(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】非侵襲性パイプ壁診断法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20220707BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
G01N25/18 C
G05B23/02 Z
(21)【出願番号】P 2020551406
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 US2019022427
(87)【国際公開番号】W WO2019182882
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-11-20
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597115727
【氏名又は名称】ローズマウント インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ルッド,ジェイソン・エイチ
(72)【発明者】
【氏名】トリンブル,スティーブン・アール
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/110696(WO,A1)
【文献】米国特許第07624632(US,B1)
【文献】特開2011-227011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0073868(US,A1)
【文献】特開2004-101187(JP,A)
【文献】特開昭61-026809(JP,A)
【文献】特開平07-229865(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ診断システムであって:
パイプの外面に結合されるように構成されたセンサーカプセルであって、その中に配置された少なくとも1つの温度検知素子を有している前記センサーカプセル;
前記センサーカプセルに結合され、並びに、前記少なくとも1つの温度検知素子の電気的特性を測定し且つ前記測定の指標を提供するように構成された測定回路;及び、
前記測定回路に結合された制御器であって、推定プロセス流体温度を生成するために、送信機の基準測定値を取得し、且つ前記送信機の基準測定値と前記指標とを用いて熱伝達計算を採用するように構成されている前記制御器;
を含み、そして
前記制御器は、プロセス流体温度の示度を取得するよう、且つ前記推定プロセス流体温度と前記取得されたプロセス流体温度の示度との比較に基づいてパイプ診断指標を提供するように、さらに構成されている、
上記パイプ診断システム。
【請求項2】
前記制御器に結合された通信モジュールをさらに備え、前記通信モジュールは、前記プロセス流体温度の示度を示す情報を受信するように構成されている、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【請求項3】
前記通信モジュールは、無線通信モジュールである、請求項2に記載のパイプ診断システム。
【請求項4】
前記制御器は、前記通信モジュールを用いて、前記パイプ診断指標を遠隔デバイスに通信するように構成されている、請求項
3に記載のパイプ診断システム。
【請求項5】
前記センサーカプセルを前記パイプの外面に結合するように構成されたクランプアセンブリをさらに備える、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【請求項6】
前記温度検知素子は抵抗温度デバイスである、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【請求項7】
前記送信機基準測定値は、前記パイプ診断システムの電子機器ハウジング内に配置された温度センサーから得られる、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【請求項8】
前記測定回路に結合され、且つ前記センサーカプセル
と前記パイプに対して異なる半径方向位置で前記パイプの外面に結合されるように構成された第2のセンサーカプセルをさらに含む、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【請求項9】
前記センサーカプセル及び前記第2のセンサーカプセルは、互いに直径方向の反対側に結合されるように構成されている、請求項8に記載のパイプ診断システム。
【請求項10】
前記制御器は、前記パイプの熱伝導率を決定するために、パイプ壁直径、パイプ壁材料、及びパイプ
厚の指標を受信するように構成されている、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【請求項11】
前記決定された前記パイプの熱伝導率は、前記熱伝達計算を実行するために使用される、請求項10に記載のパイプ診断システム。
【請求項12】
前記制御器は、現在の熱伝導率を計算するためにプロセス流体温度の示度を用いるように、且つ現在の熱伝導率を前記パイプの熱伝導率と比較してパイプ診断指標を提供するように構成されている、請求項11に記載のパイプ診断システム。
【請求項13】
前記プロセス流体温度を測定し、前記プロセス流体温度の示度を前記制御器へ提供するように配置された第2のセンサーカプセルをさらに備えている、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【請求項14】
前記パイプ診断指標は、前記パイプ内の堆積又はスケーリングのうちの1つである、請求項1に記載のパイプ診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
多くの産業プロセスは、プロセス流体をパイプ又は他の導管を通して運ぶ。このようなプロセス流体は、液体、気体、場合によっては伴なわれた固体を含みうる。これらプロセス流体の流れは、衛生的な食品若しくは飲料の製造、水処理、高純度医薬品製造、化学処理、炭化水素燃料産業(炭化水素の抽出及び処理を含む)、及び研磨性及び腐食性のスラリーを用いる水圧破砕技術を含むが、これらに限定されない様々な産業のいずれかに見出される。
【0002】
流体がパイプを通って運ばれるとき、それらはパイプの内面に堆積物を形成する可能性がある。これらの堆積物が成長するにつれて、プロセスの流れの要求を満たすパイプの能力を低下させる可能性がある。さらに、そのような堆積物がどこに形成されるかは、パイプの設置時には一般的には知られていない。さらに、堆積物が形成され始めるとき、救済措置を講じることができるように、それらを検出することが重要である。
【0003】
プロセス流体の流れ環境のいくつかにおいて、パイプが内面から摩耗するか、さもなければ腐食する可能性もある。例えば、天然ガスの生産において、プロセス流体の流れに砂が伴なわれることがあり、パイプの内面を削り摩耗させる可能性がある。十分な時間が与えられると、そのような摩耗はパイプを弱くし、破損や漏れの潜在的可能性を高める恐れがある。
【0004】
いくつかのパイプ診断システムは、パイプ内部の状態を表示するかさもなければ評価するために、パイプの内部へのアクセスを必要とする。そのようなシステムは、一般に流れを停止する必要があり、ひいてはシステムをオフラインにする必要がある。オンラインパイプ診断を可能にするシステムでさえも、依然としてパイプ内部へのアクセスを必要とし、ひいては潜在的な漏洩点を作るものもある。
【0005】
本出願の譲受人に譲渡された米国特許第7,290,540号は、パイプの外側に結合することによって腐食及び付着物の検出を提示できる音響検出システムを提供する。ただし、プロセスノイズ、及び/又は、振動が大きい環境において、このような音響ベースの検出は最適でない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、プロセスシステムがオンラインであるときに、音響又は振動に関係なく、すべての環境で動作することができ、且ついかなる潜在的な漏れ点をも作り出さないパイプ診断システムが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
パイプ診断システムは、センサーカプセル、測定回路、及び制御器を含む。上記センサーカプセルは、パイプの外面に結合されるように構成され、且つその中に配設された少なくとも1つの温度検知素子を有している。上記測定回路は、上記センサーカプセルに結合され、上記少なくとも1つの温度検知素子の電気的特性を測定し、上記測定の指標を提供するように構成されている。上記制御器は、上記測定回路に結合され、推定プロセス流体温度を生成するために、送信機の基準測定値を取得し、且つ送信機の基準測定値と指標を用いて熱伝達計算を採用するように構成されている。上記制御器は、プロセス流体温度の示度を得るように、上記推定プロセス流体温度と上記取得されたプロセス流体温度の示度との比較に基づいてパイプ診断指標を提供するようにさらに構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】パイプの概略の斜視図であって、その内面上の内部堆積物を示している。
【
図2】スケール堆積がパイプ内面に蓄積したときの、プロセス流体からの熱流に対するスケール堆積の影響を示す概略図である。
【
図3】概略の熱流測定システムの図であって、本明細書に記載の実施形態がこのシステムを用いることは特に有用である。
【
図4】本発明の1実施形態による、熱流測定システムのブロック図である。
【
図5A】本発明の1実施形態による、熱流ベースのパイプ診断システムの概略図である。
【
図5B】本発明の1実施形態による、パイプ診断を提供する方法の流れ図である。
【
図6A】本発明の1実施形態による、熱流ベースのパイプ診断システムの概略図である。
【
図6B】本発明の1実施形態による、熱流パイプ診断を提供する方法の流れ図である。
【
図6C】本発明の1実施形態による、多点熱流測定システムの概略図である。
【
図7】サーモウェル壁に関する腐食/堆積を検出するために本発明の態様を組み込んでいるサーモウェルの断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、パイプ100の一部分の概略図であって、パイプ100の内径104でのスケール(scale:水垢、湯垢)堆積物102を示している。スケーリング(scaling:スケール生成)物102又は残留物は、パイプ(例えば、パイプ100)に堆積し、プロセス流体流の搬送におけるパイプの効率を低下させる可能性がある。スケーリングが起きるのが一般的である場合、パイプは定期的に洗浄されうる。保守周期は、想定される堆積の速さに基づく可能性があり、一般的には判断できない。パイプを洗浄するために、プロセスは、一般にオフラインにされる必要があり、かなりの時間と手間が必要とされる。洗浄の工程中に、堆積の深刻度が評価されうる。もし堆積が深刻でないとすれば、保守は将来の別の時期に予定されたであろう。
【0010】
パイプはまた、腐食のために劣化し且つ薄くなりうる。多くの場合において、これは1つのパラメータであり、腐食試験用金属片を用いることが想定されている。この試験用金属片の腐食速度は、プロセスパイプの腐食速度に対応する。いくつかの異なる腐食のシナリオがあるため、この腐食金属片は100%有効であるとは限らない。
【0011】
本明細書に記載された実施形態は、パイプ壁を通るプロセス流体からの熱流特性に対する変化を利用するが、その変化は一般に、堆積物が存在するときに生じるか、又は逆に、腐食若しくは別の何らかの作用がパイプ壁を薄くするときに生じる。熱流におけるこれらの違いは、以下に説明するいくつかの方法で決定されうる。
【0012】
図2は、スケール層とパイプ壁とを通る熱流を示す概略図である。左側の軸は温度であり、横軸は距離に対応する。スケーリング物が存在しない場合、破線110によって示されるように、パイプ壁内径104の温度は、一般にプロセス流体温度111に等しい。プロセス流体温度が周囲温度113に対して上昇させられると仮定すると、パイプ壁106を通る熱流112は、一般に、外径116で測定された温度114が内径104の温度よりいくらか低くなるような、比較的小さいけれども検出可能な温度低下をもたらすであろう。図示された例において、周囲温度113は、パイプ壁106の外面に直接に接して示されている。パイプ壁106の周りに断熱材又は何らかの追加の層が与えられる場合、周囲温度113は、追加の断熱材/断熱層の外面に存在する。この温度差の大きさは、パイプ壁材料の熱伝導率、及びパイプ壁を通る熱流の大きさに依存する。
【0013】
金属パイプは一般に比較的高い熱伝導率を有するが、ポリマーベースのパイプ(例えば、PVCパイプ)はより低い熱伝導率を有する。スケール層(例えばスケール層102)が存在する場合、熱は、パイプ壁106を通じて流れる前に、先ずスケール層を通して流れる必要がある。したがって、プロセス流体に近接するスケール層の表面の温度は、一般的にプロセス流体温度111に等しい。しかし、
図2に示される例において、スケール層102は、パイプ壁よりも比較的低い熱伝導率を有する。したがって、プロセス流体の温度111と内径104での温度との間の温度差の大きさは、熱が単にパイプ壁を通って流れるときに生じる差よりも著しく大きくなりうる。
図2に示されているように、熱がスケール層102を通って流れると、パイプ壁の内径104から外径116までの温度変化は、スケーリング物が存在しない場合とほぼ同じである。しかし、スケール層118を通って流れなければならない熱のために、T
skin_error120が導入される。本明細書に記載の実施形態は、一般的に、スケール又は残留物の堆積、及びパイプ壁で発生する可能性のある腐食に関する情報を提供するために、このT
skin_error量の検出及び特徴付けを活用する。想像できるように、パイプ壁が摩耗したり薄くなったりした場合、温度差は、完全な厚さのパイプ壁について測定される温度差よりも小さいであろう。
【0014】
図3は、本発明の実施形態で用いられるのが特に適切である熱流測定システムの概略図である。図示されたように、システム200は一般に、パイプ100の周りをクランプするように構成されたパイプクランプ部分202を含む。パイプクランプ部分202は、パイプクランプ部分202がパイプ100に配置され且つクランプされることを可能にするために、1つ又は複数のクランプ耳部204を有しうる。パイプクランプ部分202は、パイプクランプ部分202がパイプ上に配置されるために開かれ、次いでクランプ耳部204によって閉じられ且つ固定されうるように、クランプ耳部204の1つをヒンジ部分と置き換えることができる。
図3に示されたクランプは特に有用であるが、パイプ外側面の周りにシステム200を確実に配置するための任意の適切な機械的配置が、本明細書に記載の実施形態に従って用いられうる。
【0015】
システム200は、ばね208によってパイプ100の外径116に対して押し付けられる熱流センサーカプセル206を含む。「カプセル」という用語は、特定の構造又は形状を意味することを意図せず、したがって、様々な形状、サイズ、及び構造に形成されうる。ばね208が示されているが、当業者は、様々な技術を用いて、センサーカプセル206を外径116と連続的に接触させることができることを理解するであろう。センサーカプセル206は、一般に、1以上の温度感知素子(例えば、抵抗温度デバイス(RTD)を含む。カプセル206内のセンサーは、ハウジング210内の送信機回路に電気的に接続されており、この送信機回路は、センサーカプセル206から1つ又は複数の温度測定値を取得し、センサーカプセル206からの測定値及び基準温度(例えば、ハウジング210内で測定された温度、又はそうでなければハウジング210内の回路に提供された温度)に基づいて、プロセス流体温度の推定値を計算するように構成されている。
【0016】
一例として、基本的な熱流計算は、以下のように簡略化することができる。
【0017】
tcorrected=tskin +(tskin-treference)*(Rpipe/Rsensor)
【0018】
この式において、t
skinは、導管の外面の測定温度である。さらに、t
referenceは、固定熱インピーダンス(R
sensor)を持つ場所に対して、t
skin を測定する温度センサーから取得された第2の温度である。R
pipe は、導管の熱インピーダンスであり、パイプの材料情報、パイプの厚み情報、及びパイプのスケジュール(配管の厚みを表す指標)情報を得ることに基づいて、手動で取得されうる。追加又は代替として、R
pipe に関するパラメータは、校正中に決定され、後の使用のために保存されうる。したがって、上記のような適切な熱流束計算を用いて、ハウジング210内の回路は、プロセス流体温度(t
corrected)の推定値を計算し、そのようなプロセス流体温度に関する示度を適切なデバイス、及び/又は、制御室に伝達することができる。
図3に示される例において、そのような情報は、アンテナ212を介して無線で伝達されうる。
【0019】
図4は、本発明の実施形態による熱流測定システムについての、ハウジング210内の回路のブロック図である。システム200は、制御器222に結合された通信回路220を含む。通信回路220は、パイプ100に関する診断情報に加えて、推定プロセス流体温度に関する情報を伝達することができる何らかの適切な回路でありうる。通信回路220は、熱流測定システムが、プロセス通信ループ又はセグメントを介してプロセス流体温度出力を通信することを可能にする。プロセス通信ループプロトコルの適切な例には、4~20ミリアンペアプロトコル、Highway Addressable Remote Transducer(HART(商標))プロトコル、FOUNDATION(商標)フィールドバスプロトコル、及びWirelessHARTプロトコル(IEC 62591)が含まれる。
【0020】
熱流測定システム200はまた、矢印226によって示されるように、システム200のすべての構成要素に電力を供給する電力供給モジュール224を含む。熱流測定システムが有線プロセス通信ループ(例えば、HART(商標)又はFOUNDATION(商標)フィールドバスセグメント)に結合されている実施形態において、電力供給モジュール224は、システム200のさまざまな構成要素を操作するためにループ又はセグメントから受け取った電力を調整するための適切な回路を含みうる。したがって、そのような有線プロセス通信ループの実施形態において、電力供給モジュール224は、デバイス全体が、それが結合されているループによって電力を供給されることを可能にするために、適切な電力調整を提供しうる。別の実施形態において、無線プロセス通信が用いられる場合、電力供給モジュール224は、電源(例えば、バッテリ及び適切な調整回路)を含みうる。
【0021】
制御器222は、カプセル206内のセンサーからの測定値及び追加の基準温度(例えば、ハウジング210内の端子温度)を用いて、熱流ベースのプロセス流体温度推定値を生成することができる任意の適切な構成を含む。1つの例において、制御器222はマイクロプロセッサである。
【0022】
測定回路228は、制御器222に結合され、1つ又は複数の温度センサー230から得られた測定値に関してデジタル表示を提供する。測定回路228は、1つ又は複数のアナログ-デジタル変換器、及び/又は、1つ又は複数のアナログ-デジタル変換器をセンサー230にインタフェースする適切なマルチプレックス回路を含むことができる。さらに、測定回路228は、用いられる様々なタイプの温度センサーに対して妥当でありうる、適切な増幅回路、及び/又は、線形化回路を含むことができる。
【0023】
上記のように、スケーリング物102がパイプ内で生じる場合、パイプ/スケールのシステムの熱伝達特性は変化する。この変化は、様々な方法で検出されうる。熱流測定は、一般に、プロセス流体と基準温度(例えば、パイプ壁を含む送信機端子)との間で知られている熱伝導率に依存する。乱流プロセス流体に対しては、プロセス流体の断面温度はほぼ等しいと見なすことができる。もしプロセス流体が乱流であれば、適切なプロセス温度測定値を提供するための適切な断面温度が含まれているであろう。補正を与える必要のある3つの構成可能なパラメータ、即ち、パイプ壁の厚さ、パイプ材料、及びパイプスケジュール(配管の厚みを表す指標)、がある。これらは、プロセスパイプの熱伝導率を決定する。これらの量が事前に知られている実施形態においては、それらは、製造中又は現場構成中のいずれかで、制御器222に入力されうる。しかし、パイプ壁の厚さ、パイプ材料、及びパイプスケジュールは一般に変化しないので、これらのパラメータは、制御器222がカプセル206を用いてパイプ表面温度を測定しうるとき、既知のプロセス流体温度が制御器222に提供される場合、プロセスパイプの(熱伝導率自体ではないとしても)熱伝導率に関連する量は、制御器222によって計算されうるように、一定であると見なすこともできる。この量は、保存され且つその後の計算と比較されて、量が変化したか否かを決定することができる。そのような変化は、潜在的なスケーリング又は腐食の兆候と見なされる。
【0024】
したがって、制御器222は、プロセスパイプを通る熱流とパイプ内部の基準温度とを測定するために、熱流計算(例えば、上述されたもの)を用いることができる。次に、プロセスパイプの堆積レベル又は厚さを決定するために、比較が用いられうる。温度が或る特定の限界(堆積のしきい値レベルを示す)を超えて変動した場合、保守が予定されうる。
【0025】
制御器222によって採用された熱伝達計算がパイプ内のプロセス流体温度を推測するので、正確な出力のために、パイプ壁の厚さ及びパイプ材料を考慮することが一般に必要である。パイプ内のスケーリング物は、通常、プロセス流体とパイプとの間の断熱材として機能して、表面温度の変化をもたらす。例えば、スケーリング物での1%の閉塞を有する6インチの炭素鋼パイプは、不一致すなわち誤差(tskin_error)を与えるが、それは、出力の周囲温度とプロセス流体温度との間の温度差の約2%である。
【0026】
図5Aは、本発明の1実施形態による、熱流ベースのパイプ診断システムの概略図である。システム200はパイプ100にクランプされ、パイプ100の外径での表面温度t_skinを取得するように構成されている。このt_skin測定値を送信機端子測定値と組み合わせて使用して、システム200は、パイプ内でのプロセス流体温度の推定値を提供できる。システム200は、そのプロセス流体温度推定値を制御室400に無線で(例えば、IEC62591に従って)伝達する。さらに、プロセス流体温度測定センサー300はまた、パイプ100上に配設され、パイプ100内のプロセス流体の温度を測定するためのサーモウェル又は別の適切なセンサーを含んでいる。送信機300によって測定された温度は、制御室によってシステム200にデジタル的に提供されうる。次に、システム200は、その推定されたプロセス流体温度を、システム300からデジタル受信されたプロセス流体温度測定値と比較して、スケーリング又はパイプの細線化によって引き起こされるドリフト又は誤差(T
skin_error)を検出又は特徴付けることができる。このドリフトはシステム200によって検出されうるが、それはまた、そのような情報を受信して比較を提示することができるプロセス制御システム内の何らかの適切なデバイスによっても検出されうる。したがって、スケーリング又はパイプ細線化の比較、ひいては検出は、制御室400内で動作するデバイスによって行われうる。
【0027】
図5Bは、本発明の1実施形態による、パイプ診断を提供する方法の流れ図である。方法500は、ブロック502で始まり、このブロックにおいては、基準プロセス流体温度測定値が得られる。この基準プロセス流体温度測定は、プロセスシステム内のプロセス流体温度を測定する別のデバイスよって、又は、本明細書に記載された実施形態による別の熱流ベースのパイプ診断システムによっても提供されうる。代わりに、プロセス流体の温度が適切に制御されている場合には、想定温度は、堆積を評価するときの温度比較に対する基準測定値として用いられうる。次に、ブロック504で、パイプ表面測定値と基準送信機温度とが取得される。パイプ表面測定値は、センサーカプセル206(
図3に示されている)内に配置された1又は複数の温度検知素子から得られる。基準送信機温度は、ハウジング210(
図3に示される)内に配置された温度センサーを用いて測定されることができる。ブロック506で、パイプ内のプロセス流体温度の推定値を生成するために、熱伝達計算が、基準送信機測定値とパイプ表面測定値とに適用される。ブロック508で、推定における誤差の量が計算される。この誤差は、推定値を既知のプロセス流体測定値と比較するか、又は推定値を他の熱流ベースの熱診断システムからの別の推定値と比較することによって計算されうる。たとえば、パイプのスケーリング堆積物が、パイプの内径の周りに不均一に堆積することがわかっている場合、1つのシステムは、パイプの底部内径でのパイプスケーリング物を検出するように構成されてもよく、一方、第2のシステムは、上部内径でのスケーリング物を検出するように構成されてもよい。このようにして、スケーリング物が存在しない場合、2つのシステムは、同じく相対的に小さな誤差を有するであろう。しかし、スケーリング物が表面の1つ(例えば底部面)で堆積してゆくとき、そのシステムの測定で発生した誤差は、上部のシステムの測定値と比較することによって検出されうる。誤差がどのように検出されるかに関係なく、ブロック510で、誤差又は偏差は、許容誤差限界と比較される。誤差がその限界を超えている場合は、保守512が勧められる。偏差がその限界を超えていない場合、システムは、制御をブロック502に戻すことによって繰り返す。
【0028】
図6Aは、本発明の1実施形態による、一対の熱流ベース・パイプ診断システムの概略図である。
図6Aに示されるように、システム200は、そのセンサーカプセルがパイプ100の上部600の近くに配設されるように、パイプ100にクランプされている。さらに、システム200’は、そのセンサーカプセルがパイプ100の底部面602近くに配設されるように配置されている。システム200、200’の各々は、プロセス流体温度の推定値を制御室400に無線で報告する。スケーリング物も腐食も存在しない場合、システム200と200’によって報告される量は、実質的に同一である必要がある。しかし、パイプスケールがパイプ100の一方の側又は反対側に対して堆積し始めると、上記推定値はもはや一致しなくなる。このように、一方のシステムの他方のシステムに対するドリフトは、パイプ100内で生じている状態、即ち、保守を必要とするのは現在なのか又は将来なのか、を示していると見なされうる。
【0029】
図6Bは、本発明の1実施形態による、パイプ診断を提供する方法620の流れ図である。方法620は、ブロック622で始まり、ここでは、複数の熱流ベース・プロセス流体温度推定システム(例えば、システム200及び200’(
図6Aに示される))からの複数の表面測定値が得られる。次に、ブロック624で、この2つの表面測定値の間の複数の差が取得される。これら複数の差は、推定におけるスケーリングや傾向を特定するために、さまざまな方法で比較されうる。例えば、値自体の間の差異は、ブロック626に示されるように簡単に比較されうる。さらに、各表面測定値に関する統計が比較されうる。例えば、或る定義された期間にわたる各表面測定値の変動、及び/又は、標準偏差は、システム200とシステム200’との間で比較されうる。このように、一方の表面温度センサー測定値と他方のそれと比較した場合の追加のノイズ又は変動性の指標は、腐食又はスケールの堆積を示している可能性がある。さらに、ブロック630に示されているように、2つの表面温度測定値の間の差を比較するために、何らかの別の適切な技術が用いられうる。次に、ブロック632で、これら表面測定値の間の差が選択された限界を超えているかどうかが決定される。超えている場合、ブロック634に示されるように、保守が勧告される。そのように保守が勧告されると、プロセス通信が、パイプの保守が期限であるか又は間もなく期限が来ることを指示するために責任者(例えば、プロセスオペレータ)に送信されうる。さらに、適切な信号表示部(例えば、可聴/視覚の信号表示部)が、それぞれの熱流ベースの診断システム、及び/又は、制御室400内の適切なデバイスに配備されうる。
【0030】
図6Cは、本発明の別の実施形態による、熱流ベースのパイプ診断システムの概略図である。システム650は、システム200に類似しているが、センサーカプセル206からは直径方向の反対側に(
図6Cに示される例において)配置されている追加のセンサーカプセル652を含む。センサーカプセル652は、ハウジング210内の回路に電気的に結合されている。
図6Cに示された例において、この電気的結合は、導体654を介して図式的に示されている。しかし、実際には、そのような相互接続は、一般に、パイプクランプ202の様々な部分に搭載されるか又は取り付けられる、可撓性回路又は別の適切な導体の形で提供される。システム650は、
図6A及び
図6Bに関して説明されたシステムの、単一のデバイスにおける利点を提供する。さらに、一対のセンサーカプセルが
図6Cに示されているが、追加の測定位置、及び/又は、センサーの忠実度を提供するために、追加のセンサーカプセルをパイプクランプ202に結合されうることが明確に企図されている。さらに、そのような追加のセンサーは、パイプの全体又は一部分を取り囲むラップ内に直線的に分散させられうる。このラップは、温度の違いを同定するようにパイプに結合されうる。相対的なドリフト又は一点若しくは別の点での測定ノイズの増加/減少は、堆積又は薄くなることを示している可能性がある。
【0031】
図7は、サーモウェル壁に対する腐食/堆積を検出するために、本発明の態様を組み込んでいるサーモウェルの断面の概略図である。サーモウェル700は、開口部704を介してパイプ702に搭載されている。サーモウェル700は、サーモウェルの遠位端に配設され、且つ導管702内を流れるプロセス流体の温度を感知するように構成された温度センサー706を含んでいる。見て判るように、サーモウェル700は、プロセス流体の流れの内部の位置であるために、その上流側にスケール堆積物710を蓄積している(プロセス流体の流れの方向は矢印712によって示されていることに注意)。本発明の1実施形態によると、サーモウェル700は、2つの追加の温度センサー714、716を含んでいるが、これは、システム650(
図6Cに示される)が互いに直径方向の反対側に置かれた一対のセンサーカプセル206、652を有するのとほぼ同じ仕方である。このようにして、サーモウェルの内部はプロセス流体導管のようなものと見なすことができ、個々のセンサーからの測定値は、腐食/堆積の診断のために用いられることができる。
【0032】
堆積物710が形成され始めると、プロセス流体708から温度センサー716への熱流は、堆積物710を通過する必要があり、その結果、温度が低下する。対照的に、プロセス流体708から温度センサー714へ流れる熱は、いかなる堆積物も通過せず、その結果、温度の低下をもたらさないであろう。したがって、センサー714からの読み取り値をセンサー716の読み取り値と比較することは、堆積/腐食が発生している指標を提供しうる。なお、
図7に示された例は、導管702の中心からほぼ等しい距離に配設された一対の追加のセンサー714、716を示しているが、追加のセンサーは、導管702の中心から異なる距離に置かれうることが明確に企図されている。さらに、温度センサー706からの測定値は、腐食/堆積の診断を容易にするためにも用いられうる。
【0033】
図7に関して説明された実施形態は、腐食/堆積の診断を提供するために追加の温度センサーをサーモウェル内に提供するが、そこに記載された技術は、プロセス流体の流れ内に配設された何らかの要素(例えば、これらに限定されるものではないが、オリフィス板、シェダーバー(shedder bar:棒状の妨害物)、及び流れ整流器)に適用されうることが明確に企図されている。
【0034】
プロセス温度が比較的よく制御され且つ頻繁には変化しない場合、想定される温度は、堆積を評価するときの温度比較のための基準測定値として実際に使用されうる。さらに、熱伝達計算は、そのような場合に、堆積を評価するために、基準プロセス流体温度測定値とともに、1つの表面測定値及び想定される周囲温度のみを必要としうる。
【0035】
本発明は、好ましい実施形態を参照して説明されてきたが、当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細の変更を行うことができることを認識しているであろう。本発明は、パイプの内径に関する診断に対して説明されてきたが、そのような診断は、サーモウェル、より侵襲性の低いサーモウェル、外部温度、及び絶縁された被覆のないカプセルセンサーに拡張されうる。