(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】合わせガラス用中間膜、合わせガラス、エンボスロールの製造方法及び合わせガラス用中間膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220707BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B29C59/04 C
(21)【出願番号】P 2020211453
(22)【出願日】2020-12-21
(62)【分割の表示】P 2016531732の分割
【原出願日】2016-04-08
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2015081180
(32)【優先日】2015-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大水 守正
(72)【発明者】
【氏名】近藤 匡弥
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-154156(JP,A)
【文献】特開平05-147981(JP,A)
【文献】特開昭61-154919(JP,A)
【文献】特開2007-022089(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016358(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B29C 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合わせガラス用中間膜の製造に使用されるエンボスロールの製造方法であって、
金属ロールに研削材を用いたブラスト処理により凹凸を形成するエンボスロール製造工程1と、
前記凹凸を形成した金属ロールの凸部を一部研磨して平滑面を形成するエンボスロール製造工程2と、
前記エンボスロール製造工程1で用いた研削材より微細な研削材を用いたブラスト処理により凹凸を形成するエンボスロール製造工程3とを有し、
前記エンボスロール製造工程3に用いる研削材のJIS R6001(1998)に準拠する累積高さ3%点の粒子径が150μm以下であり、かつ、JIS R6001(1998)に準拠する累積高さ94%点の粒子径が11μm以上である
ことを特徴とするエンボスロールの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法によって製造されたエンボスロールを用いて、エンボスロール法により合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面に多数の凹部を付与する工程を有することを特徴とする合わせガラス用中間膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面に刻線状の凹部を有し合わせガラス製造時に優れた脱気性を発揮できるとともに、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラス、該合わせガラス用中間膜の製造に好適なエンボスロールの製造方法、及び、該合わせガラス用中間膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚のガラス板の間に、可塑化ポリビニルブチラールを含有する合わせガラス用中間膜を挟み、互いに接着させて得られる合わせガラスは、特に車両用フロントガラスとして広く使用されている。
合わせガラスの製造工程において、ガラスと合わせガラス用中間膜とを積層する際の脱気性が重要である。合わせガラス製造時の脱気性を確保する目的で、合わせガラス用中間膜の表面には、微細な凹凸が形成される。とりわけ、凹部を、底部が連続した溝形状を有し、隣接する凹部が平行して規則的に形成される構造(以下、「刻線状の凹部」ともいう。)とすることにより、極めて優れた脱気性を発揮できる。
【0003】
合わせガラスの製造方法では、例えば、ロール状体から巻き出した合わせガラス用中間膜を適当な大きさに切断し、該合わせガラス用中間膜を少なくとも2枚のガラス板の間に挟持して得た積層体をゴムバックに入れて減圧吸引し、ガラス板と中間膜との間に残留する空気を脱気しながら予備圧着し、次いで、例えばオートクレーブ内で加熱加圧して本圧着を行う方法等が行われる。(例えば、特許文献1。)
しかしながら、刻線状の凹部を有する合わせガラス用中間膜では、ロール状体から巻き出したときに、モアレ模様といわれる縞状の光干渉像が出現することがあるという問題があった。モアレ模様が生じると、ガラス板と中間膜の合わせ作業等の合わせガラス製造工程において作業者の目を疲れさせ、作業性の低下を招いてしまう。
【0004】
合わせガラス用中間膜のモアレ現象は、中間膜の両面にエンボスを規則的に配列することにより発生することが知られており、これまでにも種々の解決手段が提案されている(例えば、特許文献2、3等)。しかしながら、刻線状の凹部を有する合わせガラス用中間膜をロール状体から巻き出したときに発生するモアレ模様は、ロール状体にする前には観察されない、加熱することにより消失する等、これまで知られていたモアレ現象とは異なる性質を有するものであり、従来の解決手段では、解決することができないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-26789号公報
【文献】特開2000-7390号公報
【文献】特開2000-319045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、両面に刻線状の凹部を有し合わせガラス製造時に優れた脱気性を発揮できるとともに、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラス、該合わせガラス用中間膜の製造に好適なエンボスロールの製造方法、及び、該合わせガラス用中間膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、両面に多数の凹部を有する合わせガラス用中間膜であって、前記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記底部が連続した溝形状の凹部が規則的に並列し、JIS Z 8741-1997に準拠して測定される前記多数の凹部を有する表面の光沢度が3%を超えるか、又は、JIS K 7105-1981に準拠して測定される合わせガラス用中間膜のヘーズ値が87%以下である合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、刻線状の凹部を有する合わせガラス用中間膜をロール状体にして保管した場合に、巻き出した合わせガラス用中間膜にモアレ模様が発生する原因について検討した。
その結果、ロール状体としたときに刻線状の凹部に対応する凸部同士が接触することに原因があることを見出した。即ち、両面に刻線状の凹部を有する合わせガラス用中間膜をロール状に巻き取った場合、刻線状の凹部に対応する凸部同士が接触する(
図1(a))。ロール状体には、巻き取り時の張力に起因して、芯法線方向に対して応力がかかるため、凸部同士の接点が潰れる。即ち、合わせガラス用中間膜の片面の刻線形状が、反対側の面に転写する(
図1(b))。このように表面に転写された刻線形状と、裏面の刻線形状とは同じピッチ、同じ角度となることから、ロール状体から巻き出した合わせガラス用中間膜に光線が透過したときにモアレ模様が発生するものと考えられる。
本発明者らは、更に鋭意検討の結果、合わせガラス用中間膜の表面の光沢度が一定の値を超える、又は、合わせガラス用中間膜のヘーズ値を一定値以下とすることにより、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成した。これは、モアレ模様が凹部および凸部に起因して膜表面に光線透過率に周期的な高低が生じることを起点として起こるため、凹凸形状による光線透過率の低下を抑制することによりモアレ模様が低減されるためであると考えられる。
【0009】
本発明の合わせガラス用中間膜は、両面に多数の凹部を有する。本発明の合わせガラス用中間膜において上記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、隣接する前記底部が連続した溝形状の凹部が規則的に並列している。一般に、2枚のガラス板の間に合わせガラス用中間膜が積層された積層体を圧着するときの空気の抜け易さは、上記凹部の底部の連通性及び平滑性と密接な関係がある。上記凹部の形状を刻線状とすることにより、該底部の連通性はより優れ、著しく脱気性が向上する。
なお、「規則的に並列している」とは、隣接する上記溝形状の凹部が平行して等間隔に並列していてもよく、隣接する上記刻線状の凹部が平行して並列しているが、すべての隣接する上記刻線状の凹部の間隔が等間隔でなくともよいことを意味する。
図2及び
図3に、溝形状の凹部が等間隔に平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。また、
図4に、溝形状の凹部が等間隔ではないが平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。
図4において、凹部1と凹部2との間隔Aと、凹部1と凹部3との間隔Bとは異なる。また、隣接する凹部が平行して規則的に並列していれば、溝の形状は直線状でなくともよく、例えば、波形状やジグザグ状であってもよい。
【0010】
上記凹部を有する表面は、JIS Z 8741-1997に準拠して測定される75°鏡面光沢度が3%を超える。上記凹部を有する表面の光沢度を3%超とすることにより、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生を抑制することができる。上記光沢度は4%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましい。
本発明の合わせガラス用中間膜において上記凹部は、底部が連続した溝形状を有することから、中間膜は上記光沢計の光源照射依存性を持つ場合がある。すなわち、光源の照射方向に対する合わせガラス用中間膜の上記凹部の溝形状の角度によって、光沢度が変化することがある。そのため、光源の照射方向に対する合わせガラス用中間膜の上記凹部の溝形状の角度を変化させた際に、最小の値を示す光沢度を本発明の合わせガラス用中間膜の光沢度とすることが好ましい。なお、両面に上記凹部を有する場合には、どちらか一方の面の光沢度が3%を超えればよいが、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生をより一層抑制できることから、両面の光沢度が3%を超えることが好ましい。
上記光沢度は、例えば、光沢計(例えば、株式会社村上色彩技術研究所製「GM-26PRO」等)を用いて、JIS Z 8741-1997に記載された測定方法2に従って測定することができる。
【0011】
本発明の合わせガラス用中間膜は、JIS K 7105-1981に準拠して測定されるヘーズ値が87%以下である。上記凹部を有する表面のヘーズ値を87%以下にすることにより、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生を抑制することができる。上記ヘーズ値は84%以下であることが好ましく、82%以下であることがより好ましい。
上記ヘーズ値は、例えば、ヘーズ・透過率計(例えば、村上色彩技術研究所社製「HM-150」等)を用いて、JIS K 7105-1981に記載された測定方法に従って測定することができる。
【0012】
上記凹部を有する表面の粗さ(Rz)の好ましい下限は10μm、好ましい上限は65μmである。上記粗さ(Rz)を10μm以上とすることにより、極めて優れた脱気性を発揮させることができ、65μm以下とすることにより、巻きほぐし時のモアレを低減することができる。上記粗さ(Rz)のより好ましい下限は15μm、より好ましい上限は50μmであり、更に好ましい下限は25μm、更に好ましい上限は40μmである。
なお、本明細書において凹部の粗さ(Rz)とは、JIS B-0601(1994)「表面粗さ-定義及び表示」に規定される、JIS B-0601(1994)に準じる方法により、得られた中間膜の十点平均粗さ(Rz)を意味する。上記凹部の粗さ(Rz)は、例えば、測定機として小坂研究所社製「Surfcorder SE300」を用い、測定時の触針計条件を、カットオフ値=2.5mm、基準長さ=2.5mm、評価長さ=12.5mm、触針の先端半径=2μm、先端角度=60°、測定速度=0.5mm/sの条件で測定を行うことにより測定することができる。この際、測定時の環境を23℃及び30RH%下とする。触針を動かす方向は、刻線形状の溝方向に対して垂直方向とする。
【0013】
上記凹部を有する表面の凹部の間隔Smは450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、350μm以下であることが更に好ましく、250μm以下であることが特に好ましい。これにより合わせガラス用中間膜をロール状に巻き取った場合の、合わせガラス用中間膜同士の自着力を低下させ、巻き出しを容易にすることができる。
上記Smの値が小さいほどモアレ模様は発生しやすくなるが、本発明の合わせガラス用中間膜では、光沢度を一定の値を超えた値とすることによりSmが450μm以下、350μm以下であっても、モアレ模様の発生を抑制することができる。
なお、本明細書において凹部の間隔Smは、例えば、JIS B-0601(1994)「表面粗さ-定義及び表示」に規定される、JIS B-0601(1994)に準じる方法により、得られた中間膜の表面の凹部の平均間隔(Sm)を意味する。上記凹部の間隔Smは、測定機として小坂研究所社製「Surfcorder SE300」を用い、測定時の触針計条件を、カットオフ値=2.5mm、基準長さ=2.5mm、評価長さ=12.5mm、触針の先端半径=2μm、先端角度=60°、測定速度=0.5mm/sの条件で測定を行うことにより測定することができる。この際、測定時の環境を23℃及び30RH%下とする。触針を動かす方向は、刻線形状の溝方向に対して垂直方向とする。
【0014】
上記合わせガラス用中間膜は、一方の面に有する上記刻線状の凹部と、他方の面に有する上記刻線状の凹部との交差角θが10°以上であることが好ましい。これにより合わせガラス用中間膜をロール状に巻き取った場合の、合わせガラス用中間膜同士の自着力を低下させ、巻き出しを容易にすることができる。上記交差角θは、20°以上であることがより好ましく、45°以上であることが更に好ましく、90°であることが特に好ましい。
図6に、交差角θを説明する模式図を示した。
図6において合わせガラス用中間膜10は、第1の表面に実線で表される底部が連続した溝形状の凹部11を、第2の表面に点線で表される底部が連続した溝形状の凹部12を有する。交差角θは、この実線で表される底部が連続した溝形状の凹部11と点線で表される底部が連続した溝形状の凹部12との交差角を表す。
上記交差角θは、例えば、合わせガラス用中間膜を目視または光学顕微鏡により観察し、第1の表面が有する底部が連続した溝形状の凹部と、第2の表面が有する底部が連続した溝形状の凹部との交差角θを、目視の場合は両面ともに凹部に平行にインクにて直線を描き、分度器を用いて描かれた直線同士の鋭角を測定した。光学顕微鏡を用いる場合は拡大した表面を撮影し画像処理ソフト等を用いて鋭角の角度を測定することにより測定することができる。
【0015】
上記刻線状の凹部に応じて形成される凸部も、
図2に示したように頂上部が平面形状であってもよく、
図3に示したように平面ではない形状であってもよい。なお、上記凸部の頂上部が平面形状である場合には、該頂上部の平面に更に微細な凹凸が施されていてもよい。
更に、各凹凸の凸部の高さは、同一の高さであってもよいし、異なる高さであってもよく、上記凹部の深さも、該凹部の底辺が連続していれば、同一の深さであってもよいし、異なる深さであってもよい。
【0016】
上記凸部の回転半径Rは、合わせガラス用中間膜を積層した状態で保管したときの合わせガラス用中間膜同士の接着力(自着力)をより低下させることができることから、120μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが更に好ましく、25μm以下であることが特に好ましい。また、ロール状体としたときに刻線状の凹部に対応する凸部同士が接触した際に、荷重が分散されることで片面の刻線形状が、反対側の面に転写されることを抑えられ、モアレ模様の発生を更により一層抑えられることから、上記凸部の回転半径Rは50μm以上であることが好ましく、120μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることが更に好ましく、300μm以上であることが特に好ましい。
上記凸部の回転半径Rは、例えば、中間膜を刻線状の凹部の方向に対して垂直方向、かつ、膜厚み方向に切断し、その断面をマイクロスコープ(例えば、オリンパス社製「DSX-100」)を用いて観察し、測定倍率を277倍にて撮影し、更に撮影画像を50μ/20mmになるように拡大表示させた状態で、付属ソフト内の計測ソフトを用いて、凸形状の頂点に内接する円を描いたときの該円の半径を該凸部の先端の回転半径とする方法により測定することができる。また、測定時の環境は23℃及び30RH%下である。
図5(b)に凸部の回転半径Rを説明する模式図を示した。
図5(b)において、凸部22の先端部に接する形で円を描いたときに、該円の半径が凸部の回転半径Rである。
【0017】
合わせガラス用中間膜の表面の光沢度が3%を超える値とし、又は、合わせガラス用中間膜のヘーズ値を87%以下とし、両面に刻線状の凹部を付与する方法は特に限定されないが、膜表面に微細な凹凸を付与して合わせガラス用中間膜の表面の光沢度を3%超とする、又は、合わせガラス用中間膜のヘーズ値を87%以下とするための第1の工程と、刻線状の凹部を付与する第2の工程とからなる方法が好適である。
【0018】
合わせガラス用中間膜の表面の光沢度が3%を超える値とし、又は、合わせガラス用中間膜のヘーズ値を87%以下とするための第1の工程は特に限定されないが、例えば、エンボスロール法、カレンダーロール法、異形押出法、メルトフラクチャー現象を制御したエンボス付与法等により微細な凹凸を付与する方法が挙げられる。なかでも、以下の製造例1又は製造例2を用いることにより、達成することができる。
【0019】
製造例1は、エンボスロール法において、特定の製造方法により製造したエンボスロールを用いる方法である。即ち、金属ロールに研削材を用いたブラスト処理により凹凸を形成する工程(エンボスロール製造工程1)と、凹凸を形成した金属ロールの凸部を一部研磨して平滑面を形成する工程(エンボスロール製造工程2)と、エンボスロール製造工程1で用いた研削材よりも微細な研削材を用いたブラスト処理により凹凸を形成する工程(エンボスロール製造工程3)を有する製造工程により製造したエンボスロールを用いて合わせガラス用中間膜の表面の光沢度が3%を超える、又は、ヘーズ値を87%以下とする方法である。
【0020】
上記エンボスロール製造工程1において用いられる金属ロールは、例えば、鉄、炭素鋼、合金鋼、ニッケルクロム鋼、クロム鋼等の金属からなる。なかでも、耐久性に優れることから、炭素鋼または、合金鋼からなるロールが好適である。
【0021】
上記エンボスロール製造工程1においては、上記金属ロールの表面に酸化アルミニウムや酸化珪素等の研削材を用いてブラスト処理を行い、金属ロール表面に凹凸を形成する。なかでも、研削材として酸化アルミニウムが好適である。
上記エンボスロール製造工程1において用いる研削材の粒度は、JIS R6001(1998)で規定されるF20~120であることが好ましく、F30~80であることがより好ましい。
上記エンボスロール製造工程1においてブラスト処理を行う場合の吐出圧は、一般的に40×104~15×105Paであり、所望の粗さを得られるまでブラスト処理を行う。
【0022】
上記エンボスロール製造工程2では、上記エンボスロール製造工程1において凹凸を形成した金属ロールの凸部を一部研磨(半研磨)して平滑面を形成する。即ち、半研磨により、金属ロールの表面に形成された多数の凸部の上部を一様に研磨して平滑にする。これにより、金属ロールの表面の過大な凸部を除くことができる。
上記エンボスロール製造工程2における半研磨に用いる研磨砥石としては、一般にJIS規格のF200~F220又は、#240~#2000の酸化アルミニウムや炭化珪素を用いることができ、#400~#1000が好適に用いられる。なお、研磨砥石としてサンドペーパーを用いることもできる。
【0023】
上記エンボスロール製造工程3では、上記エンボスロール製造工程1で用いた研削材よりも微細な研削材を用いたブラスト処理により凹凸を形成する。
上記エンボスロール製造工程3においては、酸化アルミニウムや酸化珪素等の研削材を用いてブラスト処理を行う。
上記エンボスロール製造工程3においてブラスト処理を行う場合の吐出圧は、一般的に40×104~15×105Paである。
【0024】
上記エンボスロール製造工程3において用いる研削材の粒度は、JIS R6001(1998)で規定されるF150~F360又は#240~#700であることが好ましく、#240~#400であることがより好ましい。このような粒度の研削材を用いることにより、所期の光沢度又はヘーズ値とすることができる。
また、上記エンボスロール製造工程3において用いる研削材は、JIS R6001(1998)に準拠する累積高さ3%点の粒子径が150μm以下であることが好ましく、125μm以下であることがより好ましく、103μm以下であることが更に好ましい。上記累積高さ3%点の粒子径が、上記好ましい範囲であれば、ロール研磨部に形成させる凹凸を微細にでき、結果的に得られる合せガラス用中間膜の光沢度やヘーズ値が過大になることを防ぐことができる。
また、上記エンボスロール製造工程3において用いる研削材は、JIS R6001(1998)に準拠する累積高さ94%点の粒子径が11μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。上記累積高さ94%点の粒子径が、上記好ましい範囲であれば、ロール研磨部に形成させる凹凸を一定以上にすることができ、光沢度やヘーズ値の大きな合わせガラス中間膜を得ることができる。
また、上記エンボスロール製造工程3において用いる研削材は、JIS R6001(1998)に準拠する累積高さ3%点の粒子径が上記好ましい範囲を満たし、かつ、JIS R6001(1998)に準拠する累積高さ94%点の粒子径が上記好ましい範囲を満たすことが好ましい。
なお、上記粒度、累積高さ3%点の粒子径及び累積高さ94%点の粒子径の測定方法は電気抵抗試験方法で測定することが望ましい。
【0025】
上記エンボスロールは、防錆のために金属メッキ処理を施してもよい。なかでも均一なメッキ厚みが得られることから、化学メッキが好適である。
【0026】
製造例1では、上記製造方法により製造したエンボスロールを用いて、エンボスロール法により合わせガラス用中間膜の表面の光沢度を3%を超える値、又は、ヘーズ値を87%以下とする。
上記エンボスロール法の条件としては、例えば、膜温を80℃、エンボスロール温を145℃、線速を10m/minに設定し、プレス線圧を1~100kN/mの範囲に設定する条件が挙げられる。
【0027】
製造例2は、メルトフラクチャー現象を制御したエンボス付与法において、合わせガラス用中間膜を形成するための樹脂組成物を金型から合わせガラス用中間膜として押し出してからの冷却速度を調整する方法である。メルトフラクチャー現象を制御したエンボス付与法においては、金型から押し出したフィルムは冷却水槽にて冷却されるが、この際のフィルムの冷却速度を調整することにより、付与される第1の形状の光沢度又はヘーズ値を制御することができる。具体的には例えば、金型から冷却水槽までの距離を短くしてフィルムの冷却速度を速くすることにより光沢度又はヘーズ値の値を大きくして、所期の光沢度又はヘーズ値を満たす第1の形状を付与することができる。上記金型から冷却水槽までの距離は250mm以下であることが好ましく、200mm以下であることがより好ましく、150mm以下であることが更に好ましく、100mm以下であることが特に好ましく、50mm以下であることが最も好ましい。
【0028】
上記製造例2における、それ以外の製膜条件の好ましい範囲は、金型巾当たりの押し出し量が100~700kg/hr・m、金型から出た直後の膜表面温度が140℃~260℃、ダイ入り口の樹脂圧力が30~160kgf/cm2、膜を冷却する水槽内の水温が20℃~30℃である。それぞれの条件は所期の押し出し量、Rz値を得るためにコントロールされる。
【0029】
上記刻線状の凹部を付与する第2の工程は特に限定されないが、例えば、エンボスロール法、カレンダーロール法、異形押出法等が挙げられる。なかでも、隣接する該刻線状の凹部が平行して形成されている形状及び並列している形状が、容易に得られることから、エンボスロール法が好適である。
【0030】
本発明の合わせガラス用中間膜は、1層のみの樹脂層からなる単層構造であってもよく、2層以上の樹脂層が積層されている多層構造であってもよい。
本発明の合わせガラス用中間膜が多層構造である場合には、2層以上の樹脂層として、第1の樹脂層と第2の樹脂層とを有し、かつ、第1の樹脂層と第2の樹脂層とが異なる性質を有することにより、1層だけでは実現が困難であった種々の性能を有する合わせガラス用中間膜を提供することができる。
【0031】
上記樹脂層は熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
上記熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はポリビニルアセタール、又は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有することが好ましく、ポリビニルアセタールを含有することがより好ましい。
【0032】
上記ポリビニルアセタールは、例えば、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造できる。上記ポリビニルアルコールは、例えば、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより製造できる。上記ポリビニルアルコールのけん化度は、一般に70~99.8モル%の範囲内である。
【0033】
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは1700以上、特に好ましくは1700を超え、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、特に好ましくは3000未満である。上記平均重合度が上記下限以上であると、合わせガラスの耐貫通性がより一層高くなる。上記平均重合度が上記上限以下であると、中間膜の成形が容易になる。
【0034】
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0035】
上記ポリビニルアセタールに含まれているアセタール基の炭素数は特に限定されない。上記ポリビニルアセタールを製造する際に用いるアルデヒドは特に限定されない。上記ポリビニルアセタールにおけるアセタール基の炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は6である。上記ポリビニルアセタールにおけるアセタール基の炭素数が3以上であると、中間膜のガラス転移温度が充分に低くなり、また、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。アルデヒドの炭素数を6以下とすることにより、ポリビニルアセタールの合成を容易にし、生産性を確保できる。上記炭素数が3~6のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n-ブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド等が挙げられる。
【0036】
上記アルデヒドは特に限定されない。上記アルデヒドとして、一般には、炭素数が1~10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1~10のアルデヒドとしては、例えば、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド又はn-バレルアルデヒドが好ましく、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド又はイソブチルアルデヒドがより好ましく、n-ブチルアルデヒドが更に好ましい。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記ポリビニルアセタールの水酸基の含有率(水酸基量)は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは18モル%以上、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下である。上記水酸基の含有率が上記下限以上であると、中間膜の接着力がより一層高くなる。また、上記水酸基の含有率が上記上限以下であると、中間膜の柔軟性が高くなり、中間膜の取扱いが容易になる。
【0038】
上記ポリビニルアセタールの水酸基の含有率は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率で示した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠して又はASTM D1396-92に準拠して、測定することにより求めることができる。
【0039】
上記ポリビニルアセタールのアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.3モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。上記アセチル化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタールと可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセチル化度が上記上限以下であると、中間膜及び合わせガラスの耐湿性が高くなる。
【0040】
上記アセチル化度は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率で示した値である。上記アセタール基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して又はASTM D1396-92に準拠して測定できる。
【0041】
上記ポリビニルアセタールのアセタール化度(ポリビニルブチラール樹脂の場合にはブチラール化度)は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは53モル%以上、更に好ましくは60モル%以上、特に好ましくは63モル%以上、好ましくは85モル%以下、より好ましくは75モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。上記アセタール化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタールと可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセタール化度が上記上限以下であると、ポリビニルアセタールを製造するために必要な反応時間が短くなる。
【0042】
上記アセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率で示した値である。
【0043】
上記アセタール化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法又はASTM D1396-92に準拠した方法により、アセチル化度と水酸基の含有率とを測定し、得られた測定結果からモル分率を算出し、次いで、100モル%からアセチル化度と水酸基の含有率とを差し引くことにより算出され得る。
【0044】
なお、上記水酸基の含有率(水酸基量)、アセタール化度(ブチラール化度)及びアセチル化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定された結果から算出することが好ましい。ポリビニルアセタールがポリビニルブチラール樹脂である場合は、上記水酸基の含有率(水酸基量)、アセタール化度(ブチラール化度)及びアセチル化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定された結果から算出することが好ましい。
【0045】
上記樹脂層は、ポリビニルアセタールと可塑剤とを含むことが好ましい。
上記可塑剤としては、合わせガラス用中間膜に一般的に用いられる可塑剤であれば特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機可塑剤や、有機リン酸化合物、有機亜リン酸化合物等のリン酸可塑剤等が挙げられる。
上記有機可塑剤として、例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、テトラエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、ジエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、ジエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、又は、トリエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエートを含むことが好ましく、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを含むことがより好ましい。
【0046】
上記可塑剤の含有量は特に限定されない。上記熱可塑性樹脂100質量部に対して、上記可塑剤の含有量は、好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。上記可塑剤の含有量が上記下限以上であると、合わせガラスの耐貫通性がより一層高くなる。上記可塑剤の含有量が上記上限以下であると、中間膜の透明性がより一層高くなる。
【0047】
上記樹脂層は、接着力調整剤を含有することが好ましい。特に、合わせガラスを製造するときに、ガラスと接触する樹脂層は、上記接着力調整剤を含有することが好ましい。
上記接着力調整剤としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。上記接着力調整剤として、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩が挙げられる。
上記塩を構成する酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、2-エチル酪酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸の有機酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。合わせガラスを製造するときに、ガラスと樹脂層との接着力を容易に調製できることから、ガラスと接触する樹脂層は、接着力調整剤として、マグネシウム塩を含むことが好ましい。
【0048】
上記樹脂層は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、接着力調整剤として変成シリコーンオイル、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0049】
本発明に係る合わせガラス用中間膜の厚みは特に限定されない。実用面の観点、並びに遮熱性を充分に高める観点からは、中間膜の厚みは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.25mm以上、好ましくは3mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。中間膜の厚みが上記下限以上であると、合わせガラスの耐貫通性が高くなる。
【0050】
本発明に係る合わせガラス用中間膜の製造方法は特に限定されない。該中間膜の製造方法として、従来公知の方法を用いることができる。例えば、熱可塑性樹脂と上記成分Xなどの必要に応じて配合される他の成分とを混練し、中間膜を成形する製造方法等が挙げられる。連続的な生産に適しているため、押出成形する製造方法が好ましい。
【0051】
本発明の合わせガラス用中間膜では、2層以上の樹脂層として、少なくとも第1の樹脂層と第2の樹脂層とを有し、上記第1の樹脂層に含まれるポリビニルアセタール(以下、ポリビニルアセタールAという。)の水酸基量が、上記第2の樹脂層に含まれるポリビニルアセタール(以下、ポリビニルアセタールBという。)の水酸基量と異なることが好ましい。
ポリビニルアセタールAとポリビニルアセタールBとの性質が異なるため、1層だけでは実現が困難であった種々の性能を有する合わせガラス用中間膜を提供することができる。例えば、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、ポリビニルアセタールAの水酸基量がポリビニルアセタールBの水酸基量より低い場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が低くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より軟らかくなり、合わせガラス用中間膜の遮音性が高くなる。また、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、ポリビニルアセタールAの水酸基量がポリビニルアセタールBの水酸基量より高い場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が高くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より硬くなり、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0052】
更に、上記第1の樹脂層及び上記第2の樹脂層が可塑剤を含む場合、上記第1の樹脂層におけるポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の含有量(以下、含有量Aという。)が、上記第2の樹脂層におけるポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の含有量(以下、含有量Bという。)と異なることが好ましい。例えば、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、上記含有量Aが上記含有量Bより多い場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が低くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より軟らかくなり、合わせガラス用中間膜の遮音性が高くなる。また、2層の上記第2の樹脂層の間に、上記第1の樹脂層が積層されており、かつ、上記含有量Aが上記含有量Bより少ない場合、上記第1の樹脂層は上記第2の樹脂層と比較してガラス転移温度が高くなる傾向にある。結果として、上記第1の樹脂層が上記第2の樹脂層より硬くなり、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0053】
本発明の合わせガラス用中間膜を構成する2層以上の樹脂層の組み合わせとしては、例えば、合わせガラスの遮音性を向上させるために、上記第1の樹脂層として遮音層と、上記第2の樹脂層として保護層との組み合わせが挙げられる。合わせガラスの遮音性が向上することから、上記遮音層はポリビニルアセタールXと可塑剤とを含み、上記保護層はポリビニルアセタールYと可塑剤とを含むことが好ましい。更に、2層の上記保護層の間に、上記遮音層が積層されている場合、優れた遮音性を有する合わせガラス用中間膜(以下、遮音中間膜ともいう。)を得ることができる。以下、遮音中間膜について、より具体的に説明する。
【0054】
上記遮音中間膜において、上記遮音層は遮音性を付与する役割を有する。上記遮音層は、ポリビニルアセタールXと可塑剤とを含有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタールXは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、得られる遮音中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、遮音層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
なお、上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0055】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は4、好ましい上限は6である。アルデヒドの炭素数を4以上とすることにより、充分な量の可塑剤を安定して含有させることができ、優れた遮音性能を発揮することができる。また、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。アルデヒドの炭素数を6以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保できる。上記炭素数が4~6のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n-ブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド等が挙げられる。
【0056】
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量の好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量を30モル%以下とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量のより好ましい上限は28モル%、更に好ましい上限は26モル%、特に好ましい上限は24モル%、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、更に好ましい下限は20モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXの水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0057】
上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は85モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を60モル%以上とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトや白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を85モル%以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の下限は65モル%がより好ましく、68モル%以上が更に好ましい。
上記アセタール基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXのアセタール基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0058】
上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を0.1モル%以上とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、ブリードアウトを防止することができる。また、上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を30モル%以下とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%、更に好ましい下限は5モル%、特に好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は25モル%、更に好ましい上限は20モル%である。上記アセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
【0059】
特に、上記遮音層に遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を容易に含有させることができることから、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が65モル%以上のポリビニルアセタールであることが好ましい。また、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が68モル%以上のポリビニルアセタールであることが、より好ましい。
【0060】
上記遮音層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールX100質量部に対する好ましい下限が45質量部、好ましい上限が80質量部である。上記可塑剤の含有量を45質量部以上とすることにより、高い遮音性を発揮することができ、80質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトが生じて、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は50質量部、更に好ましい下限は55質量部、より好ましい上限は75質量部、更に好ましい上限は70質量部である。
【0061】
上記遮音層の厚み方向の断面形状が矩形状である場合には、厚さの好ましい下限は50μmである。上記遮音層の厚さを50μm以上とすることにより、充分な遮音性を発揮することができる。上記遮音層の厚さのより好ましい下限は80μmである。なお、上限は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜としての厚さを考慮すると、好ましい上限は300μmである。
【0062】
上記遮音層は一端と、上記一端の反対側に他端とを有し、上記他端の厚みが、上記一端の厚みよりも大きい形状を有していても良い。上記遮音層は、厚み方向の断面形状が楔形状である部分を有することが好ましい。この場合、上記遮音層の最小厚みの好ましい下限は50μmである。上記遮音層の最小厚みを50μm以上とすることにより、充分な遮音性を発揮することができる。上記遮音層の最小厚みのより好ましい下限は80μmであり、更に好ましい下限は100μmである。なお、上記遮音層の最大厚みの上限は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜としての厚さを考慮すると、好ましい上限は300μmである。上記遮音層の最大厚みのより好ましい上限は220μmである。
【0063】
上記保護層は、遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下するのを防止し、また、合わせガラス用中間膜に耐貫通性を付与する役割を有する。
上記保護層は、例えば、ポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することが好ましく、ポリビニルアセタールXより水酸基量が大きいポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することがより好ましい。
【0064】
上記ポリビニルアセタールYは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
また、上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、保護層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0065】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は4である。アルデヒドの炭素数を3以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。アルデヒドの炭素数を4以下とすることにより、ポリビニルアセタールYの生産性が向上する。
上記炭素数が3~4のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n-ブチルアルデヒド等が挙げられる。
【0066】
上記ポリビニルアセタールYの水酸基量の好ましい上限は33モル%、好ましい下限は28モル%である。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を33モル%以下とすることにより、合わせガラス用中間膜の白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を28モル%以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0067】
上記ポリビニルアセタールYは、アセタール基量の好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール基量を60モル%以上とすることにより、充分な耐貫通性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができる。上記アセタール基量を80モル%以下とすることにより、上記保護層とガラスとの接着力を確保することができる。上記アセタール基量のより好ましい下限は65モル%、より好ましい上限は69モル%である。
【0068】
上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量の好ましい上限は7モル%である。上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量を7モル%以下とすることにより、保護層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい上限は2モル%であり、好ましい下限は0.1モル%である。なお、ポリビニルアセタールA、B、及び、Yの水酸基量、アセタール基量、及び、アセチル基量は、ポリビニルアセタールXと同様の方法で測定できる。
【0069】
上記保護層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールY100質量部に対する好ましい下限が20質量部、好ましい上限が45質量部である。上記可塑剤の含有量を20質量部以上とすることにより、耐貫通性を確保することができ、45質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトを防止して、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は30質量部、更に好ましい下限は35質量部、より好ましい上限は43質量部、更に好ましい上限は41質量部である。合わせガラスの遮音性がよりいっそう向上することから、上記保護層における可塑剤の含有量は、上記遮音層における可塑剤の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0070】
合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、ポリビニルアセタールYの水酸基量はポリビニルアセタールXの水酸基量より大きいことが好ましく、1モル%以上大きいことがより好ましく、5モル%以上大きいことが更に好ましく、8モル%以上大きいことが特に好ましい。ポリビニルアセタールX及びポリビニルアセタールYの水酸基量を調整することにより、上記遮音層及び上記保護層における可塑剤の含有量を制御することができ、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
また、合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、上記遮音層におけるポリビニルアセタールX100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Xともいう。)は、上記保護層におけるポリビニルアセタールY100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Yともいう。)より多いことが好ましく、5質量部以上多いことがより好ましく、15質量部以上多いことが更に好ましく、20質量部以上多いことが特に好ましい。含有量X及び含有量Yを調整することにより、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
【0071】
上記保護層の厚さは、上記保護層の役割を果たし得る範囲に調整すればよく、特に限定されない。ただし、上記保護層上に凹凸を有する場合には、直接接する上記遮音層との界面への凹凸の転写を抑えられるように、可能な範囲で厚くすることが好ましい。具体的には、上記保護層の断面形状が矩形状であれば、上記保護層の厚さの好ましい下限は100μm、より好ましい下限は300μm、更に好ましい下限は400μm、特に好ましい下限は450μmである。上記保護層の厚さの上限については特に限定されないが、充分な遮音性を達成できる程度に遮音層の厚さを確保するためには、実質的には500μm程度が上限である。
【0072】
上記保護層は一端と、上記一端の反対側に他端とを有し、上記他端の厚みが、上記一端の厚みよりも大きい形状を有していても良い。上記保護層は、厚み方向の断面形状が楔形状である部分を有することが好ましい。上記保護層の厚さは、上記保護層の役割を果たし得る範囲に調整すればよく、特に限定されない。ただし、上記保護層上に凹凸を有する場合には、直接接する上記遮音層との界面への凹凸の転写を抑えられるように、可能な範囲で厚くすることが好ましい。具体的には、上記保護層の最小厚みの好ましい下限は100μm、より好ましい下限は300μm、更に好ましい下限は400μm、特に好ましい下限は450μmである。上記保護層の最大厚みの上限については特に限定されないが、充分な遮音性を達成できる程度に遮音層の厚さを確保するためには、実質的には1000μm程度が上限であり、800μmが好ましい。
【0073】
本発明の合わせガラス用中間膜は、一端と、上記一端の反対側に他端とを有していてもよい。上記一端と上記他端とは、中間膜において対向し合う両側の端部である。本発明の合わせガラス用中間膜では、上記他端の厚みが、上記一端の厚みよりも大きいことが好ましい。このような一端と他端の厚みが異なる形状を有することで、本発明の合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスをヘッドアップディスプレイとして好適に用いることができ、その際に、二重像の発生を効果的に抑制できる。本発明の合わせガラス用中間膜は、断面形状が楔形であってもよい。合わせガラス用中間膜の断面形状が楔形であれば、合わせガラスの取り付け角度に応じて、楔形の楔角θを調整することにより、ヘッドアップディスプレイにおいて二重像の発生を防止した画像表示が可能となる。二重像をより一層抑制する観点から、上記楔角θの好ましい下限は0.1mrad、より好ましい下限は0.2mradであり、更に好ましい下限は0.3mrad、好ましい上限は1mrad、より好ましい上限は0.9mradである。なお、例えば押出機を用いて樹脂組成物を押出し成形する方法により断面形状が楔形の合わせガラス用中間膜を製造した場合、薄い側の一方の端部からわずかに内側の領域(具体的には、一端と他端との間の距離をXとしたときに、薄い側の一端から内側に向かって0X~0.2Xの距離の領域)に最小厚みを有し、厚い側の一方の端部からわずかに内側の領域(具体的には、一端と他端との間の距離をXとしたときに、厚い側の一端から内側に向かって0X~0.2Xの距離の領域)に最大厚みを有する形状となることがある。本明細書においては、このような形状も楔形に含まれる。
【0074】
上記遮音中間膜を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記遮音層と保護層とを、押し出し法、カレンダー法、プレス法等の通常の製膜法によりシート状に製膜した後、積層する方法等が挙げられる。
【0075】
本発明の合わせガラス用中間膜が、一対のガラス板の間に積層されている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ガラスの表面に紫外線遮蔽コート層を有する紫外線遮蔽ガラスも用いることができる。更に、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板との間に、本発明の合わせガラス用中間膜を積層した合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【発明の効果】
【0076】
本発明によれば、両面に刻線状の凹部を有し合わせガラス製造時に優れた脱気性を発揮できるとともに、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラス、該合わせガラス用中間膜の製造に好適なエンボスロールの製造方法、及び、該合わせガラス用中間膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】刻線状の凹部を有する合わせガラス用中間膜をロール状体から巻き出したときにモアレ模様が発生する原因を説明する模式図である。
【
図2】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
【
図3】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
【
図4】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔ではないが、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
(1)樹脂組成物の調製
平均重合度が1700のポリビニルアルコールをn-ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量1モル%、ブチラール基量69モル%、水酸基量30モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)40質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、樹脂組成物を得た。
【0080】
(2)合わせガラス用中間膜の作製
得られた樹脂組成物を、押出機を用いて押出すことにより、均一な厚みの合わせガラス用中間膜を得た。
【0081】
(3)第1の工程による微細凹凸の付与
上記製造例1に従い、合わせガラス用中間膜の両面(第1の表面及び第2の表面)に微細な凹凸を付与して、表面の光沢度を調整した。
【0082】
ここで、以下の方法により製造したエンボスロールを用いた。
まず、エンボスロール製造工程1として、酸化アルミニウムからなる#36の研削材を用いて、金属ロール表面に吐出圧力50×104Paでブラスト処理を行った。エンボスロール製造工程1後のロール表面について、JIS B-0601(1994)に準拠して十点平均粗さRzを測定したところ65μmであった。
次いで、エンボスロール製造工程2として、#400~1000の研磨砥石を用いた、半研磨を行った。エンボスロール製造工程2後のロール表面について、JIS B-0601(1994)に準拠して十点平均粗さRzを測定したところ40μmであった。
次いで、エンボスロール製造工程3として、酸化アルミニウムからなる#320の研削材を用いて、吐出圧力を50×104Paでブラスト処理を行い、エンボスロールを得た。
【0083】
得られたエンボスロールを1対にしたロールを凹凸形状転写装置として用い、得られた合わせガラス用中間膜の両面に微細凹凸を付与した。この時の転写条件として、合わせガラス用中間膜の温度を80℃、上記ロールの温度を145℃、線速を10m/min、線幅を1.5m、プレス線圧を1~100kN/mに調整した。
付与後のフィルム表面の十点平均粗さ(Rz)をJIS B-0601に準拠して測定したところ、12μmであった。得られた中間膜の平均厚みは760μmであった。
【0084】
(4)第2の工程による刻線状の凹部の付与
第1の工程後の合わせガラス用中間膜の表面に、下記の手順により底部が連続した溝形状の凹凸を付与した。三角形斜線型ミルを用いて表面にミル加工を施した金属ロールと45~75のJIS硬度を有するゴムロールとからなる一対のロールを凹凸形状転写装置として用い、第1の工程後の合わせガラス用中間膜をこの凹凸形状転写装置に通し、合わせガラス用中間膜の第1の表面に底部が連続した溝形状である凹部が平行して等間隔に形成された凹凸を付与した。このときの転写条件として、合わせガラス用中間膜の温度を70℃、ロール温度を140℃、線速を10m/min、プレス線圧を1~100kN/mに所望の粗さが得られるように調整した。
次いで、合わせガラス用中間膜の第2の表面にも同様の操作を施し、底部が連続した溝形状の凹部を付与した。その際、第1の表面に付与した底部が連続した溝形状(刻線状)の凹部と、第2の表面に付与した底部が連続した溝形状(刻線状)の凹部との交差角が20°となるようにした。
【0085】
(5)第1の表面及び第2の表面の凹凸の測定
(5-1)光沢度の測定
光沢計(株式会社村上色彩技術研究所製「GM-26PRO」)を用いて、JIS Z 8741-1997に記載された測定方法2に従って光沢度を測定した。サンプル台に合わせガラス用中間膜を静置し、光源の照射方向に対して上記凹部の溝形状の角度を変化させるように合わせガラス用中間膜を回転させながら測定した際に、最小の値を示す光沢度を本発明の合わせガラス用中間膜の光沢度とした。
【0086】
(5-2)Rz値の測定
小坂研究所社製「Surfcorder SE300」を用い、JIS B-0601(1994)に準じる方法により、得られた合わせガラス用中間膜の両面の十点平均粗さ(Rz)を測定した。測定時の触針計条件を、カットオフ値=2.5mm、基準長さ=2.5mm、評価長さ=12.5mm、触針の先端半径=2μm、先端角度=60°、測定速度=0.5mm/sの条件で測定を行った。測定時の環境は23℃及び30RH%下であった。触針を動かす方向は、刻線形状の溝方向に対して垂直方向とした。
【0087】
(5-3)Smの測定
小坂研究所社製「Surfcorder SE300」を用いて得られた合わせガラス用中間膜の第一の表面および第2の表面のSm値を測定した。測定時の触針計条件を、カットオフ値=2.5mm、基準長さ=2.5mm、評価長さ=12.5mm、触針の先端半径=2μm、先端角度=60°、測定速度=0.5mm/sの条件で測定を行った。測定時の環境は23℃及び30RH%下であった。触針を動かす方向は、刻線形状の溝方向に対して垂直方向とした。
【0088】
(5-4)ヘーズ値の測定
ヘーズ・透過率計(株式会社村上色彩技術研究所製「HM-150」)を用いて、JIS K 7105-1981に記載された測定方法に従って、合わせガラス用中間膜の第一の表面側が光源側になるように設置してヘーズ値を測定した。
【0089】
(実施例2~6)
第2の工程による刻線状の凹部の付与の条件を変更した以外は実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0090】
(比較例1)
第1の形状の付与におけるエンボスロールの製造に用いるエンボスロール製造工程3で用いる研削材の粒度を#800に変更した以外は実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0091】
(実施例7)
(1)樹脂組成物の調製
平均重合度が1700のポリビニルアルコールをn-ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量1モル%、ブチラール基量69モル%、水酸基量30モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)40質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、樹脂組成物を得た。
【0092】
(2)合わせガラス用中間膜の作製及び微細凹凸の付与
上記製造例2に従い、合わせガラス用中間膜を成膜すると同時に、両面に微細凹凸を付与した。
即ち、メルトフラクチャー現象を制御したエンボス付与法において、金型巾当たりの押し出し量を440kg/hr・m、金型から出た直後の膜表面温度を200℃、ダイ入り口の樹脂圧力を80kgf/cm2、膜を冷却する水槽内の水温を20℃~30℃の条件にて、合わせガラス用中間膜を成膜すると同時に、その両面に微細凹凸を付与した。この際の金型から冷却水槽の表面までの距離を100mmとした。
得られた合わせガラス用中間膜の厚さは760μmであった。また、微細凹凸付与後に実施例1と同様の方法によりRz値を測定したところ、18μmであった。
得られた微細凹凸が付与された合わせガラス用中間膜に、刻線状の凹部の付与の条件を変更した以外は実施例1と同様に第2の工程を賦与して、合わせガラス用中間膜を得た。
【0093】
(実施例8~11)
刻線状の凹部の付与の条件を変更した以外は実施例7と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0094】
(比較例2)
メルトフラクチャー現象を制御したエンボス付与法において金型から冷却水槽の表面までの距離を200mmとした以外は実施例7と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0095】
(実施例12~14)
用いるポリビニルブチラールの組成を表2に示すように変更し、第2の工程による刻線状の凹部の付与の条件を変更した以外は実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0096】
(比較例3)
用いるポリビニルブチラールの組成を表2に示すように変更し、第2の工程による刻線状の凹部の付与の条件を変更した以外は比較例1と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0097】
(比較例4)
用いるポリビニルブチラールの組成を表2に示すように変更し、刻線状の凹部の付与の条件を変更した以外は比較例2と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0098】
(評価)
実施例1~14及び比較例1~4で得られた合わせガラス用中間膜について、以下の方法によりモアレ模様の発生について評価を行った。結果を表1及び表2に示した。
実施例及び比較例で得られた合わせガラス用中間膜を縦50mm、横50mmの大きさに切断して試験片を得た。得られた試験片を3枚を重ねた積層体を均一な荷重をかけられるように、水平なガラス板上に厚み1.5mmのPVBシートを敷いた上に離型処理として基材の紙にシリコーンコーティングを施した離形紙を介して静置し、該積層体のうえに重りとして重さ6kgのガラス板を離型処理として基材の紙にシリコーンコーティングを施した離形紙を介して置いた。23℃、72時間後、中央の合わせガラス用中間膜を取り出し、取り出し後3分以内にモアレ試験を行った。
モアレ試験は、灯から1mの位置に合わせガラス用中間膜を設置し、該灯の反対側、合わせガラス用中間膜に対して斜め45°の角度から目視にて観察を行い、評価者20人のうち、モアレ模様を検出できた人数とモアレ模様を不快と感じた人数とを記録した。
【0099】
【0100】
【0101】
(実施例15)
(保護層用樹脂組成物の調製)
平均重合度が1700のポリビニルアルコールをn-ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量1モル%、ブチラール基量69モル%、水酸基量30モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)36質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、保護層用樹脂組成物を得た。
【0102】
(中間層用樹脂組成物の調製)
平均重合度が3000のポリビニルアルコールをn-ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量12.5モル%、ブチラール基量64.2モル%、水酸基量23.3モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)76.5質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、中間層用樹脂組成物を得た。
【0103】
(合わせガラス用中間膜の作製)
得られた中間層用樹脂組成物と保護層用樹脂組成物を、共押出機を用いて共押出することにより、保護層用樹脂組成物からなる第1の保護層、中間層用樹脂組成物からなる中間層及び保護層用樹脂組成物からなる第2の保護層がこの順に積層された3層構造の合わせガラス用中間膜を得た。なお、凹凸付与後に得られる合わせガラス用中間膜において、第1の保護層及び第2の保護層の厚みがそれぞれ350μm、中間層の厚みが100μmとなるように押出条件を設定した。
その後、第1の形状の付与におけるエンボスロールの製造に用いるエンボスロール製造工程3で用いるブラスト剤の種類や、凹凸形状転写時のプレス圧を所期のRz値を得られるように調整した以外は実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜に凹凸を付与し、その両面の凹凸の測定を行った。
【0104】
(実施例16)
(合わせガラス用中間膜の作製及び微細凹凸の付与)
実施例15と同様にして、中間層用樹脂組成物及び保護層用樹脂組成物を得た。得られた中間層用樹脂組成物と保護層用樹脂組成物を、共押出機を用いて共押出することにより、保護層用樹脂組成物からなる第1の保護層、中間層用樹脂組成物からなる中間層及び保護層用樹脂組成物からなる第2の保護層がこの順に積層された3層構造の合わせガラス用中間膜を得た。その際、上記製造例2に従い、合わせガラス用中間膜を成膜すると同時に、第1の形状を付与した。即ち、メルトフラクチャー現象を制御したエンボス付与法において、金型巾当たりの押し出し量を440kg/hr・m、金型から出た直後の膜表面温度を200℃、ダイ入り口の樹脂圧力を80kgf/cm2、膜を冷却する水槽内の水温を20℃~30℃の条件にて、合わせガラス用中間膜を成膜すると同時に、その両面に微細凹凸を付与した。この際の金型から冷却水槽の表面までの距離を100mmとした。得られた微細凹凸が付与された合わせガラス用中間膜に、刻線状の凹部の付与の条件を変更した以外は実施例1と同様に第2の工程を賦与して、合わせガラス用中間膜を得た。得られた合わせガラス用中間膜の第1の保護層及び第2の保護層の厚みがそれぞれ350μm、中間層の厚みが100μmであった。
【0105】
(実施例17~21)
用いるポリビニルブチラールの組成を表3及び表4に示すように変更し、第1の形状の付与におけるエンボスロールの製造に用いるエンボスロール製造工程3で用いるブラスト剤の種類や、凹凸形状転写時のプレス圧を所期のRz値を得られるように調整した以外は実施例15と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、その両面の凹凸の測定を行った。
【0106】
(比較例5)
第1の形状の付与におけるエンボスロールの製造に用いるエンボスロール製造工程3で用いる研削材の粒度を#800に変更した以外は実施例15と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0107】
(比較例6)
メルトフラクチャー現象を制御したエンボス付与法において金型から冷却水槽の表面までの距離を200mmとした以外は実施例16と同様にして、合わせガラス用中間膜を得た。
【0108】
(評価)
実施例15~21及び比較例5、6で得られた合わせガラス用中間膜について、上記と同様の方法によりモアレ模様の発生について評価を行った。結果を表3及び表4に示した。
【0109】
【0110】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、両面に刻線状の凹部を有し合わせガラス製造時に優れた脱気性を発揮できるとともに、ロール状体から巻き出したときのモアレ模様の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラス、該合わせガラス用中間膜の製造に好適なエンボスロールの製造方法、及び、該合わせガラス用中間膜の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 任意に選択した一の凹部
2 任意に選択した一の凹部に隣接する凹部
3 任意に選択した一の凹部に隣接する凹部
A 凹部1と凹部2との間隔
B 凹部1と凹部3との間隔
10 合わせガラス用中間膜
11 第1の表面の底部が連続した溝形状の凹部
12 第2の表面の底部が連続した溝形状の凹部
20 第1の表面又は第2の表面の凹凸
21 底部が連続した溝形状の凹部
22 凸部