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特許7101169プログラム死1(PD-1)に対する新規モノクローナル抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】プログラム死1(PD-1)に対する新規モノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220707BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220707BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220707BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220707BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 15/06 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220707BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
C12N15/13
A01K67/027
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P37/04
C07K16/28
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/20
C12N15/06 100
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/08
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019515471
(86)(22)【出願日】2016-09-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 CN2016099576
(87)【国際公開番号】W WO2018053709
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2019-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】518417374
【氏名又は名称】シーストーン ファーマシューティカルズ
(73)【特許権者】
【識別番号】519091720
【氏名又は名称】シーストーン・ファーマシューティカルズ・(スージョウ)・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CStone Pharmaceuticals (Suzhou) Co., Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】518417363
【氏名又は名称】シーストーン ファーマシューティカルズ (シャンハイ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ジェン・ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジン・リー
(72)【発明者】
【氏名】ゲンナジー・ゴロロボフ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・シンホア
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・バオティアン
(72)【発明者】
【氏名】タン・ジェーウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リー・ドン
(72)【発明者】
【氏名】シュー・ジャンチン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウジー・ワン
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】Cancer Immunol.Res.,2014,Vol.2,Issue 9,p.846-856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C07K 1/00 - 19/00
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/Geneseq
UniProt/Geneseq
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDR1、CDR2およびCDR3配列を含む重鎖可変領域;およびCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含む単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
ここで、重鎖可変領域CDR3配列が配列番号12および13からなる群から選択される配列を含み;重鎖可変領域CDR2配列が配列番号11のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;重鎖可変領域CDR1配列が配列番号10のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;および
軽鎖可変領域CDR3配列が配列番号20、21、22および23からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;軽鎖可変領域CDR2配列が配列番号19のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;軽鎖可変領域CDR1配列が配列番号14、15、16、17および18のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、
抗体またはその抗原結合フラグメント
【請求項2】
抗体またはその抗原結合フラグメントが
a)ヒトPD-1に2.15E-10M以下のKで結合する;および
b)マウスPD-1に1.67E-08M以下のKで結合する、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
抗体が次の性質の少なくとも一つを示す、請求項1または2に記載の抗体:
a)ヒトPD-1に4.32E-10M~2.15E-10MのKでおよびマウスPD-1に5.39E-08M~1.67E-08MのKで結合する;
b)ヒトCD28、CTLA-4に実質的に結合しない;
c)T細胞増殖を増加させる;
d)インターフェロン-ガンマ産生を増加させる;または
e)インターロイキン-2分泌を増加させる。
【請求項4】
体がPD-1に特異的に結合する、請求項1から3の何れかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
a)配列番号1および2からなる群から選択される配列と少なくとも90%相同であるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号3、4、5、6、7、8および9からなる群から選択される配列と少なくとも90%相同であるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
ここで、該抗体がPD-1に特異的に結合する、請求項4に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
a)配列番号1および2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号3、4、5、6、7、8および9からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
ここで、該抗体がPD-1に特異的に結合する、請求項4に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
配列番号24の128位、129位、130位、131位および132位のアミノ酸ならびに35位、64位、82位、83位のアミノ酸の少なくとも一つにアミノ酸を含むPD-1のエピトープに結合することができる、請求項1-6の何れかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
抗体がキメラまたはヒト化またはヒト抗体である、請求項1~7の何れかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載の抗体または抗原結合フラグメントをコードする、核酸分子。
【請求項10】
請求項9の核酸分子を含む、クローニングまたは発現ベクター。
【請求項11】
1以上の請求項10に記載のクローニングまたは発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
請求項11に記載の宿主細胞を培養し、抗体を単離することを含む、請求項1~8の何れかに記載の抗体を産生する方法。
【請求項13】
抗体がSDラットのヒトPD-1細胞外ドメインおよびマウスPD-1細胞外ドメインでの免疫化により調製される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖導入遺伝子を含むトランスジェニックラットであって、該ラットが請求項1~8の何れかに記載の抗体を発現する、トランスジェニックラット。
【請求項15】
請求項14に記載のラットから製造されたハイブリドーマであって、該抗体を産生する、ハイブリドーマ。
【請求項16】
請求項1~8の何れかに記載の抗体または抗原結合フラグメントおよび薬学的に許容される添加物、希釈剤または担体の1以上を含む、医薬組成物。
【請求項17】
治療剤に連結された請求項1~8の何れかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、免疫複合体。
【請求項18】
請求項17に記載の免疫複合体および薬学的に許容される添加物、希釈剤または担体を含む、医薬組成物。
【請求項19】
単離された抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントを製造する方法であって、
(a)
(i)配列番号10からなる群から選択されるCDR1配列、配列番号11からなる群から選択されるCDR2配列および配列番号12および13からなる群から選択されるCDR3配列を含む重鎖可変領域抗体配列;および
(ii)配列番号14、15、16、17および18からなる群から選択されるCDR1配列、配列番号19からなる群から選択されるCDR2配列および配列番号20、21、22および23からなる群から選択されるCDR3配列を含む軽鎖可変領域抗体配列
を準備し;そして
(b)重鎖可変領域抗体配列および軽鎖可変領域抗体配列を含む抗体配列をタンパク質として発現させる
ことを含む、方法。
【請求項20】
免疫障害または癌の処置または予防用医薬の製造における、請求項1~8の何れかに記載の抗体の使用。
【請求項21】
癌が黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌および直腸癌からなる群から選択される、請求項20に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般にPD-1に対する抗体およびその組成物ならびに抗PD-1抗体を使用するヒト疾患の処置における免疫療法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
前臨床および臨床結果から、免疫チェックポイントの標的化が癌を有する患者の処置のための、最も有望なアプローチとなりつつあることを示す証拠が増え続けている。CD28に対する相同性を有する免疫グロブリンスーパーファミリーの阻害性メンバーであるタンパク質プログラム死1(PD-1)は、活性化B細胞、T細胞および骨髄細胞で発現され(Agata et al, supra; Okazaki et al (2002) Curr. Opin. Immunol. 14: 391779-82; Bennett et al. (2003) J Immunol 170:711-8)、免疫系の刺激性および阻害性シグナルの制御に重要な役割を有する(Okazaki, Taku et al. 2007 International Immunology 19:813-824)。PD-1は、アポトーシス細胞における差次的発現のスクリーニング中に発見された(Ishida et al (1992) EMBO J 11:3887-95)。
【0003】
PD-1は、Ig遺伝子スーパーファミリーの一部であるI型膜貫通タンパク質であり(Agata et al. (1996) bit Immunol 8:765-72)、PD-1の構造は、1個の免疫グロブリン可変様細胞外ドメインならびに免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)および免疫受容スイッチチロシンモチーフ(ITSM)を含む細胞質ドメインからなる。CTLA-4と構造は類似するが、PD-1は、B7-1およびB7-2結合に重要なMYPPPYモチーフを欠く。PD-1は2個の既知リガンド、PD-L1(B7-H1、CD274)およびPD-L2(B7-DC、CD273)を有し、これらは、B7ファミリーの細胞表面発現メンバーである(Freeman et al (2000) J Exp Med 192: 1027-34; Latchman et al (2001) Nat Immunol 2:261-8; Carter et al (2002) Eur J Immunol 32:634-43)。PD-LlおよびPD-L2の両者は、PD-1に結合するが、CD28ファミリーの他のメンバーに結合しないB7ホモログである。
【0004】
PD-1は、免疫チェックポイントタンパク質の一つとして、活性化B細胞、T細胞および骨髄細胞に発現されるCD28ファミリーの阻害性メンバーであり(Agata et al, supra; Okazaki et al. (2002) Curr Opin Immunol 14: 391779-82; Bennett et al. (2003) J Immunol 170:711-8)、腫瘍細胞が免疫監視を逃れる主要な免疫耐性機構を提供する、T細胞の活動の制限に大きな役割を有する。PD-1は、T細胞のアネルギーまたは不応性の状態を誘発し、細胞が最適レベルのエフェクターサイトカインを産生することができなくなるようにする。PD-1は、生存シグナルを阻害する能力により、T細胞のアポトーシスも誘発し得る。PD-1欠損動物は、自己免疫性心筋症ならびに関節炎および腎炎を伴う狼瘡様症候群を含む、種々の自己免疫表現型を発症する(Nishimura et al. (1999) Immunity 11:141-51; Nishimura et al. (2001) Science 291:319-22)。さらに、PD-1は自己免疫性脳脊髄炎、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主病(GVHD)、I型糖尿病およびリウマチ性関節炎において役割を有することが判明している(Salama et al. (2003) J Exp Med 198:71-78: Prokunina and Alarcon-Riquelme (2004) Hum MoI Genet 13:R143; Nielsen et al. (2004) Lupus 11:510)。ネズミ科B細胞腫瘍株において、PD-1のITSMは、BCR介在Ca2+流および下流エフェクター分子のチロシンリン酸化のブロッキングに必須であることが示された(Okazaki et al. (2001) PNAS 98: 13866-71)。
【0005】
活性化T細胞に発現されるPD-1と腫瘍細胞に発現されるPD-L1の相互作用は、免疫応答を負に制御し、抗腫瘍免疫を減衰させる。PD-Llは、多種のヒト癌に豊富である(Dong et al (2002) Nat. Med 8:787-9)。腫瘍におけるPD-L1発現は、食道、膵臓および他のタイプの癌における生存率減少と相関し、この経路を腫瘍免疫療法の新しい有望な標的として際立たせる。数グループがPD-1-PD-L相互作用が疾患を増悪させ、腫瘍浸潤性リンパ球減少、T細胞受容体介在増殖減少および癌細胞による免疫逃避をもたらすことを示している(Dong et al. (2003) J. MoI. Med. 81:281-7; Blank et al. (2005) Cancer Immunol. Immunother. 54:307-314; Konishi et al. (2004) Clin. Cancer Res. 10:5094-100)。免疫抑制は、PD-1とPD-Llの局所相互作用阻害により逆転でき、PD-1とPD-L2の相互作用が同様にブロッキングされたとき、その効果は相加的である。
【0006】
PD-1経路を標的とする複数の薬剤が、Bristol-Myers Squibb(BMS)、Merck、RocheおよびGlaxoSmithKline(GSK)などのいくつかの製薬会社により開発されている。臨床治験のデータは、種々のタイプの腫瘍を有する患者における持続性の臨床活性の初期の証拠および励みになる安全性プロファイルを示している。BMSにより開発された抗PD-1薬物であるニボルマブは、次世代分野の主役にされようとしている。現在、6つの後期治験で、肺癌患者(n=72)の18%、黒色腫患者(n=98)のほぼ1/3および腎臓癌を有する患者(n=33)の27%を含む、5癌群の3つで、処置が腫瘍縮小を加速させた。Merckにより開発されたペムブロリズマブは、皮膚癌から優れたフェーズIBデータが得られた後、FDAの新しいブレークスルーの指定を得たPD-1に対して作用するヒト化モノクローナルIgG4抗体である。フェーズIB治験の結果は、癌患者(n=85)の51%の客観的抗腫瘍応答および患者の9%の完全奏功を示している。Rocheの実験的MPDL3280A(アテゾリズマブ)は、種々のサイズの腫瘍を有する140名の進行癌患者中29名(21%)において腫瘍を縮小させる能力が示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
治療剤として、PD-1に対する抗体を改良する余地がある。臨床治験で現在試験されているPD-1に対するモノクローナル抗体の大部分は、ヒトPD-1に対してのみであり、これは前臨床インビボアッセイを制限し、マウス由来タンパク質配列の免疫原性により有効性が削減された。マウスPD-1と交差反応性を有するヒト化抗体はこの欠点を克服し、さらなる忍容性およびより高い効果をインビボで示した。従って、新規抗PD-1抗体に対する要望がなお存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の開示
本発明は、単離抗体、特にモノクローナル抗体またはヒトモノクローナル抗体を提供する。
【0009】
ある態様において、本発明は、配列番号24の128位、129位、130位、131位および132位のアミノ酸ならびに35位、64位、82位、83位のアミノ酸の少なくとも一つにアミノ酸を含むPD-1のエピトープに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0010】
本発明はまた、エピトープが配列番号24の128位、129位、130位、131位および132位のアミノ酸を含む、ヒトおよびネズミ科PD-1のエピトープに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0011】
ネズミ科PD-1がマウスまたはラットPD-1である、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0012】
抗体が
a)ヒトPD-1に2.15E-10M以下のKで結合する;および
b)マウスPD-1に1.67E-08M以下のKで結合する、
前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0013】
抗体が
a)ヒトPD-1に2.15E-10M以下のKで結合し;かつ
b)マウスPD-1に1.67E-08M以下のKで結合し;そして
抗体が次の性質の少なくとも一つを示す:
a)ヒトPD-1に4.32E-10M~2.15E-10MのKでおよびマウスPD-1に5.39E-8M~1.67E-8MのKで結合する;
b)ヒトCD28、CTLA-4に実質的に結合しない;
c)T細胞増殖を増加させる;
d)インターフェロン-ガンマ産生を増加させる;または
e)インターロイキン-2分泌を増加させる、
前記抗体。
【0014】
本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8および9からなる群から選択される配列と少なくとも70%、80%、90%または95%相同であるアミノ酸配列を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0015】
本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8および9からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0016】
本発明は、
a)配列番号1および2からなる群から選択される配列と少なくとも70%、80%、90%または95%相同であるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号3、4、5、6、7、8および9からなる群から選択される配列と少なくとも70%、80%、90%または95%相同であるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0017】
本発明は、
a)配列番号1および2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号3、4、5、6、7、8および9からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0018】
種々の実施態様において、抗体は
a)配列番号1からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号1からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号1からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号1からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する;
または抗体は
a)配列番号2からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変領域;および
b)配列番号9からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変領域
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0019】
該抗体の配列は表1および配列表に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0020】
他の態様において、本発明は、配列番号10~23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0021】
他の態様において、本発明は、CDR1、CDR2およびCDR3配列を含む重鎖可変領域;およびCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、
ここで、重鎖可変領域CDR3配列は配列番号12および13ならびにその保存的修飾体からなる群から選択される配列を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0022】
好ましくは、ここで、前記抗体の軽鎖可変領域CDR3配列は、配列番号20、21、22および23ならびにその保存的修飾体からなる群から選択される、アミノ酸配列を含む。
【0023】
好ましくは、ここで、前記抗体の重鎖可変領域CDR2配列は、配列番号11のアミノ酸配列およびその保存的修飾体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0024】
好ましくは、ここで、前記抗体の軽鎖可変領域CDR2配列は、配列番号19のアミノ酸配列およびその保存的修飾体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0025】
好ましくは、ここで、前記抗体の重鎖可変領域CDR1配列は、配列番号10のアミノ酸配列およびその保存的修飾体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0026】
好ましくは、前記抗体の軽鎖可変領域CDR1配列は配列番号14、15、16、17および18のアミノ酸配列ならびにその保存的修飾体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、本発明の抗体である。
【0027】
より好ましい実施態様において、本発明は抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合し、CDR1、CDR2およびCDR3配列を含む重鎖可変領域;およびCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含み、ここで、
a)重鎖可変領域CDR1配列は配列番号10を含み、CDR2配列は配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含み、CDR3配列は配列番号12~13のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;かつ
b)軽鎖可変領域CDR1配列は配列番号14~18のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、CDR2配列は配列番号19のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、CDR3配列は配列番号20~23のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0028】
好ましい抗体は
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号12を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号14を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号20を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0029】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号14を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号21を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0030】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号15を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号21を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0031】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号16を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号21を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0032】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号12を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号17を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号21を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0033】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号12を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号16を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号21を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0034】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号17を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号21を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0035】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号17を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号22を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0036】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号12を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号18を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号23を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0037】
他の好ましい抗体は、
a)配列番号10を含む重鎖可変領域CDR1;
b)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR2;
c)配列番号12を含む重鎖可変領域CDR3;
d)配列番号18を含む軽鎖可変領域CDR1;
e)配列番号19を含む軽鎖可変領域CDR2;
f)配列番号20を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、ここで、該抗体はPD-1に特異的に結合する。
【0038】
該抗体のCDR配列は表2および配列表に示す。
【表2】
【0039】
本発明の抗体はキメラまたはヒト化またはヒト抗体であり得る。
【0040】
本発明の抗体は、次の性質の少なくとも一つを示し得る:
a)ヒトPD-1に2.15E-10M以下のKでおよびマウスマウスPD-1に1.67E-08M以下のKで結合する;
b)ヒトCD28、CTLA-4に実質的に結合しない;
c)T細胞増殖を増加させる;
d)インターフェロン-ガンマ産生を増加させる;または
e)インターロイキン-2分泌を増加させる。
【0041】
さらなる態様において、本発明は、該抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸分子を提供する。
【0042】
本発明は、該抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸分子を含むクローニングまたは発現ベクターを提供する。
【0043】
本発明はまた1以上のクローニングまたは発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0044】
さらに他の態様において、本発明は、本発明の宿主細胞を培養し、抗体を単離することを含む、方法であって、該抗体がSDラットのヒトPD-1細胞外ドメインおよびマウスPD-1細胞外ドメインでの免疫化により調製される、方法を提供する。
【0045】
本発明は、ヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖導入遺伝子を含むトランスジェニックマウスであって、本発明の抗体を発現するマウスを提供する。
【0046】
本発明は、本発明のマウスから調製したハイブリドーマであって、該抗体を産生するハイブリドーマを提供する。
【0047】
さらなる態様において、本発明は、本発明の抗体または該抗体の抗原結合フラグメントおよび薬学的に許容される添加物、希釈剤または担体の1以上を含む、医薬組成物を提供する。
【0048】
本発明は、治療剤に連結された、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、免疫複合体を提供する。
【0049】
ここで、本発明は、該免疫複合体および薬学的に許容される添加物、希釈剤または担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0050】
本発明はまた抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントを製造する方法であって、
(a)(i)配列番号10からなる群から選択されるCDR1配列、配列番号11からなる群から選択されるCDR2配列および配列番号12および13からなる群から選択されるCDR3配列を含む重鎖可変領域抗体配列;および/または(ii)配列番号14、15、16、17および18からなる群から選択されるCDR1配列、配列番号19からなる群から選択されるCDR2配列および配列番号20、21、22および23からなる群から選択されるCDR3配列を含む軽鎖可変領域抗体配列を準備し;そして
(b)改変抗体配列をタンパク質として発現させる
ことを含む、方法を提供する。
【0051】
本発明はまた、対象に本発明の抗体または該抗体の一つの抗原結合フラグメントを投与することを含む、対象における免疫応答を調節する方法を提供する。
【0052】
本発明はまた免疫障害または癌の処置または予防用医薬の製造における、該抗体の使用を提供する。
【0053】
本発明はまた、腫瘍細胞の増殖を阻害するために対象に治療有効量の該抗体または該抗原結合フラグメントを投与することを含む、対象における腫瘍細胞の増殖を阻害する方法を提供する。
【0054】
ここで、本発明は、腫瘍細胞が黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌および直腸癌からなる群から選択される癌のものである、該方法を提供する。
【0055】
ここで、本発明は、該抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体である、該方法を提供する。
【0056】
本発明の特長および利点
本発明者らは、独占的ハイブリドーマテクノロジーを利用して、ヒト化PD-1に対する抗体を産生した。本明細書に記載される抗体は、ファミリー間(cross-family)反応なく、ヒトおよびマウスPD-1タンパク質の両者に高結合親和性で、特異的に結合し、そしてT細胞増殖増強ならびにサイトカインIFN-γおよびインターロイキン-2産生増加を含む免疫応答を強力に調節する。
【0057】
マウスPD-1に結合する新規抗PD-1抗体は、免疫されたラットに由来し、これは、抗PD-1抗体が前臨床マウスモデルで使用できない不都合を解消し、ヒト化レベルは配列ヒト化後100%に近づき、人体で使用する薬物の有害作用を大きく低減させる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1は、細胞表面ヒトおよびマウスPD-1に結合するハイブリドーマ抗体のグラフを示す。図1AはヒトPD-1への結合を示す。図1BはマウスPD-1への結合を示す。
【0059】
図2図2は、第一周変異導入ライブラリースクリーニングの結果を示す。配列決定し、第二周変異のための高親和性クローンついて変異解析する。
【0060】
図3図3は、FACSによる異種間試験の結果を示す。図3Aは、ヒトPD-1トランスフェクトCHO-S細胞への結合を示す。図3BはマウスPD-1トランスフェクト293F細胞への結合を示す。図3Cは、活性化カニクイザルPBMCへの結合を示す。注:アイソタイプはヒトIgG4カッパであった。下も同様。
【0061】
図4図4は、ELISAによる異種間試験の結果を示す。図4AはヒトPD-1への結合を示す。図4BはマウスPD-1への結合への結合を示す。図4CはカニクイザルPD-1への結合を示す。
【0062】
図5図5は、ファミリー間試験の結果を示す。抗PD-1抗体はヒトPD-1に特異的に結合するが、CD28およびCTLA-4には結合しない。
【0063】
図6図6Aは、PD-1トランスフェクトCHO-S細胞へのヒトPD-L1結合をブロッキングする抗PD-1抗体の結果を示す。図6Bは、PD-1トランスフェクト293F細胞へのマウスPD-L1結合をブロッキングする抗PD-1抗体の結果を示す。
【0064】
図7図7は、抗PD-1抗体がヒトPD-L2のPD-1への結合をブロッキングできたことを示す。
【0065】
図8図8A~8Bは、抗PD-1抗体がベンチマーク抗体と同じまたは近いエピトープビンにあることを示唆する、エピトープビニングアッセイの結果を示す。図8Aは、WBP305BMK1(US9084776)に対するビニングを示す。図8Bは、キイトルーダ(US8168757)に対するビニングを示す。
【0066】
図9図9は、抗PD-1抗体とヒト/マウスPD-1の交差反応性を示す。2μg/mLの各抗体を、96ウェルプレートに一夜コーティングし、hPD-1/mPD-1-Hisタンパク質とインキュベートし、HRP-抗His抗体を検出のために加えた。
【0067】
図10図10は、hPD-1構造上にマッピングしたホットスポット残基を示す。(A):hPD-L1結合部位。データは文献(Zak et al. 2015)から得た。(B-C):抗体W3052_r16.88.9およびキイトルーダそれぞれの結合部位。データは表8から得た。図上の色は、各エピトープ間の差異の鑑別を助けるものである。
【0068】
図11図11は、ヒトおよびネズミ科PD-1の比較を示す。これらの明瞭な構造差異(BCループおよびC’Dループ(またはPD-1上のC’’鎖))を橙色で印を付けた。(A):hPD-1の構造(PDBは4ZQKをコードする)。欠損ループ(Asp85~Asp92)を、そのNMR構造に基づき再生した(PDは2M2Dをコードする)。(B)。mPD-1のコード(PDBは3BIKをコードする)。
【0069】
図12図12A~12Cは、抗PD-1抗体がヒトCD4 T細胞の機能を増強できることを示す、ヒトアロMLRの結果を示す。図12Aは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIL-2分泌を増加させることを示す。図12Bは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIFN-γ分泌を増加させることを示す。図12Cは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でCD4 T細胞増殖を増加させることを示す。
【0070】
図13図13A~13Cは、抗PD-1抗体がマウスCD4 T細胞の機能を増強できることを示す、マウスアロMLRの結果を示す。図13Aは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIL-2分泌を増加させることを示す。図13Bは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIFN-γ分泌を増加させることを示す。図13Cは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でCD4 T細胞増殖を増加させることを示す。
【0071】
図14図14A~14Bは、抗PD-1抗体がヒトCD4 T細胞の機能を増強できることを示す、ヒトアロMLRの結果を示す。図14Aは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIFN-γ分泌を増加させることを示す。図14Bは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でCD4 T細胞増殖を増加させることを示す。
【0072】
図15図15は、抗PD-1抗体がTregの抑制機能を逆転できることを示す。図15Aは、抗PD-1抗体がIFN-γ分泌を回復できることを示す。図15Bは、抗PD-1抗体がT細胞増殖を回復できることを示す。
【0073】
図16図16は、抗PD-1抗体が活性化CD4 T細胞のADCC活性に介在しないことを示す、ADCC試験の結果を示す。
【0074】
図17図17は、抗PD-1抗体が活性化CD4 T細胞のCDC活性に介在しないことを示す、CDC試験の結果を示す。
【0075】
図18図18は、同系腫瘍ヌードマウスモデルにおける2E5処置後の体重変化を示す。データ点は平均体重を表す;エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。
【0076】
図19図19は、相対的体重変化(%)を示す。相対的体重変化は、投与開始時の体重に基づき計算した。データ点は平均体重を表す;エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。
【0077】
図20図20は、CloudmanS91同系腫瘍ヌードマウスモデルにおける2E5処置後の腫瘍増殖曲線を示す。データ点は平均体重を表す;エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。
【0078】
図21図21は、CloudmanS91同系腫瘍ヌードマウスモデルにおける2E5処置後の生存曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
詳細な記載
本発明がより容易に理解され得るために、まずいくつかの用語を定義する。さらなる定義は、詳細な記載をとおして示される。
【0080】
用語“プログラム死1”、“プログラム細胞死1”、“タンパク質PD-1”、“PD-1”、“PD1”、“PDCD1”、“hPD-1”および“hPD-F”は相互交換可能に使用され、PD-1と少なくとも一つの共通エピトープを有するバリアント、アイソフォーム、ヒトPD-1の種ホモログおよびアナログを含む。
【0081】
ここで使用する用語“抗体”は、抗体全体およびその任意の抗原結合フラグメント(すなわち、“抗原結合部分”)または一本鎖を含む。“抗体”は、ジスルフィド結合により相互接続された少なくとも2個の重(H)鎖および2個の軽(L)鎖を含むタンパク質またはその抗原結合部分をいう。各重鎖は重鎖可変領域(ここではVHと略す)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、3ドメイン、CH1、CH2およびCH3からなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(ここではVLと略す)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1ドメイン、CLからなる。VHおよびVL領域を、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分できる。各VHおよびVLは、3個のCDRおよび4個のFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端で次の順位配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。
【0082】
ここで使用する用語“抗体”は、免疫グロブリンまたはそのフラグメントもしくは誘導体をいい、インビトロで産生されたかまたはインビボで産生されたかにかかわらず、抗原結合部位を含むあらゆるポリペプチドを含む。本用語は、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異的、多特異的、非特異的、ヒト化、一本鎖、キメラ、合成、組み換え、ハイブリッド、変異および移植抗体を含むが、これらに限定されない。用語“抗体”はまたFab、F(ab’)、Fv、scFv、Fd、dAbおよび抗原結合機能、すなわち、PD-1に特異的に結合する能力を保持する他の抗体フラグメントなどの抗体フラグメントも含む。一般に、このようなフラグメントは抗原結合フラグメントを含む。
【0083】
用語“抗原結合フラグメント”、“抗原結合ドメイン”および“結合フラグメント”は、抗体と抗原の間の特異的結合を担うアミノ酸を含む抗体分子の一部をいう。抗原が大きい場合において、抗原結合フラグメントは該抗原の一部にしか結合しないかもしれない。抗原結合フラグメントとの特異的相互作用を担う抗体分子の部分は、“エピトープ”または“抗原決定基”と称される。
【0084】
抗原結合フラグメントは、一般に抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含むが、必ずしも両者を含む必要はない。例えば、いわゆるFd抗体フラグメントはVHドメインしか含まないが、なおインタクト抗体の一部抗原結合機能を保持する。
【0085】
上記に添って、用語“エピトープ”は、上に規定した結合フラグメントにより特異的に結合/識別される、抗原決定基として定義される。結合フラグメントは、標的構造、例えばヒトおよびネズミ科PD-1に特有である立体構造または連続エピトープに特異的に結合される/相互作用する。配座的または不連続エピトープは、一次配列では離れているが、ポリペプチドが天然タンパク質/抗原に折り畳まれたとき分子表面で一体となる、2以上の分離したアミノ酸残基の存在によって、ポリペプチド抗原を特徴付ける。エピトープに貢献する2以上の分離したアミノ酸残基は、1以上のポリペプチド鎖の別のセクションに存在する。これらの残基は、ポリペプチド鎖がエピトープを構成するために三次元構造に折り畳まれたとき、分子表面で一体となる。対照的に、連続または線形エピトープは、ポリペプチド鎖の単一線形セグメントに存在する2以上の分離したアミノ酸残基からなる。
【0086】
用語“PD-1のエピトープに結合する”は、PD-1ポリペプチドの線形アミノ酸配列または三次、すなわち、三次元立体構造により規定され得る、PD-1の特定のエピトープに対して特異的結合を有する抗体をいう。結合は、PD-1の部分への抗体親和性が、他の関連ポリペプチドに対する親和性より実質的に大きいことを意味する。用語“実質的に大きな親和性”は、他の関連ポリペプチドに対する親和性と比較して、PD-1の部分に対する親和性の測定可能な増加があることを意味する。好ましくは、親和性は、他のタンパク質に対してより、PD-1の特定の部分に対して少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、10倍、10倍、10倍、10倍またはそれ以上大きい。好ましくは、結合親和性は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)または蛍光励起細胞選別(FACS)分析または表面プラズモン共鳴法(SPR)により決定する。より好ましくは、結合特異性は蛍光励起細胞選別(FACS)分析により測定し得る。
【0087】
用語“交差反応性”は、ここに記載する抗原フラグメントのヒトおよびネズミ科(マウスまたはラット)における同一標的分子への結合をいう。それ故に、“交差反応性”は、様々な種で発現される同一分子Xへの、しかし、X以外の分子にではない、種間反応性と理解される。例えばヒトPD-1を認識するモノクローナル抗体のネズミ科(マウスまたはラット)PD-1への異種間特異性は、例えば、FACS分析により決定され得る。
【0088】
ここで使用する用語“対象”は、あらゆるヒトまたは非ヒト動物を含む。用語“非ヒト動物”は、全脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などの、哺乳動物および非哺乳動物を含む。特記された場合を除いて、用語“患者”または“対象”は相互交換可能に使用される。
【0089】
用語“処置”および“治療”は、治療的処置および予防的/防止的対策の両者を意味する。処置を必要とするものは、既に特定の医学的障害を有する個体ならびに最終的に障害を獲得し得るものを含み得る。
【実施例
【0090】
実施例1:研究材料調製
1. 免疫原産生
細胞外ドメイン(ECD)または完全長のPD-1およびPD-L1をコードするDNAを合成し、発現ベクターpcDNA3.3に挿入した。プラスミドDNAをMax-prepし、挿入DNA配列を配列決定により確認した。ヒトFc、マウスFcおよびHisタグを含む種々のタグを含む融合タンパク質PD-1 ECDおよびPD-L1 ECDを、ヒトPD-1 ECD遺伝子のCHO-SまたはHEK293細胞へのトランスフェクションにより得た。5日後、上清を一過性にトランスフェクトした細胞の培養物から得た。免疫化およびスクリーニングの使用のために融合タンパク質を精製し、定量した。
【0091】
2. 安定な細胞株確立
抗体スクリーニングおよび検証のためのツールを得るために、PD-1およびPD-L1トランスフェクト細胞株を得た。簡潔には、CHO-K1または293F細胞を、製造業者のプロトコールに従いLipofectamine 2000 Transfectionキットを使用して、完全長PD-1またはPD-L1を含むpcDNA3.3発現ベクターでトランスフェクトした。トランスフェクション48~72時間後、トランスフェクト細胞をブラストサイジンまたはG418を含む培地で培養して、ゲノムDNAに安定に取り込まれたPD-1またはPD-L1遺伝子を有する細胞を選択した。その間に、細胞を所望の遺伝子PD-1およびPD-L1発現について確認した。発現が確認できたら、目的の単一クローンを限界希釈法により選択し、大容積にスケールアップした。確立されたモノクローナル細胞株を、低用量の抗生物質ブラストサイジンまたはG418を含む培地で維持した。
【0092】
実施例2:抗体ハイブリドーマ産生
1. 免疫化
6~8週齢の雌SDラットを、刺激のために、足蹠注射によりTiterMax中10μg/動物のヒトPD-1 ECDタンパク質および10μg/動物のマウスPD-1 ECDタンパク質で免疫化し、アルミニウム中のヒトPD-1 ECDタンパク質またはマウスPD-1 ECDタンパク質で交互に週に2回ブーストした。血清抗体力価を、2週毎にELISAまたはFACSで測定した。
【0093】
2. 細胞融合
血清抗体力価が十分に高くなったら、ラットを、アジュバントを伴わない等体積のD-PBS(ダルベッコのリン酸緩衝化食塩水)中のヒトおよびマウスPD-1 ECDタンパク質両方で、最終ブーストをした。細胞融合を次のとおり実施した。骨髄腫細胞SP2/0を調製し、骨髄腫細胞を融合1週間前に融解し、対数増殖で維持するために、融合前日まで毎日1:2で分割させた。免疫化SDラットのリンパ節から単離したBリンパ球を骨髄腫細胞と合わせた(1:1比で)。細胞をトリプシンで処理し、FBSで反応を停止させた。次いで細胞混合物を洗浄し、ECFに対して2×10細胞/mlでECF溶液に再懸濁させた。電子的細胞融合(BTX2000)後、融合チャンバーからの細胞懸濁液を、即時により多くの培地を含む無菌チューブに移し、少なくとも24時間、37℃インキュベーターでインキュベートした。次いで細胞懸濁液を混合し、96ウェルプレート(1×10細胞/ウェル)に移した。96ウェルプレートを37℃、5%COで培養し、定期的にモニターした。クローンが十分大きくなったら(7~14日後)、抗体スクリーニングのために100μLの上清を組織培養プレートから96ウェルアッセイプレートに移した。
【0094】
3. ハイブリドーマ上清の第一、第二および確認スクリーニング
ELISAアッセイを、ハイブリドーマ上清のヒトまたはマウスPD-1タンパク質への結合を試験する第一スクリーニング法として使用した。簡潔には、プレート(Nunc)を、1μg/mlのヒトまたはマウスPD-1 ECDで、一夜、4℃でコーティングした。ブロッキングおよび洗浄後、ハイブリドーマ上清を該コーティング済プレートに負荷し、室温で1時間インキュベートした。次いでプレートを洗浄し、その後二次抗体ヤギ抗ラットIgG Fc HRP(Bethyl)と1時間インキュベートした。洗浄後、TMB基質を加え、2M HClで反応を停止させた。450nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Device)を使用して読んだ。
【0095】
細胞膜に発現される立体構造的PD-1分子への抗PD-1抗体の天然結合を確認するために、第二スクリーニングとしてPD-1トランスフェクト細胞株を使用するFACS分析を実施した。ヒトPD-1を発現するCHO-S細胞またはマウスPD-1を発現する293F細胞を、96ウェルU底プレート(Corning)に1×10細胞/ウェルの密度で移した。次いでハイブリドーマ上清を加え、該細胞と1時間、4℃でインキュベートした。1×PBS/1%BSAで洗浄後、二次抗体ヤギ抗ラットFITC(Jackson ImmunoResearch Lab)を適用し、細胞と4℃で暗所で1時間インキュベートした。次いで細胞を洗浄し、1×PBS/1%BSAに再懸濁するかまたは4%パラホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリー(BD)およびFlowJoソフトウェアにより分析した。親CHO-Sまたは293F細胞株に結合する抗体を、それぞれ陰性対照として使用した。
【0096】
可能性のあるアンタゴニストのヒットを選択するために、選択抗体をFACS分析によりリガンドPD-L1のPD-1トランスフェクト細胞への結合をブロッキングする能力について、試験した。ヒトPD-1を発現するCHO-S細胞またはマウスPD-1を発現する293F細胞を、1×10細胞/ウェル濃度で96ウェルU底プレート(BD)に移した。ハイブリドーマ上清を加え、該細胞を4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、マウスFc融合ヒトPD-L1タンパク質またはマウスFc融合マウスPD-L1タンパク質を加え、4℃で1時間インキュベートした。二次抗体ヤギ抗マウスIgG Fc FITC抗体(ラットIgG Fcと交差反応せず、Jackson ImmunoResearch Lab)を細胞と4℃で暗所で1時間インキュベートした。次いで細胞を洗浄し、1×PBS/1%BSAに再懸濁するかまたは4%パラホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリー(BD)およびFlowJoソフトウェアにより分析した。
【0097】
図1は、細胞表面ヒトおよびマウスPD-1への16ハイブリドーマ抗体結合のグラフを示す。図1AはヒトPD-1への結合を示す。図1BはマウスPD-1への結合を示す。
【0098】
4. ハイブリドーマサブクローニング
特異的結合およびブロッキング活性が第一および確認スクリーニングで確認されたら、陽性ハイブリドーマ細胞株をサブクローニングに使用した。簡潔には、各ハイブリドーマ細胞株について、細胞を計数し、200μLクローニング培地あたり5細胞、1細胞または0.5細胞となるよう希釈した。細胞懸濁液を、96ウェルプレートに200μL/ウェルで、1プレートは5細胞/ウェル、1プレートは1細胞/ウェルおよび4プレートは0.5細胞/ウェルで播種した。プレートを、37℃、5%COで、上記のとおり結合ELISAまたはFACSによりスクリーニングされる準備ができるまで、培養した。選択単一クローンのESNを回収し、該抗体をさらなる特徴付けのために精製した。
【0099】
5. サブタイプ試験
ウェルあたり50μLのヤギ抗ラットIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2c、IgGまたはIgM抗体(1μg/mL)で、マイクロタイタープレート(Nunc)を一夜コーティングした。ブロッキング後、50μLのハイブリドーマ上清サンプルを各ウェルに加え、2時間、室温でインキュベートした。ヤギ抗ラットIgGカッパまたはHRP標識ラムダ軽鎖二次抗体(Bエチル)は検出抗体である。発色のためにTMB基質を使用し、2M HClで反応を停止させた。450nmの光を吸収する値を、マイクロプレートリーダー(Molecular Device)を使用して読む。
【0100】
表3は、16ハイブリドーマ抗体のサブタイプ結果を示す。7抗体はポリクローナル抗体であり、9抗体はIgG2aカッパサブタイプである。抗PD-1抗体がインビボでADCCおよびCDCの役割を避ける必要性を考慮して、ヒト化抗体をヒトIgG4カッパサブタイプとして構築する。
【表3】
【0101】
実施例3:抗体ハイブリドーマ細胞配列およびヒト化抗体分子構築および親和性成熟
1. 抗体ハイブリドーマ細胞配列
RNAを、トリゾール試薬を使用してモノクローナルハイブリドーマ細胞から単離した。PD-1キメラ抗体のVHおよびVLを次のとおり増幅させた。RNAを、ここに記載する逆転写酵素を使用して、まずcDNAに逆転写させる。
【表4】
【表5】
【0102】
得られたcDNAを、続く所望の遺伝子に特異的なプライマーを使用するPCR増幅で鋳型として使用した。PCR反応を次のとおり実施した。
【表6】
【表7】
【0103】
得られたPCR産物(10μL)をpMD18-Tベクターとライゲートした。上位10コンピテント細胞を10μLのライゲーション産物で形質転換した。陽性クローンを、M13-48およびM13-47プライマーを使用するPCRと続く配列決定により確認した。
【0104】
2. ヒト化抗体分子構築
ハイブリドーマからのラット抗PD-1抗体を、PD-1への抗PD-1抗体結合の高い親和性および特異性により選択し、ヒト化して、ヒト抗体配列との相同性を改善した。該ヒト化法の利用はCDR移植技術と称される。FR領域およびCDR領域などの抗体の可変領域遺伝子をKABAT系およびIMGT系により分けた。抗体データベースにおいて、結合配列相同性のアラインメントおよび構造類似性に基づき、ネズミ科領域FR1-3の遺伝子をヒト化可変領域FR1-3に置き換え、ネズミ科遺伝子の領域FR4を最も類似する構造を有したJHおよびJK遺伝子由来のヒト化FR4領域で置き換えた。鋳型配列検証およびコドン最適化後、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を合成し、発現ベクターにクローン化し、次いでヒト化抗体を発現させた。
【0105】
細胞表面ヒトおよびマウスPD-1への結合能により、W3052_r16.88.9およびW3052_r16.81.3をヒト化のために選択した。表2は、ヒト化スコアの分析を示す。クローンW3052-16.88-z9-IgG4(42720)を、良好な親和性およびヒト化スコアなどの全てのこれらの因子を考慮して、親和性成熟のために選択した(表4)。
【0106】
【表8】
【表9】
【0107】
3. 親和性成熟
親クローンの3相補性決定領域(VH CDR3、VK CDR1およびVK CDR3)の各アミノ酸を、ハイブリダイゼーション突然変異誘発法を使用して他の20アミノ酸に個々に変異させた。20アミノ酸をコードするNNSコドンを含むDNAプライマーを、各標的CDR位置に変異を導入するために使用した。個々の縮重プライマーをハイブリダイゼーション突然変異誘発反応に使用した。簡潔には、各縮重プライマーをリン酸化し、次いで、ウリジニル化ssDNAと10:1比で使用した。混合物を85℃で5分加熱し、次いで1時間かけて55℃に冷却した。その後、T4リガーゼおよびT4 DNAポリメラーゼを加え、混合物を1.5時間、37℃でインキュベートした。VH CDRおよびVL CDRの合成産物をそれぞれプールした。一般に、200ngの該プールしたライブラリーDNAをBL21細菌叢でのプラーク形成またはscFvフラグメント産生のためにBL21に電気穿孔した。
【0108】
一次スクリーニングは、96ウェルプレート(深ウェル)で増殖させた細菌のペリプラズム抽出物(PE)を使用して実施したシングル・ポイントELISA(SPE)アッセイからなった。簡潔には、この捕捉ELISAは、96ウェルMaxisorp Immunoplateの個々のウェルを、pH9.2のコーティング緩衝液(200mM NaCO/NaHCO)中の抗c-myc抗体で一夜、4℃でコーティングすることを含んだ。翌日、プレートをカゼインで1時間、室温でブロッキングした。次いでscFv PEをプレートに加え、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、ビオチニル化抗原タンパク質をウェルに加え、混合物を1時間、室温でインキュベートした。続いて、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートと1時間、室温でインキュベートした。HRP活性をTMB基質で検出し、2M HClで反応停止させた。プレートを450nmで読んだ。450nmで親クローンより大きな光学密度(OD)シグナルを示すクローンを取り、陽性結果を確認するためにデュプリケートでELISA(上記のとおり)により再アッセイした。繰り返し親抗体より大きなシグナルを示したクローンを配列決定した。次いでCDR変化を受けた各クローンのscFvタンパク質濃度を、既知濃度のscFvを参照として使用する定量的scFv ELISAにより決定した。scFvタンパク質濃度を、ELISAシグナルを参照scFvにより生じたシグナルと比較することにより、決定した。結合アッセイを、変異体scFvおよび親抗体の相対的結合親和性を決定するために、正規化scFv濃度下、全陽性バリアントについてもう1回繰り返した。
【0109】
抗原への結合に有益であることが決定されたVHおよびVLにおける点変異を、さらに組み合わせて、さらなる結合相乗効果を獲得した。組み合わせ変異体をscFvとして発現させ、捕捉ELISAを使用してスクリーニングした。450nmで親クローンより大きなODシグナルを示すクローンを配列決定し、さらに上記のとおり結合ELISAで確認した。
【0110】
親和性成熟後、計10個のヒト化抗体(2E5、2G4、1G10、2C2、2B1、8C10、1H6、5C4、A6WおよびL1I)を得た。図2は、1回目の変異導入ライブラリースクリーニングからの結果を示した。ヒト、カニクイザルサルおよびマウスにおける10ヒト化抗体の配列および親和性データを表5に示した。
【0111】
表5は、2回目の変異導入ライブラリースクリーニングからの結果を示した。クローン1H6、2E5、2G4および2C2を、さらなる分析のために選択した。
【表10】
【0112】
4. 抗体精製
親和性成熟ヒト化抗体を含むベクターを、抗体産生および発現のために293F細胞にトランスフェクトした。293F細胞の上清の抗体を、プロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して精製した。
【0113】
実施例4:ヒト化抗体の特徴付け
1. ヒト、カニクイザルおよびマウスPD-1への交差反応性(異種間)
1.1 FACS
交差反応性をFACSおよびELISAにより測定した。FACSについて、抗PD-1抗体を、実施例2.3に記載のとおり細胞表面ヒト、マウスおよびカニクイザルPD-1への結合について試験した。
図3は、FACSによる異種間試験の結果を示した。図3Aは、ヒトPD-1トランスフェクトCHO-S細胞への結合を示した。抗体は、2.20~2.78nMのEC50でヒトPD-1に特異的に結合し得る。図3Bは、マウスPD-1トランスフェクト293F細胞への結合を示した。抗体は、11.8~15.1nMのEC50でマウスPD-1に特異的結合し得る。図3Cは、用量依存的方法での活性化カニクイザルPBMCの結合を示した。アイソタイプはヒトIgG4カッパであった。下も同様。
【0114】
1.2 ヒト、カニクイザルおよびマウスPD-1への交差反応性(異種間)
ELISAについて、プレート(Nunc)をヒト、1μg/mlのカニクイザルまたはマウスPD-1(Sino Biological)で、一夜、4℃でコーティングした。ブロッキングおよび洗浄後、抗体をブロッキング緩衝液で連続的に希釈し、プレートに加え、室温で1時間インキュベートした。次いでプレートを洗浄し、その後二次抗体ヤギ抗ヒトIgG HRP(Bethyl)と1時間インキュベートした。洗浄後、TMB基質を加え、2M HClで反応を停止させた。450nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Device)を使用して読んだ。
図4は、ELISAによる異種間試験の結果を示した。図4Aは、ヒトPD-1への結合を示した。図4Bは、マウスPD-1への結合を示した。図4Cは、カニクイザルPD-1への結合を示した。
【0115】
2. ヒトPD-1ファミリーメンバーCD28、CTLA4への交差反応性
ヒトPD-1、CD28、CTLA-4またはICOSをそれぞれ発現する構築細胞株を、2×10細胞/ウェルの密度で96ウェルU底プレート(BD)に移した。試験抗体を洗浄緩衝液(1×PBS/1%BSA)で希釈し、細胞と4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、二次抗体ヤギ抗ヒトIgG Fc FITC(Jackson ImmunoResearch Lab)を加え、4℃で暗所で1時間インキュベートした。次いで細胞を1回洗浄し、1×PBS/1%BSAに再懸濁し、フローサイトメトリー(BD)およびFlowJoソフトウェアにより分析した。
図5は、ファミリー間試験の結果を示した。抗PD-1抗体はヒトPD-1に特異的に結合できるが、CD28およびCTLA-4には結合しない。
【0116】
3. PD-1へのリガンド結合のブロッキング
3.1 抗PD-1抗体がPD-1へのPD-L1結合をブロッキングする能力を、実施例2.3に記載するFACSにより試験した。
【0117】
3.2 抗PD-1抗体がPD-1へのPD-L2結合をブロッキングする能力を、ELISAにより試験した。簡潔には、プレート(Nunc)を、1μg/mlのヒトPD-1で、一夜、4℃でコーティングした。抗体をブロッキング緩衝液で連続的に希釈し、hisタグ・コンジュゲートPD-L2と混合した。該コーティング済プレートのブロッキングおよび洗浄後、抗体/PD-L2混合物を該プレートに加え、次いで室温で1時間インキュベートした。次いでプレートを洗浄し、続いて二次抗体ヤギ抗his HRP(GenScript)と1時間インキュベートした。洗浄後、TMB基質を加え、2M HClで反応を停止させた。450nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Device)を使用して読んだ。
図6Aは、PD-1トランスフェクトCHO-S細胞へのヒトPD-L1結合をブロッキングする抗PD-1抗体の結果を示した。図6Bは、PD-1トランスフェクト293F細胞へのマウスPD-L1結合をブロッキングする抗PD-1抗体の結果を示す。図7は、抗PD-1抗体が用量依存的様式でPD-1へのヒトPD-L2結合をsy団できたことをしめした。
【0118】
4. 表面プラズモン共鳴法(SPR)により試験した完全動的結合親和性
抗体を、ProteOn XPR36(Bio-Rad)を使用するSPRアッセイにより、PD-1への親和性および結合速度論について特徴付けた。プロテインAタンパク質(Sigma)をGLMセンサーチップ(Bio-Rad)にアミンカップリングにより固定した。精製抗体をセンサーチップ上を流し、プロテインAで捕捉させた。チップを90°回転させ、ベースラインが安定するまでランニング緩衝液(1×PBS/0.01%Tween20、Bio-Rad)で洗浄した。7濃度のヒトPD-1およびランニング緩衝液を、30μL/分の流速で180秒の結合相についてセンサーチップを流し、300秒解離が続いた。再生後、7個の濃度のマウスPD-1およびランニング緩衝液を、30μL/分の流速で180秒の結合相についてセンサーチップを流し、300秒解離が続いた。各ランの後、チップをpH1.5 HPOで再生した。結合および解離曲線を、ProteOnソフトウェアを使用して、1:1ラングミュア結合モデルにより適合させた。
表6A~6Bは、SPRによるヒトおよびマウスPD-1への完全動的結合親和性の結果を示した。WBP305BMK1を、BMS特許US9084776B2からの5C4のクローンに従い、合成した。キイトルーダは、Merckからの抗PD-1薬物であった。下も同様。結果は、SPRアッセイによるヒトPD-1への親和性能力は、1.43E-8~5.64E-9mol/Lであったことを示した。WBP305BMK1およびキイトルーダと比較すると、抗体2E5、2G4または2C2のK値は遙かに小さく、2E5、2G4または2C2がヒトPD-1に良好な結合能を有したことを示した。さらに、マウスPD-1に対する親和性能力は、9.37E-9~3.89E-9mol/Lであった。
【0119】
【表11】
【表12】
【0120】
5. フローサイトメトリー(FACS)により試験した抗PD-1抗体の細胞表面PD-1分子への結合親和性
ヒトPD-1を発現するCHO-S細胞またはマウスPD-1を発現する293F細胞を、1×10細胞/ウェルの密度で96ウェルU底プレート(BD)に移した。試験抗体を、洗浄緩衝液(1×PBS/1%BSA)で1:2連続希釈し、細胞と4℃で1時間インキュベートした。二次抗体ヤギ抗ヒトIgG Fc FITC(IgGモルあたり3.0モルFITC(Jackson ImmunoResearch Lab))を加え、4℃で暗所で1時間インキュベートした。次いで細胞を1回洗浄し、1×PBS/1%BSAに再懸濁し、フローサイトメトリー(BD)により分析した。蛍光強度を、定量的ビーズに基づき、結合分子/細胞に変換した(QuantumTM MESF Kits, Bangs Laboratories, Inc.)。KをGraphpad Prism5を使用して計算した。
表7A~7Bは、フローサイトメトリーにより試験した細胞表面ヒトおよびマウスPD-1分子への抗PD-1抗体の結合親和性の結果を示す。結果は、FACSアッセイによるヒトPD-1への親和性能力が3.80E-10~2.15E-10mol/Lであったことを示した。さらに、マウスPD-1への親和性能力は5.39E-8~1.74E-8mol/Lであった。
【0121】
【表13】
【表14】
【0122】
6. エピトープ・ビニング試験
抗PD-1抗体の結合エピトープを、FACSによりベンチマーク抗体AおよびBと比較した。細胞表面にヒトPD-1を発現するCHO-S細胞をビオチニル化ベンチマーク抗体AまたはB(1μg/ml)および試験抗体(洗浄緩衝液で連続的に希釈)の混合物と、4℃で1時間インキュベートした。細胞を洗浄し、第二抗体ストレプトアビジン-PEを加え、30分、4℃でインキュベートした。次いで細胞を1回洗浄し、1×PBS/1%BSAに再懸濁し、フローサイトメトリー(BD)により分析した。
【0123】
図8A~8Bは、抗PD-1抗体がベンチマーク抗体と同じまたは近いエピトープビンにあることを示唆する、エピトープビニングアッセイの結果を示した。図8Aは、WBP305BMK1(US9084776)に対するビニングを示した。図8Bは、キイトルーダ(US8168757)に対するビニングを示した。
【0124】
さらに、hPD-1でのアラニン走査実験を行い、その抗体結合への影響を評価した。hPD-1のアラニン残基をグリシンコドンに変異させ、他の全ての残基をアラニンコドンに変異させた。HPD-1細胞外ドメイン(ECD)の各残基について、点アミノ酸置換を、2つの連続的PCR工程を使用して行った。ヒトPD-1のECDおよびC末端HisタグをコードするpcDNA3.3-hPD-1_ECD.Hisプラスミドを鋳型とて使用し、一式の変異原性プライマーを、QuikChange電撃性多部位特異的突然変異誘発キット(Agilent technologies, Palo Alto, CA)を使用する、第一段階PCRに使用した。Dpn Iエンドヌクレアーゼを、変異鎖合成反応後親鋳型の消化に使用した。第二段階PCRにおいて、CMVプロモーター、PD-1の細胞外ドメイン(ECD)、Hisタグおよび単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)ポリアデニル化からなる線形DNA発現カセットを増幅させ、HEK293F細胞(Life Technologies, Gaithersburg, MD)に一過性に発現させた。
【0125】
モノクローナル抗体W3052_r16.88.9およびキイトルーダを、ELISA結合アッセイのためにプレートコーティングさせた。定量化PD-1変異体またはヒト/マウスPD-1_ECD.Hisタンパク質(Sino Biological, China)を含む上清とインキュベート後、HRPコンジュゲート抗His抗体を検出抗体として加えた。吸光度を、対照変異体の平均に対して正規化した。結合倍率変化に対するさらなるカットオフ(<0.55)設定後、最終的に決定されたエピトープ残基が同定された。
【0126】
抗体W3052_r16.88.9およびキイトルーダのヒトおよびネズミ科両者のPD-1への結合活性を行った(図9)。W3052_r16.88.9は、hPD-1およびmPD-1の両者への結合が見られたが、キイトルーダはヒトのものにしか結合しなかった(図9)。W3052_r16.88.9のこの特有の機能的交差反応性は、前臨床試験における薬物安全性評価の際のより多くの動物モデル選択肢の提供に役立つ。観察された結合挙動の原因を探索するために、両抗体のエピトープマッピングを実施した。
【0127】
抗体結合が有意に減少した上位30の点置換hPD-1変異体を表8に示した。hPD-1結晶構造のこれら全残基の位置の確認(PDBコード3RRQおよび4ZQK)により、一部アミノ酸(例えばVal144、Leu142、Val110、Met108、Cys123など)がタンパク質に完全に埋没しており、あらゆる抗体と直接接触しそうにないことが確認された。観察された結合減少は、アラニン置換後のhPD-1構造の不安定性または崩壊に由来することが最も可能性があった。抗原構造分析により、残基の一部、例えばV144およびL142は結合活性に関与しないが、hPD-1構造の安定性に応答することが期待される。両抗体に影響する変異体を、偽ホットスポットとして処理し、リストから除いた。結合倍率変化に対するさらなるカットオフ(<0.55)設定後、最終的に決定されたエピトープ残基を表9にリストした。W3052_r16.88.9について9位置およびキイトルーダについて5位置ある。
【0128】
表9におけるW3052_r16.88.9およびキイトルーダのエピトープ残基の比較は、2つの重複ホットスポット残基しか明らかにしなかった。残りはかなり違うように見え、2抗体がhPD-1結合およびhPD-L1ブロッキングの観点で、極めて異なる機構を採用しているはずであることを示す。表9における残基IDの読み出しは、機構の解釈に直接的ではない。それ故に、表9における全データおよびhPD-L1結合部位を、良好な可視化および比較を得るために、hPD-1の結晶構造上にマッピングした(図10)。
【0129】
【表15】
結合の変化倍率は、数サイレントアラニン置換の結合に対する。
【0130】
【表16】
カットオフ:変化倍率<0.55
mPD-1で観察されたC’’鎖はhPD-1構造に存在しない。このβシートは、hPD-1の無構造ループに置き換えられる。我々は、単にmPD-1との比較を容易にする目的のみで、この領域の標識のためにC’’をなお使用する。
【0131】
2つの調査抗体W3052_r16.88.9およびキイトルーダは、両者がhPD-1結合およびhPD-L1ブロッキングに機能的であるが、明らかに異なるエピトープを有する(図10B、10C)。キイトルーダのエピトープは、主にPD-L1結合部位と決して交わらないC’Dループ(PD-1上のC’’鎖に対応)の残基により寄与された。これは、キイトルーダのhPD-L1ブロッキング機能が、抗体サイズにより提供される立体障害効果により依存することを示唆した。対照的に、エピトープマッピング結果は、抗体W3052_r16.88.9のエピトープが複数部位にまたがり分散され、hPD-L1結合部位と直接重複するホットスポットからなったことを示す(図10A、10B)。W3052_r16.88.9は、hPD-L1を、共通結合部位への反応により、hPD-L1と競合する手段によりブロッキングした。その上、W3052_r16.88.9は、ヒトおよびネズミ科PD-1が大きな構造差異を示す、柔軟性C’Dループ(または対応するPD-1上のC’’鎖)と相互作用を有さなかった(図11)。その結合部位は、大部分FGループに位置した(Lin et al. (2008) PNAS 105: 3011-3016)。これは、なぜW3052_r16.88.9が両PD-1種に結合でき、一方キイトルーダがヒトのものにしか結合しないのかを説明する(図9)。この特有の機能的交差反応性により、W3052_r16.88.9の前臨床安全性評価がマウスモデルで実施でき、これは、開発を大きく単純化し、加速させる。全体的に見て、抗体W3052_r16.88.9は、キイトルーダより機能的であり、開発可能であることが予測される。
【0132】
7. 細胞ベースのアッセイにより試験した抗PD-1抗体のインビトロ機能
7.1 混合リンパ球反応(MLR)を、抗PD-1抗体のTリンパ球機能への影響の試験に使用した
ヒトDC、CD4 T、CD8 Tおよび総T細胞単離:ヒトPBMCを、Ficoll-Paque PLUS(GE)勾配遠心分離を使用して健常ドナーから新たに単離した。単球を、製造業者の指示に従い、Human Monocyte Enrichment Kit(StemCell)を使用して単離した。細胞を、rhGM-CSFおよびrhIL-4を含む培地で5~7日培養し、樹状細胞を産生させた。MLR18~24時間前、1μg/mL LPSを培養に添加して、DCの成熟を誘発させた。ヒトCD4 T細胞を、製造業者のプロトコールに従い、Human CD4+ T Cell Enrichment Kit(StemCell)を使用して単離した。マウスCD4 T細胞を製造業者のプロトコールに従いMouse CD4+ T Cell Isolation Kit(StemCell)を使用して、Balb/cマウスの脾臓から得た。マウスDCを、rmGM-CSFおよびrmIL-4を含む培地中、C57BL/6マウスの骨髄細胞から、5~7日誘発させた。MLR18~24時間前、1μg/mL LPSを培養に加えて、DCの成熟を誘発した。
【0133】
簡潔には、一次樹状細胞(DC)刺激MLRを96ウェル、U底組織培養プレートで、10%FCSおよび1%抗生物質を含む200μLのRPMI 1640中、実施した。DCを、1:10~1:200 DC:T細胞比で、試験抗体またはベンチマーク抗体(166.75nMから0.00667nMまで下がる、一般に全6濃度)存在下または非存在下、1×10 CD4 T細胞と混合した。T細胞機能に対する抗PD-1抗体の影響を決定するために、サイトカイン産生およびT細胞増殖を決定した。示す結果は、実施した最小5実験の代表である。
【0134】
サイトカイン検出:ヒトIFN-γおよびIL-2を、適合抗体対を使用する酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により測定した。プレートを、それぞれヒトIFN-γ(cat# Pierce-M700A)またはIL-2(cat# R&D-MAB602)特異的な捕捉抗体でプレコートした。ビオチンコンジュゲ-ト抗IFN-γ抗体(cat# Pierce-M701B)または抗IL-2抗体(cat# R&D-BAF202)を検出抗体として使用した。
図12Aは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIL-2分泌を増加させたことを示した。図12Bは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIFN-γ分泌を増加させることを示す。
【0135】
増殖アッセイH-チミジン(cat# PerkinElmer- NET027001MC)を、0.9%NaCl溶液で1:20に希釈し、細胞培養プレートに0.5μCi/ウェルで加えた。プレートを、5%COで37℃で16~18時間培養し、増殖細胞へのH-チミジン取り込みを決定した。図12Cは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でCD4 T細胞増殖を増加させることを示す。
抗PD-1抗体のマウスT細胞機能に対する効果を決定するために、サイトカイン産生およびマウスT細胞増殖を同様に決定した。図13A~13Cは、抗PD-1抗体がマウスCD4 T細胞機能を増強できることを示す、マウスアロMLRの結果を示した。図13Aは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIL-2分泌を増加させたことを示した。図13Bは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIFN-γ分泌を増加させたことを示した。図13Cは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でCD4 T細胞増殖を増加させたことを示した。
【0136】
7.2 自己抗原特異的免疫応答による細胞増殖およびサイトカイン産生に対するヒト抗PD-1抗体の効果
このアッセイにおいて、CD4 T細胞およびDCは、同じドナー由来であった。簡潔には、CD4 T細胞をPBMCから精製し、CMV pp65ペプチドおよび低用量のIL-2(20U/mL)存在下培養し、その間にも、DCを同一ドナーのPBMCからの単球のGM-CSFおよびIL-4中の培養により産生した。5日後、CMV pp65ペプチド処理CD4 T細胞を、ヒト抗PD-1抗体またはベンチマーク抗体(対照として)存在下または非存在下、CMV pp65ペプチドを瞬間適用したDCと共培養した。5日目、100μLの上清を、上記のとおりELISAによるIFN-γ測定のために、各培養から取った。CMV pp65特異的T細胞の増殖を、上記のとおりH-チミジン取り込みにより評価した。
図14A~14Bは、抗PD-1抗体がヒトCD4 T細胞の機能を増強できることを示す、ヒト自己MLRの結果を示した。図14Aは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でIFN-γ分泌を増加させることを示した。図14Bは、抗PD-1抗体が用量依存的様式でCD4 T細胞増殖を増加させることを示した。
【0137】
7.3 制御性T細胞(Treg)抑制機能に対するヒト抗PD-1抗体の効果
T細胞の亜集団であるTregは、重要な免疫モジュレーターであり、自己耐容性維持に重要な役割を有する。CD4CD25 Tregの数の増加が、複数の癌の患者で見られ、より不良な予後と相関した。抗PD-1抗体がTregの免疫抑制的役割に影響するか否かを決定するために、Treg存在下、抗PD-1抗体処置を施したまたは施していないT細胞機能を比較した。CD4CD25およびCD4CD25T細胞を、製造業者の指示に従い特異的抗CD25マイクロビーズ(StemCell)を使用して分離した。2000成熟DC、1×10 CD4CD25 T細胞、1×10 Treg細胞およびPD-1抗体を、96ウェルプレートでインキュベートした。プレートを37℃で5%COインキュベーターに5日間維持した。IFN-γ産生およびCD4CD25細胞増殖を、上記のとおり試験した。
図15は、抗PD-1抗体がTregの抑制機能を逆転できることを示す。図15Aは、抗PD-1抗体がIFN-γ分泌を回復できることを示した。図15Bは、抗PD-1抗体がT細胞増殖を回復できることを示した。
【0138】
8. ADCCおよびCDC試験
PD-1は、多様な細胞型で発現される。健常PD-1陽性細胞への毒性の可能性を最小化するために、抗PD-1抗体を、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)に介在する能力について評価した。
【0139】
8.1 ADCC試験
ヒト活性化CD4 T細胞および種々の濃度のPD-1抗体を96ウェルプレートで30分プレインキュベートし、次いでPBMCをエフェクター/標的比50:1で加えた。プレートを、37℃で5%COインキュベーターに6時間維持した。標的細胞溶解を、LDHベースの細胞毒性検出キット(cat# Roche-11644793001)により決定した。492nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Device)を使用して読んだ。ハーセプチン誘発SK-Br-3細胞溶解を陽性対照として使用した。
図16は、抗PD-1抗体が活性化CD4 T細胞のADCC活性に介在しなかったことを示す、ADCC試験の結果を示した。
【0140】
8.2 CDC試験
ヒト活性化CD4+ T細胞および種々の濃度のPD-1抗体を96ウェルプレートで混合した。ヒト補体(Quidel-A112)を1:50の希釈比で加えた。プレートを、37℃で5%COインキュベーターに2時間維持した。標的細胞溶解を、CellTiter-Gloにより決定した。リツキサン(登録商標)誘発Raji細胞溶解を陽性対照として使用した。発光を、マイクロプレートリーダー(Molecular Device)を使用して読んだ。
図17は、抗PD-1抗体が活性化CD4 T細胞のCDC活性に介在しなかったことを示す、CDC試験の結果を示した。
【0141】
実施例5:ヒトPD-1に対するモノクローナル抗体を使用するインビボ腫瘍モデルの処置
1. 実験設計
【表17】
注:
N:各群のマウス数
用量-体積:マウスの体重により10μL/g。体重減少が15%を超えたら、投与レジメンをそれに応じて調節すべきである。
【0142】
2. 方法
2.1 細胞培養
マウス黒色腫細胞CloudmanS91細胞(ATCC-CCL-53.1)を、単層としてインビトロで培養し、培養条件は、2.5%FBSおよび15%ウマ血清、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン添加F-12K培地であり、37℃および5%COでインキュベートした。細胞をトリプシン-EDTAを使用して消化させ、週に2回定期的に継代した。約80%~90%コンフルエントおよび必要な数になったとき、細胞を採取し、計数し、次いで接種した。
【0143】
2.2 腫瘍細胞の注入
0.1mL(5×10細胞)CloudmanS91細胞を、各動物の右背部に皮下的に接種した。腫瘍体積平均が約64mmに達したとき、投与を群で開始した。群分けおよび投与レジメンは表10に示した。
【0144】
2.3 腫瘍試験および指数
実験指数は、腫瘍増殖が阻止されたか、遅延されたかまたは治癒したかの試験である。腫瘍直径を、週3回ノギスで測定した。腫瘍体積をV=0.5a×b(式中、aおよびbは、それぞれ腫瘍の長径および短径を表す)を使用して、計算する。
【0145】
抗体の抗腫瘍有効性を、腫瘍増殖阻害TGI(%)または相対的腫瘍増殖率T/C(%)により評価した。TGI(%)は腫瘍増殖阻害の率を反映した。TGI(%)を次のとおり計算した。TGI(%)=[(1-(処置群投与終了時の平均腫瘍体積-処置群投与開始時の平均腫瘍体積))/(溶媒対照群投与終了時の平均腫瘍体積-溶媒対照群投与開始時の平均腫瘍体積)]×100%。
【0146】
相対的腫瘍増殖率T/C(%)を次のとおり計算した。T/C%=TRTV/CRTV×100%(TRTV:処置群RTV;CRTV:陰性対照群RTV)。相対的腫瘍体積(RTV)を、RTV=V/V(式中、Vは群分け時の平均腫瘍体積(すなわち、d)であり、Vはある測定点の平均腫瘍体積であり;TRTVおよびCRTVのデータを同じ日に取った)を使用して、腫瘍測定結果に従い計算した。
【0147】
T-C(日)は、腫瘍増殖遅延指数を表し、Tは処置群において腫瘍が予定した体積(例えば300mm)に到達したときに経過した平均日数を表し、Cは対照群の腫瘍が同一体積に到達したときの平均日数を表した。
【0148】
生存曲線をプロットし;動物生存期間を、投与から動物が死亡するまでまたは腫瘍体積が2000mmに到達するまでの時間として定義した。中央生存期間(日)を各群で計算した。延長された生存期間(ILS)を、処理群とモデル対照群の中央生存期間の比較により計算し、モデル対照群の生存期間を超えるパーセンテージとして計算した。
【0149】
2.4 統計分析
各群の各時点の平均腫瘍体積および標準誤差(SEM)を含むデータを、統計的に分析した(特定のデータについては表11参照のこと)。実験は、投与後37日目に完了した;投与後13日目、動物を連続的に屠殺した;それ故、群間差異の統計分析および評価は、投与開始後13日目の腫瘍体積。2群間比較について、データをT検定を使用して分析した;3群以上の間の比較について、データを一元配置ANOVAを使用して分析した。F値について統計的有意差が見られたら、データをゲイムス・ハウエル検定を使用して分析した。F値について統計的有意差が見られなかったら、ダネット(両側)検定を分析に使用した。SPSS 17.0を全データ分析に使用した。p<0.05を有意差として見なした。生存期間をカプラン・マイヤー法とログ・ランク検定を使用して、分析した。
【0150】
3. 結果
3.1 死亡率、罹病率および体重変化
動物の体重は、薬物毒性の測定のための間接的基準である。2E5のCloudmanS91皮下同系異種移植雌DBA/2マウスモデルの体重に対する影響を図18および図19に示した。このモデルにおいて、全投与群は、有意な体重減少を示さなかった(図18)。それ故に、2E5は黒色腫CloudmanS91のマウスモデルに明白な毒性は示さない。
【0151】
3.2 腫瘍体積
2E5処置後のCloudmanS91皮下同系異種移植雌DBA/2マウスモデルの腫瘍体積を表11に示した。
【表18】
注:
a. 平均±SEM;
b. 投与後日数。
【0152】
3.3 腫瘍増殖曲線
腫瘍増殖曲線を図20に示した。
【0153】
3.4 抗腫瘍有効性評価
【表19】
注:
a. 平均±SEM;
b. 腫瘍増殖阻害を、T/CおよびTGI(TGI(%)=[1-(T13-T)/(V13-V)]×100)により計算した;
c. p値を腫瘍体積により計算した。
【0154】
3.5 生存曲線s
各群の生存曲線を図21に示した。
【0155】
3.6 生存期間
【表20】
注:
a. p値は、処置群と媒体対照群の間の比較を表した;
b. 実験終了時、3mg/kg群(2E5)において、生存率は66.7%であった。
【0156】
4. 考察
本試験において、CloudmanS91同系腫瘍モデルにおける2E5のインビボ有効性を評価した。種々の時点での各群の腫瘍体積を表11、表12および図20に示し、生存期間を図21および表13に示した。投与後13日目、溶媒対照群における腫瘍担持マウスの腫瘍体積は1,626mmに達した。対照群と比較して、1mg/kg 2E5群で弱い阻害効果が観察され、腫瘍体積は1,089mm(T/C=68.1%、TGI=34.4%、p=0.367)であり、腫瘍増殖遅延は0日であった。溶媒対照群と比較して、有意な抗腫瘍効果が3mg/kg 2E5群で観察され、腫瘍体積は361mm(T/C=22.9%、TGI=81.0%、p=0.008)であり、腫瘍増殖遅延は5日であった。溶媒対照群と比較して、有意な抗腫瘍効果が10mg/kg 2E5群でも観察され、腫瘍体積は614mm(T/C=39.4%、TGI=64.7%、p=0.036)であり、腫瘍増殖遅延は5日であった。
【0157】
本実験において、溶媒対照群における腫瘍担持マウスの中央生存期間は16日であった。媒体対照群と比較して、1mg/kg 2E5群における腫瘍担持マウスの中央生存期間は20日であり、生存は25%(p=0.077)延長され;3mg/kg 2E5群における腫瘍担持マウスの生存率は66.7%(p=0.001)であった。10mg/kg 2E5群における腫瘍担持マウスの中央生存期間は32日であり、生存は100%(p=0.022)延長された。
【0158】
ヌードマウスの体重変化を図19に示した。薬物2E5の良好な忍容性が全腫瘍担持マウスで見られ、全処置群で有意な体重減少は観察されなかった。要約すると、この実験において、有意な抗腫瘍効果が、CloudmanS91皮下同系腫瘍モデルについて、3mg/kg群および10mg/kg群の両方で示され、これは用量依存性ではなかった。3mg/kg群における抗腫瘍効果は10mg/kg群より良好であった。
【0159】
本発明の説明が、上記の実施例によりなされている。しかしながら、本発明が実施例に限定されないことは、当業者により理解される。本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなく、他の特定の形態に具現化され得る。それ故に、本発明の範囲は、上記の説明ではなく、添付する特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲に入る全ての変化が本発明の範囲に包含されることが意図される。
図1
図2
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図10
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【配列表】
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