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特許7101239電子天びん、および電子天びんの除電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】電子天びん、および電子天びんの除電方法
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/04 20060101AFI20220707BHJP
   G01G 23/00 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
H05F3/04 D
G01G23/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020505972
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009645
(87)【国際公開番号】W WO2019175952
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】522193547
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】館野 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】長根 吉一
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-146676(JP,A)
【文献】特開2010-190600(JP,A)
【文献】特開2016-170176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/04
G01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置可能な載置皿と、 前記載置皿を覆い秤量室を画成する風防と、前記秤量室内に配置される除電器とを備えた電子天びんであって、
前記除電器は、先端を前記秤量室内側へ向けた複数の除電針を有し、前記複数の除電針へ高電圧を印加することによって発生したイオンにより、前記イオンを送風するファンを用いることなく前記秤量室内の除電対象物と前記風防の除電を行い、
前記除電対象物の除電を高速で行う高速除電モードと、前記高速除電モードとは異なる電圧印加方式で行われ、前記除電対象物および前記風防のイオンバランスを整える緩和除電モードとを備え、
前記高速除電モードはパルス直流方式による前記除電針への電圧印加で、前記緩和除電モードは直流方式による前記除電針への電圧印加で、それぞれ実施され、
前記緩和除電モードは、前記高速除電モードの実施の後に実施される、
ことを特徴とする電子天びん
【請求項2】
前記緩和除電モードは、前記高速除電モード後に続けて実施され、
前記高速除電モードの実施時間よりも短い実施時間で行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子天びん
【請求項3】
前記除電針から前記載置皿の中央位置までの距離ごとの最適周期のテーブル、または前記除電針から前記載置皿の中央位置までの距離に対する最適周期の関数が記憶されており、
前記高速除電モードの電圧印加は、前記載置皿の中央位置から前記除電器までの距離に応じて決定された最適周期を用いたパルス直流方式で行われる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子天びん
【請求項4】
試料を載置可能な載置皿と、 前記載置皿を覆い秤量室を画成する風防と、前記秤量室内に配置される、先端を前記秤量室内側へ向けた複数の除電針を有する除電器と、を備えた電子天びんの除電方法であり、且つ、
前記複数の除電針へ高電圧を印加することによって発生したイオンにより、前記イオンを送風するファンを用いることなく前記秤量室内の除電対象物と前記風防の除電を行う電子天びんの除電方法であって、
パルス直流方式による前記除電針への電圧印加により、前記除電対象物の除電を高速で行う高速除電ステップと、
前記高速除電ステップの後に実施され、直流方式による前記除電針への電圧印加により、前記除電対象物と前記風防のイオンバランスを整える緩和除電ステップと、
を備えることを特徴とする電子天びんの除電方法。
【請求項5】
前記除電針は、プラスイオンを放出するプラス極の除電針およびマイナスイオンを放出するマイナス極の除電針で構成され、
前記パルス直流方式は、前記プラス極の除電針からのプラスイオンの放出と、前記マイナス極の除電針からのマイナスイオンの放出とを交互に行い、
前記直流方式は、前記プラス極の除電からのプラスイオンの放出と、前記マイナス極の除電針からのマイナスイオンの放出を同時に行う、
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの請求項に記載の電子天びん
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンバランスがよく、かつ素早く試料を除電する除電器、前記除電器を備えた電子天びん、および除電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密分析などに用いられる電子天びんは、極めて秤量感度が高く、試料の静電気すら秤量の誤差要因となる。これに対し、イオンを発生させて試料の電荷を中和(以下「除電」と称する)させる除電器(イオナイザー)を有する風防付き電子天びんが提案されている(特許文献1)。
【0003】
ここで、除電器に備えられるイオンを放出する除電針の電圧印加が交流方式であると、除電針一本でプラスイオンとマイナスイオンの両方を放出できる反面、除電距離が短くファンなどが必要な上、イオン量が少ないため除電に時間がかかる。直流方式であると、除電針が最低でも二本必要だが、交流方式に比べ放出されるイオン量が多く、風もなくイオンを遠くまで飛ばすことができ、除電時間が短い(図12図13参照)。
【0004】
さらに除電時間を短くする電圧印加方式として、パルス直流方式がある。これは、プラス電極、マイナス電極とで計2本の除電針に直流電圧の短時間のパルス的な印加/停止を交互に繰り返し、マイナスイオンとプラスイオンを交互に放出させる方式である(図14参照)。直流方式同様、遠くまでイオンを飛ばすことができるうえ、プラスイオンとマイナスイオンの交互放出によりイオン同士の結合を防ぐことができるため、除電に使用されるイオン量が多く、直流方式よりさらに除電時間を短縮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-190600号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、パルス直流方式では最後に放出されるプラスまたはマイナスのどちらかのイオンの影響を受けてしまい試料やその周辺のイオンバランスが悪くなるという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題を鑑みたものであり、イオンバランスがよく、かつ素早く試料を除電する除電器、前記除電器を備えた電子天びん、および除電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本開示の除電器は、除電針へ高電圧を印加することによって発生したイオンにより除電対象物の除電を行う除電器であって、前記除電対象物の除電を高速で行う高速除電モードと、前記高速除電モードとは異なる電圧印加方式で行われ、前記除電対象物及び前記除電対象物周囲のイオンバランスを整える緩和除電モードとを備えるよう構成した。
【0009】
好ましくは、前記高速除電モードはパルス直流方式による前記除電針への電圧印加で、前記緩和除電モードは直流方式による前記除電針への電圧印加で、それぞれ実施されるものとする。
【0010】
好ましくは、前記パルス直流方式におけるパルスの周期は、前記除電針から前記除電対象物までの距離に応じて決定されるものとする。
【0011】
好ましくは、前記除電針から前記除電対象物までの距離ごとの最適周期のテーブル、または前記除電針から前記除電対象物までの距離に対する最適周期の関数が記憶されており、前記パルス直流方式におけるパルスの周期は、前記テーブルまたは前記関数から得られる最適周期を用いるものとする。
【0012】
好ましくは、前記緩和除電モードは、前記高速除電モードの実施の後に続けて実施されるものとする。
【0013】
さらに、試料を載置可能な載置皿と、前記載置皿を覆い秤量室を画成する風防と、前記秤量室内に配置される前記除電器とを備え、前記高速除電モードの電圧印加は、前記載置皿の中央位置から前記除電器までの相当する距離に応じて決定された周期を用いたパルス直流方式で行われる風防付き電子天びんを提供する。
【0014】
さらに除電方法として、除電針へ高電圧を印加することによって発生したイオンにより除電対象物の除電を行う除電器を用いた除電方法であって、前記除電対象物の除電を高速で行う高速除電ステップと、前記高速除電モードとは異なる電圧印加方式で行われ、前記除電対象物及び前記除電対象物周囲のイオンバランスを整える緩和除電ステップとを備える除電方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の構成によれば、イオンバランスがよく、かつ素早く試料を除電する除電器、前記除電器を備えた電子天びん、および除電方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る除電器を有する電子天びんであり、(A)斜視図、(B)正面図、(c)右側面図である。
図2】同電子天びんのブロック図である。
図3】除電針の電圧及びイオン出力を示すグラフであり、(A)がプラス極、(B)がマイナス極である。
図4】除電のフローチャートである。
図5】除電針から試料までの距離Lごとのパルスの周期Tと減衰時間Tsの関係を示すグラフである。
図6図5の試験条件を示した模式図であり、(A)が平面図、(B)が右側面図である。
図7】各モードにおける試料(アクリル板)の帯電圧の推移を示すグラフであり、(A)が高速除電モードM1のみ、(B)が緩和除電モードM2のみ、(C)が高速除電モードM1および緩和除電モードM2の両方、をそれぞれ実施した場合を示す。
図8】各モードにおける風防の帯電圧の推移を示すグラフであり、(A)が高速除電モードM1のみ、(B)が緩和除電モードM2のみ、(C)が高速除電モードM1および緩和除電モードM2の両方、をそれぞれ実施した場合を示す。
図9図8の試験条件を示した模式図であり、電子天びんを示し、(A)が平面図、(B)が正面図である。
図10】本発明の別の実施形態に係る除電器の斜視図である。
図11】本発明の変形例である。除電針の電圧及びイオン出力を示すグラフであり、(A)がプラス極、(B)がマイナス極である。
図12】交流方式における電圧及びイオン出力を示すグラフである。
図13】直流方式における電圧及びイオン出力を示すグラフであり、(A)がプラス極、(B)がマイナス極である。
図14】パルス直流方式における電圧及びイオン出力を示すグラフであり、(A)がプラス極、(B)がマイナス極である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の構成に係る除電器の好ましい実施形態を図面に従って説明する。図1は本実施形態に係る除電器を有する電子天びん1であり、図2は電子天びん1のブロック図である。
【0018】
(電子天びんの構成)
電子天びん1は、天びん本体10と、天びん本体10上部に配置されて天びん本体10に乗せられた風防4と、風防4内部に配置される除電器6を備える。
【0019】
天びん本体10は上面に試料を載置するための秤量皿2を有し、内部には秤量皿2に載置された荷重を検出する荷重検出部26、検出したアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器28、及び天びん制御部30が納められている。天びん制御部30は、CPU、メモリなどを集積回路に実走したマイクロコントローラであり、メモリに収納したプログラムに基づいて天びん本体10、及び除電器6を制御する。天びん本体10前方の上面には、秤量結果や状態などを表示するディスプレイの表示部22と、命令の入力を行うスイッチである入力部24が設けられている。
【0020】
風防4は秤量皿2を内部に配置した秤量室12を画成している。秤量室12の左右と上の壁は、秤量室12の出入り口であるドア14を有し、秤量室12後壁には除電器6が配置されている。秤量室12の左右と上の壁(ドア14含む)、及び正面壁は、内部の様子が観察しやすいよう透明な樹脂、又はガラスで構成されている。
【0021】
除電器6は内部の高圧発生回路(プラス極18A、マイナス極18B)で高電圧を発生させ、この高電圧を除電針(プラス極8A、マイナス極8B)に印加することでコロナ放電を発生させ、プラス極の除電針8Aからプラスイオンを、マイナス極の除電針8Bからマイナスイオンを、それぞれ前方に放出する。この高電圧の印加は直流方式であり、除電針8が二本以上必要となるが、同じ電圧印加方式でも交流方式に比べるとイオン結合により消滅するイオン量が少ないため除電に使用できるイオン量が多く、除電すべき試料に対して短時間で大幅に帯電量を減らすことができる。またイオンを交流方式に比べて遠くまで飛ばすことができるため、イオン送風用のファンは不要である。空気の流れを発生させないため秤量への影響が少ない。二つの除電針(8A、8B)は、離間した状態で左右に並んで配置されている。
【0022】
近接センサ16は、触ることなく近づくだけでON/OFFを切り替えられる電子デバイスである。除電器6は本体表面に近接センサ16を有し、ユーザーが手や試料を近接センサ16に近づけるだけで信号が送られ、除電が開始される。近接センサ16は、天びん本体10に設けてもよい。また使用者の両手が使用できるよう足でON/OFFできるフットスイッチなどを別体で設けることも好ましい。
【0023】
除電器6の制御は、内蔵された除電器制御部20が行う。除電器制御部20もCPU、メモリなどを集積回路に実走したマイクロコントローラであり、後述する各モードで高圧発生回路(18A、18B)を制御することで、各除電針(8A、8B)への電圧印加を制御する。除電器6自体は天びん制御部30によって制御される。
【0024】
(除電方法)
次に除電器6の除電方法について説明する。図3は除電針の電圧及びイオン出力を示すグラフであり、(A)がプラス極、(B)がマイナス極をそれぞれ示し、横軸が時間、縦軸が電圧である。イオンは電圧がある程度高電圧にならないと発生しないため、ハッチング部分でのみイオンが出力(放出)されている。図4は除電のフローチャートである。
【0025】
まず、使用者がドア14を開け、試料を秤量室12内部に配置しようとすると、トリガーとして近接センサ16が反応し(S1)、除電器6はまず試料を高速で除電する高速除電モードM1(S2)を実施し、その後続けて緩和除電モードM2(S3)を実施する。緩和除電モードM2を実施すると、除電は終了する。
【0026】
高速除電モードM1では、各除電針(8A、8B)の電圧印加はパルス直流方式で行われる。パルス直流方式は短時間のパルス的な電圧の印加/停止を周期的に繰り返す印加方法である。各極での印加/停止の1周期(周期T)は等しく、プラス極の除電針8Aとマイナス極の除電針8Bには同じ周期Tだが半周期分ずれて交互に印加される反転電圧印加が繰り返される。周期Tには最適周期Toが選択され、最適周期Toにて高速除電モードM1は実施される。
【0027】
ここで最適周期Toについて説明する。パルス直流方式は、減衰時間特性に優れる。減衰時間特性とは、帯電した除電対象物の電圧は除電により徐々に小さくなっていくが、計量誤差が問題とならなくなる電圧を許容電圧レベルとすると、その許容電圧レベルまでとなるまでの時間をいう。したがって、帯電した除電対象物の電圧を許容電圧レベルに短時間で下げることができれば、減衰時間特性が優れていると言える。パルス直流方式では減衰時間特性は除電器から除電対象物までの距離L及びパルスの周期Tに関連するため、周期Tに距離Lでの最適周期Toを選択することで、減衰時間特性をさらに上げることができる。
【0028】
図5は、試験片としてアクリル板32を帯電させ除電器6で高速除電モードM1を実施した際のパルスの周期Tと減衰時間Tsと試験データのグラフである。図6はその試験条件を示した模式図であり、(A)が平面図、(B)が右側面図である。アクリル板32の帯電圧が許容電圧レベル(ここでは元の帯電圧の1/10とする)になるまでの時間(減衰時間Ts)を、距離Lごとにパルスの周期Tを変えて計測した。
【0029】
図5に示すように、距離Lごとに減衰時間Tsが最短となる最適周期Toは異なる。距離Lが短くなると減衰時間特定の良いパルスの周期Tは短くなる傾向がある。
【0030】
試験結果を基に導き出された、距離Lに対する最適周期Toのテーブル、または距離Lに対する最適周期Toの関数を除電器制御部20に記憶させておく。高速除電モードM1では、まず除電器6から除電対象物までの距離Lを取得し、この距離Lに対してこのテーブルまたは関数から得られる最適周期Toを用いたパルス直流方式で除電を行うように構成することで、減衰時間特性を上げ、除電時間を短くすることができる。
【0031】
本実施形態では、除電器6は風防4内の後壁に取付けられるため、除電器6から除電対象物までの距離L(秤量皿2の中央位置から除電器6までに相当する距離)はほぼ一定であり、事前に最適周期Toを設定しておくことができる。距離センサを追加し、除電開始とともに試料までの距離を測定し、その結果に基づいて毎回最適周期Toが決定され、高速除電モードM1が実施されるように構成しても好ましい。ユーザーが入力部24により距離Lを選択、もしくは入力することができるよう構成してもよい。
【0032】
パルス直流方式は、減衰時間特性に優れるため高速で除電ができるという利点があるが、プラスイオンとマイナスイオンが交互に出力されるため、最後に出力された極性側のイオンが試料やその周囲に残りイオンバランスを悪化させる傾向がある。また本実施形態のように秤量室12内に除電器6が設置される場合、除電器6周辺が壁で囲まれた状態であるため、プラス極の除電針8Aに近い秤量室12内壁はプラスイオンが、マイナス極の除電針8Bに近い内壁にはマイナスイオンが留まりやすい。イオン(電荷)が多く留まると例えば粉を近づけると粉が舞う恐れがある。これを改善するため高速除電モードM1後に続けて緩和除電モードM2が実施される。
【0033】
図3に示すように、緩和除電モードM2では、プラス極の除電針8A及びマイナス極の除電針8Bの両方に同時に電圧が印加される直流方式で行われる。秤量室12全体にプラスイオンとマイナスイオンが同時に放出され、試料及びその周囲の電荷をバランス良く緩和させ、秤量室12の両側部を含め秤量室12のイオンバランスが改善される。
【0034】
図3において緩和除電モードM2と高速除電モードM1の実施時間は等しいとしているが、緩和除電モードM2は高速除電モードM1より短くて良い。実験により緩和除電モードM2は短時間でも充分に機能することが確認されている。
【0035】
各実施時間は、例えば、入力部24により除電時間を1秒、3秒、10秒から選択、又はマニュアルで所望の除電時間を入力する。緩和除電モードM2の実施時間は一例として0.4秒固定とし、入力された除電時間から緩和除電モードM2の実施時間を差し引いた時間が高速除電モードM1の実施時間となる。緩和除電モードM2と高速除電モードM1の時間比率を記憶させておき、除電時間から各モードに配分するようにしてもよい。
【0036】
(作用効果)
パルス直流方式で電圧印加を行う高速除電モードM1により、試料の帯電は素早く緩和される。高速除電モードM1により既に試料は許容電圧レベルまで除電されているが、最後に放出された極性側のイオンにより悪化したイオンバランスも、緩和除電モードM2で緩和される。両モード合わせたトータルの除電時間は直流方式や交流方式に比べて短く、またパルス直流方式による残留電荷も緩和除電モードM2で緩和され、トータルの電荷除去性能が高い。高速除電モードM1と緩和除電モードM2では電圧印加方式が異なり、それぞれの電圧印加方式の利点を活かして除電を行うことができる。
【0037】
高速除電モードM1での試料や試料周辺(本実施形態では秤量室12)に残る電荷によりイオンバランスが崩れること、さらに除電を繰り返すことで秤量室12が帯電され秤量の誤差要因となる懸念があるが、緩和除電モードM2によりこれらを防止することができる。
【0038】
さらに高速除電モードM1の電圧印加の周期Tには、除電器から除電対象物までの距離Lに応じた最適周期Toが選択されるため、より高速に試料の除電を行うことができる。
【0039】
高速除電モードM1後に続けて緩和除電モードM2が実施されるため、秤量室12のイオンバランスの崩れはすぐに緩和される。イオンバランスが崩れた状態で放置されることがなく、除電による秤量への悪影響をできる限り排除できる。
【0040】
本実施形態では、風防4内に除電器6が設置され一体化しており、秤量室12内で除電できるため、利便性が高い。また、除電器6から秤量皿2までの距離Lがほぼ一定であるため、最適周期Toが最初から選択されており、試料を秤量しようと秤量室12内に入れるだけで高速で除電が行われるため、作業効率が良い。
【0041】
(実験結果)
図7は、本実施形態の効果を示すために行った実験結果のグラフであり、図6と同様の試験条件で、アクリル板32を帯電させて各モードで除電を行った際のアクリル板32の帯電圧の変化を計測した。(A)が高速除電モードM1のみ実施、(B)が緩和除電モードM2のみ実施、(C)が高速除電モードM1実施後に緩和除電モードM2を実施の結果を示す。
【0042】
除電器6からアクリル板32までの距離Lは10cmで、高速除電モードM1では図5から選択された最適周期として周期T=200msでのパルス直流方式で電圧印加を行い、緩和除電モードM2は直流方式で電圧印加を行った。除電時間は3秒、(C)では緩和除電モードM2は0.4秒とした。各除電針(8A、8B)に印加されるプラス極の電圧/マイナス極の電圧、およびアクリル板32の初期帯電圧の1/10を許容電圧レベルとして許容電圧範囲を各グラフに追加した。
【0043】
図7に示すように、高速除電モードM1では、除電開始直後から直線的に帯電圧が減少し、緩和除電モードM2のみの場合よりも許容電圧レベルとなる時間(減衰時間)が短く、減衰時間特性が良い。しかし、高速除電モードM1ではパルス直流方式で電圧が印加されているため、マイナスイオンとプラスイオンが交互に放出され、許容電圧レベル範囲内ではあるが、帯電圧が0を中心として上下に振動して落ち着かず、イオンバランスが悪い。そこで高速除電モードM1後に緩和除電モードM2を実施することで(図7(C)参照)、帯電圧をほぼ0に落ち着かせることができる。
【0044】
高速除電モードM1で高速で除電を行い、続けて緩和除電モードM2を実施することで、全体としてアクリル板32を素早く、かつイオンバランスがよく、除電することができることを確認した。
【0045】
本実験では除電時間は一例として3秒としたが、除電時間をこれより短くすることが可能であり、その場合でも、十分に効果を発揮することができる。帯電量が大きい場合でもイオンバランス良く、かつ素早く除電が可能である。
【0046】
図8は、更に効果を示すために行った別の実験結果グラフであり、各モード実施時の風防4の帯電圧を計測した。(A)が高速除電モードM1のみ実施、(B)が緩和除電モードM2のみ実施、(C)が高速除電モードM1実施後に緩和除電モードM2を実施の結果を示す。図9は同試験の条件を示す模式図であり、電子天びん1を示し、(A)が平面図、(B)が正面図で、図中の矢印Pは、風防4の帯電圧の計測位置を示す。
【0047】
高速除電モードM1では周期T=200msでのパルス直流方式で電圧印加を行い、緩和除電モードM2は直流方式で電圧印加を行った。それぞれイオン出力時間は3秒、(C)では緩和除電モードM2は0.4秒とした。
【0048】
図9に示すように、風防4の帯電圧の計測位置Pは、プラス極の除電針8Aに近い左側の側面であり、比較的プラスイオンが留まりやすいため、図8に示す風防4の帯電圧は、イオン出力開始直後を除き全てプラス側に推移している。
【0049】
図8(A)に示すように、高速除電モードM1のみの場合、除電針(8A、8B)はパルス直流方式で電圧印加され、風防4内にプラスイオンとマイナスイオンが交互に出力されるため、帯電圧は昇降を繰り返すが、最後はプラスイオンを出力して終了するため、昇降のピークの帯電圧がそのまま残ることとなり、後述の緩和除電モードM2のみの場合よりもイオン出力後の帯電圧が大きくなっている。
【0050】
図8(B)に示すように、緩和除電モードM2のみの場合、除電針(8A、8B)は直流方式で電圧印加され、風防内にプラスイオンとマイナスイオンが同時に出力されるため、風防4の帯電圧はなだらかに推移し、高速除電モードM1よりもイオン出力後の帯電圧は小さくなっている。
【0051】
これに対し、高速除電モードM1後に緩和除電モードを実施した場合、図8(C)に示すように、帯電圧は昇降を繰り返すが、緩和除電モードM2を実施することで、イオン出力後の帯電圧は、緩和除電モードM2と同等レベルまで下がることを確認した。
【0052】
このように、緩和除電モードM2は、除電対象物だけでなく、除電対象物周囲(風防4)のイオンバランスも改善することができる。
【0053】
(実施形態)
図10は、本発明の別の実施形態である除電器6’の斜視図である。除電器6’は背面に備えたスタンド34により自立し、単体で動作可能である以外は、前述の実施形態の除電器6と同様の構成を有する。除電器6’は、着脱可能なコードにより外部電源から電力を得るように構成されている。
【0054】
除電器6’の前方に試料を近づけると、トリガーとして近接センサ16が動作し、内部の高圧発生回路(18A、18B)で発生した高電圧の印加により除電針(8A、8B)から前方にイオンが放出される。高速除電モードM1、および緩和除電モードM2の動作プログラムは除電器制御部20に記憶されており、除電器6’は単体で除電器6と同様に動作し、除電を行う。各モードでの除電時間はあらかじめ除電器制御部20に記憶されている。
【0055】
除電作業を繰り返すことにより、除電器6’の周辺物が帯電し、作業者が静電気で指を痛める懸念があるが、緩和除電モードM2が実施されることにより、周囲のイオンバランスが改善されるため、これを防止できる。
【0056】
除電器6’は各モードの実施時間や試料までの距離など詳細な設定が可能なように入力部24を備えてもよい。
【0057】
(変形例)
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0058】
緩和除電モードM2で、図11に示すように、プラス極の除電針8A又はマイナス極の除電針8Bの電圧のいずれか一方をPWM制御してもよい。高速除電モードM1で最後に放出された極性側のイオン、例えば図11ではマイナスイオンが、試料や秤量室12内で優位となる。またマイナスイオンはプラスイオンに比べて相対的に軽く遠くまで飛散するため、残りやすい傾向がある。緩和除電モードM2では片方の電圧をPWM制御し、放出されるイオン量を調整することで、試料及び秤量室12内のイオンバランスを良好に整えることができる。PWM制御に代わり、どちらか一方の電圧値を低くしてイオン量を調整してもよい。
【0059】
除電針(8A,8B)は繰り返し使用されることで、プラス極の除電針8Aは針が消耗し、マイナス極の除電針8Bはゴミが付着しやすくなる。これにより性能は劣化し、同一の電圧値を印加しても、放出されるイオン量に差が生じてしまうことがある。この場合にも緩和除電モードM2で特定の電極の電圧をPWM制御することは有効である。
【0060】
電子天びん1に温度・湿度センサを設け、試料の秤量に先立って、温度・湿度センサにより測定された湿度を表示部22に数値として示すとともに、計測値に対応してユーザーに除電の要否を知らせるよう構成しておくと好ましい。例えば検知した湿度に対応して除電の要否を表示部22に表示する。表示方法は各種考えられるが、例えば除電の必要性が高い湿度40%RH以下の場合には湿度の数字を赤で表示し、40%RHから60%RHの間で、念のため除電をした方が良い場合には、湿度の数字を黄色で表示し、60%RH以上で除電の必要がない場合は湿度の数字を青で示す等である。近接センサ16はON/OFFを入力部24で設定可能とすることもでき、また上記条件により自動で判定して除電を行うよう構成してもよい。
【0061】
緩和除電モードM2は単独でも実施可能とし、入力部24からの命令で実施されても好ましく、またセンサ等で周囲の帯電状況を読み取り、自動で実施されるよう構成されるとより好ましい。
【0062】
本実施形態では除電針(8A,8B)は二本だったが、これを4本以上に増やしてもよく、除電針を増やすことでイオン放出量が増え、より素早い除電が可能となる。
【0063】
以上、本発明の実施形態及び変形例を述べたが、形態及び変形例を当業者の知識に基づいて組み合わせることも可能であり、そのような形態は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 電子天びん
2 秤量皿
4 風防
6、6’ 除電器
8A (プラス極の)除電針
8B (マイナス極の)除電針
10 天びん本体
12 秤量室
18A (プラス極の)高圧発生回路
18B (マイナス極の)高圧発生回路
20 除電器制御部
30 天びん制御部
L 距離(除電器と除電対象物との距離)
M1 高速除電モード
M2 緩和除電モード
T 周期
To 最適周期
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14