(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】円偏波アンテナ用給電回路
(51)【国際特許分類】
H01P 5/16 20060101AFI20220707BHJP
H01P 5/08 20060101ALI20220707BHJP
H01Q 13/08 20060101ALN20220707BHJP
【FI】
H01P5/16 C
H01P5/08 Z
H01Q13/08
(21)【出願番号】P 2020000527
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2021-11-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165848
【氏名又は名称】原田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】今村 豊
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-056204(JP,A)
【文献】特開平06-169219(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026107(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/00- 5/22
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円偏波アンテナに給電するための
円偏波アンテナ用給電回路であって、該円偏波アンテナ用給電回路は、
入力信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する合成分配部と、
前記合成分配部により分配される2つの経路と円偏波アンテナの2つの給電点との間にそれぞれ接続される2つの位相シフト回路を有する位相シフト部であって、円偏波アンテナの2つの給電点へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する位相シフト部と、
を具備することを特徴とする円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項2】
請求項1に記載の円偏波アンテナ用給電回路において、前記位相シフト部は、一方の位相シフト回路が位相遅れ回路からなり、他方の位相シフト回路が位相進み回路からなることを特徴とする円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の円偏波アンテナ用給電回路において、前記位相シフト部は、一方の位相シフト回路が-45度位相をシフトし、他方の位相シフト回路が+45度位相をシフトすることを特徴とする円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の円偏波アンテナ用給電回路において、前記位相シフト部は、一方の位相シフト回路がローパスフィルタ回路構成であり、他方の位相シフト回路がハイパスフィルタ回路構成であることを特徴とする円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の円偏波アンテナ用給電回路において、前記
2つの位相シフト回路の一方の位相シフト回路がCLのL型フィルタ回路、CLCのπ型フィルタ回路、LCLのT型フィルタ回路、
CLCのπ型多段回路、又は
LCLのT型多段回路であり、
2つの位相シフト回路の他方の位相シフト回路がLCのL型フィルタ回路、LCLのπ型フィルタ回路、CLCのT型フィルタ回路、
LCLのπ型多段回路、又は
CLCのT型多段回路であることを特徴とする円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の円偏波アンテナ用給電回路において、前記位相シフト部は、集中定数回路で構成されることを特徴とする円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の円偏波アンテナ用給電回路において、前記合成分配部は、集中定数回路又は分布定数回路で構成されるウィルキンソン回路からなることを特徴とする円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項8】
4点給電円偏波アンテナに給電するための
4点給電円偏波アンテナ用給電回路であって、該4点給電円偏波アンテナ用給電回路は、
第1入力端子からの信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する第1合成分配部と、該第1合成分配部により分配される2つの経路と円偏波アンテナの4つの給電点のうち2つの給電点との間にそれぞれ接続される2つの第1位相シフト回路を有する第1位相シフト部であって、円偏波アンテナの4つの給電点のうち2つの給電点へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する第1位相シフト部と、からなる第1給電回路と、
第2入力端子からの信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する第2合成分配部と、該第2合成分配部により分配される2つの経路と円偏波アンテナの4つの給電点のうち残りの2つの給電点との間にそれぞれ接続される2つの第2位相シフト回路を有する第2位相シフト部であって、円偏波アンテナの4つの給電点のうち残りの2つの給電点へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する第2位相シフト部と、からなる第2給電回路と、
入力信号を2つの経路に180度の位相差を有するように分配する180度合成分配部であって、180度合成分配部により分配される2つの経路が第1入力端子と第2入力端子にそれぞれ接続され、第1入力端子と第2入力端子へ位相差が180度となる信号をそれぞれ出力する180度合成分配部と、
を具備することを特徴とする4点給電円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項9】
請求項8に記載の4点給電円偏波アンテナ用給電回路において、前記180度合成分配部は、
入力信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する第3合成分配部と、
前記第3合成分配部により分配される2つの経路と第1入力端子及び第2入力端子との間にそれぞれ接続される2つの第3位相シフト回路を有する第3位相シフト部と、
からなることを特徴とする4点給電円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項10】
請求項8に記載の4点給電円偏波アンテナ用給電回路において、前記180度合成分配部は、180度ラットレース回路からなることを特徴とする4点給電円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項11】
請求項8に記載の4点給電円偏波アンテナ用給電回路において、前記180度合成分配部は、
入力信号を2つの経路に90度の位相差を有するように分配する90度ハイブリッド回路と、
前記90度ハイブリッド回路により分配される2つの経路の一方の経路に接続される90度位相シフト回路と、からなり、
前記90度位相シフト回路からの経路が第1入力端子に接続され、90度ハイブリッド回路により分配される2つの経路の他方の経路が第2入力端子に接続される、
ことを特徴とする4点給電円偏波アンテナ用給電回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円偏波アンテナ用給電回路に関し、特に、2点給電のパッチアンテナに適した円偏波アンテナ用給電回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、円偏波アンテナ、具体的には、円偏波に対応するパッチアンテナは、GNSS(Global Navigation Satellite System:衛星測位システム)用アンテナ等で広く用いられている。円偏波アンテナは、放射素子と地導体の間にセラミックや誘電体基板等が介在して構成されるパッチアンテナが知られている。円偏波アンテナには、1点給電のものや2点給電のものがある。
【0003】
ここで、2点給電の円偏波アンテナの場合、それぞれに給電する信号の位相差が90度となるように給電することで、円偏波に対応可能となる。このような位相差を持った給電回路としては、例えば特許文献1に開示のものがある。特許文献1に開示のものは、入力端子にウィルキンソン回路が接続され、2つに分配された信号をそれぞれ出力する出力端子の一方に、90度の位相遅れ回路を1つ用いた位相シフト部が接続され、90度の位相差となるような2つの経路が2点給電の給電点に接続されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示のものは、2つの出力端子の一方の経路のみに位相シフト部が接続された上で2点給電の給電点に接続されるものであるため、位相シフト回路が接続されていない経路と比べて、位相シフト回路がある分、僅かであるが振幅が減衰してしまう問題があった。また、位相シフト回路は、特定の周波数帯域において90度の位相差が得られると共に振幅の減衰量が最小となるように設定された回路である。ここで、給電回路の90度の位相差が得られる周波数帯域や、振幅の減衰量を抑えることが可能な周波数帯域は、比較的狭帯域である。具体的には、GNSSで用いられる周波数帯域のうち、1559MHz-1610MHz(Upper-L Band)の周波数帯域において実用可能な位相差及び振幅比が得られるものであった。
【0006】
近年、GNSS用アンテナでは、上述の1559MHz-1610MHz(Upper-L Band)の周波数帯域に加え、1164MHz-1300MHzの(Lower-L Band)の周波数帯域を含めたGNSSフルバンド対応が求められている。しかしながら、特許文献1に開示のものでは、1164MHz-1300MHzの周波数帯域において実用可能な位相シフト量を得ること、及び振幅の減衰量を抑えることは困難であった。このため、特許文献1に開示の給電回路では、Lower-L BandからUpper-L Bandにわたる広帯域においては、2つの出力端子の位相差が90度からずれてしまい、また、振幅比が大きくなるにしたがって円偏波特性の指標である軸比特性が劣化してしまっていた。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、円偏波アンテナの2つの給電点に給電するための2つの経路間の位相差を広帯域わたって安定させると共に、振幅比も広帯域にわたって小さい円偏波アンテナ用給電回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による円偏波アンテナ用給電回路は、入力信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する合成分配部と、合成分配部により分配される2つの経路と円偏波アンテナの2つの給電点との間にそれぞれ接続される2つの位相シフト回路を有する位相シフト部であって、円偏波アンテナの2つの給電点へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する位相シフト部と、を具備するものである。
【0009】
ここで、位相シフト部は、一方の位相シフト回路が位相遅れ回路からなり、他方の位相シフト回路が位相進み回路からなるものであれば良い。
【0010】
また、位相シフト部は、一方の位相シフト回路が-45度位相をシフトし、他方の位相シフト回路が+45度位相をシフトするものであれば良い。
【0011】
また、位相シフト部は、一方の位相シフト回路がローパスフィルタ回路構成であり、他方の位相シフト回路がハイパスフィルタ回路構成であれば良い。
【0012】
また、一方の位相シフト回路がCLのL型フィルタ回路、CLCのπ型フィルタ回路、LCLのT型フィルタ回路、又はその多段回路であり、他方の位相シフト回路がLCのL型フィルタ回路、LCLのπ型フィルタ回路、CLCのT型フィルタ回路、又はその多段回路であれば良い。
【0013】
また、位相シフト部は、集中定数回路で構成されるものであれば良い。
【0014】
また、合成分配部は、集中定数回路又は分布定数回路で構成されるウィルキンソン回路からなるものであれば良い。
【0015】
また、4点給電円偏波アンテナに給電するための給電回路は、第1入力端子からの信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する第1合成分配部と、該第1合成分配部により分配される2つの経路と円偏波アンテナの4つの給電点のうち2つの給電点との間にそれぞれ接続される2つの第1位相シフト回路を有する第1位相シフト部であって、円偏波アンテナの4つの給電点のうち2つの給電点へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する第1位相シフト部と、からなる第1給電回路と、第2入力端子からの信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する第2合成分配部と、該第2合成分配部により分配される2つの経路と円偏波アンテナの4つの給電点のうち残りの2つの給電点との間にそれぞれ接続される2つの第2位相シフト回路を有する第2位相シフト部であって、円偏波アンテナの4つの給電点のうち残りの2つの給電点へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する第2位相シフト部と、からなる第2給電回路と、入力信号を2つの経路に180度の位相差を有するように分配する180度合成分配部であって、180度合成分配部により分配される2つの経路が第1入力端子と第2入力端子にそれぞれ接続され、第1入力端子と第2入力端子へ位相差が180度となる信号をそれぞれ出力する180度合成分配部と、を具備するものであれば良い。
【0016】
ここで、180度合成分配部は、入力信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する第3合成分配部と、第3合成分配部により分配される2つの経路と第1入力端子及び第2入力端子との間にそれぞれ接続される2つの第3位相シフト回路を有する第3位相シフト部と、からなるものであれば良い。
【0017】
また、180度合成分配部は、180度ラットレース回路からなるものであっても良い。
【0018】
また、180度合成分配部は、入力信号を2つの経路に90度の位相差を有するように分配する90度ハイブリッド回路と、90度ハイブリッド回路により分配される2つの経路の一方の経路に接続される90度位相シフト回路と、からなり、90度位相シフト回路からの経路が第1入力端子に接続され、90度ハイブリッド回路により分配される2つの経路の他方の経路が第2入力端子に接続される、ものであっても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の円偏波アンテナ用給電回路には、円偏波アンテナの2つの給電点に給電するための2つの経路間の位相差を広帯域わたって安定させると共に、振幅比も広帯域にわたって小さいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を説明するための概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を説明するための具体的な回路図である。
【
図3】
図3は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の合成分配部を分布定数回路で構成した場合の一例を説明するための概略平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の位相シフト部の他の回路構成を説明するための回路図である。
【
図5】
図5は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の周波数特性のグラフである。
【
図6】
図6は、比較例の従来技術の周波数特性のグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4つの給電点に給電するように構成した例を説明するための具体的な回路図である。
【
図8】
図8は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4つの給電点に給電するように構成した他の例を説明するための具体的な回路図である。
【
図9】
図9は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4つの給電点に給電するように構成したさらに他の例を説明するための具体的な回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。
図1は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を説明するための概略ブロック図である。本発明の円偏波アンテナ用給電回路は、円偏波アンテナ1に給電するための給電回路である。なお、図示例の円偏波アンテナ1は、2つの給電点P2,P3から給電される2点給電のパッチアンテナであれば良い。図示の通り、本発明の円偏波アンテナ用給電回路は、合成分配部10と、位相シフト部20とからなる。
【0022】
合成分配部10は、ポートP1からの入力信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配するものである。分配された2つの経路は、後述の位相シフト部20に接続されている。合成分配部10は、集中定数回路や分布定数回路で構成されるものであれば良い。集中定数回路とは、コンデンサやコイルがチップ部品やリード部品等からなるディスクリート部品が用いられる回路である。また、分布定数回路とは、伝送線路により構成されるものや、例えば回路基板上にパターンニングによりコイルやコンデンサが形成されるものである。
【0023】
位相シフト部20は、2つの位相シフト回路21,22を有するものである。2つの位相シフト回路21,22は、合成分配部10により分配される2つの経路と円偏波アンテナ1の2つの給電点P2,P3との間にそれぞれ接続されている。即ち、2つの給電点P2,P3への経路には、それぞれ位相シフト回路21,22が介在する。また、位相シフト回路21,22は、例えば集中定数回路で構成されるものである。即ち、コンデンサやコイルがチップ部品やリード部品等からなるディスクリート部品が用いられれば良い。位相シフト部20は、円偏波アンテナ1の2つの給電点P2,P3へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力するものである。例えば、一方の位相シフト回路21が位相遅れ回路からなり、他方の位相シフト回路22が位相進み回路からなるものであれば良い。例えば、位相シフト回路21が-45度位相をシフトする回路(位相遅れ回路)であれば、位相シフト回路22は+45度位相をシフトする回路(位相進み回路)である。このように、2つの位相シフト回路21,22の位相差(差分)が90度となるものであれば良い。なお、位相シフト部20が位相遅れ回路だけで構成されるものであれば、λ/4の伝送線路等で構成可能である。図示例の円偏波アンテナ用給電回路では、位相シフト部20が位相遅れ回路だけでなく位相進み回路も用いており、集中定数回路で構成されている。なお、これは、コイルやコンデンサをパターンニングで形成した分布定数回路で構成されても良い。また、位相シフト部20が伝送線路による分布定数回路で構成される場合には、例えば位相シフト回路21が-45度位相をシフトする回路(位相遅れ回路)、位相シフト回路22が-135度位相をシフトする回路(位相遅れ回路)というように、両方が位相遅れ回路で構成され、位相差としては90度となるものであっても良い。
【0024】
図2は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を説明するための具体的な回路図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の合成分配部10は、集中定数回路で構成されるウィルキンソン回路からなるものを示した。図示例のウィルキンソン回路は、位相シフト部20の位相シフト回路21,22へ分配される2つの経路間が抵抗で繋がれる2つのπ型フィルタ回路で構成されている。図示例のπ型フィルタ回路は、具体的にはそれぞれCLCのπ型nローパスフィルタ回路であり、合成分配部10のポートP1と位相シフト部20との間の経路にコイルが直列に接続されると共に、グラウンドに接続された2つのコンデンサがコイルの両端にそれぞれ接続される。なお、ウィルキンソン回路である合成分配部10の並列に接続されるπ型フィルタ回路は、図示例には限定されず、フィルタ回路構成であれば、ローパスフィルタ回路構成であってもハイパスフィルタ回路構成であっても良く、また、L型フィルタ回路やT型フィルタ回路、その多段回路等であっても良い。また、合成分配部10のフィルタ回路の中心周波数は、具体的にはGNSSフルバンド(1164MHz-1610MHz)の通過帯域の中心周波数である例えば1387MHzであれば良い。
【0025】
また、上述の通り、合成分配部10は、入力信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配可能なものであれば良く、集中定数回路で構成されるものだけでなく、分布定数回路で構成されても良い。
図3は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の合成分配部を分布定数回路で構成した場合の一例を説明するための概略平面図である。図示例の合成分配部10は、特性インピーダンスが√2Z
0の2本のλ/4伝送線路で分配する形状を有するものであり、位相シフト部20へ分配される2つの伝送線路間が2Z
0の抵抗を介して接続されるものである。本発明の円偏波アンテナ用給電回路では、このような分布定数回路で構成される合成分配部を用いても良い。
【0026】
再度
図2を参照すると、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の位相シフト部20は、一方の位相シフト回路21がローパスフィルタ回路構成であり、他方の位相シフト回路22がハイパスフィルタ回路構成である。図示例の位相シフト回路21は、CLCのπ型フィルタ回路である。具体的には、合成分配部10と給電点P2と間の経路にコイルが接続されると共に、グラウンドに接続された2つのコンデンサがコイルの両端にそれぞれ接続される。また、位相シフト回路22は、LCLのπ型フィルタ回路である。具体的には、合成分配部10と給電点P3との間の経路にコンデンサが直列に接続されると共に、グラウンドに接続された2つのコイルがコンデンサの両端にそれぞれ接続される。
【0027】
このように構成されることで、ポートP1からの入力信号が合成分配部10で同相且つ同振幅で分配され、位相シフト部20の位相シフト回路21及び位相シフト回路22にそれぞれ入力され-45度及び+45度に位相をシフトした上で2つの給電点P2,P3へ位相差が90度となる信号がそれぞれ入力される円偏波アンテナ用給電回路となる。
【0028】
ここで、
図4を用いて位相シフト部の他の回路構成の例について説明する。
図4は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の位相シフト部の他の回路構成を説明するための回路図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。
図4(a)-
図4(d)が位相シフト回路21の変形例であり、
図4(e)-
図4(h)が位相シフト回路22の変形例である。
【0029】
図4(a)に示される通り、位相シフト回路21は、LCのL型フィルタ回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P2との間の経路にコイルが直列に接続されると共に、グラウンドに接続されたコンデンサが給電点P2側に接続される。また、
図4(e)に示される通り、位相シフト回路22は、CLのL型フィルタ回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P3との間の経路にコンデンサが直列に接続されると共に、グラウンドに接続されたコイルが給電点P3側に接続される。
【0030】
また、
図4(b)に示される通り、位相シフト回路21はLCLのT型フィルタ回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P2との間の経路にコイルが直列に2つ接続されると共に、グラウンドに接続されたコンデンサが2つのコイルの間に接続される。また、
図4(f)に示される通り、位相シフト回路22は、CLCのT型フィルタ回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P3との間の経路にコンデンサが直列に2つ接続されると共に、グラウンドに接続されたコイルが2つのコンデンサの間に接続される。
【0031】
また、
図4(c)に示される通り、位相シフト回路21はCLCのπ型多段回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P2との間の経路にコイルが直列に2つ接続されると共に、グラウンドに接続された3つのコンデンサが2つのコイル間及び直列のコイルの両端にそれぞれ接続される。また、
図4(g)に示される通り、位相シフト回路22は、LCLのπ型多段回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P3との間の経路にコンデンサが直列に2つ接続されると共に、グラウンドに接続された3つのコイルが2つのコンデンサ間及び直列のコンデンサの両端にそれぞれ接続される。
【0032】
また、
図4(d)に示される通り、位相シフト回路21はLCLのT型多段回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P2との間の経路にコイルが直列に3つ接続されると共に、グラウンドに接続された2つのコンデンサが3つのコイルの間にそれぞれ接続される。また、
図4(h)に示される通り、位相シフト回路22は、CLCのT型多段回路であっても良い。具体的には、合成分配部10と給電点P3との間の経路にコンデンサが直列に3つ接続されると共に、グラウンドに接続された2つのコイルが3つのコンデンサの間にそれぞれ接続される。
【0033】
このように、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の位相シフト部20は、位相シフト回路21がローパスフィルタ回路構成であり、位相シフト回路22がハイパスフィルタ回路構成であれば良い。また、多段回路構成とすることで、より広帯域化が可能である。なお、位相シフト部20の2つの位相シフト回路21,22を広帯域わたって安定させるために、2つの位相シフト回路21,22は共に同様の回路構成であることが好ましい。即ち、それぞれ
図4(a)と
図4(e)の組み合わせ、
図4(b)と
図4(f)の組み合わせ、
図4(c)と
図4(g)の組み合わせ、
図4(d)と
図4(h)の組み合わせの回路構成とすることが好ましい。これにより、2つの経路の回路を対称パターンで引き回すことが可能となり、2つの経路の浮遊容量も同様となる。したがって、偏差要因を抑制することが可能となるため、広帯域にわたって2つの経路間の位相差を安定させることが可能となる。さらに、2つの経路の回路が同様の回路構成となるため、温度変化に対する変動も同様となるので温度変化にも強いものとなる。なお、位相シフト回路21,22の各中心周波数は、具体的にはGNSSフルバンド(1164MHz-1610MHz)の通過帯域の中心周波数である例えば1387MHzであれば良い。
【0034】
次に、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の周波数特性について説明する。
図5は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路の周波数特性のグラフである。
図5(a)がVSWR特性(S11,S22,S33)を、
図5(b)が経路間の位相差(S21;S31)を、
図5(c)が経路間の振幅比(S21;S31)をそれぞれ表している。
図5のグラフは、具体的には
図2に示されるように、2つの経路にそれぞれ位相遅れ回路及び位相進み回路からなる2つの位相シフト回路を接続し2つの経路間の位相差が90度となるような回路構成の場合のシミュレーショングラフである。また、比較例として従来技術の周波数特性のグラフを
図6に示した。
図6(a)がVSWR特性(S11,S22,S33)を、
図6(b)が経路間の位相差(S21;S31)を、
図6(c)が経路間の振幅比(S21;S31)をそれぞれ表している。
図6のグラフは、具体的には従来技術の特許文献1に開示のもののように、90度の位相遅れ回路を用いた位相シフト回路が合成分配部と2つの給電点との間の一方の経路にのみ介在し、経路間の位相差が90度の位相差となるような回路構成の場合のシミュレーショングラフである。
【0035】
これらの図から分かる通り、従来技術では、1回路で-90度のシフトを行っているため、GNSSフルバンドにおいて、中心周波数(1387MHz)からずれるに従い、特に位相差90度を確保できず大きくずれることが分かる。したがって、1つの位相シフト回路ではGNSSフルバンド対応は困難であることが分かる。
【0036】
一方、本発明の円偏波アンテナ用給電回路では、GNSSフルバンドにおいて、位相シフト回路の位相は中心周波数(1387MHz)からずれるに従い、個々に±45度からずれはするものの、両者は同様にずれていくため、結果として両者の位相差90度を常に確保できていることが分かる。このように、本発明の円偏波アンテナ用給電回路は、2つの給電点に接続される2つの経路間の位相差を広帯域わたって安定させることが可能であることが分かる。また、振幅比も広帯域にわたって小さいことも分かる。したがって、本発明の円偏波アンテナ用給電回路は、GNSSフルバンド対応が可能であることが分かる。
【0037】
次に、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4点給電の円偏波アンテナに応用した場合について説明する。
図7は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4つの給電点に給電するように構成した例を説明するための具体的な回路図である。図中、
図2と同一の符号を付した部分は同一物を表している。4点給電の給電点側は、上述の図示例と同じ給電回路を2つ用いており、これら2つの給電回路の入力端子(P1a,P1b)に180度の位相差を有する信号をそれぞれ入力するように構成したものである。
【0038】
図7に示される例では、上述の図示例と同じ構成の給電回路を3つ用いている。即ち、4点給電円偏波アンテナ用給電回路は、上述の
図2に示される円偏波アンテナ用給電回路と同様にそれぞれ構成される第1給電回路Aと、第2給電回路Bと、180度合成分配部として構成される第3給電回路Cとからなる。
【0039】
第1給電回路Aは、第1合成分配部10aと、第1位相シフト部20aとからなる。第1合成分配部10aは、第1入力端子P1aからの信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配するものである。第1位相シフト部20aは、集中定数回路で構成される2つの第1位相シフト回路21a,22aを有する。2つの第1位相シフト回路21a,22aは、第1合成分配部10aにより分配される2つの経路と4つの給電点P2,P3,P4,P5のうち2つの給電点P2,P3との間にそれぞれ接続されている。第1位相シフト回路21a,22aは、給電点P2,P3へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する。例えば第1位相シフト回路21aが-45度位相をシフトし、第1位相シフト回路22aが+45度位相をシフトするものであれば良い。
【0040】
また、第2給電回路Bは、第2合成分配部10bと、第2位相シフト部20bとからなる。第2合成分配部10bは、第2入力端子P1bからの信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配するものである。第2位相シフト部20bは、集中定数回路で構成される2つの第2位相シフト回路21b,22bを有する。2つの第2位相シフト回路21b,22bは、第2合成分配部10bにより分配される2つの経路と4つの給電点P2,P3,P4,P5のうち残りの2つの給電点P4,P5との間にそれぞれ接続されている。第2位相シフト回路21b,22bは、給電点P4,P5へ位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する。例えば第2位相シフト回路21bが-45度位相をシフトし、第2位相シフト回路22bが+45度位相をシフトするものであれば良い。
【0041】
そして、180度合成分配部として構成される第3給電回路Cは、基本的な構成は第1給電回路A及び第2給電回路Bと同様であるが、入力信号を2つの経路に180度の位相差を有するように分配するように構成されている。第3給電回路Cは、第3合成分配部10cと、第3位相シフト部20cとからなる。第3合成分配部10cは、ポートP1からの入力信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配するものである。第3位相シフト部20cは、集中定数回路で構成される2つの第3位相シフト回路21c,22cを有する。2つの第3位相シフト回路21c,22cは、第1入力端子P1aと第2入力端子P1bへ位相差が180度となる信号をそれぞれ出力する。例えば第3位相シフト回路21cが-90度位相をシフトし、第3位相シフト回路22cが+90度位相をシフトするものであれば良い。
【0042】
このように構成されることで、ポートP1からの入力信号が第3合成分配部10cで同相且つ同振幅で2つの経路に分配され、それぞれ第3位相シフト回路21c及び第3位相シフト回路22cに入力される。そして、2つの経路間の位相差が180度の信号がそれぞれ第1給電回路Aの第1入力端子P1a及び第2給電回路Bの第2入力端子P1bに入力される。第1給電回路Aでは、入力された信号を第1合成分配部10aで同相且つ同振幅で分配し、第1位相シフト回路21a,22aをそれぞれ介して位相差が90度となる信号を給電点P2,P3に入力する。同様に、第2給電回路Bでは、入力された信号を第2合成分配部10bで同相且つ同振幅で分配し、第2位相シフト回路21b,22bをそれぞれ介して位相差が90度となる信号を給電点P4,P5に入力する。即ち、給電点P2には-135度の信号が、給電点P3には-45度の信号が、給電点P4には+45度の信号が、給電点P5には+135度の信号がそれぞれ入力されることになる。
【0043】
さらに、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4点給電の円偏波アンテナに応用した他の例を説明する。
図8は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4つの給電点に給電するように構成した他の例を説明するための具体的な回路図である。図中、
図7と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、この例では、上述の図示例と同じ構成の給電回路を2つ用いている。即ち、4点給電円偏波アンテナ用給電回路は、上述の
図2に示される円偏波アンテナ用給電回路と同様にそれぞれ構成される第1給電回路Aと、第2給電回路Bとを用いている。そして、
図7に示される例と異なり、第1入力端子P1aと第2入力端子P1bへ位相差が180度となる信号をそれぞれ出力する180度合成分配部として、180度ラットレース回路30を用いている。180度ラットレース回路30は、ポートP1からの入力信号を2つの経路に180度の位相差を有するように分配するものである。図示の通り、180度ラットレース回路30により分配される2つの経路は、第1入力端子P1aと第2入力端子P1bにそれぞれ接続される。したがって、第1入力端子P1aと第2入力端子P1bへは、位相差が180度となる信号が入力される。なお、第1給電回路Aと第2給電回路Bの構成は
図7と同様のため、説明は省略する。
【0044】
図示例では180度ラットレース回路30が3つのCLCのπ型フィルタ回路と1つのCLCのT型フィルタ回路を組み合わせたものを示したが、本発明はこれに限定されず、3つのLCLのπ型フィルタ回路と1つのCLCのπ型フィルタ回路を組み合わせた180度ラットレース回路であっても良い。
【0045】
さらにまた、180度合成分配部として、90度ハイブリッド回路と90度位相シフト回路を組み合わせたものを用いても良い。
図9は、本発明の円偏波アンテナ用給電回路を4つの給電点に給電するように構成したさらに他の例を説明するための具体的な回路図である。図中、
図8と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、この例では、180度合成分配部として、90度ハイブリッド回路31と90度位相シフト回路32を用いて第1入力端子P1aと第2入力端子P1bへ位相差が180度となる信号をそれぞれ出力するようにしている。図示の通り、90度ハイブリッド回路31により分配される2つの経路は、ポートP1からの入力信号を2つの経路に90度の位相差を有するように分配するものである。そして、90度ハイブリッド回路31により分配される2つの経路は、その一方の経路に90度位相シフト回路32が接続されている。そして、90度位相シフト回路32からの経路が第1入力端子P1aに接続されている。また、90度ハイブリッド回路31により分配される2つの経路の他方の経路は直接第2入力端子P1bに接続されている。したがって、第1入力端子P1aと第2入力端子P1bへは、位相差が180度となる信号が入力される。なお、第1給電回路Aと第2給電回路Bの構成は
図7と同様のため、説明は省略する。
【0046】
なお、
図7乃至
図9に示される本発明の4点給電円偏波アンテナ用給電回路も、上述の図示例と同様に、集中定数回路や分布定数回路で構成されれば良い。
【0047】
このように、本発明の円偏波アンテナ用給電回路は、2点給電だけでなく4点給電の円偏波アンテナにも種々応用可能である。
【0048】
なお、本発明の円偏波アンテナ用給電回路は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 円偏波アンテナ
10 合成分配部
10a 第1合成分配部
10b 第2合成分配部
10c 第3合成分配部
20 位相シフト部
20a 第1位相シフト部
20b 第2位相シフト部
20c 第3位相シフト部
21 位相シフト回路
21a 第1位相シフト回路
21b 第2位相シフト回路
21c 第3位相シフト回路
22 位相シフト回路
22a 第1位相シフト回路
22b 第2位相シフト回路
22c 第3位相シフト回路
30 180度ラットレース回路
31 90度ハイブリッド回路
32 90度位相シフト回路
A 第1給電回路
B 第2給電回路
C 第3給電回路
P1 ポート
P2,P3,P4,P5 給電点