とを備える。
【0033】
正極は、正極樹脂集電体と、正極活物質を含む正極活物質層とを含む。
正極活物質層には、正極活物質のほかに、導電助剤や非水電解液等が含まれていてもよい。
【0034】
正極樹脂集電体は、マトリックス樹脂と導電性フィラーとを含む。
【0035】
導電性フィラーは、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]が挙げられる。
これらの導電性フィラーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0036】
導電性フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0037】
導電性フィラーの形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0038】
導電性フィラーは、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電性フィラーが導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0039】
正極樹脂集電体中の導電性フィラーの重量割合は、5~90重量%であることが好ましく、20~80重量%であることがより好ましい。
特に、導電性フィラーがカーボンの場合、導電性フィラーの重量割合は、20~30重量%であることが好ましい。
【0040】
正極樹脂集電体を構成するマトリックス樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられ、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
これらの樹脂は、SP値が10以下の非極性溶媒に対する溶解性が高い。
【0041】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリシクロオレフィン(PCO)、ポリメチルペンテン(PMP)等が挙げられる。
これらの中では、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば以下のものが市場から入手できる。
PE:「ノバテックLL UE320」「ノバテックLL UJ960」いずれも日本ポリエチレン(株)製
PP:「サンアロマーPM854X」「サンアロマーPC684S」「サンアロマーPL500A」「サンアロマーPC630S」「サンアロマーPC630A」「サンアロマーPB522M」いずれもサンアロマー(株)製、「プライムポリマーJ-2000GP」(株)プライムポリマー製、「ウィンテックWFX4T」日本ポリプロ(株)製、「住友ノーブレンFL6737」住友化学(株)製
PMP:「TPX」三井化学(株)製
【0042】
ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートは特に限定されないが、温度230℃、荷重2.16kgの条件下でJIS K7210:1990に記載の方法で測定されるメルトマスフローレートが12~200g/10minであるポリオレフィンが好ましい。
【0043】
正極樹脂集電体は、導電性フィラー及び樹脂のほかに、その他の成分(分散剤、架橋促進剤、架橋剤、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤等)を含んでいてもよい。
【0044】
正極樹脂集電体の厚さは特に限定されないが、5~400μmであることが好ましい。
【0045】
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)及び遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0046】
正極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0047】
本明細書において、正極活物質の体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0048】
導電助剤は、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0049】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0050】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0051】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0052】
非水電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の非水電解液を使用することができる。
【0053】
電解質としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPF及びLiN(FSOである。
【0054】
非水溶媒としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0055】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ-バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0056】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0057】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0058】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、更に好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、特に好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。最も好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(DEC)の混合液である。
【0060】
正極活物質層には、さらに、溶液乾燥型の公知のバインダ(カルボキシメチルセルロース、SBRラテックス及びポリフッ化ビニリデン等)や粘着性樹脂等が含まれていてもよい。
ただし、公知のバインダ(結着剤ともいう)を含まない非結着体であることが好ましい。
また正極活物質層は、粘着性樹脂を含むことが望ましい。電極組成物が上記の溶液乾燥型の公知のバインダを含む場合には、電極活物質層形成工程の後に乾燥工程を行うことで電極組成物を一体化する必要があるが、粘着性樹脂を含む場合には、乾燥工程を行うことなく、常温において僅かな圧力で電極組成物を一体化することができる必要がないためである。乾燥工程を行わない場合、加熱による電極組成物の収縮や亀裂の発生がおこらないため好ましい。
また、電極活物質、非水電解液及び粘着性樹脂を含む電極組成物は、電極活物質層形成工程を経た後であっても、電極活物質層が非結着体のままで維持される。電極活物質層が非結着体であれば、電極活物質層を厚くすることができ、高容量の電池を得ることができ好ましい。
【0061】
粘着性樹脂としては、例えば、特開2017-054703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805公報等に粘着剤として記載されたもの等を好適に用いることができる。
ここで、非結着体とは、電極組成物を構成する電極活物質同士が、互いに結合していないことを意味し、結合とは不可逆的に電極活物質同士が固定されていることを意味する。
なお、溶液乾燥型のバインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して活物質同士を強固に接着固定するものを意味する。一方、粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性(水、溶剤、熱などを使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。
溶液乾燥型のバインダと粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0062】
正極活物質は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆材により被覆された被覆正極活物質であってもよい。
正極活物質の周囲が被覆材で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0063】
被覆材を構成する高分子化合物としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0064】
上述した被覆正極活物質を製造する方法について説明する。
被覆正極活物質は、例えば、高分子化合物及び正極活物質並びに必要により用いる導電剤を混合することによって製造してもよく、被覆材に導電剤を用いる場合には高分子化合物と導電剤とを混合して被覆材を準備したのち、該被覆材と電極活物質とを混合することにより製造してもよく、高分子化合物、導電剤及び電極活物質を混合することによって製造してもよい。
なお、正極活物質と高分子化合物と導電剤とを混合する場合、混合順序には特に制限はないが、正極活物質と高分子化合物とを混合した後、更に導電剤を加えて更に混合することが好ましい。
上記方法により、高分子化合物と必要により用いる導電剤を含む被覆材によって正極活物質の表面の少なくとも一部が被覆される。
【0065】
被覆材の任意成分である導電剤としては、正極活物質層を構成する導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0066】
負極は、負極樹脂集電体と、負極活物質を含む負極活物質層とを含む。
負極活物質層には、負極活物質のほかに、導電助剤、非水電解液、バインダ、粘着性樹脂等が含まれていてもよい
導電助剤、非水電解液、バインダ及び粘着性樹脂は、正極と同様のものを好適に用いることができる。
また、負極活物質は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆材により被覆された被覆負極活物質であってもよい。被覆負極活物質を構成する被覆材は、被覆正極活物質と同様のものが好ましい。
【0067】
負極樹脂集電体は、導電性フィラーと樹脂とを含む。
導電性フィラー及び樹脂は、正極樹脂集電体を構成する導電性フィラー及び樹脂と同様のものを好適に用いることができる。
負極樹脂集電体中の導電性フィラーの重量割合は、5~90重量%であることが好ましく、20~80重量%であることがより好ましい。
特に、導電性フィラーがカーボンの場合、導電性フィラーの重量割合は、20~30重量%であることが好ましい。
【0068】
負極活物質としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)等が挙げられる。
炭素系材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及びアモルファス炭素が好ましい。
上記負極活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0069】
負極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、2~10μmであることがさらに好ましい。
【0070】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0071】
セパレータの枚数は特に限定されないが、2枚以上であることが好ましい。
セパレータの枚数が2枚以上であると、含浸工程の前に、正極樹脂集電体、正極活物質層及び正極活物質と接触しているセパレータ(正極側セパレータ)からなる正極シートと、負極樹脂集電体、負極活物質層及び負極活物質層と接触しているセパレータ(負極側セパレータ)からなる負極シートを分離することができる。懸濁液調製工程の前に正極シートと負極シートを分離すると、正極シートだけを混合溶媒中に浸漬させることができるため、負極活物質が混合溶媒中に混入することを確実に防止できる。
【0072】
正極樹脂集電体とセパレータとの間、及び、負極樹脂集電体とセパレータとの間は、接着樹脂を含むシール材により接着されていてもよい。
正極樹脂集電体とセパレータとの間に設けられるシール材を、正極シール材ともいう。
負極樹脂集電体とセパレータとの間に設けられるシール材を、負極シール材ともいう。
【0073】
正極樹脂集電体は、その上に正極活物質層が形成されていない外周縁部分において、正極シール材を介してセパレータと接着されていることが好ましい。
負極樹脂集電体は、その上に負極活物質層が形成されていない外周縁部分において、負極シール材を介してセパレータと接着されていることが好ましい。
【0074】
正極シール材及び負極シール材に含まれる接着性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル及びポリオレフィン等が挙げられる。
正極シール材に含まれる接着性樹脂と負極シール材に含まれる接着性樹脂は、同じであってもよく異なっていてもよい。
また、正極シール材に含まれる接着性樹脂は、正極樹脂集電体を構成する樹脂と同じものであってもよい。
【実施例
【0075】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0076】
[製造例1]
<樹脂集電体の作製>
2軸押出機にて、樹脂[住友化学(株)製 住友ノーブレン FL6737(ランダムポリプロピレン)]50部、導電性フィラー[デンカ(株)製 デンカブラック Li-400]45部及び分散剤5部を190℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して樹脂集電体用材料を得た。
得られた樹脂集電体用材料をTダイから押し出し、50℃に温調した冷却ロールで圧延することで、膜厚100μmの樹脂集電体を得た。
【0077】
[製造例2]
[被覆正極活物質の作製]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF70.0部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸ブチル20.0部、アクリル酸55.0部、メタクリル酸メチル22.0部、アリルスルホン酸ナトリウム3部及びDMF20部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.4部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.8部をDMF10.0部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃に昇温し反応を5時間継続し樹脂濃度50重量%の共重合体溶液を得た。得られた共重合体溶液はテフロン(登録商標)製のバットに移して120℃、0.01MPaで3時間の減圧乾燥を行ってDMFを留去し、被覆用高分子化合物を得た。
続いて、正極活物質粉末(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、上記被覆用高分子化合物をイソプロパノールに1.0重量%の濃度で溶解して得られた被覆用高分子化合物溶液11.2部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤としてアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.2部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質を得た。
【0078】
[製造例3]
<被覆負極活物質の作製>
炭素系材料である難黒鉛化性炭素粉末(体積平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、上記被覆用高分子化合物をイソプロパノールに19.8重量%の濃度で溶解して得られた被覆用高分子化合物溶液9.2部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]11.3部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質を得た。
【0079】
[製造例4]
<正極の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを2mol/Lの割合で溶解させて作製した非水電解液42部と炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243]4.2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで7分間混合し、続いて上記非水電解液30部と上記被覆正極活物質206部を追加した後、更にあわとり練太郎により2000rpmで1.5分間混合し、上記非水電解液20部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、上記非水電解液2.3部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1.5分間混合して、正極活物質スラリーを作製した。
得られた正極活物質スラリーを樹脂集電体Aの表面に塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、実施例1に係るリチウムイオン電池用正極(42mm×42mm)を作製した。なお、実施例1に係るリチウムイオン電池用正極では、平面視寸法が42mm×42mmである樹脂集電体Aの略中央に、平面視寸法が35mm×35mmの正極活物質層が配置されている。
【0080】
[製造例5]
<負極の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを2mol/Lの割合で溶解させて作製した非水電解液20部と炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243]2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで7分間混合し、続いて上記非水電解液50部と上記被覆負極活物質98部を追加した後、更にあわとり練太郎で2000rpmで1.5分間混合し、上記非水電解液25部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、更に上記非水電解液50部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1.5分間混合して、負極活物質スラリーを作製した。
得られた負極活物質スラリーを樹脂集電体Bの表面に塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、実施例1に係るリチウムイオン電池用負極42mm×42mm)を作製した。
なお、実施例1に係るリチウムイオン電池用負極では、平面視寸法が42mm×42mmである樹脂集電体Bの略中央に、平面視寸法が35mm×35mmの負極活物質層が配置されている。
【0081】
[製造例6]
<リチウムイオン電池の作製>
リチウムイオン電池用正極と、リチウムイオン電池用負極とを、セパレータとなる平板状のセルガード3501(PP製、厚さ25μm、平面視寸法40mm×40mm)を介して、正極活物質層と負極活物質層とが対向するように積層し、樹脂集電体の外周部とセパレータとの間にシール材(幅1mm)を配置して熱圧着して蓄電素子を得た後、アルミラミネートフィルムに封入して、実施例1に係るリチウムイオン電池を得た。
シール材としては、正極側、負極側ともに、三井化学(株)製アドマーVE300を用いた。
【0082】
[実施例1]
<懸濁液調製工程>
実施例1に係るリチウムイオン電池からアルミラミネートセルを除去した後、キシレン(SP値:8.8)と水との混合溶媒(体積比はキシレン:水=80:20)中に浸漬し、混合溶媒を80℃に加熱しながら20分間撹拌したところ、正極樹脂集電体及び負極樹脂集電体並びに各樹脂集電体とセパレータとを接着しているシール材がいずれも一部膨潤し、軟化して、混合溶媒中に正極活物質層及び負極活物質層が分散した懸濁液を得た。
【0083】
<分離工程>
得られた懸濁液を室温で30分静置したところ、図4に示すように、沈殿を含む水層(下部)と油層(上部)とに分離した。図4は、実施例1に係る分離工程後の混合溶媒の様子を示す写真である。
【0084】
<得られた正極活物質の分析>
油層と水層とを分離した後、水層をろ過して沈殿を回収し、TG-DTA分析により沈殿の組成を確認した。
TG-DTA分析は以下の条件で行い、沈殿の分解温度前後の重量減少率から炭素系材料の含有量を求め、分離性を評価した。結果を表1に示す。
測定温度:30℃→900℃
昇温速度:10℃/min、900℃で15min保持
データ間隔:0.5s
雰囲気:Air
パン:白金
分離性評価結果の基準は以下のとおりである。
〇:炭素系材料の割合≦10重量%
△:10重量%<炭素系材料の割合≦30重量%
×:30重量%<炭素系材料の割合
分析の結果、沈殿に含まれる炭素系材料の割合は、沈殿の重量を基準として10重量%以下であった。
【0085】
<実施例2>
実施例1における懸濁液調製工程を以下のように変更したほかは、実施例1と同様の手順で分離工程を行い、得られた正極活物質の分析を行った。結果を表1に示す。
実施例1に係るリチウムイオン電池からアルミラミネートセルを除去した後、キシレン中へ浸漬した。キシレンを130℃に加熱しながら1時間撹拌したところ、正極樹脂集電体及び負極樹脂集電体がキシレンに溶解し、キシレン中に正極活物質層及び負極活物質層が分散した分散液を調製した。その後、キシレン:水=50:50(重量比)となるように水を混合し、80℃に加熱しながら10分間加熱することで、懸濁液を得た。
得られた懸濁液を室温で30分静置したところ、沈殿を含む水層(下部)と油層(上部)とに分離した。
【0086】
<比較例1~4>
正極側の集電体の構成、及び、混合溶媒の組成を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様の手順で、懸濁液調製工程及び分離工程を行った。結果を表1に示す。
ただし、比較例1、3及び4では、懸濁液調製工程において集電体が溶解せず、懸濁液を得ることができなかった。分離性評価では、これらを「-」としている。
【0087】
【表1】
【0088】
表1の結果より、本発明によって、リチウムイオン電池から、正極活物質を選択的に取り出すことができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の正極活物質の選択的取出方法は、リチウムイオン電池に含まれる正極活物質を再利用する方法として有用である。
【符号の説明】
【0090】
1 リチウムイオン電池
10 正極
11 正極集電体
13 正極活物質層
15 正極活物質
20 負極
21 負極集電体
23 負極活物質層
30 セパレータ
40 蓄電素子
50 電池外装体
60 水層
61 水
70 油層
80 混合溶媒
90 懸濁液
図1
図2
図3
図4