(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、塗膜及び塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20220707BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20220707BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220707BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20220707BHJP
C08L 61/18 20060101ALI20220707BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220707BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D133/14
C09D7/63
C08L33/14
C08L61/18
C08K5/17
C08K5/42
(21)【出願番号】P 2021097518
(22)【出願日】2021-06-10
【審査請求日】2022-03-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】島村 健一
(72)【発明者】
【氏名】畦地 謙作
(72)【発明者】
【氏名】南保 光孝
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174958(JP,A)
【文献】特開平7-179813(JP,A)
【文献】特開2001-323207(JP,A)
【文献】特開2001-240624(JP,A)
【文献】特開2000-17225(JP,A)
【文献】特開平3-200884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)、架橋剤(B)、スルホン酸化合物(C)及びアミン化合物(D)を含む水性塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)が、水酸基を有するアクリル樹脂(A1)を含むものであり、
前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価が、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、
前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり、
前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下である、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記塗膜形成樹脂(A1)の重量平均分子量が、100,000以上である請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
温度23℃において、剪断速度0.01s
-1で測定した剪断粘度が30,000mPa・s以下、剪断速度10s
-1で測定した剪断粘度が800mPa・s以下、剪断速度1,000s
-1で測定した剪断粘度が150mPa・s以上である請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
更に、有機溶剤(E1)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
コイルコーティング用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を被塗物に塗工して、塗装膜を形成する工程、
前記塗装膜を、最高到達温度が180℃以上であり、乾燥及び/又は硬化時間が120秒以下である条件下で、乾燥及び/又は硬化させて塗膜とする工程を含む、塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、塗膜及び塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延鋼板、めっき鋼板等の金属基材に塗装を施し、その後成形加工に供される塗装鋼板は、プレコート鋼板(以下、「PCM」ともいう)とも呼ばれ、シャッター、天戸、ドア、屋根及びサイディング等の建築部材;クーラー室外機等の電気機器類の外装材;内装材等の用途に用いられている。前記プレコート鋼板は、通常、前記金属基材の表面に塗料組成物を塗工し、例えば、200~270℃で30~60秒の加熱(焼付け)を行って塗膜を形成することで製造され、その後、成型加工に供される。このため、プレコート鋼板の塗膜には、加工の際、割れや剥がれが生じない程度の加工性や、傷や凹みが生じない程度の硬度が求められる。
【0003】
塗料組成物には、塗膜形成樹脂を含む主剤と、架橋剤を含む硬化剤とが同一の系内に共存している一液形塗料組成物と、主剤及び硬化剤を別々に保管し、使用時に混合して用いる二液形塗料組成物が存在する。このうち、二液形塗料組成物は、主剤と硬化剤とを使用直前まで混合しないため、一液形塗料組成物と比較すると貯蔵安定性は優位である。しかしながら、二液形塗料組成物では、使用時、主剤と硬化剤とを所定の割合で混合し、均一になるようかくはんする必要があることや、使用可能な時間に制限があること等、その取扱いや塗装作業性が問題となる場合があり、一液形塗料組成物が求められている。
【0004】
また、近年、環境負荷低減の意識が高まり、環境に配慮した商品への置換が求められている。塗料分野においても、例えば、揮発性有機化合物(VOC)の使用量を低減することが要求されており、水性塗料組成物を用いることにより、このような要求を満たすことができる。すなわち、市場においては、一液形の水性塗料組成物へのニーズが非常に高くなってきている。
【0005】
こうした一液形の水性塗料組成物としては、種々提案されており、例えば、水酸基及びカルボキシル基含有アクリル系共重合体、水性アミノ樹脂、アミン化合物及び親水性有機溶剤からなる水性塗料組成物において、アミン化合物により、水酸基及びカルボキシル基含有アクリル系共重合体に含まれるカルボキシル基を中和することが提案されている(特許文献1)。また、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、カルボキシル基含有ビニル系モノマー、長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル類及びビニルモノマーの共重合体と、水溶性アミノ樹脂と水性媒体とを含むアクリル系水溶性塗料組成物において、アミン化合物を用い、水酸基及びカルボキシル基含有アクリル系共重合体のカルボキシル基を中和することが提案されている(特許文献2)。更に、ガラス転移点が-10℃~80℃の範囲にある水酸基及びカルボキシル基含有アクリル樹脂、ガラス転移点が-50~20℃の範囲にある水酸基及びカルボキシル基含有アクリル樹脂、水性アミノ樹脂、塩基性化合物及び水性媒体を含む金属被覆用水性塗料組成物において、塩基性化合物により、水酸基及びカルボキシル基含有アクリル樹脂のカルボキシル基を中和することが提案されている(特許文献3)。また、特許文献4では、水性樹脂、メラミン樹脂及び弱酸触媒としてリン酸エステル触媒を含む水性塗料組成物が提案され、塩基性化合物を用いて水性樹脂を中和することが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-323207号公報
【文献】特開2001-240624号公報
【文献】特開2000-17225号公報
【文献】特開2015-174958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1乃至4に記載の塗料組成物で形成された塗膜では、得られたプレコート鋼板の加工性(密着性、耐クラック性)や、耐傷付性が十分に満足できるものではなかった。
【0008】
更に、一液形塗料組成物においては、主剤及び硬化剤が同一系内に共存しているため、塗膜物性を向上することを目的として主剤及び硬化剤の反応性を向上させると塗料組成物の貯蔵安定性が低下し、一方で、塗料組成物の貯蔵安定性を向上することを目的として反応性を低下させると塗膜物性が低下する、というトレードオフの関係が存在する。そのため、一液形塗料組成物において、貯蔵安定性と塗膜物性とを両立することは非常に困難であった。
【0009】
本発明者らは、こうした問題点を解決するために鋭意検討を重ね、架橋剤として、フルアルキル型メラミン樹脂を用い、更に、スルホン酸化合物とアミン化合物とを、特定の中和率となるように用いることで、一液型の組成物においても、高い貯蔵安定性達成することができ、更に、プレコート鋼板特有の高温且つ短時間の条件で塗装を行った場合でも、良好な塗膜物性(特に、加工性(密着性、耐クラック性)、耐傷付性)を発揮しうることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、一液形であっても貯蔵安定性に優れ、折り曲げ等の加工性や加工の際の耐クラック性及び耐傷付性の良好な塗膜を形成し得る水性塗料組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の態様を提供する。
[1]
塗膜形成樹脂(A)、架橋剤(B)、スルホン酸化合物(C)及びアミン化合物(D)を含む水性塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)が、アクリル樹脂(A1)を含むものであり、
前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価が、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、
前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり、
前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下である、水性塗料組成物。
[2]前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子量が、100,000以上である[1]に記載の水性塗料組成物。
[3]温度23℃において、剪断速度0.01s-1で測定した剪断粘度が30,000mPa・s以下、剪断速度10s-1で測定した剪断粘度が800mPa・s以下、剪断速度1,000s-1で測定した剪断粘度が150mPa・s以上である[1]又は[2]に記載の水性塗料組成物。
[4]更に、有機溶剤(E1)を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[5]コイルコーティング用である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物を被塗物に塗工して、塗装膜を形成する工程、
前記塗装膜を、最高到達温度が180℃以上であり、乾燥及び/又は硬化時間が120秒以下である条件下で、乾燥及び/又は硬化させて塗膜とする工程を含む、塗膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、一液形であっても貯蔵安定性に優れ、折り曲げ等の加工性や加工の際の耐クラック性及び耐傷付性の良好な塗膜を形成し得る水性塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、架橋剤(B)、スルホン酸化合物(C)及びアミン化合物(D)を含む。
【0014】
<塗膜形成樹脂(A)>
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂(A1)を含む。前記アクリル樹脂(A1)は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する単位を有する重合体を表し、エチレン性不飽和結合を有する単量体を含む単量体混合物を重合することによって調製することができる。なお本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。
【0015】
前記エチレン性不飽和結合を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、2-プロペン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸等の不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ポリカルボン酸(これらの無水物も含む);マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、フマル酸エチル、フマル酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等の不飽和ポリカルボン酸のモノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸sec-ペンチル、(メタ)アクリル酸3-ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデシル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;これらのラクトン付加物(該ラクトンとしては、ε-カプロラクトン等)等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジトキシシラン等のオルガノシリル基を有する単量体;α-ビニルベンゼンスルホン酸、p-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、t-ブチル(メタ)アクリルアミドスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;前記水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルノリン酸モノエステル等のリン酸基を有する単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシブチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基を有する(メタ)アクリルアミド単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基(オキシラニル基)を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリル、α-クロロ(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリロニトリル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;スチレン、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;カルボニル基モノマー;前記以外の多官能ビニルモノマー等の架橋性モノマー;等が挙げられる。
前記エチレン性不飽和結合を有する単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記アクリル樹脂(A1)は、水酸基を有する。前記アクリル樹脂(A1)が水酸基を有することで、該水酸基と架橋剤の反応基との間で架橋反応して塗膜を硬化させることができる。前記アクリル樹脂(A1)が水酸基を得るためには、重合体とする際、前記エチレン性不飽和結合を有する単量体として、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いればよい。
【0017】
前記水酸基を有するアクリル樹脂(A1)の水酸基価は、好ましくは5mgKOH/g以上であり、より好ましくは7mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは35mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、一層好ましくは25mgKOH/g以下である。前記範囲内にあることで、加工性(密着性、耐クラック性)の良好な塗膜が得られるという利点がある。
【0018】
前記水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリロイル基に結合する基の炭素数が1~3であることが好ましく、2であることがより好ましい。水酸基を有し、前記(メタ)アクリロイル基に結合する基の炭素数が1~3である(メタ)アクリル酸エステルを含むことで、耐傷付性に優れる塗膜が得られるという利点がある。該水酸基を有し、(メタ)アクリロイル基に結合する基の炭素数が1~3である(メタ)アクリル酸エステルの含有率は、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0019】
前記アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量は、例えば50,000以上、好ましくは100,000以上、更に好ましくは150,000以上であり、例えば10,000,000以下、好ましくは2,000,000以下である。アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量が大きいほど、耐傷付性が良好であり、加工性に優れる塗膜が得られるという利点がある。
【0020】
なお本明細書において、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0021】
前記アクリル樹脂(A1)は、酸基を有するのが好ましい。前記アクリル樹脂(A1)が酸基を有することで、後述する水性媒体(E)への分散性を付与することができる。
前記アクリル樹脂(A1)が酸基を得るためには、重合体とする際、前記エチレン性不飽和結合を有する単量体として、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸のモノアルキルエステル、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体等の酸基を有する単量体を用いればよい。
【0022】
前記酸基を有する単量体としては、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸のモノアルキルエステルが好ましく、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸がより好ましく、不飽和モノカルボン酸が更に好ましく、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。
【0023】
前記アクリル樹脂(A1)の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下である。前記範囲内にあることで、アクリル樹脂(A1)を水性媒体(E)中へ安定に分散させることができるという利点がある。
【0024】
なお本明細書において、アクリル樹脂(A1)の酸価及び水酸基価は、それぞれ固形分酸価及び固形分水酸基価を表し、JIS K 0070:1999に準じて測定することができる。
【0025】
前記アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-70℃以上、より好ましくは0℃以上、更に好ましくは10℃以上、一層好ましくは15℃以上であり、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは85℃以下、一層好ましくは80℃以下である。前記範囲内にあることで、塗膜加工性及び耐傷付性に優れる塗膜が得られるという利点がある。
【0026】
前記ガラス転移温度は、アクリル樹脂(A1)を構成する各モノマーの質量分率を、各モノマーから誘導される単独重合体(ホモポリマー)のTg(K:ケルビン)値で割ることによって得られるそれぞれの商の合計の逆数として計算することができる。
より詳細には、本明細書において、前記ガラス転移温度(Tg)は、Foxの式(T.G.Fox;Bull.Am.Phys.Soc.,1(3),123(1956))によって算出することができる。
例えば、樹脂が、複数のモノマー(モノマーA、モノマーB、…モノマーN)の重合体である場合、下記一般式:
1/Tg=wa/Tga+wb/Tgb+・・・+wn/Tgn
で表されるTgを樹脂のTgとする。
ここで、
Tga:モノマーAのホモポリマーのガラス転移温度(K)、wa:モノマーAの質量分率、
Tgb:モノマーBのホモポリマーのガラス転移温度(K)、wb:モノマーBの質量分率、
Tgn:モノマーNのホモポリマーのガラス転移温度(K)、wn:モノマーNの質量分率、
を意味し、
wa+wb+・・・+wn=1である。
【0027】
前記アクリル樹脂中(A1)を形成する単量体中、エチレン性不飽和結合を有する単量体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましく、アルキル基の炭素数が1~6、より好ましくは1~4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことがより好ましい。前記範囲内の単量体を用いることで、得られる塗膜の耐傷付性が優れるという利点がある。アルキル基の炭素数が1~6の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル中、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0028】
前記アクリル樹脂(A1)に含まれる単量体中、耐候性の観点から、スチレン系単量体の含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下であり、下限は0質量%である。
【0029】
前記アクリル樹脂(A1)が、酸基を有するものである場合、前記水性塗料組成物は、塩基性化合物を含んでいてもよい。前記水性塗料組成物が、塩基性化合物を含むことで、該酸基の一部又は全部が中和され、アクリル樹脂に対して水分散性を良好に付与することができる。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アミン化合物、アルカリ金属等を用いることができる。また、後述するアミン化合物(D)の一部を前記塩基性化合物とすることもできる。
また、公知のアニオン性及び/又はノニオン性界面活性剤を用いて、アクリル樹脂に対して水分散性を付与してもよい。
【0030】
前記アクリル樹脂(A1)の含有率は、前記塗膜形成樹脂(A)中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0031】
前記アクリル樹脂(A1)は、水性樹脂であることが好ましく、水性媒体(E)に溶解し得る水溶性樹脂であってもよく、コロイダルディスパージョン型、エマルション型(乳化重合型、強制乳化型)等の水性媒体(E)に分散しうる水分散性樹脂であってもよい。前記アクリル樹脂(A1)は、好ましくは水分散性樹脂であり、より好ましくはエマルション型水分散性樹脂であり、特に好ましくは乳化重合によるエマルション型水分散性樹脂である。前記アクリル樹脂が(A1)が、酸基及び/又は水酸基を有すること、及び/又は乳化剤と共存することで、水性樹脂とすることができる。
【0032】
前記アクリル樹脂(A1)が、エマルション型水分散性樹脂である場合、エマルション粒子の平均粒子径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下であり、例えば10nm以上、30nm以上、50nm以上であってもよい。前記範囲内にあることで、エマルション粒子及び前記エマルション粒子を含む塗料組成物の貯蔵安定性が良好であるという利点がある。なお本明細書において、平均粒子径は、動的光散乱法によって決定される平均粒子径であり、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELSZシリーズ(大塚電子社製)等を使用して測定することができる。
【0033】
前記アクリル樹脂(A1)の最低造膜温度(MFT)は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、例えば200℃以下、150℃以下、120℃以下であってもよい。前記範囲内にあることで、得られる塗膜の耐傷付性が向上し、塗膜同士のブロッキングが抑制されるという利点がある。なお本明細書において、最低造膜温度は、前記エマルション型水分散性樹脂を乾燥させたとき、亀裂の無い均一被膜が形成される最低温度を意味し、JIS K 6828-2:2003に準拠して測定することができる。
【0034】
前記アクリル樹脂(A1)が、エマルション型水分散性樹脂である場合、該エマルションは、コア部とシェル部とからなる多層構造粒子が分散されたエマルションであってもよい。
【0035】
前記多層構造粒子は、例えば、特開2002-12816号公報に記載の方法等によって調製することができる。
【0036】
前記アクリル樹脂(A1)は、前記エチレン性不飽和結合を有する単量体を重合することにより製造することができ、前記重合反応は、例えば、前記エチレン性不飽和結合を有する単量体を水性媒体(E)の一部又は全部中でかくはん下加熱することにより実施することができる。前記重合反応は、乳化重合反応であることが好ましい。前記重合反応の際、重合開始剤を共存させることが好ましく、必要に応じて、乳化剤を共存させることが好ましい。反応温度は例えば、30~100℃であることが好ましく、反応時間は、例えば1~10時間であることが好ましい。
【0037】
前記重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩を用いることができる。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることができる。これらのラジカル重合開始剤は、水性媒体(E)の一部又は全部に溶解し、水性溶液として用いてもよい。
【0038】
前記乳化剤としては、炭素数が6以上の炭化水素基等の疎水性部分と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステル等の親水性部分とを同一分子中に有するアニオン系又は非イオン系の乳化剤を用いることができる。前記アニオン系乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系等の基とエチレン性不飽和結合と有する各種アニオン系反応性乳化剤等が挙げられる。
また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテル等のポリオキシアルキレンエーテル;アクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系等の基とエチレン性不飽和結合とを有するノニオン系反応性乳化剤等が挙げられる。
【0039】
また、重合(好ましくは乳化重合)の際、メルカプタン系化合物や低級アルコール等の分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、重合(好ましくは乳化重合)を進める観点から、また塗膜の円滑且つ均一な形成を促進し被塗物への接着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
【0040】
乳化重合を実施する場合、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコアシェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法等、いずれの乳化重合法も用いることができる。
【0041】
前記アクリル樹脂(A1)は、予め該アクリル樹脂(A1)と、後述する水性媒体(E)の一部とを含む水性溶液又は水性分散体として、水性塗料組成物の調製に用いてもよい。該水性溶液又は水性分散体は、更に前記乳化剤を含んでいてもよい。
【0042】
前記アクリル樹脂(A1)としては、市販品を用いてもよい。また、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記塗膜形成樹脂(A)は、前記アクリル樹脂(A1)以外に、その他の樹脂(A2)を含んでいてもよい。
【0044】
前記その他の樹脂(A2)としては、水酸基未含有のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、それぞれ水性樹脂であることが好ましく、水分散性樹脂であることがより好ましく、エマルション型水分散性樹脂であることが更に好ましい。該その他の樹脂(A2)は、予めその他の樹脂(A2)と水性媒体(E)の一部とを含む水性溶液又は水性分散体として、水性塗料組成物の調製に用いてもよい。該水性溶液又は水性分散体は、乳化剤を含んでいてもよい。
【0045】
前記水酸基未含有のアクリル樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する単位を有する重合体を表し、前記エチレン性不飽和結合を有する単量体のうち、水酸基を有しないものの混合物を重合することによって調製することができる。
【0046】
前記水酸基未含有のアクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、更に好ましくは150,000以上であり、好ましくは10,000,000以下、より好ましくは2,000,000以下、更に好ましくは500,000以下である。前記範囲にあることで、得られる塗膜の加工性が良好になるとの利点がある。
【0047】
前記水酸基未含有のアクリル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは50℃以下であり、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは40℃以上である。前記範囲にあることで、耐傷付性が良好になるとの利点がある。
【0048】
前記アクリル樹脂の最低造膜温度(MFT)は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、例えば200℃以下、150℃以下、120℃以下であってもよい。前記範囲内にあることで、得られる塗膜の耐傷付性が向上し、塗膜同士のブロッキングが抑制されるという利点がある。
【0049】
前記水酸基未含有のアクリル樹脂は、酸基を有するのが好ましい。前記水酸基未含有のアクリル樹脂の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0050】
前記水酸基未含有のアクリル樹脂を含む場合、その含有率は、前記アクリル樹脂(A1)と前記水酸基未含有のアクリル樹脂の合計中、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0051】
前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価は、5mgKOH/g以上であり、好ましくは7mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、35mgKOH/g以下であり、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下である。前記範囲内にあることで、加工性及び耐傷付性の良好な塗膜が得られるという利点がある。
【0052】
前記塗膜形成樹脂(A)の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下である。前記範囲内にあることで、前記塗膜形成樹脂(A)を水性媒体(E)中へ安定に分散させることができるという利点がある。
【0053】
前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば50,000以上、好ましくは100,000以上、より好ましくは150,000以上であり、例えば10,000,000以下、好ましくは2,000,000以下である。前記範囲内にあることで、加工性の良好な塗膜が得られるという利点がある。
【0054】
前記塗膜形成樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-70℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上、一層好ましくは30℃以上であり、好ましくは95℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下、一層好ましくは50℃以下である。前記範囲内にあることで、塗膜加工性及び耐傷付性に優れる塗膜が得られるという利点がある。
【0055】
前記塗膜形成樹脂(A)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記塗膜形成樹脂(A)が2種以上含まれる場合、前記塗膜形成樹脂(A)の各パラメータは、ガラス転移温度を除き、各樹脂のパラメータ及び含有率に基づき、加重平均値として算出してもよい。また、ガラス転移温度は、各塗膜形成樹脂の質量基準の含有率をガラス転移温度(K:ケルビン値)で除した値を合計し、その逆数として算出してもよい。
【0056】
前記塗膜形成樹脂(A)の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部中、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、より好ましくは95質量部以下、更に好ましくは90質量部以下である。なお本明細書において、塗膜形成樹脂(A)の含有量は、固形分のみの含有量を表すものとする。
【0057】
本明細書において、水性塗料組成物の固形分は、水性塗料組成物の全部から、水性媒体(E)を除いた部分を表すものとする。
【0058】
<架橋剤(B)>
前記架橋剤(B)は、一分子中に前記塗膜形成樹脂(A)に含まれる水酸基と反応しうる基を2個以上有する化合物であり、前記塗膜形成樹脂(A)と架橋反応し塗膜を形成することができる。前記架橋剤(B)はアミノ樹脂を含み、前記アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂及びベンゾグアナミン等を挙げることができる。得られる塗料組成物の貯蔵安定性及び得られる塗膜の諸物性(加工性、耐傷付性)の観点からアミノ樹脂はメラミン樹脂を含むことが好ましい。
【0059】
メラミン樹脂は、メラミンとアルデヒドとから合成される熱硬化性の樹脂であり、トリアジン核1分子中に反応性官能基として、以下の式で表される反応性官能基を3つ有する化合物又はその重縮合体であることが好ましい。
-NX1X2
[X1、X2は、それぞれ独立に、水素原子、メチロール基又は-CH2-OR1を表す。
R1は、炭素数1~8のアルキル基、好ましくは炭素数1~8の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基を表す。
同一分子中に複数の-CH2-OR1が含まれる場合、複数のR1は、同一であっても異なっていてもよい。]
【0060】
メラミン樹脂としては、反応性官能基として-N(CH2OR1)2のみを含むフルアルキル型;反応性官能基として-N(CH2OR1)(CH2OH)を含むメチロール基型;反応性官能基として-N(CH2OR1)(H)を含むイミノ基型;反応性官能基として、-N(CH2OR1)(CH2OH)と-N(CH2OR1)(H)とを含む、又は、-N(CH2OH)(H)を含むメチロール/イミノ基型の4種類を例示することができる。R1は、炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基、n-ブチル基又はイソブチル基であることが好ましい。
【0061】
本発明においては、前記メラミン樹脂の中でも、X1及びX2のいずれもが、-CH2-OR1である化合物又はその重縮合体であるフルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むのが好ましく、このような樹脂としては、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂等が挙げられる。フルアルキル型メラミン樹脂を含むことで、得られる塗料組成物の貯蔵安定性が良好であり、且つ高温及び触媒存在下でのアクリル樹脂(A1)との反応性が良好になるという利点がある。
【0062】
前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)における重合度は、1以上であり、好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0063】
前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)の数平均分子量は、好ましくは300以上であり、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,300以下、更に好ましくは1,000以下、特に好ましくは800以下である。
なお本明細書において、数平均分子量は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0064】
前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)としては、市販品を用いることもでき、例えば、サイメル303、サイメル325、サイメル350、サイメル370、マイコート715(いずれもメチル化メラミン樹脂、オルネクスジャパン社製)、サイメル202、サイメル235、サイメル254、サイメル1123、サイメル1128、サイメル1170、マイコート212(いずれもメチル-ブチル化混合メラミン樹脂、オルネクスジャパン社製)、スミマールM-40S(メチル化メラミン樹脂、住友化学社製)、アミディアJ-820-60、アミディアL-127-60(いずれもブチル化メラミン樹脂、DIC社製)等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)の含有率は、前記架橋剤(B)中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0066】
前記架橋剤(B)は、前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)以外に、他の架橋剤(B2)を含んでいてもよい。前記他の架橋剤(B2)としては、前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)以外のメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂を挙げることができる。前記アミノ樹脂は、前記塗膜形成樹脂(A)との反応性が高く、得られる塗膜の外観及び耐湿性が良好である。
【0067】
前記架橋剤(B)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
前記塗膜形成樹脂(A)の含有量に対する前記架橋剤(B)の含有量比((B)/(A))は、質量基準で、好ましくは5/95、より好ましくは10/90以上であり、好ましくは30/70以下、より好ましくは20/80以下である。前記範囲内にあることで、得られる塗膜の加工性及び耐傷付性が良好になるという利点がある。
【0069】
<スルホン酸化合物(C)>
前記スルホン酸化合物(C)は、前記塗膜形成樹脂(A)と架橋剤(B)との反応を促進する触媒として作用しうる。そのため、得られる塗料組成物に高い反応性を付与できるという利点がある。
【0070】
前記スルホン酸化合物(C)は、モノスルホン酸化合物であってもポリスルホン酸化合物であってもよい。前記スルホン酸化合物としては、例えば、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸;パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸等の芳香族スルホン酸;等が挙げられる。前記スルホン酸化合物(C)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
前記スルホン酸化合物(C)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。前記スルホン酸化合物(C)の含有量が前記範囲にあることで、プレコート鋼板における加工性(密着性、耐クラック性)や耐傷付性が良好な塗膜を形成することができる。
【0072】
<アミン化合物(D)>
前記アミン化合物(D)は、スルホン酸化合物(C)を中和する作用を有しており、特定の中和率となるようスルホン酸化合物(C)と共存させることで、水性塗料組成物の貯蔵時(例えば15~50℃)の安定性と、塗装後の加熱乾燥・硬化時の高反応性とを両立できるという利点がある。前記アミン化合物(D)は、その一部が、スルホン酸化合物(C)と塩を形成して存在していてもよい。
【0073】
前記アミン化合物(D)は、1つ以上のアミノ基を有する化合物であり、第2級又は第3級アミン化合物であることが好ましい。
【0074】
また、前記アミン化合物の窒素原子の置換基は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、該飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、-COOH、-OH等に置換されていてもよく、該飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基に含まれる-CH2-は、-O-に置き換わっていてもよい。また、前記アミン化合物の窒素原子の置換基が、互いに結合して、該窒素原子を含む環を形成していてもよい。
【0075】
前記アミン化合物(D)としては、例えば、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジアミルアミン、N-エチル-1,2-ジメチルプロピルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ジアリルアミン等の第2級脂肪族アミン化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジアリルアミン、N,N-ジメチルアリルアミン等の第3級脂肪族アミン化合物;ピペリジン、2-ピペコリン、3-ピペコリン、4-ピペコリン、2,4-ルペチジン、2,6-ルペチジン、3,5-ルペチジン、3-ピペリジンメタノール等の第2級環状アミン化合物;N-メチルピペリジン、N-メチルピペラジン、N-メチルモルホリン等の第3級環状アミン化合物;ピリジン、4-エチルピリジン等の芳香族化合物であるアミン化合物等が挙げられる。
【0076】
前記アミン化合物(D)の沸点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下である。前記範囲内にあることで、前記水性塗料組成物の貯蔵安定性をより高めることができるという利点がある。
【0077】
前記アミン化合物(D)の含有量は、前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の中和率、すなわち、以下の式で求められるモル換算の中和率が、100%以上、1,300%以下となる範囲である。
中和率(%)=[(アミン化合物(D)の塩基価数×アミン化合物(D)のモル数)/(スルホン酸化合物(C)の酸価数×スルホン酸化合物(C)のモル数)]×100
【0078】
前記中和率は、好ましくは200%以上、より好ましくは300%以上であり、例えば1,300%以下、1,100%以下、1,000%以下としてもよく、900%以下、800%以下であってもよい。特定の理論に限定して解釈すべきではないが、前記範囲内にあることで、貯蔵時(例えば、15~30℃)では、前記アミン化合物(D)が、前記スルホン酸化合物(C)のスルホン酸基をブロックし、触媒作用を抑制することで、貯蔵安定性を高めることができ、また、塗装後の加熱乾燥・硬化時(例えば、180℃以上)においては、そのブロックが外れ、スルホン酸化合物(C)が、触媒としての機能を発揮しうると考えられる。
【0079】
前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)は、イミノ基型メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂等の一般的に架橋剤として用いられるメラミン樹脂と比較すると、反応性が低いことが知られている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)の反応性が低いのは低温反応の場合(例えば、60~80℃)であること、そして、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)と、前記スルホン酸化合物(C)及び前記アミン化合物(D)とを、これら前記中和率となるように用いた場合には、高温での反応性が高くなることが見出された。前記フルアルキル型メラミン樹脂(B1)、前記スルホン酸化合物(D)、前記アミン化合物(D)及び前記中和率を組み合わせることで、貯蔵安定性が良好であり、高温・短時間での塗装に特に適する水性塗料組成物が得られ、更に、架橋密度を高くすることができるため、塗膜加工性(密着性、耐クラック性)に優れる塗膜が得られるという利点がある。
【0080】
前記スルホン酸化合物(C)及び前記アミン化合物(D)は、直接水性塗料組成物の調製に用いてもよく、予めこれらを混合した混合物として、水性塗料組成物の調製に用いてもよい。この際、前記混合物中において、前記スルホン酸化合物(C)と前記アミン化合物(D)の一部又は全部とが、塩(例えば、アミン化合物(D)に含まれるアミノ基で、スルホン酸化合物(C)に含まれるスルホン酸基がブロックされている塩)を形成していてもよく、スルホン酸化合物(C)とアミン化合物(D)の一部又は全部との塩を形成させた後、塗料組成物に配合してもよい。前記スルホン酸化合物(C)とアミン化合物(D)の一部又は全部との塩としては、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸;ジノニルナフタレンジスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等の芳香族スルホン酸と、これらのアミンブロック体を挙げることができる。前記スルホン酸化合物(C)とアミン化合物(D)の一部又は全部との塩としては、市販品を用いることもできる。
【0081】
一実施態様において、スルホン酸化合物(C)の含有量が、塗膜形成樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下であり、且つ、中和率が100%以上1,300%以下であることが好ましく;スルホン酸化合物(C)の含有量が、塗膜形成樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であり、且つ、中和率が200%以上1,000%以下であることがより好ましく;スルホン酸化合物(C)の含有量が、塗膜形成樹脂(A)100質量部に対して2質量部以上9質量部以下であり、且つ、中和率が300%以上900%以下であることが更に好ましい。塗料組成物が、前記のようなスルホン酸化合物(C)、アミン化合物(D)の量及び中和率を有することで、低温(貯蔵温度、例えば、15~30℃)における貯蔵安定性が高く、且つ、高温における反応性がより高くなり、得られる塗膜の加工性(密着性、耐クラック性)や耐傷付性がより良好となる。
【0082】
前記水性塗料組成物の固形分中、塗膜形成樹脂(A)、架橋剤(B)、スルホン酸化合物(C)及びアミン化合物(D)の合計の含有率は、例えば、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、上限は100質量%以下である。
【0083】
<水性媒体(E)>
前記水性塗料組成物は、水性媒体(E)を含む。前記水性媒体(E)は、水、有機溶剤(E1)又は水と有機溶剤(E1)との混合物であることが好ましい。
【0084】
前記有機溶剤(E1)としては、親水性の有機溶剤が好ましく、例えば、25℃における水への溶解度が0.1g/100gH2O以上の有機溶剤が挙げられる。このような有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶剤;2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチレート等のアルコールエステル系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;並びに、N-メチル-2-ピロリドン等を挙げることができる。このような有機溶剤を用いることで、得られる塗料組成物は基材との濡れ性が良好になるという利点がある。
【0085】
一実施態様において、前記有機溶剤(E1)の沸点は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。このような有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール系溶剤が挙げられ、ジエチレングリコールが特に好ましい。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてよい。
【0086】
前記有機溶剤(E1)の水への溶解度は、25℃において、好ましくは0.1g/100gH2O以上、より好ましくは1g/100gH2O以上、更に好ましくは5g/100gH2O以上である。前記有機溶剤(E1)は、水と任意に混和するものであってもよい。
【0087】
前記水性媒体(E)中の有機溶剤(E1)の含有率は、3質量%以上であり、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。前記範囲にあることで、環境への負荷を低減でき、また、前記塗料組成物の貯蔵安定性や基材への濡れ性、更には得られる塗膜の外観が良好であるという利点がある。
【0088】
前記水性媒体(E)の含有率は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0089】
前記水性塗料組成物は、必要に応じて、前記水性媒体(E)以外の有機溶媒を含んでいてもよい。前記(E)以外の有機溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノール)等が挙げられる。前記(E)以外の有機溶剤の沸点は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
【0090】
<その他>
前記水性塗料組成物は、必要に応じて、更に、その他の添加剤を含んでいてもよい。前記その他の添加剤としては、例えば、体質顔料;着色顔料、染料等の着色剤;遮熱顔料;光輝性顔料;骨材(樹脂粒子、シリカ粒子等);ワックス;前記以外の溶剤;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;カップリング剤(シラン系、チタン系、ジルコニウム系カップリング剤等);タレ止め剤;粘性調整剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;表面調整剤(シリコーン系、有機高分子系等);レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;沈降防止剤;消泡剤;界面活性剤;凍結防止剤;乳化剤;防錆剤;防腐剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤等がある。これらの添加剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
前記粘性調整剤(F)としては、親水基(部分)又は疎水基(部分)の結合力(相互作用)を利用した会合型粘性調整剤;ポリマーの可溶化・増粘作用を利用した増粘型粘性調整剤を挙げることができる。前記会合型粘性調整剤としては、粘性調整剤同士又は基体樹脂との間に水素結合を形成し、その結合力(相互作用)を利用した親水会合型粘性調整剤及び分子内の疎水基(部分)同士の相互作用を利用した疎水会合型粘性調整剤を挙げることができ、前記会合型粘性調整剤としては、アルカリによるポリマーの可溶化・増粘作用を利用したアルカリ増粘型粘性調整剤を挙げることができる。
【0092】
前記親水会合型粘性調整剤としては、ポリアマイド型粘性調整剤が挙げられる。前記ポリアマイド型粘性調整剤としては、市販品を用いてもよく、例えば(以下、いずれも商品名)、BYK-430、BYK-431(ビックケミー社製)、ディスパロンAQ-580、ディスパロンAQ-600、ディスパロンAQ-607(楠本化成社製)、チクゾールW-300、チクゾールW-400LP(共栄社化学社製)等を挙げることができる。
【0093】
前記疎水会合型粘性調整剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、アデカノールUH-420、アデカノールUH-462、アデカノールUH-472、アデカノールUH-526、UH-540、アデカノールUH-814N(ADEKA社製)、プライマルRH-1020、プライマルRM-2020(ダウケミカル社製)、SNシックナー612、SNシックナー621、ノパール700N(サンノプコ社製)等が挙げられる。
【0094】
前記アルカリ増粘型粘性調整剤として、例えば、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。また、市販品を用いてもよく、例えば、チローゼMH及びチローゼH(メルク社製)等のセルロース系粘性調整剤;プライマルASE-60、プライマルTT-615、プライマルRM-5(ダウケミカル社製)、ユーカーポリフォーブ(ユニオンカーバイト社製)等が挙げられる。
これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0095】
前記粘性調整剤(F)としては、会合型粘性調整剤が好ましい。会合型粘性調整剤を含むことで、ロールコーターでの塗装作業性(ロールコーター塗工性)が良好となる利点がある。具体的には、高剪断速度時に塗料組成物の粘性をニュートニアンにすることができる。また、より好ましくは、疎水会合型粘性調整剤と併用することで、得られる塗膜の耐水性等の物性を良好にできる利点がある。
【0096】
本発明の水性塗料組成物に含まれる粘性調整剤(F)の含有量は、塗膜形成樹脂(A)及び架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。粘性調整剤(F)の量がこのような範囲内にあることで、ロールコーターでの塗装作業性(ロールコーター塗工性)並びに得られる塗膜の外観及び耐水性が良好になるという利点がある。
【0097】
前記体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ、ガラス繊維等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0098】
一実施態様において、体質顔料の量は、塗膜形成樹脂(A)及び硬化剤(B)の固形分合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上40質量部以下、より好ましくは10質量部以上30質量部以下である。体質顔料の量がこのような範囲内であることにより、塗膜の耐傷付性が向上しやすくなる。
【0099】
前記着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト等の着色無機顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等の着色有機顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄、微粒化チタン等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0100】
前記遮熱顔料は、近赤外波長域(波長:780nm~2,500nm)の光を吸収しないか、又は近赤外波長域(波長:780nm~2,500nm)の光の吸収率が小さい顔料を指す。前記遮熱顔料としては特に限定されず、以下の無機系遮熱顔料及び有機系遮熱顔料を用いることができる。
【0101】
無機系遮熱顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、チタン酸ナトリウム、酸化ケイ素、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化クロム、酸化鉄、酸化銅、酸化セリウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物系顔料;酸化鉄-酸化マンガン、酸化鉄-酸化クロム(例えば、大日精化社製のダイピロキサイドカラーブラック#9595、アサヒ化成工業社製のBlack6350)、酸化鉄-酸化コバルト-酸化クロム(例えば、大日精化社製のダイピロキサイドカラーブラウン#9290、ダイピロキサイドカラーブラック#9590)、酸化銅-酸化マグネシウム(例えば、大日精化社製のダイピロキサイドカラーブラック#9598)、酸化マンガン-酸化ビスマス(例えば、アサヒ化成工業社製のBlack6301)、酸化マンガン-酸化イットリウム(例えば、アサヒ化成工業社製のBlack6303)等の複合酸化物顔料;シリコン、アルミニウム、鉄、マグネシウム、マンガン、ニッケル、チタン、クロム、カルシウム等の金属系顔料;更に鉄-クロム、ビスマス-マンガン、鉄-マンガン、マンガン-イットリウム等の合金系顔料が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
有機系遮熱顔料としては、例えば、アゾ系顔料、アゾメチン系顔料、レーキ系顔料、チオインジゴ系顔料、アントラキノン系顔料(アントアンスロン顔料、ジアミノアンスラキノニル顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、アントラピリミジン顔料等)、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、キニフタロン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
前記光輝性顔料としては、例えば、アルミ箔、ブロンズ箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の合金箔、箔状フタロシアニンブルー等の箔顔料を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
ワックスとしては、塗料用として当業者に知られているワックスが使用でき、例えば、マイクロクリスタリン、ポリエチレン、ポリプロピレン、パラフィン、カルナウバ及びそれらの変性物等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
前記水性塗料組成物の剪断粘度は、温度23℃において、剪断速度0.01s-1で測定した場合、好ましくは30,000mPa・s以下、より好ましくは20,000mPa・s以下、更に好ましくは10,000mPa・s以下であり、好ましくは3,000mPa・s以上、より好ましくは4,000mPa・s以上、更に好ましくは5,000mPa・s以上である。せん断速度10s-1で測定した場合は、好ましくは800mPa・以下、より好ましくは700mPa・s以下、更に好ましくは600mPa・s以下であり、好ましくは300mPa・s以上、より好ましくは400mPa・s以上、更に好ましくは500mPa・s以上である。剪断速度1,000s-1で測定した場合は、好ましくは1,000mPa・s以下、より好ましくは150mPa・s以上であり、好ましくは500mPa・s以下である。前記範囲内にあることでロールコーター塗装時の塗料のピックアップ性に適した粘度となる。
前記剪断粘度は、例えば、塗料組成物調製直後に測定した値とすることができる。
前記剪断粘度は、回転式粘度計を用いて測定でき、例えば、応力制御型レオメーターMCR301(アントンパール社製社製)等を用いて測定できる。
【0106】
<水性塗料組成物の調製方法>
本発明の水性塗料組成物の調製方法は特に限定されず、各成分を混合することにより調製することができる。例えば、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機分散機、混錬機等を用いて混合することができる。
【0107】
前記水性塗料組成物から形成される塗膜及び該塗膜の製造方法も本発明の技術的範囲に包含される。
【0108】
<被塗物>
本発明の水性塗料組成物の塗装の対象となる被塗物(基材)としては、例えば、溶融法又は電解法等により製造される亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、冷延鋼板等が挙げられる。また、これら鋼板又はめっき鋼板以外に、アルミニウム板(アルミニウム合金板を含む)等の金属板も塗装対象とすることができる。
【0109】
前記被塗物は、表面処理されていることが好ましい。具体的には、被塗物は、アルカリ脱脂処理、湯洗処理、水洗処理等の前処理が施された後に、化成処理が施されていることが好ましい。前記化成処理は公知の方法で行ってよく、例えば、クロメート処理、リン酸亜鉛処理等の非クロメート処理等が含まれる。前記表面処理としては、使用する鋼板に応じて適宜選択することができるが、重金属を含まない処理が好ましい。このように化成処理を施した被塗物上に、本発明の塗料組成物を塗装することにより、塗膜の金属板面に対する密着性が向上するとともに耐食性も向上する。また、化成処理を施した金属板面に下塗り塗膜(プライマー塗膜)を形成し、その上に塗装することもできる。該下塗り塗膜の膜厚は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0110】
<塗膜の製造方法>
本発明の塗膜の製造方法は、
被塗物に本発明の水性塗料組成物を塗装して塗装膜を形成する工程、及び
前記塗装膜を、最高到達温度が180℃以上であり、乾燥及び/又は硬化時間が120秒以下である条件下で、乾燥及び/又は硬化させて塗膜とする工程を含む。
【0111】
本発明の前記水性塗料組成物を被塗物に塗工する方法としては、特に限定されないが、ロールコーター法、エアレススプレー法、静電スプレー法、カーテンフローコーター法等、従来公知の方法を採用することができ、好ましくはロールコーター法、カーテンフローコーター法を挙げることができ、より好ましくはロールコーター法である。
【0112】
前記最高到達温度は、好ましくは200秒以上であり、例えば280秒以下、270秒以下、250秒以下であってもよい。乾燥及び/又は硬化時間は、120秒以下であり、60秒以下、30秒以下、10秒以下、6秒以下とすることもでき、1秒以上であることが好ましい。
【0113】
前記塗装膜を乾燥及び/又は硬化させる方法は、特に限定されないが、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段を用いることができる。
【0114】
乾燥及び/又は硬化後の塗膜の膜厚(乾燥膜厚)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下である。
【0115】
前記被塗物と、該被塗物上に形成された前記塗膜とを有する積層体も、本発明の技術的範囲に包含される。
【0116】
前記被塗物は、更に、一方の面上に前記塗膜を有する場合、他方の面上に、エポキシ樹脂を含む塗料組成物等、公知の塗料組成物から形成される塗膜を有していてもよい。
【0117】
本発明の水性塗料組成物は、通常、金属基材の塗装条件として採用される条件(例えば、乾燥/硬化温度60~80℃、乾燥/硬化時間30分~1時間)よりも、高温且つ短時間の条件で塗装を行う場合にも、硬化性が高く、良好な塗膜物性(密着性、耐クラック性等の加工性、耐傷付性)を有する塗膜を得ることができる。
【0118】
本発明の水性塗料組成物は、貯蔵安定性が高く、且つ、得られる塗膜が、折り曲げ等の加工の際にも被塗物から剥離しにくく密着性が良好であり、またクラックの発生も抑制され耐クラック性が良好であり、且つ、耐傷付性にも優れたものとなる。そのため、本発明の水性塗料組成物は、金属への塗装、特に、プレコートに好適に用いることができる。
【実施例】
【0119】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0120】
<塗膜形成樹脂(A-1)の製造例>
ペレックスSS-H(界面活性剤、花王社製)0.6質量部を、イオン交換水60質量部に溶解させた。これに、メタクリル酸メチル53.0質量部、アクリル酸n-ブチル39.2質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル5.8質量部及びメタクリル酸2.0質量部から成るモノマー混合物を加えてかくはんし、モノマープレエマルション150.5質量部を調製した。別途、開始剤として過硫酸アンモニウム1.0質量部をイオン交換水20質量部に溶解して開始剤水溶液を調製した。
【0121】
温度計、コンデンサー及びかくはん機を備えた反応容器に、イオン交換水40質量部、ペレックスSS-H 0.4質量部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に加熱した。ここに80℃を保持したまま、前記開始剤水溶液を180分かけて滴下し、滴下開始10分後からモノマープレエマルションを反応容器の別の口から150分かけて滴下して、乳化重合を行った。前記開始剤水溶液の滴下が終了した後、更に80℃で60分加熱かくはんした後、室温まで冷却し、これにジメチルエタノールアミン2.10質量部を添加して塗膜形成樹脂(A-1)が水性媒体に分散しているアクリルエマルション(固形分濃度:45質量%)を調製した。
【0122】
モノマー種、量、開始剤量を表1のとおり変更した以外は、前記と同様にして、塗膜形成樹脂(A-2)~(A-11)を調製した。各塗膜形成樹脂における水酸基価等の特数値を表1に示す。
【0123】
実施例、比較例に用いた下記表中に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
塗膜形成樹脂(A)
(A-12)バイロナールMD2000(東洋紡社製、ポリエステル樹脂エマルション);水酸基価:6mgKOH/g、酸価:2mgKOH/g、重量平均分子量:30,000、ガラス転移温度:67℃、最低造膜温度:48℃、平均粒子径:125nm、固形分濃度:40質量%
架橋剤(B)
(B-1)サイメル303(オルネクスジャパン社製、フルアルキル型メチル化メラミン樹脂);固形分濃度:100質量% 数平均分子量:455
(B-2)サイメル300(オルネクスジャパン社製、フルアルキル型メチル化メラミン樹脂);固形分濃度:100質量% 数平均分子量:390
その他の架橋剤
(b-1)サイメル327(オルネクスジャパン社製、イミノ基型メチル化メラミン樹脂);固形分濃度:90質量% 数平均分子量:470
(b-2)マイコート508(オルネクスジャパン社製、イミノ基型ブチル化メラミン樹脂):固形分濃度:80質量%、数平均分子量:1,500
スルホン酸化合物(C)
(C-1)AC400S(テイカ社製、ドデシルベンゼンスルホン酸);固形分濃度:25質量%
(C-2)AC700(テイカ社製、パラトルエンスルホン酸);固形分濃度:25質量%
(C-3)Nacure-1051(楠本化成社製、ジノニルナフタレンスルホン酸);固形分濃度:51質量%
その他の酸化合物
(c-1)Cycat296(オルネクスジャパン社製、リン酸化合物);固形分濃度:50質量%
アミン化合物(D)
(D-1)DMEA(ジメチルエタノールアミン、三菱瓦斯化学社製);沸点:134℃
(D-2)AMP(2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、国産化学社製);沸点:165℃
(D-3)TEA(トリエチルアミン、三菱瓦斯化学社製);沸点:90℃
水性媒体(E)
(E1-1)ジエチレングリコール(日本触媒社製);沸点:244℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1-2)プロピレングリコール(三協化学社製);沸点:187℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1-3)ジプロピレングリコール(昭和化学社製);沸点:232℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1-4)1,4-ブタンジオール(三協化学社製);沸点:228℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1-5)1,5-ペンタンジオール(宇部興産社製);沸点:242℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
粘性調整剤(F)
(F-1)SNシックナー612(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、サンノプコ社製);固形分濃度:40質量%
(F-2)SNシックナー621(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、サンノプコ社製);固形分濃度:30質量%
(F-3)アデカノールUH-526(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、ADEKA社製);固形分濃度:30質量%
(F-4)プライマルRM-2020NPR(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、ダウケミカル社製);固形分濃度:20質量%
(F-5)プライマルASE-60(ポリアクリル酸エステルエマルション系アルカリ膨潤型増粘剤、ダウケミカル社製);固形分濃度:28質量%
【0124】
<顔料分散ペーストの製造例>
分散剤としてDisperbyk190(ビックケミー社製)1.63質量部、ジメチルエタノールアミン 0.25質量部、消泡剤としてSN-477T(サンノプコ社製)0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料として二酸化チタン(Ti-Pure R-706、DuPont社製)65.2質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0125】
<水性塗料組成物1の製造例>
前記製造例で得られた顔料分散ペースト55.1質量部、前記製造例で得られた塗膜形成樹脂(A-1)80.0質量部、塗膜形成樹脂(A-8)20.0質量部、架橋剤(B-1)としてサイメル303 17.6質量部を混合した後、水性媒体としてジエチレングリコール(E1-1)5.4質量部及びプロピレングリコール(E1-2)5.4質量部を混合、かくはんした。次に、スルホン酸化合物(C-1)としてドデシルベンゼンスルホン酸 1.2質量部及びアミン化合物(D-1)としてジメチルエタノールアミン 1.9質量部をディスパーでかくはんし、更に、粘性調整剤(F-1)としてシックナーSN-612 0.2質量部とをかくはんしながら混合し、塗料組成物1を得た。
【0126】
(塗料組成物2~45、比較例1~10)
各成分の種類及び量を、表2~7に記載のように変更したこと以外は、塗料組成物1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0127】
<塗装鋼板の製造例>
厚さ0.4mmの溶融亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、リン酸処理剤サーフコートEC2310(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を、鋼板表面及び裏面に塗布することにより、ノンクロム化成処理を施し、乾燥した。
次に、鋼板の表面に、製造例で得られた塗料組成物を1、乾燥塗膜が18μmとなるようにバーコーターを用いて塗装し、素材最高到達温度230℃となる条件で30秒間焼付けを行ない、表面塗膜を形成し、塗装鋼板を得た。
【0128】
1)剪断粘度測定
実施例及び比較例で得られた塗料組成物の剪断粘度を、応力制御型レオメーターMCR301(アントンパール社製、治具:50mmパラレルプレート、ギャップ:0.5mm)を用いて、剪断速度0.1s-1、10s-1及び1,000s-1での剪断粘度を測定した。測定温度は23℃とした。
【0129】
2)貯蔵安定性
JIS K 5600 2-2(フローカップ法)に規定する方法に準拠し、フォードカップNo.4(上島製作所社製)を用いて評価した。
実施例及び比較例で得られた塗料組成物にイオン交換水を添加し、粘度を60±10秒となるよう調整した(初期粘度(秒))。詳細には、初期粘度は、前記イオン交換水で希釈し、ディスパーを用いて1,000rpmで3分間かくはんした後、直ちに測定した粘度とした。塗料温度は25℃とした。
【0130】
前記初期粘度(60±10秒(25℃))に調整した塗料組成物を1/5缶に8~9分目入れ、密閉した後、40℃の恒温室に静置した。その後、14日(2週間)後に取り出し、前記と同様に粘度を測定した(経時粘度(秒))。
初期粘度に対する経時粘度の変化率を下記式により算出し、貯蔵安定性を下記基準により評価した。○以上を合格とした。
粘度変化率(%)=経時粘度(秒)/初期粘度(秒)×100
◎:粘度変化率が0%以上30%未満である。
○:粘度変化率が30%以上50%未満である。
△:粘度変化率が50%以上100%未満である。
×:粘度変化率が100%以上である。
【0131】
5)塗装作業性(ロールコーター塗工性)
実施例及び比較例で得られた塗料組成物について、3本のロール(バックアップロール、アプリケーションロール、ピックアップロール)を備えた小型テストコーター(エヌ・ケイ・テック社製)を用いて、以下の条件で被塗物に塗装し、ロールコーター塗工性を、下記基準に従って評価した。○以上を合格とした。なお、試験条件は、室温23℃、湿度60RH%とした。
・被塗物:300mm×2,000mm×0.35mmサイズのGL鋼板(日鉄鋼板社製)
・塗装条件:
・ラインスピード:50m/min
・ロール周速:アプリケーションロール:65m/min(対ラインスピード比130%)、ピックアップロール:20m/min(対ラインスピード比40%)
・バックアップロール圧:60kgf
・基準塗布量:乾燥塗膜の質量が28g/m2
・焼付け条件:被塗物の素材最高到達温度230℃となる条件で30秒間
◎:全面を基準塗布量で均一に塗布できる
○:全面を均一に塗布できるが、塗布量が20~28g/m2である
△:全面を塗布できるが、塗布量が20g/m2未満であり、膜厚が不均一となる
×:未塗装部が生じ、全面を塗装することが出来ない
【0132】
なお、ロールコーターにおいて、塗料は、ピックアップロールによって巻き上げられ、アプリケーションロールに転移し、更にバックアップロールに転移して、被塗物に塗装される。ピックアップロールによって塗料が適切に巻き上げられ、アプリケーションロール、バックアップロール圧によりバックアップロールへと塗料の転移が適切に行われることで、塗料は被塗物に均一に塗装されるが、ピックアップロールによって、塗料が少量しか巻き上がらない場合、ロール間の転移の際にムラが発生し、被塗物に均一に塗装されない。
【0133】
4)加工性(密着性)
実施例及び比較例で得られた各塗装鋼板を5cm×3cmに切断し、ハゼ折り機(上島製作所社製)を用いて、塗膜面が表側になるように予備曲げをした。その試験片に同一の厚み(0.4mm)の鋼板を2枚挟み、プレス機(協立工業社製)にて折り曲げ加工した。塗装鋼板の加工部にセロハンテープ(登録商標)(LP-24、ニチバン社製)を密着させ、一気に剥離し、加工部塗膜の密着性を評価した。テープで剥離した部分の外観を、下記基準により評価した。4点以上を合格とした。
5:テープ剥離の部分に金属の素地が認められない。
4:テープ剥離の部分の面積の(0%を超え)20%未満に金属の素地部が認められる。
3:テープ剥離の部分の面積の20%以上50%未満に金属の素地部が認められる。
2:テープ剥離の部分の面積の50%以上80%未満に金属の素地部が認められる。
1:テープ剥離の部分の面積の80%以上に金属の素地部が認められる。
【0134】
5)加工性(耐クラック性)
実施例及び比較例で得られた各塗装鋼板を5cm×3cmに切断し、ハゼ折り機(上島製作所社製)を用いて、塗膜面が表側になるように予備曲げをした。その試験片に同一の厚み(0.4mm)の鋼板を5枚挟み、プレス機(協立工業社製)にて折り曲げ加工した。加工部分の塗膜の状態(クラック)を15倍ルーペで観察し、加工性を下記基準により評価した。4点以上を合格とした。なお、試験条件は、温度23℃、湿度60RH%とした。
5:加工部分にクラックが認められない。
4:加工部分の面積の(0%を超え)20%未満にクラックが認められる。
3:加工部分の面積の20%以上50%未満にクラックが認められる。
2:加工部分の面積の50%以上80%未満にクラックが認められる。
1:加工部分の面積の80%以上にクラックが認められる。
【0135】
6)耐傷付性
連続加重式引掻強度試験機TYPE:18/18L(新東科学社製)を用いて、実施例及び比較例で得られた各塗装鋼板の塗膜面にR0.4mmとなるようにR加工を施したダイヤモンド針(R加工を施した円錐状のスクラッチ針、直径0.4mm)をあて、荷重をかけて300mm/min、移動幅10cmで1回擦り付けた。塗膜面が傷付き、素地の露出が確認できたときの荷重の重さを下記基準により評価した。○以上を合格とした。なお、荷重は500gfずつかけ、試験条件は、温度23℃、湿度60RH%とした。
◎:荷重3,000gを超えても素地が露出しない
○:荷重2,000を超え3,000g以下
△:荷重1,000gを超え2,000g以下
×:荷重1,000g以下
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
実施例1~45は、本発明の実施例であり、貯蔵安定性が高く、加工性に優れ、且つ耐傷付性が良好であった。
【0144】
比較例1、2は、アクリル樹脂(A1)の水酸基価が5mgKOH/gに満たない例であり、耐傷付性に劣っていた。比較例3、4は、アクリル樹脂(A1)の水酸基価が35mgKOH/gを超える例であり、貯蔵安定性及び加工性に劣っていた。比較例5、6は、アミン化合物(D)によるスルホン酸化合物(C)の中和率が、100%に満たない例であり、貯蔵安定性に劣っていた。比較例7は、アミン化合物(D)によるスルホン酸化合物(D)の中和率が、1,300%を超える例であり、貯蔵安定性に劣っていた。比較例8、9は、架橋剤(B)として、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含まない例であり、加工性に劣っていた。比較例10は、スルホン酸化合物(C)を含まず、リン酸化合物を用いた例であり、貯蔵安定性及び耐傷付性に劣っていた。
【要約】
【課題】本発明は、一液形であっても貯蔵安定性に優れ、折り曲げ等の加工性や加工の際の耐クラック性及び耐傷付性の良好な塗膜を形成し得る水性塗料組成物の提供を課題とする。
【解決手段】本発明の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、架橋剤(B)、スルホン酸化合物(C)及びアミン化合物(D)を含むものであり、前記塗膜形成樹脂(A)が、アクリル樹脂(A1)を含むものであり、前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価が、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり、前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下である。
【選択図】なし