(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】土砂災害警報システムおよび土砂災害警報システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20220708BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2018112178
(22)【出願日】2018-06-12
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2017116891
(32)【優先日】2017-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522214543
【氏名又は名称】鶴田 謙次
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 謙次
(72)【発明者】
【氏名】竹内 出
(72)【発明者】
【氏名】阪上 最一
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-044530(JP,A)
【文献】特開平10-068118(JP,A)
【文献】特開昭64-018055(JP,A)
【文献】鈴木拓郎、外4名,音圧データを用いたハイドロフォンによる掃流砂量計測手法に関する基礎的研究,砂防学会誌,2010年,Vol.62,No.5,p.18-26
【文献】長谷川祐治,流砂量が多い状態でのハイドロフォンパルスを活用した流砂量推定手法,第61回平成24年度砂防学会研究発表会概要集,2012年,p.104-105
【文献】内田太郎、外7名,ハイドロフォンの衝突率に関する実験,砂防学会誌,2015年,Vol.67,No.5,p.24-p.29
【文献】谷 寧人、外3名,山地河川における間接法と直接法を用いた流砂観測事例,第61回平成24年度防砂学会研究発表会概要集,2012年,p.612-613,ISSN 2433-0477
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G06G 7/18
H04R 1/44
G08B 19/00-21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロフォンからの
途切れることのない連続的な音圧波形信号を入力する入力部と、
前記音圧波形信号を整流する整流部と、
前記整流部によって整流された整流波形信号を積分するためのN個(N≧2)の積分器と、
所与の切替信号に基づいて、前記N個の積分器のうち、1つの積分器を前記整流部に接続し、残りの積分器を放電させるように切り替える切替部と、
前記整流部に接続する前記積分器を所定周期で順番に切り替える前記切替信号を前記切替部に出力する制御部と、
を備え、前記音圧波形信号を
途切れることなく連続的に前記積分器によって積分された
積分波形信号に変換して出力することが可能なハイドロフォン信号積分電圧変換回路
を備える土砂災害警報システムであって、
前記制御部は、積分波形信号と土砂流出量との相関関係について予め設定された相関式に基づいて、前記積分器から入力された前記積分波形信号から土砂流出量の予測値を求め、得られた土砂流出量の予測値が所定の閾値を超えた場合に、警報装置に警報を発動させる信号を出力する、土砂災害警報システム。
【請求項2】
ハイドロフォンからの途切れることのない連続的な音圧波形信号を入力する入力部と、
前記音圧波形信号を整流する整流部と、
前記整流部によって整流された整流波形信号を積分するためのN個(N≧2)の積分器と、
所与の切替信号に基づいて、前記N個の積分器のうち、1つの積分器を前記整流部に接続し、残りの積分器を放電させるように切り替える切替部と、
前記整流部に接続する前記積分器を所定周期で順番に切り替える前記切替信号を前記切替部に出力する制御部と、
を備え、前記音圧波形信号を途切れることなく連続的に前記積分器によって積分された積分波形信号に変換して出力することが可能なハイドロフォン信号積分電圧変換回路と、
前記ハイドロフォン信号積分電圧変換回路から入力された積分波形信号に基づく土砂検出処理を行い、前記土砂検出処理により検出された土砂流量又は土砂流量の積算値が所定の閾値条件を満たした場合に、警報装置を制御して所定の警報を出力させる処理装置と、
を具備する土砂災害警報システム
。
【請求項3】
ハイドロフォンからの途切れることのない連続的な音圧波形信号を入力する入力部と、
前記音圧波形信号を整流する整流部と、
前記整流部によって整流された整流波形信号を積分するためのN個(N≧2)の積分器と、
所与の切替信号に基づいて、前記N個の積分器のうち、1つの積分器を前記整流部に接続し、残りの積分器を放電させるように切り替える切替部と、
前記整流部に接続する前記積分器を所定周期で順番に切り替える前記切替信号を前記切替部に出力する制御部と、
を備え、前記音圧波形信号を途切れることなく連続的に前記積分器によって積分された積分波形信号に変換して出力することが可能なハイドロフォン信号積分電圧変換回路を具備し、
前記制御部は、前記積分波形信号の示す値が積分波形信号と土砂流出量との相関関係に基づいて予め設定された所定の閾値を超えた場合に、警報装置に警報を発動させる信号を出力する、土砂災害警報システム。
【請求項4】
N=2である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の土砂災害警報システム。
【請求項5】
前記所定周期を設定する設定部、を更に備えた請求項
1~4のいずれか1項に記載の土砂災害警報システム。
【請求項6】
前記積分器によって積分された信号をデジタル信号に変換して出力する、請求項
1~5のいずれか1項に記載の土砂災害警報システム。
【請求項7】
ハイドロフォンから入力される途切れることのない連続的な音圧波形信号を整流する整流部と、前記整流部によって整流された整流波形信号を途切れることなく連続的に積分した積分波形信号に変換するN個(N≧2)の積分器とを備えるハイドロフォン信号積分電圧変換回路を備える土砂災害警報システムの制御方法であって、
所与の切替信号に基づいて、前記N個の積分器のうち、1つの積分器を前記整流部に接続し、残りの積分器を放電させ、
前記整流部に接続する前記積分器を所定周期で順番に切り替え、
積分波形信号と土砂流出量との相関関係について予め設定された相関式に基づいて、前記積分器から得られた前記積分波形信号から土砂流出量の予測値を求め、得られた土砂流出量の予測値が所定の閾値を超えた場合に、警報装置に警報を発動させる信号を出力する、
土砂災害警報システムの制御方法。
【請求項8】
ハイドロフォンから入力される
途切れることのない連続的な音圧波形信号を整流する整流部と、前記整流部によって整流された整流波形信号を
途切れることなく連続的に積分
した積分波形信号に変換するN個(N≧2)の積分器とを備え
るハイドロフォン信号積分電圧変換回路を備える土砂災害警報システムの制御方法であって、
所与の切替信号に基づいて、前記N個の積分器のうち、1つの積分器を前記整流部に接続し、残りの積分器を放電させ、
前記整流部に接続する前記積分器を所定周期で順番に切り替え
、
前記積分波形信号の示す値が積分波形信号と土砂流出量との相関関係に基づいて予め設定された所定の閾値を超えた場合に、警報装置に警報を発動させる信号を出力する、
土砂災害警報システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路、土砂検出システムおよび制御方法に関し、より具体的には、マイクで取り込んだ信号を積分する回路等に関する。
【背景技術】
【0002】
河川等の土砂(砂礫とも言われる)を検出し監視する技術として、河床等に水中マイクであるハイドロフォンを設置し、砂礫がハイドロフォンに衝突する衝突音を集音することで土砂の流量(流砂量)等を推定的に求める手法が知られている。この検出結果は、例えば、土砂堆積による河川の洪水や土石流等の土砂災害の発生予測に役立てられている。なお、その他にも、FBG(Fiber Bragg Grating)センサの出力を用いて土粒子の粒径および流砂量を求め、土砂の監視に用いるようにしたものも知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の土砂検出では、ハイドロフォンが出力する音圧波形信号を直接処理し、土砂流量等の算出に用いていた。音圧波形信号は、常時何らかの音波波形が現れている交流のアナログ信号である。これらの音圧波形信号は、そのままではデータ量が大きいことから、また、音圧波形信号に現れる音には、上記した砂礫の衝突音の他、水流の音やノイズ等も含まれるために、連続的に処理するには不向きであった。それゆえ、従来は、常時音圧波形を検出するのではなく、検出実行時間内の間のみ、音圧波形信号を利用していた。
【0005】
しかしながら、土砂災害の発生予測においては、音圧波形信号を途切れることなく連続的に利用することで、いつどの時点で、どのような事象が起こったかを検出できることが重要であり、それが望まれていた。
本発明は上記の課題を解決するために考案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明のハイドロフォン信号積分電圧変換回路は、ハイドロフォンからの音圧波形信号を入力する入力部と、前記音圧波形信号を整流する整流部と、前記整流部によって整流された整流波形信号を積分するためのN個(N≧2)の積分器と、を備える。そして更に、所与の切替信号に基づいて、前記N個の積分器のうち、1つの積分器を前記整流部に接続し、残りの積分器を放電させるように切り替える切替部を備える。また、前記整流部に接続する前記積分器を所定周期で順番に切り替える前記切替信号を前記切替部に出力する制御部を備えており、前記音圧波形信号を前記積分器によって積分された信号に変換して出力することが可能に構成されている。
【0007】
また、他の発明は、ハイドロフォンから入力される音圧波形信号を整流する整流部と、前記整流部によって整流された整流波形信号を積分するためのN個(N≧2)の積分器とを備え、前記積分器に積分された信号を出力する回路の制御方法に関する。この発明に係る制御方法は、所与の切替信号に基づいて、前記N個の積分器のうち、1つの積分器を前記整流部に接続し、残りの積分器を放電させ、前記整流部に接続する前記積分器を所定周期で順番に切り替えるものである。
【0008】
上述した第1の発明等によれば、整流部と接続する積分器を所定周期で切り替え、1つの積分器に充電するように信号を積分させ、他の積分器を放電回路と接続することができる。これによって、ハイドロフォンから入力された音圧波形信号を途切れることなく連続的に電荷を積分した信号に変換して出力することができる。したがって、ハイドロフォンが出力する音圧波形信号のデータ量を削減しつつ、連続的にデータの利用が可能となる。変換後の信号は外部出力可能であるため、外部の処理装置等において、土砂災害の発生予測の処理等に利用することが可能となる。
【0009】
また、第2の発明として、N=2である、第1の発明のハイドロフォン信号積分電圧変換回路を構成してもよい。
【0010】
第2の発明によれば、積分状態にするか、放電状態にするかを2つの積分器で交互に切り替えることで、一方の積分器による整流波形信号の積分と、他方の積分器の放電とを並行して行うことができる。
【0011】
また、第3の発明として、前記所定周期を設定する設定部、を更に備えた第1又は第2の発明のハイドロフォン信号積分電圧変換回路を構成してもよい。
【0012】
第3の発明によれば、整流部と接続する積分器を切り替える周期(以下、「切替周期」という)を設定することができる。
【0013】
また、第4の発明として、前記積分器によって積分された信号をデジタル信号に変換して出力する、第1~第3の何れかの発明のハイドロフォン信号積分電圧変換回路を構成してもよい。
【0014】
第4の発明によれば、何れかの積分器によって積分された信号をデジタル信号に変換して出力することができる。
【0015】
また、第5の発明として、第1~第4の何れかの発明のハイドロフォン信号積分電圧変換回路と、前記ハイドロフォン信号積分電圧変換回路から入力される積分波形信号を信号処理する処理装置と、を具備する土砂検出システムを構成することとしてもよい。
【0016】
更に、第6の発明として、前記処理装置が、前記積分波形信号に基づく土砂検出処理を行う、第5の発明の土砂検出システムを構成することとしてもよい。また、第7の発明として、前記処理装置が、前記土砂検出処理により検出された土砂が所定の閾値条件を満たした場合に、所定の警報処理を行う、第6の発明の土砂検出システムを構成することとしてもよい。
【0017】
第5~第7の発明によれば、河川等の土砂(砂礫とも言われる)を検出し、監視するシステムとして好適な土砂検出システムを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】土砂検出システムの全体構成例を示す模式図。
【
図2】ハイドロフォン信号積分電圧変換回路の主要構成例を示すブロック図。
【
図3】土砂検出システム100全体の信号処理の流れを示す図。
【
図5】音圧波形信号と積分波形信号との対応関係を説明する図。
【
図6】パイプ型のハイドロフォンを採用した場合の音圧積分値と砂礫の総重量との関係を示す図。
【
図7】パイプ型のハイドロフォンを採用した場合の音圧積分値と砂礫の運動量との関係を示す図。
【
図8】プレート型のハイドロフォンを採用した場合の音圧積分値と砂礫の総重量との関係を示す図。
【
図9】プレート型のハイドロフォンを採用した場合の音圧積分値と砂礫の運動量との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明の適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0020】
図1は、本実施形態のハイドロフォン信号積分電圧変換回路3を適用した土砂検出システム100の全体構成例を示す模式図である。
図1に示すように、土砂検出システム100は、ハイドロフォン1と、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3と、処理装置5と、警報装置6(
図3参照)とを備え、河川9を流れる土砂の検出・監視を行う。
【0021】
ハイドロフォン1は、円筒状に形成された金属製のハウジング(金属パイプ)11内に、マイク13が収容されて構成される(パイプ型)。本実施形態では、ハイドロフォン1は、長軸方向が河川9の水流の方向(矢印A)と直交する方向に沿う向きで、河床91に設置される。そして、ハイドロフォン1は、水流によって河床91付近を流動する砂礫がハウジング11に衝突したことで発生する衝突音をマイク13によって集音し、その音圧波形信号をハイドロフォン信号積分電圧変換回路3へ出力する。なお、ハウジング11の形状は特に限定されない。例えば、平板状に形成されたハウジング(金属プレート)内にマイクが収容された構成でもよい(プレート型)。
【0022】
ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3は、ハイドロフォン1から入力される音圧波形信号を積分し、積分された信号(積分波形信号)を処理装置5へ出力する。
図2は、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3の主要構成例を示す回路ブロック図である。また、
図3は、土砂検出システム100全体の信号処理の流れを概略的に示す図である。
図2に示すように、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3は、整流部33と、2つの積分器35(35-1,2)と、切替部39と、設定部41と、制御部43とを含む。
【0023】
すなわち、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3は、ハイドロフォン1から入力される音圧波形信号を整流する整流部33と、整流部33によって整流された整流波形信号を積分するためのN個(N≧2)の積分器35とを備え、積分器35に積分された信号を蓄積電荷に応じた積分電圧(積分波形信号)として出力可能に構成されており、この回路において、所与の切替信号に基づいて、N個の積分器35のうち、1つの積分器35を整流部33に接続し、残りの積分器35を放電させることと、整流部35に接続する積分器35を所定周期で順番に切り替えることと、を含む制御方法が実行される。好適には、N=2とすることができる。では具体的に、各回路部の構成から説明する。
【0024】
整流部33は、入力部としての入力端子31を介してハイドロフォン1から入力された音圧波形信号(アナログ信号)を整流する。整流部33は、例えば、ダイオードやオペアンプ等を用いた全波整流回路で構成され、
図2中に示すように、音圧波形信号を全波整流する。なお、半波整流回路を用いて整流部33を構成し、音圧波形信号を半波整流するとしてもよい。また、全波整流回路と半波整流回路とを切り替え可能に設けて整流部33を構成し、何れか一方を択一的に用いるとしてもよい。また、必要に応じて、音圧波形信号あるいは整流後の信号に所定のオフセット電圧(例えば5.0[V])を加えることとしてもよい。また、後段の積分器35を反転出力回路として構成する場合には、整流部33は、音圧波形信号にオフセット電圧(例えば5.0[V])を加えた後に整流し、整流信号を反転して出力する回路構成とすればよい。この場合、
図2に示した整流部33からの出力波形は、0.0[V]を中心に上下に反転し、かつ、0.0[V]の電圧レベルにオフセット電圧(例えば5.0[V])を加えた波形となる。
【0025】
積分器35は、例えば、コンデンサやオペアンプ等を用いて構成され、入力信号電荷を蓄積(充電)して整流後の音圧波形信号(整流波形信号)を積算する。各積分器35は、コンデンサの蓄積電荷に応じた電圧値を積分波形信号として出力端子451,453を介して処理装置5に外部出力するとともに、当該積分波形信号を制御部43に出力する。
【0026】
放電用電圧37は、対応する積分器35が接続されることで積分器35の蓄積電荷を放電させる電圧である。各放電用電圧37のうち、一方の放電用電圧37-1が積分器35-1に対応し、他方の放電用電圧37-2が積分器35-2に対応する。積分器35-1を放電する場合には、放電用電圧37-1は接地レベルとなるため、接地回路あるいは接地レベルの配線に積分器35-1が接続されることとなる。同様に、積分器35-2を放電する場合には、放電用電圧37-2は接地レベルとなるため、接地回路あるいは接地レベルの配線に積分器35-2が接続されることとなる。
【0027】
切替部39は、2接点の2つのスイッチ40(40-1,2)を用いて構成され、制御部43の制御のもと、各スイッチ40の接続を連動して切り替える。スイッチ40は、例えばリレーやトランジスタ等を用いて構成することができる。各スイッチ40の入力側には、それぞれ対応する放電用電圧37への接続端と、整流部33への接続端とが設けられており、その一方を択一的に出力側の積分器35に接続する。より詳細には、一方のスイッチ40が整流部33に積分器35を接続しているときには他方のスイッチ40が積分器35を対応する放電用電圧37に接続して放電させる。例えば、
図2に示すように、スイッチ40-1が整流部22に積分器35-1を接続しているときには、スイッチ40-2が積分器35-2を放電用電圧37-2に接続して放電させる。このとき、積分器35-1は充電状態となり、積分器35-2は放電状態となる。このスイッチ40の接続は、予め定められる切替周期で連動して切り替えられる。これにより、一方の積分器35を用いた整流波形信号の積算(積分器35の充電)と、他方の積分器35の放電とが並行して行われる。
【0028】
ここで、切替部39によって切り替えられる各積分器35の充放電動作について
図4を参照して説明する。
図4においてV
REFは基準電圧[V]、V
MAXは最大積分電圧[V]、V
Chargeは蓄積電圧差[V]、I
Bはベース電流[nA]、I
Chargeは充電電流[μA]、I
Rは放電電流[μA]を表す。また、t
1は充電時間[s]、t
2は放電時間[s]を表し、充電時間t
1が切替周期に対応する。そして、
図4中の細線が、切替周期に応じて想定される積分器35の最大出力電圧を示し、太線は、実際の出力電圧変化の波形例を示している。
図4に示すように、各積分器35は、切替周期毎に充電(積分)と放電とを交互に繰り返す。ここで、放電時間t
2は、切替周期である充電時間t
1よりも短い時間とされ、放電時間t
2内に放電を完了させるように放電用電圧37が設計される。したがって、各切替周期において、一方の積分器35が充電動作を行っている間に、他方の積分器35の放電を確実に完了できる。
【0029】
設定部41は、切替周期を設定するためのものであり、例えばディップスイッチを用いて構成される。本実施形態では、2つのディップスイッチを用い、それらのON/OFFの組合せによって予め定められる4つの周期のうちの1つを択一的に設定する。設定可能な切替周期は、例えば、1分、2分、5分、および10分の4つとされる。なお、設定可能な切替周期の数や具体的な時間は適宜設定してよい。また、ここでの切替周期の選択は、例えば、後述のように処理装置5が算出する単位時間あたりの土砂の流量を参照しながら行うことができる。これによれば、土砂流量が多いときには切替周期を短くし、少ないときには切替周期を長くする等といった調整が可能となる。
【0030】
制御部43は、例えば、CPUや、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3の動作に必要な各種データを保持するメモリ等を内蔵したマイクロコンピュータで構成され、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3を構成する各部の動作を制御してハイドロフォン信号積分電圧変換回路3を統括的に制御する。この制御部43は、設定部41によって設定された切替周期に従って切替部39に切替信号を出力し、切替部39によるスイッチ40の切り替えを制御する。また、各積分器35から入力される積分波形信号をデジタル信号に変換するA/D(Analog/Digital)変換機能を有しており、A/D変換後の信号を、出力端子47を介してパソコン等の外部装置やUSBメモリ等の外部媒体、警報装置6等に出力する。
【0031】
制御部43から警報装置6への信号出力は例えば次のようにして行うことができる。すなわち、ハイドロフォン1を設置する予定の現地における土砂量の測定データまたは実験的に得られた土砂量の測定データに基づいて、積分器35から入力される積分波形信号から、土砂流出量の予測値を算出する相関式を予め求めて制御部43に設定しておく。そして、この相関式に基づいて、積分器35から入力される積分波形信号から土砂流出量の予測値を求め、得られた土砂流出量の予測値が所定の閾値を超えるか否かにより、警報装置6へ警報を発動させる信号を出力するか否かを決定する。積分波形信号と土砂流出量とは相関関係にあることから、土砂流出量の予測値を求めずに、積分波形信号の示す値が所定の閾値を超えるか否かにより、警報装置6へ警報を発動させる信号を出力するか否かを決定することとしてもよい。
【0032】
警報装置6は、ブザー等の音出力装置や、回転灯等の表示装置などの中から、一種以上の警報手段を備えた装置とすることができる。
【0033】
処理装置5は、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3から入力される積分波形信号を信号処理するためのコンピュータである。例えば、処理装置5は、積分波形信号を演算処理することで、河川9を流れる砂礫の単位時間あたりの土砂の流量や流速、粒径等を算出(推定)して、土砂検出処理を実行する土砂検出処理部51を備える。具体的には、積分波形信号を連続的に処理することで土砂流量等を算出し、途切れることのない連続的な音圧波形信号を利用した土砂量等の継続的なモニタリングを行う土砂検出処理を実現する。土砂検出処理での算出結果は適宜不図示の表示装置において表示出力され、あるいは印字装置によって印字出力される。また、処理装置5は、土砂検出処理により検出された土砂(或いは、土砂流量や土砂流量の積算値(礫総重量))が所定の閾値を超えることにより閾値条件を満たした場合に、警報装置6を制御して所定の警報を出力させる、或いは、処理装置5が有する表示部や報知部、音出力部等を制御して所定の警報を出力させる警報処理部53を備える。閾値は、ハイドロフォン1を設置する予定の現地における土砂量の測定データや、実験的に得られた土砂量の測定データ等に基づいて設定することができる。
【0034】
図5に、ハイドロフォン1からハイドロフォン信号積分電圧変換回路3に入力される音圧波形信号の概略波形と、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3から出力される積分波形信号の概略波形とを、時間軸を合わせて示す。音圧波形信号には、流れてきた砂礫がハイドロフォン1に接触する度に音圧の大きな波形信号が現れる。
図5では、S1~S3の3箇所に砂礫の接触による一時的に音圧の大きな波形信号が現れている。積分波形信号は音圧波形信号の音圧の積算値を示しており、時間経過に従って徐々に大きな値に増加するが、音圧波形信号のS1~S3の3箇所それぞれにおいては、積分波形信号の傾きが大きくなり、急激に積算値が上昇していることが分かる。積分波形信号の示す値が閾値に達することで、土砂量が警報レベルに達したことを判断し、警報装置6を制御して警報が発せられる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態のハイドロフォン信号積分電圧変換回路3によれば、ハイドロフォン1から入力された音圧波形信号を途切れることなく連続的に積分波形信号に変換して出力することができる。したがって、ハイドロフォン1が出力する音圧波形信号のデータ量を削減しつつ、連続的に利用した信号に変換することが可能となる。変換後の信号の外部出力先となる処理装置5等では、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3からの積分波形信号を連続的に処理して土砂流量等を算出することができ、途切れることのない連続的な音圧波形信号を利用した土砂量等の継続的なモニタリングが可能となる。すなわち、ハイドロフォン1、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3、及び処理装置5によって、土砂検出システム100は、河川等の土砂(砂礫とも言われる)を連続的に検出し、監視する好適なシステムとなる。
【0036】
ここで、ハイドロフォン信号積分電圧変換回路3を用いて行った砂礫の流下実験結果を示す。実験は、人工的に作成した水路にパイプ型のハイドロフォンを設置し、流下させる砂礫の粒径や総重量、運動量等を変えながらハイドロフォン信号積分電圧変換回路3の出力(音圧積算値)を収集することで行った。また、プレート型のハイドロフォンを採用した場合についても同様の条件下で実験を行った。
【0037】
図6および
図7は、パイプ型のハイドロフォンを採用した場合の実験結果を示す図であり、音圧積算値と砂礫の総重量(礫総重量)との関係(
図6)と、音圧積算値と砂礫の運動量との関係(
図7)をそれぞれ示している。また、
図8および
図9は、プレート型のハイドロフォンを採用した場合の実験結果を示す図であり、音圧積算値と礫総重量との関係(
図8)と、音圧積算値と砂礫の運動量との関係(
図9)をそれぞれ示している。
図6および
図8に示すように、パイプ型およびプレート型の何れを採用した場合においても、粒径が10.5[mm]の場合よりも21[mm]の場合の方が音圧積算値が大きく、かつ、砂礫の総重量が重くなるにつれて音圧積算値が大きい結果が得られた。また、
図7および
図9に示す音圧積算値と砂礫の運動量との関係も同様の傾向を示した。本実施形態による音圧積算値は、砂礫の粒径や総重量、運動量と相関することが示されたため、予めこれらの相関を定めておくことで、積分波形信号から土砂の流量や流速、粒径等の算出が可能であることが確かめられた。
【0038】
なお、上記した実施形態では、河床91にハイドロフォン1を設置して土砂検出を行う場合を例示したが、ハイドロフォン1の設置場所は特に限定されない。例えば、地面や路面等にハイドロフォン1を設置するとしてもよい。これによれば、降雨時等において地面等を流れる表面水とともに流動する土砂流量等を算出し、常時モニタリングすることができる。
【0039】
また、上記した実施形態では、2つの積分器を備えた構成のハイドロフォン信号積分電圧変換回路3を例示した。これに対し、積分器の数Nは3個以上であってもよく、その場合には、N個の積分器のうちの1つを整流部と接続し、残りの積分器を放電回路と接続する。これを、所与の切替周期で、整流部と接続する積分器を順番に切り替える構成とすればよい。
【0040】
また、上記実施形態の切替周期を可変にすることとしてもよい。具体的には、切替周期の初期値を設定部41が設定することとし、積分器35の何れかの積分電圧が所定の閾値(例えば、最大積分電圧の90%の値)に達したか否か(以上となったか)を判定する判定回路(或いはソフトウェア的な判定手段)を制御部43に備えさせ、閾値に達した場合には、切替周期を1倍より大きい倍率で乗算した周期(例えば1.5倍の周期)に自動的に切り替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
100 土砂検出システム
1 ハイドロフォン
11 ハウジング
13 マイク
3 ハイドロフォン信号積分電圧変換回路
33 整流部
35(35-1,2) 積分器
37(37-1,2) 放電用電圧
39 切替部
40(40-1,2) スイッチ
41 設定部
43 制御部
5 処理装置