(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】画像処理装置および移動支援装置
(51)【国際特許分類】
G06T 7/593 20170101AFI20220708BHJP
G01B 11/245 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
G06T7/593
G01B11/245 H
(21)【出願番号】P 2017175399
(22)【出願日】2017-09-13
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】311011575
【氏名又は名称】株式会社アルファメディア
(73)【特許権者】
【識別番号】511189469
【氏名又は名称】榊 健二
(73)【特許権者】
【識別番号】511189470
【氏名又は名称】竹上 健
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【氏名又は名称】狩生 咲
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【氏名又は名称】清水 喜幹
(72)【発明者】
【氏名】榊 健二
【審査官】山田 辰美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-197884(JP,A)
【文献】特開2002-065721(JP,A)
【文献】特開2013-034490(JP,A)
【文献】特開2007-041657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00-7/90
G01B 11/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の進行方向
前方
の空間のステレオ画像を撮像する撮像部と、
前記ステレオ画像から複数の計測点を選択する位置選択部と、
前記複数の計測点の3次元空間座標に基づいて、複数の平面方程式を算出する平面方程式算出部と、
前記複数の平面方程式に基づいて、前記
進行方向前方
の空間における障害物の有無を判定する判定部と、
を備え
、
前記複数の計測点は、第1点と、前記第1点に対して進行方向右斜め前方の第2点と、前記第1点に対して左斜め前方である第3点と、前記第1点よりもあらかじめ定められた所定の距離だけ進行方向前方の第4点と、前記第4点に対して右斜め前方の第5点と、前記第4点に対して左斜め前方の第6点と、を少なくとも含み、
前記平面方程式算出部は、前記第1点、前記第2点および前記第3点を第1計測点群として、前記第1計測点群の3次元空間座標に基づいて第1平面方程式を算出するとともに、前記第4点、前記第5点および前記第6点を第2計測点群として、前記第2計測点群の3次元空間座標に基づいて第2平面方程式を算出し、
前記判定部は、前記第1平面方程式および前記第2平面方程式に基づいて、前記進行方向前方の空間における障害物の有無を判定する、
ことを特徴とする、画像処理装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記複数の平面方程式から前記複数の平面方程式が表す平面の傾きをそれぞれ算出し、前記それぞれの平面の傾きに基づいて前記前方
の空間における障害物の有無を判定する、請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記複数の平面方程式から、前後方向および前記前後方向に直交する左右方向における、前記複数の平面方程式が表す平面の傾きをそれぞれ算出し、前記前後方向における平面の傾きおよび前記左右方向における平面の傾きに基づいて前記前方
の空間における障害物の種類を判定する、請求項1又は2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前方空間のステレオ画像を撮像する撮像部と、
前記ステレオ画像から複数の計測点を選択する位置選択部と、
前記複数の計測点の3次元空間座標に基づいて、複数の平面方程式を算出する平面方程式算出部と、
前記複数の平面方程式に基づいて、前記前方空間における障害物の有無を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記複数の平面方程式から、前後方向および前記前後方向に直交する左右方向における、前記複数の平面方程式が表す平面の傾きをそれぞれ算出し、前記前後方向における平面の傾きおよび前記左右方向における平面の傾きに基づいて前記前方空間における障害物の種類を判定する、
ことを特徴とする、画像処理装置。
【請求項5】
前記複数の平面方程式は、第1平面方程式および第2平面方程式からなり、前記複数の計測点は、複数の計測点からなる第1計測点群、および前記第
1計測点群とは異なる複数計測点からなる第2計測点群からなり、前記平面方程式算出部は、前記第1計測点群を通る平面を表す前記第1平面方程式を算出し、前記第2計測点群を通る平面を表す前記第2平面方程式を算出する、請求項
4記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第2計測点群のうち前記撮像部から最も離れている計測点は、前記第1計測点群のいずれの計測点よりも前記撮像部から前方に離れた位置にある、請求項
5記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記第1計測点群および前記第2計測点群の平均高さをそれぞれ算出し、前記平均高さに基づいて前記前方
の空間における障害物の有無を判定する、請求項
1、2、3、5および6のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項8】
過去に算出された平面の傾きを記録する記録部をさらに備え、前記判定部は、前記過去に算出された平面の傾き、および現在算出される平面の傾きに基づいて、前記前方
の空間における障害物の有無を判定する、請求項1乃至
7のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記平面方程式に基づいて、前記撮像部の前記平面方程式が表す平面に対する角度を撮像部角度として算出する撮像部角度演算部と、前記撮像部角度に基づいて前記ステレオ画像の傾きを補正する座標変換部と、をさらに備える、請求項1乃至
8のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項10】
移動体に固定可能に構成され、前記移動体の前方空間のステレオ画像を撮像する撮像部を有する画像処理装置と、
前記画像処理装置の処理結果を前記移動体に伝達する伝達部と、
を備える移動支援装置であって、
前記画像処理装置は、請求項1乃至
9のいずれかに記載の画像処理装置である、移動支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置および移動支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像したステレオ画像に基づいて前方空間の様子を推定する画像処理装置が知られている。
【0003】
視覚障がい者等が歩行する際に装着し、自身の前方に段差や階段、壁、物体などの障害物があるかどうかを簡便に判別することができる画像処理装置が必要とされている。
【0004】
例えば特許文献1には、ロボットや自動車が自律的に移動する際に、平面検出を行うための画像処理装置が開示されている。この画像処理装置は、距離センサの前方視野内における水平平面と垂直平面を算出している。
【0005】
特許文献2には、自律的に移動可能なロボットに階段の昇降動作を行わせるための段差エッジ推定装置が開示されている。この発明は、目前に段差があることを前提に、段差部の位置および方向を推定するものである。
【0006】
特許文献3には、ステレオカメラで撮像した複数の画像データから路面の段差を検出する路面段差検出装置が開示されている。
【0007】
しかしながら、歩行者の場合は、段差や階段、足元の物体など、水平平面と垂直平面以外にも留意すべき障害物が多数存在する。いずれの特許文献にも、歩行者自身の前方にある障害物を簡便に判別する画像処理装置は開示されていない。
【0008】
そこで、前方空間に段差や階段、壁、物体などの障害物があるかどうかを簡便に判別することができる画像処理装置が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-063210号公報
【文献】特開2015-043317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡素な構成で、移動体の前方空間における障害物の有無を判定する画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる画像処理装置は、前方空間のステレオ画像を撮像する撮像部と、ステレオ画像に撮像される面上から複数の計測点を選択する位置選択部と、複数の計測点の3次元空間座標に基づいて、複数の平面方程式を算出する平面方程式算出部と、複数の平面方程式に基づいて、前方空間における障害物の有無を判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡素な構成で、移動体の前方空間における障害物の有無を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明にかかる移動支援装置の実施の形態を示す(a)概略構成図、(b)上記移動支援装置が有する撮像部を装着者が装着した様子を示す正面斜視図である。
【
図3】上記装着者の前方空間において、上記移動支援装置が備える画像処理装置が有する位置選択部が選択する計測点を示す模式図である。
【
図4】上記撮像部の光軸が水平であると仮定して描画された、上記計測点を通る平面の様子を示す模式図である。
【
図6】前方右側に壁のある場所で前進した場合の(a)前方空間の様子、(b)上記画像処理装置による解析例である。
【
図7】前方左側に壁のある場所で左方向に回転した場合の(a)前方空間の様子、(b)上記画像処理装置による解析例である。
【
図8】前方正面に障害物がある場合における(a)前方空間の様子、(b)上記画像処理装置による解析例である。
【
図9】前方正面に下り階段がある場合における、(a)前方空間の様子、(b)上記画像処理装置による解析例である。
【
図10】前方正面に下り階段がある場合における、計測点と、上記計測点から算出した法線ベクトルの様子を示す模式図である。
【
図11】前方正面に上り階段がある場合における、(a)前方空間の様子、(b)上記画像処理装置による解析例である。
【
図12】前方正面に上り階段がある場合における、計測点と、上記計測点から算出した法線ベクトルの様子を示す模式図である。
【
図13】前方正面に上り段差がある場合における、計測点と、上記計測点から算出した法線ベクトルの様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる画像処理装置および移動支援装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
●移動支援装置の概要
図1(a)および(b)に示すように、移動支援装置1は、固定部2と、撮像部3と、伝達部4と、演算装置5と、バッテリ6と、を備える。撮像部3は、使用者の進行方向の画像を撮像できるように、固定部2により使用者に固定されている。撮像部3および演算装置5は、画像処理装置10を構成する。
【0016】
固定部2、撮像部3および伝達部4は、使用者100の頭部外周に対応するリング状に構成されている。撮像部3は、1対のカメラにより構成されるステレオカメラである。撮像部3は、使用者100の左右のこめかみ付近にそれぞれ固定される。1対のカメラは、使用者100の前面側においては樹脂製の部材で連結されていて、1対のカメラ相互の距離が変化しないようになっている。ステレオカメラ3は、使用者100の背面側においては固定部2で連結されている。固定部2は、例えば金具を有するベルトであり、使用者100の頭部の外周長に合わせて長さが調節可能である。また、固定部2は、弾性を有するベルトであってもよい。
【0017】
撮像部3および伝達部4は、有線又は無線で、それぞれ演算装置5に接続されている。演算装置5は、撮像部3により撮像されるステレオ画像に基づいて、使用者100の進行方向の画像を解析し、障害物の有無などを判定する。演算装置5は、判定された結果を伝達部4に出力する。
【0018】
ここで障害物とは、段差や階段、壁、足元の物体等の、移動時に留意すべき物体および障害を広く含む概念である。段差は1段の上り段差や下り段差を含み、階段は上り階段および下り階段を含む。また、障害物は、上り斜面や下り斜面を含む。移動は、移動支援装置1を視覚障がい者が着用して使用する場合には、歩行を想定している。
【0019】
伝達部4は、演算装置5により演算した結果を受信して、使用者100の進行方向に障害物があるか否か、また、どのような障害物があるか等の情報を使用者100に伝達する機構部である。伝達部4は、例えば骨伝導ヘッドホンである。本実施の形態においては、伝達部4は、撮像部3の一方のカメラと固定部2との連結部分において、使用者100の頭部に接触するように固定されている。なお、伝達部4は、骨伝導ヘッドホンに限らず、音声で情報を伝達するイヤホン、スピーカーなどの機器であってもよいし、触覚で情報を伝達する装置であってもよい。また、使用者100の網膜にレーザで投影するなど種々の装置が適用可能である。
【0020】
バッテリ6は、撮像部3、伝達部4および演算装置5に電源を供給する。
【0021】
演算装置5およびバッテリ6は、使用者100の腰や胸等に装着される。
【0022】
なお、撮像部3の固定位置は、使用者100の前方空間が撮像可能な位置であれば、頭部でなくてもよい。例えば、肩や、胸部などであってもよい。撮像部3の固定位置に応じて、固定部2の形状も、ネックピロー型や胸部バンド型など種々の形状が適用可能である。
【0023】
●移動支援装置1の構成
図2に示すように、移動支援装置1は、撮像部3、A/D変換部31、位置選択部32、位置演算部33、平面方程式算出部36を備える。また、移動支援装置1は、撮像部3の傾きを補正するための撮像部角度演算部40、および座標変換部41を備える。さらに、移動支援装置1は、平坦路判定部50、記録部60、伝達部4を備える。
【0024】
以降の説明において、水平面上における使用者100の進行方向をx軸方向、水平面上におけるx軸に直交する方向をy軸方向、水平面に直交する方向をz軸方向とする。このxyz座標系は、使用者座標系ともいう。また、ステレオ画像内における前方方向をX軸方向、X軸に直交する左右方向をY軸方向、X軸およびY軸に直交する上下方向をX軸方向とする。このXYZ座標系は、撮像部座標系ともいう。撮像部座標系は、撮像部の画素の配列によって求められる。
【0025】
撮像部3は、使用者100の進行方向前方の空間のステレオ画像を撮像する。使用者100の足元の路面を撮像するため、撮像部3は、水平よりやや下方を向いて固定されている。
【0026】
A/D変換部31は、撮像部3により撮像されるステレオ画像をデジタル変換する。
【0027】
位置選択部32は、
図3に示すように、デジタル変換されたステレオ画像に撮像された面上から複数の計測点を選択する。複数の計測点は、使用者100の足元に近い面上の点P0、点P1、点P2(以下、「第1計測点群」ともいう。)および、使用者の足元より少し前方の面上の点P3、点P4、点P5(以下、「第2計測点群」ともいう。)の、計6点である。
【0028】
第1計測点群および第2計測点群は、それぞれ互いに同一直線上にはない点である。例えば、点P0は使用者100の正面であり、点P1は点P0に対して右斜め前方、点P2は点P0に対して左斜め前方である。点P3は、使用者100の正面であって進行方向において点P0よりも使用者100からやや遠い位置である。点P4は点P3に対して右斜め前方、点P5は点P3に対して左斜め前方である。第2計測点群のうち撮像部3から最も離れている計測点P4およびP5は、第1計測点群のいずれの計測点よりも撮像部3から前方に離れた位置にある。
【0029】
位置演算部33は、点P0乃至点P5の、撮像部座標系における3次元空間座標を計測する。
【0030】
●撮像部3の角度補正
撮像部3は、光軸が水平よりやや下方を向いて固定されている。言い換えれば、
図4に示すように、撮像部3により撮像されるステレオ画像における水平を、使用者座標系における水平と同一と解釈してしまうと、路面は、斜めに立ち上がっているように見える。
【0031】
そこで、撮像部角度演算部40および座標変換部41は、使用者座標系における水平面に対する撮像部3の光軸の角度を算出して、撮像部座標系上で得られた計測点P0乃至P5の3次元空間座標を、使用者座標系上の3次元空間座標に変換する。
【0032】
図2乃至
図4に示すように、撮像部角度演算部40は、点P0および点P1を結ぶベクトルV1と、点P0および点P2を結ぶベクトルV2をそれぞれ求める。そして、撮像部角度演算部40は、ベクトルV1とベクトルV2の外積を計算し、点P0乃至点P2を通る平面P100の法線ベクトルV100を導出する。平面P100は、法線ベクトルV100に垂直で、点P0を通る平面であるので、撮像部角度演算部40は、法線ベクトルV100および点P0から平面P100の平面方程式を求めることができる。
【0033】
成分(A、B、C)の法線ベクトルV100を持つ平面P100の平面方程式は、以下のように表される。
AX+BY+CZ+D=0 (1)
X、Y、Zは変数であり、A、B、C、Dは定数である。
【0034】
なお、法線ベクトルV100の導出は、後述する平面方程式算出部36が行い、撮像部角度演算部40は、法線ベクトルV100の情報を平面方程式算出部36から受信してもよい。
【0035】
撮像部角度演算部40は、平面P100の法線ベクトルV100の、xz軸空間における傾き角度A100を、(2)式により算出する。
(2)
は、法線ベクトルV100の長さである。
【0036】
座標変換部41は、角度A100を撮像部3の光軸の角度として用いて、撮像部座標系上で得られた点P0乃至点P5の3次元空間座標を、使用者座標系に変換する。点Pn(nは0から始まる自然数)の撮像部座標系上で得られた3次元空間座標を(Xn、Yn、Zn)とすると、使用者座標系における点Pnの3次元空間座標(xn、yn、zn)はそれぞれ以下の式(3)乃至(5)により求められる。本実施の形態においては、nは0から5までの自然数である。
xn=Xn×cos(-π/2+角度A100)-Zn×sin(-π/2+角度A100) (3)
zn=Zn×sin(-π/2+角度A100)+Zn×cos(-π/2+角度A100) (4)
yn=Yn (5)
角度A100の単位はラジアンである。式(3)乃至(5)により、点P0乃至点P5の、使用者座標系における3次元空間座標が求められる。
【0037】
法線ベクトルV100は、実際の路面ではyz軸空間においてもやや傾いている可能性がある。yz軸空間の傾きの影響は微小であるため、本実施の形態ではyz軸空間の傾きは無視されている。しかしながら、撮像部角度演算部40はyz軸空間の傾きを演算してもよい。また、座標変換部41は、yz軸空間の傾きに基づいて、計測点P0乃至P5の3次元空間座標を使用者座標系に変換してもよい。
【0038】
平面方程式算出部36は、
図3に示すように、第1計測点群を通る平面を表す平面方程式、および第2計測点群を通る平面を表す平面方程式をそれぞれ導出する。具体的には、平面方程式算出部36は、使用者座標系に変換された点P0および点P1を結ぶベクトルv1と、使用者座標系に変換された点P0および点P2を結ぶベクトルv2を求める。そして、平面方程式算出部36は、ベクトルv1とベクトルv2の外積を計算し、点P0乃至点P2を通る平面P10の法線ベクトルV10を導出する。
【0039】
さらに、平面方程式算出部36は、使用者座標系に変換された点P3および点P4を結ぶベクトルv3と、使用者座標系に変換された点P3および点P5を結ぶベクトルv4を求める。平面方程式算出部36は、ベクトルv3とベクトルv4の外積を計算し、点P3乃至点P5を通る平面P11の法線ベクトルV11を導出する。
【0040】
法線ベクトルV10を持つ平面P10の平面方程式は、以下のように表される。
ax+by+cz+d=0 (6)
x、y、zは変数であり、a、b、c、dは定数である。
【0041】
●平坦路判定部50
図2に示すように、平坦路判定部50は、平面高さ算出部52、平面角度算出部53、判定部70を有する。
【0042】
平面高さ算出部52は、第1計測点群点P0乃至P2のz成分、すなわち高さの平均を計算し、高さZ10を算出する。また、平面高さ算出部52は、第2計測点群点P3乃至P5のz成分、すなわち高さの平均を計算し、高さZ11を算出する。
【0043】
平面角度算出部53は、平面P10の法線ベクトルV10、および平面P11の法線ベクトルV11の成分に基づいて、平面P10および平面P11の傾きを算出する。まず、平面角度算出部53は、法線ベクトルV10およびV11をそれぞれ正規化し、正規化法線ベクトルV20およびV21を算出する。
【0044】
正規化法線ベクトルV20の成分を(a20、b20、c20)とすると、ベクトルV10の、進行方向に対する倒れ角度A10は式(6)により求められる。
A10=π/2-acos(a20) (6)
ベクトルV10の左右方向に対する倒れ角度B10は、式(7)により求められる。
B10=π/2-acos(b20) (7)
【0045】
平面角度算出部53は、同様に、式(6)および式(7)を用いて式ベクトルV11の進行方向に対する倒れ角度A11および左右方向に対する倒れ角度B11を算出する。
【0046】
記録部60は、過去に算出された高さZ10およびZ11、並びに平面P10および平面P11の進行方向に対する倒れ角度A10およびA11、左右方向に対する倒れ角度B10およびB11を記録する。記録部60は、過去に算出された各値を複数個ずつ記録することができる。記録部60は、判定部70からの呼び出しに応じて、各値を判定部70に送信する。
【0047】
記録部60は、計測開始以降のすべての各値を保存していても良いし、直近の各値を複数個ずつ記録し、新しいデータを受信する際に、記録されている最も古い各値のデータを削除するようにしてもよい。
【0048】
判定部70は、高さZ10およびZ11、および平面P10および平面P11の倒れ角度A10、A11、B10、B11に基づいて、使用者100の前方空間における障害物の有無などを判定する。
【0049】
判定部70は、各値について予め定められた閾値を記憶していて、現在算出される各値が閾値を超えている際に、前方空間に障害物が有ることを判定してもよい。判定部70は、過去に算出された各値を記録部60から受信して、過去に算出された各値および現在算出される各値に基づいて障害物の有無等を判定してもよい。具体的には、直近に算出された複数回の各値および現在算出される各値において、連続して閾値を超えている場合に、前方空間に障害物があると判定してもよい。
【0050】
●移動支援装置1のフローチャート
ここまで説明してきた移動支援装置1の動作を説明する。
図5に示すように、まず、移動支援装置1は、撮像部3により使用者100の前方空間を撮像し、ステレオ画像を得る(ステップS1)。そして、移動支援装置1は、撮像される画像をA/D変換部31によりA/D変換する(ステップS2)。
【0051】
次に、位置選択部32は、A/D変換された画像の面上から、複数の計測点を選択する(ステップS3)。複数の計測点は、使用者100の足元に近い面上の点P0、点P1、点P2および、使用者の足元より少し前方の面上の点P3、点P4、点P5の、計6点である。
【0052】
次に、位置演算部33は、複数の計測点P0乃至P5の、撮像部座標系における3次元空間座標を算出する(ステップS4)。
【0053】
撮像部角度演算部40は、第1計測点群点P0乃至点P2の3次元空間座標から、撮像部3の光軸の傾きを算出する(ステップS5)。また、記録部60は、算出される撮像部3の光軸の傾きを記録する(ステップS61)。
【0054】
撮像部角度演算部40は、過去に算出された撮像部3の光軸の傾きを記録部60から読み出し、過去に算出された光軸の傾き、および現在算出される光軸の傾きに基づいて撮像部3の光軸の傾きを算出してもよい。また、現在算出される光軸の傾きが大きすぎる場合は、現在算出される値に代えて過去に算出された値を、撮像部3の光軸の傾きとして座標変換部41に送信してもよい。さらに、撮像部角度演算部40は、過去に算出された複数の値に基づいて、現在の撮像部3の光軸の傾きを算出してもよい。過去に算出された光軸の傾きを計算に使用することで、階段を上り下りしている途中や、階段室などの狭い空間において、使用者100の足元の空間が平坦でない場合にも、前方空間の障害物の有無等を適切に判定することができる。
【0055】
座標変換部41は、撮像部3の光軸の傾きに基づいて、点P0乃至点P5の撮像部座標系における3次元空間座標を、使用者座標系における3次元空間座標に変換する(ステップS6)。
【0056】
平面方程式算出部36は、点P0、点P1、点P2を通る平面P10の法線ベクトルV10を算出する(ステップS7)。また、平面方程式算出部36は、点P3、点P4、点P5を通る平面P11の法線ベクトルV11を算出する(ステップS8)。
【0057】
平面高さ算出部52は、第1計測点群の高さZ10を算出する(ステップS9)。また、平面高さ算出部52は、第2計測点群の高さZ11を算出する(ステップS10)。記録部は、高さZ10およびZ11を記録する(ステップS62)。
【0058】
平面角度算出部53は、平面P10の、水平に対する進行方向の倒れ角度A10、および左右方向の倒れ角度B10を算出する(ステップS11)。また、平面角度算出部53は、平面P11の、水平に対する進行方向の倒れ角度A11、および左右方向の倒れ角度B11を算出する(ステップS12)。記録部は、算出される平面P10および平面P11のそれぞれの倒れ角度A10、A11、B10、B11を、それぞれ記録する(ステップS63)。
【0059】
判定部70は、記録部60から、過去に算出された高さZ10、Z11および倒れ角度A10、A11、B10、B11の情報をそれぞれ呼び出す(ステップS13)。判定部70は、過去に算出された高さおよび倒れ角度、ならびに現在算出される高さおよび倒れ角度に基づいて、使用者100の前方空間に障害物の有無等を判定する(ステップS14)。また、記録部60は、判定結果を記録する(ステップS64)。
【0060】
移動支援装置1は、例えば歩行中の使用者が装着し、逐次的に前方の障害物の有無等を判定することを想定している。そのため、判定部70は、過去に算出された各値を判定に用いることで、歩行するにつれ使用者と障害物との距離が次第に変化していく様子を捉えることができる。したがって、障害物の判定精度が向上する。
【0061】
判定の結果に基づいて、判定部70が使用者に伝達する必要があると判定した場合は、判定部70は伝達部4にその旨を送信する。伝達部4は、種々の方法により判定結果を使用者に伝達する(ステップS15)。判定部70が使用者に伝達する必要がないと判定した場合は、判定部70は伝達部4への情報送信を行わない。
【0062】
なお、伝達部4は、障害物がある場合にのみその旨を使用者に通知してもよいし、障害物がない場合に、安全に歩行してよいことを知らせる通知を行ってもよい。
【0063】
最後に、移動支援装置1はステップS1に戻り、ステップS1乃至S15、ステップS61乃至S63の動作を定期的に繰り返す。
【0064】
このように、移動支援装置1は、足元の空間および足元よりもやや前方の空間の面を分析することにより、簡素な構成で使用者100の周囲の障害物の有無などを判定することができる。
【0065】
●測定例1:使用者の進行方向右側前方に壁がある場合
図6(a)に示すように、使用者100の足元よりやや前方に壁200が存在する場合、第2計測点群の点P3および点P5は床面上にあり、点P4が壁200上に乗りかかる。したがって、平面P11は右上から左下に向かって傾いて計測される。
【0066】
図6(b)は、使用者100が壁に向かって斜めに近づいてくる場合の、各値の時系列の変化を示す。本測定例では、過去に算出された15回の各値、および現在算出される値の、各々計16個の値を示している。すなわち、現在算出される値の時点をフレーム0、1回前に算出された値の時点をフレーム-1として、フレーム-15までの各値がプロットされている。
【0067】
以降の各測定例において、移動支援装置1の測定頻度は10Hzである。すなわち、移動支援装置1は100msごとに1回の測定を行い、前方空間の様子を解析している。さらに言い換えれば、フレーム間の時間間隔は100msである。測定頻度は任意であり、測定が頻繁であるほど正確性は増すが、移動支援装置1の演算装置5の処理負担が増大する。人が装着して使用する場合においては、人の歩行速度を約1m/sと考えると、前方空間の変化を約0.1m毎に解析する10Hz程度の測定が適している。このような移動支援装置1によれば、瞬間的な変動による誤検知を軽減することができ、移動中の使用者100の前方空間をより正確に判断することができる。
【0068】
同図では、平面P11の左右方向の倒れ角度B11がフレーム-10あたりから50°近辺まで上がっている。また、平面P11の進行方向の倒れ角度A11が-40°近辺まで下がっている。さらに、使用者100が進行するにつれて点P1も壁200上に乗りかかるのを反映して、平面P10の左右方向の倒れ角度B10も緩やかに上昇している。これらの情報から、判定部70は、進行方向に対し右斜めに傾斜した平面が前方に存在していると判定することができる。この場合、判定部70は、右側前方に壁があると判定し、伝達部4を通じて使用者にその旨を通知する。
【0069】
●測定例2:使用者の回転方向前方に壁がある場合
図7(a)に示すように、使用者100の左側前方に壁がある場合において、使用者100が壁近傍で左方向に回転した場合、第2計測点群のうち、点P5は床面上にあり、点P3および点P4が壁201上に乗りかかる。また、使用者100が回転するにつれて第1計測点群の点P2も壁201上に乗りかかる。
【0070】
図7(b)に示すように、平面P10および平面P11の倒れ角度は、進行方向および左右方向の両方において、フレーム-9近辺からマイナス方向に次第に大きくなっている。このことから、判定部70は、使用者100が回転するにつれて前方に障害物が出現したことを判定し、伝達部4を通じてその旨を使用者100に伝達する。
【0071】
●測定例3:使用者の進行方向正面に障害物がある場合
図8(a)に示すように、使用者100が障害物202に向かって歩行した場合、点P4および点P5がほぼ同時に障害物202に乗りかかる。
【0072】
図8(b)に示すように、平面P11の左右方向における倒れ角度B11はほとんど変化していないが、進行方向における倒れ角度A11は、フレーム-11から急激にマイナス方向へ変化して-50°近辺まで下がっている。このことから、判定部70は、使用者100の進行方向正面に障害物があることを判定し、伝達部4を通じてその旨を使用者100に伝達する。
【0073】
●測定例4:使用者の進行方向正面に下り階段がある場合
図9(a)に示すように、使用者100が下り階段の手前に差し掛かると、平面P11が下り階段の段上に配置される。
図9(b)に示すように、フレーム-13から平面P11の倒れ角度A11がプラス方向に増加している。平面P10の倒れ角度A10は、ほぼ一定に推移している。また、平面P11の平面高さZ11は、平面P10の平面高さZ10よりも下に位置するように変化する。これらのことから、判定部70は、使用者100の進行方向正面に下り階段又は下り斜面が出現したと判定する。なお、平面P11の進行方向への倒れ角度A11は、平面P11が階段に差し掛かっているとき約20°である。
図10に示すように、この値は階段の斜度に対応していることから、画像処理装置10が下り階段の様子を分析できていることがわかる。
【0074】
●測定例5:使用者の進行方向正面に上り階段がある場合
図11(a)に示すように、使用者100が上り階段の手前に差し掛かると、平面P11が上り階段の段上に配置される。
図11(b)に示すように、フレーム-10近辺から平面P11倒れ角度A11が-側へ増加している。また、平面P11の平面高さは平面P10より上に位置するような変化が始まっている。これらのことから、判定部70は、使用者100の進行方向正面に上り階段又は上り斜面が出現したと判定する。なお、平面P11の進行方向への倒れ角度A11は、平面P11が階段に差し掛かっているとき約-20°である。
図12に示すように、この値は階段の斜度に対応していることから、画像処理装置10が上り階段の様子を分析できていることがわかる。
【0075】
●測定例6:使用者の進行方向正面に段差がある場合
図13に示すように、例えば玄関の床面と土間との間の段差がある場合、倒れ角度A10、A11、B10、B11は小さいが、高さZ10およびZ11が互いに異なる。したがって、判定部70は、平面高さZ10およびZ11を比較して前方に段差があるか否かを判定する。これは、上りの段差および下りの段差において同様である。
【0076】
このように、画像処理装置10は、簡素な構成で、移動体の前方空間における障害物の有無を判定することができる。また、画像処理装置10を備える移動支援装置1は、移動体の前方空間における障害物の有無等を、装着する使用者100に伝達することができる。
【0077】
なお、本発明に係る移動支援装置を説明するに当たり、人間に装着されて使用される装置を想定して説明した。しかしながら、本発明の技術思想は、例えば、ロボットに取り付けて、又はロボットに組み込んで障害物の有無等を判定する機構部にも適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 移動支援装置
3 撮像部
10 画像処理装置
32 位置選択部
36 平面方程式算出部
70 判定部