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特許7101273溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定する方法及び溶接システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定する方法及び溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020572717
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019072248
(87)【国際公開番号】W WO2020043551
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】18191795.6
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】アルテルスマイア、ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー、ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ムス、ミヒャエル
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06710297(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0245781(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0308027(US,A1)
【文献】特開2015-076988(JP,A)
【文献】特表2001-518603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接システム(1)の溶接回路(2-i)間の干渉結合を決定するための方法であって、
前記溶接システム(1)の第1の溶接回路(2-1)に所定の電流プロファイル(SP)を印加することと(S1)、
前記溶接システム(1)の第2の溶接回路(2-2)に誘導される電圧の経時変化および/または電流の経時変化を検出することと(S2)、
前記第1の溶接回路(2-1)に印加される電流の電流プロファイル(SP)と、前記第2の溶接回路(2-2)で検出される前記電圧の経時変化および/または前記電流の経時変化とに基づいて、前記干渉結合を決定することと(S3)、を備える方法。
【請求項2】
前記溶接システム(1)の前記溶接回路(2-1、2-2)は、前記溶接回路(2-1、2-2)間の干渉結合を決定するために短絡される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の溶接回路(2-1)に印加される前記電流プロファイル(SP)は、1つまたは複数の電流パルスを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶接システム(1)の前記溶接回路(2-i)間の結合の抵抗部分が、少なくとも1つの第1の測定ウインドウ(MF1)内で決定され、前記溶接システムの前記溶接回路間の結合の誘導部分が、前記第1の溶接回路(2-1)に印加される電流プロファイル(SP)と、前記第2の溶接回路(2-2)で検出される前記電圧の経時変化および/または前記電流の経時変化とに基づいて、少なくとも1つの第2の測定ウインドウ(MF2)内で決定される、請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の測定ウインドウ(MF1)は、前記第1の溶接回路(2-1)に印加された電流プロファイル(SP)の位相にあり、前記位相は前記印加された電流のレベルが一定である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の測定ウインドウ(MF2)は、前記印加される溶接電流のレベルが、電流パルスの立ち上がり中に上昇しているか、電流パルスの立下り中に下降している、前記第1の溶接回路(2-1)に印加される前記電流プロファイル(SP)の位相にある、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接システム(1)の前記溶接回路(2-1、2-2)間の結合の抵抗部分および/または結合の誘導部分を指定する結合係数(K、K)が演算される、請求項4乃至6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶接回路(2-1、2-2)間の結合の抵抗部分を指定する演算された抵抗結合係数(K)と、前記2つの溶接回路(2-1、2-2)間の結合の誘導部分を指定する演算された誘導結合係数(K)とは、前記溶接システム(1)の前記溶接回路(2-1、2-2)の溶接電源(4-1、4-2)のデータ格納部(9-1、9-2)又はデータベースに格納される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記演算された抵抗結合係数(K)および前記演算された誘導結合係数(K)は、前記溶接システム(1)のユーザーインターフェースを介してユーザに出力される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の溶接回路(2-2)で検出された前記電圧の経時変化および/または前記電流の経時変化は、前記第2の溶接回路(2-2)のデータ格納部(9-2)に格納される、請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の溶接回路(2-1)に印加される電流プロファイル(SP)は、前記第2の溶接回路(2-2)のデータ格納部(9-2)に格納されるか、もしくは通信接続(KV)を介して無線または有線で前記第1の溶接回路(2-1)から前記第2の溶接回路(2-2)へ送信される、請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶接システム(1)の前記溶接回路(2-)は、前記溶接回路(2-i)間の前記干渉結合を決定するために最初に相互に同期される、請求項1乃至11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
演算されて格納された前記結合係数(K、K)は、他方の溶接回路(2-1)に印加される電流(I)の前記電流プロファイル(SP)に基づいて補償電圧(UKomp)を決定するために利用される、請求項乃至の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記補償電圧(UKomp)は、前記溶接回路(2-i)の溶接電源(4-i)によって生成される溶接電流を調整するために使用される調整された測定電圧(U’MESS)を決定するように、前記溶接回路(2-i)内に配置された溶接電源(4-i)の電圧測定ユニット(8-i)によって測定された測定電圧(UMESS)から差し引かれる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1つまたは複数のワークピース(3)を同時に溶接するための溶接回路(2-i)を備える溶接システム(1)であって、
前記溶接システム(1)は、請求項1乃至14の何れか一項に記載の方法によって前記溶接回路(2-i)間の干渉結合を決定する結合決定ユニットを有する、溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための方法、およびこの干渉結合を補償するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接システムは、少なくとも1つのワークピースを溶接するために使用することができる1つまたは複数の溶接回路を備え得る。各溶接回路は、ワークピースを溶接するための溶接電流を供給する溶接電源を備える。溶接電源は、溶接回路内の溶融可能な溶接ワイヤ電極に電流を供給し、溶接ワイヤ電極の先端とワークピースの表面との間にアークが発生する。溶接ワイヤ電極は、溶接方法のバリエーションと使用する溶接パラメータに応じて、異なる方法でアークによって溶融される。
【0003】
パルスアーク溶接中、増加したパルス電圧が定期的にベース電圧に重ね合わされ、ベース電流と所定の周波数及びパルス時間のパルス電流とが交互に発生する。
図1は、パルス溶接プロセスにおける時間tにわたる概略的な電流の経時変化を示す。図1に示すように、この溶接プロセスでは、溶接電流Iがパルス形状で高い値に上昇する。溶融槽への材料の輸送は、電流パルスに基づいて行われる。ベース電流フェーズ中、アークは低電力で燃焼し、追加の材料または溶接ワイヤ電極が溶融し、溶接槽が液体に保たれる。パルスフェーズの間に、液滴が形成され、それが磁気収縮によって解放される。パルスアーク溶接では、ワークピースへの熱の導入を減らすとともに制御することができる。その結果、比較的太い溶接ワイヤ電極を使用して薄いワークシートを溶接することができ、溶融力が高くなり、溶接プロセス中の飛沫を大幅に減らすことができる。
【0004】
図1の溶接電流レベルの経時変化は、パルス幅tpの電流パルスのベース電流振幅Igとパルス電流振幅Ipを示す。電流パルスは、周期持続時間Tに従ってパルス周波数fで印加される。図1は、溶接電流の平均Iavをさらに示す。
【0005】
図2は、パルス溶接プロセスの期間を示す。アークは最初(t1)に低いベース電流レベルで燃焼する。電流が増加すると(t2)、溶接ワイヤ電極のワイヤ端が最初に溶ける。電流がパルス電流値Ip(t3)に達すると、溶接ワイヤ電極のワイヤ端が激しく溶けて液滴が形成される。この液滴は、磁気ピンチオフ効果によって抑制される。その後、電流はより低い電流値に減少し(t4)、形成された液滴はさらに収縮し、溶融槽の方向へ加速される。時間t5において、液滴は溶接ワイヤ電極のワイヤ端から解放される。その後、図2に示すように、溶接電流Iは再びベース電流値まで減少する(t6)。
【0006】
図3は、溶接システムの従来の溶接回路SSKを示す。溶接回路SSKは、溶接電源SSQの正極から負極までのすべての配線及び接続を含む。溶接回路SSKには、溶接電流Iが流れる。図3に概略的に示されているように、溶接回路SSKの順方向および逆方向の伝導は、それぞれ抵抗RとインダクタンスLの影響を受ける。溶接回路の抵抗Rは、溶接電流Iが流れるすべての配線及び接続のすべての抵抗の合計によって形成される。溶接回路の抵抗Rは、次のサブ抵抗に細分できる。アース線RL-の抵抗、ケーブルアセンブリを通過するラインRL+の抵抗、および端子接続での遷移抵抗である。溶接配線の抵抗、つまりアース配線の抵抗とケーブルアセンブリを通過する配線との抵抗は、配線の断面積と導体の材質とによって決まり、通常の状況では変化しない。対照的に、端子接続の境界抵抗は、たとえば酸化または端子接続の緩みによって、比較的大きく変動する可能性がある。
【0007】
溶接回路SSKの溶接回路インダクタンスLは、溶接回路が動的抵抗で電流の各変化を打ち消す特性であると理解される。溶接回路SSkの溶接回路インダクタンスが大きいほど、この動的抵抗は大きくなる。
【0008】
溶接回路SSKの溶接回路抵抗Rと溶接回路インダクタンスLの両方が、溶接プロセスに影響を与える。たとえば、溶接回路の抵抗Rが変化すると、アーク長が変化する。
さらに、図4に示すように、溶接回路のインダクタンスLの変化は、溶接プロセスに影響を与える。図4は、アークLBと溶接電源の出力ジャックでの電圧の推移と、パルス溶接プロセスの期間中の時間の経過に伴う溶接電流Iの推移を示す。溶接方法では、さまざまな変調タイプ、特にIg/Ip変調およびIg/Up変調を使用可能である。Ig/Ip変調では、溶接電流Iは、期間内の各時点での所定の溶接電流目標値に正確に対応する。したがって、電流がベース電流からパルス電流に増加すると、溶接回路のインダクタンスLの両端の電流を駆動するために必要な電圧が自動的に設定される。これには、溶接回路のインダクタンスLが電流の上昇に影響を与えないというIg/Up変調よりも優れている。対照的に、Ig/Up変調では、この変調のパルス電圧が一定に保たれるため、電流の上昇は溶接回路SSKの溶接回路インダクタンスLによって変化する。ただし、Ig/Ip変調では、溶接回路SSkの溶接電源SSQから十分な電圧が供給されている場合にのみ、電流の上昇率を一定に保つことができる。しかしながら、溶接回路SSKの個々の電圧の合計が、溶接電源SSQの最大出力電圧を超えると、このしきい値が満たされる。この場合、溶接電流の上昇は遅く、溶接プロセスが変化する。
【0009】
図5は従来の溶接回路SSKの電圧の構成を模式的に示す。電圧Ua、つまり電源の出力端子の電圧は、サブ電圧Usk、UL、およびUpulsで構成される。ここで、Usk=Ip・Rsk、UL=L・di/dtであり、Upulsは使用されるシールドガス、材料、アーク長とは独立している。
【0010】
電圧Uskは、溶接回路の抵抗Rとパルス電流Ipに依存しない。
電圧ULは、インダクタンスLと電流di/dtの変化率に依存する。
図6に概略的に示されているように、複数の溶接電源SSQが溶接システムで使用される場合、溶接回路SSK間の結合が発生する。溶接電源SSQの電流ラインは、特定の領域を囲む導体ループを形成する。このタイプの2つのフィールドまたは領域が重なるときはいつでも、一方の導体ループの電流Iに変化があると、電圧Uが他方の導体ループに誘導される。2つの領域またはフィールドが重なり、2つのフィールドまたはループ間の距離が小さいほど、誘導電流Uが大きくなる。溶接システムのさまざまな溶接電流SSKは、結合が不十分な変圧器のように動作する。
【0011】
溶接システムの溶接電流SSK間の結合は、溶接中のプロセスの動作に影響を与える。溶接回路SSkに印加される電流パルスごとに、電圧Uが他の溶接回路SSKの配線に誘導される。これは、両方向または双方向で生じる。溶接回路SSKに誘導された電圧Uは、他の溶接電源に電流の流れを生じさせる。この流れの効果は、アークLBの抵抗の変化のように作用する。溶接回路SSKでは、図6に概略的に示すように、追加の電圧源がある程度オンになり、他の溶接電源SSQによって制御される。2つの溶接電源SSQは同期して動作せず、特にパルス周波数が異なるため、アーク長のビートまたは変動が発生する可能性がある。これは、パルス周波数の小さな周波数差で最も顕著になる。
【0012】
溶接システムの溶接回路SSK間の相互影響を小さく保つために、従来、溶接回路SSKの配線を密に平行に敷設することにより、各誘導領域を最小化することが試みられてきた。さらに、従来、溶接回路SSKを空間的に分離することが試みられている。
【0013】
しかし、多くの場合、この従来の手順は実際には実行できない。これは、一般的な製造条件の結果として、溶接システムの異なる溶接回路SSKの配線を適切に敷設することができないためである。また、溶接回路SSKの配線を適切に敷設するための知識も認識もない場合が多い。さらに、溶接回路SSKの配線が適切に配置されていても、これによって溶接回路SSK間の結合がどの程度減少し、残りの残留結合が溶接プロセスにどの程度ワークピースに悪影響を与えるかを推定することはほとんど不可能である。
【発明の概要】
【0014】
したがって、本発明の目的は、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための方法を提供することである。
この目的は、本発明によれば、請求項1に記載の特徴を有する方法によって達成される。
【0015】
したがって、本発明は、以下のステップを含む、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための方法を提供する。
前記溶接システムの第1の溶接回路(送信溶接回路)に所定の電流プロファイルを印加すること、
前記溶接システムの少なくとも1つの第2の溶接回路(受信溶接回路)に誘導される電圧の経時変化および/または電流の経時変化を検出すること、
前記第1の溶接回路(送信溶接回路)に印加される電流の電流プロファイルと、前記第2の溶接回路(受信溶接回路)で検出される電圧の経時変化および/または電流の経時変化とに基づいて、前記送信溶接回路と前記受信溶接回路との間の干渉結合を決定すること、
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法の1つの可能な実施形態では、前記溶接システムの個々の溶接回路は、前記溶接回路間の干渉結合を決定するために閉じられる。この目的のために、溶接トーチチップ(接触パイプ)は、いずれの場合もワークピースと短絡し得る。
【0016】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記第1の溶接回路(送信溶接回路)に印加される電流プロファイルは、1つまたは複数の電流パルスを有する。
【0017】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記溶接システムの前記溶接回路間の結合の抵抗部分が、少なくとも1つの第1の測定ウインドウ内で決定され、前記溶接システムの前記溶接回路間の結合の誘導部分が、前記第1の溶接回路(送信溶接回路)に印加される電流プロファイルと、前記第2の溶接回路(受信溶接回路)で検出される電圧の経時変化および/または電流の経時変化とに基づいて、少なくとも1つの第2の測定ウインドウ内で決定される。
【0018】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記第1の測定ウインドウは、印加される電流のレベルが一定である、前記第1の溶接回路(送信溶接回路)に印加される電流プロファイルの位相にある。
【0019】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらに可能な実施形態では、前記第2の測定ウインドウは、印加される溶接電流のレベルが、電流パルスの立ち上がり中に上昇しているか、電流パルスの立下り中に下降している、前記第1の溶接回路(送信溶接回路)に印加される電流プロファイルの位相にある。
【0020】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記溶接システムの前記溶接回路間の結合の抵抗部分および/または結合の誘導部分を指定する結合係数が演算される。
【0021】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記溶接回路間の結合の抵抗部分を指定する演算された抵抗結合係数と、2つの溶接回路間の結合の誘導部分を指定する演算された誘導結合係数とは、前記溶接システムの前記溶接回路の溶接電源のデータ格納部に格納される。
【0022】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記演算された抵抗結合係数および前記演算された誘導結合係数は、前記溶接システムのユーザーインターフェースを介してユーザに出力される。
【0023】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記第2の溶接回路(受信溶接回路)で検出された電圧の経時変化および/または電流の経時変化は、前記第2の溶接回路のデータ格納部に格納される。
【0024】
好ましくは、この目的のために、個別に印加された電流の振幅および送信電源の電流の変化率について、誘導電圧値、すなわち受信電源によって測定された電圧値は、場合毎に前記受信電源内に表の形式で格納される。
【0025】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記第1の溶接回路(送信溶接回路)に印加される電流プロファイルは、前記第2の溶接回路(受信溶接回路)のデータ格納部に格納されるか、もしくは通信接続を介して無線または有線で前記第の1溶接回路から前記第2の溶接回路へ送信される。
【0026】
起動同期が行われている場合、前記受信溶接回路の前記受信電源に格納されている電流プロファイルのバリアントが使用可能である。言い換えれば、前記結合電圧が決定されつつあるとき、トリガーパルスは、前記格納された電流の経時変化が電圧測定に割り当てられるように(表)、前記送信電源によって事前に生成される。したがって、この変形は、テーブルの電圧値を生成するために、電流プロファイルを受信源に直接送信する必要がない。
【0027】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記溶接システムの前記溶接回路は、前記溶接回路間の前記干渉結合を決定するために最初に相互に同期される。
【0028】
本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記演算されて格納された結合係数は、他方の溶接回路に印加される電流プロファイルに基づいて補償電圧を決定するために利用される。
【0029】
溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、前記補償電圧は、溶接電源によって生成される溶接電流を調整するために使用される調整された測定電圧を決定するように、前記溶接回路内に配置された溶接電源の電圧測定ユニットによって測定された測定電圧から差し引かれる。
【0030】
本発明はさらに、1つまたは複数のワークピースを同時に溶接するための溶接回路を備える溶接システムを提供し、前記溶接システムは、前記溶接回路間の干渉結合を決定する方法によって、前記溶接回路間の干渉結合を決定する結合決定ユニットを有し、前記方法は、次のステップを有する。
【0031】
前記溶接システムの第1の(送信)溶接回路に所定の電流プロファイルを印加すること、
前記溶接システムの第2の(受信)溶接回路に誘導される電圧の経時変化および/または電流の経時変化を検出すること、
前記第1の(送信)溶接回路に印加される電流プロファイルと、前記第2の(受信)溶接回路で検出される電圧の経時変化および/または電流の経時変化とに基づいて、前記溶接システムの前記(送信及び受信)溶接回路間の干渉結合を決定すること、
本発明のさらなる目的は、溶接システムの溶接回路間の最初に決定された干渉結合を低減または補償することである。
【0032】
したがって、さらなる態様において、本発明は、別の溶接電源(送信溶接電源)からの、ワークピースを溶接するための溶接電源(受信溶接電源)によって提供される溶接電流への干渉の影響を補償する方法を提供する。この補償方法は、次のステップを含む。
【0033】
他方の溶接電源(送信溶接電源)によって提供される溶接電流の経時変化に基づいて演算される補償電圧を提供すること、
補正された測定電圧を決定するために、溶接電源(受信溶接電源)の電圧測定ユニットによって測定された測定電圧から補償電圧を差し引くこと、
補正された測定電圧の関数として、前記溶接電源(受信溶接電源)によって生成される溶接電流を調整すること。
【0034】
ワークピースを溶接するための溶接電源によって提供される溶接電流への、同じまたは異なるワークピースに使用される別の溶接電源(送信溶接電源)からの干渉の影響を補償するための本発明による補償方法の一つの可能な実施形態では、補償電圧は、他方の溶接電源(送信溶接電源)によって提供される溶接電流の経時変化の電流プロファイルと、格納されている結合係数とに基づいて演算される。
【0035】
本発明による補償方法のさらなる可能な実施形態では、前記格納された結合係数は、抵抗結合係数および少なくとも1つの誘導結合係数を含む。
本発明による補償方法のさらなる可能な実施形態では、他方の溶接電源(送信溶接電源)の溶接電流の経時変化の電流プロファイルが、前記溶接電源(受信溶接電源)の電流プロファイ格納部またはデータ格納部から読み出される。
【0036】
この目的のために、好ましくは、前記送信溶接電源の電流の経時変化と、前記受信溶接電源に格納された電流の経時変化データとの適切な同期が存在する。
本発明による補償方法のさらなる可能な実施形態では、他方の溶接電源(送信溶接電源)の溶接電流の経時変化の電流プロファイルが、前記他方の溶接電源(送信溶接電源)から前記溶接電源(受信溶接電源)の演算ユニットへ無線または有線で送信される。
【0037】
本発明による補償方法のさらなる可能な実施形態では、前記他方の溶接電源(送信溶接電源)の溶接電流の経時変化の電流プロファイルが、関連する時間の値に沿って電流レベルと電流レベルの変化とを含む。
【0038】
本発明による補償方法のさらなる可能な実施形態では、溶接電源(受信溶接電源)の演算ユニットによって演算された補償電圧は、補正された測定電圧を決定するために、前記溶接電源(受信溶接電源)の電圧測定ユニットによって測定された測定電圧から、溶接電源(受信溶接電源)の補償ユニットによって連続的に差し引かれる。
【0039】
本発明による補償方法のさらなる可能な実施形態では、前記補正された測定電圧を使用して前記調整ユニットによって調整される前記溶接電流は、前記溶接電源(受入溶接電源)の溶接電流の配線を介して前記ワークピースを溶接するための溶接トーチに供給される。
【0040】
さらなる態様では、本発明は、ワークピースを溶接するための溶接トーチに溶接電流の配線を介して供給することができる溶接電流を生成するための溶接電源を提供し、溶接電源は以下を有する。
【0041】
同じまたは異なるワークピースを溶接するために使用される別の溶接電源の溶接電流の経時変化の関数として補償電圧を演算するのに適した演算ユニットと、
補正された測定電圧を決定するために、演算ユニットによって演算された補償電圧を、溶接電源の電圧測定ユニットによって測定された測定電圧から差し引くのに適した補償ユニットと、を有し、該補正された測定電圧は、前記溶接電源によって生成される前記溶接電流を調整するために前記溶接電源の調整ユニットによって使用される。
【0042】
本発明による溶接電源の1つの可能な実施形態では、前記溶接電源の演算ユニットは、前記他方の溶接電源(送信溶接電源)によって提供される前記溶接電流の電流プロファイルに基づき、かつデータ格納部またはデータベースに格納されている結合係数に基づいて補償電圧を演算する。
【0043】
本発明による溶接電源のさらなる可能な実施形態では、前記他方の溶接電源(送信溶接電源)の溶接電流の電流プロファイルが、関連する時間の値に沿って電流レベルと電流レベルの変化とを含む。
【0044】
本発明による溶接電源のさらなる可能な実施形態では、前記他方の溶接電源の溶接電流の電流プロファイルは、前記他方の溶接電源(送信溶接電源)から受信されるか、または前記溶接電源の電流プロファイル格納部から同期して読み出される。
【0045】
本発明による溶接電源のさらなる可能な実施形態では、前記補償電圧を演算するために提供される、前記溶接電源の演算ユニットは、以下を有する。
前記補償電圧の抵抗部分を演算するために、前記電流プロファイル内の現在の電流レベルに抵抗結合係数を乗算する第1の乗算器と、
前記補償電圧の誘導部分を演算するために、前記電流プロファイル内の電流レベルの現在の変化に誘導結合係数を乗算する第2の乗算器と、
前記補償電圧の前記抵抗部分と前記補償電圧の前記誘導部分とを加算して前記補償電圧を演算する加算器と、を有する。
【0046】
本発明はさらに、1つまたは複数のワークピースを溶接するために共同で操作される少なくとも2つの溶接電源を備える溶接システムを提供する。
溶接電流の配線を介して1つまたは複数のワークピースを溶接するための溶接トーチに供給され得る溶接電流を生成するために提供される各溶接電源であって、各溶接電源は以下を有する。
【0047】
前記溶接システムの別の溶接電源の溶接電流の経時変化の関数として補償電圧を演算するのに適した演算ユニットと、
補正された測定電圧を決定するために、演算ユニットによって演算された補償電圧を、溶接電源の電圧測定ユニットによって測定された測定電圧から差し引くのに適した補償ユニットと、を有し、該補正された測定電圧は、前記溶接電源によって生成される前記溶接電流を調整するために前記溶接電源の調整ユニットによって使用される。
【0048】
以下、本発明の様々な態様の可能な実施形態を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、従来のパルス溶接プロセスにおける電流の経時変化を示す。
図2図2は、図1に示したパルス溶接プロセス中の電流の経時変化を示す。
図3図3は、従来の溶接回路の概略図を示す。
図4図4は、従来のパルス溶接プロセスの期間の電圧の経時変化と電流の経時変 を示す。
図5図5は、従来の溶接回路の電圧成分を示す概略図である。
図6図6は、異なる溶接回路間の結合の概略図であり、本発明の根底にある技術的問題を示す。
図7図7は、本発明の第1の態様による、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための方法の実施形態を示す簡単なフローチャートである。
図8A図8Aは、2つの溶接回路を含む溶接システムの概略図であり、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための、図7に示される本発明による方法の動作モードを示す。
図8B図8Bは、2つの溶接回路を含む溶接システムの概略図であり、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための、図7に示される本発明による方法の動作モードを示す。
図9図9は、2つの溶接回路を含む溶接システムの概略図であり、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための、図7に示される本発明による方法をさらに示す。
図10図10は、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための、図7に示される本発明による方法の可能な実施形態を示す信号の経時変化を示す。
図11図11は、溶接システムの溶接回路間の干渉結合を決定するための、図7に示される方法の可能な実施形態における動作モードを示すさらなる信号の経時変化を示す。
図12図12は、本発明のさらなる態様による、同じワークピースを溶接するために使用される別の溶接電源から、ワークピースを溶接するための溶接電源によって提供される溶接電流への干渉の影響を補償するための本発明による方法の可能な実施形態を示すフローチャートである。
図13図13は、図12に示される通信方法の実施形態の動作モードを示す信号の経時変化を示す。
図14図14は、溶接システムの2つの回路間の結合効果を示す概略図である。
図15図15は、本発明による結合補償なしの電源の概略図である。
図16図16は、図12に示される補償方法による、本発明による結合補償を備えた電源の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明による方法または装置は、溶接システムで同時に操作される溶接電源間の相互影響を低減または排除するのに役立つ。この目的のために、本発明の第1の態様では、最初に、溶接システムの溶接回路間の既存の干渉結合が決定される。本発明のさらなる態様では、決定された干渉は、その後補償される。
【0051】
図7は、本発明の第1の態様による、溶接システム1の溶接回路2-1、2-2間の干渉結合を決定するための方法の実施形態を示すフローチャートである。このタイプの溶接システム1は、例として図8に示されている。
【0052】
図7に示す実施形態では、溶接システム1の溶接回路2-1、2-2間の干渉結合を決定するための本発明による方法は、実質的に3つのステップを含む。
第1のステップS1では、所定の電流プロファイルが前記溶接システム1の第1の溶接回路2-1(送信溶接回路)に印加される。
【0053】
さらなるステップS2において、前記溶接システムの第2の溶接回路2-2(受信溶接回路)に誘導される電圧の経時変化U(t)および/または電流の経時変化I(t)が検出される。
最後にステップS3において、前記第1の溶接回路2-1(送信溶接回路)に印加される電流の電流プロファイルSPと、前記第2の溶接回路2-2(受信溶接回路)で検出される電圧の経時変化および/または電流の経時変化とに基づいて、前記溶接回路2-1、2-2間、即ち前記送信溶接回路と前記受信溶接回路との間の干渉結合が決定される。
【0054】
図8は、例として、ワークピース3を同時に溶接するために使用される2つの溶接回路2-1、2-2を含む溶接システム1を示している。図8に示すように、2つの溶接回路2-1、2-2は、それぞれ溶接電源4-1、4-2を含む。電流Iは、いずれの場合も供給ライン5-1、5-2を介してワークピース3に供給され得る。さらに、図8に示すように、各溶接回路2-1、2-2の電流Iは、いずれの場合も、関連する戻り線またはアース線6-1、6-2を介して、関連する溶接回路2-1、2-2の溶接電源4-1、4-2に戻される。溶接回路2-1の供給ライン5-iおよびドレインライン6-iの各々は、溶接回路2-1の溶接電源4-iの極12a、12bに接続されている。
【0055】
図8に示すように、溶接システム1の2つの溶接回路2-1、2-2は、溶接回路間の干渉結合を決定するために好ましくは閉じられている。図8に示される回路構成は、溶接システム1の溶接回路2-1と溶接システム1の第2の溶接回路2-2との間の干渉結合を決定するのに適している。この目的のために、第1のステップS1において、最初に、所定の電流プロファイルSPが、図8に概略的に示されるように、溶接システム1の2つの溶接回路のうちの1つ、例えば第1の溶接回路2-1に印加される。第1の溶接回路2-1に印加される電流プロファイルSPは、好ましくは、1つまたは複数の電流パルスを有する。他方の溶接回路2-2の溶接電源4-2では、図8に概略的に示すように、誘導電圧の経時変化Uが検出されて格納される。したがって、溶接システム1の第2の溶接回路2-2で誘導される電圧の経時変化および/または電流の経時変化は、ステップS2で検出され、好ましくは格納される。続いて、溶接電源4-2において、好ましくは統合された演算ユニット7-2を介して、溶接回路2-1、2-2間の干渉結合が、第1の溶接回路2-1に印加された電流の電流プロファイルSPと、検出器ユニットまたは測定ユニット8-2によって第2の溶接回路2-2で検出された電圧の経時変化Uおよび/または電流の経時変化とに基づいて決定または演算される。これに関連して、溶接回路2-i間の結合の部分と、溶接システム1の溶接回路2-i間の結合の誘導部分とが決定または演算される。好ましい実施形態では、溶接システム1の溶接回路2-i間の結合の抵抗部分は、少なくとも1つの第1の測定ウインドウMF1において決定され、溶接システム1の溶接回路2-i間の結合の誘導部分は、少なくとも1つの第2の測定ウインドウMF2において決定される。結合の抵抗部分を決定するための第1の測定ウインドウMF1は、第1の溶接回路2-1に印加される電流プロファイルSPの位相内に位置する。ここで、該位相は、印加される電流Iの電流レベルが、図10にも示されるように一定である。溶接回路2-i間の結合の誘導部分を決定するための第2の測定ウインドウMF2は、第1の溶接回路2-1に印加される電流プロファイルの位相に位置することが好ましい。ここで、印加される電流の電流レベルは、電流パルスの立ち上がり中に上昇するか、または電流パルスの立ち下がり中に下降する。図10は、電流パルスの立ち上がり中の結合の誘導部分を決定するための測定ウインドウMF2を示す。測定された電圧Uの誘導部分は、好ましくは、送信溶接電源4-1における電流の変化中の受信溶接電源4-2における電圧時間領域を決定し、それから抵抗電圧部分を差し引くことによって算出される。好ましくは、結合の誘導部分および抵抗部分の平均電圧は、互いに別々に算出および評価される。好ましくは、結合係数K、Kは、溶接システム1の溶接回路2-1、2-2間の結合の抵抗部分および結合の誘導部分を示すように算出される。1つの可能な実施形態では、溶接回路2-i間の結合の抵抗部分を示す算出されたオーミック結合係数Kと、溶接回路2-i間の結合の誘導部分を示す算出された誘導結合係数Kとは、溶接システム1の溶接電源4-1、4-2のデータ格納部9-1、9-2に格納される。1つの可能な実施形態では、算出された抵抗結合係数Kおよび算出された誘導結合係数Kは、ユーザーインターフェースを介して溶接システム1のユーザに出力される。
【0056】
抵抗結合係数KRに反映される結合の抵抗部分は、両方の電源4-1、4-2の電流が流れるライン部分が2つの溶接回路2-1,2-2にあるかどうかを示す。結合の抵抗部分RKoppelは、ミリオームで示されることが好ましい。
【0057】
Koppel=UEmpfaenger/ISender
ここで、RKoppelは2つの溶接回路2-1、2-2の共有ライン部分の抵抗であり、UEmpfaengerは受信溶接電源4-2によって受信側で検出された電圧である。
【0058】
Senderは、送信溶接回路2-1に印加される電流I1である。
2つの溶接回路2-1、2-2の共有ライン部分は避けるべきである。換言すると、結合の抵抗部分を可能な限り低く保つことを試みる。
【0059】
2つの溶接回路2-1、2-2間の結合の誘導部分は、相対的な2つの溶接回路の空間的配置、特に2つの溶接回路間の距離を反映し、ミリヘンリーで示される。
kopp=Uempf_ind/(di/dtSender)、
ここで、Lkoppは結合インダクタンスを表す。
【0060】
empf_indは、受信溶接回路2-2で誘導される電圧Uであり、di/dtSenderは、送信溶接回路2-1で行われる電流Iの変化を表す。
結合測定の決定された値、換言すれば、溶接回路2-i間の結合の誘導部分および抵抗部分は、好ましくは、演算ユニット7-iによって演算出され、一実施形態ではユーザーインターフェースを介した溶接システム1のユーザに出力される。1つの可能な実施形態では、算出された結合インダクタンスLKoppelは、送信溶接回路2-1のインダクタンスLに関連しており、例えばパーセンテージでユーザに表示され得る。これには、ミリヘンリーの単位がユーザにとって比較的理解しにくく、さらに溶接回路の通常の溶接回路インダクタンスと混同されやすいため、ユーザーディスプレイを介した表示がより理解しやすいという利点がある。パーセントで示される相対結合インダクタンス(IKcppel=LKoppel/L)は直感的に理解しやすく、相対結合インダクタンスIKcppelの理想値は0%であり、即ち溶接回路2-i間に結合はない。
【0061】
また、1つの可能な実施形態では、結合RKoppelのオーミック部分は、送信溶接回路2-1(rKoppel=RKoppel/R)に関連し得る。相対抵抗部分rKoppelについてrKoppel>0%の値は、両電流I、Iが流れている2つの溶接回路2-1、2-2の間に共有ライン部分があることを示す。これは避けるべきである。したがって、結合rKoppelの相対抵抗部分の値を0%にする必要がある。
【0062】
溶接システム1の1つの可能な実施形態では、第1の溶接回路2-1の溶接電源4-1と第2の溶接回路2-の溶接電源4-2との間に無線または有線通信接続KVが存在する。この実施形態では、溶接システム1の第1の溶接電源4-1によって第1の溶接回路2-1に印加かつ提供された電流プロファイルSPは、通信接続KVを介して溶接電源4-2へ送信される。第2の溶接回路2-2では、このようにして生じた誘導電圧の経時変化および/または電流の経時変化が検出される。さらなるステップにおいて、2つの溶接回路2-1、2-2間の干渉結合は、その後、通信接続KVを介して伝達または送信される、第1の溶接回路2-1に印加される電流Iの電流プロファイルSPと、第2の溶接回路2-2において検出される電圧信号及び/又は電流の経時変化とに基づいて、演算ユニット7によって決定または演算され得る。
【0063】
代替の実施形態では、通信接続KVは存在せず、溶接システム1の2つの溶接回路2-1、2-2の2つの溶接電源4-1、4-2の間でデータ交換は行われない。結合係数KFの演算、または溶接回路2-i間の干渉結合の決定は、2つの溶接電源4-1、4-2間のデータ接続がなくても実行可能である。この実施形態では、必要なデータは、受信溶接電源4-2のデータ格納部9-2にすでに格納されている。この別例の構成では、データ格納部9-1の送信溶接電源4-1に格納された電流プロファイルSP(di/dt/電流レベルおよび時間値)は、受信溶接電源4-2のデータ格納部9-2にも格納される。その結果、受信溶接電源4-2内に存在する演算ユニット7-2は、通信接続KVを介した2つの溶接電源4-1、4-2間で交換されるべきデータを要することなく、誘導結合係数KLおよび抵抗結合係数KRの演算を行うことができる。この実施形態では、第1の溶接回路2-1に印加される電流プロファイルSPは、同様に、第2の溶接回路2-2のデータ格納部9-2に格納され、対応する補償電圧UKompを算出するために利用することができる。
【0064】
1つの可能な実施形態では、印加電流プロファイルSPの開始時間は、種々の位相または測定ウインドウMFが同期されるように、測定ユニット8-2によって測定された測定信号を使用して、受信溶接電源4-2における電圧の変化として検出され得る。これが可能なのは、送信溶接電源4-1の時間プロファイルまたは電流プロファイルSPが、データ格納部9-2の受信溶接電源4-2に格納されているためである。
【0065】
1つの可能な実施形態では、溶接回路2-i間の結合が弱い場合でも、受信機、即ち受信溶接電源4の検出器8-2を同期させるように、電流(di/dt)の比較的急な上昇を有する第1の数の送信機同期サイクルを開始することができる。その後の時間ウインドウにおいて、実際の測定プロファイルシーケンスを続けて開始できる。
【0066】
溶接システム1の図8Aに示される実施形態では、2つの溶接回路2-1、2-2は、特にワークピース3を介して共有ライン部分を有しないが、ワークピース3を介して短絡される。溶接システム1の図8Bに示される実施形態では、2つの異なるワークピース3-1、3-2を溶接するための2つの溶接回路2-1、2-2が提供される。第2の溶接回路2-2のアース線または戻り線6-2が、第1の溶接回路2-1のアース線または戻り線6-1ノードKで分岐しているため、図9に示す実施形態の2つの溶接回路2-1、2-2は、共有線部分を有する。したがって、図9に示される共有線部分は、第1の溶接回路2-1のアース線6-1の部分と、ワークピース3を介した線接続とを含む。測定された結合rKoppelの抵抗部分は、抵抗結合係数Kに反映されており、このタイプの共有ラインの存在を示す。
【0067】
算出された結合係数K、Kは、記憶することができ、1つの可能な実施形態では、第1の溶接回路2-1に印加される電流I1の電流プロファイルSPに基づいて補償電圧UKompを決定するために利用される。1つの可能な実施形態では、溶接動作中に溶接電源4-1によって生成される溶接電流ISを調整するために使用することができる補正された測定電圧U’Messを決定するために、決定された補償電圧UKompは、溶接動作中に測定された電圧UMessから差し引かれる。電圧UMessは、好ましくは、第1の溶接回路2-1内に配置された溶接電源4-1の電圧測定ユニット8-1によって測定される。
【0068】
図10は、例として、本発明による溶接システム1における測定サイクルの信号の経時変化を示す。図示される例では、このタイプの複数の、例えば20の測定サイクルが、送信溶接電源4-1によって例えば30ミリ秒の時間間隔で出力され、個々のサイクルの測定値t0からt1(MF2)及びt2からt3(MF1)が平均化される。
【0069】
図10では、第1の曲線Iは、送信溶接回路2-1の電流の経時変化I1を示す。さらなる曲線IIは、送信溶接回路2-1の電圧の経時変化U1を示す。さらなる曲線IIIは、受信溶接回路2-2の電圧の経時変化U2を示す。図10に示されるように、時間t2と時間t3との間は、第1の溶接回路2-1の溶接電源4-1によって印加される電流プロファイルSPのレベルは一定であり、2つの溶接回路間の干渉結合の抵抗部分を決定するための測定ウインドウMF1を形成する。溶接システム1の2つの溶接回路2-1、2-2間の結合の抵抗部分は、第1の測定ウインドウMF1内で決定され得る。この第1の測定ウインドウMF1は、溶接回路2-1に印加された電流プロファイルSPの位相にあり、該位相は、印加電流Iのレベルが一定である。
【0070】
これに対して、時間t0とt1(MF1)との間で、溶接システム1の溶接回路2-i間の結合の誘導部分が決定される。図10に示すように、t0とt1との間のこの期間は、印加電流I1のレベルSPが電流パルスの立ち上がり中に比較的大きく上昇する第2の測定ウインドウMF2を形成する。溶接システム1の溶接回路2-1間の結合の誘導部分は、第1の溶接回路2-1に印加された電流プロファイルSPと、第2の溶接回路2-2で決定される電圧の経時変化および/または電流の経時変化とに基づき、第2の測定ウインドウMF2内で決定される。この第2の測定ウインドウMF2は、第1の溶接回路2-1に印加された電流プロファイルSPの位相にあり、その位相は、印加電流Iのレベルが電流パルスの立ち上がり中に上昇する箇所である。これに代えて、第2の測定ウインドウMF2は、第1の溶接回路2-1に印加された電流プロファイルSPの位相にあり、その位相は、印加電流Iのレベルが電流パルスの立ち下がり中に下降する箇所であってもよい。図10に示すように、結合の抵抗部分の決定または測定は、結合の誘導部分の決定とは異なる測定ウインドウMFで行われる。
【0071】
1つの可能な実施形態では、抵抗電圧部分は、第1の測定ウインドウ(MF1n)内で第1の溶接回路2-1に現在流れている送信電流I1と、t2とt3との間(MF1n-1)の位相における前のサイクルで決定された抵抗とから算出され得るものであり、測定値から差し引かれる。たとえば、25マイクロ秒ごとに測定値が保存され、そこから抵抗電圧部分が差し引かれる。抵抗部分を差し引いた個々の測定値は、位相t0からt1(第2の測定ウインドウMF2)の間で加算され得る。これから、t1の終わりに算術平均が算出され得る。次に、位相の算術平均から、複数のサイクル、たとえば20サイクルにわたる平均が算出され得る。
【0072】
この演算された電圧平均Uempf_indおよび送信電流の経時変化における電流di/dtの変化から、1つの可能な実施形態では、結合誘導性KLは、以下の式を使用して演算され得る。
【0073】
kopp=Uemf_ind/(di/dt送信機)
図11は、このタイプの測定サイクルを例として示す。
1つの可能な実施形態では、実際の結合係数を測定する前に、ユーザによる溶接システム1の起動後、送信溶接電源4-1が設定される同期シーケンスが行われる。例えば、このタイプの同期シーケンスは、上記で定義された送信溶接電源4-1のボタンを押すことによって開始され得る。
【0074】
すると、送信溶接電源4-1は、例えば1000A/ミリ秒の立ち上がり勾配と500Aの目標電流とを有する電流パルス(送信起動パルス)を短絡した送信溶接回路2-1に供給する。
【0075】
磁気結合を介して、電圧U2が、同様に短絡された受信溶接回路2-2内で誘導される。電圧U2のレベルは、2つの溶接回路2-1、2-2の配線の敷設に依存するとともに、測定ユニット8-2によって受信溶接電源4の出力端子で測定される。1つの可能な実施形態では、送信起動パルスは、絶対電圧値または電圧の経時変化を評価することによって、あるいは所定の時間間隔にわたる変化率、換言すれば差動的に変化率を評価することによって、受信溶接電源4-2にて検出され得る。
【0076】
電圧U2が、例えば受信溶接電源4-2で事前設定された0.5Vの値を超える場合、1つの可能な実施形態では、送信溶接電源4-1のものと同一の測定シーケンス計画を開始することができる。
【0077】
受信機での送信溶接電流の上昇の検出は、受信溶接電源4-2内に誘導された電圧Uの電圧du/dtの変化が検出されるという点でも起こり得る。この目的のために、電圧差は、連続的に検出された電圧信号から、例えば25マイクロ秒の時間間隔で演算され得る。例えば、この電圧差が例えば0.2Vの値を超える場合、送信溶接電源4-1のものと同一の測定シーケンス計画を起動することができる。
【0078】
さらなる可能な実施形態では、2つの評価方法の組み合わせ、即ち絶対評価および差分評価の組み合わせが可能である。
したがって、図8A図8B、及び図9に示される溶接システム1は、溶接システム1の溶接回路2-1、2-2間の干渉結合を決定する結合決定ユニットを有する。1つの可能な実施形態では、溶接システム1の一方または両方の溶接電源4-1は、このタイプの結合決定ユニットまたは算出ユニット7-iを有する。代替の実施形態では、溶接システム1の結合決定ユニットは、好ましくは溶接システム1の各種の溶接電源2-iに接続され、無線または有線通信接続KVを介して通信する別体のユニットによって形成され得る。結合決定ユニットは、図7に示す決定方法を実行するように構成されている。
【0079】
結合係数K、K図7に示される方法を使用して決定されると、この決定された干渉の影響の自動補償が、本発明のさらなる態様による補償方法によって行われることが好ましい。図12は、同じワークピース3を溶接するために使用される別の溶接電源4から、ワークピース3を溶接するための溶接電源4によって提供される溶接電流Iへの干渉の影響を補償するための補償方法の可能な実施形態のフローチャートである。
【0080】
図12に示される実施形態では、本発明による補償方法は、3つの主要なステップを含む。
第1のステップSにおいて、他方の溶接電源4-1によって提供される他方の溶接電源4-1の溶接電流の経時変化に基づいて、補償電圧UKompは、(受信)溶接電源4-2の演算ユニット7-2によって演算される。他方の溶接電源4-1によって提供される電流の経時変化の電流プロファイルSPと記憶された結合係数KFとに基づいて、補償電圧UKompは、溶接電源4-2の演算ユニット7-2によって演算され得る。あるいは、この電流プロファイルSPは、溶接電源4-2のローカルデータ格納部0-2にすでに存在している。結合係数KFは、抵抗結合係数KRおよび少なくとも1つの誘導結合係数KLを含み、例えば溶接電源4-2のデータ格納部9-2に格納される。あるいは、補償電圧UKompは、他方の(送信)溶接電源4-1の演算ユニット7-1によって演算されてもよく、演算された補償電圧UKompは、次に通信接続KVを介して(受信)溶接電源4-2へ送信される。
【0081】
さらなるステップSBにおいて、ステップSAにおいて演算ユニットによって演算された補償電圧は、補正された測定電圧U’Messを決定するために、溶接電源4-2の電圧測定ユニット8-2によって測定された測定電圧UMessから差し引かれる。1つの可能な実施形態では、補正された測定電圧U’Messを決定すべく、溶接電源4-2の演算ユニット7-2によって演算された補償電圧UKomp、または通信接続を介して送信された補償電圧UKompは、(受信)溶接電源4-2の電圧測定ユニット8-2により測定された測定電圧UMessから、(受信)溶接電源4-2の演算ユニット10-2によって連続的に差し引かれる。
【0082】
さらなるステップSCにおいて、補正された測定電圧U’Messの関数として、溶接電源4-2によって生成される溶接電流Iが調整される。1つの可能な実施形態では、補正された測定電圧U’Messによって調整された溶接電流ISは、溶接電源4-2の溶接電流ライン5-2を介してワークピース3を溶接するために溶接トーチ13-2に供給され得る。本発明による補償方法の1つの可能な実施形態では、他方の溶接電源4-1の溶接電流の経時変化の電流プロファイルSPが、溶接電源4-2の格納部9-2から読み出される。本発明による補償方法のさらなる可能な実施形態では、他方の溶接電源4-1の溶接電流の経時変化の電流プロファイルSPが、他方の溶接電源4-1から溶接電源4-2の演算ユニット7-2へ無線または有線で送信され、演算ユニット7-2は、送信された溶接電流の経時変化と格納された結合係数KFとに基づいて補償電圧UKompを演算する。溶接プロセスの実行中に、プロセスの状態(短絡)に応じて動的に生成され、周期的ではなく事象に基づく態様の電流の経時変化もある。したがって、溶接プロセスの実行中に行われる補償では、結合電圧の正しい補償を達成するために、送信機の電流プロファイルが受信機に直接送信される。他方の溶接電源4-1の溶接電流の経時変化ISの電流プロファイルSPが、関連する時間の値に沿って電流レベルと電流レベルの変化とを含むことが好ましい。補正された測定電圧U’Messを決定すべく、溶接電源4-2の演算ユニット7-2によって演算された補償電圧UKompは、その後、溶接電源4-2の電圧測定ユニット8-2により測定された測定電圧UMessから、溶接電源4-2の演算ユニット10-2によって連続的に差し引かれ得る。この補正された測定電圧U’Messは、その後、溶接電源4-2の溶接電流ラインを介して関連する溶接トーチSBに流れる溶接電流ISを調整するために使用される。したがって、図12による本発明による補償方法は、測定信号からの望ましくない誘導電圧を相殺することができる。その結果、溶接回路2-iの相互影響を低減または排除することができます。
【0083】
したがって、図12による本発明による補償方法は、以前に決定されて格納された結合係数KF、特に少なくとも1つの抵抗結合係数KRおよび1つまたは複数の誘導結合係数KLにアクセスする。好ましくは、本発明による補償方法において、電流プロファイルSP、即ち現在の電流の経時変化と、他方の送信溶接電源4-1によって出力される電流Iの変化率(di/dt)とは、通信接続KVを介して連続的または絶えず受信溶接電源4-2に送信される。
【0084】
電流プロファイルデータ、即ち絶対電流値(アンペア)と、電流の変化率di/dt(A/ms)とから、以前に決定された結合インダクタンスL(mH)及び抵抗結合係数R(mΩ)を用いて、結合電圧は次の式を使用して演算できる。
【0085】
Kopp=Lkopp×di/dt+RLeitung×送信機電流
この結合電圧は、誘導される送信機電源4-1の電流プロファイルSPの経時変化に従い、符号付きの数値として、補償電圧UKompとして、受信溶接電源4-2の出力ソケットにおいて測定された電圧UMessから、測定ユニット8-2によって連続的に差し引か得る。誘導電圧部分によって補正された測定電圧U’Messは、その後、受信溶接電源4-2のプロセス調整11-2に使用される。その結果、溶接回路2-1、2-2の相互影響が低減または完全に排除される。
【0086】
好ましい実施形態では、補償電圧UKompの演算および補正された測定電圧U’Messの決定は、デジタルで行われる。別の実施形態では、補償電圧UKompの演算および補正された測定電圧U’Messの決定は、アナログの態様で行われる。
【0087】
図13は、図7に示される本発明による補償方法の適用の前後の、受信溶接電源4-2での電圧の経時変化を伴う信号図である。
図13の曲線Iは、送信溶接電源4-1での電流の経時変化を示す。
【0088】
曲線IIは、本発明による補償方法を適用する前の、受信溶接電源4-2での電圧の経時変化を示す。
図13の曲線IIIは、本発明による補償方法を適用した後の、受信溶接電源4-2での電圧の経時変化を示す。
【0089】
少なくとも2つの溶接回路2-1、2-2間の干渉の影響を補償するための本発明による方法は、一定の溶接回路インダクタンスLまたは結合係数を有する溶接回路における検出および補償だけでなく、時間的に変化する溶接回路インダクタンスL(t)を有する溶接回路においても適している。溶接回路2-iの溶接回路インダクタンスLは、電流の振幅によって変化し得る。これは、たとえば、溶接回路2-iに強磁性体がある場合に当てはまる。
【0090】
本発明による方法の1つの可能な実施形態では、溶接システム1の溶接回路2-i間の結合の誘導部分は、より小さな時間間隔に細分される測定ウインドウMF内で検出され、対応する電流の値に対する各誘導値が、各時間間隔に対して決定及び格納されている。続いて、本発明による補償方法に関して、それぞれの場合において、送信溶接回路2-1の現在の電流の関連する電流値Iでの個々の記憶された誘導値Liが、ローカルのデータ記憶部から読み出され、結合電圧または補償電圧UKompを演算するために使用される。
【0091】
図14は、2つの溶接回路2-1、2-2の相互の結合効果の実際の例を示す。図示されている実施形態では、図14の溶接システム1においてノードKで分岐されている溶接回路2-1、2-2のアース線6-1、6-2は、電流がアース線6-1、6-2を流れるときに磁気結合を誘発するように、ほぼ相互に平行に配置されている。平行なアース線6-1、6-2は、誘導(磁気)結合を担っている。供給ライン5-1、5-2はそれぞれ、溶接トーチ13-1、13-2に溶接電流Iを供給する。
【0092】
図15は、本発明による補償方法による結合補償が存在しない2つの溶接電源SSQを概略的に示す。図15に示すように、2つの溶接回路SSKは互いに分離されている。各溶接電源SSQには、電圧測定ユニットUME及び電流測定ユニットIMEがあり、これらは測定値を調製ユニットREに供給する。調製ユニットは、電力変換制御システムPCCに接続されている。溶接電源SSQは、変圧器T及び整流ダイオードDを含む。
【0093】
これに対して、図16は、本発明による補償方法が実行される溶接システム1の2つの溶接電源4-1、4-2を概略的に示す。図16に示す2つの溶接電源4-1、4-2の各々は、溶接電流を生成するために使用され、溶接電流は、溶接電流ラインを介して、ワークピースを溶接するための溶接トーチ13-1、13-2に供給され得る。2つの溶接電源4-1、4-2の各々は、演算ユニット7-1、7-2及び補償ユニット10-1、10-2を有する。図8A及び図8Bにも示されているように、演算ユニット7-1、7-2は溶接電源4-1、4-2の一部を形成する。溶接電源4-iの演算ユニット7-iは、同じワークピース3を溶接するために使用される他方の溶接電源の溶接電流の経時変化によって誘導され且つ測定ユニット8-iによって測定される電圧UMessの関数として、且つ格納された結合係数KFの関数として補償電圧UKompを演算するのに適している。補償ユニット10-iは、補正された測定電圧U’Messを生成するために、溶接電源4-iの演算ユニット7-iによって演算された補償電圧を、溶接電源4-iの電圧測定ユニット8-iによって測定された測定電圧UMessから差し引くのに適している。補正された測定電圧U’Messは、溶接電源4-iによって生成される溶接電流ISを調整するために溶接電源4-iの調整ユニット11-iによって使用される。
【0094】
溶接電源4-iの演算ユニット7-iは、好ましくは、他方の溶接電源によって提供される溶接電流ISの電流プロファイルSPと結合係数KFとに基づいて、補償電圧UKompを演算する。結合係数KFは、関連する溶接電源4-iのデータ格納部9-iに格納されることが好ましい。図16に示される実施形態では、誘導結合係数Kおよび抵抗結合係数Kは、第2の溶接電源4-2のローカルのデータ格納部9-2に格納されている。これらの結合係数KFは、通信インターフェースを介して、第1の溶接電源4-1の演算ユニット7-1によって読み取り可能である。あるいは、結合係数K、Kは、2つの溶接電源4-1、4-2にローカルに格納されてもよい。さらに、記憶された結合係数K、Kは、データネットワークを介して中央データ格納部から読み取り可能である。
【0095】
図16に示すように、各溶接電源4-1、4-2は、専用の演算ユニット7-1、7-2を有する。好ましい実施形態では、演算ユニット7-1、7-2の各々は、第1の乗算器7A、第2の乗算器7B、および加算器7Cを有する。演算ユニット7の第1の乗算器7Aは、補償電圧UKompRの抵抗部分を演算するために、電流プロファイル内の現在の電流レベルに抵抗結合係数Kを乗算する。演算ユニット7の第2の乗算器7Bは、補償電圧UKompLの誘導部分を演算するために、電流プロファイルSP内の電流レベルの現在の変化に抵抗結合係数Kを乗算する。それぞれの場合の溶接電源4-1の演算ユニット7-iは、補償電圧UKompRの抵抗部分と補償電圧UKompLの誘導部分とを加算して補償電圧を演算する加算器7B-iを有する。図16に示される実施形態では、この方法で決定された補償電圧UKompは、それぞれの場合において、他方の溶接電源に送信される。図16に示すように、各溶接電源4-1、4-2は、専用の補償ユニット10-1、10-2を有する。溶接電源4の補償ユニット10は、補正された測定電圧U’Messを決定するために、自身の演算ユニットまたは他方の溶接電源の演算ユニット7によって演算された補償電圧UKompを取得し、溶接電源4の専用電圧測定ユニット8によって測定された測定電圧UMessから補償電圧UKompを差し引くように構成される。この補正された測定電圧U’Messは、補償ユニット10-iによって溶接電源4の調整ユニット11-iに印加され、溶接電源4によって生成される溶接電流Iを調整するために使用される。
【0096】
図16に示す実施形態では、補償電圧UKompは、他方の溶接電源4’の演算ユニットによって演算され、演算された補償電圧が送信される。あるいは、補償電圧UKompは、通信接続を介して他方の溶接電源4’によって送信される電流プロファイルSPに基づいて、専用の演算ユニット7によって演算されてもよい。さらに、さらに別の実施形態では、溶接電源4の演算ユニット7は、溶接電源4のローカルの専用データ格納部9から、他の溶接電源4’の既知の所定の電流プロファイルSPを読み取ることができるとともに、溶接電源4のローカルのデータ格納部9からも読み取られる結合係数KR、KLを用いて、そこから補償電圧または補償電圧プロファイルを演算することができる。さらなる実施形態では、補償電圧プロファイルは、結合係数KFおよび事前定義された電流プロファイルSPに従って事前に演算され、溶接電源のローカルのデータ格納部9に格納される。
【0097】
図16に示す実施形態では、補償電圧UKompおよび補正された測定電圧UMessは、所定の計算式を使用して、演算ユニット7の乗算器7A、7Bおよび加算器7Cを使用して演算される。保存され実装された計算式の代わりに、代替の実施形態では、保存された参照テーブルLUTが使用されてもよい。
【0098】
結合係数の決定中に測定された電圧補正値または補償電圧プロファイルは、参照テーブルLUTに保存される。参照テーブルLUTでは、測定された電圧(例えばX軸)が、関連する電流I(例えばY軸)および電流の変化(di/dt)(例えばZ軸)に対してプロットされる。
【0099】
溶接工程中に補償方法を実施する場合、他方の溶接電源4'の現在の実際の電流値および電流の実際の変化が、Y軸上およびZ軸上にプロットされ、関連する電圧値(X軸)が読み取られ、現在測定されている内部電圧UMessから差し引かれる。
【0100】
好ましくは、個々の結合値(誘導結合および抵抗結合の電圧)が検出され、参照テーブルLUTに格納される。図9に示すように、2つの溶接回路2-1、2-2が短絡され得る。送信溶接電源4-1は、例えば0から500Aの範囲において50A/msで第1の電流プロファイルを実行することができる。受信溶接電源4-2は、自身の現在の電圧及び現在の電流と、送信溶接電源4-1の電流の変化の値とを測定し、測定された電圧を参照テーブルLUT内の対応するテーブルポイントに入力する。このプロセスは、その後、さらに電流プロファイル(たとえば、100A/msで0から500A、1000A/msで0から500Aまで)に対して繰り返すことができる。
【0101】
次のステップでは、実際の補償は溶接プロセス中に行われる。溶接工程中の補償において、他方の溶接電源の現在の実際の電流値と電流変化の実際の値とが、Y軸上およびZ軸上にプロットされ、関連する電圧値(X軸)が読み取られ、現在測定されている内部電圧から差し引かれる。
【0102】
この補償は、例えば25μsの一定の時間間隔で周期的に実行され得る。テーブルにおける間隔の間の値は、線形補間によって取得できることが好ましい。
次のテーブルは、R_Koppel=25mΩおよびL_Koppel=20uHの値に対して発生する結合電圧(または補償電圧)のボルト単位の例である。
【0103】
【表1】
【0104】
状況に応じて選択される複数のLUT(参照テーブル)が存在する場合もある。ロボットガントリーシステムでは、溶接ケーブル5-1、5-2の相互の位置が変化するため、車道に取り付け可能な個々のロボットの位置によって結合インダクタンスが異なり得る。したがって、相互のロボットの位置に応じて、結合係数または補償電圧をさらなるLUTから選択することも可能である。次に、結合係数KFの事前決定は、ユーザによって固定されたロボットの複数の位置でも行われる。LUTの選択は、好ましくは、ロボットの制御システムによって行われる。
【0105】
本発明による補償方法の結果として、同じワークピース3を溶接するのに使用される別の溶接電源からの干渉の影響が低減または補償されるため、溶接プロセスの品質を大幅に改善することができ、これは溶接プロセスから生じる溶接シームが質的に改善されることを意味する。本発明による補償方法は、デジタル的に実行することができるが、アナログの方法でも実行することができる。本発明による補償方法は、特に、複数の溶接電源4-iがシステム/セル内で同時に溶接する溶接システム1に適している。この状況で発生する電圧結合により、調整変数として使用される測定電圧UMessが歪んでしまう。本発明による補償方法の結果として、測定された電圧UMessは、干渉変数がないように補正される。これにより、溶接システム1の溶接結果が大幅に向上する。
【0106】
算出された結合係数KR、KLによって、溶接システム1のユーザは、溶接システム1の溶接回路間の干渉結合の程度に関する情報をさらに取得する。本発明による補償方法の可能な実施形態では、同じワークピース3を溶接するために使用される他方の溶接電源4から、ワークピース3を溶接するための溶接電源によって提供される溶接電流Iへの干渉の影響を低減又は無くすために、算出された結合係数が使用される。これに対して、溶接システム1のユーザは、演算または決定された結合係数KR、KLを利用して、溶接システム1、特に各種の溶接回路2-iの配線の敷設を最適化することができる。溶接電源の表示により、溶接回路2-i間の誘導結合および/または抵抗結合のレベルに関してユーザに通知することができる。溶接システム1の溶接回路2-i間の干渉結合を決定するための本発明による方法は、2つ以上の溶接回路2-iまたは2つ以上の溶接電源4-iを含む溶接システム1に特に適している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B