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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】コンクリート型枠
(51)【国際特許分類】
   B28B 7/38 20060101AFI20220708BHJP
   E04G 9/00 20060101ALI20220708BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220708BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220708BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220708BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220708BHJP
【FI】
B28B7/38
E04G9/00 102
C09D5/00 D
C09D175/04
C09D7/62
C09D7/65
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020003999
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021109408
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2020-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】594128913
【氏名又は名称】株式会社長大
(73)【特許権者】
【識別番号】507381455
【氏名又は名称】株式会社フェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100207066
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 毅
(74)【代理人】
【識別番号】110002402
【氏名又は名称】特許業務法人テクノテラス
(72)【発明者】
【氏名】井田 一成
(72)【発明者】
【氏名】有元 拓也
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/078029(WO,A1)
【文献】特開2016-008405(JP,A)
【文献】特開2004-133008(JP,A)
【文献】特開2008-156916(JP,A)
【文献】特開2015-193245(JP,A)
【文献】特開2019-034282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00-7/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠を構成する基材の少なくとも一面に塗膜が形成されたコンクリート型枠であって、
前記塗膜は、
前記塗膜が形成された前記型枠を構成する基材と同一の材料からなるからなる目地棒を、予め未硬化コンクリート中に挿入し、前記未硬化コンクリートを一定条件で硬化させた後、前記目地棒を前記硬化後のコンクリートから引き抜く際の引張応力をTとし、
前記硬化後のコンクリートの圧縮強度をCとしたとき、
TがCの0.1%以下となるものからなり、
前記塗膜は、
下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜の表面に形成された上塗り塗膜とを有し、
前記下塗り塗膜は、架橋アクリル粒子又は架橋ウレタン粒子から選択される少なくとも1種の架橋粒子を含むポリウレタン塗膜からなり、
前記上塗り塗膜は、長鎖フルオロアルキルシランが表面無処理の親水性ゲルタイプシリカ粉末に化学的に結合しており、前記親水性ゲルタイプシリカ粉末が前記下塗り塗膜の表面側に固着しており、前記上塗り塗膜の表面側に前記長鎖フルオロアルキルシランが配向されているものからなり、
前記塗膜は、前記下塗り塗膜の塗装時のNV値は60~80%であり、上塗り塗膜の塗装時のNV値は85~95%であることを特徴とする、前記コンクリート型枠。
(ただし、
NV(%)=(乾燥後の塗膜重量/塗着時の塗膜重量)×100
であり、下塗り塗膜の塗着時の塗膜重量は塗着後3分後の値を示し、上塗り塗膜の塗着時の塗膜重量は塗着後1分後の値を示す。)
【請求項2】
前記塗膜は水に対する接触角が140°以上であることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート型枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート型枠に関し、特にコンクリート硬化後にコンクリート型枠を剥離する際に大きな力を要せずに容易に剥離でき、脱型後のコンクリート表面の美観に優れるとともに、再利用も可能な表面に塗膜が形成されたコンクリート型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にコンクリート構造物の構築に際しては、コンクリート型枠を複数枚用いて型枠構造体を形成し、この枠構造体内にコンクリートを打設して硬化後に型枠を剥離することによりコンクリート構造物を構築している。そのため、コンクリート型枠の剥離を容易にする(以下、「易剥離性」ということがある)とともに、硬化したコンクリートの表面にあばたと称される凹みの形成を抑制して美観に優れた表面が得られるようにするため、型枠基材の表面に剥離剤を塗布することが多く行われてきた。
【0003】
しかしながら、コンクリート面に仕上げ処理を行う場合、型枠基材に塗布された剥離剤が硬化したコンクリートの表面に付着しているため、仕上げ面の剥がれが生じることがある。また、剥離剤を塗布して使用した型枠を再使用する場合、再度剥離剤を塗布する必要があった。そのため、近年はコンクリート型枠に易剥離性を付与するとともに、コンクリート型枠を再使用することができるようにするため、型枠基材の表面に塗料を塗布したものや、型枠保護シートを設けたものが使用されるようになってきている。
【0004】
これらの型枠基材に形成される塗膜としては、例えば特定の組成の樹脂成分と、無機フィラー等を含むもの(特許文献1)や、樹脂と、撥水性微粒子と、この撥水性微粒子よりも平均粒子径の大きいビーズ状粒子を含むもの(特許文献2)などが採用されている。また、型枠保護シートとしては、例えば型枠基体に貼着される粘着層と、粘着層の表面に設けられた通水層と、通水層の表面であってコンクリートと接する側に設けられた、コンクリート中の余剰水分及び気泡を透過させるがセメント粒子の透過を防ぐフィルター層とを有するもの(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-074891号公報
【文献】特開2018-108692号公報
【文献】特開2019-157486号公報
【文献】特開2016-008405号公報
【文献】特許第5299627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2に開示されているコンクリート型枠によれば、一応、何らの処理を行わないコンクリート型枠よりも小さい力で型枠を剥離することができ、また、コンクリート表面の凹みの形成を大きく抑制することができるようになる。そのため、特に仕上げ工程を設けなくても一応の美観を有するコンクリート面を得ることができるだけでなく、何等の追加処理も要せずに型枠の再使用も可能となるという利点も有している。しかしながら、これらのコンクリート型枠基材の表面に塗膜を形成した型枠であっても、塗膜が硬化したコンクリートの表面と強固に結合しているために依然として型枠の剥離に大きな力を要し、更なるコンクリート型枠の易剥離性を達成できる塗膜の開発が要望されている。
【0007】
一方、上記特許文献3に開示されている型枠保護シートを有するコンクリート型枠は、コンクリート硬化時に発生した空気及び水分を通水層を介して外部へ放出できるためにあばたのような凹みの形成は少なくなり、また、型枠の剥離時には型枠保護シートの粘着層部分から剥離できるので容易に型枠を剥離できるという利点も有している。
【0008】
しかしながら、上記特許文献3に開示されているコンクリート型枠を硬化したコンクリートの表面から剥離すると、型枠の表面に設けられていた型枠保護シートは型枠の表面から剥がれてコンクリートの表面に付着して残存した状態となる。そのため、硬化したコンクリートの表面からこの型枠保護シートを剥離する必要があり、手間が掛かるという課題がある。加えて、特許文献3に開示されている型枠保護シートを有するコンクリート型枠は、剥離してしまった型枠保護シートは再利用できないため、型枠を再利用するためには新たな型枠保護シートを型枠に貼付する必要があった。
【0009】
なお、上記特許文献4には、コンクリート成形用の型枠の表面に水に対する接触角が130°以上の撥水層を形成し、コンクリート打ち込み後に型枠を振動させることによって撥水層に接触した気泡を上昇させて除去することによってあばたの少ないコンクリート表面を得る例が示されているが、型枠の剥離性に関する示唆はない。
【0010】
発明者らは、易剥離性を有するコンクリート型枠を得るべく種々検討を重ねてきた。その結果、特にコンクリート型枠の表面に塗布される塗料の組成を見直し、所定の特性を有する塗膜を形成したコンクリート型枠とすることによって易剥離性を有するコンクリート型枠が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。すなわち、本発明は、硬化したコンクリートからコンクリート型枠を剥離する際に大きな力を要せずに容易に剥離でき、しかも、コンクリート表面に凹みの形成を抑制することができるとともに、剥離した型枠をそのまま再利用することも可能な、表面に塗膜が形成されたコンクリート型枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様のコンクリート型枠は、型枠を構成する基材の少なくとも一面に塗膜が形成されたコンクリート型枠であって、
前記塗膜は、
前記塗膜が形成された前記型枠を構成する基材と同一の材料からなるからなる目地棒を、予め未硬化コンクリート中に挿入し、前記未硬化コンクリートを一定条件で硬化させた後、前記目地棒を前記硬化後のコンクリートから引き抜く際の引張応力をTとし、
前記硬化後のコンクリートの圧縮強度をCとしたとき、
TがCの0.1%以下となるものからなり、
前記塗膜は、
下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜の表面に形成された上塗り塗膜とを有し、
前記下塗り塗膜は、架橋アクリル粒子又は架橋ウレタン粒子から選択される少なくとも1種の架橋粒子を含むポリウレタン塗膜からなり、
前記上塗り塗膜は、長鎖フルオロアルキルシランが表面無処理の親水性ゲルタイプシリカ粉末に化学的に結合しており、前記親水性ゲルタイプシリカ粉末が前記下塗り塗膜の表面側に固着しており、前記上塗り塗膜の表面側に前記長鎖フルオロアルキルシランが配向されているものからなり、
前記塗膜は、前記下塗り塗膜の塗装時のNV値は60~80%であり、上塗り塗膜の塗装時のNV値は85~95%であることを特徴とする、前記コンクリート型枠。
(ただし、
NV(%)=(乾燥後の塗膜重量/塗着時の塗膜重量)×100
であり、下塗り塗膜の塗着時の塗膜重量は塗着後3分後の値を示し、上塗り塗膜の塗着時の塗膜重量は塗着後1分後の値を示す。)
【0012】
第1の態様のコンクリート型枠によれば、前記塗膜が形成された前記型枠を構成する基材とコンクリートとの間の付着力が小さくなっているので、型枠を剥離する際に大きな力を要せずに容易に剥離でき、しかも、コンクリート表面の凹凸の形成を抑制することができるとともに、型枠の再利用も可能なコンクリート型枠となる。
【0013】
なお、前記コンクリートの圧縮強度Cは、所定の未硬化コンクリートを予め定めた時間、予め定めた条件で硬化させた場合には所定の一定値となると見なせる。したがって、TとCとの関係は、Tの値が小さいほど塗膜が形成された前記型枠を構成する基材とコンクリートとの間の付着力が小さくなることを意味する。そして、TがCの0.1%以下となると、それに伴って目地棒とコンクリート間の付着力が顕著に小さくなって、目地棒が硬化したコンクリートから抜けやすくなり、これが本発明の第1の態様のコンクリート型枠が硬化したコンクリート表面から剥離しやすくなることにつながり、同時にコンクリート表面の凹凸も少なくなることを示している。
【0014】
また、Tが大きく目地棒が硬化したコンクリートから抜けにくくなることは、コンクリート型枠と硬化コンクリートの付着強度が大きいことを示す。コンクリート型枠と硬化コンクリートの付着強度が大きいと、脱型時にコンクリート型枠表面にコンクリート片が固着した状態でコンクリート躯体表面からコンクリート片が剥がされることでコンクリート躯体表面が荒らされ、それに伴ってコンクリート表面の凹凸も増加していく。逆に、Tが小さい場合にはコンクリート表面の凹凸が減少することとなり、この傾向はTがCの0.1%以下の場合に顕著に現れる。より好ましいT/Cの値は、TがCの0.06%以下である。なお、T=0とすることはできないので、T/Cの下限値は0%超となる。このように、T/Cの値から、コンクリート型枠の硬化したコンクリートの表面からの剥離しやすさないし剥離しにくさを判定することが出来るようになるとともに、コンクリート表面に凹凸が少なくて美観が良好なコンクリート表面が得られるかあるいはコンクリート表面に凹凸が多く生じるかが分かるようになる。
【0015】
なお、前記未硬化コンクリートを予め定めた時間、予め定めた条件で硬化させる際には、JIS A 1132:2014「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に準拠し、例えば材齢2日で脱型を行った後、温度20℃の水中に存置し、材齢3日のコンクリートとし、これらのコンクリートを用いて引張試験及び圧縮強度を行えばよい。また、引張試験(引張応力Tの測定)は、目地棒の一端にユニバーサルジョイントを介して硬化したコンクリートから引き抜かれるまで予め定めた所定試験速度で加力して測定すればよい。また、硬化したコンクリートの圧縮強度Cは、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮試験方法」に準拠して測定すればよい。
【0017】
また、本発明の第1の態様のコンクリート型枠の塗膜は、容易に前記TがCの0.1%以下となるようにすることができ、型枠を剥離する際に大きな力を要せずに容易に剥離でき、コンクリート表面の凹みの形成を抑制することができるとともに、型枠の再利用も可能なコンクリート型枠を得ることができるようになる。
【0019】
また、本発明の第1の態様のコンクリート型枠によれば、塗膜の外観、撥水性、耐摩耗性及び耐アルカリ性に優れた塗膜を有しているものとなるので、上記コンクリート型枠の奏する効果がより良好に奏されるようになる。
【0020】
また、本発明の第の態様のコンクリート型枠は、第の態様のコンクリート型枠において、前記塗膜は水に対する接触角が140°以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明の第の態様のコンクリート型枠は、塗膜が水に対する接触角が140°以上となっているので、コンクリート表面の水分と塗膜との間の結合力が極めて弱くなり、容易に前記TがCの0.1%以下となるようにすることができるので、上記第の態様のコンクリート型枠の効果が良好に奏されるようになる。なお、本発明の塗膜は、必ずしも超撥水性(水に対する接触角が150°以上のもの)までは必要ないが、超撥水性のものであればより好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明のコンクリート型枠によれば、型枠を剥離する際に大きな力を要せずに容易に剥離でき、しかも、コンクリート表面の凹みの形成を抑制することができるとともに、型枠の再利用も可能なコンクリート型枠を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1Aは引抜試験体の作成時の木製型枠及び目地棒の配置を示す左側面図であり、図1Bは同じく平面図である。
図2】引抜試験時の概略側面図である。
図3図3Aは実験例1の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図3Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。
図4図4Aは実験例2の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図4Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。
図5図5Aは実験例3の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図5Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。
図6図6Aは実験例4の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図6Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。
図7】引抜試験後のコンクリート表面の凹凸の測定範囲の説明図面である。
図8図8Aは実験例1のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図8Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。
図9図9Aは実験例2のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図9Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。
図10図10Aは実験例3のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図10Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。
図11図11Aは実験例4のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図11Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るコンクリート型枠について、各種実験例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す各種実験例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこれらの実験例に示したものに特定することを意図するものではない。本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0025】
コンクリート型枠を硬化したコンクリートから剥離する際の力、すなわち剥離性の評価方法は、型枠とコンクリートの配置関係によっても変化するため、公定の測定方法は存在しない。そこで、ここでは、コンクリート型枠の剥離性の指標として、目地棒(面木(めんぎ)とも称される。コンクリートの角部に欠け防止用のテーパを形成するための部材。)に類似した目地棒の少なくとも一部に所定の塗料を塗布したものを測定用試料として用いてコンクリートとの間の剥離性を確認した。
【0026】
[予備実験例1~3]
一般に、塗膜に対する水の接触角をθとすると、θ≧90°の場合は撥水性(疎水性)、θ=110°~150°の場合は高撥水性、θ>150°の場合は超撥水性とされる。撥水性を決定する主要因としては、固体の表面自由エネルギーと表面の微細構造がある。フッ素樹脂のような撥水性材料を塗布して形成した塗膜は表面自由エネルギーが小さい材料を用いた例であるが、そのままでは約115°以上の接触角を達成することは困難である。そこで、より大きい接触角の塗膜を得る場合は、塗料に粒状成分を含有させることによって塗膜の微細構造を変え、見かけの接触角を大きくしている(上記特許文献4参照)。しかしながら、コンクリート型枠を硬化したコンクリートから剥離するのに必要な力は水に対する接触角のみでは定まらず、また、このような大きな接触角を有する塗膜は塗料の塗装条件が変化すると得られた塗膜の特性も変化する。
【0027】
そこで、以下では、予備実験用の目地棒の表面に塗料の塗装条件を変えることにより塗膜を形成した予備実験例1~3の3種類の試料を用い、それぞれの塗膜の特性を調査し、本発明の実施形態で使用する塗料の選別を行った。なお、以下で使用した塗料は、下塗り塗料及び上塗り塗料ともに上記特許文献5に開示されている発明に属するものである。
(1)予備実験用目地棒:底辺30mm×高さ30mm×長さ2000mm程度の市販の角目地棒「HB-30」(発泡樹脂製)を長さ300mmに切断して使用した。予備実験例1~3のそれぞれにおいてそれぞれ3本の予備実験用目地棒を用いた。
(2)塗装条件:
(2-1)下塗り:
塗 料:FOC WORプライマー((株)フェクト製)
混合比:主剤/硬化剤/シンナー=10/1/1~5(重量比)
乾 燥:常温下、5分
(2-2)上塗り:
塗 料:FOC WORトップコート((株)フェクト製)
混合比:A剤/B剤=10/1
乾 燥:70℃×10分
【0028】
予備実験例1~3の予備実験用目地棒における下塗り、上塗りとも、塗装機の塗料噴射量や霧化エアー圧などを変更して、塗着時のNV値を調整した。なお、NV値は以下の式によって定義されるパラメータである。
NV(%)=(乾燥後の塗膜重量/塗着時の塗膜重量)×100
ただし、下塗り塗膜のNV値は塗着後3分後の値を示し、上塗り塗膜のNV値は塗着後1分後の値を示す。
【0029】
[測定結果]
撥水性の判定は、予備実験例1~3の塗膜が形成された予備実験用目地棒を水平位置から角度10度だけ傾けて塗膜表面に4μLの水滴を滴下した際のそれぞれの水滴の挙動から判定した。結果は、水滴滴下後直ちに落下したものを「○」、水滴滴下後にゆっくり落下し、途中で停止したものを「△」、水滴滴下後その位置に停滞したものを「×」と判定した。
【0030】
耐摩耗性は、予備実験例1~3の塗膜が形成された予備実験用目地棒の表面を竹ヨージTB-1008(TRUSCO製)で摩擦(100往復/分)後、水洗1分後の付着水の転落角から判定した。傾けるとすぐに水滴が転落したものを「○」、傾けてもしばらく落下しなかったものを「×」と判定した。
【0031】
耐アルカリ性は、予備実験例1~3の塗膜が形成された予備実験用目地棒を0.002mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に23℃で3時間浸漬し、水洗1分後の水の転落角から判定した。傾けるとすぐに水滴が転落したものを「○」、傾けてもしばらく落下しなかったものを「×」と判定した。
【0032】
予備実験例1~3の塗膜が形成された予備実験用目地棒表面の水に対する接触角は、接触角測定器FIBRO SYSTEM AB(Testing Machines、 Inc., Sweden)を用いて測定した。
【0033】
これらの測定結果を表1に纏めて示した。
【表1】
【0034】
表1に示した結果から、以下のことが分かる。すなわち予備実験例2の塗布条件は、上塗り及び下塗りともにNV値が小さいため、残留溶剤が多くて塗膜がムラ状になりやすく、上塗りのシリカ粉末(フロロシラン処理)の配向が不均一になっているのが見られた。このときの水に対する接触角は123°~139°であった。また、予備実験例3の塗布条件は、上塗り及び下塗りともにNV値が大きく、残留溶剤が少ない状態であり、上塗の下塗りへの浸透性が低下し、上塗/下塗の層間付着性が低下して耐摩耗性や耐アルカリ性が悪化していた。また上塗り塗膜がダスト状になるため撥水性も低下しており、水の接触角は98°~112°と小さかった。
【0035】
それに対し、予備実験例1の塗装条件は、上塗り及び下塗りともにNV値の範囲が好適であり、上塗りのシリカ粉末の配向ないし配列が均一となっていることが確認できた。また、予備実験例1の塗膜の水に対する接触角は、143°~151°であり、予備実験例2及び3よりも大きい結果が得られた。以上の点を踏まえ、以下に示すコンクリートに対する剥離性試験(引抜試験)に用いる本発明の実施形態に対応する塗膜としては、上記予備実験例1に示された手順により形成されたものを採用した。
【0036】
[剥離性試験(引抜試験)]
予備実験で用いたのと同様の目地棒を用い、コンクリート試験体の作製及び剥離性能試験(以下、「引抜試験」という。)を実施した。引抜試験は、日本建築学会「建築工事標準仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事2018」(以下、JASS5とする。)「9節 型枠工事」に記載されているように、打設したコンクリートの圧縮強度が5~10N/mm程度発現したことを確認した後、実施した。
【0037】
実験例1~4で使用する目地棒としては、予備実験で用いたのと同様の市販の発泡樹脂製角型目地棒「HB-30」を500mmに切断したものを用いた。塗料としては、無塗布(実験例1)、シリコーン樹脂系塗料(実験例2)、フッ素樹脂系塗料(実験例3)及び上記予備実験例1のもの(実験例4)の4種類で行った。なお、実験例2及び3で用いた塗料は、いずれもコンクリート型枠用撥水剤として広く市販されているものをそのまま用いた。
【0038】
(引抜試験体の作製)
引抜試験体の作製時の木製型枠及び目地棒の配置を図1に示す。なお、図1Aは引抜試験体10の作成時の木製型枠11及び目地棒12の配置を示す左側面図であり、図1Bは同じく平面図である。引抜試験体10は、寸法L1=150mm立方のコンクリート供試体であり、目地棒12は縦横L2=30mm×30mm、長さ500mmの角棒であり、コンクリートの定着部の長さL1=150mmとし、木製型枠11の中央部に設置した。引抜試験体10は実験例1~4ごとに3体ずつ、計12体作製した。なお、実験例2~4の目地棒の定着部は、全て対応する塗膜で覆われている。
【0039】
(コンクリートの練り混ぜ)
引抜試験体10の作製に用いるコンクリートは、市販のポルトランドセメントを用いた。コンクリートの品質目標値は、スランプ18.0±2.5cm、空気量4.5±1.5%とした。コンクリートの練混ぜは、100L強制練りミキサパン形を用い、細骨材およびセメントを投入し10秒間、水および化学混和剤を加えて30秒間、粗骨材を加えて90秒間練混ぜを行い、排出した。1バッチの練混ぜ量は、70Lとした。排出後のコンクリートは、練り舟の上でスコップにより切り返しを行って均一にし、フレッシュ性状試験および試験体作製に用いた。
【0040】
なお、スランプはJIS A 1101:2014「コンクリートのスランプ試験方法」により、空気量はJIS A 1128:2014「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法-空気室圧力方法」により、コンクリート温度はJIS A 1156:2014「フレッシュコンクリートの温度測定方法」に従って測定した。圧縮強度測定用供試体は、JIS A 1132:2014「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」により、寸法φ100×200mmの円柱供試体を6本作製した。供試体は、材齢2日で脱型を行った後、温度20℃の水中に存置した。圧縮強度は、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」により行った。試験実施時期は材齢3日とした。各種試験体作製に用いたコンクリートの配合を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
コンクリート打設後、図2に示すように、目地棒12の端部に長さ200mm×幅40mm×厚さ3mmのアルミニウムのフラットバーを接着長さが150mmとなるように接着してつかみ部15を形成した。接着剤は、コニシ株式会社製エポキシ樹脂系接着剤ボンドE250を用いた。なお、図2は引抜試験時の概略側面図であり、図2においてはつかみ部15の図示は概略化されている。
【0043】
(引抜試験方法)
実験例1~4のそれぞれの引抜試験体10は、コンクリート打設後、材齢3日での圧縮強度がJASS5の定める脱型時強度(5~10N/mm以上)を満足したため、試験体10の脱型を実施した。引抜試験は、株式会社島津製作所製のコンピュータ計測制御によるロードセル式万能試験機「AUTOGRAPH AG-25TD」(最大容量250kN、使用ロードセル5kN)を用いて、クロスヘッド変位による変位制御で垂直方向載荷を実施した。図2に示すように、引抜試験体10を引抜試験用治具20に設置後、目地棒12に接着したつかみ部15を介して目地棒12が引き抜けるまで加力した。
【0044】
クロスヘッドの変位速度は、変位が4mmまでは0.5mm/minとし、それ以降は50mm/minとした。目地棒12の引抜変位の測定は、オプテックス・エフエー株式会社製のレーザー変位計21(CDD-15VM12(測定範囲15±5mm))を図2に示す位置に設置して計測した。荷重および変位の記録は、株式会社東京測器研究所製のマルチレコーダーTMR200シリーズ(TMR-211コントロールユニット、TMR-221ひずみ4ゲージユニット)および動的計測ソフトウェアTMR-7200を用いた。データのサンプリング速度は、無塗布の場合は2Hzとし、その他の場合は10Hzとした。
【0045】
(引抜試験結果)
実験例1~4のそれぞれの引抜試験結果を表3に、荷重と変位の関係を図3図6に示した。なお、図3Aは無塗布の目地棒を用いた実験例1の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図3Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。図4Aはシリコーン樹脂系塗膜を有する目地棒を用いた実験例2の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図4Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。図5Aはフッ素樹脂系塗膜を有する目地棒を用いた実験例3の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図3Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。図6Aは上記予備実験例1の塗膜を有する目地棒を用いた実験例4の3体の試料のそれぞれの変位0.30mmまでの変位と荷重の関係を示す図であり、図6Bは同じく変位4mmまでの変位と荷重の関係を示す図である。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の引抜試験の結果に示したとおり、最大荷重平均値は、実験例1の「無塗布」の場合が831N、実験例2の「シリコーン樹脂系塗膜」の場合が890N、実験例3の「フッ素樹脂系塗膜」の場合が975N、実験例4の「予備実験1の塗膜」の場合が111Nとなった。実験例4の「予備実験1の塗膜」の場合は「無塗布」の場合と比べて1/8程度の最大荷重となっており、無塗布の場合よりもきわめて容易に引き抜けることを示している。それに対し、実験例2の「シリコーン樹脂系塗膜」の場合及び実験例3の「フッ素樹脂系塗膜」の場合は、いずれも実験例1の「無塗布」の場合よりも大きな最大荷重及び荷重保持率(実験例1の最大荷重を基準とした相対値)となっていた。
【0048】
[コンクリート表面の観察]
表3に示した引抜試験の結果は、離型剤として周知のシリコーン樹脂系塗料及びフッ素樹脂系塗料を用いても必ずしも引抜力の低下につながらないことを示している。この原因追究のため、引抜試験後のコンクリートを上下方向に2分割し、目地棒に接触していたコンクリート面(以下、コンクリート表面という。)の目視観察および凹凸測定を実施した。コンクリート表面の凹凸は、上述したレーザー変位計(測定範囲15±5mm)を用いて測定した。
【0049】
コンクリート表面の凹凸は、コンクリート表面の凹凸の測定範囲を説明する図7に示すように、ブリーディングの影響を受ける目地棒の下面側とブリーディングの影響を受けない目地棒の上面側の2面のうち中央部100mmにおいて測定した。測定間隔は0.01mmピッチ、凹凸高さは0.001mm単位で計測した。計測結果の整理は、偏差の合計(各点の測定値-測定長さ100mmの平均値)とした。高さ0mmの値は全凹凸データの平均値とした。コンクリート表面の凹凸観察結果を表4及び図8図11に示した。
【0050】
なお、図8Aは実験例1のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図8Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。図9Aは実験例2のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図9Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。図10Aは実験例3のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図10Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。図11Aは実験例4のコンクリート表面の凹凸の測定結果を示すグラフであり、図11Bは同じくコンクリートの観察面を示す図面代用写真である。
【0051】
【表4】
【0052】
表4に示す結果から、以下のことが分かる。実験例1~4のいずれの場合でも、目地棒のコンクリート表面は、下面側の凹凸は上面側に比して大きく、上面側に対して2~14倍程度であった。実験例1~3の場合は、いずれも下面側のコンクリート表面で薄皮が1枚がれたような状態であった。これはブリーディングにより形成された脆弱層が目地棒引抜時に破壊されたためと推察される。また、実験例1の「無塗布」の場合は、下面側に空隙があるため、他の種別より凹凸の偏差の合計が大きくなったものと考えられる。一方、実験例4の「予備実験1の塗膜」を設けた目地棒の場合は、下面側と上面側に他の種別ほど顕著な違いが認められず、比較的平滑な状態であった。以上のことから、実験例4の目地棒とコンクリートとはほとんど付着していないことが分かった。
【0053】
一方、目地棒の硬化したコンクリートからの引抜力は、コンクリートの材齢によっても変化する。コンクリートの材齢の差異に基づく目地棒の引抜力の影響は、目地棒に対する締付力の差異、すなわちコンクリートの圧縮応力の差異に起因するものである。そこで、コンクリート型枠の剥離性の指数として、引抜力単独の数値に換えて単位面積あたりの引抜力(以下、「付着応力度」という。)、その時点のコンクリートの同単位面積あたりの圧縮応力(以下、「圧縮応力度」という。)との比、「付着応力度/圧縮応力度」を求めた。「付着応力度/圧縮応力度」の数値により、コンクリートの材齢の差異によるコンクリート型枠の剥離性の相対的比較が可能となる。
【0054】
この「付着応力度/圧縮応力度」は、塗膜形成の有無を問わず、型枠を構成する基材と同一の材料からなるからなる目地棒を、予め所定の未硬化コンクリート中に挿入し、前記未硬化コンクリートを予め定めた時間、予め定めた条件で硬化させた後、この目地棒を硬化後のコンクリートから引き抜く際の単位面積あたりの引張応力をTとし、その際の硬化後のコンクリートの同一の単位面積あたりの圧縮強度をCとしたとき、「T/C」で表される。このようにして測定された実験例1~4の目地棒の「T/C」を表5に示した。
【0055】
【表5】
【0056】
表5に示した結果によれば、T/Cの値は、実験例1~3ではほぼ等しいと見なせる値であるが、実験例4の場合は実験例1~3の場合よりも大幅に小さくなっており、少なくともT/Cの値が0.1%以下であれば実質的に実験例4と同様の作用効果を奏することができると思われる。このことは、Tが大きくなると目地棒が硬化したコンクリートから抜けにくくなり、コンクリート型枠と硬化コンクリートの付着強度が大きくなることを示すので、脱型時にコンクリート型枠表面にコンクリート片が固着した状態でコンクリート躯体表面からコンクリート片が剥がされることでコンクリート躯体表面が荒らされ、それに伴ってコンクリート表面の凹凸も増加していくことになる。逆に、Tが小さくなると、実験例4の場合のように、コンクリート表面に凹凸が少なくて美観が良好なコンクリート表面が得られることになる。
【0057】
一方、T/Cの値は小さければ小さいほど良好な効果を奏するが、T=0とすることはできないので、T/Cの下限値は0%超となる。したがって、表5に示した結果から、表面に塗膜が形成されたコンクリート型枠として、T/Cの値が0.1%≧T/C>0%、より好ましくは0.06%≧T/C>0%の条件を満たす塗膜が形成されたものであれば、コンクリート硬化後にコンクリート型枠を剥離する際に大きな力を要せずに容易に剥離でき、脱型後のコンクリート表面の美観に優れるとともに、再利用も可能な型枠となることが分かる。
【符号の説明】
【0058】
10…引抜試験体
11…木製型枠
12…コンクリート用目地棒
15…つかみ部
20…引抜試験用治具
21…レーザー変位計
図1
図2
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図5
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図8
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図11