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特許7101181焼結可能コアおよびポリマー被覆を有する粒子、その使用、並びにそれを使用する付加製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】焼結可能コアおよびポリマー被覆を有する粒子、その使用、並びにそれを使用する付加製造法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/102 20220101AFI20220707BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220707BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20220707BHJP
   B22F 10/14 20210101ALI20220707BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20220707BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220707BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220707BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220707BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 T
B22F3/02 M
B22F10/14
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y70/00
C22C38/00 304
C22C38/44
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019543978
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2018053296
(87)【国際公開番号】W WO2018149748
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】17156456.0
(32)【優先日】2017-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】595054486
【氏名又は名称】ヘガネス アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン、ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】ラグナー フェルランド ドレイク デル カスティーヨ
(72)【発明者】
【氏名】アーリン、オーサ
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068899(WO,A1)
【文献】特開2016-223005(JP,A)
【文献】国際公開第2009/060803(WO,A1)
【文献】米国特許第06048954(US,A)
【文献】特表平11-513746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼からなる焼結可能なコア及び該コアの少なくともの一部上のポリマー被覆をそれぞれが有する複数の粒子であって、
前記ポリマー被覆は、ポリスチレンを標準物質として使用したGPC法により測定された重量平均分子量(Mw)が1,000~50,000g/モルであるポリビニルピロリドンが、前記ポリマー被覆の総重量の80重量%以上を占め、
前記ポリマー被覆は、熱、触媒作用又は溶媒処理による分解により除去可能であり、前記ポリマー被覆は、前記粒子の総重量に対して0.10~10.00重量%の量で存在する、粒子。
【請求項2】
前記ポリマー被覆は、界面活性剤及び/又は湿潤剤を含む、請求項1に記載された粒子。
【請求項3】
非イオン性界面活性剤である前記界面活性剤を含む、請求項2に記載された粒子。
【請求項4】
ポリオールである前記湿潤剤を含む、請求項2又は請求項3に記載された粒子。
【請求項5】
95重量%以上の粒子が、S-ISO 13320-1に従うレーザー回折法により測定して50μm以下の直径を有する粒度分布(X95≦50μm)を有する、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載された粒子。
【請求項6】
付加製造プロセスにおける、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載された粒子の使用。
【請求項7】
前記付加製造プロセスが、粉末床インクジェットヘッド3Dプリンティング法である、請求項6に記載された使用。
【請求項8】
前記粒子の予備結合に液体バインダー組成物を使用し、該液体バインダー組成物は、ポリビニルピロリドンを含み、同じポリマータイプが前記粒子の前記ポリマー被覆に存在同じポリマータイプの各々のポリマーは、ポリスチレンを標準物質として使用したGPC法により測定された重量平均分子量(Mw)が1,000~50,000g/モルである、請求項6又は請求項7に記載された使用。
【請求項9】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載された粒子バインダー組成物により結合されたグリーン部品。
【請求項10】
前記バインダーは、ポリビニルピロリドンを含み、同じポリマータイプが前記粒子の前記ポリマー被覆に存在し、同じポリマータイプの各々のポリマーは、ポリスチレンを標準物質として使用したGPC法により測定された重量平均分子量(Mw)が1,000~50,000g/モルである、請求項に記載されたグリーン部品。
【請求項11】
2.7MPa以上のグリーン強度を有する、請求項又は請求項10に記載されたグリーン部品。
【請求項12】
3.0MPa以上のグリーン強度を有する、請求項9又は請求項10に記載されたグリーン部品。
【請求項13】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載された粒子をバインダー組成物により結合させてグリーン部品を成形する工程と、
熱処理、溶媒抽出又は触媒作用により前記バインダー組成物及び前記ポリマー被覆を除去してブラウン部品を成形する工程と、
前記ブラウン部品を焼結して前記粒子の前記コアの原料から構成される目的物を得る工程と
を含む、付加製造法。
【請求項14】
粉末床インクジェットヘッド3Dプリンティング法である、請求項13に記載された付加製造法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
今日の製造業において、複雑な幾何学的形状の製造は通常、コンピュータ支援設計(CAD)を使用して行われている。ラピッドプロトタイピング(RP)とも呼ばれる自由形状造形法(SFF)では、極めて複雑な3Dモデルを薄い2Dスライスへと分割することで3Dプリンターを使用して構築することができる積層技術を用いて実体の目的物を作製するために、CADモデルを利用することができる。
【0002】
3Dプリンティングによる製造はデジタルデータから直接完成品を得ることに一歩近づいており、時間的投資及び費用のかかる生産設備を削減する。3Dプリンティングは付加製造プロセスであることから、切削加工では一般的な廃棄物を生成しない。同一の粉末ストックから様々な目的物を製造することができ、複数の部品に分かれた設計に労力とスキルをほとんど必要とせず、全てをデジタル情報を用いて製造することによりヒューマンエラーリスクが抑制される。
【0003】
最近では、熱溶解積層法(FDM)、直接インク書き込み法(DIW)、インクジェット3Dプリンティング、選択的レーザー焼結法(SLS)、電子ビーム溶融法(EBM)、選択的レーザー溶融法(SLM)、薄膜積層法(LOM)、指向性エネルギー堆積法(DED)及び電子ビーム自由形状造形法(EBF)を含む多くの異なる製造方法が採用されている。それぞれの方法には、とりわけ、得られる解像度、採用可能な原料、製造時間、設備コストなどに関するそれ独自の長所と短所がある。
【0004】
3Dプリンティングは、その他の製造プロセスが発揮できないものを有している。積層法では、金属粉末などの焼結可能原料から複雑な形状の構成部品を成功裏に作製することが主な技術である。特定のタイプの3Dプリンティングは粉末床インクジェットヘッド3Dプリンティング法(粉末床上におけるインクジェットプリンティング、以下3DPと呼ぶ)である。
【0005】
この方法では、造形プラットフォーム上に粉末層を敷き詰める。その後、インクジェットヘッドから射出されバインダー成分(多くの場合はポリマー)を含有する液体バインダー組成物(「インク」とも呼ばれる)で粉末を選択的に覆う。一般的には、インク中の溶媒(典型的には、水又は別の低温沸騰溶媒、例えば、メタノール、エタノール又はアセトンなど)を蒸発させてほぼバインダー成分のみを残すために、プラットフォーム上に熱を加える。新しい粉末層を敷きこのプロセスを繰り返す。構成部品の焼結が必要な場合は更に収縮率を考慮する必要があるが、バインダー/インクの配置によって構成部品の最終的な幾何学的形状が決まる。プリンティング工程が完了すると、溶媒を蒸発させて3Dプリントした部品を上記形状に硬化させるために乾燥/硬化工程を行う。このプロセスを図1に示す。
【0006】
それに続いて、例えば、空気を吹きつけるか、又は、柔らかいブラシ又は類似物を用いて手動で慎重に除去するかによって、過剰な粒子(「インク」によって結合されていない)を除去して、いわゆる「グリーン(成形体)部品」を得る。その後、このグリーン部品をバインダー成分除去工程(いわゆる「脱バインダー」)(通常は、バインダー成分の熱分解又は蒸発をもたらす熱処理により行われる)に供して、いわゆる「ブラウン(脱脂体)部品」を残す。その他の処理、例えば、触媒除去又は溶媒抽出なども検討してもよいが、熱処理による除去が好ましい。通常はこれに続いて、粒子の境界を溶融させるための焼結工程を行い最終部品を生じさせる。この方法を適用して、例えば、ステンレス鋼から構成されるフルメタル部品を成形してもよい。この技術は既に市場に導入されており、例えば、Digital Metal ABによる消費材の製造に使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3DP法を用いたプリンティングとなると、グリーン部品の安定性は壊れやすい構造物を作製する際に重要となる。これは、脱バインダー処理用に、グリーン部品を3Dプリンターユニットから取り外して、熱による脱バインダーを行うため、例えば、オーブンに入れる必要があるという事実によるものである。それゆえ、特定の構造物には高いグリーン強度(グリーン部品の強度)が求められる。
【0008】
3DPを例えば、SLS法に代わるより優れた選択肢とするため、現在可能なものよりも更に壊れやすい構造物にまで寸法限界を押し上げるためにグリーン強度を増加させる必要がある。
【0009】
更に、確立された実際の製造プロセスに対する変更を必要とせずにグリーン強度の向上が達成可能であることが望ましい。このことは、一例ではあるが、粘度の増加又は低下が現在使用されているインクジェットヘッドに問題を引き起こし製造物品質を低下させる場合があるために、バインダー組成物/インクの粘度が変わらずに維持され得るということを意味している。
【0010】
本発明の目的は、3DPプロセス中に得られたグリーン部品のグリーン強度を増加させるための方法を提供することである。
【0011】
本発明の更なる目的は、現時点で得ることができるグリーン強度以上にグリーン強度を増加させることを可能とする、3DPプロセスにおける使用に好適な粒子を提供することであり、それらの粒子は3DPプロセスへの更なる調節を必要としないことが好ましい。
【0012】
本発明の更なる目的は、バインダー組成物/インクの量を増加させることによってグリーン部品のグリーン強度を調節することを可能とする、3DPプロセスにおける使用に好適な粒子を提供することであり、それにより、粒子の汎用性が高まる。
【0013】
本発明の更なる目的は、外力に対する保護を有し酸化などの表面反応を起こし難く、粒子の使用前に保護を除去する工程を必要としない、3DP法における使用に好適な粒子を提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、良好な品質の最終製造物を得ることを可能としつつも、より高いグリーン強度のグリーン部品を得ることを可能とする3DP製造プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的の一部又は全てを解決することを目的とし、以下を提供する。
(1) 焼結可能なコア及び該コアの少なくともの一部上のポリマー被覆をそれぞれが有する複数の粒子であって、
前記ポリマー被覆は、熱、触媒作用又は溶媒処理による分解により除去可能なポリマーを含み、前記ポリマー被覆は、前記粒子の総重量に対して0.10~10.00重量%の量で存在する、粒子。
(2) 熱、触媒作用又は溶媒処理による分解により除去可能な前記ポリマーは、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、及び共重合体(コポリマー)、並びにこれらの混合物からなるポリマータイプの群から選択される、(1)に記載された粒子。
(3) 熱、触媒作用又は溶媒処理による分解により除去可能な前記ポリマーは、1,000~50,000の重量平均分子量(Mw)を有するポリビニルピロリドンである、(1)または(2)に記載された粒子。
(4) 前記ポリマー被覆は、界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤、及び/又は、好ましくはポリオールを含む湿潤剤を含む、(1)から(3)までのいずれか1項に記載された粒子。
(5) 前記焼結可能コアは、金属、合金、セラミックス又はサーメットからできている、(1)から(4)までのいずれか1項に記載された粒子。
(6) 前記焼結可能コアはステンレス鋼からできている、(1)から(5)までのいずれか1項に記載された粒子。
(7) 95重量%以上の粒子が50μm以下の直径を有する粒度分布(X95≦50μm)を有する、(1)から(6)までのいずれか1項に記載された粒子。
(8) 付加製造プロセス、とりわけ、粉末床インクジェットヘッド3Dプリンティングプロセスにおける、(1)から(7)までのいずれか1項において定義された粒子の使用。
(9) 前記粒子の予備結合に液体バインダー組成物を使用し、該液体バインダー組成物は、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、及び共重合体、並びにこれらの混合物からなる群から選択されるポリマータイプのポリマーを含み、同じポリマータイプが前記粒子の前記ポリマー被覆に存在する、(8)に記載された使用。
(10) (1)から(7)までのいずれか1項に記載された粒子をバインダー組成物と結合させることにより得ることが可能なグリーン部品。
(11) 前記バインダーは、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、及び共重合体、並びにこれらの混合物からなる群から選択されるポリマータイプのポリマーを含み、同じポリマータイプが前記粒子の前記ポリマー被覆に存在する、(10)に記載されたグリーン部品。
(12) 2.7MPa以上、好ましくは3.0MPa以上のグリーン強度を有する、(10)又は(11)に記載されたグリーン部品。
(13) (1)から(6)までのいずれか1項に記載された粒子をバインダー相により結合させてグリーン部品を成形する工程と、熱処理、溶媒抽出又は触媒作用により前記バインダー相及び前記ポリマー被覆を除去してブラウン部品を成形する工程と、前記ブラウン部品を焼結して前記粒子の前記コアの原料から構成される目的物を得る工程とを含む、付加製造法。
(14) 粉末床インクジェット3Dプリンティング法である、(13)に記載された付加製造法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】3DP法の概略図を示す図。ここで、インクジェット1は、リザーバから湿潤インク/バインダー組成物(溶液)を得て、造形プラットフォーム3上に設けられた粉末床2にバインダー組成物/湿潤インクを選択的に塗布する。それにより、湿潤インクにより粉末床の粒子同士が共に予備結合した目的物/部品4が成形される。
図2】3点曲げ試験を用いてグリーン強度を測定するための実験装置の概略図を示す図。ここで、hは試料の高さを表し、Pは力を表し、Sは支持ローラー間の距離を表し、Lは試験片の長さ(四角試験片の幅に相当する)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
以下の用語を続く発明を実施するための形態において使用する。
【0018】
用語「ポリマー」及び「ポリマー化合物」は同義的に使用される。ポリマー又はポリマー化合物は通常、同一の単量体化合物/モノマーから誘導された5以上、典型的には10以上の反復単位を含むことを特徴とする。ポリマー又はポリマー原料は通常、少なくとも300、典型的には1000以上の分子量を有する。ポリマーは、その特定の形態に基準を設定しない限りにおいて、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、又はこれらのうちのいずれかの混合物であってもよい。ラジカル重合、カチオン重合及びアニオン重合を含む当該技術分野において周知の任意の方法を用いてポリマーを合成してもよい。
【0019】
本発明の意味におけるモノマーとは通常、同一の化学種の別の分子と反応して二量体を形成可能となり、続いて同一の化学種の別の分子と反応して三量体を形成可能となるなどし、最終的には、同一の化学種から誘導された5以上、好ましくは10以上の反復単位が連結してポリマーを形成する、分子鎖を形成する化学種の分子のことである。別のモノマー分子の基と反応してポリマー鎖を形成することができるモノマー分子の基は特に限定されず、その例としては、エチレン系不飽和基、エポキシ基などが挙げられる。モノマーは、一官能性、二官能性、三官能性、又はより多官能性であってもよい。二官能性モノマーの例としては、ジ(メタ)アクリレート、及び、カルボン酸基とアミド基の両方を有する化合物が挙げられ、三官能性モノマーの例としてはトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0020】
用語「ポリ(メタ)アクリレート」は、メタクリル酸、アクリル酸及び/又はそれらのエステル、例えば、メチルメタクリレート又はブチルアクリレートなどから誘導されたポリマーを連結して示すために使用される。エステル残基は1~20個の炭素原子を有する炭化水素基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
【0021】
用語「重量平均分子量」とは、ポリスチレンを標準物質として使用したGPC法により測定された重量平均分子量のことを示す。
【0022】
本発明では、別様に示さない限り、全ての物理的パラメータ及び特性を室温(20℃)及び大気圧(105Pa)下で測定する。更に、%で示される全ての数値は通常、特に示さない限り、重量%に関する。特定の試験方法を用いて測定する必要のある特徴又は特性に基準を設定する場合はいつでも、本実施例において示した方法を使用することができる。このことはとりわけ、グリーン強度、ポリマー被覆の量及び粒径の測定に適用される。
【0023】
用語「焼結可能」とは、450℃以上、好ましくは500℃以上、より好ましくは600℃以上の融点を有する無機原料を示すために使用される。この意味における焼結可能原料としては、所定の融点を有する金属、合金、セラミックス及びガラスが挙げられる。複合材料(サーメットなど)においては、粒子の外側上に存在する物質の少なくとも一部が上記範囲の溶融温度を有することで十分であり、それにより、焼結処理中に粒子が互いに結合して最終焼結体を形成することができる。
【0024】
本明細書で使用する場合、不定冠詞「a」は、1に加えて2以上を示し、そのことが文脈から明らかでない限り、必ずしもその言及名詞を単数形に限定するものではない。
【0025】
用語「及び/又は」とは、示した要素の全て又は1つのみのいずれかが存在することを意味する。例えば、「a及び/又はb」とは、「aのみ」、「bのみ」又は「aとbを共に」のことを意味する。「aのみ」の場合、この用語は、bが存在しない、すなわち「aのみでありbはない」の可能性を対象として含む。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「含む」及び「含有する」は、非排他的でありオープンエンドであることを意味している。それゆえ、特定の構成要素を含む又は含有する組成物は、列挙した構成要素に加えてその他の構成要素を含んでいてもよい。しかしながら、この用語は、より限定的な意味「からなる」及び「から本質的になる」も含む。用語「から本質的になる」は、対応する組成物用に列挙された原料以外の最大10重量%(10重量%を含む)、好ましくは最大5重量%(5重量%を含む)の原料の存在を可能とするが、その他の原料は完全に不在であってもよい。
【0027】
本発明で使用する用語「グリーン強度」は、実施例セクションに明記した方法により測定した、グリーン部品から得た長方形の試験片のグリーン強度に関する。
【0028】
本発明は、焼結可能コアの表面の一部又は全体上にポリマー被覆を提供することにより、グリーン部品の製造プロセス中に添加する湿潤インク/液体バインダー組成物の量を増加させることによってグリーン部品のグリーン強度を増加させることが可能となるという発見に基づいている。このことにより、一方では、非被覆焼結可能粒子ではこれまで得ることができていなかったレベルにまでグリーン強度を増加させることが可能となり、また一方では、バインダー組成物/湿潤インクの量を単に変化させることによってグリーンの強度を調節することができる粒子を提供することが可能となる。このように、本発明の粒子はこの点において、従来技術の非被覆粒子と比較してより汎用性がある。更に、被覆は、外力及び表面反応に対する少なくとも部分的な保護を提供し得る。
【0029】
それゆえ、本発明は従来技術の欠点を克服し、グリーン部品のグリーン強度を向上/調節するための新規方法を提供する。グリーン部品を製造するための実際のプロセスを変更する必要もない。このことは、現行の設備を何ら調節することなく使用可能であることから、技術的観点と経済的観点の両方から好ましい。更に、現行のプロセスを改変する必要はなく、もたらされた改変は技術的に実際に実行可能であった。
【0030】
この点において、グリーン部品のグリーン強度を向上させるための試みが従来よりなされてきたが、従来技術では、このような粒子を提供して、グリーン部品のグリーン強度を調節/増加させるための方法を提供するという課題を解決することに成功しなかった。とりわけ、「インク」中におけるポリマーバインダーの濃度を増加させることは、このことがプリントヘッドから射出されるバインダー組成物/湿潤インクの粘度の増加をもたらし、その結果としてインクジェットヘッドに問題が生じてインク堆積の精度が低下するために、これまで実行不能であった。その一方で、インクの量を単純に増加させることは、より多量のバインダー組成物/湿潤インクを焼結可能粒子に吸収させることができなかったために不可能であった。
【0031】
更に、実施例及び比較実施例に示すとおり、非被覆粒子用のインクの量を単純に増加させることはグリーン強度の増加には全くつながらず、逆にグリーン強度の著しい低下をもたらすことになる。この問題は本発明により解決されるが、本発明では、追加のバインダー組成物/インクをプリントヘッドから供給する3DP(図1を参照のこと)などの3D製造法において使用する前に、焼結可能粒子をポリマー被覆組成物で完全に又は少なくとも部分的に被覆する。
【0032】
本発明で用いる態様及び原料についてこれからより詳細に説明する。
【0033】
焼結可能コア
本発明の粒子は、コアの表面の少なくとも一部上にポリマー被覆が塗布されている焼結可能コアを有する。焼結可能粒子は3D製造プロセスに好適に用いられる任意の原料から構成され得、一般的に、コア用には無機原料が用いられる。焼結可能粒子のコアは、任意の金属、合金、ガラス、セラミックス原料又はこれらの混合物で製造することができる。
【0034】
本明細書において、「製」、「からできている」とは、粒子が金属、合金、ガラス、セラミックス原料又はこれら構成成分の混合物からなることを意味する。しかしながら、不可避の不純物は存在し得る。それゆえ、焼結可能粒子のコアの95重量%以上は金属、合金、ガラス、セラミックス原料又はこれらの混合物からなり、残部は不可避の不純物である。焼結可能粒子のコアの好ましくは少なくとも98重量%以上、より好ましくは少なくとも99重量%以上は金属、合金、ガラス、セラミックス原料又はこれらの混合物で形成される。
【0035】
焼結可能粒子のコア内に含まれ得る金属は特に限定されず、一般的に、その金属が所定の融点を有する限りにおいて任意の望ましい金属を使用してもよい。その例としては、アルミニウム、チタン、クロム、バナジウム、コバルト、鉄、銅、ニッケル、コバルト、スズ、ビスマス、モリブデン及び亜鉛に加え、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、金及び銀が挙げられる。アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、亜鉛、金及び銀の金属粒子が好ましい。一実施形態では、コアはチタン又はチタン合金である金属から構成されるが、チタンは、続く脱バインダー及び焼結工程中におけるその酸化傾向又はその他の化学種(例えば、窒化物)の形成傾向ゆえに、このような反応を避けるための特定の工程(例えば、低い脱バインダー温度又は焼結温度)を必要とし得る。それゆえ、別の実施形態では、焼結可能コアはチタン又はチタン合金を含まない。
【0036】
合金も更に限定されることはなく、一般的に、それらの合金が所定の融点を有し、それによりそれらの合金が製造プロセス中に採用する脱バインダー温度では溶融しないが焼結温度では溶融する限りにおいて、様々な合金を使用してもよい。好ましい合金は、アルミニウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、鉄、銅、金及び銀に加えて、様々な綱で形成された合金である。綱中における炭素の量は通常0~2.06重量%であり、クロムは0~20重量%、ニッケルは0~15重量%であり、任意選択的にモリブデンは最大5重量%である。焼結可能粒子は金属、ステンレス鋼及びセラミックスから選択されることが好ましく、ステンレス鋼が特に好ましい。
【0037】
焼結可能粒子を形成可能なガラスは限定されず、そのガラス粒子がプロセスに採用する焼結温度でそれらの境界において溶融する場合、あらゆるタイプのガラスを使用してもよい。
【0038】
その温度特性が焼結温度での粒子の溶融を可能とする限りにおいて、セラミックス原料も限定されない。典型的なセラミックス原料としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、金属ケイ化物、金属酸化物、及び、クレイ又はクレイタイプの原料で形成されたセラミックス原料が挙げられる。その他の例としては、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、ジルコン酸鉛又はチタン酸鉛、酸窒化ケイ酸アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ酸マグネシウム及び炭化チタンが挙げられる。
【0039】
焼結可能粒子のコアを形成する金属又は合金は磁性又は非磁性であってもよい。
【0040】
焼結可能粒子は任意の形状であってもよいが球状粒子が好ましい。これは、球状粒子が良好な流動性を有しており、最終製造物の強度に有利に働く高い充填密度をもたらすという事実によるものである。
【0041】
本発明の粒子は、焼結可能コアの表面の少なくとも一部上にポリマー被覆を有する。被覆は、ポリマー被覆の総重量に対して好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上のポリマーを含有する。一実施形態では、ポリマー被覆は、ポリマーから本質的になるか又はポリマーからなる。
【0042】
ポリマー被覆は、粒子の総重量に対して0.10~10.00重量%の量で存在する。量が0.10重量%未満の場合、液体バインダーの量を増加させることによってグリーン強度を調節する機能に有意な影響を及ぼし得ないということが分かっている。量が10.00重量%より多い場合、続く焼結中における収縮率が高くなる傾向があり、それにより、とりわけ強度と降伏応力に関する製造物品質を低下させる場合がある。概して、大量のポリマー被覆は経済的及び環境的に好ましくない。
【0043】
より少量のポリマー被覆は0.10重量%であるが、量が0.30重量%以上又は0.50重量%以上である場合により顕著な効果が得られる。それゆえ、ポリマー被覆の量の下限は0.30重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.50重量%以上である。
【0044】
ポリマー被覆の量の上限は、粒子の総重量に対して10.00重量%である。更に、収縮率に及ぼす影響を抑えるために、量は5.00重量%以下であることが好ましく、より好ましくは3.00重量%以下であり、更に好ましくは2.00重量%以下であり、なおもより好ましくは1.50重量%以下である。
【0045】
ポリマー被覆中に存在するポリマーは特に限定されないが、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、及び共重合体、並びにこれらの混合物からなるポリマータイプの群から選択されることが好ましい。原則的に、熱、触媒作用又は溶媒処理による分解により除去可能な任意のポリマーを使用することができるが、熱処理により除去可能なポリマーが好ましい。それゆえ、ポリマーは、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなど)、ポリ(メタ)アクリレート(例えば、ブチルアクリレート、ブチルシアノアクリレート、エチルアクリレートなど)、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)及びこれらの共重合体など)、ポリウレタン及びポリビニルピロリドンから選択されることが好ましい。
【0046】
ポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、特性の望ましいバランス、例えば、良好な粘着性と溶媒抽出又は熱処理による良好な除去性を得るには比較的低い重量平均分子量(Mw)が有利であることが分かっている。それゆえ、ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、特に好ましくは1,000~50,000であり、5,000~30,000の分子量が更に好ましい。この範囲のMwはあらゆるポリマーに適用されるが、とりわけポリビニルピロリドンに適用される。それゆえ、1,000~50,000、より好ましくは2,500~40,000、更に好ましくは5,000~30,000の分子量を有するポリビニルピロリドン(PVP)は、本発明の粒子の焼結可能コアの表面上にポリマー被覆を提供するための好ましいポリマーである。ポリビニルピロリドンを任意のコア原料と組み合わせることができるが、好ましい実施形態では、ステンレス鋼製のコアと組み合わせる。
【0047】
ポリマー被覆は、上で概要を述べたポリマーから本質的になっていてもよい。しかしながら、ポリマー被覆中に添加剤を含ませることも可能である。界面活性剤又は湿潤剤の存在により、グリーン部品の製造中に吸収され得る「インク」の量を増加させることができると考えられており、その結果として、グリーンのグリーン強度が増加すると考えられていることから、とりわけ、界面活性剤又は湿潤剤の存在が有益となり得る。界面活性剤はアニオン性、カチオン性及び非イオン性のいずれかであってもよいが、非イオン性が好ましい。非イオン性界面活性剤は1,000以下、好ましくは500以下の(重量平均)分子量(Mw)を有する化合物又はポリマー、例えば、実施例で使用したTego Wet(商標)500に加え、Pluronic(商標)シリーズ(BASF)のアルキレンオキシド界面活性剤などであることが好ましい。湿潤剤は、ポリオール、例えば、ソルビトールなどの糖アルコール、又は、別のポリオール、例えば、グリセロール、エチレングリコール又はプロピレングリコールなどであることが好ましい。
【0048】
本発明の粒子の粒径は特に限定されないが、付加製造プロセスに好適である必要がある。それゆえ、粒径としては、実施例セクションでより詳細に説明した光散乱法を用いて測定した際に、95重量%以上の粒子が100μm以下、好ましくは72μm以下、更に好ましくは50μm以下の直径を有していることが好ましい。
【0049】
粒子の使用及び製造方法
グリーン部品を成形するために粒子を使用する間、液体バインダー組成物(「インク」)を使用して粒子同士を予備的に結合させる。液体バインダー組成物は通常、本発明の粒子のポリマー被覆中におけるポリマー用に上で列挙した同一群のポリマーから選択されるポリマーを含む。液体バインダー組成物(「インク」)中に存在するポリマーは、ポリマー被覆中に存在するポリマーと同一タイプのポリマーであることが好ましいが、このことは必須ではなく、ポリマーは異なるタイプのポリマーであってもよい。ポリマーが同一タイプのポリマーである実施形態は、例えば、ポリマー被覆中のポリマーとインク中に存在するポリマーの両方がポリビニルピロリドンであり、好ましくはそのそれぞれが1,000~50,000、より好ましくは5,000~30,000の範囲のMwを有するような実施形態である。この実施形態は、様々な焼結可能コア、例えば、ステンレス鋼製の焼結可能コアに適用することができる。
【0050】
インクによって結合されていない過剰粉末を除去することによりグリーン部品が成形されると、一般的には、いわゆる「脱バインダー」処理によりポリマー被覆と共にバインダー組成物を除去する必要がある。この工程はそれ自体当該技術分野において周知であり、熱処理、ポリマー被覆とインクの中に存在するポリマーの触媒的分解(例えば、酸で分解可能なポリマーの場合には酸を使用することで)、又は、溶媒抽出により行うことができる。この理由により、一般的には、ポリマー被覆及び/又はインク中に存在するポリマーが水溶性であるか又は蒸発によって容易に除去可能な溶媒、例えば、メタノール、エタノール又はアセトンなどに可溶性である場合が好ましい。水性「インク」及び加熱を行う製造プロセスを考慮しても、水溶性ポリマーが特に好ましい。それゆえ、ポリマー被覆及び/又は「インク」中に存在するポリマーの一方又は両方が水溶性であることが好ましい。
【0051】
脱バインダーは熱で行ってもよい。その場合、グリーン部品を250~500℃の範囲の温度まで加熱することが好ましい。一般的に、ポリマーを除去してブラウン部品を成形するためには、熱による脱バインダー処理を3~10時間行うことで十分である。一般的には、6~8時間以内に良好な脱バインダーを得ることができる。
【0052】
ブラウン部品の成形後、焼結可能粒子をそれらの表面において溶融させて得られた生成物に強度及び整合性をもたらすために、得られたブラウン部品を焼結することが望ましい場合が多い。焼結は通常、ブラウン部品を約1,000~1,500℃の温度まで10~20時間ゆっくりと加熱(例えば、1~5℃/分の加熱範囲)してから、適度な冷却速度(15℃/分以下)で冷却することにより行われる。
【0053】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明する。しかしながら、いかなる様式においても本発明の範囲を限定する意図はなく、本出願の保護範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ確定する。
【実施例
【0054】
実施例1~9及び比較実施例1~3
粒子Aの調製
990gのガスアトマイズステンレス鋼粒子316L(公称組成(重量%)がC0.03、Mn2.00、P0.045、S0.030、Si1.00、Cr16.00~18.00、Ni10.00~14.00、Mo2.00~3.00、残部FeのCarTech(登録商標)316Lの商標名にてCarpenterから入手可能)を混練槽に投入し、オーバーヘッド攪拌機のシャフト用の開口部及び液体の添加を可能とする別の開口部を有する蓋で覆った。
【0055】
それとは別に、25,000の重量平均分子量Mwを有する7.5gのポリビニルピロリドン(PVP)を50mlの溶液(水74.65%、トリエチレングリコール12%、1,2ヘキサンジオール5%、非イオン性界面活性剤3.25%、25,000~30,000のMwを有するPVP5%、及びシアン色素0.1%)へと添加することにより、被覆溶液Aを調製した。得られた混合液を攪拌して溶液中のPVPを溶解させた。
【0056】
オーバーヘッド攪拌機を始動させた後、混練槽の蓋の開口部から全ての被覆溶液Aをゆっくりと添加した。約5分間攪拌した後、被覆溶液Aを添加して得られた粒子をるつぼに移し、それからそのるつぼをオーブンに入れた。粒子を200℃で3時間乾燥させ、少なくとも部分的にポリマー被覆で覆われたステンレス鋼製の焼結可能コアを有する粒子を得た。その後、形成され得たあらゆる凝集塊をばらばらにするために、乾燥させた粒子を粉砕した。それに続き、71μmを超えるサイズを有する全ての粒子を除去するために粒子をふるいにかけた。
【0057】
被覆溶液Aが10gのPVPを含有し、ステンレス鋼粒子の量が990gであったため、目標量のPVPは粒子の全体に対して1重量%であった。るつぼへの移し入れによるロス、及び、るつぼの側壁及び/又は混合装置に残った液体によるロスにより、実際のPVP含有量はより少なく、0.68重量%と測定された(表1を参照のこと)。
【0058】
粒子A´の調製
被覆溶液Aの添加後に得られた粒子を200℃で3時間乾燥させる前に150℃で2時間予備乾燥させること以外は粒子Aと同じ方法で粒子A´を調製した。
【0059】
得られた粒子A´は、粒子Aと比較してより少ない量である0.51重量%のポリマー被覆を有していたが、そのことは、粒子Aと比較してより多い量の被覆溶液A成分が予備乾燥中に蒸発したことにより説明することができる。
【0060】
粒子Bの調製
被覆溶液Aの代わりに被覆溶液Bを使用すること以外は粒子Aと同じ方法で粒子Bを調製した。被覆溶液Bは、7.5gのPVP(Mw=25,000)を50mlの溶液(水84.4%、エチレングリコール10%、15,000のMwを有するPVP5%、Tego Wet 500(非イオン性界面活性剤、オキシラン2-メチル、オキシラン、モノ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エーテルを含むポリマー、CAS 204336-40-3)0.5%、及びアシッドレッド色素(CAS 3734-67-6)0.1%)へと添加することにより得られる溶液である。
【0061】
ポリマー被覆の量は0.51重量%であることが判明した(表1を参照のこと)。
【0062】
粒子B´の調製
被覆溶液Aの代わりに上記被覆溶液Bを使用し、150℃の代わりに120℃の温度で予備乾燥を行うこと以外は粒子A´と同じ方法で粒子B´を調製した。
【0063】
ポリマー被覆の量は0.64重量%であることが判明し、120℃では成分の架橋が生じることにより乾燥プロセス中に蒸発する成分の量が減少し得ることが示された(表1を参照のこと)。
【0064】
ついでに言うと、本発明では、ISO 11357-1:2016及び11358-1:2014に従いアルゴン5.0雰囲気を使用するSTA 449 F3 Jupiter(登録商標)(Netzschから入手可能)を用いたSTAにより、ポリマー被覆の量を測定してもよい。例えば、SS-ISO 13320-1に従いHelos粒度分析(Sympatec)を使用するレーザー回折法により粒径を測定してもよい。
【0065】
基準粒子
基準粒子として、ガスアトマイズステンレス鋼粒子316L(CarTech 316Lの商標名にてCarpenterから入手可能)を何ら更なる処理をせずに使用した。
【0066】
TRSバーの作製
規定寸法のプラスチックモールドを用いて、グリーン強度を評価するための三点曲げ試験の実施に必要な30mm × 10mm(長さ × 幅)、おおよそ6mm(高さ)のTRSバーを作製した。
【0067】
表1に示す粒子をバー形状に配置した後、3DP法(バインダー組成物/湿潤インクをインクジェットヘッドから粒子床上に射出してグリーン部品を成形する)で使用する湿潤インクA又はB(バインダー組成物)を手動で添加することにより粒子を共に予備結合させた。可変容量ピペット(Finnpipette F1、Thermo Scientific)を使用して添加を行った。それぞれの実施例と比較実施例用の湿潤インクの量に加え、湿潤インクAとBの組成を表1に示す。これらは、被覆溶液A及びBの調製においてPVPを添加した溶液に対応している。
【0068】
湿潤インクの添加後、オーブン内でバーを200℃で3時間乾燥させ、冷めると型枠から取り出した。その後、グリーン強度試験、及び、TRSバーのポリマー含有量を測定するための熱解析(STA)を行った。
【0069】
STAは上で概要を述べたとおりに実施した。グリーン強度については以下の方法により評価した。
【0070】
グリーン強度の測定
ISO 3995:1985に従う抗折力(TRS)、三点曲げ試験によりGSを得る。
【0071】
固定間隔の2つの支持体上に試験片(TRSバー)を配置し、その後、試験片の中央に上から力を加える。試料が破損する前に加えられた最大力をグリーン強度として記録する。試験片(TRSバー)が長方形であるため、以下に示す式、
【数1】

を使用して最大グリーン強度を得ることができるが、これらの語句は以下の意味を有する(図2も参照のこと)。
GS:グリーン強度(MPa)
P:力(N)
S=支持ローラー間の距離(mm)
h:試験片の高さ(mm)
b:試験片の幅(mm)(図2のL(四角試験片の幅)と等しい)
グリーン強度を測定するために、TRSバーの寸法を測定した。その後、ISO 3995:1985に従い三点曲げ装置でTRSバーの試験を行った。フォーストランスデューサー(TH-UM T-Hydronics Inc)でフォースシグナルを受信し、フォースインディケーター(Nobel Elektronik BKI-5)で記録した。原料及び結果については以下の表1にまとめている。
【表1】

被覆溶液タイプA:
7.5gのPVP(Mw=25,000)を50mlの溶液(水74.65%、トリエチレングリコール12%、1,2ヘキサンジオール5%、非イオン性界面活性剤3.25%、25,000~30,000のMwを有するPVP5%、及びシアン色素0.1%)へと添加することにより調製した溶液
被覆溶液タイプB:
7.5gのPVP(Mw=25,000)を50mlの溶液(水84.4%、エチレングリコール10%、15,000のMwを有するPVP5%、Tego Wet 500(非イオン性界面活性剤、オキシラン2-メチル、オキシラン、モノ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エーテルを含むポリマー、CAS 204336-40-3)0.5%、及びアシッドレッド色素(CAS 3734-67-6)0.1%)へと添加することにより調製した溶液
湿潤インクA:
水74.65%、トリエチレングリコール12%、1,2ヘキサンジオール5%、非イオン性界面活性剤3.25%、25,000~30,000のMwを有するPVP5%、及びシアン色素0.1%
湿潤インクB:
水84.4%、エチレングリコール10%、15,000のMwを有するPVP5%、Tego Wet 500(非イオン性界面活性剤、オキシラン2-メチル、オキシラン、モノ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エーテルを含むポリマー、CAS 204336-40-3)0.5%、及びアシッドレッド色素(CAS 3734-67-6)0.1%
【0072】
表1に提供した結果から以下の内容を導くことができる。
【0073】
基準粒子(表面被覆していない)を使用した比較実施例1では2.7MPaのグリーン強度となる。この強度は多くの用途において十分ではあるが、粉末床3Dプリンター加工ユニットから取り出す際にグリーン部品が変形又は破損するリスクが高くなる薄い又は壊れやすい構造物の場合には不十分である。更に、粒子はその表面上を保護されていないため、作製と3D製造プロセスの間に粒子を保管していると、表面変化が生じる場合がある。
【0074】
湿潤インク(グリーン部品を成形するためのバインダー組成物)の量を増加させることによってグリーン部品のグリーン強度を増加させる試みは失敗した。逆に、グリーン強度は、比較実施例1の2.7MPaから比較実施例2の1.7MPaに低下した。このことは、非被覆ポリマー粒子において、バインダー/湿潤インクの量を単純に増加させることではグリーン強度の増加を達成できないということを示している。事実、比較実施例2のグリーン強度は極めて低い。
【0075】
別のタイプの湿潤インク(湿潤インクB)を代わりに使用した際にも同様の結果が得られた。比較実施例3のグリーン強度は比較実施例2の場合よりも高かったが、そのグリーン強度は、少ない量の湿潤インク(0.63ml)で得られたグリーン強度(比較実施例1で得られた)をなおも下回っている。それゆえ、比較実施例2及び3は、湿潤インクの量を増加させることによって非被覆粒子のグリーン強度を増加させることはできず、それどころか実際にはグリーン強度が低下してしまうということを示している。
【0076】
被覆粒子Aを使用した以外は比較実施例1と同じ方法で実施例1を実施した。しかしながら、湿潤インクの量は同一であった。実施例1では2.1MPaのグリーン強度となり、この強度は、多くの用途、例えば、極めて高いグリーン強度を必要としない固体構造物の作製には十分である。
【0077】
実施例2は、湿潤インクの量を1.26mlと2倍にした以外は実施例1に正確に対応している。しかしながらその結果、比較実施例2で得られた結果とは逆に、グリーン強度の3.9MPaへの有意な増加を達成することができた。このことは、本発明の粒子が、非被覆基準粒子とは逆に、湿潤インクの量を単純に増加させることによってグリーン強度を増加させることができるという点でより汎用性があることを示している。
【0078】
実施例3で同様の傾向が得られた。ここでは、0.63mlの湿潤インクの量が1.5MPaのグリーン強度をもたらしたが、この強度は高いグリーン強度を必要としない中実の目的物には十分である。更に、湿潤インクの量を1.26mlへと増加させることによって、グリーン強度を4.4MPaにまで高めることができた。それゆえ、実施例3及び4は、たとえ湿潤インクAを湿潤インクBに置き換えていても、実施例1と2の結果を裏付けるものである。
【0079】
実施例5~9も、湿潤インクの量の増加が少なくとも3MPaへのグリーン強度の有意な増加をもたらすという点で実施例1~4で得られた結果を裏付けるものである。この理由は明確ではないが、実施例4~9を比較すると、粒子A´及びB´と比較してより高いグリーン強度を粒子A及びBが概ねもたらすということは明らかである。これらの粒子間の違いは、200℃で3時間乾燥させる前に、120又は150℃で2時間の予備乾燥工程で被覆溶液の乾燥を実施したという点のみである。予備乾燥なしで迅速に乾燥処理を行うことにより、おそらくは被覆中のポリマーの架橋に起因する異なる表面構造がもたらされ、それに続いてより高いグリーン強度がもたらされるものと思われる。この点において、実施例2、4、8及び9で得られたグリーン強度が3.9MPa以上である一方で、実施例5、6及び7(粒子A´又はB´を使用)ではそのグリーン強度が3.2~3.3MPaのオーダーであったことは注目に値する。
【0080】
実施例10~13
被覆溶液A/Bに添加したPVP(25,000のMw)の量を1重量%(粒子A及びB)ではなく2重量%の理論上のPVP含有量に到達するように増加させること以外はポリマー粒子A及びBと類似の方法でポリマー粒子C及びDを調製した。それゆえ、316Lステンレス鋼粒子の量は980gに減少させた。
【0081】
更に、「サイクロミックス高せん断衝突型ミキサー」(Hosokava Micron B.V.)を使用することにより混練プロセスを変更した。このミキサーは約10kgの容量を有しており、混練中に真空を生じさせることができ、混練槽を最大150℃にまで加熱することも可能である。回転速度は60~1750rpmの間で変化させることができる。
【0082】
被覆溶液B´を使用する粒子Dでは、被覆溶液Bと比較してPVPの量を増加させるだけではなく、界面活性剤(Tego Wet)含有量も2.5%に増加させ、別の界面活性剤(BYK DYNWET(商標)800 N、アルコールアルコキシレート)を2.5%の量で添加した。被覆溶液A´とB´の正確な組成については以下の表2に示す。全ての316L SS粒子を混練槽に投入して混練プロセスを開始した。それから、真空を生じさせ、混練を160rpmで開始し、加熱を110℃に向けて増加させた。110℃に到達すると、混練と真空ポンプの稼働を維持しつつ、20mlの予備混合済み被覆溶液を5分毎に注入した。
【0083】
全ての被覆溶液を注入した後、温度を150℃に上昇させ、この温度を1時間維持した。それに続き、真空引きと加熱を停止し、被覆粒子を鉄/綱るつぼに流し込み、乾燥させるためにそのるつぼをオーブン内に入れた(200℃で3時間)。
【0084】
そのポリマー被覆含有量について得られた粒子を解析した。更に、実施例1~9について上に記載したものと同じ方法で、TRS試験バー(グリーン部品)を作製し、そのグリーン強度及びポリマー含有量について試験を行った。結果については表2にまとめている。
【表2】

被覆溶液タイプA´:
16.25gのPVP(Mw=25,000)を50mlの溶液(水74.65%、トリエチレングリコール12%、1,2ヘキサンジオール5%、非イオン性界面活性剤3.25%、25,000~30,000のMwを有するPVP5%、及びシアン色素0.1%)へと添加することにより調製した溶液
被覆溶液タイプB´:
16.25gのPVP(Mw=25,000)を50mlの溶液(水79.9%、エチレングリコール10%、15,000のMwを有するPVP5%、Tego Wet 500(非イオン性界面活性剤、オキシラン2-メチル、オキシラン、モノ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エーテルを含むポリマー、CAS 204336-40-3)2.5%、BYK DYNWET 800 N 2.5%、及びアシッドレッド色素(CAS 3734-67-6)0.1%)へと添加することにより調製した溶液
湿潤インクA:
水74.65%、トリエチレングリコール12%、1,2ヘキサンジオール5%、非イオン性界面活性剤3.25%、25,000~30,000のMwを有するPVP5%、及びシアン色素0.1%
湿潤インクB:
水84.4%、エチレングリコール10%、15,000のMwを有するPVP5%、Tego Wet 500(非イオン性界面活性剤、オキシラン2-メチル、オキシラン、モノ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エーテルを含むポリマー、CAS 204336-40-3)0.5%、及びアシッドレッド色素(CAS 3734-67-6)0.1%
【0085】
グリーン部品中のポリマー量の増加が最終目的物に何らかの問題又は高い気孔率をもたらすかどうかを評価するために、更なる試験を実施した。この試験用に、3Dプリンター(Digital Metal P0601)を使用して、表2に示す湿潤インクAを用いた基準粒子から11 × 11 × 7mmの立方体(基準立方体)を、湿潤インクAを用いた粒子Cから立方体(立方体A)を、湿潤インクBを用いた粒子Cから立方体(立方体B)をプリントした。グリーン部品を熱で脱バインダー(350℃で180分間)してから、焼結し(温度プロファイル:温度を1100℃まで3℃/分で上昇させて、15分間の保持時間を設け、温度を1360℃まで3℃/分で上昇させて、120分間の保持時間を設け、温度を1060℃まで2℃/分で下降させて、240分間の保持時間を設け、温度を室温まで10℃/分で下降させる)、相対密度(バルクステンレス鋼と比較)を測定した。
【0086】
基準粒子(非被覆)は97.8%の相対密度を達成した。本発明の粒子から得た試験立方体AとBの相対密度は、脱バインダーと焼結中に完全には粒子のコア原料が充填され得ないというポリマーの容積増加を考慮して、いくぶん低いと予想されたが、それにもかかわらず、97.3%(立方体A)と97.5%(立方体B)という極めて良好な相対密度が得られた。
【0087】
更に、焼結中における平均収縮率を測定した。基準粉末で測定された平均収縮率は15%であった一方で、本発明の粒子の平均収縮率は18%(立方体A)~24%(立方体B)となった。このことは、グリーン強度の増加には、ごくわずかから中程度の収縮率増加及びわずかから中程度の相対密度低下が伴うということを示している。
図1
図2